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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 8/32 20060101AFI20230922BHJP
   H02P 8/12 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H02P8/32
H02P8/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020186093
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075357
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000138118
【氏名又は名称】株式会社メレック
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】小栗 秀治
(72)【発明者】
【氏名】安部 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】中出 高史
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-289946(JP,A)
【文献】特開平03-270693(JP,A)
【文献】特開2001-161085(JP,A)
【文献】実開昭56-007498(JP,U)
【文献】実開平10-202(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 8/32
H02P 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令パルスが入力されてステッピングモータ(1)のモータコイル(2)の励磁を切り替えることにより、前記ステッピングモータ(1)を駆動する駆動装置(10,10a)であって、
前記ステッピングモータ(1)に接続する複数の出力端子(11)と、
前記出力端子(11)ごとに設けられるスイッチング素子(TR1~TR10)、及び前記スイッチング素子(TR1~TR10)を駆動させる素子駆動回路(21)を備える出力段部(20)と、
前記指令パルスに従って前記出力段部(20)に励磁パターン信号を出力する励磁パターン出力部(30)と、
前記ステッピングモータ(1)に印加する駆動電圧を調節することにより定電流制御を行う定電流コントロール部(40)とを有し、
前記励磁パターン出力部(30)は、単位励磁サイクル(T)を管理する励磁周期カウンタ(33)と、前記励磁パターンの信号を前記素子駆動回路(21)に前記単位励磁サイクル(T)毎に出力する励磁パターン出力セレクタ(35)とを有し、
前記スイッチング素子(TR1~TR10)のON/OFFは、前記素子駆動回路(21)によって、前記励磁パターン出力セレクタ(35)から出力される前記励磁パターンに従って制御され、
前記定電流コントロール部(40)は、電流を検出する電流検出抵抗(R1,R2)と、ON/OFFの切り替えにより前記駆動電圧を増減させる制御用スイッチング素子(TR11)と、前記電流検出抵抗(R1,R2)で検出された検出電流に基づいて前記制御用スイッチング素子(TR11)のON/OFFを制御するPWM制御部(42)とを備え、
前記出力端子(11)と前記スイッチング素子(TR1~TR10)との間に、前記ステッピングモータ(1)に加える電圧を平滑化するフィルタ回路(50,60)が設けられ
前記フィルタ回路(50,60)は、前記単位励磁サイクル(T)内で前記スイッチング素子(TR1~TR10)のON/OFFによって形成される矩形波の電圧を平滑化して直流電圧に変換する
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記フィルタ回路(50,60)は、フィルタ用チョークコイル(Lf)と、フィルタ用コンデンサ(Cf)とを備える請求項1記載の駆動装置。
【請求項3】
前記フィルタ用コンデンサ(Cf)とグランドとの間に、接続/遮断を切り替えるフィルタ用スイッチング素子(TR12)が配され
前記フィルタ用スイッチング素子(TR12)は、前記ステッピングモータ(1)が回転状態のときに、遮断状態に切り替えられる
請求項2記載の駆動装置。
【請求項4】
前記フィルタ回路(50,60)のグランドは、前記定電流コントロール部(40)のグランドに接続されている請求項1~3のいずれかに記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータを駆動する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ステッピングモータを駆動するために駆動装置(ドライバ)が用いられる。ステッピングモータを駆動する場合、駆動装置に対して外部から指令パルス(外部指令パルス)が入力され、駆動装置において、その入力された指令パルスが計数される。また、駆動装置は、ステッピングモータに矩形波の電圧を加えてステッピングモータのモータコイル(以下、コイルと略記することもある)を励磁するとともに、励磁するコイルを順番に切り替えることにより、指令パルスの計数値に対応する速度でステッピングモータを回転させる。
【0003】
ステッピングモータの駆動装置としては、定電流制御の方法が異なる2種類の駆動装置が知られている。
一方の駆動装置は、出力段チョッパ型の定電流制御を行うものである。この出力段チョッパ型の駆動装置では、コイルに流れる電流として検出される検出電流と基準電流値との誤差信号を生成し、その誤差信号のレベルと所定のノコギリ波のレベルとを比較して駆動装置の出力段部(スイッチング素子)をチョッピングすることによって、コイルに流れる電流を一定の大きさに制御している。このため、出力段チョッパ型の駆動装置では、出力段部において、ステップ駆動のパターン制御と定電流制御の両方が行われる。
【0004】
なお、出力段チョッパ型の駆動装置では、駆動装置へ入力する電源の電圧が、そのままステッピングモータ(モータコイル)に印加される。このため、例えば駆動装置に入力される電圧がDC24Vの場合、ステッピングモータを所定の角度で停止させてホールドしたときであっても、モータコイルには24Vの電圧が印加される。
【0005】
もう一方の駆動装置は、モータコイルに入力されるモータ駆動電圧DVの調節を行うことによって、コイルに流れる電流を一定の大きさに制御する定電流制御を行うものである。このようにモータ駆動電圧DVの調節により行う定電流制御は、DV型の定電流制御と呼ばれ、また、DV型の定電流制御を行う駆動装置は、DV型の駆動装置と呼ばれている。このDV型の駆動装置の一例が、特開2008-61439号公報(特許文献1)に記載されている。
【0006】
例えば図18に示すように、特許文献1の駆動装置100は、5相ステッピングモータ101に接続される。この駆動装置100は、外部指令パルスCWP又はCCWPが入力されてコイルを励磁するための励磁パターンを出力する励磁パターン出力回路102と、複数のパワー素子(スイッチング素子)106と、励磁パターン出力回路102から出力される励磁パターンのデータに従ってパワー素子106のON/OFFを制御するパワー素子駆動回路103と、DV型の定電流制御を行う定電流制御部とを有する。
【0007】
励磁パターン出力回路102は、アドレスカウンタ(電気角位置管理)102aと、励磁周期カウンタ(駆動時間管理、励磁パターン切替指令)102bと、メモリ102cとを有する。メモリ102cには、励磁パターンデータと出力時間データが記憶されている。
【0008】
アドレスカウンタ102aは、外部指令パルスCWP、CCWPを受けて、5相ステッピングモータ101のモータ回転子(ロータ)の電気角位置(励磁アドレス)の情報を管理する。励磁周期カウンタ102bは、単位励磁周期ごとにアドレスカウンタ102aからアドレス(電気角位置情報)を読み込むとともに、メモリ102cから、アドレスに対応する励磁パターンデータとその出力時間データとを読み込む。更に、この読み込んだ励磁パターンデータと出力時間データに従って、各励磁パターンの指定とその励磁パターンの励磁時間(時間割合)のデータをパワー素子駆動回路103に出力する。
【0009】
パワー素子駆動回路103では、励磁パターン出力回路102から、上述のような励磁パターンのデータが入力され、各パワー素子106に与える電圧を制御する。これによって、ステッピングモータ101のコイルに電流を流して励磁し、また、励磁するコイルを順番に切り替える。それにより、ステッピングモータ101をステップ駆動する。
【0010】
駆動装置100の定電流制御部は、入力される電源の電圧を平滑化する第1コンデンサC1と、ON/OFFの切り換えによりモータ駆動電圧を増減させる制御用スイッチング素子107と、制御用スイッチング素子107のON/OFFを駆動するPWM定電流コントロール回路104と、モータコイルに流れる電流を検出する電流検出抵抗105と、制御用スイッチング素子107の切り換えにより生じる間欠的な電圧を平滑化するチョークコイルL1及び第2コンデンサC2と、チョークコイルL1が発する起電力をバイパスするダイオードD1とを有する。
【0011】
この定電流制御部は、モータコイルに流れる電流と基準電流との差を誤差信号として生成して、その誤差信号に基づいて制御用スイッチング素子107のON/OFFを行うことにより、コイルに入力されるモータ駆動電圧を調節する。これによって、モータコイルに流れる電流を一定に維持している。
【0012】
このようなDV型の駆動装置100は、上述した出力段チョッパ型の駆動装置に比べて多くの回路が必要となるものの、パワー素子駆動回路103では、ステップ駆動を行うためのパターン制御のみを行うことができる。このため、DV型の駆動装置100は、出力段部でステップ駆動のパターン制御と定電流制御の両方を行う出力段チョッパ型の駆動装置に比べて、より高分解能のマイクロステップ駆動を円滑に行うことが可能となる。
【0013】
また、特許文献1の駆動装置100では、ステッピングモータ101を高分解能でマイクロステップ駆動するために、複数の励磁パターンを合成することにより所要のトルクベクトルを生成している。すなわち、各励磁サイクルの中で、パワー素子106のスイッチング(ON/OFFの切り替え)を制御して複数の励磁パターンをそれぞれの出力時間の割合で出力することによって、モータコイルの平均電流値を操作し、それによって、所要のトルクベクトルを生成している。この場合、モータコイルの平均電流値の操作では、モータコイルのインダクタンスを利用することによって、モータコイルに流れる電流の平滑化が行われている。
【0014】
従って、特許文献1の駆動装置100によるステッピングモータ101のマイクロステップ駆動では、所要のトルクベクトルを得るために複数の励磁パターンを合成しているが、このような技術は、モータコイルのインダクタンスの利用(働き)を前提にして行われている。
【0015】
また、特許文献1のようなDV型の駆動装置100の場合、上述したように、モータ駆動電圧DVを調節して定電流制御が行われる。通常、ステッピングモータは、モータ回転速度が速くなるとモータのインピーダンスが高くなるため、それに応じて、モータコイルに印加する電圧(モータ駆動電圧DV)も高くなるが、モータ回転速度を遅くした場合やモータを停止させた場合、DV型の駆動装置ではモータコイルに印加する電圧を小さくできる。このため、例えば駆動装置に入力される電圧がDC24Vの場合でも、ステッピングモータを所定の角度でホールドするときには、モータコイルに印加される電圧を、出力段チョッパ型の駆動装置のような24Vではなく、3V程度と小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2008-61439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
通常、ステッピングモータの特性は、そのステッピングモータを駆動する駆動装置の性能によって大きく異なる。また、ステッピングモータは、所要の速度で回転するだけでなく、位置決めもできるモータであるため、ステッピングモータの特性として、ダイナミック特性とスタティック特性の両方が求められることが多い。
【0018】
ここで、例えば、駆動装置によって違いが生じるステッピングモータのダイナミック特性には、トルク特性、自起動特性、加速追従性、振動特性(回転の滑らかさ)、静穏性、回転(ドライブ)時のモータ発熱等が含まれる。また、駆動装置によって違いが生じるステッピングモータのスタティック特性には、分解能、ステップ毎の相対角度精度(モータ固有の絶対誤差を除く)、静止安定度、停止(ホールド)時のモータ発熱等が含まれる。更に、その他の特性として、回転から停止する際の位相変化、位相変化時に生じる振動、停止時の整定性等がある。また、駆動装置の性能の点まで拡げると、駆動装置の発生ノイズ、耐ノイズ性なども実用において特性に影響を与える要因である。
【0019】
駆動装置の性能は年々向上しており、それにより、ステッピングモータの各種の特性も良くなってきている。また、ステッピングモータの特性が高くなることに伴い、ステッピングモータが使用される分野もより高度になり、ステッピングモータへの要求も更に高度化されてきている。
【0020】
更に、高性能化したドライバが、高度な超精密機器に使用されるようになった結果、従来では確認されなかった新たな課題が生じるようになってきた。例えば、ステッピングモータを所要の角度で停止させてホールドしたときに、ホールド状態のステッピングモータにおいて、従来では確認できなかった超微振動(振動レベルが小さいナノメートルオーダーの超微振動)が生じていること、また、ステッピングモータの磁場が小さく変化していることが判明した。このようなステッピングモータの現象は、ステッピングモータのスタティック特性(特に、静止安定度)に影響を及ぼし、一部の超精密機器への使用に対して問題となる可能性があった。
【0021】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ステッピングモータをホールドした状態において、振動レベルが小さい超微振動の発生を抑制可能な駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明により提供される駆動装置は、指令パルスが入力されてステッピングモータのモータコイルの励磁を切り替えることにより、前記ステッピングモータを駆動する駆動装置であって、前記ステッピングモータに接続する複数の出力端子と、前記出力端子ごとに設けられるスイッチング素子、及び前記スイッチング素子を駆動させる素子駆動回路を備える出力段部と、前記指令パルスに従って前記出力段部に励磁パターン信号を出力する励磁パターン出力部と、前記ステッピングモータに印加する駆動電圧を調節することにより定電流制御を行う定電流コントロール部とを有し、前記励磁パターン出力部は、単位励磁サイクルを管理する励磁周期カウンタと、前記励磁パターンの信号を前記素子駆動回路に前記単位励磁サイクル毎に出力する励磁パターン出力セレクタとを有し、前記スイッチング素子のON/OFFは、前記素子駆動回路によって、前記励磁パターン出力セレクタから出力される前記励磁パターンに従って制御され、前記定電流コントロール部は、電流を検出する電流検出抵抗と、ON/OFFの切り替えにより前記駆動電圧を増減させる制御用スイッチング素子と、前記電流検出抵抗で検出された検出電流に基づいて前記制御用スイッチング素子のON/OFFを制御するPWM制御部とを備え、前記出力端子と前記スイッチング素子との間に、前記ステッピングモータに加える電圧を平滑化するフィルタ回路が設けられ、前記フィルタ回路は、前記単位励磁サイクル内で前記スイッチング素子のON/OFFによって形成される矩形波の電圧を平滑化して直流電圧に変換することを特徴とするものである。
【0023】
本発明の駆動装置において、前記フィルタ回路は、フィルタ用チョークコイルと、フィルタ用コンデンサとを備えることが好ましい。
この場合、前記フィルタ用コンデンサとグランドとの間に、接続/遮断を切り替えるフィルタ用スイッチング素子が配され、前記フィルタ用スイッチング素子は、前記ステッピングモータが回転状態のときに、遮断状態に切り替えられることが好ましい。
また本発明の駆動装置において、前記フィルタ回路のグランドは、前記定電流コントロール部のグランドに接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る駆動装置は、駆動電圧を調節するDV型の定電流制御を行うステッピングモータ用駆動装置であり、また、ステッピングモータが接続される出力端子と、出力段部のスイッチング素子(パワー素子)との間に、ステッピングモータに加える電圧を平滑化するフィルタ回路が、出力端子ごとに設けられている。
【0025】
本発明者等は、ステッピングモータの停止状態(ホールド状態)で超微振動が発生する要因について精査及び検討を重ねた結果、駆動装置からステッピングモータに出力される出力電流にリップル成分が含まれており、そのリップル成分がモータの静止安定度に影響を及ぼしていることが判明した。
【0026】
通常、DV型の駆動装置において、出力端子の電圧は、出力段部のスイッチング素子のON/OFFの制御によって矩形波(矩形波電圧)となる。この場合、ステッピングモータに出力される励磁電流は、モータコイルのインダクタンスによって平滑化されるものの、その電流にはリップル成分が残る。
【0027】
また、DV型の駆動装置では、定電流コントロール部において、電流検出抵抗で検出される検出電流が基準電流の電流値になるようにモータ駆動電圧(DV電圧)を制御しているため、DV電圧はホールド状態でも微小変化を繰り返している。このようなDV電圧の微小変化は、励磁電流に含まれるリップル成分の形態に影響を与え、この励磁電流におけるリップル成分の形態変化が1kHz以下の周波数で表れる場合に、ステッピングモータの静止安定度を低下させることが判った。
【0028】
そこで、駆動装置によるステッピングモータの分解能や振動特性(回転の滑らかさ)等の特性に影響を与えることなく、優れた静止安定度を得るためには、従来のように矩形波電圧によってモータコイルに加えられる励磁電流を、モータコイルのインダクタンス成分で平滑化するのではなく、駆動装置の出力端子とスイッチング素子との間にフィルタ回路(ローパスフィルタ回路)を設けて、スイッチング素子による矩形波電圧を直流電圧に変換すれば良いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0029】
本発明のようにフィルタ回路を設けて、ステッピングモータに印加する電圧を矩形波電圧から直流電圧に変換することにより、リップル成分のない励磁電流をモータコイルに流すことができる。それにより、ステッピングモータのホールド状態において、高度な超精密機器で観察される超微振動の発生を抑制でき、従来よりもステッピングモータの静止安定度を向上させることができる。更に、ステッピングモータに印加する電圧をフィルタ回路で直流化することにより、ステッピングモータのホールド時に生じる磁場の小さな変化を抑制することも期待できる。また本発明では、モータコイルの励磁電流にリップル成分が含まれなくなったことにより、ホールド時のモータ発熱を下げる効果も得られる。
【0030】
特に本発明は、DV型の定電流制御を行う駆動装置に対して適用される。ステッピングモータを所要の角度でホールドする場合、例えば出力段チョッパ型の駆動装置では、前述のように駆動装置への入力電圧がそのままモータコイルに印加されるため、モータコイルにはホールド時でも大きな電圧が印加されるが、DV型の駆動装置では、ホールド時にモータコイルに印加する電圧をモータ回転時よりも小さくできる。すなわち、本発明は、スイッチング素子のチョッピングにより形成される矩形波電圧を、ステッピングモータのホールド時に小さくするというDV型の駆動装置自体の特徴(特有の性質)を利用するものであり、本発明では、ホールド時の電圧値が小さな矩形波電圧をフィルタ回路で平滑化することによって、ステッピングモータの静止安定度を向上させるという出力段チョッパ型の駆動装置では期待できない効果を得ることができる。
【0031】
上述のような本発明の駆動装置において、フィルタ回路は、フィルタ用チョークコイルと、フィルタ用コンデンサとを備えている。これにより、スイッチング素子による矩形波電圧を直流電圧に安定して変換することができる。
【0032】
この場合、フィルタ用コンデンサとグランドとの間に、接続/遮断を切り替えるフィルタ用スイッチング素子が配されていてもよい。例えばステッピングモータのホールド時には、フィルタ用スイッチング素子でフィルタ用コンデンサとグランドを接続することによりフィルタ用コンデンサを作用させて直流電圧への変換を行い、一方、ステッピングモータの回転(ドライブ)時には、フィルタ用スイッチング素子でフィルタ用コンデンサとグランドを遮断してフィルタ用コンデンサが作用しないようにすることができる。
【0033】
ステッピングモータを高速で回転させるときに、例えば上述したフィルタ回路で矩形波電圧を直流電圧に変換する場合、励磁パターンに従ったスイッチング素子のON/OFFの切り換えに対して、ステッピングモータの励磁コイルの切り替えが遅れることが考えられ、その結果、高速回転時におけるステッピングモータのトルク低下を招くことに繋がる。これに対して、上述したようなフィルタ用スイッチング素子を設けて、ステッピングモータのドライブ時にフィルタ用コンデンサを効かない状態にすることにより、高速回転時におけるステッピングモータのトルク低下を抑制することができる。
【0034】
また本発明の駆動装置において、フィルタ回路のグランドは、DV型の定電流コントロール部のグランドに接続されている。これにより、フィルタ回路の設置による定電流コントロール部での電流検出への影響をなくし、DV型の定電流制御を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施形態に係る駆動装置の内部構成を示すブロック図である。
図2図1に示した駆動装置の出力段部とフィルタ回路とを拡大して示す拡大図である。
図3】駆動装置の出力端子とステッピングモータのモータコイルの接続関係、及びモータコイルに流れる電流の方向を示す模式図である。
図4】全てのモータコイルを励磁しないOFF時間の状態を説明する説明図である。
図5】ステッピングモータのモータコイルとトルクベクトルとの関係を説明する説明図である。
図6】基本角ステップの励磁パターンと基本角ステップ間の励磁パターンの割合について説明する説明図である。
図7】本発明の第2の実施形態におけるフィルタ回路を拡大して示す回路図である。
図8】(a)は、実施例の駆動装置(第1の実施形態の駆動装置)で励磁相ABCDを形成するときの第1出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第1出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図9】(a)は、同駆動装置の第2出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第2出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図10】(a)は、同駆動装置の第3出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第3出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図11】(a)は、同駆動装置の第4出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第4出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図12】(a)は、同駆動装置の第5出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第5出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図13】(a)は、比較例の駆動装置で励磁相ABCDを形成するときの第1出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第1出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図14】(a)は、同駆動装置の第2出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第2出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図15】(a)は、同駆動装置の第3出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第3出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図16】(a)は、同駆動装置の第4出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第4出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図17】(a)は、同駆動装置の第5出力端子における出力電圧と出力電流を測定した結果を示すグラフであり、(b)は、第5出力端子における出力電圧と出力電流のリップル成分を測定した結果を示すグラフである。
図18】従来の駆動装置の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
先ず、本発明の第1の実施形態に係る駆動装置10について、図1図6を参照しながら具体的に説明する。ここで、図1は、第1の実施形態に係る駆動装置の内部構成を示すブロック図であり、図2は、図1に示した駆動装置の出力段部とフィルタ回路とを拡大して示す拡大図である。
【0037】
図1に示す駆動装置(ドライバ)10は、DV型の定電流制御を行うDV型の駆動装置10であり、ペンダゴン結線方式の5相ステッピングモータ1に接続される。この駆動装置10には、CWP(Clock Wise Pulse)方向又はCCWP(Counter Clock Wise Pulse)方向の外部指令パルスが、コントローラ等の外部機器から入力される。駆動装置10は、その指令パルスの入力を受けてステッピングモータ1で励磁するモータコイル2を切り替えることにより、ステッピングモータ1をステップ駆動させる。なお、CWP方向の外部指令パルスは、ステッピングモータ1のモータ回転軸(ロータ)を時計回りに正転させるための外部指令パルスであり、CCWP方向の外部指令パルスは反時計回りに逆転させるための外部指令パルスである。また、外部指令パルスは、指令パルスと略称されることもある。
【0038】
ここで、図3及び図4に示すように、ペンタゴン結線方式の5相ステッピングモータ1における5つのモータコイル2を、それぞれ第1コイル2a,第2コイル2b,第3コイル2c,第4コイル2d,第5コイル2eと定義する。また、第1コイル2a~第5コイル2eのそれぞれに流れるモータ電流を、それぞれモータ電流A,a;モータ電流B,b;モータ電流C,c;モータ電流D,d;モータ電流E,eと定義する。
【0039】
この場合、モータ電流A,B,C,D,Eと、モータ電流a,b,c,d,eとは、互いに対応するアルファベットについて、第1コイル2a~第5コイル2eのそれぞれにおいて反対の向きに流れる電流を示す。また、例えば第1コイル2aについて、モータ電流Aを流して励磁した状態を励磁コイル(励磁相)Aと表し、反対向きのモータ電流aを流して励磁した状態を励磁コイル(励磁相)aと表す。第2コイル2b~第5コイル2eについても、第1コイル2aの場合と同様とする。
【0040】
更に、図5に示すように、5相ステッピングモータ1の第1コイル2a~第5コイル2eに、モータ電流A,a;B,b;C,c;D,d;E,eがそれぞれ流れたときに生成されるトルクベクトルを、モータ電流の各アルファベットに対応させて、それぞれトルクベクトルVA,Va;VB,Vb;VC,Vc;VD,Vd;VE,Veと定義する。すなわち、励磁コイルAで生じるトルクベクトルVAと、励磁コイルaで生じるトルクベクトルVaとは、互いに逆方向のベクトルとなる。
【0041】
第1の実施形態に係る駆動装置10は、第1出力端子11a~第5出力端子11eの5つの出力端子11と、出力段部20と、出力段部20に励磁パターンの信号を出力する励磁パターン出力回路(励磁パターン出力部)30と、DV型の定電流制御を行う定電流コントロール部40と、出力段部20と各出力端子11の間に配される5つのフィルタ回路50とを有する。
【0042】
第1出力端子11a~第5出力端子11eは、ステッピングモータ1の隣り合うモータコイル2が接続される5つの接続点にそれぞれ接続される。第1の実施形態の場合、第1出力端子11a~第5出力端子11eは、図3及び図4に示すような関係でステッピングモータ1の各接続点にそれぞれ接続される。
【0043】
出力段部20は、複数のスイッチング素子(パワーMOS FET)TR1~TR10と、スイッチング素子TR1~TR10を駆動する素子駆動回路(パワー素子駆動回路)21とを有する。スイッチング素子TR1~TR10は、第1出力端子11a~第5出力端子11eのそれぞれについて、電源側に接続される正極側(ハイサイド)のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9と、接地側に接続される負極側(ローサイド)のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10とを有する。
【0044】
素子駆動回路21は、ゲートドライバ(専用IC)によって形成されている。素子駆動回路21において、正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9を駆動するためには、それらのスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9に対応する図示しないコンデンサを充電する必要がある。このコンデンサの充電は、負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10をONにすること(正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9をOFFにすること)により行われる。
【0045】
従って、この駆動装置10では、上述したコンデンサの充電を行うために、例えば図4及び図6に示すように、単位励磁サイクルT毎に、各出力端子11に対応する全ての正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9をOFFに(負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10をONに)することによって、モータコイル2の励磁を行わないOFF時間を設ける必要がある。本発明では、上述のように全ての出力端子11において正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9をOFFにして、負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10をONにした状態を便宜上「ネガティブOFF」と規定する。この「ネガティブOFF」の状態では、モータコイル2の接続点が全てマイナスの同電位に保持されるため、ステッピングモータ1は全てのモータコイル2が励磁されない非励磁状態となる。
【0046】
励磁パターン出力回路30は、ロジック回路で構成されており、特に第1の実施形態では、FPGA(Field Programmable Gate Array)により構成されている。
この励磁パターン出力回路30は、入力される外部指令パルスを計数して電気角位置(ステップ位置)及びその電気角位置に対応するアドレスを管理するアドレスカウンタ31と、アドレスカウンタ31から指令パルスの計数が入力されることによりステッピングモータ1の回転速度を管理する速度計測カウンタ32と、単位励磁サイクルT(単位励磁周期)を管理する励磁周期カウンタ33とを有する。
【0047】
また、励磁パターン出力回路30は、複数の励磁パターンデータ及び励磁デューティーデータ等を記憶するメモリ34と、メモリ34から励磁パターンデータ及び励磁デューティーデータを選択してそのデータに従って励磁パターンの信号を単位励磁サイクルT毎に出力する励磁パターン出力セレクタ35とを有する。更に、励磁パターン出力回路30には、A/Dコンバータによってデジタル化されたモータ駆動電圧DVが入力される。なお本発明において、励磁パターン出力回路30における上述したような処理を行う各部分は、複数の処理部によって形成されていてもよく、また、各処理を行う複数の部分が1つの処理部によって形成されていてもよい。
【0048】
励磁パターン出力回路30を形成するアドレスカウンタ31は、外部指令パルスの入力によりアドレスの数値をカウントアップ又はカウントダウンすることにより、電気角位置とアドレスの数値を管理する。また、アドレスカウンタ31は、管理しているアドレスの数値を、速度計測カウンタ32、励磁周期カウンタ33、及び励磁パターン出力セレクタ35にそれぞれ出力する。
【0049】
速度計測カウンタ32は、単位時間当たりの外部指令パルスの入力数から、ステッピングモータ1の演算上の回転速度を管理するとともに、その管理する回転速度の値を励磁パターン出力セレクタ35に出力する。励磁周期カウンタ33は、外部指令パルスとは無関係な一定の単位励磁サイクルTを管理するとともに、単位励磁サイクルT毎に励磁切替指令を励磁パターン出力セレクタ35に出力する。
【0050】
励磁パターン出力セレクタ35では、素子駆動回路21に出力する励磁パターンを切り替える処理が行われる。すなわち、励磁パターン出力セレクタ35は、速度計測カウンタ32で管理される回転速度と、アドレスカウンタ31で管理されるアドレスとに基づいて、メモリ34に記憶されている複数の励磁パターンデータと複数のデューティーデータから、対応する励磁パターンデータとデューティーデータを選択し、その選択した励磁パターンの信号を素子駆動回路21に単位励磁サイクルT毎に出力する。
【0051】
これにより、素子駆動回路21では、励磁パターン出力セレクタ35から入力された励磁パターンに従って、出力段部20の各スイッチング素子TR1~TR10のON/OFFを制御し、それによって、ステッピングモータ1のモータコイル2が所定のタイミングで励磁される。
【0052】
また、励磁パターン出力回路30には、外部指令パルスCWP又はCCWPの入力に基づいてステッピングモータのドライブ状態とホールド状態とを判定する判定カウンタ(不図示)が設けられていてもよい。この判定カウンタは、駆動装置に対する外部指令パルスの立下りエッジ又は立上りエッジによってカウントを開始するドライブ状態維持タイマーを有するとともに、ドライブ状態の判定を行うための判定時間が設定される。この判定時間としては、例えば150msの時間が設定される。
【0053】
判定カウンタでは、例えば、外部指令パルスが入力されることによってドライブ状態維持タイマーを初期値からカウントし、設定された判定時間(150ms)が経過する前に次の外部指令パルスが入力されると、ドライブ状態を判定し(ドライブ状態の判定を維持し)、また、ドライブ状態維持タイマーがクリアされて再び初期値からカウントを始める。一方、設定された判定時間までに次の外部指令パルスの入力がなければ、ホールド状態と判定する。また、判定カウンタは、ドライブ状態とホールド状態の判定結果の信号を出力し、その出力信号は、定電流コントロール部40で基準値(基準電流)を切り替える信号として使用される。これによって、定電流コントロール部40では、例えばステッピングモータのホールド時にモータコイルを励磁する励磁電流を引き下げることができ、その結果、ホールド状態のステッピングモータの発熱を低減することが可能となる。
【0054】
図1に示した定電流コントロール部40は、ステッピングモータ1に対してDV型の定電流制御を行う。この定電流コントロール部40は、駆動装置10に入力された電圧を平滑化する第1コンデンサC1と、ON/OFFの切り換えによりモータ駆動電圧DVを増減させる制御用スイッチング素子TR11と、制御用スイッチング素子TR11のON/OFFを駆動する制御用素子駆動回路41と、制御用スイッチング素子TR11の切り換えにより生じる間欠的な電圧を平滑化してモータ駆動電圧DVを生成するチョークコイルL1及び第2コンデンサC2と、チョークコイルL1が発する起電力をバイパスするダイオードD1とを有する。
【0055】
更に、定電流コントロール部40は、第2コンデンサC2のマイナス側とグランドの間に直列接続される第1センシング抵抗(第1電流検出抵抗)R1と、出力段部20を形成する回路の出力側と第2コンデンサC2のマイナス側の間に直列接続される第2センシング抵抗(第2電流検出抵抗)R2と、第1センシング抵抗R1及び第2センシング抵抗R2で検出される検出電流に基づいて制御用素子駆動回路41を制御するPWM定電流コントロール回路(PWM制御部)42とを有する。
【0056】
PWM定電流コントロール回路42は、第1センシング抵抗R1及び第2センシング抵抗R2における検出電流と基準電流との差を誤差信号として生成し、その誤差信号に基づいて、制御用素子駆動回路41を介して制御用スイッチング素子TR11のON/OFFを切り替える。これにより、ステッピングモータ1に印加する駆動電圧を調節して、モータコイル2に流れる電流を一定となるように制御する。
【0057】
具体的には、第1センシング抵抗R1及び第2センシング抵抗R2に流れる電流が減少した場合には、誤差信号のレベルが上昇するため、PWM定電流コントロール回路42で制御用スイッチング素子TR11のON時間を長くする。それにより、駆動電圧を増大して、モータコイル2に流れる電流を増加させる。一方、第1センシング抵抗R1及び第2センシング抵抗R2に流れる電流が増加した場合には、誤差信号のレベルが下降するため、PWM定電流コントロール回路42で制御用スイッチング素子TR11のON時間を短くして、モータコイル2に流れる電流を減少させる。これにより、モータコイル2に流れる電流を一定の大きさで安定化させて、ステッピングモータ1を定電流駆動できる。
【0058】
駆動装置10には、第1フィルタ回路50a~第5フィルタ回路50eの5つのフィルタ回路50が、第1出力端子11a~第5出力端子11eに対応して設けられている。第1フィルタ回路50a~第5フィルタ回路50eは、互いに同じ回路構成で形成されている。
【0059】
各フィルタ回路50は、1つのフィルタ用チョークコイルLfと、1つのフィルタ用コンデンサCfとを有するローパスフィルタ回路50により形成されている。フィルタ用チョークコイルLfは、正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9及び負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10間の位置と、フィルタ用コンデンサCfの正極側との間に配置されている。
【0060】
フィルタ用コンデンサCfの負極側は、フィルタ回路50のグランドに接続されている。この場合、フィルタ回路50のグランドは、定電流コントロール部40のグランドに接続されている。これにより、定電流コントロール部40の電流検出に対するフィルタ回路50での電圧平滑化の影響がなくなり、DV型の定電流制御を安定して行うことができる。
【0061】
このようなフィルタ回路50を各出力端子11と、それに対応するスイッチング素子TR1~TR10との間に設けることにより、スイッチング素子TR1~TR10のON/OFFによって形成される矩形波電圧を直流電圧に変換でき、それによって、出力端子11から、リップル成分のない直流電流をモータコイル2に流すことができる。
【0062】
また第1の実施形態において、フィルタ用チョークコイルLfには、定電流コントロール部40に設けたチョークコイルL1とインダクタンスが同じものが用いられている。また、フィルタ用コンデンサCfには、定電流コントロール部40の第1コンデンサC1及び第2コンデンサC2よりもインピーダンスが低いハイブリッドタイプのコンデンサが用いられている。このようなフィルタ用チョークコイルLf及びフィルタ用コンデンサCfを用いることにより、モータコイル2に印加する電圧(モータ駆動電圧DV)をフィルタ回路50で安定して平滑化することができる。
【0063】
次に、本実施形態の駆動装置10によりステッピングモータ1を駆動する方法について説明する。
ステッピングモータ1を駆動する場合、駆動装置10の励磁パターン出力回路30において、外部から入力される外部指令パルスに従って、励磁パターン出力セレクタ35から所要の励磁パターンの信号を出力段部20の素子駆動回路21に出力する。素子駆動回路21では、励磁パターン出力セレクタ35から入力される励磁パターン信号に従って、各スイッチング素子TR1~TR10のON/OFFを制御する。また同時に、定電流コントロール部40において、制御用スイッチング素子TR11のON/OFFの切り換えによるDV型の定電流制御を行う。
【0064】
ここで、ステッピングモータ1の回転と励磁パターンについて説明する。
ステッピングモータ1の電気角一周(360°)は、機械角(モータ回転軸の回転角)の7.2°に相当する。この電気角一周(機械角の7.2°)を50回繰り返すことにより、機械角を1周させること(モータ回転軸の1回転させること)ができる。
【0065】
例えばCWP方向の外部指令パルスが入力されて、ステッピングモータ1の電気角一周(機械角の7.2°)を基本角ステップ(フルステップ)の位置でステップ駆動する場合には、出力段部20のスイッチング素子TR1~TR10のON/OFFを切り替えることにより、ステッピングモータ1において、モータコイル2の4相を励磁する4相励磁が順番に切り替えられる。具体的には、モータコイル2の4相励磁は、励磁相ABCD(0°の電気角位置)→BCDE(36°の電気角位置)→CDEa(72°の電気角位置)→DEab(108°の電気角位置)→Eabc(144°の電気角位置)→abcd(180°の電気角位置)→bcde(216°の電気角位置)→cdeA(252°の電気角位置)→deAB(288°の電気角位置)→eABC(324°の電気角位置)→励磁相ABCD(0°の電気角位置)の順序で10回切り換えて変更される。
【0066】
これによって、ステッピングモータ1のモータ回転軸を機械角で0.72°(電気角で36°)ずつ10回ステップ駆動(歩進)させて、電気角一周となる7.2°の機械角を回転(正転)させる。そして、このような基本角ステップの10回の歩進を50回繰り返すことにより(基本角ステップの10回×50)、モータ回転子を機械角で360°、すなわち機械角で1回転させることができる。なお、CCWP方向の外部指令パルスが入力されるときは、モータコイル2の励磁が上記とは逆方向の順序で変更され、それによって、モータ回転子を逆回転させることができる。
【0067】
また第1の実施形態では、各基本角ステップの位置でモータコイル2をそれぞれ4相励磁する場合、2つの2相励磁の励磁パターンを単位励磁サイクルT毎に組み合わせて合成することにより各励磁相が形成される。例えば0°の電気角位置では、図6に示したように、単位励磁サイクルT(48.6μs)内で励磁パターンADによる励磁相ADと、励磁パターンBCによる励磁相BCとが組み合わされて出力されることにより、合成された励磁相ABCDが単位励磁サイクルTで形成される。
【0068】
このとき、励磁パターンADと励磁パターンBCとでは、それぞれ、第1出力端子11a~第5出力端子11eの各電圧が、図6に示したように+(プラス)又は-(マイナス)に制御される。例えば各出力端子11に配される一対の正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9と負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10のうち、正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9をONに(負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10をOFFに)することによって、出力端子11の電圧を+(プラス:略モータ駆動電圧DV)にすることができる。また、負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10をONに(正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9をOFFに)することによって、出力端子11の電圧を-(マイナス:略0V)にすることができる。
【0069】
すなわち、励磁パターンADの場合、第1出力端子11a~第4出力端子11dの電圧が-(マイナス)となり、且つ、第5出力端子11eの電圧が+(プラス)となるように、出力段部20のスイッチング素子TR1~TR10が制御され、それによって、ステッピングモータ1のA相(第1コイル2a)とD相(第4コイル2d)を励磁する電流がモータコイル2に流されるため、励磁相ADが形成される。
【0070】
また、励磁パターンBCの場合、第2出力端子11b及び第3出力端子11cの電圧が-(マイナス)となり、且つ、第1出力端子11a、第4出力端子11d、及び第5出力端子11eの電圧が+(プラス)となるように、出力段部20のスイッチング素子TR1~TR10が制御され、それによって、ステッピングモータ1のB相(第2コイル2b)とC相(第3コイル2c)を励磁する電流がモータコイル2に流されるため、励磁相BCが形成される。なお、各単位励磁サイクルTでは、全ての出力端子11で負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10をONにするネガティブOFFの状態が0.6μsの時間で確保されている。
【0071】
上述のように励磁パターンBCと励磁パターンADによってモータコイル2を励磁した場合、励磁パターンBCにより得られるトルクベクトル(すなわち、VB+VC)の向きと、励磁パターンADにより得られるトルクベクトル(すなわち、VA+VD)の向きとは同じ向きになる(図5を参考)。また、励磁パターンBCによる合成されたトルクベクトルの大きさは、励磁パターンADによる合成されたトルクベクトルよりも強くなる。このため、第1の実施形態では、単位励磁サイクルT内における励磁パターンBCのトータルの励磁時間を励磁パターンADのトータルの励磁時間よりも長くすることによって、0°の電気角位置におけるトルクをより安定して発生させることができる。
【0072】
更に基本角ステップでステップ駆動する場合、上述した励磁相ABCD(0°の電気角位置)の状態から、CWP方向の外部指令パルスが入力されてアドレスカウンタ31のアドレスがカウントアップされることによって、モータコイル2の励磁が励磁相BCDE(36°の電気角位置)に切り替えられる。この励磁相BCDEは、励磁相ABCDの場合と同様に、励磁パターンBEと励磁パターンCDとが組み合わされて形成される。またこの場合、励磁パターンCDは、励磁パターンBEよりも長く励磁される。
【0073】
一方、外部からの分解能指令(STEP SEL)によりステッピングモータ1の分解能を高く設定して、フルステップ位置間に設定されるマイクロステップ位置でステッピングモータ1をステップ駆動する場合、各マイクロステップ位置では、1つのフルステップ位置における2つの2相励磁パターンを組み合わせた第1の組み合わせ励磁パターンと、その次のフルステップ位置における2つの2相励磁パターンを組み合わせた第2の組み合わせ励磁パターンとを、そのマイクロステップ位置に応じた割合で組み合わせて形成される。
【0074】
例えば励磁相ABCD(0°の電気角位置)と励磁相BCDE(36°の電気角位置)の間に設定されるマイクロステップ位置では、図6に示したように、4相励磁ABCDを実現する2つの2相励磁パターン(励磁パターンBC及び励磁パターンADを含む第1の組み合わせ励磁パターン)と、次のフルステップ位置の4相励磁BCDEを実現する2つの2相励磁パターン(励磁パターンCD及び励磁パターンBEを含む第2の組み合わせ励磁パターン)とが、そのステップ位置に応じた割合で組み合わされてモータコイル2を励磁する。
【0075】
この場合、アドレスカウンタ31のアドレスが大きくなるほど(励磁相ABCDから励磁相BCDEに近付くほど)、単位励磁サイクルT内における4相励磁ABCDを形成する励磁パターンBC及び励磁パターンADの割合を漸減させるとともに、4相励磁BCDEを形成する励磁パターンCD及び励磁パターンBEの割合を漸増させる。
【0076】
すなわち、マイクロステップ駆動では、単位励磁サイクルTの中で複数の励磁パターンを組み合わせるとともに、各励磁パターンの出力時間の割合を制御することによってモータコイル2に流れる平均電流値を操作して、所要のトルクベクトルを形成する。これによって、ステッピングモータ1を各マイクロステップ位置で順番にステップ駆動させて、電気角が0°の位置から36°の位置まで回転させることができる。
【0077】
続いて、上述のような制御を行う第1の実施形態の駆動装置1において、ステッピングモータ1を、所要の角度(例えば0°の電気角位置)で停止させてホールドする場合について説明する。
0°の電気角位置でステッピングモータ1をホールドする場合、上述したように、励磁パターンBCと励磁パターンADを単位励磁サイクルT毎に組み合わせることによって4相励磁ABCDを合成し、その4相励磁ABCDを複数の単位励磁サイクルTで繰り返して形成することにより、ステッピングモータ1が0°の電気角位置でホールドされる。
【0078】
各単位励磁サイクルT(48.6μs)内では、励磁パターンBCと励磁パターンADとが切り替えられるため、第1出力端子11a~第5出力端子11eのそれぞれの電圧が、出力段部20のスイッチング素子TR1~TR10のON/OFFにより制御される。例えば、第1出力端子11a及び第4出力端子11dでは、1つの単位励磁サイクルT内(ネガティブOFFを除く)において、電圧が-(マイナス)で8μs、+(プラス)で32μs、-(マイナス)で8μsとなるようにスイッチング素子TR1,TR2,TR7,TR8のON/OFFが制御される(切り替えられる)。また、第2出力端子11b及び第3出力端子11cでは、単位励磁サイクルT内で電圧が-(マイナス)となるようにスイッチング素子TR3~TR6のON/OFFが制御され、第5出力端子11eでは、単位励磁サイクルT内(ネガティブOFFを除く)で電圧が+(プラス)となるようにスイッチング素子TR9,TR10のON/OFFが制御される。
【0079】
ここで、本発明の特徴を説明するために、先ず、従来の駆動装置で行われる処理について説明する。従来の駆動装置を用いてステッピングモータ1を駆動する場合、上述したように、単位励磁サイクルTの中で複数の励磁パターンを組み合わせるとともに、各励磁パターンの出力時間の割合を制御することによってモータコイル2に流れる平均電流値を操作して、所要のトルクベクトルを形成している。
【0080】
従来の駆動装置では、励磁パターンを組み合わせてモータコイル2の平均電流値を操作する際に、励磁パターンに従った電流をモータコイル2に流すために、出力段部のスイッチング素子のON/OFFを制御して、出力端子から電圧の矩形波をモータコイル2に印加する。この場合、モータコイル2では、電流がモータコイル2のインダクタンスにより平滑化されるため、その平滑化された電流によって所要のトルクベクトルを形成することが可能となる。すなわち、従来の駆動装置では、モータコイル2のインダクタンスを利用することが、励磁パターンを組み合わせてモータコイル2の平均電流値を操作する技術の前提(基本)とされている。
【0081】
しかし、上述のように電圧の矩形波を出力端子からモータコイル2に印加する場合、前述したように、ステッピングモータ1に流れる電流は、モータコイル2のインダクタンスの働きによって直流的になるものの、その電流には、出力段部のスイッチング素子のON/OFFによるリップル成分が含まれている。今回、この電流のリップル成分が、モータの静止安定度に影響を及ぼしていることが新たに判明した。
【0082】
そこで第1の実施形態では、モータコイル2に電圧の矩形波を印加するのではなく(モータコイル2のインダクタンスで電流を平滑化するのではなく)、駆動装置10におけるスイッチング素子TR1~TR10と出力端子11との間に、上述したフィルタ回路50を設けることにより、モータコイル2に印加する電圧(出力電圧)を、従来の矩形波電圧ではなく、直流電圧に変換し、それによって、リップル成分が含まれない電流をステッピングモータ1に出力するようにした。
【0083】
すなわち、第1の実施形態の駆動装置10の場合、例えば上述したように0°の電気角位置でステッピングモータ1をホールドする場合、モータコイル2に励磁パターンに従った電流を流すために、図6に示すように励磁パターンBCと励磁パターンADに従って出力段部20のスイッチング素子TR1~TR10のON/OFFが制御されるものの、そのスイッチング素子TR1~TR10のON/OFFによって形成される矩形波電圧は、出力端子11から出力される前に、フィルタ回路50によって平滑化される。
【0084】
これにより、駆動装置10の各出力端子11では、フィルタ回路50で平滑化された直流電圧をモータコイル2に印加できるため、モータコイル2にリップル成分を含まない電流を出力して、モータコイル2を励磁することができる。この場合、モータコイル2に流れる電流の平均電流値は、励磁パターンの出力時間の割合(すなわち、正極側のスイッチング素子TR1,TR3,TR5,TR7,TR9をONにする時間の割合)を制御することによって操作可能である。
【0085】
具体的に説明すると、0°の電気角位置でステッピングモータ1をホールドする場合、上述したように、第1出力端子11a及び第4出力端子11dでは、1つの単位励磁サイクルT内において、電圧が-(マイナス)で8μs、+(プラス)で32μs、-(マイナス)で8μsとなるように正極側及び負極側のスイッチング素子TR2,TR4,TR6,TR8,TR10のON/OFFが切り替えられるものの、この切り替えによって形成される矩形波電圧は第1フィルタ回路50a及び第4フィルタ回路50dでそれぞれ平滑化されて、第1出力端子11a及び第4出力端子11dからは、直流電圧がモータコイル2に印加される(後述する図8及び図11を参照)。
【0086】
この場合、第1出力端子11a及び第4出力端子11dから出力される電圧は、合成された励磁祖ABCDにおいて、例えば単位励磁サイクルT内で電圧が常に+(プラス)に制御される第5出力端子11eと比較すると、単位励磁サイクルT内での出力時間(+(プラス)に制御される時間)の割合が2/3(66%)となる。このため、第1出力端子11a及び第4出力端子11dからモータコイル2に流す平均電流値は、第5出力端子11eからモータコイル2に流す平均電流値の2/3(66%)程度にすることができる。
【0087】
特にDV型の駆動装置10においては、ステッピングモータ1のホールド状態のときには、ドライブ状態に比べて、スイッチング素子のチョッピングにより形成される矩形波電圧の大きさが小さくなるため、矩形波電圧から直流電圧への変換をフィルタ回路50で安定して行うことができる。
【0088】
以上に説明したように、第1の実施形態の駆動装置10では、スイッチング素子TR1~TR10と出力端子11との間にフィルタ回路50が設けられていることにより、出力端子11からステッピングモータ1のモータコイル2に直流電圧を印加でき、それによって、リップル成分のない電流をモータコイル2に流してモータコイル2を励磁できる。またこの場合、その励磁電流の形態は、リップル成分を含まないため、DV電圧の微小変化の影響を受けることもない。
【0089】
その結果、ステッピングモータ1の所要の角度でホールドしたときに、従来の駆動装置を高度な超精密機器に適用した場合に観察されるような超微振動の発生を抑制できるため、ステッピングモータ1のスタティック特性(特に、静止安定度)を従来の駆動装置に比べて大きく向上させることができる。またこの場合、ホールド時のモータ発熱を下げる効果も得られる。更に、第1の実施形態の駆動装置10では、モータコイル2に直流電圧を印加できるため、例えば従来の矩形波電圧を印加する場合に生じていた磁場の小さな変化の発生を抑制する効果も期待できる。
【0090】
次に、本発明の第2の実施形態に係る駆動装置10aについて、図7を参照しながら説明する。ここで、図7は、第2の実施形態に係る駆動装置におけるフィルタ回路を拡大して示す回路図である。
【0091】
第2の実施形態に係る駆動装置10aは、上述した第1の実施形態に係る駆動装置10に比べて、各出力端子11に対応して配される各フィルタ回路60(図7では、第1フィルタ回路60a)に、接続/遮断を切り替えるフィルタ用スイッチング素子TR12が、フィルタ用コンデンサCfとグランドとの間にそれぞれ追加で設けられて形成されている。
【0092】
なお、第2の実施形態に係る駆動装置10aは、フィルタ用スイッチング素子TR12を追加で設置したこと以外については、上述した第1の実施形態に係る駆動装置10と実質的に同様に形成されている。従って、第2の実施形態において、上述した第1の実施形態の場合と実質的に同じ構成を有する部分又は部材については同じ符号を用いて表すことによって、その説明を省略することとする。
【0093】
第2の実施形態において、ステッピングモータ1が停止状態(ホールド状態)のときには、フィルタ用スイッチング素子TR12が接続状態(ON状態)に切り替えられ、それによって、フィルタ用コンデンサCfの負極側が、グランド(定電流コントロール部40のグランド)に接続される。これにより、フィルタ用コンデンサCfで電圧の平滑化を行えるようにしている。一方、ステッピングモータ1が回転状態(ドライブ状態)のときには、フィルタ用スイッチング素子TR12が遮断状態(OFF状態)に切り替えられて、フィルタ用コンデンサCfによる平滑化が効かないように制御される。
【0094】
この場合、フィルタ用スイッチング素子TR12のON/OFFの切り替えには、第1の実施形態で説明した励磁パターン出力回路30に設けられる判定カウンタ(不図示)の信号が利用される。これにより、例えば判定カウンタから、ステッピングモータ1のホールド状態としてLレベルの信号が出力されると、フィルタ用スイッチング素子TR12がONにされてフィルタ用コンデンサCfを有効に機能させることができる。一方、判定カウンタから、ステッピングモータ1のドライブ状態としてHレベルの信号が出力されると、フィルタ用スイッチング素子TR12がOFFにされて、フィルタ用コンデンサCfとグランドとが遮断される。
【0095】
例えば第1の実施形態に係る駆動装置10の場合、上述したように、ステッピングモータ1のホールド状態において、フィルタ回路50が矩形波電圧を平滑化することによって、超微振動が発生することを抑制している。しかし一方で、ステッピングモータ1を高速で回転させる場合には、出力端子11の電圧を速く切り替える必要があるものの、フィルタ回路50で電圧の平滑化が行われることによって、切り替えの速さが妨げられてしまい、ステッピングモータ1の励磁相を切り替えるタイミングに遅れを生じさせる可能性がある。その結果、ステッピングモータ1で発生させるトルクを高速回転領域で低下させる虞があることが考えられる。
【0096】
これに対し、第2の実施形態に係る駆動装置10aは、上述したフィルタ用スイッチング素子TR12を各フィルタ回路60に設けて、そのフィルタ用スイッチング素子TR12のON/OFFを、ステッピングモータ1のホールド状態/ドライブ状態に応じて切り替えられるように形成されている。これによって、ステッピングモータ1のホールド状態では、フィルタ用コンデンサCfの負極側とグランドとを接続し、且つ、ステッピングモータ1のドライブ状態ではフィルタ用コンデンサCfの負極側とグランドとを遮断できるため、フィルタ用コンデンサCfによる電圧の平滑化を、ステッピングモータ1のホールド状態のみで行うことが可能となる。
【0097】
その結果、第2の実施形態に係る駆動装置10aによれば、ステッピングモータ1のホールド状態では、モータ駆動電圧DVが低く安定しており、且つ、一定の励磁パターンが繰り返して出力されることから、フィルタ回路60を有効に機能させても、フィルタ回路60がステッピングモータ1のホールド制御を妨げることはない。このため、第2の実施形態に係る駆動装置10aは、第1の実施形態に係る駆動装置10と同様に、ステッピングモータ1のホールド時に超微振動が発生することを効果的に抑制できる。
【0098】
一方、ステッピングモータ1のドライブ状態では、第2の実施形態に係る駆動装置10aが、フィルタ用スイッチング素子TR12を切り替えてフィルタ回路60の影響を抑えることによって、高速回転領域でのトルク低下を抑制し、例えばフィルタ回路60を備えない駆動装置と略同様のダイナミック特性を備えることが可能となる。
【0099】
なお、上述した第1及び第2の実施形態において、各フィルタ回路50,60は、それぞれ、1つのフィルタ用チョークコイルLfと、1つのフィルタ用コンデンサCfとを有している。しかし本発明において、各フィルタ回路に設けるフィルタ用チョークコイルの個数、及びフィルタ用コンデンサの個数は特に限定されるものではない。
【0100】
例えば、本発明のフィルタ回路は、第1の実施形態のフィルタ回路50に、追加のフィルタ用コンデンサ(2つ目のフィルタ用コンデンサ)を1つ目のフィルタ用コンデンサCfと並列に接続して形成されていてもよい。また、本発明のフィルタ回路は、フィルタ用チョークコイルLfを設けずに、1つ又は複数のフィルタ用コンデンサCfのみによって形成されていてもよい。
【0101】
更に上述した第1及び第2の実施形態において、出力段部20に設けられる素子駆動回路21は、ゲートドライバ(専用IC)によって形成されているが、本発明において、素子駆動回路はゲートドライバではなく、トランジスタ回路によって形成されていても良い。
【実施例
【0102】
(実施例及び比較例1)
実施例として、上述した第1の実施形態の駆動装置10を用いて、5相ステッピングモータ1を0°の電気角位置(電源立ち上げ時の基本角ステップの位置)でホールドし、そのときの第1出力端子11a~第5出力端子11eから印加される電圧(出力電圧)と、モータコイル2に流れる電流と、電流に含まれるリップル成分との測定を行った。その測定結果を図8図12に示す。
【0103】
なお、ステッピングモータ1を0°の電気角位置でホールドする場合には、図6に示しながら説明したように、単位励磁サイクルT内で励磁パターンADと励磁パターンBCとを組み合わせて出力するとともに、励磁パターンADの出力時間の割合と励磁パターンBCの出力時間の割合とを制御することにより、0°の電気角位置に対応する励磁相ABCDが形成される。
【0104】
また比較例1として、上述した第1の実施形態の駆動装置10から第1フィルタ回路50a~第5フィルタ回路50eを取り除いた構造を備える駆動装置(すなわち、従来の駆動装置)を用いて、実施例と同様に、5相ステッピングモータ1を0°の電気角位置でホールドした。そのときの第1出力端子~第5出力端子から印加される電圧と、モータコイル2に流れる電流と、電流に含まれるリップル成分とを実施例と同様に測定した。その測定結果を図13図17に示す。
【0105】
なお、図8図17の各図において、(a)のグラフは、DC結合を選択して測定された電圧の波形71と、モータコイル2に流れる電流の波形72とを示している。(b)のグラフは、電圧の波形71と、AC結合を選択して測定された電流に含まれるリップル成分の波形73を示している。なお、リップル成分の波形73は、直流(500mA/Div)で観測された電流のリップル成分を、10倍の倍率(50mA/Div)で観測している。
【0106】
ステッピングモータ1を0°の電気角位置でホールドする場合、図6に示したように、第1出力端子11a及び第4出力端子11dの出力電圧は、単位励磁サイクルT内で-(マイナス)、+(プラス)、-(マイナス)と順番に切り替えられる。このため、第1フィルタ回路50a~第5フィルタ回路50eを備えない比較例の駆動装置の場合、図13及び図16に示したように、第1出力端子11a及び第4出力端子11dの出力電圧に矩形波が表れている。
【0107】
また、これらの第1出力端子11a及び第4出力端子11dからモータコイル2に流れる電流は、モータコイル2のインダクタンスによって平滑化されているものの、それぞれの電流には、図13の(b)及び図16の(b)に示したように、スイッチング素子TR1~TR10のON/OFFの切り替えに起因するリップル成分が含まれていることが確認できる。この電流に含まれるリップル成分の形態は、DV電圧の微小変化による影響を受けて変化し、そのリップル成分の形態変化が1kHz以下の周波数で表れる場合に、ホールド状態のステッピングモータ1に、振動レベルが極めて小さいナノメートルオーダーの超微振動を生じさせる。
【0108】
これに対して、実施例の駆動装置10(第1の実施形態の駆動装置10)の場合、各出力端子11にフィルタ回路50が設けられているため、第1出力端子11a及び第4出力端子11dに対応するスイッチング素子TR1,TR2,TR7,TR8のON/OFFが単位励磁サイクルT内で切り替えられても、図8及び図11に示したように、第1出力端子11a及び第4出力端子11dの出力電圧に矩形波が表れることはなく、それぞれ平滑化された直流電圧になっていることが確認できる。また、第1出力端子11a及び第4出力端子11dから直流電圧が印加されるため、第1出力端子11a及び第4出力端子11dからは、リップル成分を含まない直流電流がモータコイル2に流れていることも確認できる(図8(b)及び図11(b)におけるリップル成分の波形73を参照)。
【0109】
従って、実施例の駆動装置10では、図8図12に示したように、ステッピングモータ1のホールド状態において、第1出力端子11a~第5出力端子11eのそれぞれから、リップル成分を含まない直流電流をモータコイル2に安定して流すことができるため、リップル成分に起因する超微振動の発生を防止する効果を得られることが確認できた。更に、実施例の駆動装置10でステッピングモータ1をマイクロステップ駆動するときのステップ角度精度についても確認したところ、ステップ角度精度の特性低下は認められなかった。
【0110】
(比較例2)
比較例2として、出力段チョッパ型の定電流制御を行う駆動装置に対して、各出力端子とスイッチング素子との間に、実施例の駆動装置と同様のフィルタ回路50を設けることによって、ステッピングモータ1のホールド時に、出力段チョッパ型の駆動装置で各出力端子から出力される電圧を平滑化することを試してみた。
【0111】
その結果、フィルタ回路50を設けた出力段チョッパ型の駆動装置では、定電流制御を行うためにセンシング抵抗で検出電流(コイルに流れる電流)が検出されるが、その検出される検出電流の形態がフィルタ回路50によって変化してしまい、定電流制御を安定して行うことができなくなることが判った。従って、出力端子から出力する電圧を平滑化するフィルタ回路は、出力段チョッパ型の定電流制御を行う駆動装置に適用できず、DV型の定電流制御を行う駆動装置に対してのみ有効であることも確認できた。
【符号の説明】
【0112】
1 ステッピングモータ
2 モータコイル
2a 第1コイル
2b 第2コイル
2c 第3コイル
2d 第4コイル
2e 第5コイル
10,10a 駆動装置(ドライバ)
11 出力端子
11a 第1出力端子
11b 第2出力端子
11c 第3出力端子
11d 第4出力端子
11e 第5出力端子
20 出力段部
21 素子駆動回路(パワー素子駆動回路)
30 励磁パターン出力回路(励磁パターン出力部)
31 アドレスカウンタ
32 速度計測カウンタ
33 励磁周期カウンタ
34 メモリ
35 励磁パターン出力セレクタ
40 定電流コントロール部
41 制御用素子駆動回路
42 PWM電定流コントロール回路(PWM制御部)
50 フィルタ回路(ローパスフィルタ回路)
50a 第1フィルタ回路
50b 第2フィルタ回路
50c 第3フィルタ回路
50d 第4フィルタ回路
50e 第5フィルタ回路
60 フィルタ回路
60a 第1フィルタ回路
71 電圧の波形
72 電流の波形
73 リップル成分の波形
A,a コイルに流れるモータ電流
B,b コイルに流れるモータ電流
C,c コイルに流れるモータ電流
D,d コイルに流れるモータ電流
E,e コイルに流れるモータ電流
DV モータ駆動電圧
C1 第1コンデンサ
C2 第2コンデンサ
Cf フィルタ用コンデンサ
D1 ダイオード
L1 チョークコイル
Lf フィルタ用チョークコイル
R1 第1センシング抵抗(第1電流検出抵抗)
R2 第2センシング抵抗(第2電流検出抵抗)
T 単位励磁サイクル
TR1~TR10 スイッチング素子
TR11 制御用スイッチング素子
TR12 フィルタ用スイッチング素子
VA,Va トルクベクトル
VB,Vb トルクベクトル
VC,Vc トルクベクトル
VD,Vd トルクベクトル
VE,Ve トルクベクトル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18