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特許7353180D-フルクトース置換基を有するカチオン性ポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】D-フルクトース置換基を有するカチオン性ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/04 20060101AFI20230922BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230922BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230922BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20230922BHJP
【FI】
C08G73/04
A61K31/785
A61K31/711
A61K31/7105
A61P35/00
A61K47/54
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019552055
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 DE2018100268
(87)【国際公開番号】W WO2018171845
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】102017003004.9
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503093420
【氏名又は名称】フリードリヒ-シラー-ユニバーシタット イエナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴッチャルト, ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】プルール, ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】エングラート, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】シューベルト, ウーリッヒ シグマー
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/008555(WO,A1)
【文献】特表2008-519128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73、A61K,C08L79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマーであって、
カチオン性ポリマーは、リンカーを介して、D-フルクトースと結合しており、
次の構成要素:
a)カチオン性ポリマー:1以上の正電荷を有する繰り返し単位n個の高分子化合物;
b)リンカー:D-フルクトース又はD-フルクトースの誘導体を、アルキル基又はアリール基のいずれか、アルケニル基又はアルキニル基のいずれか、エーテル、チオエーテル又はアミン、エステル、アミド又は他のカルボン酸誘導体、複素環、ジスルフィド、イミン又はイミドによって前記カチオン性ポリマーに結合させる単位;
c)D-フルクトース:開放鎖のフラノイド構造又はピラノイド構造における5個の可能な炭素原子(1,3,4,5,6)の1個において非グリコシド結合している、1以上のD-フルクトース又はD-フルクトース誘導体、
を有するカチオン性ポリマー。
【請求項2】
適切な条件下で正電荷を有する置換基を有する、請求項1に記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項3】
正電荷を帯びることが可能な置換基を、前記ポリマーの異なる位置に1種又は多種含む、請求項1~2の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項4】
ホモポリマーとしても、統計コポリマー及び/又はブロックコポリマー及び/又はグラジエントコポリマーとしても表される、請求項1~3の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項5】
直鎖又は分岐鎖であり、後者の形状が星状(デンドリマー)、ブラシ状及びくし状を包含する、請求項1~4の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項6】
1以上のD-フルクトース残基が請求項1のリンカーを介して単一、複数又は全てのカチオン性ポリマーの繰り返し単位に結合する、請求項1~5の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項7】
前記D-フルクトースは、フリーのOH基に隣接する1、2、3、4、5及び/又は6位の炭素原子に更なる置換基を有する、請求項1~6の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項8】
核酸類の群から選ばれる生物学的活性物質が静電的及び/又は共有結合的に結合される、請求項1~7の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項9】
DNA、RNA、リボソーム及び/又はDNA-RNA-ハイブリッドの群から選択される前記核酸が結合されており、更に二重結合及び/又は単結合で存在する、請求項8に記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマー。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマーの、生細胞における生物学的活性物質の輸送及び伝達のための使用。
【請求項11】
請求項1~9の何れかに記載のD-フルクトースが共有結合するカチオン性ポリマーの、特定の細胞種の選択的殺傷ための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はD-フルクトースが結合した新規カチオン性ポリマーに関する。このポリマーは、特異な構造エレメントを介して細胞表面と選択的に相互作用することができる。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンイミン(PEI)やポリ(L-リシン)(PLL)等の公知のカチオン性ポリマーの主な問題点である「細胞に対する種々の非特異的な細胞毒性」及び「血液凝固誘発と赤血球溶血」については開示されている(非特許文献1)。
【0003】
カチオン性ポリマーは高い正電荷密度により、例えばsiRNA(低分子干渉リボ核酸)やpDNA(プラスミドデオキシリボ核酸)のような負帯電性の遺伝物質とコンプレックスを形成する能力を示す。このように形成されたカチオン性ポリマーと遺伝物質との付加体はポリプレックスと名付けられ、細胞内の遺伝物質(例えばsiRNA)の輸送はポリプレックスによって達成される。
【0004】
カチオン性ポリマーは、化粧品用途において手触り肌触りや泡感触を向上させる目的で糖界面活性剤の添加物として既に添加されて実績を上げてきた(特許文献1)。
【0005】
また、カチオン性ポリマーは短いタンパク質配列(例えばRGDペプチド)で官能化することができ、この官能化ポリマーが細胞選択性に影響を与えることができる(非特許文献2)。この詳細なメカニズムは未確定であるが、インテグリン(動物細胞の輸送膜タンパク質)の存在が必須となる。
【0006】
カチオン性ポリマーと糖類の共有結合も同様に知られている。
【0007】
ポリプロピレンイミンポリマーはD-マンノースで官能化でき、このポリマーのHIVに対する効果的な使用における特性が研究されている。この場合のアプローチは、レクチンレセプターを有する免疫細胞(所謂マクロファージ)の適切な制御に対してのみ役立つ(非特許文献3)。
【0008】
肝細胞における遺伝物質のためのD-ガラクトース結合ポリエチレングリコール-ポリエチレンイミンコポリマーの合成が既に報告されている。この場合のアプローチは、ASGPレセプターにのみ適切である(特許文献2、非特許文献4)。
【0009】
家族性アミロイド性多発性ニューロパシーの治療を目的として、ラクトース及びα-シクロデキストリンを、カチオン性で放射状のポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーにカップリングさせた。この場合のアプローチは、肝細胞におけるトランスサイレチン遺伝子発現のみを目標としている(非特許文献5)。
【0010】
カチオン性リポソームはD-フコースで修飾され、アデノウイルスに誘起される免疫応答に対する影響が研究された。この場合のアプローチは、脾臓マクロファージ及び肝臓マクロファージに対する特異的転写因子NF-κBのターゲット送達に対してのみ役立つ(非特許文献6)。
【0011】
糖類がグリコシド結合したアクリレート/メタクリレートベースのカチオン性ポリマーが既に開示されている。このアプローチでは、このようなポリマーの化学的構造についてのみ記載されているが、生物学的に可能な適用についてはいかなる視点からも言及されていない。この記載によれば、細胞膜における糖トランスポーターとの相互作用が、グリコシド結合する糖残基によって達成されることもない(特許文献3)。
【0012】
核酸及び、核酸とカチオン性ポリマーとのポリプレックスは既に報告されている。このアプローチでは、溶液中でポリプレックスの形成の際に糖分子が存在したものの、カチオン性ポリマーに共有結合はしていない。従って、直接のターゲット機能は実現されない(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許出願:糖界面活性剤含有調製物におけるカチオン性ポリマーのバイオポリマーの手触り肌触り向上のための使用。DE19605355A1、イエーグ・カーレ、ロルフ・ヴァヒター
【文献】特許出願:細胞ターゲット性ポリエチレングリコールグラフト化ポリマー遺伝子キャリアー、WO2003008555A2、相良一禎
【文献】特許出願:新規糖ポリマー、その使用、その調製に有用なモノマー、US20080281064A1、ステファニー・シロン、マリピエール・ラボー、エチエンヌ・フルーリー、デヴィッド・ヴィエット、シルヴァン・コッタス、ウゲス・ドリゲス、サミ・ハリラ
【文献】特許出願:核酸-カチオン性ポリマー組成物、及びその製造・使用方法、WO2016178233A1、アブラハム・ホーホベルク、ジェニファー・ガッルーラ
【非特許文献】
【0014】
【文献】H.Lvら(2006):「遺伝子送達におけるカチオン性脂質及びカチオン性ポリマーの毒性」、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース 114:100-109
【文献】C.L.ヴァイトら(2009):「PAMAM-RGDコンジュゲートは悪性グリオーマの多細胞スフェロイドモデルを通じてsiRNA送達を向上させる」、バイオコンジュゲート・ケミストリー:20:1908-1916
【文献】T.ドゥッタら(2007):「ラミブジンをロードしたマンノシル化ポリプロピレンイミンデンドリマーのターゲットポテンシャルと抗HIV活性」、ビオキミカ・エ・ビオフィジカ・アクタ(BBA)ジェネラルサブジェクツ:1770、681-686
【文献】K.サガラら(2002):「肝細胞への遺伝子送達のためのガラクトース-ポリエチレングリコール-ポリエチレンイミンの新規合成」、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース 79(1-3):271-281
【文献】Y.ハヤシら(2012):「家族性アミロイド性多発性ニューロパシーの治療のための肝細胞特異的siRNAキャリアーとしてのラクトシル化デンドリマー(G3)/α-シクロデキストリンコンジュゲートの潜在用途」、モレキュラー・ファーマシューティックス:9、1645-1653
【文献】H.ファンら(2009):「アデノウイルスベクターに誘起される先天的免疫応答に対する糖修飾カチオン性リポソーム/NF-κBデコイコンプレックスの抑制効果」、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース:133、139-145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、生体適合性を有し、且つ容易に製造可能な新規D-フルクトース結合カチオン性ポリマーを提供することにある。このポリマーは特定種の細胞に対し高い選択性を示す。
【0016】
ここで「選択性」という概念は、新規D-フルクトース結合カチオン性ポリマーと特定の構造エレメントとの細胞表面における相互作用の選択性を指すこともあり、特定の細胞タイプに対する細胞毒作用の選択性を指すこともある。例としては、特にGLUT5が過剰発現する所定の細胞タイプ(例えば乳ガン細胞の殆どのタイプ)への選択的な細胞毒作用が挙げられるが、これに限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、前記課題は一般式(I)の基本構造からなる、D-フルクトース置換基を有するカチオン性ポリマーによって解決されることが見出された。
【0018】
ここで、「カチオン性ポリマー」は1以上の正電荷を有し、n個(好ましくはn=10~1000)の繰り返し単位の高分子化合物である。
【0019】
カチオン性ポリマーの好ましい例としては、ポリ(L-リシン)(PLL)、ポリエチレンイミン(PEI)、デキストラン(ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE-D)、デキストラン-スペルミン(D-SPM)等)、ポリメタクリレート(ポリ(2-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(PDMAEMA)、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート(PDAMA)等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
ここで、「リンカー」とは1以上の原子又は官能基であって、D-フルクトース単位をカチオン性ポリマーに結合させる原子又は官能基である。好ましい例としては、アルキル基又はアリール基のいずれか、アルケニル基又はアルキニル基のいずれか、エーテル又はチオエーテル、アミン、エステル、アミド又は他のカルボン酸誘導体、複素環(例えばチアゾール又はマレイミド)、ジスルフィド、イミン、イミドが挙げられる。
【0021】
D-フルクトース及びその誘導体は、D-フルクトースに基づく化学的分子であって、オープン型又はクローズ型における3、4、5位の立体化学が保存される全ての化学的分子と解釈される。本明細書において、3、4、5位の立体化学が保存される条件下での化学修飾、特に官能基導入後も同様にD-フルクトース誘導体と解釈される。官能基は例えば、糖類の1又は複数の位置(但しD-フルクトースのグリコシドC2原子を除く)におけるチオール基、アジド基、カルボン酸及びそれらの誘導体、及び/又はアミノ基である。
【0022】
D-フルクトースは開放鎖型のケト官能基を有するので、その化学的性質が大きく変化する。他の糖類同様、特定の輸送タンパク質(GLUT)を細胞に侵入させ、物質代謝を行う。D-フルクトースに関与するトランスポーターはGLUT5トランスポーターである(A.ゴドイら(2006):「ヒトのガンにおけるグルコーストランスポーターGLUT1-6及びGLUT9の特異的細胞内分布:乳腫瘍組織におけるGLUT1及びGLUT5の超微細構造的局在化」、ジャーナル・オブ・セルラーフィジオロジー207(3):614-627)。
【0023】
驚くべきことに、D-フルクトース置換カチオン性ポリマーP3は次の利点を示す。
【0024】
【化1】
【0025】
未修飾の場合に比べ、カチオン性ポリマーP3(例えばL-PEI)は次の特性を有する。
‐高い水溶性;
‐乳ガン細胞(例えばMDA-MB-231等)に対する細胞毒性;
‐非ガン細胞(例えばHUVEC又はL929等)に対する細胞無毒性;
‐顕著に低減された血球溶血作用;
‐血液成分凝集の非誘発性;及び
‐負帯電の生体分子(例えばpDNAやsiRNA等)とのポリプレックス形成能力。
【0026】
本発明を、D-フルクトース結合カチオン性ポリマー(直鎖ポリエチレンイミン(L-PEI、(I))と分岐鎖ポリエチレンイミン(B-PEI、(II))とからなる)の合成に基づき、以下説明する。
【0027】
(I)D-フルクトース結合カチオン性ポリマー(非分岐鎖)L-PEIの合成
1.SH官能化D-フルクトース誘導体の合成(4段階合成)
【0028】
【化2】
【0029】
1-O-(2-メルカプトエチル)-2,3:4,5-ジ-O-イソプロピリデン-β-D-フルクトピラノシドの4段階合成スキーム:
a)ベンジル-2-ブロモエチルエーテル、NaH、THF、室温
b)H/Pd(C)、CHOH、室温
c)塩化メシル、EtN、4-DMAP、CHCl、0℃
d)1.チオ尿素、ブタノン、95℃、2.K、CHCl/HO、50℃
【0030】
D-フルクトース誘導体5を完全に特性化した。全てのステップが高収率で実行された。チオールの導入は、光触媒存在下でのチオール-エン-クリック反応を経由するポリマーへの糖類付加に役立つ。
【0031】
2.その後のチオール-エン-クリックを利用するD-フルクトースとポリマー前駆体とのブロックコポリマーの合成及び糖単位の保護
【0032】
【化3】
【0033】
P(EI-stat-ButEnOx-stat-FruButOx)の合成スキーム:
a)6M HCl、100℃、還流下;
b)ピリジン、4-DMAP、80℃;
c)D-フルクトース誘導体(5)、メタノール、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、25℃、UV=365nm;
d)THF/HO、2M HCl、40℃
【0034】
前述のコポリマーと適切な中間体を特性化することができた。エチレンイミン(EI)と二重結合で官能化したEIからなるコポリマーを前駆体とした。最終ステップにおいて、光触媒存在下でのチオール-エン-クリック反応を経由する糖誘導体5の付加が起こった。水溶性ポリマーP3において酸保護が達成された。
【0035】
(II)D-フルクトース結合分岐ポリエチレンイミン(B-PEI)の合成
1.エポキシ官能化D-フルクトースの合成
【0036】
【化4】

【0037】
商業的に入手可能なイソプロピリデン保護D-フルクトースを出発として、エピクロロヒドリンを用いるウイリアムソンのエーテル合成法によってエポキシ官能化D-フルクトースを製造することができる。
【0038】
2.エポキシ官能化D-フルクトースと分岐B-PEIとのカップリング
【0039】
【化5】
【0040】
エポキシドと一級アミンとの一般的な開環反応の概略スキームを上に示す。
【0041】
【化6】
【0042】
分岐ポリエチレンイミン(B-PEI)の可能な繰り返し単位の概略構造式を上に示す。
【0043】
メタノール中室温で3日間攪拌下において、B-PEIを先に合成したD-フルクトース誘導体との開環反応で官能化することができる。14%、23%、28%、39%及び76%官能化一級アミノ基を有するD-フルクトース結合B-PEI製造できた。
【0044】
3.フルクトース残基における保護基の分離
イソプロピリデン保護基を水の存在下で酸分解した。具体的には、2M HClを用いて、D-フルクトース誘導体を結合するカチオン性ポリマーを約40℃で加熱した。水に対して透析(セルロースエステル、MWCO:500-1000Da)し、D-フルクトース官能化B-PEIを得た。
【0045】
ポリマーP3の生物学的評価を徹底的に行った。
【0046】
a)細胞毒性及び血液適合性
図1は、ポリマーP1,P2及びP3のアラマーブルーアッセイによる、細胞タイプ依存の細胞毒性の研究結果を示す。未処理細胞の活力パーセンテージを100%とした。細胞は特定のポリマー濃度で24時間処理した。
【0047】
驚くべきことに、D-フルクトース結合ポリマーP3は乳ガン細胞株MDA-MB-231に対し高い毒性を示した一方、非ガン細胞(HUVEC及びL929)に対しては細胞活力の顕著な低下を示さなかった。ポリマーP2及びP1は、いかなる選択性も示さなかった(図1)。
【0048】
図2Aは、特定濃度のポリマーの赤血球凝集アッセイを示す。B-PEIをポジティヴ対照とし、PBSをネガティヴ対照とした。図2Bは、特定濃度のポリマーとのインキュベーションに対する赤血球の溶血アッセイを示す。トリトンX-100をポジティヴ対照(100%溶血)とし、PBSをネガティヴ対照(1.99%)とした。溶血2%未満の値を「非溶血性」、2~5%を「軽溶血性」、>5%を「溶血性」に分類する。これら数値は、3測定値の平均値(±標準偏差)を表す。
【0049】
ポリマーP1及びP2とは対照的に、ポリマーP3は赤血球の凝集及び溶血を惹起しない(図2)。
【0050】
b)ポリプレックス形成の形成速度と安定性
遺伝物質をコンプレックス化する能力は、使用されるカチオン性ポリマーの主たる関心事である。これを検証する目的で、カチオン性ポリマーの全窒素原子の総計(N)と遺伝物質の全リン原子の総計(P)との比(N/P比)について、異なる数値で試験した。図3A及び3BはポリマーP1、P2及びP3とpDNAとのポリプレックス形成と安定性を示す。図3Aは、特定のN/P比(エチジウムブロマイドクエンチアッセイ)における結合親和性を示し、図3BはN/P比20且つヘパリン(0~60UmL-1)使用下でのポリプレックスの解離アッセイを示す。これら数値もまた、3測定値の平均値±S.D(n=3)を表す。
【0051】
D-フルクトース結合ポリマーP3は、N/P比>15において安定なポリプレックス形成を示し、更にヘパリン存在下における遺伝物質の迅速な遊離を示す(図3)。
【0052】
c)ポリプレックスの大きさ
【0053】
【表1】
【0054】
HBGバッファー中におけるP1~P3(N/Pが20)のポリプレックスの大きさとゼータ電位(動的及び電気泳動的光散乱により測定)を上の表に示す。
【0055】
d)細胞取り込み
細胞毒性の研究結果をサポートする目的にて、ポリマーを種々の染料(Cy-5及びローダニン-SCN)でマークした。当該細胞株の細胞と共にインキュベートし、フローサイトメトリー(FACS)と共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)にて結果を評価した。
【0056】
図4に細胞取り込みの研究結果を示す。ポリマーP1~P3のポリプレックスを、YOYO-1でマークしたpDNA及びL929細胞、HUVEC細胞又はMDA-MB-231細胞と共にインキュベートした。図4のグラフは、ポリマー無しのpDNA対照(点で表す)に対する全生細胞の相対平均蛍光強度(MFI)を示す。これら数値もまた、3測定値の平均値±S.D(n=3)を表す。
【0057】
ここで、P1及びP2は全N/P比において、試験した全細胞株において非特異的な細胞取り込みを(5~60%)示す。これに反してP3は、P1及びP2(20~30%)と比較して、乳ガン細胞株MDA-MB-231において顕著に向上した細胞取り込み(60%、N/P=50)を示す。更にP3は、非乳ガン細胞株L929及びヒトプラマリ細胞株HUVECにおいて明確に低減した細胞取り込み(それぞれ20%及び5%、N/P=50)を示す。直接の前駆体であるP2とD-フルクトース結合ポリマーP3の間におけるMDA-MB-231取り込み挙動の明確な差異は、糖分子の優れたターゲット機能を証明するものである。図4の柱状バーは細胞の取り込み分を反映すると同時に、pDNA取り込みによる蛍光のおよその値を示す。
【0058】
これらの結果は、染料でマークされたポリマーと共に細胞をインキュベートした場合、共焦点レーザー走査型顕微鏡下の細胞でも観察された。N/Pが50のとき、L929におけるP3の蛍光強度は小さく、MDA-MB-231細胞において高かった。これに対し、ポリマーP1及びP2は逆な傾向を示した。生細胞での細胞取り込みの研究結果は、細胞毒性アッセイの結果と一致するため、D-フルクトース結合ポリマーP3の細胞タイプ選択性が明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図1
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