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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】装飾部品用発熱シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20230922BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20230922BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20230922BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20230922BHJP
   B60R 13/04 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01S7/03 246
G01S13/931
H05B3/20 345
H05B3/12 A
B60R13/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019131645
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021018060
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】森泉 英人
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065165(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014002438(DE,A1)
【文献】特開2001-176644(JP,A)
【文献】特開2018-066705(JP,A)
【文献】特開2019-067516(JP,A)
【文献】米国特許第6316746(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
B60R 13/01 - 13/04
13/08
H05B 3/02 - 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用装飾部品の表面で、ミリ波レーダー装置から送信されるミリ波の送信方向前方に取り付けられる発熱シートであって、伸線加工された直径0.015~0.15mmの範囲内の発熱線と、該発熱線を挟む少なくとも2枚の樹脂シートとを有し、前記発熱線を挟む前記2枚の樹脂シートの厚さが同一又は略同一であり、同じ厚さの前記2枚の樹脂シートのそれぞれに前記発熱線が半分ずつ埋め込まれており、前記発熱線が前記発熱シートの厚さ方向の中央に配置されており、前記発熱線の表面から前記発熱シートの表面までの距離が0.025~0.4925mmの範囲内であり、前記発熱線の直径が、前記発熱シートの厚さの1/20以上、1/2以下の範囲内である、ことを特徴とする装飾部品用発熱シート。
【請求項2】
前記発熱線は、前記2枚の樹脂シートのうち一方の樹脂シートが加熱軟化されて半分まで埋め込まれ、他方の樹脂シートが加熱軟化されてその上から貼り合わされてなる、請求項1に記載の装飾部品用発熱シート。
【請求項3】
前記発熱線が、銅線、銅合金線、めっき銅線、又はめっき銅合金線である、請求項1又は2に記載の装飾部品用発熱シート。
【請求項4】
前記ミリ波が通過する部分の前記発熱線の投影面積割合が0.2~5.0%の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の装飾部品用発熱シート。
【請求項5】
請求項1に記載の発熱シートの製造方法であって、前記2枚の樹脂シートのうち1枚目の樹脂シートの表面を加熱して軟化させた状態で前記発熱線を半分まで埋め込み、その後、表面を加熱して軟化させた2枚目の樹脂シートを前記発熱線が半分埋め込まれた前記込まれた1枚目の樹脂シート上に貼り合わせる、ことを特徴とする装飾部品用発熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾部品用発熱シートに関し、さらに詳しくは、車両の装飾部品の表面に設けられる融雪機能を持つ発熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波レーダー装置は、ミリ波を利用して車間距離や障害物との距離を計測することができるため、近年は多くの車両に設けられている。このミリ波レーダー装置は、先行車両を検出する機能上、通常、一般的にヘッドライトやバンパーを避けて、車両前面の例えば中央部に取り付けられている。中央部には、フロントグリルやエンブレム等の車両用装飾部品が設置されている場合が多いので、ミリ波レーダー装置は車両用装飾部品の内部又は背面側に取り付けられている例が多い。
【0003】
ミリ波レーダー装置を備えた車両は、特に降雪地域では、車両用装飾部品に雪が付着して誤動作するのを防ぐため、雪の付着時に計測を一時的に停止させるように制御している。しかし、計測の一時停止制御は、降雪時に計測ができなくなってしまう。そのため、降雪時でも計測を可能とすることが要求されていた。
【0004】
特許文献1には、車両用装飾部品に設けられた各通水溝の両側に、加熱手段の一例としてのニクロム線を埋め込み、そのニクロム線で付着した雪を融解させつつ効率よく排水させる構造形態が提案されている。また、特許文献2には、雪および氷層の形成を、レーダードームの電気的加熱によって回避する技術が提案されている。具体的には、レーダードームの加熱は、蒸着され装飾された金属層を介して行われ、その金属層は、オーム抵抗を有し、電流がラテラル方向に導かれるときに発熱し、従って電気的ヒータとして作用するというものである。
【0005】
特許文献3には、ヒータ部を発熱させることで車両用装飾部品に付着した雪を溶かすことができ、且つミリ波がヒータ部を透過する際の減衰を防ぐ車両用装飾部品が提案されている。この車両用装飾部品(エンブレム)は、装飾本体部及びヒータ部を備えるものである。装飾本体部は、ミリ波レーダー装置からのミリ波の送信方向の前方に取付けられて、車両を装飾するとともに、ミリ波透過性を有している。ヒータ部は、通電により発熱する発熱体を有している。発熱体の少なくとも一部は、ヒータ部におけるミリ波の照射領域内に配置されている。発熱体は、ミリ波がヒータ部を透過する際の減衰を抑制するミリ波減衰抑制態様として、上記照射領域内における発熱体の同照射領域に占める面積比率を、ミリ波の減衰量が許容値以下となるように設定した状態でヒータ部に組込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-138572号公報(第0020,0021段落)
【文献】特開2002-22821号公報
【文献】特開2018-66705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3では、車両用装飾部品(エンブレム)の装飾形態を妨げないように、ヒータ部が装飾本体部の後面に設けられている。しかし、これでは、融雪のために装飾部品の表面に熱を伝える際、熱が装飾本体部を通過する必要があり、熱伝導効率が悪くなり、融雪を速やかに行うことができないという難点がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、装飾部品の外観を損なうことなく、装飾部品に付着した雪等を容易に融かすことができる装飾部品用発熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る装飾部品用発熱シートは、車両用装飾部品の表面で、ミリ波レーダー装置から送信されるミリ波の送信方向前方に取り付けられる発熱シートであって、伸線加工された直径0.015~0.15mmの範囲内の発熱線と、該発熱線を挟む少なくとも2枚の樹脂シートとを有し、前記発熱線の表面から前記発熱シートの表面までの距離が0.025~0.4925mmの範囲内であり、前記発熱線の直径が、前記発熱シートの厚さの1/20以上、1/2以下の範囲内である、ことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、(ア)装飾部品の表面に設けられるので、発熱シートから発した熱が装飾部品を通過する必要がなく、熱伝導効率が良く、装飾部品に付着した雪等を容易に融かすことができる。その結果、融雪を省エネルギーの下で速やかに行うことができる。(イ)また、発熱線が伸線加工された上記直径の範囲内であるので、装飾部品の表面に設けられても、矩形線の場合に比べて容易に視認できず、装飾部品としての外観を損なうことがない。(ウ)また、発熱線の表面から発熱シートの表面までの距離が上記範囲内であるので、絶縁性を確保することができるとともに、熱を効率よく装飾部品の表面に伝えることができる。(エ)発熱線の直径を発熱シートの厚さとの関係で定義したので、発熱線の直径が発熱シートの厚さの1/20程度の小さい場合は、絶縁性を高めることができる点で好ましく、発熱線の直径が発熱シートの厚さの1/2程度の大きい場合は、発熱シートの表面までの熱の伝達が容易になる点で好ましい。
【0011】
本発明に係る装飾部品用発熱シートにおいて、前記発熱線を挟む2枚の樹脂シートそれぞれの厚さが同一又は略同一である。この発明によれば、発熱線は発熱シートの中央又はほぼ中央に設けられるので、発熱シートの表裏での絶縁性を同程度とすることができ、安定した絶縁性を確保することができる。
【0012】
本発明に係る装飾部品用発熱シートにおいて、前記発熱線が、導電率が3.5~100%IACSの範囲内の銅線、銅合金線、めっき銅線、又はめっき銅合金線である。この発明によれば、少ない電力で発熱させることができるので、省エネルギーのもとで発熱シートを加温することができる。
【0013】
本発明に係る装飾部品用発熱シートにおいて、前記ミリ波が通過する部分の前記発熱線の投影面積割合が0.2~5.0%の範囲内であることが好ましい。この発明によれば、発熱シートにおいて、ミリ波が通過する部分の発熱線の投影面積割合が上記範囲内であるので、計測に影響がない範囲で装飾部品の外観を損なうことがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装飾部品の外観を損なうことなく、装飾部品に付着した雪等を容易に融かすことができる装飾部品用発熱シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る装飾部品用発熱シートの一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る装飾部品用発熱シートの寸法構成の説明図である。
図3】本発明に係る装飾部品用発熱シートの配線パターンの一例を示す平面図である。
図4】本発明に係る装飾部品用発熱シートの配線パターンの他の一例を示す平面図である。
図5】本発明に係る装飾部品用発熱シートの使用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る装飾部品用発熱シートについて、図面を参照しつつ説明する。本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[装飾部品用発熱シート]
本発明に係る装飾部品用発熱シート10は、図1図5に示すように、車両用装飾部品20の表面Fで、ミリ波レーダー装置21から送信されるミリ波22の送信方向前方に取り付けられる発熱シート10である。そして、その発熱シート10は、伸線加工された直径dが0.015~0.15mmの範囲内の発熱線1と、発熱線1を挟む少なくとも2枚の樹脂シート2とを有し、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの距離Dは0.025~0.4925mmの範囲内であり、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/20以上1/2以下の範囲内である、ことに特徴がある。
【0018】
この発熱シート10は、(ア)装飾部品20の表面Fに設けられるので、発熱シート10から発した熱が装飾部品20を通過する必要がなく、熱伝導効率が良く、装飾部品20に付着した雪等を容易に融かすことができる。その結果、融雪を省エネルギーの下で速やかに行うことができる。(イ)また、発熱線1が伸線加工された上記直径dの範囲内であるので、装飾部品20の表面に設けられても、矩形線の場合に比べて容易に視認できず、装飾部品20としての外観を損なうことがない。(ウ)また、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの距離Dが上記範囲内であるので、絶縁性を確保することができるとともに、熱を効率よく装飾部品20の表面に伝えることができる。(エ)発熱線1の直径dを発熱シート10の厚さの1/20以上1/2以下の範囲内としたので、絶縁性を高めることができるとともに、熱伝達を容易にすることができる。(オ)なお、ミリ波22が通過する部分の発熱線1の投影面積割合は0.2~5.0%の範囲内であることが好ましく、発熱シート10において、ミリ波22が通過する部分の発熱線1の投影面積割合が上記範囲内であるので、計測に影響がない範囲で装飾部品20の外観を損なうことがない。
【0019】
以下、構成要素について詳しく説明する。図2は、各構成要素の寸法の説明図であり、以下では、図2に示す寸法符号を用いて説明する。
【0020】
(発熱線)
発熱線1は、通電により発熱する発熱体であり、装飾部品用発熱シート用の発熱線1としては、伸線加工された直径dが0.015~0.15mmの範囲内であることが好ましい。発熱線1が伸線加工された上記直径の範囲内であるので、装飾部品20の表面に設けられても、矩形線の場合に比べて容易に視認できず、装飾部品20としての外観を損なうことがない。発熱線1の直径dが0.015mm未満では、発熱線1の材質にもよるが、細すぎて強度が劣ることがある。発熱線1の線径が0.15mmを超えると、太すぎて線が目立って装飾部品20の外観を低下させたりすることがある。なお、本願において、発熱線1の直径dというときは、金属素線の直径の意味であり、絶縁皮膜や融着皮膜が設けられた後の直径ではない。
【0021】
発熱線1の材質としては、銅線、銅合金線、めっき銅線、又はめっき銅合金線を挙げることができる。これらの材質の発熱線1は、導電率が3.5~100%IACSの範囲内であるので、少ない電力で発熱させることができ、省エネルギーのもとで発熱シートを加温することができる。銅合金線としては、銅線銀入り銅合金線、錫入り銅合金線、ニッケル入り銅合金線等を挙げることができる。なかでも、銀を4~10質量%含む銀入り銅合金線、錫を0.1~1.5質量%含有する錫入り銅合金線、ニッケルを0.5~50質量%含有するニッケル入り銅合金線を好ましく挙げることができる。
【0022】
めっきを施す場合のめっきの種類としては、銀めっき、錫めっき、ニッケルめっき等を好ましく挙げることができる。めっきを設けるか否かは、発熱線1の端末処理手段によって任意に選択されることが好ましい。例えば、発熱線1を超音波ウエルダーで電極や端子等に接続する場合は、めっきが設けられていないことが好ましい。はんだ付けで接続する場合は、はんだ付け時の銅の酸化防止のためにニッケル、はんだ、錫、銀、等のめっきを施しておくことが好ましい。
【0023】
発熱線1は、その材質により、体積抵抗率、引張強度等が異なる。そのため、発熱線1の特性に応じて選択することができる。上記した発熱線1の中でも、後述の実施例で用いた銀10質量%含有銅合金線は、体積抵抗率が0.023μΩcmで引張強度(ヤング率)が11000N/mmであり、こうした銀入り銅合金線等の銅合金線は、体積抵抗率と引張強度とのバランスがよく、車両用装飾部品の表面に設ける発熱シート10の構成材料として好ましいといえる。
【0024】
発熱線1は、伸線加工後の裸線そのもので構成されていてもよいし、外周に単層又は複層の絶縁皮膜が設けられているものでもよいし、その絶縁皮膜の上にさらに他の樹脂皮膜(融着皮膜等)が設けられているものでもよい。絶縁皮膜としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等を挙げることができ、融着皮膜としては、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。絶縁皮膜を設ける場合の絶縁皮膜の厚さは特に限定されないが、線径が大きいほど厚く線径が小さいほど薄く、1~10μmの範囲内で線径に応じた厚さであればよい。絶縁皮膜の上に融着皮膜を設ける場合の融着皮膜の厚さも特に限定されないが、絶縁皮膜と同様、線径が大きいほど厚く線径が小さいほど薄く、1~10μmの範囲内で線径に応じた厚さであればよい。絶縁皮膜を設けることにより、単線あたりの絶縁性、耐酸化性、耐候性を向上させることができる。また、融着皮膜を設けることにより、樹脂シート2への融着をより容易に行って、発熱線1を樹脂シート2に容易に接合することができる。なお、発熱線1は、2枚の樹脂シート2a,2bの間に埋め込む際に、150~200℃程度の加熱される場合があるので、絶縁皮膜はそうした温度で劣化しない材質であることがより好ましく、融着皮膜はそうした温度で融着性能を発揮する材質であることが好ましい。
【0025】
発熱線1の直径dは、発熱シート10の厚さの1/20(=0.05)以上、1/2(=0.5)以下の範囲内であることが好ましい。発熱線1の直径dを発熱シート10の厚さとの関係で定義したので、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/20程度の小さい場合は、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの距離Dが長くなるので、絶縁性を高めることができる点で好ましく、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/2程度の大きい場合は、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの距離Dが短くなるので、発熱シート10の表面までの熱の伝達が容易になる点で好ましい。その結果、装飾部品20に付着した雪等を省エネルギーで速やかに融かすことができるという格別の効果がある。発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/2を超えて太くなると、発熱シート10の表面までの距離Dが短くなって熱が速やかに熱伝導するけれども、その距離Dが短すぎて絶縁性や発熱シート10の強度が低下して実用性の点で不十分の場合がある。一方、発熱線1の直径dが発熱シート10の厚さの1/20未満に細くなると、発熱シート10の表面までの距離Dが長くなって熱が速やかに表面まで熱伝導しにくくなってしまう場合がある。
【0026】
発熱線1は、発熱シート10において、ミリ波22が通過する部分の投影面積割合が0.2~5.0%の範囲内であることが好ましい。投影面積割合を前記範囲内とすることにより、発熱線1で遮蔽される投影面積が小さいものとなり、ミリ波22が透過する際の減衰の低下を抑制することができるとともに、装飾部品20の外観を損なうこともないという利点がある。特に丸線からなる発熱線1は、同じ断面積からなる矩形線に比べて、平面視した場合に発熱線1が目立ちにくく、装飾部品20の外観をより損なうことがないという利点がある。投影面積割合が0.2%未満では、発熱シート10における発熱線1の配線パターンの割合が少なすぎて融雪等が効果的に行われないおそれがある。一方、投影面積が5.0%を超えると、ミリ波22が透過する際の減衰が大きくなるおそれがあり、また、装飾部品20の外観を損なうおそれがある。
【0027】
図3図4は、発熱シート10の配線パターンの例である。発熱シート10は、発熱線1が配線されて配線パターンが構成されるが、その配線パターンは特に限定されず、装飾部品20の表面での融雪等を効果的に行うことができるパターンであることが望ましい。例えば、図3図4に例示する配線パターンとすることができる。好ましくは、図5に示すように、発熱シート10は、ミリ波レーダー装置21から発するミリ波22の透過を抑制しない程度の上記0.2~5.0%の範囲の投影面積で配線されていることが好ましい。
【0028】
(樹脂シート)
樹脂シート2は、少なくとも2枚で構成され、発熱線1を挟んで発熱シート10を形成する。この樹脂シート2は、少なくとも2枚で発熱線1を挟み、発熱線1の表面から発熱シート10の表面までの距離Dが0.025~0.4925mmの範囲内となるように構成されている。この距離範囲とすることにより、上記直径範囲の発熱線1(絶縁皮膜や融着皮膜が設けられているものも含む。)のいずれを採用した場合でも、装飾部品用発熱シート10の厚さを0.2~1.0mm程度の範囲内とすることができる。
【0029】
樹脂シート2は、発熱線1を厚さ方向Yの中央又は略中央に配置した樹脂製のシート状物である。発熱線1を厚さ方向Yの中央又は略中央に配置するためには、同じ厚さTa,Tbの2枚の樹脂シート2(2a、2b)で上下から発熱線1を挟む。こうした手段の一例としては、1枚目の樹脂シート2aの表面を加熱して軟化させた状態で、150℃~200℃程度に加熱した発熱線1をおよそ半分まで埋め込み、その後、表面を加熱して軟化させた2枚目の樹脂シート2bを、発熱線1が半分埋め込まれた1枚目の樹脂シート2a上に貼り合わせて、図1に示す断面形態を有する発熱シート10を作製することができる。なお、発熱シート10の作製は、この一例に限定されず、他の手段を任意に選択して作製してもよい。
【0030】
樹脂シート2の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、上記のように各樹脂シート2a,2bの表面を加熱して軟化させることができる熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、発熱シート10が車両用装飾部品の表面Fに貼り合わされることから、耐候性のよい樹脂材料が好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。
【0031】
各樹脂シート2a,2bの厚さTa,Tbは、上記のように、発熱線1の直径dが樹脂シート2の合計厚さTの1/20以上、1/2以下となるように設計することが好ましい。すなわち、本発明に係る発熱シート10では、樹脂シート2の合計厚さTは、発熱線1の直径dとの関係で設計されることが望ましく、その結果、発熱線1で生じた熱を、各樹脂シート2a、2bの表面まで速やかに熱伝導させることができ、装飾部品20に付着した雪等を省エネルギーで速やかに融かすことができるという格別の効果を奏するのである。なお、樹脂シート2は、同じ厚さTa,Tbの2枚の樹脂シート2a,2bを貼り合わせて構成されるので、1枚ごとの樹脂シート2a,2bの厚さTa,Tbは、発熱線1の直径dとの関係で設計される樹脂シート2の合計厚さTの1/2となる。
【0032】
2枚の樹脂シート2a、2bの厚さTa,Tbを同じとすることで、発熱線1が樹脂シート2の厚さ方向Yの中央に配置される。そのため、発熱線1を樹脂シート2の厚さ方向Yの中間部分に安定して保持することができ、製造時又は車両用装飾部品の表面Fへの取付時等に発熱線1に応力が加わっても、発熱線1が破損したり断線したりすることを防ぐことができる。また、発熱シート10が車両用装飾部品の表面Fに取り付けられる場合には、発熱シート10の表面が最外部に曝されることになり、砂等が衝突したり紫外線劣化が起こったりするおそれもあるのであまり薄くすることもできない。さらに、背面側の樹脂シートを薄くした場合には、背面側の樹脂シートは熱伝導性の良い金属からなる装飾部品に接する可能性もあり、その場合には、その薄い樹脂シートの側から熱が優先的に奪われることになり、金属に接していない側の表面に付着した雪等が解けにくくなることも考えられる。こうした理由により、2枚の樹脂シート2a,2bは、厚さTa,Tbが同じであることが好ましい。
【0033】
具体例としては、各樹脂シート2a、2bの厚さTa,Tbは0.1~0.5mm程度の範囲内であることが好ましい。各樹脂シート2a、2bの厚さTa,Tbが0.1mm未満では、薄すぎて上記のように薄くした不具合が発生するおそれがある。一方、各樹脂シート2a、2bの厚さTa,Tbが0.5mmを超えると、発熱シート10の表面までの熱伝導が低下して速やかな融雪ができにくくなるとともに、省エネルギーの観点からも不十分になることがある。また、発熱線1は、樹脂シート2の厚さ方向Yの中央に配置されているので、安定した絶縁性も確保できる。
【0034】
なお、本発明に類似する従来技術として、透明フィルムヒーターが知られているが、この透明フォイルムヒーターは、PET等の透明フィルム基板上に、ITO(インジウム錫オキサイド)や酸化スズ等の導電性金属酸化物からなる透明発熱層をスパッタリング法等の成膜手段で設けている。しかし、透明フィルムヒーターは、透明発熱層の抵抗が大きく、サイズを大きくすると総抵抗値が大きくなってしまい、高圧電源が必要となるという難点がある。これに対して、本発明に係る装飾部品用発熱シートは、発熱線1を2枚の樹脂シート2a,2bの間に設けるという製造容易な手段で作製できるとともに、導電性の良い発熱線1を用いるので、サイズを大きくしても総抵抗値が大きくなりにくいという利点がある。
【0035】
樹脂シート2が透明であるか否かは問わない。透明である場合には、装飾部品20の外観を損ないにくいのでより好ましい。透明については、無色透明でも有色透明であってもよく、発熱シート10が取り付けられる車両用装飾部品に応じて選択することができる。また、発熱シート10が取り付けられる車両用装飾部品によっては、透明でなくてもよく、半透明でも不透明でもよい。
【0036】
(発熱シート)
発熱シート10は、図5に示すように、車両用装飾部品20の表面Fで、ミリ波レーダー装置21から送信されるミリ波22の送信方向前方に取り付けられる。この発熱シート10が装飾部品20の表面Fに設けられることにより、熱が装飾部品20を通過する必要がなく、熱伝導効率が良く、装飾部品20に付着した雪等を容易に融かすことができる。その結果、融雪を省エネルギーで速やかに行うことができる。
【0037】
発熱シート10は、発熱線1を挟んだ樹脂シート2の片面又は両面に任意の機能層(機能フィルムも含む。以下同じ。)を設けることができる。例えば、車両用装飾部品側の表面には、車両用装飾部品への固定のための粘着層や接着層が好ましく設けられる。車両用装飾部品側の反対側の表面には、耐候性のある紫外線防止層、擦過性や耐傷性を持たせるためのハードコート層、それら機能層と樹脂シートとの密着性を向上させるためのプライマー層等を任意に設けることができる。それらの機能層の厚さは特に限定されず、従来公知の厚さを任意に選択して設けられるが、あまり厚くすると、発熱線1が発熱シート10の厚さ方向Yの中央又は略中央に配置されなくなってしまうので、熱伝達に影響が出ない程度の厚さに設計されることが望ましい。
【0038】
発熱シート10の厚さは、上記した任意の機能層を設けた後の厚さとして、0.2~1.0mmの範囲内であることが好ましい。こうした厚さの範囲とすることにより、熱を効率よく装飾部品の表面に伝えることができる。
【0039】
(車両用装飾部品)
本発明に係る装飾部品20は、図5に示すように、ミリ波レーダー装置21が設けられる車両用装飾部品20であって、車両用装飾部品20の表面Fに設けられたミリ波レーダー装置21から送信されるミリ波22の送信方向前方に、上記本発明に係る装飾部品用発熱シート10が取り付けられている。装飾部品20は、発熱シート10が表面Fにカバー部材として設けられるので、その発熱シート10からの熱により付着した雪等を容易に融かすことができる。
【実施例
【0040】
以下、実験例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0041】
[実験1]
発熱線1として、直径dが0.05mmの銅線と、その銅線上に設けられた厚さ4μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁皮膜と、その絶縁皮膜上に設けられた厚さ4.5μmのナイロン樹脂からなる融着皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート2は、厚さTa,Tbが0.15mmのポリカーボネートフィルムを樹脂シート2a,2bとして用いた。一方の樹脂シート2aの表面に発熱線1を図3に示す配線パターンで布線する際に、樹脂シート2aの表面を加熱軟化させた状態で発熱線1を超音波で発熱させ、樹脂シート2aの表面に発熱線1を直径の約半分まで埋め込んだ。その後、他の樹脂シート2bの表面を加熱した状態で、発熱線1が半分埋め込まれた樹脂シート2a上に貼り合わせて発熱シート10を作製した。
【0042】
作製した発熱シート10について、抵抗値を測定するとともに、所定の印加電圧を印加したときの電流、電力、表面温度を測定した。なお、表面温度は、装飾部品側の反対面となる樹脂シート2bの表面で測定した。その結果を表1に示した。
【0043】
[実験2]
発熱線1として、直径dが0.14mmの銅線と、その銅線上に設けられた厚さ6μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁皮膜と、その絶縁皮膜上に設けられた厚さ4.5μmのナイロン樹脂からなる融着皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート2は、厚さTa,Tbが0.15mmのポリカーボネートフィルムを樹脂シート2a,2bとして用いた。それ以外は実験1と同様にして発熱シート10を作製した。作製した発熱シート10の特性等の結果を表1に併せて示した。
【0044】
[実験3]
発熱線1として、直径dが0.016mmの10質量%銀入り銅線と、その銅線上に設けられた厚さ1.5μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁皮膜と、その絶縁皮膜上に設けられた厚さ1μmのナイロン樹脂からなる融着皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート2は、厚さTa,Tbが0.15mmのポリカーボネートフィルムを樹脂シート2a,2bとして用いた。配線パターンは図4に示すバターンとした。それ以外は実験1と同様にして発熱シート10を作製した。作製した発熱シート10の特性等の結果を表1に併せて示した。なお、この実験3では、印加電圧を36.4Vと45.1Vの2種類で行った結果を示した。
【0045】
【表1】
【0046】
[実験4]
発熱線1として、直径dが0.11mmの銅線と、その銅線上に設けられた厚さ5μmのポリウレタン樹脂からなる絶縁皮膜と、その絶縁皮膜上に設けられた厚さ5μmのナイロン樹脂からなる融着皮膜とで構成したものを使用した。樹脂シート2は、厚さTa,Tbが0.4mmのPVCフィルムを樹脂シート2a,2bとして用いた。それ以外は実験1と同様にして発熱シート10を作製した。作製した発熱シート10の特性等の結果を表2に示した。なお、この実験4では、印加電圧を1.5Vと1.7Vの2種類で行った結果を示した。
【0047】
【表2】
【0048】
[実験5~12]
実験5~12は、発熱線1の線径と各樹脂シート2a,2bの厚さTa,Tbと投影面積割合とを種々変更したときの結果である。上記実験1~4の結果とともに表3に示した。また、なお、実験5~13は、発熱線1として、各直径dの銅線を用い、その銅線上にはその直径に応じた厚さのポリウレタン樹脂からなる絶縁皮膜とナイロン樹脂からなる融着皮膜を設けたものを使用した。樹脂シート2a、2bは、各厚さTa,Tbのポリカーボネートフィルムを用いた。投影面積割合は、発熱線1の配線パターンを変更して表3に示す値とした。
【0049】
【表3】
【0050】
表4は、実験1~13における特性結果である。表4のうち、外観は目視確認での官能評価で行い、目立たない場合を「○」とし、やや目立つ場合を「△」とした。加熱は線径に応じて適度な印加電圧を変えて行ったが、その際の表面への熱伝達の良さを官能評価で行い、良好な場合を「○」とし、やや不十分な場合を「△」とした。絶縁性は、耐電圧での評価は行わなかったが、距離Dが十分で絶縁性の心配がないと考えられる場合を「○」とし、やや心配な場合を「△」とした。
【0051】
【表4】
【符号の説明】
【0052】
1 発熱線
2,2a,2b 樹脂シート
10 発熱シート
20 車両用装飾部品
21 ミリ波レーダー装置
22 ミリ波
F 車両用装飾部品の表面
T 樹脂シートの合計厚さ
Ta,Tb 樹脂シートの厚さ
Y 発熱シートの厚さ方向
D 発熱線の表面から発熱シートの表面までの距離
d 発熱線の直径


図1
図2
図3
図4
図5