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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】トルク検出センサおよび動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/14 20060101AFI20230922BHJP
   G01L 3/10 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01L3/14 A
G01L3/10 311
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019226324
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021096104
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】ニデックドライブテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大輔
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-198400(JP,A)
【文献】特開平10-148591(JP,A)
【文献】特開2019-15600(JP,A)
【文献】特開2017-116281(JP,A)
【文献】特開2009-6991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0157238(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103822748(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108444378(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/14,3/10,1/22,
G01B 7/16,
H01C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形体にかかるトルクを検出するトルク検出センサであって、
導体層を有する基板
を備え、
前記導体層は、
円弧状または円環状の第1抵抗線パターンと、
前記第1抵抗線パターンと同心円上に配置される円弧状または円環状の第2抵抗線パターンと、
を少なくともそれぞれ1つ含み、
前記第1抵抗線パターンは、
前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に、0°よりも大きく45°よりも小さいか、あるいは、45°よりも大きく90°よりも小さい一定角度傾斜した複数の第1抵抗線と、
周方向に隣り合う前記第1抵抗線の端部同士を、半径方向の両側で交互に接続して、全体として直列に接続する第1折り返し部位と、
を含み、
前記第2抵抗線パターンは、
前記円形体の半径方向に対して周方向他方側に前記一定角度傾斜した複数の第2抵抗線と、
周方向に隣り合う前記第2抵抗線の端部同士を、半径方向の両側で交互に接続して、全体として直列に接続する第2折り返し部位と、
を含む、トルク検出センサ。
【請求項2】
請求項1に記載のトルク検出センサであって、
前記一定角度は、50°以上かつ70°以下である、トルク検出センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のトルク検出センサであって、
前記一定角度は、54°以上かつ62°以下である、トルク検出センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のトルク検出センサであって、
前記第1抵抗線パターンおよび前記第2抵抗線パターンの少なくともいずれか一方は、ホイートストンブリッジ回路に組み込まれる、トルク検出センサ。
【請求項5】
請求項4に記載のトルク検出センサであって、
前記ホイートストンブリッジ回路の出力信号に基づいて、前記円形体にかかるトルクを検出する信号処理回路
を備える、トルク検出センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のトルク検出センサであって、
前記第1抵抗線パターンおよび前記第2抵抗線パターンの材料は、銅または銅を含む合金である、トルク検出センサ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のトルク検出センサであって、
前記第1抵抗線パターンは、前記基板の表面に位置し、
前記第2抵抗線パターンは、前記基板の裏面に位置する、トルク検出センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のトルク検出センサと、
前記円形体と、
を有する動力伝達装置。
【請求項9】
請求項8に記載の動力伝達装置であって、
前記円形体は、
軸方向に筒状に延びる可撓性の筒状部と、
前記筒状部の外周面に設けられた複数の外歯と、
前記筒状部の軸方向の端部から半径方向外側または半径方向内側に向けて広がる平板状のダイヤフラム部と、
を有し、
前記基板は、前記ダイヤフラム部に固定される、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出センサおよび動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットの関節などに搭載される減速機の需要が急速に高まっている。従来の減速機については、例えば、特開2000-131160号公報に記載されている。この公報では、減速後の回転数で回転する歯車に、歪みゲージが貼り付けられている。これにより、歯車にかかるトルクの検出が可能となっている。
【文献】特開2000-131160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記公報の構造では、歯車の周方向の数か所に、歪みゲージが離散的に貼り付けられている。各歪みゲージが検出するトルクは、歯車の局所的な一部分のトルクである。このような構造では、歯車の全周にかかるトルクを、精度よく検出することが困難であった。
【0004】
また、この種の減速機では、歯車が周期的に変形する。このため、歪みゲージの検出値は、本来計測したいトルクに起因する成分と、歯車の周期的な変形に起因する誤差成分とを含むこととなる。
【0005】
本発明の目的は、歯車等の円形体にかかるトルクを検出するトルク検出センサにおいて、円形体自体の変形に起因する誤差成分を抑えて、円形体にかかるトルクを精度よく検出できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の発明は、円形体にかかるトルクを検出するトルク検出センサであって、導体層を有する基板を備え、前記導体層は、円弧状または円環状の第1抵抗線パターンと、前記第1抵抗線パターンと同心円上に配置される円弧状または円環状の第2抵抗線パターンと、を少なくともそれぞれ1つ含み、前記第1抵抗線パターンは、前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に、0°よりも大きく45°よりも小さいか、あるいは、45°よりも大きく90°よりも小さい一定角度傾斜した複数の第1抵抗線と、周方向に隣り合う前記第1抵抗線の端部同士を、半径方向の両側で交互に接続して、全体として直列に接続する第1折り返し部位と、を含み、前記第2抵抗線パターンは、前記円形体の半径方向に対して周方向他方側に前記一定角度傾斜した複数の第2抵抗線と、周方向に隣り合う前記第2抵抗線の端部同士を、半径方向の両側で交互に接続して、全体として直列に接続する第2折り返し部位と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、第1抵抗線パターンおよび第2抵抗線パターンを含む回路からの出力信号により、円形体にかかるトルクを検出できる。また、円形体の周期的な変形に起因する誤差成分を抑えて、円形体にかかるトルクを精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、動力伝達装置の縦断面図である。
図2図2は、動力伝達装置の横断面図である。
図3図3は、トルク検出センサの平面図である。
図4図4は、トルク検出センサの平面図である。
図5図5は、ホイートストンブリッジ回路の回路図である。
図6図6は、ダイヤフラム部およびトルク検出センサの部分断面図である。
図7図7は、トルク検出センサの一部分を軸方向に視た平面図である。
図8図8は、傾斜角度と誤差成分との関係を示したグラフである。
図9図9は、誤差成分が最小となる傾斜角度を示したグラフである。
図10図10は、εrr<εθθの場合の傾斜角度と誤差成分との関係を示したグラフである。
図11図11は、変形例に係るトルク検出センサの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、動力伝達装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、動力伝達装置の中心軸に直交する方向を「半径方向」、動力伝達装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0010】
<1.動力伝達装置の構成>
図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置1の縦断面図である。図2は、図1のA-A位置から見た動力伝達装置1の横断面図である。この動力伝達装置1は、モータから得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数に減速させつつ後段へ伝達する装置である。動力伝達装置1は、例えば、ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、本発明の動力伝達装置は、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0011】
図1および図2に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、インタナルギア10、フレックスギア20、波動発生器30、およびトルク検出センサ40を備えている。
【0012】
インタナルギア10は、内周面に複数の内歯11を有する円環状のギアである。インタナルギア10は、動力伝達装置1が搭載される装置の枠体に、例えばねじ止めで固定される。インタナルギア10は、中心軸9と同軸に配置される。また、インタナルギア10は、フレックスギア20の後述する筒状部21の半径方向外側に位置する。インタナルギア10の剛性は、フレックスギア20の筒状部21の剛性よりも、はるかに高い。このため、インタナルギア10は、実質的に剛体とみなすことができる。インタナルギア10は、円筒状の内周面を有する。複数の内歯11は、当該内周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各内歯11は、半径方向内側へ向けて突出する。
【0013】
フレックスギア20は、可撓性を有する円環状のギアである。フレックスギア20は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。フレックスギア20は、本発明における「円形体」の一例である。
【0014】
本実施形態のフレックスギア20は、筒状部21と平板部22とを有する。筒状部21は、中心軸9の周囲において、軸方向に筒状に延びる。筒状部21の軸方向の先端は、波動発生器30の半径方向外側、かつ、インタナルギア10の半径方向内側に位置する。筒状部21は、可撓性を有するため、半径方向に変形可能である。特に、インタナルギア10の半径方向内側に位置する筒状部21の先端部は、自由端であるため、他の部分よりも大きく半径方向に変位可能である。
【0015】
フレックスギア20は、複数の外歯23を有する。複数の外歯23は、筒状部21の軸方向の先端部付近の外周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各外歯23は、半径方向外側へ向けて突出する。上述したインタナルギア10が有する内歯11の数と、フレックスギア20が有する外歯23の数とは、僅かに相違する。
【0016】
平板部22は、ダイヤフラム部221と肉厚部222とを有する。ダイヤフラム部221は、筒状部21の軸方向の基端部から、半径方向外側へ向けて平板状に広がり、かつ、中心軸9を中心として円環状に広がる。ダイヤフラム部221は、軸方向に僅かに撓み変形可能である。肉厚部222は、ダイヤフラム部221の半径方向外側に位置する、円環状の部分である。肉厚部222の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部221の軸方向の厚みよりも厚い。肉厚部222は、動力伝達装置1が搭載される装置の、駆動対象となる部品に、例えばねじ止めで固定される。
【0017】
波動発生器30は、フレックスギア20の筒状部21に、周期的な撓み変形を発生させる機構である。波動発生器30は、カム31と可撓性軸受32とを有する。カム31は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。カム31は、軸方向に視たときに楕円形の外周面を有する。可撓性軸受32は、カム31の外周面と、フレックスギア20の筒状部21の内周面との間に介在する。したがって、カム31と筒状部21とは、異なる回転数で回転できる。
【0018】
可撓性軸受32の内輪は、カム31の外周面に接触する。可撓性軸受32の外輪は、フレックスギア20の内周面に接触する。このため、フレックスギア20の筒状部21は、カム31の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、フレックスギア20の外歯23と、インタナルギア10の内歯11とが噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯23と内歯11とが噛み合わない。
【0019】
カム31は、直接または他の動力伝達機構を介して、モータに接続される。モータを駆動させると、カム31は、中心軸9を中心として第1回転数で回転する。これにより、フレックスギア20の上述した楕円の長軸も、第1回転数で回転する。そうすると、外歯23と内歯11との噛み合い位置も、周方向に第1回転数で変化する。また、上述の通り、インタナルギア10の内歯11の数と、フレックスギア20の外歯23の数とは、僅かに相違する。この歯数の差によって、カム31の1回転ごとに、外歯23と内歯11との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、インタナルギア10に対してフレックスギア20が、中心軸9を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。したがって、フレックスギア20から、減速された第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0020】
<2.トルク検出センサの構成>
トルク検出センサ40は、フレックスギア20にかかる周方向のトルクを検出するセンサである。図1に示すように、本実施形態では、円板状のダイヤフラム部221の円形の表面に、トルク検出センサ40が固定されている。
【0021】
図3および図4は、トルク検出センサ40を軸方向に視た平面図である。図3および図4に示すように、トルク検出センサ40は、回路基板41を有する。本実施形態の回路基板41は、柔軟に変形可能なフレキシブルプリント基板(FPC)である。回路基板41は、中心軸9を中心とする円環状の本体部411と、本体部411から半径方向外側へ向けて突出したフラップ部412とを有する。
【0022】
回路基板41には、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路42と、信号処理回路43とが、実装されている。第1抵抗線パターンR1は、本体部411の表裏面のうち、ダイヤフラム部221に対向しない表面に配置されている。第2抵抗線パターンR2は、本体部411の表裏面のうち、ダイヤフラム部221に対向する裏面に配置されている。第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、軸方向に視たときに互いに重なる位置に配置され、かつ、同心円上に配置されている。信号処理回路43は、フラップ部412に配置されている。なお、図4では、第1抵抗線パターンR1の図示が省略され、第2抵抗線パターンR2が破線で示されている。
【0023】
第1抵抗線パターンR1は、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第1抵抗線パターンR1が設けられている。また、第1抵抗線パターンR1は、複数の第1抵抗線r11と、複数の第1折り返し部位r12とを含む。複数の第1抵抗線r11は、互いに略平行な姿勢で、周方向に配列される。各第1抵抗線r11は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向一方側に傾斜している。第1折り返し部位r12は、周方向に隣り合う第1抵抗線r11の端部同士を、半径方向の両側で交互に接続する。これにより、複数の第1抵抗線r11が、全体として直列に接続される。
【0024】
第2抵抗線パターンR2は、1本の導体がジグザグに曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第2抵抗線パターンR2が設けられている。また、第2抵抗線パターンR2は、複数の第2抵抗線r21と、複数の第2折り返し部位r22とを含む。複数の第2抵抗線r21は、互いに略平行な姿勢で、周方向に配列される。各第2抵抗線r21は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向他方側に傾斜している。第2折り返し部位r22は、周方向に隣り合う第2抵抗線r21の端部同士を、半径方向の両側で交互に接続する。これにより、複数の第2抵抗線r21が、全体として直列に接続される。
【0025】
図5は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路42の回路図である。図5に示すように、本実施形態のホイートストンブリッジ回路42は、第1抵抗線パターンR1、第2抵抗線パターンR2、第1固定抵抗Ra、および第2固定抵抗Rbを含む。第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、直列に接続される。第1固定抵抗Raと第2固定抵抗Rbとは、直列に接続される。そして、電源電圧の+極と-極との間において、2つ抵抗線パターンR1,R2の列と、2つの固定抵抗Ra,Rbの列とが、並列に接続される。また、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、第1固定抵抗Raおよび第2固定抵抗Rbの中点M2とが、電圧計Vに接続される。
【0026】
第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値は、フレックスギア20にかかるトルクに応じて変化する。例えば、フレックスギア20に、中心軸9を中心として、周方向の一方側へ向かうトルクがかかると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が低下し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が増加する。一方、フレックスギア20に、中心軸9を中心として、周方向の他方側へ向かうトルクがかかると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が増加し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が低下する。このように、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、トルクに対して互いに逆向きの抵抗値変化を示す。
【0027】
そして、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値が変化すると、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、第1固定抵抗Raおよび第2固定抵抗Rbの中点M2との間の電位差が変化するので、電圧計Vの計測値が変化する。したがって、この電圧計Vの計測値に基づいて、フレックスギア20にかかるトルクの向きおよび大きさを検出することができる。
【0028】
信号処理回路43は、電圧計Vにより計測される中点M1,M2の間の電位差信号(ホイートストンブリッジ回路42の出力信号)に基づいて、フレックスギア20にかかるトルクを検出するための回路である。第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路42は、信号処理回路43と電気的に接続されている。信号処理回路43には、例えば、中点M1,M2の間の電位差を増幅する増幅器や、増幅後の電気信号に基づいて、トルクの向きおよび大きさを算出するための回路が含まれる。検出されたトルクは、有線または無線により信号処理回路43に接続された外部の装置へ出力される。
【0029】
図6は、ダイヤフラム部221およびトルク検出センサ40の部分断面図である。図6に示すように、トルク検出センサ40の回路基板41は、絶縁層44と、導体層45とを有する。絶縁層44は、絶縁体である樹脂からなる。導体層45は、導体である金属からなる。導体層45の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。本実施形態の回路基板41は、絶縁層44の表面と裏面との両方に、導体層45を有する。そして、表面の導体層45が、第1抵抗線パターンR1を含み、裏面の導体層45が、第2抵抗線パターンR2を含む。
【0030】
図6に示すように、トルク検出センサ40は、両面接着テープ46により、フレックスギア20のダイヤフラム部221に固定される。具体的には、ダイヤフラム部221の表面と、回路基板41の裏面とが、両面接着テープ46を介して固定される。両面接着テープ46は、接着力を有する材料がテープ状に成形されて、形状を維持できる程度に硬化されたものである。このような両面接着テープ46を用いれば、流動性を有する接着剤を用いる場合よりも、ダイヤフラム部221に対するトルク検出センサ40の固定作業が容易となる。また、作業者による固定作業のばらつきを低減できる。
【0031】
なお、ダイヤフラム部221の変形をトルク検出センサ40へ精度よく伝達するために、両面接着テープ46は、ベースフィルムを有さず、接着材料のみで構成されていることが好ましい。
【0032】
以上のように、本実施形態の動力伝達装置1では、トルク検出センサ40により、フレックスギア20にかかるトルクを検出できる。したがって、検出したトルクを、動力伝達装置1が搭載される装置の制御や、故障検出に用いることができる。特に、本実施形態では、トルク検出センサ40が、動力伝達装置1の構成部品のうち、最も出力側の部品であるフレックスギア20に固定されている。このようにすれば、フレックスギア20に出力側からかかる外力を、トルク検出センサ40により精度よく検出することができる。したがって、例えば、外力を検出したときに装置を緊急停止させるような制御を、応答性よく行うことができる。
【0033】
特に、本実施形態のトルク検出センサ40では、フレックスギア20の周方向の一部分のみにひずみゲージを取り付けるのではなく、フレックスギア20の周方向のほぼ全周に亘って、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を設ける。これにより、フレックスギア20にかかるトルクを、より精度よく検出できる。
【0034】
また、本実施形態のトルク検出センサ40では、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とが、軸方向に視たときに互いに重なる位置に配置される。これにより、トルク検出センサ40の半径方向の寸法を抑制できる。したがって、小型の動力伝達装置1に対しても、ダイヤフラム部221の表面の限られた範囲に、トルク検出センサ40を配置できる。
【0035】
また、本実施形態のトルク検出センサ40では、ホイートストンブリッジ回路42と信号処理回路43とが、1枚の回路基板41に実装されている。このようにすれば、ホイートストンブリッジ回路42が搭載された回路基板41とは別に、信号処理回路43が搭載された回路基板を用意する必要がない。また、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を、柔軟なフレキシブルプリント基板に実装することで、フレックスギア20にかかるトルクの検出精度を、より高めることができる。
【0036】
各抵抗線パターンR1,R2の材料には、銅または銅を含む合金が用いられる。銅または銅を含む合金を用いれば、他の高価な材料を用いる場合よりも、材料費を抑えることができる。また、回路基板の配線として一般的な銅または銅を含む合金を用いることにより、通常のプリント配線基板と同様の製造工程で、トルク検出センサ40を製造できる。したがって、トルク検出センサ40の製造コストを、より抑制できる。
【0037】
<3.抵抗線パターンの傾斜角度について>
図7は、トルク検出センサ40の一部分を軸方向に視た平面図である。図7に示すように、第1抵抗線パターンR1の第1抵抗線r11は、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向一方側に一定の傾斜角度αだけ傾斜している。この場合、第2抵抗線パターンR2の第2抵抗線r21は、半径方向に対して周方向他方側に一定の傾斜角度αだけ傾斜する。傾斜角度αは、各抵抗線の中点において、半径方向に対して抵抗線が延びる角度とする。本実施形態のトルク検出センサ40では、この傾斜角度αが、45°よりも大きく、かつ、90°よりも小さい一定角度とされている。
【0038】
動力伝達装置1の動作時には、カム31の回転により、フレックスギア20の筒状部21が、楕円状に変形する。この変形に伴い、ダイヤフラム部221に、半径方向の歪みεrrと、周方向の歪みεθθとが発生する。半径方向の歪みεrrは、周方向の歪みεθθよりも大きい。これらの歪みεrr,εθθは、フレックスギア20にトルクがかかっていない場合でも、フレックスギア20が楕円変形している限り発生する。すなわち、ダイヤフラム部221には、本来計測したいトルクによる歪みとは別に、フレックスギア20の楕円変形による半径方向および周方向の歪みεrr,εθθが発生する。したがって、トルク検出センサ40の検出値は、本来計測したいトルクを反映した成分と、これらの歪みεrr,εθθに起因する誤差成分とを、含むこととなる。
【0039】
図8は、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αと、上述した歪みεrr,εθθに起因する誤差成分との関係を示したグラフである。図8の横軸は、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αを示している。図8の縦軸は、トルク検出センサ40の検出値の誤差成分を、本来計測したいトルクの検出感度で正規化した値の絶対値を示している。すなわち、図8のグラフは、本来計測したいトルクの検出感度をS、トルク検出センサ40の検出値の誤差成分をεとして、|ε/S|の値の変化を示したものである。
【0040】
なお、上述したトルクの検出感度Sは、入力信号(負荷トルクに起因する歪)に対する出力信号の比である。トルクの検出感度Sは、α=45°のときに最も大きくなり、S=sin2αで表すことができる。また、トルク検出センサ40の検出値の誤差成分εは、ε=1/2{εrr+εθθ+(εrr-εθθ)cos2α}で表すことができる。したがって、図8のグラフは、|ε/S|=1/2S{|εrr|+|εθθ|+(|εrr|-|εθθ|)cos2α}=1/2sin2α{|εrr|+|εθθ|+(|εrr|-|εθθ|)cos2α}のグラフとなる。
【0041】
図8中のプロットP1は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=1の場合の|ε/S|の変化を示している。図8中のプロットP2は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=2の場合の|ε/S|の変化を示している。図8中のプロットP3は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=3の場合の|ε/S|の変化を示している。図8中のプロットP4は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=4の場合の|ε/S|の変化を示している。
【0042】
図8の結果によると、プロットP1では、|ε/S|の値が最も小さくなるのは、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αが45°のときである。これに対し、プロットP2,P3,P4では、|ε/S|の値が最も小さくなるのは、傾斜角度αが45°のときではなく、45°よりも大きく90°よりも小さい角度のときである。具体的には、プロットP2では、α=54.7°のときに|ε/S|の値が最小となり、プロットP3では、α=60°のときに|ε/S|の値が最小となり、プロットP4では、α=63.4°のときに|ε/S|の値が最小となった。
【0043】
図9は、上記の歪みεrr,εθθの比率εrr/εθθをより細かく変化させて、|ε/S|の値が最小となる傾斜角度αを調べた結果を示したグラフである。図9の横軸は、歪みεrr,εθθの比率εrr/εθθを示している。図9の縦軸は、|ε/S|の値が最小となる傾斜角度αを示している。図9のように、半径方向の歪みεrrが周方向の歪みεθθよりも大きい場合(εrr/εθθ>1の場合)には、誤差成分が最小となる傾斜角度αは、45°よりも大きく、かつ、90°よりも小さい角度となる。特に、フレックスギア20では、上記の比率εrr/εθθは、通常1.5~7.5の範囲となる。このため、図9のグラフより、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αは、50°以上かつ70°以下とすることが望ましいと言える。また、フレックスギア20では、上記の比率εrr/εθθが、2.0~3.5の範囲となる場合が多い。このため、図9のグラフより、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αは、54°以上かつ62°以下とすることが、より望ましいと言える。
【0044】
このように、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αを、45°よりも大きく、かつ、90°よりも小さい一定角度とすれば、トルク検出センサ40の検出値のうち、フレックスギア20の周期的な楕円変形に起因する誤差成分を抑えることができる。したがって、トルク検出センサ40により、フレックスギア20にかかるトルクを、より精度よく検出できる。
【0045】
また、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αを45°よりも大きく、かつ、90°よりも小さい一定角度とすることにより、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の半径方向の寸法を抑えることができる。これにより、トルク検出センサ40を、半径方向により小型化できる。
【0046】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0047】
<4-1.εrr<εθθの場合>
上記の実施形態では、ダイヤフラム部221の半径方向の歪みεrrが、周方向の歪みεθθよりも大きい場合について、説明した。これに対し、ダイヤフラム部221の半径方向の歪みεrrが、周方向の歪みεθθよりも小さい場合について、以下に説明する。
【0048】
図10は、εrr<εθθの場合の、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αと、上述した歪みεrr,εθθに起因する誤差成分との関係を示したグラフである。図10中のプロットP1は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=1の場合の|ε/S|の変化を示している。図10中のプロットP5は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=1/2の場合の|ε/S|の変化を示している。図10中のプロットP6は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=1/3の場合の|ε/S|の変化を示している。図10中のプロットP7は、上記の歪みεrr,εθθの比率が、εrr/εθθ=1/4の場合の|ε/S|の変化を示している。
【0049】
図10の結果によると、プロットP5,P6,P7では、|ε/S|の値が最も小さくなるのは、傾斜角度αが45°のときではなく、45°よりも小さく0°よりも大きい角度のときである。このように、半径方向の歪みεrrが周方向の歪みεθθよりも小さい場合(εrr/εθθ<1の場合)には、第1抵抗線r11および第2抵抗線r21の傾斜角度αを、45°よりも小さく、かつ、0°よりも大きい角度とすることで、トルク検出センサ40の検出値のうち、フレックスギア20の周期的な楕円変形に起因する誤差成分を抑えることができる。したがって、トルク検出センサ40により、フレックスギア20にかかるトルクを、より精度よく検出できる。
【0050】
<4-2.導体層が1層のみの場合>
図11は、変形例に係るトルク検出センサ40を軸方向に視た平面図である。図11の例では、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とが、いずれも、ダイヤフラム部221に対向しない回路基板41の表面に配置されている。そして、第2抵抗線パターンR2は、第1抵抗線パターンR1の半径方向内側、かつ、第1抵抗線パターンR1と同心円上に配置されている。このように、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を、回路基板41の同一の面に配置すれば、回路基板41の両面に導体層45を形成する必要がない。したがって、トルク検出センサ40を、軸方向により薄型化できる。
【0051】
<4-3.他の変形例>
また、上記の実施形態および変形例のトルク検出センサ40は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を、それぞれ1つずつ備えていた。しかしながら、トルク検出センサ40は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2のいずれか一方または両方を、2つ以上備えていてもよい。すなわち、回路基板41の導体層45は、第1抵抗線パターンR1と、第2抵抗線パターンR2とを、少なくともそれぞれ1つ含んでいればよい。また、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の一部が、ホイートストンブリッジ回路42とは別の回路に組み込まれていてもよい。
【0052】
また、回路基板41の導体層45は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2以外の抵抗線パターンを含んでいてもよい。例えば、導体層45に、温度を計測するための抵抗線パターンや、ダイヤフラム部221の軸方向の歪みを検出するための抵抗線パターンが、含まれていてもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、ホイートストンブリッジ回路42および信号処理回路43の両方が、回路基板41に実装されていた。しかしながら、信号処理回路43は、回路基板41の外部に設けられていてもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、各抵抗線パターンの材料に、銅または銅を含む合金が使用されていた。しかしながら、抵抗線パターンの材料に、SUS、アルミニウム等の他の金属を用いてもよい。また、抵抗線パターンの材料に、セラミックスや樹脂などの非金属材を用いてもよい。また、抵抗線パターンの材料に、導電性インクを用いてもよい。導電性インクを用いる場合には、回路基板41の表面に、導電性インクで各抵抗線パターンをプリントすればよい。
【0055】
また、上記の実施形態のフレックスギア20では、ダイヤフラム部221が、筒状部21の基端部から半径方向外側へ向けて広がっていた。しかしながら、ダイヤフラム部221は、筒状部21の基端部から半径方向内側へ向けて広がるものであってもよい。
【0056】
また、上記の実施形態では、トルク検出の対象物が、フレックスギア20であった。しかしながら、上記実施形態と同等の構造を有するトルク検出センサ40を、フレックスギア20以外の円形体にかかるトルクを検出するために、用いてもよい。ただし、計測対象となる円形体は、半径方向の歪みと、半径方向の歪みよりも小さい周方向の歪みとを伴いながら、周期的な変形をするものであることが望ましい。
【0057】
その他、トルク検出センサおよび動力伝達装置の細部の構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の各実施形態および各変形例に登場した要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願は、トルク検出センサおよび動力伝達装置に利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 動力伝達装置
9 中心軸
10 インタナルギア
20 フレックスギア
30 波動発生器
40 トルク検出センサ
41 回路基板
42 ホイートストンブリッジ回路
43 信号処理回路
44 絶縁層
45 導体層
46 両面接着テープ
221 ダイヤフラム部
411 本体部
412 フラップ部
R1 第1抵抗線パターン
R2 第2抵抗線パターン
Ra 第1固定抵抗
Rb 第2固定抵抗
εrr 半径方向の歪み
εθθ 周方向の歪み
V 電圧計
r11 第1抵抗線
r12 第1折り返し部位
r21 第2抵抗線
r22 第2折り返し部位
α 傾斜角度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11