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  • 特許-障害判定装置及び障害判定用プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】障害判定装置及び障害判定用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20230922BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230922BHJP
   A61B 5/22 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/11 200
A61B5/22 220
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019239077
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021108005
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】金 憲経
(72)【発明者】
【氏名】河合 恒
(72)【発明者】
【氏名】谷口 優
(72)【発明者】
【氏名】横山 友里
(72)【発明者】
【氏名】清野 諭
(72)【発明者】
【氏名】大渕 修一
(72)【発明者】
【氏名】北村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】新開 省二
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066465(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/141627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61B 5/11
A61B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の握力、歩行速度及び筋肉量のデータを用いてサルコスコアを算出するスコア算出手段及び5年後の手段的日常生活動作能力障害及び基本的日常生活動作障害の発生の有無を予測する障害判定手段を有し、
上記スコア算出手段は、下記式1を用いてサルコスコアを算出する手段であり、
上記障害判定手段は、下記式2に得られたサルコスコアを代入して手段的日常生活動作能力障害及び基本的日常生活動作障害の予測値q(x)を得、上記q(x)の程度をもって障害の発生の有無を判定する、
サルコスコアを用いた障害予測判定装置。
式1:
サルコスコア男性=10×{(t1×(X-t2)/t3}+(t4×(X-t5)/t6}+(t7×(X-t8)/t9}+50
サルコスコア女性=10×{(p1×(X-p2)/p3}+(p4×(X-p5)/p6}+(p7×(X-p8)/p9}+50
式中Xは握力強度(kg)を、Xは骨格筋量指標(kg/m)を、Xは歩行速度(m/s)を示す。また、t及びpはそれぞれ変数を示す。
式2:手段的日常生活動作能力障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(r1Y1-r10Y10-r0)〕}
基本的日常生活動作障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(s1Y1-s10Y10-s0)〕}
式中、Y1は年齢、Y10はサルコスコアを示す。また、r及びsはそれぞれ変数を示す。
【請求項2】
コンピュータに以下のステップを実行させるプログラムであって、
被験者の握力、歩行速度及び筋肉量データを下記式1に代入してサルコペニアの程度を示すサルコスコアを算出するステップと、
得られたサルコスコアを代入した予測値のカットオフ値と照会し、手段的日常生活動作能力障害及び基本的日常生活動作障害の発生の有無を判定するステップとを具備する障害判定用プログラム。
サルコスコア男性=10×{(t1×(X-t2)/t3}+(t4×(X-t5)/t6}+(t7×(X-t8)/t9}+50
サルコスコア女性=10×{(p1×(X-p2)/p3}+(p4×(X-p5)/p6}+(p7×(X-p8)/p9}+50
式中Xは握力強度(kg)を、Xは骨格筋量指標(kg/m)を、Xは歩行速度(m/s)を示す。また、t及びpはそれぞれ変数を示す。
式2:手段的日常生活動作能力障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(r1Y1-r10Y10-r0)〕}
基本的日常生活動作障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(s1Y1-s10Y10-s0)〕}
式中、Y1は年齢、Y10はサルコスコアを示す。また、r及びsはそれぞれ変数を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価者の負担を軽減して、簡易な操作で正確に被験者のサルコペニアに由来する障害の有無を判定することができる障害判定装置及び障害判定用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、寿命が長くなり、高齢化社会が進行するに従い、予防医学の見地から老年期の生活機能の障害(要支援・要介護状態等)が発生する前に検知して、障害の発生や進行を予防する技術の開発が要望されている。そのため、種々提案がなされている。
例えば、特許文献1には、転倒以外の老年障害についても、発生の危険性を歩行行為から簡便に評価できるようにするために、歩行行為で計測した歩行パラメータに基づいて老年障害の起こりやすさ(老年障害リスク)を評価するにあたり、歩行パラメータとして、ケーデンス、ストライド、歩行比、歩幅、歩隔、歩行角度、つま先角度、ストライド左右差、歩隔左右差、歩行角度左右差及び両脚支持期左右差から選ばれる2以上を使用し、少なくとも、膝痛、腰痛、尿失禁、認知症及びサルコペニアから選ばれる老年障害の老年障害リスクを評価する評価方法が提案されている。
また、特許文献2には、複数の臓器情報の組み合わせから疾患の評価を行うことができるように、医用画像を取得する取得部と、取得部により取得された医用画像から臓器が描出された臓器領域を抽出する抽出部と、抽出部により抽出された臓器領域の臓器情報を導出する第1導出部と、取得部により取得された第1の医用画像から抽出された第1の臓器領域について導出された第1の臓器情報と、取得部により取得された第2の医用画像から抽出された第2の臓器領域について導出された第2の臓器情報と、に基づいて、疾患の評価に関する指標値を導出する第2導出部と、を含む診断支援装置が提案さている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-255786号公報
【文献】特開2019-149093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の提案にかかる評価方法や診断支援装置では、未だ被験者にフィードバック可能な情報が複雑で、評価者が検査結果を返却する際、説明に多大な時間が生じているとともに、サルコペニアの程度判定やサルコペニアに起因する障害の予測判定を行うことができないという問題があった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、評価者の負担を軽減するとともに、サルコスコアを算出し、サルコスコアに基づく障害の有無や程度を認定する事が可能な、障害判定装置及び障害判定用プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、特定の式によりサルコスコアを求めれば生活機能障害の発生リスクを正確に判定することができることを知見し、かかる知見に基づいて障害の判定を如何に行うべきか鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.被験者の握力、歩行速度及び筋肉量のデータを用いてサルコスコアを算出するスコア算出手段及び5年後の手段的日常生活動作能力(以下、「IADL」という場合もある)障害及び基本的日常生活動作(以下、「BADL」という場合もある)障害の発生の有無を予測する障害判定手段を有し、
上記スコア算出手段は、下記式1を用いてサルコスコアを算出する手段であり、
上記障害判定手段は、下記式2に得られたサルコスコアを代入して手段的日常生活動作能力障害及び基本的日常生活動作障害の予測値q(x)を得、上記q(x)の値をもって障害の発生の有無を判定する、
サルコスコアを用いた障害予測判定装置。
式1:
サルコスコア男性=10×{(t1×(X-t2)/t3}+(t4×(X-t5)/t6}+(t7×(X-t8)/t9}+50
サルコスコア女性=10×{(p1×(X-p2)/p3}+(p4×(X-p5)/p6}+(p7×(X-p8)/p9}+50
式中Xは握力強度(kg)を、Xは骨格筋量指標(kg/m)を、Xは歩行速度(m/s)を示す。また、t及びpはそれぞれ変数を示す。
式2:手段的日常生活動作能力障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(r1Y1-r10Y10-r0)〕}
基本的日常生活動作障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(s1Y1-s10Y10-s0)〕}
式中、Y1は年齢、Y10はサルコスコアを示す。また、r及びsはそれぞれ変数を示す。
2.コンピュータに以下のステップを実行させるプログラムであって、
被験者の握力、歩行速度及び筋肉量データを下記式1に代入してサルコペニアの程度を示すサルコスコアを算出するステップと、
得られたサルコスコアを代入して得られる予測値のカットオフ値と照会し、手段的日常生活動作能力障害及び基本的日常生活動作障害の発生の有無を判定するステップとを具備する障害判定用プログラム。
サルコスコア男性=10×{(t1×(X-t2)/t3}+(t4×(X-t5)/t6}+(t7×(X-t8)/t9}+50
サルコスコア女性=10×{(p1×(X-p2)/p3}+(p4×(X-p5)/p6}+(p7×(X-p8)/p9}+50
式中Xは握力強度(kg)を、Xは骨格筋量指標(kg/m)を、Xは歩行速度(m/s)を示す。また、t及びpはそれぞれ変数を示す。
式2:手段的日常生活動作能力障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(r1Y1-r10Y10-r0)〕}
基本的日常生活動作障害障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(s1Y1-s10Y10-s0)〕}
式中、Y1は年齢、Y10はサルコスコアを示す。また、r及びsはそれぞれ変数を示す。
【発明の効果】
【0007】
本発明の障害判定装置及び障害判定用プログラムによれば、評価者の負担を軽減するとともに、サルコスコアを算出し、サルコスコアに基づく障害の有無や程度を認定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の障害判定装置の概要図である。
図2図2は、本発明のプログラムのフローシートを示す模式図である。
図3図3は、本発明の障害判定装置の出力形式の1形態を示す実施態様図である。
【符号の説明】
【0009】
1:障害判定装置、10:コンピュータ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の障害判定装置は、被験者の握力、歩行速度及び筋肉量データを用いてサルコスコアを算出するスコア算出手段及びIADL障害及びBADL障害の有無を判定する障害判定手段を有する。スコア算出手段は、後述する式1を用いてサルコスコアを算出する手段であり、障害判定手段は、サルコスコアを代入して得られる予測値のカットオフ値に参照してIADL障害及びBADL障害の発生の有無を判定する手段である。
ここで、IADL(Instrumental Activities of Daily Living)は、手段的日常生活動作と言われるものであり、日常的な動作の中でも、より頭を使って判断することが求められる動作、例えば、買い物や服薬管理、電話の応対などが該当する。IADL障害は、例えば、買い物の場合、メニューに応じて何を買うべきか理解すること、会計時の判断力(金銭の管理能力)等における障害が該当する。また、BADL(Basic Activity of Daily Living)は、基本日常生活動作と言われるものであり、例えば、起居動作、移動動作、食事動作、排泄動作、整容、入浴動作、コミュニケーション等の基本動作が該当する。BADL障害は、これらの基本動作に障害が発生する場合を意味する。
本実施形態の障害判定装置1は、具体的には、図1に示すように、いわゆるコンピュータ10により構成されている。この際用いることができるコンピュータとしては、特に図示しないが、中央演算処理装置(CPU)、一時記憶領域としてのメモリ、及びハードディスクやソリッドステートデバイス等の不揮発性の記憶媒体を含むものを特に制限なく用いることができる。いわゆるスマートフォンやタブレット端末のような携帯端末も用いることができ、本明細書における「コンピュータ」に含まれる。また、本実施形態におけるコンピュータは、特に図示しないが、通信デバイスを有し、ネットワークを介しての通信が可能であるのが好ましい。通信を行うことでネットワーク上に置かれたデータベースを有するサーバーに接続し、データベースから随時更新されたデータを入手するように設定することもできる。また、コンピュータには、キーボード、マウス、カメラなどの画像入力装置、マイクなどの音声入力装置、ブルートゥース(登録商標)等の通信機器による通信入力装置等の入力機器20を備えさせて、適宜必要なデータ及び情報を入力するように設定する。また、算出手段及び判定手段としてのコンピュータ10による判定結果を表示するディスプレイ、または印刷するプリンター等の出力手段30を備え、適宜結果を所望の形態で出力する。
本実施形態においては、このコンピュータに後述するプログラムが格納されて、当該コンピュータを上記スコア算出手段及び上記障害判定手段として機能させる。
また、本実施形態の障害判定装置は、上記コンピュータ以外に他の部材(デバイス)を有しても良い。以下詳述する。
【0011】
<他の部材(デバイス)>
本実施形態の障害判定装置にデータを入力するためには、被験者の握力、歩行速度及び筋肉量データを測定する部材(デバイス)が必要である。
被験者の握力及び歩行速度は、いずれも通常の握力測定に用いられる握力計等の器具及び歩行速度に用いられるストップウォッチ等の器具を用いることができる。
筋肉量データは、四肢骨格筋量(Appendicular Skeletal Muscle Mass Index,ASM)として生体電気抵抗(bioelectrical impedance)法(BI法)から四肢の筋肉量を合計することで得ることができる。したがって、筋肉量データを求める場合には、BI法の測定装置が必要となる。また、四肢骨格筋量が算出される通常の体重計型の体組成計でも求めることができる。
【0012】
<コンピュータ(スコア算出手段、障害判定手段)>
上記コンピュータ10は、その記憶媒体に本実施形態のプログラムを記憶させておき、コンピュータに所定のステップを実行させることで、上記スコア算出手段及び障害判定手段として機能する。
まず、上記プログラムについて説明する。
【0013】
<プログラム>
本実施形態のプログラムは、コンピュータに以下のステップを実行させるプログラムである。
照合されたデータを下記式1に代入してサルコペニアの程度を示すサルコスコアを算出するステップ(以下、「算出ステップ」という)。
得られたサルコスコアを代入して得られる予測値のカットオフ値と照会し、IADL障害及びBADL障害の有無を判定するステップ(以下、「判定ステップ」という)。
具体的には、図1のフローシートに示すように、まず、データの入力を行い、入力されたデータを記憶媒体に格納し、後のステップで使用できるようにする(入力ステップS0)。入力により記憶媒体に格納されたデータを用いて算出ステップS1を行い、算出ステップS1で得られたサルコスコアを用いてIADL障害及びBADL障害の発生の有無を判定する判定ステップS2を行う。判定ステップS2で得られた障害の有無に関するデータを各種の出力形式で出力する(出力ステップS3)。
以下、各ステップについて説明する。
【0014】
(入力ステップS0)
上記入力ステップS0は、まず、入力手段20により、具体的にはキーボードによる入力、スキャナーによるスキャン、各種測定機器からのデータ移送によって各種データをコンピュータ10に入力する。この際、入力するデータとしては、算出ステップS1で用いる、被験者の握力、歩行速度及び筋肉量データが挙げられる。また、判定ステップS2で用いられる、年齢、性別が挙げられる。これらのデータは被験者の個人特定データ、すなわち、被験者の氏名、年齢、個人特定のための各種番号、住所等の情報と関連付けて記憶される。また判定ステップS2で変数を多くして正確性を向上させることも可能である。ここで、これらの入力データは、算出ステップS1、及び判定ステップS2で使用しやすいように、表計算データとして入力し、記憶媒体に格納することができる。
【0015】
(算出ステップS1)
入力ステップによって入力され、記憶媒体に格納された特定の被験者の握力、歩行速度及び筋肉量データ及び性別を抽出し、性別が男性であるか女性であるかを判別し、性別が男性である場合には下記式1のサルコスコア男性の式に、女性である場合には、下記式1のサルコスコア女性の式に、それぞれ代入してサルコスコアを得る。
得られたサルコスコアは、上記入力ステップS0において各データが格納された表にプログラムの作用により入力され、コンピュータの記憶媒体に格納される。
式1:サルコスコア男性=10×{(t1×(X-t2)/t3}+(t4×(X-t5)/t6}+(t7×(X-t8)/t9}+50
サルコスコア女性=10×{(p1×(X-p2)/p3}+(p4×(X-p5)/p6}+(p7×(X-p8)/p9}+50
式中Xは握力強度(kg)を、Xは骨格筋量指標(kg/m)を、Xは歩行速度(m/s)を示す。すなわち、このステップを実行するように、本実施形態のプログラムは、上記入力ステップで入力されたX、X及びXの実測値を、被験者の個人特定データと照合して抽出し、抽出されたデータを上記式に代入する操作を行うように設定されている。また、t及びpはそれぞれ変数を示す。
ここで、上記式中におけるt及びpは、それぞれ、使用するデータの量が増加するに従い、変化する可能性があるが、現状では、下記式1’のとおりである。
ここで、変数t1、t4、t7並びにp1、p4、p7は握力、歩行速度、筋肉量を変数とする主成分分析の第一主成分得点である。変数t2、t3、t5,t6、t8,t9並びにp2、p3、p5,p6、p8,p9は、サルコスコアを作成する母集団における各変数の平均値と標準偏差である
式1’:サルコスコア男性=10×{(0.838×(X-34.20)/7.03}+(0.740×(X-7.36)/0.77}+(0.591×(X-1.35)/0.24}+50
サルコスコア女性=10×{(0.835×(X-21.14)/4.90}+(0.694×(X-5.88)/0.67}+(0.642×(X-1.34)/0.25}+50
このステップを有することにより、上記コンピュータがスコア算出手段として機能する。
【0016】
(判定ステップS2)
入力ステップによって入力されたサルコスコアを予測式q(x)に代入し、5年後のIADL障害とBADL障害の発生を最も正確に判別する閾値と比較して、閾値以上の場合には障害ありと、閾値未満の場合には障害なしと判定する。
なお、閾値は、以下のようにして求めた。すなわち、5年後のIADL障害とBADL障害の発生の有無を従属変数とし、予測値q(x)を独立変数としたROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を描いてAUC(Area Under the Curve)を算出するとともに、感度と特異度の和が最大となる閾値を各障害の発生を最も正確に判別予測できる閾値と定義したところ、IADL障害の閾値は0.157、BADL障害の閾値は0.04となった。
式2:IADL障害の式q(x)=1/{1+exp〔-(r1Y1-r10Y10-r0)〕}
BADL障害の式q(x)=1/{1+exp〔-(s1Y1-s10Y10-s0)〕}
式中、Y1は年齢、Y10はサルコスコアを示す。また、r及びsはそれぞれ変数を示す。
なお、予測値q(x)を求める上記式は、各障害の発生の有無を従属変数、年齢とサルコスコアを独立変数としたロジスティックモデルによる回帰式である。予測値q(x)は、各障害が発生する確率を示している。また、上記式中におけるr及びsは、それぞれ、データ量が増加するに従い、変化する可能性があるが、現状では、下記式2’のとおりである。
式2’:IADL障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(0.08Y1-0.072Y10-5.166)〕}
BADL障害の予測式q(x)=1/{1+exp〔-(0.145Y1-0.107Y10-9.698)〕}
式中、Y1は年齢、Y10はサルコスコアを示す。すなわち、このステップを実行するように、本実施形態のプログラムは、上記入力ステップで入力されたY1及び上記算出ステップS1で得られたY10の値を、被験者の個人特定データと照合して抽出し、抽出されたデータを上記式に代入する操作を行うように設定されている。
このステップを有することにより、上記コンピュータが障害判定手段として機能する。
【0017】
(出力ステップS3)
判定ステップS2で得られた結果を本ステップで出力する。出力は、上述の出力手段により行うことができ、出力手段としてディスプレイを用いる場合にはディスプレイ画面に表示し、出力手段としてプリンターを用いる場合には所定の用紙に印字する。
(他のステップ)
本発明のプログラムは、上述の各ステップの他に、通常この種のプログラムにおいて設定されるような、コンピュータに実行させるべきステップを実行させるように構成されていてもよい。
【0018】
<使用例>
次に、本実施形態のプログラム及び障害判定装置の使用例を説明する。
本実施形態の障害判定装置1を使用するには、まず、所定の情報の入力を行う。
入力は、上記入力ステップS0の説明において詳述したように、所定の情報を、入力手段20を用いてコンピュータ10の記憶媒体に格納することにより行う。
次に、所望の被験者の情報を抽出し、被験者を特定した上で、コンピュータ10に上記の本実施形態のプログラムにおける算出ステップS1の実行を指示してサルコスコアを算出させ、記憶媒体に被験者と関連付けて記憶させる。この操作により、算出手段を機能させる。なお、指示は、プログラムに所定の操作画面がディスプレイに表示されるように設定しておき、所定の指示ボタンをクリックする等の操作で行うことができる。
更に、被験者を特定してコンピュータ10に上記の本実施形態のプログラムにおける判定ステップS2の実行を指示する。これにより、算出手段により得られ、記憶媒体に格納されたサルコスコア、及び入力手段20により入力され記憶媒体に格納された各種データを用いて、IADL障害の値及びBADL障害の閾値と比較して障害の有無が判定される。
そして、プログラムにおける出力ステップS3の表示または印刷を指示して、所定の形式で判定結果を出力する。
【0019】
出力の形式は特に制限されないが、例えば、図3に示すような形態のシートに表示することができる。
図3に示すシート100は、筋肉元気度を示すチェックシートであり、個人情報を示す情報欄101と、筋肉年齢を示す欄103と、筋肉得点を示す欄105と、筋肉の情報を示す欄107と、筋肉の5段階評価を示す欄108と、要支援・要介護の危険度を示す欄109と、からなる。
個人情報を示す情報欄101には、被験者を特定できるようにIDナンバー、性別、年齢及び測定日を記入できるように設定されている。したがって、プログラムにより、データベースからこれらの情報を抽出して、印刷を実行するようにコンピュータに指示される。
筋肉年齢を示す欄103は、上記式1で得られるサルコスコアに基づき算出するように、プログラムがコンピュータに指示し実行させることにより出力される欄である。筋肉年齢は、Zスコアに変更したサルコスコアを集団の年齢の標準偏差に乗じ、平均値を加算することで算出することが可能であり、その算出式を元にプログラムがコンピュータに指示する。ここで筋肉年齢の算出式は、サンプルの暦年齢の標準偏差×筋肉得点+サンプルの暦年齢の平均値により求める。具体的には、以下の式で求めることができる。
サルコスコアを作成した集団の男性の暦年齢の平均値が71.38、標準偏差が5.76の場合
男性の筋肉年齢算出式=-5.76×男性の筋肉得点+71.38+(1-0.469)×(暦年齢―71.38)
サルコスコアを作成した集団の女性の暦年齢の平均値が71.37、標準偏差が5.78の場合
女性の筋肉年齢算出式=-5.78×女性の筋肉得点+71.37+(1-0.456)×暦年齢―71.37)
筋肉得点を示す欄105は、上記式1で得られるサルコスコアに基づき算出するように、プログラムがコンピュータに指示し実行させることにより出力される欄である。すなわち、筋肉得点の欄には上記式1で得られるサルコスコアが代入される。
筋肉の情報を示す欄107は、上記式1で得られるサルコスコアを算出する際に使用される四肢筋肉量、握力及び歩行速度を測定日とともに出力される欄である。すなわち、データベースから、これらの情報を出力するように、プログラムがコンピュータに指示する。
筋肉の5段階評価を示す欄108は、被験者の視覚に訴えるようにグラフ化するものであり、筋肉の情報を示す欄にて出力される四肢筋肉量、握力及び歩行速度について、被験者の年齢・性別における平均値を3として、平均値との差を比にして出力するように、プログラムがコンピュータに指示する。
要支援・要介護の危険度を示す欄109は、本発明のプログラムを実行して得られる5年後のIADL障害とBADL障害の発生の可能性から、上記の閾値に比してどの程度の差があるかで算出して出力することができるが、本実施形態においては、筋肉得点から単純に得点をプロットして、出力するように設定している。
【0020】
なお、本発明は上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
〔実施例1〕
65歳の男性被験者について、本発明の障害判定装置及び障害判定用プログラムを用いて障害の発生可能性を判定した。
男性被験者の握力は20kg、骨格筋指数が6.5kg/m、歩行速度が0.8m/secであった。これをコンピュータに入力したところ、サルコスコアは、11.26となった。更にBADL障害の予測式q(x)を出力したところ0.186、障害の危険性については、危険性ありと判定された。


図1
図2
図3