(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230922BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230922BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230922BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230922BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230922BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/133
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M10/0568
H01M10/0569
(21)【出願番号】P 2020502915
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019004941
(87)【国際公開番号】W WO2019167611
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018033754
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】出口 正樹
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025621(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143543(WO,A1)
【文献】特表2015-537352(JP,A)
【文献】特開2014-192143(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/133
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/0568
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、を備え、
前記負極は、電気化学的にリチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質と、結着剤と、を含み、
前記負極活物質は、Si含有材料
および炭素材料を含み、
前記Si含有材料と前記炭素材料との合計に占める前記炭素材料の割合は、70質量%以上98質量%以下であり、
前記Si含有材料は、リチウムシリケート相および前記リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子を含有する複合材料を含み、
前記リチウムシリケート相の組成式は、Li
2uSiO
2+u(0<u≦2)であり、
前記結着剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のセルロース化合物を含み、
前記電解液は、非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含み、
前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LFSIを含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記カルボキシアルキルセルロースは、カルボキシメチルセルロースである、請求項
1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記セルロース化合物は、前記カルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩であって、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシル基のうち、水素原子がナトリウム原子で置換される割合は、30%以上である、請求項1
または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極中の前記セルロース化合物は、カルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩であって、その含有量は、前記負極活物質100質量部あたり0.4質量部以上1.5質量部以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記非水溶媒に溶解したリチウム塩は、さらに、LiPF
6を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記電解液中の前記LFSIおよび前記LiPF
6の合計濃度が1mol/L以上2mol/L以下である、請求項
5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記LFSIと前記LiPF
6との合計に占める前記LFSIの割合は、7mol%以上79mol%以下である、請求項
5または
6に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記LFSIと前記LiPF
6との合計に占める前記LFSIの割合は、15mol%上50mol%以下である、請求項
5または
6に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記電解液中の前記LFSIの濃度が、0.1mol/L以上1.1mol/L以下であり、
前記電解液中の前記LiPF
6の濃度が、0.3mol/L以上1.3mol/L以下である、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項10】
前記非水溶媒が、鎖状カルボン酸エステルを含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項11】
正極と、負極と、電解液と、を備え、
前記負極は、電気化学的にリチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質と、結着剤と、を含み、
前記負極活物質は、Si含有材料
および炭素材料を含み、
前記Si含有材料と前記炭素材料との合計に占める前記炭素材料の割合は、70質量%以上98質量%以下であり、
前記結着剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のセルロース化合物を含み、
前記セルロース化合物は、前記カルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩を含み、
前記負極中の前記セルロース化合物の含有量は、前記負極活物質100質量部あたり0.4質量部以上1.5質量部以下であり、
前記電解液は、非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含み、
前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LFSIを含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の高容量化を図るため、負極活物質にSi含有材料を用いることが検討されている。しかし、Si含有材料は、充放電時の膨張収縮が非常に大きい。このため、充放電の繰り返しに伴い、負極活物質粒子同士の間および負極活物質粒子と負極集電体との間の接触抵抗が増大する。また、負極活物質の粒子表面の被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)が破壊されたり、負極活物質の粒子割れが生じたりする。その結果、サイクル特性が低下する。
【0003】
上記のサイクル特性の低下を抑制する方法としては、例えば、負極にカルボキシメチルセルロース(CMC)を含ませる方法が挙げられる(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
CMCを含む負極に電解液を含ませると、CMCが膨潤することがある。CMCが膨潤すると、負極活物質粒子同士の間や負極活物質粒子と負極集電体との間でのCMCの結着力が低下する。Si含有材料は、充放電時の膨張収縮が大きいため、CMCの膨張に伴う結着力の低下により、内部抵抗が増大し易く、サイクル特性も低下し易い。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極と、負極と、電解液と、を備え、前記負極は、電気化学的にリチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質と、結着剤と、を含み、前記負極活物質は、Si含有材料を含み、前記結着剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のセルロース化合物を含み、前記電解液は、非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含み、前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LFSIを含む、非水電解質二次電池に関する。
【0007】
本発明によれば、高容量を有するとともに、内部抵抗が小さく、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解液と、を備える。負極は、電気化学的にリチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質と、結着剤と、を含む。負極活物質は、Si含有材料を含む。結着剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のセルロース化合物を含む。電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩(溶質)と、を含み、リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiN(SO2F)2(以下、LFSIとも称する。)を含む。
【0010】
負極活物質がSi含有材料を含むことにより高容量が得られるが、Si含有材料は充放電時の膨張収縮が大きいため、内部抵抗が増大し易く、サイクル特性も低下し易くなる。これに対し、結着剤にセルロース化合物を用い、電解液にLFSIを含ませることにより、内部抵抗の増大およびサイクル特性の低下が大幅に抑制される。これは、セルロース化合物を含む負極にLFSIを含む電解液を含ませる場合、セルロース化合物の膨潤が抑制され、セルロース化合物の高度な結着力が維持されるとともに、負極活物質粒子同士の間や負極活物質粒子と負極集電体との間での接触抵抗の増大が抑制されるためである。
【0011】
セルロース化合物の膨潤が抑制される場合、セルロース化合物の膨潤による結着力の低下を考慮してセルロース化合物量を増やす必要がない。よって、少量(例えば負極活物質100質量部あたり1.5質量部以下)のセルロース化合物でも、結着力を確保することができる。よって、負極に含ませる負極活物質量を十分に確保することができ、高容量化できる。また、セルロース化合物量を増やした場合における負極スラリーの粘度の増大も回避できる。
【0012】
セルロース化合物の膨潤度合いに影響を及ぼす因子としては、例えば、セルロース化合物を含む負極に電解液を含ませる際の、電解液のイオン濃度およびセルロース化合物のイオン濃度が、挙げられる。例えば、電解液のイオン濃度がセルロース化合物のイオン濃度よりも小さい場合、セルロース化合物中のイオン濃度を小さくしようとセルロース化合物の外部から内部へ溶媒が浸透する傾向が大きくなり、セルロース化合物が膨潤し易くなる。LFSIは解離度が大きく、電解液のLiイオン濃度が高くなり易いことが、セルロース化合物の膨潤抑制の要因の一つであると考えられる。
【0013】
結着剤は、カルボキシアルキルセルロースおよびその塩よりなる群から選択される少なくとも1種のセルロース化合物を含む。セルロース化合物は増粘剤を兼ねてもよい。カルボキシアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、例えば、1~4である。中でも、カルボキシアルキルセルロースは、カルボキシメチルセルロースであることが好ましい。カルボキシメチルセルロースおよびその塩は、適度な粘性を有するため、負極活物質粒子の表面を適度に覆い易く、上記の接触抵抗の増大抑制効果が顕著に得られる。また、負極スラリーを調製し易い。
【0014】
負極スラリーを調製し易く、電池特性の改善に有利であることから、カルボキシアルキルセルロースの塩が好ましい。カルボキシアルキルセルロースの塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが例示できる。中でも、カルボキシアルキルセルロースのナトリウム塩が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩がより好ましい。
【0015】
負極スラリーを調製し易く、電池特性の改善に有利であることから、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシル基のうち、カルボキシル基の水素原子がアルカリ金属原子などで置換される割合(中和度)は、30%以上であることが好ましい。
【0016】
セルロース化合物の重量平均分子量は、100,000以上1,000,000以下であることが好ましい。セルロース化合物の重量平均分子量が上記範囲内である場合、セルロース化合物によるサイクル特性の向上効果および内部抵抗の低減効果が十分に得られるとともに、負極スラリーのゲル化(粘度上昇)が抑制され、負極を作製し易い。
【0017】
負極中のセルロース化合物の含有量は、負極活物質100質量部あたり1.5質量部以下であることが好ましい。負極中のセルロース化合物の含有量が、負極活物質100質量部あたり1.5質量部以下である場合、負極活物質量が十分に確保されるため、更なる高容量化が可能である。この場合、負極の柔軟性が十分に確保され、サイクル特性が更に高められる。負極スラリーの粘度を低くすることができ、負極スラリーを調製し易い。
【0018】
負極中のセルロース化合物の含有量は、負極活物質100質量部あたり0.4質量部以上2.0質量部以下であることがより好ましい。負極中のセルロース化合物の含有量が、負極活物質100質量部あたり0.4質量部以上である場合、セルロース化合物によるサイクル特性の向上効果および内部抵抗の低減効果が十分に得られる。更に好ましくは、負極中のセルロース化合物の含有量は、負極活物質100質量部あたり0.5質量部以上1.5質量部以下である。
【0019】
電解液は、非水溶媒に溶解するリチウム塩として、LFSIに加え、更にLiPF6を含んでもよい。LiPF6は、外装缶等の電池を構成する部材の表面に不働態膜を形成し易い。不働態膜は上記部材を保護する役割を有する。このとき、LFSIとLiPF6との合計に占めるLFSIの割合は、好ましくは7mol%以上79mol%以下であり、より好ましくは15mol%以上50mol%以下である。
【0020】
リチウム塩は、LFSIおよびLiPF6に加え、更に別のリチウム塩を含み得るが、リチウム塩に占めるLFSIとLiPF6との合計量の割合は、80mol%以上が好ましく、90mol%以上がより好ましい。リチウム塩に占めるLFSIとLiPF6との合計量の割合を上記範囲に制御することで、サイクル特性に優れた電池を得やすくなる。
【0021】
電解液中のLFSIおよびLiPF6の合計濃度は1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましい。電解液中のLFSIの濃度が0.1mol/L以上1.1mol/L以下であり、電解液中のLiPF6の濃度が0.3mol/L以上1.3mol/L以下であることが好ましい。
【0022】
負極活物質は、負極の高容量化の観点から、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出するSi含有材料(後述する負極材料LSXなど)を含む。ただし、Si含有材料は、充放電に伴って体積が膨張収縮するため、負極活物質に占めるその比率が大きくなると、充放電に伴って負極活物質と負極集電体との接触不良が生じやすい。よって、負極活物質は、さらに、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出する炭素材料を含むことが好ましい。Si含有材料と炭素材料とを併用することで、Si含有材料の高容量を負極に付与しながらサイクル特性を高めることができる。高容量化およびサイクル特性向上の観点から、Si含有材料と炭素材料との合計に占める炭素材料の割合は、好ましくは98質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上98質量%であり、さらに好ましくは75質量%以上95質量%以下である。
【0023】
負極活物質に用いられる炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)などが例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池について詳述する。非水電解質二次電池は、例えば、以下のような負極と、正極と、電解液とを備える。
【0025】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体の表面に形成され、かつ負極活物質を含む負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0026】
負極合剤は、負極活物質および結着剤を必須成分として含み、任意成分として、導電剤、増粘剤などを含むことができる。負極活物質は、少なくとも上記のSi含有材料を含み、さらに上記の炭素材料を含むことが好ましい。
【0027】
Si含有材料としては、シリコン酸化物(SiOx:0.5≦x≦1.5)、リチウムシリケート相およびリチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子を含有する複合材料(以下、「負極材料LSX」、あるいは、単に「LSX」とも称する。)などが挙げられる。負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量が高いほど負極容量が大きくなる。
【0028】
リチウムシリケート相は、好ましくは、組成式がLiySiOzで表わされ、0≦y≦8かつ0.2≦z≦6を満たす。組成式がLi2uSiO2+u(0<u≦2)で表されるものがより好ましい。
【0029】
リチウムシリケート相は、SiO2と微小シリコンとの複合物であるSiOxに比べ、リチウムと反応し得るサイトが少なく、充放電に伴う不可逆容量を生じにくい。リチウムシリケート相内にシリコン粒子を分散させる場合、充放電の初期に、優れた充放電効率が得られる。また、シリコン粒子の含有量を任意に変化させることができるため、高容量負極を設計することができる。
【0030】
リチウムシリケート相内に分散しているシリコン粒子の結晶子サイズは、例えば10nm以上である。シリコン粒子は、ケイ素(Si)単体の粒子状の相を有する。シリコン粒子の結晶子サイズを10nm以上とする場合、シリコン粒子の表面積を小さく抑えることができるため、不可逆容量の生成を伴うシリコン粒子の劣化を生じにくい。シリコン粒子の結晶子サイズは、シリコン粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0031】
負極材料LSXは、構造安定性にも優れている。シリコン粒子は、リチウムシリケート相内に分散しているため、充放電に伴う負極材料LSXの膨張収縮が抑制されるためである。シリコン粒子自身の亀裂を抑制する観点から、シリコン粒子の平均粒径は、初回充電前において、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましい。初回充電後においては、シリコン粒子の平均粒径は、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。シリコン粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなり、負極材料LSXの構造安定性が更に向上する。
【0032】
シリコン粒子の平均粒径は、負極材料LSXの断面SEM(走査型電子顕微鏡)写真を観察することにより測定される。具体的には、シリコン粒子の平均粒径は、任意の100個のシリコン粒子の最大径を平均して求められる。シリコン粒子は、複数の結晶子が寄り集まることにより形成されている。
【0033】
負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量は、高容量化の観点からは、例えば30質量%以上であればよく、35質量%以上が好ましい。この場合、リチウムイオンの拡散性が良好であり、優れた負荷特性を得やすくなる。一方、サイクル特性の向上の観点からは、負極材料LSX中のシリコン粒子の含有量が95質量%以下であることが好ましく、75質量%以下がより好ましい。リチウムシリケート相で覆われずに露出するシリコン粒子の表面が減少し、電解液とシリコン粒子との反応が抑制されやすいからである。
【0034】
シリコン粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
【0035】
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA‐400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
リチウムシリケート相LiySiOzの組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
【0036】
まず、負極材料LSXの試料の質量を測定する。その後、以下のように、試料に含まれる炭素、リチウムおよび酸素の含有量を算出する。次に、試料の質量から炭素含有量を差し引き、残量に占めるリチウムおよび酸素含有量を算出し、リチウム(Li)と酸素(O)のモル比からyとzの比が求まる。
【0037】
炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEMIA-520型)を用いて測定する。磁性ボードに試料を測り取り、助燃剤を加え、1350℃に加熱された燃焼炉(キャリアガス:酸素)に挿入し、燃焼時に発生した二酸化炭素ガス量を赤外線吸収により検出する。検量線は、例えば、Bureau of Analysed Samples.Ltd製の炭素鋼(炭素含有量0.49%)を用いて作成し、試料の炭素含有量を算出する(高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法)。
【0038】
酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製のEGMA-830型)を用いて測定する。Niカプセルに試料を入れ、フラックスとなるSnペレットおよびNiペレットとともに、電力5.75kWで加熱された炭素坩堝に投入し、放出される一酸化炭素ガスを検出する。検量線は、標準試料Y2O3を用いて作成し、試料の酸素含有量を算出する(不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法)。
【0039】
リチウム含有量は、熱フッ硝酸(熱したフッ化水素酸と硝酸の混酸)で試料を全溶解し、溶解残渣の炭素をろ過して除去後、得られたろ液を誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)で分析して測定する。市販されているリチウムの標準溶液を用いて検量線を作成し、試料のリチウム含有量を算出する。
【0040】
負極材料LSXの試料の質量から、炭素含有量、酸素含有量、リチウム含有量を差し引いた量がシリコン含有量である。このシリコン含有量には、シリコン粒子の形で存在するシリコンと、リチウムシリケートの形で存在するシリコンとの双方の寄与が含まれている。Si-NMR測定によりシリコン粒子の含有量が求められ、負極材料LSX中にリチウムシリケートの形で存在するシリコンの含有量が求まる。
【0041】
負極材料LSXは、平均粒径1~25μm、更には4~15μmの粒子状材料(以下、LSX粒子とも称する。)を形成していることが好ましい。上記粒径範囲では、充放電に伴う負極材料LSXの体積変化による応力を緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。LSX粒子の表面積も適度になり、非水電解質との副反応による容量低下も抑制される。
【0042】
LSX粒子の平均粒径とは、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0043】
LSX粒子は、その表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を具備することが好ましい。リチウムシリケート相は、電子伝導性に乏しいため、LSX粒子の導電性も低くなりがちである。導電性材料で表面を被覆することで、導電性を飛躍的に高めることができる。導電層は、実質上、LSX粒子の平均粒径に影響しない程度に薄いことが好ましい。
【0044】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔など)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシートなど)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などが例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、負極の強度と軽量化とのバランスの観点から、1~50μmが好ましく、5~20μmがより望ましい。
【0045】
結着剤は、少なくとも上記セルロース化合物を含む。結着剤としては、上記セルロース化合物以外に、さらに、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などを用いてもよい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックやカーボンナノチューブなどのカーボン類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
増粘剤としては、例えば、上記セルロース化合物以外のメチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど);ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキサイドなど)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。
【0049】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0050】
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物を用いることができる。例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-bO2、LiaCobM1-bOc、LiaNi1-bMbOc、LiaMn2O4、LiaMn2-bMbO4、LiMPO4、Li2MPO4F(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも一種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0051】
中でも、LiaNibM1-bO2(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。さらに、結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むLiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)がさらに好ましい。
【0052】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を用いてもよい。
【0053】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0054】
[電解液]
電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩と、を含み、リチウム塩は、LFSIを含む。
【0055】
電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/リットル以上2mol/リットル以下が好ましい。リチウム塩濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。ただし、リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0056】
LFSI以外のリチウム塩としては、公知のリチウム塩を用いることができる。好ましいリチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類などが挙げられる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウムなどが挙げられる。イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)(C4F9SO2))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(C2F5SO2)2)などが挙げられる。これらの中でも、LiPF6がより好ましい。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル(後述の不飽和環状炭酸エステルを除く。)、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステルなどが用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどが挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
非水溶媒は、鎖状カルボン酸エステルを含むことが好ましい。この場合、電解液中のリチウム塩(LFSIなど)が解離し易く、セルロース化合物の膨潤抑制に有利である。非水溶媒に占める鎖状カルボン酸エステルの割合は、4体積%以上90体積%以下であることが好ましい。
【0059】
電解液に、さらに、添加剤として、分子内に炭素-炭素の不飽和結合を少なくとも1つ有する環状炭酸エステル(以下、不飽和環状炭酸エステルと称する。)を含ませてもよい。不飽和環状炭酸エステルが負極上で分解することにより負極表面にリチウムイオン伝導性の高い皮膜が形成され、充放電効率が高められる。
【0060】
不飽和環状炭酸エステルとしては、公知の化合物を用いることができる。好ましい不飽和環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート、4-メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、4-エチルビニレンカーボネート、4,5-ジエチルビニレンカーボネート、4-プロピルビニレンカーボネート、4,5-ジプロピルビニレンカーボネート、4-フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの中でも、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、およびジビニルエチレンカーボネートよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。不飽和環状炭酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不飽和環状炭酸エステルは、水素原子の一部がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0061】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0062】
非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極群の代わりに、正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群など、他の形態の電極群が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0063】
図1は、本発明の一実施形態に係る角形の非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0064】
電池は、有底角形の電池ケース6と、電池ケース6内に収容された電極群9および電解液(図示せず)とを備えている。電極群9は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群9は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0065】
負極の負極集電体には、負極リード14の一端が溶接などにより取り付けられている。正極の正極集電体には、正極リード11の一端が溶接などにより取り付けられている。負極リード14の他端は、封口板5に設けられた負極端子13に電気的に接続される。正極リード11の他端は、正極端子を兼ねる電池ケース6に電気的に接続される。電極群9の上部には、電極群9と封口板5とを隔離するとともに負極リード14と電池ケース6とを隔離する樹脂製の枠体4が配置されている。そして、電池ケース6の開口部は、封口板5で封口される。
【0066】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
[負極材料LSXの調製]
二酸化ケイ素と炭酸リチウムとを原子比:Si/Liが1.05となるように混合し、混合物を950℃空気中で10時間焼成することにより、式:Li2Si2O5(u=0.5)で表わされるリチウムシリケートを得た。得られたリチウムシリケートは平均粒径10μmになるように粉砕した。
【0068】
平均粒径10μmのリチウムシリケート(Li2Si2O5)と、原料シリコン(3N、平均粒径10μm)とを、45:55の質量比で混合した。混合物を遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-5)のポット(SUS製、容積:500mL)に充填し、ポットにSUS製ボール(直径20mm)を24個入れて蓋を閉め、不活性雰囲気中で、200rpmで混合物を50時間粉砕処理した。
【0069】
次に、不活性雰囲気中で粉末状の混合物を取り出し、不活性雰囲気中、ホットプレス機による圧力を印加した状態で、800℃で4時間焼成して、混合物の燒結体(負極材料LSX)を得た。
【0070】
その後、負極材料LSXを粉砕し、40μmのメッシュに通した後、得られたLSX粒子を石炭ピッチ(JFEケミカル株式会社製、MCP250)と混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、LSX粒子の表面を導電性炭素で被覆して導電層を形成した。導電層の被覆量は、LSX粒子と導電層との総質量に対して5質量%とした。その後、篩を用いて、導電層を有する平均粒径5μmのLSX粒子を得た。
【0071】
LSX粒子のXRD分析によりSi(111)面に帰属される回折ピークからシェラーの式で算出したシリコン粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0072】
リチウムシリケート相の組成を上記方法(高周波誘導加熱炉燃焼-赤外線吸収法、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES))により分析したところ、Si/Li比は1.0であり、Si-NMRにより測定されるLi2Si2O5の含有量は45質量%(シリコン粒子の含有量は55質量%)であった。
【0073】
[負極の作製]
導電層を有するLSX粒子と黒鉛とを混合し、負極活物質として用いた。導電層を有するLSX粒子と黒鉛との合計に占める黒鉛の割合を94質量%とした。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC-Na)と、ポリアクリル酸(PAA)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)と、を混合し、水を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。
【0074】
CMC-Naには、中和度70%、重量平均分子量250,000であるものを用いた。CMC-Naの添加量は、負極活物質100質量部あたり1質量部とした。PAAの添加量は、負極活物質100質量部あたり1質量部とした。SBRの添加量は、負極活物質100質量部あたり1質量部とした。
【0075】
次に、銅箔の表面に1m2当りの負極合剤の質量が190gとなるように負極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cm3の負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0076】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02O2)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0077】
[電解液の調製]
非水溶媒にリチウム塩を溶解させて電解液を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、酢酸メチル(MA)とを、20:40:40の体積比で含む混合溶媒を用いた。リチウム塩には、LFSIおよびLiPF6を用いた。電解液中のLFSIの濃度と、電解液中のLiPF6の濃度とを、それぞれ、表1に示す値とした。
【0078】
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、電池A1を得た。
【0079】
<実施例2~9>
負極の作製において、導電層を有するLSX粒子と黒鉛との合計に占める黒鉛の割合を表1に示す値とし、負極活物質100質量部あたりのCMC-Naの添加量を表1に示す値とした。電解液の調製において、電解液中のLFSIの濃度と、電解液中のLiPF6の濃度とを、それぞれ、表1に示す値とした。上記以外、実施例1と同様にして電池A2~A9を作製した。
【0080】
<比較例1>
負極の作製において、導電層を有するLSX粒子と黒鉛との合計に占める黒鉛の割合を91質量%とし、CMC-Naを用いなかった。電解液の調製において、リチウム塩にLiPF6のみを用い、電解液中のLiPF6の濃度を1.2mol/Lとした。上記以外、実施例1と同様にして電池B1を作製した。
【0081】
<比較例2>
電解液の調製において、リチウム塩にLiPF6のみを用い、電解液中のLiPF6の濃度を1.2mol/Lとしたこと以外、実施例1と同様にして電池B2を作製した。
【0082】
<比較例3>
負極の作製においてCMC-Naを用いないこと以外、実施例1と同様にして電池B3を作製した。
【0083】
<比較例4>
負極の作製において、負極活物質に黒鉛のみを用い、CMC-Naの添加量を負極活物質100質量部あたり0.5質量部とした。電解液の調製において、リチウム塩にLiPF6のみを用い、電解液中のLiPF6の濃度を1.0mol/Lとした。上記以外、実施例1と同様にして電池B4を作製した。
【0084】
上記で作製した各電池について、以下の方法で評価を行った。
【0085】
[評価1:初期容量]
0.3It(990mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.015It(50mA)になるまで定電圧充電した。その後、0.3It(990mA)の電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。充電と放電との間の休止期間は10分とした。充放電は25℃の環境下で行った。このときの放電容量D1を、初期容量として求めた。
【0086】
[評価2:内部抵抗(DC-IR)]
上記の評価1と同じ条件で充電および放電を行い、さらに、上記の評価1と同じ条件で充電を行った。充電完了後60分間休止し、0.3It(990mA)の電流で10秒間定電流放電を行った。放電開始前の電圧と放電開始から10秒経過後の電圧との差を0.3Itの電流値で除した値を、初期の内部抵抗(DC-IR)とした。
【0087】
[評価3:サイクル容量維持率]
0.3It(990mA)の電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.015It(50mA)になるまで定電圧充電した。その後、0.3It(990mA)の電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。充電と放電との間の休止期間は10分とした。充放電は25℃の環境下で行った。
【0088】
上記充放電条件で充放電を繰り返した。1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の割合を、サイクル容量維持率として求めた。
【0089】
評価結果を表1に示す。なお、表1中のCMC-Na量は、負極活物質100質量部あたりの量(質量部)である。黒鉛量は、導電層を有するLSX粒子(Si含有材料)と黒鉛との合計に占める黒鉛の割合(質量%)である。C1+C2は、電解液中のLFSIおよびLiPF6の合計濃度(mol/L)である。C1/(C1+C2)×100は、LFSIとLiPF6との合計に占めるLFSIの割合(mol%)である。
【0090】
【0091】
実施例1~9の電池A1~A9は、高い初期容量、小さい内部抵抗、および高いサイクル容量維持率を示した。
【0092】
特に、実施例1~5の電池A1~A5では、さらに、高い初期容量、小さい内部抵抗、および高いサイクル容量維持率が得られた。実施例1~5では、黒鉛量が98質量%以下であり、CMC-Na量が1.5質量部以下である。電解液中のLFSIおよびLiPF6の合計濃度が1mol/L以上2mol/L以下であり、LFSIとLiPF6との合計に占めるLFSIの割合は、7mol%以上79mol%以下である。電解液中のLFSIの濃度が、0.1mol/L以上1.1mol/L以下であり、電解液中のLiPF6の濃度が、0.3mol/L以上1.3mol/L以下である。
【0093】
比較例1の電池B1では、CMC-NaおよびLFSIを用いないため、内部抵抗が上昇し、初期容量が低下し、サイクル容量維持率が低下した。比較例2の電池B2では、LFSIを用いないため、内部抵抗が上昇し、初期容量が低下し、サイクル容量維持率が低下した。比較例3の電池B3では、CMC-Naを用いないため、内部抵抗が上昇し、初期容量が低下し、サイクル容量維持率が低下した。比較例4の電池B4では、LFSIを用いないため、内部抵抗が上昇し、サイクル容量維持率が低下し、LFSIおよびSi含有材料を用いないため、初期容量が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器などの主電源に有用である。
【符号の説明】
【0095】
4:枠体
5:封口板
6:電池ケース
9:電極群
11:正極リード
13:負極端子
14:負極リード