(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C08G 59/30 20060101AFI20230922BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230922BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230922BHJP
B32B 15/092 20060101ALI20230922BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08G59/30
C08J5/24 CFC
B32B15/08 Q
B32B15/092
H05K1/03 610L
H05K1/03 630H
H05K1/03 610R
(21)【出願番号】P 2021511499
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013020
(87)【国際公開番号】W WO2020203469
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】201910248491.4
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新居 大輔
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-191953(JP,A)
【文献】特開2000-239491(JP,A)
【文献】特開2000-007898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物と、硬化剤と、を含有し、
前記エポキシ化合物は、分子中にリン原子を有するリン含有エポキシ化合物を含み、
前記硬化剤は、分子中にリン原子及び酸無水物基を有するリン含有酸無水物を含む、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物は、分子中にリン原子を含まず、かつ、エポキシ基を少なくとも2つ以上有する多官能エポキシ化合物を更に含む、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤は、分子中にリン原子を含まないリン非含有硬化剤を更に含む、
請求項1
又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ化合物及び前記硬化剤の合計質量に対するリン含有量が1.3質量%以上3.7質量%以下の範囲内である、
請求項1
~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン含有酸無水物の含有量が、前記リン含有エポキシ化合物及び前記リン含有酸無水物の合計100質量部に対して、5質量部以上70質量部以下の範囲内である、
請求項1
~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記多官能エポキシ化合物は、分子中にナフタレン骨格及びジシクロペンタジエン骨格の少なくともいずれかの骨格を有する多官能エポキシ化合物を含む、
請求項2
~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記リン非含有硬化剤は、多官能酸無水物、脂環式多官能酸無水物、及びスチレン無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む、
請求項3
~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記リン含有エポキシ化合物は、下記式(1)の構造を有する、
【化1】
請求項1
~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記エポキシ化合物と前記硬化剤との当量比が1:0.75~1:1.25の範囲内である、
請求項1
~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
無機フィラーを更に含有し、
前記無機フィラーの含有量が、前記エポキシ化合物及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、20質量部以上150質量部以下の範囲内である、
請求項1
~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
基材と、前記基材に含浸された請求項1
~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層と、を備える、
プリプレグ。
【請求項12】
請求項1
~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層と、前記樹脂層を支持する支持フィルムと、を備える、
樹脂付きフィルム。
【請求項13】
請求項1
~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層と、前記樹脂層が接着された金属箔と、を備える、
樹脂付き金属箔。
【請求項14】
請求項1
~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項11に記載のプリプレグの硬化物で形成された絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に形成された金属層と、を備える、
金属張積層板。
【請求項15】
請求項1
~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項11に記載のプリプレグの硬化物で形成された絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に形成された導体配線と、を備える、
プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板に関する。より詳細には本開示は、エポキシ化合物と硬化剤とを含有する樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2001-283639号公報)は、ビルドアップ基板用絶縁樹脂組成物を開示する。このビルドアップ基板用絶縁樹脂組成物は、成分Aと、成分Bとを必須成分としている。成分Aは、2個以上のエポキシ基を有するエポキシオリゴマである。成分Bは、10-(2.5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドまたはジヒドロ-3-((6-オキシド-6H-ジベンズ(c,e)(1,2)オキサフォスフォリン-6-イル)メチル)-2,5-フランジオンからなるエポキシ硬化剤である。
【0003】
特許文献1のビルドアップ基板用絶縁樹脂組成物は、ハロゲンフリーであり、アルカリなどに対する耐性に優れ、機械的特性にも優れている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のビルドアップ基板用絶縁樹脂組成物では、良好な誘電特性が得られにくい。通信技術は今後も進歩し続けることが予想され、高速通信技術の一端を担うプリント配線板の材料には、誘電特性などの更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の目的は、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる樹脂組成物、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板を提供することにある。
【0007】
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、エポキシ化合物と、硬化剤と、を含有する。前記エポキシ化合物は、分子中にリン原子を有するリン含有エポキシ化合物を含む。前記硬化剤は、分子中にリン原子及び酸無水物基を有するリン含有酸無水物を含む。
【0008】
本開示の一態様に係るプリプレグは、基材と、前記基材に含浸された前記樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る樹脂付きフィルムは、前記樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層と、前記樹脂層を支持する支持フィルムと、を備える。
【0010】
本開示の一態様に係る樹脂付き金属箔は、前記樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層と、前記樹脂層が接着された金属箔と、を備える。
【0011】
本開示の一態様に係る金属張積層板は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物で形成された絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に形成された金属層と、を備える。
【0012】
本開示の一態様に係るプリント配線板は、前記樹脂組成物の硬化物又は前記プリプレグの硬化物で形成された絶縁層と、前記絶縁層の片面又は両面に形成された導体配線と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るプリプレグの概略断面図である。
【
図2】
図2Aは、本開示の一実施形態に係る樹脂付きフィルム(保護フィルムなし)の概略断面図である。
図2Bは、本開示の一実施形態に係る樹脂付きフィルム(保護フィルムあり)の概略断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る樹脂付き金属箔の概略断面図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る金属張積層板の概略断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係るプリント配線板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)概要
本発明者は、誘電特性に優れた硬化物が得られる樹脂組成物を開発するにあたって、低誘電率樹脂の耐燃性が低い点に着目した。従来の手法で耐燃性を向上させようとすると、ガラス転移温度(Tg)が低下したり、接着性などが低下したりするおそれがあるが、本発明者は、鋭意研究の結果、以下のような樹脂組成物を開発した。
【0015】
本実施形態に係る樹脂組成物は、エポキシ化合物と、硬化剤と、を含有する。エポキシ化合物は、分子中にリン原子を有するリン含有エポキシ化合物を含む。硬化剤は、分子中にリン原子及び酸無水物基を有するリン含有酸無水物を含む。
【0016】
本実施形態の特徴の1つは、樹脂組成物に、リン含有エポキシ化合物と、リン含有酸無水物との両方が含有されている点にある。このように、リン含有エポキシ化合物とリン含有酸無水物とを併用すれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。硬化物は、プリント配線板5の絶縁層50などを形成し得る(
図5参照)。
【0017】
さらに本実施形態の特徴の1つは、リン含有エポキシ化合物と、リン含有酸無水物とが反応し得る点にもある。リン含有エポキシ化合物と、リン含有酸無水物とを併用する場合において、両者が反応している硬化物(以下、第1硬化物という)と、両者が反応していない硬化物(以下、第2硬化物という)とを対比すると、第1硬化物と第2硬化物とのリン含有量が同じであっても、第1硬化物の方が、第2硬化物に比べて、耐燃性が優れている。
【0018】
ここで、ガラス転移温度(Tg)を高める技術的意義の1つは、以下のとおりである。すなわち、ガラス転移温度(Tg)が高いと、はんだ耐熱性(リフロー耐熱性)が向上する。はんだ耐熱性が向上すると、リフロー方式などでプリント配線板5に電子部品をはんだ付けする場合に、絶縁層50の膨れを抑制したり、導体配線51の断線を抑制したりすることができる。特に、高密度配線を有する多層プリント配線板では、良好なはんだ耐熱性が求められる。はんだ耐熱性が高ければ、多層プリント配線板であっても、層間接続の信頼性を確保し得る。
【0019】
また誘電特性に優れた硬化物は、プリント配線板5を高速通信用途に使用する場合に有効である。高速通信用のプリント配線板5に要求される項目として、例えば、(1)信号の伝播遅延を小さくすること、(2)信号の誘電損失を小さくすること、(3)特性インピーダンスを制御すること、(4)クロストークを少なくすること、などが挙げられる。
【0020】
(1)の項目の伝播遅延を小さくするには、導体配線51を短くすること、すなわち、高密度配線化を行うとともに、絶縁層50の比誘電率を低くすればよい。比誘電率が低いほど伝播速度が速くなる。
【0021】
(2)の項目に関しては、周波数が高くなると比誘電率とともに、誘電正接を低くすることが重要となる。
【0022】
(3)の項目に関しては、特性インピーダンスの変動要素として、絶縁層50の比誘電率、絶縁層50の厚さ、導体配線51の長さ、及び導体配線51の幅が挙げられる。ここで、特性インピーダンスを一定にした場合、絶縁層50の比誘電率が低いと、絶縁層50の厚さを薄くでき、軽量化とともに、導体配線51を一層短くすることができる。つまり、(1)の項目に寄与し得る。また絶縁層50の比誘電率が低いと、層間厚さを同じにした場合、導体配線51の幅を広くできるため、特性インピーダンスの制御が容易になり、(4)の項目のクロストークの減少にも寄与し得る。
【0023】
また耐薬品性に優れた硬化物は、レジスト除去に使用されるアルカリ水溶液に対して耐性がある。レジストの形成及び除去が繰り返し行われても、硬化物は、アルカリ水溶液に対して耐性がある。アルカリ水溶液としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、及び水酸化カリウム水溶液が挙げられる。なお、耐薬品性に優れた硬化物は、デスミア処理しても、穴の内径が拡大しにくい。
【0024】
(2)詳細
(2.1)樹脂組成物
本実施形態に係る樹脂組成物は、電気絶縁性を有し、プリント配線板などの基板材料として使用可能である。基板材料の具体例として、プリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、及びプリント配線板が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0025】
樹脂組成物は、エポキシ化合物と、硬化剤と、を含有する。好ましくは、樹脂組成物は、無機フィラーを更に含有する。樹脂組成物は、硬化促進剤を更に含有してもよい。
【0026】
樹脂組成物は、難燃剤を更に含有してもよい。この場合の難燃剤は、広義の難燃剤ではなく、狭義の難燃剤である。すなわち、広義の難燃剤には、リン含有エポキシ化合物及びリン含有酸無水物が含まれるが、狭義の難燃剤には、リン含有エポキシ化合物及びリン含有酸無水物は含まれない。ただし、難燃剤を含有しない樹脂組成物の硬化物(以下、第3硬化物という)と、難燃剤を更に含有する樹脂組成物の硬化物(以下、第4硬化物という)とを対比すると、第3硬化物と第4硬化物とのリン含有量が同じであっても、第3硬化物の方が、第4硬化物に比べて、耐燃性が優れている。
【0027】
樹脂組成物は、例えば、次のようにして調製される。すなわち、エポキシ化合物及び硬化剤を配合し、必要に応じて無機フィラー及び硬化促進剤を配合し、適当な溶媒で希釈し、これを撹拌及び混合して均一化する。
【0028】
樹脂組成物は、熱硬化性を有する。樹脂組成物は、加熱されると半硬化物となり、更に加熱されると硬化物となる。半硬化物は、半硬化状態の物質であり、硬化物は、硬化状態(不溶不融状態)の物質である。ここで、半硬化状態とは、硬化反応の中間段階(Bステージ)の状態を意味する。中間段階は、ワニス状態の段階(Aステージ)と、硬化状態の段階(Cステージ)との間の段階である。
【0029】
以下、樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0030】
(2.1.1)エポキシ化合物
エポキシ化合物は、プレポリマーであり、分子内に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有する化合物である。ところで、一般に「樹脂」という用語には、架橋反応前の材料としての樹脂(例えばエポキシ化合物など)と、架橋反応後の生成物(製品)としての樹脂との2つの意味がある。本明細書において「樹脂」とは、基本的には前者を意味する。
【0031】
本実施形態において、エポキシ化合物は、リン含有エポキシ化合物を含む。リン含有エポキシ化合物は、分子中にリン原子を有する。リン含有エポキシ化合物は、後述のリン含有酸無水物に対して反応性を有する。
【0032】
好ましくは、リン含有エポキシ化合物は、下記式(1)の構造を有する。
【0033】
【0034】
リン含有エポキシ化合物が、上記式(1)の構造を有すると、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られやすい。リン含有エポキシ化合物は、分子中に上記式(1)の構造を複数有していてもよい。リン含有エポキシ化合物は、分子中にリン原子を有していれば特に限定されないが、好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェニル型エポキシ化合物、キシリレン型エポキシ化合物、アリールアルキレン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物、アントラセン型エポキシ化合物、ノルボルネン型エポキシ化合物、フルオレン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド、及び10-[2-(ジヒドロキシナフチル)]-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイドの群の中から選ばれる物質に由来する構造を、分子中に1つ以上含む。
【0035】
好ましくは、エポキシ化合物は、多官能エポキシ化合物を更に含む。多官能エポキシ化合物は、分子中にリン原子を含まず、かつ、エポキシ基を少なくとも2つ以上有する。エポキシ化合物が、多官能エポキシ化合物を更に含めば、多官能エポキシ化合物に特有の性質を硬化物に付与し得る。
【0036】
多官能エポキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、キシリレン型エポキシ化合物、アリールアルキレン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物、アントラセン型エポキシ化合物、ノルボルネン型エポキシ化合物、及びフルオレン型エポキシ化合物などが挙げられる。樹脂組成物に含有されるエポキシ化合物は、1種のみでも2種以上でもよい。
【0037】
ビスフェノール型エポキシ化合物の具体例として、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、及びビスフェノールS型エポキシ化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0038】
ノボラック型エポキシ化合物の具体例として、フェノールノボラック型エポキシ化合物、及びクレゾールノボラック型エポキシ化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0039】
アリールアルキレン型エポキシ化合物の具体例として、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、ビフェニルジメチレン型エポキシ化合物、トリスフェノールメタンノボラック型エポキシ化合物、及びテトラメチルビフェニル型エポキシ化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0040】
好ましくは、多官能エポキシ化合物は、分子中にナフタレン骨格及びジシクロペンタジエン骨格の少なくともいずれかの骨格を有する多官能エポキシ化合物を含む。以下、特に、分子中にナフタレン骨格を有する多官能エポキシ化合物を「ナフタレン型エポキシ化合物」といい、分子中にジシクロペンタジエン骨格を有する多官能エポキシ化合物を「ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物」という場合がある。
【0041】
ナフタレン骨格は、剛直性及び疎水性を有する。したがって、多官能エポキシ化合物が、ナフタレン型エポキシ化合物を含めば、硬化物に耐熱性、低吸湿性、及び低線膨張率性を付与し得る。
【0042】
ナフタレン型エポキシ化合物の具体例として、ナフタレン骨格変性クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレンジオールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、メトキシナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ化合物、及びメトキシナフタレンジメチレン型エポキシ化合物などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0043】
ジシクロペンタジエン骨格は、嵩高い環状脂肪族炭化水素である。したがって、多官能エポキシ化合物が、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物を含めば、硬化物に良好な誘電特性、低吸湿性、及び耐熱性を付与し得る。
【0044】
(2.1.2)硬化剤
硬化剤は、リン含有酸無水物を含む。リン含有酸無水物は、分子中にリン原子及び酸無水物基を有する。リン含有酸無水物は、上述のリン含有エポキシ化合物に対して反応性を有する。
【0045】
リン含有酸無水物は、特に限定されないが、例えば、下記式(A)及び/又は下記式(B)で表される構造と、酸無水物基と、を分子中に含むことが好ましい。酸無水物基は、好ましくは環状酸無水物基を含む。
【0046】
【0047】
特にリン含有酸無水物は、上記式(A)を分子中に含むことが好ましい。上記式(A)を分子中に含むリン含有酸無水物として、例えば、下記式(2)で表されるジヒドロ-3-((6-オキシド-6H-ジベンズ(c,e)(1,2)オキサフォスフォリン-6-イル)メチル)-2,5-フランジオンが挙げられる。下記式(2)で表されるリン含有酸無水物であれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られやすい。
【0048】
【0049】
好ましくは、硬化剤は、リン非含有硬化剤を更に含む。リン非含有硬化剤は、分子中にリン原子を含まない。硬化剤が、リン非含有硬化剤を更に含めば、リン非含有硬化剤に特有の性質を硬化物に付与し得る。
【0050】
好ましくは、リン非含有硬化剤は、多官能酸無水物、脂環式多官能酸無水物、及びスチレン無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む。これにより、多官能酸無水物、脂環式多官能酸無水物、及びスチレン無水マレイン酸共重合体の各々に特有の性質を硬化物に付与し得る。
【0051】
多官能酸無水物は、分子内に少なくとも2つ以上の酸無水物基を有する化合物である。多官能酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)、無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、及び2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)が挙げられる。単官能酸無水物(分子内に1つの酸無水物基を有する化合物)よりも、多官能酸無水物を使用することで、硬化物の架橋密度が高くなりやすい。そのため、多官能酸無水物は、硬化物のガラス転移温度(Tg)を向上し得る。
【0052】
脂環式多官能酸無水物は、多官能酸無水物であり、さらに芳香族性を有しない飽和又は不飽和の炭素環を少なくとも1つ以上有する化合物である。脂環式多官能酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物(MCTC)、及び水添シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)が挙げられる。脂環式多官能酸無水物は、硬化物を低誘電率化し得る。特に水添された脂環式多官能酸無水物は有効である。なお、水添は、水素化又は水素添加反応と同義である。
【0053】
スチレン無水マレイン酸共重合体は、スチレンモノマーと無水マレイン酸との共重合により生成される二元共重合体(コポリマー)であり、酸無水物基を2つ以上有する酸無水物である。スチレン無水マレイン酸共重合体は、硬化物の耐薬品性(特に耐アルカリ性)を向上し得る。
【0054】
スチレンモノマーと無水マレイン酸との配列による違いにより、スチレン無水マレイン酸共重合体は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体に分類される。これらの共重合体のいずれを用いてもよい。
【0055】
スチレン無水マレイン酸共重合体の酸価は、好ましくは275以上550以下の範囲内である。酸価は、スチレン無水マレイン酸共重合体1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数により表される。酸価が275以上であると、硬化物の接着性が向上し得る。具体的には、金属張積層板4及びプリント配線板5のピール強度を向上させることができる。
【0056】
スチレン無水マレイン酸共重合体において、スチレンモノマーと無水マレイン酸とのモル比は特に限定されない。例えばモル比は1:1~3:1である。
【0057】
スチレン無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量は特に限定されない。例えば重量平均分子量は4500以上9000以下の範囲内である。
【0058】
好ましくは、エポキシ化合物及び硬化剤の合計質量に対するリン含有量が1.3質量%以上3.7質量%以下の範囲内である。リン含有量が1.3質量%以上であることで、硬化物の耐燃性を向上させることができる。硬化物のリン含有量が3.7質量%以下であることで、硬化物の耐薬品性(特に耐アルカリ性)の低下を抑制することができる。なお、樹脂組成物が難燃剤を更に含有する場合には、リン含有量は、エポキシ化合物、硬化剤及び難燃剤の合計質量を基準とする。
【0059】
リン含有酸無水物の含有量は、リン含有エポキシ化合物及びリン含有酸無水物の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上70質量部以下の範囲内であり、より好ましくは7質量部以上66質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは25質量部以上55質量部以下の範囲内である。リン含有酸無水物の含有量が5質量部以上であることで、硬化物の耐燃性及びガラス転移温度(Tg)の低下を抑制することができる。リン含有酸無水物の含有量が70質量部以下であることで、硬化物の耐燃性の低下を抑制することができる。
【0060】
好ましくは、エポキシ化合物と硬化剤との当量比が1:0.75~1:1.25の範囲内である。言い換えると、(硬化剤の当量)/(エポキシ化合物の当量)が0.75以上1.25以下の範囲内である。エポキシ化合物と硬化剤との当量比が上記の範囲内であることで、硬化物の耐燃性及びガラス転移温度(Tg)の低下を抑制することができる。
【0061】
ここで、エポキシ化合物の当量(eq)は、樹脂組成物に含有されるエポキシ化合物の質量(g)を、そのエポキシ化合物のエポキシ当量(g/eq)で除して得られる。なお、エポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含むエポキシ化合物の質量である。
【0062】
樹脂組成物が複数のエポキシ化合物を含有する場合には、樹脂組成物のエポキシ化合物の当量は、各エポキシ化合物の当量の合計である。
【0063】
硬化剤(酸無水物)の当量(eq)は、樹脂組成物に含有される硬化剤の質量(g)を、その硬化剤の酸無水物当量(g/eq)で除して得られる。なお、酸無水物当量とは、1当量の酸無水物基を含む硬化剤の質量である。
【0064】
樹脂組成物が複数の硬化剤を含有する場合には、樹脂組成物の硬化剤の当量は、各硬化剤の当量の合計である。
【0065】
(2.1.3)無機フィラー
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ホウアルミニウム、セピオライト、窒化ホウ素、及び窒化ケイ素が挙げられる。無機フィラーの形状は、球形が好ましい。
【0066】
樹脂組成物が無機フィラーを更に含有する場合、無機フィラーの含有量は、エポキシ化合物及び硬化剤の合計100質量部に対して、好ましくは20質量部以上150質量部以下の範囲内である。無機フィラーの含有量が20質量部以上であることで、硬化物の耐燃性が向上し得る。また硬化物の線膨張率を低減したり、硬化収縮を抑制したり、熱伝導性を向上させたりすることができる。これにより、リフロー耐熱性も向上し得る。さらに、導体配線51を2層以上有するプリント配線板5においては、層間接続の信頼性も確保し得る。無機フィラーの含有量が150質量部以下であることで、硬化物が低誘電率化し得る。また金属張積層板4及びプリント配線板5のピール強度が向上し得る。さらに樹脂組成物の溶融時の流動性の低下を抑制しつつ、成形に適した流動性を維持することができる。
【0067】
(2.1.4)硬化促進剤
硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール化合物及びジシアンジアミドが挙げられる。イミダゾール化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0068】
(2.2)プリプレグ
図1に本実施形態に係るプリプレグ1を示す。プリプレグ1は、全体としてシート状又はフィルム状である。プリプレグ1は、金属張積層板4の材料、プリント配線板5の材料、及びプリント配線板5の多層化(ビルドアップ法)などに利用される。
【0069】
プリプレグ1は、基材11と、樹脂層10と、を備える。樹脂層10は、基材11に含浸された樹脂組成物の半硬化物で形成されている。
【0070】
1枚のプリプレグ1は、少なくとも1枚の基材11を備える。基材11の厚さは、特に限定されないが、例えば、8μm以上100μm以下の範囲内である。基材11の具体例として、織布及び不織布が挙げられる。織布の具体例として、ガラスクロスが挙げられるが、特にこれに限定されない。不織布の具体例として、ガラス不織布が挙げられるが、特にこれに限定されない。ガラスクロス及びガラス不織布は、ガラス繊維で形成されているが、ガラス繊維以外の強化繊維で形成されていてもよい。ガラス繊維を構成するガラスの種類としては、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Tガラス、Sガラス、Qガラス、UTガラス、NEガラス及びLガラスが挙げられる。強化繊維の具体例として、芳香族ポリアミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)(PBO)繊維、及び、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂繊維が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0071】
プリプレグ1は加熱されると一度溶融した後、完全に硬化して硬化状態となる。プリプレグ1の硬化物は、基板の絶縁層を形成し得る。
【0072】
プリプレグ1の厚さは、特に限定されないが、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下である。これにより絶縁層の厚さを薄くすることができ、基板の薄型化を実現することができる。プリプレグ1の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0073】
プリプレグ1の樹脂層10は、本実施形態に係る樹脂組成物で形成されているので、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0074】
(2.3)樹脂付きフィルム
図2Aに本実施形態に係る樹脂付きフィルム2を示す。樹脂付きフィルム2は、全体としてフィルム状又はシート状である。樹脂付きフィルム2は、樹脂層20と、支持フィルム21と、を備える。樹脂付きフィルム2は、プリント配線板5の多層化(ビルドアップ法)などに利用される。
【0075】
樹脂層20は、樹脂組成物の半硬化物で形成されている。半硬化物は、加熱されることにより、硬化物となり得る。このようにして樹脂層20は、絶縁層を形成し得る。
【0076】
樹脂層20の厚さは、特に限定されないが、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下である。これにより絶縁層の厚さを薄くすることができ、基板の薄型化を実現することができる。樹脂層20の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0077】
支持フィルム21は、樹脂層20を支持している。このように支持することで、樹脂層20を扱いやすくなる。
【0078】
支持フィルム21は、例えば電気絶縁性フィルムであるが、特にこれに限定されない。支持フィルム21の具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリアリレートフィルム等が挙げられる。支持フィルム21は、これらのフィルムに限定されない。
【0079】
支持フィルム21の樹脂層20を支持する面には離型剤層(不図示)が設けられていてもよい。離型剤層によって、支持フィルム21は、必要に応じて樹脂層20から剥離可能である。好ましくは、樹脂層20を硬化させて絶縁層を形成した後に、この絶縁層から支持フィルム21が剥離される。
【0080】
図2Aでは、樹脂層20の一方の面を支持フィルム21が被覆しているが、
図2Bに示すように、樹脂層20の他方の面を保護フィルム22で被覆してもよい。このように樹脂層20の両面を被覆することで、樹脂層20を更に扱いやすくなる。また異物が樹脂層20に付着することを抑制することができる。
【0081】
保護フィルム22は、例えば電気絶縁性フィルムであるが、特にこれに限定されない。保護フィルム22の具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、及びポリメチルペンテンフィルム等が挙げられる。保護フィルム22は、これらのフィルムに限定されない。
【0082】
保護フィルム22の樹脂層20に重ねられている面には離型剤層(不図示)が設けられていてもよい。離型剤層によって、保護フィルム22は、必要に応じて樹脂層20から剥離可能である。
【0083】
樹脂付きフィルム2の樹脂層20は、本実施形態に係る樹脂組成物で形成されているので、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0084】
(2.4)樹脂付き金属箔
図3に本実施形態に係る樹脂付き金属箔3を示す。樹脂付き金属箔3は、全体としてフィルム状又はシート状である。樹脂付き金属箔3は、樹脂層30と、金属箔31と、を備える。樹脂付き金属箔3は、プリント配線板5の多層化(ビルドアップ法)などに利用される。
【0085】
樹脂層30は、樹脂組成物の半硬化物で形成されている。半硬化物は、加熱されることにより、硬化物となり得る。このようにして樹脂層30は、絶縁層を形成し得る。
【0086】
樹脂層30の厚さは、特に限定されないが、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下である。これにより、樹脂層30が硬化して形成される絶縁層の厚さを薄くすることができ、基板の薄型化を実現することができる。樹脂層30の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0087】
金属箔31は、樹脂層30が接着されている。金属箔31の具体例として、銅箔が挙げられるが、特にこれに限定されない。金属箔31は、サブトラクティブ法などにおいて不要部分がエッチングにより除去されることで、導体配線を形成し得る。
【0088】
金属箔31の厚さは、特に限定されないが、好ましくは35μm以下、より好ましくは18μm以下である。金属箔31の厚さは5μm以上であることが好ましい。
【0089】
ところで、金属箔31は、いわゆるキャリア付き極薄金属箔(図示省略)の極薄金属箔(例えば極薄銅箔)で構成されてもよい。キャリア付き極薄金属箔は3層構造である。すなわち、キャリア付き極薄金属箔は、キャリアと、キャリアの表面に設けられた剥離層と、剥離層の表面に設けられた極薄金属箔と、を備えている。極薄金属箔は、単独では取り扱うのが難しいほど極薄であり、もちろんキャリアよりも薄い。キャリアは、極薄金属箔を保護し支持する役割を有する金属箔(例えば銅箔)である。キャリア付き極薄金属箔は、ある程度の厚さを有しているので取り扱いやすい。極薄金属箔及びキャリアの厚さは特に限定されないが、例えば、極薄金属箔の厚さは1μm以上10μm以下の範囲内であり、キャリアの厚さは18μm以上35μm以下の範囲内である。極薄金属箔は、必要に応じて剥離層から剥離可能である。
【0090】
キャリア付き極薄金属箔を使用する場合には、次のようにして樹脂付き金属箔3を製造することができる。すなわち、キャリア付き極薄金属箔の極薄金属箔の表面に樹脂組成物を塗布し、加熱して、樹脂層30を形成する。その後、極薄金属箔からキャリアを剥離する。極薄金属箔は、樹脂層30の表面に金属箔31として接着されている。剥離層は、キャリアと共に剥離されて、極薄金属箔の表面に残らないことが好ましいが、残っていたとしても容易に除去可能である。樹脂層30の表面に接着している極薄金属箔は、モディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)におけるシード層として利用可能であり、このシード層に電解めっき処理を行って導体配線を形成することができる。
【0091】
樹脂付き金属箔3の樹脂層30は、本実施形態に係る樹脂組成物で形成されているので、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0092】
(2.5)金属張積層板
図4に本実施形態に係る金属張積層板4を示す。金属張積層板4は、絶縁層40と、金属層41と、を備える。金属張積層板4は、プリント配線板5の材料などに利用される。
【0093】
絶縁層40は、樹脂組成物の硬化物又はプリプレグ1の硬化物で形成されている。
図4では、絶縁層40は、1枚の基材42を有しているが、2枚以上の基材42を有していてもよい。
【0094】
絶縁層40の厚さは、特に限定されない。絶縁層40の厚さが薄ければ基板の薄型化に有効である。絶縁層40の厚さは、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは40μm以下である。絶縁層40の厚さは10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。
【0095】
金属層41は、絶縁層40の片面又は両面に形成されている。金属層41としては、特に限定されないが、例えば金属箔が挙げられる。金属箔としては、特に限定されないが、例えば銅箔が挙げられる。
図4では、絶縁層40の両面に金属層41が形成されているが、絶縁層40の片面のみに金属層41が形成されていてもよい。絶縁層40の両面に金属層41が形成されている金属張積層板4は、両面金属張積層板である。絶縁層40の片面のみに金属層41が形成されている金属張積層板4は、片面金属張積層板である。
【0096】
金属層41の厚さは、特に限定されないが、好ましくは35μm以下、より好ましくは18μm以下である。金属層41の厚さは5μm以上であることが好ましい。
【0097】
ところで、金属層41は、上述のキャリア付き極薄金属箔の極薄金属箔で構成されてもよい。キャリア付き極薄金属箔を使用する場合には、次のようにして金属張積層板4を製造することができる。すなわち、1枚のプリプレグ1の片面又は両面にキャリア付き極薄金属箔を積層して成形してもよいし、複数枚のプリプレグ1を重ね、この片面又は両面にキャリア付き極薄金属箔を積層して成形してもよい。この場合、プリプレグ1の表面には、キャリア付き極薄金属箔の極薄金属箔を重ねる。積層成形後に、極薄金属箔からキャリアを剥離する。極薄金属箔は、プリプレグ1の硬化物である絶縁層40の表面に金属層41として接着されている。剥離層は、キャリアと共に剥離されて、極薄金属箔の表面に残らないことが好ましいが、残っていたとしても容易に除去可能である。絶縁層40の表面に接着している極薄金属箔は、モディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)におけるシード層として利用可能である。シード層の所定部分をめっきレジストで覆い、これ以外の部分に電解めっき処理を行う。その後、めっきレジストを剥離し、露出したシード層をエッチング等で除去することによって導体配線を形成することができる。
【0098】
金属張積層板4の絶縁層40は、本実施形態に係る樹脂組成物で形成されているので、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れている。ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以上である。比誘電率は、好ましくは3.60以下である。
【0099】
(2.6)プリント配線板
図5に本実施形態に係るプリント配線板5を示す。プリント配線板5は、絶縁層50と、導体配線51と、を備える。本明細書において「プリント配線板」とは、電子部品がはんだ付けされておらず、配線だけの状態のものを意味する。
【0100】
絶縁層50は、樹脂組成物の硬化物又はプリプレグ1の硬化物で形成されている。絶縁層50は、上述の金属張積層板4の絶縁層40と同様である。
【0101】
導体配線51は、絶縁層50の片面又は両面に形成されている。
図5では、絶縁層50の両面に導体配線51が形成されているが、絶縁層50の片面のみに導体配線51が形成されていてもよい。導体配線51の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、サブトラクティブ法、セミアディティブ法(SAP:Semi-Additive Process)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi-Additive Process)などが挙げられる。絶縁層50の接着性が向上しているので、導体配線51の幅が細くても、絶縁層50から導体配線51が剥離しにくい。つまり、本実施形態に係るプリント配線板5であれば、高密度配線化を実現し得る。
【0102】
プリント配線板5の絶縁層50は、本実施形態に係る樹脂組成物で形成されているので、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れている。したがって、本実施形態に係るプリント配線板5は、特に高速通信用に有効であると考えられる。
【0103】
(3)まとめ
上記実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0104】
第1の態様に係る樹脂組成物は、エポキシ化合物と、硬化剤と、を含有する。前記エポキシ化合物は、分子中にリン原子を有するリン含有エポキシ化合物を含む。前記硬化剤は、分子中にリン原子及び酸無水物基を有するリン含有酸無水物を含む。
【0105】
この態様によれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0106】
第2の態様に係る樹脂組成物では、第1の態様において、前記エポキシ化合物は、分子中にリン原子を含まず、かつ、エポキシ基を少なくとも2つ以上有する多官能エポキシ化合物を更に含む。
【0107】
この態様によれば、多官能エポキシ化合物に特有の性質を硬化物に付与し得る。
【0108】
第3の態様に係る樹脂組成物では、第1又は2の態様において、前記硬化剤は、分子中にリン原子を含まないリン非含有硬化剤を更に含む。
【0109】
この態様によれば、リン非含有硬化剤に特有の性質を硬化物に付与し得る。
【0110】
第4の態様に係る樹脂組成物では、第1~3のいずれかの態様において、前記エポキシ化合物及び前記硬化剤の合計質量に対するリン含有量が1.3質量%以上3.7質量%以下の範囲内である。
【0111】
この態様によれば、リン含有量が1.3質量%以上であることで、硬化物の耐燃性を向上させることができる。硬化物のリン含有量が3.7質量%以下であることで、硬化物の耐薬品性(特に耐アルカリ性)の低下を抑制することができる。
【0112】
第5の態様に係る樹脂組成物では、第1~4のいずれかの態様において、前記リン含有酸無水物の含有量が、前記リン含有エポキシ化合物及び前記リン含有酸無水物の合計100質量部に対して、5質量部以上70質量部以下の範囲内である。
【0113】
この態様によれば、リン含有酸無水物の含有量が5質量部以上であることで、硬化物の耐燃性及びガラス転移温度(Tg)の低下を抑制することができる。リン含有酸無水物の含有量が70質量部以下であることで、硬化物の耐燃性の低下を抑制することができる。
【0114】
第6の態様に係る樹脂組成物では、第2~5のいずれかの態様において、前記多官能エポキシ化合物は、分子中にナフタレン骨格及びジシクロペンタジエン骨格の少なくともいずれかの骨格を有する多官能エポキシ化合物を含む。
【0115】
この態様によれば、多官能エポキシ化合物が、ナフタレン型エポキシ化合物を含めば、硬化物に耐熱性、低吸湿性、及び低線膨張率性を付与し得る。多官能エポキシ化合物が、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物を含めば、硬化物に良好な誘電特性、低吸湿性、及び耐熱性を付与し得る。
【0116】
第7の態様に係る樹脂組成物では、第3~6のいずれかの態様において、前記リン非含有硬化剤は、多官能酸無水物、脂環式多官能酸無水物、及びスチレン無水マレイン酸共重合体からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む。
【0117】
この態様によれば、多官能酸無水物、脂環式多官能酸無水物、及びスチレン無水マレイン酸共重合体の各々に特有の性質を硬化物に付与し得る。
【0118】
第8の態様に係る樹脂組成物では、第1~7のいずれかの態様において、前記リン含有エポキシ化合物は、下記式(1)の構造を有する。
【0119】
【0120】
この態様によれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られやすい。
【0121】
第9の態様に係る樹脂組成物では、第1~8のいずれかの態様において、前記エポキシ化合物と前記硬化剤との当量比が1:0.75~1:1.25の範囲内である。
【0122】
この態様によれば、エポキシ化合物と硬化剤との当量比が上記の範囲内であることで、硬化物の耐燃性及びガラス転移温度(Tg)の低下を抑制することができる。
【0123】
第10の態様に係る樹脂組成物は、第1~9のいずれかの態様において、無機フィラーを更に含有する。前記無機フィラーの含有量が、前記エポキシ化合物及び前記硬化剤の合計100質量部に対して、20質量部以上150質量部以下の範囲内である。
【0124】
この態様によれば、無機フィラーの含有量が20質量部以上であることで、硬化物の線膨張率を低減したり、硬化収縮を抑制したり、熱伝導性を向上させたりすることができる。無機フィラーの含有量が150質量部以下であることで、樹脂組成物の溶融時の流動性の低下を抑制することができる。
【0125】
第11の態様に係るプリプレグ(1)は、基材(11)と、前記基材(11)に含浸された第1~10のいずれかの態様に係る樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層(10)と、を備える。
【0126】
この態様によれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0127】
第12の態様に係る樹脂付きフィルム(2)は、第1~10のいずれかの態様に係る樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層(20)と、前記樹脂層(20)を支持する支持フィルム(21)と、を備える。
【0128】
この態様によれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0129】
第13の態様に係る樹脂付き金属箔(3)は、第1~10のいずれかの態様に係る樹脂組成物の半硬化物で形成された樹脂層(30)と、前記樹脂層(30)が接着された金属箔(31)と、を備える。
【0130】
この態様によれば、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れた硬化物が得られる。
【0131】
第14の態様に係る金属張積層板(4)は、第1~10のいずれかの態様に係る樹脂組成物の硬化物又は第11の態様に係るプリプレグ(1)の硬化物で形成された絶縁層(40)と、前記絶縁層(40)の片面又は両面に形成された金属層(41)と、を備える。
【0132】
この態様によれば、絶縁層(40)は、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れている。
【0133】
第15の態様に係るプリント配線板(5)は、第1~10のいずれかの態様に係る樹脂組成物の硬化物又は第11の態様に係るプリプレグ(1)の硬化物で形成された絶縁層(50)と、前記絶縁層(50)の片面又は両面に形成された導体配線(51)と、を備える。
【0134】
この態様によれば、絶縁層(50)は、ガラス転移温度(Tg)が高く、誘電特性、接着性、耐薬品性、及び耐燃性に優れている。
【実施例】
【0135】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、実施例に限定されない。
【0136】
(1)樹脂組成物
樹脂組成物の原料として、以下のものを用意した。
【0137】
(1.1)エポキシ化合物
・リン含有エポキシ化合物(新日鉄住金化学株式会社製、商品名「FX-289-P」、エポキシ当量:390g/eq、リン含有量:3.5質量%)
・ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物(DIC株式会社製、商品名「HP-7200HHH」、エポキシ当量:280~290g/eq、軟化点:100~105℃)
・ナフタレン型エポキシ化合物(DIC株式会社製、商品名「HP-9500」、エポキシ当量:230g/eq)
(1.2)硬化剤
・リン含有酸無水物(ジヒドロ-3-((6-オキシド-6H-ジベンズ(c,e)(1,2)オキサフォスフォリン-6-イル)メチル)-2,5-フランジオン、酸無水物当量:332g/eq、式(2)参照)
・多官能酸無水物(新日本理化株式会社製、商品名「リカシッド TMEG-S」、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、酸無水物当量:204g/eq、軟化点:64~76℃)
・脂環式多官能酸無水物(DIC株式会社製、商品名「B-4500」、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物(MCTC)、粉末状酸無水物、酸無水物当量:132g/eq)
・スチレン無水マレイン酸共重合体(CRAY VALLEY社製、商品名「SMA EF30」、スチレン:無水マレイン酸(モル比)=3:1、酸価:275~285KOHmg/g、酸無水物当量:280g/eq、重量平均分子量:9500)
(1.3)無機フィラー
・シリカ(浙江華飛電子基材有限公司製、商品名「VF-40-YE3」、球状、粒径:1.51μm(D50)/トップカット10μm)
(1.4)硬化促進剤
・イミダゾール化合物(四国化成工業株式会社製、商品名「2E4MZ」、2-エチル-4-メチルイミダゾール)
(1.5)難燃剤
・分散型難燃剤(クラリアントジャパン株式会社製、商品名「OP-935」、ホスフィン酸アルミニウム、リン含有量:23質量%)
・反応型難燃剤(ケムチュラ・ジャパン株式会社製、商品名「Emerald 2000」、リン含有量:9.8質量%)
以上の樹脂組成物の原料を表1にまとめて示す。
【0138】
【0139】
そして、エポキシ化合物、硬化剤、無機フィラー、硬化促進剤及び難燃剤を表2に示す配合量で配合し、溶媒(メチルエチルケトン)で希釈し、これを撹拌及び混合して均一化することにより、ワニス状態の樹脂組成物を調製した。
【0140】
【0141】
表3に、エポキシ化合物及び硬化剤の当量、両者の当量比、並びにエポキシ化合物、硬化剤、難燃剤及び樹脂組成物のリン含有量を示す。
【0142】
【0143】
(2)プリプレグ
プリプレグは、上記の樹脂組成物を、基材であるガラスクロス(日東紡績株式会社製、商品名「7628タイプクロス」)に含浸させ、これを非接触タイプの加熱ユニットにより、110~140℃で加熱乾燥し、樹脂組成物中の溶媒を除去して、樹脂組成物を半硬化させることによって製造した。プリプレグのレジンコンテント(樹脂組成物の含有量)は、プリプレグの全質量に対して65質量%以上75質量%以下の範囲内であった。
【0144】
(3)金属張積層板
金属張積層板は、8枚のプリプレグ(340mm×510mm)を重ねるとともに、この両側に粗化面を内側にして銅箔(三井金属鉱業株式会社製、厚さ18μm、ST箔)を重ね、これを加熱加圧して積層成形することによって、銅張積層板として製造した。加熱加圧の条件は、180℃、2.94MPa、60分間である。
【0145】
(4)試験
(4.1)ガラス転移温度(Tg)
セイコーインスツル株式会社製粘弾性スペクトロメータ「DMS6100」を用いて、プリプレグのガラス転移温度を測定した。具体的には、曲げモジュールで周波数を10Hzとして測定を行い、昇温速度5℃/分の条件で室温から280℃まで昇温した際のtanαが極大を示す温度をガラス転移温度とした。
【0146】
(4.2)比誘電率(Dk)
Hewlett-Packard社製「インピーダンス/マテリアルアナライザー4291A」を用いて、1GHzにおける銅張積層板の比誘電率をIPC-TM-650 2.5.5.9に準じて測定した。
【0147】
(4.3)ピール強度
銅張積層板の表面の銅箔(厚さ18μm)の引きはがし強さをJIS C 6481に準拠して測定した。すなわち、銅箔を毎分約50mmの速さではがし、そのときの引きはがし強さ(kN/m)をピール強度として測定した。
【0148】
(4.4)耐アルカリ性
板厚が0.8mmの銅張積層板を上記と同様に製造した。この銅張積層板の表面の銅箔をエッチングにより除去した後、70℃の水酸化ナトリウム水溶液(10質量%)に30分間浸漬させた。そして、浸漬前後の質量から質量減少率を算出した。その結果を以下のように分けて表4に示す。
【0149】
「A」:質量減少率が0質量%以上0.2質量%未満
「B」:質量減少率が0.2質量%以上0.3質量%未満
「C」:質量減少率が0.3質量%以上
(4.5)耐燃性
板厚が0.8mm、1.2mm、1.6mmの銅張積層板をプリプレグの枚数を調整して上記と同様に製造した。各銅張積層板の表面の銅箔をエッチングにより除去した後、UnderwritersLaboratoriesの“Test for Flammability of Plastic Materials-UL 94”に準じて耐燃性試験を行って、耐燃性を評価した。V-0を満たすものが「OK」、満たさないものが「NG」である。表4では、板厚とその板厚でV-0を満たすか否かを示す。
【0150】
「1.6mm OK」:1.6mm、1.2mm、及び0.8mmの全てがOK
「1.2mm OK」:1.6mmはNG、1.2mm及び0.8mmはOK
「0.8mm NG」:1.6mm、1.2mm、及び0.8mmの全てがNG
【0151】
【符号の説明】
【0152】
1 プリプレグ
10 樹脂層
11 基材
2 樹脂付きフィルム
20 樹脂層
21 支持フィルム
22 保護フィルム
3 樹脂付き金属箔
30 樹脂層
31 金属箔
4 金属張積層板
40 絶縁層
41 金属層
5 プリント配線板
50 絶縁層
51 導体配線