(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】熱安定性が改善された分子インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20230922BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20230922BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20230922BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C09D11/52
C09D11/037
H05K1/09 A
H05K3/12 610B
H05K3/12 610G
(21)【出願番号】P 2019563709
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(86)【国際出願番号】 IB2018050789
(87)【国際公開番号】W WO2018146617
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-28
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケル、アーノルド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】パケ、シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】モーゼンソン、オルガ
(72)【発明者】
【氏名】マレファン、パトリック ロラン ルシアン
(72)【発明者】
【氏名】デオール、バーバナ
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/192248(WO,A1)
【文献】特表2017-524761(JP,A)
【文献】特開2009-062523(JP,A)
【文献】特開平01-174573(JP,A)
【文献】特開2011-246498(JP,A)
【文献】特表2008-531810(JP,A)
【文献】特表2006-519291(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104263082(CN,A)
【文献】特表2005-537386(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163076(WO,A1)
【文献】特表2020-510740(JP,A)
【文献】特表2009-527076(JP,A)
【文献】特表2006-517606(JP,A)
【文献】特表2014-529875(JP,A)
【文献】特開2011-93962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41M 5/50
B41M 5/52
C09D 11/00- 13/00
H05K 1/09
H05K 1/16
H05K 3/10- 3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸銀と;溶媒と;ヒドロキシルおよび/またはカルボキシル末端ポリエステルを含むポリマーバインダーとを含む分子インクであって、
前記カルボン酸銀が、前記インクの総重量に基づいて、前記インク中に24重量%以上の銀装填量を提供する量で前記インク中に存在する、
分子インク。
【請求項2】
前記カルボン酸銀が、インクの総重量に基づいて、60重量%以上の量でネオデカン酸銀を含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記ネオデカン酸銀が、インクの総重量に基づいて、80重量%以上の量でインク中に存在する、請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記ポリマーバインダーが、インクの総重量に基づいて、0.5重量%~3重量%の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載のインク。
【請求項5】
前記溶媒がテルペンアルコールを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
前記溶媒がα-テルピネオールを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
前記溶媒が、インクの総重量に基づいて、10重量%~40重量%の範囲の量でインク中に存在する、請求項5又は6に記載のインク。
【請求項8】
31000cPから180000cPの範囲の粘度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のインク。
【請求項9】
基板上に導電性銀トレースを生成する方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載のインクを基板上に堆積させて、基板上にインクの非導電性トレースを形成し、基板上のインクの非導電性トレースを焼結して、導電性銀トレースを形成することを含む、方法。
【請求項10】
前記焼結が、1分~180分の範囲内の時間で180℃以上の温度で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板が、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン、シリコーンメンブレン、ウール、シルク、コットン、亜麻、ジュート、モーダル、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリラクチド、紙、ガラス、金属または誘電体コーティングを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記堆積がスクリーン印刷を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のインクから生成した導電性銀トレースを含む基板。
【請求項14】
前記トレースが、少なくとも1時間、230℃を超える温度にさらされた後の、ASTM F1683-09に従った折り曲げ試験および折り目試験で10%以下の抵抗変化を示す、請求項13に記載の基板。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の基板を含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願はインク、特に印刷可能な分子インクに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子インクの機械的性質は、一般的に劣っている。さらに、トレースの厚さを薄くして機械的性質を向上させることができるが、ナノ粒子のより薄い層から得られるトレースは、体積抵抗率値がより低い。エチルセルロースバインダーを用いて生成した分子インク(molecular ink)が、有意に向上した機械的性質を有することができることが以前に証明されている(2015年12月23日に公開された国際特許公開第2015/192248号)。しかし、この配合物から印刷されたトレースが長期間(20分超)にわたり高温(230℃超)にさらされると、機械的破損が生じる可能性がある(すなわち、折り曲げ試験または折り目試験後の抵抗変化が、10%より大きくなる)。第1層として印刷された分子インクから生成したトレース(trace)は、複数の層が装置内で構築される際に、220℃を超える温度で最大20~30分間処理される必要があるので、インクが多層プロセスで使用される際にこのような破損は問題となり得る。さらに、最も狭いトレース(3~5ミルのライン幅で測定された)は、より広いトレース(7~20ミルのトレースで測定された)より、速く焼結する傾向がある。したがって、ライン幅や厚さに関係なく、すべてのトレースを同じ条件で処理できるように処理条件を微調整することは困難の可能性がある。
【0003】
そのような分子インクに関しては、焼結温度を下げ、焼結時間を長くすることにより、得られるトレースの機械的性質を改善することができる。しかし、200℃未満の温度で焼結したトレースの抵抗率は、より高い温度(230℃超)で焼結した際より、最大1.3倍高くなり得る。
【0004】
したがって、良好な機械的性質(例えばASTM F1683-02による折り曲げまたは折り目後の、10%以下の抵抗変化)および低い抵抗率(例えば5mΩ/□/ミル未満)を有する細い導電線(例えば100μm未満または約4ミル)を生成しつつ、高温(例えば230℃超)および/またはより長時間(例えば20分超)での焼結を可能にする、改善された熱安定性を有するインク配合物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
銀塩の装填量を80重量%(32重量%銀)以上に増加させる能力を有する分子銀インクが配合されており、これは、並外れた熱安定性を有するトレースの生成を可能にする。
【0006】
一態様では、カルボン酸銀;溶媒;およびヒドロキシルおよび/またはカルボキシル末端ポリエステルを含むポリマーバインダーを含む分子インクが提供される。
【0007】
別の態様では、インクの総重量に基づいて、インク中に約24重量%以上の銀装填量を提供する量のカルボン酸銀;溶媒;およびポリマーバインダーを溶媒と相溶性にする官能基を有するポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミドまたはそれらの任意の混合物を含むポリマーバインダーとを含む分子インクが提供される。
【0008】
別の態様では、基板上に導電性銀トレースを生成する方法が提供され、上記方法は、基板上に分子インクを堆積させて、基板上にインクの非導電性トレースを形成し、基板上のインクの非導電性トレースを焼結して、導電性銀トレースを形成することを含む。
【0009】
別の態様では、上記のような方法によって生成した導電性銀トレースを含む基板が提供される。
【0010】
別の態様では、上記のような方法によって生成した導電性銀トレースを有する基板を含む電子装置が提供される。
【0011】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の過程で説明されるか、または明らかになるであろう。本明細書に記載された各特徴は、他の記載された特徴のうちの1つ以上との任意の組み合わせで利用され得ること、および各特徴が、当業者に明らかな場合を除いて、他の特徴の存在に必ずしも依存しないことが理解されるべきである。
【0012】
より明確に理解するために、添付の図面を参照して、好ましい実施形態を例として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、剪断応力が735から4335Paに増加するにつれて、粘度が約180000から約31000cPに減少し(黒丸)、剪断応力が530Paに戻るにつれて、粘度が約130000cPに戻る(白色ひし形)、分子インク(インクI1)の粘度のグラフを示す。
【
図2A】
図2Aは、乾燥されているが焼結されていない本発明の分子インクからスクリーン印刷されたトレースの三次元表面形状測定装置画像を示す。印刷されたトレースのライン幅とライン間隔は、それぞれ約64±6μmと約34±1μmである。
【
図2B】
図2Bは、乾燥されているが焼結されていない本発明の分子インクからスクリーン印刷されたトレースの断面分析を示す。印刷されたトレースのライン幅とライン間隔は、それぞれ約64±6μmと約34±1μmである。
【
図3A】
図3Aは、乾燥および焼結された本発明の分子インクからスクリーン印刷されたトレースの三次元表面形状測定装置画像を示す。印刷されたトレースのライン幅とライン間隔は、それぞれ約70±5μmと約28±1μmである。
【
図3B】
図3Bは、乾燥および焼結された本発明の分子インクからスクリーン印刷されたトレースの断面分析を示す。印刷されたトレースのライン幅とライン間隔は、それぞれ約70±5μmと約28±1μmである。
【
図4】
図4は、異なる配合を有する他のAgNDインク(インクC1)と比較した、本発明のネオデカン酸銀(AgND)インク(インクI1)についての焼結温度(℃)の関数としてのシート抵抗率(mΩ/□/ミル)のグラフを示す。
【
図5】
図5は、インクI1から生成した4.6、8.4および22.8ミルトレース(測定されたライン幅)についてのシート抵抗率(mΩ/□/ミル)対焼結温度(℃)のプロットを示す。
【
図6A】
図6Aは、240℃で30分間加熱した後にインクC1から生成したトレースについての折り目試験の結果を示す写真を示す。
【
図6B】
図6Bは、240℃で30分間加熱した後にインクI1から生成したトレースについての折り目試験の結果を示す写真を示す。
【
図7A】
図7Aは、240℃で30分間加熱した後にインクC1から生成したトレースについてのスコッチテープを用いた接着試験の結果を示す写真を示す。
【
図7B】
図7Bは、240℃で30分間加熱した後にインクI1から生成したトレースについてのスコッチテープを用いた接着試験の結果を示す写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
カルボン酸銀は、銀イオンとカルボン酸部分を含む有機基とを含む。カルボン酸は、好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは6~15個の炭素原子、さらにより好ましくは8~12個の炭素原子、例えば10個の炭素原子を含む。カルボン酸は、アルカン酸であることが好ましい。カルボン酸銀は、アルカン酸の銀塩であることが好ましい。好ましいカルボン酸銀のいくつかの非限定的な例は、エチルヘキサン酸銀、ネオデカン酸銀、安息香酸銀、フェニル酢酸銀、イソブチル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、シュウ酸銀、ピバリン酸銀およびそれらの誘導体ならびにそれらの任意の混合物である。ネオデカン酸銀が特に好ましい。1種または複数のカルボン酸銀がインク中に存在してもよい。カルボン酸銀は、インク中に分散していることが好ましい。好ましくは、インクは、金属銀材料のフレークまたは他の粒子を含まない。
【0015】
カルボン酸銀は、インクの総重量に基づいて、インク中に約19重量%以上の銀装填量を提供する量でインク中に存在することが好ましい。より好ましくは、カルボン酸銀は、約23重量%以上、または約24重量%以上、または約25重量%以上、または約27重量%以上、または約31重量%以上、または約32重量%以上の銀装填量を提供する。カルボン酸銀がネオデカン酸銀である場合、ネオデカン酸銀は、インクの総重量に基づいて、約50重量%以上、または約60重量%以上、または約65重量%、または約70重量%以上、または約80重量%以上の量でインク中に存在することが好ましい。
【0016】
溶媒は、銀塩またはポリマーバインダーの一方または両方と相溶性であることが好ましい。溶媒は、銀塩とポリマーバインダーの両方と相溶性であることが好ましい。銀塩および/またはポリマーバインダーは、溶媒に分散可能、例えば可溶性であることが好ましい。溶媒は、有機溶媒が好ましく、非芳香族有機溶媒であることがより好ましい。非芳香族有機溶媒としては、例えば、テルペン(例えば、テルペンアルコール)、グリコールエーテル(例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル)、アルコール(例えば、メチルシクロヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール)、カルビトール(例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール)、またはそれらの任意の混合物が挙げられる。溶媒は、好ましくはテルペン、より好ましくはテルペンアルコールを含む。テルペンアルコールは、モノテルペンアルコール、セスキテルペンアルコールなどを含み得る。モノテルペンアルコール、例えばテルピネオール、ゲラニオールなどが好ましい。テルピネオール、例えばα-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、およびテルピネン-4-オールが特に好ましい。特に好ましいのは、α-テルピネオールである。溶媒は、インクの総重量に基づいて、任意の適切な量で、好ましくは約1重量%~約50重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、上記量は、約5重量%~約50重量%、または約10重量%~約40重量%の範囲である。
【0017】
ポリマーバインダーは、ポリマーバインダーを溶媒と相溶性にする官能基を有するポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミドまたはそれらの任意の混合物を含み得る。好ましくは、ポリマーバインダーは、溶媒中に分散可能、例えば可溶性である。したがって、溶媒中のポリマーバインダーの混合物は、有意な相分離をもたらさない。ポリマーバインダーを溶媒と相溶性にする官能基は、水素結合に関与することができる極性基、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基およびスルホニル基のうちの1種以上であることが好ましい。好ましくは、ポリマーバインダーは、末端ヒドロキシル基および/またはカルボキシル基を含む。ポリマーバインダーは、ポリエステルを溶媒と相溶性にする官能基を有するポリエステルを含むことが好ましい。より好ましくは、ポリマーバインダーは、ヒドロキシル末端および/またはカルボキシル末端ポリエステルを含む。
【0018】
ポリマーバインダーは、インクの総重量に基づいて、任意の適切な量で、好ましくは約0.1重量%~約5重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、上記量は、約0.5重量%~約3重量%、または約1重量%~約2重量%の範囲である。
【0019】
ポリマーバインダーを有するインクは、高温で長時間加熱した後、例えば約230℃より高い温度で少なくとも約1時間加熱した後でさえ、狭いトレースの均一な処理を可能にする。さらに、ポリマーバインダーは、インク中のレオロジー調整剤である必要はないことが有利である。インクの粘度は、インク中の銀塩の量を調整することによって制御することができる。したがって、ポリマーバインダーは、粘度に過度に影響を及ぼすことなく、より多くの銀塩の使用、したがより高い銀装填量を可能にしながら、より低い濃度で使用することができる。これらの特性は、
図1に示すように、剪断応力の印加がペーストの粘度を有意に低下させるスクリーン印刷に、インクを特によく適したものにする。さらに、銀装填量対ポリマーバインダーの重量比は、10:1以上、さらには15:1以上、さらには20:1以上にもなり得る。バインダー濃度の減少を伴ったカルボン酸銀濃度の増加は、以前に実証されたものよりも低い抵抗率値(例えば、5mΩ/□/ミル未満)を有する焼結銀トレースの生成および狭い特徴を印刷する能力をもたらす。
【0020】
記載された分子インクは、特に、長期間高温にさらされた後の折り曲げ試験および折り目試験に耐える能力に関して、並外れた熱安定性を有するトレースの生成を可能にする。好ましくは、インクトレースは、少なくとも約1時間、約230℃を超える温度にさらされた後の折り曲げ試験および折り目試験に耐えることができる。分子インクから生成したトレースは、約180~300℃の温度にさらされた際に、機械的安定性を有することができる。
【0021】
一実施形態では、分子インクは、カルボン酸銀、溶媒、およびヒドロキシルおよび/またはカルボキシル末端ポリエステルを含むポリマーバインダーからなる。別の実施形態では、分子インクは、インクの総重量に基づいて、インク中に約24重量%以上の銀装填量を提供する量のカルボン酸銀、溶媒;およびポリマーバインダーを溶媒と相溶性にする官能基を有するポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミドまたはそれらの任意の混合物を含むポリマーバインダーからなる。
【0022】
インクは、基板上にインクの非導電性トレースを形成するための任意の適切な方法によって基板上に堆積させることができる。インクは、印刷、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スタンプ印刷、エアブラシ印刷、エアロゾル印刷、組版印刷、または任意の他の方法に特に適している。インクは、さまざまな印刷技術に対して独自に最適化できる。
【0023】
基板上に堆積した後、非導電性トレース内のカルボン酸銀を乾燥および分解させ、導電性トレースを形成させる。乾燥および分解は、任意の適切な技術によって達成することができ、その技術および条件は、その上にトレースが堆積される基板の種類およびインク中のカルボン酸銀の種類によって導かれる。例えば、インクの乾燥およびカルボン酸銀の分解は、加熱(熱、IR、マイクロ波など)および/またはインテンス・パルス・ライトベースのフォトニック焼結によって達成することができる。
【0024】
一技術では、基板を加熱することにより、トレースを乾燥および焼結させ、導電性トレースを形成する。焼結は、カルボン酸銀を分解して、銀の導電性粒子(例えばナノ粒子)を形成する。インクから形成した導電性トレースの機械的性質を損なうことなく比較的高温範囲で長時間加熱を行うことができることが有利であり、これは、複数の層のインクを堆積して処理しなければならない用途、および基板の熱成形を含む用途において特に有利である。
【0025】
加熱は、良好な機械的性質を有する比較的高導電性の銀トレースを生成しながら、約150℃以上、または165℃以上、または175℃以上、または180℃以上、または185℃以上、または200℃以上、または220℃以上、または230℃以上、または240℃以上の温度で行うことができる。一実施形態では、温度は、約200℃~約250℃の範囲である。
【0026】
加熱は、約1~180分、例えば5~120分、または5~60分の範囲内の時間で行われることが好ましい。加熱は、導電性トレースを形成するために、基板上にトレースを焼結させるのに十分な温度と時間のバランスで行われる。インクの改善された熱安定性は、より長い期間、例えば最大1時間以上の間の加熱を可能にする。加熱装置の種類は、焼結に必要な温度および時間にも影響する。焼結は、酸化雰囲気(例えば空気)または不活性雰囲気(例えば窒素および/またはアルゴンガス)下で、基板を用いて行うことができる。
【0027】
別の技術では、フォトニック焼結システムは、広帯域スペクトルの光を送達する高輝度ランプ(例えばパルスキセノンランプ)を特徴とし得る。ランプは、トレースに約5~27J/cm2のエネルギーを送達することができる。パルス幅は、約0.58~1.5msの範囲であることが好ましい。駆動電圧は、約1.6~3.0kVの範囲内であることが好ましい。フォトニック焼結は、周囲条件下で(例えば空気中で)行うことができる。フォトニック焼結は、ポリエチレンテレフタレートおよびポリイミド基板に特に適している。
【0028】
インクを基板上で乾燥および焼結することによって形成した導電性トレースは、任意の所望の厚さおよび幅のものであってもより。比較的高い導電率(すなわち、比較的低い抵抗率)を維持しながら、インクを乾燥および焼結して、比較的薄いおよび/または狭い導電性トレースを形成することができることが有利である。インクは、約50μm~約1000μmの範囲のライン幅を有する機能トレースが、同じ回路内で使用される用途に非常に適している。しかし、導電性トレースは、50μm未満の幅および/または厚さを有することがあり、電子回路の小型化を可能にする。一実施形態では、インクは、230℃で最大1時間加熱した後でさえ、ASTM F1683-02折り曲げ試験および折り目試験を通過することができる、体積抵抗率値が1.5~2.0mΩ/□/ミルの範囲である約3.5~23.0ミルの測定されたライン幅を有するトレースを均一に処理することを可能にする。
【0029】
基板は、任意の適切な表面、特に印刷可能な表面であってもよい。適切な表面としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)(例えばMelinex(商標))、ポリオレフィン(例えばシリカ充填ポリオレフィン(Teslin(商標)))、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリカーボネート、ポリイミド(例えばKapton(商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、シリコーンメンブレン、ウール、シルク、コットン、亜麻、ジュート、モーダル、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリラクチド、紙、ガラス、被覆ガラス(例:ITO被覆ガラス)、金属、誘電体コーティングなどを挙げることができる。
【0030】
基板上に堆積した導電性トレースは、電子装置、例えば電気回路、導電性バスバー(例えば太陽電池用)、センサー(例えばタッチセンサー、ウェアラブルセンサー)、アンテナ(例えばRFIDアンテナ)、薄膜トランジスタ、ダイオード、スマートパッケージング(例えばスマートドラッグパッケージング)、機器および/または車両における適合インサート、ならびに高温に耐えることができる適合表面上のローパスフィルタ、周波数選択表面、トランジスタおよびアンテナを含む多層回路およびMIM素子に組み込むことができる。インクは、そのような電子装置の小型化を可能にする。
【0031】
例
例1:ネオデカン酸銀インク
ネオデカン酸銀(AgND)ベースのインクを表1に記載のように配合した。インクI1を本発明に従って配合し、インクC1はAgNDベースのインクの他の配合物の比較例である。インクは、すべての成分を混合し、溶液が均一になるまでプレナリーミキサーで混合することによって調製した。2つのポリマーバインダーのうちの1つを次のインク:Rokrapol(商標)7075(ポリエステル)またはエチルセルロース46cPに添加した。
【0032】
【0033】
メッシュカウント400を有するスクリーン(19μmのスレッド直径および45μmのメッシュ開口部を有するステンレス鋼スクリーン)を使用して、インクを8.5×11インチシートのKapton(商標)HPP-ST上にスクリーン印刷した。
図2Aおよび2B(印刷および乾燥トレースについて)および3Aおよび3B(印刷、乾燥および焼結トレースについて)に示すように、インクI1は、乾燥トレースについてはライン幅/ライン間隔が64±6/34±1μmのトレースを生成することができ、乾燥および焼結トレースについては70±5/28±1μmのトレースを生成することができる。長さ10cm、公称幅2~20ミルのスクリーン印刷ラインも生成した。これらの印刷されたトレースは、表2に記載された加熱プログラムを使用して、約140℃~240℃まで変化するリフロー温度(T)で空気中で熱焼結された。記載されている温度は、Kapton(商標)基板に取り付けられた熱電対によって測定されたものである。
【0034】
【0035】
トレースの電気的特性は、オームメーターを用いて10cm長のトレースを横切る抵抗を測定することによって特徴付けられた。焼結トレースの幅と厚さは、光学プロフィロメータ(Cyber Technologies 3D Surface Profiler)を使用して測定した。トレース幅は、長さ10cmの各トレース内の正方形の数を決定するために使用することができ、続いて、シート抵抗を計算するために使用することができる。厚さ測定値を使用して、トレースのシート抵抗値を計算した。焼結トレースの電気的性質を表3に示す。
【0036】
図4から明らかなように、インクC1から生成した約21ミルのトレースを60分間焼結すると、インクI1と比較して、約180℃までのより低いシート抵抗率値を有するトレースを生成することができる。しかし、約180℃より高い温度では、インクC1から生成したトレースは、約5mΩ/□/ミルのシート抵抗率値でプラトーに達し、インクI1から生成したトレースは、約1.5mΩ/□/ミルに減少し続ける。
【0037】
焼結温度に対するインクI1のシート抵抗率をまた、4.6~22.8ミルの範囲のライン幅を有するインクトレースについて決定した。焼結温度は、180℃~240℃(基板温度)の範囲であり、焼結時間は50分であった。結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、インクは、240℃の高温で焼結した場合でさえ、非常に低いシート抵抗率を有する非常に狭い導電性トレースを提供することができ(特に4.6ミルのラインを参照)、すべてのライン幅について、焼結温度が上昇するにつれて、焼結トレースの抵抗率は低下する。データは、インクI1の優れた熱安定性を例示している。20分を超える時間において、より高温(230°C超)になると、最も狭いトレース(ライン幅が約3~4ミル未満)、インクC1は、通常、非導電性トレースを生成する。
【0038】
表3は、バッチリフローオーブン内で240℃(基板温度)で50分間焼結することにより、インクI1から生成した2~20ミルの公称ライン幅を有する100mm(100,000μm)長スクリーン印刷トレースについての物理的データ(公称および測定ライン幅およびトレース厚さ)および電気的特性(シート抵抗および抵抗率値)を示す。表3から明らかなように、インクI1を比較的高温で比較的長時間焼結することによって生成した導電性トレースは、広範囲のライン幅にわたって一貫して非常に低い抵抗率を有し、これもまたインクI1の優れた熱安定性を示す。
【0039】
【0040】
インクI1を240~245℃で50分間焼結することによって生成したトレースに対して、ASTM F1683-09に従った曲げ試験および折り目試験を行った。結果を表4に示す。表4から明らかなように、いずれの試験でも抵抗は5%を超えて増加しない。
【0041】
【0042】
インクC1およびインクI1を240℃で30分間焼結することによって生成したトレースに対して、ASTM F1683-09に従った折り目試験を行った。
図6AはインクC1についての結果を示す写真であり、
図6BはインクI1についての結果を示す写真である。
図6Aおよび
図6Bの写真(ii)および(iii)は、それぞれの写真(i)の拡大図である。
図6Aおよび
図6Bの拡大図(ii)および(iii)に最もよく見られるように、セルロースベースのポリマーを含むトレースは、クラッキング/破壊されており(
図6A(ii)および
図6A(iii))、一方、Rokrapol(商標)7075を含むトレースは、折り目の影響を受けないままである(
図6B(ii)および
図6B(iii))。
【0043】
インクC1およびインクI1を240℃で30分間焼結することによって生成したトレースについて、スコッチテープを用いて接着試験を行った。
図7AはインクC1の結果を示す写真であり、
図7BはインクI1の結果を示す写真である。
図7Aおよび
図7Bのそれぞれの写真(i)は、スコッチテープを貼った跡を示す。
図7Aおよび
図7Bのそれぞれの写真(ii)は、スコッチテープを取り除いた後のトレースを示す。
図7A(ii)に見られるように、セルロースベースのポリマー(インクC1)を使用してトレースを生成した場合、著しい量のトレースが除去される。対照的に、
図7B(ii)に見られるように、Rokrapol(商標)70
75(インクI1)を使用してトレースを生成した場合、検出可能な量のトレースは除去されない。
【0044】
新規な特徴は、説明を検討することにより当業者には明らかになるであろう。しかし、特許請求の範囲は実施形態によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲の文言および明細書全体と一致する最も広い解釈を与えられるべきであることを理解すべきである。