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特許7352943カーボンナノチューブを含むゲル状組成物の製造方法
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  • 特許-カーボンナノチューブを含むゲル状組成物の製造方法 図1
  • 特許-カーボンナノチューブを含むゲル状組成物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブを含むゲル状組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20230922BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230922BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230922BHJP
【FI】
C01B32/168 ZNM
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019157791
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035892
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大矢 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】新垣 諒汰
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 30/00,40/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロシアニンの誘導体を分散剤として、カーボンナノチューブを純水中に分散させたカーボンナノチューブ分散液を所定温度に加熱してカーボンナノチューブを含むゲル状組成物製造するにあたって、
上記分散剤にC.I.Reactive Blue 21を用いるとともに、上記カーボンナノチューブに(6,5)カイラリティカーボンナノチューブを用い、上記カーボンナノチューブ分散液中の上記カーボンナノチューブの濃度を0.1wt%超とすることを特徴とするカーボンナノチューブを含むゲル状組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブと分散剤の水分散液より製造されるゲル状組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子が六角形の各頂点に存在する蜂の巣構造のシートを丸めた円筒状を呈している。その特徴として、強靱な機械的強度、高い熱伝導性、高い電子移動度、それに金属的・半導体的性質を持つ、アスペクト比が高い等、多くの機能・特徴を有している。
【0003】
このような機能・特徴に着目して、カーボンナノチューブの応用例として、特許文献1には、紙原料のパルプ繊維にカーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブ複合紙に、増感色素と電解液を含浸して色素増感太陽電池とすることが提案されている。
【0004】
また、別の応用例として、特許文献2には、カーボンナノチューブと糸との複合材料であるカーボンナノチューブ複合糸よりなる糸トランジスタが提案されている。
【0005】
しかしながら、カーボンナノチューブは巨大なπ結合を表面に持ち、カーボンナノチューブ同士が容易に凝集するため加工が困難であり、3次元的にカーボンナノチューブ同士の接触を確保することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-241499号公報
【文献】特開2013-155058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、きわめて簡単な方法によって、電気的な特性を損なうことなく、3次元的にカーボンナノチューブ同士が接触したゲル状組成物(CNTヒドロゲル)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、フタロシアニンの誘導体を分散剤として、カーボンナノチューブを純水中に分散させたカーボンナノチューブ分散液を所定温度に加熱してゲル状組成物を得ることを特徴としている。
【0009】
上記分散剤として用いるフタロシアニンの誘導体は、C.I.Reactive Blue 21であることが好ましい。
【0010】
また、上記カーボンナノチューブには単層カーボンナノチューブが用いられ、特には、(6,5)カイラリティカーボンナノチューブが好ましく採用される。
【0011】
また、上記カーボンナノチューブ分散液中の上記カーボンナノチューブの濃度は0.1wt%超であることが好ましい。
【0012】
上記ゲル状組成物を製造するにあたっては、上記カーボンナノチューブと上記分散剤を上記純水中で所定の温度(好ましくは0℃付近)に保ちながら超音波照射により分散させた後、加熱してゲル化することが好ましく、本発明には、このようにして製造されたカーボンナノチューブを含むゲル状組成物も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フタロシアニンの誘導体を分散剤として、カーボンナノチューブを純水中に分散させたカーボンナノチューブ分散液を所定温度に加熱する、というきわめて簡単な方法によって、電気的な特性を損なうことなく、3次元的にカーボンナノチューブ同士が接触したゲル状組成物(CNTヒドロゲル)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によってゲル化するメカニズムを説明するための模式図。
図2】分散剤であるC.I.Reactive Blue 21の分子構造と(6,5)カイラリティカーボンナノチューブの構造を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明によるカーボンナノチューブを含むゲル状組成物(CNTヒドロゲル)は一例として次のようにして製造される。
【0017】
第1工程として、(6,5)カイラリティカーボンナノチューブ25mgと、フタロシアニンの誘導体であるC.I.Reactive Blue 21(分散剤)150mgを純水15ml中に撹拌する。
次に、第2工程として、0℃に保ちながら超音波を1時間照射してCNT分散液とした後、分散液の蒸発を防ぐため、スクリュー瓶の蓋を閉める。
第3工程として、上記のように作製したCNT分散液を例えば60℃のオーブンで1時間加熱する。
【0018】
これにより、ゲル化が起こりCNTヒドロゲルが作製される。加熱時間が増すにつれて液状であった分散液が徐々に硬くなりゲル化が進行する。また、可逆性を有しゲル化した分散液に再び超音波を照射すると分散液に戻る。
【0019】
作製条件について、(6,5)カイラリティCNTとC.I.Reactive Blue 21の比は固定し、次表1のように、CNTの濃度を変えてゲル化との関係を調べた。
【表1】
【0020】
この結果、CNTとC.I.Reactive Blue 21が同じ比率であっても、ある濃度(0.1wt%)以下ではゲル化しないことが分かった。ゲル化が起きるCNTの濃度は0.1wt%超である。また、CNTの濃度が大きくほど短時間でゲル化することが分かった。
【0021】
次に、CNTとC.I.Reactive Blue 21の比を次表2のように変えて、ゲル化するかを確認した。結果として、C.I.Reactive Blue 21の割合が増えるほど、柔らかいゲルになることが分かった。なお、室温でも長時間経過するとゲル化する。
【表2】
【0022】
次に、図1を参照して、ゲル化のメカニズムについて説明する。図1において、1は(6,5)カイラリティCNTで、2は分散剤としてのC.I.Reactive Blue 21である(図2も同様)。
【0023】
水中に分散した(6,5)カイラリティCNTはそのほぼ全体がC.I.Reactive Blue 21によって覆われて分散状態を保っているが、加熱すると熱運動によりC.I.Reactive Blue 21が剥がれやすくなり、剥がれてできた隙間に間近に存在する(6,5)カイラリティCNTが嵌まることによってCNT同士が固定され、ネットワークを作ることでゲル化すると考えられる。
【0024】
このようなメカニズムであることから、ゲル化の過程でCNT同士が接触するため、本発明の製造方法は、カーボンナノチューブの電気的特性を活かした加工手段として期待することができる。
【0025】
次に、ゲル化の直径依存性について確認したので、これについて説明する。これには、直径の異なる4種類のカーボンナノチューブを用意した。なお分散液中の比は、いずれもCNTは0.13wt%,C.I.Reactive Blue 21は0.60wt%とした。
・(6,5)カイラリティCNT[直径0.78nm,単層]
・HiPco(NanoIntegris社製)[直径0.8~1.2nm,単層]
・ZEONANO SG101(ゼオンナノテクノロジー社製)[直径2~3nm,単層]
・NC7000(Nanocyl社製)[直径9.5nm,多層]
【0026】
結果として、(6,5)カイラリティCNTのみゲル化し、HiPco、ZEONANO SG101、NC7000ではゲル化が起こらなかった。図2に示すように、C.I.Reactive Blue 21の分子サイズは1.5nmで、(6,5)カイラリティCNTの層間距離は1.45nmであるから、予想どおり直径依存性が確認できた。
【0027】
以上説明したように、本発明によるCNTヒドロゲルには、加熱するだけでゲル化する、ゲルに超音波を照射すると分散液に戻る可逆性がある、濃度が小さい(0.1wt%以下)とゲル化が困難、分散剤のC.I.Reactive Blue 21の割合が大きくなるとゲル化しづらくなる(硬さの制御が可能)、直径依存性がある、等の特徴がある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によるCNTヒドロゲルは、例えば表面に凹凸があるような対象物に対して密着が得られる他、フレキシブルな導電材料として利用可能で、例えば、センサ、触媒(担体)、アクチュエータ、キャパシタ、電極、光電変換素子、熱伝導材、3D印刷用導電インク、生体用電極パッド等に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 (6,5)カイラリティCNT
2 C.I.Reactive Blue 21(分散剤)
図1
図2