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<図1>
  • 特許-電気化学デバイスおよびその製造方法 図1
  • 特許-電気化学デバイスおよびその製造方法 図2
  • 特許-電気化学デバイスおよびその製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電気化学デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/28 20130101AFI20230922BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230922BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230922BHJP
   H01G 11/48 20130101ALI20230922BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20230922BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20230922BHJP
   H01M 4/1399 20100101ALI20230922BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230922BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
H01G11/28
H01G11/06
H01G11/26
H01G11/48
H01G11/86
H01M4/137
H01M4/1399
H01M4/66 A
H01M10/058
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020518247
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2019017411
(87)【国際公開番号】W WO2019216219
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018089544
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 巧
(72)【発明者】
【氏名】松村 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】坂田 基浩
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英郎
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-035836(JP,A)
【文献】国際公開第2013/062088(WO,A1)
【文献】特開2017-050170(JP,A)
【文献】特開昭61-019064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/28
H01G 11/48
H01G 11/26
H01G 11/86
H01G 11/06
H01M 4/137
H01M 4/66
H01M 4/1399
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、を有し、
前記正極は、
アルミニウムを含む正極集電体と、
導電性高分子を含む正極材料層と、
前記正極集電体の表面にアルミニウム酸化物層と、を備え、 前記アルミニウム酸化物層は、フッ素を含み、かつ、結晶質相の量よりも非晶質相の量が多く、
前記正極材料層の密度をA(g/cm )、前記正極材料層の厚みをB(μm)としたとき、AとBとの積が4以上300以下である、
電気化学デバイス。
【請求項2】
前記アルミニウム酸化物層は、リンをさらに含む、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記正極材料層の密度Aが0.2g/cm以上1.5g/cm以下である、請求項に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記正極材料層の厚みBが20μm以上200μm以下である、請求項またはに記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記アルミニウム酸化物層が、前記正極集電体の前記正極材料層と対向する表面の全面に形成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記正極材料層と前記アルミニウム酸化物層の間に、導電性炭素材料を含むカーボン層を備える、請求項1~のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
前記カーボン層の密度は、0.4g/cm以上1.0g/cm以下であり、
前記カーボン層の厚みは、0.5μm以上3.0μm以下である、請求項に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
アルミニウムを含む正極集電体と、導電性高分子を含む正極材料層と、を備える正極を得る工程と、
負極を得る工程と、
前記正極、前記負極、および、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備える電極群を得る工程と、
前記電極群を電解液とともに容器に収容する工程と、
前記正極集電体の表面をフッ素を含むアルミニウム酸化物層で被覆する被膜形成工程と、
を有し、
前記正極材料層の密度をA(g/cm )、前記正極材料層の厚みをB(μm)としたとき、AとBとの積が4以上300以下であり、
前記被膜形成工程は、前記電極群をフッ素を含むアニオンを含む溶液に浸漬した状態で、前記正極と前記負極との間に電流量が所定の電流値以下になるように制限しながら電流を流して、前記正極集電体の表層のアルミニウムをアルミニウム酸化物に変化させる工程を含む、
電気化学デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記被膜形成工程は、前記電極群を前記電解液とともに前記容器に収容した後に行われる、請求項に記載の電気化学デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記正極を得る工程が、前記正極集電体、導電性炭素材料を含むカーボン層、および、前記正極材料層をこの順で積層する工程を含む、請求項8~のいずれか1項に記載の電気化学デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を含む正極材料層を具備する電気化学デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの中間的な性能を有するデバイス(電気化学デバイス)が注目を集めており、例えば導電性高分子を正極材料として用いることが検討されている(特許文献1参照)。正極材料として導電性高分子を含む電気化学デバイスは、アニオンの吸着(ドープ)と脱離(脱ドープ)により充放電を行うため、反応抵抗が小さく、一般的なリチウムイオン二次電池に比べると高い出力を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-35836号公報
【発明の概要】
【0004】
正極集電体上に導電性高分子を含む正極材料層が形成された正極を用いた電気化学デバイスにおいて、充電後の自己放電の抑制が十分ではなかった。
【0005】
上記に鑑み、本発明の一側面は、正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、を有し、前記正極は、アルミニウムを含む正極集電体と、導電性高分子を含む正極材料層と、前記正極集電体の表面にアルミニウム酸化物層と、を備え、前記アルミニウム酸化物層は、フッ素を含む、電気化学デバイスに関する。
【0006】
本発明の別の側面は、アルミニウムを含む正極集電体と、導電性高分子を含む正極材料層を備える正極を得る工程と、負極を得る工程と、前記正極、前記負極、および、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを備える電極群を得る工程と、前記電極群を電解液とともに容器に収容する工程と、前記正極集電体の表面をフッ素を含むアルミニウム酸化物層で被覆する被膜形成工程と、を有する、電気化学デバイスの製造方法に関する。
【0007】
本発明によれば、電気化学デバイスの自己放電が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る正極の断面模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスの断面模式図である。
図3図3は、同実施形態に係る電極群の構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、を有する。正極は、アルミニウムを含む正極集電体と、導電性高分子を含む正極材料層と、を備える。さらに、正極集電体の表面にアルミニウム酸化物層を備え、アルミニウム酸化物層は、フッ素を含む。
以下において、正極集電体の表面に形成される、フッ素を含むアルミニウム酸化物層を、「F含有アルミニウム酸化物層」と称することがある。
【0010】
自己放電が発生する理由の一つとして、正極集電体の界面で電解液の分解反応が進行することが考えられる。一般に、正極集電体に用いられるアルミニウムは、表面に薄い酸化被膜が形成されているものの、電気化学的安定性が十分とは言い難い。
【0011】
電気化学デバイスが十分に充電された状態では、正極活物質中に多量のアニオンが吸着(ドープ)されている。例えば、このアニオンの一部が水分と反応することによって酸が生成する。生成した酸が正極集電体まで移動することで、正極集電体表層のアルミニウムを溶解させたり、正極集電体表面に厚い酸化被膜を形成させたり、または、溶解したアルミニウムがアニオンなどの電解質成分と反応したりすることが考えられる。このとき、電気化学デバイスに保持されていた電気化学エネルギーの一部が反応で消費される。この結果として、電気化学デバイスを介して利用可能な容量が低下する。
【0012】
しかしながら、上記実施形態によれば、正極集電体の表層にフッ素を含むアルミニウム酸化物層が形成されている。アルミニウム原子とフッ素原子の結合は、アルミニウム原子と酸素原子の結合と比べて強いため、アルミニウム酸化物層がフッ素を含むことで、耐食性が向上し、電気化学的により安定な不動態皮膜が正極集電体の表面に形成され得る。これにより、正極集電体の界面における電解液の反応が抑制され、自己放電が抑制される。
【0013】
F含有アルミニウム酸化物層は、さらに、リンを含んでいてもよい。これにより、電解液中に水分が含まれる場合であっても、水に対するぬれ性が低下するため、酸化アルミニウムの水和反応が抑制され、F含有アルミニウム酸化物層の劣化が抑制される。この結果として、正極集電体の界面における電解液の反応が一層抑制され、自己放電が抑制され得る。
【0014】
F含有アルミニウム酸化物層は、正極集電体の正極材料層と対向する表面の全面に形成されていることが好ましい。これにより、電解液が正極集電体内部のアルミニウム層と接触することが抑制されるため、自己放電がより一層抑制される。
【0015】
正極材料層は多孔質の構造を有しており、正極集電体と正極材料層の界面には、正極集電体と正極材料層とが接触する第1領域と、正極材料層と接触しない正極集電体が露出する第2領域からなる微細構造が形成されている。F含有アルミニウム酸化物層は、第2領域上のほか、第1領域上にも形成され得る。第1領域上にもF含有アルミニウム酸化物層が形成されることで、正極集電体と正極材料層とは直接接触することはなく、F含有アルミニウム酸化物層を介して接触する。F含有アルミニウム酸化物層を介して正極集電体と正極材料層とが接触することで、正極での抵抗が僅かに大きくなるが、電気化学デバイスとしての動作には支障はない。
【0016】
F含有アルミニウム酸化物層を全面に形成する方法としては、CVD法、スパッタリング等の気相法により正極集電体をアルミニウムフッ化物層で被覆後に、正極集電体上に正極材料層を形成する方法が挙げられる。
【0017】
また、アルミニウム酸化物層が形成されていない正極集電体を用いて電気化学デバイスを製造した後に、フッ素を含むアニオンの存在下で、充電電圧の印加によって、F含有アルミニウム酸化物層を、正極集電体の少なくとも正極材料層と対向する表面の全面に形成することができる。このときの電圧の印加は、電流を充電時に流す電流よりも低い電流(例えば、10mA以下)に制限して、長時間の電圧印加を行うとよい。微弱な電流に制限して電圧を印加することで、均一で緻密なF含有アルミニウム酸化物層が形成され得る。
このときの微弱電流に対応する充電電圧の印加で流す総電荷量Qは、例えば、100mAh以上であり、150mAh以上が好ましい。
【0018】
例えば、電解液がフッ素化合物のアニオンを含む場合、アニオンが正極集電体の表面において拡散および/または反応して、F含有アルミニウム酸化物層が正極集電体の全面に形成され得る。フッ素化合物のアニオンは、例えば、BF やPF などが挙げられる。
さらに、電解液がPF などのリンを含むアニオンを含む場合には、当該アニオンが正極集電体の界面において拡散および/または反応する結果、リンを含むF含有アルミニウム酸化物層が形成され得る。
【0019】
電解液がフッ素化合物のアニオンを含む場合、通常の充電動作においても、アニオンが正極集電体の表面において反応し、F含有アルミニウム酸化物層が形成され得る。しかしながら、通常の充電動作で形成され得るF含有アルミニウム酸化物層は、膜の緻密性に欠ける不安定な膜と考えられ、正極集電体の表面における電解液の反応を抑制し難い。これに対し、電池の使用の前に、予め微弱電流で長時間の電圧印加を行うことにより、緻密で安定なF含有アルミニウム酸化物層を形成することができ、正極集電体の表面における電解液の反応を抑制できる。
【0020】
微弱電流での電圧印加によって形成されたF含有アルミニウム酸化物層は、通常の充電動作によって形成され得るF含有アルミニウム酸化物層と、結晶質相と非晶質相との比率、および/または、フッ素含有量が異なると考えられる。予め微弱電流で充電を行うことによって、フッ素含有量が高く、結晶質相よりも非晶質相の量が多い緻密なF含有アルミニウム酸化物層が形成され得る。
【0021】
したがって、微弱電流による充電工程を行った後、通常の充電工程を行う場合、F含有アルミニウム酸化物層は、微弱電流による充電工程で形成されるF含有アルミニウム酸化物層(第1層)と、通常の充電工程で形成され得るF含有アルミニウム酸化物層(第2層)の2層構造であり、第1層と第2層の境界において、結晶質相と非晶質相との比率、および/または、フッ素含有量が変化し得る。F含有アルミニウム酸化物層の第1層の非晶質相の割合、および/または、フッ素含有量は、第2層よりも高くなる。
なお、第1層と第2層との間で境界が無く、非晶質相の割合、および/または、フッ素含有量が傾斜して分布していることも考えられる。
【0022】
正極集電体と正極材料層とが接触する上記第1領域におけるF含有アルミニウム酸化物層の厚みと、正極材料層と接触せず正極集電体が露出する上記第2領域におけるF含有アルミニウム酸化物層の厚みは、異なっていてもよい。微弱電流の印加によりF含有アルミニウム酸化物層を成長させる場合、電解質成分が正極材料層を介さずに正極集電体表面に到達できる第2領域におけるF含有アルミニウム酸化物層の厚みは、第1領域における厚みよりも厚くなり易い。
【0023】
フッ素を含むアニオンの反応により正極集電体の表面にF含有アルミニウム酸化物層を形成する場合、アニオンが正極材料層を介して正極集電体の表面にまで移動できるように、正極材料層の密度を低くするか、あるいは、正極材料層の厚みを薄くしてもよい。
【0024】
正極材料層の密度をA(g/cm)、正極材料層の厚みをB(μm)としたとき、AとBとの積は、アニオンが正極材料層から正極集電体の表面にまで移動し易くする観点から、300以下であってもよく、200以下が好ましい。AとBとの積は、正極材料層の単位面積当たりの質量(面密度)に相当する。
一方で、AとBとの積が小さすぎると、正極中の正極活物質の量が少なく、十分な容量を得るのが困難になる。十分な容量を確保する観点から、AとBとの積は、4以上が好ましい。
【0025】
具体的に、正極材料層の密度Aは、例えば、0.2g/cm以上1.5g/cm以下である。正極材料層の厚みBは、例えば、20μm以上200μm以下である。
【0026】
電気化学デバイスは、正極材料層とF含有アルミニウム酸化物層との間に導電性炭素材料を含むカーボン層を備えていてもよい。カーボン層を正極集電体上に形成することにより、正極集電体の抵抗を低下させることができる。
【0027】
カーボン層の密度は、例えば、0.4g/cm以上1.0g/cm以下である。カーボン層の厚みは、例えば、0.5μm以上3.0μm以下である。
カーボン層の密度および厚みがこの範囲内であれば、フッ素を含むアニオンの反応により正極集電体の表面にF含有アルミニウム酸化物層を形成する場合であっても、アニオンはカーボン層内を容易に移動でき、カーボン層と正極集電体の間にF含有アルミニウム酸化物層を形成できる。
【0028】
≪電気化学デバイス≫
本実施形態に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、を具備する電極群を備える。正極は、例えば図1に示すように、正極集電体111と、正極集電体111の表面に形成されたアルミニウム酸化物層(F含有アルミニウム酸化物層)114と、アルミニウム酸化物層114上に形成されたカーボン層112と、カーボン層112上に形成された正極材料層113と、を備える。カーボン層112は導電性炭素材料を含み、正極材料層113は導電性高分子を含む。アルミニウム酸化物層114は、フッ素を含み、高い耐酸性を有する。アルミニウム酸化物層114は、正極集電体111が酸性雰囲気に曝されるのを抑制し、正極集電体111と電解液との反応を抑制する。
【0029】
以下、本発明に係る電気化学デバイスの構成について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る電気化学デバイス100の断面模式図であり、図3は、同電気化学デバイス100が具備する電極群10の一部を展開した概略図である。
【0030】
電気化学デバイス100は、電極群10と、電極群10を収容する容器101と、容器101の開口を塞ぐ封口体102と、封口体102を覆う座板103と、封口体102から導出され、座板103を貫通するリード線104A、104Bと、各リード線と電極群10の各電極とを接続するリードタブ105A、105Bと、を備える。容器101の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封口体102にかしめるようにカール加工されている。
【0031】
(正極集電体)
正極集電体111としては、例えば、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料としては、例えば、金属箔、金属多孔体、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル、エッチングメタルなどが用いられる。正極集電体111は、アルミニウムを含み、好ましくは、金属アルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられる。アルミニウム合金には、例えば、50質量%未満、好ましくは0.5質量%以下のアルミニウム以外の元素(例えば、鉄、シリコン、ニッケル、マンガンなど)が含まれ得る。
正極集電体111の厚みは、例えば、10~100μmである。
【0032】
正極集電体111は、炭素原子および/または窒素原子を含んでいてもよい。
【0033】
(アルミニウム酸化物層)
アルミニウム酸化物層114は、フッ素を含み、高い耐酸性を有する。
さらに、アルミニウム酸化物層114は、リンを含んでいてもよい。電解液中に水分が含まれる場合であっても、アルミニウム酸化物層114の水和反応に依る劣化が抑制される。
【0034】
アルミニウム酸化物層114は、非晶質のアルミニウム酸化物にフッ素を含むものであってもよいし、結晶性のアルミニウム酸化物にフッ素を含むものであってもよい。しかしながら、電気伝導性の点で、非晶質のアルミニウム酸化物が、結晶性アルミニウム酸化物よりも好ましい。なお、電気化学デバイスの製造後に、フッ素化合物のアニオンを含む電解液の存在下で、上述の微弱電流の印加により形成されるアルミニウム酸化物層は、非晶質となり易い。
【0035】
アルミニウム酸化物層114は、CVD法、スパッタリング等の気相法により、正極集電体111の全面を覆うように形成することができる。また、電解液がフッ素化合物のアニオンを含む場合、電気化学デバイスの正極に電圧を印加することによっても形成され得る。電気化学デバイスに流れる電流を通常の充電時よりも微弱に制限しながら長時間の電圧印加を行うことにより、フッ素を含む緻密なアルミニウム酸化物層が正極集電体111の表面に形成され得る。
【0036】
さらに、電解液がリンを含むアニオンを含む場合には、微弱電流の印加より形成されるアルミニウム酸化物層114は、フッ素とともにリンを含み得る。これにより、アルミニウム酸化物層114の水和反応による劣化を抑制できる。
【0037】
アルミニウム酸化物層114の膜厚は、例えば、正極集電体111の電解液との反応を抑制する観点から、1nm以上であればよく、3nm以上がより好ましい。アルミニウム酸化物層114の膜厚は、5nm以上、または、10nm以上であってもよい。一方で、アルミニウム酸化物層114は高抵抗であるため、アルミニウム酸化物層114の膜厚が厚すぎると、電気化学デバイスとしての内部抵抗が大きくなる。内部抵抗を低く維持する観点から、アルミニウム酸化物層114の膜厚は、例えば、100nm以下であればよく、30nm以下がより好ましい。
【0038】
アルミニウム酸化物層114に含まれるフッ素の含有量は、例えば、1~50at%であり、5~20at%であってもよい。
アルミニウム酸化物層114にリンが含まれる場合、リンの含有量は、例えば、1~50at%であり、5~20at%であってもよい。
【0039】
アルミニウム酸化物層114の膜厚、フッ素含有量およびリン含有量は、例えば以下の方法により特定できる。
【0040】
まず、正極11の厚み方向に沿う断面をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察する。正極集電体111の表面領域を、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて元素マッピングする。アルミニウムおよび酸素が主成分として存在する領域は、アルミニウム酸化物層と特定される。さらに、アルミニウム酸化物層と特定された場合、フッ素およびリンが含まれているかを、元素マッピングの結果より確認する。アルミニウム酸化物層114の膜厚は、特定された領域の輪郭から求められる。正極集電体111の面方向の位置が異なる複数の断面において膜厚の測定を行い、複数(例えば、10点以上)の測定値を平均した値をアルミニウム酸化物層の膜厚としてもよい。
【0041】
アルミニウム酸化物層にフッ素および/またはリンが含まれる場合、フッ素および/またはリンの含有濃度は、アルミニウム酸化物層と特定された領域についてX線マイクロアナライザー(XMA)により組成分析を行うことで求められる。フッ素および/またはリンの含有濃度は、特定された領域内の複数箇所(好ましくは、10箇所以上)において組成分析を行い、複数箇所における平均の含有濃度を求めてもよい。
【0042】
(カーボン層)
カーボン層112は、例えば、正極集電体111またはアルミニウム酸化物層114の表面に導電性炭素材料を蒸着することにより形成される。あるいは、カーボン層112は、導電性炭素材料を含むカーボンペーストを、正極集電体111またはアルミニウム酸化物層114の表面に塗布して塗膜を形成し、その後、塗膜を乾燥することで形成される。カーボンペーストは、例えば、導電性炭素材料と、高分子材料と、水または有機溶媒とを含む。耐酸性の観点から、カーボン層112は、導電性炭素材料の蒸着により形成されることが好ましい。カーボン層112の厚さは、例えば1~20μmであればよい。
【0043】
この場合において、CVD法やスパッタリング等の気相法によりアルミニウム酸化物層114を正極集電体111上に形成した場合には、カーボン層112はアルミニウム酸化物層114上に形成される。しかしながら、製造後の電気化学デバイスの正極に微弱電流を印加することによりアルミニウム酸化物層114を形成する場合には、カーボン層112は正極集電体111上に形成され、微弱電流印加によりカーボン層112と正極集電体111との間にアルミニウム酸化物層114が成長する。
【0044】
導電性炭素材料には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックなどを用いることができる。なかでも、カーボンブラックは、薄くて導電性に優れたカーボン層112が形成され易い点で好ましい。導電性炭素材料の平均粒径D1は特に限定されないが、例えば、3~500nmであり、10~100nmであることが好ましい。平均粒径とは、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求められる体積粒度分布におけるメディアン径(D50)である(以下、同じ)。なお、カーボンブラックの平均粒径D1は、走査型電子顕微鏡で観察することにより、算出してもよい。
【0045】
高分子材料の材質は特に限定されないが、電気化学的に安定であり、耐酸性に優れる点で、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水ガラス(珪酸ナトリウムのポリマー)等が好ましく用いられる。
【0046】
(正極材料層)
正極材料層113は、正極活物質として導電性高分子を含む。正極材料層113は、例えば、カーボン層112が形成された正極集電体111を、導電性高分子の原料モノマーを含む反応液に浸漬し、正極集電体111の存在下で原料モノマーを電解重合することにより形成される。このとき、正極集電体111をアノードとして電解重合を行うことにより、導電性高分子を含む正極材料層113が、カーボン層112の表面を覆うように形成される。正極材料層113の厚みは、例えば、電解の電流密度や重合時間を適宜変えることで容易に制御することができる。正極材料層113の厚みは、例えば、片面あたり10~300μmである。
【0047】
正極材料層113は、電解重合以外の方法で形成されてもよい。例えば、原料モノマーを化学重合することにより、導電性高分子を含む正極材料層113を形成してもよい。あるいは、導電性高分子もしくはその分散体(dispersion)を用いて正極材料層113を形成してもよい。
【0048】
電解重合または化学重合で用いられる原料モノマーは、重合により導電性高分子を生成可能な重合性化合物であればよい。原料モノマーは、オリゴマ―を含んでもよい。原料モノマーとしては、例えばアニリン、ピロール、チオフェン、フラン、チオフェンビニレン、ピリジンまたはこれらの誘導体が用いられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カーボン層112の表面に正極材料層113が形成され易い点で、原料モノマーはアニリンであることが好ましい。
【0049】
導電性高分子としては、π共役系高分子が好ましい。π共役系高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジン、または、これらの誘導体を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。
【0050】
なお、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジンの誘導体とは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジンを基本骨格とする高分子を意味する。例えば、ポリチオフェン誘導体には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。
【0051】
電解重合または化学重合は、アニオン(ドーパント)を含む反応液を用いて行うことが望ましい。導電性高分子の分散液や溶液もまた、ドーパントを含むことが望ましい。π電子共役系高分子は、ドーパントをドープすることで、優れた導電性を発現する。例えば、化学重合では、ドーパントと酸化剤と原料モノマーとを含む反応液に正極集電体111を浸漬し、その後、反応液から引き揚げて乾燥させればよい。また、電解重合では、ドーパントと原料モノマーとを含む反応液に正極集電体111と対向電極とを浸漬し、正極集電体111をアノードとし、対向電極をカソードとして、両者の間に電流を流せばよい。
【0052】
反応液の溶媒には、水を用いてもよいが、モノマーの溶解度を考慮して非水溶媒を用いてもよい。非水溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどアルコール類などを用いることが望ましい。導電性高分子の分散媒あるいは溶媒としても、水や上記非水溶媒が挙げられる。
【0053】
ドーパントとしては、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、メタンスルホン酸イオン(CF3SO3 )、過塩素酸イオン(ClO4 )、テトラフルオロ硼酸イオン(BF4 )、ヘキサフルオロ燐酸イオン(PF6 )、フルオロ硫酸イオン(FSO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(N(FSO22 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(N(CF3SO22 )などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ドーパントは、高分子イオンであってもよい。高分子イオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのイオンが挙げられる。これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
反応液、導電性高分子の分散液あるいは導電性高分子の溶液のpHは、正極材料層113が形成され易い点で、0~4であることが好ましい。
【0056】
(負極)
負極12は、例えば負極集電体と負極材料層とを有する。
負極集電体には、例えば、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料としては、例えば、金属箔、金属多孔体、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル、エッチングメタルなどが用いられる。負極集電体の材質としては、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼などを用いることができる。
【0057】
負極材料層は、負極活物質として、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する材料を備えることが好ましい。このような材料としては、炭素材料、金属化合物、合金、セラミックス材料などが挙げられる。炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)が好ましく、特に黒鉛やハードカーボンが好ましい。金属化合物としては、ケイ素酸化物、錫酸化物などが挙げられる。合金としては、ケイ素合金、錫合金などが挙げられる。セラミックス材料としては、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、炭素材料は、負極12の電位を低くすることができる点で好ましい。
【0058】
負極材料層には、負極活物質の他に、導電剤、結着剤などを含ませることが望ましい。導電剤としては、カーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。結着剤としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ゴム材料、セルロース誘導体などが挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体などが挙げられる。ゴム材料としては、スチレンブタジエンゴムが挙げられ、セルロース誘導体としてはカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0059】
負極材料層は、例えば、負極活物質と、導電剤および結着剤などとを、分散媒とともに混合して負極合剤ペーストを調製し、負極合剤ペーストを負極集電体に塗布した後、乾燥することにより形成される。
【0060】
負極12には、予めリチウムイオンをプレドープすることが望ましい。これにより、負極12の電位が低下するため、正極11と負極12の電位差(すなわち電圧)が大きくなり、電気化学デバイス100のエネルギー密度が向上する。
【0061】
リチウムイオンの負極12へのプレドープは、例えば、リチウムイオン供給源となる金属リチウム膜を負極材料層の表面に形成し、金属リチウム膜を有する負極12を、リチウムイオン伝導性を有する電解液(例えば、非水電解液)に含浸させることにより進行する。このとき、金属リチウム膜からリチウムイオンが非水電解液中に溶出し、溶出したリチウムイオンが負極活物質に吸蔵される。例えば負極活物質として黒鉛やハードカーボンを用いる場合には、リチウムイオンが黒鉛の層間やハードカーボンの細孔に挿入される。プレドープさせるリチウムイオンの量は、金属リチウム膜の質量により制御することができる。
【0062】
負極12にリチウムイオンをプレドープする工程は、電極群10を組み立てる前に行なってもよく、非水電解液とともに電極群10を電気化学デバイス100の容器101に収容してからプレドープを進行させてもよい。
電解液がフッ素を含むアニオンを含む場合に、上述の微弱電流を電気化学デバイスに印加してアルミニウム酸化物層114を正極集電体上に成長させる場合、微弱電流の印加は、プレドープの前に行ってもよく、プレドープの後で行ってもよく、プレドープと並行して行ってもよい。
【0063】
(セパレータ)
セパレータ13としては、セルロース繊維製の不織布、ガラス繊維製の不織布、ポリオレフィン製の微多孔膜、織布、不織布などが好ましく用いられる。セパレータ13の厚みは、例えば10~300μmであり、10~40μmが好ましい。
【0064】
(非水電解液)
電極群10は、非水電解液を含むことが好ましい。
非水電解液は、リチウムイオン伝導性を有し、リチウム塩と、リチウム塩を溶解させる非水溶媒とを含む。このとき、リチウム塩のアニオンは、正極11へのドープと脱ドープとを、可逆的に繰り返すことが可能である。一方、リチウム塩に由来するリチウムイオンは、可逆的に負極12に吸蔵および放出される。
【0065】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiFSO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、LiN(FSO22、LiN(CF3SO22などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ハロゲン原子を含むオキソ酸アニオンを有するリチウム塩およびイミドアニオンを有するリチウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが望ましい。
【0066】
リチウム塩のアニオンは、フッ素を含むことが好ましい。アニオンがフッ素を含む場合、電気化学デバイスの正極に微弱な電流を流すことによって、正極集電体の表面に緻密なF含有アルミニウム酸化物層が形成され得る。
【0067】
充電状態(充電率(SOC)90~100%)における非水電解液中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.2~5mol/Lである。
【0068】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-プロパンサルトンなどを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
非水電解液に、必要に応じて非水溶媒に添加剤を含ませてもよい。例えば、負極12の表面にリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成する添加剤として、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどの不飽和カーボネートを添加してもよい。
【0070】
(製造方法)
以下、本発明の電気化学デバイス100の製造方法の一例について、図2および3を参照しながら説明する。ただし、本発明の電気化学デバイス100の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0071】
電気化学デバイス100は、例えば、アルミニウムを含む正極集電体111と、導電性高分子を含む正極材料層113と、を備える正極11を得る工程と、負極12を得る工程と、正極11、負極12、および、正極11および負極12との間に介在するセパレータ13を備える電極群10を得る工程と、電極群10を電解液とともに容器101に収容する工程と、正極集電体111の表面をアルミニウム酸化物層114で被覆する被膜形成工程と、を備える方法により製造される。
【0072】
正極11を得る工程は、正極集電体111、導電性炭素材料を含むカーボン層112、および、正極材料層113をこの順で積層する工程を含んでいてもよい。正極11がカーボン層112を含む場合、正極集電体111の上にカーボン層112を積層し、積層したカーボン層112上に正極材料層113を形成して、正極11を得てもよい。
【0073】
正極材料層113は、例えば、カーボン層112を備える正極集電体111の存在下で、原料モノマーを電解重合あるいは化学重合することにより形成される。あるいは、導電性高分子を含む溶液もしくは導電性高分子の分散体等を、カーボン層112を備える正極集電体111に付与することにより形成される。正極材料層113の形成は、用いられる酸化剤やドーパントの影響により、通常、酸性雰囲気下で行われる。
【0074】
上記のようにして得られた正極11に、リード部材(リード線104Aを備えるリードタブ105A)を接続し、負極12に他のリード部材(リード線104Bを備えるリードタブ105B)を接続する。続いて、これらリード部材が接続された正極11と負極12との間にセパレータ13を介在させて捲回し、図3に示すような、一端面よりリード部材が露出する電極群10を得る。電極群10の最外周を、巻止めテープ14で固定する。
【0075】
次いで、図2に示すように、電極群10を、非水電解液(図示せず)とともに、開口を有する有底円筒形の容器101に収容する。封口体102からリード線104A、104Bを導出する。容器101の開口に封口体102を配置し、容器101を封口する。具体的には、容器101の開口端近傍を内側に絞り加工し、開口端を封口体102にかしめるようにカール加工する。封口体102は、例えば、ゴム成分を含む弾性材料で形成されている。
【0076】
被膜形成工程は、正極11を得る工程において行ってもよいし、電極群10を電解液とともに容器101に収容した後で行うこともできる。正極11を得る工程において被膜形成工程を行う場合、正極を得る工程は、アルミニウム酸化物層114で正極集電体111の表面を被覆後に、アルミニウム酸化物層114の上に正極材料層113を積層する工程を含む。アルミニウム酸化物層114上にカーボン層112を積層した後、カーボン層112上に正極材料層113を積層してもよい。
【0077】
一方、電解液がフッ素を含むアニオンを含む場合には、電極群10を電解液とともに容器101に収容した後で被膜形成工程を行うことも可能である。電極群10の正極11と負極12との間に充電電圧を印加することにより、正極集電体111の表層のアルミニウムがフッ素を含むアニオンと反応し、アルミニウム酸化物に変化し得る。このとき形成されるアルミニウム酸化物には、フッ素が含まれている。このとき、電圧印加において流れる電流量が所定の電流値以下になるように制限することで、均一であり且つ緻密なアルミニウム酸化物層114が正極集電体111上に形成される。電流量は、通常の充電動作で、電気化学デバイス100を充電する際に流す電流よりも低い微弱な電流値に制限される。
【0078】
被膜形成工程において、電流値を制限した状態での充電電圧の印加によりアルミニウム酸化物層114を形成する場合、微弱電流に対応する充電電圧の印加は、電極群10を容器101に収容した後の製造後の電気化学デバイスに対して行う場合に限られない。少なくとも正極11をフッ素を含むアニオンを含む溶液に浸漬した状態で、正極11に電圧を印加すればよい。
【0079】
上記の実施形態では、円筒形状の捲回型の電気化学デバイスについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、角形形状の捲回型や積層型の電気化学デバイスにも適用することができる。
【0080】
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
(1)正極の作製
厚さ30μmのアルミニウム箔の両面に、カーボンブラックを含むカーボン層(厚さ2μm)が形成された積層体を準備した。一方、アニリンおよび硫酸を含むアニリン水溶液を準備した。
【0082】
上記積層体と対向電極とを、アニリン水溶液に浸漬し、10mA/cm2の電流密度で20分間、電解重合を行ない、硫酸イオン(SO 2-)がドープされた導電性高分子(ポリアニリン)の膜を、積層体の両面のカーボン層上に付着させた。
【0083】
硫酸イオンがドープされた導電性高分子を還元し、ドープされていた硫酸イオンを脱ドープした。こうして、硫酸イオンが脱ドープされた導電性高分子を含む正極材料層を形成した。次いで、正極材料層を十分に洗浄し、その後、乾燥を行なった。正極材料層の厚さは、片面あたり35μmであった。
【0084】
(2)負極の作製
厚さ20μmの銅箔を負極集電体として準備した。一方、ハードカーボン97質量部と、カルボキシセルロース1質量部と、スチレンブタジエンゴム2質量部とを混合した混合粉末と、水とを、質量比で40:60の割合(混合粉末:水)で混錬した負極合剤ペーストを調製した。負極合剤ペーストを負極集電体の両面に塗布し、乾燥して、厚さ35μmの負極材料層を両面に有する負極を得た。次に、負極材料層に、プレドープ完了後の電解液中での負極電位が金属リチウムに対して0.2V以下となるように計算された分量の金属リチウム層を形成した。
【0085】
(3)電極群の作製
正極と負極にそれぞれリードタブを接続した後、図3に示すように、セルロース製不織布のセパレータ(厚さ35μm)と、正極、負極とを、それぞれ、交互に重ね合わせた積層体を捲回して、電極群を形成した。
【0086】
(4)非水電解液の調製
プロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1の混合物に、ビニレンカーボネートを0.2質量%添加して、溶媒を調製した。得られた溶媒にリチウム塩としてLiPF6を所定濃度で溶解させて、アニオンとしてヘキサフルオロリン酸イオン(PF )を有する非水電解液を調製した。
【0087】
(5)電気化学デバイスの作製
開口を有する有底の容器に、電極群と非水電解液とを収容し、図2に示すような電気化学デバイスを組み立てた。その後、4mA以下の所定の電流値に電流量を制限した状態で、正極と負極との端子間に3.6Vの充電電圧を充電後の電気化学デバイスに所定時間印加した(充電工程1)。
さらに、正極と負極との端子間に3.6Vの充電電圧を24時間印加した(充電工程2)。
この場合、リチウムイオンの負極へのプレドープは、充電工程1と並行して行われる。
【0088】
充電後の電気化学デバイスについて、1.0Aの電流で2.5Vまで放電した。3.6Vから2.5Vまで放電した際に流れた総電荷量を求め、放電電荷量とした。
【0089】
充電工程1において、正極と負極との端子間に流した電荷量Qを異ならせることによって、複数のデバイスA1~A11を作製した。
【0090】
作製後のデバイスから正極を取り出し、正極集電体であるアルミニウム箔の表面をTEM観察したところ、アルミニウム箔とカーボン層の間に非晶質の酸化アルミニウムの層が形成されていた。また、酸化アルミニウム層中にフッ素およびリンが含まれていることを確認した。
【0091】
充電工程2において正極と負極との端子間に流れた電荷量Qと、電荷量Qとの合計から、放電電荷量Qを差し引き、基材との反応で消費された電荷量ΔQ(=Q+Q-Q)を求めた。ΔQには、F含有アルミニウム酸化物層の形成に消費された容量(電荷量)が含まれている。
【0092】
作製した電気化学デバイスA1~A11について、以下の方法に従って評価した。
【0093】
(評価法)
電気化学デバイスを3.6Vの電圧で充電した後、25℃で、24時間放置した。24時間放置後の開回路電圧を測定し、充電直からの電圧低下量ΔRVを求めた。ΔRVが小さいほど、デバイスの自己放電は抑制される。評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1より、充電工程1で正極と負極との端子間に流した電荷量Qが大きいデバイスほど、ΔRVが小さく、自己放電が抑制されていることが分かる。
ここで、電荷量ΔQは、正極集電体上に形成されたF含有アルミニウム酸化物層の膜厚と比例すると考えられる。したがって、より厚いF含有アルミニウム酸化物層を形成することによって、電気化学デバイスの自己放電を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る電気化学デバイスは、自己放電が抑制されているため、各種電気化学デバイス、特にバックアップ用電源として好適である。
【符号の説明】
【0097】
10:電極群
11:正極
111:正極集電体
112:カーボン層
113:正極材料層
114:アルミニウム酸化物層
12:負極
13:セパレータ
14:巻止めテープ
100:電気化学デバイス
101:容器
102:封口体
103:座板
104A、104B:リード線
105A、105B:リードタブ
図1
図2
図3