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特許7352838フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20230922BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230922BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C12N9/02 ZNA
C12N15/53
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12M1/34 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020527249
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2019018491
(87)【国際公開番号】W WO2020003752
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2018121844
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川井 淳
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020200(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/063984(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/041419(WO,A1)
【文献】JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING,2006年,Vol. 102, No. 3,pp. 241-243
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/02-04
C12N 15/53
C12Q 1/28-28
C12M 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c)のいずれかに記載の、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有し、かつ、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質よりも第四級アンモニウム塩に対する安定性が向上した、タンパク質。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、101番目および360番目からなる群から選択される少なくともいずれか1箇所の部位におけるグルタミン酸がリジンに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において、101番目および360番目以外の部位において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1の101番目および360番目からなる群から選択される少なくともいずれか1箇所の部位に相当するグルタミン酸がリジンに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項4】
請求項に記載の組換えベクターにより宿主を形質転換した形質転換体。
【請求項5】
請求項に記載の形質転換体を培養してフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を生成させ、当該タンパク質を採取する工程を含む、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項6】
糖化ペプチドに対して請求項1に記載のタンパク質を作用させる工程を含む糖化タンパク質の測定方法。
【請求項7】
請求項1に記載のタンパク質を含む糖化タンパク質測定キット。
【請求項8】
さらに、ペルオキダーゼおよび過酸化水素発色試薬を含む請求項に記載の糖化タンパク質測定キット。
【請求項9】
請求項1に記載のタンパク質が固定された電極を用い、該タンパク質の反応により生じた電流を測定する糖化タンパク質測定センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化タンパク質、特に糖化ヘモグロビンの測定に有用なフルクトシルアミノ酸オキシダーゼおよびそれを用いた糖化タンパク質の測定方法、糖化タンパク質測定キット、糖化タンパク質測定センサーに関する。より具体的には、第四級アンモニウム塩に対する安定性が向上したフルクトシルアミノ酸オキシダーゼおよびそれを用いた糖化タンパク質の測定方法、糖化タンパク質測定キット、糖化タンパク質測定センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の血糖の測定には、血液タンパク質に含まれる糖化タンパク質であるヘモグロビンA1c(HbA1c)またはグリコアルブミンを血糖コントロールマーカーとして測定する方法が重用されている。糖化タンパク質は、血液中に存在するD-グルコースと、血液タンパク質を構成するアミノ酸残基とが反応して生成される。血液タンパク質における主な糖化部位は、リジン残基のε-アミノ基および血液タンパク質のアミノ末端アミノ酸のα-アミノ基である。HbA1cを測定する場合には、D-グルコースがヘモグロビンβ鎖のアミノ末端アミノ酸であるバリンのα-アミノ基に結合して生じた糖化タンパク質の量を測定する。
【0003】
近年、血液中の糖化タンパク質を簡便かつ短時間で測定できる酵素的測定法が開発され、既に商品化されている。酵素的測定法を利用することにより、糖化タンパク質をハイスループットに測定することが可能となり、臨床検査分野で役立てられている。酵素的測定法は、まず、プロテアーゼにより糖化タンパク質を加水分解する。次いで、これにより生じたフルクトシルバリン、フルクトシルリジンおよびフルクトシルバリルヒスチジンなどの糖化アミノ酸を、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼにより酸化的加水分解する。最後に、オキシダーゼ反応により生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ-色原体反応システムにより比色定量する(特許文献1から11参照)。
【0004】
酵素的測定法による糖化タンパク質の測定では、主反応酵素であるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの基質特異性が重要な要素となる。例えば、HbA1cの測定では、フルクトシルバリンに対する特異性の高い酵素が望まれている。また、糖化ヘモグロビンのβ鎖に特異的な測定を行うためには、フルクトシルバリルヒスチジンに作用する酵素が望まれている。これは、ヘモグロビンα鎖およびβ鎖のアミノ末端アミノ酸が共にバリンであることから、β鎖に特異的な測定を行うためには、アミノ末端アミノ酸2残基(すなわち、フルクトシルバリルヒスチジン)の認識が必要であるためである(特許文献12、特許文献13参照)。
【0005】
これまでに、フルクトシルバリルヒスチジンに作用するオキシダーゼ(フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ)は、数種の糸状菌、またはその遺伝子組換え体より抽出および精製されている。また、このフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼをコードする遺伝子も単離されている(特許文献14、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0006】
一方、酵素的測定法においては試料中に大量に存在するヘモグロビンの影響が問題となる。この問題に対する解決手段としては、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩、及び第四級アンモニウム塩からなる群より選ばれるカチオン性界面活性剤存在下に反応を行う方法が開示されている(特許文献15)。
【0007】
また、酵素的測定法においては上述の通り糖化タンパク質を加水分解のためプロテアーゼが使用されるが、特に試薬を液体の状態で保存中にプロテアーゼの活性低下を抑える安定化剤として、ジメチルスルホオキシド、アルコール、カルシウム、食塩、第四級アンモニウム塩及び第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤などが挙げられている(特許文献16)。
【0008】
さらに、酵素的測定法で用いられる呈色試薬としては、ペルオキシダーゼの存在下で直接酸化呈色するロイコ色素を用いる方法が数多く報告されている。ロイコ色素は測定感度が非常に高く、また従来のトリンダー試薬類と比較して吸収極大が長波長側にあるため、測定試料中のヘモクロビンやビリルビン等の影響を受け難いという長所がある。しかしながら、ロイコ色素は溶液中で保存安定性が充分ではなく保存中に徐々に着色してくるという問題がある。この問題に対処するため、ロイコ色素の安定化剤として第四級アンモニウム塩型陽イオン界面活性剤を安定化剤として共存させる方法が開示されている(特許文献17)。このように酵素的測定法においては第四級アンモニウム塩の有用性が認められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-129531号公報
【文献】特開2004-113014号公報
【文献】国際公開第2003/064683号パンフレット
【文献】特開2007-181466号公報
【文献】特開2007-289202号公報
【文献】特開2005-110657号公報
【文献】特許第4045322号公報
【文献】特許第4014088号公報
【文献】特許第4039664号公報
【文献】特許第4010474号公報
【文献】特許第3971702号公報
【文献】国際公開第2005/049857号パンフレット
【文献】国際公開第2005/049858号パンフレット
【文献】特開2003-235585号公報
【文献】国際公開第2012/173185号パンフレット
【文献】特許第5131955号公報
【文献】特許第5255283号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Hirokawa K., Gomi K., Bakke M., and Kajiyama N., Distribution and properties of novel deglycating enzymes for fructosyl peptide in fungi., Arch. Microbiol., 2003, 180(3), 227-231.
【文献】Hirokawa K., Gomi K., and Kajiyama N., Molecular cloning and expression of novel fructosyl peptide oxidases and their application for the measurement of glycated protein., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2003, 311(1), 104-111.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼは第四級アンモニウム塩共存下での安定性が悪く、診断薬試薬中に用いた際の安定性について更なる改良が望まれている。
【0012】
そこで、本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、糖化タンパク質、特に糖化ヘモグロビンの測定に有用な、第四級アンモニウム塩に対する安定性に優れたフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼを新たに創出し、その酵素を利用した糖化タンパク質(糖化ヘモグロビン)の測定方法、および糖化タンパク質(糖化ヘモグロビン)測定用試薬組成物、糖化タンパク質(糖化ヘモグロビン)測定キット、糖化タンパク質(糖化ヘモグロビン)センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、フルクトシルアミノ酸の測定に有用なフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質で、野生型よりも第四級アンモニウム塩に対する安定性が向上した変異タンパク質を造成することに成功した。さらに本発明者らは、この変異タンパク質をフルクトシルアミノ酸含有検体に作用させ、生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ反応により定量することによって、フルクトシルアミノ酸を測定することが可能であることを確認し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の通り例示される。
【0014】
項1.以下の(a)~(c)のいずれかに記載の、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、101番目、131番目、169番目、245番目および360番目からなる群から選択される少なくともいずれか1箇所の部位におけるグルタミン酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において、101番目、131番目、169番目、245番目および360番目以外の部位において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1の101番目、131番目、169番目、245番目および360番目からなる群から選択される少なくともいずれか1箇所の部位に相当するグルタミン酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
項2.(c)のアミノ酸置換前のアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有する項1のタンパク質。
項3.置換されたアミノ酸がリジン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群のいずれかから選択されるいずれかである項1または2のタンパク質。
項4.置換されたアミノ酸がリジンである項1~3のいずれかのタンパク質。
項5.項1~4のいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
項6.項5のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
項7.項6の組換えベクターにより宿主を形質転換した形質転換体。
項8.項7の形質転換体を培養してフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を生成させ、当該タンパク質を採取する工程を含む、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
項9.糖化アミンに対して項1~4のいずれかのタンパク質を作用させる工程を含む糖化タンパク質の測定方法。
項10.項1~4のいずれかのタンパク質を含む糖化タンパク質測定キット。
項11.さらに、ペルオキダーゼおよび過酸化水素発色試薬を含む項10の糖化タンパク質測定キット。
項12.項1~4のいずれかのタンパク質が固定された電極を用い、該タンパク質の反応により生じた電流を測定する糖化タンパク質測定センサー。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列およびその類似配列において、101番目、131番目、169番目、245番目および360番目のグルタミン酸に対応するアミノ酸の少なくとも何れか1つが置換されているアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルアミノ酸の置換オキシダーゼ活性を有するタンパク質である。該タンパク質は、特に第四級アンモニウム塩に対する優れた安定性を有するフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「A~B(ただし、AおよびBが数値または単位付き数値の場合)」と記載されていれば「A以上、B以下」を示す。また本明細書中の「および/または」は、いずれか一方または両方を意味する。
【0017】
<1.タンパク質>
本発明に係るタンパク質は、以下の(a)~(c)の何れかに記載のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質である。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、101番目、131番目、169番目、245番目および360番目からなる群から選択される少なくともいずれか1箇所のグルタミン酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において、101番目、131番目、169番目、245番目および360番目以外の部位において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1の101番目、131番目、169番目、245番目および360番目からなる群から選択される少なくともいずれか1箇所の部位に相当するグルタミン酸の少なくともいずれか1つが、配列番号1に示されるアミノ酸配列における該何れか他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
【0018】
本発明に係るタンパク質は、上記のような改変されたアミノ酸配列を構成することにより、改変前のタンパク質と比べて、第四級アンモニウム塩の存在下においても優れた安定性を示すものである。これは、酵素表面に位置する負電荷をもつアミノ酸残基を、正電荷を持つアミノ酸残基に置換したことにより、第4級アンモニウム塩に対する電気的反発力が高まり、酵素に対する干渉力が減じたことによる効果であると推測される。
【0019】
なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対する同一性が85%以上である配列には、配列番号1に示されるアミノ酸配列とは異なる長さの配列であってもよい。アミノ酸配列の同一性は例えばGENETYX-WIN(ゼネティックス製)などの市販あるいは無償公開されているソフトウェアを使用して、2種類の配列のホモロジーサーチにより一致する配列の割合(%)を計算することができる。
【0020】
本発明に係るタンパク質においてアミノ酸残基が置換される部位は、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有する限りにおいて、配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から101番目、131番目、169番目、245番目および360番目のグルタミン酸のいずれか1つ以上の部位であれば特に限定されるものではなく、当該5箇所のアミノ酸単独、またはこれら複数箇所の組み合わせであってもよい。なお、置換されるアミノ酸はフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有する限りにおいて特に限定されるものではないが、好ましくは、リジン、アルギニン、ヒスチジンに置換されている場合が挙げられ、より好ましくはリジンが挙げられる。また、配列番号1に示されるアミノ酸配列と相同性が85%以上あれば、例えば上述のGENETYX-WINを使用して、これらの残基に相当する部位を決定することができる。
【0021】
また本発明には、上記で説示した本発明に係るタンパク質のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をも包含する。1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加される部位は、アミノ末端から101番目、131番目、169番目、245番目および360番目のアミノ酸以外の部位であって、アミノ酸の欠失、置換および/または付加後のタンパク質がフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有していれば、アミノ酸配列中のどの部位のアミノ酸であってもよい。ここで「1または数個のアミノ酸」とは、具体的には10個以内の範囲のアミノ酸数をいう。
【0022】
本発明におけるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性は、後述する実施例の「活性測定法」の項において説明される方法によって測定される。なお、本発明の説明において「フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有する」とは、好ましくは0.1U/mg-protein以上の活性を有することを意味し、さらに好ましくは1.0U/mg-protein以上の活性を有することを意味する。
【0023】
本発明に係るタンパク質は、例えば後述するポリヌクレオチドおよびベクターを利用した遺伝子組み換え技術を用いて生産されてもよいし、アミノ酸合成機などを用いて化学合成されてもよい。遺伝子組み換え技術において、好適に用いられる各種組換えタンパク質発現系は、例えば、大腸菌発現系、昆虫細胞発現系、哺乳類細胞発現系、および無細胞発現系を用いてもよく、これらに限定されない。本発明のタンパク質等の製造方法については後述する。
【0024】
また本発明に係るタンパク質は、例えば、分子間および/または分子内架橋(例えば、ジスルフィド結合など)が施されたもの、化学修飾(例えば、糖鎖付加、リン酸化またはその他の官能基付加など)されたもの、標識(例えば、ヒスチジンタグなど)が付与されたもの、または融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロムおよびGFPなど)が付与されたものなどが含まれるが、特にこれらに限定されない。さらに、本発明に係るタンパク質等は、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性が実質的に維持される限り、数種のタンパク質の断片を組み合わせて構成したキメラタンパク質も含み得る。
【0025】
本発明に係るタンパク質と、血清タンパク質、有機酸、およびデキストランをはじめとする賦形剤等とからフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ剤を構成してもよい。このフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ剤には、酵素剤の構成成分として公知の成分が含まれていてもよい。
【0026】
本発明に係るタンパク質は、アミノ酸の置換により、第四級アンモニウム塩の共存下における安定性がアミノ酸の置換前よりも向上していることを特徴とする。その結果として、該タンパク質を診断薬試薬中に用いた場合の長期保存安定性が向上される。この場合の第四級アンモニウム塩としては、例えば、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジ(ドデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(テトラデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(ヘキサデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウム、臭化ジ(ドデシル)ジメチルアンモニウム、臭化ジ(テトラデシル)ジメチルアンモニウム、臭化ジ(ヘキサデシル)ジメチルアンモニウム、臭化ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウムが挙げられる。等が挙げられる。好ましくは、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ジ(ドデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(テトラデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(ヘキサデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウムである。
【0027】
第四級アンモニウム塩の共存下における安定性とは、1U/ml濃度の該タンパク質溶液において、0.01から1%(W/V)、好ましくは0.04から0.1%(W/V)の濃度において、第四級アンモニウム塩が共存する条件下で、30℃で、5分から10分間の処理を行った場合の残存活性が、25%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上を示すものをいう。
【0028】
<2.ポリヌクレオチド>
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るタンパク質をコードする塩基配列からなることを特徴としている。例えば配列番号3の塩基配列が例示される。
【0029】
ここで、ポリヌクレオチドは、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)、またはRNA(例えば、mRNA)の形態で存在し得る。DNAまたはRNAは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
【0030】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(コドン使用頻度;Codon usage)を変更してもよい。
【0031】
本発明に係るポリヌクレオチドを改変する方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、および/または付加することで組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製してよい。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit;Clontech製,QuikChange Site Directed Mutagenesis Kit;Agilent製など)の使用、またはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は、当業者において公知である。
【0032】
本発明の一実施形態では、本発明に係るポリヌクレオチドは化学的に合成された塩基で置換されてもよい。また、本発明に係るポリヌクレオチドが置換される部位は特に限定されず、置換後の塩基配列から発現するタンパク質が好適な性質を有していればよい。
【0033】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るタンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、MycタグおよびFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、GSTおよびMBPなど)またはシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列および分泌配列など)をコードする塩基配列、およびプロモーター配列(例えば、酵母由来プロモーター配列、ファージ由来プロモーター配列および大腸菌由来プロモーター配列など)などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は、翻訳されるタンパク質の所望の機能が維持される限り特に限定されるものではないが、翻訳されるタンパク質のN末端またはC末端に相当する部位であることが好ましい。
【0034】
また本発明に係るポリヌクレオチドには、上述の本発明に係るタンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはこれに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から101番目、131番目、169番目、245番目および360番目に対応するアミノ酸の少なくとも何れか1つが配列番号1に示されるアミノ酸配列と比較して置換されているアミノ酸配列からなるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドも含まれる。これらの配列からなるポリヌクレオチドもまた、通常行われるポリヌクレオチド改変方法により取得することができる。
【0035】
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドのTm値から15℃、好ましくは10℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件をいう。具体例としては、一般的なハイブリダイゼーション用緩衝液中で、68℃、20時間の条件でハイブリダイズする条件をいう。
【0036】
本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列は、Science,1981,214,1205.に記載されたジデオキシ法により決定することができる。
【0037】
本発明に係るベクターは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドを含むものである。本発明に係るポリヌクレオチドを含むものであれば、その他の構成は特に限定されるものではない。本発明に係るベクターを構成するベースとなるベクターとしては、宿主細胞において好適なベクターが適宜選択され得る。本発明に係るベクターとしてプラスミドベクターを用いる場合、例えば、pBluescript(登録商標)およびpUC18などが使用できる。この場合、ベクターが導入される宿主微生物または宿主細胞としては、例えば、酵母、大腸菌(例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5α)、昆虫細胞および哺乳類細胞などが利用可能である。
【0038】
上述の宿主微生物または宿主細胞に本発明に係るベクターを導入する方法としては特に限定されるものではないが、例えば宿主微生物としてエシェリヒア属に属する微生物にベクターを導入する場合は、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAを導入する方法、およびエレクトロポレーション法を用いる方法が適用され得る。その他、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109、コンピテントハイDH5α;東洋紡製)を用いて遺伝子導入が行われても良い。
【0039】
本発明に係るベクターを構築するには、本発明に係るポリヌクレオチドを分離および精製した後、制限酵素などを用いて切断した該ポリヌクレオチドの断片と、ベースとなるベクターを制限酵素で切断して得た直鎖ポリヌクレオチドを結合閉鎖させて構築することができる。結合閉鎖する際にはDNAリガーゼなどがベクターおよび該ポリヌクレオチドの性質に応じて使用され得る。本発明のベクターを複製可能な宿主に導入した後、ベクターのマーカーおよび酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、本発明のポリヌクレオチドを含有する形質転換体を得ることができる。よって、本発明に係るベクターには薬剤耐性遺伝子などのマーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。
【0040】
なお本発明は、上述の本発明に係るベクターで形質転換された形質転換体、すなわち本発明に係るベクターを含んでいる形質転換体を包含する。本発明に係るベクターによって形質転換される宿主細胞は、特に限定されないが、酵母、大腸菌、昆虫細胞、および哺乳類細胞などが挙げられる。
【0041】
<3.タンパク質の製造方法>
本発明に係るタンパク質の製造方法は、上述の本発明に係る形質転換体を培養する工程(「培養工程」という)を含むことを特徴としている。本発明に係るタンパク質の製造方法には、培養工程の他、形質転換体を用いたタンパク質の生産において含まれ得るその他の工程が含まれていてもよい。その他の工程としては、例えば、培養工程後に形質転換体が生産したタンパク質を回収する回収工程およびこのタンパク質を精製する精製工程が挙げられる。
【0042】
(3-1)培養工程
培養工程では、本発明に係る形質転換体が栄養培地で培養されることにより、多量の組換えタンパク質を安定して生産し得る。形質転換体の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0043】
培養工程で用いられる栄養培地の栄養源としては、培養に通常用いられるものが広く使用されてよい。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜およびピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物および大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。これらに加えて、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄およびマンガン亜鉛などの塩類、アミノ酸、ならびにビタミンなどが必要に応じて培地に添加されてよい。
【0044】
本発明に係る形質転換体の培養温度は、形質転換体が本発明に係るタンパク質を生産可能な範囲内であれば適宜変更し得るが、例えば、エシェリヒア・コリーを宿主として利用する場合、好ましくは20~42℃程度である。培養時間は、本発明に係るタンパク質が最高収量に達する適当な時期に培養を完了すればよく、通常は6~48時間程度である。培地のpHは形質転換体が好適に発育し、且つ本発明に係るタンパク質を生産可能な範囲内で適宜変更し得るが、好ましくはpH6.0~9.0程度の範囲である。
【0045】
(3-2)回収工程
形質転換体がタンパク質を細胞外に分泌する場合、その培養物には本発明のタンパク質が含まれている。よって培養物を本発明に係るタンパク質としてそのまま利用することが可能である。このとき、例えばろ過および遠心分離などにより、培養液と形質転換体とを分離してもよい。
【0046】
また本発明に係るタンパク質が形質転換体内に存在する場合、形質転換体を培養して得られた培養物からろ過および遠心分離などの手段を用いて形質転換体を採取し、採取した形質転換体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法により破壊した後、目的のタンパク質を回収すればよい。また、必要に応じて、キレート剤(例えば、EDTAなど)および界面活性剤(例えば、トリトン-X100など)を添加して本発明に係るタンパク質を可溶化し、水溶液として分離採取してもよい。
【0047】
(3-3)精製工程
精製工程は、回収工程によって得られたタンパク質を精製する工程である。精製工程の具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えば、本発明に係るタンパク質を含む溶液を、減圧濃縮、膜濃縮、塩析処理(例えば、硫酸アンモニウムおよび硫酸ナトリウムなどを用いる)、または親水性有機溶媒(例えばメタノール、エタノールおよびアセトンなど)による分別沈殿法に供すればよい。これらの操作によって、目的である本発明に係るタンパク質を沈殿させ、精製することができる。
【0048】
また、精製工程では、加熱処理、等電点処理、ゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、またはこれらを組み合わせて精製を行ってもよい。
【0049】
これらの手法を用いて得られた目的のタンパク質を含む精製酵素は、電気泳動(SDS-PAGE)において単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0050】
上記の精製酵素は、例えば凍結乾燥、真空乾燥およびスプレードライなどにより粉末化して流通させることが可能である。また、精製酵素を使用する際は、その用途によって適宜緩衝液に溶解した状態で使用することができる。緩衝液としては、例えば、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、およびGOOD緩衝液などが目的のタンパク質の性質、および/または実験条件もしくは環境に応じて好適に選択されてよい。さらに、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンなど)、および血清アルブミンなどを精製酵素に添加することにより安定化することができる。
【0051】
<4.糖化タンパク質の測定方法>
本発明に係るタンパク質は、フルクトシルアミノ酸の測定方法に用いることが可能である。また本発明に係るタンパク質を利用したフルクトシルアミノ酸の測定方法は、糖化ヘモグロビンなどの糖化タンパク質の測定に適用され得る。以下に本発明に係るタンパク質を用いた糖化タンパク質の測定方法(以下「本発明の測定方法」という)を説明する。
【0052】
本発明の測定方法は、少なくとも糖化アミンに本発明に係るタンパク質を作用させることを特徴としている。以下に本発明の測定方法の一実施形態を示すが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る測定方法の一実施形態は、
(1)試料とプロテアーゼとを反応させて、試料中の糖化タンパク質を分解し、試料中の糖化タンパク質由来の糖化アミンを調製する工程(便宜上「第1工程」という)、
(2)上記(1)の工程によって得られた試料中の糖化タンパク質由来の糖化アミンに本発明に係るタンパク質を作用させる工程(便宜上「第2工程」という)、および、
(3)上記(2)の工程において発生した過酸化水素の量または消費された酸素の量を測定する工程(便宜上「第3工程」という)、を含む糖化タンパク質を測定するための方法である。
【0054】
この実施形態における一具体例としては、酵素法が挙げられる。酵素法においては、試料中の糖化タンパク質をアミノ酸、またはペプチドのレベルまで酵素(例えば、プロテアーゼ)を用いて断片化する(第1工程)。次に、生じた糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼを加え、酸化還元反応により過酸化水素を発生させる(第2工程)。この試料にペルオキシダーゼ(POD)、および酸化により発色する還元剤を添加し、PODを触媒として過酸化水素と還元剤との間で酸化還元反応を生じさせる(第3工程)。酸化還元反応により還元剤を発色させ、この発色強度を測定することにより過酸化水素量を測定できる(第3工程)。
【0055】
(4-1)第1工程
第1工程は、試料中の糖化タンパク質を分解し、試料中の糖化タンパク質由来の糖化アミンを調製する工程である。
【0056】
本明細書において「糖化タンパク質」とは、タンパク質を構成するアミノ酸残基の一部または全部に糖が結合した(糖化した)タンパク質を意味する。糖化タンパク質としては、特に限定されるものではないが、例えば、タンパク質のアミノ末端のα-アミノ基が糖化されたもの(例えばHbA1c)等が挙げられる。なお上記例示したHbA1cは、糖尿病の診断など臨床診断の指標として広く利用されている。
【0057】
第1工程において使用するプロテアーゼとしては、試料中に含まれる糖化タンパク質を糖化アミノ酸または糖化ペプチドに分解し得るものであれば、特に限定されるものではない。例えば動物、植物由来、バチルス(Bacillus)属などの細菌由来、アスペルギルス(Aspergillus)などのカビ由来、酵母由来のプロテアーゼがが好適な例として挙げられる。バチルス(Bacillus)属の微生物由来のプロテアーゼとしては例えばズブチリシンやメタロプロテアーゼ等が好適な例として挙げられる。
【0058】
また本測定方法に使用される「試料」は、糖化タンパク質の有無や濃度を検出すべき対象物であれば特に限定されるものではなく、例えば、全血、血漿、血清および血球等の他に、尿および髄液等の生体試料(すなわち生体から採取された試料)、ならびにジュース等の飲料水、醤油およびソース等の食品類等の試料が挙げられる。本発明の方法は、糖尿病の診断に応用することができるため、上記の中でも特に全血試料および血球試料について測定を行う場合に有用である。特に限定されるものではないが、赤血球内の糖化ヘモグロビンを測定する場合には、全血をそのまま溶血したり、全血から分離した赤血球を溶血したりして、この溶血試料を測定用の試料としてもよい。
【0059】
試料とプロテアーゼとを反応させる際の具体的な条件は、所望の糖化アミンが調製され得る条件であれば特に限定されるものではなく、試料の濃度および種類、ならびにプロテアーゼの濃度および種類に応じて適宜好適な条件を検討の上、採用することができる。
【0060】
本発明の測定方法に好適に使用できるプロテアーゼの濃度は、例えば0.1U~1MU/mlであり、より好ましくは1U~500KU/mlであり、最も好ましくは5U~100KU/mlである。プロテアーゼの濃度は、限定されるものではなく、反応条件、試料の種類および状態、実験者の手技ならびに使用する試薬の種類などに応じて、実験者または使用者に好適に決定され得る。
【0061】
また本発明に係るタンパク質が作用する「糖化アミン」には、試料中に含まれる糖化タンパク質に由来の糖化アミノ酸および糖化ペプチドなどが挙げられる。糖化ペプチドの長さは特に限定されるものではないが、本発明のタンパク質が作用し得る長さとして、例えばアミノ酸残基数が2~6程度の範囲のものが挙げられる。
【0062】
(4-2)第2工程
第2工程は、第1工程によって得られた試料中の糖化タンパク質由来の糖化アミンに本発明に係るタンパク質を作用させる工程である。
【0063】
本発明に係るタンパク質が有するフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性は特に限定されるものではないが、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性が高いほど高感度で糖化アミンを検出することができ、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼタンパク質の使用量を少なくすることができるために好ましい。なお本発明の測定方法において使用されるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼタンパク質の濃度は、例えば0.1~500U/mlであり、好ましくは0.5~200U/mlであり、最も好ましくは1.0~100U/mlである。ただし上記のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの濃度は、特に限定されるものではなく、反応条件、試料の種類および状態、実験者の手技ならびに使用する試薬の種類などに応じて、適宜、決定され得る。
【0064】
なお、本発明に係るタンパク質が糖化アミンに作用すると、酸化的加水分解反応により酸素が消費され、過酸化水素が発生する。
【0065】
(4-3)第3工程
第3工程は、第2工程において発生した過酸化水素の量または消費された酸素の量を測定する工程である。第3工程は過酸化水素の量または酸素の量を測定し得る方法であれば、その具体的方法は特に限定されるものではない。したがって、公知の方法が適宜適用され得る。
【0066】
酵素法を利用している場合には、第2工程によって得られた試料にPOD、および酸化により発色する還元剤を添加し、還元剤の発色強度を測定することにより過酸化水素量を測定する。
【0067】
この場合に好適なPODは、西洋ワサビ、微生物などに由来するものが挙げられる。また、PODの好適な使用濃度は、0.01~100単位/mLである。
【0068】
第3工程において好適な過酸化水素の測定方法としては、PODの存在下でのカップラー(4-アミノアンチピリン(4-AA)および3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)など)に対してフェノール系、アニリン系またはトルイジン系の色原体を酸化縮合反応させることにより色素を生成するトリンダー試薬類、およびPODの存在下で直接酸化呈色するロイコ色素が使用され得る。これらの方法は、当業者に公知であり、一般に容易に使用され得る。
【0069】
トリンダー試薬としては、限定されないが、例えば、フェノールおよびその誘導体を用いることができる。
【0070】
第3工程において好適に使用可能なカップラーとしては、4-アミノアンチピリン、アミノアンチピリン誘導体、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)およびスルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)などが挙げられる。
【0071】
第3工程において好適に使用できるロイコ色素としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルメタン誘導体、フェノチアジン誘導体およびジフェニルアミン誘導体などが使用できる。
【0072】
第3工程における過酸化水素量の測定において、POD等を用いた発色方法以外に、各種センサー系を用いた測定法が当業者に一般的に知られている(限定されないが、例えば、特開2001-204494号公報を参照のこと)。具体的には、各種センサー系に用いる電極としては、酸素電極、カーボン電極、金電極および白金電極などが挙げられる。本発明において、作用電極として酵素を固定化したこれらの電極を用い、対極(例えば、白金電極など)および参照電極(例えば、Ag/Cl電極など)と共に、本発明に好適な条件下の緩衝液中に挿入して一定温度に保持しながら、作用電極に一定の電圧を加え、さらに試料を添加して、酵素反応の結果生じる過酸化水素に起因する電流の増加値を測定することができる。
【0073】
また、カーボン電極、金電極および白金電極などを用いてアンペロメトリック系で測定する方法として、固定化電子メディエーターを用いる系がある。例えば、作用電極として酵素およびフェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、およびフェナジンメトサルフェートなどの電子メディエーターを吸着、または共有結合法により高分子マトリクスに固定化したこれらの電極を用い、対極(例えば、白金電極など)および参照電極(例えば、Ag/AgCl電極など)と共に、本発明に好適な条件下の緩衝液中に挿入して一定温度に保持する。続いて、作用電極に一定の電圧を加え、試料を添加して酵素反応の結果生じる過酸化水素に起因する電流の増加値を測定することができる。
【0074】
第3工程で消費された酸素量を測定することで糖化アミン量を測定することもできる(限定されないが、例えば、特開2001-204494号公報を参照のこと)。具体的には、酸素電極を用い、電極表面に酸素を固定化して、本発明に好適な条件下の緩衝液中に挿入して一定温度に保持する。ここに試料を加えて、電流の減少値を測定する。
【0075】
カーボン電極、金電極、白金電極などを用いてアンペロメトリック系で測定する場合には、作用電極として酵素を固定化したこれらの電極を用い、対極(例えば、白金電極など)および参照電極(例えば、Ag/AgCl電極など)と共に、メディエーターを含む電流の増加量を測定する。メディエーターとしては、例えば、フェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体およびフェナジンメトサルフェートなどの化合物を用いることができる。
【0076】
本発明の測定法において、各工程を実施する系に本発明のタンパク質の安定性を増すために不活性タンパク質を添加してもよい。不活性タンパク質は、血清アルブミン類、グロブリン類および繊維性タンパク質類を含む。好ましいタンパク質は、ウシ血清アルブミンであり、好ましい濃度は、0.05~1%(W/V)である。好ましい不活性タンパク質は、酵素分解を起こすプロテアーゼ不純物を含まないものである。
【0077】
フルクトシルアミノ酸濃度の測定は、試料の特定体積および試薬の特定体積を用いて行われる。吸光度測定は、試料ブランクを測定するために、混合後、かつフルクトシルアミノ酸による有意な吸光度変化が起こる前にできるだけ速やかに行われる。0.5~5秒後の第1の吸光度測定が適当である。第2の吸光度測定は、吸光度が定常的になった後、典型的には1mg/dLのフルクトシルアミノ酸濃度において37℃にて3~5分間である。典型的には、該試薬は既知のフルクトシルアミノ酸濃度を有する水性または血清溶液にて標準化される。
【0078】
<5.糖化タンパク質測定キットおよび糖化タンパク質測定センサー>
(5-1)糖化タンパク質測定キット
本発明に係る糖化タンパク質測定キット(以下「本発明のキット」という)は、少なくとも本発明に係るタンパク質を含んでいることを特徴としている。本発明のキットに備えられている本発明に係るタンパク質の形態は特に限定されるものではないが、例えば、水溶液、懸濁液または凍結乾燥粉末などの形態が採用され得る。凍結乾燥粉末は常法に従って作製され得る。
【0079】
上述の添加物の配合法は特に制限されるものではない。例えば、本発明に係るタンパク質を含む緩衝液に添加剤を配合する方法、添加剤を含む緩衝液に本発明に係るタンパク質を配合する方法、または本発明に係るタンパク質および安定化剤を緩衝液に同時に配合する方法などが挙げられる。
【0080】
本発明のキットは、少なくとも本発明に係るタンパク質、ペルオキシダーゼ、および色原体を備える試薬組成物により構成される態様が例示される。
【0081】
本発明の測定方法においてフルクトシルアミノ酸の酸化に由来する過酸化水素の検出には、ペルオキシダーゼ反応を利用する方法であることが好ましい。よって試薬組成物には、ペルオキシダーゼおよび色原体(過酸化水素発色試薬)が好ましく用いられる。
【0082】
本発明に用いられる色原体(過酸化水素発色試薬)は、溶液において安定であり、且つビリルビン干渉が低いものであることが好ましい。本発明に好適に用いることができる色原体(過酸化水素発色試薬)としては、例えば4-アミノアンチピリンもしくは3-メチル-2-ベンゾチアゾリンヒドラゾン(MBTH)およびフェノールもしくはその誘導体またはアニリンもしくはその誘導体の組み合わせからなる試薬が挙げられる。また、本発明において用いられる色原体(過酸化水素発色試薬)は、ベンジジン類、ロイコ色素類、4-アミノアンチピリン、フェノール類、ナフトール類およびアニリン誘導体類であってもよい。
【0083】
また本発明において好適に用いられるペルオキシダーゼは、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼが好ましい。このペルオキシダーゼは、高純度かつ低価格のものが商業的に入手可能である。酵素濃度は、迅速かつ完全な反応のために充分高くなければならず、好ましくは、1,000~50,000U/Lである。
【0084】
また試薬組成物には、上記構成の他、緩衝剤(例えば、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液およびGOOD緩衝液など)が含まれていてもよい。さらに試薬組成物中には、酵素反応を妨害するイオンを捕捉するキレート試薬(例えば、EDTAおよびO-ジアニシジンなど)、過酸化水素の定量の妨害物質であるアスコルビン酸を消去するアスコルビン酸オキシダーゼ、各種界面活性剤(例えば、トリトンX-100およびNP-40など)、ならびに各種抗菌剤および防腐剤(例えば、ストレプトマイシンおよびアジ化ナトリウムなど)などが含まれていてもよい。これらの試薬は、単一試薬でも2種類以上の試薬を組み合わせてなるものであってもよい。
【0085】
緩衝剤としては特に限定されないが、6~8.5のpH範囲において充分な緩衝能力を有する任意の緩衝剤を使用することができる。このような緩衝剤としては、リン酸塩、トリス、ビス-トリスプロパン、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、2-モルフォリノエタンスルホン酸1水和物(MES)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))(PIPES)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)(HEPES)、および3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)などが挙げられる。特に、好ましい緩衝剤はMESおよびPIPESである。また特に、好ましい濃度範囲は20~200mMであり、好ましいpH範囲はpH6~7である。
【0086】
本発明のキットには、例えば、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ、緩衝液、プロテアーゼ、POD、発色試薬、酵素反応を妨害するイオンを捕捉するキレート試薬、過酸化水素の定量の妨害物質であるアスコルビン酸を消去するアスコルビン酸オキシダーゼ、界面活性剤、安定化剤、賦形剤、抗菌剤、防腐剤、ウェルプレート、蛍光スキャナー、自動分析機などが含まれていてもよい。
【0087】
本発明のキットは、本発明に係るフルクトシルアミノ酸の測定方法、および糖化タンパク質の測定に利用し得るものであり、とりわけ、糖化ヘモグロビンの測定に好適に利用し得る。
【0088】
(5-2)糖化タンパク質測定センサー
本発明に係る糖化タンパク質測定センサー(以下「本発明のセンサー」)は、糖化タンパク質を検出するために用いられるセンサーであり、少なくとも本発明に係るタンパク質を備えている。本発明のセンサーは、本発明の測定方法の実施に用いられる。とりわけ、糖化ヘモグロビンの測定に好適に利用し得る。よって、本発明のセンサーは、本発明の測定方法の実施に用いられる物品により構成されていてもよい。上記物品の説明については、本発明の測定方法および本発明のキットの項における緩衝剤等の説明を援用することができる。
【0089】
本発明のセンサーの一実施形態としては、本発明に係るタンパク質を支持体に固定して用いる態様が挙げられる。支持体としては、本発明に係るタンパク質を固定化できるものであれば、特に限定されるものではなく、形状や材質はタンパク質の性質に応じて好適なものを使用してよい。支持体の形状は、タンパク質が固定化できる十分な面積を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、基板、ビーズおよび膜などが挙げられる。支持体の材料としては、例えば、無機系材料、天然高分子および合成高分子などが挙げられる。
【0090】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。表1は、以下の実施例において使用した活性測定試薬の組成を示している。なお、実施例において使用した試薬は特記しない限り、ナカライテスク社より購入したものを用いた。
【0092】
【表1】
【0093】
<活性測定>
実施例中における、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼの活性測定条件を以下に示す。
【0094】
(活性測定法)
各基質に対する酵素活性は、酵素反応により生成される過酸化水素を追随するペルオキシダーゼ反応により生じた色素の吸光度の増加を測定した。まず、活性測定試薬3mlを37℃で5分間予備加温後、この活性測定試薬に、予め酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5))で希釈した酵素溶液0.1mlを加え、反応を開始する。37℃で5分間反応させ、500nmの吸光度変化を測定する(ΔODtest/min)。盲検は酵素溶液の代わりに酵素希釈液0.1mlを加え、上記と同様に操作を行って吸光度変化を測定した(ΔODblank/min)。得られた吸光度変化より、下記計算式に基づき酵素活性を算出した。なお、上記条件で1分間に1マイクロモルの基質を酸化する酵素量を1単位(U)とする。
【0095】
(計算式)
活性値(U/ml)={((ΔODtest/min)-(ΔODblank/min))×3.1ml×希釈倍率}/(13×1.0cm×0.1ml)
3.1ml:全液量
13:ミリモル吸光係数
1.0cm:セルの光路長
0.1ml:酵素サンプル液量
【0096】
<実施例1:フェオスフェリア・ノドラム由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子のサブクローニング>
配列番号2に示した塩基配列を有するフェオスフェリア・ノドラム由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドの大腸菌における大量発現を試みた。フェオスフェリア・ノドラム由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子の終止コドンを除いた全長cDNA領域(配列番号2に示した塩基配列の1番目から1311番目の塩基まで)をPCRで増幅した。その際、配列番号4に示すプライマーP5(5’-GGAATTCCATATGGCGCCCTCCAGAGCAAACACCAGTGTCATT-3’)(この塩基配列における「CATATG」はNdeI認識部位)を用いて、アミノ酸配列のN末端側にNdeI切断部位を挿入した。また、配列番号5に示すプライマーP6(5’-CCGCTCGAGCAAGTTCGCCCTCGGCTTATCATGATTCCAACC-3’)(この塩基配列における「CTCGAG」はXhoI認識部位)を用いて、アミノ酸配列のC末端側にXhoI切断部位を導入した。本DNA断片をpET-23bベクター(ノバジェン社)のNdeI-XhoI部位へT7プロモーターと正方向になるようにサブクローニングした。作製したプラスミドは、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ発現用プラスミドとしてpIE353と命名した。
【0097】
<実施例2:フェオスフェリア・ノドラム由来フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ遺伝子の機能改変によるフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性を有するタンパク質の造成、精製、および酵素アッセイ>
発現プラスミドpIE353および合成オリゴヌクレオチド(配列番号6~15)を用いて、KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit(東洋紡製)を使用して、規定のプロトコールに従って変異処理操作を行い、塩基配列を決定して、配列番号1に示したアミノ酸配列の101番目、131番目、169番目、245番目および360番目のグルタミン酸(E)をコードする塩基配列がリジン(K)をコードする塩基配列に置換されたフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異体をコードする組換えプラスミド(pIE353-E101K、pIE353-E131K、pIE353-E169K、pIE353-E245K、pIE353-E360K)を取得した。
【0098】
取得したプラスミドを用いてBL21 CodonPlus(DE3)-RILを形質転換した後、アンピシリン耐性を示す形質転換体を選抜した。
【0099】
形質転換体を培養し、得られた粗酵素液の精製を行うことにより、精製酵素標品(IE353、IE353-E101K、IE353-E131K、IE353-E169K、IE353-E245K、IE353-E360K)を得た。フルクトシルバリルヒスチジン含有測定試薬を用いて測定した粗酵素液のフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ活性は、9.9~24.6U/mlであった。
【0100】
次に、野生型フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ(IE353)、およびフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼ変異体(IE353-E101K、IE353-E131K、IE353-E169K、IE353-E245K、IE353-E360K)の精製酵素標品の酵素活性を、フルクトシルバリルヒスチジン(F-VH)を単独に含有する活性測定試薬を用いて測定し、第四級アンモニウム塩に対する安定性評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0101】
第四級アンモニウム塩に対する安定性評価はそれぞれの精製酵素標品1U/mL-30mMMES/21mM Tris(pH6.5)の溶液を調製し、0.04%または0.1%(W/V)塩化ヘキサデシル塩化メチルアンモニウム(CTAC)共存下で30℃、5分または10分間処理を実施し、以下計算式により安定性(%)を算出した。
安定性(%)=[(CTAC共存下・30℃,5分または10分間処理後活性値)/(処理なし活性値)]×100
【0102】
【表2】
【0103】
表2の結果から明らかなように、IE353-E101K、IE353-E131K、IE353-E169K、IE353-E245K、IE353-E360Kは野生型FAODタンパク質(IE353)と比較して第四級アンモニウム塩に対する安定性が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、フルクトシルアミノ酸の測定に有用な第四級アンモニウム塩に対する安定性の高いフルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼを提供できるので、フルクトシルバリルヒスチジンオキシダーゼを利用したフルクトシルアミノ酸の測定方法およびフルクトシルアミノ酸測定用試薬組成物等を提供できる。したがって、本発明は、予防医学に基づく臨床検査分野、診断医療分野、製薬分野および保健医学分野をはじめ、生命科学分野の産業に広く利用することができる。
【配列表】
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