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▶ 曽田香料株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】飲食品の呈味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20230922BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230922BHJP
   A21D 2/16 20060101ALN20230922BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20230922BHJP
   A23C 9/156 20060101ALN20230922BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20230922BHJP
   A23L 2/60 20060101ALN20230922BHJP
   A23L 2/68 20060101ALN20230922BHJP
   A23L 2/02 20060101ALN20230922BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20230922BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20230922BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20230922BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A23L27/00 C
A23L27/00 E
A21D2/16
A21D13/80
A23C9/156
A23F5/24
A23L2/00 C
A23L2/00 D
A23L2/02 B
A23L2/02 C
A23L2/38 P
A23L2/52 101
A23L23/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019083201
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020178605
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】延廣 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】勝山 賢
(72)【発明者】
【氏名】山上 康寿
(72)【発明者】
【氏名】有本 歳昭
(72)【発明者】
【氏名】青山 武史
(72)【発明者】
【氏名】田村 範夫
(72)【発明者】
【氏名】西倉 利光
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-020526(JP,A)
【文献】特開2013-173708(JP,A)
【文献】J. Agric. Food Chem,1992年,Vol.40,pp.599-603
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23C
C11B
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-アセトキシオクタン酸エチル、4-アセトキシデカン酸エチル、4-アセトキシドデカン酸エチル、5-アセトキシオクタン酸エチル、5-アセトキシデカン酸エチル、5-アセトキシドデカン酸エチル、6-アセトキシデカン酸エチル、6-アセトキシドデカン酸エチルから選択される1種以上のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする、飲食品の甘味、酸味、塩味又は旨味のいずれか1種以上を増強する、飲食品の呈味増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物群から選択される1種以上のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする、飲食品の甘味増強剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物群から選択される1種以上のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする、塩味及び旨味を有する飲食品の塩味及び/又は旨味増強剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物群から選択される1種以上のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする、酸味及び甘味を有する飲食品の酸味増強剤。
【請求項5】
アセトキシ脂肪酸エチルエステルを10ppb以上含有する請求項1~4に記載の呈味増強剤。
【請求項6】
請求項1~5に記載の呈味増強剤を添加する飲食品の呈味増強方法。
【請求項7】
請求項1~5に記載の呈味増強剤を用いることによりアセトキシ脂肪酸エチルエステルを100ppt~100ppm添加する飲食品の呈味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呈味増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の多様化に伴い様々な呈味増強剤が要求されている。公知の呈味増強剤としては、N-(1-デオキシ-D-フラクトス-1-イル)-ピログルタミン酸を有効成分とする旨味増強剤(特許文献1)、ピログルタミルジペプチドを有効成分とする旨味増強剤(特許文献2)、メチオナール、4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン類、3-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン類を有効成分とする塩味増強剤(特許文献3)、スピラントールとアルギニン又はその塩とを含有する塩味増強剤(特許文献4)、4,5-エポキシ-2E-デセナール、ワインラクトン、アントラニル酸メチル、フェニル酢酸またはチグリン酸エチルを有効成分とする甘味増強剤(特許文献5)、エリスリトールおよび/またはソルビトールを有効成分とする柑橘類の酸味増強剤(特許文献6)などが挙げられる。しかしながら、上記に挙げた呈味増強剤は、風味的に必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】
一方、炭素数8~12のδ-ラクトンの開環物であるエステル類については、5-アシロキシデカン酸アルキルによる乳風味付与剤(特許文献7)、5-ホルミルオキシアルカン酸エチルによる乳風味付与剤(特許文献8)、5-[(1-アルコキシ)エトキシ]アルカン酸アルキルによる乳風味付与剤(特許文献9)が提案されているが、甘味、酸味、塩味、旨味を増強することは記載されてない。また、γ-ラクトンやε-ラクトンの開環物であるエステル類の呈味効果は全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-029615号公報
【文献】特開2012-029616号公報
【文献】特開2012-223147号公報
【文献】特開2016-106547号公報
【文献】特開2018-130086号公報
【文献】特開2018-139558号公報
【文献】特開2013-173708号公報
【文献】特開2014-031331号公報
【文献】特開2015-131773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、飲食品の甘味、酸味、塩味又は旨味のいずれか1種以上を増強する呈味増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の炭素数のアセトキシ脂肪酸エチルエステルが呈味増強効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明の特定の炭素数のアセトキシ脂肪酸エチルエステルを有効成分とする呈味増強剤は、飲食品の香味に悪影響を及ぼすことなく、飲食品の甘味、酸味、塩味又は旨味のいずれか1種以上を増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、炭素数8~12のγ-ラクトン、δ-ラクトンまたはε-ラクトンの開環物であるヒドロキシ脂肪酸の誘導体、すなわちアセトキシ脂肪酸エチルエステルから選択される1種以上を有効成分とする呈味増強剤であり、本発明の呈味増強剤が増強する呈味とは、飲食品の甘味、酸味、塩味又は旨味のいずれか1種以上のことを示す。
【0009】
本発明の呈味増強剤に用いられるアセトキシ脂肪酸エチルエステルとしては、4-アセトキシオクタン酸エチル、4-アセトキシデカン酸エチル、4-アセトキシドデカン酸エチル、5-アセトキシオクタン酸エチル、5-アセトキシデカン酸エチル、5-アセトキシドデカン酸エチル、6-アセトキシデカン酸エチル、6-アセトキシドデカン酸エチルが挙げられる。
【0010】
本発明の呈味増強剤に用いられるアセトキシ脂肪酸エチルエステルは、公知の方法によって製造することができ、例えば、炭素数8~12のγ-ラクトン、δ-ラクトン又はε-ラクトンをエタノールとのエステル交換反応により開環し、得られたヒドロキシ脂肪酸エチルのヒドロキシル基を無水酢酸でエステル化することにより製造することができる。
【0011】
本発明の呈味増強剤に用いられるアセトキシ脂肪酸エチルエステルは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
本発明の呈味増強剤は、飲食品の香味に影響しない範囲であれば、他の食品添加物や呈味改善剤と併用することができる。例えば、食品用香料(合成香料、天然香料、調合香料)、甘味料(アセスルファムカリウム、ステビア、エリスリトールなど)、酸味料(クエン酸、酒石酸、りん酸、乳酸など)、苦味料(カフェイン、ナリンジンなど)、調味料(グルタミン酸ナトリウム、L-アルギニンなど)、着色料(クロロフィリン、ブドウ果皮色素、ベニバナ赤色素、食用赤色102号、銅クロロフィリンナトリウムなど)、保存料(安息香酸、ソルビン酸など)、増粘安定剤(カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、デキストラン、プルランなど)、乳化剤(キラヤ抽出物、酵素分解レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート60など)、酸化防止剤(カテキン、クエルセチン、チャ抽出物、生コーヒー豆抽出物、d-α-トコフェロール、エチレンジアミン四酢酸カルシウムニナトリウムなど)などの飲食品に使用可能な添加物、賦形剤(デキストリン、アラビアガム、コーンスターチ、加工デンプンなど)、香辛料(ミント、コショウ、シソ、ニンニク、ショウガなど)、無機塩(塩化ナトリウム、塩化カリウムなど)、他の風味改善剤(風味改善ペプチド、果汁由来画分など)などが挙げられる。
【0013】
本発明の呈味増強剤は、甘味、酸味、塩味又は旨味のいずれか1種以上の呈味を有する飲食品に使用することで、これらの呈味感を増強することができるが、塩味と旨味については塩味と旨味が共存する飲食品、酸味については酸味の他に甘味が共存する飲食品に対する使用がより好ましい効果をもたらす。なお、本発明の呈味増強剤が適用される飲食品としては、栄養調製乳、アイスクリーム、乳製品、クリーマー、ペットフード製品、飲料、機能性食品、食品添加物、菓子類、チョコレート製品、調味料製品、マヨネーズ、スープ、冷凍食品、ケーキ、デザートなどを挙げることができる。
【0014】
本発明の呈味増強剤の飲食品への好適な添加量は、添加する飲食品によって異なるが、有効成分であるアセトキシ脂肪酸エチルエステルが飲食品に対し質量比で100ppt~100ppm含まれるのが好ましく、10ppb~10ppm含まれるのがより好ましい。
【0015】
本発明の呈味増強剤は、用途に応じて任意の形態を選択することができる。例えば、アセトキシ脂肪酸エチルエステルをそのまま使用してもよく、エタノール、含水エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、水混和性の可食性溶剤などの適当な溶剤に添加して水性液剤とすることもでき、乳化剤と共に水性溶剤に加えて水性液剤とすることもできる。また、食用油脂に添加して油剤とすることもでき、賦形剤を加えて液剤とした後にスプレードライなど公知の方法によって粉末化することもできる。なお、呈味増強効果が得られるよう、いずれの形態でも、有効成分であるアセトキシ脂肪酸エチルエステルを10ppb以上含有するよう調製するのが好ましい。
【0016】
本発明の呈味増強剤は、他の食品添加物類と個別に飲食品に添加することもできるが、予め配合製剤とすることもできる。より具体的には、例えば、香料製剤や調味料の製造にあたって、それらの処方に本発明の呈味増強剤を組み入れて製造することもできる。また、本発明の呈味増強剤の飲食品への添加は、飲食品中に均等に混合することが可能であれば、製造工程のどの時点で添加しても構わない。
【0017】
(参考例)
本発明の呈味増強剤の有効成分であるアセトキシ脂肪酸エチルエステルについて、化合物自体の呈味及び香気の評価を行ったところ、全ての化合物が弱い苦味を呈し、香気は表1に記載のとおりであったが、以降の実施例において、使用するアセトキシ脂肪酸エチルエステルの濃度は、化合物自体の呈味及び香気が問題とならない100ppm以下の添加濃度とした。
【0018】
【表1】
【実施例1】
【0019】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppmに希釈した溶液(以下、「化合物溶液」とする)を表2に記載の糖液に0.01%添加し官能評価を行った。評価は表3に記載の7段階評価とし、専門パネラー4名で行った。結果を表4に示した。官能評価の結果、全化合物に甘味の増強効果が認められた。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【実施例2】
【0023】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppmに希釈した化合物溶液を表5に記載の糖酸液に0.01%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表6に示した。官能評価の結果、全化合物に甘味及び/又は酸味増強効果が認められた。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0024】
【表5】
【0025】
【表6】
【実施例3】
【0026】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppmに希釈した化合物溶液を表7に記載の果汁配合糖酸溶液に0.01%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表8~10に示した。官能評価の結果、アップル透明果汁配合糖酸液に対しては、表8に記載のとおり、全化合物に甘味の増強効果、5-アセトキシオクタン酸エチル以外の全化合物に酸味の増強効果が認められ、これらの呈味の増強に伴う好ましい果汁感が付与された。オレンジ混濁果汁配合糖酸液に対しては、表9に記載のとおり、全化合物に甘味及び酸味の増強効果が認められ、これらの呈味の増強に伴う好ましい果汁感が付与された。また、グレープフルーツ透明果汁配合糖酸液に対しても、表10に記載のとおり、全化合物に甘味及び酸味の増強効果が認められ、これらの呈味の増強に伴う好ましい果汁感が付与された。なお、いずれの果汁配合糖酸溶液についても、異味・異臭は認められなかった。
【0027】
【表7】
【0028】
【表8】
【0029】
【表9】
【0030】
【表10】
【実施例4】
【0031】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppm濃度に溶解したものを市販のアップル果汁飲料に0.1%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表11に示す。官能評価の結果、全化合物に甘味及び/又は酸味の増強効果が認められ、これらの呈味の増強に伴う好ましい果汁感が付与された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0032】
【表11】
【実施例5】
【0033】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppm濃度に溶解したものを市販のオレンジ果汁飲料に0.1%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表12に示す。官能評価の結果、全化合物に甘味及び酸味の増強効果が認められ、これらの呈味の増強に伴う好ましい果汁感が付与された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0034】
【表12】
【実施例6】
【0035】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppmに希釈した化合物溶液を表13に記載のグルタミン酸ナトリウム配合食塩水に0.01%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表14に示した。官能評価の結果、全化合物に塩味及び旨味の増強効果が認められ、塩カドを抑える効果も確認できた。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0036】
【表13】
【0037】
【表14】
【実施例7】
【0038】
表1に記載の化合物をエタノールで100ppm濃度に溶解したものを市販の鶏がらスープに0.01%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表15に示した。官能評価の結果、全化合物に塩味及び旨味の増強効果が認められ、これらの呈味の増強に伴うコクが付与された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0039】
【表15】
【実施例8】
【0040】
表1に記載の化合物をエタノールで0.1%濃度に溶解したものを市販のコーヒー牛乳に0.1%添加し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表16に示した。官能評価の結果、全化合物に甘味の増強効果が認められ、甘味の増強に伴うコクが付与された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0041】
【表16】
【実施例9】
【0042】
表1に記載の化合物を1%添加した表17に記載のバターフレーバーを表18に記載のクッキー生地に0.1%配合し、このクッキー生地を予め下部150℃、上部180℃に温めておいたオーブンに入れ7分間焼成してクッキーを調製し、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を表19に示した。官能評価の結果、全化合物に甘味の増強効果が認められ、甘味の増強に伴うコクが付与された。なお、異味・異臭は認められなかった。
【0043】
【表17】
【0044】
【表18】
【0045】
【表19】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の呈味増強剤を用いることにより、飲食品の甘味、酸味、塩味又は旨味のいずれか1種以上を、飲食品の香味に悪影響を及ぼすことなく増強することができる。