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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
   F24C 7/02 20060101AFI20230922BHJP
   H05B 6/68 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F24C7/02 320F
F24C7/02 340J
H05B6/68 320M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020533464
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029119
(87)【国際公開番号】W WO2020026930
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018143141
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 史太佳
(72)【発明者】
【氏名】岩田 基良
(72)【発明者】
【氏名】高野 伸司
(72)【発明者】
【氏名】福井 幹男
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】平本 雅祥
【審査官】宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-136196(JP,A)
【文献】特開昭58-045415(JP,A)
【文献】特表2000-500912(JP,A)
【文献】特開平05-087344(JP,A)
【文献】特開2006-128075(JP,A)
【文献】特開平06-088619(JP,A)
【文献】特開平05-303993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 1/00-15/36
H05B 6/64-6/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷を収容する加熱室と、
マイクロ波を発生させ、前記マイクロ波の周波数および出力を調整可能なマイクロ波源と、
前記マイクロ波を前記加熱室内に放射する少なくとも一つの放射部と、
前記加熱室内の温度を検出する温度検出部と、
前記負荷の温度推移を規定する温度プロファイルと、前記加熱室内の前記温度とに基づいて、前記マイクロ波の前記出力を調整するように、前記マイクロ波源を制御する制御部と、
を備え
前記制御部は、前記マイクロ波源に、1回の出力調整の間に複数通りの周波数の前記マイクロ波を出力させる、高周波加熱装置。
【請求項2】
使用者による選択を入力する操作部をさらに備え、
前記制御部が、前記使用者による前記選択に応じて実施するべき前記温度プロファイルを決定する、請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記マイクロ波の前記出力を調整する周期を変更するように、前記マイクロ波源を制御する、請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
前記制御部が、前記マイクロ波の前記出力を調整する周期よりも短い周期で前記マイクロ波の前記周波数を調整するように、前記マイクロ波源を制御する、請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
前記マイクロ波源から前記加熱室に伝送される伝送エネルギーを検出する第1の電力検出器と、前記加熱室から前記マイクロ波源に戻る反射エネルギーを検出する第2の電力検出器と、を備え、
前記制御部が、前記伝送エネルギーと前記反射エネルギーとに基づいて、前記マイクロ波の前記周波数を調整するように、前記マイクロ波源を制御する、請求項1記載の高周波加熱装置。
【請求項6】
前記少なくとも一つの放射部が複数の放射部を含み、
前記マイクロ波源が、前記複数の放射部により放射される複数のマイクロ波の相対位相を調整する、請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項7】
前記制御部が、前記マイクロ波の前記出力を調整する周期よりも短い周期で前記マイクロ波の前記相対位相を調整するように、前記マイクロ波源を制御する、請求項6に記載の高周波加熱装置。
【請求項8】
前記マイクロ波源から前記加熱室へ伝送される伝送エネルギーを検出する第1の電力検出器と、前記加熱室から前記マイクロ波源に戻る反射エネルギーを検出する第2の電力検出器と、を備え、
前記制御部が、前記伝送エネルギーと前記反射エネルギーとに基づいて、前記複数のマイクロ波の前記相対位相を調整するように、前記マイクロ波源を制御する、請求項6に記載の高周波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ波を用いた高周波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波加熱装置は、赤外線センサを用いて食材の初期温度を測定し、食材が常温であるか冷凍であるかを判別する。マイクロ波源であるマグネトロンの出力は、冷凍の場合は低出力モードで食材を加熱するように、常温の場合はフルパワーで食材を加熱するように制御される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、食材を解凍する場合、加熱の均一性を保つために低出力モードが選択され、食材を温める場合、時間短縮のためにフルパワーモードが選択される。冷凍状態の食材に対して解凍と温めとを連続して行う場合、-20℃の温度の食材に対してフルパワーで解凍を開始し、食材の温度が0℃付近になると低出力モードに切替え、食材が完全に解凍された時点で、再度フルパワーに切替えられる。
【0004】
加熱室からの反射エネルギーに基づいて、負荷である食材の状態を判別する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。この技術は、食材が冷凍状態にあると反射エネルギーが大きく、食材が解凍されると反射エネルギーが減少することに基づいて、加熱を制御することで、過剰な加熱を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-87344号公報
【文献】特開平4-56092号公報
【発明の概要】
【0006】
従来の構成では、解凍機能、温め機能において食材を所望の温度まで加熱することは可能である。しかし、食材または調理レシピに適した温度制御は達成されておらず、調理後の食感や仕上りにバラツキが生じることがある。
【0007】
例えば、牛肉を加熱する際、ミオシンやコラーゲンなどのたんぱく質が50~56℃で変性を開始し、歯切れの良い食感や柔軟性が得られる。一方、66℃以上でアクチンが変性を開始し、肉汁の素となる水分が排出されて、仕上りを著しく劣化させる。
【0008】
ローストビーフなどの低温調理が必要な調理レシピにおいては、60℃弱の温度を一定時間維持するなど、細やかな出力制御が要求される。
【0009】
特許文献1には、解凍時の加熱の均一性については記載されるが、常温よりも高い温度での出力制御については記載されていない。
【0010】
特許文献2には、解凍時の過加熱を防止するために、加熱に必要なエネルギーを算出し、出力を停止する技術については記載される。しかし、特許文献2には、食材や調理レシピに応じた温度推移を達成するために出力を調整することは開示されていない。
【0011】
本開示は、食材の温度を規定する温度プロファイルに沿って調理中の食材の温度が推移するように、マイクロ波源の出力を調整する高周波加熱装置を提供することを目的とする。
【0012】
半導体素子で構成されたマイクロ波源により、より細かい出力制御、および、発振周波数、位相などの複数のパラメータの調整が可能となる。その結果、加熱時の効率および加熱の均一性を向上させることが可能となる。
【0013】
本開示の一態様の高周波加熱装置は、負荷を収容する加熱室と、マイクロ波源と、少なくとも一つの放射部と、温度検出部と、制御部とを備える。マイクロ波源は、マイクロ波を発生させ、マイクロ波の周波数および出力を調整可能である。少なくとも一つの放射部は、マイクロ波を加熱室内に放射する。温度検出部は、加熱室内の温度を検出する。制御部は、負荷の温度推移を規定する温度プロファイルと、加熱室内の温度とに基づいて、マイクロ波の出力を調整するように、マイクロ波源を制御する。
【0014】
本態様によれば、調理レシピに応じた温度プロファイルに従って食材を加熱することで、調理の仕上りを安定化させることができる。
【0015】
本態様によれば、設定した温度プロファイルに従って、マイクロ波の出力を調整し、負荷の温度を制御することで、調理の仕上りを安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示の実施の形態1に係る高周波加熱装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施の形態1に係る高周波加熱装置の制御フローチャートである。
図3A図3Aは、温度プロファイルの一例を示す図である。
図3B図3Bは、温度プロファイルの他の例を示す図である。
図3C図3Cは、温度プロファイルの他の例を示す図である。
図4図4は、本開示の実施の形態2に係る高周波加熱装置の構成を示すブロック図である。
図5図5は、実施の形態2における伝送エネルギーおよび反射エネルギーの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の第1の態様の高周波加熱装置は、負荷を収容する加熱室と、マイクロ波源と、少なくとも一つの放射部と、温度検出部と、制御部とを備える。マイクロ波源は、マイクロ波を発生させ、マイクロ波の周波数および出力を調整可能である。少なくとも一つの放射部は、マイクロ波を加熱室内に放射する。温度検出部は、加熱室内の温度を検出する。制御部は、負荷の温度推移を規定する温度プロファイルと、加熱室内の温度とに基づいて、マイクロ波の出力を調整するように、マイクロ波源を制御する。
【0018】
本態様によれば、調理レシピに応じた温度プロファイルに従って食材を加熱することで、調理の仕上りを安定化させることができる。
【0019】
本開示の第2の態様の高周波加熱装置は、第1の態様に加えて、使用者による選択を入力する操作部をさらに備える。制御部は、使用者による選択に応じて実施するべき温度プロファイルを決定する。
【0020】
本開示の第3の態様の高周波加熱装置において、第1の態様に加えて、制御部は、マイクロ波の出力を調整する周期を変更するように、マイクロ波源を制御する。
【0021】
本開示の第4の態様の高周波加熱装置において、第1の態様に加えて、制御部は、マイクロ波の出力を調整する周期よりも短い周期でマイクロ波の周波数を調整するように、マイクロ波源を制御する。
【0022】
本開示の第5の態様の高周波加熱装置は、第1の態様に加えて、マイクロ波源から加熱室に伝送される伝送エネルギーを検出する第1の電力検出器と、加熱室からマイクロ波源に戻る反射エネルギーを検出する第2の電力検出器と、を備える。制御部は、伝送エネルギーと反射エネルギーとに基づいて、マイクロ波の周波数を調整するように、マイクロ波源を制御する。
【0023】
本開示の第6の態様の高周波加熱装置において、第1の態様に加えて、少なくとも一つの放射部が複数の放射部を含む。マイクロ波源は、複数の放射部により放射される複数のマイクロ波の相対位相を調整する。
【0024】
本開示の第7の態様の高周波加熱装置において、第6の態様に加えて、制御部は、マイクロ波の出力を調整する周期よりも短い周期でマイクロ波の相対位相を調整するように、マイクロ波源を制御する。
【0025】
本開示の第8の態様の高周波加熱装置は、第6の態様に加えて、マイクロ波源から加熱室へ伝送される伝送エネルギーを検出する第1の電力検出と、加熱室からマイクロ波源に戻る反射エネルギーを検出する第2の電力検出と、を備える。制御部は、伝送エネルギーと反射エネルギーとに基づいて、複数のマイクロ波の相対位相を調整するように、マイクロ波源を制御する。
【0026】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1に係る高周波加熱装置100の構成を示すブロック図である。
【0028】
図1に示すように、高周波加熱装置100は、マイクロ波源101と、負荷である食材104が載置される加熱室103と、放射部であるアンテナ102と、温度検出部である温度センサ105と、制御部である制御ボード106と、操作部107とを有する。
【0029】
温度センサ105は、食材104の温度を検出する。制御ボード106は、マイクロプロセッサなどを備えた回路基板であり、食材104の温度に基づいてマイクロ波源101の出力を調整する。操作部107は、使用者が調理レシピを選択するために設けられる。
【0030】
マイクロ波源101は、半導体素子を用いたマイクロ波の発振器と、可変利得増幅器とを含む。マイクロ波源101に含まれた発振器は、2.4GHz~2.5GHzの範囲における任意の周波数のマイクロ波を発生させる。マイクロ波源101に含まれた可変利得増幅器は、発振器により発生されたマイクロ波を可能な範囲内の任意の出力値に増幅する。
【0031】
マイクロ波源101から出力されたマイクロ波は、アンテナ102を介して加熱室103内に放射される。放射されたマイクロ波は食材104を加熱する。温度センサ105は、フードプローブ(Food probe)で構成され、食材104に挿入されて食材104の内部の温度を検出する。
【0032】
使用者が操作部107を用いて所望の調理レシピを選択すると、制御ボード106は、その調理レシピに応じて実施するべき温度プロファイルを決定する。温度プロファイルは、その調理レシピに適した食材104の温度推移と、その調理レシピの全体の調理時間とを規定する。
【0033】
制御ボード106は、調理開始からの食材104の温度推移が、設定された温度プロファイルに規定された温度推移に合致するように、マイクロ波源101から出力されるマイクロ波の周波数および出力を制御する。これにより、選択された調理レシピが実施される。
【0034】
図2は、高周波加熱装置100の制御フローチャートである。図2に示すように、ステップS31において、使用者が操作部107を用いて調理レシピを選択すると、制御ボード106は、データテーブルを参照して、選択された調理レシピに応じた実施するべき温度プロファイルを決定する。
【0035】
ステップS32において、制御ボード106は、決定された温度プロファイルに応じた既定の初期出力条件でマイクロ波源101を作動させる。マイクロ波源101は、初期出力条件に応じたマイクロ波を出力する。昇温過程(a)におけるマイクロ波の初期出力条件は、例えば、2.45GHzの周波数と500Wの出力値である。
【0036】
ステップS33において、制御ボード106は、温度センサ105により検出された信号に基づいて食材104の温度を例えば1秒毎に監視する。ステップS34において、制御ボード106は、食材104の温度が、温度プロファイルに合致するか否かを判定する。
【0037】
食材104の温度が温度プロファイルに合致しない場合(ステップS34でNo)、処理はステップS34からステップS32に戻る。例えば、食材104の温度が温度プロファイルに規定された温度より低い場合、ステップS32において、食材104の加熱を促進するために、制御ボード106は、例えば、マイクロ波源101の出力を600Wに上昇させる。食材104が2.47GHzの周波数を有するマイクロ波を吸収しやすい場合、制御ボード106が、マイクロ波の周波数を2.47GHzに変更してもよい。
【0038】
食材104の温度が温度プロファイルの規定に合致する場合(ステップS34でYes)、処理はステップS34からステップS35に移行する。ステップS35において、制御ボード106は、調理開始からの時間が、温度プロファイルに規定された調理時間に到達したか否かを判断する。ステップS35における判断結果がNoであれば、処理はステップS33に戻る。ステップS35における判断結果がYesであれば、制御ボード106は調理を完了させる。
【0039】
すなわち、ステップS32~ステップ35において、制御ボード106は、温度プロファイルに規定された加熱時間の間、食材104の温度が温度プロファイルに規定された温度推移の通りに推移するように、マイクロ波源101を制御する。
【0040】
図3Aは、温度プロファイルの一例である。図3Aに示す温度プロファイルは、具体的には、ローストビーフを調理するための温度プロファイルであり、昇温過程(a)、温度維持過程(b)、降温過程(c)を順に実施することを規定する。
【0041】
昇温過程(a)では、制御ボード106は、常温の食材104の温度を20分間加熱して55℃まで上昇させる。調理開始から20分が経過し、食材104の温度が55℃に達すると、温度プロファイルは温度維持過程(b)に移行する。
【0042】
温度維持過程(b)では、制御ボード106は、マイクロ波の出力を低下させたり、周波数を変更したりするようにマイクロ波源101を制御する。これにより、食材104の温度は30分間、比較的低温の55℃に維持される。
【0043】
温度維持過程(b)のように食材104の温度を一定に維持する場合、マイクロ波源101を作動させたり停止させたりを繰り返しても良い、しかしながら、この方法では、目標温度の55℃からの誤差が大きくなる可能性があり、調理の仕上りを左右する繊細な温度制御が困難である。このため、マイクロ波源101の出力を低レベルに設定し、温度維持過程(b)での温度の変動を抑制することが好ましい。
【0044】
調理開始から50分が経過すると、温度プロファイルは降温過程(c)に移行する。降温過程(c)では、制御ボード106は、20分間で食材104の温度を45℃まで低下させる。
【0045】
降温過程(c)における温度推移は非常に緩やかなため、マイクロ波源101を単純に停止させるのではなく、マイクロ波源101の出力を低レベルに設定する。例えば、調味液を食材104に浸透させる場合、対流を抑制するために加熱を停止する。しかし、一般的には、食材104の温度が高い方が調味液は食材104に浸透しやすい。このため、マイクロ波源101は、対流が起きない程度の微弱な出力レベルのマイクロ波を発生させ続けることが好ましい。
【0046】
温度プロファイルが、食材104の温度が高い場合には、マイクロ波源101の出力を停止させ、安全に取り出せる温度まで食材104の温度を低下させることを規定してもよい。
【0047】
以上のように、本実施の形態では、使用者により選択された調理レシピに適した温度プロファイルを設定し、食材104の温度に応じてマイクロ波源101の出力を調整する。これにより、食材104の温度を温度プロファイル通りに推移させることができる。その結果、調理の仕上りを安定化させることができる。
【0048】
本実施の形態では、温度センサ105としてフードプローブを使用し、食材104の内部温度を検出する。しかし、赤外線センサを用いて食材104の表面温度を検出してもよい。
【0049】
昇温過程(a)において、食材104の量が多いため、マイクロ波源101を最大出力で作動させても食材104の温度が温度プロファイルに規定された温度まで上昇しない場合、制御ボード106は、食材104の温度が温度プロファイルに規定された温度に達するまで昇温過程(a)を延長してもよい。
【0050】
同様に、降温過程(c)において、マイクロ波源101の出力を停止しても食材104の温度が温度プロファイルに規定された温度まで下降しない場合、制御ボード106は、食材104の温度が温度プロファイルに規定された温度に達するまで降温過程(c)を延長してもよい。
【0051】
図3Aに示す昇温過程(a)および温度維持過程(b)のように、複数の温度推移を規定する温度プロファイルの場合、制御ボード106は、昇温過程(a)では、加熱速度を優先してマイクロ波源101の出力調整の周期を長くし、温度維持過程(b)では、食材104の温度制御の精度を優先してマイクロ波源101の出力調整の周期を短くしてもよい。これにより、調理時間を短縮させるとともに、調理の仕上りをさらに安定させることができる。
【0052】
図3B図3Cは、温度プロファイルの他の例である。図3Bに示す温度プロファイルは、具体的には、ポトフなどの鍋を使った煮込み料理のための温度プロファイルであり、昇温過程(d)、温度維持過程(e)を順に実施することを規定する。
【0053】
昇温過程(d)では、制御ボード106は、食材104を10分間加熱して、その温度を常温から95℃まで上昇させる。温度維持過程(e)では、制御ボード106は、食材104の温度を30分間、95℃に維持して煮込みを行う。
【0054】
本温度プロファイルにより、微沸騰を維持することができる。これにより、吹きこぼれを防止するとともに鍋内の具材の煮崩れを防止することができる。
【0055】
図3Cに示す温度プロファイルは、具体的には、ケーキなどの生地を焼くための温度プロファイルであり、昇温過程(f)、昇温過程(g)、降温過程(h)を順に実施することを規定する。
【0056】
昇温過程(f)では、制御ボード106は、食材104を5分間加熱して、その温度を常温から100℃まで急上昇させる。昇温過程(g)では、制御ボード106は、食材104を20分間加熱して、その温度を100から150℃まで徐々に上昇させる。降温過程(h)では、制御ボード106は、20分間で食材104の温度を80℃まで低下させる。
【0057】
本温度プロファイルに規定された調理では、マイクロ波源101に加えて、図示されない輻射ヒータが用いられる。本温度プロファイルにより、生地の膨らみ具合を安定化することができる。
【0058】
これらの温度プロファイルに応じた食材104の温度制御において、制御ボード106は、マイクロ波源101の出力調整とは異なるタイミングで、マイクロ波源101の発振周波数を変更してもよい。
【0059】
例えば、マイクロ波源101の出力調整の周期を1秒とし、マイクロ波源101の発振周波数を2.405GHzから2.495GHzまで10MHz刻みで0.1秒毎に変化させた場合、マイクロ波源101の出力調整の1周期の間に、10通りの発振周波数で食材104を加熱することができる。
【0060】
一般的に、加熱室103のような閉空間にマイクロ波を放射した場合、閉空間内で多重に反射したマイクロ波は定在波となり、電界の強い領域と電界の弱い領域とが生じる。この電界分布は、照射するマイクロ波の周波数に依存して変化する。
【0061】
上述のように、マイクロ波源101の出力調整の周期よりも短い周期でマイクロ波の周波数を調整することにより、電界分布の時間平均値を均一化することができる。これにより、食材104の加熱ムラが低減され、調理の仕上りが改善される。
【0062】
本実施の形態では、マイクロ波源101により発生されたマイクロ波は、アンテナ102を介して加熱室103に放射される。しかし、アンテナ102の代わりに導波管を用いてもよい。
【0063】
(実施の形態2)
以下、本開示の実施の形態2に係る高周波加熱装置400について説明する。図4は、高周波加熱装置400の構成を示すブロック図である。図4において、実施の形態1と共通する部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0064】
本実施の形態では、マイクロ波源101により発生されたマイクロ波が、アンテナ102aとアンテナ102bとを介して加熱室103に放射される。本実施の形態では、アンテナ102aとアンテナ102bとが放射部に相当する。
【0065】
図4に示すように、本実施の形態において、マイクロ波源101は、発振器401と、移相器402と、増幅器403a、403bと、検波器404a、404bと、制御ボード106とを備える。
【0066】
発振器401は、発振周波数を調整可能な、半導体素子を用いたマイクロ波の発振器である。移相器402は、マイクロ波の位相を制御する。増幅器403a、403bは、発振器401により発生されたマイクロ波を可能な範囲内の任意の出力値に増幅する可変利得増幅器である。
【0067】
加熱室103は、増幅器403aに接続されたアンテナ102aと、増幅器403bに接続されたアンテナ102bとを有する。
【0068】
本実施の形態では、発振器401により発生されたマイクロ波は二分割される。一方のマイクロ波は増幅器403aにより増幅され、アンテナ102aによって加熱室103に放射される。他方のマイクロ波は、移相器402を通過した後、増幅器403bにより増幅され、アンテナ102bによって加熱室103に放射される。
【0069】
このため、アンテナ102bから放射されるマイクロ波は、移相器402によりその位相が調整され、アンテナ102aから放射されるマイクロ波とは異なる位相を有する。
【0070】
検波器404aは、増幅器403aからアンテナ102aに伝送される伝送エネルギーPfaと、アンテナ102aから返ってくる反射エネルギーPraとを個別に検波する。検波器404bは、増幅器403bからアンテナ102bに伝送される伝送エネルギーPfbと、アンテナ102bから返ってくる反射エネルギーPrbとを個別に検波する。
【0071】
検波器404aは、伝送エネルギーPfaを検波する場合には第1の電力検出器として機能し、反射エネルギーPraを検波する場合には第2の電力検出器として機能する。同様に、検波器404bは、伝送エネルギーPfbを検波する場合には第1の電力検出器として機能し、反射エネルギーPrbを検波する場合には第2の電力検出器として機能する。
【0072】
反射エネルギーPra、Prbは、食材104の加熱に寄与しない損失エネルギーである。反射エネルギーPra、Prbを低減するように、発振器401の発振周波数と、移相器402の位相調整量とを調整することで、加熱に寄与するエネルギーの効率を向上させることができる。
【0073】
図5は、2.4GHz~2.5GHzの周波数範囲における、伝送エネルギーPfおよび反射エネルギーPrの周波数特性を示す。縦軸に示す(Pf-Pr)/Pfは、加熱に寄与するエネルギーの効率を表す。この指標が大きいほど加熱効率が高い。
【0074】
図5に示すように、2.4GHz~2.5GHzの周波数範囲には、2.407GHz、2.493GHzなどの比較的効率の高い周波数と、2.417GHz、2.457GHzなどの比較的効率の低い周波数とが含まれる。
【0075】
このため、図2に示すステップS32において、制御ボード106が、調理前に発振器401の発振周波数を調整して、2.4GHz~2.5GHzの周波数範囲を1MHz刻みで掃引し、各周波数における加熱効率を確認する。その後、制御ボード106は、最も加熱効率の高い周波数のマイクロ波を用いて調理を行う。これにより、調理時の消費電力を低減することができる。
【0076】
加熱効率の比較的高い複数の周波数を選択し、これらの周波数を順次使用して調理することで、加熱効率と均一性とがさらに向上する。
【0077】
複数のアンテナを用いる場合、位相についても同様に、調理前に最も加熱効率の高い位相差を確認してもよい。具体的には、制御ボード106が、移相器402を制御して、アンテナ102aとアンテナ102bとから放射されるマイクロ波との位相差を0°から360°まで45°刻みで掃引し、各位相差における加熱効率を確認する。その後、制御ボード106は、最も加熱効率の高い位相差で調理を行う。これにより、調理時の消費電力をさらに低減することができる。
【0078】
温度プロファイルに応じた食材104の温度制御において、制御ボード106は、マイクロ波源101の出力調整とは異なるタイミングで、移相器402の位相調整量を変更してもよい。
【0079】
特に、マイクロ波源101の出力調整の周期よりも短い周期で二つのマイクロ波の相対位相を調整すると、周波数の場合と同様に、加熱室103内の電界分布の時間平均値が均一化される。その結果、食材104の加熱ムラが低減され、調理の仕上りが改善される。
【0080】
調理中に周波数および位相の両方を変更することで、さらに食材104の加熱ムラを低減することが可能である。
【0081】
図5に示した加熱効率と発振周波数の関係は一例である。この関係は、加熱室103の形状、大きさ、および、食材104の材質、量に応じて変化するだけでなく、調理の進行に伴う食材104の温度推移にも影響を受ける。このため、調理開始前だけでなく、定期的に発振周波数を設定し直すことが望ましい。
【0082】
実施の形態1、2において、マイクロ波加熱のみにより食材104を調理する。しかし、マイクロ波加熱に加えて、赤外線ヒータなどによる輻射加熱、または、熱風を利用した対流加熱を併用してもよい。
【0083】
マイクロ波源101の出力値を決定するために、PID(Proportional-Integral-Differential)制御を使用してもよい。P(Proportional)制御とは比例制御のことを意味する。温度プロファイルに規定された温度と食材104の実際の温度との差をΔTとした場合、P制御では、ΔTに応じて、マイクロ波源101の出力値を調整する。
【0084】
I(Integral)制御とは積分制御を意味する。I制御では、ΔTの累積値に応じて、マイクロ波源101の出力値を調整する。D(Differential)制御とは微分制御を意味する。D制御では、ΔTの変化量に応じて、マイクロ波源101の出力値を調整する。
【0085】
具体的には、例えば、(数1)で示される式により制御指数を計算する。この式におけるKp、Ki、Kdは所定の係数である。これらの係数は、各調理レシピに適したものに設定することが好ましい。
【0086】
【数1】
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本開示にかかる高周波加熱装置は、食材の調理および解凍の用途に加え、マイクロ波による殺菌などの用途にも適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
101 マイクロ波源
102、102a、102b アンテナ
103 加熱室
104 食材
105 温度センサ
106 制御ボード
107 操作部
401 発振器
402 移相器
403a、403b 増幅器
404a、404b 検波器
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5