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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】隔壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
E04B1/00 502N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020023367
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127625
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】相原 知子
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 慶介
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-193549(JP,A)
【文献】実開平04-113688(JP,U)
【文献】登録実用新案第3127746(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0159317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/36
E04B 2/72 - 2/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合住宅のベランダを仕切る隔壁の構造であって、
当該ベランダの床面上に設けられた枠部材と、
当該枠部材の内側に所定間隔を空けて取り付けられた一対の板材と、を備え、
前記一対の板材同士の間には、空気層が形成され、
当該枠部材は、鉛直方向に延びる一対の縦枠と、当該一対の縦枠の上端部同士を連結する上枠と、前記一対の板材の下端部同士の隙間を塞ぐ塞ぎ材と、を備え、
当該塞ぎ材は、前記板材よりも破壊強度が低いことを特徴とする隔壁構造。
【請求項2】
前記塞ぎ材は、前記枠部材の縦枠の下端部同士を連結する下枠であることを特徴とする請求項1に記載の隔壁構造。
【請求項3】
集合住宅のベランダを仕切る隔壁の構造であって、
当該ベランダの床面上に配置された一対の隔て板と、
当該隔て板同士を上下端側で連結する連結部材と、を備え、
前記隔て板は、鉛直方向に延びる一対の縦枠および当該一対の縦枠の上端部同士を連結する上枠を備える枠部材と、当該枠部材の内側に取り付けられた板材と、を備え、
前記一対の隔て板の板材同士の間には、空気層が形成され、
前記下端側の連結部材は、前記板材よりも破壊強度が低いことを特徴とする隔壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅のベランダを仕切る隔壁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、集合住宅のベランダに隔壁を設けて、隣り合う住戸を仕切ることが行われる。この隔壁は、隣接する住戸同士の境界を明確にし、住民の視線を遮ってプライバシーを確保するとともに、火災時には、避難者が蹴破って破壊して、通り抜けることが可能となっている。
この目的を達成するため、隔壁は、例えば、ベランダの床に設けられた支持枠と、この支持枠に支持されて足で破壊可能なフレキシブルボードなどの板材と、を備えている。
ところで、近年、集合住宅の高層化が進められており、高層階のベランダでは、隔壁にかなりの強風が吹き付ける場合がある。このような場合、風圧で隔壁の板材が破壊されるおそれがあった。
この問題を解決するため、特許文献1、2には、矩形状の枠材と、枠材の上部に嵌め込まれる板材と、枠材の下部に開閉可能に設けられた扉体と、を備える隔て板が提案されている。
【0003】
この特許文献1、2の隔て板によれば、板材を複数に分割して、板材一枚当たりの周縁部の長さつまり支持枠に支持される長さを長くできるため、耐風性能を向上させることができる。しかしながら、このように板材を複数に分割すると、避難者が通り抜ける開口が狭くなり、使い勝手が低下する場合がある。また、隔て板に扉体を設けることで、枠材の構造が複雑になり、製造コストが上昇するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-174308号公報
【文献】特開2012-107458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低コストで耐風性能を容易に向上できる隔壁構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、集合住宅のベランダを仕切る隔壁の構造として、間隔を空けて一対の板材を配置することで、各板材の表面および裏面の両面ではなく一方の面にのみ外圧が加わるようにして、隔壁の耐風性能を向上できる点に着目して、本発明に至った。また、本発明の隔壁構造では、板材の下端部同士の隙間に、板材よりも破壊強度が低い塞ぎ材を設置することで、各板材および塞ぎ材を避難者が比較的容易に破壊して、容易に避難することができる。
第1の発明の隔壁構造(例えば、後述の隔壁構造1)は、集合住宅のベランダを仕切る隔壁の構造であって、当該ベランダの床面(例えば、後述の床面2)上に設けられた枠部材(例えば、後述の枠部材10)と、当該枠部材の内側に所定間隔を空けて取り付けられた一対の板材(例えば、後述の板材20)と、を備え、当該枠部材は、鉛直方向に延びる一対の縦枠(例えば、後述の縦枠11)と、当該一対の縦枠の上端部同士を連結する上枠(例えば、後述の上枠12)と、前記一対の板材の下端部同士の隙間を塞ぐ塞ぎ材(例えば、後述の下枠14、塞ぎ材40)と、を備え、当該塞ぎ材は、前記板材よりも破壊強度が低いことを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、板材を二重に配置することで、各板材の一方の面にのみ外圧が作用するから、隔壁の耐風性能を向上できる。このとき、板材として汎用品を用いることができるので、低コストである。
また、塞ぎ材で板材の下端部同士の隙間を塞いだので、板材間の隙間(空気層)に風が吹き込むのを防止して、耐風性能をさらに向上できる。
また、塞ぎ材の破壊強度を板材よりも低くしたので、避難時に、避難者が板材を割ると、塞ぎ材も一緒に壊れるから、避難者は平らな床面上を通行可能となり、車いす利用者でも容易に避難できる(バリアフリー)。
【0008】
第2の発明の隔壁構造は、前記塞ぎ材は、前記枠部材の縦枠の下端部同士を連結する下枠であることを特徴とする。
この発明によれば、塞ぎ材を下枠として縦枠の下端部同士を連結したので、枠部材の構造的な安定性を向上できる。
【0009】
第3の発明の隔壁構造(例えば、後述の隔壁構造1A)は、集合住宅のベランダを仕切る隔壁の構造であって、当該ベランダの床面(例えば、後述の床面2)上に配置された一対の隔て板(例えば、後述の隔て板3)と、当該隔て板同士を上下端側で連結する連結部材(例えば、後述の連結部材30A、30B)と、を備え、前記隔て板は、鉛直方向に延びる一対の縦枠(例えば、後述の縦枠11)および当該一対の縦枠の上端部同士を連結する上枠(例えば、後述の上枠12)を備える枠部材(例えば、後述の枠部材10)と、当該枠部材の内側に取り付けられた板材(例えば、後述の板材20)と、を備え、前記下側の連結部材(例えば、後述の連結部材30B)は、前記板材よりも破壊強度が低いことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、板材を二重に配置することで、各板材の一方の面にのみ外圧が作用するから、隔壁の耐風性能を向上できる。このとき、板材として汎用品を用いることができるので、低コストである。
また、下側の連結部材の破壊強度を板材よりも低くしたので、避難時に、避難者が板材を割ると、下側の連結部材も一緒に壊れるから、避難者は平らな床面上を通行可能となり、車いす利用者でも容易に避難できる(バリアフリー)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで耐風性能を容易に向上できる隔壁構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る隔壁構造の正面図である。
図2図1の隔壁構造の斜視図である。
図3図1の隔壁構造のA-A断面図である。
図4図1の隔壁構造のB-B断面図である。
図5】隔壁構造の枠部材の製作方法を説明するための図である。
図6】隔壁構造に作用する風力を説明するための図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る隔壁構造の正面図である。
図8図7の隔壁構造の斜視図である。
図9図7の隔壁構造のC-C断面図およびD-D断面図である。
図10図7の隔壁構造のE-E断面図である。
図11】本発明の変形例に係る隔壁構造の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、所定間隔を空けて一対の板材を配置し、かつ、板材の下端部同士の隙間に、板材よりも破壊強度が低い塞ぎ材を設置した隔壁構造である。具体的には、第1実施形態では、2枚の板材を矩形枠状の枠部材に取り付けている。第2実施形態では、1枚の板材を三方枠である枠部材に取り付けて隔て板とし、この隔て板を2枚重ねて連結している。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る隔壁構造1の正面図である。図2は、隔壁構造1の斜視図である。図3は、図1の隔壁構造1のA-A断面図である。図4は、図1の隔壁構造1のB-B断面図である。
隔壁構造1は、集合住宅のベランダを仕切るものである。この隔壁構造1は、ベランダの床面2上に設けられた矩形枠状の枠部材10と、枠部材10の内側に所定間隔を空けて取り付けられた一対の板材20と、を備える。
【0014】
板材20は、例えば、厚さ5mmのケイ酸カルシウム板や、厚さ4mm、5mm、6mmの繊維強化セメント板(フレキシブル板)である。一対の板材20同士の隙間は、例えば、10mm~20mmである。
枠部材10は、鉛直方向に延びる一対の縦枠11と、一対の縦枠11の上端部同士を連結する上枠12と、一対の縦枠11の中間高さの部分同士を連結する中桟13と、一対の縦枠11の下端部同士を連結する塞ぎ材としての下枠14と、を備える。これら縦枠11、上枠12、中桟13、および下枠14には、板材20が嵌合される溝部が形成されている。
下枠14は、一対の板材20の下端同士の隙間を塞いでおり、板材20よりも破壊強度が低くなっている。この下枠14は、例えば、スタイロフォーム(登録商標)などの押出し発泡ポリスチレンからなる。
【0015】
枠部材10は、工場にて製作して完成させてもよいし、図5に示すように、工場にて、上側部材50Aと下側部材50Bとに分割して製作し、現場に搬入した後、これら上側部材50Aと下側部材50Bとを連結して一体化させてもよい。例えば、図5(a)に示すように、上側部材50Aを縦枠11の上側部分および上枠12で構成して三方枠とし、下側部材50Bを縦枠11の下側部分、中桟13および下枠14で構成して四方枠としてもよい。あるいは、図5(b)に示すように、上側部材50Aを縦枠11の上側部分、上枠12および中桟13で構成して四方枠とし、下側部材50Bを縦枠11の下側部分および下枠14で構成して三方枠としてもよい。
【0016】
以下、本発明の作用効果について、以下の論文1を用いて説明する。論文1は、外装壁面のフィンに作用するピーク風力係数の特性-フィン位置による影響-(菊池浩利、田村幸雄、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)、pp.141-142、2013年8月)である。この論文1は、外壁面にフィンが設けられた建物の模型を製作し、この模型について風洞実験を行ったものである。本発明の隔壁構造は、位置や形状が建物のフィンに近く、このフィンと同様の挙動を示すものと考えられる。
論文1の風洞実験では、建物外壁面の出隅部(位置a)および建物の出隅部よりも少し内側(位置c)にフィンを設け(論文1の図1 b)参照)、各フィンについて、測定点をNo.1~No.8の8箇所設ける(論文1の図1 c)参照)。そして、各フィンの先端側の測定点No.4およびNo.5について外圧係数の風向変化を求めるとともに、これら外圧係数の差分である風力係数の風向変化を求めた(論文1の図3および図4参照)。
【0017】
従来の隔壁構造では、図6(a)に示すように、板材が単体で配置されている。この場合、板材の左面に外圧Pが作用し、板材の右面に外圧Qが作用すると、板材全体に作用する風力Rは、外圧Xと外圧Yとの差分となる。よって、この板材に作用する風力Rは、論文1の測定点No.4およびNo.5の測定値の差分(風力係数)として考えられる。
【0018】
これに対し、本発明の隔壁構造では、図6(b)に示すように、板材が二重に配置されており、板材同士間に空気層Aが形成されている。この場合、左側の板材の左面に外圧Pが作用し、右側の板材の右面に外圧Qが作用しても、空気層Aがあるため、左側の板材に作用する風力Sは外圧Pとなり、右側の板材に作用する風力Tは外圧Qとなる。すなわち、各板材には、一方の面にしか外圧が作用せず、各板材に作用する風力S、Tは、論文1の測定点No.4およびNo.5の測定値(外圧係数)として考えられる。
【0019】
位置aのフィンでは、外圧係数のピーク値の絶対値は、約4.3であり、風力係数のピーク値の絶対値は、約5.5である。よって、建物外壁面の出隅部(位置a)では、板材を二重に配置することにより、板材を単体で配置した場合と比べて、風力係数を22%程度低減できると考えられる。
また、位置bのフィンでは、外圧係数のピーク値の絶対値は、約3.4であり、風力係数のピーク値の絶対値は、約4.3である。よって、建物外壁面の出隅部よりも内側(位置b)では、板材を二重に配置することにより、板材を単体で配置した場合と比べて、風力係数を21%程度低減できると考えられる。
また、各フィンの外圧係数のピーク値は負となっており、これは面を引っ張る向きに風力が作用することを意味している。よって、本願発明の隔壁構造のように板材を二重に配置した場合、図6(b)に示すように、板材には面を引っ張る向きに大きな風力が作用するが、この場合、板材間の空気層Aがある程度密閉されていれば、この空気層Aが負圧となって、この面を引っ張る風力に抵抗し、風力係数をさらに低減できると考えられる。
【0020】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)板材20を二重に配置することで、各板材20の一方の面にのみ外圧が作用するから、板材の両面に外圧を受ける場合に比べて、板材20の強度に余裕があり、隔壁構造1の耐風性能を向上できる。このとき、板材20として汎用品を用いることができるので、低コストである。
また、下枠14で板材20の下端部同士の隙間を塞いだので、板材20間の隙間(空気層)に風が吹き込むのを防止して、耐風性能をさらに向上できる。
また、下枠14の破壊強度を板材よりも低くしたので、避難時に、避難者が板材20を割ると、下枠14も一緒に壊れるから、避難者は平らな床面上を通行可能となり、車いす利用者でも容易に避難できる(バリアフリー)。
(2)下枠14で縦枠11の下端部同士を連結したので、枠部材10の構造的な安定性を向上できる。
【0021】
〔第2実施形態〕
図7は、本発明の第2実施形態に係る隔壁構造1Aの斜視図である。図8は、隔壁構造1Aの斜視図である。図9は、図7の隔壁構造1AのC-C断面図およびD-D断面図である。図10は、図7の隔壁構造1AのE-E断面図である。
隔壁構造1Aは、建物のベランダの床面2上に配置された一対の隔て板3と、隔て板3同士を上下端側で連結する連結部材30A、30Bと、を備える。
各隔て板3は、三方枠である枠部材10Aと、枠部材10Aの内側に取り付けられた板材20と、を備える。
枠部材10Aは、鉛直方向に延びる一対の縦枠11と、一対の縦枠11の上端部同士を連結する上枠12と、一対の縦枠11の中間高さの部分同士を連結する中桟13と、を備える。これら縦枠11、上枠12、および中桟13には、板材20が嵌合される溝部が形成されている。
上側の連結部材30Aは、隔て板3の上枠12同士を連結している。
下側の連結部材30Bは、一対の板材20の下端同士を連結しており、板材20よりも破壊強度が低くなっている。この連結部材30Bは、例えば、スタイロフォーム(登録商標)などの押出し発泡ポリスチレンからなる。
【0022】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(3)板材20を二重に配置することで、各板材20の一方の面にのみ外圧が作用するから、隔壁構造1Aの耐風性能を向上できる。このとき、板材20として汎用品を用いることができるので、低コストである。
また、下側の連結部材30Bの破壊強度を板材20よりも低くしたので、避難時に、避難者が板材20を割ると、下側の連結部材30Bも一緒に壊れるから、避難者は平らな床面上を通行可能となり、車いす利用者でも容易に避難できる(バリアフリー)。
【0023】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の第1実施形態では、下枠14を設けたが、これに限らない。すなわち、図11に示すように、下枠14の代わりに、一対の板材20の下端同士の隙間を塞ぐ塞ぎ材40を設けてもよい。
また、上述の第2実施形態では、1枚の板材20を三方枠である枠部材10Aに取り付けて隔て板3とし、この隔て板3を2枚重ねて連結することで隔壁構造1Aを構成したが、これら隔て板3は2枚とも新設してもよいし、既存の隔て板3に新たな隔て板3を取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1、1A…隔壁構造 2…ベランダの床面 3…隔て板
10、10A…枠部材 11…縦枠 12…上枠 13…中桟 14…下枠(塞ぎ材)
20…板材 30A、30B…連結部材 40…塞ぎ材
50A…上側部材 50B…下側部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11