(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/06 20060101AFI20230922BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230922BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20230922BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K3/34
C08K5/5415
C08K5/5419
(21)【出願番号】P 2018152583
(22)【出願日】2018-08-14
【審査請求日】2021-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田代 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 和久
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-157910(JP,A)
【文献】国際公開第2017/132237(WO,A1)
【文献】特開平09-302280(JP,A)
【文献】特開昭59-071362(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102181261(CN,A)
【文献】特開2020-026492(JP,A)
【文献】特開平03-275348(JP,A)
【文献】特開昭60-231781(JP,A)
【文献】特開昭59-012964(JP,A)
【文献】特開平10-017773(JP,A)
【文献】特開昭53-074560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C09D183/00-183/16
C09J183/00-183/16
C09K 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に平均2つ以上の
、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンから選ばれる1種以上からなるポリオルガノシロキサンの100質量部、
(B)白雲母粉末の1~100質量部、
(C)一般式:R
1
aSi(OR
2)
4-a
(式中、R
1は1価炭化水素基、R
2はアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基、aは0、1、又は2である。)
で表されるアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物の0.5~15質量部、及び
(D)チタンキレート触媒の0.1~10質量部
を含有し、
前記(C)アルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物は、
(C2)メチルトリエトキシシランと、
(C3)メチルシリケートまたは(C4)エチルシリケートと、
からなることを特徴とする室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
(E)接着性付与剤の0.01~5質量部
をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(B)白雲母粉末の扁平面の最大径の平均値として測定される平均粒径が1~100μmである請求項1又は2に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
(B)白雲母粉末を6~50質量部、含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリオルガノシロキサンは、
(A1)両末端にそれぞれ3つのアルコキシ基を有する両末端トリアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサン、および、
(A2)両末端にそれぞれ2つのアルコキシ基を有する両末端ジアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサン
からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物。
【請求項7】
JIS K 6249に準拠して測定される伸びが80%以上である請求項6に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
未硬化状態で流動性を示し、硬化によってゴム状弾性体(シリコーンゴム)を形成する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物としては、硬化機構により、縮合反応型と、付加反応型とに分類される。前者は室温で硬化し、硬化に長時間を要するが、良好な接着性を示すという特徴がある。後者は、加熱により短時間に硬化することが可能で、空気中の水分の供給が十分でない部位においても硬化性が優れるという特徴がある。
【0003】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性に優れた材料として知られており、種々の産業分野において、O-リング、パッキン、ガスケット等の部品に使用されている。このようなシリコーンゴムを生成する付加反応型の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物として、例えば、シリコーンゴムに耐溶剤性を付与する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、縮合反応型の(室温)硬化性ポリオルガノシロキサン組成物においても、充填剤や光安定剤等の添加剤の配合により流動性、ノンサグ性、押し出し性、接着性や接着耐久性などを改善した硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が提案されている(例えば、特許文献2、3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-138038号公報
【文献】特開2001-152020号公報
【文献】特開2002-302606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は高硬度のものは特に、接着性や伸び特性が劣るという問題があった。これは、機械的強度を付与する充填剤、とりわけ、比重の高い充填剤を高充填した室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物では、その硬化物と接着対象である基材の接着界面で、界面剥離、薄膜破壊を生じやすく、凝集破壊しにくくなるのが理由の一つである。
【0007】
さらに、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物では、金属部材やポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレートなどのプラスチック(エンジニアリングプラスチックス)に対して接着性が乏しい場合もあった。
【0008】
本発明は上記した課題を解決することを目的としてなされたものであって、各種基材への接着性に優れ、また、硬化物に優れた伸び特性を与える室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)一分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンの100質量部、
(B)マイカ粉末の1~100質量部、
(C)一般式:R1
aSi(OR2)4-a
(式中、R1は1価炭化水素基、R2はアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基、aは0、1、又は2である。)
で表されるアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の0.5~15質量部、及び
(D)チタンキレート触媒の0.1~10質量部
を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物によれば、各種基材への接着性に優れ、また、硬化物に優れた伸び特性を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)一分子中に2つ以上のアルコキシ基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンの100質量部、
(B)マイカ粉末の1~100質量部、
(C)一般式:R1
aSi(OR2)4-a
(式中、R1は1価炭化水素基、R2はアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基、aは0、1、又は2である。)
で表されるアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物の0.5~15質量部、及び
(D)チタンキレート触媒の0.1~10質量部
を含有することを特徴とする。
以下、本発明の実施形態に係る室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が含有する各成分について説明する。
【0012】
(A)ポリオルガノシロキサンは、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物のベースポリマーである。(A)ポリオルガノシロキサンは、一分子中に2つ以上(好ましくは平均2つ以上)のアルコキシ基を有する。
【0013】
(A)ポリオルガノシロキサンにおいて、アルコキシ基は、加水分解性を有することで、(C)成分が含有するアルコキシ基と加水分解縮合し得る基である。(A)ポリオルガノシロキサンが加水分解性基としてアルコキシ基を有することで、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が適用される部材への悪影響を少なくすることができる。(A)ポリオルガノシロキサンにおいて、アルコキシ基が有するアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のような低級アルキル基であるより一般的なアルコキシ基が例示される。
【0014】
(A)成分において、ケイ素原子に結合したアルコキシ基以外の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基等が例示される。また、ハロゲン化炭化水素基としては、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が、シアノアルキル基としては、2-シアノエチル基、3-シアノプロピル基等が挙げられる。合成が容易であり、かつ(A)成分が分子量の割に低い粘度を有し、組成物の作業性と、硬化物の良好な機械的性質を両立し易い点から、アルコキシ基以外の有機基全体の85%以上がメチル基であることが好ましく、実質的にすべてのアルコキシ基以外の有機基がメチル基であることがより好ましい。ケイ素原子に結合したアルコキシ基以外の複数の有機基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0015】
特に、硬化物に、耐熱性、耐放射線性、耐寒性又は透明性を付与する場合には、ケイ素原子に結合したアルコキシ基以外の有機基の一部として必要量のフェニル基を、耐油性、耐溶剤性を付与する場合には、アルコキシ基以外の有機基の一部として3,3,3-トリフルオロプロピル基や3-シアノプロピル基を、また塗装適性を有する表面を付与する場合には、アルコキシ基以外の有機基の一部として長鎖アルキル基やアラルキル基を、それぞれメチル基と併用するなど、有機基の構造は目的に応じて任意に選択することができる。
【0016】
(A)成分は、分子鎖を形成するケイ素原子とケイ素原子の結合、又はケイ素原子と酸素原子の結合の間に、オキシ基又は2価の炭化水素基を有していてもよい。2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等のアルキレン基;フェニレン基等が例示される。合成が容易なことから、Xはオキシ基又はエチレン基が好ましく、オキシ基が特に好ましい。
【0017】
(A)成分の25℃における粘度は、好ましくは0.02~1000Pa・s、より好ましくは0.1~500Pa・sである。(A)成分の重合度は、25℃における粘度が上記した範囲になる数であり、具体的には、好ましくは20~2500であり、より好ましくは80~2000である。(A)成分の粘度は高いほうが、表面硬化性が良好になる傾向である。ただし、(A)成分の粘度は低すぎると硬化後のゴム弾性が乏しくなり、高すぎると作業性が低下する。
【0018】
(A)ポリオルガノシロキサンが有するアルコキシ基の数は一分子あたり2つ以上であり、4つ以上であることが好ましい。(A)ポリオルガノシロキサンは、分子鎖の両末端に少なくとも1つずつ、アルコキシ基を有することが好ましい。とくに、(A)ポリオルガノシロキサンは、両末端にそれぞれ3つのアルコキシ基を有する両末端トリアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサンであるか、両末端にそれぞれ2つのアルコキシ基を有する両末端ジアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサンであるか、あるいは両者の混合物であることが好ましい。両末端トリアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサンを用いることで、硬化物の基材への接着性を向上させ、また、硬化物の引張り強さ、伸びなどの伸び特性を向上させることができる。また、両末端トリアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサンと両末端ジアルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサンを併用することで、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の押し出し性や硬化速度を調節することができる。
【0019】
(A)成分は、シラノール基末端ポリオルガノシロキサンと、該ポリオルガノシロキサンのシラノール基に対して過剰モルのテトラアルコキシシランとを触媒の存在下又は不存在下で縮合させることにより得られる。この触媒としては、公知のアミン、カルボン酸、亜鉛、錫、鉄等の金属カルボン酸塩等が用いられる。触媒の不存在下で縮合反応を行う場合は、反応混合物をテトラアルコキシシランの還流温度に加熱することが好ましい。縮合反応におけるテトラアルコキシシラン/SiOHのモル比は、5~15程度が好ましい。
【0020】
(A)成分は、ビニル基末端ポリオルガノシロキサンに、トリアルコキシシランを付加させたり、水素基末端ポリオルガノシロキサンに、ビニルトリアルコキシシランを付加させたりすることでも得られる。
【0021】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、ベースポリマーは、本発明の効果を損なわない限り、(A)成分以外の成分を含んでいてもよいが、(A)成分のみからなることが好ましい。本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物にベースポリマーとして含まれ得る(A)成分以外の成分としては、例えば、分子内に分岐を有する末端アルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサンや、分子鎖にアルコキシ基を有する末端アルコキシシリル基封鎖ポリオルガノシロキサン等である。
【0022】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、(B)成分のマイカ粉末は、無機充填剤として作用し、硬化物に優れた伸び特性と接着性を付与する。(B)マイカ粉末は一般に、扁平状ないし鱗片状である。(B)マイカ粉末は扁平状ないし鱗片状であるために、本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物中に分散させることで、組成物中に微細な層状の空隙が構成されると考えられる。これにより、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が硬化する際に生じる副生物が、層状空隙を介して組成物外部に放出され易くなり、硬化物中の微泡の発生を抑制し、硬化物に優れた伸び特性を付与しつつ、各種基材への優れた接着性を実現することができる。そのため、例えば、比重の大きい炭酸カルシウムや石英の粉末に比べて、少ない量で十分な強度と、優れた伸び特性及び各種基材への優れた接着性を実現することができる。
【0023】
硬化物の優れた伸び特性と接着性を両立させ、また、押出性や貯蔵安定性を向上させ得る点で、(B)マイカ粉末の平均粒径は1~100μmであることが好ましく、平均粒径は1~60μmであることがより好ましい。また、(B)マイカ粉末の、アスペクト比は10~250であることが好ましく、20~150がより好ましい。
【0024】
(B)マイカ粉末の平均粒径は、扁平面の最大径の平均値として、アスペクト比は、扁平面の最大径と最大厚みの比(扁平面の最大径/最大厚み)の値としてそれぞれ算出することができる。平均粒径の値は、電子顕微鏡による画像解析によって測定された値、粒度分布からの質量換算による50%径から求められた平均粒径、レーザー回折・散乱法で測定された個数基準の平均粒径、ふるい分け粒度分布測定による値のいずれであってもよい。また、マイカ粒子の扁平面の最大径は、例えば、レーザー回折・散乱法等により測定した扁平面の最大径の平均値、あるいは、無作為抽出した10個ないし100個のマイカ粒子の電子顕微鏡によって画像解析した扁平面の最大径の平均値を使用することができ、同様に、マイカ粒子の最大厚みも上記無作為抽出した10個ないし100個のマイカ粒子の、画像解析した最大厚みの個数平均値を使用することができ、これらによってマイカ粒子のアスペクト比を判断することができる。
【0025】
なお、(B)マイカ粉末として市販品を用いる場合、その平均粒径及びアスペクト比は、販売元が公称した値であってもよい。
【0026】
(B)成分であるマイカ粉末としては、白雲母、金雲母、黒雲母のような天然マイカのほか、合成マイカを使用することができる。不純物が少なく、硬化物たるゴム状弾性体に優れた伸び特性を与えることから、白雲母が好ましい。
【0027】
(B)成分であるマイカ粉末の配合量は、硬化物の優れた伸び特性と接着性を両立させるために(A)成分100質量部に対して1~100質量部であり、6~50質量部であることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記(B)マイカ粉末以外に、通常室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に配合されるその他の無機充填剤を含んでいてもよい。その他の無機充填剤としては、沈澱シリカなどの湿式シリカ、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)や焼成シリカ等の乾式シリカ、煙霧質シリカ、石英微粉末、炭酸カルシウム、カーボンブラック、けいそう土、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、アルミノケイ酸等である。
【0029】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、(C)成分であるアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物は、(C)一般式(C):R1
aSi(OR2)4-a(式中、R1は1価炭化水素基、R2はアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基、aは0、1、又は2である。)で表されるアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物(以下「アルコキシシラン等」という。)である。
【0030】
上記式(C)中、R1は1価炭化水素基であり、前記したR4と同様の基が挙げられる。R2はアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である。また、aは0、1又は2である。
【0031】
アルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリ(エトキシメトキシ)シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等が例示される。
【0032】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(C)アルコキシシラン等として、上記一般式で表されるアルコキシシラン又はその加水分解縮合物のいずれか一方を含んでいてもよく、両者を含んでいてもよい。硬化物の基板への接着性を向上させる点からは、アルコキシシランとその加水分解縮合物の両者を含むことが好ましい。
【0033】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物が、(C)アルコキシシラン等として、上記一般式で表されるアルコキシシランと、アルコキシシランの加水分解縮合物の両者を含む場合、これらの有するアルキル基は互いに異なるほうが好ましい、すなわち上記一般式(C)におけるR1とR2の組み合わせの異なるアルコキシシラン及びアルコキシシランの加水分解縮合物を用いるのが基材への接着性向上の点から好ましい。また、アルコキシシランと、アルコキシシランの加水分解縮合物の両者の比率は、硬化物の基板への接着性を向上させる点からアルコキシシラン/アルコキシシランの加水分解縮合物で表される質量比で1/2~2/1であることが好ましい。
【0034】
また、上記一般式(C)で表されるアルコキシシラン等を2種以上含む場合、上記一般式(C)において、aの値が異なる2種を併用することが好ましく、この場合には、aの値が小さいほど、R1及びR2の炭素数は小さいことが好ましい。例えば、aの値が0である4官能のアルコキシシラン等及びaの値が1である3官能のアルコキシシラン等を用いる場合、3官能のアルコキシシラン等が有するR1及びR2のうち少なくとも1つは、その炭素数が4官能のアルコキシシラン等が有するR1及びR2の炭素数よりも小さいことが好ましく、官能のアルコキシシラン等が有するR1及びR2の両方の炭素数が4官能のアルコキシシラン等が有するR1及びR2の炭素数よりも小さいことが好ましい。
【0035】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、(C)アルコキシシラン等の含有量は、(A)成分の100質量部に対して、0.1~15質量部であり、0.5~10質量部であることが好ましい。
【0036】
本発明の実施形態において、(D)成分であるチタンキレート触媒としては、テトラ(イソプロポキシ)チタン、テトラブトキシチタン、テトラ(イソプロポキシ)チタンの部分加水分解物、テトラブトキシチタンの部分加水分解物などのアルコキシチタン類、テトラブトキシジルコニウム及びその部分加水分解物であるアルコキシジルコニウム類、(ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシビス(メチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトン)チタン、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジメトキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等の公知のチタンキレート化合物類、(ジブトキシシビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジブトキシビス(メチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジブトキシビス(アセチルアセト)ジルコニウム、ブトキシトリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリブトキシ(エチルアセトアセテート)ジルコニウムが挙げられる。中でも、チタンキレート化合物類がその硬化触媒能力から好ましい。
【0037】
(D)チタンキレート触媒の配合量は、(A)ポリオルガノシロキサンの100質量部に対して0.1~10質量部であり、1~5質量部であることが好ましい。
【0038】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、さらに、接着性及び接着耐久性をより高めるために、(E)接着性付与剤を含有することが好ましい。
【0039】
(E)接着性付与剤として、下記式(3)に示されるイソシアヌル酸1,3,5-トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]のようなイソシアヌレート化合物を使用することができる。
【0040】
【0041】
(E)接着性付与剤として使用されるイソシアヌレート化合物としては、上記イソシアヌル酸1,3,5-トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]の窒素原子に結合した(トリメトキシシリル)プロピル基の1つ又は2つが、2-プロペニル基や(ジメトキシシリルメチル)プロピル基に変換された化合物を用いてもよい。
【0042】
また、(E)接着性付与剤としては、一般式:R7
4-qSiYqで表されるシラン化合物を使用してもよい。式中、R7は互いに同一でも異なっていてもよい置換又は非置換の1価の炭化水素基を表し、Yは加水分解性基を表す。またqは、平均2を超え4以下の数である。R7としては、置換のアミノ基、エポキシ基、イソシアナト基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基又はハロゲン原子で置換されたアルキル基やフェニル基が例示される。置換アルキル基としては、置換メチル基、3-置換プロピル基、4-置換ブチル基が例示されるが、合成が容易なことから、3-置換プロピル基が好ましい。
【0043】
(E)接着性付与剤として使用可能な前記一般式を有するシラン化合物としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、3-アミノプロピルトリアセトアミドシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランのような置換又は非置換のアミノ基含有シラン;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシトリメトキシシラン、3-グリシドキシメチルジメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシランのようなエポキシ基含有シラン;3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシランのようなイソシアナト基含有シラン;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランのような(メタ)アクリロキシ基含有シラン;3-メルカプトプロピルトリメトキシシランのようなメルカプト基含有シラン;及び3-クロロプロピルトリメトキシシランのようなハロゲン原子含有シランが例示される。中でも、前記した(D)チタンキレート触媒への影響が少ないエポキシ基含有シラン、イソシアナト基含有シランがより好ましい。また、アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランの混合物あるいは反応物などの使用が好ましい。
【0044】
室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物中での相溶性の観点から、(E)成分を配合する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましい。(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01以上であることで十分な接着性向上効果が得られ、またその発現も早い。また、5質量部以下であることで、保存中の分離や硬化物の収縮が生じるのを抑えることができ、保存安定性及び作業性の低下、また黄変現象の発生を抑えられる。(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~2質量部の範囲がより好ましい。
【0045】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、必要に応じて、チクソトロピー性付与剤、粘度調整剤、流動性調整剤、顔料、難燃剤、有機溶媒、防かび剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、耐熱向上剤など、各種の機能性添加剤を含んでいてもよい。
【0046】
本実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)~(D)の各成分、任意成分である(E)成分及び前記したその他の任意成分の所定量を乾燥雰囲気で均一に混合することにより、一液型の室温硬化性組成物として得られる。この組成物は、空気中に暴露すると湿分によって架橋反応が進行し、ゴム弾性体に硬化する。また、二液型の室温硬化性組成物として調製することもできる。二液型の組成物においては、主剤(例えば、(A)成分と(B)成分)と硬化剤(例えば(C)成分と(D)成分)を空気中で混合することにより、一液型の室温硬化性組成物と同様に硬化する。
【0047】
そして、実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、また、組成物を上記のように硬化させて得られた硬化物は、伸び及び引張り強度に優れ、また、各種基板への接着性に優れている。例えば、JIS K 6249に準拠して測定される伸びが80%以上の硬化物が得られる。
【0048】
そのため、実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、コーティング、ポッティング、部品の固定等へ供される接着剤のほか、O-リング、パッキン、ガスケット等の自動車部品等の各種機械部品などの用途に好適である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、粘度は25℃における値である。なお、「実施例18」及び「実施例20」の二例を除く、残り全ての「実施例」は、「参考例」である。
【0050】
以下の実施例及び比較例において使用した各成分は次のものである。
A1:両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度:10,400mPa・s、平均重合度:800)
A2:両末端がメチルジメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン(粘度:11,000mPa・s、平均重合度:800)
【0051】
B1:マイカ粉末(平均粒径:5μm、アスペクト比:65の白雲母粉)
B2:マイカ粉末(平均粒径:22μm、アスペクト比:70の白雲母粉)
B3:マイカ粉末(平均粒径:50μm、アスペクト比:80の白雲母粉)
B4:マイカ粉末(平均粒径:2μm、鱗片状の白雲母粉)
【0052】
b1:石英粉(平均粒径:4.2μm)
b2:炭酸カルシウム(平均粒径(個数基準の粒度分布50%):2.2μm:比表面積:4.5m2/g)
【0053】
C1:メチルトリメトキシシラン
C2:メチルトリエトキシシラン
C3:メチルシリケート
C4:エチルシリケート
【0054】
D:ビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシチタン
E1:イソシアヌル酸1,3,5-トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]
E2:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0055】
(実施例1)
(A1)両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサンからなるポリオルガノシロキサン100質量部に、(B1)マイカ粉末(平均粒径:5μm、アスペクト比:65の白雲母粉)25質量部、(C1)メチルトリメトキシシラン2質量部、(D)ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン3質量部、を混合して、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0056】
(実施例2~11、比較例1~12)
(A)~(D)成分の種類及び配合量を表1のように変更して、実施例2~11のポリオルガノシロキサン組成物を得た。また、(A)~(D)成分の種類及び配合量を表2のように変更して、必要に応じて(E)成分を表2のように配合して、比較例1~12のポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0057】
次に、上記実施例及び比較例で得られたポリオルガノシロキサン組成物について、硬化物の硬さ、引張り強さ、伸び、接着力及びタックフリータイムを、以下の方法で測定し、評価した。さらに、ポリオルガノシロキサン組成物の液分離性及び比重を以下の方法で測定し、評価した。これらの測定・評価結果を、表1、2の下欄に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
[硬さ、引張り強さ及び伸び]
ポリオルガノシロキサン組成物をディスペンスして、2mmのシート状に成形した後、23℃、50%RHの雰囲気で7日間放置して硬化させ、ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物を得た。得られた硬化物の硬さ(初期硬さ)を、タイプA硬度計で測定した。また、引張り強さをJIS K 6249に準拠して測定した。さらに、伸びをJIS K 6249に準拠して測定した。
【0061】
[接着力]
組成物を、表面処理を行っていないアルミニウム基材の表面(Bare Al)に、長さ10mm、幅25mmで、厚さ1mmになるように塗布し、上記同様のアルミニウム基板をその上に重ね合わせて、23℃、50%RHの雰囲気に7日間放置して硬化させて試験片を得た。そして、得られた試験片について、島津製作所製オートグラフにより引張速度10mm/minで引張試験を行い、せん断接着力(MPa)と凝集破壊率(%)を測定した。
上記同様に、アルミダイキャスト(Al-DC)及びポリフェニレンサルファイド(PPS)を基材として接着力の評価を行った。
【0062】
[タックフリータイム]
ポリオルガノシロキサン組成物を、有機溶剤で表面を洗浄した直径5cmのアルミニウム製シャーレの表面に塗布し、23℃、相対湿度50%(RH)の環境下、指で表面に接触して乾燥状態にあることを確認するに至る時間を測定した。
【0063】
[比重]
ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物の比重を、JIS K 6220に規定される置換法に基づき、水温23±2℃の条件で、水との質量の比によって測定した。
【0064】
[液分離性]
ポリオルガノシロキサン組成物を5日間、常温常圧で放置した。1日後又は5日後の組成物の状態を観察して、充填剤((B)マイカ粉末、石英粉又は炭酸カルシウム)の分離の有無を確認した。実施例の組成物は5日後も均一に混合されているのに対し、比較例の組成物では、5日後には充填剤(石英粉又は炭酸カルシウム)の一部が分離して、灰色がかって影状に観察された。
【0065】
(実施例12)
(E)接着性付与剤を添加した場合のポリオルガノシロキサン組成物の物性を調べた。
(A1)両末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサンからなるポリオルガノシロキサン100質量部に、(B2)マイカ粉末(平均粒径:22μm、アスペクト比:70の白雲母粉)5質量部、(C1)メチルトリメトキシシラン2質量部、(D)ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン3質量部、及び(E1)トリ(3-(トリメトキシシリル)プロピル)イソシアヌレート2質量部を混合して、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0066】
(実施例13~23)
(A)~(E)成分の種類及び配合量を表3のように変更して、実施例13~23のポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0067】
次に、上記で得られたポリオルガノシロキサン組成物について、硬化物の硬さ、引張り強さ、伸び、接着力及びタックフリータイムを、上記と同様の方法で測定し、評価した。さらに、ポリオルガノシロキサン組成物の比重を上記と同様の方法で測定し、評価した。これらの測定・評価結果を、表3の下欄に示す。
【0068】
【0069】
以上のことから、実施例のポリオルガノシロキサン組成物によれば、少ない充填剤量で、優れた伸び特性と硬度を得られ、また各種基材への接着性も良好であることが分かる。これに対し、比較例のポリオルガノシロキサン組成物では、充填剤が分離したり、所定の硬度を得るためには高充填が必要で、その結果、優れた伸び特性や接着性が実現し難いことが分かる。