(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】目地型枠の固定方法及び仮受け器具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/21 20060101AFI20230922BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20230922BHJP
E04G 13/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
E04B1/21 C
E04B1/58 503C
E04G13/00
(21)【出願番号】P 2019072787
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 孝一
(72)【発明者】
【氏名】佐古 潤治
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 和人
(72)【発明者】
【氏名】エヴドン シカット
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168850(JP,A)
【文献】登録実用新案第3197226(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/21
E04B 1/38 - 1/61
E04G 9/00 - 19/00
E04G 25/00 - 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャストコンクリート部材の互いの接合部における目地を形成するための目地型枠の固定方法であって、
第1プレキャストコンクリート部材の上面に、前記目地に対応する間隙を空けて第2プレキャストコンクリート部材を配置するステップと、
前記第1及び第2プレキャストコンクリート部材の一方に仮受け器具を係止させるとともに、前記仮受け器具に前記目地型枠を載置することによって、前記目地型枠を仮支持するステップと、
前記目地型枠を前記第1及び第2プレキャストコンクリート部材に固定するステップと、
前記仮受け器具を前記一方から取り外すステップとを備え、
前記一方は、前記間隙に連通して前記第1及び第2プレキャストコンクリート部材の他方のコンクリート部分から突出する主筋を受容するスリーブと、前記スリーブ
から前記一方のコンクリート部分の側面に至る横孔とを有し、
前記仮受け器具は、前記横孔に挿入されて係止される係止部と、前記目地型枠を載置する載置部と、前記係止部及び前記載置部間を連結する連結部とを備えることを特徴とする目地型枠の固定方法。
【請求項2】
前記目地型枠は、前記第1プレキャストコンクリート部材の上端縁及び前記第2プレキャストコンクリート部材の下端縁に沿って延在する複数の長尺材を含み、
前記仮支持するステップは、各々の前記長尺材を前記仮受け器具に載置することを含み、
前記固定するステップは、複数の前記長尺材の互いの端部を連結して、前記第1プレキャストコンクリート部材の上端及び前記第2プレキャストコンクリート部材の下端を囲む枠体を形成することと、前記枠体の輪郭が小さくなるように複数の前記長尺材の端部を互いに緊結して、前記枠体と前記第1プレキャストコンクリート部材の上端側の側面及び前記第2プレキャストコンクリート部材の下端側の側面との間の圧力を増加させることとを含むことを特徴とする請求項1に記載の目地型枠の固定方法。
【請求項3】
前記目地型枠は、前記間隙を密閉するべく前記枠体の内側に取り付けられて可撓性を有するチューブ体を含み、
前記固定するステップは、前記チューブ体に流体を圧入することを含むことを特徴とする請求項2に記載の目地型枠の固定方法。
【請求項4】
第1プレキャストコンクリート部材と、前記第1プレキャストコンクリート部材の上方に配置された第2プレキャストコンクリート部材との目地を形成するための目地型枠を仮支持し、前記目地型枠の固定後、かつ目地材料の注入前に取り外される仮受け器具であって、
前記第1及び第2コンクリートの一方に設けられた、前記目地に対応する間隙に連通するスリーブから該一方におけるコンクリート部分の側面に至る横孔に挿入されてその挿入方向に変位可能に係止される係止部と、前記目地型枠を載置する載置部と、前記係止部及び前記載置部間を連結する連結部とを備え、
前記載置部は、前記連結部に対して前記係止部と同じ側かつ平行に配置されたことを特徴とする仮受け器具。
【請求項5】
前記連結部及び前記載置部は、側面視でL字形状になるように折り曲げられた鋼板によって構成され、
前記係止部は、前記横孔に嵌合する管から構成され、前記鋼板に取り付けられたことを特徴とする請求項4に記載の仮受け器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレキャストコンクリート部材間に目地を設ける際に使用される目地型枠の固定方法、及び目地型枠を仮支持する仮受け器具に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリート部材によって柱を構築する場合、先に設置したプレキャストコンクリート部材と、その上に設置されるプレキャストコンクリート部材との間に目地を形成するべくグラウト等の目地材料が打設される。例えば、特許文献1には、床面とプレキャストコンクリート柱部材との間の目地を形成するための目地型枠が記載されており、目地型枠に挿通されたボルトをプレキャストコンクリート柱部材に設けられたインサートに締結することによって、目地型枠が固定されている。また、特許文献2には、互いに上下に配置されたプレキャストコンクリート柱部材間の目地を形成するための目地型枠が、両プレキャストコンクリート柱部材にボルトで固定されている様子が図示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-91018号公報
【文献】特開2006-200197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載の目地型枠は、事前にプレキャストコンクリート部材にボルトを締結するためのインサートを設けておく必要があり、また、目地型枠の取り外し後、インサートを塞ぐ後処理が必要であった。また、特許文献2に記載の目地型枠のように、柱の中間部分でプレキャストコンクリート部材を接合する場合、目地型枠をプレキャストコンクリート部材に取り付けるには、目地型枠を支える作業員と、支えられた目地型枠を固定するためボルトを締結する作業員との2人の作業員が必要であった。
【0005】
このような問題に鑑み、本発明は、作業員が1人で作業を行える、プレキャストコンクリート部材間の目地を形成するための目地型枠の固定方法を提供することを目的とする。本発明の少なくともいくつかの実施形態は、更に、プレキャストコンクリート部材に対して目地型枠を固定するためのインサートや後処理等を必要としない目地型枠の固定方法を提供することを目的とする。本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記の目地型枠の固定方法に使用できる目地型枠を仮支持する仮受け器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、複数のプレキャストコンクリート部材の互いの接合部における目地(4)を形成するための目地型枠(5)の固定方法であって、第1プレキャストコンクリート部材(1)の上面に、前記目地に対応する間隙を空けて第2プレキャストコンクリート部材(2)を配置するステップと、前記第1及び第2プレキャストコンクリート部材の一方に仮受け器具(9)を係止させるとともに、前記仮受け器具に前記目地型枠を載置することによって、前記目地型枠を仮支持するステップと、前記目地型枠を前記第1及び第2プレキャストコンクリート部材に固定するステップと、前記仮受け器具を前記一方から取り外すステップとを備え、前記一方は、前記間隙に連通して前記第1及び第2プレキャストコンクリート部材の他方のコンクリート部分(1a)から突出する主筋(1b)を受容するスリーブ(6)と、前記スリーブから前記一方のコンクリート部分の側面に至る横孔(7,8)とを有し、前記仮受け器具は、前記横孔に挿入されて係止される係止部(15)と、前記目地型枠を載置する載置部(16)と、前記係止部及び前記載置部間を連結する連結部(17)とを備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、枠体を仮受け器具に仮支持させることによって、作業員が1人で目地型枠を第1及び第2プレキャストコンクリート部材に固定することができる。また、仮受け器具は、主筋の継手に必要な横孔を利用してプレキャストコンクリート部材に係止されるため、仮受け器具を係止させるために新たな孔を設ける必要がない。
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る方法は、上記構成において、前記目地型枠は、前記第1プレキャストコンクリート部材の上端縁及び前記第2プレキャストコンクリート部材の下端縁に沿って延在する複数の長尺材(12)を含み、前記仮支持するステップは、各々の前記長尺材を前記仮受け器具に載置することを含み、前記固定するステップは、複数の前記長尺材の互いの端部を連結して、前記第1プレキャストコンクリート部材の上端及び前記第2プレキャストコンクリート部材の下端を囲む枠体(10)を形成することと、前記枠体の輪郭が小さくなるように複数の前記長尺材の端部を互いに緊結して、前記枠体と前記第1プレキャストコンクリート部材の上端側の側面及び前記第2プレキャストコンクリート部材の下端側の側面との間の圧力を増加させることとを含むことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、目地型枠が、仮受け器具によって仮支持された後、摩擦力によって、第1プレキャストコンクリート部材の上端側の側面及び第2プレキャストコンクリート部材の下端側の側面に固定されるため、第1及び第2プレキャストコンクリート部材にインサートを設けずに、目地型枠を固定できる。
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る方法は、上記構成において、前記目地型枠は、前記間隙を密閉するべく前記枠体の内側に取り付けられて可撓性を有するチューブ体(11)を含み、前記固定するステップは、前記チューブ体に流体を圧入することを含むことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、チューブ体の可撓性によって、第1及び第2プレキャストコンクリート部材の製造・施工誤差を吸収でき、目地材料の漏洩を防止できる。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、第1プレキャストコンクリート部材(1)と、前記第1プレキャストコンクリート部材の上方に配置された第2プレキャストコンクリート部材(2)との目地(4)を形成するための目地型枠(5)を仮支持し、前記目地型枠の固定後、かつ目地材料の注入前に取り外される仮受け器具(9)であって、前記第1及び第2コンクリートの一方に設けられた、前記目地に対応する間隙に連通するスリーブから該一方におけるコンクリート部分(2a)の側面に至る横孔(7)に挿入されてその挿入方向に変位可能に係止される係止部(15)と、前記目地型枠を載置する載置部(16)と、前記係止部及び前記載置部間を連結する連結部(17)とを備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、仮受け器具によって目地型枠を仮支持できるため、作業員が1人で目地型枠を第1及び第2プレキャストコンクリート部材に固定することができる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る仮受け器具は、上記構成において、前記載置部は、前記連結部に対して前記係止部と同じ側かつ平行に配置されたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、載置部が連結部に対して係止部と同じ側かつ平行に配置されるため、目地型枠の固定後において、載置部及び係止部の延在方向における第1及び第2プレキャストコンクリート部材から離間する向きに仮受け器具を移動させることにより、簡単に仮受け器具を取り外すことができる。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る仮受け器具は、上記構成において、前記連結部及び前記載置部は、側面視でL字形状になるように折り曲げられた鋼板によって構成され、前記係止部は、前記横孔に嵌合する管から構成され、前記鋼板に取り付けられたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、比較的市場で入手し易い材料を用いて仮受け器具を製作することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業員が1人で作業を行える、プレキャストコンクリート部材間に目地を設ける際に使用される目地型枠の固定方法及び仮受け器具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る目地型枠が固定されたプレキャストコンクリート部材の縦断面図
【
図3】実施形態に係る目地型枠が固定されたプレキャストコンクリート部材及び仮受け器具の拡大縦断面図
【
図4】実施形態に係る仮受け器具を示す図(A:B図におけるA-A断面図、B:背面図)
【
図5】実施形態に係る目地型枠の第1変形例を示す図(
図2に相当する横断面における拡大断面図)
【
図6】実施形態の第2変形例に係る目地型枠が固定されたプレキャストコンクリート部材及び仮受け器具の拡大縦断面図
【
図7】実施形態の第2変形例に係るシートを示す図(A:側面図、B:正面図)
【
図8】実施形態の第2変形例に係る目地型枠の隅部の拡大平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、第1プレキャストコンクリート部材1(以下、「プレキャストコンクリート」を「PCa」と記す)と、第1PCa部材1の上方に配置された第2PCa部材2とを備える柱3を示す縦断面図である。
図2は、
図1におけるII-II線に沿った断面図である。
図1に示すように、第1PCa部材1及び第2PCa部材2の間には、目地4が形成されている。目地4は、第1PCa部材1と第2PCa部材2との間隙に、グラウト等の目地材料を注入することによって形成される。この時、
図2に示すように、第1PCa部材1の上端部の側面及び第2PCa部材2の下端部の側面に当接するように目地型枠5を設置することにより、目地4を作成するための間隙が密閉される(間隙における第1PCa部材1の上端縁及び第2PCa部材2の下端縁の間が密閉される)。
【0022】
図1に示すように、第1PCa部材1は、コンクリート部分1aと、中間部がコンクリート部分1aに埋設された主筋1bと、コンクリート部分1aに埋設された帯筋(図示せず)とを含む。第2PCa部材2は、コンクリート部分2aと、中間部がコンクリート部分2aに埋設された主筋2bと、コンクリート部分2aに埋設された帯筋(図示せず)とを含む。第2PCa部材2は、下面に開口するスリーブ6と、スリーブ6の下部からコンクリート部分2aの側面に至る横孔であるグラウト注入孔7と、スリーブ6の上部からコンクリート部分2aの側面に至る横孔である空気排出孔8とを有する。
【0023】
第1PCa部材1の主筋1bの上端部は、コンクリート部分1aの上面から突出して、スリーブ6に受容されている。第2PCa部材2の主筋2bの下端部は、スリーブ6に受容されている。スリーブ6にグラウト(図示せず)を充填するため、グラウトをグラウト注入孔7から注入して、空気排出孔8から排出されるまで注入を続ける。スリーブ6にグラウトが充填されることにより両主筋1b,2bは互いに継がれる。
【0024】
図2は、目地材料を間隙に注入できるように目地型枠5を第1及び第2PCa部材1,2に固定した状態を示し、
図3は、固定後、仮受け器具9を取り外す前の状態を示す。
図4は、仮受け器具9を示す。
図2~
図4に示すように、目地型枠5は、枠体10と、枠体10に取り付けられて、目地材料が注入される間隙を密閉するチューブ体11とを含む。
【0025】
枠体10は、第1PCa部材1の上端縁及び第2PCa部材2の下端縁に沿って延在する。本実施形態では、柱3は平面視で矩形であるため、枠体10も矩形となる。枠体10は、4本の長尺材12の端部を互いに連結して形成される。例えば、長尺材12の本体12aとして角形鋼管を使用できる。各々の長尺材12の端部には、本体12aの延在方向に対して斜め外側に突出する板状の接続片12bが設けられている。互いに緊結される長尺材12の接続片12bは、互いの表面が対向するような角度でそれぞれ本体12aから突出している。互いに緊結される長尺材12の接続片12bの一方にはねじ孔が設けられ、他方には貫通孔が設けられ、貫通孔に挿通されたねじ18をねじ孔に締結することにより、長尺材12の端部は互いに緊結される。長尺材12の端部を互いに緊結することにより、互いに平行な2本の長尺材12間の距離が縮まるように枠体10の輪郭が小さくなる。
【0026】
チューブ体11は、折り曲げられた1本のチューブ体11を2~4本の長尺材12に沿って取り付けてもよいが、枠体10の4つの辺に沿って設けられたそれぞれの部分の内部に同時かつ均等に流体を圧入できるように、4本のチューブ体11を、1本ずつ、対応する1本の長尺材12に沿って取り付けることが好ましい。チューブ体11における枠体10の4つの辺に沿って設けられたそれぞれの部分の内部に互いに同時に流体を圧入により、均等に流体が圧入され、目地4が形成されるべき間隙の周囲の全方向において均等にプレキャストコンクリート部材の製造・施工誤差を吸収できる。チューブ体11の長さが余った場合、枠体10の隅で折り曲げて、余った部分を枠体10の外側に配置すればよい。このため、柱3の太さが異なる部分でも、チューブ体11を交換せずに使用できる。また、1本の長尺材12の途中でチューブ体11を継ぎ足して使用すると、継いだ部分が目地材料の注入圧に負けて目地材料が漏れるおそれがあるが、あらかじめ、ある程度の余長を有するようにチューブ体11の長さを選択すれば、チューブ体11を大きさの異なる目地型枠5に転用しても、継ぎ足しする必要がなく、1本の長尺材12の全体に渡って、連続する1本のチューブ体11を使用でき、目地材料の漏れを防止できる。例えば、建物の下層と上層とで、柱3の太さが異なることがあるが、そのような場合でも、チューブ体11を転用できる。チューブ体11は、貼り付け等により長尺材12に固定されてもよい。
【0027】
チューブ体11は、可撓性を有し、内部に空気又は水等の流体を圧入できるものである。チューブ体11における間隙を密閉する表面は、目地4の表面が滑らかになるように、第1PCa部材1の上端縁及び第2PCa部材2の下端縁に沿って直線的に延在することが好ましい。例えば、チューブ体11の素材として、織物、ゴム、又は織物とゴムとの複合材料を使用できる。流体は、コンプレッサー13から、分岐装置14を通って、各々の長尺材12に沿って配置されたチューブ体11に圧入される。余って折り曲げられた先にも流体が注入されるため、流体の圧入は、目地型枠5の隅部にそれなりの隙間埋めの効果をもたらす。
【0028】
目地4の設計幅を20~25mmとすると、実際の目地幅が製作・施工誤差によって15~30mmとなることを許容するように目地型枠5を構成することが好ましい。例えば、長尺材12を50×50×2.3の角形鋼管により構成し、チューブ体11の直径を40mm程度とすることにより、このような製作・施工誤差を許容することができる。
【0029】
仮受け器具9は、グラウト注入孔7に挿入されて係止される係止部15と、目地型枠5を載置する載置部16と、係止部15及び載置部16間を連結する連結部17とを含む。目地型枠5を固定後、仮受け器具9を取り外し易いように、載置部16は、連結部17に対して係止部15と同じ側かつ平行に配置される。例えば、載置部16及び連結部17は、側面視でL字形状になるように折り曲げられた鋼板によって構成され、係止部15は、円形の鋼管によって構成され鋼板に溶接されている。仮受け器具9をこのように構成することによって、比較的市場で入手し易い材料で仮受け器具9を作成することができる。また、グラウト注入孔7は、一般に円形の孔であることが多いため、係止部15を円形の鋼管にすることにより、係止部15がグラウト注入孔7に係止されやすくなる。また、係止部15を構成する円形の鋼管の外径を、グラウト注入孔7の内径に等しいかそれよりわずかに小さくし、係止部15をグラウト注入孔7に密に又は緩く嵌合させることが好ましい。なお、グラウト注入孔7に代えて、空気排出孔8に係止部15を挿入して係止させてもよい。仮受け器具9の係止部15及び載置部16の間の距離は、長尺材12が、第1PCa部材1の上端縁及び第2PCa部材2の下端縁と同じ高さに位置するか、又はわずかに低い位置になるように設定されている。一般に、第2PCa部材2と他の部分に設置される第2PCa部材2とにおける下面からグラウト注入孔7までの距離は、互いに共通であるため、仮受け器具9は、他の部分での施工に転用できる。
【0030】
次に、仮受け器具9を用いた目地型枠5の固定及び使用方法について説明する。
【0031】
まず、第1PCa部材1の上面に、目地4に対応する間隙を空けて第2PCa部材2を配置する。
【0032】
次に、仮受け器具9の係止部15を第2PCa部材2のグラウト注入孔7に挿入して係止させるとともに、長尺材12を載置部16に載置させることにより、長尺材12を仮受け器具9に仮支持させる。
【0033】
次に、長尺材12の端部を互いに連結して枠体10を形成する。この時、枠体10は、第1PCa部材1の上端縁及び第2PCa部材2の下端縁を囲むように配置されている。チューブ体11に流体を圧入して、チューブ体11を第1PCa部材1の上端側の側面及び第2PCa部材2の下端側の側面、ならびに枠体10に密着させ、目地型枠5の高さを調整する。その後、枠体10の輪郭が小さくなるように複数の長尺材12の端部を互いに緊結して、枠体10と第1PCa部材1の上端側の側面及び第2PCa部材2の下端側の側面との間の圧力を増加させる。圧力の増加によって摩擦力が大きくなるため、この摩擦力によって目地型枠5を第1PCa部材1及び第2PCa部材2に固定できる。
【0034】
次に、仮受け器具9を取り外し、目地材料を間隙に注入する。目地材料の養生後、目地型枠5を取り外す。
【0035】
仮受け器具9を使用することにより、作業員は、1人で、仮受け器具9を第2PCa部材2に係止するとともに仮受け器具9に目地型枠5を載置し、その後、目地型枠5を第1PCa部材1及び第2PCa部材2に固定することができる。目地型枠5は、仮受け器具9による仮支持後に、摩擦力によって第1PCa部材1及び第2PCa部材2に固定されるため、第1PCa部材1及び第2PCa部材2にインサート等を設ける必要がなく、インサートに対する後処理が不要となる。仮受け器具9の係止部15が挿入されるグラウト注入孔7の後処理は必要であるが、グラウト注入孔7は、目地4とは別に主筋1b,2bの継手に必要な構成であるため、施工の手間は増えない。
【0036】
第1PCa部材1と第2PCa部材2との相対的な配置にずれが生じても、流体が圧入されたチューブ体11の可撓性により、そのずれが吸収され、目地材料の漏洩を防止できる。また、チューブ体11が、間隙の奥に入り込まないため、第1PCa部材1及び第2PCa部材2の側面に対する目地4の表面の位置が浅くなり、後詰め処理が不要である。
【0037】
図5は、目地型枠5の第1変形例を示す。第1変形例では、目地型枠5をPCa柱の太さの異なる箇所にも転用できるように、長尺材12の長さを変更できる点で上記の実施形態と相違する。
【0038】
各々の長尺材12は、管形状を有する1対の第1長尺材19と、両端部がそれぞれ対応する第1長尺材19の管形状の内部に摺動可能に受容される1つの第2長尺材20とを含む。第1長尺材19として角形鋼管を使用し、第2長尺材20として第1長尺材19よりも太さが1回り小さい角形鋼管を使用することができる。チューブ体11は、1対の第1長尺材19の一方にのみ貼り付け等により固定されることが好ましい。第1長尺材19が第2長尺材20に対して摺動することにより、長尺材12の長さを変更できる。長尺材12は、変更した長さを維持できるように、第1長尺材19と第2長尺材20との相対的な変位を規制するラチェット機構等のストッパー(図示せず)を含むことが好ましい。なお、長尺材12を1本の第1長尺材19と、一端側が第1長尺材19の内部に摺動可能に受容された1本の第2長尺材20とによって構成してもよい。
【0039】
型枠面は、全長に渡り平坦な面でなければ、グラウトの注入圧によってグラウトが漏洩する。第2長尺材20は、第1長尺材19の内部を摺動するため、第1長尺材19の表面と第2長尺材20の表面との間に段差が生じるが、チューブ体11によってこの段差が吸収されるため、このような構造によって長尺材12の長さを可変としても、目地材料の漏洩を防止できる。
【0040】
図6及び
図7は、目地型枠5の第2変形例を示す。目地型枠5は、第1PCa部材1及び第2PCa部材2間に注入される目地材料に接触するようにチューブ体11に重ねられて枠体10に固定されたシート21を更に備える。シート21は、枠体10の全周に渡って延在する。例えば、シート21は、下部において、長尺材12を構成する角形鋼管の下面にねじ22等で固定され、上部において、長尺材12を構成する角形鋼管の上面に面ファスナー23等で固定される。上部を着脱容易な面ファスナー23で固定することにより、第1PCa部材1及び第2PCa部材2の製作・施工誤差等によりチューブ体11が変形しても、その変形に応じてシート21の位置を容易に調整することができる。
【0041】
シート21は、互いに重なるように複数設けられることが好ましい。この場合、複数のシート21の各々は、目地材料に接触しない部分に枠体10の延在方向に沿って切り取り線24を有することが好ましい。表層に配置されたシート21が目地材料に接触して汚れるが、洗浄しなくてもそのシート21を切り取り線24で切って取り外すことにより、その下の汚れていないシート21を表層とし、他の箇所での目地4の施工にその目地型枠5を転用できる。施工中の建物の上層に水を運搬することはコスト増加の原因となるため、建物の上層での施工では水の節約が求められている。このように複数のシート21を使用すれば、シート21を洗浄せず、水の使用を節約して目地型枠5を転用できる。
【0042】
図8は、目地型枠5の第3変形例を示す。第3変形例では、互いに緊結される長尺材12の端部の一方にカムレバー25を設け、他方にヒンジボルトを含むカムレバー受け26を設けて、カムレバー25を倒すことによって、長尺材12の端部を互いに緊結してもよい。カムレバー25によって、ねじ18(
図2参照)よりも簡単に、長尺材12の端部の互いの緊結を行うことができる。
【0043】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。係止部は、第1PCa部材に設けられたスリーブのグラウト注入孔又は空気排出孔に挿通されて係止されてもよい。この場合、載置部は、係止部の上方に位置し、載置部の基端は、連結部の上下方向の中間部に連結していることが好ましい。
【符号の説明】
【0044】
1:第1PCa部材
2:第2PCa部材
4:目地
5:目地型枠
6:スリーブ
7:グラウト注入孔(横孔)
9:仮受け器具
10:枠体
11:チューブ体
12:長尺材
15:係止部
16:載置部
17:連結部
19:第1長尺材
20:第2長尺材