(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電気接点材料、端子金具、コネクタ、及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20230922BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20230922BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C25D5/12
C25D5/50
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2019143902
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】白井 善晶
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寧
(72)【発明者】
【氏名】古川 欣吾
(72)【発明者】
【氏名】公文代 充弘
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-133306(JP,A)
【文献】特開2015-176839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H01R 13/03
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に設けられる被覆層と、
前記被覆層の表面に設けられる酸化物層とを備え、
前記基材は、Cuを含み、
前記被覆層は、前記基材側から順に設けられた下地層、第一層、及び第二層を有し、
前記下地層は、Niを含み、
前記第一層は、Ni、Zn、Cu、及びSnを含み、
前記第二層は、Snを含み、
前記酸化物層は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物で構成され、
前記下地層の厚みは、
1.0μm
以上である、
電気接点材料。
【請求項2】
前記第一層に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、及びSnの合計含有量を100原子%とするとき、前記第一層に含まれるNi、Zn、Cu、及びSnの各々の含有量は、
Niが15原子%以上35原子%以下、
Znが5原子%以上30原子%以下、
Cuが1原子%以上30原子%以下、
Snが25原子%以上55原子%以下である請求項1に記載の電気接点材料。
【請求項3】
前記第一層の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下である請求項1又は請求項2に記載の電気接点材料。
【請求項4】
前記第二層の厚みは、0.1μm以上0.55μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項5】
前記酸化物層の厚みは、0.01μm以上5.0μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気接点材料。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気接点材料を備える、
端子金具。
【請求項7】
請求項6に記載の端子金具を備える、
コネクタ。
【請求項8】
電線と、
前記電線に取り付けられる請求項6に記載の端子金具、又は請求項7に記載のコネクタとを備える、
ワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気接点材料、端子金具、コネクタ、及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、基材の表面に基材側から順に拡散バリア層と合金層と導電性皮膜層(酸化物層)とが設けられたコネクタ用電気接点材料を開示している。基材は、Cu(銅)などの金属材料で構成されている。拡散バリア層は、厚みが0.5μm程度のNi(ニッケル)めっき層などで構成されている。合金層は、Sn(錫)及びCuを必須元素として含み、更にZn(亜鉛)、Co(コバルト)、Ni、及びPd(鉛)からなる群より選択される1種、又は2種以上の添加元素を含む。導電性皮膜層は、合金層の構成元素を含む酸化物などで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
長期的に使用可能な電気接点材料が望まれている。
【0005】
そこで、本開示は、長期的に使用可能な電気接点材料、端子金具、及びコネクタを提供することを目的の一つとする。また、本開示は、長期にわたって導電性に優れるワイヤーハーネスを提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電気接点材料は、
基材と、
前記基材の表面に設けられる被覆層と、
前記被覆層の表面に設けられる酸化物層とを備え、
前記基材は、Cuを含み、
前記被覆層は、前記基材側から順に設けられた下地層、第一層、及び第二層を有し、
前記下地層は、Niを含み、
前記第一層は、Ni、Zn、Cu、及びSnを含み、
前記第二層は、Snを含み、
前記酸化物層は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物で構成され、
前記下地層の厚みは、0.5μm超である。
【0007】
本開示に係る端子金具は、本開示に係る電気接点材料を備える。
【0008】
本開示に係るコネクタは、本開示に係る端子金具を備える。
【0009】
本開示に係るワイヤーハーネスは、
電線と、
前記電線に取り付けられる本開示に係る端子金具、又は本開示に係るコネクタとを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る電気接点材料、本開示に係る端子金具、及び本開示に係るコネクタは、長期的に使用可能である。
【0011】
本開示に係るワイヤーハーネスは、長期にわたって導電性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る電気接点材料の概略を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る電気接点材料を製造する製造方法を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態2に係るワイヤーハーネスの概略を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の一態様に係る電気接点材料は、
基材と、
前記基材の表面に設けられる被覆層と、
前記被覆層の表面に設けられる酸化物層とを備え、
前記基材は、Cuを含み、
前記被覆層は、前記基材側から順に設けられた下地層、第一層、及び第二層を有し、
前記下地層は、Niを含み、
前記第一層は、Ni、Zn、Cu、及びSnを含み、
前記第二層は、Snを含み、
前記酸化物層は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物で構成され、
前記下地層の厚みは、0.5μm超である。
【0015】
上記電気接点材料は、長期的に使用可能である。上記電気接点材料を高温環境下に長時間晒すといった加速劣化試験を行っても、上記電気接点材料は相手材との接触抵抗が低いからである。即ち、上記電気接点材料は、耐熱性に優れるからである。耐熱性に優れる理由は、以下に示すように下地層の厚みが厚いことと、詳しくはわかっていないものの上記4つの元素を含む第一層が寄与していると考えられることとが挙げられる。
【0016】
熱が作用した際、厚い下地層は基材中のCuが酸化物層に向かう拡散を抑制し易い。そのため、酸化物層において、接触抵抗を増加させるCuの酸化物が増加し難い。よって、酸化物層における接触抵抗の増加が抑制される。即ち、この酸化物層は、低抵抗であり、導電性を確保し易い。従って、上記電気接点材料は、熱が作用しても、導電性の酸化物層及び被覆層を介して、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。
【0017】
また、詳しくは後述するものの、上記電気接点材料は、下地層の厚みが厚いことで、上記4つの元素を含む第一層を確実に有することができる。
【0018】
更に、上記電気接点材料は、基材の酸化を抑制し易い。上記三層構造の被覆層と上記酸化物層とを有するからである。
【0019】
そして、上記電気接点材料は、相手材との接触圧力が小さく、使用時に電気接点材料に加わる荷重が小さい場合であっても、相手材と良好な電気的接続を確保できる。上記酸化物層は、低抵抗であり、導電性を確保し易い。そのため、上記電気接点材料は、導電性の酸化物層及び被覆層を介して、相手材との間で良好な電気的接続を確保できるからである。
【0020】
(2)上記電気接点材料の一形態として、
前記第一層に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、及びSnの合計含有量を100原子%とするとき、前記第一層に含まれるNi、Zn、Cu、及びSnの各々の含有量は、
Niが15原子%以上35原子%以下、
Znが5原子%以上30原子%以下、
Cuが1原子%以上30原子%以下、
Snが25原子%以上55原子%以下であることが挙げられる。
【0021】
第一層における上記4つの元素の含有量が上記の範囲を満たせば、上記電気接点材料は耐熱性により一層優れる。
【0022】
(3)上記電気接点材料の一形態として、
前記第一層の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下であることが挙げられる。
【0023】
第一層の厚みが0.1μm以上であれば、電気接点材料は耐熱性に優れる。第一層の厚みが十分に厚いからである。この第一層は、基材の酸化を抑制し易い。第一層の厚みが十分に厚いことで、被覆層自体の厚みが厚くなり易いからである。
【0024】
第一層の厚みが5.0μm以下であれば、電気接点材料は生産性に優れる。第一層の厚みが過度に厚すぎず、第一層の形成時間、延いては被覆層の形成時間を短縮できるからである。
【0025】
(4)上記電気接点材料の一形態として、
前記第二層の厚みは、0.1μm以上0.55μm以下であることが挙げられる。
【0026】
第二層の厚みが0.1μm以上であれば、電気接点材料は耐熱性に優れる。第二層の厚みが過度に薄すぎないからである。この第二層は、熱が作用した際、第一層中のCuが酸化物層に向かう拡散を抑制し易い。そのため、上述したように、酸化物層は、接触抵抗を増加させるCuの酸化物が増加し難く、接触抵抗の増加が抑制される。よって、上記電気接点材料は、熱が作用しても、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。この第二層は、基材の酸化を抑制し易い。第二層の厚みが過度に薄すぎないことで、被覆層の厚みが厚くなり易いからである。
【0027】
第二層の厚みが0.55μm以下であれば、電気接点材料は、電気接点材料の使用時に相手材と摺動しても、接触抵抗の上昇を抑制し易い。即ち、電気接点材料は、この第二層を有することで、耐摩耗性に優れる。耐摩耗性に優れる理由は、第二層の厚みが十分に薄いからである。第二層の厚みが十分に薄ければ、第二層と相手材とが摺動しても、第二層の構成材料を含む酸化物の粉が大量に形成されることを抑制し易い。そのため、酸化物の粉が電気接点材料と相手材との接触箇所の間に噛み込むことを抑制できる。よって、上記電気接点材料は、相手材と摺動しても、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。
【0028】
(5)上記電気接点材料の一形態として、
前記酸化物層の厚みは、0.01μm以上5.0μm以下であることが挙げられる。
【0029】
酸化物層の厚みが0.01μm以上であれば、基材が酸化し難い。酸化物層の厚みが十分に厚いからである。
【0030】
酸化物層の厚みが5.0μm以下であれば、酸化物層の接触抵抗が低い。酸化物層の厚みが過度に厚すぎないからである。そのため、この酸化物層を有する電気接点材料は、相手材との間でより良好な電気的接続を確保できる。
【0031】
(6)本開示の一態様に係る端子金具は、
上記(1)から上記(5)のいずれか1つの電気接点材料を備える。
【0032】
上記の構成は、上述の電気接点材料を備えるため、耐熱性に優れる。
【0033】
(7)本開示の一態様に係るコネクタは、上記(6)の端子金具を備える。
【0034】
上記の構成は、上述の端子金具を備えるため、耐熱性に優れる。
【0035】
(8)本開示の一態様に係るワイヤーハーネスは、
電線と、
前記電線に取り付けられる上記(6)の端子金具、又は上記(7)のコネクタとを備える。
【0036】
上記の構成は、熱が作用しても、上述の端子金具又は上述のコネクタの端子金具と電線との間で良好な電気的接続を行えるため、導電性に優れる。
【0037】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0038】
《実施形態1》
〔電気接点材料〕
図1を参照して、実施形態1に係る電気接点材料1を説明する。本形態の電気接点材料1は、基材2と被覆層3と酸化物層4とを備える。基材2は、Cuを含む。本形態における電気接点材料1の特徴の一つは、以下の(1)~(3)の点にある。
(1)被覆層3が基材2の表面に基材2側から順に設けられた特定の材質からなる下地層30、第一層31、及び第二層32を有する。
(2)下地層30が特定の厚みを有する。
(3)酸化物層4が特定の材質で構成されている。
以下、各構成を詳細に説明する。
図1は、電気接点材料1における被覆層3及び酸化物層4の積層方向に沿った断面図を示す。
図1の被覆層3の下地層30から第二層32の各層の厚みと酸化物層4の厚みとは、模式的に示されたものであり、必ずしも実際の厚みに対応しているわけではない。
【0039】
[基材]
基材2は、純Cu、又はCu合金で構成される。基材2はCuを含むことで導電性に優れる。基材2の形状は、板状や棒状など種々の形状を適宜選択できる。基材2のサイズは、電気接点材料1の用途に応じて種々の寸法を適宜選択できる。
【0040】
[被覆層]
被覆層3は、基材2の酸化を抑制する。被覆層3は、基材2の表面に設けられる。被覆層3は、下地層30、第一層31、及び第二層32の三層構造を有する。
【0041】
(下地層)
下地層30は、被覆層3における最内側、即ち、基材2の直上に設けられる。下地層30は、Niを含む。下地層30は、Ni以外の元素として、例えば、Zn、Cu、及びSnからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが挙げられる。下地層30におけるNiの含有量は、第一層31、及び第二層32におけるNiの含有量よりも多い。下地層30に含まれるNi、Zn、Cu、Snの合計含有量を100原子%としたとき、下地層30におけるNiの含有量は、例えば、95原子%以上が挙げられる。この下地層30におけるNiの含有量は、100原子%以下が挙げられる。下地層30におけるNiの含有量は、更に97原子%以上100原子%以下が挙げられ、98原子%以上100原子%以下、特に99原子%以上100原子%以下が挙げられる。下地層30に含まれる元素の含有量は、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)装置を用い、EDX装置の加速電圧を15kVとすることで測定できる。
【0042】
下地層30の厚みは、0.5μm超である。下地層30の厚みが0.5μm超であることで、電気接点材料1は長期にわたって使用できる。電気接点材料1を高温環境下に長時間晒すといった加速劣化試験を行っても、電気接点材料1は相手材との接触抵抗が低いからである。即ち、電気接点材料1は、耐熱性に優れるからである。下地層30は、厚みが厚いことで、熱が作用した際、基材2中のCuが酸化物層4に向かう拡散を抑制し易い。そのため、酸化物層4において、接触抵抗を増加させるCuの酸化物が増加し難い。よって、酸化物層4における接触抵抗の増加が抑制される。即ち、酸化物層4は、低抵抗であり、導電性を確保し易い。従って、電気接点材料1は、熱が作用しても、導電性の酸化物層4及び被覆層3を介して、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。また、下地層30の厚みが0.5μm超であることで、詳しくは後述する製造方法で説明するように、被覆層3は後述する特定の元素を含む第一層31を確実に有することができる。
【0043】
下地層30の厚みが厚いほど、耐熱性に優れる上に、被覆層3が第一層31をより確実に有することができる。下地層30の厚みは、更に1.0μm以上が挙げられ、特に1.5μm以上が挙げられる。下地層30の厚みの上限は、例えば、
4.0μmが挙げられる。下地層30の厚みが4.0μm以下であれば、電気接点材料1は生産性に優れる。下地層30の厚みが過度に厚すぎず、下地層30の形成時間、延いては被覆層3の形成時間を短縮できるからである。
【0044】
下地層30の厚みは、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて次のようにして測定できる。電気接点材料1における被覆層3及び酸化物層4の積層方向に沿った任意の断面をとる。断面の数は、一つでもよいし複数でもよい。断面から2個以上の反射電子像をとる。一つの断面から全ての反射電子像をとってもよいし、複数の断面の各々から一つ以上の反射電子像をとってもよい。各反射電子像のサイズは、30μm×40μmである。各反射電子像において、下地層30における被覆層3の積層方向に沿った長さを5箇所以上測定する。測定した全ての下地層30の平均値をとる。この平均値を、下地層30の厚みとする。
【0045】
(第一層)
第一層31は、下地層30と第二層32との間に設けられる。第一層31は、Ni、Zn、Cu、及びSnの4つの元素を含む。これら4つの元素を含む第一層31は、電気接点材料1に熱が作用しても接触抵抗の上昇の抑制に寄与すると考えられる。即ち、電気接点材料1は、この第一層31を有することで、耐熱性に優れる。これら4つの元素の存在形態は問わない。存在形態としては、単体金属、合金、化合物、単体金属と化合物との複合体、合金と化合物との複合体などが挙げられる。上記合金は、上記4つの元素からなる群より選択される2つ以上の元素を含んでいればよい。勿論、上記合金は、上記4つの元素の全てを含んでいてもよい。上記化合物は、上記4つの元素から選択される1つ以上の元素を含んでいればよい。第一層31は、上記4つの元素の他に、C(炭素)、O(酸素)を含むことが挙げられる。
【0046】
第一層31に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、及びSnの合計含有量を100原子%としたとき、第一層31に含まれるNi、Zn、Cu、及びSnの各々の含有量は、例えば、以下の通りである。Niの含有量は、15原子%以上35原子%以下が挙げられる。Znの含有量は、5原子%以上30原子%以下が挙げられる。Cuの含有量は、1原子%以上30原子%以下が挙げられる。Snの含有量は、25原子%以上55原子%以下が挙げられる。第一層31に含まれる上記4つの元素の各々の含有量が上記範囲内であれば、電気接点材料1は耐熱性に優れる。Niの含有量は、更に17原子%以上33原子%以下が挙げられ、特に20原子%以上30原子%以下が挙げられる。Znの含有量は、更に7原子%以上25原子%以下が挙げられ、特に10原子%以上20原子%以下が挙げられる。Cuの含有量は、更に5原子%以上28原子%以下が挙げられ、特に10原子%以上25原子%以下が挙げられる。Snの含有量は、更に30原子%以上50原子%以下が挙げられ、特に35原子%以上45原子%以下が挙げられる。第一層31に含まれる元素の含有量の測定方法は、下地層30の測定方法と同様である。
【0047】
第一層31の厚みは、例えば、0.1μm以上5.0μm以下が挙げられる。第一層31の厚みが0.1μm以上であれば、電気接点材料1は耐熱性に優れる。第一層31の厚みが十分に厚いからである。この第一層31は、基材2の酸化を抑制し易い。被覆層3自体の厚みが厚くなり易いからである。第一層31の厚みが5.0μm以下であれば、電気接点材料1は生産性に優れる。第一層31の厚みが過度に厚すぎず、第一層31の形成時間、延いては被覆層3の形成時間を短縮できるからである。第一層31の厚みは、更に0.5μm以上4.5μm以下、1.0μm以上3.5μm以下が挙げられ、特に1.5μm以上2.5μm以下が挙げられる。第一層31の厚みの求め方は、下地層30の厚みの求め方と同様である。
【0048】
(第二層)
第二層32は、被覆層3における最外側、即ち、酸化物層4の直下に設けられる。第二層32は、Snを含む。第二層32は、Sn以外の元素として、例えば、Ni、Zn、及びCuからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが挙げられる。また、第二層32は、上記4つの元素の他に、C、Oを含むことが挙げられる。第二層32におけるSnの含有量は、下地層30及び第一層31におけるSnの含有量よりも多い。第二層32に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、Snの合計含有量を100原子%としたとき、第二層32におけるSnの含有量は、例えば、40原子%以上が挙げられる。この第二層32におけるSnの含有量は、90原子%以下が挙げられる。第二層32におけるSnの含有量は、更に45原子%以上80原子%以下が挙げられ、特に50原子%以上75原子%以下が挙げられる。第二層32に含まれる元素の含有量の測定方法は、下地層30の測定方法と同様である。
【0049】
第二層32の厚みは、例えば、0.1μm以上0.55μm以下が挙げられる。第二層32の厚みが0.1μm以上であれば、電気接点材料1は耐熱性に優れる。第二層32の厚みが過度に薄すぎないからである。熱が作用した際、第二層32は、第一層31中のCuが酸化物層4に向かう拡散を抑制し易い。そのため、酸化物層4において、接触抵抗を増加させるCuの酸化物が増加し難く、接触抵抗の増加が抑制される。即ち、酸化物層4は、低抵抗であり、導電性を確保し易い。よって、電気接点材料1は、熱が作用しても、導電性の酸化物層4及び被覆層3を介して、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。その上、この第二層32は、基材2の酸化を抑制し易い。第二層32の厚みが過度に薄すぎないことで、被覆層3の厚みが厚くなり易いからである。
【0050】
第二層32の厚みが0.55μm以下であれば、電気接点材料1は、相手材と摺動しても接触抵抗の上昇を抑制し易い。即ち、電気接点材料1は、この第二層32を有することで、耐摩耗性に優れる。耐摩耗性に優れる理由は、第二層32の厚みが十分に薄いからである。第二層32の厚みが十分に薄ければ、この第二層32と相手材とが摺動しても、第二層32の構成材料を含む酸化物の粉が大量に形成されることを抑制できる。そのため、酸化物の粉が電気接点材料1と相手材との接触箇所の間に噛み込むことを抑制できる。電気接点材料1は、相手材と摺動しても、相手材との間で良好な電気的接続を確保できる。第二層32の厚みは、薄いほど耐摩耗性の向上に寄与する。
【0051】
第二層32の厚みは、更に0.13μm以上0.54μm以下が挙げられ、0.13μm以上0.50μm以下、特に0.13μm以上0.40μm以下、0.13μm以上0.30μm以下が挙げられる。第二層32の厚みの求め方は、下地層30の厚みの求め方と同様である。
【0052】
[酸化物層]
酸化物層4は、被覆層3の表面に設けられる。即ち、酸化物層4は、電気接点材料1の最表面を構成する。酸化物層4は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物で構成される。酸化物層4は、例えば、ZnO、SnO、SnO2、CuO、CuO2などの酸化物が混合して存在し得る。酸化物層4は、上記各種の酸化物からなる化合物を含んでいてもよい。酸化物層4は、例えば、ZnOにおけるZnの一部をCuやSnに置換した(Zn,Cu)Oや(Zn,Sn)Oを含んでいてもよい。酸化物層4は、Cuの酸化物が他の酸化物に比較して少ない。具体的には、酸化物層4は、Cuの酸化物がZnの酸化物に比較して少ない。Cuの酸化物が少ない酸化物層4は、低抵抗であり、導電性を確保し易い。
【0053】
酸化物層4に含まれるO、Zn、Cu、及びSnの4つの元素の合計含有量を100原子%としたとき、上記4つの元素の各々の含有量は、例えば、以下の通りである。Oの含有量は、0原子%超70原子%以下が挙げられる。Znの含有量は、0原子%超70原子%以下が挙げられる。Cuの含有量は、0原子%超30原子%以下が挙げられる。Snの含有量は、0原子%超30原子%以下が挙げられる。各元素の含有量が上記範囲内であれば、酸化物層4は導電率を向上し易い。その上、基材2の酸化を抑制し易い。Oの含有量は、更に0.1原子%以上60原子%以下が挙げられる。Znの含有量は、更に0.1原子%以上60原子%以下が挙げられる。Cuの含有量は、更に0.1原子%以上20原子%以下が挙げられる。Snの含有量は、更に0.1原子%以上20原子%以下が挙げられる。酸化物層4の組成は、下地層30と同様、EDX装置を用いて求められる。
【0054】
酸化物層4の厚みは、例えば、0.01μm以上5.0μm以下が挙げられる。酸化物層4の厚みが0.01μm以上であれば、基材2が酸化し難い。酸化物層4の厚みが十分に厚いからである。酸化物層4の厚みが5.0μm以下であれば、酸化物層4の接触抵抗が低い。酸化物層4の厚みが過度に厚すぎないからである。そのため、この酸化物層4を有する電気接点材料1は、導電性の酸化物層4及び被覆層3を介して、相手材との間でより良好な電気的接続を確保できる。酸化物層4の厚みは、更に0.02μm以上3.0μm以下が挙げられ、特に0.03μm以上1.0μm以下が挙げられる。酸化物層4の厚みの求め方は、下地層30の厚みの求め方と同様である。
【0055】
[特性]
電気接点材料1は、摺動試験後の接触抵抗が低いことが好ましい。摺動試験は、金めっきした半径1mmの球状の圧子を電気接点材料1に対して直線状に摺動させることで行う。金めっきの純度は、実質的にK24とする。金めっきの厚みは、0.4μmとする。圧子の摺動は、常温環境下で行う。圧子の負荷荷重は1Nとする。摺動速度は100μm/secとする。ストロークは50μmとする。往復回数は、1回から10回まで、又は1回から100回までとする。1往復ごとに接触抵抗を測定する。測定数(N数)は2回とする。往復回数を1回から10回までとしたとき、電気接点材料1における最大の接触抵抗は、5mΩ以下が好ましい。この電気接点材料1は耐摩耗性に優れる。そのため、この電気接点材料1は相手材と摺動する部材として好適に利用できる。この電気接点材料1における最大の接触抵抗は、更に3mΩ以下が好ましく、特に2.5mΩ以下が好ましい。また、往復回数を1回から100回までとしたとき、電気接点材料1における最大の接触抵抗も5mΩ以下が好ましい。この電気接点材料1は、より一層耐摩耗性に優れる。そのため、この電気接点材料1は、相手材と摺動する部材として長期的に使用できる。この電気接点材料1における最大の接触抵抗は、更に4.5mΩ以下が好ましく、特に4.0mΩ以下が好ましい。
【0056】
[製造方法]
図2を参照して、本形態の電気接点材料1を製造する電気接点材料の製造方法を説明する。
図2は、電気接点材料1の素材10における被覆層13の積層方法に沿った断面を示す。電気接点材料の製造方法は、素材10を準備する工程S1と、素材10に熱処理を施す工程S2とを備える。
【0057】
(工程S1)
準備する素材10は、基材12と被覆層13とを備える。基材12は、上述した電気接点材料1における基材2である。被覆層13は、基材12の表面に基材12側から順に設けられた下地素材層130、第一の素材層131、第二の素材層132、及び第三の素材層133の四層構造を有する。
【0058】
〈下地素材層〉
下地素材層130は、後述する熱処理後、上述した電気接点材料1の下地層30を形成する。下地素材層130は、純Ni、又はNi合金で構成される。Ni合金は、Ni以外の添加元素として、例えば、Sn、Zn、及びCuからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが挙げられる。下地素材層130の厚みは、熱処理後の下地層30の厚みが0.5μm超となる厚みとする。熱処理後の下地層30の厚みは、熱処理前の下地素材層130の厚みよりも薄くなる傾向にある。そのため、下地素材層130の厚みは、電気接点材料1の下地層30の厚みよりも厚くする。下地素材層130の厚みは、例えば、0.6μm以上が挙げられる。下地素材層130の厚みが0.6μm以上であれば、熱処理によって基材12中のCuが被覆層13の表面側に向かう拡散を抑制し易い。Cuの拡散を抑制できることで、上述した特定の元素を含む第一層31を確実に形成し易い。その上、上述したCuの含有量が少ない酸化物層4を形成し易い。これらの効果は、下地素材層130の厚みが厚いほど得られる。下地素材層130の厚みは、更に0.7μm以上が挙げられ、特に1.0μm以上が挙げられる。下地素材層130の厚みの上限は、例えば、4.0μm程度が挙げられる。
【0059】
〈第一の素材層〉
第一の素材層131は、後述する熱処理後、主として上述した電気接点材料1の第二層32を形成する。この第一の素材層131の一部は、後述する熱処理後、上述した電気接点材料1の第一層31を形成する。
【0060】
第一の素材層131は、純Sn、又はSn合金からなる。Sn合金は、Sn以外の添加元素として、例えば、Cu、及びZnからなる群より選択される1種以上の元素を含むことが挙げられる。第一の素材層131におけるSnの含有量は、第二の素材層132や第三の素材層133におけるSnの含有量よりも多い。第一の素材層131に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、Snの合計含有量を100原子%としたとき、第一の素材層131におけるSnの含有量は、例えば、90原子%以上が挙げられる。この第一の素材層131におけるSnの含有量は、100原子%以下が挙げられる。第一の素材層131におけるSnの含有量は、更に95原子%以上100原子%以下が挙げられ、98原子%以上100原子%以下、特に99原子%以上100原子%以下が挙げられる。
【0061】
第一の素材層131の厚みは、得られる電気接点材料1の第二層32の厚みに影響する。第一の素材層131の厚みは、例えば、0.5μm以上5.0μm以下が挙げられる。第一の素材層131の厚みを0.5μm以上とすれば、第一の素材層131は、基材12中のCuが被覆層13の表面側に向かう拡散を抑制し易い。その上、第一の素材層131の厚みを0.5μm以上とすれば、電気接点材料1の第二層32の厚みを0.1μm以上にし易い。第一の素材層131の厚みを5.0μm以下とすれば、電気接点材料1の第二層32の厚みを0.55μm以下にし易い。その上、第一の素材層131の厚みを5.0μm以下とすれば、被覆層13の形成時間を短くし易い。第一の素材層131の厚みは、更に0.5μm以上3.0μm以下が挙げられる。
【0062】
〈第二の素材層〉
第二の素材層132は、後述する熱処理後、主として上述した電気接点材料1の酸化物層4を形成する。この第二の素材層132の一部は、後述する熱処理後、上述した電気接点材料1の第一層31を形成する。
【0063】
第二の素材層132は、純Zn、又はZn合金で構成される。Zn合金は、Zn以外の添加元素としてSnを含むことが挙げられる。第二の素材層132におけるZnの含有量は、第一の素材層131におけるZnの含有量よりも多い。第二の素材層132に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、Snの合計含有量を100原子%としたとき、第二の素材層132におけるZnの含有量は、例えば、90原子%以上が挙げられる。この第二の素材層132におけるZnの含有量は、100原子%以下が挙げられる。第二の素材層132におけるZnの含有量は、更に95原子%以上100原子%以下が挙げられ、特に99原子%以上100原子%以下が挙げられる。
【0064】
第二の素材層132の厚みは、0.1μm以上1.0μm以下が挙げられる。第二の素材層132の厚みを0.1μm以上とすれば、第二の素材層132は、基材12中のCuが被覆層13の表面側に向かう拡散を抑制し易い。その上、上述した酸化物層4を形成し易い。第二の素材層132の厚みを1.0μm以下とすれば、酸化物層4にSnやZnを含有させ易い。その上、酸化物層4にCuを含有させ難い。第二の素材層132の厚みは、更に0.1μm以上0.5μm以下が挙げられ、特に0.2μm以上0.4μm以下が挙げられる。
【0065】
〈第三の素材層〉
第三の素材層133は、後述する熱処理後、主として上述した電気接点材料1の第一層31を形成する。この第三の素材層133の一部は、後述する熱処理後、上述した電気接点材料1の酸化物層4を形成する。
【0066】
第三の素材層133は、被覆層13の最表層である。第三の素材層133は、純Cu、又はCu合金で構成される。Cu合金は、Cu以外の添加元素としてSnを含むことが挙げられる。第三の素材層133におけるCuの含有量は、第一の素材層131におけるCuの含有量よりも多い。第三の素材層133に含まれるC、O、Ni、Zn、Cu、Snの合計含有量を100原子%としたとき、第三の素材層133におけるCuの含有量は、例えば、90原子%以上が挙げられる。この第三の素材層133におけるCuの含有量は、100原子%以下が挙げられる。第三の素材層133におけるCuの含有量は、更に95原子%以上100原子%以下が挙げられ、特に99原子%以上100原子%以下が挙げられる。
【0067】
第三の素材層133の厚みは、例えば、0.1μm以上1.0μm以下が挙げられる。第三の素材層133の厚みを0.1μm以上とすれば、上述した酸化物層4を形成し易い。第三の素材層133の厚みを1.0μm以下とすれば、電気接点材料1の酸化物層4にSnやZnを含有させ易い。そして、電気接点材料1の酸化物層4にCuを含有させ難い。第三の素材層133の厚みは、更に0.1μm以上0.5μm以下が挙げられ、特に0.2μm以上0.4μm以下が挙げられる。
【0068】
下地素材層130~第三の素材層133の各層の形成は、めっき法により行える。めっき法としては、電気めっき、無電解めっき、溶融めっきなどが挙げられる。各層の形成は、公知のめっき処理条件を利用できる。
【0069】
(工程S2)
熱処理は、熱処理温度をSnの融点以上の温度とし、保持時間を所定時間とする。熱処理温度とは、素材10の温度である。保持時間とは、素材10の温度を上記熱処理温度に保持する時間である。この熱処理により、液相状態のSnと、ZnやCuとが適切に反応する。この熱処理により、基材12の表面に基材12側から順に上述した被覆層13と酸化物層4とを有する電気接点材料1を作製できる。
【0070】
熱処理温度は、232℃以上500℃以下が挙げられる。熱処理温度が232℃以上であれば、Snを液相状態にでき、Cuの含有量が少なくSnやZnの含有量が多い酸化物層4を電気接点材料1の最表面に形成し易い。熱処理温度が500℃以下であれば、被覆層13の表面側へのCuの拡散を抑制し易い。熱処理温度は、更に240℃以上450℃以下が挙げられ、特に250℃以上400℃以下が挙げられる。
【0071】
保持時間は、1秒以上5分以下が挙げられる。保持時間が1秒以上であれば、Snを液相状態にでき、Cuの含有量が少なくSnやZnの含有量が多い酸化物層4を電気接点材料1の最表面に形成し易い。保持時間が5分以下であれば、被覆層13の表面側へのCuの拡散を抑制し易い。保持時間は、更に2秒以上4分以下が挙げられ、特に3秒以上3分以下が挙げられる。
【0072】
熱処理の雰囲気は、酸素雰囲気が挙げられる。
【0073】
〔作用効果〕
本形態の電気接点材料1は、下地層30の厚みが十分に厚い上に第一層31が特定の4つの元素を含むことで耐熱性に優れるため、長期にわたって使用可能である。その上、本形態の電気接点材料1は、第二層32の厚みが薄い場合、耐摩耗性にも優れる。特に、本形態の電気接点材料1は、長期にわたって耐摩耗性に優れる。
【0074】
《実施形態2》
〔ワイヤーハーネス〕
実施形態1に係る電気接点材料1は、端子金具に好適に利用できる。端子金具としては、コネクタに備わる端子金具、ワイヤーハーネスに備わる端子金具、ワイヤーハーネスに備わるコネクタの端子金具などに好適に利用できる。実施形態2では、実施形態1に係る電気接点材料1を端子金具に用いた例として、
図3を参照して、電線300と端子金具200とを備えるワイヤーハーネス100を説明する。
【0075】
電線300は、導体310と、導体310の外周を覆う絶縁層320とを備える。電線300は、公知の電線が利用できる。
【0076】
端子金具200は、ワイヤバレル部210と、インシュレーションバレル部220と、嵌合部230とを備える。これらワイヤバレル部210とインシュレーションバレル部220と嵌合部230とは一連に形成されている。ワイヤバレル部210の一方側にインシュレーションバレル部220が設けられ、ワイヤバレル部210の他方側に嵌合部230が設けられている。
【0077】
ワイヤバレル部210は、電線300の導体310を接続する導体接続部である。ワイヤバレル部210は、導体310を圧着する一対の圧着片を有する。インシュレーションバレル部220は、電線300の絶縁層320を圧着する。嵌合部230は、本形態ではメス型であり、筒状の箱部231と、箱部231の内面に対向配置された弾性片232、233とを備える。弾性片232、233の少なくとも一方が、実施形態1に係る電気接点材料1で構成される。
【0078】
メス型の嵌合部230の箱部231には、オス型の嵌合部が挿入される。オス型の嵌合部の図示は省略している。オス型の嵌合部は、メス型の嵌合部230の弾性片232、233の付勢力によって強固に挟持される。メス型の端子金具200とオス型の端子金具とが電気的に接続される。電気接点材料1は、相手材との接触圧力が小さい場合であっても、接触抵抗の増加を抑制できることから、弾性片232、233が小さいような端子金具200に好適に利用できる。
【0079】
〔作用効果〕
本形態のワイヤーハーネス100は、長期にわたって導電性に優れる。メス型の嵌合部230における弾性片232、233の少なくとも一方が長期的に使用可能な電気接点材料1で構成されている。そのため、メス型の嵌合部230とオス型の嵌合部とが長期にわたって良好な電気的接続を行えるからである。
【0080】
《試験例》
試験例では、電気接点材料を作製し、電気接点材料の接触抵抗を測定した。
【0081】
〔試料No.1~No.3〕
各試料の電気接点材料は、上述の製造方法と同様にして、素材を準備する工程と素材に熱処理を施す工程とを経て作製した。
【0082】
[素材の準備]
素材は、基材の表面に基材の厚み方向に沿って基材側から順に下地素材層、第一の素材層、第二の素材層、及び第三の素材層の四層構造を有する被覆層を設けることで準備した。
【0083】
基材には、Cu合金からなる金属板を用いた。
【0084】
各素材層の形成は、電気めっき法により行なった。
【0085】
下地素材層として、純Niめっき層を形成した。下地素材層は、EDX装置(CarlZeiss社製)による成分分析の結果、Ni以外の元素は含まれていなかった。下地素材層の厚みは、表1に示すように、1.5μmとした。
【0086】
第一の素材層として、純Snめっき層を形成した。第一の素材層の厚みは、表1に示すように、1.0μm~2.0μmから選択される厚みとした。
【0087】
第二の素材層として、純Znめっき層を形成した。第二の素材層の厚みは、表1に示すように、0.2μmとした。
【0088】
第三の素材層として、純Cuめっき層を形成した。第三の素材層の厚みは、表1に示すように、0.2μmとした。
【0089】
[熱処理]
各素材への熱処理は、各素材の温度が270℃となるように素材を加熱することで行った。上記温度に保持する時間は3分とした。加熱雰囲気は、酸素雰囲気とした。加熱時間経過後、得られた電気接点材料を常温にまで冷却した。
【0090】
〔試料No.101〕
試料No.101の電気接点材料は、素材を準備する工程において、表1に示すように下地素材層の厚みを0.5μmとした点と第三の素材層を設けなかった点とを除き、試料No.2と同様にして作製した。表1の「-」は、第三の素材層を設けなかったことを意味する。
【0091】
【0092】
〔断面観察・成分分析〕
電気接点材料の断面を観察すると共に、基材の表面に設けられた被覆層の成分を分析した。断面は、基材の厚み方向に沿った断面をとった。断面の観察には、SEMを用いた。成分の分析には、上述したEDX装置を用いた。EDX装置の加速電圧は15kVとした。その結果、電気接点材料は、基材の表面に基材側から順に下地層、第一層、第二層、及び酸化物層の4つの層を有する被覆層が形成されていることがわかった。具体的には、下地層は、Niを含むことがわかった。下地層は、Ni以外に、Zn、Cu、及びSnも含んでいた。第一層は、Ni、Zn、Cu、及びSnを含むことがわかった。第二層は、Snを含むことがわかった。第二層は、Sn以外に、Ni、Zn、及びCuも含んでいた。酸化物層は、Zn、Cu、及びSnを含む酸化物で構成されていることがわかった。酸化物層は、Zn、Cu、及びSn以外の金属元素を含んでいなかった。第一層に含まれるNi、Zn、Cu、及びSnの各々の含有量を表2に示す。また、試料No.1~No.3において、第二層に含まれるNi、Zn、Cu、及びSnの各々の含有量を表2に示す。表2に示す第一層及び第二層の各元素の含有量は、C、O、Ni、Zn、Cu、及びSnの合計含有量を100原子%としたときの値である。
【0093】
〔厚み測定〕
各層の厚みを次のようにして求めた。被覆層の積層方向に沿って一つの断面をとった。SEMを用い、断面から2個の反射電子像をとった。各反射電子像のサイズは、30μm×40μmとした。各反射電子像において、被覆層の積層方向に沿った各層の長さを5箇所以上測定した。測定した下地層の長さの平均値、第一層の長さの平均値、第二層の長さの平均値、及び酸化物層の長さの平均値をとった。各平均値を各層の厚みとした。試料No.1~No.3、No.101の電気接点材料における各層の厚みを表2に示す。
【0094】
〔接触抵抗の測定〕
各電気接点材料の接触抵抗として、(1)初期の接触抵抗、(2)加速劣化試験後の接触抵抗、(3)摺動試験後の接触抵抗、を測定した。それらの結果を表3に示す。
【0095】
各接触抵抗は、金めっきした半径1mmの球状の圧子を1Nの荷重で電気接点材料の酸化物層に接触させ、四端子法の抵抗測定装置を用いて測定した。金めっきの純度は、実質的にK24とした。金めっきの厚みは、0.4μmとした。
【0096】
(1)初期の接触抵抗は、上述の熱処理後、かつ後述の加速劣化試験前及び摺動試験前における常温の電気接点材料の接触抵抗である。
【0097】
(2)加速劣化試験は、電気接点材料を160℃の大気雰囲気下に120時間放置することで行った。加速劣化試験後、常温にまで冷却した電気接点材料の接触抵抗を加速劣化試験後の接触抵抗とした。
【0098】
(3)摺動試験は、上記圧子を電気接点材料の酸化物層に対して直線状に摺動させることで行った。圧子の負荷荷重は1Nとした。摺動速度は100μm/secとした。ストロークは50μmとした。往復回数は100回とした。1往復ごとに接触抵抗を測定した。測定数(N数)は2とした。表2は、摺動試験後の接触抵抗として、往復回数が1回から10回までの接触抵抗のうち最大の接触抵抗の平均値と、往復回数が1回から100回までの接触抵抗のうち最大の接触抵抗の平均値とを示す。
【0099】
【0100】
【0101】
表3に示すように、試料No.1~No.3の電気接点材料は、初期の接触抵抗に加えて加速劣化試験後の接触抵抗が低かった。具体的には、初期の接触抵抗が3mΩ以下であった。また、加速劣化試験後の接触抵抗が4mΩ以下であった。このことから、試料No.1~No.3の電気接点材料が耐熱性にも優れることがわかった。
【0102】
また、試料No.1、No.2の電気接点材料は、摺動試験後の接触抵抗も低かった。具体的には、往復回数が1回から10回までの最大の接触抵抗が5mΩ以下であり、更に3mΩ以下、2.5mΩ以下であった。特に、試料No.1の電気接点材料は、往復回数が1回から100回までの最大の接触抵抗も5mΩ以下であり、更に4.5mΩ以下、4.0mΩ以下あった。このことから、試料No.1、No.2の電気接点材料が耐摩耗性に優れること、特に試料No.1の電気接点材料が耐摩耗性に優れることがわかった。
【0103】
試料No.101の電気接点材料は、初期の接触抵抗は低いものの、加速劣化試験後の接触抵抗が高かった。具体的には、初期の接触抵抗が1.95mΩであるものの、加速劣化試験後の接触抵抗が814.8mΩであった。このことから、試料No.101の電気接点材料が耐熱性に劣ることがわかった。この試料No.101の電気接点材料は、往復回数が1回から10回までの最大の接触抵抗が3.05mΩであった。試料No.101の電気接点材料は、往復回数が1回から100回までの最大の接触抵抗が6.12mΩであった。
【0104】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0105】
1 電気接点材料
2 基材
3 被覆層
30 下地層
31 第一層
32 第二層
4 酸化物層
10 素材
12 基材
13 被覆層
130 下地素材層
131 第一の素材層
132 第二の素材層
133 第三の素材層
100 ワイヤーハーネス
200 端子金具
210 ワイヤバレル部
220 インシュレーションバレル部
230 嵌合部
231 箱部
232,233 弾性片
300 電線
310 導体
320 絶縁層