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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】基板処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230922BHJP
   F26B 7/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/304 648G
F26B7/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020059493
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021158295
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】山口 侑二
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-173997(JP,A)
【文献】特開2003-282510(JP,A)
【文献】特開2011-222697(JP,A)
【文献】特表2018-531511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
F26B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に付着した液体を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理方法であって、
前記基板を収容したチャンバ内に、気相の前記処理流体を導入する第1工程と、
前記チャンバ内の前記処理流体を、気相から液相を介さずに超臨界状態に変化させる第2工程と、
前記チャンバ内の前記処理流体を、超臨界状態から液相に変化させる第3工程と、
前記チャンバ内の前記処理流体を、液相から超臨界状態に変化させる第4工程と、
前記チャンバ内の前記処理流体を、超臨界状態から液相を介さずに気相に変化させて前記チャンバから排出する第5工程と
を備える基板処理方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記処理流体の臨界温度より低温である前記処理流体を断熱圧縮することで超臨界状態に至らせる請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記第1工程では、前記処理流体の臨界温度より低温である気相の前記処理流体を前記チャンバに導入する請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記第2工程では、前記処理流体の臨界温度よりも高温である前記処理流体の圧力を臨界圧力以上に上昇させて超臨界状態に至らせる請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第3工程では、超臨界状態の前記処理流体で満たされた前記チャンバ内に、外部から液相の前記処理流体を供給する請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第3工程では、前記チャンバ内に供給された液相の前記処理流体の少なくとも一部を前記チャンバから排出する請求項5に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記第4工程では、前記チャンバ内の前記処理流体の温度を上昇させて液相から超臨界状態に変化させる請求項1ないし6のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第5工程では、前記処理流体の温度を臨界温度以上に保ちながら前記処理流体の圧力を臨界圧力以下に低下させる請求項1ないし7のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記液体が有機溶剤であり、前記処理流体が二酸化炭素である請求項1ないし8のいずれかに記載の基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体を用いて基板を処理する基板処理技術に関するものであり、特に基板に付着した液体を処理流体で置換して基板を乾燥させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理技術として、基板を超臨界状態の処理流体によって処理するものがある。例えば、基板に付着した液体を除去し基板を乾燥させる目的に、超臨界処理が用いられることがある。この超臨界乾燥処理では、液体をよく溶かす性質を有する処理流体によって基板に付着する液体を置換し、さらに処理流体を超臨界状態から気相に変化させることで基板を乾燥させる。超臨界流体は液体と気体との中間的な性質を有しており、低粘度で流動性が高く、また表面張力が極めて低い。このため、特に表面に微細なパターンが形成されている基板において、パターン内部に残留する液体を効果的に除去し、また表面張力に起因するパターン倒壊の問題を回避し得るという点で有利である。
【0003】
例えば特許文献1に記載の技術では、処理チャンバ内を液状の有機溶剤で満たし基板を浸漬した後、液状の二酸化炭素を処理チャンバに供給して溶剤を置換し、さらに二酸化炭素を液相から超臨界状態に変化させた後に気化させることで、基板を乾燥させる。また例えば、特許文献2に記載の技術では、チャンバ内に超臨界状態の二酸化炭素を供給して基板に付着した液体を置換し、二酸化炭素を超臨界状態から気化させて基板を乾燥させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-531511号公報
【文献】特開2018-060895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、処理チャンバ内を満たす溶剤を液状の処理流体(二酸化炭素)で置換するため、処理流体の消費量が極めて大きくなる。溶剤の量を減らすために基板を薄い液膜で覆った状態としておくことも考えられるが、その場合、処理チャンバ内の雰囲気と、導入される液状の処理流体との間に形成される気相と液相との界面(気液界面)に現れる処理流体中の不純物が、基板を汚染してしまうおそれが生じる。
【0006】
また、特許文献2に記載の技術では、液体で覆われた基板に直接超臨界流体を供給するため気液界面は生じないが、現実的な問題として、超臨界状態の流体は液相に比べて低密度であるため、液体成分に対する置換の効率という点では液相の処理流体よりも劣る。高密度の超臨界処理流体を生成するにはより高い圧力が必要となる。このことは設備の大型化および消費エネルギーの増大を招く。
【0007】
このように、装置および処理コストの増加を抑えつつ、気液界面が生じることによる基板の汚染を防止し、しかも基板に付着する液体の置換効率を高めるという点において、上記従来技術には改良の余地が残されている。
【0008】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、超臨界状態の処理流体を用いて基板を処理する基板処理技術において、気液界面の発生に起因する基板の汚染を防止しつつ、基板に付着する液体を処理流体により置換するのに際し優れた置換効率を得ることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一の態様は、基板に付着した液体を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理方法であって、上記目的を達成するため、前記基板を収容したチャンバ内に、気相の前記処理流体を導入する第1工程と、前記チャンバ内の前記処理流体を、気相から液相を介さずに超臨界状態に変化させる第2工程と、前記チャンバ内の前記処理流体を、超臨界状態から液相に変化させる第3工程と、前記チャンバ内の前記処理流体を、液相から超臨界状態に変化させる第4工程と、前記チャンバ内の前記処理流体を、超臨界状態から液相を介さずに気相に変化させて前記チャンバから排出する第5工程とを備えている。
【0010】
このように構成された発明では、チャンバ内の処理流体が、気相、超臨界、液相、超臨界、気相の順で相変化する。このため、チャンバ内では処理流体が気相と液相とで混在することがなく、気液界面は生じない。したがって、気液界面に起因して不純物が基板に付着するのを防止することができる。一方、チャンバ内を液相の処理流体で満たすことができるので、高密度の処理流体が有する高い置換効率も得られる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本発明では、チャンバ内で処理流体を気相と液相とで混在させることなく、チャンバ内を液相の処理流体で満たすことが可能である。このため、気液界面に起因する基板の汚染防止と、チャンバ内を液相の処理流体で満たすことによる高密度の処理流体が有する高い置換効率とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る基板処理方法を実行可能な基板処理装置を示す図である。
図2】基板処理システムにより実行される処理を示すフローチャートである。
図3】本実施形態の処理チャンバ内における処理流体の状態変化を示す図である。
図4】処理流体の流通経路の例およびその動作状態を示す図である。
図5】処理流体の流通経路の例およびその動作状態を示す図である。
図6】各部の動作を示すタイミングチャートである。
図7】配管系の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る基板処理方法を実行可能な基板処理装置の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を超臨界流体を用いて処理するための装置である。以下の説明において方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0014】
本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
【0015】
基板処理装置1は、処理ユニット10、移載ユニット30、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものである。移載ユニット30は、図示しない外部の搬送装置により搬送されてくる未処理基板Sを受け取って処理ユニット10に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット10から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット50は、処理に必要な化学物質、動力およびエネルギー等を、処理ユニット10および移載ユニット30に供給する。
【0016】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90は、各種の制御プログラムを実行するCPU91、処理データを一時的に記憶するメモリ92、CPU91が実行する制御プログラムを記憶するストレージ93、およびユーザや外部装置と情報交換を行うためのインターフェース94などを備えている。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0017】
処理ユニット10は、台座11の上に処理チャンバ12が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ12は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ12の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口121が形成されており、開口121を介して処理空間SPと外部空間とが連通している。
【0018】
処理チャンバ12の(-Y)側側面には、開口121を閉塞するように蓋部材13が設けられている。蓋部材13が処理チャンバ12の開口121を閉塞することにより気密性の処理容器が構成され、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材13の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられており、支持トレイ15の上面は基板Sを載置可能な支持面となっている。蓋部材13は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。
【0019】
蓋部材13は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ12に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が蓋部材13をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0020】
蓋部材13が(-Y)方向に移動することにより処理チャンバ12から離間し、点線で示すように支持トレイ15が処理空間SPから開口121を介して外部へ引き出されると、支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材13が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0021】
蓋部材13が(+Y)方向に移動し開口121を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材13の(+Y)側側面と処理チャンバ12の(-Y)側側面との間にはシール部材122が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。シール部材122は例えばゴム製である。また、図示しないロック機構により、蓋部材13は処理チャンバ12に対して固定される。このように、この実施形態では、蓋部材13は、開口121を閉塞して処理空間SPを密閉する閉塞状態(実線)と、開口121から大きく離間して基板Sの出し入れが可能となる離間状態(点線)との間で切り替えられる。
【0022】
処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、処理流体として、超臨界処理に利用可能な物質の処理流体、例えば二酸化炭素を気体、液体または超臨界の状態で処理ユニット10に供給する。二酸化炭素は比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、気圧(臨界圧力)が7.38MPa、温度(臨界温度)が31.1℃である。
【0023】
処理流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、処理空間SPは超臨界状態の処理流体で満たされる。こうして基板Sが処理チャンバ12内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は制御ユニット90により制御されている。
【0024】
超臨界状態の処理流体が処理チャンバ12内で冷やされて相変化するのを防止するため、処理チャンバSP内部には適宜の熱源が設けられることが好ましい。特に基板Sの周辺で意図せぬ相変化が生じるのを防止するために、この実施形態では支持トレイ15にヒーター(図示省略)が内蔵されている。ヒーターは供給ユニット50の温度制御部59によって温度制御されている。温度制御部59は制御ユニット90からの制御指令に応じて作動し、後述するように、流体供給部57から供給される処理流体の温度を制御する機能も有している。
【0025】
処理空間SPは、支持トレイ15およびこれに支持される基板Sを受け入れ可能な形状および容積を有している。すなわち、処理空間SPは、水平方向には支持トレイ15の幅よりも広く、鉛直方向には支持トレイ15と基板Sとを合わせた高さよりも大きい矩形の断面形状と、支持トレイ15を受け入れ可能な奥行きとを有している。このように処理空間SPは支持トレイ15および基板Sを受け入れるだけの形状および容積を有しているが、支持トレイ15および基板Sと、処理空間SPの内壁面との間の隙間は僅かである。したがって、処理空間SPを充填するために必要な処理流体の量は比較的少なくて済む。
【0026】
移載ユニット30は、外部の搬送装置と支持トレイ15との間における基板Sの受け渡しを担う。この目的のために、移載ユニット30は、本体31と、昇降部材33と、ベース部材35と、複数のリフトピン37とを備えている。昇降部材33はZ方向に延びる柱状の部材であり、図示しない支持機構により、Z方向に移動自在に支持されている。昇降部材33の上部には略水平の上面を有するベース部材35が取り付けられており、ベース部材35の上面から上向きに、複数のリフトピン37が立設されている。リフトピン37の各々は、その上端部が基板Sの下面に当接することで基板Sを下方から水平姿勢に支持する。基板Sを水平姿勢で安定的に支持するために、上端部の高さが互いに等しい3以上のリフトピン37が設けられることが望ましい。
【0027】
昇降部材33は、供給ユニット50に設けられた昇降機構51により昇降移動可能となっている。具体的には、昇降機構51は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が昇降部材33をZ方向に移動させる。昇降機構51は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0028】
昇降部材33の昇降によりベース部材35が上下動し、これと一体的に複数のリフトピン37が上下動する。これにより、移載ユニット30と支持トレイ15との間での基板Sの受け渡しが実現される。より具体的には、図1に点線で示すように、支持トレイ15がチャンバ外へ引き出された状態で基板Sが受け渡される。この目的のために、支持トレイ15にはリフトピン37を挿通させるための貫通孔152が設けられている。ベース部材35が上昇すると、リフトピン37の上端は貫通孔152を通して支持トレイ15の支持面151よりも上方に到達する。この状態で、外部の搬送装置により搬送されてくる基板Sがリフトピン37に受け渡される。リフトピン37が下降することにより、基板Sはリフトピン37から支持トレイ15へ受け渡される。基板Sの搬出は、上記と逆の手順により行うことができる。
【0029】
図2はこの基板処理装置を含む基板処理システムにより実行される処理の一部を示すフローチャートである。この基板処理装置1は、前工程において洗浄液により洗浄された基板Sを乾燥させる超臨界乾燥処理を実行する。具体的には以下の通りである。処理対象の基板Sは、基板処理システムを構成する他の基板処理装置で実行される前工程において、洗浄液により洗浄された後(ステップS101)、例えばイソプロピルアルコール(IPA)による液膜が表面に形成された状態で(ステップS102)、基板処理装置1に搬送される。基板Sは処理チャンバ12に収容される(ステップS103)。
【0030】
例えば基板Sの表面に微細パターンが形成されている場合、基板Sに残留付着している液体の表面張力によってパターンの倒壊が生じるおそれがある。また、不完全な乾燥によって基板Sの表面にウォーターマークが残留する場合がある。また、基板S表面が外気に触れることで酸化等の変質を生じる場合がある。このような問題を未然に回避するために、基板Sの表面(パターン形成面)を液体または固体の表面層で覆った状態で搬送することがある。
【0031】
例えば洗浄液が水を主成分とするものである場合には、これより表面張力が低く、かつ基板に対する腐食性が低い液体、例えばIPAやアセトン等の有機溶剤により液膜を形成した状態で搬送が実行される。すなわち、基板Sは水平状態に支持され、かつその上面に液膜が形成された状態で、基板処理装置1に搬送されてくる。
【0032】
基板Sは、パターン形成面を上面にして、しかも該上面が薄い液膜に覆われた状態で支持トレイ15に載置される。支持トレイ15および蓋部材13が一体的に(+Y)方向に移動すると、基板Sを支持する支持トレイ15が処理チャンバ12内の処理空間SPに収容されるとともに、開口121が蓋部材13により閉塞される。
【0033】
この状態で、処理流体としての二酸化炭素が気相の状態で処理空間SPに導入される(ステップS104)。基板Sの搬入時に処理空間SPには外気が侵入するが、気相の処理流体を導入することでこれを置換することができる。さらに気相の処理流体を注入することで、処理チャンバ12内の圧力が上昇する。
【0034】
圧力が十分に上昇した段階で、超臨界状態の処理流体が導入される(ステップS105)。超臨界状態の処理流体は外部から供給されてもよく、また処理空間SP内での相変化により処理流体が気相から超臨界状態に遷移する態様であってもよい。処理空間SPが超臨界流体で満たされた状態で、引き続き液相の処理流体が導入される(ステップS106)。処理空間SP内の処理流体が気相から超臨界状態に変化してから、液相と気相とが混在するときに生じる気液界面の形成が回避される。また、超臨界流体より高密度の液相の処理流体で処理空間SPを満たすことにより、基板Sに残留付着する液体成分(IPA)を効率よく置換することができる。
【0035】
次に、処理空間SP内の処理流体を排出して基板Sを乾燥させる。具体的には、液相の処理流体で満たされた処理空間SPに対し、超臨界状態の処理流体が導入される(ステップS107)。外部から超臨界状態の処理流体が導入されてもよく、また臨界圧力よりも圧力の高い液相の処理流体が加熱されることで超臨界状態に遷移する態様でもよい。そして、処理空間SPが超臨界流体で満たされた状態から減圧されることで、処理流体を気化させつつ外部へ排出する(ステップS108)。このとき、急激な温度低下により固相および液相を生じることがないように減圧速度が調整されることで、処理空間SP内の処理流体は超臨界状態から直接気化して外部へ排出される。したがって、処理流体を排出する際にも気液界面の形成は回避される。
【0036】
このように、この実施形態の超臨界乾燥処理では、処理空間SPを液相の処理流体で満たすことにより、基板Sに付着する液体を効率よく置換し、基板Sへの残留を防止することができる。しかも、不純物の付着による基板の汚染やパターン倒壊等、気液界面の形成に起因して生じる問題を回避しつつ基板を乾燥させることができる。
【0037】
処理後の基板Sは後工程へ払い出される(ステップS109)。すなわち、蓋部材13が(-Y)方向へ移動することで支持トレイ15が処理チャンバ12から外部へ引き出され、移載ユニット30を介して外部の搬送装置へ基板Sが受け渡される。このとき、基板Sは乾燥した状態となっている。後工程の内容は任意である。
【0038】
図3は本実施形態の処理チャンバ内における処理流体の状態変化を示す図である。状態図は処理流体としての二酸化炭素に対応しており、先にも示した通り、その臨界点CPに対応する臨界温度Tcは約31.1℃、臨界圧力Pcは約3.78MPaである。図において符号Paは大気圧を表すものとする。
【0039】
上記した一連の超臨界乾燥処理における処理流体の状態変化としては、少なくとも図3に示す2つのケースがあり得る。図3(a)および図3(b)に示される事例においては、処理流体は、点Pで表される状態を起点として、符号a~eを付した矢印で概略が示される状態変化を示す。ここで、図2のフローチャートと対比すると、矢印aはステップS104に、矢印bはステップS105に、矢印cはステップS106に、矢印dはステップS107に、矢印eはステップS108に、それぞれ対応している。
【0040】
図3(a)に示す事例では、点Pが示すように、気相の処理流体は臨界温度Tcよりも少し低い温度で処理空間SPに供給される。このときの処理流体の温度を「初期温度」と称し符号Taを付することとする。流体供給部57から気相の処理流体が圧送されることで、矢印aで示すように処理空間SPにおいても処理流体の圧力は次第に上昇する。当該初期温度Taで処理流体が気相から液相に相転移する転移点に達するよりも少し前に、矢印bで示すように、断熱圧縮により処理流体を超臨界状態に遷移させる。例えば臨界圧力Pcよりも高圧の処理流体を導入することにより、処理空間SP内の気体を超臨界状態に遷移させることができる。
【0041】
断熱圧縮により圧力、温度が共に上昇するため、処理流体は液相を介することなく超臨界状態に遷移する。言い換えれば、液相への相変化が生じないように、気相の処理流体の温度(初期温度Ta)と、高圧処理流体の導入タイミングとが設定される。このときの処理流体の温度としては、臨界温度Tcより少し低い、例えば25℃程度とすることができる。
【0042】
矢印aの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が10℃ないし30℃、圧力はチャンバ内温度に対応する処理流体の蒸気圧よりも若干高い圧力となる。また矢印bの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば温度が35~45℃、圧力は10~12MPaとなる。
【0043】
次いで、矢印cで示すように、処理流体は超臨界状態から液相に遷移する。例えば流体供給部57から液相の処理流体を処理空間SPに供給することで、処理空間SP内の処理流体の温度を低下させ、処理空間SPを液相の処理流体で満たすことができる。矢印cは圧力が不変で温度のみ低下することを示しているが、臨界圧力Pcを下回らない範囲で圧力の変動があっても構わない。
【0044】
当初、臨界温度Tcよりも低温の初期温度Taで処理流体が供給され、その後断熱圧縮により処理流体自体が昇温することで臨界温度Tcを超える。このため、処理チャンバ12およびこれに接続される配管の温度は、超臨界状態となった処理流体の温度よりは低いと考えられる。このため、処理流体を臨界温度Tcよりも低温に冷却して液相に移行させるのに要する時間は短くて済む。
【0045】
処理空間SPを液相の処理流体で満たした状態を所定時間継続することで、基板Sに付着した液体成分を十分に置換し基板Sから除去することができる。その後、矢印dで示すように処理流体の温度を上昇させ、処理流体を再び超臨界状態に遷移させる。ここでも矢印dは圧力が不変で温度のみ上昇することを示しているが、臨界圧力Pcを下回らない範囲で圧力の変動があっても構わない。
【0046】
処理空間SP内が超臨界状態の処理流体で満たされた後、矢印eで示すように、処理空間SPが減圧されることにより処理流体の圧力が低下し、超臨界状態から気相に遷移する。矢印eは温度変化がないことを示しているが、破線矢印e’で示すように、液相および固相の領域を通らない範囲で温度低下があっても構わない。
【0047】
矢印cの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が10~30℃であり、圧力は10~12MPaとなる。また矢印dの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が40~70℃であり、圧力は10~12MPaとなる。矢印eの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が40~70℃であり、圧力は10~12MPaから大気圧まで減圧される。
【0048】
一方、図3(b)に示す事例では、点Pが示すように、気相の処理流体の初期温度Taが臨界温度Tcより少し高い。この場合、矢印bで示すように、超臨界状態に移行させる際に断熱圧縮による温度上昇は必須ではないが、気相のまま臨界圧力Pc以上の処理流体を供給することはできないから、上記と同様に高圧の処理流体を供給することが必要である。矢印cで示す超臨界状態から液相への遷移の際、処理チャンバ12および配管の温度が臨界温度Tcを超えていると、処理空間SP内の処理流体を全て液化するのに上記事例よりは時間がかかる可能性がある。以後の状態変化は、図3(a)に示す事例と同じである。
【0049】
図3(b)に示す事例では、矢印aの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が35~45℃、圧力が各温度における臨界圧力よりも低くなる。また矢印bの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が35~50℃、圧力は10~12MPaとなる。矢印cの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が10~30℃であり、圧力は10~12MPaとなる。矢印dの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が40~70℃であり、圧力は10~12MPaとなる。さらに、矢印eの状態変化においては、処理チャンバ12内は、例えば、温度が40~70℃であり、圧力は10~12MPaから大気圧まで減圧される。
【0050】
特に処理流体の超臨界状態を含む相変化を伴うプロセスにおいては、このように臨界点CPの近傍で状態が遷移するようにすることで、遷移に要する時間を短縮し、エネルギーや処理流体の消費量を抑えることが可能である。
【0051】
次に、上記の処理を実行するためのより具体的なシステム構成とその動作フローについて、図4ないし図6を参照して説明する。図4および図5は処理流体の流通経路の例およびその動作状態を示す図である。また、図6は各部の動作を示すタイミングチャートである。これまで原理説明のため記載を省略していたが、流体供給部57と処理チャンバ12との間、および、処理チャンバ12と流体回収部55との間には処理流体の流路としての配管や開閉バルブ等が設けられている。以下ではこの配管系の全体に対し符号200を付することとする。
【0052】
図4(a)に示すように、この例では、流体供給部57は、処理流体としての二酸化炭素(CO2)を、気相の状態で出力する機能と、臨界圧力Pcよりも高圧で出力する機能とを有している。前記したように、気相で出力される処理流体(図では「気相CO2」と記載)は、臨界圧力Pc以上の圧力にはなり得ない。出力される処理流体は、実現可能な範囲でできるだけ高い圧力、例えば5MPaのものとすることができる。以下ではこの圧力を「送出圧力」と称し、符号Psを付すものとする。気体CO2の出力には配管201が接続され、該配管201にはバルブ202が介挿されている。
【0053】
一方、臨界圧力Pcよりも高圧(例えば12MPa)で出力される処理流体(図では「高圧CO2」と記載)は、その温度により液相および超臨界状態のいずれをも取り得る。流体供給部57自体が処理流体の温度を調節して液相と超臨界とを切り替えてもよいが、後述するように配管系200は高圧の処理流体を加熱するヒーターを有しているため、流体供給部57は臨界温度Tcよりも低温の、つまり液相の処理流体だけを出力するものであってもよい。
【0054】
高圧CO2の出力は配管211に接続されており、該配管211には、上流側から順に、バルブ212、バッファ部213、温度センサー214、ヒーター215およびバルブ216が介挿されている。バッファ部213は、流体の流通方向においてこれよりも上流側の配管211よりも大きな断面積を有し、流体供給部57から出力される処理流体を一時的に貯留することが可能な貯留空間を備えている。バッファ部213は、内部に一時的に貯留された処理流体を断熱圧縮させることで超臨界状態を実現する機能と、配管から処理空間SPに放出される際に処理流体が膨張することで温度低下を生じ超臨界状態から液相に変化してしまうのを防止する機能とを有する。
【0055】
配管201,211はバルブ202,216の出力側で合流し配管221となっている。配管221にはバルブ222が介挿されている。バルブ222の出力側で、配管221は処理チャンバ12に接続されている。処理チャンバ12と流体回収部55との間は配管251によって接続されており、配管251にはバルブ252が介挿されている。
【0056】
上記したバルブ類は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作し、配管の開閉および流量調節を行う。また、ヒーター215は供給ユニット50の温度制御部59により制御され、通送される流体を加熱して目標温度に調節する。この目的のために、配管211には処理流体の温度を検出する温度センサー214が設けられている。つまり、温度センサー214の出力は温度制御部59に与えられ、これに基づき温度制御部59はヒーター215の通電制御を行う。
【0057】
以下、上記のように構成された配管系200を有する基板処理装置1による超臨界乾燥処理について説明する。なお、図4および図5の各図においては、バルブ類のうちその近傍に「*」を付したものは開成状態、その他のバルブは閉成状態を表すものとする。また、ヒーター215については、同様に「*」が付されているときには処理流体の加熱を行うことを、付されていないときには加熱を行わないことを表すものとする。
【0058】
また、図6において、符号「#202」は図4(a)に示すバルブ202を表すものとする。同様に、符号「#212」、「#216」、「#222」、「#252」は、それぞれバルブ212、バルブ216、バルブ222、バルブ252を表すものとする。
【0059】
図4(a)に示される状態は、超臨界乾燥処理の開始前の初期状態に対応している。図6における時刻T1と時刻T2との間の期間がこの状態に対応する。初期状態では、流体供給部57の気相CO2出力に接続された配管201上のバルブ202と、高圧CO2出力に接続された配管211のうちヒーター215の出力側に設けられたバルブ216とが開成し、他は閉じられている。このため、配管201、配管211のうちバルブ212よりも下流側、および配管221のうちバルブ222よりも上流側が、流体供給部57から出力される臨界圧力Pcよりも低圧の(例えば5MPaの)気相CO2で満たされた状態となっている。ヒーター215による流体の加熱は停止されている。
【0060】
時刻T2において、バルブ212,222が新たに開成される一方、バルブ216が閉成される。これは図2のステップS104、図3の矢印aに対応しており、図4(b)はこのときの状態を示している。バルブ222が開成されることで、気相CO2が処理チャンバ12に供給される。これにより、処理チャンバ12内の圧力も、大気圧Paから次第に上昇する。
【0061】
一方、高圧CO2が流通する配管211では、出力側のバルブ216が閉じられ入力側のバルブ212が開かれることで、流体供給部57から出力される高圧の処理流体が一気に配管211内に流れ込む。これにより、配管211内に存在する気相の処理流体は断熱圧縮され、ヒーター215による加熱がなくても、高圧かつ高温(例えば12MPa、35℃程度)の超臨界状態となる。すなわち、配管211が超臨界状態の処理流体で満たされる。
【0062】
時刻T3において、バルブ202が閉じられ、代わってバルブ216が開かれる。この状態は、図2のステップS105、図3の矢印b、図4(c)に対応している。これにより、気相の処理流体に代えて、配管211内の超臨界状態の処理流体が処理チャンバ12に供給される。このときヒーター215は作動していない。
【0063】
処理チャンバ12に気相の処理流体を供給する限りにおいては、その送出圧力Psを超えて処理チャンバ12内の圧力が上昇することはない。一方、時刻T3においては、配管211から高圧の処理流体が流れ込むため、処理チャンバ12内の気体は断熱圧縮されて超臨界状態となる。つまり、処理チャンバ12内の温度および圧力はそれぞれ臨界温度Tcおよび臨界圧力Pcを上回る。
【0064】
なお、図6において実線で示す時刻T3前後での温度変化は、図3(a)に示す状態変化の場合を示している。状態変化が図3(b)に示されるものである場合には、図6に破線で示すように、処理チャンバ12内の温度は当初より臨界温度Tcを超えている。
【0065】
処理チャンバ21が超臨界流体で満たされるまでこの状態を継続した後、時刻T4において、バルブ252が開かれる。これにより処理チャンバ12内の処理流体の排出が開始される。図2のステップS106、図3の矢印c、図5(a)がこの状態に対応している。このとき、配管211を介した高圧CO2の供給は継続されているが、断熱圧縮は起こらないため液相で処理チャンバ12に導入される。
【0066】
処理チャンバ12内の温度は臨界温度Tcを下回るが、流体供給部57からは臨界圧力Pcを超える圧力で処理流体が出力されているため、処理チャンバ12内の圧力は臨界圧力Pcを超えている。ただし、処理チャンバ12内を液相の処理流体で満たすという目的に関しては、その内部圧力が臨界圧力以下であっても構わない。
【0067】
処理チャンバ12に液相の処理流体が供給され、同時に処理チャンバ12から排出されることにより、基板S上の残留液体(IPA)が効果的に置換される。すなわち、基板Sに付着している液体は液状の処理流体に溶け込み、処理流体とともに排出される。この状態を所定時間継続することで、基板S上の液体は処理チャンバ12の外部へ排出される。
【0068】
時刻T5においてヒーター215による加熱が開始される。これにより、配管211を流れる高圧CO2は臨界温度Tcよりも高温(例えば50℃程度)に熱せられ超臨界状態で処理チャンバ12に供給される。図2のステップS107、図3の矢印d、図5(b)がこの状態に対応している。処理チャンバ12に残る液相の処理流体は外部へ排出されまたは加熱によって超臨界状態に遷移し、最終的に処理チャンバ12内が超臨界流体で満たされる。
【0069】
その後、時刻T6においてバルブ212が閉じられることで高圧CO2の供給が停止される一方、処理チャンバ12から流体を排出するバルブ252は開成状態を継続することで、処理チャンバ12内が減圧される。図2のステップS108、図3の矢印e(または矢印e’)、図5(b)がこの状態に対応している。これにより処理チャンバ12内の超臨界流体が液相を介することなく気化して排出され、最終的には大気圧近くまで減圧されて、乾燥した基板Sを搬出することが可能になる。
【0070】
処理チャンバ12内の温度については、基板Sの乾燥を終了させるという観点からは、実線で示すように加熱状態が維持されてもよく、また破線で示すように、液相または固相への変化を生じない範囲で次第に低下してもよい。処理チャンバ12から基板Sを搬出する際には、室温近くまで基板Sの温度が下がっていることが好ましい。
【0071】
図5(c)に示すように、高圧CO2用の配管211に設けられたバルブ216についても開成状態としておくことで、該配管211に残留する高圧の処理流体も処理チャンバ12を介して排出することができる。ヒーター215については、時刻T6以降もしばらく作動状態を継続するようにすれば、処理チャンバ12内の急激な温度低下を抑制することが可能である。適宜のタイミングでヒーター215による加熱を停止することで、配管211内の処理流体の温度を低下させて、次の基板に対する処理に備えることができる。配管211に高圧の処理流体が残留している状態で加熱を停止すれば、放出される処理流体による冷却効果が期待できる。
【0072】
図6の下部に示すように、上記した一連の処理において、処理チャンバ12内は、当初は気相の処理流体で満たされている。時刻T3において超臨界流体が導入されると、一時的に気相と超臨界状態とが混在した状態となるが、最終的には超臨界流体のみが処理チャンバ12内を満たすことになる。時刻T4において液相の処理流体が導入されると、一時的に液相と超臨界状態とが混在するが、最終的に液相のみが存在することになる。時刻T5において再び超臨界流体が導入されると、一時的に液相と超臨界状態とが混在するが、最終的に超臨界流体のみが存在することになる。そして、時刻T6において処理チャンバ12の減圧が開始されると、超臨界状態と気相とが一時的に混在した後、気相のみが存在する状態となる。
【0073】
このように、この実施形態では、処理チャンバ12内の処理流体は当初気相であり、その後液相に遷移して最終的には気相に戻る。ここで、気相から液相へ遷移する局面および液相から気相へ遷移する局面では、その間に必ず超臨界状態が介在しており、気相から液相へ直接、または液相から気相へ直接相変化することはない。
【0074】
そのため、基板Sが気液界面にさらされることに起因して生じる、不純物の付着による基板の汚染や、表面に形成されたパターンの倒壊等の諸問題を回避して、基板Sを良好に乾燥させることができる。また液相を介さない、つまり気相と超臨界状態との間の遷移のみで行う処理に比べて、より高密度の処理流体を基板に接触させることができるため、基板に付着した液体に対する置換を効率よく行わせることができる。このことは、例えば処理流体の使用量の削減、処理時間の短縮等の効果に資するものである。
【0075】
処理流体の使用量をさらに削減するための方策として、次のような変形例も考えられる。上記した処理プロセスでは、時刻T5から時刻T6までの間、つまり処理チャンバ12内を液相から超臨界状態に遷移させる際に、排出側のバルブ252が開いた状態となっている。しかしながら、基板Sに付着していた液体が時刻T5の時点で完全に除去されていれば、処理チャンバ12内には液相の処理流体のみが存在しており、これを排出せずに超臨界状態に遷移させることができれば、新たに処理流体を供給することは必須ではない。すなわち、時刻T5において、バルブ252が閉じられてもよい。
【0076】
例えば処理チャンバ12内の液相の処理流体を加熱して超臨界状態に遷移させることが考えられる。この目的のために、処理チャンバ12に内部の処理流体を加熱するヒーターが設けられてもよい。また、支持トレイ15に設けられたヒーターを、この目的に使用することも可能である。
【0077】
図7は配管系の他の構成例を示す図である。流体供給部57が、処理流体を気相、液相および超臨界状態のそれぞれで個別に出力することができるものである場合には、配管系を次のように構成することもできる。この例の配管系400では、気相CO2の出力には配管401が接続され、該配管401にはバルブ402が介挿されている。また、液相の処理流体(図では「液相CO2」と記載)の出力には配管403が接続され、該配管にはバルブ404が介挿される。配管401,403はバルブ402,404の出力側で合流し配管405となっている。配管405にはバルブ406が介挿される。
【0078】
一方、超臨界状態の処理流体(図では「超臨界CO2」と記載)の出力は配管411に接続されており、該配管411には、上流側から順に、バルブ412、温度センサー414、ヒーター415およびバルブ416が介挿されている。これらの機能は、上記実施形態において対応する各部のものと同じである。なお、バッファ部213に相当する構成は省かれている。
【0079】
配管405,411はバルブ406,416の出力側で合流して配管421となっており、配管421は処理チャンバ12に接続されている。また、上記実施形態と同様に、処理チャンバ12と流体回収部55との間は配管451によって接続されており、配管451にはバルブ452が介挿されている。
【0080】
このような構成では、ステップS104では配管401を介して気相の処理流体を、ステップS104およびS106では配管411を介して超臨界状態の処理流体を、そしてステップS106では配管403を介して液相の処理流体を、それぞれ流体供給部57から処理チャンバ12に供給することで、上記と同様の処理を実現することができる。この場合、断熱圧縮による液相から超臨界への遷移が不要であるため、配管系400にはバッファ部を設けなくてもよい。
【0081】
以上説明したように、上記実施形態の基板処理装置1では、処理チャンバ12が本発明の「チャンバ」として機能している。また、図2に示す超臨界乾燥処理のうち、ステップS104、S105、S106、S107およびS108が、それぞれ本発明の「第1工程」、「第2工程」、「第3工程」、「第4工程」および「第5工程」に相当している。
【0082】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では超臨界処理用の処理流体として二酸化炭素を、また液膜を形成するための液体としてIPAを用いている。しかしながら、これは単なる例示であり、用いられる化学物質はこれらに限定されるものではない。
【0083】
また、上記説明では超臨界乾燥処理の各工程における温度および圧力の数値を示しているが、これらの数値は単なる例示であり、臨界点の値に対する高低の関係が維持されている限りにおいて、これらの数値を適宜改変することが可能である。
【0084】
また例えば、上記実施形態では、処理チャンバ12内の処理流体を超臨界状態から液相に遷移させ、処理チャンバ12内を液相の処理流体で満たすようにしている。こうすることで、基板Sに付着する液体に対する処理流体による置換性を最大にすることができるが、基板Sの表面全体が液相の処理流体に触れることが確保される限りにおいて、例えば液相と超臨界状態とが混在した状態であってもよい。
【0085】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理方法においては、例えば、第2工程では、処理流体の臨界温度より低温である処理流体を断熱圧縮することで超臨界状態に至らせるようにしてもよい。このような構成によれば、処理流体自体が昇温することで超臨界状態が実現されるので、外部から加熱を行う必要がなく、消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0086】
この場合さらに、例えば第1工程では、処理流体の臨界温度より低温である気相の処理流体をチャンバに導入することができる。こうすることにより、処理流体の流路およびチャンバの温度自体は臨界温度以下に抑えることができるので、続く液相の導入において、処理流体が温まって超臨界状態に移行してしまうことを回避することができる。
【0087】
一方、例えば第2工程では、処理流体の臨界温度よりも高温である処理流体の圧力を臨界圧力以上に上昇させて超臨界状態に至らせるようにしてもよい。このような構成によれば、第2工程において処理流体が気相から液相へ変化してしまうことが確実に防止され、気液界面の形成に起因する問題を未然に回避することができる。
【0088】
また例えば、第3工程では、超臨界状態の処理流体で満たされたチャンバ内に、外部から液相の処理流体を供給するように構成されてもよい。液相の処理流体は超臨界状態の処理流体よりも低温であり、液相の処理流体を外部からチャンバ内に導入することで、チャンバ内の(超臨界状態の)処理流体の温度を低下させて液化することができる。すなわち、チャンバ内を速やかに液相の処理流体で満たし、処理時間の短縮を図ることが可能になる。
【0089】
この場合さらに、例えば第3工程では、チャンバ内に供給された液相の処理流体の少なくとも一部をチャンバから排出するようにしてもよい。このような構成によれば、基板に付着していた液体が溶け込んだ処理流体を排出することで、チャンバ内に液体成分が残留するのを防止することができる。
【0090】
また例えば、第4工程では、チャンバ内の前記処理流体の温度を上昇させて液相から超臨界状態に変化させるようにしてもよい。超臨界状態から液相に遷移した処理流体が高圧を維持していれば、その温度を上昇させるだけで再び超臨界状態に遷移させることが可能である。
【0091】
また例えば、第5工程では、処理流体の温度を臨界温度以上に保ちながら処理流体の圧力を臨界圧力以下に低下させるように構成されてもよい。このような構成によれば、超臨界状態から液相を介することなく処理流体を気相に変化させることができ、処理流体を除去する過程で気液界面が形成されないため、これに起因する基板の汚染やパターン倒壊等の問題を回避することができる。
【0092】
また例えば、液体が有機溶剤であり、処理流体が二酸化炭素であってもよい。二酸化炭素は比較的常温、常圧に近い条件で超臨界化する流体であり、基板の処理に多用される有機溶剤に対し高い溶解性を有しているため、本発明のような超臨界処理に好適に利用可能である。
【0093】
なお、本発明に係る基板処理方法を実行する基板処理装置としては、例えば、基板を収容するチャンバと、気相の処理流体と処理流体の臨界圧力よりも高圧の処理流体である高圧処理流体とをチャンバに供給可能な流体供給部と、流体供給部からチャンバへ高圧処理流体を通送する配管と、配管に介挿され、流体供給部から出力される高圧処理流体を一時的に貯留するバッファ部と、バッファ部とチャンバとの間の配管に介挿され、バッファ部からチャンバに至る高圧処理流体の流路を開閉する開閉部と、流体供給部および開閉部を制御し、開閉部が流路を閉じた状態で流体供給部からバッファ部へ液相の高圧処理流体を供給させて、流路内の高圧処理流体を断熱圧縮により超臨界状態に至らせる制御部とを備えたものを用いることができる。
【0094】
このような構成の基板処理装置は、バッファ部の出力側を閉塞した状態で高圧処理流体をバッファ部に流れ込ませることで、例えば液相の処理流体から、断熱圧縮を利用して超臨界状態の処理流体を生成することが可能である。このため、上記した本発明の基板処理方法における、気相から超臨界状態を介した液相への遷移を、大きなエネルギー消費を伴うことなく実現可能である。
【0095】
この場合さらに、バッファ部と開閉部との間の配管に介挿され、高圧処理流体を臨界温度以上に加熱可能な加熱部が設けられてもよい。このような構成によれば、超臨界状態から液相に遷移した高圧の処理流体を、再び速やかに超臨界状態に遷移させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
この発明は、超臨界流体を用いて基板を処理する基板処理装置全般に適用することができる。特に、半導体基板等の基板を超臨界流体によって乾燥させる基板乾燥処理に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 基板処理装置
12 処理チャンバ(チャンバ)
57 流体供給部
90 制御ユニット(制御部)
211 配管
213 バッファ部
215 ヒーター(加熱部)
216 バルブ(開閉部)
S 基板
S104 第1工程
S105 第2工程
S106 第3工程
S107 第4工程
S108 第5工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7