(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】湯水混合水栓
(51)【国際特許分類】
F16K 11/085 20060101AFI20230922BHJP
F16K 11/22 20060101ALI20230922BHJP
F16K 27/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F16K11/085 B
F16K11/22 B
F16K27/00 D
(21)【出願番号】P 2020022656
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000228741
【氏名又は名称】日本サーモスタット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川島 拓麻
(72)【発明者】
【氏名】根岸 功
(72)【発明者】
【氏名】丸山 善太
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第95/18324(WO,A1)
【文献】米国特許第1392167(US,A)
【文献】特開2017-067191(JP,A)
【文献】特開平06-294475(JP,A)
【文献】実開昭50-156829(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 11/00 - 11/24
F16K 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯水混合水栓であって、
筒体と、
前記筒体の外周面から内周面に貫通し、前記筒体の中に湯を導く給湯口と、
前記筒体の外周面から内周面に貫通し、前記筒体の中に水を導く給水口と、
前記筒体の中に配置され、湯水を温度調節可能に混合する混合部と、
前記筒体の内周面から外周面に貫通し、前記混合部から吐出した湯水を吐出可能な第1吐出口と、
前記筒体の内周面から外周面に貫通し、前記混合部から吐出した湯水を吐出可能な第2吐出口と、
前記筒体に挿入され、前記第1吐出口と前記第2吐出口とを選択自在な切換弁とを備え、
前記切換弁は、切換外筒と、前記切換外筒内に回転自在に配置される切換内筒と、を備え、
前記筒体と前記切換外筒との間には、前記給水口から導かれた水を前記混合部に導く案内路が設けられ、
前記切換外筒は、前記第1吐出口と連通する第1連通孔と、前記第2吐出口に連通する第2連通孔とを備え、
前記切換内筒は、前記切換外筒に対して回転自在に配置され、且つ前記切換内筒を回転させることにより前記第1連通孔と前記第2連通孔との何れかを選択自在な選択孔を備え、
前記筒体と前記切換外筒との間には、前記第1連通孔と前記第1吐出口との間を流れる湯水が前記案内路に漏れないように液密に閉塞する第1環状シールと、前記第2連通孔と前記第2吐出口との間を流れる湯水が前記案内路に漏れないように液密に閉塞する第2環状シールと、が設けられ、
前記第1環状シールと前記第2環状シールとが、前記筒体内への前記切換弁の挿入方向の先方に近づくに連れ、次第に前記筒体の中心軸線に近づくように、前記筒体の内周面と前記切換外筒の外周面とが傾斜して構成されていることを特徴とする湯水混合水栓。
【請求項2】
請求項1記載の湯水混合水栓であって、
前記案内路には、前記筒体の内周面と、前記切換外筒の外周面とを接触させる突部が設けられていることを特徴とする湯水混合水栓。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の湯水混合水栓であって、
前記第1環状シール及び前記第2環状シールの傾斜角度は、前記筒体の成形時に必要な前記筒体の内周面の抜き勾配よりも大きく設定されていることを特徴とする湯水混合水栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯水混合水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湯水の混合比を調整して吐出可能な湯水混合水栓が知られている(例えば、特許文献1参照)。湯水混合水栓は、一般家庭の台所やバスルーム、ホテルのバスルームやデパート,空港等におけるトイレ等に設置されている。
【0003】
湯水混合水栓の形状自体は勿論、その多種多様な設置場所の雰囲気を高めるために、高級感を持たせることが求められる場合がある。
【0004】
また、ケーシングとしての筒体を鋳型成形することにより、ウォーターハンマ発生時等に生じる過度の水圧に対する強度への要求や、冷水と熱水とによる急激な温度変化に対する耐久性への要求も十分に満たしている。
【0005】
しかしながら、筒体を鋳型成形した場合には、筒体は湯水混合部やカランとシャワーを切り換える切換弁等を内蔵するとともに、筒体の内周面は湯側通路、水側通路や混合湯水通路として利用されているため、シール性の確保、湯水混合部の組み込みや通路形成のために、ケーシング内部に種々の機械加工を必要とする。
【0006】
例えば、鋳肌のままではシール性を確保できなかったり、湯水混合部等の組み込みや均一な通路形成ができないため、筒体の内部において、湯水混合部等の収納用の穴やOリング配置用の溝等の切削加工や旋削加工,研磨加工等を必要とする。
【0007】
穴や溝等の切削加工や旋削加工,研磨加工等の機械加工は、筒体の外側であれば容易に行なうことができるが、筒体の内部では使用する工具に制約を受けたり、内部でのいわゆるバリ取りが必要となるため特別な工具や複雑な製造工程を必要とする。つまり、筒体の内部において複雑な機械加工を経なければならなかった。
【0008】
また、鋳型成形による筒体では、見かけより重量があり、その運搬・取扱および取付工事等で重量を考慮する必要があった。さらに、鋳物は熱容量が小さく、断熱性に欠けるため、筒体内部に湯流路を設けると、筒体表面の温度が部分的に高くなり、使い難い場合があった。従って、筒体内に湯流路を設けることなく、湯が流入すると同時に水と混合されるよう混合部を湯の流入口に設置する設計が要求されていた。このような要求に応えるべく特許文献1のものでは、ケーシングとしての筒体を樹脂製にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鋳型成形のケーシングとしての筒体を用いた湯水混合水栓の浴室においては、給湯口、カランやシャワーなどへの2つの吐出口、給水口の順に並んでいる。このため、ケーシングとしての筒体を樹脂製とする場合においても、既存の鋳型成形品との交換作業を容易とするためには、給湯口、吐出口、給水口の順に配置する必要がある。この場合、水を混合部が配置された給湯口側へ導く案内路を設ける必要がある。このとき、案内路とカランやシャワーへの吐出口とで水が混ざらないように、吐出口を取り囲むようにして筒体と切換弁の外周面との間をシールする必要がある。
【0011】
しかしながら、筒体の周方向に間隔を存して配置されたカランとシャワー口との2つの吐出口を夫々シールしようとすると、筒体の周面に吐出口を夫々取り囲むようにして2つの環状シールを周方向に間隔を存して配置する必要がある。
【0012】
ここで、一般的なOリングを用いたシール構造では、切換弁の外周に周方向に沿うように配置されているため、2つのシール部材の軸方向の間に段部を作って、シールリングが筒体と切換弁との間で圧縮し始める圧入距離を短くすることにより、挿入時にシール部材が捲れることを防止している。
【0013】
しかしながら、シール部材を案内路を通過する水の流れを堰き止めることのないように吐出口を取り囲むようにして筒体の周面に配置したときには、筒体内にシール部材付きの切換弁を挿入しようとするとき、圧入距離が長くなってしまい、シール部材が捩れたり、捲れたり、シール部材が傷ついたりしてシール部材のシール性が低下する虞があるので、シール部材を装着した切換弁の組付性が悪化してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑み、シール部材を装着した切換弁の組付性の向上を図ることができる湯水混合水栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、
湯水混合水栓(例えば、実施形態の湯水混合水栓1。以下同一。)であって、
筒体(例えば、実施形態の筒体2。以下同一。)と、
前記筒体の外周面から内周面に貫通し、前記筒体の中に湯を導く給湯口(例えば、実施形態の給湯口21。以下同一。)と、
前記筒体の外周面から内周面に貫通し、前記筒体の中に水を導く給水口(例えば、実施形態の給水口22。以下同一。)と、
前記筒体の中に配置され、湯水を温度調節可能に混合する混合部(例えば、実施形態の混合部3。以下同一。)と、
前記筒体の内周面から外周面に貫通し、前記混合部から吐出した湯水を吐出可能な第1吐出口(例えば、実施形態の第1吐出口23。以下同一。)と、
前記筒体の内周面から外周面に貫通し、前記混合部から吐出した湯水を吐出可能な第2吐出口(例えば、実施形態の第2吐出口24。以下同一。)と、
前記筒体に挿入され、前記第1吐出口と前記第2吐出口とを選択自在な切換弁(例えば、実施形態の切換弁4。以下同一。)とを備え、
前記切換弁は、切換外筒(例えば、実施形態の切換外筒41。以下同一。)と、前記切換外筒内に回転自在に配置される切換内筒(例えば、実施形態の切換内筒42。以下同一。)と、を備え、
前記筒体と前記切換外筒との間には、前記給水口から導かれた水を前記混合部に導く案内路(例えば、実施形態の案内路41c。以下同一。)が設けられ、
前記切換外筒は、前記第1吐出口と連通する第1連通孔(例えば、実施形態の第1連通孔41a。以下同一。)と、前記第2吐出口に連通する第2連通孔(例えば、実施形態の第2連通孔41b。以下同一。)とを備え、
前記切換内筒は、前記切換外筒に対して回転自在に配置され、且つ前記切換内筒を回転させることにより前記第1連通孔と前記第2連通孔との何れかを選択自在な選択孔(例えば、実施形態の第1選択孔42a、第2選択孔42b。以下同一。)を備え、
前記筒体と前記切換外筒との間には、前記第1連通孔と前記第1吐出口との間を流れる湯水が前記案内路に漏れないように液密に閉塞する第1環状シール(例えば、実施形態の第1環状シール51。以下同一。)と、前記第2連通孔と前記第2吐出口との間を流れる湯水が前記案内路に漏れないように液密に閉塞する第2環状シール(例えば、実施形態の第2環状シール52。以下同一。)と、が設けられ、
前記第1環状シールと前記第2環状シールとが、前記筒体内への前記切換弁の挿入方向に対して、次第に前記筒体の中心軸線(例えば、実施形態の中心軸線L0。以下同一。)に近づくように傾斜して配置されるように、前記筒体の内周面と前記切換外筒の外周面とが傾斜して構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、第1環状シールと第2環状シールとが、筒体内への切換弁の挿入方向の先方に近づくに連れ、次第に筒体の中心軸線に近づくように、筒体の内周面と切換外筒の外周面とが傾斜して構成されているため、切換弁を筒体内に挿入するときに、挿入開始時には、筒体と切換外筒との間での第1環状シール及び第2環状シールを介した摩擦力を抑えることができる。
【0017】
そして、切換弁の筒体内への挿入が完了したときには、第1環状シール及び第2環状シールを筒体と切換弁とでしっかりと圧縮することができる。従って、本発明によれば、筒体内への切換弁の挿入時に、第1環状シール及び第2環状シールが捲られ難く、適切なシール構造を容易に形成することができ、シール部材を装着した切換弁の組付性の向上を図ることができる。
【0018】
[2]また、本発明においては、前記案内路に、前記筒体の内周面と、前記切換外筒の外周面とを接触させる突部(例えば、実施形態の第1突部61、第2突部62、第3突部63。以下同一。)を設けることが好ましい。
【0019】
ここで、水量を確保すべく案内路を広く形成した場合、筒体と切換外筒との接触部分が少なく第1環状シール及び第2環状シールの弾性力によって筒体に対し切換外筒が偏心し、第1環状シール及び第2環状シールが筒体と切換外筒との間で適切に圧縮されない虞がある。第1環状シール及び第2環状シールが適切に圧縮されていない場合、案内路の水が意図せずに第1吐出口や第2吐出口から吐出される湯水に混ざり、混合部で適温に調節された混合水の温度が低下してしまう。
【0020】
本発明によれば、水量を確保すべく案内路を広く形成しても突部を介して筒体と切換外筒とがしっかりと接触することができるため、第1環状シール及び第2環状シールを適切に圧縮することができ、案内路の水が意図せずに第1吐出口や第2吐出口から吐出される湯水に混ざることを防止することができる。
【0021】
[3]また、本発明においては、前記第1環状シール及び前記第2環状シールの傾斜角度は、前記筒体の成形時に必要な前記筒体の内周面の抜き勾配よりも大きく設定されていることが好ましい。
本発明によれば、シール部材を装着した切換弁の組付性の更なる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】発明の実施形態の湯水混合水栓を模式的に示す説明図。
【
図3】本実施形態の第1実施例の湯水混合水栓の第1連通孔及び第2連通孔を示す説明図。
【
図4】第1実施例の切換外筒の一側面を示す説明図。
【
図5】第1実施例の切換外筒の一側面を示す説明図。
【
図6】第1実施例の切換外筒を中心軸線方向から示す説明図。
【
図7】第1実施例の切換外筒を
図6のVII-VII線で切断した断面を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図を参照して、発明の実施形態の湯水混合水栓を説明する。
図1は、本実施形態の湯水混合水栓1を模式的に示したものである。本実施形態の湯水混合水栓1は、樹脂製の円筒形状の筒体2と、筒体2の中に配置され、温度に依存してバネ定数が変わる感温バネ(図示省略)の圧縮量(イニシャル荷重、初期撓み)を摘み部3aで調節することで湯水の混合比を変えて温度調整可能にする混合部3と、筒体2の中に挿入された切換弁4と、を備える。混合部3は、外周から湯、水が内側に個別に入って、混合部3の内側で湯水が混ざる。混合部3で混合された混合水が切換弁4(後述する切換内筒)の内側へ供給される。なお、混合部3において、感温用に感温バネに代えてワックスを利用したサーモエレメントを利用してもよく、混合部3の構成は、湯水を混合して適温に調節できればよい。
【0024】
筒体2には、筒体2の外周面から内周面に貫通した給湯口21と、給湯口21から筒体2の中心軸線L0の延在方向に間隔を存して筒体2の外周面から内周面に貫通した給水口22と、給湯口21と給水口22との中間に配置され、筒体2の内周面から外周面へ下方に向かって貫通する第1吐出口23と、第1吐出口23に対して周方向に位置をずらして筒体2の内周面から外周面へ後方側に向かって貫通する第2吐出口24と、を備えている。
【0025】
給湯口21には、給湯器(図示省略)から湯が供給される。給水口22には、水道管(図示省略)から水が供給される。第1吐出口23と第2吐出口24からは、混合部3から吐出した湯水が吐出される。第1吐出口23にはカラン(図示省略)が接続され、第2吐出口24にはシャワー(図示省略)が接続されている。
【0026】
図2の模式図を参照して、切換弁4は、筒体2内に回り止めして配置される樹脂製の切換外筒41と、切換外筒41内に回転自在に配置される金属製又は樹脂製の切換内筒42と、を備えている。切換外筒41には、内周面から外周面へ貫通する第1連通孔41a(
図3)と、第1連通孔41aから筒体2の中心軸線L0方向に間隔を存し且つ筒体2の周方向にも間隔を存する様に、内周面から外周面へ貫通する第2連通孔41bとが設けられている。
【0027】
ここで、筒体2や切換外筒41の材料とされる樹脂は、耐熱、耐じん、耐薬品、耐難燃等に優れているプラスチックなどを用いることができ、数値的に示せば、引張強さがおよそ50MPa以上、衝撃強さがおよそ50J/m以上、熱変形温度がおよそ100℃以上のプラスチックを用いることができる。例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリアリレート(PAR),ポリエーテルイミド(PEI),ポリスルホン(PSF),ポリエーテルスルホン(PES),ポリエーテルケトン(PEK),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK),ポリイミド(PI),ポリアミドイミド(PAI),ふっ素樹脂,液晶プラスチック,耐衝撃性および耐薬品性に優れる熱硬化性樹脂、ガラス繊維樹脂等を用いることができる。
【0028】
切換内筒42には、内周面から外周面へ貫通する第1選択孔42aと、第1選択孔42aから中心軸線L0方向に間隔を存し且つ切換内筒42の周方向にも間隔を存する様に、内周面から外周面に貫通する第2選択孔42bとが設けられている。切換内筒42の混合部3とは反対側の端部には、摘み部42cが設けられており、摘み部42cを回転させることにより、切換内筒42を切換外筒41に対して回転させることができる。
【0029】
切換内筒42は、第1選択孔42aが第1連通孔41aと連通し、第2選択孔42bと第2連通孔41bとの連通が阻止された第1連通位置と、第1選択孔42aと第1連通孔41aとの連通が阻止され、且つ第2選択孔42bと第2連通孔41bとの連通も阻止された止水位置と、第1選択孔42aと第1連通孔41aとの連通が阻止され、第2選択孔42bと第2連通孔41bとが連通した第2連通位置と、の3つの位置に切換自在となっている。
【0030】
後述するように、第1連通孔41aと第1吐出口23とは連通しており、第2連通孔41bと第2吐出口24とは連通しているため、切換弁4は、切換内筒42を切換外筒41に対して回転させることで、第1吐出口23と第2吐出口24とを選択自在となっている。
【0031】
切換外筒41と切換内筒42との間には、案内路41cから入り込んだ水が第1選択孔42a又は第2選択孔42bから吐出した混合水と混ざることを防止する複数のOリング43が設けられている。なお、Oリング43によるシール構造は
図2のものに限らず、適宜変更することができる。
【0032】
図3~
図7は、本実施形態の切換外筒41の第1実施例を示している。
図3から
図7を参照して、切換外筒41の外周面には、給水口22から筒体2内に流入した水を混合部3へと導くように窪みながら混合部3側へと延びて形成された案内路41cが設けられている。
【0033】
また、切換外筒41の外周面には、第1連通孔41aから吐出した湯水を案内路41cに漏らすことなく第1吐出口23へと導くように切換外筒41と筒体2との間を環状に閉塞するゴムなどの弾性部材からなる第1環状シール51(
図7)が設けられている。第1環状シール51は第1連通孔41aを取り囲むように配置されている。ここで、「環状」とは閉じられた輪の形状であることを意味し、C字状のようなものは含まない。
【0034】
また、切換外筒41の外周面には、第2連通孔41bから吐出した湯水を案内路41cに漏らすことなく第2吐出口24へと導くように切換外筒41と筒体2との間を環状に閉塞するゴムなどの弾性部材からなる第2環状シール52が設けられている。第2環状シール52は第2連通孔41bを取り囲むように配置されている。ここで、「環状」とは閉じられた輪の形状であることを意味し、C字状のようなものは含まない。
【0035】
また、本実施形態の環状シールは円形以外の異形シールであるが、円形でもよく、形状は適宜変更できる。また、第1環状シール51と第2環状シール52とは、第1連通孔41aと第2連通孔41bとを隔てるように2つの輪が形成されていればよいため、例えば、第1環状シール51と第2環状シール52とが外周で繋がっていてもよい。
【0036】
第1環状シール51及び第2環状シール52は、切換外筒41の外周面に形成された第1シール溝41d、第2シール溝41eにそれぞれ嵌合されている。第1シール溝41d、第2シール溝41eの底面は、筒体2内へ切換弁4を挿入する挿入方向の先方側に向かうにしたがって、次第に筒体2の中心軸線L0に近づくように傾斜したテーパ形状とされている。なお、以降の説明において、中心軸線L0における、切換弁4挿入方向の先方側を先端側、この先端側と反対側を基端側として適宜説明する場合がある。
【0037】
第1シール溝41d及び第2シール溝41eは、第1シール溝41d及び第2シール溝41eが形成されている切換外筒41の外周テーパ形状の台座部に一定深さで形成されている。これにより、第1シール溝41d及び第2シール溝41eの底面が全体として挿入方向先方側へ向かうにしたがって中心軸線L0に近づくように傾斜する。
【0038】
また、筒体2の内周面も第1シール溝41d、第2シール溝41eの底面(または第1シール溝41d及び第2シール溝41eが形成される切換外筒41の台座部)のテーパ形状と平行となるように、テーパ形状に形成されている。
【0039】
これにより、切換弁4を筒体2内に挿入するときに、挿入開始時には、筒体2と切換外筒41との間での第1環状シール51及び第2環状シール52を介した摩擦力を抑えることができる。
【0040】
一般的に、射出成形で筒状の部材を形成する場合、その筒状部材の内周形状を決める型を抜き易いように、内周に極僅かな勾配(抜き勾配)をつけることがある。本実施の形態において、外周テーパ形状の台座部の勾配は、抜き勾配よりも急である(傾斜角度が大きい)ことが好ましい。
【0041】
具体的には、本実施の形態の筒体2において、内側に混合部3が配置される部分の内周に抜き勾配を設けてもよい。そして、このような場合には、テーパ形状の台座部外周の傾斜角度、及び筒体2において内側に切換弁4が配置される部分内周の傾斜角度は、筒体2において内側に混合部3が配置される部分の内周の傾斜角度より大きく設定することが好ましく、例えば、2度以上に設定することが好ましい。これにより、筒体2内に切換弁4を挿入するときに、第1環状シール51及び第2環状シール52が、筒体2内の内周面の第2吐出口24の開口縁に噛み込むことを確実に防止して、第1環状シール51及び第2環状シール52を装着した切換弁4の組付性の更なる向上を図ることができる。なお、
図2では、説明のためにテーパ形状の傾斜角度を誇張している。
【0042】
また、切換弁4の筒体2内への挿入が完了したときには、第1環状シール51及び第2環状シール52を筒体2と切換弁4とでしっかりと圧縮することができる。従って、本実施形態の湯水混合水栓1によれば、筒体2内への切換弁4の挿入時に、第1環状シール51及び第2環状シール52が捲られ難く、適切なシール構造を容易に形成することができ、第1環状シール51及び第2環状シール52を装着した切換弁4の内筒2への組付性の向上を図ることができる。なお、切換弁4において、第1環状シール51及び第2環状シール52が傾斜するよう、第1シール溝41d及び第2シール溝41eが形成される切換外筒41の台座部外周がテーパ形状となっていれば、これ以外の部分の外周形状は、テーパ形状であってもストレート形状(外径一定)であってもよい。
【0043】
また、本実施形態の湯水混合水栓1においては、切換外筒41の外周面には、案内路41cに位置させて、筒体2の内周面と、切換外筒41の外周面とを接触させる第1突部61、第2突部62、第3突部63を設けている。
【0044】
第1突部61は、筒体2の中心軸線L0方向に比較的長く形成されており、第1環状シール51及び第2環状シール52の中心軸線L0における挿入方向先端側の周方向の間に形成された案内路41cの周方向略中央に配置されている。第2突部62は、第1突部61と切換外筒41の周方向における同一位相に位置させて、第1突部61よりも挿入方向の基端側に位置している。第3突部63は、第1環状シール51と切換外筒41の周方向における同一位相に位置させて、第2突部62に対して切換外筒41の周方向に間隔を存して配置されている。切換外筒41の外周面においては、第2突部62と、第3突部63と、が案内路41cを周方向に等間隔に分割するように周方向に間隔を存して配置されている。
【0045】
ここで、水量を確保すべく案内路41cを切換外筒41の周面に広く形成した場合、筒体2と切換外筒41との接触部分が少なく第1環状シール51及び第2環状シール52の弾性力によって筒体2に対し切換外筒41が第1環状シール51及び第2環状シール52が存在しない側へ偏心し、第1環状シール51及び第2環状シール52が筒体2と切換外筒41との間で適切に圧縮されない虞がある。第1環状シール51及び第2環状シール52が適切に圧縮されていない場合、案内路41cの水が意図せずに第1吐出口23や第2吐出口24から吐出される湯水に混ざり、適切な温度調整ができなくなってしまう。
【0046】
本実施形態の湯水混合水栓1によれば、水量を確保すべく案内路41cを広く形成しても第1突部61、第2突部62、第3突部63を介して筒体2と切換外筒41とがしっかりと接触することができるため、筒体2に対する切換外筒41の偏心を抑えて第1環状シール51及び第2環状シール52を適切に圧縮することができ、案内路41cの水が意図せずに第1吐出口23や第2吐出口24から吐出される湯水に混ざることを防止することができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、案内路41c及び第1突部61、第2突部62、第3突部63を切換外筒41の外周面に設けたものを説明したが、本発明においては、案内路及び突部を筒体2の内周面に形成してもよい。ただし、切換外筒の外周面に案内路、突部を設ける方が、湯水混合水栓の製造が容易である。また、突部の位置、数、大きさ、及び形状は適宜変更できるとともに、環状シールを適切に圧縮できれば突部を省略してもよい。
【0048】
また、本実施形態においては、切換外筒41の外周面及び筒体2の内周面であって切換外筒41の外周面に対向する部分はテーパ形状の円錐型であるものを説明したが、これに限らず、本発明の湯水混合水栓では、周方向に第1吐出口と第2吐出口が配置され、筒体2の中心軸線方向では同一の位置に第1吐出口と第2吐出口が配置されているもの、あるいは吐出口が給湯口と給水口との間に位置しており、給湯口側に配置された混合部に給水口から水を導く案内路が設けられているもの、において、第1環状シール及び第2環状シールが傾斜して配置されるように傾斜面が設けられていればよい。従って、例えば、筒体2の内周面及び切換外筒41の外周面は角錐形状や楔形状であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 湯水混合水栓
2 筒体
21 給湯口
22 給水口
23 第1吐出口
24 第2吐出口
3 混合部
3a 摘み部
4 切換弁
41 切換外筒
41a 第1連通孔
41b 第2連通孔
41c 案内路
41d 第1シール溝
41e 第2シール溝
42 切換内筒
42a 第1選択孔
42b 第2選択孔
42c 摘み部
43 Oリング
51 第1環状シール
52 第2環状シール
61 第1突部
62 第2突部
63 第3突部
L0 中心軸線