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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】光造形用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20230921BHJP
   C08F 220/30 20060101ALI20230921BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20230921BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20230921BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20230921BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230921BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F220/30
C08F220/18
A61K6/887
B29C64/106
B33Y70/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021524943
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022438
(87)【国際公開番号】W WO2020246610
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2019107405
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】伊東 美咲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲司
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-020474(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143303(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181832(WO,A1)
【文献】特開2016-102208(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199611(WO,A1)
【文献】特開2017-141381(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00-220/50
C08F 290/06
A61K 6/887
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上で、独立した複数の芳香環を有し、ウレタン結合を有しないα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満で、環状構造を有し、常圧沸点250℃以上であるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)光重合開始剤(C)及びウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)(ただし、前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)に該当するものを除く)を含有し、
前記独立した複数の芳香環が、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、フルオレン骨格、カルバゾール骨格、又はジフェニルアミン骨格であり、
前記環状構造が、芳香環であり、
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)が、1分子内に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造、並びにウレタン結合、を含有する(メタ)アクリレートである、
光造形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が、単官能化合物である、請求項1に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が、単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)-1である、請求項1に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記独立した複数の芳香環が、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、フルオレン骨格、又はジフェニルアミン骨格である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項5】
前記独立した複数の芳香環が、トリフェニルメチル骨格、又はフルオレン骨格である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、9-(メタ)アクリロイルオキシフルオレン、及び9-(メタ)アクリロイルオキシメチルフルオレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項7】
前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が、単官能化合物である、請求項1~のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項8】
前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が、単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)-1である、請求項1~のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項9】
前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、及びエトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項10】
前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)が、1分子内に、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位(d)に由来する構造を有するポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール部分を含有する(メタ)アクリレートである、請求項1~9のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、歯科材料。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、歯科用マウスピース。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、義歯床材料。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、睡眠障害治療材料。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載の光造形用樹脂組成物を用いて、光学的立体造形法によって立体造形物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光造形用樹脂組成物に関する。より詳細には、本発明は、光造形によって造形したときに、臭気が少なく、造形しやすく、かつ靭性及び耐水性に優れた立体造形物を得ることができる。特に歯科用マウスピース、義歯床材料に好適である。
【背景技術】
【0002】
液状の光硬化性樹脂に必要量の制御された光エネルギーを供給して、薄層状に硬化させ、その上にさらに液状光硬化性樹脂を供給した後、制御下に光照射して薄層状に積層硬化させるという工程を繰り返すことによって立体造形物を製造する方法、いわゆる光学的立体造形法が特許文献1によって開示された。そして、その基本的な実用方法がさらに特許文献2によって提案されて以来、光学的立体造形技術に関する多数の提案がなされている。
【0003】
立体造形物を光学的に製造する際の代表的な方法としては、容器に入れた液状光硬化性樹脂組成物の液面に、所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定の厚さで硬化させて硬化層を形成し、次にその硬化層の上に1層分の液状光硬化性樹脂組成物を供給して、同様に紫外線レーザーを照射して前記と同じように硬化させて連続した硬化層を形成させるという積層操作を繰り返して最終的な形状の立体造形物を製造する液槽光造形という方法が一般に採用されている。この方法による場合は、造形物の形状がかなり複雑であっても、簡単にかつ比較的短時間で、精度良く目的とする立体造形物を製造することができるために近年大きな注目を集めている。
【0004】
そして、光造形法によって得られる立体造形物が単なるコンセプトモデルから、テストモデル、試作品等へと用途が展開されるようになっており、それに伴ってその立体造形物は成形精度に優れていることが益々要求されるようになっている。しかも、そのような特性と併せて目的に合わせた特性も優れていることが求められている。とりわけ、歯科材料分野においては、歯科用マウスピース、義歯床は、患者個人ごとに形状が異なり、かつ形状が複雑であることから、光造形法の応用が期待されている。
【0005】
歯科用マウスピースは、歯科用アライナーと呼ばれる歯並びを矯正するために歯列に装着するもの、歯科用スプリントと呼ばれる顎位を矯正するために装着するもの、睡眠時無呼吸症候群の治療のために夜間就寝中に歯列に装着するもの、歯ぎしりによる歯の摩耗を抑制するために歯列に装着するもの、コンタクトスポーツにおいて、競技中に歯牙、顎骨に大きな外力が加わることにより発生する外傷を低減し、顎口腔系及び脳を保護するために口腔内に装着するものである。近年、歯科矯正においては審美性の良さ或いは外したいときに外せるため急速に利用が拡大している装置である。また、睡眠時無呼吸症候群も医療において注目されている症例であり、その治療用具として急速に利用が進んでいる。
【0006】
義歯床材料は、歯の喪失により義歯を装着する際の、歯肉部分に使用される材料のことである。近年、高齢者人口の増加に伴い義歯の需要が急激に増加している。
【0007】
これら、歯科用マウスピース及び義歯床材料には、靭性及び耐水性が共通して要求されている。靭性が損なわれると装着感が悪いものとなったり、外力、咬合の衝撃が顎骨に直接加わることになる。また、破壊しやすくなると頻繁に作り直すことが必要となってしまうといった問題がある。さらに、耐水性が損なわれると力学的強度が低下し、矯正力或いは衝撃吸収性を喪失したり、破壊しやすくなり実用に耐えないものとなる問題がある。
【0008】
また、通常、歯科用マウスピース及び義歯床材料、睡眠時無呼吸症候群用治療具を作製する際には、口腔内の印象を取得することが必要となるが、その不快感から患者負担となること、或いは技工操作に熟練を要するといった課題が従来から指摘されていた。近年では、デジタル技術の発達から、印象取得については、光学的な口腔内スキャンを応用する試みがなされ、成形においては光学的立体造形を応用する試みがなされている。造形においては光硬化性樹脂組成物を使用するが、一般に柔軟性及び耐水性を発現する樹脂組成物ほど、低極性のモノマーを使用する傾向となるため硬化性が低くなり、硬化物の力学的強度に劣る傾向にあり、特に光学的立体造形においては、光照射時間が極端に短くかつ一層一層の造形毎に酸素に暴露されるため、特に硬化が不十分となりやすく、これまで力学的強度と靭性、耐水性を両立することが困難であった。さらに、樹脂組成物を造形可能な粘度とする必要があるが、粘度を低下させるために分子量が低いモノマーを使用した場合には臭気が発生しやすくなり、一方、力学的強度を発現するモノマーは高粘度のものが多く造形性が低下するといった問題があった。そのため、立体造形用樹脂組成物全体として、硬化物が優れた靭性、耐水性等の特性を備えつつ、低粘度を有するものを取得することは困難であった。
【0009】
このような背景の中、成形精度、硬化物の力学的強度及び耐膨潤性に優れ、光学的立体造形が可能な技術として、例えば、特許文献3には、少なくとも、α,β-不飽和二重結合基を1個以上有するオリゴマーと、三環以上の環構造を有するα,β-不飽和二重結合基含有化合物とを必須成分とする光学的立体造形用樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭56-144478号公報
【文献】特開昭60-247515号公報
【文献】特開2015-10169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3に記載の光学的立体造形用樹脂組成物は、耐水性及び臭気については何ら記載されておらず、実施例では臭気が顕著なモノマーが使用されている。
【0012】
そこで、本発明は、光造形によって造形したときに、臭気が少なく、造形しやすく、かつ硬化物の靭性及び耐水性に優れる光造形用樹脂組成物を提供することを目的とする。また、特に歯科用マウスピース及び義歯床材料に好適な光造形用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上で、独立した複数の芳香環を有し、ウレタン結合を有しないα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満で、環状構造を有し、常圧沸点250℃以上であるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する、光造形用樹脂組成物。
[2]前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が、単官能化合物である、[1]に記載の光造形用樹脂組成物。
[3]前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が、単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)-1である、[1]に記載の光造形用樹脂組成物。
[4]前記独立した複数の芳香環が、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、フルオレン骨格、カルバゾール骨格、又はジフェニルアミン骨格である、[1]~[3]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[5]前記独立した複数の芳香環が、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、フルオレン骨格、又はジフェニルアミン骨格である、[1]~[3]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[6]前記独立した複数の芳香環が、トリフェニルメチル骨格、又はフルオレン骨格である、[1]~[3]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[7]前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、9-(メタ)アクリロイルオキシフルオレン、及び9-(メタ)アクリロイルオキシメチルフルオレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[8]前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が、単官能化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[9]前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が、単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)-1である、[1]~[8]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[10]前記環状構造が、芳香環である、[1]~[9]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[11]前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、及びエトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[10]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[12]さらに、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)(ただし、前記α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)に該当するものを除く)を含有する、[1]~[11]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物。
[13]前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)が、1分子内に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造、並びにウレタン結合、を含有する(メタ)アクリレートである、[12]に記載の光造形用樹脂組成物。
[14]前記ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)が、1分子内に、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位(d)に由来する構造を有するポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール部分を含有する(メタ)アクリレートである、[13]に記載の光造形用樹脂組成物。
[15][1]~[14]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、歯科材料。
[16][1]~[14]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、歯科用マウスピース。
[17][1]~[14]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、義歯床材料。
[18][1]~[14]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物の硬化物からなる、睡眠障害治療材料。
[19][1]~[14]のいずれかに記載の光造形用樹脂組成物を用いて、光学的立体造形法によって立体造形物を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光造形によって造形したときに、臭気が少なく、造形しやすく、かつ硬化物の靭性及び耐水性に優れる。そのため、各種歯科材料(特に歯科用マウスピース及び義歯床材料)又は各種睡眠障害治療材料(特に睡眠時無呼吸症候群用治療具)に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光造形用樹脂組成物は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上で、独立した複数の芳香環を有し、ウレタン結合を有しないα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満で、環状構造を有し、常圧沸点250℃以上であるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する、光造形用樹脂組成物である。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0016】
[ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上で、独立した複数の芳香環を有し、ウレタン結合を有しないα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)]
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上で、独立した複数の芳香環を有し、ウレタン結合を有しないα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)(以下、単に「α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)」と称することがある)は、光照射後の立体造形物に、造形物の融点(Tm)又はガラス転移温度(Tg)が向上することで、内部凝集力の向上がさらに図られ、強度を含む靭性の良好な立体造形物を形成することが可能となる。
【0017】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)は、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上であることが重要である。ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃以上であることで、剛直な構造が導入されるため、強度の良好な立体造形物を形成することが可能となる。前記ホモポリマーのTgは、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。前記ホモポリマーのTgの上限は特に限定されないが、400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましい。なお、本発明において、化合物のガラス転移温度(Tg)は、粘弾性測定装置(レオメーター)、示差走査熱量計(DSC)等を用いて従来公知の方法により測定することができる。例えば、ガラス転移温度(Tg)は、回転型レオメータ(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、「AR2000」)を用いて(メタ)アクリル化合物(A)の動的粘弾性測定を行い、この動的粘弾性測定において、周波数を10Hz、荷重を10N、変位を0.1%、トルクを20μNmに設定し、tanδがピークをとる温度をガラス転移温度(Tg)と決定できる。
【0018】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)は、独立した複数の芳香環を有することが重要である。本明細書において、「独立した複数の芳香環」とは、2個以上の芳香環同士が直接縮合している骨格(ナフタレン骨格、フェナントレン骨格、フェナレン骨格、アントラセン骨格等)を有する縮合環式化合物を含まないことを意味する。独立した複数の芳香環を有することで溶解性に優れ、剛直な構造が導入されるため、強度の良好な立体造形物を形成することが可能となる。
【0019】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)は、ウレタン結合を有しないことが重要である。ウレタン結合を有する場合、得られる立体造形用樹脂組成物の粘度が上昇し、造形性が低下する。
【0020】
本明細書において、α,β-不飽和二重結合基は、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を意味する。ある好適な実施形態では、α,β-不飽和二重結合基は(メタ)アクリロイル基である。本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)は、得られる硬化物の靭性に優れる観点から、単官能化合物であることが好ましく、単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)-1であることがより好ましい。本明細書において、「単官能」とは、前記重合性基を1つ有することを意味する。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられ、これと類似する「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」等の表記についても同様である。
【0021】
前記独立した複数の芳香環を有する構造としては、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、フルオレン骨格、カルバゾール骨格、ジフェニルアミン骨格が挙げられ、これらの中でも、溶解性に優れ、かつ光造形用樹脂組成物が低粘度で、硬化物の靭性が優れる観点から、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、フルオレン骨格、又はジフェニルアミン骨格が好ましく、ビフェニル骨格、ジフェニルメチル骨格、2,2-ジフェニルプロパン骨格、トリフェニルメチル骨格、ジフェニルエーテル骨格、又はフルオレン骨格がより好ましく、トリフェニルメチル骨格、又はフルオレン骨格がさらに好ましい。前記「骨格」は「基」と言い換えてもよい。
【0022】
α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)が有する独立した複数の芳香環は、アルキル基、アルコキシ基、エステル基、アシル基、アルキルアミノ基、シリル基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子などの置換基を有することができる。置換基の数は、特に限定されないが、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましく、1~3個がさらに好ましく、1~2個が特に好ましい。アルキル基及びアルキルアミノ基のアルキル基としては、例えば、炭素数1~12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。アルキル基及びアルキルアミノ基のアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0023】
α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)としては、例えばo-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、ジフェニルメチル(メタ)アクリレート、4-(1-メチル-1-フェニルエチル)(メタ)アクリレート、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、o-フェノキシフェニル(メタ)アクリレート、m-フェノキシフェニル(メタ)アクリレート、p-フェノキシフェニル(メタ)アクリレート、9-(メタ)アクリロイルオキシフルオレン、9-(メタ)アクリロイルオキシメチルフルオレン、N-(メタ)アクリロイルカルバゾール、N-(メタ)アクリロイルメチルカルバゾール、ジフェニルアクリルアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも、光造形用樹脂組成物が低粘度で、硬化物の靭性に優れる観点から、o-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、m-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、p-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、ジフェニルメチル(メタ)アクリレート、4-(1-メチル-1-フェニルエチル)(メタ)アクリレート、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、9-(メタ)アクリロイルオキシフルオレン、9-(メタ)アクリロイルオキシメチルフルオレンが好ましく、p-フェニルフェニル(メタ)アクリレート、ジフェニルメチル(メタ)アクリレート、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、9-(メタ)アクリロイルオキシフルオレン、9-(メタ)アクリロイルオキシメチルフルオレンがより好ましく、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、9-(メタ)アクリロイルオキシフルオレン、9-(メタ)アクリロイルオキシメチルフルオレンがさらに好ましい。
【0024】
本発明の光造形用樹脂組成物におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)の含有量は、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)及びその他の重合性化合物(以下、これらを総称して「重合性化合物」ともいう。)の総量において、1.0~80質量%が好ましく、造形性、硬化物の靭性及び耐水性により優れる点から、2.5~60質量%がより好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。
【0025】
[ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満で、環状構造を有し、常圧沸点250℃以上であるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)]
本発明の光造形用樹脂組成物は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満で、環状構造を有し、常圧沸点250℃以上であるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)(以下、単にα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)と称することがある)を含有する。α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)は、本発明の光造形用樹脂組成物において、光造形用樹脂組成物を低粘度化し、優れた造形性を付与するとともに、硬化物に靭性及び耐水性を付与するために用いられる。
【0026】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)は、常圧沸点250℃以上であることにより臭気を抑えることができ、本発明の光造形用樹脂組成物は不快な臭気を感じにくい。α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)の常圧沸点は、275℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)の常圧沸点は、450℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましい。なお、本発明における常圧沸点は、常圧蒸留による測定値であり、常圧沸点が観測できない化合物については、減圧蒸留での測定値である減圧沸点から、沸点換算表(Science of Petroleum, Vol.II. p.1281(1938))により換算された常圧沸点を用いる。
【0027】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)は、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満であることが重要である。ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が40℃未満であることで、適度な柔軟性を有する構造が導入されるため、靭性の良好な立体造形物を形成することが可能となる。前記ホモポリマーのTgは、35℃以下が好ましい。
【0028】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)は環状構造を有することが重要である。環状構造を有することで、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)との親和性が高くなるため、粘度が低下し造形性に優れた光造形用樹脂組成物となる。環状構造としては、芳香環、複素環(例えば、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を含む複素環)、脂環等が挙げられ、芳香環が好ましい。α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)が有する環の数は、特に限定されないが、1~5個が好ましく、1~4個がより好ましく、2~3個がさらに好ましい。
【0029】
本発明におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)は、得られる硬化物の靭性に優れる観点から、単官能化合物であることが好ましく、単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)-1であることがより好ましく、芳香環を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物がさらに好ましい。
【0030】
前記単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)-1の例としては、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、5-(o-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(m-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(p-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(o-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(m-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(p-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、パルミトレイル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)は、1種を単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも、光造形用樹脂組成物の硬化性及び硬化物の靭性が優れる点で芳香環を有するものが好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートがより好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートがさらに好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートが特に好ましく、m-フェノキシベンジルアクリレート及びエトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0031】
本発明の光造形用樹脂組成物におけるα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)の含有量は、重合性化合物の総量において、1~95質量%が好ましく、造形性、硬化物の靭性及び耐水性により優れる点から、5~90質量%がより好ましく、10~80質量%がさらに好ましい。
【0032】
[光重合開始剤(C)]
本発明に用いられる光重合開始剤(C)は、一般工業界で使用されている光重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に使用されている光重合開始剤が好ましい。
【0033】
光重合開始剤(C)としては、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物、ゲルマニウム化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
これらの光重合開始剤(C)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類と、α-ジケトン類とからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、紫外領域及び可視光域での光硬化性に優れ、レーザー、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、及びキセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す光造形用樹脂組成物が得られる。
【0035】
(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が挙げられる。さらに、特開2000-159621号公報に記載されている化合物を挙げることができる。
【0036】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩を光重合開始剤(C)として用いることが特に好ましい。
【0037】
α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンが挙げられる。この中でも、可視光域の光源を使用する場合には、カンファーキノンが特に好ましい。ゲルマニウム化合物としては、例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム(IV)等のモノアシルゲルマニウム化合物;ジベンゾイルジエチルゲルマニウムもしくはビス(4-メトキシベンゾイル)-ジエチルゲルマニウム等のジアシルゲルマニウム化合物が挙げられる。
【0038】
本発明の光造形用樹脂組成物における光重合開始剤(C)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、得られる光造形用樹脂組成物の硬化性、靭性、耐水性等の観点から、重合性化合物の総量100質量部に対し、光重合開始剤(C)が0.01~20質量部が好ましい。光重合開始剤(C)の含有量が0.01質量部未満の場合、重合が十分に進行せず、立体造形物が得られないおそれがある。光重合開始剤(C)の含有量は、前記総量100質量部に対し、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。一方、光重合開始剤(C)の含有量が20質量部を超える場合、光重合開始剤自体の溶解性が低いと光造形用樹脂組成物からの析出を招くおそれがある。光重合開始剤(C)の含有量は、前記総量100質量部に対し、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。
【0039】
[ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)]
本発明の光造形用樹脂組成物は、さらに、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)(ただし、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)に該当するものを除く)を含有することが好ましい。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)は、本発明の光造形用樹脂組成物において硬化性を付与する目的で、また光造形用樹脂組成物の硬化物に靭性を付与する目的で用いられる。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)は、例えば、後述するポリマー骨格を含有するポリオールと、イソシアネート基(-NCO)を有する化合物と、水酸基(-OH)を有する(メタ)アクリレート化合物とを付加反応させることにより、容易に合成することができる。また、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)は、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物に、ラクトン又はアルキレンオキシドに開環付加反応させた後、得られた片末端に水酸基を有する化合物を、イソシアネート基を有する化合物に付加反応させることにより、容易に合成することができる。
【0041】
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)は、1分子内に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造(ポリマー骨格)、並びにウレタン結合、を含有する(メタ)アクリレートであることが好ましく、分子内に、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位(d)に由来する構造を有するポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のポリオール部分、並びにウレタン結合を有する(メタ)アクリレートであることがより好ましい。前記構造において、例えば、ポリエステルとしては、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~18の脂肪族ジオールの重合体、β-プロピオラクトンの重合体、γ-ブチロラクトンの重合体、δ-バレロラクトン重合体、ε-カプロラクトン重合体及びこれらの共重合体などが挙げられ、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの重合体、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸)と炭素数2~12の脂肪族ジオールの重合体が好ましい。ポリカーボネートとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~18の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートなどが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールから誘導されるポリカーボネート、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート、及び炭素数2~12の脂肪族ジオールとビスフェノールAから誘導されるポリカーボネートが好ましい。ポリウレタンとしては、炭素数2~18の脂肪族ジオールと炭素数1~18のジイソシアネートの重合体などが挙げられ、炭素数2~12の脂肪族ジオールと炭素数1~12のジイソシアネートの重合体が好ましい。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)などが挙げられる。ポリ共役ジエン及び水添ポリ共役ジエンとしては、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン-イソプレン)、ポリ(ブタジエン-スチレン)、ポリ(イソプレン-スチレン)、ポリファルネセン、及びこれらの水添物が挙げられる。これらの中でも、靭性に優れる点で、ポリエステルの構造が好ましい。さらに、ポリエステルの構造が、耐水性と靭性に優れる点で、分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位(d)に由来する構造を有するポリオール部分とイソフタル酸エステル又はセバシン酸エステルを含有することが好ましく、耐水性と造形性に優れる点で、分岐構造を有する炭素数4~12の脂肪族ジオール単位(d)に由来する構造を有するポリオール部分とイソフタル酸エステル又はセバシン酸エステルを含有することがより好ましく、分岐構造を有する炭素数5~12の脂肪族ジオール単位(d)に由来する構造を有するポリオール部分とイソフタル酸エステル又はセバシン酸エステルを含有することがさらに好ましい。ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)の製造には、前記したポリマー骨格を有するポリオールを用いることができる。
【0042】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、トリシクロデカンジイソシアネート(TCDDI)、及びアダマンタンジイソシアネート(ADI)等が挙げられる。
【0043】
水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
【0044】
前記分岐構造を有する炭素数4~18の脂肪族ジオール単位(d)としては、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,10-デカンジオール、2,9-ジメチル-1,10-デカンジオール、2-メチル-1,11-ウンデカンジオール、2,10-ジメチル-1,11-ウンデカンジオール、2-メチル-1,12-ドデカンジオール、2,11-ジメチル-1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,13-トリデカンジオール、2,12-ジメチル-1,13-トリデカンジオール、2-メチル-1,14-テトラデカンジオール、2,13-ジメチル-1,14-テトラデカンジオール、2-メチル-1,15-ペンタデカンジオール、2,14-ジメチル-1,15-ペンタデカンジオール、2-メチル-1,16-ヘキサデカンジオール、2,15-ジメチル-1,16-ヘキサデカンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、光造形用樹脂組成物が硬化性に優れ、低粘度である観点から、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール、2,8-ジメチル-1,9-ノナンジオールなどのメチル基を側鎖として有する炭素数5~12の脂肪族ジオールをポリオールとして使用することが好ましく、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,7-ジメチル-1,8-オクタンジオールがより好ましく、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールがさらに好ましい。
【0045】
イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との付加反応は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定はない。
【0046】
得られるウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)としては、前記の、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリ共役ジエン、及び水添ポリ共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するポリオールと、イソシアネート基を有する化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物との任意の組み合わせの反応物が挙げられる。
【0047】
ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)の重量平均分子量(Mw)は、粘度及び強度の観点から、1000~30000が好ましく、1500~15000がより好ましく、2000~9000がさらに好ましく、2000~8000がよりさらに好ましく、2000~7000が特に好ましく、2000~5000が最も好ましい。なお、本発明における重量平均分子量(Mw)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0048】
本発明の光造形用樹脂組成物におけるウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)の含有量は、重合性化合物の総量において、1~98質量%であることが好ましく、造形性、硬化物の柔軟性を含む靭性及び耐水性により優れる点から、5~90質量%であることがより好ましく、10~80質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の光造形用樹脂組成物が、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、及びα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)以外の他の重合性化合物(以下、「他の重合性化合物」ともいう。)を含んでいてもよいが、重合性化合物が実質的にα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)のみから構成されていてもよい。すなわち、本発明の光造形用樹脂組成物は、実質的に他の重合性化合物(ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)を含む)を含まないものであってもよい。本発明において、重合性化合物が、実質的にある成分のみから構成されるとは、当該ある成分以外の他の重合性化合物の含有量が、光造形用樹脂組成物に含まれる重合性化合物の総量に対して10.0質量%未満であり、好ましくは5.0質量%未満であり、より好ましくは1.0質量%未満であり、さらに好ましくは0.1質量%未満であり、特に好ましくは0.01質量%未満であることを意味する。他の好適な実施形態としては、本発明の光造形用樹脂組成物において、重合性化合物が実質的にα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)、及びウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)のみから構成されていてもよい。すなわち、本発明の光造形用樹脂組成物は、実質的に他の重合性化合物(ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)を除く)を含まないものであってもよい。他の重合性化合物(ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)を除く)としては、重合性基を2つ以上有する多官能(メタ)アクリル酸エステル化合物、多官能(メタ)アクリルアミド化合物、単官能(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。多官能(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、芳香族化合物系の二官能(メタ)アクリル酸エステル化合物、脂肪族化合物系の二官能(メタ)アクリル酸エステル化合物、三官能以上の(メタ)アクリル酸エステル化合物等が挙げられる。
【0050】
本発明の光造形用樹脂組成物は、上記のα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)及び光重合開始剤(C)を含有していれば特に限定はなく、公知の方法に準じて製造できる。
【0051】
本発明の光造形用樹脂組成物は、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、光硬化性の向上を目的として、重合促進剤を含むことができる。重合促進剤としては、例えば、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル等の芳香族アミンを含むアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、光造形用樹脂組成物に優れた硬化性を付与する観点から、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群より選択される少なくとも1つが好ましく用いられる。
【0052】
本発明の光造形用樹脂組成物には、ペースト性状を調整するために、又は、光造形用樹脂組成物の硬化物の表面性状又は強度を改質するために、フィラーがさらに配合されていてもよい。フィラーとして、例えば、有機フィラー、無機フィラー、有機-無機複合フィラー等が挙げられる。フィラーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
有機フィラーの材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用できる。得られる光造形用樹脂組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmが好ましく、0.001~10μmがより好ましく、0.001~1.0μmがさらに好ましい。
【0054】
無機フィラーの材料としては、例えば、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスが挙げられる。これらもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機フィラーの形状は特に限定されず、不定形フィラー又は球状フィラー等を適宜選択して使用できる。得られる光造形用樹脂組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001~50μmが好ましく、0.001~10μmがより好ましく、0.001~1.0μmがさらに好ましい。
【0055】
前記無機フィラーは、光造形用樹脂組成物の流動性を調整するため、必要に応じて、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。前記表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0056】
本発明で用いられる有機-無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー成分を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機-無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパントリメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機-無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる光造形用樹脂組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機-無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmが好ましく、0.001~10μmがより好ましく、0.001~1.0μmがさらに好ましい。
【0057】
なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径とは平均一次粒子径であり、レーザー回折散乱法或いは粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法により測定した値である。
【0058】
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
【0059】
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0060】
本発明の光造形用樹脂組成物には、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、柔軟性、流動性等の改質を目的として重合体を添加することができる。例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、イソプレン-イソブチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、又はスチレン系エラストマーを添加することができる。添加可能な他の重合体の具体例としては、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリブタジエン-ポリ(α-メチルスチレン)ブロック共重合体、ポリ(p-メチルスチレン)-ポリブタジエン-ポリ(p-メチルスチレン)ブロック共重合体、又はこれらの水素添加物等が挙げられる。
【0061】
本発明の光造形用樹脂組成物は、必要に応じて、軟化剤を含有していてもよい。軟化剤としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、及び、パラフィン、落花生油、ロジン等の植物油系軟化剤が挙げられる。これらの軟化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。軟化剤の含有量は、本発明の趣旨を損なわない限り特に制限はないが、通常、重合性化合物の総量100質量部に対して200質量部以下であり、好ましくは100質量部以下である。
【0062】
本発明の光造形用樹脂組成物は、本発明の趣旨を損なわない範囲内で、硬化性の向上を目的として、化学重合開始剤を含有することができる。化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアゾ系化合物が好ましく用いられる。化学重合開始剤として使用される有機過酸化物及びアゾ系化合物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンペルオキシド、ハイドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、及びペルオキシジカーボネート等が挙げられる。化学重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
また、本発明の光造形用樹脂組成物には、劣化の抑制、又は光硬化性の調整を目的として、公知の安定剤を配合することができる。前記安定剤としては、例えば、重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。安定剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキノン、ジブチルヒドロキノンモノメチルエーテル、4-t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンが挙げられる。重合禁止剤の含有量は、重合性化合物の総量100質量部に対し、0.001~5.0質量部が好ましい。
【0065】
また、本発明の光造形用樹脂組成物には、色調の調整又はペースト性状の調整を目的として、公知の添加剤を配合することができる。前記添加剤としては、例えば、顔料、染料、有機溶媒、増粘剤が挙げられる。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光造形(特に吊り上げ式液槽光造形)によって造形したときに、造形しやすく、かつ靭性及び耐水性に優れた造形物を得ることができる。また、インクジェット方式の光造形にも応用することができる。従って、本発明の光造形用樹脂組成物及びその硬化物は、このような利点が生かされる用途(例えば、口腔内用途)に適用でき、歯科材料或いは睡眠障害治療材料に適用することができる。歯科材料としては、特に、歯科用マウスピース(歯科用スプリント、歯列矯正用アライナー、リテーナー等)及び義歯床材料の歯科治療に最適である。さらに、本発明の光造形用樹脂組成物は、歯科用マウスピース及び義歯床材料等の歯科治療用途以外に、スポーツ用の外力に対する保護具として、マウスガードとしても好適に使用できる。また、本発明の光造形用樹脂組成物は、優れた靭性、耐水性、造形性等の効果がより得られやすいことから、吊り上げ式液槽光造形用樹脂組成物として用いるのが好ましい。睡眠障害治療材料としては、特に、睡眠時無呼吸症候群用治療具に最適である。本発明の光造形用樹脂組成物を用いる硬化物の形状は、各用途に応じて変更することができる。また、本発明の光造形用樹脂組成物は、必要に応じて、歯科用マウスピース及び義歯床材料等の用途毎に、各成分(α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)、α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)、光重合開始剤(C)、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)及び各種その他の成分(重合促進剤、フィラー、重合体、軟化剤、安定剤、添加剤等))の種類及び含有量を調整することができる。
【0067】
本発明の光造形用樹脂組成物は、その特性、特に光で硬化した際に、体積収縮率が小さくて成形精度に優れ、しかも硬化物の靭性及び耐水性に優れる立体造形物、さらにはその他の硬化物が得られるという特性を活かして種々の用途に使用することができる。本発明の光造形用樹脂組成物は、例えば、光学的立体造形法による立体造形物の製造;歯科材料;流延成形法、注型等による膜状物あるいは型物等の各種成形品の製造;被覆用、真空成形用金型等に用いることができ、特に歯科材料に最適である。
【0068】
そのうちでも、本発明の光造形用樹脂組成物は、上記した光学的立体造形法で用いるのに適しており、その場合には、光硬化時の体積収縮率を小さく保ちながら、成形精度に優れ、且つ靭性及び耐水性に優れる立体造形物を円滑に製造することができる。
【0069】
本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかの光造形用樹脂組成物を用いて、光学的立体造形法によって立体造形物を製造する方法が挙げられる。
【0070】
本発明の光造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形(特に吊り上げ式液槽光造形)を行うに当たっては、従来公知の吊り上げ式光学的立体造形法及び装置(例えば、DWS社製 DIGITALWAX(登録商標) 020D等の光造形機)のいずれもが使用できる。光学的立体造形法及び装置は特に限定されるものではないが、光造形用樹脂組成物の粘度の観点から、本発明の光造形用樹脂組成物は、特に吊り上げ式光学的立体造形装置(吊り上げ式液槽光造形装置)に好適である。そのうちでも、本発明では、樹脂を硬化させるための光エネルギーとして、活性エネルギー光線を用いるのが好ましい。「活性エネルギー光線」は、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などのような光造形用樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線を意味する。例えば、活性エネルギー光線は、300~420nmの波長を有する紫外線であってもよい。活性エネルギー光線の光源としては、Arレーザー、He-Cdレーザーなどのレーザー;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LED、水銀灯、蛍光灯などの照明などが挙げられ、レーザーが特に好ましい。光源としてレーザーを用いた場合には、エネルギーレベルを高めて造形時間を短縮することが可能であり、しかもレーザー光線の良好な集光性を利用して、成形精度の高い立体造形物を得ることができる。
【0071】
上記したように、本発明の光造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形を行うに当たっては、従来公知の方法及び従来公知の光造形システム装置のいずれもが採用でき特に制限されないが、本発明で好ましく用いられる光学的立体造形法の代表例としては、光造形用樹脂組成物に所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー光線を選択的に照射して硬化層を形成する工程と、さらに未硬化液状の光造形用樹脂組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成して積層する工程とを繰り返すことによって最終的に目的とする立体造形物を得る方法を挙げることができる。また、それによって得られる立体造形物はそのまま用いても、また場合によってはさらに光照射によるポストキュアあるいは熱によるポストキュア等を行って、その力学的強度あるいは形状安定性等を一層高いものとしてから使用するようにしてもよい。
【0072】
本発明の光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ弾性率としては、0.3~3.0GPaの範囲が好ましく、0.5~2.5GPaの範囲がより好ましく、0.8~2.0GPaの範囲がさらに好ましい。硬化物の曲げ弾性率が2.0GPa以下である場合、しなやかな性状となり、歯科用マウスピースにした場合に歯への追従性が良いため装着感に優れ、また、夜間の睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)などによって脱落しにくいという効果が得られる。また、本発明の光造形用樹脂組成物の硬化物の曲げ強さとしては、30MPa以上が好ましく、40MPa以上がより好ましく、50MPa以上がさらに好ましい。
【0073】
光学的立体造形法によって得られる立体造形物の構造、形状、サイズ等は特に制限されず、各々の用途に応じて決めることができる。本発明の光学的立体造形法の代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するためのモデル;部品の機能性をチェックするためのモデル;鋳型を制作するための樹脂型;金型を制作するためのベースモデル;試作金型用の直接型等の作製等が挙げられる。より具体的には、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物、金型、母型等のためのモデルあるいは加工用モデル等の製作が挙げられる。
【実施例
【0074】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変更が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0075】
実施例又は比較例に係る光造形用樹脂組成物に用いた各成分を略号とともに以下に説明する。
【0076】
[α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)]
AFL:9-アクリロイルオキシフルオレン(Chemsigma社製、白色固体、ホモポリマーのTg:100℃以上)
TPMMA:トリフェニルメチルメタクリレート(カーボンサイエンティフィック社製、白色固体、ホモポリマーのTg:100℃以上)
【0077】
[α,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)]
[単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)-1]
EPPA:エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学工業株式会社製、A-LEN-10、ホモポリマーのTg:33℃、常圧換算沸点:300℃以上)
POBA:m-フェノキシベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製、無色透明液体、ホモポリマーのTg:35℃、常圧換算沸点:300℃以上)
【0078】
[ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)]
後述の合成例1及び2により製造したウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-1及び(D)-2を用いた。
【0079】
[光重合開始剤(C)]
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
【0080】
[重合禁止剤]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
【0081】
<合成例1>[ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-1の製造]
(1)撹拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積5Lの四つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート250g、及びジラウリル酸ジ-n-ブチルスズ0.15gを添加して、撹拌下に70℃に加熱した。
(2)一方、ポリエステルポリオール(株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標) P-2030」;イソフタル酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールからなるポリオール、重量平均分子量(Mw)2000)2500gを側管付きの滴下漏斗に添加し、この滴下漏斗の液を、上記(1)のフラスコ中に滴下した。なお、上記(1)のフラスコ中の溶液を撹拌しつつ、フラスコの内温を65~75℃に保持しながら4時間かけて等速で滴下した。さらに、滴下終了後、同温度で2時間撹拌して反応させた。
(3)次いで、別の滴下漏斗に添加した2-ヒドロキシエチルアクリレート150gとヒドロキノンモノメチルエーテル0.4gとを均一に溶解させた液をフラスコの内温を55~65℃に保持しながら2時間かけて等速で滴下した後、フラスコ内の溶液の温度を70~80℃に保持しながら4時間反応させることにより、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-1を得た。GPC分析によるウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-1の重量平均分子量(Mw)は2700であった。
【0082】
<合成例2>[ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-2の製造]
(1)撹拌機、温度調節器、温度計及び凝縮器を備えた内容積5Lの四つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート250g、及びジラウリル酸ジ-n-ブチルスズ0.15gを添加して、撹拌下に70℃に加熱した。
(2)一方、ポリエステルポリオール(株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標) P-2050」;セバシン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールからなるポリオール、重量平均分子量(Mw)2000)2500gを側管付きの滴下漏斗に添加し、この滴下漏斗の液を、上記(1)のフラスコ中に滴下した。なお、上記(1)のフラスコ中の溶液を撹拌しつつ、フラスコの内温を65~75℃に保持しながら4時間かけて等速で滴下した。さらに、滴下終了後、同温度で2時間撹拌して反応させた。
(3)次いで、別の滴下漏斗に添加した2-ヒドロキシエチルアクリレート150gとヒドロキノンモノメチルエーテル0.4gとを均一に溶解させた液をフラスコの内温を55~65℃に保持しながら2時間かけて等速で滴下した後、フラスコ内の溶液の温度を70~80℃に保持しながら4時間反応させることにより、ウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-2を得た。GPC分析によるウレタン化(メタ)アクリル化合物(D)-2の重量平均分子量(Mw)は2600であった。
【0083】
[実施例1~6及び比較例1~7]
表1及び表2に示す分量で各成分を常温(20℃±15℃、JIS(日本工業規格) Z 8703:1983)下で混合して、実施例1~6及び比較例1~7に係る光造形用樹脂組成物としてのペーストを調製した。
【0084】
<造形性>
各実施例及び各比較例に係る光造形用樹脂組成物について、光造形機(DWS社製 DIGITALWAX(登録商標) 020D)を用いて、厚さ3.3mm×幅10.0mm×長さ64mmの試験片の造形を行った(n=5)。寸法通りのシートが造形可能であった場合を造形可能「○」とし、1回でも立体造形物が得られなかった場合を造形不可「×」とした。なお、造形された試験片を用いて後述の各評価を行った。各評価の結果を表1及び表2に示す。
【0085】
<靭性(曲げ弾性率、曲げ強さ、破断点変位)>
各実施例及び各比較例に係る光造形用樹脂組成物の硬化物について、JIS T 6501:2012(義歯床用アクリル系レジン)に記載の寸法の、造形性の評価で使用した試験片(長さ64.0mm、幅10.0mm、厚さ3.3mm)を作製し、空気中で1日保管後、曲げ強さ試験を行って評価し、これを初期値とした。すなわち、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG-I 100kN)を用いて、クロスヘッドスピード5mm/minで曲げ強さ試験を実施した(n=5)。各試験片の測定値の平均値を算出し、曲げ強さ及び曲げ弾性率とした。試験片の曲げ弾性率としては、0.3~3.0GPaの範囲が好ましく、0.5~2.5GPaの範囲がより好ましく、0.8~2.0GPaの範囲がさらに好ましい。曲げ強さとしては、30MPa以上が好ましく、40MPa以上がより好ましく、50MPa以上がさらに好ましい。破断点変位としては、破断しないことが好ましい。最後まで破断しない、又は変位20mm以上で破断した場合を柔軟性が良好「○」とし、変位10mm超20mm未満で破断した場合を柔軟性が中程度「△」とし、変位10mm以下で破断した場合を柔軟性が悪い「×」とした。
【0086】
<耐水性>
靭性の測定で作製した硬化物と同様にして作製した、各実施例及び各比較例に係る光造形用樹脂組成物の硬化物について、37℃水中浸漬168時間後、上記曲げ強さ試験と同様に、曲げ強さを測定した(n=5)。上記靭性における曲げ強さの測定結果を初期の曲げ強さとし、初期の曲げ強さに対する、37℃水中浸漬168時間後の曲げ強さの変化率(低下率)が10%以下であれば耐水性に優れ、7%以下であればより耐水性に優れる。表1及び表2において、37℃水中浸漬168時間後の曲げ強さを「浸漬後の曲げ強さ」として示す。
曲げ強さの変化率(低下率)(%)=〔{初期の曲げ強さ(MPa)-37℃水中浸漬168時間後の曲げ強さ(MPa)}/初期の曲げ強さ(MPa)〕×100
【0087】
<臭気>
各実施例及び各比較例に係る光造形用樹脂組成物について、10人のパネラーで臭気を評価した(n=1)。10人のパネラーのうち、不快な臭気を感じた人が2人未満であったものを「○」、不快な臭気を感じた人が2人以上5人未満であったものを「△」、不快な臭気を感じた人が5人以上であったものを「×」とした。不快な臭気を感じなければ特に問題はない。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
DCPA:ジシクロペンテニルアクリレート(日立化成株式会社製 ホモポリマーのTg:120℃、常圧換算沸点252℃)
ACMO:N-アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製 ホモポリマーのTg:145℃、常圧換算沸点255℃)
AMM:9-アントリルメチルメタクリレート(東京化成工業株式会社製 ホモポリマーのTg:100℃以上、常圧換算沸点300℃以上)
IBA:イソボルニルアクリレート(東京化成工業株式会社製 ホモポリマーのTg:94~97℃、常圧換算沸点245℃)
【0090】
表1及び表2に示す通り、実施例1~6における光造形用樹脂組成物は造形性に優れ、低臭気で、その硬化物は靭性及び耐水性に優れていた。特に、実施例1~6に係る光造形用樹脂組成物の硬化物の靭性及び耐水性は、本発明のα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)及びα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)を含有しない比較例3~5に係る樹脂組成物の硬化物、並びに本発明のα,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)を含有しない比較例1及び7に係る樹脂組成物の硬化物に比べて優れていた。α,β-不飽和二重結合基含有化合物(A)及びα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)を含有しない比較例2に係る光造形用樹脂組成物は、造形性に劣り試験片を造形できずに各特性を測定できなかった。縮合環式化合物を含有する比較例6の樹脂組成物は均一に溶解させることができなかった。また、比較例6の樹脂組成物は不快な臭気を発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光造形によって造形したときに、造形しやすく、低臭気で、かつ靭性及び耐水性に優れた造形物を得ることができるため、その硬化物は、歯科材料(特に、歯科用マウスピース及び義歯床材料)、睡眠障害治療材料(特に、睡眠時無呼吸症候群用治療具)に適している。