(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】スパイス感増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20230922BHJP
A23L 23/10 20160101ALI20230922BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A23L23/10
A23L27/20 E
(21)【出願番号】P 2019201785
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-02-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月10日に第33回日本香辛料研究会 学術講演会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和田 布美子
(72)【発明者】
【氏名】安心院 崇
(72)【発明者】
【氏名】安永 元樹
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-013138(JP,A)
【文献】alloocimene, [online], 04-12-2018 uploaded, [Retrieved on 27-02-2023], Retrieved from the internet:<URL: https://web.archive.org/web.20181204054106/http://www.thegoodscentscompany.com/data/rw1166941.html>
【文献】4-isopropyl-2-cyclohexenone, [online], 16-09-2018 uploaded, [Retrieved on 27-02-2023], Retrieved from the internet:<URL: https://web.archive.org/web.20180916161937/http://www.thegoodscentscompany.com/data/rw1303991.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C11B
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分がネオアロオシメンである
、飲食品のスパイス感増強剤
(但し、アロオシメンの立体異性体の混合物を除く)。
【請求項2】
有効成分がクリプトンであ
り、クリプトンの飲食品に対する添加量が1ppm~100ppmである、飲食品のスパイス感増強剤。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のスパイス感増強剤を添加してなる香料組成物
(但し、アロオシメンの立体異性体の混合物が含まれるものを除く)。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のスパイス感増強剤を添加してなる飲食品
(但し、アロオシメンの立体異性体の混合物が含まれるものを除く)。
【請求項5】
請求項
1に記載のスパイス感増強剤を添加することによりネオアロオシメ
ンを100ppb~0.1質量%含有する請求項
4に記載の飲食品
(但し、アロオシメンの立体異性体の混合物が含まれるものを除く)。
【請求項6】
請求項2に記載のスパイス感増強剤を添加することによりクリプトンを1ppm~100ppm含有する請求項4に記載の飲食品。
【請求項7】
請求項1
又は2に記載のスパイス感増強剤を添加する、飲食品のスパイス感増強方法。
【請求項8】
ネオアロオシメン
(但し、アロオシメンの立体異性体の混合物を除く)を100ppb~0.1質量%添加する、請求項
7に記載のスパイス感増強方法。
【請求項9】
クリプトンを1ppm~100ppm添加する、請求項7に記載のスパイス感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパイス感増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイス(香辛料)は、飲食品に加えることにより、香りや辛味、色を出す効果や、臭みを消す効果があり、飲食品の嗜好性の向上をもたらす。しかし、スパイスには高価なものもあることから、少量でスパイスの香味(スパイス感)を増強させる化合物を見出すことは、飲食品のコスト削減につながり、産業上非常に有意義である。
【0003】
スパイスの香味を増強させる手段としては、メチオノール及び2-フェニルエタノールの添加により香辛料及び/又は香気成分のスパイス香を増強する方法(特許文献1)、紅茶抽出物の添加によりカレーやシチュー等の調理食品のスパイス感を増強する方法(特許文献2)、グルタチオン等の含硫化合物の添加により乾燥即席スープ・ソース類中の香辛料の香りを増強する方法(特許文献3)等が知られている。また、スパイシーな香気を有し、南インドやスリランカにおいてカレー等の調理に多用される植物としてカレーリーフがあり、カレーリーフの特徴的な香気成分である1-フェニルエタンチオール、α-フェランドレン、β-ミルセンを用いてカレー風味食品の嗜好性を向上させる方法(特許文献4)も知られている。
【0004】
一方、アロオシメン及びクリプトンは、香料化合物として既知の化合物であり、前者はスパイシーな香味を有すること(非特許文献1)、後者はスパイシーな香気を有すること(非特許文献2)が知られている。しかし、これらの化合物の実際の香気は、前者が極めて弱いシトラス系の香気、後者は油臭く重たい香気であることから、香料素材としての使い勝手は悪く、さらに、両者ともスパイス様の香気からは程遠い香気である。また、アロオシメンの立体異性体であるネオアロオシメンの香気や呈味については、ほとんど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2013/133051号
【文献】特開2006-034146号公報
【文献】WO1999/056566号
【文献】特開2018-174753号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】http://www.thegoodscentscompany.com/data/rw1166941.html
【文献】http://www.thegoodscentscompany.com/data/rw1303991.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、スパイス感を増強する香料素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意研究の結果、本発明者らは、カレーリーフ生葉に含まれる特徴的な香気成分の中から、スパイスの香味を増強させる化合物を探求するにあたっては、およそ当業者が着目するような化合物ではないネオアロオシメン及び/又はクリプトンがスパイス感を増強する効果を有することを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]ネオアロオシメン及び/又はクリプトンを有効成分とする、飲食品のスパイス感増強剤。
[2]ネオアロオシメン及び/又はクリプトンを1ppb以上含有する、[1]に記載のスパイス感増強剤。
[3]有効成分がネオアロオシメンである[1]又は[2]に記載のスパイス感増強剤。
[4]有効成分がクリプトンである[1]又は[2]に記載のスパイス感増強剤。
[5][1]~[4]に記載のスパイス感増強剤を添加してなる香料組成物。
[6][1]~[4]に記載のスパイス感増強剤を添加してなる飲食品。
[7][1]~[4]に記載のスパイス感増強剤を添加することによりネオアロオシメン及び/又はクリプトンを100ppb~0.1質量%含有する[6]に記載の飲食品。
[8][1]~[4]に記載のスパイス感増強剤を添加する、飲食品のスパイス感増強方法。
[9]ネオアロオシメン及び/又はクリプトンを100ppb~0.1質量%添加する、[8]に記載のスパイス感増強方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のネオアロオシメン及び/又はクリプトンを有効成分とするスパイス感増強剤は、使用対象の飲食品の香気及び/又は呈味に悪影響を及ぼすことなく、当該飲食品のスパイス感を増強することができ、嗜好性の向上をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ネオアロオシメン及び/又はクリプトンを有効成分とするスパイス感増強剤、当該スパイス感増強剤を有する飲食品、当該スパイス感増強剤を使用することによる飲食品のスパイス感増強方法である。
【0012】
本発明のスパイス感増強剤に用いられるネオアロオシメン及び/又はクリプトンは公知の方法で製造できる他、市販品を購入して使用することができる。
【0013】
本発明におけるスパイス感増強とは、スパイス様の香味を増強することを指す。一般的に各種スパイス様の香味は、ミンティー、フローラル、フルーティー、野菜感、テルペン感、ウッディー、ナッティー、調理感、アーシー、コケ感、石油感、五味の要素、硫黄感、メタリック等、複数の香味の要素の集合体である。本発明のスパイス感増強剤は、その中でも特にテルペン感の部分に大きく寄与し、スパイス様香味が持つトップの爽快感等を高め、結果として、スパイス様香味の全体的なバランスを保ちつつ、その特徴的な香味を底上げし、嗜好性を高めることができる。
【0014】
本発明のスパイス感増強剤は、飲食品に添加することでスパイス感を増強することができるが、有効成分のネオアロオシメン及び/又はクリプトン自体は、前述の通りスパイス様香味をほとんど有していないため、添加対象の飲食品については、スパイスが添加されている、スパイス様香味を発する香味成分を有している等により、飲食品自体がスパイス様香味を有している必要がある。
【0015】
本発明のスパイス感増強剤が増強するスパイス様香味の対象となるスパイスとしては、クミン、ブラックペッパー、カルダモン、ジンジャー、ターメリック、コリアンダー、クローブ、シナモン、ナツメグ、レッドペッパー等が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明のスパイス感増強剤は、前述したテルペン感の部分に大きく寄与する特徴から、テルペン感が強めのスパイス様香味との相性が良く、ネオアロオシメンはクミン様、カルダモン様又はジンジャー様の香味を有する飲食品、クリプトンはクミン様、ブラックペッパー様、カルダモン様、ジンジャー様、ターメリック様、コリアンダー様又はクローブ様の香味を有する飲食品への添加が特に好ましい。
【0016】
本発明のスパイス感増強剤が適用される飲食品としては、飲食品自体がスパイス様香味を有しているものであれば何でもよく、例えば、カレールウ、シチュールウ、ハヤシライスのルウ、ハッシュドビーフのルウ、ソース、調味ソース、粉末調味料、液体調味料、ドレッシング、揚げ粉、パスタソース、グラタンソース、炊き込みご飯の素(パエリア、ビリヤニ、ピラフ等)、炒飯の素、麻婆豆腐の素、鍋の素、中華スープの素、コンソメスープの素等の調味料類、カップラーメン、カップ焼きそば、袋麺等の即席麺類、カップごはん等の即席米飯類、レトルト食品、冷凍食品(炒飯、ピラフ、餃子、焼売、から揚げ、ハンバーグ、フライ、コロッケ、グラタン、ピザ等)、缶詰等の調理食品や加工食品、スナック菓子、米菓等の菓子類等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0017】
本発明のスパイス感増強剤の好適な添加量は添加対象の飲食品によって異なるため、目的に応じて適宜調整すればよいが、スパイス感増強効果が得られ、かつ、ネオアロオシメン及び/又はクリプトン自体の香気が飲食品の香気及び/又は呈味に悪影響を与えないよう、有効成分であるネオアロオシメン及び/又はクリプトンが飲食品に対し100ppb~0.1質量%含まれるのが好ましく、1ppm~100ppm含まれるのが特に好ましい。なお、本発明においてppt、ppb、ppmとは、特に記載の無い限り質量比のことを示す。
【0018】
本発明のスパイス感増強剤は、単独で使用してもよいが、使用時の利便性のため適宜溶剤などで希釈されてもよい。希釈に用いる溶剤などは香料組成物に常用されるものであれば特に制限はない。また、あらかじめ香料組成物とすることもでき、香気及び/又は呈味に悪影響のない範囲であれば、香料以外の成分として常用される他の添加物を加えた組成物としてもよい。さらに、本発明においては、香料一般に適用される製剤化技術の適用も可能であり、粉末化、カプセル化など、状況により所望の形態に調製することもできる。なお、スパイス感増強効果が得られるよう、いずれの形態でも、有効成分であるネオアロオシメン及び/又はクリプトンを1ppb以上含有するよう調製するのが好ましい。
【0019】
本発明のスパイス感増強剤は、飲食品中に均等に混合することができれば、製造工程のどの時点で添加しても構わない。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
本発明のスパイス感増強剤であるネオアロオシメンを0.1質量%添加した各種スパイス精油を水に1質量%添加したものと、ネオアロオシメンを添加していない各種スパイス精油を水に1質量%添加したもの(以下、無添加品とする)を比較した官能評価を行った。官能評価は、スパイス感について、無添加品を3点とした1~5点の5段階評価とし、訓練された社内パネル3名で行った。結果を表1に示した。官能評価の結果、ネオアロシメンが各種スパイスに対するスパイス感増強効果を有することを確認した。
【0021】
【0022】
(実施例2)
本発明のスパイス感増強剤であるクリプトンを0.1質量%添加した各種スパイス精油を水に1質量%添加したものと、クリプトンを添加していない各種スパイス精油を水に1質量%添加したもの(以下、無添加品とする)を比較した官能評価を行った。官能評価は、スパイス感について、無添加品を3点とした1~5点の5段階評価とし、訓練された社内パネル3名で行った。結果を表2に示した。官能評価の結果、クリプトンが各種スパイスに対するスパイス感増強効果を有することを確認した。
【0023】
【0024】
(実施例3)
表3に記載の処方のスパイスミックスを用いて調製したカレーベースに、本発明品のネオアロオシメン又はクリプトンを1質量%添加したエタノール溶液を0.08質量%添加し(カレーベース中の本発明品の添加量8ppm)、無添加品と比較した官能評価を行った。官能評価は訓練された社内パネル3名で行った。官能評価の結果、カレーベースについても本発明品のスパイス感増強効果が認められた。
【0025】