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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】質量分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230922BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20230922BHJP
   G01N 27/64 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/26
G01N27/64 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019227397
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021096158
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】302031454
【氏名又は名称】東海電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140796
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 拓也
(72)【発明者】
【氏名】都築 伴三
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-110653(JP,A)
【文献】特開2018-032641(JP,A)
【文献】特開2019-090654(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0306106(US,A1)
【文献】特開2016-105086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 27/92
H01J 40/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガスの成分のガスである成分ガスをイオン化して質量を分析する質量分析システムであって、
前記質量分析システムによる前記サンプルガスに対する測定を制御する測定制御部と、
前記サンプルガスに対する前記測定で検知された前記成分ガスの質量の測定値の補正の基準のガスである基準ガスを決定する基準ガス決定部と、
前記補正を実行する測定値補正部と
を備え、
前記測定制御部は、互いに異なるエネルギーによって前記成分ガスをイオン化する複数の前記測定を実行し、
前記基準ガス決定部は、前記測定値、前記基準ガスの候補である基準ガス候補の質量の理想値を含む特定の質量の範囲内に存在し、前記複数の測定のいずれで前記成分ガスが検知されたかを示す検知状況情報に基づいた、前記複数の測定のうち前記成分ガスが検知された測定が、前記複数の測定のうちこの基準ガス候補がイオン化される測定と一致する前記成分ガスを前記基準ガスとして決定し、
前記基準ガス決定部は、前記サンプルガスに対する前記測定で検知された複数の前記成分ガスから、互いに質量が異なる複数の前記基準ガスを決定し、
前記測定値補正部は、前記基準ガス決定部によって決定された複数の前記基準ガスの質量の前記理想値および前記測定値の関係に基づいて前記補正を実行することを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
前記成分ガスの種類を特定する成分種類特定部を備え、
前記成分種類特定部は、前記成分ガスの候補である成分ガス候補の質量の前記理想値を示す成分ガス候補情報において、前記測定値補正部による前記補正の実行後の前記測定値と同一の前記理想値に対応付けられている複数の前記成分ガス候補が存在する場合に、前記複数の成分ガス候補のそれぞれのイオン化エネルギーと、前記検知状況情報とに基づいて、前記成分ガスが前記複数の成分ガス候補のいずれに該当するかを特定することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象のガスの成分の質量を分析する質量分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の質量分析システムとして、検知した質量の補正のために、本来の検知対象の物質に、質量が既知である基準物質を混ぜた上で、質量を分析するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-121500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の質量分析システムにおいては、本来の検知対象の物質に基準物質を混ぜる作業が必要であるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、利便性を向上することができる質量分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の質量分析システムは、サンプルガスの成分のガスである成分ガスをイオン化して質量を分析する質量分析システムであって、前記質量分析システムによる測定を制御する測定制御部と、前記測定で検知された前記成分ガスの質量の測定値の補正の基準のガスである基準ガスを決定する基準ガス決定部と、前記補正を実行する測定値補正部とを備え、前記測定制御部は、互いに異なるエネルギーによって前記成分ガスをイオン化する複数の前記測定を実行し、前記基準ガス決定部は、前記測定値と、前記基準ガスの候補である基準ガス候補の質量の理想値と、前記複数の測定のいずれで前記成分ガスが検知されたかを示す検知状況情報とに基づいて、前記測定で検知された複数の前記成分ガスから、互いに質量が異なる複数の前記基準ガスを決定し、前記測定値補正部は、前記基準ガス決定部によって決定された複数の前記基準ガスの質量の前記理想値および前記測定値の関係に基づいて前記補正を実行することを特徴とする。
【0007】
この構成により、本発明の質量分析システムは、測定で検知された成分ガスの質量の測定値の補正の基準ガスとして、サンプルガスの成分ガス自体を使用するので、サンプルガスとは別のガスを補正のために使用する必要が無く、利便性を向上することができる。
【0008】
本発明の質量分析システムは、前記成分ガスの種類を特定する成分種類特定部を備え、前記成分種類特定部は、前記成分ガスの候補である成分ガス候補の質量の前記理想値を示す成分ガス候補情報において、前記測定値補正部による前記補正の実行後の前記測定値と同一の前記理想値に対応付けられている複数の前記成分ガス候補が存在する場合に、前記複数の成分ガス候補のそれぞれのイオン化エネルギーと、前記検知状況情報とに基づいて、前記成分ガスが前記複数の成分ガス候補のいずれに該当するかを特定しても良い。
【0009】
この構成により、本発明の質量分析システムは、補正の実行後の測定値と同一の理想値に対応付けられている複数の成分ガス候補が成分ガス候補情報に存在する場合に、複数の成分ガス候補のそれぞれのイオン化エネルギーと、検知状況情報とに基づいて、成分ガスが複数の成分ガス候補のいずれに該当するかを特定するので、成分ガスを特定する精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の質量分析システムは、利便性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る質量分析システムの構成図である。
図2図1に示すコンピューターのブロック図である。
図3図2に示す成分ガス候補辞書の一例を示す図である。
図4】(a)図1に示す質量分析システムによって測定される特定のサンプルガスの成分ガスのそれぞれの質量と、イオン化エネルギーとの対応関係を示す図である。 (b)図4(a)に示すサンプルガスに対してコロナ放電測定によって得られたマススペクトルである。 (c)図4(a)に示すサンプルガスに対して9.8eV測定によって得られたマススペクトルである。
図5】測定を実行する場合の図1に示す質量分析システムの動作のタイミングチャートである。
図6図5に示す動作による測定結果の一例を示す図である。
図7】サンプルガスの成分ガスの種類を特定する場合の図1に示す質量分析システムの動作のフローチャートである。
図8図7に示す基準ガス決定処理の一部のフローチャートである。
図9図8に示すフローチャートの続きのフローチャートである。
図10】(a)1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より小さく、2つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より大きい場合の図7に示す質量補正処理の説明図である。 (b)1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より大きく、2つ目の基準ガスの質量の測定値も理想値より大きい場合の図7に示す質量補正処理の説明図である。 (c)1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より小さく、2つ目の基準ガスの質量の測定値も理想値より小さい場合の図7に示す質量補正処理の説明図である。 (d)1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より大きく、2つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より小さい場合の図7に示す質量補正処理の説明図である。
図11】補正の実行後の測定値が追加された図6に示す測定結果の一例を示す図である。
図12図7に示す成分種類特定処理のフローチャートである。
図13】IDが追加された図11に示す測定結果の一例を示す図である。
図14】3種類のエネルギー発生部を備える場合の、本発明の一実施の形態に係る質量分析システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0013】
まず、本実施の形態に係る質量分析システムの構成について説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る質量分析システム10の構成図である。
【0015】
図1に示すように、質量分析システム10は、分析対象の気体であるサンプルガスの成分であるガス(以下「成分ガス」という。)をイオン化するイオン化部20と、イオン化部20によって生成されたイオンを質量によって分離するイオン分離部30と、イオン分離部30によって分離されたイオンを検出するイオン検出部40と、質量分析システム10の動作を制御するPC(Personal Computer)などのコンピューター50とを備えている。
【0016】
イオン化部20は、サンプルガスをイオン化するためのイオン化室21が形成されている。イオン化室21は、サンプルガスが導入されるサンプルガス導入口21aと、サンプルガスが排出されるサンプルガス排出口21bと、サンプルガスの成分ガスのイオンが排出されるイオン排出口21cとを備えている。イオン化室21は、大気圧の中でサンプルガス導入口21aからサンプルガスが導入される。
【0017】
イオン化部20は、イオン化室21にサンプルガスを吸引するための吸引ポンプ22を備えている。吸引ポンプ22は、イオン化室21のサンプルガス排出口21bを介してイオン化室21内からサンプルガスを吸引し、吸引したサンプルガスをイオン化室21外に排出する。
【0018】
イオン化部20は、例えば15eVなど、12eV以上のエネルギーを発生させるエネルギー発生部としてのコロナ放電部23aと、9.8eVのエネルギーを発生させるエネルギー発生部としてのUVランプ(以下「UVランプ(9.8eV)」という。)23bとを備えている。コロナ放電部23aおよびUVランプ(9.8eV)23bは、イオン化室21内に配置されている。
【0019】
なお、以下において、サンプルガスの成分ガスをコロナ放電部23aによってイオン化した場合の測定を、コロナ放電測定という。また、サンプルガスの成分ガスをUVランプ(9.8eV)23bによってイオン化した場合の測定を、9.8eV測定という。
【0020】
イオン化部20は、使用するエネルギー発生部を切り替える切替制御部24を備えている。
【0021】
イオン分離部30は、イオン化室21のイオン排出口21cからイオンが導入されるチャンバー31が形成されている。
【0022】
イオン分離部30は、チャンバー31内を真空にする真空ポンプ32を備えている。真空ポンプ32は、チャンバー31内からガスを吸引し、吸引したガスをチャンバー31外に排出する。
【0023】
イオン分離部30は、イオン化室21のイオン排出口21cを介してイオン化室21内からチャンバー31内にイオンを引き出し、引き出したイオンを加速する引き出し電極33と、引き出し電極33に電力を供給し、引き出し電極33に供給する電力の電圧を変更可能な電源34と、電源34の電圧を連続的に走査するスキャニング電圧制御部35とを備えている。引き出し電極33は、チャンバー31内に配置されている。
【0024】
なお、質量分析システム10による測定で検知された成分ガスの質量の測定値は、理想値からのずれが生じるので、補正される必要がある。このずれの主な要因は、電源34の電圧の設計上の理想値と、電源34の実際の電圧の値とにずれが生じるからである。
【0025】
イオン分離部30は、引き出し電極33によって加速されたイオンの軌道を曲げるための磁界を発生させる磁石36を備えている。磁石36は、チャンバー31内に配置されている。
【0026】
イオン検出部40は、自身に入ったイオンの数を電流として検出するファラデーカップ41を備えている。ファラデーカップ41は、チャンバー31内に配置されている。
【0027】
図2は、コンピューター50のブロック図である。
【0028】
図2に示すように、コンピューター50は、種々の操作が入力される例えばキーボード、マウスなどの操作デバイスである操作部51と、種々の情報を表示する例えばLCD(Liquid Crystal Display)などの表示デバイスである表示部52と、LAN(Local Area Network)、インターネットなどのネットワーク経由で、または、ネットワークを介さずに有線または無線によって直接に、外部の装置と通信を行う通信デバイスである通信部53と、各種の情報を記憶する例えば半導体メモリー、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶デバイスである記憶部54と、コンピューター50全体を制御する制御部55とを備えている。
【0029】
記憶部54は、サンプルガスの成分ガスの質量を分析するための質量分析プログラム54aを記憶している。質量分析プログラム54aは、例えば、コンピューター50の製造段階でコンピューター50にインストールされていても良いし、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリーなどの外部の記憶媒体からコンピューター50に追加でインストールされても良いし、ネットワーク上からコンピューター50に追加でインストールされても良い。
【0030】
記憶部54は、サンプルガスの成分ガスの候補(以下「成分ガス候補」という。)の質量の理想値を示す成分ガス候補情報としての成分ガス候補辞書54bを記憶している。
【0031】
図3は、成分ガス候補辞書54bの一例を示す図である。
【0032】
図3に示すように、成分ガス候補辞書54bは、ガスの質量(m/z)の理想値と、ガスの識別情報としてのIDと、イオン化部20のいずれのエネルギー発生部によってイオン化されることが可能であるかを示すイオン化可能情報と、質量分析システム10による測定で検知された成分ガスの質量の測定値の補正の基準のガス(以下「基準ガス」という。)の候補(以下「基準ガス候補」という。)であるかを示す基準ガス候補情報とを、成分ガス候補毎に示している。イオン化可能情報は、成分ガス候補のイオン化エネルギーと、各エネルギー発生部によって発生されるエネルギーとに基づいて生成されたものである。なお、図3に示す成分ガス候補辞書54bは、一部の成分ガス候補の情報が省略して描かれているが、実際には、図示している成分ガス候補の他にも多くの成分ガス候補の情報を含んでいる。
【0033】
ここで、基準ガス候補について詳細に説明する。
【0034】
図4(a)は、質量分析システム10によって測定される特定のサンプルガスの成分ガスのそれぞれの質量と、イオン化エネルギーとの対応関係を示す図である。図4(b)は、図4(a)に示すサンプルガスに対してコロナ放電測定によって得られたマススペクトルである。図4(c)は、図4(a)に示すサンプルガスに対して9.8eV測定によって得られたマススペクトルである。
【0035】
図4(a)には、基準ガス候補の選定方法を説明するために、UVランプ(9.8eV)23bによって発生させられるエネルギーである9.8eVのライン61を示している。
【0036】
図4に示すように、イオン化エネルギーが9.8eV以下であるガスは、コロナ放電測定および9.8eV測定のいずれでも観測される。一方、イオン化エネルギーが9.8eVより大きいガスは、コロナ放電測定および9.8eV測定のうちコロナ放電測定でのみ観測される。したがって、基準ガス候補は、イオン化エネルギーが、UVランプ(9.8eV)23bによって発生させられるエネルギーである9.8eVより大きく、コロナ放電部23aによって発生させられるエネルギー以下であるガスから選定される。なお、VOC(Volatile Organic Compounds)ガスの全ての種類のうち、イオン化エネルギーが9.8eV以下であるガスの種類の割合は、約50%である。VOCガスの全ての種類のうち、コロナ放電部23aによって発生させられるイオン化エネルギー以下であるガスの種類の割合は、約100%である。
【0037】
質量の補正には基準ガスが少なくとも2つ必要であるので、基準ガス候補は、複数選定される必要がある。
【0038】
基準ガス候補は、基準ガス候補自身の質量を含む特定の質量の範囲内に、「イオン化エネルギーが、9.8eVより大きく、コロナ放電部23aによって発生させられるエネルギー以下である他のガス」が存在しないものが、基準ガスの誤決定の可能性の低減の観点から好ましい。本実施の形態においては、そのような基準ガス候補が選定されている。ここで、特定の質量の範囲とは、対象の基準ガス候補の質量をmとし、質量分析システム10において検知される質量に関して、想定されている誤差を質量で表した最大値(以下「想定誤差質量最大値」という。)をaとしたとき、例えば、「m-a」より大きく「m+a」より小さい範囲である。例えば、想定誤差質量最大値aは、質量分析システム10において検知可能な最大の質量が300m/zであり、質量分析システム10において検知された質量に関して、想定されている誤差を割合で表した最大値が2%であるとすると、300m/zの2%である6m/zである。
【0039】
例えば、図4に示すガスのうち、ガス62、63、64、65が基準ガス候補として選定される。ここで、ガス62、65は、それぞれ、N、CClである。なお、基準ガス候補として選定されるガスは、例えばOなど、種々のガスが採用されることが可能である。
【0040】
なお、基準ガス候補は、例えば、質量分析システム10の製造者によって設定される。基準ガス候補は、例えば、質量分析システム10の使用者によって設定されても良い。
【0041】
図2に示す制御部55は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよび各種のデータを記憶しているROM(Read Only Memory)と、制御部55のCPUの作業領域として用いられるメモリーとしてのRAM(Random Access Memory)とを備えている。制御部55のCPUは、記憶部54または制御部55のROMに記憶されているプログラムを実行する。
【0042】
制御部55は、質量分析プログラム54aを実行することによって、質量分析システム10による測定を制御する測定制御部55aと、質量分析システム10による測定で検知された複数の成分ガスから、互いに質量が異なる複数の基準ガスを決定する基準ガス決定部55bと、基準ガス決定部55bによって決定された複数の基準ガスの質量の理想値および測定値の関係に基づいて成分ガスの質量の測定値の補正を実行する測定値補正部55cと、質量分析システム10による測定で検知された成分ガスの種類を特定する成分種類特定部55dとを実現する。
【0043】
次に、測定を実行する場合の質量分析システム10の動作について説明する。
【0044】
図5は、測定を実行する場合の質量分析システム10の動作のタイミングチャートである。
【0045】
測定制御部55aは、測定の開始が操作部51を介して指示されると、図5に示す動作を実行する。
【0046】
図5に示すように、測定制御部55aは、時間t1において、吸引ポンプ22をONにする。したがって、サンプルガスは、吸引ポンプ22によって吸引されることによって、大気圧の中でサンプルガス導入口21aからイオン化室21に導入される。
【0047】
測定制御部55aは、吸引ポンプ22をONにした後、切替制御部24を介してコロナ放電部23aをONにする。したがって、イオン化室21に導入されたサンプルガスの成分ガスは、コロナ放電部23aによってイオン化される。
【0048】
測定制御部55aは、コロナ放電部23aをONにした後、時間t2において、スキャニング電圧制御部35を介して引き出し電極33の電圧を-10kVから0Vまでリニアに昇圧する制御を開始する。したがって、コロナ放電部23aによって生成されたイオンは、イオン化室21のイオン排出口21cを介してイオン化室21内から真空状態のチャンバー31内に引き出し電極33によって引き出され、加速される。そして、引き出し電極33によって加速されたイオンは、磁石36によって発生させられた磁界によって軌道が曲げられて、特定の軌道を進むものだけがファラデーカップ41に入ってファラデーカップ41によって検出される。ファラデーカップ41によって検出された電流は、図示していない電流電圧変換アンプを介してコンピューター50に電圧として入力される。
【0049】
なお、引き出し電極33の電圧が変化させられることによって、引き出し電極33によるイオンの加速度が変化し、引き出し電極33を通過した後のイオンの速度が変化する。そして、ファラデーカップ41に入る軌道を進むイオンは、引き出し電極33を通過した後の速度と、イオン自身の質量とによって決まる。したがって、ファラデーカップ41によって検出されるイオンは、引き出し電極33の電圧に応じた質量のものになる。
【0050】
したがって、測定制御部55aは、引き出し電極33の電圧に応じた質量毎に、電圧に応じたイオンの検知の強度(以下「イオン検知強度」という。)を示すマススペクトルを取得することができる。なお、コンピューター50は、取得したマススペクトルを記憶する。
【0051】
測定制御部55aは、サンプルガスの成分ガスをコロナ放電部23aによってイオン化した場合の測定を以上のように終了すると、サンプルガスの成分ガスをUVランプ(9.8eV)23bによってイオン化した場合の測定も同様に実行する。
【0052】
なお、測定制御部55aは、以上において、コロナ放電測定の後に9.8eV測定を実行する。しかしながら、測定制御部55aは、コロナ放電測定と、9.8eV測定とをいずれの順番で実行しても良い。
【0053】
図6は、図5に示す動作による測定結果の一例を示す図である。
【0054】
測定制御部55aは、図5に示す動作による測定結果として図6に示すような測定結果を例えば記憶部54に記憶する。図6に示す測定結果には、質量の測定値毎、すなわち、ガス毎に、質量の測定値と、イオン検知強度と、コロナ放電測定および9.8eV測定のそれぞれに関して、対象の成分ガスが検知されたかを示す検知状況情報とが含まれている。イオン検知強度は、コロナ放電測定におけるものと、9.8eV測定におけるものとが含まれている。なお、図6に示す測定結果は、質量の測定値の具体的な値と、イオン検知強度の具体的な値とが省略して描かれているが、実際には、具体的な値を含んでいる。また、図6に示す測定結果は、一部のガスの情報が省略して描かれているが、実際には、図示しているガスの他にも多くのガスの情報を含んでいる。
【0055】
次に、サンプルガスの成分ガスの種類を特定する場合の質量分析システム10の動作について説明する。
【0056】
図7は、サンプルガスの成分ガスの種類を特定する場合の質量分析システム10の動作のフローチャートである。
【0057】
基準ガス決定部55bは、図5に示す測定の動作が終了すると、図7に示す動作を実行する。
【0058】
図7に示すように、基準ガス決定部55bは、基準ガスを決定する基準ガス決定処理を実行する(S101)。
【0059】
図8は、図7に示す基準ガス決定処理の一部のフローチャートである。図9は、図8に示すフローチャートの続きのフローチャートである。
【0060】
図8および図9に示すように、基準ガス決定部55bは、成分ガス候補辞書54bに基準ガス候補として示されるガスを質量に関して昇順に並べた列(以下「基準ガス候補列」という。)のうちの最初のガスを対象にする(S121)。
【0061】
次いで、基準ガス決定部55bは、成分ガス候補辞書54bにおいて現在の対象のガスに対応付けられている質量を変数mに代入する(S122)。
【0062】
次いで、基準ガス決定部55bは、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスをコロナ放電測定において検知したか否かを判断する(S123)。ここで、aは、上述した想定誤差質量最大値である。
【0063】
基準ガス決定部55bは、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスをコロナ放電測定において検知したとS123において判断すると、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスの中に、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスが存在するか否かを判断する(S124)。
【0064】
基準ガス決定部55bは、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスをコロナ放電測定において検知しなかったとS123において判断するか、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスの中に、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスが存在しなかったとS124において判断すると、基準ガス候補列のうち、現在の対象のガスの1つ後のガスを新たな対象にして(S125)、S122の処理を実行する。
【0065】
基準ガス決定部55bは、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスの中に、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスが存在するとS124において判断すると、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスのうち、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスの、質量の測定値を、1つ目の基準ガスの質量の測定値として決定し(S126)。現在の変数mの値を1つ目の基準ガスの質量の理想値として決定する(S127)。なお、成分ガス候補辞書54bにおける基準ガス候補は、上述したように、基準ガス候補自身の質量を含む特定の質量の範囲内に、「イオン化エネルギーが、9.8eVより大きく、コロナ放電部23aによって発生させられるエネルギー以下である他のガス」が存在しないものが選定されている。したがって、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスのうち、9.8eV測定において検知しなかったとS124において判断される成分ガスは、成分ガス候補辞書54bにおいて1つのみ存在する。
【0066】
次いで、基準ガス決定部55bは、基準ガス候補列のうちの最後のガスを対象にする(S128)。
【0067】
次いで、基準ガス決定部55bは、成分ガス候補辞書54bにおいて現在の対象のガスに対応付けられている質量を変数mに代入する(S129)。
【0068】
次いで、基準ガス決定部55bは、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスをコロナ放電測定において検知したか否かを判断する(S130)。ここで、aは、上述した想定誤差質量最大値である。
【0069】
基準ガス決定部55bは、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスをコロナ放電測定において検知したとS130において判断すると、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスの中に、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスが存在するか否かを判断する(S131)。
【0070】
基準ガス決定部55bは、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスをコロナ放電測定において検知しなかったとS130において判断するか、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスの中に、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスが存在しなかったとS131において判断すると、基準ガス候補列のうち、現在の対象のガスの1つ前のガスを新たな対象にして(S132)、S129の処理を実行する。
【0071】
基準ガス決定部55bは、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスの中に、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスが存在するとS131において判断すると、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスのうち、9.8eV測定において検知しなかった成分ガスの、質量の測定値を、2つ目の基準ガスの質量の測定値として決定し(S133)。現在の変数mの値を2つ目の基準ガスの質量の理想値として決定する(S134)。なお、成分ガス候補辞書54bにおける基準ガス候補は、上述したように、基準ガス候補自身の質量を含む特定の質量の範囲内に、「イオン化エネルギーが、9.8eVより大きく、コロナ放電部23aによって発生させられるエネルギー以下である他のガス」が存在しないものが選定されている。したがって、コロナ放電測定において検知した、質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さい成分ガスのうち、9.8eV測定において検知しなかったとS131において判断される成分ガスは、成分ガス候補辞書54bにおいて1つのみ存在する。
【0072】
基準ガス決定部55bは、S134の処理の後、図8および図9に示す基準ガス決定処理を終了する。
【0073】
図7に示すように、測定値補正部55cは、S101の基準ガス決定処理が終了すると、コロナ放電測定において測定された質量を補正する質量補正処理を実行する(S102)。具体的には、測定値補正部55cは、コロナ放電測定において測定された各質量について、次の数1で示す式で補正する。数1で示す式において、t1は、S126において決定した、1つ目の基準ガスの質量の測定値である。t2は、S133において決定した、2つ目の基準ガスの質量の測定値である。txは、コロナ放電測定において測定された質量である。T1は、S127において決定した、1つ目の基準ガスの質量の理想値である。T2は、S134において決定した、2つ目の基準ガスの質量の理想値である。Txは、補正の実行後の質量である。
【数1】
【0074】
図10(a)は、1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より小さく、2つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より大きい場合の質量補正処理の説明図である。図10(b)は、1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より大きく、2つ目の基準ガスの質量の測定値も理想値より大きい場合の質量補正処理の説明図である。図10(c)は、1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より小さく、2つ目の基準ガスの質量の測定値も理想値より小さい場合の質量補正処理の説明図である。図10(d)は、1つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より大きく、2つ目の基準ガスの質量の測定値が理想値より小さい場合の質量補正処理の説明図である。
【0075】
図10に示すいずれの場合にも、コロナ放電測定において測定された質量は、S102の質量補正処理によって適切な値に補正される。
【0076】
図11は、補正の実行後の測定値が追加された測定結果の一例を示す図である。
【0077】
測定値補正部55cは、S102の質量補正処理によって、図6に示すような測定結果を、図11に示すような測定結果に変更する。図11に示す測定結果は、図6に示す測定結果に対して、S102の質量補正処理によって生成された「補正の実行後の測定値」が追加されたものである。なお、図11に示す測定結果は、補正前の質量の測定値の具体的な値と、イオン検知強度の具体的な値とが省略して描かれているが、実際には、具体的な値を含んでいる。また、図11に示す測定結果は、一部のガスの情報が省略して描かれているが、実際には、図示しているガスの他にも多くのガスの情報を含んでいる。
【0078】
図7に示すように、成分種類特定部55dは、S102の質量補正処理が終了すると、測定された成分ガスの種類を特定する成分種類特定処理を実行する(S103)。
【0079】
図12は、図7に示す成分種類特定処理のフローチャートである。
【0080】
図12に示すように、成分種類特定部55dは、コロナ放電測定において検知された成分ガスのうち、未だ今回の成分種類特定処理において対象にしていない1つの成分ガスを対象にする(S141)。
【0081】
次いで、成分種類特定部55dは、現在の対象の成分ガスに対するS102の質量補正処理における補正の実行後の測定値と同一の理想値に対応付けられている複数の成分ガス候補が成分ガス候補辞書54bに存在するか否かを判断する(S142)。
【0082】
成分種類特定部55dは、現在の対象の成分ガスに対するS102の質量補正処理における補正の実行後の測定値と同一の理想値に対応付けられている複数の成分ガス候補が成分ガス候補辞書54bに存在しないとS142において判断すると、現在の対象の成分ガスに対するS102の質量補正処理における補正の実行後の測定値と同一の理想値に対応付けられている成分ガス候補のIDを、現在の対象の成分ガスのIDとして決定する(S143)。
【0083】
成分種類特定部55dは、現在の対象の成分ガスに対するS102の質量補正処理における補正の実行後の測定値と同一の理想値に対応付けられている複数の成分ガス候補が成分ガス候補辞書54bに存在するとS142において判断すると、これら複数の成分ガス候補のうち、成分ガス候補辞書54bにおけるイオン化可能情報が、測定結果の検知状況情報と一致する成分ガス候補のIDを、現在の対象の成分ガスのIDとして決定する(S144)。なお、イオン化可能情報におけるコロナ放電部、UNランプ(9.8eV)は、それぞれ、検知状況情報におけるコロナ放電測定、9.8eV測定に対応している。例えば、イオン化可能情報におけるコロナ放電部、UNランプ(9.8eV)がそれぞれ〇、×であって、検知状況情報におけるコロナ放電測定、9.8eV測定がそれぞれ〇、×である場合には、成分種類特定部55dは、イオン化可能情報が検知状況情報と一致すると判断する。また、イオン化可能情報におけるコロナ放電部、UNランプ(9.8eV)が両方とも〇であって、検知状況情報におけるコロナ放電測定、9.8eV測定が両方とも〇である場合にも、成分種類特定部55dは、イオン化可能情報が検知状況情報と一致すると判断する。
【0084】
成分種類特定部55dは、S143またはS144の処理の後、コロナ放電測定において検知された成分ガスのうち、未だ今回の成分種類特定処理において対象にしていない成分ガスが存在するか否かを判断する(S145)。
【0085】
成分種類特定部55dは、未だ今回の成分種類特定処理において対象にしていない成分ガスが存在するとS145において判断すると、S141の処理を実行する。
【0086】
成分種類特定部55dは、未だ今回の成分種類特定処理において対象にしていない成分ガスが存在しないとS145において判断すると、図12に示す成分種類特定処理を終了する。
【0087】
図13は、IDが追加された測定結果の一例を示す図である。
【0088】
成分種類特定部55dは、図12に示す成分種類特定処理によって、図11に示すような測定結果を、図13に示すような測定結果に変更する。図13に示す測定結果は、図11に示す測定結果に対して、ガスのIDが追加されたものである。なお、図13に示す測定結果は、補正前の質量の測定値の具体的な値と、イオン検知強度の具体的な値とが省略して描かれているが、実際には、具体的な値を含んでいる。また、図13に示す測定結果は、一部のガスの情報が省略して描かれているが、実際には、図示しているガスの他にも多くのガスの情報を含んでいる。
【0089】
図7に示すように、成分種類特定部55dは、S103の成分種類特定処理が終了すると、図7に示す動作を終了する。
【0090】
以上に説明したように、質量分析システム10は、測定で検知された成分ガスの質量の測定値の補正の基準ガスとして、サンプルガスの成分ガス自体を使用する(S121~S134)ので、サンプルガスとは別のガスを補正のために使用する必要が無く、利便性を向上することができる。
【0091】
サンプルガスは、成分ガスの種類が多いほど、質量分析システム10によって基準ガスが決定される可能性が高い。成分ガスの種類が多いガスとしては、例えば、数十以上の成分ガスを含む呼気や、においを有するガスなどが存在する。
【0092】
同一の種類のガス同士は、同一の種類の成分ガスが多数含まれている可能性が高い。例えば、コーヒーの香りを有するガス同士や、養鶏場の悪臭を有するガス同士など、特定の種類のにおいを有するガス同士は、同一の種類の成分ガスが多数含まれている可能性が高い。質量分析システム10は、測定の度に同様な成分ガスを検知する場合、基準ガス候補が適切に選定される可能性を向上することができるので、サンプルガスの成分ガス自体から基準ガスを決定することができる可能性を向上することができる。したがって、質量分析システム10は、特定の種類のガスの専用のシステムとして提供されることが好ましい。例えば、質量分析システム10は、コーヒーの香りを有するガスの専用のシステムや、養鶏場の悪臭を有するガスの専用のシステムなど、特定の種類のにおいを有するガスの専用のシステムとして提供されても良い。
【0093】
質量分析システム10は、補正の実行後の測定値と同一の理想値に対応付けられている複数の成分ガス候補が成分ガス候補辞書54bに存在する場合(S142でYES)に、複数の成分ガス候補のそれぞれのイオン化エネルギーと、検知状況情報とに基づいて、成分ガスが複数の成分ガス候補のいずれに該当するかを特定する(S144)ので、成分ガスを特定する精度を向上することができる。
【0094】
質量分析システム10は、従来の質量分析システムと同様に高速に測定することが可能である。更に、質量分析システム10は、従来の質量分析システムと比較して、サンプルガスの成分ガスを高精度で検知することが可能である。したがって、質量分析システム10は、例えば、空港において、違法薬物や爆発物の検知を行う検知犬の代わりに、手荷物の検査を実行することが可能である。
【0095】
質量分析システム10は、「質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さく、コロナ放電測定において検知されていない」という条件を満たす成分ガスのうち、質量の測定値が最小の成分ガスと、最大の成分ガスとを基準ガスとして決定する(S121~S134)。したがって、質量分析システム10は、S102の質量補正処理における補正による誤差を低減する効果を向上することができる。しかしながら、質量分析システム10は、「質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さく、コロナ放電測定において検知されていない」という条件を満たす成分ガスのうち、質量の測定値が最小の成分ガスと、最大の成分ガスとの少なくとも一方を、「質量の測定値が「m-a」より大きく「m+a」より小さく、コロナ放電測定において検知されていない」という条件を満たす他の成分ガスに代えても良い。
【0096】
なお、質量分析システム10は、以上において、発生させるエネルギーが互いに異なる、コロナ放電部23aおよびUVランプ(9.8eV)23bという、2種類のエネルギー発生部を使用している。しかしながら、質量分析システム10は、発生させるエネルギーが互いに異なる3種類以上のエネルギー発生部を使用しても良い。
【0097】
図14は、3種類のエネルギー発生部を備える場合の質量分析システム10の構成図である。
【0098】
図14に示すように、イオン化部20は、10.6eVのエネルギーを発生させるエネルギー発生部としてのUVランプ(以下「UVランプ(10.6eV)」という。)23cを備えている。UVランプ(10.6eV)23cは、イオン化室21内に配置されている。なお、VOCガスの全ての種類のうち、イオン化エネルギーが10.6eV以下であるガスの種類の割合は、約80%である。
【0099】
図1に示す質量分析システム10においては、「イオン化エネルギーが、9.8eVより大きく、コロナ放電部23aによって発生させられるエネルギー以下であるガス」が基準ガス候補として採用されている。図14に示す質量分析システム10においては、「イオン化エネルギーが、9.8eVより大きく、10.6eV以下であるガス」と、「イオン化エネルギーが、10.6eVより大きく、コロナ放電部23aによって発生させられるエネルギー以下であるガス」とのいずれもが基準ガス候補として採用されることが可能である。図14に示す質量分析システム10は、図1に示す質量分析システム10と比較して、基準ガスを特定するためのエネルギーの範囲が狭いので、基準ガスを誤って特定する可能性を低減することができる。また、図14に示す質量分析システム10は、図1に示す質量分析システム10と比較して、成分ガス候補辞書54bにおいて成分ガス候補に対応付けられるエネルギーの範囲の種類を増やすことができるので、補正の実行後の測定値と同一の理想値が成分ガス候補辞書54bにおいて複数存在する場合に、成分ガスの種類を誤って特定する可能性を低減することができる。
【符号の説明】
【0100】
10 質量分析システム
54b 成分ガス候補辞書(成分ガス候補情報)
55a 測定制御部
55b 基準ガス決定部
55c 測定値補正部
55d 成分種類特定部
62、63、64、65 ガス(基準ガス候補)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14