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▶ エルアンドエル バイオファーマ カンパニー リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】二重特異性抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230922BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230922BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230922BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230922BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230922BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230922BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230922BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 107
C07K16/46 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12P21/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020573186
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 CN2019093548
(87)【国際公開番号】W WO2020007240
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】201810720048.8
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520499041
【氏名又は名称】エルアンドエル バイオファーマ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リウ ジャジィェン
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/055404(WO,A1)
【文献】特表2017-511687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のタンパク質機能領域及び第二のタンパク質機能領域を含み、前記第一のタンパク質機能領域はTIM-3を標的とする蛋白機能領域である二重特異性抗体であって、前記第一のタンパク質機能領域に含まれるTIM-3を標的とするTIM-3全長抗体はマカクMacaque)TIM-3と弱い結合活性を有し、
前記第一のタンパク質機能領域は、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列表における配列番号13で示され、かつ軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列表における配列番号14で示されるか、或いは重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列表における配列番号15で示され、かつ軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列表における配列番号16で示され、
前記第一のタンパク質機能領域又は第二のタンパク質機能領域は免疫グロブリン、scFv、Fab、Fab’又はF(ab’) であり、
前記第二のタンパク質機能領域はPD-1を標的とするタンパク質機能領域であり、抗PD-1抗体のニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)又はBa08であることを特徴とする抗体。
【請求項2】
記第一のタンパク質機能領域は免疫グロブリンであり、前記第二のタンパク質機能領域はscFvであるか、或いは前記第一のタンパク質機能領域はscFvであり、前記第二のタンパク質機能領域は免疫グロブリンであり、前記scFvにおける重鎖可変領域と軽鎖可変領域はリンカー1を介して連結し、前記リンカー1は(S)であり、前記nは1、2、3又は4であり、前記免疫グロブリンの定常領域はヒト抗体の定常領域であり、前記ヒト抗体の定常領域はヒト抗体の軽鎖定常領域及びヒト抗体の重鎖定常領域を含み、前記ヒト抗体の軽鎖定常領域はκ鎖であり、前記ヒト抗体の重鎖定常領域はヒトIgGであることを特徴とする請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記scFvは軽鎖可変領域-リンカー2-重鎖可変領域であり、軽鎖可変領域のN末端又は重鎖可変領域のC末端がリンカー2を介して前記免疫グロブリンの軽鎖及び/又は重鎖のC末端又はN末端に連結しているか、或いは前記scFvは重鎖可変領域-リンカー2-軽鎖可変領域であり、重鎖可変領域のN末端又は軽鎖可変領域のC末端がリンカー2を介して前記免疫グロブリンの軽鎖及び/又は重鎖のC末端又はN末端に連結しており、前記リンカー2は(S)であり、前記nは1、2、3又は4であることを特徴とする請求項2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
記リンカーは(GS)であり、並びに/或いは、前記scFvの数は2つであり、それぞれ対称的に前記免疫グロブリンの軽鎖及び/又は重鎖のC末端及び/又はN末端に連結しており、前記scFvは軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のN末端に連結しているか、或いは前記scFvは重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のC末端に連結しており、かつscFvが重鎖のC末端に連結している場合、前記重鎖のC末端のアミノ酸がKからAに突然変異していることを特徴とする請求項3に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号17で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号18で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号17で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号19で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号20で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号21で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号20で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号22で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号23で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号24で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号23で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号25で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号32で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号33で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号34で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号33で示されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードするDNA。
【請求項7】
請求項に記載のDNAを含む発現ベクター。
【請求項8】
請求項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の製造方法であって、請求項に記載の宿主細胞を培養し、培養物から二重特異性抗体を得る工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含み、さらに、ほかの抗腫瘍の医薬、及び/又は、緩衝液を含む医薬組成物。
【請求項11】
医薬キットA及び医薬キットBを含む医薬キットの組み合わせであって、前記医薬キットAは請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含み、前記医薬キットBは抗腫瘍の医薬を含医薬キットの組み合わせ。
【請求項12】
癌の治療及び/又は予防において使用される請求項1~のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、前記癌は、肺癌、メラノーマ、腎臓癌、乳癌、結腸直腸癌、肝臓癌、膵臓腺癌、膀胱癌又は白血病である二重特異性抗体。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、
サンプルにおけるTIM-3レベルの検出、TIM-3活性又はレベルの調節、生体に対するTIM-3の免疫抑制の解消、末梢血の単核球及び/又はNKリンパ球の活性化において使用される二重特異性抗体、
或いは、請求項に記載の二重特異性抗体であって、
サンプルにおけるPD-1及び/又はTIM-3レベルの検出、PD-1とPD-L1又はPD-L2との結合の遮断、TIM-3活性又はレベルの調節、PD-1活性又はレベルの調節、生体に対するPD-1及び/又はTIM-3の免疫抑制の解消、T細胞の活性化、T細胞におけるIL-2の発現の向上、T細胞におけるIFN-γの発現の向上、並びに/或いは腫瘍細胞に対するNK細胞の殺傷作用の活性化において使用される二重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は出願日が2018/7/3の中国特許出願201810720048.8の優先権を要求する。本願は上記中国特許出願の全文を引用する。
[技術分野]
本発明は、腫瘍治療及び分子免疫学の分野に属し、具体的に、2つのタンパク質機能領域を含む二重特異性抗体であって、そのうちの1つのタンパク質機能領域はTIM-3を標的とするタンパク質機能領域である抗体に関する。
【0002】
[背景技術]
腫瘍免疫治療は腫瘍治療分野で近年得られた重大な突破である。近年、免疫チェックポイントPD-1/PD-L1に対する研究は盛んで、最近の1年もない時間で、国内では既に5つのPD-1抗体薬物が市販された。PD-1/PD-L1以外の免疫チェックポイントでは、T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(TIM-3)はPD-1/PD-L1とともにT細胞の活性を調節する免疫チェックポイントの一つである可能性がある。TIM-3はIFN-γを分泌するTh1(Tヘルパー1)CD4+細胞及び細胞傷害性のCD8+T(Tc1)細胞において発現される膜貫通受容体タンパク質である。INF-γを分泌するTh1、Tc1以外、制御性T細胞(Treg)、先天性免疫細胞、樹状細胞DC、ナチュラルキラー細胞NK、単核球monocytesなどにおいても発現される(Anderson A.C.ら,Immunity 44,2016,p989-1004)。TIM-3は複数のリガンドを有し、ガレクチン9(galectin-9)、ホスファチジルセリンphosphatidylserine、HMGB1及びCEACM-1などを含む。TIM-3は、一般的に、ナイーブT細胞において発現されないが、活性化したエフェクターT細胞において上方調節され、体内における免疫性及び耐性の調節作用がある。ほかの免疫チェックポイントと異なるのは、TIM-3は活性化したT細胞、例えばTh1、Tc1において高発現され、共抑制機能に関与し、エフェクターT細胞の活性を抑制し、耐性につながるのみならず、疲弊(exhausted)T細胞においても高発現され、T細胞の機能を抑制する。TIM-3はPD-1抗体によって治療される動物モデルにおいて高発現され、かつTIM-3の抗体と併用すると、顕著に治療効果が向上する(Nigiow SFら、Cancer Res. 71(10):3540-51,2011)。また、最近の研究では、PD-1抗体によって治療される患者に薬剤耐性が現れ、そのCD4+、CD8+細胞においてTIM-3の発現が顕著に向上することが見出され、これは動物モデルで見られた様子と一致する(Koyama Sら Nat Communication. 2016 Feb 17)。そのため、TIM-3抗体とPD-1抗体の併用治療は、PD-1抗体による治療の効率を向上させる方法の一つのみならず、PD-1抗体による治療に薬剤耐性が現れた患者の有効な選択である可能性がある。現在、臨床試験中のTIM-3抗体として、単独で又はPD-1抗体と併用して末期又は転移固形腫瘍を治療するTesaroのTSR-022、及び単独で又はPD-1抗体と併用して末期悪性腫瘍を治療するノバルティス社のMGB-453がある。
【0003】
既存技術では、TIM-3に対するタンパク質機能領域を含む二重特異性抗体が欠けている。特許出願US2017114135Aにおける二重特異性抗体はTIM-3に対する抗体をそのタンパク質機能領域の一つとするが、当該二重特異性抗体におけるTIM-3抗体はヒトTIM-3との結合活性が弱い。そして、US2017114135AにおけるTIM-3抗体はTim3-0028(動物薬効評価のための分子)、Tim3-0038などを含み、アカゲザル、キヌザルなどの霊長類動物のTIM-3とほとんど結合しないため、臨床前の霊長類動物の選択(臨床前研究)において大きく制限される。また、二重特異性抗体、例えばTim3-0028及びTim3-0038はNK細胞を活性化させて腫瘍細胞を殺傷する活性が低い。
【0004】
[発明の概要]
本発明の解決しようとする技術的課題は、既存技術では二重特異性抗体におけるTIM-3抗体の部分及びその相応する単独の完全な抗体のヒトTIM-3との結合活性が低く、かつPBMC(NK)細胞を活性化させて腫瘍細胞を殺傷する活性が低いなどの欠陥を克服し、二重特異性抗体及びその使用を提供する。前記二重特異性抗体はTIM-3を標的とするタンパク質機能領域及びもう一つのタンパク質機能領域を含み、単独のTIM-3抗体が有するPBMC(NK)を活性化させて腫瘍細胞を殺傷する活性を残しながら、もう一つのタンパク質機能領域に相応する全長抗体の元の活性を維持し、そして二つの分子の併用に相当するか、それ以上(相乗効果)のT細胞を活性化させる活性に達する。具体的に、発明者は、意外に、アカゲザルのTIM-3と弱い結合活性を有するが、キヌザル及びヒトのTIM-3と強い結合活性を有し、かつヒトNK細胞の腫瘍に対する殺傷作用を活性化させる、TIM-3抗体を見出したが、本発明のTim-3抗体の配列に基づいて特異的に設計された二重特異性抗体(Sbody)は構造が安定で、二つの標的に対する特異的な結合活性が良く、発現量が高く、精製プロセスが簡単である。そして、得られる二重特異分子(二重特異性抗体)は細胞機能活性が二つの単独のモノクローナル抗体の併用と同等かつ/又はそれ以上で、より意外なことに、本発明で設計される二重特異性抗体分子は動物薬効、生存優位性などがいずれも相乗効果を示し、二つの単独のモノクローナル抗体の併用よりも良い。また、二重特異性抗体は、さらに、単剤の低コスト、投与の便宜といった明らかな優勢がある。
【0005】
本発明は主に以下の技術的解決手段によって上記技術的課題を解決する。
本発明の第一の側面では、二重特異性抗体を提供し、第一のタンパク質機能領域及び第二のタンパク質機能領域を含み、前記第一のタンパク質機能領域はTIM-3を標的とする蛋白機能領域であり、前記第一のタンパク質機能領域に相応するTIM-3を標的とするTIM-3全長抗体はアカゲザル(Macaca)TIM-3と弱い結合活性を有し、前記弱い結合活性はELISAによって測定されるEC50値が1nM超であり、好ましくは10nM超であり、より好ましくはEC50値が検出されないものであり、かつキヌザル(Marmoset)及びヒトTIM-3と強い結合活性を有して腫瘍細胞に対するヒトNK細胞の殺傷作用の活性化ができ、前記強い結合活性はELISAによって測定されるEC50値が1nM未満であり、好ましくは0.5nM未満であり、より好ましくは0.2nM未満であり、腫瘍細胞に対する前記ヒトNK細胞の殺傷作用の活性化は、バックグラウンド、即ち、抗体濃度が0μg/mLの場合と比べ、殺される腫瘍細胞が3%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上増加することである。本分野において、抗体と抗原の強い結合活性と弱い結合活性は相対的であり、本願では、上記のように、1nMのELISAによって測定されるEC50値を境に、1nM超の場合は弱い結合であり、1nM未満の場合は強い結合である。
【0006】
前記「腫瘍細胞に対するヒトNK細胞の殺傷作用の活性化」の測定は、分離されたNK細胞又はNK細胞が分離されていないヒト血細胞(PBMC)でNK細胞殺傷活性実験を行うことができ、本発明では、後者が好ましいため、最終的に検出されるのは腫瘍細胞に対するNK細胞の殺傷活性である。本発明に係るNK細胞の全称はNatural Killer Cellであり、即ち、ナチュラルキラー細胞である。なお、本発明において、殺傷される腫瘍細胞の測定に使用されるのは乳酸脱水素酵素(LDH)活性という指標であり、乳酸脱水素酵素放出量の増加百分率を、殺された腫瘍細胞の増加百分率とする。
【0007】
前記第一のタンパク質機能領域は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域は好適にアミノ酸配列が配列表における配列番号1~3で示されるCDR(Kabat定義、又はCCG定義による配列表における配列番号26、配列番号2及び配列番号3で示されるCDR)、又はアミノ酸配列が配列番号4~6で示されるCDR(Kabat定義、又はCCG定義による配列表における配列番号27、配列番号5及び配列番号6で示されるCDR)を含み、前記軽鎖可変領域は好適にアミノ酸配列が配列表における配列番号7~9又は配列番号10~12で示されるCDRを含む。
【0008】
好ましくは、前記第一のタンパク質機能領域において、重鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号1~3で示されるCDRを含み、かつ軽鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号7~9で示されるCDRを含むか、或いは重鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号26、配列番号2及び配列番号3で示されるCDRを含み、かつ軽鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号7~9で示されるCDRを含むか、或いは重鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号4~6で示されるCDRを含み、かつ軽鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号10~12で示されるCDRを含むか、或いは重鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号27、配列番号5及び配列番号6で示されるCDRを含み、かつ軽鎖可変領域がアミノ酸配列が配列表における配列番号10~12で示されるCDRを含む。
【0009】
ここで、配列表における配列番号1~3で示される配列は好適に順にそれぞれ重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3であるか、或いは配列表における配列番号26、配列番号2及び配列番号3で示される配列は好適に順にそれぞれ重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3であり、かつ配列表における配列番号7~9で示される配列は好適に順にそれぞれ軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3である。配列表における配列番号4~6で示される配列は好適に順にそれぞれ重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3であるか、或いは配列表における配列番号27、配列番号5及び配列番号6で示される配列は好適に順にそれぞれ重鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3であり、かつ配列表における配列番号10~12で示される配列は好適に順にそれぞれ軽鎖可変領域のCDR1、CDR2及びCDR3である。
【0010】
前記第一のタンパク質機能領域は、重鎖可変領域のアミノ酸配列が好適に配列表における配列番号13又は15で示され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が好適に配列表における配列番号14又は16で示され、好ましくは、前記第一のタンパク質機能領域は、重鎖可変領域のアミノ酸配列が好適に配列表における配列番号13で示され、かつ軽鎖可変領域のアミノ酸配列が好適に配列表における配列番号14で示されるか、或いは重鎖可変領域のアミノ酸配列が好適に配列表における配列番号15で示され、かつ軽鎖可変領域のアミノ酸配列が好適に配列表における配列番号16で示される。
【0011】
本発明に記載の第一のタンパク質機能領域又は第二のタンパク質機能領域は免疫グロブリン、scFv、Fab、Fab’又はF(ab’)が好ましい。生産プロセスが簡単でかつ有効な活性を維持する二重特異性抗体を設計するために、本発明の二重特異性抗体の形態は正常IgGの構造に類似し、具体的に、それぞれ単独の軽鎖及び重鎖を設計し、軽鎖及び/又は重鎖のN末端で2つの標的をターゲティングすることができ、軽鎖及び/又は重鎖、同様の重鎖Fc領域を共有するように設計する。より好ましくは、1つの標的の抗体分子をscFvの形態でもう1つの標的の完全な抗体の軽鎖又は重鎖の一方の末端に連結している。これによって、異なる重鎖Fcの発現による発現産物の不均一が避けられ、例えば、ノブ(Knob)形態のFcやホール(Hole)形態のFcが共発現すると、発現過程において不均一なFc-Fcマッチング形態が生じ、発現量に影響するだけでなく、精製プロセスにも不便をもたらす。同時に、軽・重鎖の一部の領域のクロス(cross)デザインの構造活性に対する影響が避けられる。
【0012】
好ましくは、前記第一のタンパク質機能領域は免疫グロブリンであり、前記第二のタンパク質機能領域はscFvであるか、或いは前記第一のタンパク質機能領域はscFvであり、前記第二のタンパク質機能領域は免疫グロブリンであり、前記scFvにおける重鎖可変領域と軽鎖可変領域はリンカー1を介して連結し、前記リンカー1は好ましくは(GS)であり、前記nは好ましくは0~10の間の整数であり、より好ましくは1、2、3又は4であり、前記免疫グロブリンの定常領域は好ましくはヒト抗体の定常領域であり、前記ヒト抗体の定常領域は好ましくはヒト抗体の軽鎖定常領域及びヒト抗体の重鎖定常領域を含み、前記ヒト抗体の軽鎖定常領域は好ましくはκ鎖又はλ鎖であり、より好ましくはκ鎖であり、前記ヒト抗体の重鎖定常領域は好ましくはヒトIgG、IgG又はIgG、より好ましくはIgGである。
【0013】
前記scFvは軽鎖可変領域-リンカー2-重鎖可変領域で(当該構造はN末端からC末端の配列形態であり、即ち、軽鎖可変領域のN末端及び重鎖可変領域のC末端が露出している)、軽鎖可変領域のN末端又は重鎖可変領域のC末端がリンカー2を介して相応的に前記免疫グロブリンの軽鎖及び/又は重鎖のC末端又はN末端に連結しているか、或いは前記scFvは重鎖可変領域-リンカー2-軽鎖可変領域で(重鎖可変領域のN末端及び軽鎖可変領域のC末端が露出している)、重鎖可変領域のN末端又は軽鎖可変領域のC末端がリンカー2を介して相応的に前記免疫グロブリンの軽鎖及び/又は重鎖のC末端又はN末端に連結しており、前記リンカー2は好ましくは(GS)であり、前記nは好ましくは0~10の間の整数であり、より好ましくは1、2、3又は4である。
【0014】
好ましくは、前記リンカーは(GS)であり、並びに/或いは、前記scFvの数は2つ又は4つ又は6つ又は8つであり、それぞれ対称的に前記免疫グロブリンの軽鎖及び/又は重鎖のC末端及び/又はN末端に連結している。
【0015】
より好ましくは、前記scFvの数が2つの場合、(1)前記scFvは軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のN末端に連結しているか、或いは(2)前記scFvは重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖又は重鎖のC末端に連結しており、かつscFvが重鎖のC末端に連結している場合、前記重鎖のC末端のアミノ酸がKからAに突然変異している。
【0016】
前記scFvの数が4つの場合、(1)4つのscFvはいずれも軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、そのうち、2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖可変領域のN末端に、もう2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域のN末端に連結しているか、(2)4つのscFvはいずれも重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、そのうち、2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖のC末端に、もう2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖のC末端に連結しており、かつC末端のアミノ酸がKからAに突然変異しているか、(3)そのうち、2つのscFvは軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、その重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のN末端に連結しており、もう2つのscFvは重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、その重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖又は重鎖のC末端に連結しており、かつscFvが重鎖のC末端に連結している場合、前記C末端のアミノ酸がKからAに突然変異している。
【0017】
前記scFvの数が6つの場合、(1)4つのscFvは軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、そのうち、2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖可変領域のN末端に、もう2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域のN末端に連結しており、残りの2つのscFvは重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、その重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域のC末端又は2本の重鎖のC末端に連結しており、かつscFvが重鎖のC末端に連結している場合、前記C末端のアミノ酸がKからAに突然変異しているか、(2)4つのscFvは重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、そのうち、2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域のC末端に、もう2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖のC末端に連結しており、かつscFvが重鎖のC末端に連結している場合、前記C末端のアミノ酸がKからAに突然変異しており、2つのscFvは軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、その重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域又は2本の重鎖可変領域のN末端に連結している。
【0018】
前記scFvの数が8つの場合、4つのscFvは軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造であり、そのうち、2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖可変領域のN末端に、もう2つのscFvの重鎖可変領域のC末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖可変領域のN末端に連結しており、残りの4つのscFvは重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造であり、そのうち、2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の軽鎖のC末端に、もう2つのscFvの重鎖可変領域のN末端がそれぞれ(GS)を介して対称的に前記免疫グロブリンの2本の重鎖のC末端に連結しており、かつC末端のアミノ酸がKからAに突然変異している。
【0019】
上記の軽鎖又は重鎖のC末端に連結しているとは、いずれも軽鎖定常領域又は重鎖定常領域のC末端に連結していることである。具体的な2つ、4つ、6つ及び8つのscFvと免疫グロブリンの連結の形態において、scFvの重鎖可変領域のC末端を介して免疫グロブリンの軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のN末端に、或いはscFvの重鎖可変領域のN末端を介して免疫グロブリンの軽鎖定常領域又は重鎖定常領域のC末端に連結している例のみが記載されている。また、scFvは、軽鎖可変領域のC末端を介して(重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造の場合)免疫グロブリンの軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のN末端に、或いはscFvの軽鎖可変領域のN末端を介して(軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造の場合)免疫グロブリンの軽鎖定常領域又は重鎖定常領域のC末端に連結していてもよいが(scFvが重鎖のC末端に連結している場合、重鎖のC末端のアミノ酸がKからAに突然変異している)、これらの技術方案も本発明の保護の範囲内に含まれている。
【0020】
或いは、本発明に係る二重特異性抗体はDVD-Ig(Dual-variable domain Ig、二重可変領域型免疫グロブリン)の二重特異性抗体であり、その構造は正常の抗体の軽・重鎖のN末端にそれぞれさらにもう1つの抗体のV及びVが連結しており、2つの抗体の可変領域が2つの標的に結合することにより二重機能が実現される。好ましくは、前記第二のタンパク質機能領域は正常の抗体の軽鎖及び重鎖を含み、前記第一のタンパク質機能領域は軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む。
【0021】
より好ましくは、前記第二のタンパク質機能領域の軽鎖と前記第一のタンパク質機能領域の軽鎖可変領域の間、前記重鎖と前記重鎖可変領域の間はいずれもリンカー3を介して連結しており、前記リンカー3は好ましくは配列番号28のアミノ酸配列で示されるペプチド断片1、配列番号29のアミノ酸配列で示されるペプチド断片2又は(GS)であり、前記nは好ましくは0~10の間の整数であり、より好ましくは1、2、3又は4である。
【0022】
さらに好ましくは、前記第一のタンパク質機能領域の軽鎖可変領域は前記ペプチド断片1を介して前記第二のタンパク質機能領域の軽鎖可変領域のN末端に連結しており、前記第一のタンパク質機能領域の重鎖可変領域のC末端は前記ペプチド断片2を介して前記第二のタンパク質機能領域の重鎖可変領域のN末端に連結している。
【0023】
上記のような二重特異性抗体において、前記第二のタンパク質機能領域は好ましくは腫瘍抗原、例えばPD-1を標的とするタンパク質機能領域であり、好ましくは抗PD-1抗体であり、前記抗PD-1抗体は全長抗体、抗原抗体結合領域タンパク質結合断片、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体又は単一領域抗体であり、より好ましくは抗PD-1抗体のニボルマブ(Nivolumab、Nivoと略す)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab、Pemと略す)又はBa08である。
【0024】
より好ましくは、前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号17で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号18で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号17で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号19で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号20で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号21で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号20で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号22で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号23で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号24で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号23で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号25で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号32で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号33で示されるか、或いは前記二重特異性抗体の軽鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号34で示され、かつ前記二重特異性抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表における配列番号33で示される。
【0025】
本発明の第二の側面では、さらに、上記のような二重特異性抗体をコードするDNA配列を提供する。
本発明の第三の側面では、さらに、上記のようなDNA配列を含む発現ベクターを提供する。
【0026】
本発明の第四の側面では、さらに、上記のような発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
本発明の第五の側面では、さらに、前記二重特異性抗体の製造方法であって、上記のような宿主細胞を培養し、培養物から二重特異性抗体を得る工程を含む方法を提供する。
【0027】
本発明の第六の側面では、さらに、上記のような二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、前記医薬組成物は、さらに、ほかの抗腫瘍の薬物、及び/又は、緩衝液を含み、より好ましくは、前記緩衝液はヒスチジン又はPBS緩衝液であり、pH5.5~6.0であり、さらに好ましくは、前記ヒスチジン緩衝液は、10~20mMのL-ヒスチジン、50~70 mg/mLのショ糖、及び0.1~1.0%のツイン80又は0.01~0.05%のツイン20を含み、例えば、前記ヒスチジン緩衝液は、10mMのL-ヒスチジン、70mg/mLのショ糖及び0.2%のツイン80を含む。
【0028】
本発明の第七の側面では、さらに、医薬キットA及び医薬キットBを含む医薬キットの組み合わせであって、前記医薬キットAは本発明の第一の側面に記載の二重特異性抗体を含み、前記医薬キットBは抗腫瘍の医薬を含む組み合わせを提供する。好ましくは、前記医薬キットAを前記医薬キットBと同時に施用するか、或いは前記医薬キットAを前記医薬キットBの前又は後に施用する。
【0029】
本発明の第八の側面では、さらに、癌を治療及び/又は予防する医薬の製造における本発明の第一の側面に記載の二重特異性抗体の使用であって、前記癌は好ましくは肺癌、メラノーマ、腎臓癌、乳癌、結腸直腸癌、肝臓癌、膵臓腺癌、膀胱癌又は白血病である使用を提供する。
【0030】
また、本発明は、上記の第一の側面の二重特異性抗体、第六の側面の医薬組成物、第七の側面の医薬キットの組み合わせ及び第八の側面の遺伝子修飾された細胞で癌に罹患した患者を治療する方法を提供する。
【0031】
本発明の第九の側面では、さらに、以下のような医薬の製造における本発明の第一の側面に記載の二重特異性抗体の使用を提供する:
サンプルにおけるTIM-3レベルを検出する医薬、TIM-3活性又はレベルを調節する医薬、生体に対するTIM-3の免疫抑制を解消する医薬、末梢血の単核球及び/又はNKリンパ球を活性化させる医薬。
【0032】
或いは、以下のような医薬の製造における本発明の第一の側面に記載の二重特異性抗体の使用を提供する:
サンプルにおけるPD-1及び/又はTIM-3レベルを検出する医薬、PD-1とPD-L1又はPD-L2の結合を遮断する医薬、TIM-3活性又はレベルを調節する医薬、PD-1活性又はレベルを調節する医薬、生体に対するPD-1及び/又はTIM-3の免疫抑制を解消する医薬、T細胞を活性化させる医薬、T細胞におけるIL-2の発現を向上させる医薬並びに/或いはT細胞におけるIFN-γの発現を向上させる医薬、或いは腫瘍細胞に対するNK細胞の殺傷作用を活性化させる医薬。ここで、前記二重特異性抗体の第二の機能領域は、腫瘍抗体、例えばPD-1を標的とするタンパク質機能領域である。
【0033】
本発明において、別途に説明しない限り、本明細書で使用される科学及び技術名詞は当業者によって通常理解される意味を有する。そして、本明細書で使用される細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、免疫学実験室操作手順はいずれも関連分野で幅広く使用される通常の手順である。同時に、本発明がより良く理解されるように、以下に関連用語の定義及び解釈を提供する。
【0034】
本発明において、Tim-3、Tim3、TIM-3及びTIM3は同様の意味を表す。もちろん、本発明の「第一」、「第二」及び「リンカー1(L1)」、「リンカー2(L2)」、「リンカー3(L3)」及び「リンカー4(L4)」における「1」、「2」、「3」及び「4」はいずれも実質的な意味がなく、単に異なる位置のリンカーを区別するためのものであり、同様、類似のリンカーでも、又は異なるリンカーでもよく、例えば配列番号28で示されるペプチド断片1、配列番号29で示されるペプチド断片2又は(GS)であり、nは0~10の間の整数か、10よりも大きく、好ましくは1、2、3又は4である。本明細書において使用されるように、用語EC50とは半数最大効果濃度(concentration for 50% of maximal effect)であり、50%の最大効果を引き起こす濃度である。
【0035】
本明細書において使用されるように、用語「抗体」とは、通常、2対のポリペプチド鎖(各対に1本の「軽」(L)鎖及び1本の「重」(H)鎖を有する)からなる免疫グロブリン分子である。一般的に、重鎖は抗体における分子量が高い方のポリペプチド鎖であり、軽鎖は抗体における分子量が低い方のポリペプチド鎖であると理解される。軽鎖はκ及びλ軽鎖に分類できる。重鎖は、通常、μ、δ、γ、α又はεに分類でき、そしてそれぞれ抗体のアイソタイプをIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと定義する。軽鎖及び重鎖の中で、可変領域及び定常領域は約12又はそれ以上のアミノ酸の「J」領域を介して連結し、重鎖はさらに約3個又はそれ以上のアミノ酸の「D」領域を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)とからなる。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)とからなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。抗体の定常領域はグロブリンと宿主の組織又は因子の結合を仲介し、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)と古典的補体系の第一成分(C1q)の結合を含む。VとV領域はさらに超可変性を有する領域[相補性決定領域(CDR)と呼ばれる]に細分してもよく、その間にフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存的な領域が散在している。各V及びVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端まで並ぶ3つのCDR及び4つのFRからなる。各重鎖/軽鎖に相応する可変領域(V及びV)はそれぞれ抗体結合部位を形成する。アミノ酸から各領域又はドメインの分配はKabat EA.ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest[National Institutes of Health ,Bethesda ,Md.(1987and 1991)],又はChothia&Lesk(1987)].Mol.Biol.196:901-917;Chothiaら、(1989)Nature 342:877-883の定義に準ずる。特に、重鎖は3つ以上、例えば6、9又は12のCDRを含んでもよい。例えば、本発明の二重特異性抗体において、重鎖はIgG抗体の重鎖のN末端がもう1つの抗体に連結したScFvでもよく、この場合、重鎖は9つのCDRを含む。本明細書で使用されるように、用語の抗体の「抗原結合断片」とは全長抗体の断片を含むポリペプチドであり、特異的に全長抗体に結合する抗原と同様のものに結合する能力を維持し、並びに/或いは全長抗体と競争して抗原に特異的に結合し、「抗原結合部分」とも呼ばれる。通常、Fundamental Immunology ,Ch.7 (Paul ,W.,ed.,第2版,Raven Press,N.Y.(1989)を参照し、その全文として引用によって本明細書に取り込まれ、すべての目的に使用される。組み換えDNA技術或いは完全な抗体の酵素触媒又は化学的切断によって抗体の抗原結合断片を得ることができる。一部の場合、抗原結合断片はFab、Fab’、F(ab’)、Fd、Fv、dAb及び相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(例えば、scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ(diabody)及びこのようなポリペプチドを含み、ポリペプチドに特異的抗原結合能力を与える抗体の少なくとも一部を含む。
【0036】
用語「Fab」とはVL、VH、CL及びCH1(又はCH)のドメインからなる抗体断片であり、用語「F(ab’)」とはヒンジ領域におけるジスルフィド架橋で連結した2つのFab断片を含む抗体断片であり、用語「Fab’」はF(ab’)断片の還元によって形成してもよく、Fab以外、遊離チオール基を含む。
【0037】
一部の場合、抗体の抗原結合断片は一本鎖抗体(例えば、scFv)であり、ここで、VL及びVHドメインによって単一のポリペプチド鎖の連結体がマッチングして1価の分子になる[例えば、Birdら,Science 242:423-426(1988)及びHustonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883(1988)を参照する]。このようなscFv分子は、NH-V-リンカー-V-COOH又はNH-V-リンカー-V-COOHのような一般的な構造を有してもよい。適切な既存技術のリンカーは繰り返したGSアミノ酸配列又はそのバリアントからなる。例えば、アミノ酸配列(GS)を有するリンカーを使用してもよいが、そのバリアントを使用してもよい(Holligerら(1993),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444~6448)。
【0038】
当業者に既知の通常の技術(例えば、組み換えDNA技術又は酵素触媒又は化学的切断法)によって所定の抗体から抗体の抗原結合断片(例えば、上記抗体断片)を獲得し、そして完全な抗体と同様の手段によって特異性について抗体の抗原結合断片をスクリーニングすることができる。
【0039】
本明細書において、前後文で明示しない限り、用語「抗体」に言及する場合、完全な抗体のみならず、抗体の抗原結合断片も含む。
本明細書で使用されるように、用語「分離された」とは天然の状態で人工的手段によって得られることである。自然界である「分離された」物質又は成分が現れる場合、それが存在する天然の環境が変化したか、或いは天然の環境で当該物質が分離するか、或いは両者の場合いずれも存在する。例えば、ある動物の生体内に天然的にある種の分離されていないポリヌクレオチド又はポリペプチドが存在し、このような天然の状態で分離された高純度の同様のポリヌクレオチド又はポリペプチドは「分離された」という。用語「分離された」は、人工又は合成の物質の混雑も、物質の活性に影響のないほかの不純物の存在もありうる。
【0040】
本明細書で使用されるように、用語「宿主細胞」とは、ベクターに導入するための細胞であり、例えば大腸菌などの原核細胞、例えば酵母細胞などの真菌細胞、例えばS2ショウジョウバエ細胞やSf9などの昆虫細胞、或いは例えば線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞又はヒト細胞などの動物細胞を含むが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用されるように、用語「KD」とは特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数であり、抗体と抗原の間の結合親和力を表すためのものである。解離平衡定数が小さいほど、抗体-抗原の結合が緊密であり、抗体と抗原の間の親和力が高い。通常、抗体は約10-5M未満、例えば約10-6M、10-7M、10-8M、10-9M又は10-10M未満又はそれ以下の解離平衡定数(KD)で抗原に結合し、例えば、表面プラスモン共鳴技術(SPR)によってBIACORE装置で測定される。
【0042】
本明細書で使用されるように、用語「アジュバント」とは非特異性免疫増強剤であり、抗原とともに又は予め生体に送達する場合、抗原に対する生体の免疫応答を増強するか、免疫応答の種類を変えることができる。アジュバントは多くの種類があり、アルミニウムアジュバント(例えば水酸化アルミニウム)、フロイントアジュバント(例えば完全フロイントアジュバント及び不完全フロイントアジュバント)、コリネバクテリウム・パルヴム(Corynebacterium parvum)、リポ多糖、サイトカインなどを含むが、これらに限定されない。フロイントアジュバントは現在動物試験で最も使用されるアジュバントである。水酸化アルミニウムアジュバントは臨床実験で多く使用される。
【0043】
本分野の常識に合うことを前提に、上記各好適な条件を任意に組み合わせれば、本発明の各好適な実例が得られる。
本発明で用いられる試薬及び原料はいずれも市販品として得られる。
【0044】
本発明の積極的な進歩効果は以下の通りである。
本発明における二重特異性抗体では、TIM-3を標的とするタンパク質機能領域が相応するTIM-3を標的とするTIM-3全長抗体は、キヌザル、及びヒトのTIM-3との結合活性が良い。キヌザルTIM-3との結合活性は好適に0.05nMでもよい。ヒトTIM-3との結合活性は好適に0.11nMでもよく、US2017114135Aに係るTim-3-0028、Tim-3-0038抗体よりもヒトTIM-3との結合活性が3~100倍以上強い。アカゲザルTim-3とはほとんど結合しないか、非常に弱く結合する。そのため、既存技術におけるTIM-3抗体の1種類の分子と異なり、本発明のTIM-3抗体は強いヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性を有し、最高で5.22に達する(乳酸脱水素酵素放出量の増加の百分率)。
【0045】
本発明における二重特異性抗体は、緩衝系で性質が安定している(特にPBS及びヒスチジン緩衝系、例えば10mMのL-ヒスチジン、70mg/mLのショ糖及び0.2%のツイン80を含む緩衝液で)。本発明における二重特異性抗体は単独の抗体に近い結合活性を維持し、例えば単独のTIM-3抗体又はPD-1抗体と比べ、二重特異性抗体の活性(EC50)はやや低下し(比較的に小さい、1~3倍の範囲内)、かつ単独のTIM-3抗体が有するPBMC(NK)の腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性を維持し、もう1つのタンパク質機能領域の元の活性も維持する。例えば、本発明の好適に設計されるTIM-3とPD-1に対する二重特異性分子(1つの分子)は2つの分子の併用に相当するか、それ以上(相乗効果)のT細胞を活性化させる活性に達する。単剤の低コスト、投与の便宜といった明らかな優勢がありながら、本発明の二重特異性抗体(例えばLB141)は治療においてPD-1抗体の単独治療又はTIM-3抗体とPD-1抗体の併用よりも優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1a図1aは本発明のTIM-3抗体結合活性の特徴である。図1aは、Tim3-0028、Tim3-0038、Ref、ab6、ab32のアカゲザル(Macaca)TIM-3との結合曲線である。
図1b図1bは本発明のTIM-3抗体結合活性の特徴である。図1bは、Tim3-0028、Tim3-0038、Ref、ab6、ab32のキヌザル(Marmoset)TIM-3との結合曲線である。
図2a図2aは本発明の二重特異性抗体のゲル電気泳動(SDS-PAGE)である。図2aは、左からレーンM:分子量マーカー(Marker);1:PD-1抗体(Nivo)非変性(non reduced);2:PD-1抗体(Nivo)変性(reduced);3:LB121非変性;4:LB121変性;5:LB122非変性;6:LB122変性;7:LB123非変性;8:LB123変性である。
図2b図2bは本発明の二重特異性抗体のゲル電気泳動(SDS-PAGE)である。図2bは、左からレーンM:分子量マーカー(Marker):1:PD-1抗体(Nivo)非変性;2:PD-1抗体(Nivo)変性;3:LB124 非変性;4:LB124変性;5:LB126非変性;6:LB126変性;7:LB127非変性;8:LB127変性;9:LB128非変性;10:LB128変性;11:LB129非変性;12:LB129変性である。
図3a図3aは本発明の二重特異性抗体のヒトTIM-3及びヒトPD-1との結合活性(ELISA)である。図3aは、本発明の二重特異性抗体の抗TIM-3抗体の部分に使用されるのはab6配列であり、ELISAではab6の完全な抗体を対照とした。
図3b図3bは本発明の二重特異性抗体のヒトTIM-3及びヒトPD-1との結合活性(ELISA)である。図3bは、二重特異性抗体の抗Tim-3抗体部分に使用されるのはab32の抗体配列であり、ELISAではab32の完全な抗体を対照とした。
図3c図3cは本発明の二重特異性抗体のヒトTIM-3及びヒトPD-1との結合活性(ELISA)である。図3cは、本発明の二重特異性抗体の抗PD-1抗体の部分に使用されるのはNivoの抗体配列であり、ELISAではNivoの完全な抗体を対照とした。
図3d図3dは本発明の二重特異性抗体のヒトTIM-3及びヒトPD-1との結合活性(ELISA)である。図3dは、二重特異性抗体の抗PD-1抗体部分に使用されるのはBa08の抗体配列であり、ELISAではBa08の完全な抗体を対照とした。
図4図4は本発明の二重特異性抗体の最適化設計分子のゲル電気泳動(SDS-PAGE)である。左からレーンM:分子量マーカー(Marker);1:LB132,非変性(non-reduced);2:LB132,変性(reduced);3:LB133,非変性;4:LB133,変性;5:LB134,非変性;6:LB134,変性;7:LB136,非変性;8:LB136,変性;9:LB141,非変性;10:LB141,変性;11:LB143,非変性;12:LB143,変性;13:LB135,非変性;14:LB135,変性である。
図5a図5aは本発明のTIM-3/PD-1二重特異性抗体の最適化設計分子のMLR活性の評価である。
図5b図5bは本発明のTIM-3/PD-1二重特異性抗体の最適化設計分子のMLR活性の評価である。
図5c図5cは本発明のTIM-3/PD-1二重特異性抗体の最適化設計分子のMLR活性の評価である。
図6図6は本発明のTim-3及びPD-1に対して設計された一部の二重特異性抗体の構造図である。
図7a図7aはLB141の体内薬効である。
図7b図7bはLB141の体内生存曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
[具体的な実施形態]
以下、実施例の形によってさらに本発明を説明するが、これによって本発明を記載された実施例の範囲内に限定されるわけではない。以下の実施例において、具体的な条件が記載されていない実験方法は、通常の方法及び条件、或いは商品の説明書に従って選ばれる。
【0048】
実施例1 抗原、抗体のクローニング、発現及び精製
本発明で使用されるヒトTIM-3、PD-1、PD-L1細胞外領域-ヒトIgG1 Fc融合タンパク質、-hisタグタンパク質は本発明によってクローニング、発現及び精製して得られた。一部は以下の異なる会社から購入された:TIM-3-his(カタログ番号:TM3-H5229)、TIM-3-hFc(カタログ番号:TM3-H5258)は北京ACROBiosystems社から購入された。TIM-3-his-hFcは北京Sino biological社から購入され、カタログ番号:10390-H03Hである。
【0049】
本発明で使用される抗体は、組み換え抗体、二重特異性抗体、Tim-3陽性対照抗体ABTIM3(配列はUS20150218274A1における配列が配列番号34で示される重鎖、配列が配列番号22で示される軽鎖からのものである)を含み、以下の実施例において、陽性対照又は陽性抗体又は対照抗体と略す。PD-1抗体Nivo (Nivolumab/Opidivo、配列が公開文献、例えばwww.drugbank.ca、又はWO2013019906からのものである)、PD-1抗体Pem (Pembrolizumab/Keytruda、配列がwww.drugbank.caからのものである)、PD-1抗体Ba08(配列が特許CN201410369300、WO2016015685A1からのものである)は、クローニング、発現及び精製がいずれも本発明によって完成される。
【0050】
発現・クローニングに使用されるベクターはpTT5ベクター(Biovector,Cat#: 102762)である。すべてのタンパク質の発現(組み換えタンパク質を含む)は、抗体の軽・重鎖がいずれもpTT5ベクターでHEK293E細胞(Life Technologies Cat. No. 11625019)に一過性形質移入して発現させた後、精製して得られた。
【0051】
具体的に、293細胞はGibco FreeStyle 293 Expression Medium(Gibco,Cat# 12338018)培地において増幅培養された。一過性形質移入の前、細胞濃度が6~8×10細胞/mlになるように調整し、1% FBS(Aus Gene X FBS Excellent プロバイダー:AusGeneX,China,Cat# FBSSA500-S)、37℃ 8% COのシェーカーで24h培養し、再度顕微鏡で検出したところ、生存率が>95%であり、細胞濃度が1.2×10 細胞/mlであった。
【0052】
300mlの培養系細胞を調製し、15mlのOpti-MEM(Gibco,Cat#31985070)に重鎖、軽鎖のプラスミドを150μgずつ溶解させ(組み換えタンパク質の場合、単一のプラスミドの使用量が300μgである)、0.22μmでろ過して除菌をした。さらに15mlのOpti-MEMに1mg/ml PEI(Polysciences,Inc,Cat# 23966-2)を600μl入れた後、5min静置した。PEIをゆっくりプラスミドに入れ、室温で10minインキュベートし、培養瓶を揺らしながらゆっくりプラスミドPEI混合溶液を入れ、37℃ 8% COのシェーカーで5日培養してサンプルを収集し、3300Gで10min遠心して上清を取って精製した。
【0053】
抗体又は-Fc融合タンパク質の精製:サンプルを高速遠心分離して不純物を除去し、PBS(pH:7.4)でプロテインA(Mabselect,GE Healthcare Life Science,Cat# 71-5020-91 AE)を含有する重力カラム(生工生物,Cat# F506606-0001)を平衡化し、2~5倍カラム体積で洗浄した。サンプルにカラムを通させた。5~10倍カラム体積のPBS(生工生物,Cat#B548117-0500)でカラムを洗浄した。さらに0.1M pHが3.5の酢酸で目的のタンパク質を溶離させた後、pH 8.0のTris-HClで中性に調整し、マイクロプレートリーダーで濃度を測定し、分注して使用に備えて保存した。
【0054】
Hisタグタンパク質の精製:サンプルを高速遠心分離して不純物を除去した。ニッケルカラム(Ni smart beads 6FF常州天地人和生物科技有限公司 Cat# SA036010 )の平衡化:10mMイミダゾール、0.5M NaClを含有するPBS pH7.4溶液でニッケルカラムを平衡化し、2~5倍カラム体積で洗浄した。サンプルの上清をカラムにかけた。不純物タンパク質の溶離:10mMイミダゾール、0.5M NaClを含有するPBS pH7.4溶液でクロマトグラフィーカラムを洗い、非特異的に結合した不純物タンパク質を除去し、そして流出液を収集した。250mMイミダゾール、0.5M NaClを含有するPBS(pH7.4)で目的のタンパク質を溶離させた。緩衝液の置換:溶離させた目的のタンパク質に限外ろ過チューブを通させて12000gで10min遠心分離し(限外ろ過チューブMerck Millipore Cat#UFC500308)、さらに1mlのPBSを追加し、濃度を測定し、分注し保存して使用に備えた。
【0055】
本発明で発現される組み換えタンパク質の配列は以下の通りである。
ヒトTIM-3配列の詳細はGenBank:Q8TDQ0.3の22~199位のアミノ酸を参照し、-hIgG1 Fc又は-hisタグと融合した。本明細書におけるGenBank登録番号とは、通常、NCBI Reference Sequenceである。
【0056】
アカゲザル(Macaca)TIM-3タンパク質配列の登録番号の詳細はGenBank: EHH54703.1を参照する。
キヌザル(Marmoset)TIM-3タンパク質配列の登録番号の詳細はGenBank: XP_008982203.1を参照する。
【0057】
NivoVL (Nivolumab/Nivo-軽鎖可変領域)の配列はwww.drugbank.caにおけるNivolumab抗体の軽鎖配列の前の107のアミノ酸であり、NivoVH(Nivolumab 重鎖可変領域)の配列はwww.drugbank.caにおけるNivolumab抗体の重鎖配列の前の113のアミノ酸である。
【0058】
Ba08VL(Ba08軽鎖可変領域)の配列は中国特許出願CN201410369300の配列表における配列番号6であり、Ba08VH (Ba08重鎖可変領域)の配列は中国特許出願CN201410369300の配列表における配列番号4である。
【0059】
PemVL (Pembrolizumab 軽鎖可変領域)の配列はwww.drugbank.caにおけるPembrolizumab抗体の軽鎖配列の前の111のアミノ酸であり、PemVH(Pembrolizumab重鎖可変領域)の配列はwww.drugbank.caにおけるPembrolizumab抗体の重鎖配列の前の120のアミノ酸である。
【0060】
ヒト抗体の軽鎖定常領域(κ鎖)の配列は中国出願CN201710348699.4の配列番号21であり、ヒト抗体の重鎖定常領域(hIgG4)の配列は中国出願CN201710348699.4の配列番号22である。
【0061】
本発明で発現される完全な抗体は、軽鎖及び重鎖からなる。軽鎖は上記の任意の軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域のκ鎖(λ鎖でもよい)からなり、重鎖は上記の任意の重鎖可変領域及び重鎖定常領域のhIgG4(hIgG1、hIgG2、hIgG3でもよい)からなる。
【0062】
実施例2 抗TIM-3抗体結合のELISA実験
pHが7.4のPBS緩衝液でヤギ抗hFc(Jackson,109-005-008)を1μg/mlの濃度に希釈し、50μl/ウェルの体積で96ウェルマイクロプレート(Corning,CLS3590-100EA)に入れ、37℃インキュベーターで2時間置いた。(或いは、直接に抗原TIM-3で、0.5μg/mlでプレートを被覆した後、直接被験抗体を入れた)。液を捨てた後、PBSで希釈された5%脱脂牛乳(光明脱脂粉乳)のブロッキング液を200μl/ウェルで入れ、37℃インキュベーターで2.5時間インキュベートするか、4℃で一晩(16~18時間)置くことでブロッキングした。ブロッキング液を捨て、そしてPBST緩衝液(pHが7.4のPBS含有0.05%ツイン-20)でプレートを5回洗浄した後、50μl/ウェルで0.5μg/mlのTIM-3-hFc(実施例1)を入れ、37℃インキュベーターで2時間インキュベートした。インキュベート終了後、PBSTでプレートを6回洗浄した後、50μl/ウェルで上清(被験抗体を含む)又は異なる濃度の被験抗体を入れ、37℃で2時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50μl/ウェルで1:2500で希釈されたHRPで標識された二次抗体(Jackson Immuno Research,115-035-003)を入れ、37℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB呈色基質(KPL,52-00-03)を入れ、室温で10~15minインキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを入れて反応を中止させ、MMLTISKAN Goマイクロプレートリーダー(ThermoFisher,51119200)によって450nmにおいて吸収値を読み取り、OD値からEC50を計算し、或いは結合活性の高いクローンを選択した。
【0063】
実施例3 抗ヒトTIM-3抗体のヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷活性実験(抗ヒトTIM-3抗体のヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性の実験)
ヒトNK細胞はヒト末梢血の単核球(PBMC)由来のものであり、PBMCは健常者によって献血された末梢血由来のものであり、本発明によって分離・抽出された。PBMCは2.5×10個細胞/ウェルで、K562(ATCCカタログ番号:CCL-243(商標)、代理:上海素爾生物科技有限公司)は5×10個細胞/ウェルで96ウェルプレート(Corning 3599)に敷いた。被験ハイブリドーマ上清抗体、又は精製抗体を96ウェル細胞プレートに入れ、37℃インキュベーターで6時間インキュベートした後、LDH検出キット(上海同仁生物科技有限公司、カタログ番号:CK12)を使用し、説明書に従って検出し、MMLTISKAN Goマイクロプレートリーダーによって490nmにおける吸収値(OD)を読み取り、LDHの放出量変化の百分率を計算し、被験サンプルのヒトNK細胞(単なるNK細胞の代わりに高投与量のヒトPBMCを使用した)の腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性の強さを比較した。
【0064】
実施例4 本発明の抗体のBiacoreによる親和力(KD)の測定
Biacore T200(GE Healthcare)装置によって本発明の抗体と抗原(ヒトTIM-3)の親和力を測定した。pH 7.4の稼働緩衝液HBS-EP+(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA及び0.05%のP20)を使用した(前記百分率は体積比である)。まず、プロテインA(Thermo Pierce,Cat# 21181)をバイオセンサーチップCM5(Cat. # BR-1005 -30,GE)にカップリングし、チップを新しく調製された50mM NHS(N-ヒドロキシコハク酸イミド、N-hydroxysuccinimide)及び200mM EDC[1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride]で活性化させた後、pH4.0の10 mM NaACで調製された10μg/mlのプロテインAを注いだ。被験抗体の濃度は5μg/mlであり、抗原TIM-3-his(又はPD-1-his)の濃度勾配は0nM、1.875nM、3.75nM、7.5nM、15nM及び30nMであり、流速が30μl/分であり、結合時間が180秒であり、溶離時間が300秒であった。実験後、10mM グリシン-HCl、pH 1.5、30μl/min、30sでチップを洗浄した。実験データはBiacore T200 evaluation version 3.0(GE)ソフトによって1:1のラングミュア(Langmuir)モデルでフィッティングし、親和力の数値KDを得た。
【0065】
実施例5 PD-1抗体とPD-1タンパク質の結合のELISA実験
pHが7.4のPBS緩衝液で実施例1で発現されたPD-1を1μg/mlの濃度に希釈し、50μl/ウェルの体積で96ウェルマイクロプレート(Corning,CLS3590-100EA)に入れ、37℃インキュベーターで2時間置いた。液を捨てた後、PBSで希釈された5%脱脂牛乳(上海生工生物工程有限公司,A600669-0250)のブロッキング液を200μl/ウェルで入れ、37℃インキュベーターで3時間インキュベートするか、4℃で一晩(16~18時間)置くことによりブロッキングした。ブロッキング液を捨て、そしてPBST緩衝液(pH7.4のPBS0.05% ツイン-20を含有)で5回プレートを洗浄した後、50μl/ウェルで1% BSAで5倍連続希釈されたPD-1抗体又は被験抗体を入れ、37℃で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50μl/ウェルで1:2500で希釈されたHRPで標識された二次抗体(Jackson Immuno Research,115-035-003)を入れ、37℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB呈色基質(KPL,52-00-03)を入れ、室温で5~10minインキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを入れて反応を中止させ、MMLTISKAN Goマイクロプレートリーダー(ThermoFisher,51119200)によって450nmにおいて吸収値を読み取り、OD値からEC50を計算した。
【0066】
実施例6 PD-1抗体のPD-1タンパク質とそのリガンドPD-L1の結合を阻害する実験(ブロッキングアッセイ、Blocking assay)
pHが7.4のPBS緩衝液で実施例1で発現されたPD-1を2μg/mlの濃度に希釈し、50μl/ウェルの体積で96ウェルマイクロプレート(Corning,CLS3590-100EA)に入れ、37℃インキュベーターで2時間置いた。液を捨てた後、PBSで希釈された5%脱脂牛乳(上海生工生物工程有限公司,A600669-0250)のブロッキング液を200μl/ウェルで入れ、37℃インキュベーターで3時間インキュベートするか、4℃で一晩(16~18時間)置くことでブロッキングした。ブロッキング液を捨て、そしてPBST緩衝液(pH7.4のPBS含有る0.05% ツイン-20)で5回プレートを洗浄した後、各ウェルに25μlの1% BSAで5倍連続希釈された被験PD-1抗体又は被験抗体及び25μlの最終濃度が10μg/mlのビオチンで標識されたPD-L1(本発明によって発現・精製された)を入れ、37℃で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50μl/ウェルで1:1000で希釈されたHRPで標識された二次抗体(genscript社,M00091)を入れ、37℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB呈色基質(KPL,52-00-03)を入れ、室温で5~10minインキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを入れて反応を中止させ、MMLTISKAN Goマイクロプレートリーダー(ThermoFisher,51119200)によって450nmにおいて吸収値を読み取り、OD値からIC50を計算した。
【0067】
ビオチン標識のキットはBiotin Labeling Kit-NH2で、東仁化学科技(上海)有限公司から購入され、カタログ番号はLK03である。操作方法は説明書に従って行われ、標識された抗体はMultiskan GO(ThermoFisher)マイクロプレートリーダーによって濃度を検出して使用された。
【0068】
実施例7 抗ヒトTIM-3抗体の発見
本発明では、ヒトTIM-3を抗原とし、マウスを免疫させ、異なる融合をスクリーニングし(mab5、mab15、mab35及びmab50など)、数十万のハイブリドーマを得、これらのハイブリドーマからさらにスクリーニングして好適なクローンを得た。非常に意外なことに、先後に多くの異なるハイブリドーマ融合から、いくつかのモノクローナル細胞株をスクリーニングし、それぞれ融合番号はmab5、mab15、mab35及びmab50などで、中国特許出願CN201710348699.4及びCN201810197885.7を参照する。
【0069】
本実施例に記載の本発明のTIM-3抗体の発見過程は、抗原免疫からハイブリドーマ融合でスクリーニングして得られたmab5、mab15及びmab35などの異なる融合ハイブリドーマクローンをさらにスクリーニングし、最適化し、モノクローナル細胞株を得ることを含む。中からマウス由来抗体を抽出してコンピューターによる最適化、ヒト化設計などでヒト化抗体を得、最適化し、スクリーニングして得られた好適なヒト化抗体はマウス由来抗体と同様の良い結合活性を維持する。結合活性は本発明用陽性対照よりも良い。より意外なことに、ヒト血細胞の殺傷活性を活性化させ、単独で又はPD-1抗体と併用してヒト血細胞T細胞を活性化させる活性が良い。そして、抗原との結合は快結合、慢解離の特性を示し、医薬開発、腫瘍治療に非常に優れた優勢を提供する。
【0070】
具体的に、実験用SJL白マウス(雌、4週齢)は北京VITAL RIVER実験動物技術有限公司から購入され、動物生産許可証番号:SCXK(京) 2016-0011である。マウスを購入した後、実験室の環境で1週間飼育し、昼夜で明暗の周期を調節し、温度は20~25℃であり、湿度は40~60%であった。マウスは3匹/群/籠で分けた。実施例1で用意された抗原で免疫させた。アジュバントはQuickantibody(北京博奥龍免疫技術有限公司(Beijing Biodragon Immunotechnologies Co.,Ltd)、カタログ番号KX0210041)又はTitermax(sigma,T2684-1ML)である。抗原とアジュバントの比率は1:1であった。100μl/10μg/匹で、初めて免疫させ、脛に筋肉内注射した。融合の3日前に、100μl/25μg/匹で強化免疫させた。免疫時間は0、14、28、42、56及び59日目であった(免疫強化)。それぞれ22、36、50及び64日目に、上記実施例3のELISA方法によってマウス血清抗体の力価を検出し、血清における抗体力価が高くて力価がプラトー期にあるマウスを選んで脾臓細胞の融合を行い、脾臓リンパ球を骨髄腫細胞Sp2/0細胞(ATCC(登録商標) CRL-8287(商標))と融合して得られたハイブリドーマ細胞を96ウェルプレートに敷き、実施例3のELISA方法によって好適なクローンをスクリーニングした。
【0071】
最初の好適なクローンに対し、さらに有限希釈を行い、毎回の希釈後、7~10日でクローンが増殖すると、上記実施例2のELISA方法、及び実施例3のNK実験方法によって各クローンによって分泌される抗体(上清)の結合及びNK細胞の活性を検出した。複数の有限希釈後、得られたモノクローナル細胞株は、分泌上清が良い結合活性及びヒトNK細胞の活性を維持した。このモノクローナル細胞株から抗体配列を抽出し、本発明に使用される好適なマウス由来抗体配列を得た。
【0072】
実施例8 マウス由来抗ヒトTIM-3抗体の配列の同定
ハイブリドーマから好適に得られたモノクローナル細胞株から抗体配列を抽出する過程は当業者によく使用される方法である。具体的に、上記モノクローナル細胞株を収集し、増幅培養した後、1×10個の細胞を取り、Trizol(Invitrogen,15596-018)でRNAを抽出し(キットの説明書の手順に従った)、抽出されたRNAをcDNAに逆転写し、逆転写キットは生工生物技術(上海)股フン有限公司から購入され、Cat # B532435であった。逆転写して得られたcDNAを鋳型とし、PCR増幅を行った。増幅産物をシークエンシングすることにより、ハイブリドーマのモノクローナル細胞株における抗体の軽・重鎖可変領域の塩基(コード)配列及びコードされる軽・重鎖のタンパク質配列を得た。使用されたプライマーはNovagenによって発表されたマニュアルTB326 Rev. C0308を参照する。本分野のCDR定義方法は下記表及びCCG定義により本発明の抗体のCDR配列を確認することを含む。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例9 本発明のTIM-3抗体のヒト化
本実施例には、本発明の抗体のヒト化の過程が記載され、当該過程及び方法は本分野の多くの文献で開示された方法によって行われた。
【0075】
具体的に、抗体の番号付けシステムにより、上記実施例に記載のように、抗体の軽・重鎖のCDR領域を標識・識別した。マウス由来抗体の配列をヒト抗体種データベース(v-base)と比較し、相同性の高いヒト抗体種を見つけ、例えば本発明のマウス由来モノクローナル抗体の軽鎖と相同性の高いヒト抗体種はIGKV1D-39*01(F)、IGKV1-12*01(F)、IGKV1-39*01(F)、IGKV1-12*02(F)、IGKV1-17*01(F)、IGKV1-27*01(F)、IGKV1-39*02(P)、IGKV1-6*01(F)、IGKV1-NL1*01(F)及びIGKV1D-12*01(F)などを含み、好適に相同性、種の好適な頻度などの要素で、好ましくはIGKV1-39*01(F)はヒト化用種の軽鎖である。軽鎖のJ遺伝子はhJK1、hJK2.1、hJK2.2、hJK2.3、hJK2.4及びhJK3などから相同性が高く、配列アラインメントではhJK2.1が好ましい。抗体の重鎖と相同性が高いヒト抗体種はIGHV3-7*01(F)、IGHV3-7*02(F)、IGHV3-7*03(F)、IGHV3-48*01(F)、IGHV3-48*02(F)、IGHV3-48*03(F)、IGHV3-21*01(F)、IGHV3-21*02(F)、IGHV3-21*03(F)などがあり、IGHV3-21*01(F)が好ましい。抗体の重鎖のJ遺伝子及びヒト抗体種hJH1、hJH2、hJH3.1、hJH3.2、hJH4.1、hJH4.2及びhJH4.3などであり、hJH4.1が好ましい。マウス由来抗体のCDR領域を、選ばれたヒト抗体種の軽・重鎖の鋳型に移植し、さらにIgGの軽・重鎖の定常領域と組み換えた。その後、コンピューターでシミュレーションされた抗体の3次元構造を元に、残基を包埋し、CDR領域と直接相互作用がある残基、及びVLとVHの配座に大きく影響する残基に対して復帰突然変異を行い、そしてCDR領域の化学的に不安定なアミノ酸残基を最適化し、本発明の最適化された抗TIM-3ヒト化抗体分子を得た。
【0076】
実施例10 本発明のTIM-3ヒト化抗体ab6の配列の解析
上記実施例7~9の方法によってハイブリドーマmab5から得られた単一クローンから抽出されたマウス由来抗体をヒト化及び最適化して好適なヒト化抗体ab6を得た。
【0077】
本発明のmab5ヒト化最適化抗体ab6の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の好適な配列はそれぞれ以下のものである。
ab6VL:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCHASQGISSNIGWLQQKPGKAFKGLIYQG SNLEDGVPSRFSGSGSGADYTLTISSLQPEDFATYYCVQFAQFPPTFGQGTKLEIK(配列番号14)
ab6VH:EVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMAWVRQAPGKGLEWV ANINYDGSNTYYLDSLKSRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARGLYYYGGNYFAYWGQGTLVTVSS(配列番号13)
上記抗体は上記表1及びCCGの方法によってそのCDR領域を表2に示すように定義した。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
実施例11 TIM-3ヒト化抗体ab32の配列の解析
上記実施例7~9の方法によってハイブリドーマmab15から得られた単一クローンから抽出されたマウス由来抗体をヒト化した後、最適化し(例えば異なる復帰突然変異部位の組み合わせであり、下記表を参照する)、好適なヒト化抗体ab32を得た。
【0081】
mab15ヒト化最適化抗体ab32の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の好適な配列はそれぞれ以下のものである。
ab32VL:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASENIYSYLTWYQQKPGKAPKLLIYN AKTLAEGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYGTPLTFGQGTKLEIK(配列番号16)
ab32VH:EVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMTWVRQAPGKGLEW VSSINYDGRNTYYLDSLKSRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARGYYYYGSSPNYFDYWGQGTLVTVSS(配列番号15)
上記抗体は上記表1及びCCGの方法によってそのCDR領域を下記表のように定義した。
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
実施例13 TIM-3ヒト化抗体ab6及びab32の活性評価(当該実施例で言及した「陽性抗体」は上記で言及した対照抗体ABTIM3である)
上記実施例9で得られたヒト化抗体の軽・重鎖可変領域に対して実施例1の方法によってクローニング、発現・精製を行って完全な抗体を得た。これらの可変領域は異なる軽・重鎖定常領域と組み合わせることができ、本発明はIgG4-κ鎖(hIgG4)の定常領域が好ましい。発現された好適なヒト化抗体ab6及びab32の活性を前記実施例によってそれぞれ検出した評価結果は以下の通りである。
【0085】
【表6】
【0086】
表6の結果から、ab32には復帰突然変異がなく、即ち、マウス由来抗体の活性を維持し、つまり、当該抗体は完全にヒト化されたものであり、一方、ab6の軽・重鎖はいずれも復帰突然変異があったことが示された。
【0087】
上記Biacore実施例の方法により、本発明の抗体と抗原の親和力(KD)を検出したところ、結果を以下に示す。
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
表8から、本発明のヒト化抗体ab6、ab32はヒトTIM-3といずれも良い結合活性を有し、かつ陽性抗体(対照分子、Ref)よりも良いことが示された。ab6はアカゲザルTIM-3とは全然結合しなかった。ab32はアカゲザルTIM-3と非常に弱い結合活性を有し、検出できない(ND)レベルに近い。これは陽性分子と異なり、陽性分子はアカゲザルTIM-3と良い結合活性を有し、EC50=0.14nMであった。
【0091】
公開特許US20170114135A1におけるPD-1/TIM-3二重特異性抗体に使用されるTIM-3抗体(当該特許の表2aを参照する)はアカゲザルTIM-3(Macaca、即ち、特許で言及したcyTim3で、特許の表2aを参照する)とBiacoreによって結合(~10-7 ~10-8 M)が検出され、或いは「nf」(該当なしで、結合がなく、又は弱い可能性が高い)である。アカゲザルTIM-3に結合する抗体は本発明と異なる抗体で(本発明の抗体はアカゲザルTIM-3に結合せず、キヌザルTIM-3と強い結合がある)、nf抗体はいくつかあり、Tim3-0028、Tim3-0038を含み、ここで、Tim3-0028は当該特許のcrossmab二重特異性に使用されるTIM-3抗体であり、当該特許の実施例18におけるin vivo実験に使用される二重特異性抗体を含む。さらに本発明の抗TIM-3抗体の特徴(ヒトTIM-3と強く結合し、アカゲザルTIM-3と結合せず、キヌザルTIM-3と強く結合する)を確認するため、本発明では、US20170114135A1における抗体Tim3-0028及びTim3-0038を発現させた。その後、本発明の抗体と同時にアカゲザル、及びキヌザルTIM-3との活性の検出を行ったが、結果は下記表9及び図1に示す。
【0092】
【表9】
【0093】
上記結果から、陽性抗体はアカゲザルTIM-3とEC50=0.05nMと高い結合活性を有し、本発明の抗体ab6及びab32はアカゲザルTIM-3とほとんど結合しなかったか、非常に弱く結合し、検出できない(ND)レベルに近かったが(図1a)、この点において陽性抗体と異なることが分かる。公開特許US20170114135A1におけるTim3-0028及びTim3-0038抗体もアカゲザルTIM-3と全然結合しなかった。一方、本発明の抗TIM-3抗体(ab6、ab32)は共通の特徴があり、キヌザルTIM-3と優れた結合活性を有し、それぞれ0.05nM、0.08nMであり、陽性抗体(0.51nM)よりも10倍近く強かった。公開特許US20170114135A1におけるTim3-0028抗体はキヌザルTIM-3とほとんど結合がなく(ND)、そのEC50=36.2nMであり、これは本発明の抗体よりも500倍以上弱く、2桁以上の差があり、Tim3-0038はキヌザルTIM-3と全然結合しなかったが、図1bを参照する。
【0094】
また、ヒトTIM-3-hisとのELISAの結果から、Tim3-0028は結合が非常に弱く(11.6nM)、Tim3-0038は結合が0.443nMであり、同じ実験において本発明の抗体ab6は0.11nMであったことが分かる。これによって、本発明の抗体はヒトTIM-3との結合がTim3-0028、Tim3-0038の結合活性よりも3~100倍以上優れることが示された。同時に、本発明でELISA方法によって検出されたTim3-0028のヒトTIM-3との結合活性がTim3-0038よりもずっと弱かったが、この結果はUS20170114135A1で公開されたbiacoreデータとも一致する。本発明のTIM-3抗体はTim3-0028、Tim-0038とともに実施例3の方法によって同時に行われたNK実験の結果は下記表9aに示す。
【0095】
【表10】
【0096】
表9aの結果から、同じ抗体濃度において、陰性抗体のNK細胞の腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性の増加(抗体のない場合に対して)百分率が0.19%であり、即ち、バックグラウンド(0%)レベルに近かったことが分かる。ab6及びab32はいずれも優れた腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性を示し、それぞれ3.55%及び5.22%増加した。これはTim3-0028及びTim3-0038の活性よりも少なくとも40%以上([3.55~2.53]/2.53)から220%以上([5.22~1.61]/1.61)強かった。
【0097】
上記結果から、本発明は陽性抗体とも異なり、公開特許US20170114135A1におけるTIM-3抗体とも異なり、独特な結合特性及び結合部位を有することが分かる。本発明の抗体のこのような共有の特性は、これらの抗体のヒト以外の霊長類種における臨床前研究に異なるヒト以外の霊長類種の選択を提供する。
【0098】
また、本発明の好適な抗体ab6、ab32は対照抗体と異なる抗原結合部位を有し、相応する抗体医薬の開発は異なる効果を示すことができ、これらの抗体のヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる機能活性(下記を参照する)によって証明された。
【0099】
実施例3の方法によって本発明の抗体のヒト血細胞の腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性を検出したが、結果は下記表に示す。
【0100】
【表11】
【0101】
上記結果から、ab32及び陽性対照は0μg/mlの濃度において、基本的に活性を示さず(バックグランドに近い)、5μg/mlの濃度において、ab32及び陽性対照はヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性がそれぞれ12.6%及び5.9%であり、10μg/mlの濃度において、ab32及び陽性対照は活性がそれぞれ14.9%及び10.1%であったことが分かる。ab32は当該濃度において活性が飽和値に達したことが示された。同時に、本発明の抗体ab32は5μg/mlにおけるヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性が10μg/mlにおける対照抗体に相当したことが示された。つまり、ab32はヒトPBMCを活性化させる活性が陽性対照よりも少なくとも1倍以上強かった。Ab6も同様に陽性対照抗体よりも強いPBMC殺傷活性を示したが、下記表11に示す。
【0102】
【表12】
【0103】
表11から、ab6及び陽性対照は0μg/mlの濃度において、基本的に活性を示さず(バックグランドの1.8%に近い)、5μg/mlの濃度において、ab6及び陽性対照はヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性がそれぞれ3.97%及び3.91%であり、10μg/mlの濃度において、ab6及び陽性対照は活性がそれぞれ8.33%及び3.95%であったことが示された。陽性対照抗体は10μg/mlの濃度において活性が飽和値に達したことが示された。同時に、本発明の抗体ab6は5μg/mlにおけるヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性(3.97%)が10μg/mlにおける対照抗体に相当した(3.95%)ことが示された。つまり、ab6はヒトNKを活性化させる活性が陽性対照よりも少なくとも1倍以上強かった。
【0104】
上記結果から、本発明の抗体ab6及びab32は、独特で、陽性対照とも異なり、公開特許US20170114135A1におけるTIM-3抗体とも異なるヒト及びキヌザルTIM-3に結合する特徴があり、そしてこれらの抗体は、さらに、陽性対照、Tim3-0028及びTim3-0038のいずれよりも優れたヒトNK細胞の腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性を有する。
【0105】
上記実施例1~13(Tim3-0028、Tim3-0038の取り扱い以外)は、本出願者の中国特許出願CN201710348699.4及びCN201810197885.7を参照する。
【0106】
実施例14 二重特異性抗体の設計における本発明のTIM-3抗体の使用
本発明の抗TIM-3抗体はPD-1を含むほかの様々な標的の抗体と様々な形で二重特異性抗体に設計することができる。設計される二重特異性抗体は、二重機能抗体とも呼ばれ、同時にTIM-3及びもう1つの標的をターゲティングすることができる。本発明では、TIM-3標的及びPD-1標的を例とし、いくつかの好適な設計プランで様々な好適な設計を得た。具体的な設計プランの一つは以下の通りである。
【0107】
【表13】
【0108】
上記表に示すように、軽鎖を含む配列及び重鎖を含む配列を構築する過程において、そのN末端にシグナルペプチド配列SPが含まれており、発現後、シグナルペプチドが切断される。軽鎖を含む配列とは、軽鎖の配列以外、さらに、軽鎖の配列と連結したscFvを含んでもよい。重鎖を含む配列とは、重鎖の配列以外、さらに、重鎖の配列と連結したscFvを含んでもよい。
【0109】
上記T1はPD-1抗体であり、Pem、Nivo又はBa08でもよい。T2は本発明のTIM-3抗体であり、例えばab6又はab32である。T1(scFv)はPD-1抗体に対するscFv配列を表し、T2(scFv)はTIM-3抗体のscFv配列を表す。(scFv)n1、(scFv)n2、(scFv)n3及び(scFv)n4におけるn1、n2、n3及びn4はそれぞれ自然数であり、0、1、2、3などでもよく、本発明の具体的な実施例において、n1、n2、n3、n4のうち、少なくとも1つの数値は1であり、残りは0である。L1、L2はそれぞれ柔軟性リンカーであり、複数のGGGGS(GS)、即ち、(GS)でもよく、nは0~10又は10超であり、好ましくは1、2、3又は4である。
【0110】
T1(scFv)及びT2(scFv)は軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域の構造でもよく、重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域の構造でもよく(左から右はN末端からC末端である)、例えばab6VL-リンカー-ab6VH、ab32VL-リンカー-ab32VH、ab6VH-リンカー-ab6VL及びab6VH-リンカー-ab6VLでもよい。VLは、抗体の軽鎖可変領域の配列を表し、VHは、抗体の重鎖可変領域の配列を表す。Lcはヒト抗体κ型軽鎖定常領域又はλ型軽鎖定常領域であるため、本明細書において、VL-Lcとは1本の完全な軽鎖であって、VL-κ及びVL-λなどの形を含む。Hcは重鎖定常領域であって、ヒト抗体の重鎖IgG1、IgG2又はIgG4などのサブタイプの定常領域を含み、VH-Hcは1本の完全な重鎖を表す。「-」は明確に本発明の二重特異性抗体の構造を示して異なるドメインを分別するため、自身は何らの分子構造も表さず、例えば、ab6VL-リンカー-ab6VHはab6軽鎖可変領域(アミノ酸)及び重鎖可変領域(アミノ酸)がリンカーを介して融合して発現されるアミノ酸配列を表す。
【0111】
上記表12で設計されるように、本実施例において、具体的な分子の軽鎖はヒトκ鎖の定常領域とし、重鎖はヒト重鎖の定常領域(Hc)、例えばヒトIgG4(hIgG4)とした。重鎖におけるL1配列は(GS)であり、L2配列はGSであり、即ち、具体的な配列は表12aに示した。
【0112】
【表14】
【0113】
上記分子の軽鎖のN末端は、さらに、配列番号30で示される、シグナルペプチドSP1の配列を含み、重鎖のN末端は、さらに、配列番号31で示される、シグナルペプチドSP2の配列を含み、発現の最終産物には、シグナルペプチドの配列が含まれないため(切断された)、表に示されていない。
【0114】
【表15】
【0115】
上記表において、軽鎖を含む配列とは当該配列が正常の完全な軽鎖配列以外、ほかのアミノ酸断片、例えばもう1つの軽鎖可変領域の配列を含むことである。重鎖を含む配列とは、当該配列が正常の完全な重鎖配列以外、ほかのアミノ酸断片、例えばもう1つの重鎖可変領域の配列を含むことである。軽鎖可変領域と完全な軽鎖の間、重鎖可変領域と完全な重鎖の間はそれぞれリンカーL3及びL4を介して連結している。L3、L4はそれぞれ柔軟性リンカーであり、配列番号28で示されるペプチド断片1、又は配列番号29で示されるペプチド断片2でもよく、複数のGGGGS(GS)、即ち、(GS)でもよく、nは0~10の間又は10超の整数であり、好ましくは1、2、3又は4である。重鎖定常領域hIgGはヒト抗体IgG1、IgG2又はIgG4でもよい。具体的な実施例は特定の値及び特定のリンカーを使用してもよい。
【0116】
具体的に、本実施例において、当該プラン2で本発明によって設計されるLB126、LB127、LB253、LB128、LB129及びLB254分子におけるL3配列はRTVAAPSVFIFPP(配列番号28)であり、L4配列はASTKGPSVFPLAP(配列番号29)である。標的PD-1に対する抗体はNivo、Ba08又はPemであり、標的TIM-3に対する抗体は本発明のab6又はab32である。軽鎖定常領域はヒトκ鎖定常領域であり、重鎖定常領域はhIgG4であり、具体的な配列は表13aに示す。
【0117】
【表16】
【0118】
上記分子の軽鎖のN末端は、さらに、配列番号30で示される、シグナルペプチドSP1の配列を含み、重鎖のN末端は、さらに、配列番号31で示される、シグナルペプチドSP2の配列を含み、発現の最終産物には、シグナルペプチドの配列が含まれないため(切断された)、表に示されていない。
【0119】
実施例15 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の安定性の評価
本発明によって設計される上記TIM-3及びPD-1の二重特異性抗体は実施例1の方法によってクローニング、発現・精製された。精製サンプルはPBS(pH7.4)に保存され、3μgのサンプルを取り、順に6μlの5×タンパク質仕込み緩衝液(生工生物工程(上海)股フン有限公司、Cat#C508320-0001)を入れ、非還元サンプルに6μlのDTTのない5×タンパク質仕込み緩衝液(生工生物工程(上海)股フン有限公司、Cat#C516030-0005)を入れ、水で30μlまで追加し、95℃以上の水浴で5min処理した。仕込み、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を140vで70min行い、クマシーブリリアントブルーで室温で染色した。結果は図2に示した。
【0120】
図2a、図2b(図におけるレーン1、2はPD-1抗体Nivoであり、抗体の軽鎖、重鎖の対照とした)の結果から、LB121、LB122、LB123、LB124及びLB126、LB127、LB128、LB129はPAGEでは60kD以下であり、そして正常の抗体の重鎖の大きさに近い箇所に1本のバンドがあったことから、これらの分子の重鎖に異なる程度の断裂があったことが示された。そして、LB121~LB124はLB126~LB129よりもずっと軽かった。中では、LB121の断裂は最も軽かった。それに、LB126~LB129は正常の軽鎖の大きさ(30KD)の近くにも1本のバンドがあったことから、これらの分子の軽鎖に異なる程度の断裂があったことが示された。
【0121】
電気泳動の結果をまとめて分析したところ、LB121~LB124はこのような分子構造及び特異的設計が発現の純度において最も優れたことが示された。上記二重特異性抗体はPBS(pH7.4緩衝系)及びHAC(酢酸緩衝系、pH3.5)、3μg/ml、4℃の条件において、初期の段階で7日観察し、安定性を評価したが、結果は下記表に示した。
【0122】
【表17】
【0123】
上記表において、あり、なし及び少量はそれぞれ沈殿あり、沈殿なし及び沈殿少量を表す。結果から、本発明の二重特異性抗体はHAC緩衝系ではすこし沈殿があったが、PBS(pH7.4)の緩衝系ではいずれも安定したことが分かる。
【0124】
実施例16 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の結合活性の評価
上記本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体に対し、実施例3及び実施例5の方法により、それぞれそのTIM-3及びPD-1との結合活性を検出したが、結果は表15及び図3に示す。
【0125】
【表18】
【0126】
上記結果から、本発明のTIM-3に対する二重特異性抗体、本発明によって設計されたTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体は、いずれもTIM-3抗体及びPD-1抗体の活性を維持していることが分かる。単独のTIM-3抗体又はPD-1抗体と比べ、二重特異性抗体の活性(EC50)がやや低下し、例えばLB121はTIM-3との結合がEC50=0.235nMであったのに対し、ab6はTIM-3との結合活性がEC50=0.095であり、そのPD-1に対する結合活性がEC50=0.153nMであったのに対し、NivoのEC50=0.057 nMであった。LB123はPD-1との結合活性がEC50=0.216nMであったのに対し、Ba081のEC50=0.127nMであった。そのため、本発明の二重特異性抗体は相応する単独の完全な抗体よりも相応する標的との結合活性がやや低下するが、1~3倍と比較的に低い範囲内である。
【0127】
実施例17 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計
上記結果から、特に上記二重特異性の設計プラン1及び2(表12及び表13)によって設計される二重特異性抗体に生じる重鎖の断裂(図2を参照する)に対し、本発明の最適化設計は下記表16に示す。
【0128】
【表19】
【0129】
上記分子の軽鎖のN末端は、さらに、配列番号30で示される、シグナルペプチドSP1の配列を含み、重鎖のN末端は、さらに、配列番号31で示される、シグナルペプチドSP2の配列を含み、発現の最終産物には、シグナルペプチドの配列が含まれないため(切断された)、表に示されていない。
【0130】
前記配列はいずれも発現の最終産物(二重特異性抗体)であり、その軽・重鎖のシグナルペプチド配列が切断された。上記設計が表す分子の軽・重鎖は以下の通りである:
LB133の軽鎖のアミノ酸配列:配列番号17;LB133の重鎖のアミノ酸配列:配列番号18;
LB134の軽鎖のアミノ酸配列:配列番号17;LB134の重鎖のアミノ酸配列:配列番号19;
LB135の軽鎖のアミノ酸配列:配列番号20;LB135の重鎖のアミノ酸配列:配列番号21;
LB136の軽鎖のアミノ酸配列:配列番号20;LB136の重鎖のアミノ酸配列:配列番号22;
LB141の軽鎖のアミノ酸配列:EIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASKGVSTSGYSYLH WYQQKPGQAPRLLIYLASYLESGVPARFSGSGSGTDFTLTISSLEPEDFAVYYCQHSRDLPLTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC(配列番号23)
LB141の重鎖のアミノ酸配列:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCHASQGISSNIGWLQQ KPGKAFKGLIYQGSNLEDGVPSRFSGSGSGADYTLTISSLQPEDFATYYCVQFAQFPPTFGQGTKLEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVKPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMAWVRQAPGKGLEWVANINYDGSNTYYLDSLKSRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCARGLYYYGGNYFAYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVQSGVEVKKPGASVKVSCKASGYTFTNYYMYWVRQAPGQGLEWMGGINPSNGGTNFNEKFKNRVTLTTDSSTTTAYMELKSLQFDDTAVYYCARRDYRFDMGFDYWGQGTTVTVSSASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号24)
LB143の軽鎖のアミノ酸配列:配列番号23;LB143の重鎖のアミノ酸配列:配列番号25。
【0131】
上記最適化設計のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体は実施例1の方法によってクローニング、発現・精製され、実施例15と同様の方法によって電気泳動(PAGE)で軽・重鎖の状況を分析し、図4に示した。結果から、最適化設計の分子LB132、LB133、LB134、LB136、LB141、LB143及びLB135は変性の条件において、いずれもLB121~LB124(図2)に現れた重鎖、及びLB126~LB129(図2)に現れた重鎖、軽鎖が断裂した断片が見られなかったことが分かる。この意外に発見された結果から、本発明の設計パターン及び配列の組み合わせは非常に優れた発現の特徴を有し、後続の生産、プロセスの開発に大きな優勢をもたらす。
【0132】
実施例18 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子の結合活性の評価
上記本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計に対し、実施例2及び実施例5の方法により、それぞれそのTIM-3及びPD-1との結合活性を検出し、結果は表17に示した。
【0133】
【表20】
【0134】
上記結果から、本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子は、単独の抗TIM-3抗体(ab6、ab32)に近い(差が1~2倍)結合活性、及び単独のPD-1抗体(Nivo、Pem、Ba08)に近い(差が1倍以内)結合活性を維持していることが分かる。
【0135】
実施例19 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子のヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性の評価
本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子は実施例3の方法によってそのヒトPBMCの腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性(TIM-3抗体活性)を評価し、結果は表18に示した。
【0136】
【表21】
【0137】
上記結果から、本発明の最適化設計の二重特異性抗体はab6、ab32の単独の抗体が有するPBMC(NK)の腫瘍細胞に対する殺傷を活性化させる活性を維持しているが分かる。
【0138】
実施例20 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子のPD-1タンパク質とPD-L1リガンドの結合を阻害する活性の評価
本発明の最適化設計の二重特異性抗体のPD-1抗体活性を評価するため、上記実施例6の方法によってそのPD-1とPD-1リガンド(PD-L1)の結合を阻害する活性を評価した。結果を下記表に示した。
【0139】
【表22】
【0140】
上記結果から、本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子は、単独のPD-1抗体(Nivo、Pem、Ba08)と同様のPD-1とそのリガンドPD-L1の結合を阻害する活性を維持していることが分かる。
【0141】
実施例21 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子の混合リンパ球反応(MLRアッセイ)における機能活性の評価
混合リンパ球反応(mixed lymphocyte reaction、MLRアッセイ)でINF-γ分泌を検出する方法によって、本発明の一連の二重特異性抗体のヒト血細胞を活性化させる活性を評価した。即ち、本発明の分離されたヒト血細胞PBMC(健常なボランティアによって献血された末梢血から分離されたもの)で誘導して樹状細胞(DC)を得た後、さらに別のボランティアからのT細胞を刺激した。
【0142】
具体的に、樹状細胞(Dentritic cell、DC)の培養は、実験の1日目に、10% FBS RPMI 1640培地で、PBMCを6ウェルプレートに2ml、2×10/mlで接種し、37℃、5% COインキュベーターで2~4時間培養した後、軽く懸濁細胞を吸い出し、付着細胞に2mlの培地及び100ng/ml GM-CSF(Peprotech,Cat#:300-03)及び100ng/ml IL-4(Peprotech,Cat#: 200-04)を入れ、続いて2日培養した後、各ウェルに1mlの新鮮な培地を追加した。5日目に、各ウェルに3μlの100μg/mlのTNF-αを追加し、最終濃度が100ng/mlになるようにし(TNF-αはPeprotechから購入,Cat#:AF-300-01A)、続いて2日培養し、得られた樹状細胞(DC)を以下の実験に使用した。
【0143】
DCによるPBMC/T細胞に対する刺激(MLR)アッセイ:10ng/mlの抗CD3抗体(Miltenyl Biotec,Cat#:130-093-387)で、100μl/ウェルで96ウェル細胞培養プレートをコーティングし、37℃で2時間インキュベートし、PBSで1回洗浄した。上記培養の7日目のDC細胞を収集し、遠心分離し、10%FBSのRPMI 1640培地に再懸濁させ、計数し、5×10細胞/mlになるように調製し、90μl/ウェルで上記抗CD3抗体でコーティングされた96ウェルプレートに入れた。異なるボランティアからのPBMC細胞を取って、計数し、5×10細胞/mlになるように調製し、90μl/ウェルで上記抗CD3抗体でコーティングされた96ウェルプレートに入れた。PBSで比率に従って陰性抗体、対照抗体、PD-1抗体を含む被験サンプル(公開された配列から、本発明によって実施例1に従ってクローニング、発現・精製されたもの)を調製し、上記96ウェルプレートに20μl/ウェルで入れた。被験抗体の200μl系における濃度が必要な濃度勾配になるようにした。対照群=90μl PBMC細胞+90μl DC+20μl PBS。細胞培養プレートを37℃、5% COインキュベーターで6日インキュベートした後、細胞培養プレートを取り出し、3000rpmで10min遠心分離し、各ウェルから150μlの上清を取り出してIFN-γの検出を行った。
【0144】
IFN-γのELISA検出方法は、キット(深セン欣博盛生物科技有限公司;cat: EHC102g)の説明書に従って操作したが、手順は以下の通りである。
(1)取り出された150μlの細胞培養上清を適切な希釈倍数(実験ごとに希釈倍数が異なり、予備実験で希釈倍数が決定され、本実施例における希釈倍数は25倍であった)で希釈した後、マイクロプレートに入れた(100μl/ウェル)。標準品はサンプル共通希釈液で異なる濃度の勾配:1000pg/ml、500pg/ml、250pg/ml、125pg/ml、62.5pg/ml、31.25pg/ml、15.625pg/mlにし、各ウェルに100μl入れた。ブランクウェルにサンプル共通希釈液を入れた。
【0145】
(2)シールで反応ウェルを封じ、37℃で90分間インキュベートした。
(3)プレートを5回洗浄し、毎回3分間で、各ウェルに100μlのビオチン抗体作業液を入れ、ブランクウェルにビオチン化抗体希釈液を入れ、新たなシールで反応ウェルを封じ、37℃で60分間インキュベートした。
【0146】
(4)プレートを5回洗浄し、毎回3分間で、各ウェルに100μlの酵素結合使用液を入れ、ブランクウェルに酵素結合希釈液を入れ、新たなシールで反応ウェルを封じ、37℃で光を避けて30分間インキュベートした。
【0147】
(5)プレートを5回洗浄し、毎回3分間で、各ウェルに100μlの呈色基質TMBを入れ、36℃で光を避けて15分間インキュベートした。
(6)停止液を100μl/ウェルで入れ、均一に混合した後、3分間内でマイクロプレートリーダーによってOD450を読み取った。
【0148】
結果分析:IFN-γ値を計算し、そしてブランク対照と比べ、増加百分率(%)に換算して本発明の二重特異性抗体のMLR検出における活性を評価した。結果は図5に示す。
【0149】
図5a、b、cの結果から、本発明のTIM-3及びPD-1に対する二重特異性抗体の最適化設計分子は、混合リンパ球反応試験において、いずれも活性を示したことが分かる。そして、その活性がTIM-3+PD-1の2つの抗体の併用に近かったか、又はそれ以上であった。即ち、本発明の好適に設計されるTIM-3とPD-1に対する二重特異性分子(1つの分子)は2つの分子の併用に相当するか、それ以上(相乗効果)のT細胞を活性化させる活性に達する。単剤の低コスト、投与の便宜といった明らかな優勢があることで、本発明の二重特異性抗体は体内において相当するか、それ以上の医薬効果が予想することができる。
【0150】
実施例22 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体のさらなる設計の最適化及びスクリーニング
本発明のTim-3抗体配列及びPD-1に対してさらに二重特異性抗体を設計したが、下記表に示す。
【0151】
【表23】
【0152】
前記実施例1、実施例2、実施例5で発現・精製して上記異なる二重特異性抗体のTim-3、PD-1との結合活性、及び各設計の発現量を検出したが、結果は下記表に示した。
【0153】
【表24】
【0154】
上記データから、本発明のTim-3抗体は、異なる設計で、ab6、ab32 scFvの位置、IgGのN末端、又はC末端を含み、scFvのコピー数が2個、4個、6個ひいては8個(例えばLB246)であり、2つの標的の結合活性に対する影響が異なることが分かる。意外なことに、LB141、LB1413、LB242、LB147などの好適な設計は同時にTim-3及びPD-1に対する結合活性を維持している。
【0155】
【表25】
【0156】
上記結果から、本発明のTim-3抗体配列及びPD-1抗体で設計された二重特異性抗体分子は、異なる配列、scFv位置、コピー数により、活性、発現量が大きく異なることが分かる。LB141、LB1413、LB242、LB147は活性が最も良く、LB133、LB141、LB1413、LB1412、LB147は発現量が最も良かった。本発明では、当該配列特異的で構造がIgGと類似(対称)する二重特異性抗体(sequence-based IgG like bispecific antibody)の設計は、SBodyと略される。代表的な分子の構造は図6を参照する。一部の設計(代表的なもの)の配列番号は以下の通りである。
【0157】
LB1413 軽鎖:配列番号32;LB1413重鎖:配列番号33;
LB147 軽鎖:配列番号34;LB147重鎖(LB1413重鎖と同じであり、配列番号33)。
【0158】
実施例23 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の最適化設計分子の動物体内における薬効の評価
ヒトhPD-1/hTIM3二重遺伝子組み換えBalb/c系マウスBalb/c-hPD-1/hTIM3(江蘇集萃薬康生物科技有限公司から購入、生産許可証番号:SCXK(蘇)2018-0008)で動物薬効モデルを構築し、本発明の二重特異性抗体LB141に対して体内における薬効の評価を行った。
【0159】
CT26細胞(中国科学院細胞生物学研究所から購入)を10%ウシ胎児血清(上海博昇生物科技有限公司,カタログ番号:BS-0002-500)を含有するPRIM1640培地(上海源培生物科技股フン有限公司,カタログ番号:L110KJ)において培養し、5% COを含有する37℃の細胞インキュベーターで培養し続けた。Balb/c-hPD-1/hTIM3雌マウスを、5匹/籠でSPF級の環境下で飼育し、温度20~25℃、湿度40%~60%で、自由に摂取、飲水をさせ、定期的に敷材を交換した。CT26細胞が対数期(コンフルエント80%~90%)まで増殖した時点で、0.25%トリプシンで消化し、細胞を収集し、そして無血清RPMI1640培地で2回洗浄し、最後に無血清のPRIM1640培地で再懸濁させ、細胞を計数し、細胞濃度が5×10細胞/mlになるように調整して接種に使用した。CT26細胞懸濁液(0.5×10個)100μlをマウスの右脇部の皮下に接種し、体積が約100~120 mmまで成長した腫瘍細胞を選んでランダムに6匹ずつ群分けした。
【0160】
被験サンプル及び陽性対照はPBSで無菌で調製した。ブランク群はPBSである。PD-1抗体(Pem、本発明の実施例1の方法によってクローニングして発現させた)は単独投与の対照群である。PD-1抗体+ab6抗体は併用投与の対照群である。LB141は被験薬物群である。投与形態は腹腔内注射であり、PD-1抗体の投与量は120μg/200μl/匹であり、PD-1抗体及びab6抗体併用投与群の投与量はPD-1抗体 120μg+ab6抗体(Tim3抗体)120μgで計200μl/匹マウスであり、LB141の投与量は160μg/200μl/匹であった(併用群のPD-1抗体、TIM3抗体と等モルである)。各群の投与頻度はいずれも2回/週であり、連続2週であった。
【0161】
各注射のサンプル投与の当日は0日目である。毎回の投与前に、体重と腫瘍体積を測定し、データを記録した。今回の実験の実際の投与周期は2週であり、測定周期は19日である。また、腫瘍の投与、測定が終了した後、続いてマウスの生存時間を記録し、50日目にすべての腫瘍担持マウスの死亡が観察され、分析して各群のマウス生存率(%)を計算した。
【0162】
腫瘍の大きさの計算式:腫瘍体積TV(mm)=0.5×(腫瘍長径×腫瘍短径);腫瘍相対体積(RTV)= T/T0又はC/C0。相対腫瘍増殖率(T/C%)=100%×(T-T0)/(C-C0);腫瘍抑制率(TGI)=(1-T/C)×100%;ここで、T0、Tはそれぞれサンプル群の実験開始時及び実験終了時の腫瘍体積であり、C0、Cはそれぞれ対照群の実験開始時及び実験終了時の腫瘍体積である。
【0163】
図7aの結果から、TIM-3抗体ab6と等量のPD-1抗体を併用する場合、薬効が単独のPD-1抗体と比べて、差異がなかったことが分かる(併用の場合、ab6の薬効の確認にはab6の投与量を増加する必要がある)。意外なことに、本発明のTIM3及びPD-1の二重特異性抗体LB141は等モルの投与量のTIM3抗体ab6とPD-1抗体の併用よりも優れた薬効を示した。特に、LB141は腫瘍担持マウスに生存率の優勢を示した(図7b)。図7bの結果から、LB141によって治療された腫瘍担持マウスの生存率(生存時間)がTIM3とPD-1抗体の併用よりも優れ、単独のPD-1抗体による治療よりも優れ、治療されなかった(PBSで処理された)マウスよりも優れたことが分かる。
【0164】
実施例24 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体のPKの評価
実施例23と同様のヒトTIM-3及びPD-1二重遺伝子組み換えマウスを使用し、同様の飼育条件において本発明の二重特異性抗体のPKの評価を行った。マウスを無作為にA、B群に3匹ずつ分けた。マウスの尾静脈にLB141を20mg/kg/匹/200μlで注射した。注射前0時間、注射後5分、15分、45分、2、6、23、30、47、53、97、122、143、166、196、214、232、238時間で目縁から採血した。採取された血液サンプルを遠心分離し、上清を取り、-20℃で保存し、測定に備えた。血液サンプルを全部収集した後、二重サンドイッチELISA及びPD-1のELISAによってそれぞれLB141のTIM3及びPD-1との結合を検出して(二重特異性抗体はTIM3とも、PD-1とも結合できる)、LB141のPKの特徴を評価した。EXCELソフトによってPKデータを分析し、LB141のT1/2を計算したが、結果は下記表に示した。
【0165】
【表26】
【0166】
上記結果から、本発明の二重特異性抗体LB141をマウス体内に注射した後、TIM3及びPD-1のELISAで得られたtmaxが一致し、T1/2はそれぞれ41.76時間及び45.53時間で、非常に近かった。LB141は体内で安定的であり、その中のTIM-3に結合する部分(scFv)が血液(体内)で脱離していないことが示された。表において、Cmaxの違いは定量方法に使用された二次抗体(1つはTim3に対応し、もう1つはPD-1に対するものである)の違いによるものである。
実施例25 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の製剤配合の安定性の評価
本発明の二重特異性抗体LB141をそれぞれ製剤緩衝液及びpH7.4のPBS(上海源培生物科技股フン有限公司,Cat#B320KJ)で15mg/mLになるように調製し、均等に分けた。-80℃で凍結保存し、37℃で7日、14日置いた後、各サンプルに対して結合活性の検出(ELISA、方法は前記実施例と同様)、及びゲル電気泳動(PAGE)分析を行った。結果を下記表に示した。
【0167】
使用された製剤緩衝液の配合は20mM L-ヒスチジン(上海生工生物工程有限公司,Cat#A604351-0050)、50mg/mL ショ糖(上海生工生物工程有限公司,Cat#A610498-0500)及び0.02% ツイン20(上海生工生物工程有限公司,Cat# A600560-0500)で、pH6.0である。
【0168】
【表27】
【0169】
上記結果から、本発明の二重特異性抗体LB141は高濃度(15mg/mL)で、37℃で7日保存しても安定で、PD-1及びTIM-3に対する結合活性が0日と比べ、大きく変化しなかったことが分かる。37℃で14日保存した後、PD-1及びTIM-3に対する結合活性がいずれも低下し、特にTIM3との結合活性は、製剤緩衝液で、47倍低下した。ゲル電気泳動(PAGE)の結果から、LB141は2つの溶解系で7日保存した後、PAGE分析では分解が見られなかったことが分かる。14日保存した後、PAGE分析ではいずれも分解が見られた。そして、製剤緩衝液で14日保存したサンプルはPBSで14日保存したサンプルよりも分解がひどかったことが分かった。
【0170】
これらの結果から、本発明の二重特異性抗体は高濃度の条件下で、37℃で7日安定して保存できることが示された。意外に、PBSでの保存は製剤緩衝液(20mM L-ヒスチジン、50mg/mL ショ糖、0.02% ツイン 20、pH6.0)よりも安定的であることが分かった。
【0171】
実施例26 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体の異なるpH値における製剤安定性の評価
本発明の二重特異性抗体LB141を製剤緩衝液で15mg/mLになるように調製し、pH=5.5又はpH=6であり、均等に分けた。-80℃で凍結保存したか、37℃で7日置いた後、各サンプルに対して結合活性の検出(ELISA、方法は前記実施例と同様)、及びゲル電気泳動(PAGE)分析を行った。結果を下記表に示した。
【0172】
使用された製剤緩衝液の配合は10mM L-ヒスチジン(上海生工生物工程有限公司,Cat#A604351-0050)、70mg/mL ショ糖(上海生工生物工程有限公司,Cat#A610498-0500)及び0.2% ポリソルベート80(Sigma-Aldrich,Cat#59924-100g-F)であり、pH5.5又はpH6.0である。
【0173】
【表28】
【0174】
上記結果から、意外に、本発明の二重特異性抗体LB141は高濃度(15mg/mL)下、pH5.5及びpH6.0の製剤緩衝液で、37℃で7日保存した後、活性がいずれも安定的であり、PD-1及びTIM-3に対する結合活性が0日と比べ、大きく変化しなかったことが分かる。ゲル電気泳動(PAGE)の結果から、LB141は2つのpHの製剤で7日保存した後、PAGE分析では分解が見られなかったことが分かる。
【0175】
これらの結果から、本発明の二重特異性抗体は高濃度の条件下で、pH5.5及びpH6.0の製剤緩衝液(10mM L-ヒスチジン、70mg/mL ショ糖、0.2% ポリソルベート80)で37℃で7日安定して保存できることが示された。
【0176】
実施例27 本発明のTIM-3及びPD-1の二重特異性抗体のpH5.5製剤における温度安定性の評価
本発明の二重特異性抗体LB141を製剤緩衝液で28.5mg/mLになるように調製し(pH=5.5の緩衝液)、均等に分けた。-80℃で凍結保存したか、37℃で5日及び10日置いたか、又は40℃で5日及び10日置いた後、各サンプルに対して結合活性の検出(ELISA、方法は前記実施例と同様)、及びゲル電気泳動(PAGE)分析を行った。結果を下記表に示した。
【0177】
使用された製剤緩衝液の配合は10mM L-ヒスチジン(上海生工生物工程有限公司,Cat#A604351-0050)、70mg/mL ショ糖(上海生工生物工程有限公司,Cat#A610498-0500)及び0.2% ポリソルベート80(Sigma-Aldrich,Cat#59924-100g-F)で、pH5.5である。
【0178】
【表29】
【0179】
上記結果から、非常に意外に、本発明の二重特異性抗体LB141は高濃度(28.5mg/mL)下、pH5.5の製剤緩衝液で、37℃で5日及び10日並びに40℃で5日及び10日保存した後、活性がいずれも安定的であり、PD-1及びTIM-3に対する結合活性が0日と比べ、活性が変化しなかったことが分かる。ゲル電気泳動(PAGE)の結果から、LB141はpH5.5の製剤において5日及び10日並びに40℃で5日及び10日保存した後、PAGE分析ではいずれも分解が見られなかったことが分かる。
【0180】
これらの結果から、本発明の二重特異性抗体は高濃度の条件下で、pH5.5の製剤緩衝液(10mM L-ヒスチジン、70mg/mL ショ糖、0.2% ポリソルベート80)で、37℃及び40℃下で10日安定的で保存できることが示された。
【0181】
実施例28 本発明の二重特異性抗体の親和力の評価
前記実施例4の方法によって本発明の二重特異性抗体の親和力を検出し、結果は下記表に示した。
【0182】
【表30】
【0183】
上記結果から、本発明の二重特異性抗体LB141のTim-3、PD-1との親和力がE-09、nMのレベルに維持し、単独のPem、Nivo、単独のTim3抗体の親和力に近かったことが示された(前記表7)。LB133はPD-1に対する親和力がE-08、10nMのレベルに達し、即ち、Pem、Nivoと比べて親和力が大きく低下した。4コピーのscFv ab6を持つLB247は2つの標的に対する結合活性を維持しているが、Tim-3の結合活性を強化していない。これらの結果から、本発明で設計された配列特異的な二重特異性抗体LB141は意外な活性の利点を示し、即ち、2つの標的に対する親和力を維持していることが分かる。
【0184】
実施例29 本発明の二重特異性抗体のサンドイッチELISA検出
pH7.4のPBS緩衝液でPD-1(実施例1で用意された)を1μg/mlの濃度に希釈し、50μl/ウェルの体積で96ウェルマイクロプレートに入れ、37℃インキュベーターで2時間置いた。液を捨てた後、PBSで希釈された5%脱脂牛乳(上海生工生物工程有限公司,A600669-0250)のブロッキング液を200μl/ウェルで入れ、4℃で一晩(16~18時間)置くことでブロッキングした。ブロッキング液を捨て、PBST緩衝液(pH7.4のPBSは0.05% ツイン-20を含有する)でプレートを5回洗浄した後、10μg/mlから、1% BSAで5倍連続希釈されたLB141を50μl/ウェルで入れ、37℃で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50μl/ウェルで1μg/mlのBio-TIM-3-his(ACROBiosystems,TM-H5229)を入れ、37℃で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50μl/ウェルで1:1000で希釈されたストレプトアビジン-HRP二次抗体(南京genscript社,M00091)を入れ、37℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB呈色基質(KPL,52-00-03)を入れ、室温で5~10minインキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを入れて反応を中止させ、MULTISKAN Goマイクロプレートリーダー(ThermoFisher,51119200)によって450nmにおいて吸収値を読み取り、OD値からEC50を計算した。
【0185】
pH7.4のPBS緩衝液でTIM-3-hFc(Acro biosystems,22-142)を5μg/mlに希釈し、50μl/ウェルの体積で96ウェルマイクロプレートに入れ、37℃で2時間インキュベートした。液を捨てた後、PBSで希釈された5%脱脂牛乳のブロッキング液を200μl/ウェルで入れ、4℃で一晩(16~18時間)置くことでブロッキングした。ブロッキング液を捨て、そしてPBST緩衝液(pH7.4のPBSが0.05% ツイン-20を含有する)でプレートを5回洗浄した後、10μg/mlから、1% BSAで5倍連続希釈されたLB141を50μl/ウェルで入れ、37℃で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50 μl/ウェルで10μg/mlのPD-1-his(実施例1で用意された)を入れ、37℃で1時間インキュベートし、PBSTでプレートを5回洗浄し、50μl/ウェルで1:2500で希釈された抗his-HRP二次抗体(南京genscript社,A00612)を入れ、37℃で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを5回洗浄した後、50μl/ウェルのTMB呈色基質(KPL,52-00-03)を入れ、室温で5~10minインキュベートし、50μl/ウェルの1M HSOを入れて反応を中止させ、MULTISKAN Goマイクロプレートリーダー(ThermoFisher,51119200)によって450nmにおいて吸収値を読み取り、OD値からEC50を計算した。結果を下記表に示した。
【0186】
【表31】
【0187】
上記結果から、本発明の二重特異性抗体LB141は同時にTim-3及びPD-1に結合することができることが分かる。その一方の標的との結合はそのもう一方の標的との結合を顕著に阻害していなかった。
【0188】
実施例30 本発明の二重特異性抗体の分子量分析(LC-MS)
LB141を製剤配合(実施例27を参照する)で19mg/mLになるように調製した(pH=5.5)。10μlのLB141を1.5ml遠心管に取り、無菌水で1μg/μLに希釈した。1μLのPNGaseF(Biolabs,P0704L)を入れ、均一に混合し、37℃で16h反応させた後、1μLの1M DTTを入れ、均一に混合した後、37℃で1hインキュベートした。Dionex Ultimate 3000 UHPLC/Thermo Scientific Q Exactive(thermo,MS-B20-03),(HPLC,Agilent,5188-2788)によって質量分析を行った。結果を下記表に示した。
【0189】
【表32】
【0190】
上記結果から、本発明の二重特異性抗体LB141の軽鎖は検出分子量が理論分子量と一致することが分かる。重鎖は検出分子量と理論分子量との差は2.95Daであり、装置の誤差範囲内にある(<50ppm)。本発明により設計、発現・精製された二重特異性抗体LB141は予想/設計の配列と一致することが示された。
【0191】
以上、本発明の具体的な実施形態を記述したが、当業者にとって、これらは例示の説明だけで、本発明の原理と実質に反しないという前提下において、これらの実施形態に対して様々な変更や修正をすることができる。そのため、本発明の保護範囲は添付の請求の範囲によって限定される。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図7a
図7b
【配列表】
0007352973000001.app