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特許7352651高周波用途用M7 LTCC-銀システム及び関連する誘電体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】高周波用途用M7 LTCC-銀システム及び関連する誘電体組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/20 20060101AFI20230921BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20230921BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20230921BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230921BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
C04B35/20
C04B35/622
H01B3/12 333
H01B3/12 336
H01B1/22 A
H01B1/00 H
H01B1/00 L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021562773
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(86)【国際出願番号】 US2021016566
(87)【国際公開番号】W WO2021158756
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】62/970,522
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/145,130
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503468695
【氏名又は名称】フエロ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】トーミー,エレン エス.
(72)【発明者】
【氏名】マーリー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】マ,チャオ
(72)【発明者】
【氏名】マロニー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,イー
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,オーヴィル ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】スリダーラン,スリニバサン
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/014035(WO,A1)
【文献】特開2008-230948(JP,A)
【文献】特開2008-037739(JP,A)
【文献】特開昭61-286263(JP,A)
【文献】特開2014-156393(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01B 3/00- 3/14
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1. 49~65wt%MgO、及び
2. 35~51wt%SiO、を含み、
3. いかなる形態にある、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀のうちの少なくともいずれか1つを含まない、
85~95wt%のか焼ホストと、
(b)1. 2.5~6wt%HBO
2. 0.01~1wt%CuO、
3. 0.5~3wt%の少なくとも1つのフッ化アルカリ、及び
4. 3~7wt%の少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、
を含む添加物と、を含み
(c)いかなる形態にある、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀のうちの少なくともいずれか1つを含まず、
(d)(a)と(b)の合計が100重量パーセントである、組成物。
【請求項2】
(a)前記か焼ホストは、
1. 53~61wt%MgO、及び
2. 39~47wt%SiO、を含み、
3.いかなる形態にある、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀のうちの少なくともいずれか1つを含まず、
(b)前記添加物は、
1. 3~5wt%HBO
2. 0.05~0.5wt%CuO、
3. 0.8~1.9wt%の少なくとも1つのフッ化アルカリ、及び
4. 3.8~5.4wt%の少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、を含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(a)前記か焼ホストは、
1. 56~59wt%MgO、及び
2. 41~44wt%SiO、を含み、
3.いかなる形態にある、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀のうちの少なくともいずれか1つを含まず、
(b)前記添加物は、
1. 3.3~4.5wt%HBO
2. 0.1~0.3wt%CuO、
3. 1~1.6wt%の少なくとも1つのフッ化アルカリ、及び
4. 4~5.1wt%の少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、を含む、
請求項1又2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が87~92wt%の前記か焼ホストを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が88~91wt%の前記か焼ホストを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つのフッ化アルカリがフッ化リチウムを含み、
前記少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物がフッ化カルシウムを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、いかなる形態にある、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀のすべてを含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
(a)請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物を含む、49.13~56.87wt%の誘電体粉末と、
(b)トリメチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)を含む、2.62~3.61wt%の可塑剤と、
(c)エタノール、キシレン、及びメチルエチルケトンからなる群から選択される、33.46~38.12wt%の少なくとも1つの溶媒と、
(d)ポリビニルブチラールを含む、6.45~8.85wt%樹脂と、を含み、
(e)(a)~(d)の合計が100重量パーセントである、
誘電体テープ又はペーストを形成するためのスリップ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの溶媒がエタノール、キシレン、及びメチルエチルケトンのすべてを含む、請求項8に記載のスリップ。
【請求項10】
(a)0.7~2μmの範囲にあるD50を有する、40~50wt%第2の銀粉末と、
(b)0.2~0.5μmの範囲にあるD50を有する、23~25wt%第3の銀粉末と、
(c)請求項1~7のいずれかに記載の組成物を含む、7~11wt%誘電体粉末と、
(d)23.7~29.8wt%有機ビヒクル、分散剤、及び溶媒と、を含み、
(e)(a)~(d)の合計が100重量パーセントである、
銀ペースト。
【請求項11】
(a)0.7~2μmの範囲にあるD50を有する、42~47wt%第2の銀粉末と、
(b)0.2~0.5μmの範囲にあるD50を有する、23.5~24.5wt%第3の銀粉末と、
(c)請求項1~7のいずれかに記載の組成物を含む、1~3wt%誘電体粉末と、
(d)6~9wt%ガラスフリットと、
(e)23.8~29.7wt%有機ビヒクル、分散剤、及び溶媒と、を含み、
(f)(a)~(e)の合計が100重量パーセントである、
銀ペースト。
【請求項12】
(a)請求項1~7のいずれかに記載の組成物と、
(b)請求項10又は11に記載の導体との
焼結された複数の交互の層を含むLTCC部品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物(dielectric composition)に関し、より具体的には、GHz高周波数で非常に高いQ値(Q factor)を有すると共に、貴金属の金属化を伴う低温同時焼成セラミック(LTCC;low temperature co-fired ceramic)用途において使用可能な、誘電率(dielectric constant)K=4~12又は代替的に約50以下を示すマグネシウム-ケイ素-カルシウム酸化物系の誘電体組成物に関する。
【0002】
本発明者らは、5Gワイヤレス用途及び他の高周波数用途(5G周波数範囲:3~6GHz及び20~100GHz)用で、900℃未満、例えば825~850℃で焼成する環境に優しい(鉛フリー、カドミウムフリー、及びフタル酸塩(fhthalate)フリー)LTCC-銀コファイラブル(cofirable)システムの開発を試みた。
【背景技術】
【0003】
ワイヤレス用途におけるLTCCシステム用の最先端の材料は、誘電率K=4~8であると共に、1MHzの測定周波数で約500~1,000のQ値を有する誘電体を含む。これは一般に、セラミックの低温(875℃以下)緻密化を可能にする高濃度のBaO-CaO-B低軟化温度ガラスと混合されたセラミック粉末を使用することによって達成される。このような大量のガラスは、前記セラミックのQ値を低下させるという望ましくない効果を及ぼし得る。
【0004】
Ferro A6M、A6ME、及びL8並びにDuPont(商標)9K7及び951を含む最先端のコファイラブルLTCC/Agシステムが市場に存在するが、これらのシステムは、強度が低く、熱伝導率が低く、かつ誘電損失が大きい。さらに、損失は、広い周波数範囲にわたって本発明のシステムの損失ほど安定していない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、誘電体組成物及び関連するAg導体に関し、より具体的には、高周波数(GHz)で高いQ値を有すると共に、貴金属の金属化を伴う低温同時焼成セラミック(LTCC)用途において使用可能な、誘電率K=5~10を示すマグネシウム-ケイ酸塩-カルシウム系誘電体組成物のシステムに関する。Q値は、誘電正接(dielectric loss tangent)(Df)の逆数である。Qf値は、通常GHz範囲の周波数における、誘電体の質を表すために使用されるパラメータである。Qfは、測定周波数f(GHz)にその周波数でのQ値を乗じる、Qf=Q×fとして表すことができる。高周波数用途向けに、10GHzを超える周波数において500よりも高い又は1000さえも超える非常に高いQ値を有する誘電体材料の需要が高まっている。
【0006】
概して、本発明のセラミック材料は、適量のMgO及びSiO(又は前述の前駆体)を混合し、これらの材料を水性媒体中で約0.2~5.0ミクロン(micron)の粒径D50まで一緒に粉砕する(milling)ことによって作製されるホストを含む。このスラリーを乾燥し、約800~1250℃でか焼(calcined)して、MgO及びSiOを含むホスト材料(host material)を形成する。次に、得られたホスト材料を機械的に微粉化し(pulverized)、融剤(fluxing agent)と混合し、再度水性媒体中で約0.5~1.0μmの粒径D50まで粉砕する。粉砕したセラミック粉末を乾燥、微粉化し、細かく分割した粉末を生成する。得られた粉末を円筒形のペレットにプレスし、約750~約900℃、好ましくは約775~約875℃、より好ましくは約825~約850℃の温度で焼成することができる。
【0007】
焼成が行われる時間は、約1~約50分、好ましくは約5~約30分、より好ましくは約10~約50分間である。
【0008】
本発明の実施形態は、以下のいずれか又はすべてを含まない、好ましくはすべてを含まないマグネシウム-ケイ素-酸化物ホスト材料を焼成時に形成する前駆体材料の混合物を含む組成物である:鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀。ホストは、それ自体で、又は他の金属含有化合物、例えば、Ca及び/もしくはLiの酸化物もしくはフッ化物等の酸化物もしくはフッ化物、と組み合わせて、誘電体材料を形成することができる。
【0009】
本発明のすべての組成物は、いずれかの化学的又は物理的形態において、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素のうちの少なくとも1つを含まない。好ましい実施形態において、組成物は、前述のうちの2つ以上を含まず、最も好ましい実施形態においては、すべてを含まない。有機部(organic portion)はフタル酸塩を含まない。
【0010】
本発明の実施形態は、WO2020-014035に開示される2つ以上のホスト又はホストの選択を含むことができ、共通に所有され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0011】
本発明の誘電体材料は、本明細書に開示される85~95wt%のホスト材料と、(a)HBO又はB、(b)少なくとも1つのフッ化アルカリ、(c)少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、及び(d)CuOとを合わせて混合焼成して得られる。F含有塩と、種々のLi含有もしくはCa含有塩又は酸化物との種々の組み合わせは、本発明の最終生成物中の所望のレベルのLi、Ca、及びFとなるように組み合わせることができる。本明細書に開示されるすべての本発明の組成物及びそれらの中間体は、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素をいかなる形態においても含まない。
【0012】
導体(Conductors)
【0013】
特性が上記の表に示されているAg導体ペースト(表面、埋め込み(buried)及びビア)の処方物は、表4~6に提示されている。Ag導体は、Ag粉末をフィラー材料(セラミック及び/又はガラス)、有機ビヒクル(organic vehicle)、分散剤、及び溶媒と混合し、3ロールミル(3-roll milling)で厚膜ペーストを形成し、セラミックグリーンテープ(ceramic green tape)上にスクリーン印刷し、そして125℃で乾燥することによって作製される。多層部は、Ag印刷グリーンテープ層を積層し、アイソスタティックラミネート(isostatically laminating)し、その後825~850℃で空気中で焼成することによって作製される。
【0014】
銀導体ペーストは、銀フレーク(silver flake(s))、銀粉末、本明細書に開示される誘電体処方物を含むことができるガラスフリット組成物、及び有機成分を含むことができる。有機成分には、ビヒクル、溶媒及び乳化剤が含まれる。
【0015】
有用な銀構成成分を以下の表1に表す。
【0016】
【表1】
【0017】
上記の表において、D50又は平均粒子径(Ave.PS:Average Particle Size)の測定値は、列ごとに本発明の実施形態を形成するものとして理解されるべきではない。各粒子(フレーク又は粉末)は別個に考慮されるべきであり、本発明の様々な実施形態は、表に記載されたフレーク又は粉末のうちの1つ又は複数を使用する銀導体を含むことができる。
【0018】
ゼロ重量パーセントで境界付けられた各組成範囲について、その範囲は、0.01重量%又は0.1重量%の下限を有する範囲も示すと見なされる。60~90重量%Ag+Pd+Pt+Auなどの教示は、言及された成分のいずれか又はすべてが、合計して記載された範囲となる組成で存在できることを意味する。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に開示されるいずれかの誘電体ペーストを基板(基体)(substrate)に適用する(塗布する)(applying)工程と、誘電体材料を焼結するのに十分な温度で基板を焼成する工程と、を含む電子部品を形成する方法に関する。
【0020】
別の実施形態において、本発明は、本明細書に開示されるいずれかの誘電体材料の粒子を基板に適用する工程と、誘電体材料を焼結するのに十分な温度で基板を焼成する工程と、を含む電子部品を形成する方法に関する。
【0021】
別の実施形態において、本発明の方法は、以下を含む電子部品を形成する工程を含む:
(a1)本明細書に開示されるいずれかの誘電体組成物を基板に適用する工程、又は
(a2)本明細書に開示されるいずれかの誘電体組成物を含むテープを基板に適用する工程、又は
(a3)本明細書に開示されるいずれかの誘電体組成物の複数の粒子を成形して、モノリシック複合基板(monolithic composite substrate)を形成する工程、及び
(b)誘電体材料を焼結するのに十分な温度で基板を焼成する工程。
【0022】
本発明による方法は、7よりも高い誘電率を有する本明細書に開示されるいずれかの誘電体材料の少なくとも1つの層を、7未満の誘電率を有するテープ又はペーストの少なくとも1つの互い違いとなる別個の層(alternating separate layer)と組み合わせて、同時焼成して、互い違いの層が異なる誘電率を有する多層基板(multi-layer substrate)を形成する方法である。
【0023】
本明細書の各数値(パーセンテージ、温度等)の前には「約」(about)が付いていると推定されることを理解されたい。本明細書のいずれかの実施形態において、誘電体材料は、異なる相、例えば結晶性及びアモルファス、をmol%(モル%)又はwt%(重量%)のいずれかで表される任意の比率、例えば1:99~99:1(結晶性:アモルファス)、で含むことができる。他の比率には、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20、及び90:10、並びにその間のすべての値が含まれる。一実施形態において、誘電体ペーストは、10~30wt%の結晶性誘電体及び70~90wt%のアモルファス誘電体を含む。
【0024】
本発明の前述の特徴及び他の特徴は、以下においてより十分に説明され、特に特許請求の範囲において指摘され、以下の説明は、本発明の特定の例示的な実施形態を詳細に記載するが、これらは、本発明の原理を使用することができる様々な方法のうちのいくつかだけを表示するにすぎない。
【発明の詳細な説明】
【0025】
LTCC(低温同時焼成セラミック)は、比較的低い焼成温度(1000℃未満)で、Ag、Au、PtもしくはPd、又はこれらの組み合わせ等の低抵抗金属導電体と同時焼成(共焼成)される多層ガラスセラミック基体技術である。その主な組成がガラス及びアルミナ又は他のセラミックフィラーからなることがあるため、「ガラスセラミック」(Glass Ceramics)と呼ばれることもある。一部のLTCC処方物は再結晶ガラスである。本明細書のガラスは、インシツ(in situ)で形成され得るか、又は組成物に添加され得るフリットの形態で提供することができる。
【0026】
誘電体材料のスラリーから成型(cast)されたテープが切断され、ビア(via)として知られる孔を形成して層間の電気的接続を可能にする。ビアには、本明細書に開示されるいずれかの銀ペースト等の導電性ペーストが充填される。次に、回路パターンが、必要に応じて同時焼成抵抗とともに印刷される。印刷基板の複数の層が積層される。スタックが加熱及び加圧され、複数の層が1つに結合される。次に、低温(<1000℃、又は<900℃)焼結が行われる。焼結スタックは最終的な寸法に切断され、必要に応じて後焼成処理が完了される。
【0027】
自動車用途に有用な多層構造は、約5つのセラミック層、例えば、3~7又は4~6、を有することができる。RF用途において、構造は10~25のセラミック層を有することができる。配線基板として、5~8のセラミック層を使用することができる。
【0028】
[誘電性ペースト]誘電体層を形成するためのペーストは、本明細書に開示されるように、有機ビヒクル(organic vehicle)を原料の誘電体材料と混合することによって得ることができる。また、上述のように、焼成時にそのような酸化物及び複合酸化物に変換する前駆体化合物(例えば、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩)も有用である。誘電体材料は、これらの酸化物を含む化合物、又はこれらの酸化物の前駆体を選択し、それらを適切な比率で混合することによって得られる。原料の誘電体材料中のこのような化合物の比率は、焼成後に所望の誘電体層組成物が得られるように決定される。(本明細書のいずれかに開示されるように)原料の誘電体材料は、一般に、約0.1~約3ミクロン、より好ましくは約1ミクロン以下の平均粒子径(mean particle size)を有する粉末形態で使用される。
【0029】
[有機ビヒクル]本明細書のペーストは有機部(organic portion)を含む。有機部は、有機溶媒中のバインダ又は水中のバインダである有機ビヒクルであるか、又は有機ビヒクルを含む。バインダは、グリーンペースト又はテープの所望のグリーン強度又は他の所望の特性を与えるように選択される。エチルセルロース、ポリビニルブタノール、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース、並びにこれらの組み合わせ等のバインダが溶媒と合わせて適当である。アクリル樹脂等の樹脂はビヒクルに使用することができる。有機溶媒は、特定の適用方法(すなわち、テープキャスティング、印刷又はシーティング(sheeting))に従って、例えばトリプロピレングリコールn-ブチルエーテル及びジプロピレングリコールジベンゾエート等のエステルアルコール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン、エタノール、ジエチレングリコールブチルエーテル等の他の溶媒;2,2,4-トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール(Texanol)(登録商標));α-テルピネオール;β-テルピネオール;γ-テルピネオール;トリデシルアルコール;ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール(Carbitol)(登録商標))、ジエチレングリコールブチルエーテル(ブチルカルビトール(Butyl Carbitol)(登録商標))及びプロピレングリコール;並びにこれらの混合物等の有機溶媒から選択することができる。テキサノール(登録商標)の商品名で販売されている製品は、テネシー州キングズポート(Kingsport)にあるイーストマンケミカル社(Eastman Chemical Company)から入手することができる;ダウワノール(Dowanol)(登録商標)及びカルビトール(登録商標)の商品名で販売されている製品は、ミシガン州ミッドランド(Midland)にあるダウケミカル社(Dow Chemical Co.)から入手することができる。ヒマシ油(castor)又はその水素添加誘導体等のレオロジー剤(チキソトロピー剤)が含まれ得る。本発明の有機物はフタル酸塩を含まない。
【0030】
[フィラー]異なる誘電体組成物のテープ層間の膨張の不整合を最小限に抑えるために、コーディエライト、アルミナ、ジルコン、フューズドシリカ、アルミノケイ酸塩、及びこれらの組み合わせ等のフィラーを、本明細書の1つ又は複数の誘電体ペーストに1~30wt%、好ましくは2~20wt%、より好ましくは2~15wt%の量で添加することができる。
【0031】
[焼成]次に、誘電体スタック(2つ以上の層)が、内部電極層形成ペースト中の導体の種類に従って決定される雰囲気中で焼成される。本明細書における目的とする導体は、銀、貴金属を含み、したがって、本明細書における導体は周囲雰囲気(ambient atmosphere)中で焼成することができる。
【0032】
本明細書に開示されるLTCC組成物及び装置の用途には、バンドパスフィルタ、(ハイパス又はローパス)、セルラー用途を含むテレコミュニケーション(telecommunication)用の無線送信機及び受信機、電力増幅器モジュール(PAM)、RFフロントエンドモジュール(FEM)、WiMAX2モジュール、LTE-advancedモジュール、トランスミッションコントロールユニット(TCU)、電子パワーステアリング(EPS)、エンジンマネジメントシステム(EMS)、種々のセンサーモジュール、レーダーモジュール、圧力センサー、カメラモジュール、スモールアウトラインチューナーモジュール、装置及び部品用薄型プロファイルモジュール、並びにICテスターボードが含まれる。バンドパスフィルタには、2つの主要部、1つはコンデンサ、もう1つはインダクタ、が含まれる。低K材料はインダクタの設計には適しているが、十分な静電容量を生成するためにより多くのアクティブ領域を必要とするためコンデンサの設計には適していない。高K材料はその逆の結果となる。
【実施例
【0033】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を例示するために提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0034】
以下の表2に示すように、適量のMg(OH)、及びSiOを混合し、次に、水性媒体中で、約0.2~1.5μmの粒子径D50まで合わせて粉砕する。このスラリーを乾燥し、次に約800~1250℃で約1~10時間か焼して(calcine)、MgO及びSiOを含むホスト材料を形成する。次に、得られたホスト材料を機械的に微粉化し、融剤及びドーパント(表3参照)と混合し、再び水性媒体中で約0.5~1.0μmの粒子径D50まで粉砕する。粉砕したセラミック粉末を乾燥及び微粉化して、細かく分割した粉末を製造する。得られた粉末を円筒形のペレットにプレスし、約825~880℃の温度範囲で約30分間焼成する。処方物(formulation)は重量パーセントで示される。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
M7 LTCC誘電体の825℃焼成特性を表4にまとめる。(表2及び3に開示される)M7誘電体粉末を分散剤、バインダ、可塑剤、及び溶媒と組み合わせて、微粉化し、約0.5~1.0μmの粒子径D50まで粉砕してキャスタブルスリップ(castable slip)を形成し、スリップをマイラーキャリアフィルム(mylar carrier film)上にキャスティングし、乾燥させて、厚さ50~125ミクロンの柔軟でパンチ可能なセラミックグリーンテープを形成することによって、グリーンテープは作製される。
【0038】
【表4】
【0039】
グリーンテープスリップ処方物を表5に示す。0.15~0.51mmの範囲の直径を有するビア孔をセラミックグリーンテープに開け、Agペーストを充填して、セラミック層間の電気的接続を可能にする。導体(表面、埋め込み、ビア)は、グリーンテープにスクリーン又はステンシルで印刷され、複数の印刷層が3000psi/70℃/10分で合わせて積層されて多層部を形成し、825~850℃で焼成してセラミックテープ及びAg導体を緻密化する。
【0040】
【表5】
【0041】
グリーンテープと融和性があり、825~850℃で同時焼成可能な(cofirable)厚膜Ag導体ペーストも開発された。同時焼成されたAg導体の特性を表6にまとめる。表面のAg導体は、無電解Ni及びAuめっき可能に設計される。
【0042】
【表6】
【0043】
上記の表6に特性が示されているAg導体ペースト(表面、埋め込み及びビア)の処方物を表7~9に提示する。Ag導体は、Ag粉末と、フィラー材料(セラミック及び/又はガラス)、有機ビヒクル、分散剤、及び溶媒とを合わせて混合し、次に3ロールミルで厚膜ペーストを形成し、セラミックグリーンテープにスクリーン印刷して、その後125℃で乾燥することによって作製される。EG2807ガラス粉末及びL8 VWGガラス粉末は、オハイオ州クリーブランドのフエロ社(Ferro Corporation)から市販されている。多層部は、Ag印刷グリーンテープ層を積層してアイソスタティックラミネートし、その後、空気中で825~850℃で焼成することによって作製される。
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
【表9】
【0047】
本発明のペースト又はテープが製造される有機ビヒクルを表10及び11に示す。
【0048】
【表10】
【0049】
【表11】
【0050】
別の実施形態において、表12に示すように、表面Ag導体ペーストは、11.5~13.2wt%の第1の銀フレーク、11.5~13.2wt%の第1の銀粉末、及び37~43wt%の第2の銀粉末を含むことができる。表面Ag導体は、3~6wt%の誘電体粉末、及び2~4.5wt%のEG2807ガラス粉末(市販品;オハイオ州クリーブランドのフエロコーポレーションから)をさらに含むことができる。さらに別の実施形態において、表面Ag導体は、11.5~13.2wt%の第1の銀フレーク、11.5~13.2wt%の第1の銀粉末、及び37~43wt%の第2の銀粉末、2.5~5.5wt%の誘電体粉末、及び2.5~4.5wt%のEG2807ガラス粉末を含むことができる。さらに別の実施形態において、表面Ag導体ペーストは、11.7~13.0wt%の第1の銀フレーク、11.7~13.0wt%の第1の銀粉末、及び38~42wt%の第2の銀粉末を含むことができる。表面Ag導体は、3.0~5.0wt%、好ましくは3.5~5.0wt%の誘電体粉末、及び2.5~4.0wt%、好ましくは2.6~3.8wt%のEG2807ガラス粉末をさらに含むことができる。第1の銀フレーク、第1の銀粉末、及び第2の銀粉末は、本明細書の他の箇所に記載されているD50(又は平均粒子径)のいずれかの組み合わせを有することができる。
【0051】
【表12】
【0052】
ビアAg導体の成分の範囲を表13に示す。ビアAg導体ペーストは、21.5~28.5wt%、好ましくは23~25wt%の第4の銀粉末、及び37.1~40.9wt%、好ましくは38~40wt%の第5の銀粉末を含むことができる。ビアAg導体は、13.5~17.5、好ましくは14.5~17w%の誘電体粉末をさらに含むことができる。ビアAg導体ペーストは、1.31~4.5wt%、好ましくは2~4.5wt%の、EG0024ガラス粉末、EG2810ガラス粉末、及びEG0912ガラス粉末(軟化点650~750℃を有するCa-ホウケイ酸ガラス)のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。前述のEG0024及びEG2810ガラス粉末は、オハイオ州クリーブランドのフエロ社から市販されている。
【0053】
【表13】
【0054】
一実施形態において、Agフレーク1のD50は、0.1~1.5μm、好ましくは0.1~1.1μm、より好ましくは0.4~0.9μm、最も好ましくは0.6~0.8μmの範囲内にある。Ag粉末1のD50は、2.1~8μm、好ましくは2.3~7μm、より好ましくは2.6~6μm、最も好ましくは3~5μmの範囲内にある。Ag粉末2のD50は、0.4~3μm、好ましくは0.5~2.8μm、より好ましくは0.6~2.5μm、最も好ましくは0.7~2μmの範囲内にある。Ag粉末3のD50は、0.05~0.8μm、好ましくは0.05~0.6μm、より好ましくは0.1~0.55μm、最も好ましくは0.2~0.5μmの範囲内にある。Ag粉末4の平均粒子径は、0.7~5μm、好ましくは0.8~4μm、より好ましくは1~3.8μm、最も好ましくは1.5~3.5μmの範囲内にある。Ag粉末5の平均粒子径は、1.5~6μm、好ましくは1.7~5μm、より好ましくは2~4.5μm、最も好ましくは2.5~4μmの範囲内にある。
【0055】
発明は以下の項によってさらに規定される。
項1:
(a)1. 49~65wt%MgO、及び
2. 35~51wt%SiO、を含み、
3. いかなる形態において、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀を含まない、
85~95wt%のか焼ホストと、
(b)1. 2.5~6wt%HBO
2. 0.01~0.1wt%CuO、
3. 0.5~3wt%の少なくとも1つのフッ化アルカリ、及び
4. 3~7wt%の少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、
を含む添加物と、を含み
(c)いかなる形態において、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀を含まず、
(d)(a)と(b)の合計が100重量パーセントである、組成物。

項2:
(a)か焼ホストは、
1. 53~61wt%MgO、及び
2. 39~47wt%SiO、を含み、
3. いかなる形態において、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀を含まず、
(b)添加物は、
1. 3~5wt%HBO
2. 0.05~0.5wt%CuO、
3. 0.8~1.9wt%の少なくとも1つのフッ化アルカリ、及び
4. 3.8~5.4wt%の少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、を含む、
項1の組成物。

項3:
(a)か焼ホストは、
1. 56~59wt%MgO、及び
2. 41~44wt%SiO、を含み、
3. いかなる形態において、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、ビスマス、チタン、ヒ素、及び水銀を含まず、
(b)添加物は、
1. 3.3~4.5wt%HBO
2. 0.1~0.3wt%CuO、
3. 1~1.6wt%の少なくとも1つのフッ化アルカリ、及び
4. 4.4~5.1wt%の少なくとも1つのアルカリ土類フッ化物、を含む、
項1又は2のいずれかの粉末組成物。

項4:組成物が87~92wt%のホストを含む、項1~3のいずれかの粉末組成物。

項5:組成物が88~91wt%のホストを含む、項1~3のいずれかの粉末組成物。

項6:
(a)50~60wt%の誘電体粉末、
(b)5~10wt%の可塑剤、
(c)30~45wt%の少なくとも1つの溶媒、
を含む、誘電体テープ又はペーストを形成するためのスリップ。

項7:
(a)0.6~0.8μmの粒子径D50を有する第1の銀フレーク、
(b)3~5μmのD50を有する第1の銀粉末、
(c)0.7~2μmのD50を有する第2の銀粉末、
(d)誘電体粉末、
(e)任意のガラスフリット、及び
(f)有機成分
を含む、銀ペースト。

項8::
(a)0.7~2μmのD50を有する第2の銀粉末、
(b)0.2~5μmのD50を有する第3の銀粉末、
(c)誘電体粉末、
(d)任意のガラスフリット、及び
(e)有機成分。
を含む、銀ペースト。

項9:
(a)1.5~3.5μmの平均粒子径を有する第4の銀粉末、
(b)2.5~4μmの平均粒子径を有する第5の銀粉末、
(c)誘電体粉末、
(d)任意のガラスフリット、及び
(e)有機成分。
を含む、銀ペースト。

項10:
(a)項1~5のいずれかの組成物と、
(b)項7~9のいずれかの導体と
の焼結された複数の交互の層を含む、LTCC部品。
【0056】
追加の利点及び変更は、当業者が容易に想到するであろう。したがって、そのより広い態様における本発明は、本明細書に示され、説明される特定の詳細なかつ例示的な例に限定されない。したがって、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物によって規定される全体的な発明の概念の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。