IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ バローレック・オイル・アンド・ガス・フランスの特許一覧

<>
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図1
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図2
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図3
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図4
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図5
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図6
  • 特許-鋼管用ねじ継手 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/06 20060101AFI20230921BHJP
   F16L 15/04 20060101ALI20230921BHJP
【FI】
F16L15/06
F16L15/04 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022532339
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021015974
(87)【国際公開番号】W WO2021261063
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2020110341
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 顕
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 吉則
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/075366(WO,A1)
【文献】特開平04-015385(JP,A)
【文献】国際公開第2020/039750(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/135267(WO,A1)
【文献】特表2015-505944(JP,A)
【文献】特表2015-501906(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0195030(US,A1)
【文献】特表2012-526931(JP,A)
【文献】特表2016-533462(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/06
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、前記ピンがねじ込まれて前記ピンと締結される管状のボックスとを備え、前記ピンは、前記ピンの外周に形成された雄ねじを有し、前記ボックスは、前記ボックスの内周に形成され且つ締結時に前記雄ねじに嵌合する雌ねじを有し、前記雄ねじ及び前記雌ねじは、荷重面、挿入面、ねじ山頂面及びねじ溝底面を有し、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面ピッチよりも前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面ピッチが小さく、締結状態で前記雄ねじの荷重面が前記雌ねじの荷重面に接触するとともに前記雄ねじの挿入面が前記雌ねじの挿入面に接触し、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面及び前記挿入面は負のフランク角を有する、鋼管用ねじ継手において、
前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における前記雄ねじの前記荷重面と前記ねじ溝底面とが、縦断面における曲率半径r1が下記の式(1)を満たす第1の曲面部を介して接続されており、
r1≧Th×0.14 ・・・(1)
但し、Thは、前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における前記雄ねじの荷重面側のねじ山高さであって、1.8mm≦Th≦3.0mmを満たす。
前記雄ねじは、前記第1の曲面部を有する第1のねじ部分と、該第1のねじ部分にねじ螺旋方向に連続する第2のねじ部分を備え、該第2のねじ部分の前記荷重面と前記ねじ溝底面とが、前記第1の曲面部よりも小さな曲率半径r2を有する第2の曲面部を介して接続されており、
前記第1の曲面部は、前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に少なくともx周分にわたって設けられている、鋼管用ねじ継手。
但し、xは下記の式(2)を満たす。
x=(r1-r2)/Δp ・・・(2)
ここで、Δpは、前記雄ねじの荷重面ピッチと挿入面ピッチとの間のピッチ差である。
【請求項2】
鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、前記ピンがねじ込まれて前記ピンと締結される管状のボックスとを備え、前記ピンは、前記ピンの外周に形成された雄ねじを有し、前記ボックスは、前記ボックスの内周に形成され且つ締結時に前記雄ねじに嵌合する雌ねじを有し、前記雄ねじ及び前記雌ねじは、荷重面、挿入面、ねじ山頂面及びねじ溝底面を有し、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面ピッチよりも前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面ピッチが小さく、締結状態で前記雄ねじの荷重面が前記雌ねじの荷重面に接触するとともに前記雄ねじの挿入面が前記雌ねじの挿入面に接触し、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面及び前記挿入面は負のフランク角を有する、鋼管用ねじ継手において、
前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における前記雄ねじの前記荷重面と前記ねじ溝底面とが、縦断面における曲率半径r1が下記の式(1)を満たす第1の曲面部を介して接続されており、
r1≧Th×0.14 ・・・(1)
但し、Thは、前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における前記雄ねじの荷重面側のねじ山高さであって、1.8mm≦Th≦3.0mmを満たす。
前記雌ねじの前記荷重面と前記ねじ山頂面とが、締結状態で前記第1の曲面部に対向し且つ前記第1の曲面部よりも大きな曲率半径を有する第3の曲面部を介して接続されており、
前記雌ねじの一部であって締結状態で前記雄ねじの先端部の前記荷重面に接触する部分の前記ねじ山頂面と、該ねじ山頂面に対向する前記雄ねじの前記ねじ溝底面との間に、径方向の隙間が設けられており、
前記第1の曲面部の径方向外端部が、前記第1の曲面部に対向する前記第3の曲面部の径方向内端部よりも径方向外方に位置するとともに、前記第1の曲面部に対向する前記第3の曲面部の径方向外端部よりも径方向内方に位置する、鋼管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記第1の曲面部は前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に沿って少なくとも1/2周にわたって設けられている、鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記第1の曲面部は前記雄ねじの全長にわたって設けられている、鋼管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記雌ねじの前記荷重面と前記ねじ山頂面とが、締結状態で前記第1の曲面部に対向し且つ前記第1の曲面部よりも大きな曲率半径を有する第3の曲面部を介して接続されており、
前記雌ねじの一部であって締結状態で前記雄ねじの先端部の前記荷重面に接触する部分の前記ねじ山頂面と、該ねじ山頂面に対向する前記雄ねじの前記ねじ溝底面との間に、径方向の隙間が設けられており、
前記第1の曲面部の径方向外端部が、前記第1の曲面部に対向する前記第3の曲面部の径方向内端部よりも径方向外方に位置するとともに、前記第1の曲面部に対向する前記第3の曲面部の径方向外端部よりも径方向内方に位置する、鋼管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手において、
締結状態で、前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に少なくとも8周分にわたる部分の前記荷重面及び前記挿入面が、前記雌ねじの前記荷重面及び前記挿入面に接触するよう、前記雄ねじ及び前記雌ねじのねじプロファイルが定められている、鋼管用ねじ継手。
【請求項7】
請求項6に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記荷重面ピッチが8.50mm以下であり、前記挿入面ピッチが8.10mm以下であり、これらのピッチ差が0.35mm以上0.45mm以下であり、前記雄ねじの先端部におけるねじ山底部の最小ねじ山幅が2.1mm以上である、鋼管用ねじ継手。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手において、前記鋼管の外径は240mmより大きい、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管の連結に用いられる鋼管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう。)の試掘又は生産、オイルサンドやシェールガス等の非在来型資源の開発、二酸化炭素の回収や貯留(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)、地熱発電、あるいは温泉等では、油井管と呼ば
れる鋼管が用いられる。鋼管同士の連結には、ねじ継手が用いられる。この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。
【0003】
カップリング型の場合、管状のカップリングを介して鋼管同士が連結される。典型的には、カップリングの両端部の内周に雌ねじがそれぞれ設けられ、鋼管の両端部の外周には雄ねじがそれぞれ設けられる。そして、カップリングの一方の端部に一の鋼管の一端部がねじ込まれるとともに、カップリングの他方の端部に他の鋼管の一端部がねじ込まれることにより、鋼管同士が連結される。すなわち、カップリング型では、直接連結される一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。
【0004】
インテグラル型の場合、鋼管同士が直接連結され、別個のカップリングを用いない。具体的には、鋼管の一端部の内周には雌ねじが、他端部の外周には雄ねじが設けられ、雌ねじ部が設けられた一の鋼管の一端部に、雄ねじ部が設けられた他の鋼管の他端部がねじ込まれることにより、鋼管同士が連結される。
【0005】
一般に、雄ねじが形成された鋼管の管端部は、雌ねじが形成された鋼管又はカップリングの管端部に挿入される要素を含むことから、「ピン」と称される。雌ねじが形成された鋼管又はカップリングの管端部は、雄ねじが形成された鋼管の管端部を受け入れる要素を含むことから、「ボックス」と称される。これらピン及びボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0006】
近年、DwC(Drilling with Casing)や水平掘削などの井戸開発技術が広まりつつあり、ハイトルク継手の需要が急増している。本願出願人は、従前より、比較的小径サイズの鋼管用のハイトルク継手として、楔形ねじとも称される断面形状がダブテイル形のテーパーねじを採用したねじ継手を製造している。このようなハイトルク継手は、例えば下記の特許文献1に開示されている。
【0007】
楔形ねじは、荷重面ピッチよりも挿入面ピッチが小さいねじプロファイルを有し、これによりピンの雄ねじのねじ山幅がねじの螺旋に沿って先端側に至るにしたがって徐々に狭くなり、相対するボックスの雌ねじのねじ溝幅も同様に先端側に至るにしたがって徐々に狭くなる。また、雄ねじ及び雌ねじのそれぞれの荷重面及び挿入面のいずれも負のフランク角を有しており、ピンとボックスとの締結が完了したときに、荷重面同士及び挿入面同士が接触することで、雄ねじ及び雌ねじのそれぞれのねじ山同士が強固に嵌まり合う。かかる構成により、楔形ねじを採用したねじ継手は、高い耐トルク性能を発揮できる。
【0008】
また、下記特許文献1の図5及び段落0065には、ねじ山の荷重面とねじ山頂面との間の接続部、及び、ねじ山の荷重面とねじ溝底面との間の接続部に、異なる曲率半径を有する2つの弧からなる湾曲部を設け、これにより荷重面の基部における集中荷重要因を低減して、前記接続部の疲労性能を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2007-504420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願出願人は、より大径サイズの鋼管用のハイトルクねじ継手の開発を行っているが、9‐5/8″以上の大径サイズのねじ継手を従前と同様の設計基準にしたがって設計すると、ISO13679:2011 Series Aに準拠した試作品の複合荷重負荷試験において、最大引張荷重負荷時に、ピンの雄ねじ部のねじ山がせん断破壊するという問題が発生した。なお、本願出願人による従前の設計基準では、特許文献1に開示された上記湾曲部を構成する2つの弧のうち、荷重面に接続する弧(23)の曲率半径は0.125mm、ねじ溝底面又はねじ山頂面に接続する弧(24)の曲率半径は0.875mmである。
【0011】
本開示は、大径サイズの鋼管用ねじ継手においても、高い耐トルク性能を発揮できるとともに、連結対象の鋼管のサイズに応じた耐せん断性能を発揮できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、大径サイズの鋼管用のハイトルクねじ継手における雄ねじ部のねじ山破断の原因を究明すべく鋭意検討を重ねた結果、大径サイズの鋼管に求められる引張強度、言い換えれば耐せん断性能に対して、雄ねじの先端部のねじ山のせん断強度が不十分であり、雄ねじ先端部のねじ山底部を起点としてせん断破壊が生じることを見出した。すなわち、雄ねじ先端部から1周分のねじ山(以下、「第1ねじ山」という。)が最初にせん断破壊すると、断面においてその1つ内側(すなわち鋼管の管本体側)に位置する第2ねじ山に荷重が集中して第2ねじ山がせん断破壊し、第2ねじ山がせん断破壊するとその1つ内側の第3ねじ山に荷重が集中してせん断破壊し、次々とせん断破壊が伝搬していく。このようにして広範囲に亘って雄ねじのねじ山がせん断破壊していくと考えられる。
【0013】
また、断面が台形状の一般的な雄ねじにおいては、過大な引張荷重の負荷時に、ピン及びボックスが径方向に変形してジャンプアウトすることはあるが、ねじ山が広範囲に亘って破断することは殆どなかった。一方、上記のハイトルクねじ継手では、断面ダブテイル形状の雄ねじ及び雌ねじのねじ山同士が強固に噛み合っていることから、雄ねじと雌ねじとの噛み合いが外れることがない。
【0014】
そのため、断面ダブテイル形状の楔形ねじにより雄ねじ及び雌ねじを構成したハイトルクねじ継手では、最初にせん断破壊が生じる第1ねじ山の剛性が耐ジャンプアウト性能及び耐せん断性能の確保のためには重要となる。
【0015】
本発明者らは、雄ねじ先端部の耐せん断性能を向上する手段として、雄ねじの先端部における荷重面とねじ溝底面との間の境界部の曲率半径に着目した。上述した雄ねじのせん断破壊は、雄ねじ先端部における荷重面とねじ溝底面との間の境界に応力が集中することが原因であると考えられるため、当該境界部の曲率半径を大きくすることによって応力集中を緩和でき、耐せん断性能が向上すると考えられる。
【0016】
また、ねじ山高さが大きくなるほど、荷重面に作用する等分布荷重の総和が同じであっても、上記境界部に作用する曲げモーメントは大きくなり、上記境界部における相当塑性ひずみも大きくなると考えられるため、ねじ山高さに応じた適切な曲率半径の曲面部によって上記境界部を構成する必要があると考えられる。
【0017】
一方、ねじ山高さが大きくなりすぎると、ねじ溝の切削加工深さが大きくなって、加工性が悪くなるため、大径サイズの鋼管用のねじ継手であっても、ねじ山高さは3.0mm以下であることが好ましい。また、十分な耐トルク性能を発揮するためには、荷重面及び挿入面の接触面積を確保する必要があるため、ねじ山高さは1.8mm以上であることが好ましい。
【0018】
本開示に係る鋼管用ねじ継手は、上述した技術的知見を総合的に検討することによって見出されたものである。すなわち、本開示に係る鋼管用ねじ継手は、鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、前記ピンがねじ込まれて前記ピンと締結される管状のボックスとを備える。前記ピンは、前記ピンの外周に形成された雄ねじを有する。前記ボックスは、前記ボックスの内周に形成され且つ締結時に前記雄ねじに嵌合する雌ねじを有する。前記雄ねじ及び前記雌ねじは、荷重面、挿入面、ねじ山頂面及びねじ溝底面を有し、前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面ピッチよりも前記雄ねじ及び前記雌ねじの挿入面ピッチが小さく、締結状態で前記雄ねじの荷重面が前記雌ねじの荷重面に接触するとともに前記雄ねじの挿入面が前記雌ねじの挿入面に接触する。前記雄ねじ及び前記雌ねじの荷重面及び前記挿入面は負のフランク角を有することが好ましい。
【0019】
また、前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における前記雄ねじの前記荷重面と前記ねじ溝底面とが、縦断面における曲率半径r1が下記の式(1)を満たす第1の曲面部を介して接続されていてよい。
r1≧Th×0.14 ・・・(1)
【0020】
但し、Thは、前記雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における前記雄ねじの荷重面側のねじ山高さである。好ましくは、ねじ山高さThは、1.8mm≦Th≦3.0mmを満たす。より好ましくは、r1≧Th×0.16を満たす。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、楔形ねじにより雄ねじ及び雌ねじを構成することによって高い耐トルク性能を発揮するとともに、大径サイズの鋼管に求められる耐せん断性能をピンの雄ねじ先端部に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1の実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
図2図2は、雄ねじの第1ねじ山及び第2ねじ山を含む範囲の拡大縦断面図である。
図3図3は、雄ねじの第1ねじ山近傍の拡大縦断面図である。
図4図4は、雄ねじの第1ねじ山と第2ねじ山との接続部の拡大斜視図である。
図5図5は、第2の実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の管軸方向に沿った縦断面図である。
図6図6は、FEM解析による相当塑性ひずみの評価結果を示すグラフである。
図7図7は、FEM解析による耐トルク性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手は、鋼管の先端部に設けられる管状のピンと、ピンがねじ込まれてピンと締結される管状のボックスとを備える。ピンは、ピンの外周に形成された雄ねじを有する。ボックスは、ボックスの内周に形成され且つ締結時に雄ねじに嵌合する雌ねじを有する。
【0024】
好ましくは、雄ねじは、ピン先端側に至るにしたがって徐々に縮径するテーパーねじである。雄ねじは、ねじ山高さが一定の完全ねじ部と、完全ねじ部よりもねじ山高さが低い不完全ねじ部とを有していてよい。雄ねじは鋼管の外周面を切削加工することによって形成され、鋼管の管本体側から先端側に至るにしたがってねじ溝の切削深さが0から完全ねじ部のねじ山高さとなるまで徐々に深くなっていくが、雄ねじの不完全ねじ部は、ねじ溝の切削深さが完全ねじ部のねじ山高さよりも小さい部位により主として構成される。このような構成では、完全ねじ部においては雄ねじのねじ山頂面及びねじ溝底面がいずれもねじ螺旋方向に沿ってピン先端側に至るにしたがって徐々に縮径していくが、不完全ねじ部においてはねじ溝底面はねじ螺旋方向に沿ってピン先端側に至るにしたがって徐々に縮径するが、不完全ねじ部のねじ山頂面は一定の径を有する。
【0025】
好ましくは、雌ねじは、ボックス先端側(すなわち鋼管の管本体側)に至るにしたがって徐々に拡径するテーパーねじである。雌ねじは、ねじ山高さが一定の完全ねじ部と、完全ねじ部よりもねじ山高さが低い不完全ねじ部とを有していてよい。また、雌ねじの完全ねじ部のねじ山高さを、雄ねじの完全ねじ部のねじ山高さよりも僅かに大きくしておくこともできる。この場合、ピン及びボックスの締結状態において、雌ねじのねじ山頂面は雄ねじのねじ溝底面に接触するが、雄ねじのねじ山頂面と雌ねじのねじ溝底面との間に隙間が形成されることとなる。この隙間を設けておくことにより、雄ねじと雌ねじとの嵌合時のかじりや焼き付きを防止できるとともに、上記隙間をドープ排出流路として好適に利用できる。
【0026】
雌ねじは、ボックスを構成するカップリング又は鋼管の内周面を切削加工することによって形成される。好ましくは、ピン及びボックスの締結状態において雄ねじの完全ねじ部の最も先端側の第1ねじ山が嵌合する雌ねじの第1ねじ溝は、雄ねじの荷重面と雌ねじの荷重面との接触領域の径方向寸法が、雄ねじの第1ねじ山のねじ山高さの60%以上、より好ましくは70%以上となる程度の溝深さを有する。
【0027】
雄ねじ及び雌ねじは、荷重面、挿入面、ねじ山頂面及びねじ溝底面を有し、雄ねじ及び雌ねじの荷重面及び挿入面は負のフランク角を有する。すなわち、雄ねじ及び雌ねじは、縦断面においてダブテイル形状のねじ溝及びねじ山を有する。雄ねじ及び雌ねじは、縦断面において複数のねじ山頂面及び複数のねじ溝底面が現れるが、縦断面における各ねじ山頂面の形状及び各ねじ溝底面の形状は、鋼管の管軸に平行であってもよいし、テーパーねじのテーパー角に沿うように鋼管の管軸に対して傾斜していてもよい。荷重面のフランク角は、例えば-10°~-1°の範囲の所定値であってよく、より好ましくは-4°~-6°の範囲の所定値であってよい。また、挿入面のフランク角は、例えば-10°~-1°の範囲の所定値であってよく、より好ましくは-4°~-6°の範囲の所定値であってよい。また、縦断面における雄ねじ及び雌ねじの各ねじ山の荷重面及び挿入面の断面形状は直線状であってよい。
【0028】
本実施形態の鋼管用ねじ継手では、雄ねじ及び雌ねじの荷重面ピッチよりも雄ねじ及び雌ねじの挿入面ピッチが小さい。これにより、雄ねじは、ピン先端側に至るにしたがってねじ山幅が小さくなるとともにねじ溝幅が大きくなる楔形ねじとして形成され、雌ねじは、ボックス先端側に至るにしたがってねじ山幅が小さくなるとともにねじ溝幅が大きくなる楔形ねじとして形成されている。なお、荷重面ピッチは、例えば8.0mm~11.0mmの範囲の所定値であってよく、また、挿入面ピッチは、例えば7.5mm~10.5mmの範囲の所定値であってよい。これら荷重面ピッチ及び挿入面ピッチのピッチ差Δpは、例えば0.3mm~0.6mmであってよい。
【0029】
本開示において、「雄ねじ」は、完全ねじ部であるか不完全ねじ部であるかを問わず、ピン及びボックスの締結状態で雄ねじの荷重面が雌ねじの荷重面に接触するとともに雄ね
じの挿入面が雌ねじの挿入面に接触する部位であるものとする。また、「雌ねじ」は、完全ねじ部であるか不完全ねじ部であるかを問わず、ピン及びボックスの締結状態で雌ねじの荷重面が雄ねじの荷重面に接触するとともに雌ねじの挿入面が雄ねじの挿入面に接触する部位であるものとする。なお、例えば図4に示すように、雄ねじ11の完全ねじ部のピン先端側に、挿入面及び荷重面の少なくともいずれかが雌ねじに接触しない不完全ねじ15を設けてもよいが、このような不完全ねじは耐トルク性能に寄与しない部位であるため、本開示においては「雄ねじ」を構成する部位ではないものとする。また、雌ねじの完全ねじ部のボックス先端側に、挿入面及び荷重面の少なくともいずれかが雄ねじに接触しない不完全ねじを設けてもよいが、このような不完全ねじは耐トルク性能に寄与しない部位であるため、本開示においては「雌ねじ」を構成する部位ではないものとする。
【0030】
本実施形態の鋼管用ねじ継手においては、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における雄ねじの荷重面とねじ溝底面とが、縦断面における曲率半径r1が下記の式(1)を満たす第1の曲面部を介して接続されている。なお、第1の曲面部の径方向内端部は、雄ねじのねじ溝底面に滑らかに連続することが好ましい。また、第1の曲面部の径方向外端部は、雄ねじの荷重面に滑らかに連続することが好ましい。
r1≧Th×0.14 ・・・(1)
【0031】
但し、Thは、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲における雄ねじの荷重面側のねじ山高さであって、1.8mm≦Th≦3.0mmを満たす。好ましくは、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向の所定範囲のねじ山は、雄ねじの完全ねじ部の一部である。ねじ山高さThが1.8mmより小さいと、雄ねじ及び雌ねじの荷重面同士の接触面積が小さくなり、必要な耐トルク性能が得られなくなる。一方、ねじ山高さThが3.0mmより大きいと、切削加工深さが大きくなり、切削加工時間及び加工コストが増大する。
【0032】
ねじ山高さThが1.8mmの場合、曲率半径r1は0.252mm以上となり、また、ねじ山高さが3.0mmの場合、曲率半径r1は0.42mm以上となるが、このように大きな曲率半径で雄ねじの荷重面とねじ溝底面とを接続することは本発明者らによって始めて提案されたものである。
【0033】
第1の曲面部は雄ねじの全長にわたって設けられていてよい。
【0034】
耐トルク性能を向上させる方法の一つは、荷重面ピッチ及び挿入面ピッチを比較的小さくすることによって、縦断面に現れるねじ山の数を比較的多くすることである。好ましくは、締結状態で、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に少なくとも8周分、より好ましくは9周分以上にわたるねじ山部分の荷重面及び挿入面が、雌ねじの荷重面及び挿入面に接触するよう、前記雄ねじ及び前記雌ねじのねじプロファイルを定めることができる。より好ましくは、荷重面ピッチを8.50mm以下、挿入面ピッチを8.10mm以下、これらのピッチ差を0.35mm以上0.45mm以下、雄ねじの先端部におけるねじ山底部の最小ねじ山幅を2.0mm以上とすることができる。また、雌ねじのボックス先端部におけるねじ山底部の最小ねじ山幅も2.1mm以上であることが好ましい。なお、雌ねじの先端部よりもボックス先端側に、荷重面及び挿入面の少なくともいずれかが雄ねじに接触しない不完全ねじが形成されていてもよいが、このような不完全ねじは耐トルク性能に寄与しない部位であるから、この不完全ねじのねじ山幅は切削加工上の都合等によって2.00mm未満となっていてもよい。上記不完全ねじは本開示において「雌ねじ」を構成しない。
【0035】
大きな曲率半径を有する第1の曲面部は、全長にわたって設けるのではなく、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に沿って少なくとも1/2周、より好ましくは少なくとも1周にわたって設けられていてもよい。これによれば、ねじ山幅が最も狭くなる雄ねじの第1ねじ山の基部におけるせん断剛性を第1の曲面部によって補強し、第1ねじ山を起点としてせん断破壊が発生することを回避できる。
【0036】
また、雄ねじ11は、例えば図4に示すように、第1の曲面部111Aを有する第1のねじ部分111と、第1のねじ部分111にねじ螺旋方向に連続する第2のねじ部分112とを備えていてよい。第2のねじ部分112の荷重面とねじ溝底面とは、第1の曲面部111Aよりも小さな曲率半径r2を有する第2の曲面部112Aを介して接続されていてよい。なお、第1の曲面部111Aと第2の曲面部112Aとを滑らかに接続させ、これらの境界部に段差が形成されないようにすることが好ましい。
【0037】
第1の曲面部は、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に少なくともx周分にわたって設けられていてよい。但し、xは下記の式(2)を満たす。
x=(r1-r2)/Δp ・・・(2)
ここで、Δpは、雄ねじの荷重面ピッチと挿入面ピッチとの間のピッチ差である。
【0038】
このように雄ねじを構成することによって、比較的小さな曲率半径r2を有する第2のねじ部分においては、ボックス20の雌ねじのうち上記曲率半径r2に対応する部分の荷重面とねじ山頂面との境界部の曲率半径も比較的小さくすることにより、雄ねじ及び雌ねじの荷重面間の接触面積を大きく確保でき、耐トルク性能の点で有利である。さらに、第2のねじ部分の先端部は、第2のねじ部分の中で最もねじ山幅が狭い部分となるが、上記式(2)を満たすことにより、第2のねじ部分の中で最も小さいねじ山幅が、大きな曲率半径r1を有する第1の曲面部によってねじ山底部のねじ山幅が増加されている第1のねじ部分の先端部のねじ山幅と同等の大きさとなり、第2のねじ部分の先端部を起点とするせん断破壊が生じることを回避できる。
【0039】
すなわち、例えば図3に示すように、荷重面のフランク角が-10°~-1°程度であれば、荷重面とねじ溝底面とを接続する第1の曲面部111Aは縦断面においてほぼ四半円弧となる。したがって、第1の曲面部111Aの径方向内端部Piと径方向外端部Poとの管軸方向距離は、第1の曲面部111Aの曲率半径r1とほぼ等しくなる。図3には、第1のねじ部分111の先端部からねじ螺旋方向にほぼ半周した位置に第2のねじ部分の先端部が存在する場合の第2の曲面部112A’と、ほぼ3/4周した位置に第2のねじ部分の先端部が存在する場合の第2の曲面部112A”とを、ねじ山幅の比較のために第1のねじ部分111の先端部に重ねて仮想線でそれぞれ示している。第2の曲面部の径方向内端部と径方向外端部との間の軸方向距離も、第2の曲面部の曲率半径r2とほぼ同じになる。ここで、ねじ山幅は、ねじ螺旋方向に1周すると荷重面ピッチと挿入面ピッチとのピッチ差Δp分だけ変化する。したがって、x周するとねじ山幅はΔp×xだけ大きくなる。x周した位置に第2のねじ部分の先端部が存在する場合、第2の曲面部の径方向内端部におけるねじ山幅W2(図3においてPiに対応する位置でのねじ山幅)は、第1のねじ部分の先端部での第1の曲面部の径方向内端部におけるねじ山幅(図3においてPiの位置でのねじ山幅)をW1とすると、次の式(3)で表すことができる。
W2=W1-r1+Δp×x+r2 ・・・(3)
ここで、W1-r1は、すなわちPoの位置を近似的に表す。(W1-r1)+Δp×xは、Poに対応する第2の曲面部112A’,112A”の外端部の位置を近似的に表す。そして、上記式(3)は、Piに対応する第2の曲面部112A’,112A”の内端部の位置を近似的に表す。第1のねじ部分111の螺旋方向の長さが長くなるほどW2は大きくなる。したがたって、第1のねじ部分111の長さによって、W2がW1よりも小さくなる場合もあれば、W2がW1よりも大きくなる場合もある。
【0040】
W2がW1よりも小さい場合、小さな曲率半径r2で第2の曲面部112A’が立ち上がるため、この第2の曲面部112A’の部分において第2のねじ部のねじ山幅が第1のねじ部111の底部よりも小さくなり(すなわち、図3に示されるように、曲面部112A’が曲面部111Aの表面よりも食い込んだ状態となる。)、この第2のねじ部のねじ山幅の小さくなった部位が強度的に弱点となるおそれがある。したがって、W2はW1とほぼ等しいかW1より大きいことが好ましい。したがって、上記式(3)と、W2≧W1の条件より、x≧(r1-r2)/Δpが導かれる。すなわち、x=(r1-r2)/Δpと定義すると、第1の曲面部は、雄ねじの先端部からねじ螺旋方向に少なくともx周分にわたって設けることが好ましい。
【0041】
例えば、荷重面ピッチが9.845mm、挿入面ピッチが9.400mm、第1の曲面部の曲率半径r1が0.4mm、第2の曲面部の曲率半径r2が0.1mmである場合は、(0.4-0.1)/(9.845-9.400)≒2/3周以上にわたって第1の曲面部を設けることが好ましい。第2の曲面部の曲率半径r2が0.2mm、その他は上記と同様の場合はおよそ半周以上にわたって第1の曲面部を設けることが好ましい。
【0042】
加えて、雄ねじに曲率半径の小さい第2の曲面部を有する第2のねじ部を設け、雌ねじのうち第2のねじ部に噛み合うねじ山部分の荷重面とねじ山頂面との間の曲率半径を後述する第3の曲面部よりも小さくすることによって、荷重面同士の接触面積を全体として大きく確保でき、大きな耐トルク性能を発揮させることもできる。
【0043】
本実施形態の鋼管用ねじ継手において、好ましくは、雌ねじの荷重面とねじ山頂面とを、締結状態で雄ねじの第1の曲面部に対向し且つ第1の曲面部よりも大きな曲率半径を有する第3の曲面部を介して接続することができる。これにより、雌ねじの荷重面とねじ山頂面との境界角部が第1の曲面部に干渉することを防止できる。
【0044】
さらに、雌ねじの一部であって締結状態で雄ねじの先端部の荷重面に接触する部分のねじ山頂面と、このねじ山頂面に対向する雄ねじのねじ溝底面との間に、径方向の隙間が設けられていてよい。より好ましくは、上記雌ねじの一部のねじ山頂面は、雌ねじのボックス最奥部に位置する雌ねじ端部のねじ山頂面であってよい。さらに、上記雌ねじの一部のねじ山頂面は、雌ねじよりもボックス奥側に設けられた管状ねじ無し延長部の内周面と同じ径を有していてよい。また、ピンは、ボックスのねじ無し延長部に対応する管状ねじ無し延長部を備えていてよく、締結状態でピンのねじ無し延長部の外周面はボックスのねじ無し延長部の内周面に接触させないことが好ましい。さらに、ピンは、ピンのねじ無し延長部よりもピン先端側に位置するピンシール面を備えることが好ましく、ボックスは、ボックスのねじ無し延長部よりもボックス奥側に位置するピンシール面を備えることが好ましい。これらピンシール面及びボックスシール面は、ピン及びボックスの締結状態で互いに接触して外圧及び内圧に対するシール性を発揮するメタルーメタルシールを構成する。上記ねじ無し延長部は、雄ねじ及び雌ねじに作用する圧縮-引張荷重によってピンシール面及びボックスシール面にひずみの影響が生じることを防止するのに役立つ。また、上記雌ねじの一部のねじ山高さを雌ねじの完全ねじ部のねじ山高さよりも小さくすることによって上記隙間を形成することで、ピン先端側のねじ溝深さを深くすることによって上記隙間を形成する場合に比して、ピン先端部近傍のピン肉厚を大きく確保できる。また、上記隙間の存在により、最もねじ山幅が小さくなる雄ねじ先端部の荷重面のねじ山底部に雌ねじのねじ山頂部が直接接触することを防止でき、雄ねじの最も弱い部位への直接的なダメージを低減できる。
【0045】
なお、外圧用シールと内圧用シールとを別に設けることもでき、この場合、内圧用シールは雄ねじ及び雌ねじよりもピン先端側に設け、外圧用シールは雄ねじ及び雌ねじよりも管本体側に設けることができる。
【0046】
好ましくは、第1の曲面部の径方向外端部を、第1の曲面部に対向する第3の曲面部の径方向内端部よりも径方向外方に位置させるとともに、第1の曲面部に対向する第3の曲面部の径方向外端部よりも径方向内方に位置させることが好ましい。これにより、雄ねじ及び雌ねじの荷重面同士の接触範囲の径方向内端部と第1の曲面部の径方向外端部との間の距離を可及的に小さくすることができ、耐トルク性能をより向上することができる。
【0047】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手を説明する。図中、同一及び相当する構成には同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0048】
図1を参照して、本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手1は、管状のピン10と、管状のボックス20とを備える。ピン10は、鋼管2の端部に形成される。ボックス20は、カップリング3の端部に形成され、ピン10が挿入されてピン10と締結される。本明細書において、鋼管2の端部以外の部分を「管本体」ということがある。
【0049】
本実施形態の鋼管用ねじ継手は、鋼管2の管本体の外径ODが240mm以上の場合に好適に実施でき、より好ましくは245mm以上、さらに好ましくは270mm以上の場合に好適に実施できる。鋼管2の管本体の外径ODが400mm以下の場合に好適に実施でき、より好ましくは350mm以下、さらに好ましくは310mm以下の場合に好適に実施できる。鋼管2の管本体は、軸方向全長に亘ってほぼ均一な肉厚を有することが好ましい。また、鋼管2の管本体は、軸方向全長に亘ってほぼ均一な外径OD及び内径IDを有することが好ましい。ピンは、鋼管2の管本体の端部に設けられる。なお、図1には鋼管2の管軸CLも示されている。
【0050】
ピン10は、ピン先端側に至るにしたがって徐々に縮径するテーパーねじからなる雄ねじ11と、リップ12とを有する。雄ねじ11は、ピン10の外周面に螺旋状に形成されたねじ山から構成される。雄ねじ11は、ねじ山幅がピン10の先端側に至るにしたがって徐々に狭くなる楔形ねじで構成される。雄ねじ11のねじ山及びねじ溝は、ダブテイル形状の断面形状を有する。リップ12は、雄ねじ11の先端部よりも先端側に延びるねじ無し延長部を介して雄ねじ11に接続されている。リップ12の外周面には、ピンシール面13が設けられている。ピンシール面13は、図示例では断面円弧状の円筒状シール面により構成されているが、ピンシール面13の断面形状は直線状であってもよいし、直線と円弧とを組み合わせた形状であってもよい。
【0051】
ボックス20は、ピン10を受け入れる開口端部を有する。ボックス20は、その内周面に設けられ且つボックス先端側に至るにしたがって徐々に縮径するテーパーねじからなる雌ねじ21と、ボックスシール面22とを含む。雌ねじ21は、雄ねじ11に対応してボックス20の内周面に螺旋状に形成されたねじ山から構成される。雌ねじ21は、ねじ山幅がボックス20の開口端部から奥側に至るにしたがって徐々に広くなる楔形ねじで構成される。雌ねじ21のねじ山及びねじ溝は、ダブテイル形状の断面形状を有する。ボックスシール面22は、雌ねじ21よりもボックス20の奥側に設けられたテーパー面からなる。なお、ボックスシール面22は、断面円弧状の円筒状シール面により構成されていてもよいし、断面において直線と円弧とを組み合わせた形状であってもよい。ボックスシール面22とピンシール面13との間には所定の干渉量が設定されており、締結状態でシール面13,22同士が全周にわたって隙間無く接触することによりメタルシールが形成される。
【0052】
本実施形態の雄ねじ11は、図1及び図2に示すように、完全ねじ部と不完全ねじ部とを有する。雄ねじ11の完全ねじ部は、所定のねじ山高さThを有し、所定の荷重面ピッチLP及び挿入面ピッチSPでねじ山が形成された部分である。図示実施例の雄ねじ11のねじ山高さThは2.2mmとされている。
【0053】
雄ねじ11の不完全ねじ部は、テーパーねじのテーパー形状を定義する仮想テーパー面が鋼管2の外表面に交わることにより、鋼管2の外表面の切削深さが不足して、所定のねじ山高さThが形成されていない部分である。本実施形態の雄ねじ11は、ピン完全ねじ部及びピン不完全ねじ部のいずれにおいても、雌ねじ21に対して荷重面及び挿入面の双方において接触する。なお、図1に示すねじ継手1では、荷重面ピッチLPは9.845mm、挿入面ピッチSPは9.400mm、雄ねじ11の先端部のねじ山高さ方向の底部における最小ねじ山幅は2.8mm程度とされている。
【0054】
また、雌ねじ21もまた、完全ねじ部と不完全ねじ部とを有する。雌ねじ21の完全ねじ部は、ボックス20の開口端部側からピン10の雄ねじ11の第2ねじ山近傍まで設けられている。雌ねじ21の不完全ねじ部のねじ山は、ピン10及びボックス20の締結状態でピン10の雄ねじ11の第1ねじ山11Aに係合する。本実施形態の雌ねじ21は、ボックス完全ねじ部及びボックス不完全ねじ部のいずれにおいても、雄ねじ11に対して荷重面及び挿入面の双方において接触する。なお、図示実施形態においては、雌ねじ21の完全ねじ部よりもボックス20の開口端部側に、雄ねじ11に対して荷重面及び挿入面の少なくともいずれかにおいて接触しないねじ山23,24が雌ねじ21に連続して形成されているが、本実施形態ではねじ山23,24は雌ねじ21に含まれないものとする。
【0055】
雄ねじ11の完全ねじ部のねじ山高さは、雌ねじ21の完全ねじ部のねじ山高さより僅かに小さい。これにより、締結状態では、図2に示すように、雄ねじ11のねじ山頂面と雌ねじ21のねじ溝底面との間に僅かな隙間(例えば0.1mm程度)が形成され、雌ねじ21のねじ山頂面と雄ねじ11のねじ底面とは接触する。締結状態で雄ねじ11と雌ねじ21とが噛み合う範囲、すなわち雄ねじ11の荷重面が雌ねじ21の荷重面に接触するとともに雄ねじ11の挿入面が雌ねじ21の挿入面に接触する範囲は、好ましくは60~100mmの軸長を有する。
【0056】
また、図2に示すように、雄ねじ11及び雌ねじ21のねじ山の荷重面及び挿入面は、それぞれ負のフランク角θを有する。荷重面及び挿入面のフランク角θは同じでもよいし、異なるフランク角が設定されていてもよい。図示例では、荷重面及び挿入面のフランク角θはいずれも-5.0°である。また、図示例では、雄ねじ11及び雌ねじ21のねじテーパーは1/16とされている。
【0057】
ピン10とボックス20とが締結されている状態では、雄ねじ11のねじ山の挿入面及び荷重面が、それぞれ雌ねじ21のねじ山の挿入面及び荷重面と接触することによってピン10がボックス20にロックされ、これにより高い耐トルク性能を発揮するとともに、ピンシール13がボックスシール22に締まり嵌めの状態で嵌合して高い密封性能が発揮される。
【0058】
本実施形態の雄ねじ11は、図2図4に示すように、比較的大きい曲率半径r1の第1の曲面部111Aを有する第1のねじ部分111と、第1のねじ部分111にねじ螺旋方向に連続する第2のねじ部分112とを含む。第2のねじ部分112は、第1のねじ部分111以外の雄ねじ11の残りのすべての部位を構成する。第2のねじ部分112の荷重面とねじ溝底面とは、第1の曲面部111Aよりも小さな曲率半径r2を有する第2の曲面部112Aを介して接続されている。図示例では、第1の曲面部111Aの曲率半径r1は0.4mm、第2の曲面部112Aの曲率半径R2は0.1mmである。
【0059】
図4に示すように、第1のねじ部分111は、雄ねじ11の先端部からねじ螺旋方向に沿ってほぼ1周分にわたって設けられている。これは、上記式(2)で求められる(0.4-0.1)/(9.845-9.400)=0.674周以上となっており、第2のねじ部分112の先端部の基部におけるねじ山幅は第1のねじ部分111の先端部の基部におけるねじ山幅よりも完全に大きい。
【0060】
また、本実施形態では、雌ねじ21の荷重面とねじ山頂面とが、雄ねじ11の第1の曲面部111の曲率半径r1よりも大きな曲率半径r3を有する第3の曲面部21Aを介して接続されている。図示例では、第3の曲面部21Aの曲率半径r3は0.5mmとされている。なお、図示例では、第3の曲面部21Aを雌ねじ21全体にわたって設けているが、ピン10及びボックス20の締結状態で第1の曲面部111Aに対向する部位にのみ比較的大きな曲率半径r3を有する第3の曲面部21Aを設け、その他の部位の雌ねじ21の荷重面とねじ山頂面との間には、曲率半径r3よりも小さな、例えば0.5~2.0mmの曲率半径を有する曲面部を設けることができる。
【0061】
また、図2及び図3に示すように、締結状態で雄ねじ11の先端部の第1のねじ部111の荷重面に接触する雌ねじ21の第1ねじ山211のねじ山頂面前記荷重面に接触する部分の前記ねじ山頂面と、このねじ山頂面に対向する雄ねじ11のねじ溝底面との間には径方向の隙間が設けられている。この隙間の寸法は、第1の曲面部111Aの曲率半径r1よりも小さく、図示実施例では0.3mm程度である。
【0062】
そして、第1の曲面部111の径方向外端部が、第3の曲面部21Aの径方向内端部よりも径方向外方に位置するとともに、第3の曲面部21Aの径方向外端部よりも径方向内方に位置している。
【0063】
図5は第2実施形態に係る鋼管用ねじ継手を示しており、第1実施形態のねじ継手に対して、荷重面ピッチ及び挿入面ピッチを若干小さくしており、これにより縦断面に現れるねじ山の数を増加させている。具体的には、荷重面ピッチを8.466mm、挿入面ピッチを8.084mmとした。これにより雄ねじ11の先端部のねじ山底部の最小ねじ山幅は2.1mm程度となった。
【0064】
本開示は、カップリング型だけでなく、インテグラル型のねじ継手にも適用できる。その他、本開示は上記の実施の形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【実施例
【0065】
本実施の形態に係る鋼管用ねじ継手の効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値解析シミュレーションにより、耐せん断性能及び耐トルク性能を評価した。
【0066】
<試験条件>
有限要素解析(FEM解析)では、ねじプロファイルを変えた複数の供試体(解析モデル)を作成し、各供試体毎に弾塑性有限要素法解析を実施して性能の差を比較した。
【0067】
供試体#1~#4は上記の第1実施形態に係るねじ継手を基本構造とし、第1の曲面部を雄ねじ全長に亘って設けたものである。また、供試体#1は第1の曲面部の曲率半径を0.1mmとしたもの、供試体#2は同曲率半径を0.2mmとしたもの、供試体#3は同曲率半径を0.3mmとしたもの、供試体#4は同曲率半径を0.4mmとしたものである。
【0068】
供試体#5~8は上記の第2実施形態に係るねじ継手を基本構造とし、第1の曲面部を雄ねじ全長に亘って設けたものである。また、供試体#1は第1の曲面部の曲率半径を0.1mmとしたもの、供試体#2は同曲率半径を0.2mmとしたもの、供試体#3は同曲率半径を0.3mmとしたもの、供試体#4は同曲率半径を0.4mmとしたものである。
【0069】
材料はいずれもAPI規格の油井管材料Q125(公称耐力YS=862MPa(125ksi))とした。
【0070】
なお、従来製品との比較のため、雄ねじの荷重面とねじ底底面との境界部に2つの曲率半径(0.125mmの曲率半径と0.875mmの曲率半径)を有する比較モデルを作成し、この従来品についても同様に評価した。
【0071】
[耐せん断性能]
耐せん断性能については、鋼管の管本体が降伏する引張荷重の100%を負荷し、雄ねじのせん断破壊の起点となる雄ねじ先端部の荷重面側のねじ底部の第1の曲面部における相当塑性ひずみを算出し、その値が小さいほど耐せん断性能に優れていると評価した。その評価結果を図6に示す。
【0072】
[耐トルク性能の評価]
耐トルク性能については、締結トルク線図が降伏し始める値MTV(Maximum Torque Value)を降伏トルクと定義し、その値が高いほど耐トルク性能が優れていると評価した。その評価結果を図7に示す。
【0073】
[評価結果]
図6に示すように、2つの曲率半径を有する従来品では、曲率半径0.125mmの部分に集中したひずみが曲率半径0.875mmの部分で緩和されることから、比較的低い相当塑性ひずみを示していると考えられる。第1の曲面部を有する供試体#1~4及び#5~#8では、曲率半径が増加するにつれて第1の曲面部に生じる相当塑性ひずみが低下し、供試体#1~#4では曲率半径0.30mmを超えたあたりから従来品よりも相当塑性ひずみが小さくなり、供試体#5~#8では曲率半径0.35mmを超えたあたりで従来品よりも相当塑性ひずみが小さくなると評価できる。これら供試体のねじ山高さThは2.2mmであるから、供試体#1~#4の場合は曲率半径r1≧Th×0.14を満たす場合に従来品よりも相当塑性ひずみが小さくなり、また、供試体#5~#8の場合は曲率半径r1≧Th×0.16を満たす場合に従来品よりも相当塑性ひずみが小さくなると評価できる。
【0074】
一方、耐トルク性能は雄ねじ荷重面底部の第1の曲面部の曲率半径の変化による影響を殆ど受けず、供試体#1~#4及び供試体#5~#8のそれぞれが同等の値を示した。供試体#1~#4については、雌ねじの荷重面頂部の曲率半径を従来品に比べて大きくしたことによる荷重面接触面積の減少によって従来品よりも耐トルク性能が低下したものと考えられる。一方、荷重面接触面積を増大するために荷重面ピッチ及び挿入面ピッチを狭くした供試体#5~#8では、従来品よりも高い耐トルク性能を示した。
【0075】
荷重面ピッチ及び挿入面ピッチを小さくすると雄ねじ先端部のねじ山幅の減少を招き、耐せん断性能が大きく低下してしまうのではないかと危惧していたが、図6に示す通り、曲率半径の増加によって耐せん断性能も従来品よりも良好な評価結果が得られており、本開示によって従来品よりも耐せん断性能及び耐トルク性能のいずれにおいても良好なねじ継手を提供できることが判明した。
【0076】
供試体#1~#4は耐トルク性能が従来品よりも低下しているが、第1の曲面部の曲率半径を0.3mmより大きくすることで従来品よりも良好な耐せん断性能が得られており、高い耐トルク性能が要求されない用途においては利用価値があり、また、耐トルク性能を向上する他の手段の適用によって耐トルク性能が求められる製品にも応用可能であると考えられる。
【0077】
なお、せん断破壊の起点と考えられる雄ねじの第1ねじ山のみ荷重面底部の曲率半径を増加させた供試体についても同様の評価を行ったところ、第1ねじ山のみの曲率半径の変化による耐トルク性能及び耐せん断性能への影響は軽微であった。
【0078】
ただし、雄ねじの第1ねじ山に噛み合わない部分で雌ねじの荷重面頂部の曲率半径を小さくし、荷重面接触面積を増加させることによって、耐トルク性能を大幅に向上できるものと考えられる。
【符号の説明】
【0079】
1:鋼管用ねじ継手,2:鋼管,10:ピン,20:ボックス
11:雄ねじ,111:第1のねじ部,111A:第1の曲面部,r1:曲率半径
112:第2のねじ部,112A:第2の曲面部,r2:曲率半径
21:雌ねじ,21A:第3の曲面部,r3:曲率半径
2:鋼管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7