(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】熱履歴検知ラベルおよび試薬キット
(51)【国際特許分類】
G01K 11/06 20060101AFI20230922BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20230922BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01K11/06 C
G01N35/00 C
G01N35/02 C
(21)【出願番号】P 2019179948
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591139781
【氏名又は名称】アセイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】堀井 和由
(72)【発明者】
【氏名】坂野 昇一
(72)【発明者】
【氏名】小田代 健
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-279422(JP,A)
【文献】特開2016-61563(JP,A)
【文献】特開2019-100831(JP,A)
【文献】特開2006-317384(JP,A)
【文献】特開2019-23565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0056329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/00-11/324
G01N 35/00
G01N 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した浸透材が浸透体に浸透することにより
、複数の設定温度での熱履歴を検知する熱履歴検知ラベルであって、
第1の融点を有する第1浸透材と、第1の融点よりも高い第2の融点を有する第2浸透材とを一体的に含む浸透材と、
前記浸透材が浸透する浸透体とを備える、熱履歴検知ラベル。
【請求項2】
前記浸透体内の浸透により前記浸透材が到達可能であり、到達した前記浸透材との接触により判別される判別部をさらに備える、請求項1に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項3】
前記第1浸透材は、前記第1の融点を有する第1油性成分を含み、
前記第2浸透材は、前記第2の融点を有する第2油性成分を含む、請求項2に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項4】
前記浸透体はシート形状を有した紙であり、
前記浸透材は、前記浸透体の面方向に沿って前記判別部から離れた位置に設けられている、請求項2または3に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項5】
前記浸透体は、前記浸透材が設けられる第1部分と、前記判別部が設けられる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間を繋ぐ第3部分と、を含み、
前記第3部分は、前記浸透材が通過する断面積が小さくされた絞り部を含む、請求項2~4のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項6】
前記浸透体は、前記絞り部を複数含む、請求項5に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項7】
前記第3部分は、複数の前記絞り部の間に、前記絞り部よりも前記断面積が大きい通路部を有し、
前記通路部の上流端および下流端の対角となる位置に、それぞれ前記絞り部が設けられている、請求項6に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項8】
前記浸透材は、前記第1浸透材と前記第2浸透材との混合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項9】
前記浸透材は、前記第1浸透材と、前記第2浸透材とが積層された積層構造を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項10】
前記第1浸透材が前記浸透体に接し、前記第2浸透材が前記第1浸透材に積層されている、請求項9に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項11】
前記第1浸透材および前記第2浸透材は、飽和炭化水素を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項12】
前記浸透材は、前記第1の融点から前記第2の融点までの各温度における前記判別部への到達時間の第1変化曲線が、各温度における監視対象の許容時間である第2変化曲線に沿った形状となるように構成されている、請求項2~7のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項13】
前記判別部は、それぞれ異なる熱積算量で前記浸透材が到達するように複数設けられている、請求項2~7のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項14】
複数の前記判別部は、前記浸透体を移動する前記浸透材が順次通過する位置に配置されている、請求項13に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項15】
前記判別部は、前記浸透材との接触により視覚的外観が変化するように構成されている、請求項2~7のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項16】
前記浸透材は、18℃以上40℃以下の融点を有する2種類以上のワックスを一体的に含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベル。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載の熱履歴検知ラベルと、
試薬を収容し、検体測定装置による検体の測定に用いられる容器と、を備え、
前記熱履歴検知ラベルは、前記容器に貼付されている、試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経時的な熱履歴を検知する熱履歴検知ラベルおよび熱履歴検知ラベルを備えた試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、
図26に示すように、ベースフィルム901と、ベースフィルム901の表面に設置された感温材902と、端部が感温材902に重畳するようにベースフィルム901上に設置された短冊状の吸収発色材903と、を備えた経時変化型示温ラベル900が開示されている。予め設定された温度以上になると、感温材902が融解し、吸収発色材903に浸み込み、吸収発色材903の表面側に位置する不透明部分を透明化する。その結果、吸収発色材903は、透明化部分において、裏面側の彩色面が透けて発色するように見える。融解した感温材902は時間の経過とともに浸み込み面積を増していく。設定温度超過の累積時間を発色部分の大きさから把握することができる。
【0003】
上記特許文献1では、それぞれ異なった任意の設定温度で融解を開始する複数の感温材902a~902jをベースフィルム901上に並列状態で設置し、それぞれの感温材に吸収発色材903a~903jを設けることが開示されている。これにより、監視すべき温度範囲に亘る複数の設定温度超過の累積時間を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の示温ラベルは、熱履歴を監視したい対象物に貼付されることにより、対象物の熱履歴の管理に用いられる。熱履歴の管理においては、しばしば、監視すべき温度範囲に亘って、温度毎に別々に設定された累積時間を越えたか否かが管理される。たとえばA[℃]ではX時間、B[℃]ではY時間、C[℃]ではZ時間までの累積が許容されるといったように、設定温度毎に、異なる熱履歴のパターンが設定されうる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の示温ラベルでは、監視すべき温度範囲に亘る複数の熱履歴パターンを検知するには、設定温度の異なる複数の感温材および複数の吸収発色材をベースフィルム上に並べて配置する必要がある。その結果、示温ラベルのサイズが大きくなるため対象物における貼付スペースが大きくなってしまう。そこで、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴の検知を行えるようにすることが望まれている。
【0007】
この発明は、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を検知することに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の熱履歴検知ラベル(100)は、
図1に示すように、溶融した浸透材(10)が浸透体(20)に浸透することにより
、複数の設定温度での熱履歴を検知する熱履歴検知ラベルであって、第1の融点を有する第1浸透材(11)と、第1の融点よりも高い第2の融点を有する第2浸透材(12)とを一体的に含む浸透材(10)と、浸透材(10)が浸透する浸透体(20)とを備える。
【0009】
なお、本明細書において、「第1浸透材と第2浸透材とを一体的に含む」とは、第1浸透材と第2浸透材とが合わさって1つの浸透材として構成されていることを意味し、第1浸透材と第2浸透材とが混合されて一体化すること、および、第1浸透材と第2浸透材とが積層されて一体化することを含む概念である。
【0010】
本発明の熱履歴検知ラベル(100)では、上記のように、浸透材(10)が第1浸透材(11)と第2浸透材(12)とを一体的に含むので、複数の設定温度での浸透材(10)の流動特性を調整できる。つまり、温度によって許容時間が異なる熱履歴を監視したい対象物に対して、第1浸透材(11)の第1の融点、第2浸透材(12)の第2の融点、第1浸透材(11)と第2浸透材(12)との割合などによって、溶融した浸透材(10)が浸透体(20)に浸透することにより複数の設定温度での熱履歴を検知するための経過時間を調整できる。これにより、設定温度毎に浸透材を複数設けることなく、単一の浸透材(10)によって、複数の設定温度での熱履歴を検知することができる。そのため、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を検知することができる。
【0011】
この発明の試薬キット(500)は、
図20に示すように、上記発明による熱履歴検知ラベル(100)と、試薬(512)を収容し、検体測定装置(550)による検体の測定に用いられる容器(510)と、を備え、熱履歴検知ラベル(100)は、容器(510)に貼付されている。
【0012】
本発明の試薬キット(500)では、上記発明による熱履歴検知ラベル(100)が試薬(512)を収容した容器(510)に貼付されるので、設定温度毎に浸透材を複数設けることなく、単一の浸透材(10)によって、複数の設定温度での熱履歴を検知することができる。そのため、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を検知することができる。この結果、貼付スペースが限定されやすい試薬(512)の容器(510)でも熱履歴検知ラベル(100)を容易に貼付でき、容器(510)内に収容された試薬(512)について監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を監視できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】熱履歴検知ラベルを説明するための模式図である。
【
図4】浸透材のDSC曲線の一例を示すグラフである。
【
図5】浸透材の構成に依存した浸透材の流動特性の変化を示すグラフである。
【
図6】浸透材の構成する成分のDSC曲線が分離する例(A)および浸透材の構成する成分のDSC曲線が重複する例(B)を示した模式図である。
【
図7】熱履歴検知ラベルの判別部の第1の例を示した図である。
【
図8】熱履歴検知ラベルの判別部の第2の例を示した図である。
【
図9】浸透体に絞り部を設ける例を示した図である。
【
図10】浸透材の浸透パターンを説明するための模式図である。
【
図11】浸透材の浸透長さと経過時間との関係を調査した実験結果を示すグラフである。
【
図12】浸透材の量と浸透長さとの関係を調査した実験結果を示すグラフである。
【
図13】熱履歴検知ラベルの第1の具体的構成例を説明するための分解図である。
【
図14】
図13に示した熱履歴検知ラベルの構造を説明するための断面図である。
【
図16】第1の具体的構成例における浸透体の構成を示した平面図である。
【
図17】
図16における浸透材の浸透パターンを説明するための模式図である。
【
図18】比較例による浸透材の浸透パターンを説明するための模式図である。
【
図19】熱履歴検知ラベルの第1の適用例である試薬キットを示す図である。
【
図20】
図19の試薬キットを用いて測定を行う検体測定装置を示す図である。
【
図21】第1の具体的構成例における第1変化曲線および第2変化曲線を示したグラフである。
【
図22】熱履歴検知ラベルの第2の具体的構成例を説明するための断面図である。
【
図23】第2の具体的構成例における浸透体の構成を示した平面図である。
【
図24】第2の具体的構成例における浸透体の他の構成を示した平面図である。
【
図25】熱履歴検知ラベルの第2の適用例であるモールド変圧器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(熱履歴検知ラベルの概要)
図1を参照して、本実施形態による熱履歴検知ラベル100について説明する。
【0017】
熱履歴検知ラベル100は、溶融した浸透材10が浸透体20に浸透することにより熱履歴を検知するラベルである。ラベルは、物の表面に取り付けて、その物に関連する情報を表すシート状部材である。ラベルは、物の表面に対する貼付、ピンなどの止め具による固定、物に貼付される保護シートに包まれることによる固定、などの方法で、物に取り付けられる。熱履歴検知ラベル100は、熱履歴を監視したい対象物に取り付けられることにより、対象物の熱履歴の管理に用いられる。
【0018】
熱履歴検知ラベル100は、浸透材10と、浸透体20とを備える。
【0019】
浸透材10は、所定温度以上で溶融する。浸透材10は、所望の温度で溶融するものであれば、構成材料は限定されない。浸透材10は、所定温度よりも低い温度では、一定形状で流動しない状態となる。一定形状で流動しない状態は、たとえば固体の状態であるが、半固体状態でもよい。浸透材10は、所定温度以上になると、溶融して浸透体20に浸透可能な状態となる。温度によって粘性が変化するので、浸透材10は、所定温度では固液混相状態で、所定温度よりも高い温度では完全な液体の状態となってもよい。浸透材10の溶融温度は、浸透材10の構成材料によって、任意に設定されうる。
【0020】
浸透材10は、1つまたは複数設けられるが、好ましくは1つ設けられる。浸透材10の数が少ないほど省スペース化を図ることができる。浸透材10は、浸透体20に直接接触するか、または溶融した浸透材10が流通可能な中間部材を介して浸透体20に接続される。
【0021】
浸透体20は、溶融した浸透材10を吸収し、浸透材10が浸透するように構成されている。つまり、浸透体20は、内部および/または表面において溶融した浸透材10が浸み込んで移動可能な間隙を有している。浸透材10は、浸透体20に吸収されると、吸収量に応じて浸透体20内を浸透により移動する。浸透材10は、浸透体20に吸収された位置から離れる方向に向けて、浸透範囲25を拡大するように移動する。浸透体20は、たとえば紙および不織布などの繊維の集合体、または多孔質材料などにより構成されうる。浸透体20としては、浸透材10が染み込みやすい吸収性の素材であればよい。
【0022】
熱履歴検知ラベル100は、所定温度よりも低温の状態では、浸透材10が流動せず、状態が変化しない。熱履歴検知ラベル100は、所定温度以上になると、浸透材10が溶融して浸透体20に吸収され、浸透体20内を浸透する。浸透体20に対する浸透材10の浸透面積は、所定温度以上の温度に曝された累積時間の増大に伴って拡大する。浸透材10の浸透面積の変化に基づいて、熱履歴検知ラベル100が取り付けられた対象物に対して、監視すべき温度範囲に亘って、温度毎に別々に設定された累積時間を越えたか否かを検知することができる。対象物の熱履歴の管理は、典型的には、熱に起因する物品の劣化度合いの監視に利用されるが、物品の劣化の進行は、必ずしも温度変化に対して線形ではないため、劣化度合いは、どの温度に、どれだけの時間曝されたか、によって評価されうる。
【0023】
具体的には、本実施形態では、浸透材10は、第1の融点を有する第1浸透材11と、第1の融点よりも高い第2の融点を有する第2浸透材12とを一体的に含んでいる。
【0024】
浸透材10は、少なくとも第1浸透材11と第2浸透材12との、融点の異なる複数種の浸透材を含む。浸透材10は、第1浸透材11および第2浸透材12に加えて、さらに融点の異なる第3浸透材、第4浸透材、第5浸透材、・・・を含みうる。浸透材10は、このように、融点の異なる複数種の浸透材を一体的に含んで、単一の浸透材10として構成されている。
【0025】
典型的には、浸透材10は、第1の融点よりも低い温度では溶融を開始しない。第1の融点以上で第2の融点よりも低い温度では、第1浸透材11が溶融して、浸透体20に浸透する。第2の融点以上では、第1浸透材11だけでなく第2浸透材12が溶融して、浸透体20に浸透する。
【0026】
これにより、本実施形態では、第1の基準温度、第1累積時間の第1の熱履歴パターンの熱履歴を検知可能で、かつ、第2の基準温度、第2累積時間の第2の熱履歴パターンの熱履歴を検知可能なように、熱履歴検知ラベル100が設計される。浸透材が単一の融点の成分により構成されている場合、単一の融点よりも高い温度では、浸透材が完全に液相になり累積時間を制御できないが、本実施形態では、浸透材10が複数の融点の材料を含むので、複数の基準温度の各々において、別々に累積時間を設定できる。
【0027】
たとえば、
図1(A)では、第1の基準温度(A[℃])に第1累積時間(X[時間])の間曝された場合に、浸透材10が浸透体20の末端部まで浸透する。そして、浸透材10は、第2の基準温度(B[℃])で第2累積時間(Y[時間])の間曝された場合に、浸透材10が浸透体20の末端部まで浸透する。第2の基準温度は第1の基準温度よりも高く、第2累積時間は第1累積時間よりも短い。
【0028】
(熱履歴検知ラベルの効果)
本実施形態による熱履歴検知ラベル100では、上記のように、浸透材10が第1浸透材11と第2浸透材12とを一体的に含むので、複数の設定温度での浸透材10の流動特性を調整できる。つまり、温度によって許容時間が異なる熱履歴を監視したい対象物に対して、第1浸透材11の第1の融点、第2浸透材12の第2の融点、第1浸透材11と第2浸透材12との割合などによって、溶融した浸透材10が浸透体20に浸透することにより複数の設定温度での熱履歴を検知するための経過時間を調整できる。これにより、設定温度毎に浸透材を複数設けることなく、単一の浸透材10によって、複数の設定温度での熱履歴を検知することができる。そのため、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を検知することができる。
【0029】
(浸透材の構成例)
図2に示す例では、浸透材10は、第1浸透材11と第2浸透材12との混合物である。浸透材10では、第1浸透材11と第2浸透材12とが混合され区別できない状態で一体化されている。
【0030】
このように構成すれば、融点の異なる第1浸透材11と第2浸透材12との混合によって、監視すべき温度範囲に渡る浸透材10の温度と流動性との関係を精度よく調整できる。
【0031】
図3に示す例では、浸透材10は、第1浸透材11と、第2浸透材12とが積層された積層構造を有する。第1浸透材11と、第2浸透材12とは、たとえば、浸透体20の表面に、所定の順番で積層される。
【0032】
このように構成すれば、第1浸透材11のみが溶融する第1の融点以上かつ第2の融点未満の温度状態と、第1浸透材11のみならず第2浸透材12も溶融する第2の融点以上の温度状態とで、浸透体20に浸透する浸透材10の量を段階的に増大させることができる。そのため、熱履歴パターンの相違を明確に検知できる。
【0033】
図3の例では、第1浸透材11が浸透体20に接し、第2浸透材12が第1浸透材11に積層されている。第2浸透材12は、浸透体20とは非接触の状態で設けられている。
【0034】
このように構成すれば、温度上昇に伴って、まず第1浸透材11を浸透体20に浸透させて、更なる温度上昇があった場合に、第2浸透材12を浸透体20に浸透させることができる。そして、第2浸透材12が第1浸透材11に積層されているため、第1浸透材11が浸透体20に浸透する際に、固体状の第2浸透材12が浸透の邪魔になることが回避できる。
【0035】
(浸透材の材料)
第1浸透材11、第2浸透材12の材料は、特に限定されないが、所定温度に対して所望の流動特性を有することを前提として、一定の使用期間の間に渡って性質が変化しない安定性を有することが望ましい。すなわち、第1浸透材11および第2浸透材12の材料は、周辺雰囲気などの環境中の空気、水、酸、塩基などに対して安定性が高いことが望ましい。ここで、「安定性が高い」とは、上記の外来物質との化学反応などの相互作用によって第1浸透材11および第2浸透材12の熱特性が変化しないことである。
【0036】
第1浸透材11および第2浸透材12は、たとえば油性成分を含有する。油性成分は、たとえば炭化水素、液体油脂、固体油脂、ロウ、高級脂肪酸、高級アルコール、合成エステル油、シリコーン油等が挙げられる。第1浸透材11および第2浸透材12は、含有する油性成分の相違によって、融点が異なる。すなわち、第1浸透材11は、第1の融点を有する第1油性成分を含み、第2浸透材12は、第2の融点を有する第2油性成分を含みうる。
【0037】
第1浸透材11および第2浸透材12は、たとえば、飽和炭化水素を含む。第1浸透材11および第2浸透材12は、飽和炭化水素を主成分として含むことが好ましい。第1浸透材11および第2浸透材12は、たとえば、飽和炭化水素を70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、または99重量%以上、含む。第1浸透材11および第2浸透材12は、不可避的に混入する夾雑物質を除いて飽和炭化水素の単一成分でありうる。
【0038】
炭化水素は炭素と水素だけから成る分子の総称である。飽和炭化水素は、単結合のみで構成されている炭化水素である。飽和炭化水素は、直鎖状でも、環状でもよい。飽和炭化水素は、同一の分子式で表される各種の異性体のいずれでもよい。
【0039】
飽和炭化水素は、単結合のみからなる炭化水素であるため、反応性が低く酸や塩基によって影響を受けにくく、疎水性であり空気中の水分にも影響を受けない。そのため、飽和炭化水素により第1浸透材11および第2浸透材12を構成することによって、融点や流動特性が変動しにくく極力設計通りに振る舞う浸透材10を得ることができる。その結果、熱履歴検知ラベル100の固体ばらつきを低減できる。
【0040】
以下の表1に、飽和炭化水素の例と、融点とを示す。
【表1】
【0041】
浸透材10は、たとえば表1の飽和炭化水素のうちから、監視すべき温度範囲に応じた融点を有するいずれか2つの飽和炭化水素を、第1浸透材11および第2浸透材12として含みうる。言うまでもなく、上記表1の飽和炭化水素は一例であり、上記表1に記載されていない飽和炭化水素が選択されてもよい。
【0042】
(浸透材の設計)
浸透材10が後述する判別部30に到達するまでの熱履歴パターンは、浸透材10の量、浸透材10の流動性に関する温度特性と、浸透体20の浸透経路の形状と、により調整される。
【0043】
図4は、飽和炭化水素のDSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)分析結果であるDSC曲線50の例を示す。DSCは、測定試料と基準物質との間の熱量の差を計測することで、融点などの熱特性を測定する分析手法である。
図4において、縦軸は熱流[mW]を表し、横軸は温度[℃]を表す。また、
図4は、飽和炭化水素の融点付近のDSC曲線50を示している。
【0044】
DSC曲線50において、物質の溶融は、吸熱反応を示す下向きのピークとして表される。物質の融点は、DSC曲線50のピーク温度(ピークトップ温度)51に相当する。固相の物質は、物質温度上昇に伴って、オンセット温度52で溶け始め、エンドセット温度53で完全に液相となる。飽和炭化水素からなる浸透材10では、ピークの立ち上がりからピーク温度51付近に至る温度範囲で流動性が上昇し(粘性が低下し)、ピーク温度51よりも高い温度では流動性が概ね一定となる。すなわち、単一の飽和炭化水素からなる浸透材10は、融点付近で温度上昇に伴って流動性が急激に変化する特性を示す。
【0045】
図5は、複数の飽和炭化水素を組み合わせた浸透材10の温度-流動性の変化を概念的に示す模式図である。ここでは一例として、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13の3つの成分を組み合わせた浸透材10の流動特性を示す。流動性は、浸透体20における浸透材10の移動速度と考えてよい。
【0046】
図6の(A)に示す例では、浸透材10は、各々のDSC曲線50が互いに重複しない第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13を一体的に含む。DSC曲線50が互いに重複しないとは、少なくともDSC曲線50(
図4参照)のオンセット温度52からエンドセット温度53までの温度範囲が互いに重複せずに分離していることである。
図6(A)では、便宜的に、各DSC曲線50(
図4参照)の立ち上がり点54aからベースラインとの合流点54bまでの吸熱ピークの全体が互いに重複しない例を示している。
【0047】
図6(A)の場合、浸透材10は、
図5の実線で示す特性曲線55aのように、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13の各融点に応じて流動性が段階的に変化する。浸透材10に含める各浸透材11~13の融点、各浸透材11~13の含有比率などを調整することによって、所望の温度範囲内における特性曲線55aの形状が制御できる。浸透材10が第3浸透材13を含まず第1浸透材11および第2浸透材12のみの場合、段差が2段になる。
【0048】
図6(B)に示す例では、浸透材10は、各々のDSC曲線50が互いに重複する第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13を一体的に含む。DSC曲線50が互いに重複するとは、各DSC曲線50(
図4参照)の吸熱ピークの立ち上がり点54aからベースラインとの合流点54bまで吸熱ピークの範囲が部分的に重複していることである。
【0049】
図6(B)の場合、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13の融点付近の温度範囲が互いに近接している。そのため、浸透材10は、
図5の破線で示すように、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13の各々の特性曲線を合成したような滑らかな曲線状の特性曲線55bとなる。浸透材10の量、浸透材10に含める各浸透材11~13の融点、各浸透材11~13の含有比率などを調整することによって、所望の温度範囲内における特性曲線55bの形状を制御できる。浸透材10が第3浸透材13を含まず第1浸透材11および第2浸透材12のみの場合、特性曲線55bの傾斜部分の幅が狭くなる。
【0050】
図5に示した流動性は、浸透体20における浸透材10の移動速度に相当するため、浸透材10の移動速度の制御によって、判別部30へ到達するのに要する累積時間を制御できる。したがって、監視すべき温度範囲に含まれる各温度において、所望の累積時間で判別部30に到達可能な浸透材10が構成できる。
【0051】
(熱履歴検知ラベルの構造)
図7および
図8に示す例では、熱履歴検知ラベル100が、浸透体20内の浸透により浸透材10が到達可能であり、到達した浸透材10との接触により判別される判別部30を備える。
【0052】
このように構成すれば、たとえば浸透体20に対する浸透面積や浸透長さなどを測ることなく、浸透材10が判別部30に接触したか否かに応じて、熱履歴検知ラベル100が設定された熱履歴を検知したか否かを容易かつ明確に判別できる。
【0053】
判別部30は、浸透体20に直接接触するか、または浸透材10が流通可能な中間部材を介して浸透体20に接続される。判別部30は、浸透体20の一部であってもよい。
【0054】
判別部30は、到達した浸透材10との接触により状態が変化するように構成されている。判別部30は、たとえば、浸透材10との接触により、不可逆的に状態が変化する。判別部30は、浸透材10との接触により、たとえば光学的状態、電気的状態、磁気的状態などについて検出可能な変化が生じる。判別部30は、たとえば浸透材10が浸透することによって光学的特性が変化する。この場合、判別部30の視覚的外観が変化することにより状態変化を視認できるか、または光センサによって変化を検出できる。判別部30は、たとえば浸透材10との接触によって、非通電状態から通電状態に変化し、または通電状態から非通電状態に変化する。この場合、通電状態の変化が電流センサ、光源、ブザーなどの電力変換素子によって検知できる。磁気的状態の変化についても、磁気センサや磁性体を用いて磁気的状態の変化が検出できる。熱履歴検知ラベル100は、このような状態の変化を検出するためのセンサを備えていてもよいし、センサを備えた機器をユーザが使用することにより、判別部30の状態変化を検出してもよい。
【0055】
浸透材10、浸透体20および判別部30は、たとえば、熱履歴検知ラベル100の厚み方向に重なって配置されうる。この場合、浸透材10は、たとえば浸透体20を介して、熱履歴検知ラベル100の表面側に配置された判別部30に向けて厚み方向に浸透する。また、たとえば、浸透材10および判別部30が、熱履歴検知ラベル100の面内で離れた位置に配置されうる。この場合、浸透材10は、浸透体20を介して熱履歴検知ラベル100の面方向に浸透し、判別部30に到達する。浸透体20は、設計された熱履歴パターンで浸透材10が判別部30に到達するように浸透材10の移動時間を調節する役割を果たす。
【0056】
図7および
図8の例では、浸透体20はシート形状を有した紙であり、浸透材10は、浸透体20の面方向に沿って判別部30から離れた位置に設けられている。浸透体20は第1端と第2端とを有する帯状形状を有し、浸透材10が第1端に設けられ、判別部30が第2端側に設けられている。浸透材10は、浸透体20の第1端側から第2端側に向けて浸透し、判別部30に到達する。
【0057】
このように構成すれば、浸透材10を浸透により面方向に移動させて判別部30に到達させるので、浸透材10と判別部30との間の浸透経路の長さを容易に大きくできる。その結果、複数の監視温度の各々で浸透材10が判別部30に到達するのに要する時間を容易に調整できる。
【0058】
判別部30は、熱履歴検知ラベル100に1つまたは複数設けられる。
図7に示す第1の例では、異なる基準温度および異なる累積時間の複数の熱履歴パターンが、熱履歴検知ラベル100により検知される。浸透材10は、たとえば、第1の基準温度(A[℃])に第1累積時間(X[時間])の間曝された場合に、浸透体20を通って1つの判別部30に到達する。そして、浸透材10は、第2の基準温度(B[℃])で第2累積時間(Y[時間])の間曝された場合に、浸透体20を通って1つの判別部30に到達する。
【0059】
第1の例による熱履歴検知ラベル100は、判別部30の状態が変化する基準温度および累積時間の両方が異なるため、熱により非線形的に劣化する物品の使用期限や消費期限などの管理に適する。
【0060】
図8に示す第2の例による熱履歴検知ラベル100は、第1の判別部30aと第2の判別部30bとを含む。第2の例では、異なる基準温度、同一の累積時間の複数の熱履歴パターンが、熱履歴検知ラベル100により検知される。浸透材10は、たとえば、第1の基準温度(A[℃])に所定の累積時間(Z[時間])の間曝された場合に、浸透体20を通って第1の判別部30aに到達する。そして、浸透材10は、第2の基準温度(B[℃])で所定の累積時間(Z[時間])の間曝された場合に、浸透体20を通って第2の判別部30bに到達する。第2の基準温度は第1の基準温度よりも高く、第2の判別部30bは、第1の判別部30aよりも浸透材10から離れている。
【0061】
第2の例による熱履歴検知ラベル100は、設定された一定時間の間で、判別部30の状態が変化する基準温度が異なるため、たとえば、設備や機器に対して一定時間毎に実施される定期検査などにおける熱的な劣化の評価に適する。
【0062】
このように、第2の例では、判別部30は、それぞれ異なる熱積算量で浸透材10が到達するように複数設けられている。
【0063】
このように構成すれば、一定の累積時間の間、第1の温度に曝された場合に1つ目の判別部30aの状態が変化し、一定の累積時間の間、第2の温度に曝された場合に2つ目の判別部30bの状態が変化する、といった熱履歴検知ラベル100を構成できる。これにより、たとえば監視対象の定期検査において、どのような熱履歴が監視対象に作用したかが容易に判別できる。
【0064】
(絞り部)
図9に示すように、浸透体20には、浸透材10が通過する断面積が小さくされた絞り部40を設けることができる。
図9の例では、絞り部40は、浸透体20の他の部分よりも幅狭に形成された部分である。絞り部40は、浸透体20の厚みが他の部分よりも小さくなるように形成された部分であってもよい。
【0065】
絞り部40について説明する。
図10に示すように、浸透体20の幅が十分に大きい部分では、浸透材10は浸透範囲を拡大するように任意の方向へ拡がる。特に浸透体20が紙などのランダムな多孔質材料である場合、浸透材10の浸透パターンは浸透体20毎に相違しうる。なお、浸透パターンとは、浸透材10が浸透した浸透領域の外縁PEの経時的な変化のことである。たとえば
図10の実線で示す浸透パターンおよび破線で示す浸透パターンのように、浸透材10の浸透パターンは浸透体20の個体毎に相違する。このような浸透パターンの相違は、判別部30へ到達するまでの累積時間のばらつきの要因となる。
【0066】
これに対して、
図9に示すように絞り部40が設けられる場合、絞り部40において浸透材10の通過抵抗が増大する。そのため、浸透材10は、絞り部40の上流側が概ね浸透材10で満たされるまで、絞り部40で浸透材10の通過が抑制される。このため、浸透材10が絞り部40を通過するタイミングを制御できる。そして、浸透材10が絞り部40を通過すると、絞り部40の出口が浸透材10の供給点となって、絞り部40から浸透範囲が拡大するようにして浸透が進行する。このため、絞り部40の上流側での浸透材10の浸透パターンがばらついても、絞り部40を通過することで、浸透パターンのばらつきがリセットされることになる。
【0067】
このように、絞り部40を設ける構成によれば、浸透材10が絞り部40を通過する際の通過タイミングのばらつきを抑制できる。また、絞り部40において浸透材10の浸透経路が制限されるので、絞り部40の上流側での浸透材10の浸透パターンがばらついても、絞り部40の下流側で浸透パターンのばらつきをリセットできる。
【0068】
図9の例では、浸透体20の一部に切り欠き41を形成することによって、絞り部40が形成されている。これに代えて、切り欠き41の部分に浸透材10が浸透しない非浸透性領域を形成することによって、絞り部40を形成してもよい。たとえば切り欠き41の部分に、監視温度範囲よりも十分に高い融点を有する樹脂材料を含浸させて、非浸透性領域を形成してもよい。
【0069】
[実験例]
浸透材10による浸透現象に関する実験結果について説明する。浸透現象には、一般に、毛細管現象と濃度勾配による拡散現象が知られている。両方の現象に共通するのは、浸透体における浸透長さが、浸透の時間をtとして、時間の平方根(√(t))に比例することである。
【0070】
熱履歴検知ラベル100では、より長期の累積時間に亘る熱履歴を検知可能とするため、時間の平方根(√(t))に比例する関係よりも更に浸透が遅くすることが望まれる。そこで、本願発明者は、浸透長さに影響する要因を検証する以下の実験を行った。
【0071】
実際の熱履歴検知ラベルにおいて、浸透長さと浸透時間の関係、特に、浸透長さと浸透材10の量の関係を実験的に調査した。
図11は、浸透長さと浸透時間の関係を調査した実験結果を示すグラフであり、縦軸が浸透長さを示し、横軸が経過時間を示す。実験は、短冊状の浸透体20の第1端に浸透材10を配置し、第2端に向けて浸透する浸透長さを計測した。浸透体20の一定の単位長さを1として、浸透長さを単位長さに対する相対値として求めた。浸透長さは、時間の平方根に比例するとされるが、
図11では、浸透長さは時間の3乗根に比例して進行していた。
【0072】
図12は、浸透長さと浸透材10の量の関係を調査した実験結果を示すグラフであり、縦軸が浸透長さを示し、横軸が浸透材の量を示す。
図12は、浸透材10の量を19.2mg、21.6mg、23.5mg、24mg、25.4mgの5種類で変え、3日後の浸透長さをプロットした実験結果である。浸透長さが浸透材10の量の指数に比例して進行していた。
【0073】
図11および
図12に示した実験結果から、浸透材10の浸透長さの量的依存性を利用して、浸透体20の途中で、それに引き続く浸透体20へ入るべき浸透材10の量を減少させる絞り部40を設けることが、浸透材10の浸透を遅くするために有効であるという知見が得られた。絞り部40により浸透量が少なくなれば、一定期間内の浸透長さは小さくなり、浸透を遅くすることになる。
【0074】
絞り部40の効果を有効に得るためには、浸透経路上の複数箇所に絞り部40を設けることが好ましい。特に、上流側の絞り部40と下流側の絞り部40とが、上流側の絞り部40と下流側の絞り部40との間の浸透領域の対角となる位置に、それぞれ設けられていることが好ましい。
【0075】
(熱履歴検知ラベルの第1の構成例)
図13~
図17を参照して、熱履歴検知ラベル100のより具体的な第1の構成例を示す。
【0076】
図13~
図15に示す熱履歴検知ラベル100は、浸透材10、浸透体20、判別部30、基材110、カバー材120を備える。
【0077】
基材110は、シート状形状を有する。基材110は、たとえば白色のPET(ポリエチレンテレフタラート)などの樹脂フィルムである。基材110の一方表面が、浸透材10、浸透体20、判別部30が設置される設置面であり、他方表面が接着面となっている。基材110の他方表面が、熱履歴検知ラベル100の裏面であり、対象物に貼付するための接着面である。基材110の一方表面側が、貼付状態で外部から視認可能な表示面側である。
【0078】
浸透体20は、シート形状を有した紙である。浸透体20は、第1端および第2端を有し、平面視において複数回屈曲した1本の浸透経路を構成している。浸透体20は、全体として長方形の外形形状を有する。
【0079】
図14では、浸透材10および判別部30が、浸透体20に直接接触するように設けられている。浸透体20の一方表面に、判別部30が設けられている。浸透材10は、浸透体20の一方表面および他方表面のいずれに設けられていてもよいが、
図14の例では他方表面に設けられている。
【0080】
浸透材10は、浸透体20の第1端と重複する位置に配置されている。浸透材10は、具体的には、シート状の貯留部材に溶融した浸透材10を吸収させた形態で設けられ、浸透体20の表面に接着されている。貯留部材は、たとえば紙、多孔質部材などである。浸透材10は、貯留部材に吸収された状態で固化しており、溶融すると貯留部材から浸みだして浸透体20に吸収される。浸透材10を貯留部材に吸収させることにより、固体状の浸透材10の塊を直接設置する場合と比べて、浸透材10の量(体積)を精密に定量できる。
【0081】
図13~
図15の例では、判別部30は、浸透材10との接触により視覚的外観が変化するように構成されている。
【0082】
このように構成すれば、たとえばセンサなどを用いることなく、判別部30の状態が変化したことを一見して容易に判別できる。そのため、極力簡素な構成で小型の熱履歴検知ラベル100を構成できる。
【0083】
判別部30は、浸透材10を吸収することで光学的特性が変化する。具体的には、
図14に示すように、判別部30は、表面側の不透明な被覆部31と、裏面側の着色部32とを含んでいる。被覆部31と着色部32とは、異なる色を有する。たとえば被覆部31が白色で、着色部32が赤色である。浸透材10を吸収していない状態では、判別部30は、被覆部31が視認される。浸透材10を吸収すると、被覆部31が透明化され、透明化された被覆部31を介して着色部32が視認可能となる。その結果、判別部30は、浸透材10を吸収することで色が変化するように見える。判別部30が被覆部31の色から着色部32の色へ、視覚的外観が変化したことに基づいて状態の変化が把握できる。
【0084】
判別部30の視覚的外観の変化は、単なる色の変化の他に、文字、絵または図形などの表示パターンの変化であってもよく、色および表示パターンの変化の組み合わせであってよい。表示パターンの変化は、非表示状態からの表示パターンの出現、表示されていた表示パターンの消失、表示されていた表示パターンの形態変化、のいずれかでありうる。
【0085】
図16に示すように、判別部30は、浸透体20の第2端と重複する位置に配置されている。判別部30は、シート形状を有し、浸透体20の一方表面に接着されている。判別部30は、少なくとも熱履歴検知ラベル100の外部から視認可能な程度の面積を有する。
【0086】
図14に戻り、カバー材120は、基材110の一方表面に設けられた浸透材10、浸透体20および判別部30を覆うように設けられている。浸透材10、浸透体20および判別部30は、基材110とカバー材120とに包まれて外部から隔離される。カバー材120は、少なくとも判別部30を外部から視認可能なように構成されている。
図15の例では、カバー材120は、判別部30と重なる位置に透明な窓部121が形成され、窓部121以外の遮蔽部122が不透明材料で形成されている。
図15は、窓部121を介して視認される判別部30を示しており、便宜的に、判別部30の視覚的外観が変化したことをハッチングにより示している。
【0087】
(浸透体の構成)
図16に示すように、浸透体20は、浸透材10が設けられる第1部分21と、判別部30が設けられる第2部分22と、第1部分21と第2部分22との間を繋ぐ第3部分23と、を含む。浸透体20は、第1端に配置された第1部分21と、第2端に配置された第2部分22とが、浸透経路を構成する1本の第3部分23によって接続された構造を有する。
【0088】
第1部分21は、上記のように浸透材10の設置領域を含む。浸透材10は、第1部分21の所定位置において浸透体20に重ねられた状態で接着される。溶融した浸透材10は、第1部分21において浸透体20に吸収され、第1部分21から第3部分23を経由して第2部分22の判別部30へ向けて浸透する。第1部分21は、溶融した浸透材10が第3部分23および第2部分22に行き渡ることが可能な量の浸透材10を設置可能な大きさに形成される。
【0089】
第2部分22は、上記のように判別部30の設置領域を含む。判別部30は、第2部分22において浸透体20の一方表面側に重ねられた状態で接着される。第2部分22は、熱履歴検知ラベル100の外部から判別部30の変色を確認可能な大きさに形成される。
【0090】
第3部分23は、浸透材10が判別部30に到達するまでの累積時間に応じた経路長となるように形成されている。
図16の例では、累積時間に対応した経路長を確保するため、第3部分23が、複数回屈曲した形状を有する。
【0091】
図16の例では、第3部分23は、浸透材10が通過する断面積が小さくされた絞り部40a~40cを含む。なお、
図16の例では、浸透体20は1枚のシート状部材(
図14参照)であり、実質的に一定の厚みを有する。そのため、断面積は、その部分の幅によって決まる。
図16の例では、絞り部40a~40cは、他の部分よりも幅狭に形成された部分である。
【0092】
このように、第3部分23に絞り部40a~40cを設ける構成によれば、浸透材10が絞り部40a~40cを通過する際の通過タイミングのばらつきを抑制できる。その結果、長時間の熱履歴検知に対応可能なように第3部分23の経路長を大きくしても、浸透材10が判別部30に到達するタイミングがばらつくことを抑制できる。また、絞り部40a~40cにおいて浸透材10の浸透経路が制限されるので、絞り部40a~40cの上流側での浸透材10の浸透パターンがばらついても、絞り部40a~40cの下流側で浸透パターンのばらつきをリセットできる。その結果、第3部分23の経路長を大きくしても、浸透材10の浸透パターンのばらつきを抑制して熱履歴検知ラベル100の個体差を小さくできる。
【0093】
図16の例では、浸透体20は、絞り部を複数含む。すなわち、浸透体20が、3つの絞り部40a~40cを含む。
【0094】
このように構成すれば、複数の絞り部40a~40cの各々において、浸透材10が通過する際の通過タイミングのばらつきを抑制できる。第3部分23の経路長を大きくするほど浸透材10の浸透パターンにばらつきが生じ易くなる。これに対して、複数の絞り部40a~40cによって、浸透経路の途中の複数箇所で浸透材10の通過タイミングを揃えることができる。その結果、長時間の熱履歴検知に対応可能なように第3部分23の経路長を大きくしても、浸透材10が判別部30に到達するタイミングがばらつくことを抑制できる。
【0095】
図16の例では、複数の絞り部40a~40cによって、第3部分23は、複数の領域に区分されている。第3部分23は、複数の絞り部40a~40cの間に、絞り部40a~40cよりも断面積が大きい通路部45a、45bを有している。つまり、第3部分23は、絞り部40aと絞り部40bとの間の通路部45aと、絞り部40bと絞り部40cとの間の通路部45bとを含む。
【0096】
絞り部40aは、第1部分21と第3部分23との接続位置に設けられている。
図17に示すように、第1部分21に供給された浸透材10が絞り部40aに到達すると、浸透材10の外縁PEの移動速度が低下し、第1部分21が浸透材10により概ね満たされてから絞り部40a内を通過する。このため、第1部分21における浸透パターンのばらつきおよび絞り部40aの通過タイミングのばらつきが、絞り部40aによって抑制される。
【0097】
図16の例では、絞り部40bは、第3部分23の中間位置に設けられている。絞り部40aと絞り部40bとの間の領域は、絞り部40a、40bよりも断面積が大きい通路部45aにより構成されている。
図17に示すように、通路部45aにおいて、絞り部40aの出口から浸透範囲が拡大するように浸透が進行する。通路部45aが浸透材10によって概ね満たされると、浸透材10が絞り部40bに進入して絞り部40b内を通過する。このため、通路部45aにおける浸透パターンのばらつきおよび絞り部40bの通過タイミングのばらつきが、絞り部40bによって抑制される。
【0098】
図16の例では、絞り部40cは、第2部分22と第3部分23との接続位置に設けられている。絞り部40bと絞り部40cとの間の領域は、絞り部40b、40cよりも断面積が大きい通路部45bにより構成されている。
図17に示すように、通路部45bにおいて、絞り部40bの出口から浸透範囲が拡大するように浸透が進行する。通路部45bが浸透材10によって概ね満たされると、浸透材10が絞り部40cに進入して絞り部40c内を通過する。このため、通路部45bにおける浸透パターンのばらつきおよび絞り部40cの通過タイミングのばらつきが、絞り部40cによって抑制される。
【0099】
このように、第2部分22と第3部分23との接続位置に絞り部40cを設ければ、浸透材10が、判別部30の直前の絞り部40cを通過して、判別部30に到達するタイミングのばらつきを効果的に抑制できる。そのため、熱履歴検知ラベル100の検知精度を向上させることができる。また、絞り部40cにより、判別部30の直前で浸透材10が通路部45bに貯留されてから、浸透材10が判別部30へ到達する作用が得られる。判別部30の直前に十分な量の浸透材10を確保できるので、判別部30への到達量が不足して判別部30の状態変化が不明瞭になることを抑制できる。
【0100】
すなわち、
図18に示す比較例のように、断面積が大きい通路部が存在せず、判別部930に接続するまでの浸透体920の断面積が継続して絞られている場合、第1部分921からの経路長が長くなるほど浸透材10の流量が低下することに加えて、通過抵抗の増大によっても浸透材10の流量が低下する。一方、視覚的外観が変化する判別部930では、一定以上の面積が求められる。そのため、
図18の比較例の構成では、判別部930へ浸透材10が流入し始めてから、外観を変化させるのに必要な量の浸透材10で判別部930が満たされるまでに時間がかかることになる。これでは、判別部930の外観の変化速度が非常に小さくなるため、外観の変化を視覚的に判別しにくくなってしまう。
【0101】
これに対して、
図17の構成では、絞り部40cにより、判別部30の直前の通路部45bに十分な量の浸透材10が貯留されてから浸透材10が第2部分22に流入するので、判別部30への浸透材10の流入量が不足することが抑制され、速やかな状態変化が実現される。
【0102】
また、
図16および
図17の構成例では、通路部45a、45bの上流端および下流端の対角となる位置に、それぞれ絞り部40が設けられている。すなわち、上流側の絞り部40aと下流側の絞り部40bとが、矩形状の通路部45aの対角となる位置に、それぞれ設けられている。上流側の絞り部40bと下流側の絞り部40cとが、矩形状の通路部45bの対角となる位置に、それぞれ設けられている。
【0103】
このように構成すれば、通路部45a、45bのうち、上流側の絞り部40から最も離れた位置に下流側の絞り部40が配置されるので、通路部45a、45bが浸透材10によって満たされてから浸透材10が下流側の絞り部40を通過する作用を、より効果的に得ることができる。これにより、浸透材10の浸透速度のばらつきを抑制しつつ、浸透材10が通路部45a、45bを通過するのに要する時間を効果的に長くすることができる。その結果、よりコンパクトで、より長い累積時間の熱履歴を検知可能な熱履歴検知ラベル100を得ることができる。
【0104】
(熱履歴検知ラベルの適用例)
次に、
図19および
図20を参照して、本実施形態の試薬キット500について説明する。
図13~
図17に示した熱履歴検知ラベル100は、たとえば検体検査に用いられる試薬キット500の品質管理に適用される。試薬キット500には、検体検査に用いられる試薬512を予め収容した容器510が含まれる。熱履歴検知ラベル100を用いた熱履歴の監視により、容器510中の試薬512の品質管理ができる。
【0105】
図19に示すように、本実施形態の試薬キット500は、熱履歴検知ラベル100と、試薬512を収容した容器510と、を備える。容器510は、検査用の試薬512を予め収容し、検体に含まれる被検物質の検出に用いられる検査用のカートリッジである。容器510は、複数の試薬収容部511を有する。試薬収容部511は、容器510の内部に形成された中空の空間であり、検査項目に応じた試薬512が予め収容されている。熱履歴検知ラベル100は、容器510に貼付されている。
【0106】
図20に示すように、容器510は、検体測定装置550による検体の測定に用いられる。具体的には、容器510は、検体導入口513(
図19参照)を有し、被検物質を含む検体が検体導入口513から容器510の内部に導入される。検体が導入された容器510は、検体測定装置550に設置される。検体測定装置550の動作によって、容器510内で、被検物質と試薬512(
図19参照)とが反応する。被検物質と試薬512との反応によって、容器510の内部から、被検物質に起因する検出可能な信号が発生する。検体測定装置550は、容器510の内部から発生した信号を検出することにより、被検物質の測定を行う。容器510は、交換可能な消耗品である。つまり、容器510は、予め設定された回数だけ測定に使用されると、廃棄される。
【0107】
熱履歴検知ラベル100は、たとえば容器510の表面に貼付される。容器510は、通常冷蔵の状態で、輸送および保管される。そのため、通常の状態では、熱履歴検知ラベル100の判別部30の色が変化することはない。容器510の使用時に、ユーザは、容器510の表面に付された熱履歴検知ラベル100を確認する。判別部30の色が変化している場合、容器510が、少なくともいずれかの基準温度における許容時間を越える熱履歴パターンに曝されたことが把握できる。
【0108】
また、たとえば検体測定装置550には、容器510の表面および内部を撮像可能な撮像部551が設けられ得る。検体測定装置550は、容器510がセットされ測定動作を開始する際、撮像部551により熱履歴検知ラベル100を撮像する。検体測定装置550は、撮像画像における判別部30の色を画像処理により判別し、判別部30の色が変化しているか否かを判定する。検体測定装置550は、判別部30の色が変化している場合にはその容器510を用いた測定動作を中止する。
【0109】
本実施形態の試薬キット500では、上記の熱履歴検知ラベル100が試薬512を収容した容器510に貼付されるので、設定温度毎に浸透材を複数設けることなく、単一の浸透材10によって、複数の設定温度での熱履歴を検知することができる。そのため、ラベルサイズの大型化を抑制しつつ、監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を検知することができる。この結果、貼付スペースが限定されやすい試薬512の容器510でも熱履歴検知ラベル100を容易に貼付でき、容器510内に収容された試薬512について監視すべき温度範囲に亘る熱履歴を監視できる。
【0110】
なお、被検物質は、たとえば被検者であるヒトから採取された検体に含まれる物質である。検体は、血液(全血、血清または血漿)、尿、組織液その他の体液、または、採取された体液や血液に所定の前処理を施して得られた液体などである。被検物質は、たとえば、抗原または抗体などのタンパク質、ペプチド、細胞および細胞内物質、DNA(デオキシリボ核酸)などの核酸であり得る。
【0111】
試薬512は、たとえば、被検物質の量に応じて発光する。発光は、たとえば化学発光または蛍光である。試薬512は、たとえば被検物質と特異的に結合する標識物質を含む。標識物質は、化学発光物質または蛍光物質であり得る。たとえば、標識物質が酵素を含み、試薬512が酵素と反応する発光基質を含む。容器510内の測定試料から生じる光を検出することにより、測定項目に応じた被検物質の有無、被検物質の量または濃度、粒子状の被検物質であれば大きさや形状などが測定されうる。
【0112】
測定項目によって、容器510に収容される試薬512の種類が異なる。そして、試薬512の種類毎に、品質を維持可能な基準温度および許容時間が異なっている。
【0113】
一例として、
図21は、各温度における監視対象の許容時間である第2変化曲線62a、62bを示す。第2変化曲線62aは、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の測定項目に用いられる試薬の各温度における許容時間をプロットしたものである。第2変化曲線62bは、PSA(前立腺特異抗原)の測定項目に用いられる試薬の各温度における許容時間をプロットしたものである。これらの第2変化曲線62a、62bに例示するように、検体検査に用いる試薬の品質を維持可能な許容時間は、一般に、アレニウスの式に従った指数関数的な変化を示す。アレニウスの式に従った曲線を、アレニウスの曲線という。
【0114】
一例として、
図21の第2変化曲線62a、62bにおいて、監視すべき温度範囲が、30[℃]以上、40[℃]以下に設定される。試薬キット500は、たとえば2[℃]~8[℃]程度の冷蔵状態で輸送および保管される。監視すべき温度範囲は、試薬キット500の輸送時や保管時において室温環境に放置される場合などの、通常の保管状態を逸脱した温度範囲である。
【0115】
図21において、TSH試薬の第2変化曲線62aでは、30[℃]での許容時間が約70[h]、35[℃]での許容時間が約28[h]、40[℃]での許容時間が約12[h]、とされる。PSA試薬の第2変化曲線62bでは、30[℃]での許容時間が約135[h]、35[℃]での許容時間が約30[h]、40[℃]での許容時間が約7[h]、とされる。
【0116】
図13~
図17に示した熱履歴検知ラベル100では、浸透材10は、第1の融点から第2の融点までの各温度における判別部30への到達時間の第1変化曲線61a、61bが、TSH試薬の第2変化曲線62aまたはPSA試薬の第2変化曲線62bに沿った形状となるように構成されている。つまり、熱履歴検知ラベル100は、第1変化曲線61a、61bがアレニウスの曲線に沿うように構成されている。また、浸透材10は、第1の融点から第2の融点までの各温度における判別部30への到達時間が、各温度における許容時間よりも短くなるように構成されている。つまり、
図21に示したグラフ中で、第1変化曲線61a、61bが、TSH試薬の第2変化曲線62aまたはPSA試薬の第2変化曲線62bよりも下側に存在する。
【0117】
このように構成すれば、監視すべき温度範囲に亘る各温度での判別部30の状態が変化するまでの累積時間の変化を、各温度でのTSH試薬の第2変化曲線62aまたはPSA試薬の第2変化曲線62bの許容時間の変化に沿わせることができる。その結果、監視すべき温度範囲に亘って、TSH試薬の第2変化曲線62aまたはPSA試薬の第2変化曲線62bにおける許容時間に対応した熱履歴の検知を、単一の浸透材10によって実現できる。
【0118】
判別部30の状態が変化するまでの基準温度毎の累積時間を、第2変化曲線62a、62bに沿って指数関数的に変化させるため、浸透材10は、各々のDSC曲線50が互いに重複する複数の浸透材(
図6(B)参照)を一体的に含んでいる。これにより、
図5の特性曲線55bのように、流動性が基準温度毎に指数関数的に変化する浸透材10が得られる。
【0119】
[実施例1]
実施例1では、浸透材10は、各々のDSC曲線50が互いに重複する第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13からなる。第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13は、飽和炭化水素である。具体的には、第1浸透材11がC18H38(オクタデカン)、第2浸透材12がC19H40(ノナデカン)、第3浸透材13がC20H42(イコサン)である。第1浸透材11の第1の融点は28[℃]~30[℃]である。第2浸透材12の第2の融点は32[℃]~34[℃]である。第3浸透材13の第3の融点は36.7[℃]である。浸透材10は、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13は、1:1:1の重量割合で混合された混合物である。
【0120】
実施例1による浸透材10を
図13~
図17に示す熱履歴検知ラベル100に適用した結果、
図21に示す第1変化曲線61aが得られた。第1変化曲線61aでは、基準温度が31[℃]で累積時間が約31[h]、基準温度が36[℃]で累積時間が約10[h]、基準温度が40[℃]で累積時間が約10[h]、となった。
図21から分かるように、第1変化曲線61aは、第1の融点(30[℃])~第2の融点(34[℃])の範囲に亘って、第2変化曲線62aおよび62bに沿った形状となった。第1変化曲線61aは、第1の融点(30[℃])~第3の融点(36.7[℃])の範囲に亘って、第2変化曲線62aおよび62bに沿った形状となった。
【0121】
[実施例2]
実施例2では、浸透材10は、各々のDSC曲線50が互いに重複する第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13からなる。第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13は、第1実施例とは異なる飽和炭化水素の組み合わせを選択した。具体的には、第1浸透材11がC16H34(ヘキサデカン)、第2浸透材12がC17H36(ヘプタデカン)、第3浸透材13がC18H38(オクタデカン)である。第1浸透材11の第1の融点は18[℃]である。第2浸透材12の第2の融点は21[℃]である。第3浸透材13の第3の融点は28[℃]~30[℃]である。浸透材10は、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13は、1:1:1の重量割合で混合された混合物である。
【0122】
実施例2による浸透材10を、
図13~
図17に示す熱履歴検知ラベル100に適用した結果、
図21に示す第1変化曲線61bが得られた。第1変化曲線61bでは、基準温度が20[℃]で累積時間が約80[h]、基準温度が24[℃]で累積時間が約12[h]、基準温度が30[℃]で累積時間が約4[h]、となった。
図21から分かるように、第1変化曲線61bは、第1の融点(18[℃])~第2の融点(21[℃])の範囲に亘って、第2変化曲線62aおよび62bに沿った形状となった。第1変化曲線61bは、第1の融点(18[℃])~第3の融点(28[℃])の範囲に亘って、第2変化曲線62aおよび62bに沿った形状となった。
【0123】
実施例1および2では、浸透材10は、第1浸透材11、第2浸透材12、第3浸透材13として、炭素数が連続する飽和炭化水素の組み合わせにより構成されている。これにより、各浸透材の融点が近付くので、DSC曲線50を互いに重複させて、判別部30の状態を変化させる累積時間を、第2変化曲線62a、62bに沿うように滑らかに変化させることが可能である。
【0124】
また、実施例1および2では、浸透材10は、18℃以上40℃以下の融点を有する2種類以上のワックスを一体的に含む。これにより、特にヒトから採取された検体の測定に用いられる試薬512の品質管理上、監視すべき温度範囲で、所望の許容時間に柔軟に対応可能な流動特性を有する浸透材10が得られる。
【0125】
(熱履歴検知ラベルの第2の構成例)
図22~
図24を参照して、熱履歴検知ラベル100の具体的な第2の構成例を示す。
【0126】
図22に示す熱履歴検知ラベル100は、浸透材10、浸透体20、判別部30、基材210、カバー材220を備える。
【0127】
基材210は、シート状形状を有する。基材210は、たとえば白色のPET(ポリエチレンテレフタラート)などの樹脂フィルムである。基材210の他方表面は、粘着剤211が塗布されており接着面となっている。接着面は、剥離紙212により覆われている。基材210の一方表面側が、貼付状態で外部から視認可能な表示面側である。
【0128】
基材210は、一方表面を構成するフィルム213を備える。フィルム213は、貼着剤214を介して、基材210に設けられている。フィルム213は、透明で、たとえばPETなどの樹脂フィルムにより構成されている。
【0129】
フィルム213の表面上に、浸透材10および浸透体20が設けられている。浸透材10は、浸透体20とフィルム213とに挟まれている。つまり、浸透材10は、浸透体20の裏面(他方表面)側に設けられている。浸透材10は、浸透体20の表面(一方表面)側に設けられていてもよく、この場合、浸透材10はフィルム213とは非接触となる。
【0130】
浸透材10は、
図3に示したように、第1浸透材11と、第2浸透材12とが積層された積層構造を有する。第1浸透材11が浸透体20に接し、第2浸透材12が第1浸透材11に積層されている。
【0131】
浸透体20は、シート形状を有し、フィルム213の表面上に設けられている。なお、
図22に示す浸透材10の形成位置では、浸透体20が浸透材10に重なるように設けられ、フィルム213とは直接接していないが、浸透材10の形成位置以外では、浸透体20がフィルム213の表面上に直接接触する状態で設けられている。浸透体20(
図23、
図24参照)は、第1端および第2端を有し、平面視において複数回屈曲した1本の浸透経路を構成している。浸透体20は、全体として長方形の外形形状を有する。浸透材10は、浸透体20の面方向に沿って浸透体20内を浸透する。
【0132】
判別部30は、浸透体20と一体的に形成されている。つまり、浸透体20の一部が判別部30として構成されている。
【0133】
判別部30の構成は、上記第1の構成例と同様である。すなわち、判別部30は、表面側の不透明な被覆部31と、裏面側の着色部32とを含んでいる。被覆部31が浸透材10を吸収すると、被覆部31が透明化され、透明化された被覆部31を介して着色部32が視認可能となる。これにより、判別部30は、浸透材10との接触により視覚的外観が変化するように構成されている。
【0134】
なお、判別部30に被覆部31および着色部32を設けることに代えて、浸透材10に顔料、染料などの色材を混合してもよい。この場合、浸透材10の浸透に伴い、判別部30が染色されることによって、判別部30の視覚的外観が変化する。
【0135】
カバー材220は、基材210の一方表面側を覆うように設けられている。カバー材220は、浸透体20の一方表面に貼付されている。カバー材220は、少なくとも浸透材10、浸透体20および判別部30を覆うように設けられる。カバー材220は、少なくとも判別部30を外部から視認可能なように構成されている。カバー材220は、たとえば透明フィルムにより構成される。カバー材220は、PETなどの樹脂フィルムにより構成されている。
【0136】
(浸透体の構成)
図23および
図24に示すように、浸透体20は、浸透材10が設けられる第1部分21と、判別部30が設けられる第2部分22と、第1部分21と第2部分22との間を繋ぐ第3部分23と、を含む。第1部分21は、浸透体20の第1端側に配置されている。第2部分22は、浸透体20の第2端側に配置されている。
【0137】
図23および
図24の例では、判別部30は、それぞれ異なる熱積算量で浸透材10が到達するように複数設けられている。
【0138】
具体的には、熱履歴検知ラベル100には、第1の判別部30aと、第2の判別部30bとの複数の判別部が設けられている。熱履歴検知ラベル100は、一定の累積時間の間、第1の基準温度に曝された場合に第1の判別部30aの状態が変化し、一定の累積時間の間、第2の基準温度に曝された場合に第2の判別部30bの状態が変化するように構成されている。第2の基準温度は、第1の基準温度よりも高い。
【0139】
また、第1の判別部30aおよび第2の判別部30bの複数の判別部は、浸透体20を移動する浸透材10が順次通過する位置に配置されている。
図23および
図24の例では、浸透材10が第1の判別部30aを通過した後、第2の判別部30bに到達する。
【0140】
このように構成すれば、単一の浸透材10の浸透経路上に、複数の判別部30a、30bを設けるだけで、異なる熱履歴を判別可能とすることができる。そのため、浸透体20を複数設ける必要がないので熱履歴検知ラベル100の小型化を図ることができる。
【0141】
図23に示す浸透体20は、第1端から第2端に向けて蛇行した形状を有する。浸透体20は、第1端から第2端に向かう単一の浸透経路を有する。平面視において、第1端側から、第1部分21、絞り部40a、第3部分23、絞り部40b、1つ目の第2部分22a、絞り部40c、2つ目の第2部分22bが、この順で並んでいる。1つ目の第2部分22aには、第1の判別部30aが設けられている。2つ目の第2部分22bには、第2の判別部30bが設けられている。
【0142】
第1の判別部30aと第2の判別部30bとは、浸透材10と接触した場合の状態変化後の視覚的外観が、互いに識別可能に異なる。
図23および
図24の例では、第1の判別部30aを構成する着色部32(
図22参照)の色と、第2の判別部30bを構成する着色部32の色とが、互いに異なる。たとえば、第1の判別部30aの着色部32が緑色であり、第2の判別部30bの着色部32が赤色である。第1の判別部30aは、外観が緑色に変化することにより、通常状態と想定される温度状態に所定時間以上曝されていることを示す。第2の判別部30bは、外観が赤色に変化することにより、通常状態を越えた高温の温度状態に所定時間以上曝されていることを示す。
【0143】
第3部分23の着色部32は、透明化前の被覆部31と同色とされる。これにより、第3部分23に浸透材10が到達して被覆部31が透明化された場合、透明化される前と同色の着色部32が観測されるため、状態が変化したと認識されない。たとえば、透明化前の被覆部31が白色であり、第3部分23の着色部32は白色である。
【0144】
なお、第2の構成例においても、第3部分23が、浸透材10が通過する断面積が小さくされた絞り部40a~40cを含んでいる。浸透体20は、複数の絞り部40a~40cを含んでいる。第3部分23は、複数の絞り部40a~40cの間に、絞り部40a~40cよりも断面積が大きい通路部45を有し、通路部45の上流端および下流端の対角となる位置に、それぞれ絞り部が設けられている。
【0145】
第3部分23と、2つの第2部分22a、22bとは、浸透体20の短手方向に延びる長方形状を有している。
図23の例では、第3部分23と、2つの第2部分22a、22bとは、実質的に同一形状を有する。つまり、1つ目の第2部分22aは、2つ目の第2部分22bに接続する第3部分23としても機能し、1つ目の第2部分22aでは通路部45と同様の作用が得られる。
【0146】
絞り部40aと絞り部40bとは、第3部分23を構成する通路部45の対角となる位置に配置されている。絞り部40bと絞り部40cとは、1つ目の第2部分22aの対角となる位置に配置されている。
【0147】
図24の例では、浸透体20は、1つの第1部分21と、2つの第2部分22a、22bとにより構成されている。平面視において、第1端側から、第1部分21、絞り部40a、1つ目の第2部分22a、絞り部40b、2つ目の第2部分22bが、この順で並んでいる。
【0148】
1つ目の第2部分22aは、第1部分21と2つ目の第2部分22bとを接続する第3部分23としても構成されている。1つ目の第2部分22aが、複数の絞り部40a、40bの間に、絞り部40a、40bよりも断面積が大きい通路部45を有している、絞り部40aと絞り部40bとは、第3部分23を構成する通路部45の対角となる位置に配置されている。
図24の浸透体20のその他の構成については、
図23と同様である。
【0149】
(熱履歴検知ラベルの適用例)
図22~
図24に示した熱履歴検知ラベル100は、長期間に亘って使用される機器または設備における熱由来の劣化度合いを評価し、機器または設備の保守管理の用途に適用される。
【0150】
そのような機器または設備の一例として、たとえば工場などに設置される変圧器がある。変圧器は、たとえば
図25に示すモールド変圧器600であるが、モールド変圧器600以外の油入変圧器でもよい。
【0151】
モールド変圧器600は、鉄芯、巻線および絶縁紙などを含む変圧器コアを絶縁性の樹脂材料によりモールドした構造のモールドコイル601を有する。モールド変圧器600には、3相電力に対応して3つのモールドコイル601が直立状態で並んで配置されている。モールド変圧器600が熱に曝されることにより、鉄芯、巻線および絶縁紙、絶縁樹脂の熱劣化が生じる。そこで、熱履歴検知ラベル100により、一定期間におけるモールド変圧器600の熱履歴を検知することによって、モールド変圧器600の熱由来の劣化度合いが評価できる。
【0152】
図25に示すように、熱履歴検知ラベル100は、たとえば、モールド変圧器600のモールドコイル601のうち特に高温になりやすい部位に設けられる。熱履歴検知ラベル100は、たとえば3つのモールドコイル601のうち中央のモールドコイル601の上部の外周面に貼付される。熱履歴検知ラベル100は、外周面のうち、たとえば、隣接する他のモールドコイル601の外周面と対向する部分(すなわち、隣接する2つのモールドコイル601の隙間の位置)に貼付される。熱履歴検知ラベル100は、3つのモールドコイル601の各々に設けられてもよい。油入変圧器に適用される場合、熱履歴検知ラベル100は、コアを収容する筐体のフィン部に設けることが好ましい。
【0153】
熱履歴検知ラベル100は、第1の熱履歴パターンとして、所定の累積時間の間、継続して第1温度に曝された場合に、第1の判別部30aの状態が変化するように設計される。熱履歴検知ラベル100は、第2の熱履歴パターンとして、所定の累積時間の間、継続して第2温度に曝された場合に、第2の判別部30bの状態が変化するように設計される。第2温度は第1温度よりも高い。第1温度は、通常の使用状態で想定される温度であり、標準的な劣化が進行する温度条件である。第2温度は、通常の使用状態を越える温度であり、標準的な条件を越えて劣化が進行する温度条件である。
【0154】
次に、
図22~
図24に示した熱履歴検知ラベル100の第2の構成例における具体的な実施例を説明する。この実施例では、
図23および
図24のうち、
図23に示した構造を採用した。
【0155】
[実施例3]
実施例3では、
図23に示した構造の熱履歴検知ラベル100であって、熱履歴の累積時間が1年間に設計されている。熱履歴パターンの基準温度として、60[℃]と70[℃]とが設定されている。つまり、熱履歴検知ラベル100は、第1の熱履歴パターンとして、60[℃]の温度に曝された累積時間が1年間に達する場合に、第1の判別部30aの状態が変化するように設計されている。熱履歴検知ラベル100は、第2の熱履歴パターンとして、70[℃]の温度に曝された累積時間が1年間に達する場合に、第2の判別部30bの状態が変化するように設計されている。
【0156】
浸透材10は、
図6(A)に示したように、各々のDSC曲線50が互いに重複しない第1浸透材11および第2浸透材12からなる。第1浸透材11の第1の融点が60[℃]であり、第2浸透材12の第2の融点が70[℃]である。各々のDSC曲線50が互いに重複しないため、
図5の特性曲線55aのように、浸透材10の温度依存の流動特性に段階的な差を形成することができる。つまり、60[℃]と70[℃]とで浸透材10の浸透速度とに明確な差異を生じさせ、第1の判別部30aの状態を変化させるための熱積算量と、第2の判別部30bの状態を変化させるための熱積算量とに明確な差異を設けることができる。
【0157】
実施例3では、絞り部40a~40cは、幅が0.4mm、長さが0.8mmである。第3部分23、第2部分22a、および第2部分22bは、幅が4mm、長さが20mmである。浸透材10は、第1浸透材11が2mg、第2浸透材12が2mgであり、重量比で1:1である。浸透材10の体積は30mm3である。
【0158】
第1の基準温度(60[℃])では、第1浸透材11が溶融して浸透体20に吸収される。浸透材10は、1年経過後に、第1の判別部30aに到達し、第1の判別部30aの状態を変化させる。第1の基準温度(60[℃])では、第2浸透材12が溶融しない。そのため、溶融する浸透材10の量が少ないので、浸透材10が第2の判別部30bに到達することはない。
【0159】
第2の基準温度(70[℃])では、第1浸透材11だけでなく、第2浸透材12が溶融して浸透体20に吸収される。そのため、浸透体20に吸収される浸透材10の量が増大し、第1の判別部30aを越えて第2の判別部30bまで到達可能となる。その結果、1年経過後に、浸透材10が第2の判別部30bに到達し、第2の判別部30bの状態を変化させる。
【0160】
なお、実施例3では、浸透材10は、第1浸透材11および第2浸透材12として、炭素数が連続しない飽和炭化水素の組み合わせにより構成されている。これにより、DSC曲線50を容易に分離させることができる。その結果、基準温度毎の判別部30の状態を変化させる累積時間を、段階的に変化させることが可能である。
【0161】
図25に示したように、ユーザは、モールド変圧器600の定期点検を実施する。たとえば、上記実施例3であれば1年毎に熱履歴検知ラベル100が確認され、新たな熱履歴検知ラベル100と交換される。ユーザは、熱履歴検知ラベル100を確認し、第1の判別部30aおよび第2の判別部30bの状態を確認する。第1の判別部30aのみ状態が変化している場合、モールド変圧器600の劣化進行が標準的であると評価できる。第1の判別部30aおよび第2の判別部30bの両方の状態が変化している場合、劣化が標準以上に進行していると評価できる。第1の判別部30aおよび第2の判別部30bの両方の状態が変化していない場合、劣化進行が標準以下であると評価できる。
【0162】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0163】
たとえば、上記実施形態では、熱履歴検知ラベル100の適用例として、試薬キット500と、モールド変圧器600の熱履歴を検知する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明の熱履歴検知ラベルは、たとえば医薬品やその他の化学薬品、蛍光灯などの照明設備、生鮮食品や調理食品などの食料品など、熱由来の品質劣化が生じる対象物またはそのパッケージ等に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0164】
10:浸透材、11:第1浸透材、12:第2浸透材、20:浸透体、21:第1部分、22、22a、22b:第2部分、23:第3部分、30、30a、30b:判別部、40、40a、40b、40c:絞り部、45、45a、45b:通路部、61a、61b:第1変化曲線、62a、62b:第2変化曲線、100:熱履歴検知ラベル、500:試薬キット、510:容器、512:試薬