(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】衣服型電子機器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20230922BHJP
A61B 5/27 20210101ALI20230922BHJP
【FI】
A61B5/256
A61B5/27
(21)【出願番号】P 2020530279
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2019027745
(87)【国際公開番号】W WO2020013323
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018132974
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】成澤 春彦
(72)【発明者】
【氏名】入江 達彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝司
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-172964(JP,A)
【文献】国際公開第2017/129865(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115441(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に直接接触する電極と伸縮性電気配線
(以下、伸縮性配線とも呼ぶ)を備える衣服型電子機器において、前記電極が、導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする伸縮性導電性シートからなり、前記伸縮性配線が導電性繊維構造体からな
り、前記電極と前記伸縮性配線とが、導電性微粒子をバインダー樹脂に分散した導電性ペーストにより接合されていることを特徴とする衣服型電子機器。
【請求項2】
前記導電性繊維構造体が、導電性繊維を構成成分とする撚糸、組紐、織布、編物、不織布から選択される一種以上の繊維構造体であることを特徴とする請求項1に記載の衣服型電子機器。
【請求項3】
前記電極と前記伸縮性配線との電気的接合が、前記伸縮性導体シートに含まれる導電性微粒子が導電性繊維に直接接触することによることを特徴とする請求項1または2に記載の衣服型電子機器。
【請求項4】
前記電極と伸縮性配線が電気的に接合した箇所の、両者の90度剥離強さが0.5~20N/cmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の衣服型電子機器。
【請求項5】
少なくとも以下の工程を有することを特徴とする請求項1~4に記載の衣服型電子機器の製造方法。
(a)基材に導電性繊維構造体からなる伸縮性配線を形成する工程
(b)少なくとも前記伸縮性配線と一部が重なるように、導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする導電性ペーストをパターン状に直接塗布または直接印刷する工程
(c)前記導電性ペーストを硬化する工程
【請求項6】
少なくとも以下の工程を有することを特徴とする請求項1~4に記載の衣服型電子機器の製造方法。
(d)導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする導電性ペーストを離型基材上に塗布・硬化して導電性シートを得る工程。
(e)前記導電性シートを電極形状に成型する工程
(f)衣服基材に導電性繊維構造体からなる伸縮性配線を形成する工程
(g)前記伸縮性配線の、電極を形成した際に電極と重なる位置に、導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする導電性ペーストを塗布する工程
(h)前記伸縮性配線の、電極を形成した際に電極と重なる位置を除く電極形成位置に熱可塑性樹脂層を形成する工程
(i)前記導電性ペーストの塗布位置、ならびに電極形成位置に、電極形状に成形した導電性シートを重ねて加熱、加圧する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚表面に接触させて生体と電子機器との間で電気的な入力あるいは出力の授受内部の微弱な電気信号を計測したり、あるいは必要に応じて生体に電気的刺激を与えたりする衣服型の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳波、心電図、筋電図等の生体内部の微弱な生体電気信号を測定するために、導電性を有する柔らかい導電性粘着ゲルなどからなる粘着パッド生体電極(特許文献1)等があり、この様な粘着パッド電極は皮膚に対する貼付性を有しており被験者が安静にした状態において導電性を確保し、生体電気信号中にノイズや信号劣化を取り込まないように用いられてきた。
【0003】
一方、健康管理や疾病予測などに用いるために、日常生活の長時間に渡り着用し、被験者が動作した状態でも連続的に生体電気信号を取得できるように、体表面に接触する生体電極及び生体情報を外部に送信する機器を取り付ける端子と電極とを接続する配線を備えた衣類が注目され、電極や配線、端子にさまざまな材料や手段を用いた提案がされている。
【0004】
電極と配線に同一の材料を用いる例として、電極に生体電気信号を検出するための導電性繊維縫合部を用い、配線に導電性繊維で構成された導電性糸を用いた着衣部を有する生体電気信号誘導センサ(特許文献2)がある。また、電極と配線に同一の材料を用いる他の例として、配線を備えた皮膚接触型電極であって、導電性高分子を含む繊維材料、又は、金属粉等の導電性フィラーと伸縮性を含有する樹脂を含有する導電性組成物から形成されたシート材料のいずれかを用い、電極と配線を同じ材料で構成したウェアでは、生体表面上の特定の位置に電極を備えることにより、被測定者が運動動作中においても生体情報を測定可能としている(特許文献3)。
【0005】
一方、電極と配線に異種の材料を用いる例として、電極に金属細線や金属メッキ繊維素材、導電材含浸繊維素材からなる織物、編物または不織布である導電性繊維構造体を用い、配線に導電性高分子を印刷したものや導電性フィルムを貼り付けたものなどを用いた衣類(特許文献4)や、電極に繊維素材を導電性高分子でコーティングした導電性繊維を用い、第5の実施の形態において配線に導電性を有するインク配線を用いることで導電性糸の衣服への裁縫を不要にし、第6の実施の形態において導電性を有する面ファスナーを用いることで任意の位置にウェアラブル機器を取り付けることができる衣類の例(特許文献5)や、電極に金属製の端子、又は、衣類に編み込んだ導電性繊維素材を用い、配線に電線や導電性繊維素材をバネ状に形成したものを用いた衣類に取り付ける装置においては、複数の導電性の繊維素材からなる電極のいずれかが、姿勢検出センサを用いて皮膚に接触することを検知して、電極の皮膚への密着性の不足を補って、生体信号の検出を可能としている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平09-215668号公報
【文献】特開2002-159458号公報
【文献】特開2017-29692号公報
【文献】特開2016-106877号公報
【文献】特開2016-136456号公報
【文献】特開2017-121442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極と端子を接続する配線を備えた衣類を着用して生体電気信号を計測する場合、安定した電気信号を得るには電極は配線に比べて面積が広く、表面抵抗が低く、皮膚に密着し動作時においてもずれないことが重要である。一方、配線は着衣時の違和感を減らすために生地に近い伸縮性を有し、信号劣化を抑えるために比抵抗が低いことが必要であるほか、着脱や洗濯、ドライクリーニング等を行う場合に伸縮等の変形応力を受けても断線しないことが必要となる。
【0008】
上記特許文献2では導電性繊維を電極と配線に用いているが、導電性繊維を用いたファブリック電極は繊維間空隙により皮膚への密着性が劣るために動作時に電極がずれて安定な信号が得られない恐れがある。上記特許文献3においては、電極と配線に金属粉等の導電性フィラーと伸縮性を含有する樹脂を含有する導電性組成物から形成されたシート材料を用いる例を挙げているが、シート材料は繊維材料に比べて空隙が少なく皮膚への密着性に優れるものの、配線として用いるには伸張時に導電性フィラーの電気的接続が破壊されやすいので、着脱や洗濯時に変形応力を受けて断線する恐れがある。
【0009】
電極と配線に異種材料を用いる上記特許文献4と特許文献5では電極に導電性繊維構造体を用いているために動作時に電極がずれて安定な信号が得られない恐れがある。また、特許文献6の様に電極に金属製の端子、又は、衣類に編み込んだ導電性繊維素材を用いる例では、電極の皮膚への密着性の不足を補うために姿勢検出センサ等の他のセンサを用いるために、コストの上昇が懸念される。このように電極と配線に求められる特性が違うために、それぞれに適した異なる材料を用いる必要があり、さらに異なる材料を用いるために材料間の接合に十分な強度を持たせ、生体情報計測用衣服に適した手段を得なければならない。
【0010】
本発明はかかる従来技術の課題を背景になされたものであり、良好な表面抵抗と皮膚への密着性を有する電極と、伸張変形時においても良好な導電性や伸縮性を有する配線を用いることで、安定した電気信号を取得しながら、着脱時や洗濯時での応力や変形に対しても、電極の剥離や配線の断線を生じない十分な物性と衣類への接着性を有する、生体情報計測用衣服用の伸縮性電極を有する配線及び、伸縮性電極を有する配線の製造方法、生体情報計測用衣服を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は以下の構成を有する。
[1] 皮膚に直接接触する電極と伸縮性電気配線を備える衣服型電子機器において、前記電極が、導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする伸縮性導電性シートからなり、前記伸縮性配線が導電性繊維構造体からなることを特徴とする衣服型電子機器。
[2] 前記導電性繊維構造体が、導電性繊維を構成成分とする撚糸、組紐、織布、編物、不織布から選択される一種以上の繊維構造体であることを特徴とする[1]に記載の衣服型電子機器。
[3] 前記電極と前記伸縮性配線との電気的接合が、前記伸縮性導体シートに含まれる導電性微粒子が導電性繊維に直接接触することによることを特徴とする[1]または[2]に記載の衣服型電子機器。
[4] 前記電極と伸縮性配線が電気的に接合した箇所の、両者の90度剥離強さが0.5~20N/cmであることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の衣服型電子機器。
[5] 少なくとも以下の工程を有することを特徴とする[1]~[4]に記載の衣服型電子機器の製造方法。
(a)衣服基材に導電性繊維構造体からなる伸縮性配線を形成する工程
(b)少なくとも前記伸縮性配線と一部が重なるように、導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする導電性ペーストをパターン状に直接塗布または直接印刷する工程
(c)前記導電性ペーストを硬化する工程
[6] 少なくとも以下の工程を有することを特徴とする[1]~[4]に記載の衣服型電子機器の製造方法。
(d)導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする導電性ペーストを離型基材上に塗布・硬化して導電性シートを得る工程。
(e)前記導電性シートを電極形状に成型する工程
(f)衣服基材に導電性繊維構造体からなる伸縮性配線を形成する工程
(g)前記伸縮性配線の、電極を形成した際に電極と重なる位置に、導電性微粒子とバインダー樹脂を少なくとも構成成分とする導電性ペーストを塗布する工程
(h)前記伸縮性配線の、電極を形成した際に電極と重なる位置を除く電極形成位置に熱可塑性樹脂層を形成する工程
(i)前記導電性ペーストの塗布位置、ならびに電極形成位置に、電極形状に成形した導電性シートを重ねて加熱、加圧する工程
【発明の効果】
【0012】
本発明の衣服型電子機器は、生体信号を測定するために皮膚に接触させる伸縮性電極と、生体情報を外部に送信する機器を取り付ける端子(以下、単に端子と略記する場合もある)と伸縮性電極とを接続する伸縮性配線を有する。伸縮性電極には、皮膚への密着性に優れ、表面抵抗が低い導電性微粒子とバインダー樹脂から構成される導電性シートを用いることにより、着用時に被験者が動作した状態でも安定した生体電気信号を取得することが出来る。また、伸縮性配線には、生地に近い伸縮性を有し比抵抗が低く伸縮等の変形応力を受けても断線しない導電性繊維構造体を用いることで、着用時の違和感が大幅に軽減され、着脱や洗濯、ドライクリーニング等を行っても断線せずに、利便性の面で一般の衣類と同様に扱うことが可能な生体情報計測用も衣服型電子機器となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明における離型PETフィルム上に形成された伸縮性電極と伸縮性配線を示す概略模式図(断面図および上面図)である。
【
図2】本発明における衣服生地に形成された伸縮性電極と伸縮性配線、およびコネクタを示す概略模式図(断面図および上面図)である。
【0014】
さらに、伸縮性電極と伸縮性配線に異種材料を用いているが、その接合部分に導電性微粒子をバインダー樹脂に分散した導電性ペーストを用いる場合には、導電性ペーストが伸縮性配線に用いる導電性繊維構造体に浸透し導電性を確保しつつ機械的接合力を得る。また、接合部分に導電性繊維を用いる場合には伸縮性電極と伸縮性配線の両者に導電性繊維を縫い付けることにより導電性を確保し機械的接合力を得る。本発明は、特に伸縮性電極と生体情報を外部に送信する機器を取り付ける端子との距離が15cm以上、好ましくは30cm以上離れている場合に有効であり、さらに好ましくは特に伸縮性電極と生体情報を外部に送信する機器を取り付ける端子との位置が、衣服の前身頃と後身頃、あるいは各身頃と袖部など、生地の縫合部分を跨がって設置されている場合に効果的である。より具体的には、胸部に心電測定用の電極を設け後頸部にデバイスを設置する場合、あるいは胸部に心電測定用の電極を設け、袖の手首近傍に端子を設置する場合などを例示できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の伸縮性電極と伸縮性配線について説明する。
本発明の生体信号を測定するために皮膚に接触させる伸縮性電極は少なくとも導電性微粒子とバインダー樹脂の2種以上から構成される導電性シートからなる。また本発明の伸縮性配線は導電性繊維構造体からなる。
【0016】
本発明における導電性繊維構造体とは、導電性を有する繊維を含む構造体である。本発明における導電性繊維構造体としては、少なくとも導電性の糸ないし繊維を含む繊維材料から構成された繊維構造体を用いる事ができる。また本発明では、非導電性の繊維構造体に導電性を付与する処理を施した繊維構造体を用いる事ができる。本発明における導電性繊維構造体としては、例えば、導電糸(導電性糸、導電性繊維を含む意味。以下、同じ。)を含む繊維で構成された織物、編み物、不織布が挙げられる。本発明の繊維構造体は衣服に伸縮性配線として適用された際に幅と長さを持った平面図形として扱える形状である事が好ましく、好ましくは組紐、織物、編物、不織布である。また紐あるいは、ある程度以上の太さを持った糸であれば、電極との接着面において幅と長さをもった伸縮性配線と見做すことができるので、繊維構造体に含めるものとする。
【0017】
前記導電糸とは、導電性繊維、導電性繊維の繊維束、導電性繊維を含む繊維から得られる撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸、金属線を極細に延伸した極細金属線、フィルムを極細の繊維状に切断した極細フィルムの総称である。本発明における導電性繊維としては、例えば、金属で被覆された化学繊維または天然繊維、導電性金属酸化物で被覆された化学繊維または天然繊維、カーボン系導電性材料で被覆された化学繊維または天然繊維、導電性高分子で被覆された化学繊維または天然繊維などが挙げられる。化学繊維としてはレーヨンやキュプラ、ポリノジックなどの再生繊維、アセテートやトリアセテート、プロミックスなどの半合成繊維、ナイロンやアラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ乳酸などの合成繊維があり、天然繊維としては綿や麻などの植物繊維、羊毛や絹などの動物繊維があり、いずれか又は複数を用いることができる。また、前記導電性繊維として、例えば、金属、導電性金属酸化物、カーボン系導電性材料、および導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を含む高分子材料を紡糸して得られた繊維を用いることができる。
【0018】
金属としては銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫などの金属、黄銅、青銅、白銅、半田などの合金などがあり、導電性金属酸化物としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛金属などがあり、カーボン系導電性材料としてはグラファイト、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどがあり、導電性高分子としてはポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリ(p-フェニレン)、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリアセチレンがあり、いずれか又は複数を用いることができる。
本発明における導電性繊維の繊維束としては、例えば、前記導電性繊維のマイクロファイバーやナノファイバーなどからなる繊維束に、導電性フィラーや導電性高分子等を担持、含浸させて得られたものを用いることができる。
【0019】
本発明における導電糸として、前記導電性繊維を含む繊維を用いて得られた撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸など用いてもよい。前記導電糸には、金属線を極細に延伸した極細金属線も包含される。前記導電性繊維、前記導電性繊維の繊維束、前記導電性繊維を含む繊維から得られる撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸、前記極細金属線の平均直径は、250μm以下が好ましく、より好ましくは120μm以下、更に好ましくは80μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0020】
前記導電糸には、フィルムを極細の繊維状に切断した極細フィルムも包含され、前記極細フィルムとは、金属、導電性金属酸化物、カーボン系導電性材料、および導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を被覆した高分子フィルムを幅800μm以下に切断して得られた繊維状フィルムを意味する。その伸長物性は、引張弾性率が500MPa以下で、かつ、配線の伸長率10%における伸長時の荷重が100N以下であり、衣服に取り付けて使用する際に、生地が伸長しても配線が追随して伸長し、着用感が損なわれることがない。
【0021】
本発明で用いられる導電性シートは少なくとも導電性微粒子とバインダー樹脂の2種以上からなる。導電性微粒子としては金属系微粒子およびまたは炭素系微粒子があり、金属系微粒子としては、銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫などの金属粒子、黄銅、青銅、白銅、半田などの合金粒子、銀被覆銅のようなハイブリッド粒子、さらには金属メッキした高分子粒子、金属メッキしたガラス粒子、金属被覆したセラミック粒子などを用いることができる。炭素系微粒子としては、グラファイト粉末、活性炭粉末、鱗片状黒鉛粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブなどを用いることができる。導電性微粒子は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0022】
バインダー樹脂は弾性率が1GPa以下で、かつ、破断伸度が200%以上である樹脂を用いることが好ましく、熱可塑性樹脂、熱・光硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、共重合ポリエステルなどを用いることができる。熱・光硬化性樹脂としてはアクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。ゴム・エラストマーとしてはウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。バインダー樹脂は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。この中では導電性微粒子との密着性と伸縮性を発現させるためにはゴム・エラストマーを用いることが好ましい。
【0023】
導電性シートには機械的特性、耐熱性、耐久性、透湿性を得るために、必要な特性を損なわない範囲で、絶縁性微粒子を含んでいてもよい。絶縁系微粒子は有機系ないし無機系の絶縁性物質からなる微粒子であり、有機系微粒子としは、アクリル樹脂微粒子、スチレン樹脂系微粒子、メラミン樹脂系微粒子などの樹脂系微粒子を用いることができる。無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、タルク、炭化ケイ素、マグネシア、窒化ホウ素などのセラミックス系微粒子や、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの水に難溶な塩の微粒子を用いることができる。絶縁系微粒子は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0024】
本発明の導電性シートに用いる導電性微粒子の配合量は表面抵抗と伸縮性を考慮して決定され、バインダー樹脂に対する体積%が大きいと表面抵抗は低くなり電気信号の劣化が抑えられるが、バインダー樹脂の導電性微粒子への保持力が下がり耐洗濯性が低下し、また、伸縮性が下がり、ひきつれ感、フィット感が悪化する。一方、体積%が小さいと伸縮性が上がりひきつれ感、フィット感が向上するが、表面抵抗が高くなり電気信号が劣化する。両者の特性のバランスを取る上で導電性微粒子のバインダー樹脂に対する配合量は20~60体積%が好ましい。
【0025】
導電性シートはその引張弾性率が1GPa以下で、かつ、導電性シートの伸長率10%における伸長時の荷重が200N以下である。引張弾性率が1GPaを超える場合や、伸長率10%における伸長時の荷重が200Nを超える場合には、着用者が様々な姿勢や動作をとった場合に、着脱時や洗濯時に電極に亀裂が入り、測定時に電極が皮膚に追随することができずノイズの混入や電気信号の劣化を引き起こす。
【0026】
本発明の導電性シートは上記の導電性微粒子とバインダー樹脂の他に、水または有機溶剤を含んだ導電性ペーストを塗布または印刷などの手段によって作製される。水または有機溶剤の含有量は導電性微粒子の分散方法や、導電性膜形成方法に適合する導電性ペーストの粘度や乾燥方法などによって決められるほか、塗布後の導電性微粒子の連鎖構造形成状態や皮膜層の透湿性を左右する。特に限定はされないが、導電性微粒子、バインダー樹脂と溶剤の合計質量を100%とした場合に20~60質量%であることが好ましい。20質量%未満の場合には粘度が高くなり塗工や印刷に適さず、導電性微粒子の連鎖構造が不均一になり導電性や伸縮性が低下し、皮膜中の空隙率が下がり透湿性が低下する。一方、60質量%を超える場合には、乾燥硬化塗膜中の残溶剤量が多くなり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。
【0027】
有機溶剤は、沸点が100℃以上、300℃未満であることが好ましい。有機溶剤の沸点が低すぎると、ペースト製造工程やペースト使用時に溶剤が揮発し、ペーストを構成する成分比が変化しやすい懸念があり、有機溶剤の沸点が高すぎると、乾燥硬化塗膜中の残溶剤量が多くなり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。このような有機溶剤としては、、シクロヘキサノン、トルエン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、ベンジルアルコール、エクソン化学製のソルベッソ100,150,200、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ターピオネール、ブチルグリコールアセテート、ジアミルベンゼン(沸点:260~280℃)、トリアミルベンゼン(沸点:300~320℃)、n-ドデカノール(沸点:255~29℃)、ジエチレングリコール(沸点:245℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点:145℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点:255℃)、ジエチレングリコールモノアセテート(沸点:250℃)、トリエチレングリコールジアセテート(沸点:300℃)トリエチレングリコール(沸点:276℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:256℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:271℃)、テトラエチレングリコール(沸点:327℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:304℃)、トリプロピレングリコール(沸点:267℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:243℃)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(沸点:253℃)などが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれてもよい。このような有機溶剤は、導電性ペーストが塗布や印刷などに適した粘度となるように適宜含有される。
【0028】
また、導電性シートを作製するために用いられる導電性ペーストには、塗布印刷特性を得るために、伸縮可能な導電性膜に必要な特性を損なわない範囲で、チキソ性付与剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤などを配合することができる。本発明の電気伝導性を有する伸縮性皮膜層を形成するための導電性ペーストは、微粒子を液体に分散させる従来公知の方法を用いることによって樹脂中に導電性微粒子を均一に分散することができる。例えば、微粒子の分散液、樹脂溶液を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロールミル法、ボールミル法などで均一に分散することができる。これらの手段は、複数を組み合わせて使用することも可能である。
【0029】
本発明の伸縮性電極を有する配線は、生体信号を測定するために皮膚に接触させる伸縮性電極には導電性微粒子とバインダー樹脂から構成される導電性シートを用い、伸縮性配線は導電性繊維構造体を用いる。このような異種材料を電気的に接合し、着脱時や洗濯時での応力や変形に対しても接合部の断線を生じない十分な特性を得るために、(1)伸縮性電極と伸縮性配線とを導電性微粒子をバインダー樹脂に分散した導電性ペーストを用いて接合、(2)伸縮性配線に接する位置に、導電性微粒子をバインダー樹脂に分散した導電性ペーストを直接に塗布または印刷することにより、伸縮性電極を作成すると同時に伸縮性電極と伸縮性配線を接合、(3)伸縮性電極と伸縮性配線とを導電性繊維を縫い込むことにより接合、のいずれかの手段を用いることが出来る。(1)の手段では必要な特性を損なわない範囲で、伸縮性電極を作成するのに用いた導電性ペーストと異なる導電性ペーストを用いることが出来る。(3)の手段においても必要な特性を損なわない範囲で、伸縮性配線に用いた導電性繊維と異なる導電性繊維を用いることが出来る。
【0030】
本発明の伸縮性電極に用いられる導電性シートの製造、および(1)、(2)の接合手段における伸縮性電極及び配線の製造において、導電性ペーストを塗布する工程は、特に限定されないが、例えば、ヘラ等による手塗り、コーティング法、印刷法などによって行うことができる。印刷法としては、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ディスペンス法、スキージ印刷などが挙げられる。塗布された導電性ペーストを加熱・乾燥する工程は、大気下、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、還元性ガス雰囲気下などで行うことができ、有機溶剤が揮散され、場合により加熱下で硬化反応が進行し、乾燥後の電気伝導性を有する導電性シートの表面抵抗や伸縮性が良好となる。大気下における加熱温度は50~200℃の範囲、加熱時間は10~90分の範囲で行い、導電性シートの表面抵抗や伸縮性、バインダー樹脂の耐熱性、有機溶剤の沸点などを考慮して低温長時間ないし高温短時間の組合せから選択される。50℃未満ないし10分未満では溶剤が塗膜中に残留し、所望の表面抵抗や伸縮性が得られず、200℃を超える、ないし90分を超える場合には、バインダー樹脂や柔軟性樹脂や基材の劣化や架橋により所望の伸縮性が得られず、また、コスト増加を招く。
【0031】
上記の材料及び手段によって作成された本発明の伸縮性電極を有する配線は、伸縮性電極と伸縮性配線が電気的に接合した箇所の剥離強さが0.5~20N/cmを有する。剥離強さが0.5N/cm未満の場合には、着脱時や洗濯時での応力や変形に対して接合箇所が断線し、20N/cmを超える場合には、伸縮性電極または伸縮性配線の材料強度を超えてしまうため、実用的意味が無い。
【0032】
本発明の伸縮性電極を有する配線を生体情報計測用衣服の生地に適用する場合に、絶縁層形成が必要となる場合がある。絶縁層としては柔軟な樹脂のコーティングないしは柔軟樹脂シートのラミネートにより構成することが可能である。本発明の絶縁層として用いる事ができる柔軟性樹脂は、弾性率が1GPa以下で、かつ、破断伸度が200%以上である樹脂を用いることが好ましく、熱可塑性樹脂、熱・光硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、共重合ポリエステルなどを用いることができる。熱・光硬化性樹脂としてはアクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。ゴム・エラストマーとしてはウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。バインダー樹脂は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0033】
本発明の生体情報測定用衣類は、上記本発明の伸縮性電極を有する配線を複数衣類内側の一部に取り付けられた構成を有する。本発明の生体情報測定用衣類の基材は、ベルト、ブラジャーのような帯状の物、および/または、編織物、不織布からなる被服であれば特に制限されるものではないが、生体情報の測定のために着用時の身体へのフィット性や運動時・動作時の追従性などの観点から、伸縮性を有するものが好ましい。このような生体情報測定用衣類は、着用者の生体情報を計測する手段となり、通常の着用法と着用感を有し、着用するだけで簡便に各種生体情報を測定することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0035】
[製造例]
<導電糸の製造例1>
無電解めっき法により、ナイロン仮撚加工糸(277dtex)を銀メッキした。まず無電解銀めっきのための下地処理として加工糸を精錬剤に浸漬、水洗後、塩化第一スズ10g/リットル、35%塩酸20ミリリットル/リットルを含んだ水溶液に浸漬した後、水洗することにより触媒性を付与し後、下記組成の無電解銀メッキ液を所定量用いて銀を10質量%被覆した。
〔無電解銀めっき液浴比〕(銀5g/1リットル)
エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム 100g/1リットル
水酸化ナトリウム 25g/1リットル
ホルマリン 50g/1リットル
硝酸銀(水1リットルに溶解して滴下) 15.8g
アンモニア水(水1リットルに溶解して滴下) 50ミリリットル
得られた銀メッキ糸を撚り合わせ、糸長1cmあたりの抵抗値が120mΩの導電糸(F1)を得た。
【0036】
<導電糸の製造例2>
KBセーレン株式会社製の極細繊維ベリーマXのフィラメントを、チオフェン系導電性高分子PEDOT:PSSを用いた導電性成分に用いた導電塗料デナトロンに浸漬し、超音波処理を3分間行った後に絞りながら引き上げ、乾燥することにより、導電性高分子を含浸した導電糸(F2)を得た。得られた導電糸の糸長1cmあたりの抵抗値は40Ωであった。
【0037】
<導電性ペーストの製造例1>
日本ゼオン株式会社社製のニトリルゴムNipol DN003、20質量部をイソホロン、45質量部に溶解し、得られた樹脂溶液にDOWAエレクトロニクス株式会社社製の凝集銀粉Gー35、60質量部と、DOWAエレクトロニクス株式会社社製のフレーク状銀粉FAーD-3、20質量部を配合し、3本ロールミルにて混合し、導電性ペースト(P1)を得た。
【0038】
<導電性ペーストの製造例2>
東洋紡株式会社社製ポリエステルウレタン樹脂溶液バイロンUR6100(溶剤組成:シクロヘキサノン/ソルベッソ150/イソホロン=40/40/20質量比)の65質量部に、DOWAエレクトロニクス株式会社社製の凝集銀粉Gー35、60質量部と、DOWAエレクトロニクス株式会社社製のフレーク状銀粉FAーD-3、20質量部を配合し、3本ロールミルにて混合し、導電性ペースト(P2)を得た。
【0039】
[導電性繊維構造体の作製]
製造例1にて得られた導電性繊維とポリエステル仮撚加工糸330dtexを用いて、22Gのシングル編機にて天竺生地を製編した。交編は導電性繊維とポリエステル仮撚加工糸を交互に給糸(1×1)して、編成糸長355mm/100Wにて実施。得られた生機を精錬し、適幅にて生地を仕上げて導電性繊維構造体(FF1)を得た。得られた導電性繊維構造体の特性を表1に示す。
製造例2にて得られた導電性繊維とポリエステル仮撚加工糸110dtexを用い、18Gの両面編機にてフライス生地を製編した。交編は導電性繊維とポリエステル仮撚加工糸を交互に給糸(1×1)して、編成糸長450mm/100Wにて実施。得られた生機を精錬し、適幅にて生地を仕上げて導電性繊維構造体(FF2)を得た。得られた導電性繊維構造体の特性を表1に示す。
【0040】
[導電性シートの作製]
離型処理PETフィルム上に製造例1及び2にて得られた導電性ペーストを使い、アプリケータを用いて乾燥膜厚が約120μmになるように塗布し、120℃×30分間、熱風乾燥オーブンで乾燥した後、離型処理PETフィルムを剥がし導電性シート(PS1)および(PS2)を得た。得られた導電性シートの特性を表1に示す。
【0041】
【0042】
[伸縮性電極を有する配線の作製]
上記で作製した、導電性繊維構造体及び導電性シートを直径5.0cmの円形に切り抜いて伸縮性電極とした。また巾1.0cm×長さ16.0cmの長方形に切り抜いて伸縮性配線とした。次に、円形電極の端部約1.0平方cmの箇所に上記の導電性ペーストの約0.05gを塗布した後、長方形配線の端部1.0cmを重ね合せ2個のクリップで保持し、120℃、30分間、熱風乾燥オーブンで乾燥し、導電性ペーストで接合した伸縮性電極を有する配線を作製した。
【0043】
[衣服型電子機器の作製例1(実施例1)]
伸縮性のあるダブルラッセル編物を衣服の基材として用い、まず、基材上の所定位置に、前記導電性繊維構造体(FF1)からなる伸縮性配線をホットメルトシート(日本マタイ株式会社社製ポリウレタン系ホットメルト、エルファンUH)を用いてホットプレスにより貼り付けた。次いで、前記伸縮性配線の端から1cm長までに重なるように、導電性ペースト(P1)を、平坦部の厚さが35μmとなるようにスクリーン印刷を行い、所定の乾燥工程を経て、電極と配線が電気的に接合した導電性トレースを有する基材を得た。
伸縮性配線と電極との接合状態を観察するために、都外部分の断面を顕微鏡観察したところ、導電性ペーストの導電微粒子が導電性繊維に直接接触している状態を観察することができた。
得られた導電性トレースを有する基材を所定の型紙に従って裁断、縫製して胸部全面の左右に対称系となるように心電計測用電極を有するコンプレッションタイプの男性用シャツを得た。さらに伸縮性配線の所定位置にステンレススチール製のスナップホックを伸縮性配線とスナップホックの台座が直接接触するように取り付け、コネクタとし、ユニオンツール社製の心拍センサWHS-2を接続し、心拍計測機能を組み込んだシャツ(TS01)を10着作製した。
【0044】
得られたシャツ(TC01)から6着を任意に抜き出し、心電計測CN比を下記の評価方法にて評価した。結果、いずれのシャツにおいてもSN比が良好な心電計測が可能であった。前記6着の中から任意に3着を抜き出し、シャツの伸縮性電極と近傍の20cm四方を切り抜き、シャツの基材側を90度剥離用ジグの水平部分に床カーペット用の両面テープで接着し、伸縮性電極の伸縮性配線と重なる部分の伸縮性電極層にカミソリ刃にて切り込みを入れ、さらに伸縮性電極に重なるように切り抜いたガムテープを貼り付け、伸縮性電極をガムテープごと引っ張り試験機の上側クリップにて挟み垂直方向に引きはがすことにより、伸縮性配線と伸縮性電極との90度剥離強さを求めた。剥離強さはN3平均にて6.3N/cmであった。
残る3着について洗濯試験を行った。3着とも洗濯試験後も、試験前と同様の心電計測が行え、性能低下は観察されなかった。この洗濯試験を行った3着について、同様の方法で伸縮性配線と伸縮性電極との90度剥離強さを求めた。剥離強さはN3平均にて5.7N/cmであり、顕著な低下は観察されなかった。
【0045】
[心電計測SN比]
成人男性3名を被験者とし、実施例で作成した心拍計測機能を組み込んだシャツを着用し、15℃、40%RHの環境下で心電計測を行いながら、ラジオ体操第1と、ラジオ体操第2を続けて実施した。心電計測時のSN比は体操時間の始めの1分間と終りの1分間を除いた心電図の電圧波形からR波の振幅の分散をシグナル(S)とし、R波とR波の間の波形の振幅の分散をノイズ(N)とし、S/Nの式でSN比を求めた。
【0046】
[洗濯試験]
JIS L 0844に準拠した洗濯方法を用い、機械洗濯器、洗濯ネット、洗剤(花王株式会社製アタック)を用い、上記で作製した電極を備えたシャツを5回連続洗濯後、1回陰干を1サイクルとして10回繰り返した。洗濯後の伸縮性電極を有する配線を備えた生体情報計測用衣服を用いて、上記と同様に心電計測SN比を求めた。
【0047】
[衣服型電子機器の作製例2(実施例2)]
衣服型電子機器の作製例1において、伸縮性配線を(FF2)から得られた配線に代えた以外は同様に操作を行い、心拍計測機能を組み込んだシャツ(TS02)を10着作製した。さらに同様に評価を行った。結果、衣服型電子機器の作製例1と同様に良好な結果を得た。電極と伸縮性配線の90度剥離強さは初期N3平均にて4.3N/cmであり、洗濯試験後にN3平均にて4.2N/cmであった。
【0048】
[衣服型電子機器の作製例3、4(実施例3、4)]
衣服型電子機器の作製例1において、導電性ペーストをPS2に変更した以外は同様に操作を行い心拍計測機能を組み込んだシャツ(TS03)を得た。さらに伸縮性配線を(FF2)に変更して(TC04)を得た。得られたシャツを同様に評価したところ、いずれも衣服型電子機器の作製例1と同様に良好な結果を得た。電極と伸縮性配線の90度剥離強さはN3平均にて作製例3が初期5.2N/cm、洗濯試験後に4.8N/cmであった。 作製例4は初期5.7N/cm、洗濯試験後が5.5N/cmであった。
【0049】
[衣服型電子機器の作製例5(実施例5)]
伸縮性のあるダブルラッセル編物を基材として用い、まず、基材上の所定位置に、導電糸F1を用いてジグザグ型ステッチの刺繍を行い伸縮性配線を形成した。次いで、前記伸縮性配線の端から1cm長までに重なるように、導電性ペースト(P1)を、平坦部の厚さが20μmとなるようにスクリーン印刷を行い、所定の乾燥工程を経て、電極と配線が電気的に接合した導電性トレースを有する基材を得た。
伸縮性配線と電極との接合状態を観察するために、都外部分の断面を顕微鏡観察したところ、導電性ペーストの導電微粒子が導電性繊維に直接接触している状態を観察することができた。
得られた導電性トレースを有する基材を所定の型紙に従って裁断、縫製して胸部全面の左右に対称系となるように心電計測用電極を有するコンプレッションタイプの男性用シャツを得た。さらに伸縮性配線の所定位置にステンレススチール製のスナップホックを伸縮性配線とスナップホックの台座が直接接触するように取り付け、コネクタとし、ユニオンツール社製の心拍センサWHS-2を接続し、心拍計測機能を組み込んだシャツ(TS05)を10着作製した。以下同様に評価を行った結果、衣服型電子機器の作製例1と同様に良好な結果を得た。電極と伸縮性配線の90度剥離強さはN3平均にて初期が6.4N/cm、洗濯試験後が6.1N/cmであった。
【0050】
[衣服型電子機器の作製例6(実施例6)]
衣服型電子機器の作製例5において、導電糸をF2に代え、導電性ペーストをP2に代えた以外は同様に操作し、心拍計測機能を組み込んだシャツ(TS06)を得た。以下同様に評価を行った結果、衣服型電子機器の作製例1と同様に良好な結果を得た。電極と伸縮性配線の90度剥離強さはN3平均にて初期が6.2N/cm、洗濯試験後が5.9N/cmであった。
【0051】
[電極部品および伸縮性配線部品の作製]
導電性繊維構造体及び導電性シートを直径5.0cmの円形に切り抜いて電極部品とした。また巾1.0cm×長さ16.0cmの長方形に切り抜いて伸縮性配線部品とした。次に、電極部品の配線との接続個所に相当する端部の約1.0平方cmの箇所に上記の導電性ペースト(P1)の約0.05gを塗布した後、伸縮性配線部品の端部1.0cmを重ね合せ2個のクリップで保持し、120℃、30分間、熱風乾燥オーブンで乾燥し、
図1に示す、導電性ペーストで接合された伸縮性電極と伸縮性配線からなる導電性トレースを得た。得られた導電性トレースの特性を表2に示す。
【0052】
[衣服型電子機器の作製例7(実施例7)]
巾1.0cm×長さ15.0cmの長方形と、概長方形に直接接続する直径5.0cmの円形に切り抜いたホットメルトシート(日本マタイ株式会社社製ポリウレタン系ホットメルト、エルファンUH)を離型処理PETフィルム上に置き、上記で作製した導電性トレースを重ね合わせ、さらに伸縮性配線のカバー絶縁に相当する部分に幅1.2cm×長さ15cmの長方形で切り抜いたホットメルトシートを重ね合わせ、さらに離型処理PETフィルムを重ねて、ゴムロール温度を120℃に調整したロールラミネート機にて熱圧着し、離型処理PETフィルムとホットメルトシート層を有する導電性トレース部品を得た。次に片側の離型処理PETフィルムを剥がし、シャツ(ポリエステル100%ニット地)の内側の所定の位置に配置してアイロンで熱圧着し、さらに上側の離型処理PETフィルムを剥がして、内側に電極を備えたシャツを作製した。
【0053】
得られたシャツの所定位置にステンレススチール製ホックとりつけ、
図2に示す伸縮性電極および伸縮性配線を有するシャツを得た。さらに該ホックを介して、ユニオンツール社製の心拍センサWHS-2を接続し、心拍計測機能を組み込んだシャツTS07を得た。
以下同様に、表2に示す組み合わせにおいて導電性トレースを作製し、所定の方補云為従って評価した、結果を表2に示す。
【0054】
なお表1、表2に示す特性は以下の方法にて測定した。
[厚さ、単位面積当たりの質量、引張弾性率および10%伸長時荷重の測定]
導電性シートの厚さはJIS K7130(1999)プラスチック-フィルム及びシート-厚さ測定方法、A法に基づいて測定した。 導電性繊維構造体の単位面積当たりの質量はJIS L1096(2010)織物及び編物の生地試験方法、8.3単位面積当たりの質量に基づいて測定した。引張弾性率および伸長時荷重はJIS K7161-1(2012)プラスチック-引張特性の求め方-第 1 部に基づいて測定した。測定条件は試験片幅1.5cm×長さ15cm、チャック間距離、10cm、試験速度5.0cm/分とした。
【0055】
[表2における剥離強さの測定]
JIS L1086(2013)接着芯地及び接着布試験方法の7.10剥離強さに基づいて剥離強さを測定した。
作製した導電性繊維構造体及び導電性シートを幅2.5cm×長さ15cmのテープ状に裁断して試験片を得た。一方の試験片の端部から5cmまでの箇所に上記の導電性ペーストを約0.25g塗布した後、別の試験片を重ね合せ、接合箇所を2個のクリップで保持し、120℃、30分間、熱風乾燥オーブンで乾燥し、導電性ペーストで接合した測定用試験片を作製した。測定用試験片の夫々の上端を上下のチャックに挟み、つかみ間隔を5cmとして、引っ張り試験機(オリエンテック社製)により、引っ張り速度10.0cm/minの条件で5cmを剥離して、その間の剥離に要する力を測定し、その平均値を得て剥離強さとした。
【0056】
なお、[心電計測SN比]、[洗濯後のSN比]については [衣服型電子機器の作製例1(実施例1)]と同じ方法にて評価した。 比較例1及び3は洗濯後のSN比が低下しており、導電性シートの配線箇所を目視で確認すると洗濯時に発生したと思われる亀裂が見られ配線としての機能が低下していた。比較例2では着脱時に接合箇所で断線し心電測定を行う事ができなかった。
【0057】
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上述べてきたように、本発明では、伸縮性電極と伸縮性配線のそれぞれに適した材料を用い、両者を十分な強度で接合することにより、伸縮性配線と伸縮性電極との接合部の破断を抑えて、着脱時や洗濯時に加わる応力に耐え、良好な電気信号測定を可能とする生体情報測定用の伸縮性電極を有する配線および衣類を提供するものであり、日常生活の健康管理、ジョギング、マラソン等屋外スポーツ時の生体情報の把握、建設現場などの屋外作業での労務管理に適用することができる。また本発明は生体信号の測定だけで無く、筋肉に電気的刺激を与えて運動させるための機器にも用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1.離型処理PETフィルム
2.衣服の基材
3.伸縮性配線
4.伸縮性電極
5.導電性接着材
6.カバー絶縁
7.コネクタ