(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】多孔質シリカ、機能材料および多孔質シリカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 37/02 20060101AFI20230922BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20230922BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20230922BHJP
B01J 35/02 20060101ALN20230922BHJP
B01J 20/10 20060101ALN20230922BHJP
B01J 20/28 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
C01B37/02
C01B33/12 Z
C01B33/12 A
B01J32/00
B01J35/02 J
B01J20/10 A
B01J20/28 A
(21)【出願番号】P 2019130800
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018153395
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 洋人
(72)【発明者】
【氏名】染川 正一
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】北村 陸
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/083729(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/108649(WO,A1)
【文献】特開2008-264732(JP,A)
【文献】特開2003-326143(JP,A)
【文献】特開2005-243342(JP,A)
【文献】特表2014-522363(JP,A)
【文献】国際公開第03/002458(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01J 21/00ー38/74
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1細孔と第2細孔とを有し、
前記第1細孔の平均細孔直径は、100nm以上2000nm以下であり、
前記第2細孔の平均細孔直径は、0.5nm以上3nm以下である、多孔質シリカであって、
前記多孔質シリカは膜状であり、
前記第1細孔は、膜の厚さ方向に延在する複数の柱状であり、
前記第1細孔の平均細孔直径は、柱状の短径である、多孔質シリカ。
【請求項2】
第1細孔と第2細孔とを有し、
前記第1細孔の平均細孔直径は、100nm以上2000nm以下であり、
前記第2細孔の平均細孔直径は、0.5nm以上3nm以下である、多孔質シリカであって、
前記多孔質シリカは粒状であり、
前記第1細孔は、粒状の内部から外側の方向に延在する複数の柱状であり、
前記複数の柱状の第1細孔は、放射状に設けられ、
前記第1細孔の平均細孔直径は、柱状の短径である、多孔質シリカ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質シリカを有する、機能材料。
【請求項4】
アルコキシシランの加水分解により多孔質シリカを製造する方法であって、
(a)界面活性剤、アルコキシシランおよび水を有する第1液を調整する工程、
(b)前記第1液と塩基性液とを接触させることにより、前記第1液の脱水縮合反応により、前記第1液をゲル化させる工程、
を有し、
前記(b)工程は、
(b1)前記第1液を基板上に塗布する工程、
(b2)前記基板を塩基性液に浸漬させる工程、
を有する、多孔質シリカの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の多孔質シリカの製造方法において、
前記(b)工程の後、
(c)前記第1液をゲル化させたゲル化物を熱処理する工程、
を有し、
前記(c)工程により得られた多孔質シリカは、
第1細孔と第2細孔とを有し、
前記第1細孔の平均細孔直径は、100nm以上2000nm以下であり、
前記第2細孔の平均細孔直径は、0.5nm以上3nm以下である、多孔質シリカの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の多孔質シリカの製造方法において、
前記(a)工程において、前記アルコキシシランと前記水との化学量論比をアルコキシシラン:水=1:nとした場合、nが20以下である、多孔質シリカの製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の多孔質シリカの製造方法において、
前記界面活性剤は、R
1R
2R
3R
4N
+X
-で示されるカチオン性界面活性剤であり、
疎水性アルキル鎖である前記R
1の炭素数が2~7であ
り、
前記R
2
、前記R
3
および前記R
4
のそれぞれは、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基のいずれかであり、
前記X
-
は、ハロゲンイオンである、多孔質シリカの製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の多孔質シリカの製造方法において、
前記(b1)工程は、
(b1)前記第1液を基板上に、ディップコート、スプレーコート、またはスピンコートする工程である、多孔質シリカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカおよび多孔質シリカの製造方法に関し、特に、階層的多孔構造を有する多孔質シリカ、階層的多孔構造を有する多孔質シリカを用いた機能材料および階層的多孔構造を有する多孔質シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソ孔を有する多孔質シリカは、一般的に界面活性剤のミセルを鋳型に製造される。このような多孔質シリカは、吸着剤等として用いられている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、メソ孔を有する多孔質シリカについての開示がある。特に、非特許文献1には、メソ孔を有する多孔質シリカを数ミクロンの粒子状で得る技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、アルコキシシランに、疎水部に炭素数2~7の基を有する界面活性剤を分散させ、pH0~2に調整した水をアルコキシシランに対して2~4等量添加し、アルコキシシランの加水分解を温和に進行させ、細孔直径が0.5nm以上2nm未満のモノリス状メソポーラスシリカを得る技術が開示されている。特に、この技術では、非特許文献1において、疎水部に炭素数6の基を有するカチオン性界面活性剤を用いた場合はアモルファス状のシリカしか得られていないのに対し、疎水部の炭素数の小さいカチオン性界面活性剤をミセル(鋳型)とし、細孔を小さくすることに成功している。
【0005】
また、特許文献2には、界面活性剤、アルコキシシランおよび水に加え、水溶性高分子の存在下において、アルコキシシランを加水分解し、界面活性剤、アルコキシシラン、水および水溶性高分子を有する混合液を、塩基性溶液と接触させることにより、モノリス状メソポーラスシリカをナノ粒子化することに成功している。
【0006】
また、特許文献3には、多孔質シリカの孔内に金属または金属を元素組成として有する化合物を含有する液を含浸させ、熱処理を施すことにより、多孔質シリカの孔内に金属または金属化合物を含有する微細粒子を内包させる技術が開示されている。特に、多孔質シリカを鋳型とすることで、バルクの状態では見られない特異な性質を示す粒子(例えば、W、Cu、Cr、Mn、Fe、CoまたはNiやこれらの金属酸化物)の形成に成功している。
【0007】
また、特許文献4には、規則配列した細孔が縦、横4個×4個以上の範囲で理想三角格子状に配列されている陽極酸化ポーラスアルミナが開示されている。また、非特許文献2には、氷晶をテンプレートにした径が数十μmのマクロ孔を有する多孔質シリカの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5827735号公報
【文献】特許第5647669号公報
【文献】特許第6165937号公報
【文献】特開2018-3048号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. S. Beck, J. C. Vartuli, G. J. Kennedy, C.T.Kresge, W.J.Roth, S. E. Schramm, Chem. Mater., 1994, 6, 1816.
【文献】H. Nishihara, S. R. Mukai, D. Yamashita, H. Tamon, Chem. Mater Commun., 2005, 17, 683.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、多孔質シリカ、特に、細孔径が2~50nm未満のメソ孔を有する多孔質シリカ(メソポーラスシリカ)の合成についての研究・開発に従事し、各種の成果を挙げている。
【0011】
中でも、疎水部に炭素数が小さい基を有する界面活性剤を鋳型として細孔径が2nm以下のミクロ孔を有する多孔質シリカの合成に成功している(特許文献1等参照)。
【0012】
このようなメソ孔やミクロ孔を有する多孔質シリカは、吸着剤、種々の触媒担持体、分離膜、センサ等の分野に用いることができる。
【0013】
しかしながら、多孔質シリカを大きな粒子として形成した場合、内在しているメソ孔やミクロ孔に効率的に物質を吸着させたり、また、触媒などの機能性材料を担持させたりすることができない。このため、多孔質シリカを小さくするなどして、その表面積を大きくすることで、表面に露出したメソ孔やミクロ孔を効率的に機能させることが考えられる。
【0014】
そこで、本発明の目的は、多孔質シリカの特性を向上させることができる技術を提供することにある。特に、多孔質シリカにマクロ孔を設け、マクロ孔の側面にメソ孔やミクロ孔を露出させることにより、多孔質シリカの特性を向上させることにある。また、そのような多孔質シリカの製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の上記目的およびその他の目的と新規な特徴は、本願明細書の記載および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態に示される多孔質シリカは、第1細孔と第2細孔とを有し、前記第1細孔の平均細孔直径は、100nm以上2000nm以下であり、前記第2細孔の平均細孔直径は、0.5nm以上3nm以下である。
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態に示される機能材料は、前記多孔質シリカを有する。
【0019】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態に示される多孔質シリカの製造方法は、アルコキシシランの加水分解により多孔質シリカを製造する方法であって、(a)界面活性剤、アルコキシシランおよび水を有する第1液を調整する工程、(b)前記第1液と塩基性液とを接触させることにより、前記第1液の脱水縮合反応により、前記第1液をゲル化させる工程、を有する。
【発明の効果】
【0020】
本願において開示される発明のうち、以下に示す代表的な実施の形態に示される多孔質シリカによれば、多孔質シリカの特性を向上させることができる。
【0021】
また、本願において開示される発明のうち、以下に示す代表的な実施の形態に示される多孔質シリカの製造方法によれば、特性の良好な多孔質シリカを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態1の多孔質シリカの製造工程を示す図である。
【
図2】実施の形態1の多孔質シリカの構成を模式的に示す図である。
【
図4】多孔質シリカの生成反応(ゾルゲル化)を示す反応式である。
【
図5】マクロ孔の形成メカニズムを示す模式図である。
【
図6】前駆体溶液の基板への塗布方法を示す図である。
【
図7】C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)のSEM像である。
【
図8】C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)のSEM像である。
【
図9】C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【
図10】C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の細孔径分布を示すグラフである。
【
図11】C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の細孔径分布を示すグラフである。
【
図12】膜状の多孔質シリカの断面の拡大SEM像である。
【
図13】多孔質シリカの上面の拡大SEM像である。
【
図14】C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【
図15】C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の細孔径分布を示すグラフである。
【
図16】比較例1の多孔質シリカのSEM像である。
【
図17】比較例2の多孔質シリカのSEM像である。
【
図18】膜状の多孔質シリカの断面の拡大SEM像である。
【
図20】膜状の多孔質シリカの断面の拡大SEM像である。
【
図21】実施の形態2の多孔質シリカの製造工程を示す図である。
【
図22】実施の形態2の多孔質シリカの他の製造工程を示す図である。
【
図23】マクロ孔の形成メカニズムを示す模式図である。
【
図24】実施例4の多孔質シリカ(粒状)のSEM像である。
【
図25】実施例5の多孔質シリカ(粒状)のSEM像である。
【
図26】実施の形態3の空気清浄器の構成を示す模式図である。
【
図27】実施の形態4のガラスフィルタと多孔質シリカの膜との合成膜の製造工程を示す図である。
【
図28】実施の形態4のガラスフィルタと多孔質シリカの膜との合成膜の製造工程を示す図である。
【
図29】得られた表面に多孔質シリカの膜が形成されたガラスフィルタのSEM像である。
【
図30】得られた二酸化チタン内包多孔質シリカの透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。
【
図31】二酸化チタン粒子の粒径と数を示す図である。
【
図32】イソプロピルアルコールの光触媒分解反応実験の様子を示す図である。
【
図33】イソプロピルアルコールの光触媒分解反応時の二酸化炭素の発生量を示す図である。
【
図34】メチレンブルー水溶液の吸着濾過実験の様子を示す図である。
【
図35】実施例Dおよび比較例の測定結果(空孔率、除去率および濾過速度)を示す図である。
【
図37】マクロ孔の形成メカニズムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の機能を有するものには同一もしくは関連の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0024】
(実施の形態1)…膜状の多孔質シリカ
本実施の形態においては、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法により、多孔質シリカを合成する。このような合成法を分子鋳型法(テンプレート法)ということがある。
【0025】
一般的には、溶液中に界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類と濃度に応じて例えば筒状のミセル(鋳型)が形成される。ここで溶液中にシリカ源となるアルコキシシランなどを加えると、ミセルの隙間でシリケートイオンの吸着および成長反応が進行し、シリカゲル骨格が形成される。このシリケートイオンの吸着および成長反応により、ゾル状態からゲル状態へ変化するためゾルゲル反応と呼ばれる(
図4参照)。この後、シリカゲル骨格(ゲル化物)を焼成(熱処理)すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて多孔質シリカが得られる。言い換えれば、複数の孔(細孔、微細孔)を有するシリカ骨格が得られる。
【0026】
以下に、本実施の形態の多孔質シリカの合成方法について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の多孔質シリカの製造工程を示す図である。
【0027】
図1(A)に示すように、多孔質シリカの前駆体溶液(ゾル、ゾル状態液)L1を形成する。
【0028】
まず、シリカ源となるシリコン化合物と界面活性剤とを混合し、攪拌する。この混合液中に、水を添加し攪拌することで前駆体溶液L1を形成する。なお、この前駆体溶液L1は、ゾル(Sol)状態であり、後述するように、塩基性水溶液との接触によりゲル化(固化)する。また、この前駆体溶液L1は、攪拌(時間経過)とともにゲル化する。
【0029】
シリカ源となるシリコン化合物としては、アルコキシシランを用いることができる。アルコキシシランは、ケイ素に結合したアルコキシ基を有する化合物である。アルコキシシランとしては、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)を用いることができる。シリカ源となるシリコン化合物としては、アルコキシシランの他、ケイ酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0030】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤を用いる。このカチオン性界面活性剤としては、一般式R
1R
2R
3R
4N
+X
-で示される界面活性剤を用いることができる(
図3参照)。R
1は、疎水部であり、例えば、炭素数1~24のアルキル基、ベンジル基、フェニル基であり、R
2R
3R
4は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。また、Xは、例えば、F、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンである。カチオン性界面活性剤としては、4級のカチオン性界面活性剤を用いることが好ましい。また、R
1のアルキル基は直鎖型でも分岐型でもよい。
【0031】
添加する水(H2O)は、アルコキシシランの加水分解のための反応剤として寄与する。また、添加する水のpHは、アルコキシシランの等電点であるpH2程度に調整することが望ましい。等電点においては、アルコキシシランの加水分解、およびシリケートイオンのゲル化速度が最も遅いため、界面活性剤のミセル形成のための時間を十分に確保できるからである。
【0032】
また、水のpH0~1程度においては加水分解の加速が起こるが、シリケートイオンのゲル化速度が十分に遅いため同様の効果が得られる。そのため、添加する水のpHは、0~2の範囲に調整することが好ましい。pH3以上では加水分解およびゲル化速度が速すぎるため、界面活性剤の溶解およびミセル形成のための時間が十分に確保できない恐れがある。
【0033】
pH調整用の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、または酢酸などの有機酸を使用することができる。
【0034】
ここで、多孔質シリカの孔となる筒状のミセル(鋳型)の成型性の向上のためには、できるだけ少ない水(溶媒)で加水分解することが好ましい(
図4参照)。そのため、アルコキシシランに対する水の添加量(水との化学量論比をアルコキシシラン:水=1:nとした場合のn)は、反応に最低限必要な2等量(eq)以上20等量以下の範囲、より好ましくは、2等量以上10等量以下の範囲、さらに好ましくは、2等量以上4等量以下の範囲とする。このように、少溶媒の系とすることにより、反応系をほぼ純粋なシリケートイオンと界面活性剤との混合物に維持することができ、鋳型となる界面活性剤のミセルの安定性を確保しつつ、ゾルゲル反応を促進することができる。例えば、上記R
1(疎水部)として炭素数が8未満の界面活性剤を用いても多孔質シリカを合成することができる。よって、後述する多孔質シリカの第2細孔径(平均孔径、平均孔直径、D2)を小さくすることができる。別の捉え方をすれば、界面活性剤の疎水部の炭素数を調整することで、容易に多孔質シリカの第2細孔径を調整することが可能となる。
【0035】
次いで、
図1(B)に示すように、基板SUBに前駆体溶液(ゾル)L1を塗布する。ここでは、基板SUBを前駆体溶液(ゾル)L1に浸漬することにより、基板SUBの表面に前駆体溶液(ゾル)L1の塗布層を形成する。
【0036】
次いで、基板SUBの表面の前駆体溶液(ゾル)L1を塩基性液L2と接触させることにより、ミセルの隙間でシリケートイオンの吸着および成長反応(ゾルゲル反応)が進行し、シリカ(SiO
2)が形成される(
図4参照)。例えば、
図1(C)に示すように、前駆体溶液(ゾル)L1が付着した基板SUBを塩基性液L2に浸漬する。塩基性液L2としては、例えば、アンモニア水溶液を用いることができる。
【0037】
基板SUBの表面に付着した前駆体溶液(ゾル)L1は、塩基性液L2と接触することで、ゲル化(固化)する(
図1(D))。このゲルを、乾燥した後、焼成する。この焼成により、シリカ(SiO
2)の内部の界面活性剤が除去され、多孔質シリカPSを得ることができる。
【0038】
また、ここでは、基板SUBの表面に塗布された前駆体溶液(ゾル)L1の形状が反映され膜状の多孔質シリカPSが形成される。このように、前駆体溶液(ゾル)L1の塗布形状が多孔質シリカの形状に反映され、成形性が良好となる。膜の厚さは、前駆体溶液(ゾル)L1の粘度により調整することができ、例えば、1000nm~106nm程度とすることができる。
【0039】
そして、この膜状の多孔質シリカには、界面活性剤よりなるミセル(鋳型)に対応する孔が多数形成されている。この孔は、例えば、メソ孔やミクロ孔である。
【0040】
加えて、後述するように、この膜状の多孔質シリカには、膜の延在方向と交差する方向に延在する多数のマクロ孔を有する。本願においては、IUPACの基準に基づき、直径が、2nm以下の細孔をミクロ孔と、2~50nmの細孔をメソ孔と、50nm以上の細孔をマクロ孔とする。
【0041】
即ち、本実施の形態の膜状の多孔質シリカは、膜の延在方向と交差する方向に延在する多数のマクロ孔(マイクロメートルサイズの孔)を有し、そのマクロ孔の側壁には、ミセル(鋳型)に対応する孔(メソ孔、ミクロ孔)を有する。マクロ孔の直径は、100nm以上2000nm以下である。また、マクロ孔の側壁の厚さは、100nm以上2000nm以下である。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、配向性を有するマクロ孔と、このマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO2)の内部のミセル(鋳型)に対応するメソ孔やミクロ孔と、を有する多孔質シリカを形成することができる。このような2種以上の細孔を有する多孔質シリカを、“階層的多孔構造を有する多孔質シリカ”と呼ぶ場合がある。
【0043】
図2は、本実施の形態の多孔質シリカの構成を模式的に示す図である。なお、
図2の写真は、後述する実施例1(
図7(C))の多孔質シリカ(膜状)のSEM像である。
【0044】
図2に示すように、膜の延在方向(即ち、基板SUBの表面)とほぼ垂直な方向に、複数の柱状の孔(第1細孔)P1が形成されている。この孔の直径(短径、平均細孔直径、柱状の断面の径)D1は、100nm以上である。また、柱状の孔P1の側壁を構成する多孔質シリカPSの内部には、ミセル(鋳型)に対応する第2細孔(メソ孔やミクロ孔)P2が形成されている。この孔の直径(短径、平均細孔直径)をD2とする。この第2細孔(メソ孔やミクロ孔)P2の一部は、柱状の孔P1の側壁から露出している。別の言い方をすれば、第2細孔(メソ孔やミクロ孔)P2の一部は、柱状の孔P1と連結している。
【0045】
このように、本実施の形態の多孔質シリカによれば、マクロ孔を設け、その側壁にメソ孔やミクロ孔が露出することで、メソ孔やミクロ孔を効率的に機能させることができる。例えば、多孔質シリカを吸着剤として用いる場合に、物質の吸着効率を向上させることができる。また、多孔質シリカに触媒などの機能性材料を担持させる場合においても基質の拡散性向上による触媒機能の効率化や触媒の担持量を大きくすることができる。このように、多孔質シリカの特性を向上させることができる。
【0046】
図3は、ミセル(鋳型)を模式的に示す図である。
図3からも明らかなように、界面活性剤のR
1(疎水部、疎水性アルキル鎖)の炭素数に基づきミセルの直径が決まる。よって、上記炭素数が大きい程、ミセルの直径(即ち、第2細孔の直径)が大きくなり、上記炭素数が小さくなるに伴い、ミセルの直径(即ち、第2細孔の直径)が小さくなる。例えば、界面活性剤のR
1(疎水部)の炭素数が8以上の場合には、第2細孔の直径(短径)D2は、50nm以下のメソ孔となるが、界面活性剤のR
1(疎水部)の炭素数が8未満(炭素数が2~7)の場合には、第2細孔の直径(短径)D2は、2nm以下のミクロ孔となる。このように界面活性剤のR
1(疎水部)の炭素数を調整することにより、第2細孔の直径(短径)D2を、例えば、0.5nm以上3nm以下に調整することができる。
【0047】
特に、界面活性剤のR1(疎水部)の炭素数が8未満の場合には、ミセルの形成が困難となりやすい。これに対し、本実施の形態においては、前述したように、できるだけ少ない水(溶媒)で加水分解させることで、反応系をほぼ純粋なシリケートイオンと界面活性剤との混合物に維持することができ、鋳型となる界面活性剤のミセルの安定性を確保することができ、第2細孔の直径(短径)D2を小さくすることが可能である。
【0048】
また、マクロ孔の形成メカニズムは明確とはなっていないが、次のようなメカニズムが考え得る。
【0049】
図4は、多孔質シリカの生成反応(ゾルゲル化)を示す反応式である。また、
図5は、マクロ孔の形成メカニズムを示す模式図である。
【0050】
図4の反応式1に示すように、テトラエトキシシラン(Si(OC
2H
5)
4)の加水分解により、Si(OH)
4(シリケートイオン)が形成される。そして、反応式2に示すように、Si(OH)
4が縮重合し、シリカ(SiO
2)が形成される(脱水縮合反応)。この反応系に、界面活性剤を添加し、ミセルが鋳型となることで、多孔質シリカを形成することができる。
【0051】
上記加水分解反応(反応式1)と、縮重合反応(反応式2)をまとめると、反応式3となる。
【0052】
図5(A)に示すように、基板SUBの表面の前駆体溶液(ゾル)L1が塩基性液L2であるアンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)と接すると、接触面において、前駆体溶液(ゾル)L1がゲル化(固化)し、SiO
2(Gel)が形成される。なお、このSiO
2の中には、ミセルMCが取り込まれている。
【0053】
このSiO
2の隙間から浸透圧により、前駆体溶液(ゾル)L1側にアンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)が浸み込む(
図5(B))。そして、浸み込んだアンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)の近傍において前駆体溶液(ゾル)L1がゲル化(固化)する(
図5(C))。さらに、アンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)が浸み込み、SiO
2が成長する。このように、SiO
2が、前駆体溶液(ゾル)L1が存在し、アンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)が浸み込む領域(図中の矢印部)を囲むように、成長する。そして、前駆体溶液(ゾル)L1が存在し、アンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)が浸み込む領域(図中の矢印部)が、柱状の孔(第1細孔、マクロ孔)P1となると考えられる。この柱状の孔(第1細孔、マクロ孔)P1は、配向性を有し、基板SUBの表面と交差する方向、より詳しくは略垂直に延在する。別の言い方をすれば、膜状の多孔質シリカの厚さ方向に延在する。
【0054】
このように、本実施の形態によれば、マクロ孔と、このマクロ孔の側壁にメソ孔やミクロ孔が露出した多孔質シリカを得ることができる。また、マクロ孔と、このマクロ孔の側壁にメソ孔やミクロ孔が露出した多孔質シリカを簡易な製造工程で得ることができる。即ち、ミセルMCを取り込んだシリカの成長と、その反応機構に由来すると思われる塩基性液の浸透およびゾルとの接触によるマクロ孔の形成と、が同時進行することにより、階層的多孔構造を有する多孔質シリカを容易に形成することができる。
【0055】
なお、
図1に示す工程においては、基板SUBの表面への前駆体溶液(ゾル)L1の塗布をいわゆるディップ法(浸漬法、
図1(B)、(C)参照)で行ったが、他の方法により前駆体溶液(ゾル)L1を塗布してもよい。
【0056】
図6は、前駆体溶液(ゾル)L1の基板SUBへの塗布方法を示す図である。例えば、
図6(A)に示すように、スプレーガン(霧吹き)SGを用いて前駆体溶液(ゾル)L1を基板SUB上に塗布してもよい。このような塗布をスプレーコートという。また、
図6(B)に示すように、ノズルNから前駆体溶液(ゾル)L1を、回転している基板SUB上に吐出し、回転塗布してもよい。このような塗布をスピンコートという。
【0057】
また、基板SUBの種類に制限はないが、例えば、シリコン基板やガラス基板などを用いることができる。また、基板の他、ガラスフィルタなどを用いてもよい。ガラスフィルタとは、ガラス繊維の集合体であり、例えば、板状に加工したものがある。
【0058】
このように、本実施の形態によれば、階層的多孔構造を有し、かつ、膜状の多孔質シリカを製造することができる。
【0059】
ここで、例えば、特許文献2においては、界面活性剤、アルコキシシランおよび水に加え、ポリエチレングリコールのような水溶性高分子の存在下において、アルコキシシランを加水分解し、この混合液を、塩基性溶液と接触させることにより、モノリス状のメソポーラスシリカをナノ粒子化することに成功している。この場合、約2nm程度の界面活性剤に由来するメソ孔と、約20~50nm程度の粒子間隙に対応するメソ孔との2つの細孔を有する多孔質シリカが形成されている。
【0060】
この場合、2種の細孔の孔径差が小さすぎる。また、ポリエチレングリコールのような水溶性高分子が必須である。さらに、約20~50nm程度の粒子間隙に対応するメソ孔に配向性がない。
【0061】
また、非特許文献2のように、氷晶をテンプレートとして階層的多孔構造を形成する方法では、マクロ孔径が数十μmと大きくなり、2種の細孔の孔径差が大きすぎる。
【0062】
このような方法と比較し、本実施の形態によれば、例えば、吸着剤や触媒担持体としての使用した場合、マクロ孔での高い基質拡散性を発揮し、ミクロ孔やメソ孔への基質の吸着を促すため、吸着効率や触媒効率を向上させることができる。また、マクロ孔に配向性を持たせることができ、より高い基質拡散効率を得ることができる。このように、効果的な孔径差を有する階層的多孔構造の多孔質シリカを得ることができる。
【0063】
以下、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。
【0064】
(実施例1)…階層的多孔構造を有し、かつ、膜状の多孔質シリカの合成
ポリプロピレン製容器にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)8g(0.038mol;1eq)を入れ、続いてカチオン性界面活性剤を、0.0075mol~0.038mol(0.2~1eq)を分散させ、撹拌した。この時点で、TEOSと界面活性剤とは混じり合わない。即ち、均一な溶液とならない。カチオン性界面活性剤としては、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C18TAC)またはヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド(C6TAB)を用いた。
【0065】
次いで、上記混合液に、塩酸を用いてpHを0~2程度に調整した水を2.74g(0.152mol;4eq)程度、添加し、室温で撹拌することにより、溶液(前駆体溶液)を得た。この溶液は、ゾル状である。1時間程度の撹拌でTEOSの加水分解が進行し、ほぼ均一な溶液(前駆体溶液、ゾル)が得られた。本実施例では、撹拌時間は6時間とした。
【0066】
この溶液(前駆体溶液、ゾル)に、基板(シリコン基板)を浸漬し(ディップコートし)、その後、25%のアンモニア水溶液に浸漬した。基板の表面に付着した上記溶液(前駆体溶液、ゾル)は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、膜状の多孔質シリカを得た。
【0067】
得られた多孔質シリカの細孔を解析した。比表面積(SSA)、細孔容積(TPV)、平均細孔径(D)を測定した。比表面積(SSA)は、BET法により測定した。平均細孔径は、GCMC法を用いて測定した。
【0068】
C18TACを用いた多孔質シリカの、BET比表面積は1144m2/g、細孔容積は0.85cm3/gであった。
【0069】
C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)のSEM像を
図7、
図8に示す。
図7において、(A)は、C18TACを用いた多孔質シリカの上面のSEM像であり、膜状の多孔質シリカが得られていることが分かる。また、(B)は、膜状の多孔質シリカの断面のSEM像であり、(C)は、その拡大SEM像である。また、
図8は、多孔質シリカの上面の拡大SEM像である。
【0070】
図7の(B)、(C)および
図8から明らかなように、膜の延在方向に垂直(膜の厚さ方向)に、複数のマクロ孔が空いていることが観測された。なお、
図8のSEM像においては、多孔質シリカの表面部が欠けて、マクロ孔が明確に表れている箇所のSEM像を撮影した(
図13も同様)。
【0071】
このように、C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)は、界面活性剤のミセルを鋳型としたメソ孔と、SEM像で確認されるマクロ孔とを有する階層的多孔構造を有するシリカであることが分かる。
【0072】
図9は、C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図9においては、(a)部において、グラフが屈曲し、傾きが変化している。このような(a)部は、IUPACの分類のIV型に対応するもので、ミクロ孔またはメソ孔の存在が推測される。さらに、(b)部においても、グラフの屈曲部が存在し、ヒステリシスループも確認できる。この(b)部も、上記IV型に対応するもので、より大きいマクロ孔の存在も推測される。
【0073】
図10および
図11は、C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の細孔径分布を示すグラフである。
図10は、GCMC法に基づくミクロ孔またはメソ孔の細孔径分布であり、
図11は、水銀圧入法によるマクロ孔の細孔径分布である。横軸は、細孔径(Pore diameter,[nm])であり、縦軸は、積算細孔容積(dVp,[cm
3/g])である。なお、
図11において、右側の縦軸は、Log微分細孔容積(dV/d(logD),[cm
3/g])である。
【0074】
図10に示すように、平均細孔径(GCMC法)は、3.5nm(メソ孔)であった。
図11に示すように、マクロ孔の平均細孔径は、600nm程度であった。なお、
図11に示す2つ目のピーク(10
5nm)は、多孔質シリカ間の間隙(すきま)に基づくものであり、SEM像で確認されたマクロ孔に基づくものではない。
【0075】
以上のとおり、C18TACを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)は、600nmのマクロ孔と、3.5nmのメソ孔を有する階層的多孔構造を有するシリカ膜であることが分かった。
【0076】
C6TABを用いた多孔質シリカの、BET比表面積は626m2/g、細孔容積は0.65cm3/gであった。
【0077】
C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)のSEM像を
図12、
図13に示す。
図12は、膜状の多孔質シリカの断面の拡大SEM像であり、
図13は、多孔質シリカの上面の拡大SEM像である。
【0078】
図12および
図13から明らかなように、C6TABを用いた多孔質シリカ(C6)においても、膜の延在方向に垂直(膜の厚さ方向)に、複数のマクロ孔が空いていることが観測された。
【0079】
このように、C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)は、界面活性剤のミセルを鋳型としたミクロ孔と、SEM像で確認されるマクロ孔とを有する階層的多孔構造を有するシリカであることが分かる。
【0080】
図14は、C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図14においては、(a)部において、グラフが屈曲し、傾きが変化している。このような(a)部は、IUPACの分類のI型に対応するもので、ミクロ孔の存在が推測される。さらに、(b)部においても、グラフの屈曲部が存在し、ヒステリシスループも確認できる。この(b)部も、上記IV型に対応するもので、より大きいマクロ孔の存在も推測される。
【0081】
図15は、C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)の細孔径分布を示すグラフである。
図15は、GCMC法に基づくミクロ孔またはメソ孔の細孔径分布である。
【0082】
図15に示すように、平均細孔径(GCMC法)は、1.3nm(ミクロ孔)であった。また、水銀圧入法により、マクロ孔の細孔径分布を調べたところ、マクロ孔の平均細孔径は、500nm程度であった。
【0083】
以上のとおり、C6TABを用いて合成した多孔質シリカ(膜状)は、500nmのマクロ孔と、1.3nmのミクロ孔を有する階層的多孔構造を有するシリカ膜であることが分かった。
【0084】
(比較例1)…界面活性剤を用いないで合成したシリカ
実施例1の溶液(前駆体溶液、ゾル)の形成において、界面活性剤を添加しないで、溶液を形成した。即ち、ポリプロピレン製容器にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)8g(0.038mol;1eq)を入れ、次いで、塩酸を用いてpHを0~2程度に調整した水を2.74g(0.152mol;4eq)程度、添加し、室温で撹拌することにより、溶液(前駆体溶液、ゾル)を得た。撹拌時間は6時間とした。
【0085】
この溶液(前駆体溶液、ゾル)に、基板(シリコン基板)を浸漬し(ディップコートし)、その後、25%のアンモニア水溶液に浸漬した。基板の表面に付着した上記溶液(前駆体溶液、ゾル)は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、シリカを得た。
【0086】
本比較例のシリカのSEM像を
図16に示す。
図16からも明らかなように、界面活性剤を添加しない場合には、マクロ孔は形成されず、アモルファスなシリカ粒子の集合体が得られるにすぎないことが分かった。また、界面活性剤を添加していないため、ミセルが形成されず、ミクロ孔およびメソ孔も形成されていない。
【0087】
このように、界面活性剤を添加しない場合には、マクロ孔と、ミクロ孔またはメソ孔を有する階層的多孔構造を有するシリカを形成することはできなかった。このことから、階層的多孔構造を有するシリカの合成のためには、界面活性剤が必須であることが分かった。
【0088】
(比較例2)…ゲル化した後、アンモニア水溶液に浸漬することにより合成したシリカ
実施例1の溶液(前駆体溶液、ゾル)を、シリコン基板上に1000rpmでスピンコートし塗布膜を形成し、大気中で乾燥させた。乾燥により、塗布膜はゲル化し流動性を失った。このゲル化物を25%のアンモニア水溶液に浸漬した。その後、ゲル化物を60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、多孔質シリカを得た。
【0089】
本比較例の多孔質シリカのSEM像を
図17に示す。
図17からも明らかなように、溶液(前駆体溶液、ゾル)をゲル化した後、アンモニア水溶液に浸漬しても、マクロ孔は形成されなかった。なお、界面活性剤は添加されているため、ミセルを鋳型としたミクロ孔またはメソ孔は形成されていると考えられる。
【0090】
このように、溶液(前駆体溶液、ゾル)をゲル化した後、アンモニア水溶液に浸漬した場合には、マクロ孔と、ミクロ孔またはメソ孔を有する階層的多孔構造を有するシリカを形成することはできなかった。このことから、階層的多孔構造を有するシリカの合成のためには、溶液(前駆体溶液、ゾル)の吐出後、この溶液がゲル化する前に、アンモニア水溶液に接触させることが必須であることが分かった。
【0091】
本明細書において、ゲル化とは、例えば、溶液の粘度[mPa・s]が、100[mPa・s]以上となることを言い、撹拌後の溶液の粘度としては、50[mPa・s]以下の段階で塩基性液(アンモニア水溶液)に接触させることが好ましい。
【0092】
(実施例2)…撹拌時間と膜厚(ミクロ孔の長さ)との関係
カチオン性界面活性剤としてオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C18TAC)を用いて、実施例1と同様に膜状の多孔質シリカを形成した。即ち、ポリプロピレン製容器にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)8g(0.038mol;1eq)を入れ、続いてカチオン性界面活性剤(C18TAC)を、0.0075mol~0.038mol(0.2~1eq)を分散させ、撹拌した。この時点で、TEOSと界面活性剤とは混じり合わない。即ち、均一な溶液とならない。
【0093】
次いで、上記混合液に、塩酸を用いてpHを0~2程度に調整した水を2.74g(0.152mol;4eq)程度、添加し、室温で撹拌することにより、溶液(前駆体溶液)を得た。この溶液は、ゾル状である。
【0094】
撹拌時間を、1、6、24時間と変えた溶液(前駆体溶液、ゾル)を用意した。1時間程度の撹拌でTEOSの加水分解が進行し、ほぼ均一な溶液(前駆体溶液、ゾル)が得られた。また、撹拌時間が1時間から6時間、24時間と長くなるにしたがって、溶液(前駆体溶液、ゾル)の粘性が高くなったが、溶液のゲル化には至らなかった。
【0095】
撹拌後の溶液に、基板(シリコン基板)を浸漬し(ディップコートし)、その後、25%のアンモニア水溶液に浸漬した。基板の表面に付着した上記溶液(前駆体溶液、ゾル)は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、膜状の多孔質シリカを得た。
【0096】
攪拌時間の延長に伴い、膜状の多孔質シリカの膜厚の増加が確認された。撹拌時間が1時間の場合は、膜厚が20μm程度であり、撹拌時間が6時間の場合は、膜厚が30μm程度であり、撹拌時間が24時間の場合は、膜厚が35μm程度であった。
【0097】
このような膜厚の変化は、溶液(前駆体溶液、ゾル)の攪拌時間の延長に伴い、前駆体シリケートの重合が進行し、例えば、オリゴマーとなり、ゾルの粘性が上昇したことに起因する。このように、溶液(前駆体溶液、ゾル)の攪拌時間を調整することで、膜状の多孔質シリカの膜厚をコントロールすることが可能である。
【0098】
図18は、膜状の多孔質シリカの断面の拡大SEM像である。
図18の(A)は、撹拌時間が1時間の場合、(B)は、撹拌時間が6時間の場合、(C)は、撹拌時間が24時間の場合である。
【0099】
図18の(A)と(B)の比較より、撹拌時間が1時間から6時間になると、マクロ孔の長さが長くなる傾向が確認できる。また、
図18の(B)と(C)の比較より、撹拌時間が6時間から24時間になると、マクロ孔の長さが長くなり、表面と逆側(基板側)において、柱状のマクロ孔が屈曲していることが分かる。
【0100】
(実施例3)…ガラスフィルタ上に形成した多孔質シリカ
カチオン性界面活性剤としてオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C18TAC)を用いて、実施例2と同様に膜状の多孔質シリカを形成した。即ち、ポリプロピレン製容器にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)8g(0.038mol;1eq)を入れ、続いてカチオン性界面活性剤(C18TAC)を、0.0075mol~0.038mol(0.2~1eq)を分散させ、撹拌した。この時点で、TEOSと界面活性剤とは混じり合わない。即ち、均一な溶液とならない。
【0101】
次いで、上記混合液に、塩酸を用いてpHを0~2程度に調整した水を2.74g(0.152mol;4eq)程度、添加し、室温で撹拌することにより、溶液(前駆体溶液)を得た。この溶液は、ゾル状である。1時間程度の撹拌でTEOSの加水分解が進行し、ほぼ均一な溶液(前駆体溶液、ゾル)が得られた。本実施例では、撹拌時間は6時間とした。
【0102】
この溶液(前駆体溶液、ゾル)に、ガラスフィルタを浸漬(ディップコート)した後、25%アンモニア水溶液中に浸漬した。ガラスフィルタの表面に付着した上記溶液(前駆体溶液、ゾル)は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、膜状の多孔質シリカを得た。
【0103】
図19は、ガラスフィルタのSEM像であり、
図20は、膜状の多孔質シリカの断面の拡大SEM像である。
【0104】
本実施例においても、
図20に示すように、ガラスフィルタ上に膜状の多孔質シリカが形成され、膜の延在方向に垂直(膜の厚さ方向)に、複数のマクロ孔が空いていることが観測された。マクロ孔の平均細孔径は、500nm程度である。また、膜状の多孔質シリカの下方には、ガラスフィルタの繊維の周囲に形成された多孔質シリカを確認することができる。
【0105】
(実施の形態2)…粒状の多孔質シリカ
実施の形態1においては、膜状の多孔質シリカを形成したが、本実施の形態としては、粒状の多孔質シリカを形成する。
【0106】
本実施の形態においても、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法により、多孔質シリカを合成する。前述したように、一般的には、溶液中に界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類と濃度に応じて例えば筒状のミセル(鋳型)が形成される。ここで溶液中にシリカ源となるアルコキシシランなどを加えると、ミセルの隙間でシリケートイオンの吸着および成長反応が進行し、シリカゲル骨格が形成される。このシリケートイオンの吸着および成長反応により、ゾル状態からゲル状態へ変化するためゾルゲル反応と呼ばれる(
図4参照)。この後、焼成(熱処理)すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて多孔質シリカが得られる。言い換えれば、複数の孔(細孔、微細孔)を有するシリカ骨格が得られる。
【0107】
以下に、本実施の形態の多孔質シリカの合成方法について詳細に説明する。
図21は、本実施の形態の多孔質シリカの製造工程を示す図である。
【0108】
実施の形態1の場合と同様にして、多孔質シリカの前駆体溶液(ゾル、ゾル状態液)L1を形成する。即ち、シリカ源となるシリコン化合物と界面活性剤とを混合し、攪拌し、この混合液中に、水を添加し攪拌することで前駆体溶液L1を形成する。
【0109】
シリカ源、界面活性剤および添加する水(H2O)等については、実施の形態1の場合と同様の材料を使用することができる。
【0110】
本実施の形態においても、多孔質シリカの孔となる筒状のミセル(鋳型)の成型性の向上のためには、できるだけ少ない水(溶媒)で加水分解することが好ましい(
図4参照)。そのため、アルコキシシランに対する水の添加量は、反応に最低限必要な2等量(eq)以上20等量以下の範囲、より好ましくは、2等量以上10等量以下の範囲、さらに好ましくは、2等量以上4等量以下の範囲とする。このように、少溶媒の系とする理由は、実施の形態1において説明したとおりである。
【0111】
次いで、前駆体溶液(ゾル)L1を液滴状とし、塩基性液L2と接触させる。これにより、液滴において、ミセルの隙間でシリケートイオンの吸着および成長反応(ゾルゲル反応)が進行し、粒状(例えば、略球状)のシリカ(SiO
2)が形成される(
図4参照)。このように、前駆体溶液(ゾル)L1の滴下形状が多孔質シリカの形状に反映され、成形性が良好となる。粒子の大きさは、塩基性液中に滴下する前駆体溶液(ゾル)L1の液滴の大きさにより調整することができ、例えば、粒子(球状)の直径は、1000nm~5×10
6nm程度とすることができる。
【0112】
例えば、
図21に示すように、前駆体溶液(ゾル)L1を、スプレーガン(霧吹き)SGを用いて、塩基性液L2中に噴霧する。塩基性液L2としては、例えば、アンモニア水溶液を用いることができる。なお、スプレーガン(霧吹き)SGに代えて、
図22に示すような、スポイトEDを用いてもよい。スポイトEDを用いることで、液滴の大きさを大きくすることができる。また、スポイトEDの他、注射器などを用いてもよい。
図22は、本実施の形態の多孔質シリカの他の製造工程を示す図である。
【0113】
図21等に示す液滴状の前駆体溶液(ゾル)L1は、塩基性液L2と接触することで、ゲル化(固化)する。このゲルを、取り出し、乾燥した後、焼成する。この焼成により、シリカ(SiO
2)の内部の界面活性剤が除去され、粒状の多孔質シリカPSを得ることができる。
【0114】
そして、この粒状の多孔質シリカには、界面活性剤よりなるミセル(鋳型)に対応する孔が多数形成されている。この孔は、例えば、メソ孔やミクロ孔である。
【0115】
加えて、後述するように、この粒状の多孔質シリカには、粒子の中心部から放射状に延びる多数のマクロ孔を有する。別の言い方をすれば、粒子の内部から外側の方向に延在する複数の柱状のマクロ孔を有する。また、別の言い方をすれば、粒子の外側から内部(例えば、中心部)の方向に延在する複数の柱状のマクロ孔を有する。
【0116】
このように、本実施の形態の粒状の多孔質シリカは、粒子の中心部から放射状に延びる多数のマクロ孔を有し、そのマクロ孔の側壁には、ミセル(鋳型)に対応する孔(メソ孔、ミクロ孔)を有する。マクロ孔の直径(短径、平均細孔直径、柱状の断面の径)は、100nm以上2000nm以下である。また、マクロ孔の側壁の厚さは、100nm以上2000nm以下である。
【0117】
このように、本実施の形態によれば、配向性を有するマクロ孔と、このマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO2)の内部のミセル(鋳型)に対応するメソ孔やミクロ孔と、を有する多孔質シリカを形成することができる。
【0118】
本実施の形態においても、複数の柱状の孔(第1細孔)P1が形成され、柱状の孔P1の側壁を構成する多孔質シリカPSの内部には、ミセル(鋳型)に対応する第2細孔(メソ孔やミクロ孔)P2が形成される。この第2細孔(メソ孔やミクロ孔)P2の一部は、柱状の孔P1の側壁から露出している。別の言い方をすれば、第2細孔(メソ孔やミクロ孔)P2の一部は、柱状の孔P1と連結している(
図2参照)。
【0119】
このように、本実施の形態の多孔質シリカによれば、マクロ孔を設け、その側壁にメソ孔やミクロ孔が露出することで、メソ孔やミクロ孔を効率的に機能させることができる。例えば、多孔質シリカを吸着剤として用いる場合に、物質の吸着効率を向上させることができる。また、多孔質シリカに触媒などの機能性材料を担持させる場合においても基質の拡散性向上による触媒機能の効率化や触媒の担持量を大きくすることができる。このように、多孔質シリカの特性を向上させることができる。
【0120】
また、本実施の形態においても、界面活性剤のR
1(疎水部、疎水性アルキル鎖)の炭素数に基づきミセルの直径が決まる(
図3参照)。よって、上記炭素数が大きい程、ミセルの直径(即ち、第2細孔の直径)が大きくなり、上記炭素数が小さくなるに伴い、ミセルの直径(即ち、第2細孔の直径)が小さくなる。例えば、界面活性剤のR
1(疎水部)の炭素数が8以上の場合には、第2細孔の直径(短径)D2は、50nm以下のメソ孔となるが、界面活性剤のR
1(疎水部)の炭素数が8未満(炭素数が2~7)の場合には、第2細孔の直径(短径)D2は、2nm以下のミクロ孔となる。このように、界面活性剤のR
1(疎水部)の炭素数を調整することにより、第2細孔の直径(短径)D2を、例えば、0.5nm以上3nm以下に調整することができる。
【0121】
特に、界面活性剤のR1(疎水部)の炭素数が8未満の場合には、ミセルの形成が困難となりやすい。これに対し、本実施の形態においては、前述したように、できるだけ少ない水(溶媒)で加水分解させることで、反応系をほぼ純粋なシリケートイオンと界面活性剤との混合物に維持することができ、鋳型となる界面活性剤のミセルの安定性を確保することができ、第2細孔の直径(短径)D2を小さくすることが可能である。
【0122】
また、マクロ孔の形成メカニズムは明確とはなっていないが、次のようなメカニズムが考え得る。
【0123】
図23は、マクロ孔の形成メカニズムを示す模式図である。なお、本実施の形態のシリカ(SiO
2)形成の反応機構は、実施の形態1の場合と同様である(
図4参照)。
【0124】
図23に示すように、基板SUBの表面の前駆体溶液(ゾル)L1が塩基性液L2であるアンモニア(NH
4OH、NH
4
++OH
-)と接すると、接触面において、前駆体溶液(ゾル)L1がゲル化(固化)し、SiO
2(Gel)が形成される。なお、このSiO
2の中には、ミセルMCが取り込まれている。
【0125】
このSiO2の隙間から浸透圧により、前駆体溶液(ゾル)L1側にアンモニア(NH4OH、NH4
++OH-)が浸み込む。そして、浸み込んだアンモニア(NH4OH、NH4
++OH-)の近傍において前駆体溶液(ゾル)L1がゲル化(固化)する。さらに、アンモニア(NH4OH、NH4
++OH-)が浸み込み、SiO2が成長する。このように、SiO2が、前駆体溶液(ゾル)L1が存在し、アンモニア(NH4OH、NH4
++OH-)が浸み込む領域(図中の矢印部)を囲むように、成長する。そして、前駆体溶液(ゾル)L1が存在し、アンモニア(NH4OH、NH4
++OH-)が浸み込む領域(図中の矢印部)が、柱状の孔(第1細孔、マクロ孔)P1となると考えられる。この柱状の孔(第1細孔、マクロ孔)P1は、配向性を有し、前駆体溶液(ゾル)L1の粒状の液滴LDの外側から内部(例えば、中心部)の方向に延在する。
【0126】
このように、本実施の形態によれば、マクロ孔と、このマクロ孔の側壁にメソ孔やミクロ孔が露出した多孔質シリカを得ることができる。また、マクロ孔と、このマクロ孔の側壁にメソ孔やミクロ孔が露出した多孔質シリカを簡易な製造工程で得ることができる。即ち、ミセルMCを取り込んだシリカの成長と、その反応機構に由来すると思われる塩基性液の浸透およびゾルとの接触によるマクロ孔の形成と、が同時進行することにより、階層的多孔構造を有する多孔質シリカを容易に形成することができる。
【0127】
以下、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。
【0128】
(実施例4)…階層的多孔構造を有し、かつ、粒状の多孔質シリカの合成
ポリプロピレン製容器にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)8g(0.038mol;1eq)を入れ、続いてカチオン性界面活性剤(C18TAC)を、0.0075mol~0.038mol(0.2~1eq)を分散させ、撹拌した。この時点で、TEOSと界面活性剤とは混じり合わない。即ち、均一な溶液とならない。
【0129】
次いで、上記混合液に、塩酸を用いてpHを0~2程度に調整した水を2.74g(0.152mol;4eq)程度、添加し、室温で撹拌することにより、溶液(前駆体溶液)を得た。この溶液は、ゾル状である。1時間程度の撹拌でTEOSの加水分解が進行し、ほぼ均一な溶液(前駆体溶液、ゾル)が得られた。本実施例では、撹拌時間は6時間とした。
【0130】
この溶液(前駆体溶液、ゾル)を、霧吹きに入れ、25%アンモニア水溶液中に噴霧した。上記溶液(前駆体溶液、ゾル)の液滴は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。この場合、直径が約100μmの粒子ゲル(球状のゲル)となった。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、粒状の多孔質シリカを得た。
【0131】
得られた粒状の多孔質シリカの、BET比表面積は1016m2/g、細孔容積は0.92cm3/gであり、平均細孔径(GCMC法)は、3.5nm(メソ孔)であった。
【0132】
本実施例の多孔質シリカ(粒状)のSEM像を
図24に示す。
図24において、(A)は、多孔質シリカ(粒状)の上面のSEM像であり、粒状の多孔質シリカが得られていることが分かる。粒子の直径(平均)は、100μm程度である。また、(B)は、粒状の多孔質シリカの断面のSEM像であり、(C)は、その拡大SEM像である。
【0133】
図24の(B)、(C)から明らかなように、粒子の表面から内部に向かって、複数のマクロ孔が空いていることが観測された。別の言い方をすれば、粒子の中心部から放射状に延びるマクロ孔が空いていることが観測された。マクロ孔の平均細孔径は、500nm程度である。
【0134】
このように、多孔質シリカを粒状としても、500nmのマクロ孔と、3.5nmのメソ孔を有する階層的多孔構造を有するシリカとなることが分かった。
【0135】
(実施例5)…階層的多孔構造を有し、かつ、粒状の多孔質シリカの合成
実施例4の場合と同様にして、溶液(前駆体溶液、ゾル)を調整し、この溶液(前駆体溶液、ゾル)を、注射器に入れ、25%アンモニア水溶液中に滴下した。上記溶液(前駆体溶液、ゾル)の液滴は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。この場合、直径が約1mmの粒子ゲル(球状のゲル)となった。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤を除去した。これにより、粒状の多孔質シリカを得た。
【0136】
得られた粒状の多孔質シリカの、BET比表面積は1007m2/g、細孔容積は0.91cm3/gであり、平均細孔径(GCMC法)は、3.5nm(メソ孔)であった。
【0137】
本実施例の多孔質シリカ(粒状)のSEM像を
図25に示す。
図25において、(A)は、粒状の多孔質シリカの断面のSEM像であり、(B)は、領域A1の拡大SEM像であり、(C)は、領域A2の拡大SEM像である。
【0138】
粒子の直径(平均)は、1mm程度である。
図25の(A)~(C)から明らかなように、本実施例の場合も、粒子の表面から内部に向かって、複数のマクロ孔が空いていることが観測された。別の言い方をすれば、粒子の中心部から放射状に延びるマクロ孔が空いていることが観測された。
【0139】
具体的には、
図25(C)に示すように、0.7μm(700nm)、1.4μm(1400nm)、2.0μm(2000nm)のマクロ孔が確認できる。マクロ孔の平均細孔径は、500nm程度である。
【0140】
このように、多孔質シリカを粒状としても、500nmのマクロ孔と、3.5nmのメソ孔を有する階層的多孔構造を有するシリカとなることが分かった。
【0141】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカの適用例について説明する。
【0142】
上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカは、例えば、吸着剤、種々の触媒担持体などとして用いることができる。
【0143】
ここでは、多孔質シリカの適用例として、空気清浄器を例に説明する。
図26は、本実施の形態の空気清浄器の構成を示す模式図である。
【0144】
図26に示す空気清浄器は、例えば、吸引ファンFNと、第1フィルタF1、第2フィルタF2とを有する。吸引ファンFNにより取り込まれた空気(Air)は、第1フィルタF1で埃などの大きなゴミが取り除かれる。そして、第1フィルタF1を通過した微細な粒子は、第2フィルタF2で捕集される。取り除きたい微細な粒子としては、カビや花粉、たばこの煙、排気ガス、たばこ臭やペット臭のような悪臭、ホルムアルデヒドのような有害な揮発性有機化合物(VOC)などがある。
【0145】
例えば、第2フィルタF2として、実施の形態1で説明した膜状の多孔質シリカを用いることにより、微細な粒子を、マクロ孔、メソ孔またはミクロ孔により吸着することができる。
【0146】
また、ガラスフィルタと多孔質シリカとの積層膜(実施例3)を用いた場合、ガラスフィルタが第1フィルタF1の役割を兼ねることができる。また、粒状の多孔質シリカを、各種フィルタに接着するなどして固定することにより、第2フィルタF2として用いることができる。
【0147】
また、第2フィルタF2として、実施の形態1で説明した膜状の多孔質シリカに光触媒を担持させたものを用いることで、微細な粒子の吸着に加え、光触媒の作用により、吸着した微細な粒子を分解することができる。特に、光触媒をメソ孔またはミクロ孔内で合成すれば、量子ドット光触媒とすることができ、また、光触媒をマクロ孔内で合成すればナノ光触媒とすることができる。
【0148】
なお、光触媒を用いる場合には、第2フィルタF2の近傍に光源を設けてもよい。
【0149】
このように、上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカを空気清浄器に用いることにより、効率よく空気を清浄化することができる。特に、上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカを用いることで、マクロ孔での高い基質拡散性を発揮し、ミクロ孔やメソ孔への基質の吸着を促すため、吸着効率や触媒効率を向上させることができる。
【0150】
なお、空気清浄器は、上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカの適用例の一例にすぎず、上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカは、種々の用途に用いることが可能である。例えば、前述の吸着剤、種々の触媒担持体の他、濾過膜、ガス分離膜、クロマトグラフィー充填剤、セパレータなどに応用可能である。
【0151】
このように、上記実施の形態1、2で説明した多孔質シリカは、機能材料(吸着剤、フィルタ、触媒担持体、濾過膜、ガス分離膜、クロマトグラフィー充填剤、セパレータ)などとして広く適用可能である。
【0152】
(実施の形態4)
本実施の形態においては、ガラスフィルタの表面にのみ多孔質シリカの膜を製造する方法について説明する。
【0153】
前述したように、ガラスフィルタとは、ガラス繊維の集合体であり、例えば、板状に加工したものがある。このため、ガラスフィルタには、ガラス繊維間に多数の隙間(空隙、孔)が含まれている。よって、前述した実施例3のように、前駆体溶液に、板状のガラスフィルタを浸漬(ディップコート)した場合、板状のガラスフィルタの表面に膜状の多孔質シリカが形成され、また、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)にも前駆体溶液が浸み込み、多孔質シリカが生成する。
【0154】
そこで、例えば、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)を有効に機能させるため、ガラスフィルタの表面にのみ多孔質シリカの膜を形成することが望まれる。
【0155】
このような場合、あらかじめガラスフィルタに、焼成や洗浄により除去可能な高粘性液体、例えば、流動パラフィンなどを浸み込ませ、即ち、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)を高粘度液体で充填した状態で、前駆体溶液に浸漬し、多孔質シリカの膜を形成する(実施例3参照)。
【0156】
図27および
図28は、本実施の形態のガラスフィルタと多孔質シリカの膜との合成膜の製造工程を示す図である。
【0157】
まず、
図27(A)に示すように、板状のガラスフィルタGF(
図28(A)も参照)を、流動パラフィンLpに浸漬し、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)Spに流動パラフィンLpを浸み込ませる(
図28(B)も参照)。
【0158】
この後は、実施例1の場合と同様にして、多孔質シリカの前駆体溶液(ゾル、ゾル状態液)L1を調整し、ガラスフィルタGFを前駆体溶液(ゾル)L1に浸漬することにより(
図27(B))、ガラスフィルタGFの表面に前駆体溶液(ゾル)L1の塗布層を形成する。
【0159】
次いで、
図27(C)に示すように、前駆体溶液(ゾル)L1が付着したガラスフィルタGFの表面の前駆体溶液(ゾル)L1を塩基性液(例えば、アンモニア水溶液)L2と接触させる(
図27(C))。これにより、ミセルの隙間でシリケートイオンの吸着および成長反応(ゾルゲル反応)が進行し、シリカ(SiO
2)が形成される(
図27(D)、
図4参照)。
【0160】
具体的に、ガラスフィルタGFの表面に付着した前駆体溶液(ゾル)L1は、塩基性液L2と接触することで、ゲル化(固化)する(
図27(D)、
図28(C))。このゲルを、乾燥した後、焼成する。この焼成により、シリカ(SiO
2)の内部の界面活性剤が除去され、多孔質シリカPSを得ることができる(
図27(E))。また、この焼成により、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)Spの流動パラフィンLpが分解、気化し、除去される(
図28(D))。
【0161】
このようにして、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)を維持しつつ、その表面に階層的多孔構造を有する多孔質シリカを形成することができる。より具体的には、本実施の形態のガラスフィルタは、配向性を有する柱状のマクロ孔と、このマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO2)の内部のミセル(鋳型)に対応するメソ孔やミクロ孔と、を有する多孔質シリカ部と、ガラス繊維間の多数の隙間(孔)とを有するガラスフィルタ部と、を有する。なお、配向性を有する柱状のマクロ孔をチャネル(マクロチャネル)とも言う。
【0162】
(実施例A)…ガラスフィルタの表面にのみ形成した多孔質シリカ
基板となるガラスフィルタは、あらかじめ流動パラフィンに浸漬し、流動パラフィンを浸み込ませておいた。
【0163】
カチオン性界面活性剤としてオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C18TAC)を用いて、実施例2と同様に膜状の多孔質シリカを形成した。即ち、ポリプロピレン製容器にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)8g(0.038mol;1eq)を入れ、続いてカチオン性界面活性剤(C18TAC)を、0.0075mol~0.038mol(0.2~1eq)を分散させ、撹拌した。この時点で、TEOSと界面活性剤とは混じり合わない。即ち、均一な溶液とならない。
【0164】
次いで、上記混合液に、塩酸を用いてpHを0~2程度に調整した水を2.74g(0.152mol;4eq)程度、添加し、室温で撹拌することにより、溶液(前駆体溶液)を得た。この溶液は、ゾル状である。1時間程度の撹拌でTEOSの加水分解が進行し、ほぼ均一な溶液(前駆体溶液、ゾル)が得られた。本実施例では、撹拌時間は6時間とした。
【0165】
この溶液(前駆体溶液、ゾル)に、流動パラフィンを浸み込ませたガラスフィルタを浸漬(ディップコート)した後、25%アンモニア水溶液中に浸漬した。ガラスフィルタの表面に付着した上記溶液(前駆体溶液、ゾル)は、アンモニア水溶液に接触した瞬間にゲル化(固化)した。このゲルを60℃で乾燥、600℃で3時間焼成し、界面活性剤および流動パラフィンを除去した。これにより、表面に多孔質シリカの膜が形成されたガラスフィルタ(複合膜、機能膜)を得た。
【0166】
図29は、得られた表面に多孔質シリカの膜が形成されたガラスフィルタのSEM像である。(A)は、厚さ方向の断面のSEM像(例えば、
図28(D)参照)であり、右部は、部分拡大図である。また、(B)は、表面の多孔質シリカの膜を剥離した後のガラスフィルタ部の表面のSEM像である。
【0167】
図29に示すように、ガラスフィルタ上に膜状の多孔質シリカが形成され、膜の延在方向に垂直(膜の厚さ方向)に、複数のマクロ孔が空いていることが観測された。また、膜状の多孔質シリカの下方のガラスフィルタ部においては、ガラス繊維間の多数の隙間が残存していることが確認される。なお、前述したように、実施例3で説明した
図20の場合には、ガラスフィルタの繊維の周囲にも多孔質シリカが形成されており、本実施の形態の場合は、ガラスフィルタ部において、ガラス繊維間の多数の隙間がより空いていることが分かった。このように、ガラスフィルタをあらかじめ流動パラフィンに浸漬することで、ガラスフィルタのガラス繊維間よりその表面に優先的に多孔質シリカが形成され、ガラス繊維間での多孔質シリカの成長を抑制することができる。
【0168】
そして、本実施の形態においては、マクロ孔と、このマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO2)中のメソ孔やミクロ孔と、ガラス繊維間の隙間とを有する機能膜を得ることができる。これらの孔の平均径(平均の短径)は、ミクロ孔<マクロ孔<隙間となる。
【0169】
(実施の形態5)…多孔質シリカ内包粒子の製造
上記実施の形態で合成された配向性のあるマクロ孔と、このマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO2)中のメソ孔やミクロ孔と、を有する多孔質シリカを使用し、その孔(細孔、微細孔)に金属などの材料を内包させることにより微細粒子を合成することができる。
【0170】
例えば、多孔質シリカを金属化合物水溶液と接触させ、多孔質シリカの孔(メソ孔やミクロ孔)内に金属化合物水溶液を浸透させる。次いで、多孔質シリカを乾燥した後、焼成し、多孔質シリカの孔内に金属を内包させる。
【0171】
焼成により金属または金属化合物が析出(残存)する金属化合物水溶液(金属または前記金属を元素組成として有する化合物を含有する液)であれば、用いる金属化合物水溶液に制限はないが、例えば、当該水溶液として、過酸化タングステン酸水溶液や三塩化チタン水溶液などの、粒子材料を元素組成として有する化合物を用いることができる。
【0172】
上記過酸化タングステン水溶液を用いた場合には、多孔質シリカの孔内に酸化タングステンを内包させることができる。また、上記三塩化チタン水溶液を用いた場合には、多孔質シリカの孔内に二酸化チタンを内包させることができる。また、酢酸銅や硝酸銅などの銅塩を用いた場合には、多孔質シリカの孔内に酸化銅を内包させることができる。また、塩化鉄や硝酸鉄などの鉄塩を用いた場合には、多孔質シリカの孔内に酸化鉄を内包させることができる。また、硝酸マンガンなどのマンガン塩を用いた場合には、多孔質シリカの孔内に酸化マンガンを内包させることができる。また、硫酸チタニルなどの塩を用いた場合には、多孔質シリカの孔内に酸化チタンを内包させることができる。
【0173】
このように、本実施の形態の微細粒子の合成方法によれば、簡易な処理により、多孔質シリカ内包粒子を形成することができる。特に、配向性のあるマクロ孔が金属化合物水溶液の流路となり、効率的にマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO2)のメソ孔やミクロ孔中に金属などの材料を内包させることができる。
【0174】
(実施例B)
実施例1の場合と同様にして膜状の多孔質シリカを形成した。前述したように、この膜状の多孔質シリカは、“階層的多孔構造を有する多孔質シリカ”であり、配向性を有するマクロ孔と、このマクロ孔の側壁を構成するシリカ(SiO
2)の内部のミセル(鋳型)に対応するメソ孔やミクロ孔と、を有する(
図2等参照)。
【0175】
この階層的多孔質構造を有する多孔質シリカを担体として用い、メソ孔やミクロ孔の内部に二酸化チタン粒子を合成する。
【0176】
具体的には、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカ(膜状)を、20wt%の三塩化チタン溶液に浸漬し、充分に溶液を浸み込ませた。
【0177】
次いで、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカ(膜状)を取り出し、その表面をエタノールで洗浄した。この洗浄により、柱状のマクロ孔内の三塩化チタン溶液は除去される。このように、主としてメソ孔やミクロ孔の内部に三塩化チタン溶液を存在させることができる。
【0178】
次いで、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカ(膜状)を、減圧乾燥した後、450℃で3時間程度、空気中で焼成し、メソ孔やミクロ孔の内部に二酸化チタンの微細粒子を内包した多孔質シリカ(膜状)を得た。
【0179】
図30は、得られた二酸化チタン内包多孔質シリカの透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。
図30(A)に示すように、多孔質シリカに二酸化チタン粒子を内包(担持)させた後も、柱状のマクロ孔が確認できる。そして、そのマクロ孔の側壁(シリカマトリクス)に、二酸化チタン粒子が内包されていることが
図30(B)により確認できる。内包されている二酸化チタン粒子の平均粒径は1.9nmである。
図31に、二酸化チタン粒子の粒径と数を示す。
【0180】
(実施の形態6)…触媒担体としての利用
実施の形態5において説明した金属や金属化合物などの材料を内包させた多孔質シリカは、触媒として利用することができる。即ち、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカを触媒の担体として機能させることができる。例えば、白金を内包させることで、燃焼触媒とすることができる。また、酸化タングステンや二酸化チタンを内包させることで、光触媒とすることができる。
【0181】
前述したように、本実施の形態5の多孔質シリカによれば、柱状のマクロ孔内には金属や金属化合物がほとんど内包されず、マクロ孔の側壁のメソ孔やミクロ孔の内部にのみ金属や金属化合物を内包させることができるため、反応物の拡散性が高く、担持した触媒へのアクセス性が向上する。また、マクロ孔の側壁には、1~2nm程度の粒子を内包させることができる。例えば、バルクの多孔質シリカを担体とした場合には、アクセス性が悪く、触媒効率の低下を引き起こす。これに対し、本実施の形態においては、柱状のマクロ孔が流路となり、その側壁に1~2nm程度の粒子を内包させることができるため、触媒効率を向上させることができる。
【0182】
また、本実施の形態においては、複数の柱状のマクロ孔が配向性良く配置されており、集光率が高いものと考えられ、光触媒として用いて好適である。即ち、複数の柱状のマクロ孔により、効率的に光を集め担持した触媒に伝搬することが可能であり、前述した基質拡散性と集光効果により光触媒能を向上させることができる。
【0183】
特に、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカは、珪藻類の殻構造に類似している。珪藻類は高い光合成能を有することで知られている。具体的に、珪藻類は、シリカで構成される階層的多孔質構造を有する殻により、太陽光を効率的に集光し葉緑体に届けられることが、高い光合成能の一因となっていると考えられている。よって、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカもその階層構造により効率的に光を集め、担持した触媒に伝搬することが可能であると考えられる。
【0184】
(実施例C)…イソプロピルアルコールの光触媒分解反応実験
図32は、イソプロピルアルコールの光触媒分解反応実験の様子を示す図である。まず、実施例Bで説明した、二酸化チタンの微細粒子を内包した多孔質シリカ(膜状、Sample)を準備した。
【0185】
次いで、
図32に示すように、二酸化チタンの微細粒子を内包した多孔質シリカ(膜状)をガラス容器の底面上に配置した後、500ppmのイソプロピルアルコールガスを含む乾燥空気を60分間流通させた後、ガラス容器を密閉した。
【0186】
キセノンランプをガラス容器の上面より照射した。照射時間ごとのCO2発生量をガスクロマトグラフ(Agilent, Micro GC 3000)にて定量した。
【0187】
比較例として、市販の二酸化チタン粒子、二酸化チタンを担持させたバルクのメソポーラスシリカ粒子を準備し、上記二酸化チタンの微細粒子を内包した多孔質シリカ(膜状)に代えて、同様の処理およびCO2発生量の定量を行った。
【0188】
本実施例では、キセノンランプを光源として用いた光触媒反応により、イソプロピルアルコールが分解され、CO
2が発生する。
図33は、イソプロピルアルコールの光触媒分解反応時の二酸化炭素の発生量を示す図である。丸印は、二酸化チタンを担持させたバルクのメソポーラスシリカ粒子を用いた場合、ひし形は、市販の二酸化チタン粒子を用いた場合、正方形は、二酸化チタンの微細粒子を内包した多孔質シリカ(膜状)を用いた場合を示す。
図33に示すように、本実施例の二酸化チタンの微細粒子を内包した多孔質シリカ(膜状)を用いた場合は、比較例の場合(二酸化チタンを担持させたバルクのメソポーラスシリカ粒子を用いた場合、および、市販の二酸化チタン粒子を用いた場合)と比較し、光触媒分解能が大幅に活性していることが分かった。
【0189】
(実施例D)…メチレンブルー水溶液の吸着濾過実験
図34は、メチレンブルー水溶液の吸着濾過実験の様子を示す図である。まず、実施例Aで説明した、ガラスフィルタの表面にのみ形成した多孔質シリカを準備した。
【0190】
次いで、
図34に示すように、ガラスフィルタの表面にのみ形成した多孔質シリカをフィルタ付き漏斗の中央に置き、試料の上部より7.2μmol/dm
3のメチレンブルー水溶液を滴下した。試料を通過した液体のメチレンブルー濃度を紫外可視吸収スペクトルより測定し、メチレンブルーの除去率を算出した。また、濾過速度も同時に測定した。
【0191】
比較例として、ガラスフィルタの表面にのみ形成した多孔質シリカを粉砕し粉状にした後、60μmまたは90μmの厚さとなるように圧縮成形した試料を作成した(
図35参照)。これらの試料についても、
図34の場合と同様に濾過し、除去率および濾過速度を測定した。なお、各試料において、ガラスフィルタの表面にのみ形成した多孔質シリカの空隙率は51%であった。また、比較例の試料について、60μmの厚さのものの空孔率は54%、90μmの厚さのものの空孔率は68%であった。
【0192】
図35は、本実施例および比較例の測定結果(空孔率、除去率および濾過速度)を示す図である。
【0193】
図示するように、90μmペレット(Sparse Pellet)は空隙率が68%と高いため、濾過速度が8.2dm3/min・cmと速いが、除去率が88%となり低い傾向にあった。60μmペレット(Dense Pellet)は、空隙率が54%と低く、濾過速度が1.9dm3/min・cmと遅いが、除去率が99%となり高い傾向にあった。これらに対し、本実施例の試料は、空隙率が51%と低いものの、垂直に配向したマクロチャネルの流通性のため、8.9dm3/min・cmの濾過速度を有しつつ、除去率が99%と高い値を示した。このように、本実施例のガラスフィルタの表面にのみ形成した多孔質シリカは高い除去率かつ迅速な濾過が可能なろ過材として有用であることが判明した。
【0194】
(実施の形態7)…マクロ孔径の制御
本実施の形態においては、階層的多孔質構造を有する多孔質シリカにおける柱状のマクロ孔の孔径の制御について説明する。階層的多孔質構造を有する多孔質シリカにおける柱状のマクロ孔の孔径は、前駆体ゾルに含まれる水の量で制御可能である。
【0195】
(実施例E)
例えば、実施例1ではTEOS:水の比を1:4に設定した。この場合、柱状のマクロ孔の上部の孔径は約414nmであった。これに対し、TEOS:水の量を1:10、1:12とし、実施例1の場合と同様に階層的多孔質構造を有する多孔質シリカを形成した場合、柱状のマクロ孔の上部の孔径は、それぞれ650nm、950nmであった(
図36)。
図36は、本実施例の各試料のSEM像である。
【0196】
このように、前駆体ゾル中の水の量を制御することで柱状のマクロ孔の孔径を制御することが可能であることが判明した。
【0197】
このような現象は、次のように考察することができる。
図37は、マクロ孔の形成メカニズムを示す模式図である。前駆体ゾル中の水の量が多い場合、例えば、実施の形態1において
図5を参照しながら説明したマクロ孔の形成メカニズム(
図37(A)に対応)より、SiO
2(Gel)の生成(固化)により排出される水(H
2O)やエタノールの量が多くなる。具体的には、
図37(B)に示すように、マクロ孔の側壁となる部分の前駆体ゾルからの水の排出が多くなり、マクロ孔の孔径が大きくなるものと考えられる(D1a<D1b)。
【0198】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
[付記1]
アルコキシシランの加水分解により多孔質シリカを製造する方法であって、
(a)界面活性剤、アルコキシシランおよび水を有する第1液を調整する工程、
(b)前記第1液と、ガラス繊維間が第1材料で充填されたガラスフィルタとを接触させる工程、
(c)前記ガラスフィルタを塩基性液に浸漬させる工程、
(d)前記第1液をゲル化させたゲル化物を熱処理する工程、
を有し、
前記(d)工程において、ガラス繊維間に充填された第1材料が除去される、多孔質シリカの製造方法。
[付記2]
付記1に記載の多孔質シリカの製造方法において、
前記(d)工程により得られた多孔質シリカは、
第1細孔と第2細孔とを有し、
前記第1細孔はマクロ孔であり、
前記第2細孔は、前記マクロ孔より平均細孔直径が小さいメソ孔またはミクロ孔であり、
前記ガラス繊維間には前記マクロ孔より大きい隙間を有する、多孔質シリカの製造方法。
[付記3]
アルコキシシランの加水分解により多孔質シリカを製造する方法であって、
(a)第1方向に配向性を有する第1細孔群と、前記第1細孔の側壁の内部に形成された第2細孔群とを有する多孔質シリカを準備する工程、
(b)前記多孔質シリカと金属または前記金属を元素組成として有する化合物を含有する液とを接触させ、前記多孔質シリカの前記第2細孔群に上記液を含浸させる工程、
(c)前記多孔質シリカの前記第1細孔群内の上記液を洗浄により除去する工程、
(d)前記(c)工程の後、熱処理を施すことにより、前記多孔質シリカの前記第2細孔内において前記金属または前記金属化合物を含有する微細粒子を形成する工程と、を有する、多孔質シリカの製造方法。
[付記4]
第1方向に配向性を有する第1細孔群と、前記第1細孔の側壁の内部に形成された第2細孔群とを有し、
前記第1細孔はマクロ孔であり、
前記第2細孔は、前記マクロ孔より平均細孔直径が小さいメソ孔またはミクロ孔であり、
前記第2細孔に、金属または金属化合物を含有する微細粒子が内包されている、多孔質シリカ。
[付記5]
アルコキシシランの加水分解により多孔質シリカを製造する方法であって、
(a)界面活性剤、アルコキシシランおよび水を有する第1液を調整する工程、
(b)前記第1液と塩基性液とを接触させることにより、前記第1液の脱水縮合反応により、前記第1液をゲル化させる工程、
前記(b)工程の後、
(c)前記第1液をゲル化させたゲル化物を熱処理する工程、
を有し、
前記(a)工程において、前記アルコキシシランと前記水との化学量論比をアルコキシシラン:水=1:nとした場合、nが20以下であり、
前記(c)工程により得られた多孔質シリカは、第1方向に配向性を有する第1細孔群と、前記第1細孔の側壁の内部に形成された第2細孔群とを有し、
前記水の量nにより、前記第1細孔群の平均細孔直径を調整する、多孔質シリカの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明は、多孔質シリカおよび多孔質シリカの製造方法に関し、特に、階層的多孔構造を有する多孔質シリカ、階層的多孔構造を有する多孔質シリカを用いた機能材料および階層的多孔構造を有する多孔質シリカの製造方法に適用して有効である。
【符号の説明】
【0200】
A1 領域
A2 領域
D1 第1細孔の径(直径、短径、平均細孔直径、柱状の断面の径)
D2 第2細孔の径(直径、短径)
ED スポイト
F1 第1フィルタ
F2 第2フィルタ
FN 吸引ファン
L1 前駆体溶液(ゾル、ゾル状態液)
L2 塩基性液
LD 液滴
MC ミセル
N ノズル
P1 柱状の孔(第1細孔、マクロ孔)
P2 第2細孔(メソ孔やミクロ孔)
PS 多孔質シリカ
SG スプレーガン(霧吹き)
SUB 基板