(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】車両の変速操作装置
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20230922BHJP
G05G 1/04 20060101ALI20230922BHJP
G05G 5/05 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B60K20/02 G
G05G1/04 Z
G05G5/05
(21)【出願番号】P 2019186710
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】大山 一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健二
(72)【発明者】
【氏名】久保 純一
(72)【発明者】
【氏名】西 英之
(72)【発明者】
【氏名】久保 賢太
(72)【発明者】
【氏名】新屋 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 茂雄
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-287144(JP,A)
【文献】特開2007-302070(JP,A)
【文献】特開2011-116344(JP,A)
【文献】特開平10-86691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0094719(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
G05G 1/04
G05G 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段式の自動変速機を搭載した車両の変速操作装置であって、
レンジ切替モードにおいて変速用操作手段を手動操作することにより少なくとも後退レンジと自動変速を行うDレンジとの間での切替えが行われる一方、手動変速モードにおいて該変速用操作手段を手動操作した際に変速が行われるようにされ、
前記変速用操作手段を手動操作した際の操作反力が、前記レンジ切替モードにおいてレンジ位置を切替えるときよりも、前記手動変速モードで変速を行わせるときの方が大きくなるように設定
され、
前記レンジ切替モードおよび手動変速モード共に、前記変速用操作手段の操作量の増大に応じた操作反力が順次、徐々に増大していく第1の領域と、第1の領域の後に操作反力が急激に減少する第2の領域と、第2の領域から操作反力が急激に増大する第3の領域とが設定され、
前記第1の領域では、前記レンジ切替モードでは操舵反力が直線的に変化される一方、前記手動変速モードでは曲線的な変化でかつ前記変速用操作手段の操作量が小さいときの操作反力の増大割合が、該変速用操作手段の操作量が大きいときの操作反力の増大割合よりも大きくなるように設定されている、
ことを特徴とする車両の変速操作装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記変速用操作手段は、前後方向の操作と左右方向の操作とが行われるようにされ、
前記変速用操作手段を左右方向に操作することによって、前記レンジ切替モードと前記手動変速モードとの切替えが行われ、
前記レンジ切替モードのときに、前記変速用操作手段を
前方側に操作することによって前記
後退レンジが選択される一方、該変速用操作手段を
後方側に操作することにより前記Dレンジの選択が行われるようにされ、
前記手動変速モードのときに、前記変速用操作手段を
後方側に操作することによりシフトアップを行わせると共に、該変速用操作手段を
前方側に操作することによりシフトダウンを行わせるようにされ、
前記レンジ切替モードでの前記変速用操作手段の前後方向の操作反力よりも、前記手動変速モードでの該変速用操作手段の前後方向の操作反力の方が大きくなるように設定されている、
ことを特徴とする車両の変速操作装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記レンジ切替モードにおいてレンジ位置の切替のために行われる前記変速用操作手段のストローク量と、前記手動変速モードにおいて変速要求のために行われる該変速用操作手段のストローク量とが互いに同じ大きさに設定されている、ことを特徴とする車両の変速操作装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記変速用操作手段に対する操作反力が、前記レンジ切替モードおよび前記手動変速モード共にそれぞれディテント機構によって付与される、ことを特徴とする車両の変速操作装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記変速用操作手段は、前記レンジ切替モードにおいてレンジ位置の切替えが行われたときに、該変速用操作手段が中立位置に向けて自動復帰されるモメンタリ式とされ、
前記変速用操作手段は、前記手動変速モードにおいて変速要求の操作が行われたときに、該変速用操作手段が中立位置に向けて自動復帰されるモメンタリ式とされている、
ことを特徴とする車両の変速操作装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記変速用操作手段によって、前記レンジ切替モードと前記手動変速モードとの切替えが行われるようにされ、
前記変速用操作手段は、前記レンジ切替モードと前記手動変速モードとの間での切替えが行われたときは、切替後の位置に保持されるステーショナリ式とされている、
ことを特徴とする車両の変速操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両、特に自動車においては、多段式の自動変速機を搭載したものが多くなっている。自動変速機は、車両の走行状態に応じて(例えば車速とエンジン負荷とをパラメータとして)、自動変速が行われる。
【0003】
自動変速機の中には、例えば揺動式の操作レバーを手動操作することにより、レンジ位置の切替えを行うレンジ切替モードの他に、手動変速モードをとり得るようにしたものがある。レンジ切替モードでは、少なくとも後退レンジと前進時での自動変速を行うDレンジとを選択できるようにされている。そして、手動変速モードでは、操作レバーを手動操作することによってシフトアップまたはシフトダウンを行わせるのが一般的である。
【0004】
特許文献1には、手動変速モードにおける操作レバーのストローク量が、レンジ切替モードにおける操作レバーのストローク量よりも小さくなるように設定して、手動変速モードにおいてはレンジ切替モードの場合に比して、操作レバーを素早く操作できるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
手動変速モードは、運転者の好みのタイミングで変速させることができることから、特にスポーツ走行を好んで行う運転者が積極的に選択することになる。
【0007】
一方、手動変速モードでの変速を多用する運転者は、操作レバーを操作した際に、マニュアル変速機においてシフト操作したときに得られる十分な手応えというものを期待する傾向が強いものである。すなわち、運転者は、マニュアル変速機におけるシフトレバーを操作した際には十分な手応えを感じることから、手動変速モードでの操作レバーの操作に対しても十分な手応えを感じることを望む傾向が強いものとなる。
【0008】
しかしながら、従来は、手動変速モードにおける操作レバーは、単にシフトアップ要求あるいはシフトダウン要求を行うスイッチとしての機能からしか捉えられておらず、運転者が期待する操作の十分な手応えという点についてはなんら考慮されていないものであった。
【0009】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、手動変速モードにおいて操作レバーを操作した際に十分な手応えが得られるようにした変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、
多段式の自動変速機を搭載した車両の変速操作装置であって、
レンジ切替モードにおいて変速用操作手段を手動操作することにより少なくとも後退レンジと自動変速を行うDレンジとの間での切替えが行われる一方、手動変速モードにおいて該変速用操作手段を手動操作した際に変速が行われるようにされ、
前記変速用操作手段を手動操作した際の操作反力が、前記レンジ切替モードにおいてレンジ位置を切替えるときよりも、前記手動変速モードで変速を行わせるときの方が大きくなるように設定され、
前記レンジ切替モードおよび手動変速モード共に、前記変速用操作手段の操作量の増大に応じた操作反力が順次、徐々に増大していく第1の領域と、第1の領域の後に操作反力が急激に減少する第2の領域と、第2の領域から操作反力が急激に増大する第3の領域とが設定され、
前記第1の領域では、前記レンジ切替モードでは操舵反力が直線的に変化される一方、前記手動変速モードでは曲線的な変化でかつ前記変速用操作手段の操作量が小さいときの操作反力の増大割合が、該変速用操作手段の操作量が大きいときの操作反力の増大割合よりも大きくなるように設定されている、
ようにしてある(請求項1対応)。
【0011】
上記解決手法によれば、手動変速モードにおいては、変速用操作手段を前後方向に操作したときに十分な手応えが付与されることになる。特に、運転者は、手動変速モードでの操作反力を、レンジ切替モード時における小さな操作反力と無意識に比較することから、手動変速モード時における変速用操作手段の操作に対してより十分な手応えを感知しやすいものとなる。また、レンジ切替モードにおいては、変速用操作手段の操作反力が不必要に大きくなってしまうことが防止される。
【0012】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、次のとおりである。すなわち、
前記変速用操作手段は、前後方向の操作と左右方向の操作とが行われるようにされ、
前記変速用操作手段を左右方向に操作することによって、前記レンジ切替モードと前記手動変速モードとの切替えが行われ、
前記レンジ切替モードのときに、前記変速用操作手段を前方側に操作することによって前記後退レンジが選択される一方、該変速用操作手段を後方側に操作することにより前記Dレンジの選択が行われるようにされ、
前記手動変速モードのときに、前記変速用操作手段を後方側に操作することによりシフトアップを行わせると共に、該変速用操作手段を前方側に操作することによりシフトダウンを行わせるようにされ、
前記レンジ切替モードでの前記変速用操作手段の前後方向の操作反力よりも、前記手動変速モードでの該変速用操作手段の前後方向の操作反力の方が大きくなるように設定されている、
ようにすることができる(請求項2対応)。この場合、変速用操作手段の4方向の揺動を利用して、レンジ切替モードと手動変速モードとの間での切替え、レンジ切替モードにおけるレンジ位置の切替え、手動変速モードにおける変速操作を行うことができる。
【0013】
前記レンジ切替モードにおいてレンジ位置の切替のために行われる前記変速用操作手段のストローク量と、前記手動変速モードにおいて変速要求のために行われる該変速用操作手段のストローク量とが互いに同じ大きさに設定されている、ようにすることができる(請求項3対応)。この場合、レンジ切替モードと手動変速モードとの間での変速用操作手段の操作反力の相違をより明確に認識させて、手動変速モードにおいて変速用操作手段を操作したときの手応えをより十分に認識させる上で好ましいものとなる。
【0014】
前記変速用操作手段に対する操作反力が、前記レンジ切替モードおよび前記手動変速モード共にそれぞれディテント機構によって付与される、ようにすることができる(請求項4対応)。この場合、一般的に採用されている簡易な機構によって、操作反力を所望のものに設定することができる。
【0015】
前記変速用操作手段は、前記レンジ切替モードにおいてレンジ位置の切替えが行われたときに、該変速用操作手段が中立位置に向けて自動復帰されるモメンタリ式とされ、
前記変速用操作手段は、前記手動変速モードにおいて変速要求の操作が行われたときに、該変速用操作手段が中立位置に向けて自動復帰されるモメンタリ式とされている、
ようにすることができる(請求項5対応)。この場合、レンジ切替モードおよび手動変速モード共に同じモメンタリ式として、レンジ切替モードでの小さな操作反力を意識させつつ、手動変速モードで変速用操作手段を操作したときの手応えをより十分に認識させるこ
とができる。また、変速用操作手段を中立位置へ手動で復帰させる手間が省けると共に、手動変速モードにおいては迅速に次の変速に備えるという点でも好ましいものとなる。
【0016】
前記変速用操作手段によって、前記レンジ切替モードと前記手動変速モードとの切替えが行われるようにされ、
前記変速用操作手段は、前記レンジ切替モードと前記手動変速モードとの間での切替えが行われたときは、切替後の位置に保持されるステーショナリ式とされている、
ようにすることができる(請求項6対応)。この場合、変速用操作手段がレンジ切替モードにあるのか手動変速モードにあるのかを明確に認識させる上で好ましいものとなる。また、変速用操作手段を操作した際の操作反力の違いを、あらかじめ運転者に予知させておく上でも好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、手動変速モードにおいて操作レバーを操作した際に十分な手応えを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】車両のインストルメントパネル部分と変速用の操作レバー部分とを後方から見た図。
【
図2】
図1に示す操作レバー部分を上方から見た図。
【
図4】操作レバーの基端部付近の構造例を示す要部斜視図。
【
図6】操作レバーの前後方向の動きに対して反力を与える機構例を示す側面図。
【
図7】操作レバーの前後方向のストロークと操作力との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、車両Vにおける車室前部の構造を示すものである、この
図1において、1はインストルメントパネル、2はステアリングハンドル、3はコンソールボックスである。インストルメントパネル1には、ステアリングハンドル2の直前方位置において、メータパネル4が設けられている。コンソールボックス3の上面には、運転者から操作しやすい位置において、変速用の操作レバー(シフトレバー)10が配設されている。操作レバー10が、変速用操作手段を構成する。
【0020】
図2は、操作レバー10を含む変速操作部Hの全体を示す。変速操作部Hは、操作レバー10の他、操作レバー10を取り囲むようにパネル部11を有し、パネル部11には、Pレンジ選択用のスイッチ12と表示部13とが設けられている。
【0021】
操作レバー10は、上方から見た
図2の矢印で示すように、前後左右の4方向に揺動可能とされている(所定以上の左右方向の揺動および所定以上の前後方向の揺動はそれぞれ規制されている)。操作レバー10の左右方向の揺動によって、レンジ切替モードと手動変速モードとが切替えられる(選択される)。すなわち、
図2の状態では、操作レバー10がレンジ切替モードの位置にあり、この位置から操作レバー10を左方向へ揺動させることによって手動変速モードとなる。
【0022】
操作レバー10は、左右方向の揺動についてはステーショナリ式とされて、その揺動位置に保持される。一方、操作レバー10は、前後方向の揺動についてはモーメンタリ式とされて、前方あるいは後方へ揺動操作する操作力を解除した際には、操作レバー10が前後方向中立位置に自動復帰される。このため、
図6に示すように、操作レバー10には、前後一対のリターンスプリング14、15の各一端部が取付けられている。各リターンスプリング14、15の他端部は、車体に固定されている。
【0023】
レンジ切替モードにおいて、操作レバー10を前方へ揺動させると後退レンジ(Rレンジ)の選択となり、後方へ揺動させるとDレンジの選択となる。手動変速モードにおいて、操作レバー10を前方へ揺動させるとシフトダウンの指令となり、後方へ揺動させるとシフトアップの指令となる。
【0024】
前記スイッチ12は、例えばプッシュ、プッシュ式とされて、押圧される毎に、Pレンジ(パーキングレンジ)とPレンジ開放とが切替えられる。Pレンジ開放直後では、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択となる。表示部13は、操作レバー10の操作位置が、どのような位置であるかを文字表示で示すものとなっている。具体的には、レンジ切替モードで選択可能なレンジ位置が、前方(
図2上方)から後方へ順次、R(Rレンジ)、N(ニュートラルレンジの他、操作レバー10の中立復帰位置を示す)、D(Dレンジ)の表示を有する。また、前後方向に延びるR-N-Dの表示の左隣りに、手動変速モードを示すM(Mレンジ=手動変速モード)を示す表示と、Mの表示の前方にシフトダウンを示す-の表示と、Mの表示の後方にシフトアップを示す+の表示が行われている。
【0025】
操作レバー10の操作位置に応じた表示が、メータパネル4において表示される。具体的には、PレンジのときはPの表示が行われ、RレンジのときはRの表示が行われ、DレンジのときはDの表示が行われる。手動変速モードが選択されているときは、現在の変速段が表示される(例えば現在の変速段が4速のときは4の表示が行われ、現在の変速段が3速のときは3の表示が行われる)。なお、手動変速モードのときは、現在の変速段の表示と共にあるいは代えて、Mの表示を行うこともできる。
【0026】
なお、手動変速モードは、Dレンジが選択されている状態であることを条件として選択可能とされている。また、Rレンジは、車両が停止していることを条件として選択可能とされている。
【0027】
図4は、操作レバー10の基端部付近の構造を示すものである。この
図4において、前後方向に延びる取付軸20が、前後方向軸線αを中心に回動可能として車体に保持されている。この取付軸20に対して、ピン21によって、操作レバー10の基端部が前後方向に揺動可能に連結されている。取付軸20の回動軸線が符号αで示され、操作レバー10のピン21を中心とする揺動軸線が符号βで示される。
【0028】
取付軸20の回動角度(操作レバー10の左右方向位置)が、センサS1で検出される。また、操作レバー10の前後方向の揺動角度が、センサS2で検出される。センサS1、S2が、操作レバー10の位置検出手段を構成する。
【0029】
図5は、前述した操作レバー10の前後左右の揺動(平面視においてH型パターンでの動き)によって、とり得る変速用の各位置の関係をまとめて示すものである。
【0030】
次に、
図3を参照しつつ、車両Vの駆動系統例について説明する。まず、エンジン40の駆動力が、自動クラッチ50、多段式の変速歯車機構60、プロペラシャフト70、デファレンシャルギア71を介して、左右の駆動輪(実施形態では後輪)72に伝達される。自動クラッチ50と変速歯車機構60とによって、自動変速機ATが構成される。変速は、自動クラッチ50の締結解除→変速歯車機構60での変速→自動クラッチ50の締結という順で行われる。
【0031】
自動クラッチ50は、例えば湿式多板式のクラッチ51と、電動アクチュエータとしての電動モータ52と、を有する。電動モータ52によって、クラッチ51の断続が行われる。具体的には、クラッチ51は、常時は図示を略すスプリングによって締結解除状態とされている。そして、電動モータ52の駆動力によって、上記スプリングに抗してクラッチ51が締結される。
【0032】
多段式の変速歯車機構60は、例えば遊星歯車機構を利用して構成されて、例えば前進6段、後退1段とされる。この変速歯車機構60は、既知のように、油圧式とされた内部摩擦締結要素としてのクラッチやブレーキを複数個有している。この複数の内部摩擦締結要素の締結と締結解除との組み合わせに応じて、全ての変速段を選択的にとり得るようになっている。なお、前進の変速段数は、例えば7段、8段等、特に変速段数は問わないものである。
【0033】
次に、
図6を参照しつつ、操作レバー10の関連した部分の構成についてさらに説明する。まず、操作レバー10に関連させて、ディテント機構30が設けられている。ディテント機構30は、レンジ切替モード用と手動変速モード用との左右一対設けられている。ディテント機構30は、操作レバー10の操作に対して所定のクリック感や反力を与えるものとなっている。
【0034】
ディテント機構30は、前後方向に延びる案内壁部31を有する。案内壁部31の上面には、操作レバー10が中立位置にある状態から前方および後方へ向かうにつれて順次、徐々に高くなる立ち上がりの傾斜部32、徐々に低くなる凹部33、急激に立ち上がる規制壁部34が形成されている。なお、傾斜部31、凹部33、規制壁部34は、前後対称形状となるようにして、前後一対形成されている。
【0035】
一方、操作レバー10(のアーム部)には、上下方向に摺動可能として、摺動子(ガイドピン)16が取付けられている。この摺動子16は、操作レバー10内に配設された押圧スプリング(図示略)によって、常時下方へ向けて付勢されている。
【0036】
上記摺動子16の下端が、案内壁部31の上面に常時当接されている。これにより、操作レバー10が
図6に示す中立位置にある状態から、前方あるいは後方へ揺動されると、傾斜部32を通過する際に大きな反力を受けつつ、凹部33に到達した際にクリック感が付与され、規制壁部34に到達した段階でそれ以上の揺動が規制される。傾斜部32を含む山形状部分(凸部)が、摺動子16が乗り越えるための抵抗用段部となる。
【0037】
なお、
図6は、理解容易等のために傾斜部32等を誇張して描いており、実際の形状等とは相違するものである。また、摺動子16は、転動されるローラ式のものにする等、適宜の形式のものを採択できる。
【0038】
図6中、実線で示すものが、操作レバー10がレンジ切替モードにあるときの傾斜部32、凹部33、規制壁部34を示す。また、
図6中、破線で示すものが、操作レバー10が手動変速モードにあるときの傾斜部32、凹部33、規制壁部34を示す。破線で示す傾斜部32、凹部34の方が(手動変速モードのときの方が)が、実線で示す傾斜部32、凹部34よりも(レンジ切替モードよりも)高い位置に設定されている。これにより、手動変速モードでは、レンジ切替モードに比して、操作レバー10の前後方向の揺動操作に際して、大きな操作力(大きな反力)が付与されることになる。
【0039】
以上のように、手動変速モードにおいては、レンジ切替モードの場合に比して、操作レバー10を前後方向に操作したときに十分な手応えが付与されることになる。特に、レンジ切替モードにおいては操作レバー10を前後方向に操作したときの操作反力が小さく設定されていることから、運転者は、レンジ切替モードでの小さな操作反力と無意識に比較して、手動変速モードにおける操作レバー10の前後方向の操作に対してより十分な手応えを感知しやすいものとなる。
【0040】
操作レバー10の前方への揺動量(最大ストローク量)は、レンジ切替モードと手動変速モードとで同じである。同様に、操作レバー10の後方への揺動量(最大ストローク量)は、レンジ切替モードと手動変速モードとで同じである。このことは、レンジ切替モードと手動変速モードとの間での操作レバー10の前後方向の操作反力(手応え)の相違をより明確に体感させやすいものとなる。
【0041】
図7には、操作レバー10の前後方向の揺動ストローク量と操作力(反力)との関係が示される。
図7中、実線がレンジ切替モードの場合に対応し、破線が手動変速モードの場合に対応している。
【0042】
図7において、操作レバー10の摺動子16が凹部33(の底部)に到達した際に、操作レバー10のストローク量がST1で示される。そして、操作レバー10がストローク量ST1に到達した時点で、変速歯車機構60での変速(変速段変更)が開始される。操作レバー10は、ストローク量ST1となった後に、さらにストローク量ST2まで操作可能であるが、このストローク量ST2になるまでの短い時間内に変速歯車機構60での変速(変速段変更)が完了される。
【0043】
図7についてさらに説明すると、自動変速モードのときは、レンジ切替モードの場合に比して、傾斜部32からの反力が大きくなり、かつ摺動子16を下方へ押圧しているスプリングの反力も大きくなって、手動変速モードにおける操作レバー10の前後方向の揺動について、より大きな操作反力が付与されることになる。
【0044】
また、操作レバー10(の摺動子16)が凹部33に到達した時点(ストローク量ST1のとき)に、変速歯車機構60の変速(変速段変更)を開始させるようにしてある。これにより、操作レバー10が凹部33に到達した際に節度感が与えられるのと同時に変速開始とされることによって、マニュアル式変速機のシフトレバーを操作したのとほぼ同様な操作感(シフト操作感)を運転者に与えることができる。
【0045】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。自動変速機ATとしては適宜の構造のものを採択でき、例えば、自動クラッチ50に代えてロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを用いたものであってもよい。レンジ切替モードと手動変速モードとの切替えを、操作レバー10によって行うことなく、例えば別途設けてスイッチによって行うこともできる。
【0046】
操作レバー10に対して前後方向の操作反力は、適宜の手法を付与することができる。例えば、操作レバー10に連結した電磁式のアクチュエータによって、レンジ切替モードと手動変速モードとで操作反力を相違させることができる。また、レンジ切替モードと手動変速モードとでそれぞれ、操作レバー10を前後方向に操作した際に圧縮される前後一対の圧縮スプリングを設けて、レンジ切替モード用の前後一対の圧縮スプリングでのスプリング反力よりも、手動変速モード用の前後一対の圧縮スプリングでのスプリング反力が大きくなるように設定するようにしてもよい。レンジ切替モードにおいて、操作レバー10によって、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジの切替えを行うようにしてもよい(この場合は、操作レバー10は、現在のレンジ位置に保持されるステーショナリ式とされる)。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、手動変速モードを有する自動変速機の変速制御装置として好適である。
【符号の説明】
【0048】
V:車両
H:変速操作部
AT:自動変速機
S1:センサ(操作レバーの位置検出)
S2:センサ(操作レバーの位置検出)
1:インストルメントパネル
2:ステアリングハンドル
3:コンソールボックス
4:メータパネル
10:操作レバー
50:自動クラッチ
51:クラッチ
52:電動モータ
60:変速歯車機構