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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】曲げ位相安定性に優れる同軸ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20230922BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B7/18 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019000963
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020113363
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
(72)【発明者】
【氏名】今村 博人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 哲
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-031046(JP,A)
【文献】特開2002-352637(JP,A)
【文献】特開2006-351414(JP,A)
【文献】特開2007-265797(JP,A)
【文献】特開2008-060062(JP,A)
【文献】特開2008-171690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、該中心導体の外周に設けられる絶縁体と、該絶縁体の外周に縦添えされる第1金属樹脂テープからなる第1外部導体と、該第1外部導体の外周に横巻きして設けられる金属細線からなる第2外部導体と、該第2外部導体の外周に横巻きして設けられる第2金属樹脂テープからなる第3外部導体と、該第3外部導体の外周に横巻きして設けられる融着層付き樹脂テープが融着層の側を前第3外部導体の側にして該第3外部導体に接着固定してなる外被体と、を備え、
前記第1外部導体は、0.1~3mmの範囲内の幅で一部重なるように前記絶縁体に縦添えされており、
前記融着層付き樹脂テープは、前記融着層で接着固定された前記樹脂テープが1/5~1/2のラップで重ね巻きされた上で、その下に位置する前記第2金属樹脂テープを前記融着層を介して接着固定して、前記第1~第3外部導体を横巻して覆って一体的な構造形態とする、ことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記第2外部導体は、10~20mmの範囲内のピッチで横巻きされている、請求項1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記第3外部導体は、1.5~5mmの横巻ピッチで1/5~1/2のラップで横巻きされている、請求項1又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記外被体は、1.5~5mmの横巻ピッチで横巻きされている、請求項1~3のいずれか1項に記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
長さ700mの前記同軸ケーブルを曲率半径50mmの円を形成するように曲げて、26.5GHzの周波数でネットワーク解析して得られた曲げ位相が、8(deg)以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルに関し、さらに詳しくは、曲げたり戻したりした場合でも特性が低下しにくい曲げ位相安定性に優れる同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
同軸ケーブルは、ノイズ等に対して優れたシールド特性を有することから、高周波信号の伝送に利用されている。そうした同軸ケーブルには、ケーブルに外力が作用した場合に、絶縁体が変形し、インピーダンスが変動して反射減衰が生じ、伝送効率が低下するという問題があった。また、同軸ケーブルを曲げたり戻したりした場合、絶縁体と外部導体層とが互いに軸方向に位置ずれを起こし、位相変動が生じてノイズが発生するという問題があった。
【0003】
こうした問題に対し、特許文献1では、ケーブル曲げ加工を施した後にケーブル曲げ戻し加工を施してもケーブル曲げ加工前の位相に戻すことが可能な同軸ケーブルが提案されている。この同軸ケーブルは、第2の外部導体層が編組角度50度以上の編組構造となっており、第1の外部導体層は第2の外部導体層により小ピッチで押え付けられることになり、ケーブル曲げ加工を施したときに第1の外部導体層に皺および浮きは発生せず、第1の外部導体層と誘電体層との間に空気層は生じないというものである。その結果、その後にケーブル曲げ戻し加工を施しても第1の外部導体層に皺および浮きは発生せず、第1の外部導体層と誘電体層との間に空気層は生じないので、ケーブル曲げ加工前の位相に戻すことができると考えられる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-198488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、同軸ケーブルは、パソコン、スマートフォン、タブレット端末等の小型化が進む電子機器内での高周波信号の伝送に用いられており、狭スペース内での機器内配線を実現できるように、より一層の細径化が要求されている。細径化は、構成する各層を薄くする等により実現される。
【0006】
しかしながら、細径化した同軸ケーブルに、例えば特許文献1で提案された同軸ケーブルの構成を適用した場合、第2外部導体層が編組構造であるので、配線時に同軸ケーブルを曲げたり戻したりすると、その編組構造特有の撚り目が縦添えした薄い金属箔に皺を生じさせ、その皺が曲げ位相を大きくしてしまう傾向があった。編組構造は、締め付けが大きく、縦添えした金属箔を強く拘束して皺の発生を抑制するといわれていたが、厚みのある編組構造に存在する撚り目に薄い金属箔が食い込んだ状態で同軸ケーブルを曲げたり戻したりすると、その撚り目の存在がかえって皺の発生原因になっていることが考えられた。
【0007】
本発明の目的は、曲げたり戻したりした場合でも特性が低下しにくい曲げ位相安定性に優れる同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る同軸ケーブルは、中心導体と、該中心導体の外周に設けられる絶縁体と、該絶縁体の外周に縦添えされる第1金属樹脂テープからなる第1外部導体と、該第1外部導体の外周に横巻きして設けられる金属細線からなる第2外部導体と、該第2外部導体の外周に横巻きして設けられる第2金属樹脂テープからなる第3外部導体と、該第3外部導体の外周に横巻きして設けられる樹脂テープが融着層を介して前記第3外部導体に接着してなる外被体と、を備える、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、第2外部導体が、撚り目のある編組構造ではなく、金属細線を横巻したものとしたので、編組構造のような撚り目に起因して第1外部導体の金属層に皺を生じさせるのを防ぐことができる。さらに、第1金属樹脂テープを縦添えした第1外部導体と第2金属樹脂テープを横巻した第3外部導体とで金属細線(第2外部導体)を挟んでおり、それら第1~第3外部導体を横巻して覆う樹脂テープを融着層を介して接着する外被体を有するので、これら一体的な構造形態により、曲げや曲げ戻しを行っても、各外部導体に横ずれが生じにくい。その結果、各外部導体で隙間や空隙が生成されず、屈曲させた場合でも特性が低下しにくい曲げ位相安定性に優れた同軸ケーブルとすることができる。
【0010】
本発明に係る同軸ケーブルにおいて、前記第1外部導体は、0.1~3mmの範囲内の幅で一部重なるように前記絶縁体の外周に縦添えされている。
【0011】
本発明に係る同軸ケーブルにおいて、前記第2外部導体は、10~20mmの範囲内のピッチで横巻きされている。
【0012】
本発明に係る同軸ケーブルにおいて、前記第3外部導体は、1.5~5mmの横巻ピッチで1/5~1/2のラップで横巻きされている。
【0013】
本発明に係る同軸ケーブルにおいて、前記外被体は、1.5~5mmの横巻ピッチで1/5~1/2のラップで横巻きされている。
【0014】
本発明に係る同軸ケーブルにおいて、長さ700mmの前記同軸ケーブルを曲率半径50mmの円を形成するように曲げて、26.5GHzの周波数でネットワーク解析して得られた曲げ位相が、8(deg)以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、曲げたり戻したりした場合でも特性が低下しにくい曲げ位相安定性に優れる同軸ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る同軸ケーブルの一例を示す斜視構成図である。
図2】曲げ位相の測定形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る同軸ケーブルの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態及び図面に記載した形態と同じ技術的思想の発明を含むものであり、本発明の技術的範囲は実施形態の記載や図面の記載のみに限定されるものでない。
【0018】
[同軸ケーブル]
本発明に係る同軸ケーブル10は、図1に示すように、中心導体11と、中心導体11の外周に設けられる絶縁体12と、絶縁体12の外周に縦添えされる第1金属樹脂テープからなる第1外部導体13aと、第1外部導体13aの外周に横巻きして設けられる金属細線からなる第2外部導体13bと、第2外部導体13bの外周に横巻きして設けられる金属樹脂テープからなる第3外部導体13cと、第3外部導体13cの外周に横巻きして設けられる樹脂テープが融着層を介して第3外部導体13cに接着してなる外被体14とを備えている。
【0019】
この同軸ケーブル10は、第2外部導体13bが、撚り目のある編組ではなく、金属細線を横巻したものとしたので、編組構造のような撚り目に起因して第1外部導体13aである薄い金属層に皺を生じさせるのを防ぐことができる。さらに、第1金属樹脂テープを縦添えした第1外部導体13aと第2金属樹脂テープを横巻した第3外部導体13cとで金属細線(第2外部導体13b)を挟んでおり、それら第1~第3からなる外部導体13を横巻して覆う樹脂テープを融着層を介して接着する外被体14として有するので、これら一体的な構造形態により、曲げや曲げ戻しを行っても、各外部導体に横ずれが生じにくい。その結果、各外部導体で隙間や空隙が生成されず、屈曲させた場合でも特性が低下しにくい曲げ位相安定性に優れた同軸ケーブル10とすることができる。
【0020】
以下、各構成要素について詳しく説明する。
【0021】
<同軸ケーブル>
同軸ケーブル10は、図1に示すように、中心導体11と、中心導体11の外周に長手方向に連続して設けられた絶縁体12と、その絶縁体12の外周に設けられた外部導体13(13a~13c)と、その外部導体13の外周に設けられた外被体14とで構成されている。外部導体13は、第1外部導体13aと、第2外部導体13bと、第3外部導体13cとからなるものである。
【0022】
(中心導体)
中心導体11は、同軸ケーブル10の長手方向に延びる1本の素線で構成される、又は複数本の素線を撚り合わせて構成される。素線は、良導電性金属であればその種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっき層が施されたものを好ましく挙げることができる。高周波用の観点からは、銅線、銅合金線が特に好ましい。めっき層としては、はんだめっき層、錫めっき層、金めっき層、銀めっき層、ニッケルめっき層等が好ましい。素線の断面形状も特に限定されないが、断面形状が円形又は略円形の線材であってもよいし、角形形状であってもよい。
【0023】
中心導体11の断面形状も特に限定されないが、円形(楕円形を含む。)であってもよいし矩形等であってもよい。中心導体11の外径は、電気抵抗(交流抵抗、導体抵抗)が小さくなるように、できるだけ大きいことが望ましが、同軸ケーブルの最終外径を細径化するためには、例えば0.09~1mm程度の範囲内を挙げることができる。中心導体11の表面には、必要に応じて絶縁皮膜(図示しない)が設けられていてもよい。絶縁皮膜の種類と厚さは特に限定されないが、例えばはんだ付け時に良好に分解するものが好ましく、熱硬化性ポリウレタン皮膜等を好ましく挙げることができる。
【0024】
(絶縁体)
絶縁体12は、中心導体11の外周に、長手方向に連続して設けられている低誘電率の絶縁層である。絶縁体12の材料は特に限定されず、要求されるインピーダンス特性に応じて任意に選択されるが、例えばPFA、ETFE、FEP等の低誘電率のフッ素系樹脂が好ましい。絶縁体12の材料に着色剤を含有させてもよい。絶縁体12の厚さも特に限定されず、要求されるインピーダンス特性に応じて任意に選択されるが、例えば0.15~1.5mm程度の範囲内とすることが好ましい。こうした絶縁体12の形成方法は特に限定されないが、押し出し、塗布等を挙げることができる。絶縁体12の構造形態は、中実構造でも中空構造でも発泡構造であってもよい。中空構造と発泡構造は、構造体内部に空隙を有するので誘電率をさらに小さくすることができる。なお、中空構造は、空隙部を、内環状部、外環状部及び連結部で囲む断面形態等を例示できる。
【0025】
(外部導体)
外部導体13は、絶縁体12の外周又は外周に設けられている。外部導体13は、絶縁体12上に、金属層面を外側にした第1金属樹脂テープを縦添えしてなる第1外部導体13aと、その第1外部導体13a上に、金属細線を横巻きしてなる第2外部導体13bと、その第2外部導体13b上に、金属層面を内側にした第2金属樹脂テープを横巻きしてなる第3外部導体13cとで3重構造に構成されている。このような3重構造からなる外部導体13は、導体断面積が大きくなり、挿入損失を低減することができる。なお、本願では、第1外部導体13aを構成する第1金属樹脂テープにも符号13aを使用し、第2外部導体13bを構成する金属細線にも符号13bを使用し、第3外部導体13cを構成する第2金属樹脂テープにも符号13cを使用することがある。
【0026】
第1外部導体13aは、絶縁体12上(絶縁体12の周囲ともいう。)に第1金属樹脂テープを縦添えして形成される。縦添えは、第1金属樹脂テープを構成する金属層面を外側(その後に設けられる第2外部導体13bの側)に向けて行われる。第1金属樹脂テープは、樹脂基材の上に金属層が設けられたものである。樹脂基材は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルムを好ましく用いることができる。樹脂基材の厚さは、例えば2~20μm程度の範囲内のものが任意に選択される。金属層は、銅層、アルミニウム層等を好ましく挙げることができる。金属層は、樹脂基材上に蒸着やめっきにより成膜されたもの、又は接着剤層(例えばポリエステル系熱可塑性接着性樹脂等)を介して貼り合わされた金属箔等を好ましく挙げることができる。金属層の厚さは特に限定されず、形成手段によっても異なるが、蒸着やめっきで成膜したものは2~8μm程度の範囲内から任意に選択することができ、金属箔を貼り合わせたものは6~16μm程度の範囲内から任意に選択することができる。このように薄い金属層厚さであっても、その上に設けられる第2外部導体13bは金属細線を横巻きしたものであり、編組構造のような撚り目が存在せず、さらに第3外部導体13cで融着層を介して接着しているので、同軸ケーブル10を曲げたり曲げ戻したりしても、金属層や金属箔に皺が生じるのを防ぐことができる。なお、第1金属樹脂テープの合計厚さは、0.004~0.036mm程度の範囲内であることが好ましい。
【0027】
縦添えは、図1に示すように、第1金属樹脂テープの樹脂基材側を絶縁体12側とし、金属層面側を外側(第2外部導体側)として、一部重なるように長手方向に添わせて包むように巻くものである。第1金属樹脂テープの幅は特に限定されないが、絶縁体12の外周長さと重なる部分の寸法(幅)とで設定される。一部重なるとは、0.1~3μmの範囲内の幅で縦方向に沿って重なることをいう。この一部重なるように縦添えすることにより、第3外部導体13cで融着層を介して接着した場合において、同軸ケーブル10を曲げたり曲げ戻したりしても、金属層の切れ目や隙間が生じるのを防ぐことができる。
【0028】
第1外部導体13aの上には、第2外部導体13bが設けられ、さらにその第2外部導体13b上には第3外部導体13cが設けられている。こうすることにより、第1外部導体13aが第2外部導体13bと第3外部導体13cで押さえつけられ、同軸ケーブル10を曲げたり曲げ戻したりした場合であっても、第2外部導体13bの金属細線がよじれて線間隙間を生じるのを防ぐことができ、そのよじれや線間隙間に起因した皺が第1外部導体13aの金属層や金属箔に生じるのを防ぐことができる。その結果、曲げや曲げ戻ししても、外部導体13(13a,13b,13c)と中心導体11との距離が変化しないので位相変動が起きにくく、信号伝送特性(減衰量、スキュー)の低下を抑制することができる。特に差動信号を高速で伝送させる場合であっても、信号伝送速度が2本の間で変化するのを抑制して伝送特性が低下してしまうのを防ぐことができる。さらに、こうした外部導体構造により、繰り返し曲げ応力が加わった場合でも、誘電率の変化が起こらない。
【0029】
第2外部導体13bは、第1外部導体13a上に金属細線を横巻きして形成される。金属細線は、同軸ケーブル10の第2外部導体13bとして第1外部導体13a(第1金属樹脂テープの縦添え)の外周に設けることが可能な良導電性の金属細線であれば特に限定されない。例えば、錫めっき銅線等に代表される各種の金属細線を好ましく用いることができる。金属細線の直径も特に限定されないが、例えば0.04~0.1mm程度の範囲内のものを挙げることができる。金属細線の本数は、第1外部導体13aの外径や予定する同軸ケーブル10の外径等によって任意に選択され、後述の実施例のように、第1外部導体13a上に32~77本程度の金属細線を横巻きして第2外部導体13bとすることができる。
【0030】
金属細線を横巻きする際の横巻ピッチは特に限定されないが、例えば10~20mmの範囲内のピッチとすることができる。こうして横巻した金属細線は、編組構造のような撚り目がないので、曲げたり曲げ戻したりしても、その撚り目に食い込むようになっている金属層が存在しない。そのため、曲げによって生じる撚り目の動きを原因とする皺が生じない。また、金属細線の横巻きは、細線が交差して撚り目を形成する編組構造に比べて、同一程度の効果(シール効果等)を生じさせる範囲で、第2外部導体13bの厚さを薄くすることができ、同軸ケーブル10の細径化の観点から有利である。
【0031】
第3外部導体13cは、第2外部導体13b上に、第2金属樹脂テープを横巻きして形成される。第2金属樹脂テープは、樹脂基材の上に金属層が設けられたものであり、第1外部導体13aで用いる第1金属樹脂テープと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。樹脂基材や金属層等の材質、厚さ等は、第1金属樹脂テープの説明欄で説明したものから任意に選択して用いることができる。なお、第2金属樹脂テープの合計厚さは、0.004~0.036mmの範囲内であることが好ましい。
【0032】
この第2金属樹脂テープは、1.5~10mmの範囲内の横巻ピッチで横巻きされる。この横巻ピッチで横巻するとき、そのラップが1/5~1/2となるようにテープ幅を選択する。上記横巻ピッチと上記ラップで横巻するときのテープ幅は任意に選択して使用することが好ましい。第2金属樹脂テープの横巻きは、金属層が第2外部導体13bの金属細線に直に接触するように、金属層側が金属細線に向かい合うように対向した状態で行うことが好ましい。その結果、金属細線と金属層とを電気的に導通させることができ、さらに、その金属細線は第1金属樹脂テープの金属層とも直に接触しているので、電気的導通をより安定させることができ、安定したシールド特性を確保することができる。上記横巻ピッチとラップのもとで上記対向配置して横巻することにより、第2金属樹脂テープの金属層同士に隙間を生じさせることなく金属細線上に金属層を直に接触配置することができる。その結果、曲げや曲げ戻し等の屈曲時の柔軟性を発揮する金属細線が多少ずれ動いたとしても、電気的導通をより安定させることができ、安定したシールド特性を確保することができる。
【0033】
第2金属樹脂テープの横巻ピッチは、上記金属細線の横巻ピッチの1/5~1/2の範囲内であることが好ましい。こうすることにより、第2金属樹脂テープを隙間なく巻くことができるとともに、金属細線を押さえることができる。第2金属樹脂テープの横巻き方向は、上記した金属細線の横巻き方向と同じ巻き方向であっても、逆向きの巻き方向であってもよいが、逆向きが好ましい。なお、テープ幅は、巻きピッチや巻きやすさ等によって任意に選択され、例えば3~10mm程度の範囲内とすることができる。
【0034】
なお、第2金属樹脂テープは、後述の融着層付き樹脂テープからなる外被体14と、融着層を介して接着されている。その結果、端末ストリップ時に第2金属樹脂テープの下に位置する金属細線(第2外部導体13b)がばらけることがない。こうした態様により、第1外部導体13aを構成する金属層には、皺や浮きが発生せず、同軸ケーブルを曲げたり曲げ戻したりした場合でも位相変動が起きにくく特性が安定するので、同軸ケーブル全体として曲げ位相安定性にすぐれたものとなる。
【0035】
3重構造の外部導体13を構成する第1外部導体13a、第2外部導体13b及び第3外部導体13cの合計厚さは、使用する金属細線の線径や撚り本数、第1金属樹脂テープ及び第2金属樹脂テープの金属層の厚さや樹脂基材の厚さ等によっても異なるので、特に限定されない。こうした外部導体13の構造形態により、従来の金属テープの縦添え構造や横巻き構造の外部導体と比較して、安定な外部導体構造とすることができるとともに、柔軟性も向上し、応力集中が起きにくく、断線もし難くなる。
【0036】
(外被体)
外被体14は、外部導体13の外周に設けられ、第3外部導体13cと融着することで第2外部導体13b(金属細線の横巻き)を締め付けることができる。外被体14は、絶縁性の融着層付きの樹脂テープの融着層の側を第3外部導体13cの側にして横巻きして形成されている。外被体14を構成する樹脂テープの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、フッ素化樹脂共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂:PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、等を挙げることができる。硬さや伸びの点において、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等である。これらの樹脂テープは通常は単層であるが、目的に応じて2層以上としてもよい。樹脂テープの厚さは、必要な絶縁耐圧を確保できるだけの厚さであれば特に限定されないが、0.004~0.01mm程度の範囲内とすることができる。樹脂テープは着色されていてもよい。着色は、着色剤を樹脂テープ内に含有させたり、着色剤を樹脂テープ上に塗布や印刷したりして設けることができる。樹脂テープを着色するによって、得られた同軸ケーブル10に別々の色を付与でき、その色によって個々の役割を持つ同軸ケーブル10を識別することができる。
【0037】
融着層は、樹脂テープの片面に設けられている。融着層の材質は、熱可塑性樹脂を主体とした樹脂組成物であり、特定の温度以上で架橋反応が起こって接着することができる性質を有するものであることが好ましい。こうした性質を有することにより、融着層付き樹脂テープを融着層を第3外部導体13cの側にして横巻きして設け、その際又はその後に特定の温度以上に加熱し、架橋反応を起こして外部導体13に接着させる。こうすることにより、融着層付き樹脂テープは、その下に位置する第2金属樹脂テープ13cを融着層を介して接着固定するので、第2金属樹脂テープを構成する金属層の位置ずれを防ぐことができる。その結果、屈曲が生じた場合であっても安定したシールド特性を維持することができるとともに、端末ストリップ時に第2金属樹脂テープ13cの下に位置する金属細線(第2外部導体13b)がばらけるのを抑制することができる。
【0038】
融着層の材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらのうち、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。融着層を形成する融着層形成用樹脂組成物には、架橋剤や溶剤が含まれる。また、必要に応じて各種の添加剤が含まれる。それらの架橋剤、溶剤及び添加剤は特に限定されず、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等の種類とその要求特性に応じた各種の架橋剤、溶剤及び添加剤が必要に応じて用いられる。融着層の厚さも特に限定されないが、0.001mm程度とすることができる。なお、外被体14の合計厚さは、0.025~0.1mm程度の範囲内であることが好ましい。
【0039】
融着層付き樹脂テープを横巻きする際の横巻ピッチは、上記第2金属樹脂テープ13cの横巻ピッチと同じ又は同程度とすることが好ましい。融着層付き樹脂テープのラップと横巻ピッチ、及び第2金属樹脂テープ13cの横巻ピッチを上記のようにすることにより、融着層で固定された樹脂テープの重なりを確保した上でその下に配置された金属層の位置ずれが起こりにくいピッチで樹脂テープを横巻することができる。そのため、屈曲が生じて金属細線13bに多少のずれ動きが生じた場合であっても、その金属細線13bを覆う第2金属樹脂テープ13cとその上に接着する樹脂テープとの安定な接触が保持されている。その結果、安定したシールド特性を維持することができる。
【0040】
融着層付き樹脂テープの横巻き方向は、上記した第2金属樹脂テープ13cの横巻き方向と同じ巻き方向であっても逆向きの巻き方向であってもよいが、逆向きに巻くことが好ましい。
【0041】
得られた同軸ケーブル10の最終外径は、0.6~3.5mm程度の範囲内であることが好ましい。こうした同軸ケーブル10は、第1外部導体13aの金属層に皺を生じさせるのを防ぐことができる。また、一体的な構造形態により、曲げや曲げ戻しを行っても、各外部導体13a~13cに横ずれが生じにくい。その結果、各外部導体で隙間や空隙が生成されず、屈曲させた場合でも特性が低下しにくい曲げ位相安定性に優れた同軸ケーブルとすることができる。
【0042】
(曲げ位相)
曲げ位相は、長さ700mmの同軸ケーブル10を曲率半径50mmの円を形成するように曲げて、26.5GHzの周波数でネットワーク解析して得ることができる。図2は、その測定系体の例を示す説明図である。この測定により得られた曲げ位相は、8(deg)以下であることが好ましい。図2中、符号20は曲げ位相測定方法であり、符号21はネットワークアナライザであり、符号22は測定用ケーブルであり、符号23は測定する同軸ケーブルであり、符号24は測定ケーブルと測定する同軸ケーブルとのコネクタである。
【実施例
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
先ず、図1に示す形態の同軸ケーブル10を作製した。中心導体11として、直径0.203mmの銀めっき軟銅線を用いた。次に、中心導体11の外周に厚さ0.21mmのPFA樹脂(デュポン社製)層を押出し形成して外径を0.623mmにした。次に、第1外部導体13a、第2外部導体13b及び第3外部導体13cからなる3重構造の外部導体13を形成した。第1外部導体13aは、厚さ0.004mmのPET基材の上に厚さ0.008mmの銅箔が設けられた幅2.5mmで合計厚さ0.02mmの第1金属樹脂テープを用い、銅箔側が外側(その後に設けられる第2外部導体13bの側)になるようにして0.631mmの幅だけ重なるようにして縦添えした。第2外部導体13bは、直径0.05mmの錫めっき軟銅線(金属細線。TCWと略す。)を38本用いて14mmのピッチで左巻きし、第2外部導体13bを形成した後の外径を0.763mmとした。次に、第3外部導体13cは、厚さ0.004mmのPET基材の上に厚さ0.008mmの銅箔が設けられた幅3mmで合計厚さ0.02mmの第2金属樹脂テープを用い、銅箔側が第2外部導体13bの側になるようにして4mmのピッチで1/2ラップとなるように右巻きした。3重構造の外部導体13を設けた後の外径は0.8mmであった。その後、外被体14として、厚さ0.04mmで幅3mmの融着層付きPETテープ(樹脂テープ)を用い、融着層の側を第2金属樹脂テープ側にして、第2金属樹脂テープの巻き方向とは逆の左巻きとした。そのときの横巻ピッチは2mmで1/2ラップとした。同軸ケーブル10の外径は0.85mmであった。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、中心導体11の直径を0.287mmに変更し、第2外部導体13bにおける金属細線の本数を55本及び第2外部導体13bを形成した後の外径を1.01mmに変更し、第3外部導体13cのピッチ4mmで1/3ラップに変更した。それ以外は実施例1と同様にして、外径1.12mmとなる実施例2の同軸ケーブルを作製した。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、絶縁体12を厚さ0.21mmの中空構造体に変更し、第2外部導体13bにおける金属細線の本数を35本及び第2外部導体13bを形成した後の外径を0.66mmに変更し、第3外部導体13cを厚さ0.004mmのPET基材の上に厚さ0.008mmの銅箔が設けられた幅3mmで合計厚さ0.02mmの第2金属樹脂テープを用い、1.9mmピッチで1/2ラップに変更し、外被体14として厚さ0.025mmで幅3mmの融着層付きPETテープ(樹脂テープ)を用いて横巻ピッチ1.5mmで1/2ラップとした。なお、中空構造体からなる絶縁体12は、中空構造体形成用のダイスニップルにて350℃でPFA樹脂(デュポン社製)を押出しして、空隙部が、厚さ0.05mmの内環状部、厚さ0.05mmの外環状部及び厚さ0.05mmの連結部で囲まれた断面形態となる中空構造を成形したものであり、空隙率は54%である。それ以外は実施例1と同様にして、外径0.76mmとなる実施例3の同軸ケーブルを作製した。
【0047】
[実施例4]
実施例1において、中心導体11として直径0.127mmの銀めっき軟銅線7本を5mmピッチで撚った外径0.381mmのものに変更し、絶縁体の厚さを0.380mmに変更し、第2外部導体13bにおける金属細線の本数を44本及び第2外部導体13bを形成した後の外径を1.32mmに変更し、第3外部導体13cを厚さ0.004mmのPET基材の上に厚さ0.008mmの銅箔が設けられた幅3.5mmで合計厚さ0.02mmの第2金属樹脂テープを用い、4.0mmピッチで1/3ラップに変更し、外被体14として厚さ0.05mmで幅3.5mmの融着層付きPETテープ(樹脂テープ)を用いて横巻ピッチ4mmで1/3ラップとした。それ以外は実施例1と同様にして、外径1.40mmとなる実施例4の同軸ケーブルを作製した。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、中心導体11と第1外部導体13aは同じとし、その第1外部導体13a上に金属細線編組を設けた。金属細線編組は、直径0.05mmの錫めっき軟銅線(金属細線)を持数4、打数16、ピッチ6mmで編組し、外径0.91mmとした。その第2外部導体13b上には、第3外部導体13cを設けずに外被体14を設けた。外被体14は、厚さ0.1mmでFEPをシース押し出しした。押し出し後の同軸ケーブルの外径は1.11mmであった。こうして比較例1の同軸ケーブルを作製した。
【0049】
[曲げ位相の測定]
実施例1及び比較例1の同軸ケーブルについて、曲げ位相を測定した。測定は、図2に示すような測定系で行った。曲げ位相は、得られた同軸ケーブルを長さ700mmに切断し、コネクタ24を付けた後の同軸ケーブル23を曲率半径50mmの円を形成するように曲げて、26.5GHzの周波数でネットワーク解析して得た。ネットワーク解析は、ネットワークアナライザ21(株式会社KEYSIGHT製)を用い、測定ケーブル22とコネクタ25はネットワークアナライザの附属のものを使用した。ネットワーク解析では、同軸ケーブル23に高周波正弦波信号を入射した場合の反射測定と伝送測定とで、信号の振幅と位相の変化を測定することができる。変化した振幅及び位相の測定結果は、ネットワークアナライザ内部で演算され、同軸ケーブル特性(減衰量、位相)を得ることができる。
【0050】
こうしたネットワークアナライザ21で、初期の減衰量、曲げ状態の減衰量、曲げ戻し時の減衰量、曲げ状態の曲げ位相、曲げ戻し時の曲げ位相について測定し、その結果を表1に示した。数値は、測定サンプル12個の平均値である。比較例1の結果と実施例1の結果とを比較すると、曲げ位相は、曲げ状態及び曲げ戻し時のいずれも小さい値を示していた。また、減衰量についても、曲げ状態及び曲げ戻し時のいずれも小さい値を示していた。
【0051】
【表1】
【符号の説明】
【0052】
10 同軸ケーブル
11 中心導体
12 絶縁体
13 外部導体
13a 第1外部導体(第1金属樹脂テープ)
13b 第2外部導体(金属細線)
13c 第3外部導体(第2金属樹脂テープ)
14 外被体
20 曲げ位相測定方法
21 ネッドワークアナライザ
22 測定用ケーブル
23 測定する同軸ケーブル
24 コネクタ


図1
図2