(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】分波器
(51)【国際特許分類】
H03H 9/72 20060101AFI20230922BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20230922BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20230922BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H03H9/72
H03H9/64 Z
H03H9/70
H03H9/17 F
(21)【出願番号】P 2019150855
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】大久保 功太
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-033377(JP,A)
【文献】特開2007-202136(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019794(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049830(WO,A1)
【文献】特開2018-170755(JP,A)
【文献】特開2019-024155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00- 9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子とアンテナに接続される共通端子との間において、所定の周波数帯域の信号を通過させるバンドパスフィルタと、
第2端子と前記共通端子との間において、前記所定の周波数帯域の信号を減衰させるバンドエリミネーションフィルタと、
を備え、
前記バンドエリミネーションフィルタは、前記第2端子と前記共通端子との間の線路に直列接続された複数の共振子を備え、
前記複数の共振子は、最も共振周波数が低い第1共振子と、前記第1共振子より前記共通端子側に設けられた第2共振子と、を含
み、
前記バンドパスフィルタは、
前記第1端子と前記共通端子との間において、直列腕に配置された第3共振子及び並列腕に配置された第4共振子を備え、
前記複数の共振子の反共振周波数は、いずれも、前記第4共振子の共振周波数より高く、前記第3共振子の反共振周波数より低い、分波器。
【請求項2】
前記複数の共振子は、最も容量値が大きい第5共振子と、前記第5共振子より前記共通端子側に設けられた第6共振子と、を含む、
請求項
1に記載の分波器。
【請求項3】
前記第1共振子及び前記第2共振子は、互いに隣接して設けられ、
前記バンドエリミネーションフィルタは、一端が前記第1共振子と前記第2共振子との接続点に接続され、他端に基準電位が供給された第1インダクタをさらに備える、
請求項1
又は2に記載の分波器。
【請求項4】
前記バンドエリミネーションフィルタは、前記第2共振子と前記共通端子との間において、前記第2共振子に直列接続された第2インダクタをさらに備え、
前記第1インダクタのインダクタンス値は、前記第2インダクタのインダクタンス値より大きい、
請求項
3に記載の分波器。
【請求項5】
前記バンドエリミネーションフィルタは、前記第2端子と前記共通端子との間の線路に直列接続された第2インダクタ及び第3インダクタをさらに備え、
前記バンドパスフィルタは、前記第1端子と前記共通端子との間の線路に直列接続された第4インダクタをさらに備え、
前記第3インダクタは、前記第4インダクタより前記第2インダクタの近くに配置された、
請求項1から
3のいずれか一項に記載の分波器。
【請求項6】
前記バンドエリミネーションフィルタは、前記第2端子と前記共通端子との間の線路に直列接続された第3インダクタをさらに備え、
前記バンドパスフィルタは、前記第1端子と前記共通端子との間の線路に直列接続された第4インダクタをさらに備え、
前記分波器は、前記バンドパスフィルタと前記バンドエリミネーションフィルタの接続点と、前記共通端子との間の線路に直列接続された第5インダクタをさらに備え、
前記第3インダクタは、前記第4インダクタより前記第5インダクタの近くに配置された、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の分波器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体通信機においては、互いに異なる複数の周波数帯域の信号を同時に送受信する、いわゆるキャリアアグリゲーションに対応することが求められている。キャリアアグリゲーションにおいては、例えば1つのアンテナが受信した受信信号を周波数帯域に応じて分けるための分波器がアンテナに接続されている。例えば下記特許文献1には、所定の周波数帯域の信号を通過させるバンドパスフィルタと、所定の周波数帯域の信号を減衰させるバンドエリミネーションフィルタと、を備えたマルチプレクサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような複数のフィルタを含むマルチプレクサにおいては、一方のフィルタの特性が他方のフィルタの特性に影響を与え、他方のフィルタの通過特性を劣化させることがあるが、上記特許文献1ではこのような点は考慮されていない。従って、例えばバンドエリミネーションフィルタが備える共振子の設計によっては、バンドパスフィルタの通過特性を劣化させ得る。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、バンドパスフィルタの通過特性の劣化を抑制することができる分波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の一側面に係る分波器は、第1端子とアンテナに接続される共通端子との間において、所定の周波数帯域の信号を通過させるバンドパスフィルタと、第2端子と共通端子との間において、該所定の周波数帯域の信号を減衰させるバンドエリミネーションフィルタと、を備え、バンドエリミネーションフィルタは、第2端子と共通端子との間の線路に直列接続された複数の共振子を備え、複数の共振子は、最も共振周波数が低い第1共振子と、第1共振子より共通端子側に設けられた第2共振子と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バンドパスフィルタの通過特性の劣化を抑制することができる分波器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分波器を含む通信装置の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る分波器及びそれに関連する構成要素の構成例を示す図である。
【
図3】バンドパスフィルタ及びバンドエリミネーションフィルタに含まれる各共振子の減衰特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図4A】バンドエリミネーションフィルタの共振子の共振周波数及び容量値の条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図4B】バンドエリミネーションフィルタの共振子の共振周波数及び容量値の条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図4C】バンドエリミネーションフィルタの共振子の共振周波数及び容量値の条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図4D】バンドエリミネーションフィルタの共振子の共振周波数及び容量値の条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5A】バンドエリミネーションフィルタのインダクタの条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5B】バンドエリミネーションフィルタのインダクタの条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5C】バンドエリミネーションフィルタのインダクタの条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5D】バンドエリミネーションフィルタのインダクタの条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図6】
図2に示される各インダクタのレイアウトの一例を示す図である。
【
図7A】
図2に示されるインダクタのレイアウトを変えた場合における、バンドエリミネーションフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図7B】
図2に示されるインダクタのレイアウトを変えた場合における、バンドエリミネーションフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る分波器を含む通信装置の構成例を示す図である。本実施形態に係る通信装置は、例えば携帯電話等の移動体通信機に搭載され、信号の送信及び受信を行う。
【0011】
図1に示されるように、通信装置100は、例えば、アンテナ10と、分波器20と、スイッチ30と、デュプレクサ40と、電力増幅器50と、低雑音増幅器60,61と、RFIC70,71と、を備える。
【0012】
アンテナ10は、基地局との間で無線周波数(RF:Radio Frequency)信号の送信及び受信を行ったり、GPS(Global Positioning System)衛星からの信号を受信したりする。
【0013】
分波器20は、アンテナ10から送信される送信信号及びアンテナ10が受信する受信信号を周波数に基づいて分ける機能を有する。分波器20は、バンドパスフィルタ21と、バンドエリミネーションフィルタ22と、を含む。バンドパスフィルタ21は、所定の周波数の信号を通過させ、当該所定の周波数以外の周波数の信号を減衰させるフィルタである。バンドエリミネーションフィルタ22は、所定の周波数の信号を減衰させ、当該所定の周波数以外の信号を通過させるフィルタである。
【0014】
本実施形態において、バンドパスフィルタ21が通過させる周波数帯域である通過帯域と、バンドエリミネーションフィルタ22が減衰させる周波数帯域である減衰帯域は重なっている。例えば、アンテナ10が受信した種々の信号からGPSの受信信号を抽出したい場合、バンドパスフィルタ21の通過帯域及びバンドエリミネーションフィルタ22の減衰帯域は、GPSの受信信号の周波数となるように設定される。これにより、GPSの受信信号はバンドパスフィルタ21を通過し、それ以外の受信信号はバンドエリミネーションフィルタ22を通過する。このように、分波器20によると、様々な周波数の信号から特定の周波数の信号を抽出することができる。なお、抽出される信号の種類はGPSに限定されない。
【0015】
バンドパスフィルタ21を通過した受信信号は、低雑音増幅器60に供給される。バンドエリミネーションフィルタ22を通過した受信信号は、スイッチ30に供給される。また、バンドエリミネーションフィルタ22には、スイッチ30から送信信号が供給される。分波器20の構成の詳細については後述する。
【0016】
スイッチ30は、バンドエリミネーションフィルタ22から供給される受信信号を、通信規格や周波数帯域に基づいて、いずれかのデュプレクサに供給する。
図1ではデュプレクサ40が一例として示されているが、スイッチ30には複数のデュプレクサが接続されていてよく、あるいはデュプレクサに代えて分波器や受信機が接続されていてもよい。また、スイッチ30は、各デュプレクサから供給される送信信号をバンドエリミネーションフィルタ22に供給する。なお、通信装置100は、スイッチ30を備えていなくてもよい。
【0017】
デュプレクサ40は、スイッチ30から供給される受信信号と、電力増幅器50から供給される送信信号を、周波数に基づいて分ける機能を有する。デュプレクサ40は、例えば2つのバンドパスフィルタ41,42を備える。一方のバンドパスフィルタ41は、受信周波数帯域の信号を通過させ、他方のバンドパスフィルタ42は、送信周波数帯域の信号を通過させる。これにより、送信信号及び受信信号間の相互の漏洩が抑制される。
【0018】
電力増幅器50は、RFIC71において生成される送信信号の電力を増幅して、デュプレクサ40に供給する。
【0019】
低雑音増幅器60は、分波器20から供給される受信信号の電力を増幅して、RFIC70に供給する。
【0020】
低雑音増幅器61は、デュプレクサ40から供給される受信信号の電力を増幅して、RFIC71に供給する。
【0021】
RFIC70は、分波器20によって抽出された所定の信号(例えば、GPSの受信信号)を処理する集積回路である。RFIC71は、当該所定の信号を除く信号、すなわち、バンドエリミネーションフィルタ22の通過帯域に含まれる信号(例えば、携帯電話の受信信号)を処理する集積回路である。なお、
図1ではRFIC70とRFIC71とが別々のICにより構成された例が示されているが、これらの一部又は全ての機能が1つのチップにより構成されていてもよい。
【0022】
上述した通信装置100が備える各構成要素は、同じチップにモジュールとして形成されていてもよく、あるいは別々のチップに形成されていてもよい。通信装置100は、例えばアンテナ10を備えていなくてもよく、その場合は、通信装置100にアンテナ10が接続されていてもよい。次に、分波器20の構成についてさらに詳細に説明する。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る分波器及びそれに関連する構成要素の構成例を示す図である。
【0024】
図2に示されるように、本実施形態にかかる分波器20Aは、バンドパスフィルタ21Aと、バンドエリミネーションフィルタ22Aと、を含む。バンドパスフィルタ21Aは、アンテナ10から共通端子T3を経由して供給された受信信号を端子T1(第1端子)から出力する。バンドエリミネーションフィルタ22Aは、アンテナ10から共通端子T3を経由して供給された受信信号を端子T2(第2端子)から出力するとともに、スイッチ30から端子T2を経由して供給された送信信号を共通端子T3から出力する。本実施形態では、バンドパスフィルタ21Aは、受信信号を通過させるが、これに代えて、又はこれに加えて送信信号を通過させてもよい。
【0025】
バンドパスフィルタ21Aは、複数の共振子が直列腕及び並列腕に配置されたラダー型フィルタである。具体的に、バンドパスフィルタ21Aは、4つの共振子S1~S4と、3つの共振子P1~P3と、インダクタL2と、を備える。共振子及びインダクタの数はそれぞれ一例であり、これに限定されない。
【0026】
共振子S1~S4及び共振子P1~P3の素子は特に限定されないが、例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタ、圧電薄膜共振子等のフィルタ、又はバルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)フィルタ等であってもよい。以下に説明する共振子S5,S6においても同様である。
【0027】
4つの共振子S1(第3共振子)~S4は、共通端子T3と端子T1とを結ぶ線路U1において、アンテナ10側から近い順にそれぞれ直列接続されている。3つの共振子P1(第4共振子)~P3は、アンテナ10側から近い順にそれぞれ、線路U1から分岐するように並列に接続されている。3つの共振子P1~P3は、一端が、それぞれ共振子S1と共振子S2との接続点、共振子S2と共振子S3との接続点、共振子S3と共振子S4との接続点に接続され、他端に基準電位(例えば接地電位)が供給されている。
【0028】
インダクタL2(第4インダクタ)は、共振子S4と端子T1との間において、直列腕に配置された共振子に直列接続されている。
【0029】
バンドエリミネーションフィルタ22Aは、複数の共振子が直列に接続された構成である。具体的に、バンドエリミネーションフィルタ22Aは、2つの共振子S5,S6と、3つのインダクタL3~L5を備える。共振子及びインダクタの数は一例であり、これに限定されない。
【0030】
共振子S5(第2共振子、第6共振子)及び共振子S6(第1共振子、第5共振子)は、共通端子T3と端子T2とを結ぶ線路U2において、アンテナ10側から近い順に隣接して直列接続されている。
【0031】
インダクタL3(第2インダクタ)は、共通端子T3と共振子S5との間において、共振子S5に直列接続されている。インダクタL4(第1インダクタ)は、線路U2から分岐するように、一端が共振子S5と共振子S6との接続点に接続され、他端に基準電位(例えば接地電位)が供給されている。インダクタL5(第3インダクタ)は、共振子S6と端子T2との間において、共振子S6に直列接続されている。
【0032】
インダクタL1(第5インダクタ)は、バンドパスフィルタ21Aとバンドエリミネーションフィルタ22Aとの接続点Aと、共通端子T3との間の線路に直列接続されている。
【0033】
本実施形態では、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域及びその帯域幅と、バンドエリミネーションフィルタ22Aの減衰帯域及びその帯域幅が略同一である。従って、各フィルタに含まれる各共振子は、
図3に示されるような共振周波数及び反共振周波数の条件を満たす。
【0034】
図3は、
図2に示されるバンドパスフィルタ及びバンドエリミネーションフィルタに含まれる各共振子の減衰特性のシミュレーション結果を示すグラフである。同図に示されるグラフにおいて、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は信号の減衰量(dB)を示す。特性200は、バンドパスフィルタ21Aの共振子S1の減衰特性を示す。特性210は、バンドパスフィルタ21Aの共振子P1の減衰特性を示す。特性220は、バンドエリミネーションフィルタ22Aの共振子S5の減衰特性を示す。特性230は、バンドエリミネーションフィルタ22Aの共振子S6の減衰特性を示す。
【0035】
共振子S1,S5,S6は直列腕に配置されるため、
図3に示されるように、その反共振周波数において信号が大きく減衰する。共振子P1は並列腕に配置されるため、その共振周波数において信号が大きく減衰する。本実施形態では、バンドパスフィルタ21Aの共振子S1の反共振周波数と、共振子P1の共振周波数との間に、バンドエリミネーションフィルタ22Aの共振子S5及び共振子S6の反共振周波数が配置されている。これにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域とバンドエリミネーションフィルタ22Aの減衰帯域とが重なることとなる。なお、
図3では、バンドパスフィルタ21Aの共振子の一例として共振子S1及び共振子P1が選択されているが、バンドエリミネーションフィルタ22Aに含まれる共振子の反共振周波数は、バンドパスフィルタ21Aのいずれか1つの並列腕の共振子の共振周波数より高く、いずれか1つの直列腕の共振子の反共振周波数より低ければよい。
【0036】
ここで、複数のフィルタを含む分波器においては、一方のフィルタの特性が他方のフィルタの特性に影響を与え、他方のフィルタの通過特性を劣化させることがある。従って、例えばバンドエリミネーションフィルタが備える共振子の設計によっては、バンドパスフィルタの通過特性を劣化させ得る。
【0037】
この点、本実施形態では、バンドエリミネーションフィルタ22Aが備える共振子のうち、共通端子T3側の共振子S5の共振周波数が、端子T2側の共振子S6の共振周波数より高くなるように設定されている。なお、例えばSAWフィルタの共振周波数frは、櫛形電極(IDT:Interdigital Transducer)の周期をλとし、SAWフィルタを構成する圧電基板における音速をvとすると、fr=v/λ[Hz]により表される。従って、例えば共振子がSAWフィルタである場合、櫛形電極の周期を調整することにより、所望の共振周波数frを得ることができる。
【0038】
バンドパスフィルタ21Aとバンドエリミネーションフィルタ22Aとの接続点Aから見たバンドパスフィルタ21A側のインピーダンスをZ1とし、接続点Aから見たバンドエリミネーションフィルタ22A側のインピーダンスをZ2とする。一般的に、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ1は、例えば50Ωであり、かつバンドエリミネーションフィルタ22Aの減衰帯域におけるインピーダンスZ2は高いインピーダンスとなるように設計される。ここで、インピーダンスZ2が低くなると、バンドエリミネーションフィルタ22A側に信号が漏れやすくなるため、バンドパスフィルタ21Aの通過特性の劣化を招き、バンドパスフィルタ21Aの挿入損失が大きくなり得る。
【0039】
本実施形態では、共振子S5の共振周波数が共振子S6の共振周波数より高いことにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ2が高くなる。これにより、バンドエリミネーションフィルタ22A側に漏洩する信号が減少し、バンドパスフィルタ21A側に流れる信号が増加するため、結果としてバンドパスフィルタ21Aの通過特性の劣化を抑制することができる。
【0040】
また、共振子は所定の静電容量を有するが、バンドエリミネーションフィルタ22Aにおいて、共振子S5の容量値は、共振子S6の容量値より小さい方が好ましい。これによっても、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ2がより高くなることにより、バンドパスフィルタ21Aの通過特性の劣化を抑制することができる。
【0041】
図4Aから
図4Dは、
図2に示されるバンドエリミネーションフィルタの共振子の共振周波数及び容量値の条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。具体的に、本シミュレーションでは、共振子S5,S6の共振周波数の高低関係、及び、共振子S5,S6の容量値の大小関係を変えている。共振子S6に対する共振子S5の共振周波数及び容量値の関係を以下の表1に示す。
【表1】
【0042】
また、本シミュレーションは、一例として、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域を1166.22~1186.68MHzとしている。本グラフにおいて、横軸は信号の周波数(MHz)を示し、縦軸は信号の減衰量(dB)を示す。いずれのグラフも、紙面上側のグラフは通過特性を10dB単位で表した結果(左側の縦軸の目盛参照)であり、紙面下側のグラフは通過特性を1dB単位で表した結果(右側の縦軸の目盛参照)である。
【0043】
図4Aと
図4Bの比較から、共振子S5の共振周波数が共振子S6の共振周波数より高い方が、バンドパスフィルタの通過特性が大きく改善されていることが分かる。
図4Bでは、通過帯域においてほぼ一様に、信号の減衰量が-2~-1dB程度に収まっていることが分かる。また、
図4Cと
図4Dの比較においても同様に、共振子S5の共振周波数が共振子S6の共振周波数より高い方が、バンドパスフィルタの通過特性が大きく改善されている。
【0044】
図4Bと
図4Dの比較から、共振子S5の容量値が共振子S6の容量値より小さい方が、特にバンドパスフィルタの高帯域側の通過特性がやや改善されていることが分かる。また、
図4Aと
図4Cの比較においても同様に、共振子S5の容量値が共振子S6の容量値より小さい方が、特にバンドパスフィルタの高帯域側の通過特性がやや改善されている。
【0045】
以上のシミュレーション結果から、共振子S5,S6の容量値の大小関係に依らず、共振子S5の共振周波数は、共振子S6の共振周波数より高い方が好ましいといえる。また、共振子のS5,S6の共振周波数の高低関係に依らず、共振子S5の容量値が共振子S6の容量値より小さい方が好ましいといえる。容量値の大小関係に比べて、共振周波数の大小関係の方が、バンドパスフィルタの通過特性の改善に大きく寄与するといえる。
【0046】
なお、上述の実施形態では、バンドエリミネーションフィルタ22Aが2つの共振子S5,S6を備える構成が示されているが、バンドエリミネーションフィルタが備える共振子は3つ以上であってもよい。バンドエリミネーションフィルタが3つ以上の共振子を備える場合、最も共振周波数が低い共振子より共通端子T3側に、少なくとも1つの共振子が設けられていればよい。また、最も容量値が大きい共振子より共通端子T3側に、少なくとも1つの共振子が設けられていればよい。
【0047】
上述の実施形態では、バンドエリミネーションフィルタ22AがインダクタL4の両側に1つずつ共振子を備える構成が示されているが、これらの共振子S5,S6の一方又は双方は分割されていてもよい。共振子が分割されるとは、1つの共振子の代わりに複数の直列接続された共振子が設けられ、かつ当該複数の共振子を合成した特性が、分割される前の1つの共振子の特性と一致することをいう。共振子S5,S6の一方又は双方が分割される場合、分割された全ての共振子が、それぞれ上述の共振周波数の高低関係を満たすことが好ましい。また、分割された複数の共振子の合成容量値が、上述の容量値の大小関係を満たすことが好ましい。
【0048】
次に、バンドエリミネーションフィルタ22Aが備えるインダクタL4について説明する。バンドエリミネーションフィルタ22Aは、共振子S5と共振子S6との間にインダクタL4を備えることにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ2が高くなるため、これによってもバンドパスフィルタ21Aの通過特性を改善することができる。
【0049】
図5Aから
図5Dは、
図2に示されるバンドエリミネーションフィルタのインダクタL4の条件を変えた場合における、バンドパスフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
図5Aは、バンドエリミネーションフィルタ22AのインダクタL4に相当するインダクタを備えない構成におけるシミュレーション結果である。
図5Bは、バンドエリミネーションフィルタ22AのインダクタL4に相当するインダクタの一端が、共振子S5と共振子S6との接続点の代わりに、共振子S6とインダクタL5との接続点に接続される構成におけるシミュレーション結果である。
図5Cは、バンドエリミネーションフィルタ22Aにおいて、インダクタL4のインダクタンス値がインダクタL3のインダクタンス値より小さい場合におけるシミュレーション結果である。
図5Dは、バンドエリミネーションフィルタ22Aにおいて、インダクタL4のインダクタンス値がインダクタL3のインダクタンス値より大きい場合におけるシミュレーション結果である。
【0050】
なお、共振子S5,S6の共振周波数の高低関係は、共振子S5の方が高く、容量値の大小関係は、共振子S5の方が小さい。その他の条件については、上述の
図4Aから
図4Dと同様であるため、説明を省略する。
【0051】
図5Aと
図5Bの比較から、バンドエリミネーションフィルタが線路U2から分岐されたインダクタを備えることにより、特にバンドパスフィルタの通過帯域の中心周波数付近の通過特性がやや改善していることが分かる。
【0052】
図5Bと
図5Cの比較から、線路U2から分岐されたインダクタの位置は、共振子S6の後段よりも、共振子S5と共振子S6の間である方が、バンドパスフィルタ21の通過特性が大きく改善していることが分かる。
【0053】
図5Cと
図5Dの比較から、インダクタL4のインダクタンス値は、インダクタL3のインダクタンス値よりも大きい方が、バンドパスフィルタ21の通過特性がさらに改善していることが分かる。
【0054】
以上のシミュレーション結果から、本実施形態に係るバンドエリミネーションフィルタ22Aは、共振子S5と共振子S6との間に、インダクタL3よりインダクタンス値が大きいインダクタL4を備えることにより、バンドパスフィルタ21の通過特性がより改善すると言える。
【0055】
図6は、
図2に示される各インダクタのレイアウトの一例を示す図である。なお、
図6では分波器20Aにかかる一部の構成要素のみ図示し、その他の構成要素の図示は省略する。
【0056】
バンドパスフィルタ21Aに含まれるインダクタとバンドエリミネーションフィルタ22Aに含まれるインダクタを1つのパッケージに内層する場合、インダクタL5は、インダクタL2よりインダクタL1の近くに配置されることが好ましい。
図6に示される例では、インダクタL1の一部とインダクタL5の一部が、基板300上において略平行となるように形成されている。このようにインダクタL1とインダクタL5が近くに配置されることにより、両インダクタが結合し、相互誘導作用が生じるため、バンドエリミネーションフィルタ22Aの通過特性が改善される。
【0057】
図7A及び
図7Bは、
図2に示されるバンドエリミネーションフィルタの通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7Aは、インダクタL1とインダクタL5とが比較的近くに配置され、両者の間に相互誘導作用が生じている場合のシミュレーション結果を示す。
図7Bは、インダクタL1とインダクタL5とが比較的遠くに配置され、両者の間に相互誘導作用が生じていない場合のシミュレーション結果を示す。
図7A及び
図7Bにおける横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は減衰量(dB)を1dB単位で示す。
【0058】
図7Aと
図7Bの比較から、インダクタL1とインダクタL5との距離が近い方が、特に3000~5000MHzの領域において減衰量が改善していることが分かる。すなわち、バンドエリミネーションフィルタ22Aの通過特性が改善している。
【0059】
なお、
図6では図示されていないが、インダクタL5は、インダクタL1に代えてインダクタL3と結合していてもよい。すなわち、インダクタL5は、インダクタL2よりインダクタL3の近くに配置されてよい。この場合も、インダクタL1と結合した場合と同様に、バンドエリミネーションフィルタ22Aの通過特性が改善される。
【0060】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。分波器20Aは、第1端子とアンテナに接続される共通端子との間において、所定の周波数帯域の信号を通過させるバンドパスフィルタ21Aと、第2端子と共通端子との間において、所定の周波数帯域の信号を減衰させるバンドエリミネーションフィルタ22Aと、を備え、バンドエリミネーションフィルタ22Aは、第2端子と共通端子との間の線路に直列接続された複数の共振子を備え、複数の共振子は、最も共振周波数が低い第1共振子と、第1共振子より共通端子側に設けられた第2共振子と、を含む。これにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ2がより高くなるため、バンドエリミネーションフィルタ22A側に漏洩する信号が減少する。従って、バンドパスフィルタ21A側に流れる信号が増加し、バンドパスフィルタ21Aの通過特性の劣化を抑制することができる。
【0061】
分波器20Aにおいて、バンドパスフィルタ21Aは、第1端子と共通端子との間において、直列腕に配置された第3共振子及び並列腕に配置された第4共振子を備え、複数の共振子の反共振周波数は、いずれも、第4共振子の共振周波数より高く、第3共振子の反共振周波数より低くてもよい。これにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域とバンドエリミネーションフィルタ22Aの減衰帯域とが重なることとなる。
【0062】
分波器20Aにおいて、複数の共振子は、最も容量値が大きい第5共振子と、第5共振子より共通端子側に設けられた第6共振子と、を含んでいてもよい。これにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ2がより高くなるため、バンドパスフィルタ21Aの通過特性の劣化を抑制することができる。
【0063】
分波器20Aにおいて、第1共振子及び第2共振子は、互いに隣接して設けられ、バンドエリミネーションフィルタは、一端が第1共振子と第2共振子との接続点に接続され、他端に基準電位が供給された第1インダクタをさらに備えていてもよい。これにより、バンドパスフィルタ21Aの通過帯域におけるインピーダンスZ2がより高くなるため、バンドパスフィルタ21Aの通過特性の劣化を抑制することができる。
【0064】
分波器20Aにおいて、バンドエリミネーションフィルタ22Aは、第2共振子と共通端子との間において、第2共振子に直列接続された第2インダクタをさらに備え、第1インダクタのインダクタンス値は、第2インダクタのインダクタンス値より大きくてもよい。これにより、バンドパスフィルタ21Aの通過特性がより改善する。
【0065】
分波器20Aにおいて、バンドエリミネーションフィルタ22Aは、第2端子と共通端子との間の線路に直列接続された第2インダクタ及び第3インダクタをさらに備え、バンドパスフィルタ21Aは、第1端子と共通端子との間の線路に直列接続された第4インダクタをさらに備え、第3インダクタは、第4インダクタより第2インダクタの近くに配置されていてもよい。これにより、第3インダクタと第2インダクタとが結合し、相互誘導作用が生じるため、バンドエリミネーションフィルタ22Aの通過特性が改善される。
【0066】
分波器20Aにおいて、バンドエリミネーションフィルタ22Aは、第2端子と共通端子との間の線路に直列接続された第3インダクタをさらに備え、バンドパスフィルタ21Aは、第1端子と共通端子との間の線路に直列接続された第4インダクタをさらに備え、分波器20Aは、バンドパスフィルタとバンドエリミネーションフィルタの接続点と、共通端子との間の線路に直列接続された第5インダクタをさらに備え、第3インダクタは、第4インダクタより第5インダクタの近くに配置されていてもよい。これにより、第3インダクタと第5インダクタとが結合し、相互誘導作用が生じるため、バンドエリミネーションフィルタ22Aの通過特性が改善される。
【0067】
以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更又は改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0068】
100…通信装置、10…アンテナ、20,20A…分波器、21,21A…バンドパスフィルタ、22,22A…バンドエリミネーションフィルタ、30…スイッチ、40…デュプレクサ、41,42…バンドパスフィルタ、50…電力増幅器、60,61…低雑音増幅器、70,71…RFIC、300…基板、T1,T2…端子、T3…共通端子、L1~L5…インダクタ、U1,U2…線路、S1~S6,P1~P3…共振子