(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】改変型ストレプトリジンO
(51)【国際特許分類】
C07K 14/315 20060101AFI20230922BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230922BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230922BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230922BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230922BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230922BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230922BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230922BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C07K14/315 ZNA
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
G01N33/53 N
(21)【出願番号】P 2022018921
(22)【出願日】2022-02-09
(62)【分割の表示】P 2018519627の分割
【原出願日】2017-05-26
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2016106150
(32)【優先日】2016-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】北澤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】岸本 高英
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102964435(CN,A)
【文献】特開2003-344410(JP,A)
【文献】特許第4704662(JP,B2)
【文献】国際公開第01/092885(WO,A1)
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2001年,Vol.65, No.12,pp.2682-2689
【文献】Microbiology and Immunology,2004年,Vol.48, No.9,pp.677-692
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
C07K 14/315
C12P 21/02
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)~(d)のいずれかのポリペプチドからなるストレプトリジンO;
(a)配列番号1に記載の2位のセリン残基から31位のアラニン残基、32位のグルタミン酸残基、33位のセリン残基、34位のアスパラギン残基のいずれかまでのポリペプチドが欠損し、かつ、配列番号1に記載の465位のイソロイシン残基から472位のアラニン残基のいずれかから、それ以降の全てのアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1に記載のN32-C464、N32-C466、N32-C471、N35-C464、N35-C466、およびN35-C471よりなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(
c)上記(a)
または(b)に示されるアミノ酸配列のN末端領域もしくはC末端領域にタグを1つ以上有するポリペプチド。
(d)上記(a)に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
下記の(e)~(
g)のいずれかのDNA:
(e)請求項1に示されるアミノ酸配列をコードするDNA。
(
f)配列番号2に示される塩基配列との同一性が90%以上である塩基配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(g)配列番号2に示される塩基配列を鋳型として、配列番号4および6、配列番号4および7、配列番号4および8、配列番号5および6、配列番号5および7、ならびに配列番号5および8の各プライマーを用いて増幅されたDNA。
【請求項3】
以下の(
h)のDNA:
(h)配列番号3に示される塩基配列を鋳型として、配列番号11および12のプライマーを用いて増幅されたDNA。
【請求項4】
請求項2または3に記載のDNAを組み込んだ
、請求項1に記載のポリペプチドを発現するためのベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養することを含む、請求項1に記載のストレプトリジンOを製造する方法。
【請求項7】
請求項1に記載のストレプトリジンOを架橋処理して得られる架橋型ストレプトリジンO。
【請求項8】
請求項1に記載のストレプトリジンOもしくは
請求項7に記載の架橋型ストレプトリジンOがコーティングされたラテックス粒子。
【請求項9】
請求項8に記載のラテックス粒子を使用した抗ストレプトリジンO抗体(ASO)の測定方法。
【請求項10】
請求項8に記載のラテックス粒子を含む抗ストレプトリジンO抗体(ASO)測定試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレプトリジンO(以下、本明細書ではSLOとも表記する。)及びその用途に関する。詳しくは、本発明はストレプトリジンO、及び当該タンパク質の生産菌、当該タンパク質の製造法、当該タンパク質を使用した抗ストレプトリジンO(Anti Streptolysin O)(以下、本明細書ではASOとも表記する。)の測定方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
SLOは溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)が菌体外に生産する溶血活性を有するタンパク質で、溶血性連鎖球菌の感染有無を診断するためのASO測定試薬の原料に広く使用されている。
【0003】
従来、SLOの製造のためには、溶血性連鎖球菌が培養されてきたが、溶血性連鎖球菌のSLO生産性は非常に低く、溶血性連鎖球菌から製造されたSLOは純度も低いため、SLOの品質が安定しないという問題があった。そこで、生産性の向上と安定性の向上を目的として、組換え大腸菌を利用したSLOの研究が行われている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1及び非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、組換え大腸菌を用いてSLOを製造する場合、全長型SLOに加え、C末端側から少なくとも50アミノ酸残基離れた領域で切断された低分子量型のSLOも生産されることが報告されていた(非特許文献1)(非特許文献1では、全長型SLOは高分子量型SLOと記載されている)。非特許文献1では、組換え大腸菌を用いることで生産性は向上しているが、全長型SLO(以下、本明細書ではFull length typeとも表記する。)と低分子量型SLOの比率を工業スケールで制御することは難しく、品質の安定性という課題は克服できていない。
【0005】
さらに、SLOは溶血活性を有するタンパク質であるため、製造者の安全性の観点から溶血活性は低減させることが望まれており、C末端の数アミノ酸残基を欠損させると溶血活性が低減することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-184372
【文献】特開平6-237775
【非特許文献】
【0007】
【文献】MICHAEL A. KEHOE et al.,INFECTION ANDIMMUNITY,Vol.63,No.7,2776-2779,1995
【文献】AKIRA TAKETO et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,65(12),2682-2689,2001,45(14),4455-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、SLOの生産性が高く、全長型SLOと低分子量型SLOが混在せず、天然のSLOと同等のエピトープを有するSLOを提供することにある。また、製造の観点からは、溶血活性が無く、熱安定性の高いSLOが望まれており、そのような特性も兼ね備えたSLOを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために、SLOの発現領域を鋭意検討した結果、いずれの課題も克服するSLOを見出した。具体的には、全長型SLOと低分子量型SLOの混在を防ぐために、C末端領域を欠損させた改変型SLO(以下、本明細書ではFragment typeとも表記する。)を発現させた。
この改変型SLOはエピトープの損失の問題が懸念されたが、驚くべきことに、本発明者は、全長型SLOのC末端側の約100アミノ酸残基の領域を欠損させても抗原活性は損失されず、むしろタンパク質あたりの抗原活性が全長型SLOに対して向上することを確認した。このことは、全長型SLOから削除した約100アミノ酸残基の領域には重要なエピトープが存在しないことを意味する。
また、本発明者は、改変型SLOが溶血活性を損失していることを確認した。さらに、熱安定性に関しても、改変型SLOが全長型SLOに対して向上していることを見い出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以上の知見ないし成果に基づくものであり、以下に示すSLOを提供する。
[項1]
下記の(a)~(d)のいずれかのポリペプチドからなるSLO;
(a)配列番号1に記載の2位のセリン残基から31位のアラニン残基、32位のグルタミン酸残基、33位のセリン残基、34位のアスパラギン残基のいずれかまでのポリペプチドが欠損し、かつ、配列番号1に記載の465位のイソロイシン残基から472位のアラニン残基のいずれかから、それ以降の全てのアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)上記(a)に示されるアミノ酸配列のN末端領域もしくはC末端領域にタグを1つ以上有するポリペプチド。
(c)上記(a)に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド。
(d)上記(a)に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド。
[項2]
下記の(e)~(i)のいずれかのDNA:
(e)項1に示されるアミノ酸配列をコードするDNA。
(f)配列番号2において、N末端のatgの配列を除く5’末端側の0、3、6または9個の塩基が欠損し、かつ、3’末端側の3n(nは0から7のうちいずれかの整数)個の塩基が欠損した塩基配列からなるDNA。
(g)配列番号2に示される塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(h)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(i)配列番号2に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列であり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
[項3]
以下の(k)~(n)のいずれかのDNA:
(k)配列番号3において、N末端のatgの配列を除く5’末端側の0、3、6または9個の塩基が欠損し、かつ、3’末端側の3n(nは0から7のうちいずれかの整数)個の塩基が欠損した塩基配列からなるDNA。
(l)配列番号3に示される塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(m)配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(n)配列番号3に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列であり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
[項4]
項2または3に記載のDNAを組み込んだベクター。
[項5]
項4に記載のベクターを含む形質転換体。
[項6]
項5に記載の形質転換体を培養することを含む、項1に記載のSLOを製造する方法。
[項7]
項1に記載のSLOを架橋処理して得られる架橋型SLO。
[項8]
項1に記載のSLOもしくは項7に記載の架橋型SLOがコーティングされたラテックス粒子。
[項9]
項8に記載のラテックス粒子を使用した抗ストレプトリジンO抗体(ASO)の測定方法。
[項10]
項8に記載のラテックス粒子を含む抗ストレプトリジンO抗体(ASO)測定試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明の改変型SLOは抗原活性、熱安定性に優れたASO試薬に用いる診断薬原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】全長型及び各種改変型ストレプトリジンOのSDS-PAGE
【
図2】C末端を560位とするストレプトリジンOのSDS-PAGE
【
図3】BIOKIT社製ストレプトリジンOのSDS-PAGE
【
図6】各種ストレプトリジンOにより製造されたASO試薬における感度比較
【発明を実施するための形態】
【0013】
(改変型ストレプトリジンO)
本発明の実施形態のひとつは、下記の(a)~(d)のいずれかのポリペプチドからなるSLOである。
(a)配列番号1に記載の2位のセリン残基から31位のアラニン残基、32位のグルタミン酸残基、33位のセリン残基、34位のアスパラギン残基のいずれかまでのポリペプチドが欠損し、かつ、配列番号1に記載の465位のイソロイシン残基から472位のアラニン残基のいずれかから、それ以降の全てのアミノ酸残基が欠損したアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)上記(a)に示されるアミノ酸配列のN末端領域もしくはC末端領域にタグを有するポリペプチド。
(c)上記(a)に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド。
(d)上記(a)に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド。
【0014】
上記(a)のポリペプチドにおいて、配列番号1はSLOの全長(全長型SLO)であり571アミノ酸からなる。配列番号1の1位はN末端のメチオニンであり、本発明のSLOは、N末端側において、2位から31位、2位から32位、2位から33位、および、2位から34位からなる群のうちいずれかが欠損している。N末端から31残基までは分泌シグナルであって、本発明のSLOを大腸菌等のグラム陰性菌で菌体内に発現させる場合には削除することが好ましい。菌体外に発現させる場合は、宿主に合わせた適当な分泌シグナルを付与してもよい。
また、本発明のSLOは、C末端側において、465位から571位、466位から571位、467位から571位、468位から571位、469位から571位、470位から571位、471位から571位、および、472位から571位からなる群のうちいずれかが欠損している。
【0015】
上記の本発明のSLOにおいて、N末端側の欠損とC末端側の欠損との組合せは特に限定されないが、好ましい例として、N末側の32位からC末側の464位からなるポリペプチドが挙げられる(なお、本明細書では、このようなポリペプチドを、両端のアミノ酸の位置を示す数字をハイフンで結び、N32-C464のようにも表す。)。それ以外に、N32-C464、N32-C466、N32-C471、N35-C464、N35-C466、N35-C471なども好ましいものとして挙げられる。
【0016】
本発明のSLOは、上記(a)のものに限定されず、
(b)上記(a)に示されるアミノ酸配列のN末端領域もしくはC末端領域にタグを1つ以上有するポリペプチド。
(c)上記(a)に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加(本明細書ではこれらを一括して「改変」とも表す。)したアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド、及び、
(d)上記(a)に示されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチド、
も、含まれる。
【0017】
これは、タンパク質のアミノ酸配列の一部に変異が生じても、機能的には同等のタンパク質であることが多いからである。
【0018】
上記(b)のポリペプチドにおいて、タグは特に限定されないが、Hisタグ、HQタグ、HNタグ、HATタグ、GSTタグ、MBPタグ、Strep(II)タグ等のアフィニティータグなどが挙げられる。これらの中から1つ以上を選択することが好ましい。中でも、エピトープとしての機能を極力影響を及ぼさないという観点からすると、Hisタグ、HQタグ、HNタグ、HATタグ、Strep(II)タグ等が好ましい。N末端へのタグの挿入方法としては特に限定されないが、N末端のメチオニン残基の直下にタグが挿入されることが好ましい。また、数アミノ酸残基の後にタグを挿入してもよい。そのアミノ酸残基数としては特に限定されないが、好ましい上限は20残基以下、さらに好ましくは10残基以下、さらに好ましくは5残基以下であり、下限は1残基以上であれば良い。C末端へのタグの挿入方法としては特に限定されないが、終止コドンの直前にタグが挿入されることが好ましい。また、数アミノ酸残基前にタグを挿入してもよい。そのアミノ酸残基数としては特に限定されないが、好ましい上限は20残基以下、さらに好ましくは10残基以下、さらに好ましくは5残基以下であり、下限は1残基以上であれば良い。また、発現ベクター骨格にタグが含まれる場合は、遺伝子配列が適宜、削除されてもよい。
【0019】
上記(c)のポリペプチドにおいて「数個」の下限は2個である。上限はASOに対する抗原活性が維持される限り数は制限されないが、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造やASOに対する抗原活性を大きく損なわない範囲であることが好ましい。例えば、全アミノ酸の20%未満に相当する数であり、好ましくは15%未満に相当する数、さらに好ましくは10%未満に相当する数、さらに好ましくは5%未満に相当する数、さらに好ましくは1%未満に相当する数である。換言すれば、個数とは、例えば、114個以下、好ましくは86個以下、さらに好ましくは57個以下、さらに好ましくは29個以下、さらに好ましくは20個以下、さらに好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下、さらに好ましくは4個以下、さらに好ましく3個以下である。
【0020】
上記(c)のポリペプチドにおいては、ASOに対する抗原活性が、後述の「SLOの抗原活性測定方法」で測定した場合、それぞれの改変前のタンパク質の50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上保持していることが望ましい。
【0021】
上記(d)のポリペプチドにおいて、上記(a)に示されるアミノ酸配列との同一性は80%以上であることが好ましい。この同一性は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
【0022】
アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。本明細書においては、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が公開している相同性検索プログラムであるBLASTのウェブサイトにおいてblastpを選択しデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、同一性を算出する。
【0023】
あるポリペプチドがASOに対する抗原活性を有するかどうかは、後述の「SLOの抗原活性測定方法」にしたがって判断する。
【0024】
ASOに対する抗原活性を有するタンパク質の改変体及びその遺伝子は、例えばTransformerMutagenesis Kit;Clonetech製、EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製、QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製、KOD-Plus-Mutagenesis Kit;東洋紡製などの市販のキットやPCR法を利用して配列番号2に記載の塩基配列を改変することによって得ることができる。
得られた遺伝子によってコードされるタンパク質の抗原活性は、例えば、得られた遺伝子を大腸菌に導入して形質転換体を作成し、この形質転換体を培養して酵素タンパク質を生成させ、この形質転換体、この形質転換体の菌体破砕液もしくは精製した酵素タンパク質を後述の「SLOの抗原活性測定方法」で測定することによって確認することができる。
【0025】
(改変型ストレプトリジンOをコードするDNA)
本発明の別の実施形態は、下記の(e)~(i)のいずれかのDNAである。
(e)上記の本発明のSLOのアミノ酸配列をコードするDNA。
(f)配列番号2において、N末端のatgの配列を除く5’末端側の0、3、6または9個の塩基が欠損し、かつ、3’末端側の3n(nは0から7のうちいずれかの整数)個の塩基が欠損した塩基配列からなるDNA。
(g)配列番号2に示される塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(h)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(i)配列番号2に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列であり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0026】
上記(e)のDNAにおいて、本発明のSLOのアミノ酸配列は、上記の(a)~(d)のいずれかに示されるSLOのアミノ酸配列である。本発明のDNAでは、前記アミノ酸配列における各アミノ酸に対応するコドンが複数ある場合は、その選択には特に制限はない。
【0027】
上記(f)のDNAにおいて、配列番号2は、前記の配列番号1のアミノ酸で示される全長型SLOのメチオニン及び32位から471位に相当する部分をコードしている。配列番号2において、開始コドンを除く5’末端側の3個の塩基が欠損したものは、配列番号1におけるN33-C471をコードしていることになる。同様に、5’末端側の6個の塩基が欠損したものはN34-C471を、5’末端側の9個の塩基が欠損したものはN35-C471を、それぞれコードしていることになる。
また、3’末端側の3n(nが1)個の塩基が欠損したものは、配列番号1におけるN32-C470をコードしていることになる。同様に、3’末端側の3n(nが2)個の塩基が欠損したものはN32-C469を、3’末端側の3n(nが3)個の塩基が欠損したものはN32-C468を、3’末端側の3n(nが4)個の塩基が欠損したものはN32-C467を、3’末端側の3n(nが5)個の塩基が欠損したものはN32-C466を、3’末端側の3n(nが6)個の塩基が欠損したものはN32-C465を、3’末端側の3n(nが7)個の塩基が欠損したものはN32-C464を、それぞれコードしていることになる。
【0028】
上記の本発明のDNAにおいて、5’末端側の欠損と3’末端側の欠損との組合せは特に限定されないが、好ましい例としては、上述の本発明のSLOのN末端側の欠損とC末端側の欠損との組合せとして例示されているものをコードするDNAが挙げられる。
【0029】
また、本発明のDNAは、上記(e)、(f)のものに限定されず、
(g)配列番号2に示される塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
(h)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA、及び、
(i)配列番号2に示される塩基配列において、1若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列であり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA、
も含まれる。
【0030】
これは、タンパク質をコードするDNAの塩基配列の一部に変異が生じたり、またその結果としてタンパク質のアミノ酸配列の一部に変異が生じても、機能的には同等のタンパク質であることが多いからである。
また、本発明のSLOをコードするDNAを、由来生物以外の宿主生物(大腸菌など)に組込んで本発明のSLOを発現させる場合、発現効率向上のため、宿主生物のコドンユーセージに合わせて塩基配列を変更することもあるからである。コドンの至適化については、かずさDNA研究所が公開しているコドン使用頻度の一覧表(http://www.kazusa.or.jp/codon/)などを参考にして、コドンが最適化される。
例えば、宿主生物として大腸菌を選択した場合は、配列番号3のような人工配列が挙げられる。
【0031】
上記(g)のDNAにおいて、配列番号2に示される塩基配列との同一性は80%以上であることが好ましい。この同一性は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
【0032】
塩基配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。本明細書においては、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が公開している相同性検索プログラムであるBLASTのウェブサイトにおいてblastnを選択しデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、同一性を算出する。
【0033】
上記(h)のDNAにおいて、「ストリンジェントな条件」とは、一般には、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって、例えば、Molecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参照して設定することができる。
【0034】
本明細書では、「ストリンジェントな条件」とは、以下に示す条件を言う。ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃~約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃~約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。
【0035】
更に好ましいストリンジェントな条件としては、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃~約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃~約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。
【0036】
このような条件でハイブリダイズするDNAの中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれ得るが、それらについては、市販の活性発現ベクターに組み込み、適当な宿主で発現させて、酵素活性を公知の手法で測定することによって容易に取り除くことができる。
【0037】
上記(i)のDNAにおいて、「数個」の下限は2個である。上限は、そのDNAがコードするポリペプチドのASOに対する抗原活性が維持されている限り数は制限されないが、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造やASOに対する抗原活性を大きく損なわない範囲であることが好ましい。例えば、改変前のポリペプチドの全アミノ酸の20%未満に相当する数であり、好ましくは15%未満に相当する数、さらに好ましくは10%未満に相当する数、さらに好ましくは5%未満に相当する数、さらに好ましくは1%未満に相当する数である。換言すれば、個数とは、例えば、264個以下(全アミノ酸の20%に相当する塩基数)、好ましくは198個以下(15%)、さらに好ましくは132個以下(10%)、さらに好ましくは66個以下(5%)、さらに好ましくは40個以下、さらに好ましくは20個以下、さらに好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下、さらに好ましくは4個以下、さらに好ましく3個以下である。
【0038】
あるDNAが、ASOに対する抗原活性を有するポリペプチドをコードしているかどうかは、そのDNAを、市販の活性発現ベクターに組み込み、適当な宿主で発現させて、得られたポリペプチドのASOに対する抗原活性を後述の「SLOの抗原活性測定方法」で測定することによって判断する。
【0039】
本発明の別の実施形態は、以下の(k)~(n)のいずれかのDNAである。
(k)配列番号3において、5’末端側の0、3、6または9個の塩基が欠損し、かつ、3’末端側の3n(nは0から7のうちいずれかの整数)個の塩基が欠損した塩基配列からなるDNA。
(l)配列番号3に示される塩基配列との同一性が80%以上である塩基配列からなり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(m)配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
(n)配列番号3に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列であり、かつ、抗ストレプトリジンO抗体(ASO)に対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0040】
上記(k)~(n)のDNAにおいて、配列番号3は、本発明のSLOをコードするDNAを由来生物以外の宿主生物に組込んで発現させるにあたり、発現効率向上等を目的として、宿主生物のコドンユーセージに合わせて塩基配列を変更したものであり、宿主生物として大腸菌を選択した場合に好ましく適用されるものとして例示される。
【0041】
上記(k)~(n)のDNAにおいて、塩基の欠損についての説明、塩基配列の同一性の計算方法についての説明、ストリンジェントな条件の説明、当該DNAがASOに対する抗原活性を有するポリペプチドをコードするものであるか確認する方法の説明、改変個数の上限・下限の説明などについては、上記の(f)~(i)のDNAで記載した内容を準用する。
【0042】
(ストレプトリジンOの製造方法等)
本発明の別の実施形態は、上記の本発明のDNAを組み込んだベクター、前記のベクターを含む形質転換体、または、前記の形質転換体を培養することを含む前記のSLOを製造する方法、である。
本発明のSLOは、その遺伝子を適当なベクターに挿入して組換えベクターを調製し、この組換えベクターで適当な宿主細胞を形質転換して形質転換体を調製し、この形質転換体を培養することによって容易に行うことができる。
【0043】
ベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるものであれば特に限定されず、プラスミドベクターおよびファージベクター、ウィルスベクター等が包含される。組換えベクターの調製は、特に限定されないが常法に従って行えばよく、例えば、これらのベクターに、本発明のSLOの遺伝子を適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより容易に行うことができる。また、Taqポリメラーゼのように増幅末端に一塩基を付加するようなDNAポリメラーゼを用いて増幅作製した遺伝子断片であれば、TAクローニングによるベクターへの接続も可能である。
【0044】
また、宿主細胞としては、従来公知のものが使用可能であり、組換え発現系が確立しているものであれば特に制限されないが、好ましくは大腸菌、枯草菌、放線菌、麹菌、酵母といった微生物ならびに昆虫細胞、動物細胞、高等植物などが挙げられ、より好ましくは微生物が挙げられ、特に好ましくは大腸菌(例えば、K12株、B株など)が挙げられる。形質転換体の調製は、特に限定されないが常法に従って行えばよい。宿主が大腸菌の場合、エシェリヒア・コリC600、エシェリヒア・コリHB101、エシェリヒア・コリDH5α、エシェリヒア・コリJM109、エシェリヒア・コリBL21などが用いられ、ベクターとしてはpBR322、pUC19、pBluescript、pQE、pETなどが例として挙げられる。宿主が酵母の場合は、サッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベ、キャンデイダ・ウチリス、ピキア・パストリスなどが例として挙げられ、ベクターとしてはpAUR101、pAUR224、pYE32などが挙げられる。宿主が糸状菌細胞である場合は、例えば、Aspergillus oryzae, Aspergillus niger等を例示することができる。
【0045】
得られた形質転換体を、その宿主細胞に応じた適当な培養条件で一定期間培養すれば、組込まれた遺伝子から本発明のSLOが発現されて、形質転換体中に蓄積する。
【0046】
形質転換体中に蓄積した本発明のSLOは、未精製のまま用いることができるが、精製したものを使用しても良い。この精製方法としては、特に限定されないが従来公知のものが使用可能であり、例えば、培養後の形質転換体あるいはその培養物を適当な緩衝液中でホモジナイズし、超音波処理や界面活性剤処理等により細胞抽出液を得、そこからタンパク質の分離精製に常套的に利用される分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。このような分離技術としては、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL-6B (GEヘルスケア バイオサイエンス社製)、オクチルセファロースCL-6B(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。
【0047】
(ストレプトリジンOの架橋)
本発明の別の実施形態は、上記の本発明のSLOを架橋処理して得られる架橋型SLOである。
SLOは、安定化するために二官能価物質に共有結合させてもよい。従って、本発明の改変型SLOも、二官能価物質への共有結合が行われても良く、そのような二官能価物質の例は、グルタルアルデヒド及びカルボジイミドである。グルタルアルデヒドのアルデヒド基とアミノ基との反応によって形成されるシッフ塩基は水溶液中で不安定なため、シアノ水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素ナトリウムによって、還元的アミノ化反応が行われても良い。共有結合は、その共有結合がpH又は温度変化により影響されない点で、物理的に不可逆的である。架橋処理の際は、バッファーの種類、pH、処理温度、処理時間、SLO濃度、二官能化物質の濃度を設定する必要があるが、SLO及び架橋型SLOに悪影響を与えない条件であれば良く、特に限定されない。下記に一例を示す。バッファーは、酢酸緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液などのグッドバッファー、リン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液,ホウ酸緩衝液、グリシン緩衝液などが例示される。pH条件は、pH5~pH11の範囲が好ましく、さらに好ましくはpH6~pH10の条件である。温度条件は、4℃~40℃が好ましく、さらに好ましくは10℃~30℃の条件である。タンパク濃度は、0.1mg/ml~100mg/mlの条件が好ましく、さらに好ましくは1mg/ml~10mg/mlの条件が好ましい。反応時間は、1分~24時間の反応が好ましく、さらに好ましくは10分~5時間の反応が好ましい。架橋反応における二官能化物質の濃度は、0.0001%~1%の条件が好ましく、さらに好ましくは、0.001%~0.1%の条件である。架橋反応後、未架橋のグルタルアルデヒドがさらに反応するのを防ぐために終濃度0.1%~10%グリシンが添加されてもよい。
【0048】
(ラテックス粒子)
本発明の別の実施形態は、上記の本発明のSLOもしくは架橋型SLOがコーティングされたラテックス粒子である。
本発明に用いるラテックス粒子としては、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。ラテックス粒子の平均粒径は特に限定されないが、被検物質の被検試料中での濃度あるいは測定機器の検出感度などを考慮し、0.05μm~1.0μmのものが適宜選択される。
【0049】
(抗原を固定化したラテックス粒子)
本発明のラテックス粒子における改変型SLOの固定化方法は、特に限定されず、物理吸着(疎水結合)法、化学結合法等を適宜選択することができる。物理吸着(疎水結合)法においては、ポリハプテンを形成させて吸着させる方法、化学結合法においてはマレイミド基などの結合性の官能基を抗原に導入したりすることができる。抗原をラテックスに吸着させる際は、バッファーの種類、pH、処理温度、処理時間、SLO濃度を設定する必要があるが、特に限定されない。下記に一例を示す。バッファーは、酢酸緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液などのグッドバッファー、リン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液,ホウ酸緩衝液、グリシン緩衝液などが例示される。pH条件は、pH5~pH11の範囲が好ましく、さらに好ましくはpH6~pH10の条件である。温度条件は、4℃~40℃が好ましく、さらに好ましくは10℃~30℃の条件である。SLO濃度は、0.01mg/ml~30mg/mlの条件が好ましく、さらに好ましくは0.1mg/ml~3mg/mlの条件が好ましい。反応時間は、1分~24時間の反応が好ましく、さらに好ましくは10分~5時間の反応が好ましい。また、非特異反応を抑制するためや免疫測定試薬自体の安定性を高めるために、特に限定されるものではないが、1種類もしくは2種類以上の添加剤を含んだ状態でSLOをラテックスに吸着させてもよい。
【0050】
(測定試薬)
本発明の別の実施形態は、上記の本発明のラテックス粒子を使用したASOの測定方法、または、上記の本発明のラテックス粒子を含むASO測定試薬である。
本発明の免疫測定試薬を用いる免疫測定法もまた、本発明の1つである。本発明の免疫測定法としては、本発明の免疫測定試薬を用いるのであれば特に限定されず、通常の方法により行うことができる。例えば、被測定物質を含む媒体に本発明の免疫測定試薬を加え、被測定物質と本発明の免疫測定試薬に含まれるラテックス粒子上に固定された抗原とが抗原抗体反応により結合して生じた凝集を光学的に観察または目視により観察する。反応のpHの好ましい下限は5、上限は10であり、より好ましい下限は6、上限は9である。反応の温度の好ましい下限は4℃、上限は50℃であり、より好ましい下限は20℃、上限は40℃である。反応時間は適宜決められる。
上記媒体としては、被測定物質の種類に応じて適当な各種緩衝液が用いられる。かかる緩衝液としては、被測定物質を失活させることがなく、かつ、抗原抗体反応を阻害しないようなイオン濃度やpHを有するものであればよく、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液、各種グッド緩衝液等の公知の緩衝液が挙げられる。これらの緩衝液は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記媒体は、反応の感度を高めるために公知の水溶性添加剤、例えばポリエチレングリコール、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリグリコシルエチルメタクリレート、プルラン、デキストラン、エルシナン等の水溶性高分子等を含有してもよい。また、特異性の向上、試薬の安定性向上等の目的から、アルブミン、カゼイン、ゼラチン等のタンパク質又はその分解物、変性物;塩化コリン等の第4級アンモニウム塩、EDTA、ポリアニオン、カオトロピックイオン(Cl-,I-,SCN-等)、アミノ酸、界面活性剤等を含有してもよい。また、防腐剤として、例えば、アジ化ナトリウムやフェニルメタンスルホニルフルオリドなどを含有してもよい。
上記抗原抗体反応によって生じた凝集の度合いを検出する方法は特に限定されないが、例えば光学的な観察又は目視により観察することにより検出される。具体的には、不溶性担体の凝集の程度を光学的に検出する方法としては、例えば、散乱光強度、吸光度又は透過光強度の増加又は減少を測定する方法等が挙げられる。また、目視により観察して判定する方法としては、例えば、試料と本発明の免疫測定試薬とを判定板上で混合し、1~5分間揺り動かしたあと、凝集の有無を判定する方法等が挙げられる。また、像を撮影し画像処理を施してもよい。
【0051】
(SLOの抗原活性測定方法)
本発明において、SLOの抗原活性測定は以下の条件で行う。本抗原活性測定方法は、SLOが固定化されたラテックス粒子と被検試料中のSLO(被検物質)とを競合させて、当該ラテックス粒子と抗体との免疫複合体の形成を阻害し、免疫複合体の形成阻害に伴う当該ラテックス粒子の凝集阻害の程度から被検物質(抗原)を測定する方法である。なお、本明細書で「抗原活性」という場合は、具体的には、特に断りのない限り、以下の方法で測定した値を意味する。
<試薬>
デンカ生研社製 ASOラテックスX1「生研」 R1試薬(緩衝液)
デンカ生研社製 ASOラテックスX1「生研」 R2試薬(ラテックス(SLO吸着ラテックス)浮遊液)
デンカ生研社製 ASO標準液(500 IU/ml)
<測定試料>
測定試料は、デンカ生研社製ASO標準液(500 IU/ml)、生理食塩水及びSLO溶液が5:4:1の比率で混合されたものが使用する。また、SLO溶液は必要に応じて、20mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)で希釈された後、使用された。盲検はSLO溶液の代わりにSLOを希釈する20mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)が使用する。
<測定方法>
上記の測定試料、上記のR1試薬及び上記R2試薬を下記条件で日立7170形自動分析装置を用いて、試料中のSLOのASOに対する抗原活性(SAU/mg:StreptolysinO Antigenic Unit/mg)を測定する。
試料 : 3μL(ASO標準液(250 IU/ml)を含む)
R1試薬 : 70μL
R2試薬 : 120μL
測定方法 : 2ポイントエンド法(19-34)
主波長 : 570nm
副波長 : 800nm
抗原活性(SAU/mg)={(測定値(BLANK)-測定値(TEST)}×10×SLO溶液の希釈率/タンパク質濃度(mg/ml)
【0052】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0053】
[実施例1]SLO遺伝子のクローニング
配列番号2に記載の人工合成遺伝子(Accession number NC003485)を鋳型とし、表1に記載のプライマーを用いて、各種SLO遺伝子を増幅した(表1において、Fwはフォワードプライマー、Rvはリバースプライマーを表す。)。具体的には、開始コドン、ヒスチジンタグの後に、32位のグルタミン酸残基が続き、464位のリジン残基を末端とするSLO(これをN32-C464とも表記する)をコードする遺伝子は、配列番号4及び6のプライマーを用いて増幅した。同様に、N32-C466、N32-C471、N35-C464、N35-C466、N35-C471、N32-C560及びN32-C571の各SLOをコードする遺伝子の増幅には、配列番号4及び7、配列番号4及び8、配列番号5及び6、配列番号5及び7、配列番号5及び8、配列番号4及び9、ならびに、配列番号4及び10のプライマーをそれぞれ用いた。なお、本プライマーのN末端側には制限酵素サイトNdeIが、C末端側には制限酵素サイトBamHIが、それぞれ付加されており、このDNA断片を制限酵素NdeIとBamHIで切断し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBSKと混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにしてSLO遺伝子を大量に発現できるように設計された組換えプラスミドpBSKSLO(N32-C464、N32-C466、N32-C471、N35-C464、N35-C466、N35-C471、N32-C560及びN32-C571)を取得した。
【0054】
【実施例2】
【0055】
[実施例2]各種SLO遺伝子のE.coliにおける発現及び精製
実施例1で構築した各種のプラスミドを用いて、エシェリヒア・コリJM109株コンピテントセル(東洋紡製コンピテントハイJM109)を当製品に添付のプロトコールに従って形質転換し、形質転換体を取得した。得られた各形質転換体のコロニーを、試験管内にて滅菌した5mLのLB液体培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌後、30℃で16時間振とうして好気的に培養した。得られた培養液を種培養液とし、500mlの坂口フラスコに入った100mLのTB培地(IPTG1mM、アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌し、振とう数180rpmで30℃、20時間培養した。このようにして得られた菌体を遠心分離で集菌し、20mMイミダゾールを含む25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)に懸濁し、ガラスビーズを用いて破砕し、得られた粗酵素を、20mMイミダゾールを含む25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)で平衡化したHisTrap HP1mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)に供し、500mMイミダゾールを含む25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)で溶出することで、N32-C560の発現コンストラクトを除き、高い純度のストレプトリジン溶液を得た。さらに、純度を向上させるため、CM FFカラム5mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)により分離精製することで、不純タンパク質がSDS-PAGEレベルでは検出できないほど、純度を向上させることに成功した。前記で調製した各サンプルを用いてSDS-PAGEを行った結果は
図1に示す。なお、C末端を11残基削除したN32-C560の発現コンストラクトにおいては、HisTrap HP1mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)での溶出画分にて、全長型のバンドに加えて、分解産物とみられる低分子量型のSLOが確認された(
図2)。
【実施例3】
【0056】
[実施例3]溶血活性の評価
実施例2において調製した各SLO溶液の溶血活性をそれぞれ測定した。測定方法としては、まず、PBS溶液で2%に希釈されたウサギ脱繊維血液(日本バイオテスト研究所製)1mlに対し、20mMシステインを含むPBS溶液で希釈されたSLO50μlを添加し、37℃で1時間反応させた。なお、測定時のSLO溶液のタンパク質濃度は、全て1.0mg/mlの濃度で測定された。結果は表2に示した通り、全長型のSLO(N32-C571)は、溶血の程度を表す541nmの吸収(A541)が検出され、改変型SLOに関しては、Blankとの有意な差はなく、溶血活性(Hemolytic activity)を損失していることが確認された。
【0057】
【実施例4】
【0058】
[実施例4]抗原活性の測定
実施例2において調製した各SLO溶液及びBIOKIT社製SLO(Code:T3000-5258)を用いて、抗原活性を測定した。BIOKIT社製SLOのSDS-PAGE結果を
図3に示すが、全長型SLOと比較して、約40kDa、分子量が大きいことを確認した。この結果から融合タンパク質であることが示唆されたため、本明細書では、BIOKIT社製SLOをFusion typeとも表記する。抗原活性の測定結果は
図4に示す。なお、測定時のSLO溶液のタンパク質濃度は、改変型SLOは、0.08mg/mlの濃度で、全長型SLOは、0.11mg/mlの濃度で、BIOKIT社製SLOは、0.16mg/mlの濃度で測定された。改変型SLOは、全長型SLOに対して、高い抗原活性を示した。本結果は、削除した約100アミノ酸残基の領域には重要なエピトープが存在しないことを示している。また、BIOKIT社製SLOの抗原活性は全長型SLOよりも低いことを確認した。
【実施例5】
【0059】
[実施例5]熱安定性の評価
実施例2において調製した各SLO溶液及びBIOKIT社製SLO(Code:T3000-5258)を用いて、熱処理後の抗原活性測定により、熱安定性を評価した。結果を
図5に示す。なお、測定時のSLO溶液のタンパク質濃度は、2.0mg/mlの濃度において、各温度で6時間処理され、その後、抗原活性を測定することにより、熱安定性を評価した。その結果、改変型SLOは、全長型SLOに対して、熱安定性が高まっており、実用上、有益な特性を獲得していることを確認した。また、BIOKIT社製のSLO(Code:T3000-5258)よりも、熱安定性が優れていることを確認した。
【実施例6】
【0060】
[実施例6]大腸菌発現でのコドンユーセージ至適化
大腸菌での発現量を向上させるため、コドンユーセージの至適化を行った。人工合成された配列は、配列番号3に示す。実施例1及び2に記載と同様の手法で、発現プラスミドを構築した。プラスミドの作成に用いたプライマーは、表3に示す。構築したプラスミドを用いて、エシェリヒア・コリJM109株コンピテントセル(東洋紡製コンピテントハイJM109)に当製品に添付のプロトコールに従って形質転換し、形質転換体を取得した。得られた各形質転換体のコロニーを、試験管内にて滅菌した5mLのLB液体培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌後、30℃で16時間振とうして好気的に培養した。得られた培養液を種培養液とし、500mlの坂口フラスコに入った100mLのTB培地(IPTG1mM、アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌し、振とう数180rpmで30℃、20時間培養した。その結果、約300mg/Lの改変型SLOの発現を確認した。この値は、コドンユーセージの至適化前の約2倍に相当し、コドン配列の至適化により、生産性が向上していることが確認された。
【0061】
【0062】
[実施例7]ラテックス比濁測定用試薬における感度評価
実施例2において調製した各SLO溶液及びBIOKIT社製SLO(Code:T3000-5258)を2.2mg/mLの濃度に調製し、終濃度0.1%となるよう25%グルタルアルデヒド溶液(Sigma社製、Code:G5882)を添加した。次に、その溶液を室温で1時間、機械的に攪拌する。その後、グリシンを添加し、0.1%の最終濃度にする。次に、その溶液を室温で30分間、機械的に撹拌した後、4℃で一晩保存した。その後、ブラッドフォード法によりタンパク質濃度を算出し、ラテックス粒子にコーディングされた。コーティング条件としては、50mMホウ酸緩衝液(pH8.2)から構成される緩衝液であって、架橋されたSLOの終濃度が
図6に記載の通り、0.3~0.7mg/mlとなるようそれぞれ混合され、37℃で1時間、コーティング処理を実施した。その後、遠心、上清の除去、懸濁の洗浄工程を150mM NaCl及び0.5%BSAを含む50mMグリシン緩衝液(pH8.2)で2回繰り返すことで、ラテックス比濁測定用試薬における第2試薬を得た。また、第1試薬として、20mMTris-HCl緩衝液(pH8.2)、150mM NaCl、0.5%BSAからなる緩衝液を調製し、ラテックス試薬の感度評価を行った。測定方法としては、第1試薬と第2試薬を組合せ、日立7170形自動分析装置を用いてASO濃度依存的な粒子凝集塊の形成を確認した。具体的には、濃度0(IU/mL)、250(IU/mL)、500(IU/mL)のASO溶液3μLに、第1試薬240μLを加えて37℃で5分間加温後、第2試薬60μLを加えて攪拌した。その後5分間の凝集形成に伴う吸光度変化(ΔmAbs)を、主波長546nm、副波長800nmにて測定した。その結果、ラテックスへコーティングする際のSLO濃度が0.7mg/ml、ASO濃度500(IU/ml)の条件では、BIOKIT社製SLOのΔmAbsが78.1、全長型SLOのΔmAbsが66.9であるのに対し、本発明の改変型SLOは、約2~3倍の183.1であった。また、SLO濃度が0.5mg/ml、ASO濃度500(IU/ml)の条件においても、BIOKIT社製SLOのΔmAbsが60.2、全長型SLOのΔmAbsが38.9であるのに対し、本発明の改変型SLOは、約2~3倍の114.2であった。本結果により、本発明の改変型SLOはタンパク質あたりの抗原活性が高く、ASO試薬の製造に使用するSLOの量を低減できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の改変型SLOは抗原活性、熱安定性に優れたASO試薬に用いる診断薬原料として有用である。
【配列表】