(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】強磁性薄膜積層体
(51)【国際特許分類】
H01F 10/16 20060101AFI20230922BHJP
H01F 10/28 20060101ALI20230922BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01F10/16
H01F10/28
H01F17/04 F
(21)【出願番号】P 2019214280
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】直江 正幸
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-088424(JP,A)
【文献】特開平07-252650(JP,A)
【文献】特開2017-041599(JP,A)
【文献】特開2014-175617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/16
H01F 10/28
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1磁気ユニット、層間絶縁膜及び第2磁気ユニットがこの順に積層された強磁性薄膜積層体であって、
前記第1磁気ユニットは、(M1aM2b)
1-X(L1cFd)
X(M1:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M2:Pd及びPtの少なくとも一種、L1:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種、0.5≦a≦1.0、0≦b≦0.5(a+b=1)、0.2≦c≦0.4、0.6≦d≦0.8(c+d=1)、0.15≦X≦0.55(全て原子比率))なる組成を有する膜面内一軸磁気異方性の第1ナノグラニュラー膜であり、
前記第2磁気ユニットは、(M3hM4i)
1-Y(L2jFk)
Y(M3:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M4:Pd及びPtの少なくとも一種、L2:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種、0.5≦h≦1.0、0≦i≦0.5(h+i=1)、0.2≦j≦0.4、0.6≦k≦0.8(j+k=1)、0.15≦Y≦0.55(全て原子比率))なる組成を有する膜面内一軸磁気異方性の第2ナノグラニュラー膜であり、
前記第1磁気ユニットの膜面内磁化容易方向と前記第2磁気ユニットの膜面内磁化容易方向とが直交していることを特徴とする、強磁性薄膜積層体。
【請求項2】
前記基板と前記第1磁気ユニットとの間に配設された下地膜を有することを特徴とする、請求項1に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項3】
前記下地膜は、(M5pM6q)
1-Z(L3rFs)
Z(M5:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M6:Pd及びPtの少なくとも一種、L3:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種、0.5≦p≦1.0、0≦q≦0.5(p+q=1)、0.2≦r≦0.4、0.6≦s≦0.8(r+s=1)、0.55≦Z≦1.00(全て原子比率))なる組成を有する第3ナノグラニュラー膜を含むことを特徴とする、請求項2に記載
の強磁性薄膜積層体。
【請求項4】
前記下地膜は、前記第3ナノグラニュラー膜単層、若しくはその上に、L3rFsの絶縁層が積層されてなる1層乃至2層構造であることを特徴とする、請求項
3に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項5】
前記第1ナノグラニュラー膜及び前記第2ナノグラニュラー膜の少なくとも一方は周期的多層構造であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項6】
前記下地膜の厚さが、0~500nmであることを特徴とする、請求項
2~4のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項7】
前記第1磁気ユニットの厚さが、10~5000nmであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項8】
前記第2磁気ユニットの厚さが、10~5000nmであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項9】
前記層間絶縁膜の厚さが、50~5000nmであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項10】
前記第1磁気ユニットの磁性層及び前記第2磁気ユニットは、同一の組成を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項11】
前記強磁性薄膜積層体の磁化が、当該積層体の面内方向において等方的であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【請求項12】
前記強磁性薄膜積層体の透磁率が、当該積層体の面内方向において等方的であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の強磁性薄膜積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性薄膜積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタやトランスなどの磁気素子を小形化するために、これらの磁気素子を平面型にすることが試みられている。平面型インダクタとしては、スパイラル平面コイルの両面を絶縁体層で挟み、更にこれらの両面を磁性体で挟んだ構造のものが理想的である。同様に、平面型トランスとしては、絶縁体層を介して1次側のスパイラル平面コイルと2次側のスパイラル平面コイルとを形成し、これらの両面を絶縁体層で挟み、更にこれらの両面を磁性体で挟んだ構造のものが知られている。なお、スパイラル平面コイルは、1層のスパイラル状コイル導体からなるものでもよいし、絶縁体層の両面に2層のスパイラル状コイル導体を形成して発生磁界が同一方向となるように接続したものでもよい。
【0003】
このような磁気素子を実用に供するためには、磁気回路の増強により、インダクタンスを増加させると共に、当該磁気素子からの磁束の漏れを防ぐ、若しくは吸収して熱に変換することで、LSIやその他の部品の誤動作を防止する必要がある。
【0004】
特許文献1には、平面インダクタを挟んで絶縁層が形成され、さらにその上面及び下面に、磁化(磁化容易軸)方向が互いに直交した磁性膜を積層してなる積層構造が開示されている。この場合、コイルに電流を流すと、各磁性層において、コイルによって発生した磁界の向きと磁性層の磁化方向とが同じになる領域Aと、上記磁界の向きと磁性層の磁化方向とが直交する領域Bとが形成される。一般に、領域Aでは透磁率が高く磁気飽和しやすく磁束の漏洩が生じるが、領域Bでは透磁率が低く磁気飽和しにくく、磁束の漏洩が生じにくい。このため、このような磁性層を上述のように、磁化方向が直交するように配置することによって、一の磁性層の領域Aで漏洩した磁束を他の磁性層の領域Bで遮蔽するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構造の原理説明は、上下で隣り合う磁性層の磁束の受け渡しがあると言及されていることから、静磁結合が切れていないことを意味しており、磁気特性の均一性に劣るため、磁気素子やさらには電磁シールド材に用いた場合に依然として磁束及び電磁波の漏洩等の問題が残存していた。
【0007】
本発明は、積層構造全体として膜面内で等方的な磁気特性を有し、電子機器などに使用可能な新規な構成の強磁性薄膜積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、Co等の磁性遷移金属及びPd等の貴金属からなる磁性ナノ粒子がCaF
2等のフッ化物母材に分散したナノグラニュラー型の磁性層を準備し、さらに、同じくCo等の磁性遷移金属及びPd等の貴金属からなる磁性ナノ粒子がCaF
2等のフッ化物母材に分散した第2ナノグラニュラー膜を形成する。この時、これらナノグラニュラー膜の膜面内磁化容易軸方向が互いに直交するように、そして、基板上に、上記第1ナノグラニュラー膜及び第2ナノグラニュラー膜を順次に積層するとともに、これらナノグラニュラー膜が上下で静磁結合しないように絶縁膜で分断して強磁性薄膜積層体を作製することにより(
図1)、当該積層体の面内方向におけるマイクロ波磁界による磁化応答(高周波透磁率)が等方的になって、面内方向の磁気特性が均一的になることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、基板上に、第1ナノグラニュラー膜から成る第1磁気ユニット、層間絶縁膜、及び第2ナノグラニュラー膜から成る第2磁気ユニットがこの順に積層された強磁性薄膜積層体であって、前記第1磁気ユニットは、(M1aM2b)1-X(L1cFd)X(M1:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M2:Pd及びPtの少なくとも一種、L1:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種、0.5≦a≦1.0、0≦b≦0.5(a+b=1)、0.2≦c≦0.4、0.6≦d≦0.8(c+d=1)、0.15≦X≦0.55(全て原子比率))なる組成を有する膜面内一軸磁気異方性の第1ナノグラニュラー膜であり、前記第2磁気ユニットは、(M3hM4i)1-Y(L2jFk)Y(M3:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M4:Pd及びPtの少なくとも一種、L2:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種、0.5≦h≦1.0、0≦i≦0.5(h+i=1)、0.2≦j≦0.4、0.6≦k≦0.8(j+k=1)、0.15≦Y≦0.55(全て原子比率))なる組成を有する膜面内一軸磁気異方性の第2ナノグラニュラー膜であり、前記第1磁気ユニットの磁化方向と前記第2磁気ユニットの磁化方向とが直交していることを特徴とする、強磁性薄膜積層体に関する。なお、上記組成において、Fはフッ素を表す。
【0010】
第1又は第2磁気ユニットにおいて、前記第1又は第2磁気ユニットは単層の前記組成範囲のナノグラニュラー膜でもよいが、このナノグラニュラー膜とL1cFd若しくはL2jFkなる組成を有する薄い絶縁層との周期的多層構造を形成してもよい。この場合、第1若しくは第2の同一磁気ユニット内においては、ナノグラニュラー膜の面内一軸異方性の磁化容易方向は、全て同じ方向に向けられる。
【0011】
積層構造において上下関係にある前記第1及び第2磁気ユニットは、お互いが静磁結合しないよう、L1cFd若しくはL2jFkなる組成を有する厚い層間絶縁層により分断されている。
【0012】
近年は、電子機器の、特に通信機器の高周波化が進んでおり、GHz帯に及んでいる。この時、周波数の二乗に比例及び磁性体の電気抵抗率に反比例する渦電流損失が、UHF帯以上(300MHz~)に及んでくると、無視できなくなる。従来磁性体である金属磁性薄膜は電気抵抗率が低いため、磁性体のデバイス応用における制約となっていた。
【0013】
ナノグラニュラー膜は、従来の金属磁性膜と比較して電気抵抗率が高いため、電気抵抗率が低いと問題となる渦電流損失の影響を受けにくく、従来膜よりも高周波、特にUHF帯以上での用途に適している。
【0014】
また、本発明の一態様において、基板と第1磁気ユニットとの間に下地膜を配設することができる。
【0015】
前記下地膜は、(M5pM6q)1-Z(L3rFs)Z(M5:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M6:Pd及びPtの少なくとも一種、L3:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種、0.5≦p≦1.0、0≦q≦0.5(p+q=1)、0.2≦r≦0.4、0.6≦s≦0.8(r+s=1)、0.55≦Z≦1.00)なる組成を有する非強磁性第3ナノグラニュラー膜を含むことができる。
【0016】
前記下地膜の有無、及び第1若しくは第2磁気ユニットの諸元をコントロールし、面内方向における透磁率分布の等方性を制御できる。特に、面内方向における透磁率分布を完全に等方にする場合には、前記下地層を要する。
【0017】
さらに、本発明の一態様において、前記下地膜は、前記第3ナノグラニュラー膜上に、L3rFsの非強磁性層が積層されてなる2層構造とすることができる。
【0018】
この場合も、第1若しくは第2磁気ユニットの諸元をコントロールし、面内方向における透磁率分布の等方性を制御できる。
【0019】
また、本発明の一態様において、前記第1磁気ユニットの磁性層及び前記第2磁気ユニットは、同一の組成を有することができる。この場合、面内方向における透磁率分布を簡易に等方的にすることができ、下地膜の効果も相乗させることで、面内方向において完全当方とすることも可能である。
【0020】
なお、本発明における「面内方向」とは、強磁性薄膜積層体の積層方向(膜厚方向)と直交する方向であって、各膜の膜面と平行な方向を意味するものである。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明によれば、面内に等方的な磁気特性を有し、電子機器などに使用可能な新規な構成の強磁性薄膜積層体を提供することができる。
【0022】
また、本発明における磁化や透磁率等の磁化特性の「等方性」とは、楕円率(単軸/長軸)が0.2以上の場合を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態における強磁性薄膜積層体の概略構成図である。
【
図2】実験例1における積層体の設計構造図である。
【
図4】実験例1における面内高周波複素透磁率スペクトルである。
【
図5】各グラフの磁気特性測定方向の説明図である。
【
図6】実験例2における積層体の設計構造図である。
【
図8】実験例2における面内高周波複素透磁率スペクトルである。
【
図9】実験例3における積層体の設計構造図である。
【
図10】実験例3における面内高周波複素透磁率スペクトルである。
【
図11】実験例4における積層体の設計構造図である。
【
図12】実験例4における面内高周波複素透磁率スペクトルである。
【
図13】実験例5における面内高周波複素透磁率スペクトルである。
【
図14】実験例6における面内高周波複素透磁率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細及びその他の特徴について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本実施形態における強磁性薄膜積層体の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の強磁性薄膜積層体10は、基板11と、この基板11上に形成された下地膜12と、この下地膜12上に形成された第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15とを有している。なお、第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15間には層間絶縁膜14が形成されている。
【0026】
図1に示すように、磁気異方性定数K
u1を有する第1磁気ユニット13及び磁気異方性定数K
u2を有する第2磁気ユニット15において、第2磁気ユニット15の磁化容易方向(⇔)から膜面内で角度θの方向に微少振幅の高周波磁界H
exが印加された時、第2磁気ユニット15の透磁率μ
2は、μ
2(θ)=M
s2×sin
2θ/2K
u2となる。第2磁気ユニット15と磁化容易方向が直交(紙面奥行き)している第1磁気ユニット13の透磁率μ
1は、μ
1(θ)=M
s1×cos
2θ/2K
u1となる。強磁性薄膜積層体10としての透磁率μ(θ)は、μ
1(θ)+μ
2(θ)である。なお、M
s1及びM
s2は、それぞれ第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15の飽和磁化である。
【0027】
第1及び第2磁気ユニットの諸元が同じであれば、Ms1=Ms2=Ms及びKu1=Ku2=Kuのため、μ1(θ)+μ2(θ)はMs/2Kuとなって、高周波磁界Hexの入射角度θの依存性がなくなり定数なることから、膜面内で、透磁率の分布が完全等方となる。一方、膜の諸元が一致せず、Ku1≠Ku2、若しくはMs1≠Ms2及びKu1≠Ku2であれば、透磁率の分布が完全等方から崩れ、あくまでも等方的となるが、直交した第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15の透磁率μ1(θ)及びμ2(θ)が重畳するため、面内一軸異方性とは透磁率の分布が大きく異なる。
【0028】
本原理自体は、非特許文献1(Y. Shimada, E. Sugawara, and H. Fujimori: “Initial permeability of composite anisotropy multilayer films”, Journal of Applied Physics, Vol. 76, No.4, pp. 2395-2398 (1994))を例として、以前より知られる。
【0029】
基板11は、例えば、セラミック(ガラス、マグネシア、ジルコニア、サファイア等)、シリコン基板等、汎用のものから構成できる。
【0030】
第1磁気ユニット13は、(M1aM2b)1-X(L1cFd)X(M1:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M2:Pd及びPtの少なくとも一種、L1:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種)なる組成を有する第1ナノグラニュラー膜である。
【0031】
第1磁気ユニット13、具体的には第1ナノグラニュラー膜の磁性層は、具体的には、CoPd-CaF2、CoPd-MgF2、CoFePd-CaF2、CoFe-CaF2、CoFe-BaF2、及びCoFe-MgF2などを挙げることができる。
【0032】
また、磁性層を構成する金属(磁性)部分の割合を確定するa,bは、0.5≦a≦1.0、0≦b≦0.5(a+b=1)であることが好ましい。同様に、磁性層及び第1ナノグラニュラー膜を構成する絶縁層の金属L1とF(フッ素)との割合を確定するc、dは、0.2≦c≦0.4、0.6≦d≦0.8(c+d=1)であることが好ましい。さらに、磁性層を構成する金属部分と絶縁部分との割合を確定するXは、0.15≦X≦0.55であることが好ましい。これによって、本発明の目的を効率よく実現することができる。
【0033】
なお、第1磁気ユニット13の厚さt2は特に限定されるものではないが、10~5000nmであることが好ましく、さらには20~2000nmであることが好ましい。これ以外の厚さであると、強磁性薄膜積層体10が面内方向において均一な磁気特性を奏することが困難な場合がある。
【0034】
第2磁気ユニット15は、(M3hM4i)1-Y(L2jFk)Y(M3:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M4:Pd及びPtの少なくとも一種、L1:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種)なる組成を有する第2ナノグラニュラー膜である。
【0035】
具体的には、CoPd-CaF2、CoPd-MgF2、CoFePd-CaF2、CoFe-CaF2、CoFe-BaF2、及びCoFe-MgF2などを挙げることができる。
【0036】
また、第2ナノグラニュラー膜を構成する金属(磁性)部分の割合を確定するh,iは、0.5≦h≦1.0、0≦i≦0.5(h+i=1)であることが好ましい。同様に、第2ナノグラニュラー膜を構成する絶縁層の金属L2とF(フッ素)との割合を確定するj、kは、0.2≦j≦0.4、0.6≦k≦0.8(j+k=1)であることが好ましい。さらに、第2ナノグラニュラー膜を構成する金属(磁性)部分と絶縁部分との割合を確定するYは、0.15≦Y≦0.55(全て原子比率)であることが好ましい。これによって、本発明の目的を効率よく実現することができる。
【0037】
なお、第2磁気ユニット15の厚さt4は特に限定されるものではないが、10~5000nmであることが好ましく、さらには20~2000nmであることが好ましい。これ以外の厚さであると、強磁性薄膜積層体10が面内方向において均一な磁気特性を奏することが困難な場合がある。
【0038】
また、第1若しくは第2磁気ユニットにおいて、第1若しくは第2ナノグラニュラー膜は単層でもよいが、L1cFd若しくはL2jFkなる組成を有する薄い絶縁層との周期的多層構造を形成してもよい。この場合、第1若しくは第2の同一磁気ユニット内においては、ナノグラニュラー膜の面内一軸異方性の磁化容易方向は、全て同じ方向に向けられる。その周期は特に限定されず、例えば2~400周期とすることができる。なお、本実施形態では、5周期としている。
【0039】
また、各磁気ユニット13及び15の周期的多層構造を実現するために、ナノグラニュラー膜を仕切るための薄い絶縁層は、CaF2、MgF2、BaF2、AlF3、及びGdF3などを挙げることができる。
【0040】
また、上述した記載から明らかなように、第1磁気ユニット13の磁性層、すなわちナノグラニュラー層及び第2磁気ユニット15を構成する第2ナノグラニュラー膜は同一諸元であることが好ましい。この場合、以下に示す製造方法において、例えば同一のターゲット等を用いることができるので、強磁性薄膜積層体10の面内方向における透磁率も簡易に等方的にすることができ、面内方向において等方的な磁気特性を簡易に得ることができる。
【0041】
第1磁気ユニット13の磁化方向と第2磁気ユニット15の磁化方向は直交している必要がある。本実施形態では、
図1に示すように、第1磁気ユニット13が紙面水平方向に磁化しており(⇔)、第2磁化ユニット15が紙面奥行き方向に磁化している。
【0042】
また、第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15間には層間絶縁膜14が位置しており、第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15の磁気的結合を分断している。
【0043】
層間絶縁膜14の厚さt3は、例えば50~5000nmであることが好ましく、100~1000nmであることがさらに好ましい。
【0044】
また、層間絶縁膜14は、第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15を磁気的に分断すれば如何なる非強磁性絶縁成分組成であってもよいが、上方に位置する第2磁気ユニット15の下地膜としても機能するので、第2磁気ユニット15の絶縁層と同じ成分組成を有することが好ましい。
【0045】
下地膜12は、本実施形態における強磁性薄膜積層体10において、先行技術とは異なる最も特徴的な部分である。すなわち、基板11上に、第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15を積層し、これらの間に層間絶縁膜14を形成し、さらに第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15の磁化方向を互いに直交させたのみでは、ナノグラニュラー膜を用いた強磁性薄膜積層体10の面内方向において完全に等方な磁化特性を得られない。しかしながら、基板11と第1磁気ユニット13との間に下地膜12を介在させることにより、強磁性薄膜積層体10の面内方向において完全に等方な磁気特性を実現できる。
【0046】
下地膜12の厚さt1は、0~500nmであることが好ましく、さらには10~100nmであることが好ましい。これによって、強磁性薄膜積層体10の面内方向においてより均一な磁気特性をより簡易に実現できる。
【0047】
また、下地膜12は、第1磁気ユニット13の下地膜でもあるので、好ましくは第1磁気ユニット13の周期的多層構造である第1ナノグラニュラー膜の磁性層あるいは絶縁層と同様の成分組成を有することが好ましい。但し、第1ナノグラニュラー膜の磁性層と同様の成分組成とする場合、例えば、その金属(磁性)部分の割合が多いと、下地膜12が強磁性を有することになり、第1磁気ユニット13に対して下地膜としての効果以外に磁気的な影響を与えることになる。したがって、この場合は、金属(磁性)部分の割合を減少させて、下地膜12が強磁性を帯びないようにすることが好ましい。
【0048】
具体的には、下地膜12が(M5pM6q)1-Z(L3rFs)Z(M5:Fe,Co,及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種、M6:Pd及びPtの少なくとも一種、L3:Li,Mg,Al,Ca,Sr,Ba,Gd及びYからなる群より選ばれる少なくとも一種)なる組成を有する第3ナノグラニュラー膜であることが好ましい。このとき、0.5≦p≦1.0、0≦q≦0.5(p+q=1)であり、0.2≦r≦0.4、0.6≦s≦0.8(r+s=1)であり、0.55≦Z≦1.00である。
【0049】
また、下地膜12は、第3ナノグラニュラー膜上に、L3rFsの絶縁層が積層されてなる2層構造としてもよい。
【0050】
以上より、本実施形態の強磁性薄膜積層体10によれば、当該積層体10の面内方向における透磁率が等方的になる。したがって、強磁性薄膜積層体10は、面内のあらゆる方向に磁気抵抗がほぼ同じ磁気回路を形成し、磁気素子のインダクタンスを向上させると共に、高周波磁束及び電磁波の漏洩等を防止し、LSIやその他の部品の誤動作を防止した電子機器の磁気素子への応用や電磁シールド材として適用することができる。例えば、本実施形態の強磁性薄膜積層体10は、100MHz程度の磁気シールドやGHz帯での電磁波吸収を達成することができる。
【0051】
図1に示す強磁性薄膜積層体10は、公知の方法によって製造することができる。具体的には、蒸着法、スパッタリング法などの公知の物理気相成長を用いて製造することができるが、膜厚制御の容易さなどの観点からスパッタリング法を用いることが望ましい。
【0052】
スパッタリング法を用いる場合は、複数のターゲットを用いるいわゆる多元スパッタリング法を用いる。例えば、第1磁気ユニット13を形成する場合は、M1aM2bターゲット及びL1cFdターゲット(カソード側)を準備し、磁性層(ナノグラニュラー膜)部分を形成する際は、これら2つのターゲットから同時に基板(アノード側)に向けてスパッタリングを行う。この時、基板は公転させ、M1aM2bターゲット及びL1cFdターゲットから発生したプラズマを交互に通過させる。前記周期的多層構造を形成する場合には、絶縁層を形成するために、L1cFdターゲットから基板(アノード側)に向けてスパッタリングを行う。このような動作を交互に複数回行うことによって、周期的多層構造の第1磁気ユニット13を形成する。
【0053】
第1磁気ユニット13を形成の後、層間絶縁膜14を、例えばL1cFdターゲットを用いて形成する。第2磁気ユニット15の磁化方向は第1磁気ユニット13の磁化方向と直交する必要がある。本多元スパッタリング法は、例えば非特許文献2(M. Naoe, N. Kobayashi, S. Ohnuma, M. Watanabe, T. Iwasa, and H. Masumoto: “Control of In-Plane Uniaxial Anisotropy of CoPd-CaF2 Nanogranular Films by Tandem-Sputtering Deposition”, IEEE Magnetics Letters, Vol. 5, #3700404 (2014))に示されているように、基板公転の遠心-向心方向が磁化容易方向となる。よって、一般には、第2磁気ユニット15を形成する際には、第1磁気ユニット13が形成された後、若しくは第1磁気ユニット13及び層間絶縁膜14が形成された後に、基板11の向きを、90度回転させた後、スパッタリング形成する。第1磁気ユニット13が形成された後に基板を90度回転させて再設置した場合には、第2磁気ユニット15を形成する前に、層間絶縁膜14を形成する。
【0054】
下地膜12を形成する場合は、M3hM4iターゲット及びL2jFkターゲットを準備し、これらのターゲットから同時に基板(アノード側)に向けてスパッタリングを行って、目的とするナノグラニュラー膜を形成する。
【0055】
なお、一般に、スパッタリングで膜形成を行うと、その構造は、非特許文献2にも示されているように、微細な柱状のナノ複相構造を呈し、形成した膜が磁性膜の場合は、膜面に垂直に磁化容易軸が向きやすい傾向にある。しかしながら、本実施形態の場合は、上述したように各膜及び各ユニットの厚さが小さいために、膜の磁化の大きさに比較して膜厚方向に大きな反磁場が生じる。したがって、この大きな反磁場のために、膜の構造とは無関係に、例えば
図1に示すように、第1磁気ユニット13及び第2磁気ユニット15の磁化は面内方向に向くようになる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実験例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0057】
(実験例1)
基板11として0.2mm厚のガラス基板を用い、これをスパッタリング装置(アネルバ製)内のアノード側に設置した。なお、スパッタリング装置内は、Ar雰囲気(0.3Pa)とした。
【0058】
次いで、3インチのCo0.88Pd0.12合金ターゲットと3インチの焼結CaF2(Ca0.33F0.67)ターゲットとを準備し、前者のターゲットに20Wの電力を投入し、後者のターゲットに34Wの電力を投入して、ガラス基板上に(Co0.88Pd0.12)0.2(Ca0.33F0.67)0.8なる組成の下地膜12を厚さ20nmに形成した。
【0059】
次いで、同Co0.88Pd0.12ターゲットに70Wの電力を投入し、同Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、(Co0.88Pd0.12)0.74(Ca0.33F0.67)0.26磁性層を厚さ25nmに形成するとともに、Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、Ca0.33F0.67絶縁層を厚さ10nmに形成した。この操作を合計5回行うことによって9層5周期、総厚165nmの周期的多層構造を有する第1ナノグラニュラー膜からなる第1磁気ユニット13を形成した。
【0060】
その後、Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、Ca0.33F0.67層間絶縁層14を厚さ120nmに形成した。
【0061】
次いで、基板11の向きを90度回転させ、第1ナノグラニュラー膜からなる第1磁気ユニット13と同条件で第2ナノグラニュラー膜からなる第2磁気ユニット15を形成し、強磁性薄膜積層体10を得た。膜の設計構造が
図2である。
【0062】
このようにして得た強磁性薄膜積層体10の面内磁化及び面内透磁率を測定し、
図3及び
図4に示すような結果を得た。
図3及び
図4中の測定方向を表す記号は、
図5にスパッタ装置のアノードの一部の概略図を示した通りであり、以後共通である。
【0063】
図3及び
図4から明らかなように、本実験例で得た強磁性薄膜積層体10の面内磁化に方向性はなく、面内透磁率は、∥方向、⊥方向、及び45deg.方向のいずれにおいても一致しており、面内方向において完全等方の磁気特性を有することが分かる。
【0064】
(実験例2)
実験例1と比較して、下地膜12を設けていない強磁性薄膜積層体10を作製した。膜の設計構造が
図6である。
【0065】
このようにして得た強磁性薄膜積層体10の面内磁化及び面内透磁率を測定し、
図7及び
図8に示すような結果を得た。
【0066】
図7及び
図8から明らかなように、本実験例で得た本実験例で得た強磁性薄膜積層体10の面内磁化には、やや方向性が表れている。面内透磁率は、∥方向の静的透磁率(μ’が低周波で一定となる値)が約50で、⊥方向が約25、45deg.方向がこれらの中間値を取っていることから、透磁率の面内分布が、∥方向を長軸とする楕円率(単軸/長軸)が0.5の等方的分布となっていることがわかる。
【0067】
なお、実験例1を含めた完全等方の場合の楕円率は1.0となる。一方、面内一軸異方性の場合には、磁化容易方向の高周波透磁率は1であるため、楕円率は限り無く0に近くなる。
【0068】
このように、非特許文献3(伊藤哲夫、遠藤恭、柳邦雄、島田寛、山口正洋: 「CoZrNb直交磁化膜の高周波特性」, 電気学会マグネティックス研究会資料(MAG-13-048-059), MAG-13-057, pp. 51-56 (2013))に示されているような、均質金属材料を用いた先行技術では完全等方となる、下地膜12を設けていない強磁性薄膜積層体10の積層構造において、ナノグラニュラー膜を用いた本実験例では、完全等方ではない等方的面内透磁率分布を作り出すことができる。この要因は、基板11の成膜面と第1磁気ユニットの最下面によって構成される界面における磁気ひずみ、表面粗さ、若しくはナノ構造磁性体故の表面異方性の影響であると考えられる。
【0069】
(実験例3)
基板11として0.2mm厚のガラス基板を用い、これをスパッタリング装置(アネルバ製)内のアノード側に設置した。なお、スパッタリング装置内は、Ar雰囲気(0.3Pa)とした。
【0070】
次いで、3インチのCo0.88Pd0.12合金ターゲットと3インチの焼結CaF2(Ca0.33F0.67)ターゲットとを準備し、前者のターゲットに20Wの電力を投入し、後者のターゲットに34Wの電力を投入して、ガラス基板上に(Co0.88Pd0.12)0.2(Ca0.33F0.67)0.8なる組成の下地膜12を厚さ20nmに形成した。
【0071】
次いで、同Co0.88Pd0.12ターゲットに70Wの電力を投入し、同Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、(Co0.88Pd0.12)0.74(Ca0.33F0.67)0.26の組成及び厚さ1000nmの第1ナノグラニュラー膜からなる第1磁気ユニット13を形成した。
【0072】
その後、Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、Ca0.33F0.67層間絶縁層14を厚さ120nmに形成した。
【0073】
次いで、基板11の向きを90度回転させ、第1ナノグラニュラー膜からなる第1磁気ユニット13と同条件で第2ナノグラニュラー膜からなる第2磁気ユニット15を形成し、強磁性薄膜積層体10を得た。膜の設計構造が
図9である。
【0074】
このようにして得た強磁性薄膜積層体10の面内透磁率を測定し、
図10に示すような結果を得た。
【0075】
図10から明らかなように、本実験例で得た強磁性薄膜積層体10の面内透磁率は、
図4と比較するとやや完全等方は崩れているものの、面内方向において楕円率の大きなほぼ完全等方の磁気特性を呈することが分かる。
【0076】
(実験例4)
基板11として0.2mm厚のガラス基板を用い、これをスパッタリング装置(アネルバ製)内のアノード側に設置した。なお、スパッタリング装置内は、Ar雰囲気(0.3Pa)とした。
【0077】
次いで、3インチのCo0.88Pd0.12合金ターゲットと3インチの焼結CaF2(Ca0.33F0.67)ターゲットとを準備し、前者のターゲットに20Wの電力を投入し、後者のターゲットに34Wの電力を投入して、ガラス基板上に(Co0.88Pd0.12)0.2(Ca0.33F0.67)0.8なる組成の下地膜12を厚さ20nmに形成した。
【0078】
次いで、同Co0.88Pd0.12ターゲットに70Wの電力を投入し、同Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、(Co0.88Pd0.12)0.74(Ca0.33F0.67)0.26磁性層を厚さ25nmに形成するとともに、Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、Ca0.33F0.67絶縁層を厚さ10nmに形成した。この操作を合計5回行うことによって9層5周期、総厚165nmの周期的多層構造を有する第1ナノグラニュラー膜からなる第1磁気ユニット13を形成した。
【0079】
その後、Ca0.33F0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、Ca0.33F0.67層間絶縁層14を厚さ120nmに形成した。
【0080】
次いで、基板11の向きを90度回転させ、同Co
0.88Pd
0.12ターゲットに70Wの電力を投入し、同Ca
0.33F
0.67ターゲットに34Wの電力を投入して、(Co
0.88Pd
0.12)
0.74(Ca
0.33F
0.67)
0.26の組成及び厚さ1000nmの第2ナノグラニュラー膜からなる第2磁気ユニット15を形成し、強磁性薄膜積層体10を得た。膜の設計構造が
図11である。
【0081】
このようにして得た強磁性薄膜積層体10の面内透磁率を測定し、
図12に示すような結果を得た。
【0082】
図12から明らかなように、故意に第1磁気ユニットと第2磁気ユニットの積層構造を変えることで諸元が一致していない本実験例で得た強磁性薄膜積層体10の面内透磁率は、∥方向の静的透磁率が約9で、⊥方向が約18、45deg.方向がこれらの中間値を取っていることから、透磁率の面内分布が、楕円率(単軸/長軸)が0.5の等方的分布となっていることがわかる。但し、実験例3とは、透磁率が最大となる方向が、面内方向で90度異なる。第1磁気ユニットと第2磁気ユニットの積層構造が大きく異なるが、楕円率が0.5と比較的大きいのは、第1磁気ユニットが第2磁気ユニットよりも高透磁率であるものの、第2磁気ユニットと比較すると第1ナノグラニュラー膜の合計膜厚が小さいため、体積比率で低透磁率の第2磁気ユニットの特性の効果が大きく現れるためである。
【0083】
(実験例5)
基板11として0.5mm厚のガラス基板を用い、これをスパッタリング装置(アルバック製)内のアノード側に設置した。なお、スパッタリング装置内は、Ar雰囲気(1.1Pa)とした。
【0084】
次いで、4インチのCo0.35Fe0.65合金ターゲットと4インチの焼結MgF2(Mg0.33F0.67)ターゲットとを準備し、前者のターゲットに550Wの電力を投入し、後者のターゲットに67Wの電力を投入して、ガラス基板上に(Co0.35Fe0.65)0.7(Mg0.33F0.67)0.3なる組成の磁性層を厚さ100nmに形成するとともに、Mg0.33F0.67ターゲットに67Wの電力を投入して、Mg0.33F0.67絶縁層を厚さ10nmに形成した。この操作を合計5回行うことによって9層5周期、総厚540nmの周期的多層構造を有する第1ナノグラニュラー膜からなる第1磁気ユニット13を形成した。
【0085】
その後、Mg0.33F0.67ターゲットに67Wの電力を投入して、Mg0.33F0.67層間絶縁層14を厚さ200nmに形成した。
【0086】
次いで、基板11の向きを90度回転させ、同Mg0.35Fe0.65ターゲットに550Wの電力を投入し、同Mg0.33F0.67ターゲットに100Wの電力を投入して、(Co0.35Fe0.65)0.65(Mg0.33F0.67)0.35の組成及び厚さ130nmとするとともに、Mg0.33F0.67ターゲットに67Wの電力を投入して、Mg0.33F0.67絶縁層を厚さ10nmに形成した。この操作を合計5回行うことによって9層5周期、総厚700nmの周期的多層構造を有する第2ナノグラニュラー膜からなる第2磁気ユニット15を形成し、強磁性薄膜積層体10を得た。
【0087】
このようにして得た強磁性薄膜積層体10の面内透磁率を測定し、
図13に示すような結果を得た。
【0088】
図13から明らかなように、故意に第1磁気ユニットと第2磁気ユニットの積層構造及び組成を変え、諸元を一致させていない本実験例で得た強磁性薄膜積層体10の面内透磁率は、∥方向の静的透磁率が約60で、⊥方向が約20、45deg.方向がこれらの中間的値を取っていることから、透磁率の面内分布が、楕円率が0.3の等方的分布となっていることがわかる。本実験例では、第1磁気ユニット13の方がCoFeが多く、高透磁率である。∥方向は第1磁気ユニット13の磁化困難方向であり、こちらの透磁率が大きくなっている。⊥方向は第1磁気ユニット13よりもCoFeが少ないことによって低透磁率な第2磁気ユニット15の磁化困難方向であり、低透磁率となっていることから、透磁率の面内分布の制御として、他の実験例よりも楕円率が小さくなっている妥当な結果を示している。
【0089】
(実験例6)
実験例3における作製工程を省略し、第1磁気ユニット13のみを基板11上に形成した。つまりは、面内一軸異方性の第1ナノグラニュラー膜である。
【0090】
本実験例の面内透磁率が
図14である。45deg.方向は省略してある。磁化困難方向である∥方向では、静的透磁率が約16の特性を呈しているが、磁化容易方向である⊥方向では、静的透磁率が1である(600MHz以下の大きな値は測定ノイズである)。これは、磁化容易方向の透磁率は、数百kHz~数MHzで共鳴するため、透磁率を計測している100MHz以上では、磁性体としての静的透磁率を発現しないためである。楕円率は0.06となる。各実験例で示した等方的面内透磁率分布に対し、異方的と言える。
【0091】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
10 強磁性薄膜積層体
11 基板
12 下地膜
13 第1磁気ユニット
14 層間絶縁膜
15 第2磁気ユニット