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特許7353208インバータ装置およびインバータ装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】インバータ装置およびインバータ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20230922BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230922BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/48 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020024631
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021129485
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
(72)【発明者】
【氏名】松原 満
(72)【発明者】
【氏名】大橋 敬典
(72)【発明者】
【氏名】梁田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】高野 裕理
(72)【発明者】
【氏名】上井 雄介
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-041210(JP,A)
【文献】特開2016-107711(JP,A)
【文献】特開平06-113579(JP,A)
【文献】特開2007-153245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷を駆動するモータに対し交流電力を供給する電力変換装置と、前記モータの角度指令値と該角度指令値に対応する実績値との誤差に基づき前記誤差を無くすためのベーストルクを演算する主制御器と、前記誤差に基づき補正トルクを演算する副制御器とを備え、
前記ベーストルクと前記補正トルクとを加算した負荷トルクにより前記電力変換装置を制御するインバータ装置であって、
前記副制御器は、前記負荷の運転状況を複数に区分した数に合わせて前記誤差を入力して積分値を出力する複数の積分器と、前記運転状況に基づき前記複数の積分器のゲインを夫々切替えながら順次設定するゲイン設定器と、前記ゲイン設定器により設定される前記積分器の入力側および出力側に設けた可変ゲインと、前記積分器の出力側の前記可変ゲインの出力を加算し前記補正トルクとして出力する加算器とを有する、インバータ装置。
【請求項2】
請求項1記載のインバータ装置において、前記副制御器を、複数組設置したことを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項1記載のインバータ装置において、前記複数の積分器の入力側と出力側のゲインは、同じゲインであることを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項3記載のインバータ装置において、前記積分器の入力側と出力側の前記ゲインは、前記運転状況の推移に合わせて0から1までの値を増減して設定するものとし、前記複数に区分された前記複数の積分器において隣接する前記積分器に対し重複して付与するよう順次切替えるようにしたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項4記載のインバータ装置において、前記ゲインの増減において、前記ゲインは、前記運転状況に合わせて0~1までの連続した値に設定するようにしたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項6】
負荷を駆動するモータに対し交流電力を供給する電力変換装置を備え、前記モータの角度指令値と該角度指令値に対応する実績値との誤差に基づき前記誤差を無くすためのベーストルクを演算し、前記誤差に基づき補正トルクを演算し、前記ベーストルクと前記補正トルクとを加算した負荷トルクにより前記電力変換装置を制御するインバータ装置の制御方法であって、
前記補正トルクは、前記負荷の運転状況を複数に区分した数の積分機能を用意し、前記誤差を入力して複数の積分演算を行い、前記運転状況に基づき前記複数の積分演算の入力側及び出力側のゲインを夫々運転条件に応じて切替えながら順次設定し、前記積分演算の出力側のゲインで調整した出力を加算することにより求めるようにしたインバータ装置の制御方法。
【請求項7】
請求項6記載のインバータ装置の制御方法において、前記補正トルクを演算する演算機能を複数組有することを特徴とするインバータ装置の制御方法。
【請求項8】
請求項6記載のインバータ装置の制御方法において、前記積分演算の入力側と出力側のゲインは、同じゲインであることを特徴とするインバータ装置の制御方法。
【請求項9】
請求項6記載のインバータ装置の制御方法において、前記ゲインは、前記運転状況の推移に合わせて0~1までの値を増減して設定するものとし、前記複数に区分された前記積分機能において隣接する前記積分演算に対し重複して付与するよう順次切替えるようにしたことを特徴とするインバータ装置の制御方法。
【請求項10】
請求項6記載のインバータ装置の制御方法において、前記ゲインの増減において、前記ゲインは、前記運転状況に合わせて0から1までの連続した値に設定するようにしたことを特徴とするインバータ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置およびインバータ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2018-102101号(特許文献1)がある。この公報には、インバータに与えるトルク指令値からベクトル制御のd軸電流指令値、補正後のq軸電流指令値の演算に用いる電流指令テーブルおよびトルクリプル保証テーブルを自動生成するインバータ制御技術が開示されている。具体的には、特許文献1には、回転速度(検出値)とトルク指令値とに基づいて、d軸電流指令値と前記q軸電流指令値を出力する電流指令テーブル、およびトルクリプル補償信号のdn軸成分,qn軸成分を出力するトルクリプル補償テーブルと、トルクリプル補償信号のdn軸成分,qn軸成分を合成してトルクリプル補償信号を出力するトルクリプル補償信号合成部と、d軸電流指令値とq軸電流指令値とトルクリプル補償信号とに基づいてインバータを制御するインバータ制御部と、を備え、電流指令テーブルと、トルクリプル補償テーブルは、自動調整処理により生成する装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-102101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、トルクリプル補償信号の生成処理を全動作点において実行し、d軸電流指令値とq軸電流指令値を回転速度とトルクに各々対応つけてテーブル化し電流指令テーブルを生成し、トルクリプル補償信号を回転速度とトルクに各々対応つけてテーブル化しトルクリプル補償テーブルを生成し、これに基づいてインバータを制御する手法が記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1の手法では、テーブルを更新するために、トルクリプル補償信号の生成処理やその結果を用いたテーブルを生成する処理が必要であり、その実行のタイミングの選定の計算負荷と実行にかかる計算負荷、また、実行に必要な計算アルゴリズムの生成などの計算負荷が非常に大きくかかる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、インバータの制御に用いる補正量の更新のための計算負荷や、実行に必要な計算アルゴリズムの生成を必要としないインバータ装置およびインバータ装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、その一例を挙げると、負荷を駆動するモータに対し交流電力を供給する電力変換装置と、前記モータの角度指令値と該角度指令値に対応する実績値との誤差に基づき前記誤差を無くすためのベーストルクを演算する主制御器と、前記誤差に基づき補正トルクを演算する副制御器とを備え、前記ベーストルクと前記補正トルクとを加算した負荷トルクにより前記電力変換装置を制御するインバータ装置であって、前記副制御器は、前記負荷の運転状況を複数に区分した数に合わせて前記誤差を入力して積分値を出力する複数の積分器と、前記運転状況に基づき前記複数の積分器のゲインを夫々切替えながら順次設定するゲイン設定器と、前記ゲイン設定器により設定される前記積分器の入力側および出力側に設けた可変ゲインと、前記積分器の出力側の前記可変ゲインの出力を加算し前記補正トルクとして出力する加算器とを有する、インバータ装置である。
【0008】
また、本発明の他の例を挙げるならば、負荷を駆動するモータに対し交流電力を供給する電力変換装置を備え、前記モータの角度指令値と該角度指令値に対応する実績値との誤差に基づき前記誤差を無くすためのベーストルクを演算し、前記誤差に基づき補正トルクを演算し、前記ベーストルクと前記補正トルクとを加算した負荷トルクにより前記電力変換装置を制御するインバータ装置の制御方法であって、前記補正トルクは、前記負荷の運転状況を複数に区分した数の積分機能を用意し、前記誤差を入力して複数の積分演算を行い、前記運転状況に基づき前記複数の積分演算の入力側及び出力側のゲインを夫々運転条件に応じて切替えながら順次設定し、前記積分演算の出力側のゲインで調整した出力を加算することにより求めるようにしたインバータ装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インバータの制御に用いる補正量の更新のための計算負荷や、実行に必要な計算アルゴリズムの生成を必要としないインバータ装置およびインバータ装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1におけるアーム揺動装置の機構部分を示す図である。
図2】本発明の実施例1におけるアーム揺動装置の制御系の構成図である。
図3】アームにはたらく重力による力の例を示す図である。
図4】アームの回転角度θに対する負荷トルクの変化の例を示す図である。
図5】本発明の実施例1におけるインバータの構成を示す図である。
図6】ゲイン設定器で設定するゲインの値の例を示す図である。
図7】アーム角度に対する負荷トルクと各積分器の積分値の初期値から計算した補正トルクを示す図である。
図8】積分値を初期値でアームを揺動させた場合のアーム角度の指令値と応答の例を示す図である。
図9】積分器の値が収束した際のアーム角度に対する負荷トルクと各積分器の積分値から計算した補正トルクを示す図である。
図10】アーム角度に対する負荷トルクと各積分器の積分値の収束値から計算した補正トルクを示す図である。
図11】本発明の実施例2におけるインバータの構成を示す図である。
図12】副制御器の補正曲線の次元と副制御器の次元によって作成できる補正形状のイメージと適用されるアプリケーションの対応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。また、以下の説明における各図面において、共通する各装置、機器には、同一の符号(番号)を用いており、すでに説明した各装置、機器の説明を省略する場合がある。
【0012】
≪実施例1≫
次に、本発明の実施例1について図面(図1図10)を用いて説明する。この実施例では、モータを用いてアームを鉛直面内で揺動させるアーム揺動装置を例として説明する。
【0013】
図1は、実施例1におけるモータ3とアーム揺動装置の機構部4を示している。機構部4は、減速機41と、アーム42とから構成される。この実施例1では、モータ3の回転軸は、x軸を中心として回転し、モータ3のヘッドに取り付けられた減速機41を介して出力され、減速機41の出力軸もx軸を中心として回転する。アーム42は、減速機41の出力軸に取り付けられ、yz平面内で揺動運動を行う。また、重力加速度は、z軸のマイナス方向に働いている。ここで、アーム42の初期位置は、アーム42の長手方向の軸がy軸と平行となる位置であり、モータ3を回転させるとアーム42の長手方向の軸がz軸と平行となる位置まで揺動するアーム揺動装置となっている。なお、図1では、前述のように実施例1のモータ3および機構部4のみを示しており、上位コントローラや電源、インバータ、アームの角度センサ、電線等は図示していない。
【0014】
次に、図2により実施例1の全体の構成を説明する。図2において、上位コントローラ1は、アーム42の運動計画を立て、それに基づいてインバータ2への指令値としてモータ角度指令を計算する。また、上位コントローラ1では、アーム42のセンサ情報から、負荷(アーム揺動装置)の運転状況としてアーム角度を計算する。インバータ2は、上位コントローラ1からの指令値と運転状況とモータ3の応答から、モータ3に発生させるべきトルクを決定し、インバータ2の電力変換器23(図5参照)でそのトルクが発生するように電源電力からモータ3に印加する電力を生成し出力する。モータ3は、印加された電力からトルクを発生し、モータ3の回転軸を回転させる。また、モータ3のロータの回転角度は、モータ3内のセンサで検出し、インバータ2へ伝達される。減速機41は、この実施例では減速比が4の遊星ギヤとする。この減速機41は、モータ3の出力軸の回転数を4分の1にするとともにトルクを4倍に増幅して出力する。アーム42は、減速機41の出力軸に固く取り付けられていて、出力軸の回転とともに揺動運動を行う。アーム42には、センサ類が取り付けられ、上位コントローラ1の演算に必要な情報を取得し、それを伝達する構成となっている。
【0015】
次に、図3により、アームに働く重力による力について説明する。アーム42を剛体として考えると、アーム42の重心位置に重力による集中荷重が働くと考えることができる。重力による荷重は、アーム42の重さをmとすると、これに重力加速度gをかけたmgがz軸マイナス方向に働く力となる。図示のようにアーム42が角度θだけ傾いている場合には、mgの分力mg・cosθがアーム42を揺動させる力となる。ここでは、この力による減速機出力軸を回そうとするトルクを負荷トルクと表現する。
【0016】
次に、図4により、アームの回転角度θに対する負荷トルクの変化について説明する。図示のように負荷トルク5は、アームの回転角に依存する非線形特性を示す。
【0017】
次に、インバータ2の内部構成について説明する。図5は、実施例1におけるインバータ2の内部の構成を示している。
図5において、インバータ2には、上位コントローラ1からアーム角度とモータ角度指令が入力される。インバータ2は、上位コントローラ1からのモータ角度指令と応答のモータ角度とを比較し、その誤差(偏差)に基づいて主制御器21により誤差が0(ゼロ)になるようにするためのベーストルクを計算する。主制御器21の処理方式については、特に限定しないが、例えばPID制御器を用いる。
【0018】
副制御器22は、上位コントローラ1から出力される運転状況であるアーム角度と前述の誤差(偏差)から、補正トルクを計算し出力する。この実施例1における副制御器22は、6つの積分器からなる積分器群223と、その積分器群223の入力側に配置される入力可変ゲイン222、その積分器群223の出力側に配置される出力可変ゲイン224とを備えている。また、各積分器のゲインを決定してゲイン設定を行うゲイン設定器221を備えている。
【0019】
ゲイン設定器221は、アーム角度を入力し、積分器群223を構成する各積分器に対するゲインを演算し設定する。積分器群223の各積分器の出力は出力可変ゲイン224によりゲインが調整され、加算器225に出力される。加算器225は、出力可変ゲイン224からの計算値を加算し、加算結果を補正トルクとして出力する。そして、主制御器21の計算結果(ベースゲイン)と、副制御器22の計算結果(補正トルク)は加算されて、電力変換器23に入力される。これにより、電力変換器23は、モータ3を駆動する電力を生成し、モータ3に供給する構成となっている。ここで、積分器群223を構成する複数の積分器は、運転状況(この例では、アーム角度)を複数に区分した数に対応して設けられ、積分器は、運転状況の推移(進行)に対応して配置されている。つまり、運転状況の進行に応じて、第1の積分器から第2の積分器に切替わることが可能なように配置している。
【0020】
なお、本実施例では、積分器の数を6つとしたが、積分器の数は、制御対象の特性や制御条件によって決定することができ、積分器を6個に限定する必要はない。すなわち、本発明は、積分器の数を6個に限定するものでは無い。なお、本実施例では図示していないが、加算器225の後流に積分器の積分値から、トルクに変換するゲインや数式による処理手段があるものとする。また、積分値からトルクに変換するゲインや数式のよる処理を前述の出力可変ゲインに含めてしまっても良い。
【0021】
次に、図1図2図5を用いて、本実施例の動作について説明する。
まず、初期状態として、アーム42は、角度0度の位置にあり、y軸と平行の位置にあるとする。ここで、上位コントローラ1でアーム42の角度を90度とする運動計画をたて、それを実行する動作を行うものとして、説明する。
【0022】
まず、上位コントローラ1で、アーム42の角度を計画通りに動かすために必要なモータ3の回転角度を計算し、モータ角度指令(モータ角度指令値)としてインバータ2に引き渡す。また、上位コントローラ1では、アームに取り付けられたセンサの情報からアーム角度を計算しインバータに引き渡す。インバータ2は、これら入力に対して、ただちにモータ角度指令と実際のモータ角度の誤差(偏差)を計算し、この誤差が無くなるようにするためにモータ3が出力すべきトルク(ベーストルク)を計算し、その発生に必要な電力を供給する動作を行う。このため、主制御器21は、例えば、誤差(偏差)に対するPID制御、すなわち誤差に対して比例、積分、微分の計算を実施し、それらの和を操作量とする処理を行い、ベーストルクとして出力する。ベーストルクは、電力変換器23で実際のモータ3を駆動する電力に変換される。例えば、モータが三相交流モータである場合には、電力変換器23は、モータ3のU相、V相、W相に印加する三相交流電圧を生成する。
【0023】
ここで、前述のようにアーム揺動装置では、アーム42の角度に依存する非線形負荷トルクが作用する。すなわち、モータ3を操作してアーム42を0度から90度に揺動させようとした場合、アーム42の角度(アーム角度)に対応してアームを押し戻そうとする重力による負荷トルクが作用する。このため、インバータ2においては、主制御器21の出力であるベーストルクのみでは、重力による負荷トルクによる影響で、アームの位置制御の精度が悪化することが懸念される。このため、副制御器22を配置し、負荷トルクによる影響を無くすように操作量を補正する。
【0024】
ここで、従来の副制御器22には、物理モデルを用いた計算ロジックや、制御対象の特性を反映させたテーブルなどが用いられていた。これに対し、本実施例における副制御器22は、運転状況であるアーム角度に応じて計算を行う複数の積分器からなる積分器群223、ゲイン設定器221、加算器225などによって構成している。積分器群223は、本実施例では、積分器の個数を6個とし、積分器の前後に入力可変ゲイン222,出力可変ゲイン224を設置している。この積分器群223の積分動作を実行するか停止するかを決定するものが、入力可変ゲイン222であり、積分器の積分値を出力するか、しないかを決定するものが出力可変ゲイン224である。また、この実施例におけるこれらゲインは、0か1かというオン(ON)-オフ(OFF)的なゲインではなく、0から1の間を連続的に変化させながら切替える構成であり、積分器群223の各積分器の積分動作の実行/停止、積分値の出力の度合いも0%から100%の間で連続的に変化させることができる。これにより積分器群を223の各積分器をデジタル的に動作と停止を切替えて使うのではなく,連続的に切替えて使うことができる。すなわち,有限個数の積分器でスムーズな副制御器の出力を生成することが可能となる。
【0025】
ゲイン設定器221は、これらゲインの値を指定するものである。なお、本実施例では、積分器群223の各積分器に対する入力可変ゲイン222と出力可変ゲイン224には同じゲイン値を用いるようにした。副制御器22では、アーム42の角度に依存性のある負荷トルク(重力による影響分)を相殺するための操作を行いたいので、積分器群223の各積分器は、それぞれ、所定のアームの角度に対して作動するように構成し、アーム角度が変化するにつれて、順次異なる積分器が作動するようにしている。すなわち、アーム角度0度付近で第1の積分器と第2の積分器、アーム角度18度付近から第2の積分器と第3の積分器、アーム角度18度付近から第2の積分器と第3の積分器が動作する、というように、アーム42の角度に応じて対応する積分器を順次連続的に切替えながらゲインの値を設定する。
【0026】
図6にゲイン設定器221で設定するゲインの値を示す。図6は、積分器群223の各積分器(第1の積分器~第6の積分器)を制御する可変ゲインの設定値を示している。図6における第1のゲイン~第6のゲインは、夫々、図5における第1の積分器~第6の積分器において設定されるゲインに対応する。図6に示すように、各積分器のゲイン(ゲイン設定値)は、アーム角度の進行に応じて、第1の積分器から第2の積分器、第3の積分器、第4の積分器、第5の積分器、第6の積分器の順に連続的に0から最大値の1の値で順次増減しながら連続的に変化する。すなわち、アーム角度がゼロ度で第1の積分器のゲイン(第1のゲイン)を1とし、アーム角度の進行に伴い、第1の積分器のゲインは減少し、アーム角度18度で0になる。同時に第2の積分器のゲイン(第2のゲイン)は、アーム角度0度で0であるが、アーム角度の進行に従い0から増加し、アーム角度18度で最大の1となる。その間、他の積分器(第3の積分器~第6の積分器のゲインは0のままである。また、アーム角度18度から第2の積分器のゲイン(第2のゲイン)は減少を開始し、隣接する第3の積分器のゲインは0から増加を開始する。アーム角度が36度で、第2の積分器のゲインは0となり、第3の積分器のゲインは最大となる。このようなゲインの設定により、アーム角度が18度毎に、隣接する積分器のスムーズな切替えが行われる。各積分器の出力は、出力可変ゲイン224により調整され、加算器225にて集約され、補正トルクとして出力される。そして、この補正トルクは、主制御器21の出力であるベーストルクと加算され、電力変換器23に供給される。このように、アーム角度に応じて,連続的でスムーズな補正トルクを生成することが可能となる。
【0027】
なお,本実施例では,図6に示す様な三角形の形状のゲインとしたが、本発明はこのようなゲインに限定するものでは無い。例えば、ゲインの形状は、台形であっても良いし,三角関数や楕円などの形状であっても良い。
【0028】
この実施例1の制御について、さらに詳しく説明する。まず、アーム42を揺動させようとした場合でアームの角度が0度の場合、副制御器22は、アームの角度から、ゲイン設定器221で第1の積分器に用いる可変ゲインの値を1に設定し、その他の可変ゲインの値を0とする(図6の第1のゲイン参照)。第1のゲインは、アーム角度の進行に従い減少し、同時に隣接する第2の積分器のゲイン(図6の第2のゲイン)が増加する。これにより、第1の積分器および第2の積分器は、積分を実行するとともに積分器内の積分値を出力する。そして、この積分値の出力可変ゲイン224でゲイン調整が行われる。出力可変ゲインの値と入力可変ゲインの値は同じとする。出力可変ゲイン224の出力から、補正トルクが計算される。すなわち、出力可変ゲイン224の出力は、出力側でのゲイン調整後、加算器225で加算され(合成され)、補正トルクを出力する。電力変換器23では、主制御器21によるベーストルクと、副制御器22による補正トルクを加算したトルクにて、電力変換器23を制御し、モータ3に印加する電力を出力する。インバータ2からの電力により、モータ3はトルクを発生し、そのトルクは減速機41で増幅され、アーム42が揺動動作を開始する。
【0029】
次に、アーム角度が進み角度が18度になった場合、副制御器22は、アームの角度から、ゲイン設定器221で第2の積分器に用いる可変ゲインの値を1に設定し、その他の可変ゲインの値を0とする。アーム角度の進行とともに、第2の積分器のゲインは1から減少し、36度において0となるよう変更する。同時に、第3の積分器に用いる可変ゲインの値は、アーム角度18度において0であり、その後アーム角度の進行とともに増加し、36度で1となるように連続的に変化させる。これにより、第2の積分器および第3の積分器は、積分を実行するとともに積分器内の積分値を出力する。そして、この積分値から、上述と同様にして補正トルクが計算される。インバータ2では、主制御器21によるベーストルクと副制御器22による補正トルクの加算値から電力変換器23を制御し、モータ3に印加する電力を出力する。インバータ2からの電力により、モータ3はトルクを発生し、そのトルクは減速機41で増幅され、アーム42の揺動動作を継続する。
【0030】
このようにして、副制御器22ではアーム角度に応じて積分器がゲイン設定器221の設定するゲインにより順次切替えられながら、その積分器の積分値を用いて補正トルクが加算器225の出力として出力される。また、同時に、その積分器で誤差を積分し、積分値が逐次修正される動作となる。なお、各積分器は初期値として、予め想定される負荷トルクが出力される値が設定されているとする。
【0031】
図7に、アーム角度に対する負荷トルクと各積分器の積分値の初期値から計算した補正トルクの状態を示す。各積分器の初期値は、予め想定して設定しているが、実際と想定の差から、図示のように負荷トルク5と各積分器の初期値から計算した補正トルク値51~56とは差がある状態となっている。
【0032】
図8に、各積分器の積分値を初期値のままで、アームを揺動させた場合の、アーム角度の指令値と応答のアーム角度を示す。図7に示したように負荷トルクと補正トルクに差があるため、応答は指令に正確に追従できない結果となる。
【0033】
この後、アームの揺動動作を数回実施すると実施毎に誤差により各積分器の値が積分計算で修正される。
【0034】
図9に、揺動動作を繰り返して、積分器の値が収束した際のアーム角度に対する負荷トルク5と各積分器の収束値から計算した補正トルク値51C~56Cの状態を示す。各積分器の値は、修正され図示のように補正トルクと負荷トルクは一致するようになる。
【0035】
図10に、各積分器の積分値が図9に示す状態において、アームを揺動させた場合の、アーム角度の指令値と応答のアーム角度を示す。負荷トルクと補正トルクが一致しているので、応答は指令に正確に追従する結果となる。
【0036】
以上説明したように実施例1では、インバータの制御に用いる補正量の更新を、更新専用の動作や、計算を実施することなく達成することができる。このため、更新のタイミングの選定や、更新の実行にかかる計算負荷、また、更新のために必要な、計算アルゴリズムの生成を必要としない計算負荷が少なくかつ精度が高く高精度な制御ができるインバータ装置を実現することができる。
【0037】
なお、本実施例では副制御器22を動作させる運転状況としてアーム42の角度を用いたが、これに限定されない。すなわち、例えば,モータ3の回転角や回転速度であっても良いし,インバータ2内などで計算した推定値を用いても良く、制御する内容に応じて選定すれば良い。一例として,モータ3の回転角度を運転状況として,積分器で積分する入力を指令トルクと推定トルクの誤差とすると、モータ3のトルク脈動をキャンセルし、モータ3の出力トルクを平滑にするインバータ装置を構成することができる。
【0038】
≪実施例2≫
次に本発明の実施例2について、図11を用いて説明する。この実施例2は、上述した実施例1と基本的に同様の構成であるが、この実施例2では副制御器を2組設けた構成になっている。すなわち、図11に示す実施例2では、副制御器22と22Bとを有する構成となっている点が、実施例1(図5参照)の場合と異なる。
【0039】
したがって、図11の構成において、図5と同様の構成機器には、図5と同一の番号(符号)を付し、その説明は省略する。図11において、副制御器22の構成は、図5と同一の構成である。また、副制御器22Bは、副制御器22と同様の構成となっている。すなわち、副制御器22Bは、積分器群223B、ゲイン設定器221B、入力可変ゲイン222B、出力可変ゲイン224B、加算器225Bで構成される。この副制御器22Bの動作は、副制御器22と同様であるので、説明は省略する。
【0040】
補正量が2つ以上であっても、副制御器を並列に複数組配置して対処することができる。このような、複数の補正に対する、インバータの適用を図12に示す。図12では本発明の副制御器の補正曲線の次元と副制御器の次元によって作成できる補正形状のイメージと適用が想定されるアプリケーションを対応させて示したものである。図12に示すように、本発明は様々なアプリケーションに対して適用ができる。
【0041】
実施例2においても、インバータの制御に用いる補正量の更新を、更新専用の動作や、計算を実施することなく達成することができる。このため、更新のタイミングの選定や、更新の実行にかかる計算負荷、また、更新のために必要な、計算アルゴリズムの生成を必要としない計算負荷が少なくかつ精度が高く高精度な制御を実現することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…上位コントローラ、2…インバータ、3…モータ、4…機構部、5…負荷トルク、21…主制御器、22…副制御器、22B…副制御器、23…電力変換器、41…減速機、42…アーム、51~56…各積分器の初期値から計算した補正トルク値、51C~56C…各積分器の収束値から計算した補正トルク値、221…ゲイン設定器、222…入力可変ゲイン、223…積分器群、224…出力可変ゲイン、225…加算器、221B…ゲイン設定器、222B…入力可変ゲイン、223B…積分器群、224B…出力可変ゲイン、225B…加算器
図1
図2
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図10
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図12