(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】分解装置、分解方法及び分解物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 15/08 20060101AFI20230922BHJP
H05B 6/62 20060101ALI20230922BHJP
C10G 9/24 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C10G15/08
H05B6/62
C10G9/24
(21)【出願番号】P 2022164407
(22)【出願日】2022-10-13
(62)【分割の表示】P 2022130581の分割
【原出願日】2022-08-18
【審査請求日】2022-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508067736
【氏名又は名称】マイクロ波化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 久夫
(72)【発明者】
【氏名】緒方 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】米澤 航太郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】塚原 保徳
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-067204(JP,A)
【文献】特表平07-506613(JP,A)
【文献】特表2020-507045(JP,A)
【文献】特公昭39-028629(JP,B1)
【文献】特公昭39-028628(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 9/00
C10G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波照射により飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解するための分解装置であって、
反応器と、
前記反応器の内部に存在するマイクロ波吸収体と、
前記反応器に前記原料を供給する供給口と、
前記原料が前記反応器内の前記マイクロ波吸収体が位置する吸収体領域を通過することによって生成された分解物を排出する排出口と
を備え、
前記吸収体領域は、前記原料の流路の流路方向の第1の位置から前記第1の位置より前記排出口に近い第2の位置までの間の前記反応器内の領域であり、マイクロ波によって加熱され、
前記第2の位置から前記排出口の間の内壁の少なくとも一部の温度を前記吸収体領域よりも低い温度に制御する制御機構をさらに備える。
【請求項2】
請求項1記載の分解装置であって、
マイクロ波を発生させるマイクロ波発生器と、
前記マイクロ波発生器によって発生されたマイクロ波を前記反応器内に導入する導波管と
をさらに備える。
【請求項3】
請求項1記載の分解装置であって、
前記吸収体領域は、前記マイクロ波吸収体が固定された固定床である。
【請求項4】
請求項1記載の分解装置であって、
前記吸収体領域は、流動床または移動床である。
【請求項5】
請求項1記載の分解装置であって、
前記供給口から前記第1の位置までの上流領域に配置された、前記原料を層流にする層流化手段をさらに備える。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれかに記載の分解装置であって、
前記マイクロ波吸収体は、粒状、円柱状、円筒状、球状、ペレット状、リング状、シェル状、及びハニカム状の少なくともいずれかである。
【請求項7】
マイクロ波照射により飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解するための分解方法であって、
内部にマイクロ波吸収体が存在する反応器に前記反応器の供給口から前記原料を供給する工程と、
前記反応器内のマイクロ波吸収体が位置する吸収体領域にマイクロ波を照射して加熱する工程と、
前記原料が前記吸収体領域を通過することによって生成された分解物を前記反応器の排出口から排出する工程と
を含み、
前記吸収体領域は、前記原料の流路の流路方向の第1の位置から前記第1の位置より前記排出口に近い第2の位置までの間の前記反応器内の領域であり、
前記反応器が有する制御機構により、前記第2の位置から前記排出口の間の内壁の少なくとも一部の温度を前記吸収体領域よりも低い温度に制御する工程をさらに含む。
【請求項8】
マイクロ波照射による飽和炭化水素類を主成分とする原料の分解物の製造方法であって、
反応器内のマイクロ波吸収体が位置する吸収体領域にマイクロ波を照射して加熱する工程と、
前記反応器の供給口から供給された前記原料に前記吸収体領域を通過させることによって前記分解物を製造する工程と、
前記原料が前記吸収体領域を通過することによって製造された前記分解物を前記反応器の排出口から排出する工程と
を含み、
前記吸収体領域は、前記原料の流路の流路方向の第1の位置から前記第1の位置より前記排出口に近い第2の位置までの間の前記反応器内の領域であり、
前記反応器が有する制御機構により、前記第2の位置から前記排出口の間の内壁の少なくとも一部の温度を前記吸収体領域よりも低い温度に制御する工程をさらに含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波の照射によって飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解する分解装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナフサの分解には、複数並べた細い反応管にナフサを流して、それらの反応管を外部からバーナー等によって加熱する多管式が採用されている。各反応管を細くすることで、中心まで熱が伝わりやすくなるよう熱伝導を改善している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、多管式では、各反応管の管壁が高温となり、その内壁に炭素が付着するコーキングが避けられない。コーキングが発生すると熱伝導が低下し、熱伝導低下による加熱効率の低下が生じる。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その課題は、コーキングに起因する加熱効率の低下を緩和することが可能な新たな方式のナフサの分解装置及び分解方法並びにナフサの分解物の製造方法を提供することにある。
【0005】
ここで、「ナフサ」とは、より一般に沸点範囲35~180℃の飽和炭化水素類を主成分とする原料であり、上記課題は、ナフサ以外のエタン、重質炭化水素類等を含め、飽和炭化水素類を主成分とする原料について同様に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様による分解装置は、マイクロ波照射により飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解するための分解装置であって、反応器と、反応器の内部に存在するマイクロ波吸収体と、反応器に原料を供給する供給口と、原料が反応器内のマイクロ波吸収体が位置する吸収体領域を通過することによって生成された分解物を排出する排出口とを備え、吸収体領域は、マイクロ波によって加熱される。
【0007】
また、本発明の一態様による分解装置では、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生器と、マイクロ波発生器によって発生されたマイクロ波を反応器内に導入する導波管とをさらに備えてもよい。
【0008】
また、本発明の一態様による分解装置では、吸収体領域は、マイクロ波吸収体が固定された固定床であってもよい。
【0009】
また、本発明の一態様による分解装置では、吸収体領域は、マイクロ波吸収体が流動可能な流動床であってもよい。
【0010】
また、本発明の一態様による分解装置では、吸収体領域は、マイクロ波吸収体が移動される移動床であってもよい。
【0011】
また、本発明の一態様による分解装置では、マイクロ波吸収体は、粒状、円柱状、円筒状、球状、ペレット状、リング状、シェル状、及びハニカム状の少なくともいずれかであってもよい。
【0012】
また、本発明の一態様による分解装置では、供給口は、原料の流路の一端に位置し、排出口は、流路の他端に位置してもよい。
【0013】
また、本発明の一態様による分解装置では、分解装置が設置された状態において、供給口は、排出口の下方に位置してもよい。
【0014】
また、本発明の一態様による分解装置では、吸収体領域は、原料の流路の流路方向の第1の位置から第1の位置より排出口に近い第2の位置までの間の反応器内の領域であってもよい。
【0015】
また、本発明の一態様による分解装置では、吸収体領域は、反応器の断面の全面に及ぶように配置されていてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様による分解装置では、第1の位置より供給口に近い位置に配置された、原料を通過可能な第1の金属板と、第2の位置より排出口に近い位置に配置された、分解物を通過可能な第2の金属板とをさらに備えてもよい。
【0017】
また、本発明の一態様による分解装置では、供給口から第1の位置までの上流領域に配置された、原料を層流にする層流化手段をさらに備えてもよい。
【0018】
また、本発明の一態様による分解装置では、反応器の第2の位置から排出口の間の内壁の少なくとも一部の温度を制御する制御機構をさらに備えてもよい。
【0019】
また、本発明の一態様による分解方法は、マイクロ波照射により飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解するための分解方法であって、内部にマイクロ波吸収体が存在する反応器に原料を供給する工程と、反応器内のマイクロ波吸収体が位置する吸収体領域にマイクロ波を照射して加熱する工程と、原料が吸収体領域を通過することによって生成された分解物を反応器から排出する工程とを含む。
【0020】
また、本発明の一態様による分解物の製造方法は、マイクロ波照射による飽和炭化水素類を主成分とする原料の分解物の製造方法であって、反応器内のマイクロ波吸収体が位置する吸収体領域にマイクロ波を照射して加熱する工程と、原料に吸収体領域を通過させることによって分解物を製造する工程とを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、飽和炭化水素類を主成分とする原料の分解において、マイクロ波を照射して、マイクロ波吸収体が位置する吸収体領域を加熱し、当該原料を、加熱した吸収体領域を通過させることによって、コーキングに起因する加熱効率の低下を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態による分解装置の構成を示す模式図
【
図2】同実施形態による分解装置を含む化学プロセスの一例を示す模式図
【
図3】同実施形態による流動床を有する分解装置の構成を示す模式図
【
図4】同実施形態による移動床を有する分解装置の構成を示す模式図
【
図5】同実施形態による分解装置の他の構成の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による分解装置、分解方法及び分解物の製造方法について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による分解装置は、マイクロ波照射によって飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解するためのものであり、主にナフサの例で説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態による分解装置1の内部構造を示す模式図であり、
図2は、分解装置1を含む化学プロセスの一例を示す模式図である。
図1の例において、分解装置1は、反応器11と、反応器11の内部に存在するマイクロ波吸収体12と、反応器11にナフサを含む原料を供給する供給口13と、反応器11内のマイクロ波吸収体12が位置する吸収体領域で生成された分解物を排出する排出口14とを備え、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生器15がマイクロ波発生器15によって発生されたマイクロ波を反応器11内に導入する導波管16を介して接続されている。分解装置1は、原料が通過可能な第1の金属板21と、分解物が通過可能な第2の金属板22とをさらに備え、また、原料を層流にする層流化手段25をさらに備えてもよい。
【0025】
本実施形態による分解装置1は、例えば、石油化学プラントにおいてナフサを分解してエチレン等を製造するプロセスで用いることができ、ナフサクラッカーと呼んでもよい。飽和炭化水素類を主成分とする原料が、例えば、所定の割合の希釈水蒸気と共に反応器11に供給されてもよい。
【0026】
反応器11は、内部を原料が流れる連続式の反応器である。反応器11内において、導波管16を介して導入されたマイクロ波によって加熱された吸収体領域を原料が通過することによって、ナフサが分解されて分解物が生成される。分解物に含まれる物質は特に限定されないが、一例として、分解物は、水素、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、及びブチレンなどのうち、少なくとも1つ以上を含んでいてもよく、その他の炭化水素などを含んでいてもよい。また、一例として、分解物は、エチレン、プロピレン及びブチレンを合計して50重量%以上含んでいてもよい。
【0027】
反応器11の内部空間にはマイクロ波が導入されるため、反応器11における原料の流路の形状、すなわち反応器11の内部空間の形状は、マイクロ波の一部の箇所への集中を低減できる形状、例えば、できるだけ角を有さない形状が好適である。その観点から、反応器11の内部空間は、例えば、円柱状の空間を含んでもよく、円錐台状の空間を含んでもよく、それらの組み合わせであってもよい。この場合に、反応器11の内部空間において、原料の流路の方向は、円柱状または円錐台状の軸方向であってもよい。反応器11の内部空間の少なくとも一部の形状が円柱状または円錐台状である場合に、内部空間の軸方向に直交する断面の直径は特に限定されないが、例えば、1~10メートルの範囲であってもよい。また、反応器11の内部空間の少なくとも一部の形状が円柱状または円錐台状である場合に、内部空間の軸方向の長さは、例えば、内部空間の直径の3~15倍程度であってもよく、10倍程度であってもよい。
【0028】
反応器11は、内部空間からマイクロ波が漏洩しないようにするため、マイクロ波を通過しない壁を有していることが好適である。したがって、反応器11の壁は、マイクロ波反射性の材料によって構成されてもよい。マイクロ波反射性の材料は、例えば、金属であってもよい。金属は、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金などであってもよい。
【0029】
反応器11の内部には、マイクロ波吸収体12が存在する。このマイクロ波吸収体12が位置する吸収体領域がマイクロ波によって所定の温度に加熱され、その吸収体領域を原料が通過することによって、原料が分解されることになる。供給口13から供給された原料に含まれる各成分は、少なくとも1回はマイクロ波吸収体12と接触することが好適である。そのため、マイクロ波吸収体12が位置する吸収体領域は、反応器11の内部空間の流路に垂直な断面をすべて覆うように、または当該断面の全面に及ぶように存在することが好適である。ここで、「吸収体領域」には、後述する固定床のように、そこにマイクロ波吸収体12が配置される領域である場合に加えて、後述する流動床及び移動床のように、マイクロ波吸収体12が流動または移動してそこに存在可能な領域である場合が含まれる。したがって、マイクロ波吸収体12が吸収体領域に位置するとは、固定床のように、吸収体領域においてマイクロ波吸収体12の位置が固定されていることであってもよく、流動床及び移動床のように、吸収体領域においてマイクロ波吸収体12の位置が固定されておらず、マイクロ波吸収体12が吸収体領域内を流動可能または移動可能になっていることであってもよい。
【0030】
マイクロ波吸収体12は、分解装置1の稼働時のマイクロ波の周波数及び温度において、マイクロ波吸収性を有するもの、すなわち誘電損失係数の高いものであってもよい。ここで、「誘電損失係数」とは、複素誘電率の虚数部位を意味する。分解装置1の稼働時のマイクロ波の周波数及び温度においてマイクロ波を照射した際に、温度が有意に上昇する物質が、マイクロ波吸収性を有する物質であると考えてもよい。マイクロ波吸収体12の材料は特に限定されないが、例えば、シリコンカーバイド、マグネタイト、フラーレンを除くカーボン類(例えば、グラファイト、カーボンナノチューブ、及び活性炭など)、鉄、ニッケル、コバルト、銅、フェライト、Si3N4、CoO、Co3O4、CuO、SiC、FeO、Fe3O4、WC、MnO2、及びTiO2のいずれか1以上であってもよい。
【0031】
マイクロ波吸収体12の形状は、例えば、粒状、円柱状、円筒状、球状、ペレット状、リング状、シェル状、及びハニカム状の少なくともいずれかであってもよい。この場合には、各マイクロ波吸収体12の隙間を原料及び分解物が流通してもよく、吸収体領域に位置するマイクロ波吸収体12の表面積を大きくできる形状であると好適である。また、吸収体領域は、例えば、マイクロ波吸収体12が固定された固定床であってもよく、マイクロ波吸収体12が流動可能な流動床であってもよく、マイクロ波吸収体12が移動される移動床であってもよい。
【0032】
吸収体領域が固定床である場合には、例えば、粒状などのマイクロ波吸収体12が、マイクロ波透過性であり、かつ、原料及び分解物が通過できる円筒形状の容器に挿入され、その円筒形状の容器が反応器11内に固定されてもよい。また、例えば、反応器11の内部空間において、原料及び分解物の流路の流路方向に垂直な断面を覆うように、または当該断面の全面に及ぶように配置された一対の板状部材の間に粒状などのマイクロ波吸収体12が充填されてもよい。この板状部材は、マイクロ波透過性であり、かつ、原料及び分解物は通過できるが粒状などのマイクロ波吸収体12は通過できない孔または細孔を有していてもよい。一例として、この板状部材は、マイクロ波透過性の材料によって構成されたパンチングボードであってもよく、多孔質のセラミック板などであってもよい。また、例えば、マイクロ波吸収性を有する材料によって構成された、原料及び分解物が通過できる多孔質の板状部材が、マイクロ波吸収体12であってもよい。この場合には、例えば、マイクロ波吸収体12は、反応器11の内部空間において、流路方向に垂直な断面を覆うように、または当該断面の全面に及ぶように配置されてもよい。
【0033】
マイクロ波吸収体12が位置する吸収体領域は、
図1で示されるように、原料の流路の流路方向であるx軸方向における第1の位置x
1から、第1の位置x
1より排出口14に近い第2の位置x
2までの間の領域であってもよい。吸収体領域が固定床である場合には、第1の位置x
1から第2の位置x
2までの長さ(x
2-x
1)は、例えば、10~100センチメートルの範囲であってもよく、30~70センチメートルの範囲であってもよく、40~60センチメートルの範囲であってもよい。
【0034】
供給口13から、反応器11の内部に原料が供給され、排出口14から、吸収体領域で生成された分解物が排出される。本実施の形態では、供給口13及び排出口14がそれぞれ反応器11の内部空間に連通している場合について主に説明する。一例として、
図1で示されるように、供給口13は、反応器11の内部における原料の流路の一端に位置し、排出口14は、その流路の他端に位置してもよい。すなわち、供給口13及び排出口14は、反応器11の流路方向の両端に設けられた開口部であってもよい。なお、供給口13及び排出口14は、それ以外の位置に設けられてもよい。一例として、供給口13は、流路の上流側の円周側面に位置し、排出口14は、流路の下流側の円周側面に位置してもよい。なお、
図1では、分解装置1が設置された状態において、原料等が下方側の供給口13から上方側の排出口14に向かって流れる場合について示しているが、そうでなくてもよい。分解装置1が固定床である場合、原料等は上方側の供給口13から下方側の排出口14に向かって流れてもよく、水平方向に流れてもよく、または、その他の任意の方向に流れてもよい。
【0035】
図2で示されるように、分解装置1の排出口14は、分解物を冷却するための冷却塔32に直接的または間接的に接続されてもよい。一例として、排出口14は、重質油を分離するためのガソリン塔31を介して、冷却塔32に間接的に接続されてもよい。または、排出口14は、冷却塔32に直接接続されてもよい。冷却塔32は、一例として、クエンチ塔であってもよい。冷却塔32では、ガソリン成分を分離すると共に、残りの成分を分離工程に供給してもよい。分離工程では、適宜、水素、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、及びブチレンなどの分離が行われてもよい。
【0036】
マイクロ波発生器15は、例えば、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロン、または半導体素子などを用いてマイクロ波を発生させてもよい。半導体素子を用いてマイクロ波を発生させるとは、一例として、半導体素子を用いてマイクロ波を発振させることであってもよく、半導体素子を用いてマイクロ波を増幅することであってもよい。マイクロ波の周波数の帯域は、例えば、433.92MHz、915MHz、2.45GHzの付近であってもよく、その他の300MHzから300GHzの範囲内の周波数帯域であってもよい。
【0037】
分解装置1が有するマイクロ波発生器15の個数は、
図1で示されるように2個であってもよく、3個以上であってもよく、または1個であってもよい。分解装置1が2個以上のマイクロ波発生器15を有する場合には、各マイクロ波発生器15は、例えば、異なる周波数のマイクロ波を発生させてもよく、同じ周波数のマイクロ波を発生させてもよい。
【0038】
導波管16によって、マイクロ波発生器15によって発生されたマイクロ波が、反応器11の内部に導入される。導波管16は、例えば、方形導波管であってもよく、円形導波管であってもよい。また、導波管16は、例えば、直線導波管であってもよく、導波路が直角または他の角度に折れ曲がっている導波管であってもよく、導波路が円弧状に湾曲している導波管であってもよい。また、導波管16は、例えば、中空導波管であってもよい。また、導波管16は、例えば、マイクロ波発生器15によって発生されたマイクロ波を、複数の導波管に分岐する分岐導波管であってもよい。導波管16の反応器11側の端部または他の箇所に、反応器11の内部からマイクロ波発生器15側への蒸気、粒子などの移動を阻止するマイクロ波透過性の窓が設けられてもよい。この窓は、例えば、マイクロ波透過性材料によって構成されてもよい。マイクロ波透過性材料は特に限定されないが、例えば、石英、ガラス、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、セラミックなどであってもよい。また、この窓は、例えば、気密窓であってもよく、または、気密ではない窓であってもよい。反応器11の内部において、マイクロ波は、マイクロ波吸収体12に対して、
図1で示されるように、流路の上流側から照射されてもよく、流路の下流側から照射されてもよく、または、流路の上流側及び下流側から同時に照射されてもよい。マイクロ波吸収体12に対するマイクロ波の照射は、通常、マルチモードで行われる。
【0039】
マイクロ波が照射されることによって、吸収体領域の温度は均一になってもよい。なお、吸収体領域の温度が均一であるとは、例えば、吸収体領域に含まれる任意の箇所における温度が所定の温度の範囲内に含まれることであってもよい。この所定の温度の範囲は、ナフサの分解に好適な温度の範囲であることが好適である。吸収体領域は、例えば、550~1200℃の範囲に加熱されてもよく、600~700℃の範囲に加熱されてもよい。吸収体領域の温度を均一にするため、例えば、吸収体領域内の1または複数の箇所の温度が測定され、それに応じてマイクロ波発生器15が制御されてもよい。この制御は、例えば、フィードバック制御であってもよい。この制御により、例えば、マイクロ波発生器15の出力パワーが制御されてもよく、位相が制御されてもよい。一例として、複数のマイクロ波発生器15の位相が制御されることによって、吸収体領域の温度が均一に維持されてもよい。吸収体領域の温度は、例えば、熱電対方式の温度計、または赤外線光ファイバー方式の温度計などを用いて測定されてもよい。また、例えば、吸収体領域に均一にマイクロ波が照射され、その結果として吸収体領域の温度が均一になるようにするため、反応器11の内部空間の形状、大きさ、その内部空間へのマイクロ波の導入位置、導入角度、その内部空間に導入されるマイクロ波の強度などがシミュレーションなどを用いて設計されてもよい。
【0040】
第1の金属板21は、第1の位置x1より供給口13に近い位置に配置されてもよい。また、第2の金属板22は、第2の位置x2より排出口14に近い位置に配置されてもよい。第1及び第2の金属板21、22はそれぞれ、反応器11の内部空間の流路に垂直な断面をすべて覆うように、または当該断面の全面に及ぶように配置されることが好適である。第1の金属板21及び第2の金属板22は、それぞれ原料及び分解物が通過可能な金属板である。したがって、第1及び第2の金属板21、22は、それぞれ原料及び分解物が通過可能な複数の孔を有していてもよい。第1及び第2の金属板21、22を構成する金属の例示は、上記のとおりである。一例として、第1及び第2の金属板21、22の少なくとも一方はパンチングメタルであってもよい。パンチングメタルは、例えば、マイクロ波を通過させないもの、すなわちマイクロ波を反射するものであってもよい。マイクロ波を通過させないとは、例えば、マイクロ波を大幅に減衰させるものであってもよい。第1及び第2の金属板21、22がマイクロ波を通過させないパンチングメタルであり、第1及び第2の金属板21、22の間でマイクロ波が照射される場合には、マイクロ波を、第1の金属板21から、第2の金属板22までの領域に閉じ込めることができ、マイクロ波をマイクロ波吸収体12に効率よく照射することができる。この場合には、マイクロ波が導波管16によって、反応器11の内部の第1の金属板21から第2の金属板22までの領域に導入されることが好適である。第1の金属板21及び第2の金属板22の一方のみでも、マイクロ波の分布を一定の領域に制限することができ、有益である。
【0041】
供給口13から供給された原料は、供給口13から第1の位置x1までの上流領域において層流にされることが好適である。原料が層流にされることによって、原料が吸収体領域を通過する時間が均一になる。したがって、吸収体領域が、温度が均一になるようにマイクロ波で加熱されている場合には、ナフサを均一な温度に加熱することができ、ナフサの理想的な分解を実現することができる。この場合には、マイクロ波吸収体12の流路方向における吸収体領域の長さ、すなわち吸収体領域の厚さは、均一であることが好適である。
【0042】
上流領域において原料を層流にするため、上流領域には、原料を層流にする層流化手段25が配置されてもよい。層流化手段25は、例えば、1枚または2枚以上の多孔板であってもよい。多孔板は、例えば、多孔質の板状の部材であってもよく、パンチングボードであってもよい。多孔板は、例えば、マイクロ波反射性の材料によって構成されてもよく、マイクロ波透過性の材料によって構成されてもよい。マイクロ波反射性の材料は、例えば、金属であってもよい。金属の例示は、上記のとおりである。多孔板を構成するマイクロ波透過性の材料は、例えば、石英、ガラス、セラミックスなどであってもよい。なお、第1の金属板21が、層流化手段25が有する少なくとも1枚のパンチングボードを兼ねていてもよい。
【0043】
また、
図1では、上流領域に層流化手段25が配置されている場合について示しているが、上流領域に層流化手段25が配置されていなくてもよい。すなわち、分解装置1は、層流化手段25を備えていなくてもよい。この場合には、例えば、上流領域の流路方向の長さを長くすることによって、上流領域において原料が層流になるようにしてもよい。層流化手段25が配置されていない上流領域の流路方向の長さは特に限定されないが、例えば、3メートル以上であってもよく、5メートル以上であってもよく、8メートル以上であってもよい。
【0044】
次に、本発明の一実施形態による分解装置1の動作について、
図1を参照して説明する。まず、供給口13から反応器11内にナフサを含む原料が矢印で示されるように供給される。この原料の供給は、通常、連続的に行われる。すなわち、単位時間当たりに所定の量の原料が反応器11に供給されることになる。
【0045】
また、反応器11内の吸収体領域にマイクロ波を照射して加熱する。この加熱によって吸収体領域が均一な温度に加熱されることが好適である。そのため、適宜、フィードバック制御が行われてもよい。供給口13から供給された原料は、層流化手段25によって層流にされ、矢印で示されるように、加熱された吸収体領域を通過する。吸収体領域は、マイクロ波で加熱されているため、原料に含まれるナフサは加熱されて分解され、より炭素長の短い炭化水素を含む分解物が製造される。
【0046】
吸収体領域で生成された分解物は、矢印で示されるように排出口14から排出される。この分解物の排出も、通常、連続的に行われる。すなわち、単位時間当たりに所定の量の分解物が反応器11から排出されることになる。排出された分解物は、上記したように、ガソリン塔31に供給されてもよく、または冷却塔32に供給されてもよい。このようにして、ナフサを含む原料を分解した分解物を製造することができる。なお、反応器11内における原料の流速、吸収体領域の流路方向の長さ、吸収体領域の温度などによって、原料の加熱後の温度が決まることになる。したがって、原料が所望の温度に加熱されるように、それらが設定されることが好適である。
【0047】
以上のように、本発明の一実施形態によれば、飽和炭化水素類を主成分とする原料の分解において、マイクロ波を照射してマイクロ波吸収体12の位置する吸収体領域を加熱し、当該原料を、加熱した吸収体領域を通過させることによって、コーキングによって炭素がマイクロ波吸収体12に析出しても、炭素のマイクロ波吸収能は低くなく当該原料を加熱可能であり、コーキングに起因する加熱効率の低下を緩和することができる。
【0048】
また、本発明の一実施形態によれば、マイクロ波によって加熱された吸収体領域を通過して生成された分解物は、その後加熱されていない雰囲気温度に急冷されていくため、従来のような反応器11の内壁に対するコーキングの発生を抑えることができる。内壁にコーキングが発生するとマイクロ波の制御の難易度が上がることから、かかるコーキングは抑制することが好ましい。内壁の温度、特に吸収体領域から排出口14の間の内壁の少なくとも一部の温度を吸収体領域よりも低温の温度に制御する制御機構を設ければ、急冷の程度を調節可能である。
【0049】
また、本発明の一実施形態によれば、マイクロ波を通過させない第1及び第2の金属板21、22によって、マイクロ波の照射領域を両者の間に限定することができ、吸収体領域への効率的なマイクロ波の照射を実現することができる。
【0050】
なお、本発明の一実施形態による分解装置1では、上記したように、吸収体領域は固定床であってもよく、流動床であってもよい。以下、
図3、
図4を参照して、吸収体領域が流動床である場合、さらに移動床である場合についてそれぞれ説明する。
【0051】
図3、
図4で示される分解装置1では、原料が下側の供給口13から供給され、分解物が上側の排出口14から排出される。また、
図3、
図4で示される反応器11の内部空間は、円柱状及び円錐台状を組み合わせた形状となっている。
図3、
図4において、第1及び第2の金属板21、22の間に、複数のマイクロ波吸収体12が位置している。この場合には、例えば、第1の位置は第1の金属板21の位置であり、第2の位置は第2の金属板22の位置であると考えてもよい。また、第1及び第2の金属板21、22の孔の大きさは、マイクロ波吸収体12が、第1及び第2の金属板21、22の間から出ないようにするため、マイクロ波吸収体12より小さくなっていてもよい。マイクロ波吸収体12の形状は、上記したように、例えば、粒状、円柱状、円筒状、球状、ペレット状、リング状、シェル状、及びハニカム状の少なくともいずれかであってもよく、その他の形状であってもよい。なお、流動中や移動中に欠けたり、壊れたりすることを低減するため、マイクロ波吸収体12の形状は、粒状、球状などであることが好適である。
図3、
図4で示されるように、流動床及び移動床では、分解装置1が設置された状態において、供給口13は、排出口14の下方に位置してもよい。すなわち、下方側の供給口13から上方側の排出口14に向かって原料が流れてもよい。
【0052】
図3で示される分解装置1は、流動床であるため、供給口13から供給された原料によってマイクロ波吸収体12が流動されることになる。なお、原料は、マイクロ波吸収体12を流動させることができる勢いで供給口13から供給されることが好適である。反応器11内における原料の流速に応じて、マイクロ波吸収体12の流動状態は、例えば、均一流動床となってもよく、気泡流動床となってもよく、乱流流動床となってもよい。原料のより均一な加熱を実現する観点からは、流動床は、均一流動床または気泡流動床であることが好適である。
【0053】
図4で示される分解装置1は、流路の下流側に位置する投入口41から複数のマイクロ波吸収体12が投入され、その投入されたマイクロ波吸収体12が自重によって下方側すなわち上流側に移動し、第1の金属板21上に堆積して排出口42から排出される。なお、排出されたマイクロ波吸収体12は、再度、投入口41から投入されてもよい。この場合には、単位時間あたりに投入されるマイクロ波吸収体12の量と、単位時間あたりに排出されるマイクロ波吸収体12の量が等しくなることが好適である。マイクロ波吸収体12を循環させる場合には、例えば、排出口42から排出されたマイクロ波吸収体12に付着したコークを加熱などによって除去してもよい。そして、コークの除去されたマイクロ波吸収体12を投入口41から投入してもよい。また、マイクロ波が反応器11の内部から漏洩しないように、投入口41及び排出口42の大きさ等が決められてもよい。
図4の例では、マイクロ波吸収体12が流路の下流側から投入されているものの、上流側から投入することも考えられ、また、必ずしも流路に沿った方向ではなく、例えば、流路に直交する方向から投入することも考えられる。
【0054】
流動床及び移動床では、各マイクロ波吸収体12が流動したり、移動したりするため、仮にコーキングが発生したとしても、そのコーキングによって吸収体領域が目詰まりする事態を回避することができる。また、マイクロ波吸収体12の均等な流動または移動を実現することによって、原料の均一な加熱を実現することもできる。
【0055】
また、本発明の一実施形態では、
図1~
図3で示されるように、流路方向の1箇所にのみ吸収体領域が存在する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、
図5で示されるように、流路方向の2箇所以上に吸収体領域が存在してもよい。この場合には、例えば、吸収体領域ごとに、マイクロ波発生器15及び導波管16が設けられていてもよい。
【0056】
また、本発明の一実施形態では、上流側または下流側から吸収体領域にマイクロ波が照射される場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、マイクロ波透過性の反応管の内部にマイクロ波吸収体12の吸収体領域が設けられている場合には、反応管の円周側面を介して吸収体領域にマイクロ波が照射されてもよい。この場合には、例えば、反応器11の内部に、1つまたは複数のマイクロ波透過性の反応管が配置されており、供給口13から供給された原料は、第1の端部から各反応管に流入され、各反応管の吸収体領域で分解された分解物は、各反応管の第1の端部と反対側の第2の端部から流出して排出口14から排出されてもよい。
【0057】
また、本発明の一実施形態で説明した第1の金属板21及び第2の金属板22は、飽和炭化水素類を主成分とする原料の分解に限らず、それ以外の原料をマイクロ波によって加熱された吸収体領域を通過させることによって反応させる気固反応(gas solid reaction)全般に適用可能である。
【0058】
また、本発明の一実施形態では、分解装置1がマイクロ波発生器15及び導波管16を備えていない場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。分解装置1は、マイクロ波発生器15及び導波管16を備えていてもよい。
【0059】
また、以上の実施形態は、本発明を具体的に実施するための例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲及び均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 分解装置
11 反応器
12 マイクロ波吸収体
13 供給口
14 排出口
15 マイクロ波発生器
16 導波管
21 第1の金属板
22 第2の金属板
25 層流化手段
【要約】
【課題】 コーキングに起因する加熱効率の低下を緩和することが可能な新たな方式の飽和炭化水素類を主成分とする原料の分解装置を提供する。
【解決手段】 マイクロ波照射により飽和炭化水素類を主成分とする原料を分解するための分解装置1は、反応器11と、反応器11の内部に存在するマイクロ波吸収体12と、反応器11に原料を供給する供給口13と、原料が反応器11内のマイクロ波吸収体12が位置する吸収体領域を通過することによって生成された分解物を排出する排出口14とを備え、吸収体領域は、マイクロ波によって加熱される。
【選択図】
図1