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特許7352929固体培養時の糖質分解酵素生産能が高いアスペルギルス属菌株の作出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】固体培養時の糖質分解酵素生産能が高いアスペルギルス属菌株の作出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20230922BHJP
   C12H 6/02 20190101ALI20230922BHJP
   C12G 3/022 20190101ALI20230922BHJP
   C12G 1/00 20190101ALI20230922BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C12N1/14 A ZNA
C12H6/02
C12G3/022 119F
C12G1/00
C12N15/56
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019057806
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020156361
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成30年10月22日 第18回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集、第88頁、糸状菌分子生物学研究会 〔刊行物等〕 発表日 平成30年11月15日、16日 第18回糸状菌分子生物学コンファレンス アオーレ長岡(新潟県長岡市大手通1丁目4番地10)
(73)【特許権者】
【識別番号】301025634
【氏名又は名称】独立行政法人酒類総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨本 和也
(72)【発明者】
【氏名】向井 伸彦
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-295871(JP,A)
【文献】特開2018-074943(JP,A)
【文献】Eukaryot Cell, 2010 May 7, vol. 9, no. 7, pp. 1120-1135 (Suppl, pp. 1-7)
【文献】Applied Microbiology and Biotechnology, 1993, vol. 40, pp. 206-210
【文献】日本醸造協会誌, 2017 Aug, vol. 112, no. 8, pp. 530-533
【文献】Zentralbl Mikrobiol, 1987, vol. 142, no. 5, pp. 407-412
【文献】World Journal of Microbiology and Biotechnology, 2001, vol. 17, pp. 747-750
【文献】日本醸造協会誌, 2015, vol. 110, no. 2, pp. 64-67
【文献】Biosci Biotechnol Biochem, 2020 Jan 02, vol. 84, no. 1, pp. 198-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12G 1/00- 3/12
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麹菌親株を変異処理し、2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)に耐性を示す2-DG耐性株を取得する工程と、得られた2-DG耐性株のglkA遺伝子の配列を解析し、glkA遺伝子に変異を有する株を選択する工程とを含む、固体培養時の糖質分解酵素生産能が前記親株よりも高い麹菌株の作出方法であって、前記麹菌が黒麹菌又は白麹菌である、方法。
【請求項2】
前記糖質分解酵素は、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼから選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
glkA遺伝子の変異が、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、又はglkA遺伝子ORF及びプロモーター領域のうちの少なくとも一部を欠失する変異である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
glkA遺伝子変異株を固体培養し、糖質分解酵素生産能を調べることをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記麹菌が黒麹菌である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
glkA遺伝子に変異を有する、該変異を有しない親株よりも固体培養時の糖質分解酵素生産能が高い黒麹菌又は白麹菌である麹菌であって、前記変異は、配列番号2に示したアミノ酸配列における第173番アミノ酸がリジンからグルタミン酸に置換する変異、第233番アミノ酸がグリシンからアスパラギン酸に置換する変異、第270番アミノ酸がグルタミン酸からリジンに置換する変異、第278番アミノ酸がロイシンからプロリンに置換する変異、第300番アミノ酸がグルタミンからリジンに置換する変異、並びに第173番アミノ酸、第233番アミノ酸、第270番アミノ酸、第278番アミノ酸、第300番アミノ酸又は第370番アミノ酸におけるナンセンス変異から選択されるいずれかの変異であり、前記糖質分解酵素は、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼから選択される少なくとも2種を含む、麹菌。
【請求項7】
前記変異を有しない親株よりも固体培養時のクエン酸生産量が低い、請求項6記載の麹菌。
【請求項8】
glkA遺伝子の変異が、配列番号2に示したアミノ酸配列における第173番アミノ酸がリジンからグルタミン酸に置換する変異、第233番アミノ酸がグリシンからアスパラギン酸に置換する変異、第270番アミノ酸がグルタミン酸からリジンに置換する変異、第278番アミノ酸がロイシンからプロリンに置換する変異、第300番アミノ酸がグルタミンからリジンに置換する変異、及び第370番アミノ酸におけるナンセンス変異から選択されるいずれの変異である、請求項6又は7記載の麹菌。
【請求項9】
黒麹菌である、請求項6~のいずれか1項に記載の麹菌。
【請求項10】
請求項6~のいずれか1項に記載の麹菌を繁殖させた麹を用いて醸造を行なうことを含む、焼酎の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体培養時の糖質分解酵素生産能が高いアスペルギルス属菌株の作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒麹菌及びその白色変異株である白麹菌は、焼酎・泡盛(黒麹菌のみ)の醸造に使用される糸状菌である。焼酎・泡盛は類似の製法が採られる清酒よりも発酵温度が高く(概ね25-32℃)、原料のα-アミラーゼによる液化・エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ(グルコアミラーゼ等)による糖化に対し、酵母によるアルコール発酵が相対的に優位となるため、麹の各糖質分解酵素活性が発酵の律速となりうる。また焼酎醸造はアルコール収得率を重視する傾向にあるため、発酵速度・同収得率の向上は期待されるところである。
【0003】
アスペルギルス属菌の糖質分解酵素生産性に関する報告として、非特許文献1~3がある。非特許文献1ではAspergillus oryzae、非特許文献2ではA. nigerにおいて、グルコースアナログの一種である2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)に耐性を示す株の中からα-アミラーゼ・グルコアミラーゼ高生産株が得られることが報告されている。しかしながら、非特許文献1、2の酵素高生産性はいずれも液体培養時の結果であり、製麹などの固体培養工程での生産性・醸造特性に対する言及も一切ない。非特許文献3には、A. nigerにおいて、炭素源としてセロビオースを用いて2-DG耐性株を得た場合の結果が報告されているが、これらの株はβ-グルコシダーゼ高生産性であることしか言及はなく、焼酎・泡盛醸造において重要なα-アミラーゼ・エクソα-グルコシダーゼの生産性に対する言及はない。また、上記いずれの非特許文献でも原因変異は特定されていない。
【0004】
一方、酒類醸造に係る国内の特許出願としては、A. oryzaeにおいて2-DG耐性変異株中からフィターゼ高生産株を取得する麹菌の育種方法(特許文献1)、該フィターゼ高生産株を用いたイノシトール含有量が高い清酒の醸造法(特許文献2)、製麹時デンプン消費量が少ない株を育種する方法(特許文献3)が公開されているが、糖質分解酵素高生産株に関するものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-070749号公報
【文献】特開平06-153896号公報
【文献】特開2002-306159号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Azin and Noroozi, World J Microbiol Biotechnol. 2001;17(7):747-50
【文献】Fiedurek et al., Zentralbl Mikrobiol. 1987;142(5):407-12.
【文献】Sarangbin et al., Appl Microbiol Biotechnol. 1993;40(2-3):206-10.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固体培養時の糖質分解酵素の生産能が高いアスペルギルス属菌株を作出する新規な手段、及びそのようなアスペルギルス属菌の新規な株を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、2-DGに対し耐性を示す黒麹菌変異株が製麹条件下において顕著な糖質分解酵素高生産性を示すことを見出し、本変異株がもつ原因変異の少なくとも一部がグルコキナーゼ遺伝子glkAの変異であることを突き止め、以下の本願発明を完成した。
【0009】
(1) 麹菌親株を変異処理し、2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)に耐性を示す2-DG耐性株を取得する工程と、得られた2-DG耐性株のglkA遺伝子の配列を解析し、glkA遺伝子に変異を有する株を選択する工程とを含む、固体培養時の糖質分解酵素生産能が前記親株よりも高い麹菌株の作出方法であって、前記麹菌が黒麹菌又は白麹菌である、方法。
(2) 前記糖質分解酵素は、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼから選択される少なくとも1種を含む、(1)記載の方法。
(3) glkA遺伝子の変異が、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、又はglkA遺伝子ORF及びプロモーター領域のうちの少なくとも一部を欠失する変異である、(1)又は(2)記載の方法。
(4) glkA遺伝子変異株を固体培養し、糖質分解酵素生産能を調べることをさらに含む、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 前記麹菌が黒麹菌である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) glkA遺伝子に変異を有する、該変異を有しない親株よりも固体培養時の糖質分解酵素生産能が高い黒麹菌又は白麹菌である麹菌であって、前記変異は、配列番号2に示したアミノ酸配列における第173番アミノ酸がリジンからグルタミン酸に置換する変異、第233番アミノ酸がグリシンからアスパラギン酸に置換する変異、第270番アミノ酸がグルタミン酸からリジンに置換する変異、第278番アミノ酸がロイシンからプロリンに置換する変異、第300番アミノ酸がグルタミンからリジンに置換する変異、並びに第173番アミノ酸、第233番アミノ酸、第270番アミノ酸、第278番アミノ酸、第300番アミノ酸又は第370番アミノ酸におけるナンセンス変異から選択されるいずれかの変異であり、前記糖質分解酵素は、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼから選択される少なくとも2種を含む、麹菌。
(7) 前記変異を有しない親株よりも固体培養時のクエン酸生産量が低い、(6)記載の麹菌。
() glkA遺伝子の変異が、配列番号2に示したアミノ酸配列における第173番アミノ酸がリジンからグルタミン酸に置換する変異、第233番アミノ酸がグリシンからアスパラギン酸に置換する変異、第270番アミノ酸がグルタミン酸からリジンに置換する変異、第278番アミノ酸がロイシンからプロリンに置換する変異、第300番アミノ酸がグルタミンからリジンに置換する変異、及び第370番アミノ酸におけるナンセンス変異から選択されるいずれの変異である、(6)又は(7)記載の麹菌。
() 黒麹菌である、(6)~()のいずれか1項に記載の麹菌。
(10) (6)~()のいずれか1項に記載の麹菌を繁殖させた麹を用いて醸造を行なうことを含む、焼酎の製造方法。

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固体培養時に糖質分解酵素を高生産するアスペルギルス属菌を高い効率で作出することができる。固体培養時の酵素生産性を調べるためには、実際に製麹(麹菌の場合)などの固体培養試験が必要であり、候補株が多数ある場合には非常に煩雑である。一方、本発明によれば、2-DG耐性変異株を取得した後、2000bpにも満たないglkA遺伝子のORF配列を調べることにより、固体培養時の各種糖質分解酵素の活性が高い菌株を高率に取得できるので、非常に効率が良い。遺伝子組み換え技術によらない作出方法であることに加えて、黒麹菌を親株として本発明の方法により作出した糖質分解酵素高生産株は、焼酎醸造において発酵速度とアルコール収得率がいずれも向上することが確認されており、本発明は実用性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】実施例で作出した2-DG耐性変異株を試験製麹に供し、麹抽出液のα-アミラーゼ活性を測定した結果である。
図1-2】実施例で作出した2-DG耐性変異株を試験製麹に供し、麹抽出液のβ-グルコシダーゼ活性を測定した結果である。
図1-3】実施例で作出した2-DG耐性変異株を試験製麹に供し、麹抽出液のクエン酸量を測定した結果である。
図1-4】実施例で作出した2-DG耐性変異株を試験製麹に供し、麹抽出液の糖化力(エクソ-α-1,4-グルコシダーゼの総活性)を測定した結果である。
図1-5】実施例で作出した2-DG耐性変異株を試験製麹に供し、麹抽出液のβ-キシロシダーゼ活性を測定した結果である。
図2-1】実施例における芋焼酎小仕込み試験の発酵経過である。総減量値を指標として発酵経過(発酵速度)を評価した。Mutant A:A株、Mutant B:B株、WT:親株(RIB2604)。
図2-2】実施例における米焼酎小仕込み試験の発酵経過である。総減量値を指標として発酵経過(発酵速度)を評価した。Mutant A:A株、Mutant B:B株、WT:親株(RIB2604)。
図3-1】親株及びA株の炭素源資化能を調べた結果である。図示した炭素源を含むYNBプレートに分生子懸濁液をスポットし、30℃で培養、一定時間経過後に写真撮影し、菌糸の生育を観察した。
図3-2】親株及びA株の炭素源資化能を調べた結果である。図示した炭素源を含むYNBプレートに分生子懸濁液をスポットし、30℃で培養、一定時間経過後に写真撮影し、菌糸の生育を観察した。
図4】RIB2604 (ligDΔ) 株のglkA遺伝子をA株と同じQ300K変異型に置換した株を樹立し、ligD欠損のない親株RIB2604(WT)及びA株と共にスポットアッセイを行なった結果である。
図5】A株と同じ変異を人為的に導入した組換え株の作出方法の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、アスペルギルス属菌には、黒麹菌(Aspergillus luchuensisなど)、白麹菌(Aspergillus luchuensis mut. kawachiiなど)、黄麹菌(Aspergillus oryzae)などの麹菌の他、Aspergillus niger等の麹菌以外の各種アスペルギルス属菌が包含される。1つの態様において、アスペルギルス属菌は麹菌である。別の態様において、アスペルギルス属菌は黒麹菌又は白麹菌である。さらに別の態様において、アスペルギルス属菌は黒麹菌である。
【0013】
「糖質分解酵素生産能が高い」、「糖質分解酵素高生産性」という語は、もとの親株と比較して糖質分解酵素の生産能(生産性)が高いことを意味する。本発明の作出方法により得られる菌株は、固体培養時の糖質分解酵素の生産能が高い。固体培養の一例として、酒類製造における製麹工程を挙げることができる。固体培地の具体例として、米、麦、大豆などの穀物を挙げることができる。
【0014】
糖質分解酵素には、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼが包含される。本発明の方法により取得される、固体培養時の糖質分解酵素活性が高いアスペルギルス属菌は、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼから選択される1種以上の酵素、例えば2種以上、3種以上、又は4種全ての酵素の、固体培養時の生産性が高いことを特徴とする。好ましい態様において、本発明の方法により作出されるアスペルギルス属菌は、α-アミラーゼ、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、及びβ-キシロシダーゼを含む糖質分解酵素の固体培養時の生産能が親株よりも高い。エクソ-α-1,4-グルコシダーゼには、グルコアミラーゼ及びα-グルコシダーゼが包含され、グルコアミラーゼには、マルターゼ活性を持たないグルコアミラーゼの他、マルターゼ活性を備えたグルコアミラーゼも包含される(これらエクソ-α-1,4-グルコシダーゼの総活性は「糖化力」と呼称される)。黒麹菌は、マルターゼ活性を持たないグルコアミラーゼに加え、マルターゼ活性も備えたグルコアミラーゼも有しており、後者の活性が非常に高いことが知られている。
【0015】
アスペルギルス属菌親株の変異処理は、通常、該親株の分生子を変異原で処理することにより行われる。変異処理の具体例としては、紫外線照射、放射線照射等の物理的変異処理、及びエチルメタンスルフォン酸(EMS)等の変異剤で処理する化学的変異処理等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)耐性株は、変異処理した親株を、2-DGを含む寒天培地上で培養することで取得できる。紫外線や放射線等の物理的変異処理の場合、2-DG含有寒天培地上に播種した分生子に対して変異処理を行なってもよい。2-DG含有寒天培地としては、炭素源としてセロビオースを含み、グルコースを含まないものを好ましく用いることができる。炭素源以外の組成は、YNB培地等の一般的な合成培地の組成でよい。
【0017】
2-DG耐性株を得た後、該耐性株のglkA遺伝子の配列を解析し、glkA遺伝子に変異を有する株を選択する。glkA遺伝子の変異とは、該遺伝子にコードされるヘキソキナーゼGlkAのアミノ酸配列に変化をもたらす変異であり、例えば、GlkAの活性を損なわせる変異である。そのようなglkA遺伝子の変異には、エクソン又はイントロン領域内、典型的にはエクソン領域内での、1個以上の塩基の置換、欠失、挿入、重複等により生じる、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、glkA遺伝子ORF及びプロモーター領域のうちの少なくとも一部を欠失する変異が包含される。
【0018】
各種アスペルギルス属菌のglkA遺伝子の塩基配列、及びこれにコードされるヘキソキナーゼGlkAのアミノ酸配列は、NCBIのGenBankなどの各種データベースに登録されており、容易に入手できる。glkA遺伝子に変異があるか否かは、データベースに登録されているglkA遺伝子の野生型配列と比較して判断すればよい。glkA遺伝子の野生型配列の一例として、黒麹菌A. luchuensisのglkA遺伝子ORFの塩基配列を配列番号1に、これにコードされるGlkAのアミノ酸配列を配列番号2に、それぞれ示す。
【0019】
glkA遺伝子の変異部位は特に制限されないが、進化的に高度に保存された領域内や、立体構造上でGlkAの活性に重要な部位に近い位置に存在する残基における、塩基置換変異及び欠失変異を例示できる。ナンセンス変異やフレームシフト変異は、部位によらず、GlkAの活性を損なわせる蓋然性が高い。
【0020】
本発明でいうミスセンス変異とは、典型的には、非保存的なアミノ酸置換変異である。化学的性質が類似するアミノ酸への置換を保存的置換といい、タンパク質の性質を損なわない蓋然性が高い置換である。化学的性質が類似しないアミノ酸への置換が非保存的置換であり、通常、非保存的置換によりタンパク質の機能が損なわれる。側鎖が類似するアミノ酸は、化学的性質が類似する。側鎖の類似性でアミノ酸をグループ分けすると、例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン)、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群(セリン、トレオニン)、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群(アスパラギン、グルタミン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸の群(アスパラギン酸、グルタミン酸)、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群(システイン、メチオニン)、などに分類することができる。同じ群に属する別のアミノ酸への置換が保存的置換であり、別の群に属するアミノ酸に置換する変異が非保存的置換である。
【0021】
糖質分解酵素生産能の向上をもたらすglkA遺伝子変異の具体例として、下記実施例では下記表1に示したミスセンス変異及びナンセンス変異が同定されている。これらは本発明におけるglkA遺伝子変異の一例であるが、本発明の作出方法によればこれら以外のglkA遺伝子変異を有する糖質分解酵素高生産性のアスペルギルス属菌も高率に得ることができるので、glkA遺伝子変異はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明においては、glkA遺伝子の変異が同定された株について、実際に固体培養を行ない、糖質分解酵素生産能を調べて、親株よりも糖質分解酵素生産能が高まったかどうかを確認してもよい。固体培養時の糖質分解酵素生産能の測定においては、アスペルギルス属菌を培養した固体培地(例えば麹)より弱酸性から中性の適当な水系溶媒で抽出を行ない、得られた抽出液中の糖質分解酵素の活性を測定すればよい。糖質分解酵素の活性を測定する方法は周知であり、市販のキットも存在する。エクソ-α-1,4-グルコシダーゼ(糖化力)には、上述したように、グルコアミラーゼ及びα-グルコシダーゼが包含される。エクソ-α-1,4-グルコシダーゼの活性を調べる場合には、グルコアミラーゼの活性のみを調べてもよいし、α-グルコシダーゼも含めた、エクソ-α-1,4-グルコシダーゼに属する酵素全般の活性を調べてもよい。
【0024】
本発明はまた、glkA遺伝子に変異を有する、固体培養時の糖質分解酵素生産能が高いアスペルギルス属菌を提供する。そのようなアスペルギルス属菌は、上記した本発明の作出方法により高率に作出することができる。本発明の作出方法によれば、遺伝子組み換え技術を利用することなく、製麹時に糖質分解酵素を高生産する麹菌を得ることができる。glkA遺伝子に変異を有する、固体培養時の糖質分解酵素生産能が高い麹菌は、清酒や焼酎等の各種の酒類の製造に好ましく使用することができる。
【実施例
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
1.2-DG耐性変異株の取得
250または500μg/mlの2-deoxy-D-glucose(2-DG)を含むYNBプレート(炭素源:1%セロビオース)に、1.0×107個の黒麹菌A. luchuensis RIB2604分生子をスプレッドした。そのプレートに約50 cmの距離から1または2分間紫外線を照射(15 W紫外線殺菌灯)した後、30℃で培養した。良好な増殖が見られた株を同プレートに移植し、30℃で培養した。再増殖が見られた株を2-DG耐性株とし、potato-dextrose-agarose(PDA)プレートに移植・増殖させて分生子を得た。
【0027】
2.麹抽出液の各種酵素活性及びクエン酸量の測定
耐性株16株及び親株RIB2604をシャーレ中での米麹試験製麹に供し、それらの麹抽出液のα-アミラーゼ・糖化力・β-グルコシダーゼ・β-キシロシダーゼ・酸性カルボキシペプチダーゼの各活性及びクエン酸量を測定した。
【0028】
<シャーレ製麹・麹抽出液調製条件>
90%精白α米18.2 gに分生子懸濁水道水(4.08×105 conidia/ml)9.8 mlを加え、シャーレ中で製麹した。製麹条件は、36℃・10時間→毎時0.4℃昇温して40℃に(10時間)→40℃・5時間→33℃・20時間(計45時間・相対湿度95%)とした。出麹後、麹に2倍重量の100 mM NaClを加え、室温で200rpm・3時間の抽出処理を行なった。15,000×g・3分間の遠心分離で抽出液を回収した。
【0029】
<α-アミラーゼ活性、糖化力、酸性カルボキシペプチダーゼ活性>
醸造分析キット(キッコーマンバイオケミファ)を用いて測定した。糖化力の測定では、キットの説明書に従い、グルコアミラーゼとα-グルコシダーゼの分別定量を行わずに求めた活性を「その活性の全てがグルコアミラーゼに由来する」とみなし、グルコアミラーゼ活性として表現してグラフ化した。
【0030】
<β-グルコシダーゼ・β-キシロシダーゼ活性>
50 mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.8)、2 mM p-nitrophenyl-β-D-glucopyranoside(β-グルコシダーゼ活性測定)または2 mM p-nitrophenyl-β-D-xylopyranoside(β-キシロシダーゼ活性測定)、25%(v/v) 麹抽出液の反応液を調製し、40℃・1時間反応後、反応液に等量の1 M Na2CO3を加えて反応停止・発色させ、A405を測定した。
【0031】
<クエン酸定量>
99%(v/v) 無水酢酸・ピリジン混合液(体積比7:3)、1%(v/v) 麹抽出液の反応液を調製し、40℃・30分間反応後、A385を測定した。
【0032】
測定結果を図1に示す。親株は3連、各変異株は1連の測定結果である。糖化力はグルコアミラーゼ活性として表示した。α-アミラーゼ・グルコアミラーゼ活性のユニット定義は国税庁所定分析法による。β-グルコシダーゼ・β-キシロシダーゼのユニット定義は、酒類総合研究所標準分析法におけるα-グルコシダーゼ活性の定義(p-nitrophenyl-α-D-glucopyranosideを基質とする方法)を流用した。大半の株において、麹抽出液の糖質分解酵素活性が上昇しており、糖質分解酵素の生産量が上昇していた。一方、クエン酸量はその逆の傾向を示した。酸性カルボキシペプチダーゼ活性は、親株と変異株との間で有意差がなかった(データ示さず)。
【0033】
3.2-DG耐性変異株の芋・米焼酎小仕込み試験
2-DG耐性株のうち、麹抽出液のα-アミラーゼ活性・糖化力・β-グルコシダーゼ活性が高かった2株(A株、B株)及び親株RIB2604を、芋焼酎及び米焼酎小仕込み試験に供した。
<小仕込み試験条件>
【0034】
【表2】
【0035】
発酵条件
醪期間:芋醪・・・10日間(一次醪4日間)
:米醪・・・19日間(一次醪5日間)
発酵温度:芋醪・・・28℃一定
:米醪・・・9日後まで28℃一定、以後1℃/日で低下させ12日後以降24℃一定。
掛米には90%精白α化米、サツマイモ(黄金千貫)はオートクレーブで蒸煮したものを使用した。麹の出麹歩合120%・掛米の蒸米吸水率140%を想定して各原料添加量を調節した。
【0036】
結果を図2及び表3A、Bに示す。いずれの焼酎醪でも発酵速度・アルコール収得率の向上が認められた(特に米焼酎醪において顕著)。
【0037】
【表3】
【0038】
4.2-DG耐性変異株の炭素源資化能
親株及びA株の分生子懸濁液(1.0×106個/ml)4μlを、種々の炭素源を含むYNBプレートにスポットし、30℃で培養した。一定時間経過後に写真撮影し、菌糸の生育を観察した。炭素源として、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、酢酸、グルコース+酢酸、オレイン酸、グリセロールを検討した。
【0039】
結果を図3に示す。A株はグルコースとマルトースの資化能が低かった。グルコース・酢酸共存条件下ではグルコースのみの場合より良好な増殖を示すことから、それらを同時に資化している、すなわち、グルコース抑制が脱抑制されていると考えられた。
【0040】
5.2-DG耐性変異株の変異部位の同定
Fleck and Brock, Eukaryot. Cell., 2010, 9, 1120-1135.には、Aspergillus fumigatusでは、へキソキナーゼGlkAがグルコースに対し、同じくHxkAがフルクトースに対し高活性であるとされ、GlkAがグルコキナーゼであると報告されている。同報告には「A. fumigatusではglkAを破壊してもグルコース資化能・2-DG耐性は野生株に比べて顕著に変化しない」という結果も示されているものの、A株はグルコース資化能が顕著に低くかつフルクトース資化能はほぼ正常であったことから、GlkAに機能欠損を持つ可能性が考えられた。そこで、A株の候補変異領域として、glkA遺伝子、またGlkA以外のヘキソキナーゼアイソザイムの遺伝子であるhxkA遺伝子及びhxkB遺伝子、さらに、破壊することでα-アミラーゼ高生産となることが知られている、グルコース抑制を正に制御する転写因子の遺伝子creA(Ichinose et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2014, 98(1):335-43.)の塩基配列を調べた。
【0041】
その結果、A株のglkA遺伝子ORF中にC959AのQ300Kミスセンス変異を同定した。他の3遺伝子(hxkA、hxkB、creA)には変異は見られなかった。
【0042】
複数の真核・原核生物由来へキソキナーゼGlkA配列の第300番グルタミン相当部分を調べたところ、ほぼ完全に保存されていた。第300番グルタミンはグルコースと水素結合を形成すると予想される第303番グルタミン酸の近傍にある残基であり(Kuser et al., Proteins, 2008, 72, 731-40.)、Q300K変異は酵素-基質複合体形成に支障をきたすと思われた。
【0043】
この変異が原因変異かどうかを検証する為、RIB2604 (ligDΔ) 株の野生型glkAをQ300K変異型に置換した株を樹立し、製麹試験・スポットアッセイを行なったところ、この変異を人為的に導入した組換え株は耐性株と類似の表現型を示した(図4・表4)。一方、麹分析値では組換え株はA株と類似の傾向を示したが、糖質分解酵素生産能は総じて控えめであった(中でもβ-グルコシダーゼ・β-キシロシダーゼ活性)。A株は、同じ変異型glkAを持つ組換え株よりも酵素生産量が高い反面、製麹試験において破精回りが悪く、またグルコースを炭素源とした場合では2-DG耐性が発現せず2-DG感受性であった。これらの結果は、A株の表現型の原因の少なくとも一部がグルコキナーゼ遺伝子glkAのQ300K変異であること、A株にはQ300K変異以外にもグルコース資化能の低下に寄与する何らかの変異を有する可能性があることを示している。
【0044】
【表4】
【0045】
A株以外に得られていた、2-DG耐性で糖質分解酵素活性が上昇していた他の変異株についても解析を行なったところ、ミスセンス変異又はナンセンス変異をもたらす下記の一塩基置換変異をglkA ORF中に同定した。また、2-DG耐性でも糖質分解酵素活性の上昇が認められない株ではglkA ORF中に変異がないことを確認した。
K173E (A578G)
G233D (G759A)
E270K (G869A)
L278P (T894C)
Q300K (C959A)・・・変異株A
E370* (G1169T)
【0046】
以上の結果から、2-DG耐性・糖質分解酵素高活性変異株の表現型における原因変異の少なくとも一部が、グルコキナーゼ遺伝子glkAの一アミノ酸置換変異であることは確実である。
【0047】
<A株と同じ変異を人為的に導入した組換え株の作出方法>
MightyPrep reagent for DNA(タカラバイオ)を用いて、PDAプレート上で増殖させた変異株AよりゲノムDNAを簡易抽出し、精製水で10倍希釈した。これらをテンプレートDNA溶液として以下の様にPCRの試薬調製を行った。プライマーセットは、glkA-UF primer(配列番号3)とglkA-UR primer(配列番号4)のセット(本プライマーセットの増幅産物を「glkA-U」とする)、およびglkA-DF primer(配列番号5)とglkA-DR primer(配列番号6)のセット(同じく「glkA-D」とする)を用いた。
【0048】
ゲノムDNA溶液・・・11μl
2×専用バッファー・・・25μl
2 mM dNTPs・・・10μl
10μM forward primer・・・1.5μl
10μM reverse primer・・・1.5μl
KOD FX Neo(東洋紡)・・・1μl
【0049】
PCRは、初期変性94℃3分→3サイクル反応(98℃10秒・60℃20秒・68℃40秒)→37サイクル反応(98℃10秒・68℃40秒)→最終伸長68℃3分とした。反応終了後、1.5%アガロースゲル電気泳動で各PCR産物を確認した。その後、各産物をカラム精製して核酸濃度を測定し、glkA-U・glkA-Dがほぼ等モルずつになるように混合した。
その後、以下の様に試薬調製を行った。
【0050】
精製水・・・0.25μl
150 ng/μl EcoRI処理・精製後pRIE・・・0.75μl
100 ng/μl hphカセット(配列番号13)・・・0.5μl
100 ng/μl glkA-U・glkA-D混合溶液・・・0.5μl
NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix (2×)(New England Biolabs)・・・2μl
※ハイグロマイシンB耐性遺伝子(hph)のCDS(配列番号13の987位~2012位)の上流にA. luchuensis gpdAプロモーターを、下流に同ターミネーターを付加した遺伝子カセット。
【0051】
50℃・60分間処理し、各DNA断片を連結させてプラスミドの構築を行った。反応産物2μlを50μlのNEB 5-alpha Competent E. coli (High Efficiency)(New England Biolabs)に加え、製造元プロトコルに従って処理した。形質転換後の大腸菌懸濁液を、20μg/mlのカナマイシンを含むLBプレートにスプレッドして37℃で一晩培養した。
その後、以下の様にコロニーPCRの試薬調製を行った。
【0052】
精製水・・・4.4μl
EmeraldAmp MAX PCR Master Mix(タカラバイオ)・・・5μl
10μM pRIE LB-F primer(配列番号7)・・・0.3μl
10μM pRIE RB-R primer(配列番号8)・・・0.3μl
【0053】
PCRは、初期変性94℃・3分→35サイクル反応(98℃・10秒・68℃・5分)→最終伸長68℃・3分とした。反応終了後、0.8%アガロースゲル電気泳動で各PCR産物を確認した。インサートが確認されたクローンを20μg/mlのカナマイシンを含むLB培地で一晩培養し、菌体よりプラスミドを抽出した。
【0054】
このプラスミドを、Rhizobium radiobacter (syn. Agrobacterium tumefaciens) strain C58C1に対しMattanovichらの方法(Mattanovich D et al. Nucleic Acids Res, 1989;17:6747.)により導入した。形質転換後のR. radiobacter懸濁液を、50μg/mlのカナマイシンを含むLBプレートにスプレッドして25℃で3日培養した。生じたコロニーを50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地で24時間培養した。この培養液を「組換えR. radiobacter培養液」とした。
【0055】
A. luchuensis strain RIB2604(変異株Aの親株)のligD破壊株(LigDはDNA修復における非相同末端結合に関与するDNAリガーゼであり、本遺伝子を破壊することで、非相同組換えによる染色体へのDNA断片の部位非特異的な組込みが大幅に抑制され、相同組換えによる部位特異的な組込みが起こった株を圧倒的に選抜しやすくなる)をPDAプレートに接種して、30℃・約1週間培養した。適当量の分生子懸濁溶液(0.05% (w/v) Tween20, 150 mM NaCl)をプレートに流し込み、コンラージ棒でこすって分生子を浮かせ、セルストレイナー(100μmメッシュ・コーニング)でろ過して通過画分を回収した。この画分を「分生子懸濁液」とした。
【0056】
組換えR. radiobacter培養液と分生子懸濁液を用いて、Michielseらの方法(Michielse CB et al., Nat Protoc. 2008;3:1671-1678.)によりA. luchuensis strain RIB2604 (ligDΔ)に組換えR. radiobacterを感染させ、遺伝子導入を行った。組換え体の選抜は、100μg/mlハイグロマイシンB及び100μg/ml cefotaximを含むCzapek-Doxプレートを用い、30℃・4日間培養することで行った。生じたコロニーを同組成のプレートに移植し、同様に培養した。再増殖が認められた株よりMightyPrep reagent for DNAを用いてゲノムDNAを簡易抽出し、精製水で10倍希釈した。これらをテンプレートDNA溶液として以下の様にPCRの試薬調製を行った。
【0057】
ゲノムDNA溶液・・・2.2μl
2×専用バッファー・・・5μl
2 mM dNTPs・・・2μl
10μM glkA int-F primer(配列番号9)・・・0.3μl
10μM glkA out-R primer(配列番号10)・・・0.3μl
KOD FX Neo・・・0.2μl
【0058】
PCRは、初期変性95℃・3分→45サイクル反応(98℃・10秒・68℃・2.5分)→最終伸長68℃・3分とした。反応終了後、0.8%アガロースゲル電気泳動で各PCR産物を確認した。目的の染色体構造をもつことが確認された4株をPDAプレートに移植して30℃・約1週間培養した。
【0059】
増殖した株よりMightyPrep reagent for DNAを用いてゲノムDNAを簡易抽出し、精製水で10倍希釈した。これらをテンプレートDNA溶液として以下の様にPCRの試薬調製を行った。
【0060】
精製水・・・6μl
ゲノムDNA溶液・・・5μl
2×専用バッファー・・・25μl
2 mM dNTPs・・・10μl
10μM glkA seq-F primer(配列番号11)・・・1.5μl
10μM glkA seq-R primer(配列番号12)・・・1.5μl
KOD FX Neo・・・1μl
【0061】
PCRは、初期変性94℃・3分→35サイクル反応(98℃・10秒・68℃・50秒)→最終伸長68℃・3分とした。反応終了後、1.5%アガロースゲル電気泳動で各PCR産物を確認した。各PCR産物を精製し、増幅時と同様のプライマーを用いてDNAシーケンシングを行った。その結果に基づき、glkA-hph株とglkA(Q300K)-hph株を確定した(図5参照)。各株の増殖したプレートより前述の方法で分生子を回収し、製麹試験・糖資化能及び2-DG耐性試験に用いた。
【0062】
【表5】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
【配列表】
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