(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】高周波加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/54 20060101AFI20230922BHJP
H05B 6/66 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H05B6/54
H05B6/66 A
(21)【出願番号】P 2020534729
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030119
(87)【国際公開番号】W WO2020027240
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018146144
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 史太佳
(72)【発明者】
【氏名】福井 幹男
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】大森 義治
【審査官】宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-182885(JP,A)
【文献】特開平08-078151(JP,A)
【文献】特開2017-050147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0182058(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0199386(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316051(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0063579(US,A1)
【文献】特開2012-99263(JP,A)
【文献】特開2010-277766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/46-6/80
F24C 1/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の第1電極と、
前記第1電極に対向して配置された平板状の複数の第2電極と、
前記第1電極に高周波電圧を印加する高周波電源と、
前記第1電極と前記高周波電源との間に配置され、前記高周波電源とのインピーダンス整合を取る整合部と、
前記高周波電源を制御する制御部と、
前記第1電極と前記複数の第2電極との間に形成された複数の領域における電界強度を個別に調整する電界調整部と、を備え
、
前記電界調整部が、それぞれ前記複数の第2電極とグランドとの間に配置された複数のインピーダンス素子を備え、前記複数のインピーダンス素子により前記複数の第2電極と前記グランドとの間のインピーダンスを調整することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に形成された複数の領域における電界強度を個別に調整することが可能な高周波加熱装置。
【請求項2】
前記電界調整部が、それぞれ前記複数の第2電極とグランドとの間に配置された複数の切替部をさらに備え、
前記複数の切替部がそれぞれ、前記複数の第2電極を、前記複数のインピーダンス素子を介して前記グランドに接続するか、または、前記グランドに直接接続するかを切り替える、請求項
1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
前記電界調整部が、前記複数の切替部により、前記複数の領域のうち中央の領域に対応する、前記複数の第2電極の少なくとも一つの中央の第2電極を前記グランドに直接接続するとともに、前記複数の領域のうちの前記中央の領域を除く中央以外の領域に対応する前記複数の第2電極の少なくとも一つの外側の第2電極を、前記複数のインピーダンス素子の一つを介して前記グランドに接続する、請求項
2に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
平板状の第1電極と、
前記第1電極に対向して配置された平板状の複数の第2電極と、
前記第1電極に高周波電圧を印加する高周波電源と、
前記第1電極と前記高周波電源との間に配置され、前記高周波電源とのインピーダンス整合を取る整合部と、
前記高周波電源を制御する制御部と、
前記第1電極と前記複数の第2電極との間に形成された複数の領域における電界強度を個別に調整する電界調整部と、
前記第1電極と前記複数の第2電極との間に配置された加熱対象物を載置する載置台と、を備え、
前記複数の第2電極のすべてが接地され、
前記電界調整部が、前記複数の領域のうち中央の領域に対応する、前記複数の第2電極の少なくとも一つの中央の第2電極と前記第1電極
および前記載置台との距離と、前記複数の領域のうち前記中央の領域を除く中央以外の領域に対応する、前記複数の第2電極の少なくとも一つの外側の第2電極と前記第1電極
および前記載置台との距離とを異ならせることで、前記複数の領域における前記電界強度を調整する
、高周波加熱装置。
【請求項5】
前記電界調整部が、前記複数の第2電極をそれぞれ接地する複数の棒状部材を備え、前記複数の棒状部材が異なる長さの棒状部材からなることにより、前記少なくとも一つの中央の第2電極と前記第1電極との距離が、前記少なくとも一つの外側の第2電極と前記第1電極との距離と異なる、請求項
4に記載の高周波加熱装置。
【請求項6】
前記電界調整部が、前記複数の第2電極をそれぞれ接地する複数の可動部を有し、
前記複数の可動部が、前記第1電極と直交する方向に前記複数の第2電極をそれぞれ移動させる、請求項
4に記載の高周波加熱装置。
【請求項7】
前記電界調整部が、前記複数の可動部により、前記少なくとも一つの中央の第2電極と前記第1電極との間隔を、前記少なくとも一つの外側の第2電極と前記第1電極との間隔より狭くする、請求項
6に記載の高周波加熱装置。
【請求項8】
前記第1電極と前記複数の第2電極との間に配置された加熱対象物の形状を検知する検知部をさらに備え、前記制御部は、前記検知部により検知された前記加熱対象物の前記形状に基づいて前記電界調整部を制御する、請求項1
~7のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項9】
前記第1電極と前記複数の第2電極との間に配置された加熱対象物の温度を検知する検知部をさらに備え、前記制御部は、前記検知部により検知された前記加熱対象物の前記温度に基づいて前記電界調整部を制御する、請求項1
~7のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対向する二つの平板状の電極間に配置された加熱対象物を、当該電極間に高周波電圧を印加することにより誘電加熱する高周波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高周波加熱装置において、以下の構成が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1は、上部電極と、上部電極の下方に配置された下部電極と、上部電極と下部電極との間に高周波電圧を印加する電圧印加部とを備えた高周波加熱装置を開示する。上部電極の周囲には補助電極が設けられる。電圧印加部は、下部電極と補助電極との間に、上部電極と下部電極との間に印加する高周波電圧とは異なる電圧を印加する。
【0004】
特許文献2は、第1の電極と、第2の電極と、高周波供給部とを備え、一定の厚さに加工された冷凍食材を誘電加熱により解凍する高周波解凍装置を開示する。第1の電極は、冷凍食材の挟持された面の形状より小さい板面形状を有する。第2の電極は、第1の電極より大きい板面形状を有する。高周波供給部は、第1の電極を介して冷凍食材に高周波電力を供給した後に、第2の電極を介して冷凍食材に高周波電力を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-182885号公報
【文献】日本国特許第4630189号明細書
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の高周波加熱装置では、加熱ムラを低減するという観点において未だ改善の余地がある。本開示の目的は、加熱ムラを低減することができる高周波加熱装置を提供することである。
【0007】
本開示の一態様に係る高周波加熱装置は、平板状の第1電極と、平板状の複数の第2電極と、高周波電源と、整合部と、制御部と、電界調整部とを備える。
【0008】
複数の第2電極は、第1電極に対向して配置される。高周波電源は、第1電極に高周波電圧を印加する。整合部は、第1電極と高周波電源との間に配置され、高周波電源とのインピーダンス整合を取る。制御部は、高周波電源を制御する。電界調整部は、第1電極と複数の第2電極との間に形成された複数の領域における電界強度を個別に調整する。
【0009】
本態様によれば、第1電極と複数の第2電極との間に載置された加熱対象物における加熱ムラを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態1に係る高周波加熱装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る高周波電源の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る整合部の構成を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1に係る電界調整部の構成を示す概略図である。
【
図5A】
図5Aは、電界分布の解析に用いた解析モデルの模式的斜視図である。
【
図5B】
図5Bは、電界分布の解析に用いた解析モデルの模式的正面図である。
【
図6】
図6は、比較例1における加熱対象物の上面の電界分布を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1における加熱対象物の上面の電界分布を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、吸収電力分布の解析に用いる加熱対象物の幅方向における位置の定義を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例1および比較例1における加熱対象物の吸収電力分布を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施の形態1の変形例に係る電界調整部の構成を示す概略図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施の形態2に係る高周波加熱装置の構成を示す概略図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施の形態2に係る電界調整部の構成を示す概略図である。
【
図13】
図13は、実施の形態2の変形例に係る電界調整部の構成を示す概略図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施の形態3に係る高周波加熱装置の構成を示す概略図である。
【
図15】
図15は、実施の形態3に係る高周波加熱装置において、電界強度を調整せずに加熱対象物を加熱した場合における加熱対象物の温度分布を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、実施の形態3に係る高周波加熱装置において、電界強度を調整せずに加熱対象物を加熱する状態を模式的に示す図である。
【
図17】
図17は、実施の形態3に係る高周波加熱装置において、電界強度を調整して加熱対象物を加熱する状態を模式的に示す図である。
【
図18】
図18は、電界分布の解析に用いた解析モデルの模式的正面図である。
【
図19】
図19は、比較例2における加熱対象物の上面の電界分布を模式的に示す図である。
【
図20】
図20は、実施例2における加熱対象物の上面の電界分布を模式的に示す図である。
【
図21】
図21は、吸収電力分布の解析に用いる加熱対象物の幅方向における位置の定義を示す図である。
【
図22】
図22は、実施例2および比較例2における加熱対象物の吸収電力分布を示すグラフである。
【
図23】
図23は、本開示の実施の形態4に係る高周波加熱装置の構成を示す概略図である。
【
図24】
図24は、本開示の実施の形態4に係る高周波加熱装置において、電界強度を調整せずに加熱対象物を加熱する状態を示す図である。
【
図25】
図25は、本開示の実施の形態4に係る高周波加熱装置において、電界強度を調整して加熱対象物を加熱する状態を示す図である。
【
図26】
図26は、本開示の実施の形態5に係る高周波加熱装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
対向する平板状の電極間に配置された加熱対象物を、当該電極間に高周波電圧を印加することにより加熱する高周波加熱装置においては、電極間に発生する電界の強度にばらつきが生じる。
【0012】
例えば、電極の中央付近よりも電極の周辺部付近に電界が集中し、電極の中央付近よりも周辺部付近の電界強度が大きくなる。加熱対象物の形状によって、電界が集中する箇所が変化する。このため、このような構成の高周波加熱装置では、加熱ムラが生じる。
【0013】
本発明者らは、対向する電極間に発生する電界の強度を調整する方法を見出し、以下の開示技術に至った。
【0014】
本開示の第1の態様の高周波加熱装置は、平板状の第1電極と、平板状の複数の第2電極と、高周波電源と、整合部と、制御部と、電界調整部とを備える。
【0015】
複数の第2電極は、第1電極に対向して配置される。高周波電源は、第1電極に高周波電圧を印加する。整合部は、第1電極と高周波電源との間に配置され、高周波電源とのインピーダンス整合を取る。制御部は、高周波電源を制御する。電界調整部は、第1電極と複数の第2電極との間に形成された複数の領域における電界強度を個別に調整する。
【0016】
本開示の第2の態様の高周波加熱装置において、第1の態様に加えて、電界調整部は、それぞれ複数の第2電極とグランドとの間に配置された複数のインピーダンス素子を備える。電界調整部は、複数のインピーダンス素子により複数の第2電極とグランドとの間のインピーダンスを調整する。
【0017】
本開示の第3の態様の高周波加熱装置において、第2の態様に加えて、電界調整部は、それぞれ複数の第2電極とグランドとの間に配置された複数の切替部をさらに備える。
【0018】
複数の切替部はそれぞれ、複数の第2電極を、複数のインピーダンス素子を介してグランドに接続するか、または、グランドに直接接続するかを切り替える。
【0019】
本開示の第4の態様の高周波加熱装置において、第3の態様に加えて、電界調整部は、複数の切替部により、複数の領域のうち中央の領域に対応する、複数の第2電極の少なくとも一つの中央の第2電極を前記グランドに直接接続するとともに、複数の領域のうち中央の領域を除く中央以外の領域に対応する、複数の第2電極の少なくとも一つの外側の第2電極を、複数のインピーダンス素子の一つを介してグランドに接続する。
【0020】
本開示の第5の態様の高周波加熱装置において、第1の態様に加えて、複数の第2電極のすべては接地される。電界調整部は、複数の領域のうち中央の領域に対応する、複数の第2電極の少なくとも一つの中央の第2電極と第1電極との距離と、複数の領域のうち中央の領域を除く中央以外の領域に対応する、複数の第2電極の少なくとも一つの外側の第2電極と第1電極との距離とを異ならせることで、複数の領域における電界強度を調整する。
【0021】
本開示の第6の態様の高周波加熱装置において、第5の態様に加えて、電界調整部は、複数の第2電極をそれぞれ接地する複数の棒状部材を備える。電界調整部は、複数の棒状部材が異なる長さの棒状部材からなることにより、少なくとも一つの中央の第2電極と第1電極との距離が、少なくとも一つの外側の第2電極と第1電極との距離と異なる。
【0022】
本開示の第7の態様の高周波加熱装置において、第5の態様に加えて、電界調整部は、複数の第2電極をそれぞれ接地する複数の可動部を有する。複数の可動部は、第1電極と直交する方向に複数の第2電極をそれぞれ移動させる。
【0023】
本開示の第8の態様の高周波加熱装置において、第7の態様に加えて、電界調整部は、複数の可動部により、少なくとも一つの中央の第2電極と第1電極との間隔を、少なくとも一つの外側の第2電極と第1電極との間隔より狭くする。
【0024】
本開示の第9の態様の高周波加熱装置は、第1の態様に加えて、第1電極と複数の第2電極との間に配置された加熱対象物の形状を検知する検知部をさらに備える。制御部は、検知部により検知された加熱対象物の形状に基づいて電界調整部を制御する。
【0025】
本開示の第10態様の高周波加熱装置は、第1の態様に加えて、第1電極と複数の第2電極との間に配置された加熱対象物の温度を検知する検知部をさらに備える。制御部は、検知部により検知された加熱対象物の温度に基づいて電界調整部を制御する。
【0026】
以下、本開示の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。各図において、説明を容易にするため各要素を誇張して示す。
【0027】
(実施の形態1)
[全体構成]
本開示の実施の形態1に係る高周波加熱装置1Aについて説明する。
図1は、高周波加熱装置1Aの構成を示す概略図である。
図1中のX、Y、Z軸はそれぞれ、高周波加熱装置1Aの幅方向、奥行き方向、高さ方向を示す。
【0028】
図1に示すように、高周波加熱装置1Aは、第1電極11、複数の第2電極12、高周波電源20、整合部30、制御部40および電界調整部50を備える。実施の形態1では、第1電極11、複数の第2電極12および電界調整部50は、加熱室13の内部に配置される。複数の第2電極12の上面には、加熱対象物90を載置する載置台14が配置される。加熱対象物90は厚さが均一な誘電体、例えば、食材である。
【0029】
高周波加熱装置1Aでは、第1電極11と複数の第2電極12との間に配置された加熱対象物90に、第1電極11を介して高周波電圧が印加される。第1電極11と複数の第2電極12との間に発生した電界により、加熱対象物90が誘電加熱される。
【0030】
<第1電極>
第1電極11は、XY平面に平行な平板状の電極である。具体的には、第1電極11は、矩形形状を有する。本実施の形態では、第1電極11は、加熱室13内において複数の第2電極12の上方に配置される。
【0031】
<複数の第2電極>
複数の第2電極12の各々は、XY平面に平行な平板状の電極である。具体的には、第2電極12は矩形形状を有する。複数の第2電極12の各々は、第1電極11より小さい。複数の第2電極12は、加熱室13内において第1電極11の下方に第1電極11に対向するようにマトリクス状に配置される。具体的には、複数の第2電極12は、3行×3列に配置されてもよく、4行×4列に配置されてもよい。
【0032】
複数の第2電極12の上面には、加熱対象物90を載置する載置台14が配置される。
【0033】
<高周波電源>
高周波電源20は、制御部40に制御されて、第1電極11に高周波電圧を印加する。
図2は、高周波電源20の構成を示す概略図である。
図2に示すように、高周波電源20は、発振器21と増幅器22と増幅器23とを備える。発振器21は、HF~VHFの周波数帯の電圧信号を発振する。増幅器22、23は、発振器21から送信された電圧信号を増幅する。これにより、高周波電源20は、所望の高周波電圧を作り出すことができる。
【0034】
高周波電源20が第1電極11に高周波電圧を印加すると、第1電極11と複数の第2電極12との間に電界が発生する。この電界が、第1電極11と複数の第2電極12との間に配置された加熱対象物90を誘電加熱する。
【0035】
<整合部>
整合部30は、第1電極11と高周波電源20との間に配置され、高周波電源20とのインピーダンス整合を取る。
図3は、整合部30の構成を示す概略図である。
図3に示すように、整合部30は、コイルL1、L2と、可変容量コンデンサVC1、VC2とを備える。
【0036】
整合部30では、コイルL1とコイルL2と可変容量コンデンサVC2とが直列に配置され、可変容量コンデンサVC1が、コイルL1と可変容量コンデンサVC2との間の端子とグランドとの間に配置される。
図3に示す整合部30の構成は一例であって、整合部30の構成はこれに限定されない。
【0037】
<電界調整部>
電界調整部50は、第1電極11と複数の第2電極12のそれぞれとの間に形成される複数の領域における電界強度を個別に調整する。複数の領域とは、各々が第1電極11と複数の第2電極12のそれぞれとで挟まれた複数の三次元空間である。
【0038】
図4は、電界調整部50の構成を示す概略図である。
図4に示すように、複数の第2電極12は、第2電極12a、12b、12cを含む。電界調整部50は、切替部51a、51b、51cおよびインピーダンス素子52a、52b、52cを有する。インピーダンス素子52a、52b、52cは、コンデンサなどの受動素子である。
【0039】
切替部51aおよびインピーダンス素子52aは、第2電極12aとグランドとの間に配置される。切替部51bおよびインピーダンス素子52bは、第2電極12bとグランドとの間に配置される。切替部51cおよびインピーダンス素子52cは、第2電極12cとグランドとの間に配置される。
【0040】
第1電極11と複数の第2電極12との間には、それぞれ領域S1、S2、S3が形成されている。具体的には、領域S1は、第1電極11と第2電極12aとの間に配置される。領域S2は、第1電極11と第2電極12bとの間に配置される。領域S3は、第1電極11と第2電極12cとの間に配置される。
【0041】
切替部51aおよびインピーダンス素子52aは、領域S1における電界強度P1を調整する。切替部51bおよびインピーダンス素子52bは、領域S2における電界強度P2を調整する。切替部51cおよびインピーダンス素子52cは、領域S3における電界強度P3を調整する。
【0042】
切替部51aをオンすると、第2電極12aがグランドに直接接続される。切替部51aをオフすると、第2電極12aがインピーダンス素子52aを介してグランドに接続される。この場合、第2電極12aとグランドとの間のインピーダンスは容量性のインピーダンスである。
【0043】
これにより、第2電極12aがグランドに直接接続された場合と比較して、第1電極11と第2電極12aの電位差が小さくなる。その結果、第1電極11と第2電極12aの間に発生する電界強度を緩和することができる。
【0044】
このように、切替部51aを用いて第2電極12aとグランドとの間のインピーダンスを調整することにより、第1電極11と第2電極12aとの間の領域S1における電界強度P1を調整することができる。切替部51b、インピーダンス素子52b、領域S2、および、切替部51c、インピーダンス素子52c、領域S3についても同様である。
【0045】
本実施の形態では、電界調整部50は、切替部51bをオンすることにより、複数の領域のうち中央の領域S2に対応する第2電極12bをグランドに直接接続する。電界調整部50は、切替部51aをオフすることにより、複数の領域のうち中央以外の領域S1に対応する第2電極12aを、インピーダンス素子52aを介してグランドに接続する。電界調整部50は、切替部51cをオフすることにより、複数の領域のうち中央以外の領域S3に対応する第2電極12cを、インピーダンス素子52cを介してグランドに接続する。
【0046】
従来技術では、対向する二つの平板状の電極間に高周波電圧を印加すると、電極の中央付近よりも周辺部付近に電界が集中する。しかし、本実施の形態によれば、電極の周辺部付近に電界が集中することを抑制することができる。その結果、電極間に生じる電界の強度のばらつきを低減することができる。
【0047】
[高周波加熱装置1Aの解析]
ここで、高周波加熱装置1Aにおける電界分布の解析について説明する。この電界分布の解析は、高周波加熱装置1Aの解析モデルとANSYS社のHFSS(High Frequency Structure Simulator)とを用いて行われた。
【0048】
図5Aは、電界分布の解析に用いた解析モデル80の模式的斜視図である。
図5Bは、電界分布の解析に用いた解析モデル80の模式的正面図である。
図5A、
図5Bに示すように、解析モデル80は、本実施の形態の高周波加熱装置1Aの構成をモデル化したものである。
【0049】
解析モデル80において、複数の第2電極12は、5行×5列のマトリクス状に配置された合計25個の第2電極12を含む。解析モデル80の第1電極11と複数の第2電極12との間には、均一な厚さを有する加熱対象物90が配置される。
【0050】
解析モデル80において、加熱室13は、幅307.8mm×奥行き330mm×高さ243.8mmの寸法を有する。第1電極11は、幅260mm×奥行き260mm×厚さ4mmの寸法を有する。第2電極12は、幅47mm×奥行き47mm×厚さ5mmの寸法を有する。隣り合う二つ第2電極12の間隔は5mmである。加熱対象物90は、幅150mm×奥行き150mm×高さ20mmの寸法を有する。すなわち、第1の電極の大きさは複数の第2電極の全体の大きさとほぼ等しい。
【0051】
解析モデル80を用いて行った電界分布の解析結果について説明する。ここでは、電界強度を調整した場合の電界分布の解析結果を実施例1として説明する。実施例1との比較のため、電界強度を調整しない場合の電界分布の解析結果を比較例1とする。
【0052】
実施例1では、第1電極11と複数の第2電極12との間の複数の領域のうち中央の領域に対応する第2電極12のみがグランドに直接接続され、中央以外の領域に対応する第2電極12がインピーダンス素子を介してグランドに接続される。比較例1では、すべての第2電極12が、インピーダンス素子を介してグランドに接続される。
【0053】
図6は、比較例1における加熱対象物90の上面の電界分布を模式的に示す。
図7は、実施例1における加熱対象物90の上面の電界分布を模式的に示す。
図6に示すように、比較例1では、加熱対象物90の中央付近よりも周辺部付近に電界が集中している。
図7に示すように、実施例1では、比較例1と比べて加熱対象物90の全面にわたって、より均一に電界が分布している。
【0054】
次に、実施例1と比較例1とにおける加熱対象物90の吸収電力分布について説明する。
図8は、吸収電力分布の解析に用いる加熱対象物90の幅方向における位置の定義を示す。
【0055】
図8に示すように、加熱対象物90の幅方向、すなわち、X軸方向の位置をB(mm)で表す。上述のように、加熱対象物90の幅は150mmなので、B=0mmの位置が加熱対象物90の左端となり、B=150mmの位置が加熱対象物90の右端となる。
【0056】
図9は、実施例1および比較例1における加熱対象物90の吸収電力分布を示すグラフである。
図9に示すように、比較例1では、加熱対象物90の左端(B=0mm)付近および右端(B=150mm)付近の吸収電力が、加熱対象物90の中央(B=75mm)付近の吸収電力より大きい。
【0057】
実施例1では、比較例1と比べて、加熱対象物90の左端付近および右端付近における吸収電力が小さい。実施例1では、加熱対象物90の左端付近および右端付近における吸収電力は、加熱対象物90の中央付近のそれと比べてそれほど大きくない。
【0058】
このように、実施例1では、比較例1と比べて、加熱対象物90の左端付近および右端付近における吸収電力が小さい。すなわち、実施例1では、加熱対象物90全体がより均一に加熱されている。
【0059】
[効果]
本実施の形態の高周波加熱装置1Aによれば、以下の効果が得られる。
【0060】
電界調整部50は、第2電極12とグランドとの間に配置された切替部51a、51b、51cおよびインピーダンス素子52a、52b、52cを有する。切替部51a、51b、51cはそれぞれ、第2電極12a、12b、12cを、インピーダンス素子52a、52b、52cを介してグランドに接続するか、または、グランドに直接接続するかを切り替える。
【0061】
本実施の形態によれば、第2電極12とグランドとの間のインピーダンスを調整することができる。これにより、第1電極11と複数の第2電極12との間に形成された領域S1、S2、S3における電界強度を個別に調整することができる。
【0062】
電界調整部50は、切替部51a、51b、51cを切り替えることにより、領域S1、S2、S3のうち中央の領域S2に対応する第2電極12をグランドに直接接続するとともに、中央以外の領域S1、S3に対応する第2電極12を、インピーダンス素子52a、52cを介してグランドに接続する。
【0063】
本実施の形態によれば、第1電極11および複数の第2電極12の周辺部付近に電界が集中することを抑制することができる。これにより、第1電極11と複数の第2電極12との間に生じる電界の強度のばらつきを低減することができる。その結果、均一な厚さを有する加熱対象物90における加熱ムラを低減することができる。
【0064】
[変形例]
本実施の形態では、第1電極11は矩形形状の電極である。しかし、第1電極11は、例えば、円形、楕円形または多角形形状の電極でもよい。
【0065】
本実施の形態では、複数の第2電極12は、第2電極12a、12b、12cを含む。しかし、第2電極12の数は三つに限定されない。
【0066】
本実施の形態では、複数の第2電極12はすべて、矩形形状の電極である。しかし、複数の第2電極12は、例えば、円形、楕円形または多角形形状の電極を含んでもよい。
【0067】
本実施の形態では、複数の第2電極12は、XY平面においてマトリクス状に配置される。しかし、例えば、複数の第2電極12が、上面視で中央に配置された円形状電極と、その円形状電極を環状に取り囲むように配置された複数の電極を有してもよい。
【0068】
本実施の形態では、第1電極11の下方に複数の第2電極12が配置される。しかし、例えば、第1電極11の上方に複数の第2電極12が配置されてもよい。第1電極11および複数の第2電極12は、左右方向に対向して配置されてもよい。すなわち、第1電極11と複数の第2電極12とは、対向して配置されていればよい。
【0069】
本実施の形態では、第1電極11、複数の第2電極12、電界調整部50は、加熱室13内に配置される。しかし、第1電極11、複数の第2電極12、電界調整部50は、加熱室13外に配置されてもよい。
【0070】
本実施の形態では、
図2に示すように、高周波電源20は、発振器21と、増幅器22、23とを備える。しかし、高周波電源20は、高周波電圧を印加することができれば、他の構成を有してもよい。
【0071】
本実施の形態では、
図3に示すように、整合部30は、コイルL1、L2と、可変容量コンデンサVC1、VC2とを備える。しかし、整合部30は、高周波電源20とのインピーダンス整合を取ることができれば、他の構成を有してもよい。
【0072】
本実施の形態では、制御部40は、高周波電源20を制御する。しかし、制御部40は、高周波電源20を制御するだけでなく、使用者により入力された情報に基づいて、電界調整部50を制御してもよい。
【0073】
具体的には、使用者は入力部(図示せず)を用いて、加熱対象物90のうち強く加熱したい領域と弱く加熱したい領域とを含む情報を入力する。制御部40は、入力部により得られた情報に基づいて、切替部51a、51b、51cを切り替える。本構成により、使用者により入力された情報に基づいて、電界強度を調整することができる。
【0074】
本実施の形態では、電界調整部50において、一つの第2電極12が、一つの切替部と一つのインピーダンス素子とに接続される。しかし、一つの第2電極12が、複数の切替部と複数のインピーダンス素子とに接続されてもよい。本構成により、多段階で電界強度を調整することができる。
【0075】
本実施の形態では、切替部51a、51b、51cがそれぞれ、第2電極12a、12b、12cを、インピーダンス素子52a、52b、52cを介してグランドに接続するか、または、グランドに直接接続するかを切り替える。しかし、本開示はこれに限定されない。
【0076】
切替部51a、51b、51cを切り替えることにより、第2電極12a、12b、12cとグランドとの間のインピーダンスを調整することができればよい。例えば、切替部51aを切り替えると、第2電極12aが、インピーダンス素子52aとは異なるインピーダンスを有するインピーダンス素子に接続されるようにしてもよい。
【0077】
本実施の形態では、インピーダンス素子52a、52b、52cはコンデンサである。しかし、インピーダンス素子52a、52b、52cはコイルなどであってもよい。
【0078】
本実施の形態では、電界調整部50は、切替部51a、51b、51cを備える。しかし、電界調整部50は、切替部51a、51b、51cを備えなくてもよい。
【0079】
図10は、本実施の形態の変形例に係る電界調整部50aの構成を示す概略図である。
図10に示すように、電界調整部50aは切替部を有しない。電界調整部50aは、領域S1、S2、S3のうち中央の領域S2に対応する第2電極12をグランドに直接接続するとともに、領域S1、S2、S3のうち中央以外の領域S1、S3に対応する第2電極12をそれぞれインピーダンス素子52a、52cを介してグランドに接続する。
【0080】
本変形例によれば、本実施の形態に係る電界調整部50と同様の効果を得ることができる。
【0081】
電界調整部50aにおいて、中央の第2電極12bは常に接地される。しかし、電界調整部50aにおいて、中央の第2電極12bが、インピーダンス素子52a、52cより小さいインピーダンスを有するインピーダンス素子(図示せず)を介してグランドに接続されてもよい。
【0082】
本実施の形態では、電界調整部50はインピーダンス素子52a、52b、52cを備える。しかし、インピーダンス素子52a、52b、52cは浮遊容量で構成してもよい。第2電極12に何も接続しなくても、第2電極12とグランドとの間、または、第2電極12と加熱室13の壁面との間に生じる浮遊容量でインピーダンス素子を構成することができる。本構成により、インピーダンス素子52a、52b、52cを省くことができ、低コスト化と省スペース化とを図ることができる。
【0083】
(実施の形態2)
本開示の実施の形態2に係る高周波加熱装置1Bについて説明する。本実施の形態では、主に実施の形態1と異なる点について説明する。本実施の形態において、実施の形態1と同一または同等の要素については同じ符号を付し、重複する記載は省略する。
【0084】
図11は、高周波加熱装置1Bの構成を示す概略図である。
図12は、本実施の形態の電界調整部53の構成を示す概略図である。
図11、
図12に示すように、本実施の形態が実施の形態1と異なるのは、電界調整部53が、第1電極11と複数の第2電極12のそれぞれとの間隔を調整可能である点である。
【0085】
<電界調整部>
電界調整部53は、第2電極12a、12b、12cとグランドとをそれぞれ接続する可動部54a、54b、54cを備える。可動部54a、54b、54cは、第1電極11と直交する方向に第2電極12a、12b、12cをそれぞれ移動させる。本実施の形態では、可動部54a、54b、54cは、第2電極12a、12b、12cを高さ方向、すなわち、Z方向にそれぞれ移動させる。
【0086】
可動部54a、54b、54cはそれぞれ、長さが調整可能な棒状部材55a、棒状部材55b、棒状部材55cを有する。可動部54a、54b、54cはそれぞれ、棒状部材55a、55b、55cの長さを調整することにより、第2電極12a、12b、12cを移動させる。
【0087】
すなわち、棒状部材55a、55b、55cの長さを長くすると、第2電極12a、12b、12cはそれぞれ第1電極11に近づく。棒状部材55a、55b、55cの長さを短くすると、第2電極12a、12b、12cはそれぞれ第1電極11から遠ざかる。
【0088】
本構成により、第1電極11と第2電極12a、12b、12cとの間隔を変化させることができる。その結果、第1電極11と第2電極12a、12b、12cとの間に発生する電界強度を個別に調整することができる。
【0089】
具体的には、可動部54aが、第2電極12aを第1電極11に近づけると、電極間の電界強度P1は大きくなる。可動部54aが第2電極12aを第1電極11から遠ざけると、電極間の電界強度P1は小さくなる。このようにして、可動部54aは、第1電極11と第2電極12aとの間の領域S1における電界強度P1を調整する。
【0090】
同様に、可動部54bは、第1電極11と第2電極12bとの間の領域S2における電界強度P2を調整する。可動部54cは、第1電極11と第2電極12cとの間の領域S3における電界強度P3を調整する。
【0091】
本実施の形態では、電界調整部53は、領域S1、S2、S3のうち中央の領域S2に対応する第2電極12bと第1電極11との間隔を、中央以外の領域S1、S3に対応する第2電極12a、12cと第1電極11との間隔より狭くする。これにより、電界強度P1、P2、P3を同等にすることができる。
【0092】
[効果]
実施の形態2の高周波加熱装置1Bによれば、以下の効果が得られる。
【0093】
電界調整部53は、可動部54a、54b、54cにより、中央の領域S2に対応する第2電極12bと第1電極11との間隔を、中央以外の領域S1、S3に対応する第2電極12a、12bと第1電極11との間隔より狭くする。
【0094】
本構成により、第1電極11および複数の第2電極12の周辺部付近に電界が集中することを抑制することができる。これにより、第1電極11と複数の第2電極12との間に生じる電界の強度のばらつきを低減することができる。その結果、均一な厚さを有する加熱対象物90における加熱ムラを低減することができる。
【0095】
[変形例]
図13は、本実施の形態の変形例に係る電界調整部53aの構成を示す概略図である。
図13に示すように、電界調整部53aは、所定の長さを有して第2電極12とグランドとを接続する棒状部材56a、56b、56cを備える。
【0096】
具体的には、第2電極12bを接地する棒状部材56bは、第2電極12a、12cをそれぞれ接地する棒状部材56a、棒状部材56cより長い。本変形例によれば、本実施の形態に係る電界調整部53と同様の効果を得ることができる。
【0097】
電界調整部53aが、棒状部材56a、56b、56cの代わりに、厚さの異なる複数の第2電極12を有してもよい。具体的には、第2電極12bを第2電極12a、12cより厚くすれば、第2電極12bと第1電極11との間隔は、第2電極12a、12cと第1電極11との間隔より狭くなる。本変形例によれば、本実施の形態に係る電界調整部53と同様の効果を得ることができる。
【0098】
(実施の形態3)
本開示の実施の形態3に係る高周波加熱装置1Cについて説明する。実施の形態3では、主に実施の形態1と異なる点について説明する。本実施の形態において、実施の形態1と同一または同等の要素については同じ符号を付し、重複する記載は省略する。
【0099】
図14は、高周波加熱装置1Cの構成を示す概略図である。
図14に示すように、本実施の形態が実施の形態1と異なるのは、検知部60が設けられること、制御部40が電界調整部50を制御すること、および、加熱対象物90aが不均一な厚さを有することである。
【0100】
<検知部>
検知部60は、加熱室13内の側壁上の、第1電極11と複数の第2電極12との間の高さに配置される。検知部60は、第1電極11と複数の第2電極12との間に配置された加熱対象物90aの形状を検知する、例えば、カメラ、超音波センサなどである。
【0101】
<制御部>
制御部40は、検知部60で検知された加熱対象物90aの形状に関する情報を受信する。制御部40は、加熱対象物90aの形状に基づいて、電界調整部50を制御する。
【0102】
図15は、高周波加熱装置1Cにおいて、電界強度を調整せずに加熱対象物90aを加熱した場合における加熱対象物90aの温度分布を模式的に示す。本解析では、加熱対象物90aとして牛肉のブロックを用いた。加熱後、加熱対象物90aを中央で縦に二等分し、その断面をサーモビュワにより温度分布を測定した。
【0103】
図15に示すように、中央付近の肉厚部の温度が、周囲部付近の温度より高い。このことから、肉薄部より肉厚部に電界が集中したことがわかる。
【0104】
制御部40は、加熱対象物90aの形状に基づいて、加熱対象物90aの肉厚部および肉薄部を特定する。制御部40は、第1電極11と複数の第2電極12との間の複数の領域のうちの、加熱対象物90aの肉厚部が位置する領域の電界強度を小さくするように、電界調整部50を制御する。または、制御部40は、加熱対象物90aの肉薄部が位置する領域の電界強度を大きくするように、電界調整部50を制御する。
【0105】
図16は、高周波加熱装置1Cにおいて、電界強度を調整せずに加熱対象物90aを加熱する状態を模式的に示す。
図16に示すように、電界強度を調整せずに加熱対象物90aを加熱すると、中央の領域S2の電界強度P2は、周辺部の領域S1、S3の電界強度P1、P3に比べて大きくなる。
【0106】
図17は、高周波加熱装置1Cにおいて、電界強度を調整して加熱対象物90aを加熱する状態を模式的に示す。
【0107】
図17に示すように、制御部40は、複数の領域S1、S2、S3のうち、加熱対象物90aの肉厚部が位置する領域S2に対応する切替部51bをオフする。制御部40は、複数の領域S1、S2、S3のうち、加熱対象物90aの肉薄部が位置する領域S1、S3にそれぞれ対応する切替部51a、51cをオンする。
【0108】
これにより、加熱対象物90aの肉薄部が位置する領域S1、S3の電界強度P1、P3を、加熱対象物90aの肉厚部が位置する領域S2の電界強度P2と同等にすることができる。その結果、不均一な厚さを有する加熱対象物90aにおける加熱ムラを低減することができる。
【0109】
[高周波加熱装置1Cの解析]
ここで、高周波加熱装置1Cにおける電界分布の解析について説明する。この電界分布の解析は、高周波加熱装置1Cの解析モデルとANSYS社のHFSSとを用いて行われた。
【0110】
図18は、電界分布の解析に用いた解析モデル81の模式的正面図である。
図18に示すように、解析モデル81は、高周波加熱装置1Cの構成をモデル化したものである。解析モデル81における加熱室13、第1電極11、第2電極12は、解析モデル80のそれと同じである。本解析では、上面視において矩形状の加熱対象物90bが使用される。
【0111】
加熱対象物90bは、一定の厚さを有する平板部分91と、X軸の正方向に向かって加熱対象物90bの上面が下方向に傾斜し、厚さが徐々に薄くなる傾斜部分92とを有する。加熱対象物90bは、幅200mm×奥行き200mm×最大高さ20mmの寸法を有する。平板部分91は、幅85mm×奥行き200mm×高さ20mmの寸法を有する。傾斜部分92は、幅115mm×奥行き200mmの寸法を有し、厚さは20mmから10mmに徐々に減少する。
【0112】
解析モデル81を用いて行った電界分布の解析結果について説明する。ここでは、電界強度を調整した場合の電界分布の解析結果を実施例2として説明する。実施例2との比較のため、電界強度を調整しない場合の電界分布の解析結果を比較例2とする。
【0113】
実施例2では、第1電極11と複数の第2電極12との間の複数の領域のうち、傾斜部分92が位置する領域に対応する第2電極12と中央の領域に対応する第2電極12とがグランドに直接接続され、それ以外の領域に対応する第2電極12が、インピーダンス素子を介してグランドに接続される。比較例2では、すべての第2電極12が、インピーダンス素子を介してグランドに接続される。
【0114】
図19は、比較例2における加熱対象物90の上面の電界分布を模式的に示す。
図20は、実施例2における加熱対象物90の上面の電界分布を模式的に示す。
図19に示すように、比較例2では、平板部分91に電界が集中している。
図20に示すように、実施例2では、比較例2と比べて平板部分91の電界集中が抑制されており、加熱対象物90bの全面にわたって、より均一に電界が分布している。
【0115】
次に、実施例2と比較例2とにおける加熱対象物90bの吸収電力分布について説明する。
図21は、吸収電力分布の解析に用いる加熱対象物90bの幅方向における位置の定義を示す。
【0116】
図21に示すように、
図8と同様に、加熱対象物90bの幅方向、すなわち、X軸方向の位置をB(mm)で表す。上述のように、加熱対象物90bの幅は200mmであるので、B=0mmの位置が加熱対象物90bの左端となり、B=200mmの位置が加熱対象物90bの右端となる。平板部分91は左側に配置され、傾斜部分92は右側に配置される。
【0117】
図22は、実施例2および比較例2における加熱対象物90bの吸収電力分布を示すグラフである。本解析においては、実施例2と比較例2とで負荷とのインピーダンス整合が異なるため、
図22では、縦軸が次式で算出される吸収電力比を表す。
【0118】
(吸収電力比)=(各位置の吸収電力)/(吸収電力の平均値)
図22において、B=0mmからB=85mmまでが加熱対象物90bの平板部分91に対応する。B=85mmからB=200mmまでが加熱対象物90bの傾斜部分92に対応する。
図22に示すように、比較例2では、平板部分91における吸収電力比が傾斜部分92のそれより大きい。
【0119】
すなわち、比較例2では、平板部分91に電界が集中し、傾斜部分92の電界強度は小さい。実施例2では、傾斜部分92における吸収電力比は比較例2より大きく、平板部分91における吸収電力比は比較例2より小さい。
【0120】
このように、実施例2では、平板部分91より薄い傾斜部分92における吸収電力比が比較例2より大きい。すなわち、加熱対象物90bの形状に基づいて電界調整部50と制御することにより、不均一な厚さを有する加熱対象物90bにおける加熱ムラを低減することができる。
【0121】
[効果]
本実施の形態の高周波加熱装置1Cによれば、以下の効果が得られる。
【0122】
制御部40は、第1電極11と複数の第2電極12との間において、加熱対象物90aの肉薄部が位置する領域S1、S3の電界強度を大きくするように、切替部51a、51cを制御する。
【0123】
または、制御部40は、第1電極11と複数の第2電極12との間において、加熱対象物90aの肉厚部が位置する領域S2の電界強度を小さくするように、切替部51bを制御する。その結果、不均一な厚さを有する加熱対象物90aにおける加熱ムラを低減することができる。
【0124】
[変形例]
制御部40は、検知部60による検知結果の代わりに使用者により入力された情報に基づいて、電界調整部50を制御してもよい。例えば、使用者が入力部を操作して、加熱対象物90aのうち強く加熱したい領域と、弱く加熱したい領域とを指定する。制御部40は、入力部からの情報に基づいて電界調整部50の複数の切替部51a、51b、51cの切替を制御する。これにより、使用者により入力された情報に基づいて、電界強度を調整することができる。
【0125】
(実施の形態4)
本開示の実施の形態4に係る高周波加熱装置1Dについて説明する。本実施の形態では、主に実施の形態3と異なる点について説明する。本実施の形態において、実施の形態3と同一または同等の要素については同じ符号を付し、重複する記載は省略する。
【0126】
図23は、高周波加熱装置1Dの構成を示す概略図である。
図23に示すように、本実施の形態が実施の形態3と異なるのは、本実施の形態が、電界調整部50の代わりに、実施の形態2で説明した電界調整部53を有する点である。
【0127】
<制御部>
図24は、高周波加熱装置1Dにおいて、電界強度を調整せずに加熱対象物90aを加熱する状態を模式的に示す。
図24に示すように、電界強度を調整せずに加熱対象物90aを加熱すると、中央の領域S2の電界強度P2は、周辺部の領域S1、S3の電界強度P1、P3に比べて大きくなる。
【0128】
図25は、高周波加熱装置1Dにおいて、電界強度を調整して加熱対象物90aを加熱する状態を模式的に示す。
【0129】
図25に示すように、制御部40は、加熱対象物90aの形状に基づいて、複数の領域S1、S2、S3のうち、中央の領域S2に対応する第2電極12bを、中央以外の領域S1、S3に対応する第2電極12a、12cより第1電極11から遠ざけるように、電界調整部53を制御する。
【0130】
これにより、第1電極11と第2電極12a、12cとの間隔は、第1電極11と第2電極12bとの間隔より狭くなる。その結果、領域S1、S3における電界強度P1、P3を、加熱対象物90aの肉厚部が位置する領域S2の電界強度P2と同等にすることができる。すなわち、不均一な厚さを有する加熱対象物90aにおける加熱ムラを低減することができる。
【0131】
[効果]
本実施の形態の高周波加熱装置1Dによれば、加熱対象物90aの形状に基づいて、第1電極11と複数の第2電極12との間の電界強度を調整することにより、不均一な厚さを有する加熱対象物90aにおける加熱ムラを低減することができる。
【0132】
(実施の形態5)
本開示の実施の形態5に係る高周波加熱装置1Eについて説明する。本実施の形態では、主に実施の形態4と異なる点について説明する。本実施の形態において、実施の形態4と同一または同等の要素については同じ符号を付し、重複する記載は省略する。
【0133】
図26は、高周波加熱装置1Eの構成を示す概略図である。
図26に示すように、本実施の形態が実施の形態4と異なるのは、本実施の形態が、検知部60の代わりに検知部60aを有する点である。検知部60aは、赤外線センサで構成され、第1電極11と複数の第2電極12との間に配置された加熱対象物90aの温度を検知する。
【0134】
<制御部>
制御部40は、検知部60aにより検知された加熱対象物90aの温度に基づいて、電界調整部53を制御する。具体的には、制御部40が、温度が高い領域の第2電極12を加熱対象物90aから遠ざけて電界強度を小さくする。または、制御部40が、温度が低い領域の第2電極12を加熱対象物90aに近づけて電界強度を大きくする。
【0135】
[効果]
本実施の形態の高周波加熱装置1Eによれば、加熱対象物90aの温度分布に応じて、第1電極11と複数の第2電極12との間の電界強度を調整することにより、不均一な厚さを有する加熱対象物90aにおける加熱ムラを低減することができる。
【0136】
[変形例]
本実施の形態は、実施の形態1~4のいずれとも組み合わせることが可能である。すなわち、実施の形態1~4において、検知部60の代わりに検知部60aを備え、制御部40が、検知部60aにより検知された温度に基づいて電界調整部50、53を制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本開示に係る高周波加熱装置は、例えば、解凍機、加熱調理機、食材や木材の乾燥装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0138】
1A、1B、1C、1D、1E 高周波加熱装置
11 第1電極
12、12a、12b、12c 第2電極
13 加熱室
14 載置台
20 高周波電源
21 発振器
22、23 増幅器
30 整合部
40 制御部
50、50a、53、53a 電界調整部
51a、51b、51c 切替部
52a、52b、52c インピーダンス素子
54a、54b、54c 可動部
55a、55b、55c、56a、56b、56c 棒状部材
60、60a 検知部
80、81 解析モデル
90、90a、90b 加熱対象物
91 平板部分
92 傾斜部分