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特許7352770電気洗濯機および電気洗濯機の電動機の起動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電気洗濯機および電気洗濯機の電動機の起動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20230922BHJP
   H02P 21/34 20160101ALI20230922BHJP
【FI】
H02P6/20
H02P21/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019145883
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021027758
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】麻田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堀端 裕司
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 裕智
(72)【発明者】
【氏名】上瀧 禎士
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023208(JP,A)
【文献】特開2004-048876(JP,A)
【文献】特開平04-051996(JP,A)
【文献】特開2017-229165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
H02P 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯物と接触する回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、前記電動機に電流を供給する電源回路と、前記電動機のトルクを前記回転物体に伝える伝達機構と、洗濯運転を実行する制御部と、を備え、
前記伝達機構は、前記電動機の軸での伝達可能トルクが前記電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、
前記電源回路は、前記巻線に対する前記永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、前記巻線に対する前記永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、
前記制御部は、前記電源回路を制御し、前記電動機の起動時に前記第1の駆動手段を用いて前記電動機に電流を供給し前記無効角度領域の範囲で前記電動機を駆動した後、前記第2の駆動手段を用いて前記電動機に電流を供給し、
前記無効角度領域は、前記電動機の電気角で半回転より大きくなるように構成されるとともに、前記第1の駆動手段の電流角で1回転半より小さくなるように構成される
電気洗濯機。
【請求項2】
前記第2の駆動手段は、前記電動機に供給される電圧および前記電動機のパラメータを用いて計算した位相に基づいた電流を前記電動機に供給する、
請求項1に記載の電気洗濯機。
【請求項3】
前記回転物体を構成し前記洗濯物を収納するドラムと、前記ドラムを内包する水槽とを備え、
前記第1の駆動手段は、第1の相順の通電により前記電動機を駆動する期間を有し、
前記第2の駆動手段は、前記第1の相順と逆となる第2の相順の電流を供給して前記電動
機を駆動するように構成され、
前記伝達機構は、前記第1の相順に対する無効角度領域が、前記第2の相順に対する無効角度領域よりも大きくなるように構成される、
請求項1または2に記載の電気洗濯機。
【請求項4】
洗濯物および洗濯水が収容される水槽と、前記回転物体を構成し前記洗濯物および前記洗濯水を攪拌する攪拌翼とを備え、
前記伝達機構は、遊星歯車を有し、前記遊星歯車によって減速した回転を前記攪拌翼に伝えるように構成される、
請求項1または2に記載の電気洗濯機。
【請求項5】
回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、前記電動機に電流を供給する電源回路と、前記電動機のトルクを前記回転物体に伝える伝達機構と、前記電源回路を制御する制御部とを備え、
前記伝達機構は、前記電動機の軸での伝達可能トルクが前記電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、
前記電源回路は、前記巻線に対する前記永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、前記巻線に対する前記永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有する電気洗濯機であって
前記制御部は、前記電動機の起動時に前記第1の駆動手段を用いて前記電動機に電流を供給し、前記電動機の電気角で半回転より大きくなるように構成されるとともに、前記第1の駆動手段の電流角で1回転半より小さくなるように構成される前記無効角度領域の範囲で前記電動機を駆動した後、前記第2の駆動手段を用いて前記電動機に電流を供給する、電気洗濯機の電動機の起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を用いて衣類等の洗濯を行う電気洗濯機、および電気洗濯機等に使用される電動機の起動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電気洗濯機などに用いられるモータ駆動制御装置は、ロック通電期間を開始してから第1の所定時間が経過した時に、ロック電流の大きさが第1の所定値になるように制御する。そして、第1の所定時間が経過して、ロック通電期間の終了時にロック電流の大きさが第1の所定値よりも小さい第2の所定値になるように制御する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図13は、特許文献1に記載された従来のモータ駆動制御装置のブロック回路図である。図14(a)は、特許文献1に記載されたモータ駆動制御装置の制御回路部6の出力R1~R6の信号波形図を、図14(b)は、図14(a)においてR1のPWM(Pulse Width Modulation)におけるHIGH期間とLOW期間の時間比率(Duty)の変化を示す波形図である。
【0004】
図13に示すように、直流電源1と、インバータ回路2と、制御回路部3と、モータ4と、誘起電圧検出回路5とを備える。インバータ回路2は、6石のスイッチング素子Q1~Q6を有する。制御回路部3は、各スイッチング素子Q1~Q6へオンオフ信号(R1~R6)を供給する。インバータ回路2の出力は、三相(U相、V相、W相)であるモータ4に接続される。誘起電圧検出回路5は、モータ4の各相の電圧値から誘導起電力を検出して制御回路部3に出力する。
【0005】
制御回路部3は、プリドライブ回路6と、ロック通電制御回路7と、モータ駆動制御回路8と、回転位置推定部9とを有する。モータ4の起動時には、ロック通電制御回路7からプリドライブ回路6に信号が出力され、その後にモータ駆動制御回路8からプリドライブ回路6へ信号に出力される。このとき、モータ駆動制御回路8は、誘起電圧検出回路5の出力に応じた信号をプリドライブ回路6に出力する。
【0006】
制御回路部3はロック通電制御回路7を制御し、図14(b)に示すように、時刻T1~T2の期間(第1の所定期間)にてDutyを0からD2に増加させる。次に、制御回路部3は、時刻T2~T3の期間(第2の所定期間)にてDutyをD2に保つ。そして、制御回路部3は、T3~Teの期間(第3の所定期間)にてDutyをD1に保つ。ここでD2>D1とする。第3の所定期間を第2の所定期間よりも長くすることで、第2の所定期間でモータ4に供給される電流値は、第2の所定期間よりも小となる。これにより、ロック通電工程での終了時刻Te時点において、被駆動体のふらつきを抑えたロータ位置に固着される。また、モータ4に供給される電流による発熱が抑えられる。
【0007】
モータ4が起動した後、強制転流工程において、モータ駆動制御手段8からの信号によってモータ4の三相に駆動電流が順次、供給される。ロータの回転速度が一定値に達した時点で、センサレス駆動工程に移る。その後、回転位置推定部9は、モータ4の各相の誘起電圧の変化からのゼロクロス点の検出を行い、通電タイミングの推定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-093665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の構成では、ロック通電工程および強制転流工程において、モータ4は負荷の慣性モーメントを加速するトルクを発生しながら駆動することになる。したがって、電気洗濯機のように負荷の慣性モーメントが大きい場合には、センサレス駆動工程に移るまでの時間がかかるという課題を有していた。これにより、回転停止から短時間で起動を行なうような運転速度パターンが実現困難となり、洗濯性能を向上することができない。
【0010】
また、ロック通電工程および強制転流工程において、モータの電流による損失が大きく、発熱と消費電力量が増大する。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、電気洗濯機のような慣性モーメントの大きい回転物体を有していても、電動機の起動を短時間とすることを可能とする。これにより、電動機の起動に要する時間を短縮することができ、高い洗濯性能を実現する電気洗濯機、および電気洗濯機等に使用される電動機の起動方法を提供することを目的とする。また、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制する電気洗濯機、および電気洗濯機等に使用される電動機の起動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の電気洗濯機は、洗濯物と接触する回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、電動機に電流を供給する電源回路と、電動機のトルクを回転物体に伝える伝達機構と、洗濯運転を実行する制御部と、を備え、伝達機構は、電動機の軸での伝達可能トルクが電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、電源回路は、巻線に対する永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、巻線に対する永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、制御部は、電源回路を制御し、電動機の起動時に第1の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し無効角度領域の範囲で電動機を駆動した後、第2の駆動手段を用いて電動機に電流を供給するものである。
【0013】
この構成によって、負荷となる回転物体の慣性モーメントが大であっても、第1の駆動手段は、無効角度領域の範囲において回転物体の慣性モーメントの影響を低減した状態で電動機に電流を供給して回転させることにより、短時間で第2の駆動手段に移行させることができ、電動機の起動に要する時間を短縮できる。第2の駆動手段を動作開始する時点での電流の位相ばらつきを抑えることができる。このようにして、洗濯性能が高く、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる電気洗濯機を実現することができる。
【0014】
また、前記従来の課題を解決するために、本発明の電動機の起動方法は、回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、電動機に電流を供給する電源回路と、電動機のトルクを回転物体に伝える伝達機構と、電源回路を制御する制御部とを備え、伝達機構は、電動機の軸での伝達可能トルクが電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、電源回路は、巻線に対する永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、巻線に対する永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、制御部は、電動機の起動時に第1の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し無効角度領域の範囲で電動機を駆動した後、第2の駆動手段を用いて電動機に電流を供給するものである。
【0015】
この方法によって、負荷となる回転物体の慣性モーメントが大であっても、第1の駆動手段は、無効角度領域の範囲において回転物体の慣性モーメントの影響を低減した状態で電動機に電流を供給して回転させることにより、短時間で第2の駆動手段に移行させるこ
とができ、電動機の起動に要する時間を短縮できる。第2の駆動手段を動作開始する時点での電流の位相ばらつきを抑えることができる。このようにして、洗濯性能が高く、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる電気洗濯機の電動機の起動方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気洗濯機および電動機の起動方法は、電動機の起動に要する時間を短縮することができ、高い洗濯性能を実現するとともに、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1における電気洗濯機のブロック図
図2】本発明の実施の形態1における第1の駆動手段56の詳細ブロック図
図3】本発明の実施の形態1における第2の駆動手段57の詳細ブロック図
図4】本発明の実施の形態1における速度位相推定手段94の詳細ブロック図
図5】(a)本発明の実施の形態1における第2の駆動手段57の運転中のベクトル図(b)本発明の実施の形態1における第2の駆動手段57の運転中のベクトル図
図6】(a)本発明の実施の形態1における伝達機構15の無効角度領域の模式説明図(b)本発明の実施の形態1における伝達機構15の無効角度領域の模式説明図(c)本発明の実施の形態1における伝達機構15の無効角度領域の模式説明図
図7】本発明の実施の形態1における第1の駆動手段56の動作説明図
図8A】本発明の実施の形態1における第1の駆動手段56の、実電気角の初期値が0度での動作説明図
図8B】本発明の実施の形態1における第1の駆動手段56の、実電気角の初期値が90度での動作説明図
図8C】本発明の実施の形態1における第1の駆動手段56の、実電気角の初期値が180度での動作説明図
図8D】本発明の実施の形態1における第1の駆動手段56の、実電気角の初期値が270度での動作説明図
図9】本発明の実施の形態1における制御部68の脱水時のフローチャート
図10】本発明の実施の形態1における電源回路55の脱水時の波形図
図11】本発明の実施の形態1における制御部68の攪拌時のフローチャート
図12】本発明の実施の形態1における電源回路55の攪拌時の波形図
図13】従来のモータ駆動制御装置のブロック図
図14】(a)従来のモータ駆動制御装置の制御回路部6の出力波形図(b)従来のモータ駆動制御装置のPWMの波形図
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の発明は、洗濯物と接触する回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、電動機に電流を供給する電源回路と、電動機のトルクを回転物体に伝える伝達機構と、洗濯運転を実行する制御部と、を備え、伝達機構は、電動機の軸での伝達可能トルクが電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、電源回路は、巻線に対する永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、巻線に対する永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、制御部は、電源回路を制御し、電動機の起動時に第1の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し無効角度領域の範囲で電動機を駆動した後、第2の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し、無効角度領域は、電動機の電気角で半回転より大きくなるように構成されるとともに、第1の駆動手段の電流角で1回転半より小さくなるように構成される、電気洗濯機である。
【0019】
この構成によって、無効角度領域による第1の駆動手段から第2の駆動手段に移行する際の位相が効果的に抑えられるとともに、第1の駆動手段での電動機の無駄な動きを低減することができ、負荷となる回転物体の慣性モーメントが大であっても、第1の駆動手段は、無効角度領域の範囲において回転物体の慣性モーメントの影響を低減した状態で電動機
に電流を供給して回転させることにより、短時間で第2の駆動手段に移行させることができ、電動機の起動に要する時間を短縮できる。第2の駆動手段を動作開始する時点での電流の位相ばらつきを抑えることができる。このようにして、洗濯性能が高く、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる電気洗濯機を実現することができる。
【0020】
第2の発明は、第1の発明において、第2の駆動手段は、電動機に供給される電圧および電動機のパラメータを用いて計算した位相に基づいた電流を電動機に供給する電気洗濯機である。
【0021】
これによって、第2の駆動手段に移行した後の永久磁石の位相に対する電流位相を最適な値に制御することができる。
【0022】
第3の発明は、第1または第2の発明において、回転物体を構成し洗濯物を収納するドラムと、ドラムを内包する水槽とを備え、第1の駆動手段は、第1の相順の通電により電動機を駆動する期間を有し、第2の駆動手段は、第1の相順と逆となる第2の相順の電流を供給して電動機を駆動するように構成され、伝達機構は、第1の相順に対する無効角度領域が、第2の相順に対する無効角度領域よりも大きくなるように構成される電気洗濯機である。
【0023】
これによって、大きい慣性モーメントを有するドラムを回転させる電動機の起動時に、第1の駆動手段により、無効角度領域を利用して電動機を駆動することによって、洗濯運転においてドラムを回転させる電動機を短時間で起動させることができる。
【0024】
第4の発明は、第1または第2の発明において、洗濯物および洗濯水が収容される水槽と、回転物体を構成し洗濯物および洗濯水を攪拌する攪拌翼とを備え、伝達機構は、遊星歯車を有し、遊星歯車によって減速した回転を攪拌翼に伝えるように構成される電気洗濯機である。
【0025】
これによって、洗い工程およびすすぎ工程において攪拌翼を回転させる電動機を短時間で起動させることができる。
【0028】
第6の発明は、回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、電動機に電流を供給する電源回路と、電動機のトルクを回転物体に伝える伝達機構と、電源回路を制御する制御部とを備え、伝達機構は、電動機の軸での伝達可能トルクが電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、電源回路は、巻線に対する永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、巻線に対する永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、制御部は、電動機の起動時に第1の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し、電動機の電気角で半回転より大きくなるように構成されるとともに、第1の駆動手段の電流角で1回転半より小さくなるように構成される無効角度領域の範囲で電動機を駆動した後、第2の駆動手段を用いて電動機に電流を供給する、電気洗濯機の電動機の起動方法である。
【0029】
この方法によって、無効角度領域による第1の駆動手段から第2の駆動手段に移行する際の位相が効果的に抑えられるとともに、第1の駆動手段での電動機の無駄な動きを低減することができ、負荷となる回転物体の慣性モーメントが大であっても、第1の駆動手段は、無効角度領域の範囲において回転物体の慣性モーメントの影響を低減した状態で電動機に電流を供給して回転させることにより、短時間で第2の駆動手段に移行させることができ、電動機の起動に要する時間を短縮できる。第2の駆動手段を動作開始する時点での電流の位相ばらつきを抑えることができる。このようにして、洗濯性能が高く、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる電気洗濯機等の電動機の起動方法を実現することができる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における電気洗濯機のブロック図である。
【0032】
図1において、電気洗濯機10は、縦型洗濯機である。回転物体12は洗濯物11と接触し、脱水工程において回転するドラム13を有する。また、回転物体12は、洗濯運転の洗い工程およびすすぎ工程において、洗濯物11および洗濯水を攪拌するように回転する攪拌翼14を有する。
【0033】
電動機16は、永久磁石40~47と巻線50~52とを有する同期電動機であり、ドラム13および攪拌翼14を回転させる。永久磁石40~47と巻線50~52とは、いずれがステータまたはロータになってもよく、また、インナーロータ型でもアウターロータ型でもよい。
【0034】
伝達機構15は、電動機16のトルクを回転物体12であるドラム13または攪拌翼14伝える。伝達機構15は、電動機16のモータ回転軸38に設けられた第1プーリ18と、第1プーリ18より直径の大きい第2プーリ19と、第1プーリ18と第2プーリ19とを結ぶゴム製のベルト20と、第2プーリ19に連結される遊星歯車機構23と、遊星歯車機構23を結合状態とするか、乖離状態とするかを切り替えるクラッチ32、とを備える。
【0035】
遊星歯車機構23は、中心に太陽歯車24を有する。太陽歯車24は、ギア回転軸21の一端に設けられ、ギア回転軸21の他端には第2プーリ19が設けられる。さらに、遊星歯車機構23は、太陽歯車24と同軸に回転自在に設けられる内歯車25と、太陽歯車24と内歯車25の両者に噛み合う3つの遊星歯車27、28、29と、遊星歯車27、28、29の中心同士を結ぶ遊星キャリア30、とを有する。
【0036】
内歯車25は、ドラム13にトルクを伝達するように接続される。遊星キャリア30は、攪拌翼14にトルクを伝達するように接続される。
【0037】
クラッチ32は、ギア回転軸21と内歯車25とを結合状態にするか、乖離状態にするかを切り替える。クラッチ32は、内歯車25に結合されたクラッチスプリング33がギア回転軸21の外側に設けられ、クラッチスプリング33がギア回転軸21と絡まった状態とすることで、ギア回転軸21と内歯車25とが結合状態になる。
【0038】
クラッチスプリング33は、鶴巻バネの状態でギア回転軸21に絡み付く構成である。これにより、内歯車25への有効なトルク伝達が可能な向きは一方向に限定される。例えば、本実施の形態においては、トルク伝達が有効となる向きは、脱水時は電気洗濯機を上から見た時にドラム13が時計回りに回転する向きである。
【0039】
クラッチ32によりギア回転軸21と内歯車25とを結合させた状態では、遊星歯車機構23は作用せず、ギア回転軸21の回転が内歯車25に直接伝達される。すなわち、太
陽歯車24と内歯車25と遊星キァリア30とが一緒に回転する。これによって、攪拌翼14とドラム13とが一緒に回転し、ドラム13に収容された洗濯物11も共に回転する。したがって、例えば、洗濯運転の脱水工程において、クラッチ32によりギア回転軸21と内歯車25とを結合させ、ドラム13を高速で回転させることにより洗濯物11に遠心力が作用し、脱水運転が行われる。
【0040】
一方、クラッチ32によりギア回転軸21と内歯車25とを乖離させた状態は、上記の結合状態時とは逆向きのトルクを電動機16から伝達される。この場合、クラッチスプリング33は鶴巻バネの絡みが解かれ、ギア回転軸21に固着しない状態となるため、内歯車25にトルクは伝わらない。
【0041】
クラッチ32が乖離した状態では、遊星歯車機構23が作用し、ギア回転軸21の回転が太陽歯車24および遊星歯車27~29を介して遊星キャリア30に伝達される。このとき、内歯車25は、その外周に設けられたブレーキシュー70によって回転が制動される。これによって、ドラム13は回転せずに攪拌翼14のみが回転し、ドラム13に収容された洗濯水と共に洗濯物11が回転する。したがって、例えば、洗濯運転の洗い工程またはすすぎ工程において、クラッチ32によりギア回転軸21と内歯車25とを乖離させ、攪拌翼14を回転させることにより洗濯物11は洗濯水と共に攪拌され、洗い運転またはすすぎ運転が行われる。
【0042】
以上のように、脱水工程のようなクラッチ32の結合状態では、ドラム13の駆動に必要となる最大トルクは、洗濯物11の量に応じて相応に大きくなる。一方、クラッチ32の乖離状態では、脱水工程とは逆向きである、伝達機構15の伝達可能トルクは、ごくわずかな値となり、無効角度領域を有する。特に、クラッチスプリング33は何回転でもスリップが起こるため、逆トルクに対する無効角度領域は無限大の回転角となる。
【0043】
また、脱水工程のようなクラッチ32の結合状態では、電動機16を逆回転する際に必要となるトルクは、上記のクラッチスプリング33をスリップさせるトルクの他に、攪拌翼14に与える分のトルクがある。これについては後述する攪拌時の攪拌翼14の駆動と同等であり、有限な無効角度領域が存在する。
【0044】
なお、鶴巻バネの状態となったクラッチスプリング33の終端部分を保持状態とするか、解除状態とするかを切り替えることにより、ギア回転軸21への絡み付きを禁止し、内歯車25への有効なトルク伝達が可能な向きであるか否かに関わらず、ギア回転軸21からのトルク伝達を遮断するような機構も設ける。
【0045】
電動機16の最大トルクは、電源回路55内の電流制限値の設定によって変化させることができる。また、仕様書などに記載された、電動機が瞬時に出しうるトルクの最大定格値を用いて電動機16の最大トルクを計算することができる。あるいはまた、仕様書などに記載された、減磁を起こさない最大電流の保証値を用いて計算することができる。
【0046】
例えば三相の永久磁石電動機において、各線電流の最大値Ipeak1または実効値Irms1があれば、誘導起電力定数Ke[Vrms/1000rpm]のパラメータから計算が可能である。あるいは、1端子を開放としたときの他の2線間に流せる電流の最大値Ipeak2または実効値Irms2があれば、誘導起電力定数Ke[Vrms/1000rpm]のパラメータからの計算可能である。
【0047】
なお、誘導起電力は永久磁石の磁束と巻線の鎖交の積が変化して発生し、誘起電圧、逆起電力、バックイーエムエフ(BEMF)などと呼ばれることもある。
【0048】
電動機の最大トルクは、例えば、Ke=53[Vrms/1000rpm]、Ipeak2=4[A]である場合、トルク定数(下記(式1))とdq面上での電流ベクトルIaの最大値(下記(式2))との積によって、モータ回転軸38にて2.48[Nm]となる。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
また、電動機がLd≠Lqのときは、リラクタンストルクの発生があるので、それを考慮したトルク値を計算して最大トルクとしても良い。
【0052】
これよりも小さいトルクの伝達しかできない領域は、無効角度範囲となる。
【0053】
一般に伝達機構の構成要素は弾性を有するので、トルクに対するネジリ角は自然と存在するが、非線形成分が特に大きな材料を用いた場合でも、無効角度範囲が実現できる。
【0054】
なお、図示されていないが、円筒状のドラム13の壁面には多数の穴が開けられて、脱水時はそれらの穴からドラム13の外に脱水された水が飛び散る。ポリプロピレン製の水槽35をドラム13の外側に設け、脱水時に飛び散った水を遮断し床への水の到達を避ける。ドラム13の壁面に多数の穴を設けることは必ずしも必要ではない。穴無しのドラム13として、ドラム13の上部から脱水の水が抜けていくようにしても良い。
【0055】
なお、電動機16は、本実施の形態ではインナーロータ構造とし、ロータ36をステータ37の内側に軸38の周りに回転自在となるように設けているが、インナーロータ構造に限らない。ロータ36をステータ37の外側に配置したり、軸方向の空隙(ギャップ)を有して設ける面対向構造などとしても構わない。
【0056】
本実施の形態においては、ロータ36には8枚の永久磁石40~47を設けている。永久磁石40、42、44、46は外側をN極とし、永久磁石41、43、45、47は外側をS極として交互に配置し、珪素鋼板を積層したロータコア48の表面に張り付けた表面磁石構造(SPM)とする。
【0057】
ここで、本実施の形態の様な表面磁石構造以外として、ロータコア48の内部に永久磁石を埋め込んだ構成でもよい。この場合は、dq軸でのインダクタンス差を用いたリラクタンストルクと呼ばれるトルクを有効活用できる。
【0058】
三相(U相、V相、W相)の巻線50、51、52はステータ37に設ける。巻線50、51、52には各々に電流Iu、Iv、Iwを供給する電源回路55を接続し、電動機16の駆動を行う。電動機16は伝達機構15を介して回転物体12に力(トルク)を加え、洗濯物11に力を及ぼす。
【0059】
なお、本実施の形態において、電動機16および電源回路55の構成に関して、三相以外の相数であってもよく、巻線、永久磁石の数も自由に設計することができる。また、3相の巻線の接続をスター(星形)接続としているが、デルタ接続でも良い。
【0060】
本実施の形態の電動機16は、三相の構成を用いていることから、第1の相順であるUWV、および第2の相順であるUVWの2つ相順が存在する。UVWの相順では電動機16と太陽歯車24とが電気洗濯機の上から見て時計方向に回転する。脱水時には内歯車25も時計方向に回転して脱水が行われる。
【0061】
電源回路55は、第1の駆動手段56、第2の駆動手段57、切替器58、3相6石構成のインバータ回路59、電流検知回路61、位相推定手段94を有し、電流検知回路61は、インバータ回路59から電動機16に供給される電流Iu、Iv、Iwを各々検知する。
【0062】
本実施の形態において、電流検知手段61は、3相の各線に設けたDCCTと呼ばれる3個の電流検知素子63、64、65で構成するが、インバータ回路59の構成において、低電位側のスイッチング素子のエミッタ端子側にシャント抵抗を設け、その低電位側のスイッチング素子がオンとなっている期間中に、そこに発生する電圧を増幅回路(OPアンプなどで構成する)でアナログ電圧に変換する構成でも構わない。電動機16が3相である場合、3個のシャント抵抗を用いる構成のほかに、2相のみにシャント抵抗を設け、他の1相については、3線の電流の総和が0となる(ΣI=0)というキルヒホッフの法則から電流値を計算することも可能である。また、1個のシャント抵抗のみを用いる構成とし、そこに発生する電圧を読み込むタイミングにより、各相のスイッチング素子のオンまたはオフのタイミングとの関係から、3相の電流値Iu、Iv、Iwを分離して検知する構成でもよい。
【0063】
制御部68は、電気洗濯機として順序よく動作することができるように、各構成要素に適切なタイミングで種々の信号を出力する。制御部68は、第1の駆動手段56に速度指令信号N1refを出力し、第2の駆動手段57に速度指令信号N2refを出力し、第1の駆動手段56と第2の駆動手段57とのいずれをインバータ回路59へ接続するかを切り替える信号Sを切替器58に出力する。
【0064】
制御部68は、伝達機構15に対し、クラッチ32の切替命令Cを出力する。また、制御部68は、ブレーキシュー70(制輪子、制動靴等)を内歯車25に接触させるか否かを切り替える信号Bを出力して、ドラム13の回転の制動を行う。
【0065】
なお、ここでブレーキシュー70は、小さい力でブレーキが有効にかかるようにベルト形を使用する。ここで、ブレーキ力(トルク)が有効となる回転の向きが存在し、それを脱水時の回転方向、すなわち電気洗濯機の上から見て時計回りとなる方向とする。
【0066】
一方、逆方向の回転に対してはブレーキシュー70によるブレーキ力が小となる。逆方向の回転を抑えるため、図示しないが、電気洗濯機の上から見て反時計回りとなる回転を拒絶するワンウェイ式クラッチと呼ばれる軸受けをギア回転軸21に備える。これにより、洗濯時は制御部68からの出力信号Bによってブレーキシュー70の作用が有効となる。
【0067】
また、制御部68は、電気洗濯機として必要な構成要素である給水弁71の開閉を切り替える信号F、および排水弁72の開閉を切り替える信号Dを出力する。給水弁71が信号Fによって開状態になると、水道管73から圧力を持った水が水槽35内に流れ込む。排水弁72が信号Dによって開状態になると、水槽35内の水は下水管74に排水される。制御部68がこれらの信号を順序良く出力することにより、洗濯、脱水、すすぎなどのコースが進み電気洗濯機として成り立っている。
【0068】
なお、図1では、電源回路55内の構成要素と制御部68とを別々の回路部品として図示するが、これはあくまでもブロック図であり、例えばワンチップのマイクロコンピュータ等で、これらの動作をすべて行ってもよい。また、切替器58は接点を持ったリレーで構成してもよいし、マイクロコンピュータ内に書かれるプログラム上のIF文などのソフトウェアを書くことにより実現してもよい。これらにより低コストで信頼性の高いものとなる。
【0069】
図2は、本発明の実施の形態における第1の駆動手段56の詳細ブロック図を示す。
【0070】
速度換算器80は、制御部68からの指令速度信号N1refに所定の定数を乗じて電気角速度ω1refに換算し、積分器81は電気角の位相θ1を出力する。
【0071】
本実施の形態においては、指令速度信号N1refは回転物体12の機械速度(単位はr/min)として、脱水時と攪拌時の各々において有効となる機構減速比に加え、電動機16の極対数(極数の1/2)である4と、60[秒/分]と、2π[rad]の定数の要素となる。
【0072】
2相3相変換器82と3相2相変換器83は、電源回路55内での推定dq座標となるγδ座標を用いる。入力されたθによって、2相3相変換器82は下記(式3)により電圧に関してγδ座標からUVWへの変換を行う。3相2相変換器83は下記(式4)により電流に関してUVWからγδ座標への変換を行う。
【0073】
ただし、(式3)、(式4)は一例であり、cosとsin、またθに関する零点の取り方の変更、係数の違いや符号の正負の取り方などにより各種の表現の違いが存在する。いずれも3相の物理量を直交座標で表現し、設計に応じて適宜数式を選択すれば良い。
【0074】
【数3】
【0075】
【数4】
【0076】
減算器85に3相2相変換器83の出力Iγを入力し、γ軸電流誤差増幅器86にγ軸電流の指令値Iγrefに対する誤差値を入力し、その比例成分と積分成分の和であるV
γを2相3相変換器82に出力する。
【0077】
一方、減算器87に3相2相変換器83の出力Iδを入力し、δ軸電流誤差増幅器88にδ軸電流の指令値Iδrefに対する誤差値を入力し、その比例成分と積分成分の和であるVδを2相3相変換器82に出力する。
【0078】
PWM変調回路90は、2相3相変換器82の出力であるVu、Vv、Vwを受け、インバータ回路59が用いる直流電圧VDCを100%とした3相それぞれのDutyを三角波と比較することでオン/オフのデジタル信号に変換し、各相上下のスイッチング素子のオン期間の切り替わりにデッドタイムを設ける処理を行って、6石分のゲート信号となるQ1~Q6を生成する。
【0079】
このように、電流ベクトルを直交座標(γδ座標)に変換して、電動機16への供給電流値を制御する構成は、一般にベクトル制御と呼ばれる。
【0080】
ただし、構成を特に3相に限定するものではなく、複数の相を有するものも構成可能で、より多相においても簡単な構成で済む。
【0081】
図3は、本発明の実施の形態における第2の駆動手段57の詳細ブロック図を示す。図3において、2相3相変換器82、3相2相変換器83、減算器85と87、γ軸電流誤差増幅器86、δ軸電流誤差増幅器88、PWM変調回路90の各構成要素については、図2で説明した第1の駆動手段56の説明と同等であるので詳細な説明を省く。なお、図3において、減算器85に入力されるIγrefの値は0とする。
【0082】
速度換算器91は、制御部68からの指令速度信号N2refに所定の定数を乗じて電気角速度ω2refに換算し、減算器92は、電気角速度の推定値ω2との誤差に相当する値を速度誤差増幅器93に出力する。
【0083】
速度誤差増幅器93は、比例成分と積分成分の和を、トルクに比例するδ軸電流値として指令値Iδrefを出力する。
【0084】
速度位相推定手段94は、Iγ、Iδ、Vγを入力し、推定速度(電気角速度)ω2と推定位相θ2を出力する。電動機16のパラメータである巻線50、51、52の抵抗値Raとインダクタンス値Lを用いて推定位相θ2を算出する。
【0085】
これによって、電動機16の永久磁石40~47の位相(位置)に応じた電流を電動機16の各々の巻線50、51、52に供給するための要素として機能する。
【0086】
図4は、本発明の実施の形態における速度位相推定手段94の詳細ブロック図を示す。図4において、速度位相推定手段94は、誤差電圧計算器96、誤差電圧増幅器97、積分器98、および減算器99を備える。
【0087】
誤差電圧計算器96は、インダクタンス値Lを乗じる変換器100、抵抗値Raを乗じる変換器101、推定速度ωを一方の入力とする乗算器102、減算器103、および減算器104とを有する。減算器99は、下記(式5)の計算結果であるεγと、誤差電圧設定値εγref=0Vとを入力し、その結果である-εγを誤差電圧増幅器97に出力する。
【0088】
【数5】
【0089】
誤差電圧増幅器97は、ゲインKPの比例器108、ゲインKIの積分器109、および加算器110を有したPI形の誤差増幅器を備える。誤差電圧増幅器97からの出力は、積分器98で時間積分され推定位相θとして出力される。また積分器109からの出力は推定速度ωとして出力される。
【0090】
ただし、誤差電圧計算器96は必ずしも上記の計算式に限定されるものではなく、時間微分項も加えた(式6)等を使用してもよい。
【0091】
【数6】
【0092】
また、(式7)のように、
【0093】
εθ=tan-1(Vγ-(Ra・Iγ-ω・L・Iδ)/Vδ-(Ra・Iδ+ω・L・Iγ))[rad] (7)
【0094】
とした逆正接関数、または4象限対応の直交座標から極座標への変換関数の計算結果としてもよい。誤差電圧増幅器97の構成はPI形以外にもPIDやファジィ式などであってもかまわない。
【0095】
なお、上記した各数式でのインダクタンスLは、Ld=Lqとなる特性の電動機16においては同一のL値が使用できる。Ld≠Lqとなる電動機においては、εθの推定を行う計算式は、一定のL値(=Lq)を使用できる。
【0096】
図5は、本実施の形態の第2の駆動手段57において、運転中の電動機16のベクトル図を示す。電動機16の実際のdq座標に対して、図5(a)は推定dq座標(γδ座標)がやや遅れている状態を、図5(b)は推定dq座標(γδ座標)がやや進んでいる状態を示す。
【0097】
誤差電圧εγは、ベクトル図上では、電動機16の入力電圧Vaから、RaおよびωLに流れる電流のドロップを差し引いた推定誘導起電力ベクトルω・Ψaのγ軸成分となる。ω・Ψaが常にq軸上にあることと考慮すると、推定位相誤差Δθ=0の状態はq軸がδ軸と一致した状態となる。dq座標に対して反時計回りにγδ座標が来る状態を正とすると、図5(a)のように推定位相が遅れている(Δθ<0)状態では誤差電圧εγは負となる。一方、図5(b)のように、推定位相が進んでいる(Δθ>0)状態では誤差電圧εγは正となる。
【0098】
誤差電圧増幅器97は、図5(a)の場合には推定速度ωを増加させてθを進め、図5(b)の場合には推定速度ωを減少させてθを遅らせる。このようにして、誤差電圧εγ=0となる方向にフィードバック制御を行いながら、第2の駆動手段57は電動機16を駆動する。
【0099】
図6は、本実施の形態における伝達機構15の無効角度領域の模式説明図を示す。図1の電動機16は8極であるが、ここでは説明を簡単にするため、電気角=機械角となる2
極構成に相当する模式的な機構の構成図を図6に示す。
【0100】
図6において、模式電動機軸115および模式負荷軸116は共に中心となる軸117の周りを回転する。模式負荷軸116には大きな慣性モーメントを有した回転物体12が繋がっている一方、模式電動機軸115には電動機16のみが有する微小な慣性モーメントのみである。
【0101】
図6(a)は、伝達機構15の無効角度範囲(バックラッシュ、遊び、クリアランスとも言える)を、半回転(180度)とし、そのちょうど中心に電動機16の位置がある場合を示す。
【0102】
図6(b)は、模式電動機軸115が反時計回りに90度回転してX部で接触が行われた場合で、模式負荷軸116へのトルク伝達が開始される位置を示す。
【0103】
図6(c)は、模式電動機軸115が時計回りに90度回転してY部で接触が行われた場合で、模式負荷軸116へのトルク伝達が開始される位置を示す。
【0104】
すなわち、模式電動機軸115が、図6(b)と図6(c)の間にある位置(図6(a)を含む)でトルクの伝達されずに無効角度範囲となる。
【0105】
実際には、図1の電動機16の極数が8極であることから、電動機16の軸38での遊びは電気角での表現の1/4倍である。また、その遊びが発生する要因として、攪拌時において、遊星歯車27、28、29による遊びが、プーリ18、19による減速要素によって大きくなる。
【0106】
また、遊星キャリア30と攪拌翼14との間に、例えばセレーションと呼ばれるような歯を噛み合わせることによって、トルクの伝達を行う機構を設けることがある。その場合には歯と歯の噛み合わせ部分にも遊びが存在するものとなり、その分に相当する角度は遊星歯車27、28、29の遊びと合わせて電気角に変換した無効角度範囲となる。
【0107】
なお、実際に電気洗濯機の無効角度範囲を確認する方法として、ドラム13および攪拌翼14が回転しないように固定した状態で、電動機16の軸38を手で捻る。この攪拌翼時に、例えば、90度(1/4回転=π/2)の範囲でがたつきがあれば、これに電動機16の極対数である4を乗じて、電気角の360度が無効角度範囲として確認できる。
【0108】
図7は、本発明の実施の形態における第1の駆動手段56の動作説明図を示し、横軸は電動機16への供給電流の電気角、縦軸は実電気角である。どちらも直角(90度)を1単位とする。無効角度範囲として、半回転(180度)よりも若干大きい値(αとする)とした場合を示す。
【0109】
本実施の形態においては、第1の駆動手段56によって電動機16に供給される電流は比較的小さな値とし、回転物体12が有する慣性モーメント、および剛体摩擦的な負荷トルクに対しては、第1の駆動手段56からの電流供給では電動機16は回転しないものとする。
【0110】
もちろん、第1の駆動手段56は、電動機16が回転するような大きな電流値を供給してもかまわない。しかし、本実施の形態の効果である、回転物体12が有する、それらの要素を回転させるために必要な電流値よりも少ない電流値、かつ、電動機16のみを回転するのに十分な電流値で動作可能とさせることから、以下の説明は上記条件にて行なう。
【0111】
図6(a)に示すように、電動機16が無通電状態における無効角度範囲(遊び)を持つ状態の実角度(初期電気角)は、無効角度範囲のほぼ中央となる状態での位置を代表値として縦軸値をとする。
【0112】
一般に、永久磁石を用いた電動機を起動する場合は、ホールICなどによる位置検知が無い状態では、起動時点での位相が不明であり、位置決め(ロック)動作、強制同期(強制転流、同期駆動、同期運転などとも呼ばれる)を用いるが、これらはいずれも永久磁石の位置に関係しないで電動機へ電圧もしくは電流を供給する。本実施の形態では、第1の駆動手段56が電動機16に電流ベクトルを供給するとき、電動機16のd軸がその電流ベクトルと同じ向きとなるように、回転トルクが発生する。慣性モーメントが大きいとき、電流供給があっても直ちに回転物体の回転はなされないが、無効角度範囲内の場合は比較的小さな電流で、d軸が供給された電流ベクトルと同じ向きになる特性がある。
【0113】
供給電流の電気角を固定した例として、図7の横軸値0において説明する。太実線において縦軸値も0となり、供給した電流によって図6(a)に示した位置にて、実電気角が供給電流と同じ電気角値0であるA点となる。なお、図7中に、2つのA点があるが実電気角差が4直角であるから2つのA点は同一である。これはC点についても同様である。
【0114】
供給電流の電気角が0の状態において、初期電気角がPの範囲では、供給された電流に向きにd軸が揃う状態となり、位相は永久磁石が巻線に固着したA点に移る。
【0115】
一方、Qの範囲に初期位置が存在する場合は、無効角度範囲内で電動機16が回転する場合もあるがA点に移ることはできず、B点またはC点のいずれかに留まり、結果的にRの範囲に収まる。
【0116】
ここで、α(>0)の存在によって、2R-αであるSは半回転(180度)より小となる。これは、無効角度範囲を電気角の半回転よりも大とすることで、電流供給により無効角度範囲内での電動機の回転が発生した後の位相ばらつき範囲は、半回転k(180度)よりも小さな範囲に収まることを示す。
【0117】
第1の駆動手段56による運転が終了した時点での供給電流の位相が0でない場合、その時点での位相ばらつきは平行移動すると考え、起動からの電流位相変化を増やした場合でも、半回転k(180度)よりも小さな範囲に収まる。
【0118】
第2の駆動手段57において、電動機16の誘導起電力を用いた推定位相の計算を行う場合、第2の駆動手段57の運転が開始される時点で、電動機16の速度がある程度上昇することが望ましく、位相は推定位相の誤差の絶対値を90度未満に抑えることが重要となる。
【0119】
これは、ベクトル制御の特徴であるトルクに対応する物理量(主にIδ等)を速度誤差増幅器93の出力で行うことに関する。推定位相が実位相に対して90度以上ずれると、δ軸に正の電流を流すような電流制御を行ってもq軸は負となるためベクトル制御ができない。例えば、推定速度が指令速度より低い状況において、トルクを増加させるためにIδを正方向に変化させても、発生トルクは低下または負となり電動機16は減速し、速度制御が成立しない。
【0120】
よって、第2の駆動手段57の駆動期間においては、推定位相は電動機16の実際の位相との誤差の絶対値が90度未満とする必要がある。そのため、第2の駆動手段57による運転に移行した段階において、電動機16の実際の位相ばらつきは180度未満とする必要がある。その上で、その位相ばらつきの中心を推定位相のγ軸とすることにより、推
定位相誤差(=推定位相-電動機16の位相)は±90度の範囲となり上記条件を成立させることができる。
【0121】
図8A図8Dは、本発明の実施の形態における第1の駆動手段56の動作説明図を示す。横軸は起動からの電流位相変化を、縦軸は電動機16の実際の位相を実電気角として示す。
【0122】
電動機16の起動(横軸値0)において、第1の駆動手段56からの電流は位相値0から電流供給を開始する。その時点における電動機16の実際の位相は一般的には確定されず0~360度(4直角)の範囲にばらつきをもって存在する。例えば、実電気角の初期値が0度のときを図8Aに、実電気角の初期値が90度(=1直角)のときを図8Bに、実電気角の初期値が180度(=2直角)のときを図8Cに、実電気角の初期値が270度(=3直角)のときを図8Dに示す。
【0123】
電動機16の起動(横軸値0)からの電流位相変化を増加する(グラフ上を右方向へ移動する)と、180度(=2直角分)上昇する点が発生する。実電気角の初期値が0度においてはa点(図8A)、実電気角の初期値が90度においてはb点とc点(図8B)、実電気角の初期値が180度においてはd点(図8C)、実電気角の初期値が270度においてはe点とf点である(図8D)。
【0124】
これらの点では電気角180度の逆回転が発生する。その直前までは実電気角が一定値に固定された状態(d軸が無効角度範囲の中の最も回転した位置に留まる状態)で、発生トルクは90度に達するまで増加し最大となる。その後、発生トルクは減少し、無効角度範囲の端から180度回ったところで発生トルクの符号が逆となる。
【0125】
したがって、このときに電動機16の慣性モーメントが十分に小さければ、すみやかに無効角度範囲内での逆回転が発生する。無効角度範囲を電気角180度よりも大とした伝達機構15においては、推定位相誤差が0、すなわち供給される電流位相が電動機16のd軸と同じ向きになる。
【0126】
ここで、電動機16の起動(横軸値0)からの電気位相変化を6[直角](=1回転半)よりも小となる範囲にとどめることで、初期の電動機16の位相がいずれの場合でも、第1の駆動手段56での運転期間において、上記逆回転の発生を1回以下とすることができる。
【0127】
図9は、本発明の実施の形態における制御部68の脱水時のフローチャートである。図9のフローチャートには図示しないが、経過時間tは時間の経過とともに増加し、第1の駆動過程であるステップ122、第2の駆動過程であるステップ123を経て、ステップ125である脱水終了に至る。ステップ120にて、脱水を開始し、ステップ121にて経過時間tをリセットする(t=0[s])。
【0128】
まず、第1の駆動過程であるステップ122を説明する。
【0129】
ステップ130にて、制御部68は第1の駆動手段56を選択する信号Sを切替器58に出力する。
【0130】
脱水時においては、遊星歯車27、28、29による減速機能が働かず、ドラム13が攪拌翼14と同一の速度で回転する速度としてN1refの値を示す。ステップ131にて、速度指令信号N1ref=0[r/min]とし停止状態(一般に、位置決め、あるいはロックなどと呼ばれる)にする。本実施の形態ではその後、第1の駆動手段56から
の電動機16へ電流供給を行う。
【0131】
ステップ133にて、t>T1aの時間待ちを行う。例えば、T1a=0.2[s]とする。ステップ135にて、T1a時間が経過した時点で、N1ref=-0.13[r/min]とする。本実施の形態では、電気洗濯機の上から見て時計回りであるUVW相順を正とするので、負のN1refは、反時計まわりであるUWV相順での運転を意味する。
【0132】
ステップ137にて、t>T1bの時間待ち制御を行う。例えば、T1b=1.2[s]とする。第1の駆動手段56による逆向き(UWV相順)の回転はT1b-T1a=1[s]である。
【0133】
本実施の形態においては、プーリ18と19による減速比を3.8程度とし、電動機16が8極であるので、供給電流の位相の変化(回転)は、ドラム13で1[s]の回転により電気角で2回転(720度)となる。
【0134】
しかし、この期間にはクラッチスプリング33についてはトルク伝達ができないことから、ドラム13は回転せず、攪拌翼14のみが回転する。遊星歯車27、28、29が噛んだものとなることから、攪拌翼14の逆回転の角度は最大8度程度となる。実際には、その時点での電動機16の位相、遊星歯車27、28、29などでのがたつきの存在により、攪拌翼14の逆方向についても無効角度範囲が作用し、攪拌翼14は8度よりも小さな角度で攪拌翼逆回転する。
【0135】
ここで、攪拌翼14を逆回転させるために若干のトルクが必要となる。本実施の形態においては、T1a~T1bの期間で第1の駆動手段56を動作させる電流値はIa=2[A]に設定する。これは、T1b後のドラム13の回転を可能とするトルクである。
【0136】
ステップ139にて、N1ref=0[r/min]として第1の駆動手段56を再び停止状態にする。そして、ステップ141にて、t>T1cの時間待ち制御を行った後、ステップ144にてN1ref=N1ref+ΔN[r/min]とする。ステップ146にて、t>T1dの時間待ち制御を行う間、ΔNは加速度[r/min/s]を乗じる。
【0137】
t=T1d時点のN1ref=35[r/min]に達した状態で、第2の駆動手段過程(ステップ123)に移る。第1の駆動手段56により、電気角は26.6[回転]することになり、強制同期での加速運転となる。
【0138】
特に本実施の形態において、トルク伝達は、クラッチ32内のクラッチスプリング33の構成によって生ずる一方向(電気洗濯機の上から見て時計回り)のみが可能で、逆回りにはドラム13へはトルクが伝わらない。これを利用して、ステップ135にて、N1refを負の値に設定することで、電動機16で必要とするトルクが小さい条件において位置決め、強制同期を行うことができる。
【0139】
次に、第2の駆動過程であるステップ123を説明する。
【0140】
ステップ149にて、制御部68は、第2の駆動手段57を選択する信号Sを切替器58に出力する。ステップ150にて、第2の駆動手段57の初期指令速度をN2ref=35[r/min]に設定する。本実施の形態においては、T1dにおける第1の駆動手段56の指令速度と等しくして連続値とする
ステップ151にて、N2ref=Min(N2ref+ΔN,740)[r/min
]とする。ここで関数「Min()」はカッコ内の複数値の絶対値の最小値を出力する。
【0141】
ステップ153にて、t>T2の時間待ち制御を行う間、ΔNにドラム13の加速度[r/min/s]を乗じた値とする。これにより指令速度が上昇し、速度制御となる。N2ref=740[r/min]に達した後、740[r/min]の一定値が指令速度に設定される。
【0142】
図10は、本発明の実施の形態における電源回路の脱水時の波形図を示す。図10の上図に電気角速度を、図10の下図に電流を示す。T1a~T1bが逆の相順を出力する期間であり、T1dにて第1の駆動手段56による運転から第2の駆動手段57による運転に移行する。
【0143】
T1d以降は速度制御が有効となり、回転物体12の有する摩擦損および慣性モーメントなどの要素によって必要な電流Iaが変化する。図10の下図において、実線、一点鎖線、および、破線で示すように、速度制御を成立させるように電流値は変化する。なお、T1a~T1dは電流値一定としているが、時間と共にIγrefおよびIδrefの設定値を変化させても良い。
【0144】
図11は、本発明の実施の形態における制御部68の攪拌時のフローチャートを示す。脱水時と同様に、図11のフローチャートには図示しないが、経過時間tは時間の経過とともに増加し、第1の駆動過程であるステップ158、および、第2の駆動過程であるステップ159を経て攪拌終了であるステップ161へと移る。
【0145】
ステップ156にて、攪拌を開始し、ステップ157にて経過時間tをリセットする(t=0[s])。
【0146】
まず、第1の駆動過程であるステップ158を説明する。
【0147】
ステップ163にて、制御部68は第1の駆動手段56を選択する信号Sを切替器58に出力し、ステップ164にて、第1の駆動手段56の指令速度をN1ref=4.39[r/min]とする。本実施の形態において、攪拌時は遊星歯車27、28、29による減速機能が働き、攪拌翼14の回転速度としてN1refを示す。攪拌時においてN1refはすべて正の値とし、電気洗濯機の上から見て時計回りであるUVW相順となる。
【0148】
そのため、左右の回転を交互に行うような攪拌を行うには、図11の動作がフローチャートを一通り終了した後、再び図11の動作フローチャートを、すべての速度に関する符号を逆として、反対回り(電気洗濯機の上からみて反時計回り)で運転を行う。これを複数回行うことで正回転、逆回転を含めて洗い、すすぎなどの運転を行うことができる。
【0149】
ステップ166にて、t>T1の時間待ち制御を行う。T1は、例えば0.1[s]とする。N1ref=4.39[r/min]で0.1[s]の時間運転することにより、240度の電気角で回転を行う。
【0150】
次に、第2の駆動過程であるステップ159を説明する。
【0151】
ステップ169にて、制御部68は第2の駆動手段57を選択する信号Sを切替器58に出力する。ステップ170にて、第2の駆動手段57の初期指令速度を設定する。本実施の形態においては、N2ref=N1ref[r/min]とし、直前のN1refの値を継続する。
【0152】
ステップ171にて、N2ref=Min(N2ref+ΔN,115)[r/min]とする。ここで関数「Min()」はカッコ内の複数値の絶対値の最小値を出力する。
【0153】
ステップ173にて、t>T2の時間待ち制御を行う間のあいだ、ΔNに攪拌翼14の加速度[r/min/s]を乗じた値とする。これにより指令速度が上昇し、速度制御となる。N2ref=115[r/min]に達した後、115[r/min]の一定値が指令速度に設定される。
【0154】
攪拌時においては、第1の駆動手段56において、指令速度N1ref=0とするような位置決め動作は行っておらず、また速度を0から時間とともに立ち上げていく動作がない。シンプルな構成とする。
【0155】
攪拌時の動作は、攪拌翼14の起動から停止までを短時間(1~2秒間)で行うことが洗いやすすぎの性能を確保する上で重要となる。したがって、第1の駆動手段56から第2の駆動手段57への移行を可能な限り短時間で行うことが必要である。本実施の形態は、位置決め動作(N1ref=0)を省き、強制同期の期間を0.1[s]程度とし、その間の速度を一定値(電気角240度相当)とすることで、無効角度範囲での電動機16の回転運動を速やかに行うことができる。その結果、第1の駆動手段56から第2の駆動手段57への移行時の電動機16の位相ばらつきを電気角180度内に抑えることができる。また、攪拌時においては、電動機16の軸38に換算した慣性モーメントが脱水時と比較して小さくなる特性と相まって、脱調の無い運転が可能となる。
【0156】
図12は、本発明の実施の形態における攪拌時の電源回路の波形図を示す。図12の上図は電気角速度を、図12の下図は電流を示す。
【0157】
T1以前の期間は電流値一定としているが、時間と共にIγrefおよびIδrefの設定値を変化させても良い。
【0158】
時間T1にて第1の駆動手段56から第2の駆動手段57に移行する。T1において、電気角速度は実線で示すような特性であるが、破線で示すように速度=0から立ち上げていくものでも良い。攪拌翼14の動きや、電動機16の動きを確認しながら最適な設計を行うことができる。
【0159】
T1以降は速度制御が有効となり、回転物体12の有する摩擦損および慣性モーメントなどの要素によって必要な電流Iaが変化する。図12の下図において、実線、一点鎖線、および、破線で示すように、速度制御を成立させるように電流値は変化する。
【0160】
また、脱水時と同じように攪拌時においても、N1refをN2refと逆回転方向としてもよい。双方の回転方向ともに無効角度範囲が有限である条件下で、第1の駆動手段56で逆向きに運転することで、正の向きでの無効角度範囲の終端からテイクバックした余裕を設けた状態が可能となる。その状態から正の向きの第2の駆動手段57に移行すること、あるいはその状態で正の向きの第1の駆動手段56の動作を継続し、電流、周波数の設定を変化させること、などの動作に対して有効な構成としてもよい。
【0161】
なお本実施の形態において、第1の駆動手段56は、減算器85、87、γ軸電流誤差増幅器86、δ軸電流誤差増幅器88などを用いて電流制御を行っているが、特に電流制御に限定するものではない。電動機16の巻線50、51、52の抵抗Raによる減衰振動作用が活用できるVγ、VδのV電圧制御でも良く、内部にデッドタイム補償、あるいはインピーダンス補償分を内蔵した構成や、予め決められたDutyでPWMを行う構成等であってもよい。実際の電動機16が起動する時点での電気位相0~360度に対し、
供給される電圧、電流のいずれかが概ね1割以下の差異で計測されるものであれば、第1の駆動手段56の要素として有効である。
【0162】
以上のように、本実施の形態によれば、洗濯物と接触する回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、電動機に電流を供給する電源回路と、電動機のトルクを回転物体に伝える伝達機構と、洗濯運転を実行する制御部と、を備え、伝達機構は、電動機の軸での伝達可能トルクが電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、電源回路は、巻線に対する永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、巻線に対する永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、制御部は、電源回路を制御し、電動機の起動時に第1の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し無効角度領域の範囲で電動機を駆動した後、第2の駆動手段を用いて電動機に電流を供給する電気洗濯機である。
【0163】
この構成によって、負荷となる回転物体の慣性モーメントが大であっても、第1の駆動手段は、無効角度領域の範囲において回転物体の慣性モーメントの影響を低減した状態で電動機に電流を供給して回転させることにより、短時間で第2の駆動手段に移行させることができ、電動機の起動に要する時間を短縮できる。第2の駆動手段を動作開始する時点での電流の位相ばらつきを抑えることができる。このようにして、洗濯性能が高く、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる電気洗濯機を実現することができる。
【0164】
また、第2の駆動手段は、電動機に供給される電圧および電動機のパラメータを用いて計算した位相に基づいた電流を電動機に供給する電気洗濯機である。
【0165】
これによって、第2の駆動手段に移行した後の永久磁石の位相に対する電流位相を最適な値に制御することができる。
【0166】
また、回転物体を構成し洗濯物を収納するドラムと、ドラムを内包する水槽とを備え、第1の駆動手段は、第1の相順の通電により電動機を駆動する期間を有し、第2の駆動手段は、第1の相順と逆となる第2の相順の電流を供給して電動機を駆動するように構成され、伝達機構は、第1の相順に対する無効角度領域が、第2の相順に対する無効角度領域よりも大きくなるように構成される電気洗濯機である。
【0167】
これによって、大きい慣性モーメントを有するドラムを回転させる電動機の起動時に、第1の駆動手段により、無効角度領域を利用して電動機を駆動することによって、洗濯運転においてドラムを回転させる電動機を短時間で起動させることができる。
【0168】
また、洗濯物および洗濯水が収容される水槽と、回転物体を構成し洗濯物および洗濯水を攪拌する攪拌翼とを備え、伝達機構は、遊星歯車を有し、遊星歯車によって減速した回転を攪拌翼に伝えるように構成される電気洗濯機である。
【0169】
これによって、洗い工程およびすすぎ工程において攪拌翼を回転させる電動機を短時間で起動させることができる。
【0170】
また、無効角度領域は、電動機の電気角で半回転より大きくなるように構成されるとともに、第1の駆動手段の電流角で1回転半より小さくなるように構成される電気洗濯機である。
【0171】
これにより、無効角度領域による第1の駆動手段から第2の駆動手段に移行する際の位相が効果的に抑えられるとともに、第1の駆動手段での電動機の無駄な動きを低減することができる。
【0172】
また、本実施の形態によれば、回転物体と、永久磁石と巻線を有する電動機と、電動機に電流を供給する電源回路と、電動機のトルクを回転物体に伝える伝達機構と、電源回路を制御する制御部とを備え、伝達機構は、電動機の軸での伝達可能トルクが電動機の最大トルクよりも小となる無効角度領域を有し、電源回路は、巻線に対する永久磁石の位置に関係しない通電を行う第1の駆動手段と、巻線に対する永久磁石の位置に応じた通電を行う第2の駆動手段とを有し、制御部は、電動機の起動時に第1の駆動手段を用いて電動機に電流を供給し無効角度領域の範囲で電動機を駆動した後、第2の駆動手段を用いて電動機に電流を供給する電動機の起動方法である。
【0173】
この方法によって、負荷となる回転物体の慣性モーメントが大であっても、第1の駆動手段は、無効角度領域の範囲において回転物体の慣性モーメントの影響を低減した状態で電動機に電流を供給して回転させることにより、短時間で第2の駆動手段に移行させることができ、電動機の起動に要する時間を短縮できる。第2の駆動手段を動作開始する時点での電流の位相ばらつきを抑えることができる。このようにして、洗濯性能が高く、電動機の発熱を抑えて消費電力量を抑制することができる電気洗濯機等の電動機の起動方法を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
以上のように、本発明にかかる電気洗濯機および電動機の起動方法は、慣性モーメントが大きい回転物体を用いながら、第1の駆動手段で無効角度領域での電動機の回転を行うことで、第2の駆動手段の動作を安定とすることが可能となるので、短時間の起動の繰り返しが有効となる電気洗濯機等で高性能が得られる。例えば、パルセータ式、アジテータ式等の攪拌翼を持つ構成、回転軸を垂直および垂直に対して傾斜を持つドラムを持つ縦型の電気洗濯機、また回転軸を水平、および水平に対して傾斜を持つドラム式等の用途にも適用できる。また、各種の業務用や家庭用の装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0175】
10 電気洗濯機
11 洗濯物
12 回転物体
13 ドラム
14 攪拌翼
15 伝達機構
16 電動機
23 遊星歯車機構
27、28、29 遊星歯車
35 水槽
40、41、42、43、44、45、46、47 永久磁石
50、51、52 巻線
55 電源回路
56 第1の駆動手段
57 第2の駆動手段
68 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
図14