(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230922BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230922BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230922BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230922BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230922BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230922BHJP
C08J 5/08 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08K7/14
C08L83/04
C08K3/22
C08K3/36
C08J5/08 CEZ
(21)【出願番号】P 2020074856
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000198477
【氏名又は名称】石塚硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】勝見 健太
(72)【発明者】
【氏名】野崎 哲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幹
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-057867(JP,A)
【文献】特開2005-202382(JP,A)
【文献】特開2011-068781(JP,A)
【文献】特開2001-358416(JP,A)
【文献】特開平09-255374(JP,A)
【文献】特開平05-179012(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119903(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0131079(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/04-5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維と、
前記ガラス繊維と混在する樹脂組成物と、
前記樹脂組成物の中に分散した無機フィラーと、
を含
むフィルムであって、
前記樹脂組成物の質量に対する前記無機フィラーの質量の比率は、1質量%以上60質量%以下であ
り、
前記樹脂組成物は有機無機ハイブリッドポリマーを含み、
前記無機フィラーは、前記フィルムの第1の面の側に、前記第1の面とは反対にある第2の面の側に比べて多く存在するフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムであって、
前記ガラス繊維はガラスクロスであるフィルム。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のフィルムであって、
前記樹脂組成物は、シルセスキオキサンを含むフィルム。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のフィルムであって、
前記無機フィラーは、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、及びチタニア粒子から成る群から選択される1以上を含むフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に透明なフィルムが開示されている。このフィルムは、樹脂組成物をガラス繊維に複合化して得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、自動車分野、電気・電子産業分野等において、表面硬度と屈曲耐久性とが高いフィルムが求められている。本開示の1つの局面では、表面硬度と屈曲耐久性とが高いフィルムを提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの局面は、ガラス繊維と、前記ガラス繊維と混在する樹脂組成物と、前記樹脂組成物の中に分散した無機フィラーと、を含み、前記樹脂組成物の質量に対する前記無機フィラーの質量の比率は、1質量%以上60質量%以下であるフィルムである。本開示の1つの局面であるフィルムは、表面硬度と屈曲耐久性とが高い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】フィルムの構成を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の例示的な実施形態について説明する。
1.フィルムの構成
(1-1)ガラス繊維
本開示のフィルムは、ガラス繊維を含む。ガラス繊維は、例えば、布状の形態を有する。ガラス繊維として、例えば、ガラスクロス等が挙げられる。ガラスクロスは、紡糸したガラス繊維を製織し布状としたものである。本開示のフィルムは、ガラス繊維を含むことにより、塑性変形を起こし難く、強度及び屈曲耐久性が高い。
【0008】
ガラス繊維の屈折率は、1.4以上、1.60以下であることが好ましい。ガラス繊維の屈折率が1.4以上、1.60以下である場合、フィルムの透明性が一層高い。ガラス繊維の厚みは100μm以下であることが好ましく、35μm以上60μm以下であることが一層好ましい。ガラス繊維の厚みが100μm以下である場合、フィルムの屈曲耐久性が一層高く、35μm以上60μm以下である場合、フィルムの屈曲耐久性が特に高い。
【0009】
(1-2)樹脂組成物
本開示のフィルムは樹脂組成物を含む。フィルムにおいて、樹脂組成物は、ガラス繊維と混在している。ガラス繊維と樹脂組成物が混在している状態は、例えば、樹脂組成物にガラス繊維を含浸することで実現できる。
【0010】
樹脂組成物が含む樹脂として、例えば、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂等が挙げられる。樹脂組成物が含む樹脂として、例えば、有機無機ハイブリッドポリマー、シリコーン、有機ポリマー等が挙げられる。有機無機ハイブリッドポリマーとして、例えば、特開2019-081861号公報に記載されたシルセスキオキサン等が挙げられる。有機無機ハイブリッドポリマーにおけるSi-O骨格比率は高いことが望ましい。Si-O骨格比率とは、ウレタンアクリレートの質量に対するシルセスキオキサンの質量の比率を意味する。Si-O骨格比率が高い場合、フィルムの屈曲耐久性が一層高い。
【0011】
樹脂組成物として、例えば、ウレタンアクリレート、チオールモノマー、アクリルモノマー等から構成されるものが挙げられる。樹脂組成物の屈折率は、1.4以上、1.60以下であることが好ましい。樹脂組成物とガラスクロスとの屈折率差の絶対値が0.02以下である場合、フィルムの透明性が一層高い。
【0012】
樹脂組成物は、樹脂に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分として、例えば、機能性材料等が挙げられる。機能性材料として、例えば、硬化触媒、顔料、色素、蛍光体、量子ドット等が挙げられる。
(1-3)無機フィラー
本開示のフィルムは無機フィラーを含む。無機フィラーは樹脂組成物の中に分散している。本開示のフィルムは、無機フィラーを含むことにより表面硬度が高い。
【0013】
樹脂組成物の質量に対する無機フィラーの質量の比率(以下では添加率とする)は、1質量%以上60質量%以下である。添加率の算出に用いる樹脂組成物の質量は、硬化後における質量である。
【0014】
添加率が1質量%以上であることにより、フィルムの表面硬度が高い。添加率は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。添加率が3質量%以上である場合、フィルムの表面硬度が一層高く、添加率が5質量%以上である場合、フィルムの表面硬度が特に高い。
【0015】
添加率が60質量%以下であることにより、フィルムの屈曲耐久性が高い。添加率は、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。添加率が55質量%以下である場合、フィルムの屈曲耐久性が一層高く、添加率が50質量%以下である場合、フィルムの屈曲耐久性が特に高い。
【0016】
無機フィラーとして、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、及びチタニア粒子から成る群から選択される1以上等が挙げられる。無機フィラーの粒径は、数nm以上、10μm以下が好ましい。無機フィラーの粒径が数nm以上、10μm以下である場合、フィルムの透明性及び表面平滑性が一層高い。無機フィラーは、均一な粒径の粒子から構成されていてもよいし、大きな粒径の粒子と小さな粒径の粒子との混合物であってもよい。
【0017】
無機フィラーは、例えば、フィルムの第1の面の側に、第2の面の側に比べて多く存在する。第2の面は、第1の面とは反対の面である。無機フィラーは、第2の面の側に存在していてもよいし、第2の面の側に存在していなくてもよい。無機フィラーが、フィルムの第1の面の側に、第2の面の側に比べて多く存在する場合、第1の面の表面硬度は一層高くなる。例えば、ガラス繊維に対し、第1の面の側から、樹脂組成物と無機フィラーとの混合物を注ぐことで、第1の面の側に無機フィラーを偏在させることができる。ガラス繊維の単繊維径が細いほど、無機フィラーは第1の面の側に一層偏在し易い。ガラス繊維の集束本数が多いほど、無機フィラーは第1の面の側に一層偏在し易い。また、無機フィラーは、例えば、フィルムの全体にわたって均等に分散していてもよい。
【0018】
2.フィルムの製造方法
本開示のフィルムは、例えば、以下の方法で製造することができる。樹脂組成物と、無機フィラーとを含む調整液を作製する。調整液を作製するとき、例えば、加熱しながら攪拌混合する。次に、調整液を、布状のガラス繊維に含浸させる。次に、例えば、UVを照射する、熱を加える等の方法で、樹脂組成物を硬化させる。以上の方法により、フィルムが完成する。
【0019】
製造されたフィルム1は、例えば、
図1に示す形態を有する。フィルム1は、ガラス繊維3と、樹脂組成物5と、無機フィラー7と、を備える。樹脂組成物5は、ガラス繊維3と混在している。無機フィラー7は、樹脂組成物5の中に分散している。
【0020】
図1に示す例では、無機フィラー7は、第1の面9の側に、第2の面11の側に比べて多く存在する。
図1に示す例では、無機フィラー7は、大きな粒径の粒子と小さな粒径の粒子との混合物である。
【0021】
3.フィルムの用途
本開示のフィルムは、例えば、表示ディスプレイの保護カバー、窓ガラス、ロールタイプウィンドウ、スクリーンとして使用することができる。本開示のフィルムは、他の用途に用いてもよい。
【0022】
4.実施例
(4-1)各実施例及び各比較例のフィルムの製造
表1に記載の樹脂組成物と、QSG-30とを、表1における実施例1の列に記載の配合量となるように混合することで、実施例1における調整液を製造した。QSG-30は、信越化学工業製の疎水性球状シリカである。QSG-30は、シリカ粒子に対応し、無機フィラーに対応する。
【0023】
【0024】
表1及び後述する表2における配合量の単位は質量部である。樹脂組成物の成分として、UA-306Tと、AC-SQ SI-20と、カレンズMT PE1と、SR9003と、Omnirad 1173とがある。表1及び表2では、カレンズMT PE1を、PE1と表す。
【0025】
UA-306Tは、共栄社化学製のウレタンアクリレートである。AC-SQ SI-20は、東亞合成製のシルセスキオキサン化合物である。カレンズMT PE1は、昭和電工製のチオールモノマーである。SR9003は、アルケマ製のアクリルモノマーである。Omnirad 1173は、BASFジャパン製の硬化触媒である。
【0026】
次に、実施例1における調整液を、40℃に加熱しながら、攪拌子を用いて500rpmの条件で攪拌混合した。次に、調整液を、ガラスクロスに含浸させた。このとき、ガラスクロスに対し、第1の面の側から調整液を注いだ。第1の面は、ガラスクロスの両面のうちの一方の面である。
【0027】
ガラスクロスは、S-2ガラスクロス(商品名、サカイ産業)であった。ガラスクロスは、平織りの形態を有していた。ガラスクロスを構成する用糸はS-2ガラスであった。ガラスクロスにおける経密度は59本/25mmであった。ガラスクロスにおける緯密度は46本/25mmであった。ガラスクロスの厚みは0.047mmであった。
【0028】
次に、UVを照射して樹脂組成物を硬化させた。UVの照射装置として、高圧水銀ランプ を使用した。UVの強度は80W/cmであった。UVの積算光量は1200mJ/cm2であった。以上の工程により、実施例1のフィルムが完成した。
【0029】
基本的には同様の方法で、実施例2~6及び比較例5~9のフィルムを製造した。ただし、樹脂組成物及びQSG-30の配合量は、表1又は表2における対応する列に記載の配合量とした。また、比較例5では、ガラスクロスを使用しなかった。なお、表1及び表2におけるガラスクロスの行における「○」は、ガラスクロスを使用したことを意味し、「×」は、ガラスクロスを使用しなかったことを意味する。
【0030】
【0031】
表1及び表2に、各実施例及び比較例5~9のフィルムの添加率及び付着率を示す。添加率とは、硬化後の樹脂組成物の質量に対するQSG-30の質量の比率である。なお、各実施例及び比較例5~9における樹脂組成物の質量は、硬化の前後でほとんど変わらないため、硬化前の樹脂組成物の質量に対するQSG-30の質量の比率と、硬化後の樹脂組成物の質量に対するQSG-30の質量の比率とは、ほぼ同一である。
【0032】
付着率とは、((A-B)/A)×100の式により表される値である。Aは、樹脂組成物が硬化した後のフィルムの質量である。Bは、ガラスクロスの質量である。
各実施例及び比較例7~9のフィルムでは、第1の面の側に、第2の面の側に比べて、QSG-30が多く存在していた。これは、ガラスクロスに対し、第1の面の側から、QSG-30を含む調整液を注いだためである。第1の面の表面硬度は、第2の面の表面硬度より高い。
【0033】
また、透明ポリイミドフィルムを比較例1とした。透明ポリイミドフィルムは、TORMED TypeX(商品名、アイ.エス.テイ製)であった。透明ポリイミドフィルムの厚みは50μmであった。
また、PETフィルムを比較例2とした。PETフィルムは、ルミラーT60 (商品名、東レ製)であった。PETフィルムの厚みは50μmであった。
【0034】
また、PETフィルムから成る基材と、基材の表面に形成されたハードコート層とを備えるフィルムを比較例3とした。PETフィルムは、比較例2のPETフィルムと同一のものであった。ハードコート層の形成方法は以下のとおりとした。有機無機ハイブリッドハードコート剤を、PETフィルムの表面に滴下した。有機無機ハイブリッドハードコート剤は、Acier(商品名、二デック製)であった。
【0035】
次に、バーコーターNo.10を用いて塗膜を形成した。次に、乾燥機にて、80℃の温度で5分間処理することで、塗膜中の溶剤を揮発させた。次に、UVを照射することで塗膜を硬化させ、ハードコート層を得た。ハードコート層の厚みは20μmであった。また、ソーダ石灰ガラスのフィルムを比較例4とした。
【0036】
実施例1~7のフィルムは透明フィルムであった。また、実施例1~7のフィルムは、屈曲性を有するフレキシブルフィルムであった。
(4-2)各実施例及び各比較例のフィルムの評価方法
各実施例及び各比較例のフィルムについて、鉛筆硬度の測定と、可視光透過率の測定と、屈曲耐久性の評価とを行った。
【0037】
鉛筆硬度の測定方法は、JIS5600-5-4に準拠した。荷重は750gであった。試料の厚みは50~60μmであった。鉛筆硬度の測定面は、第1の面であった。鉛筆硬度は表面硬度に対応する。
可視光透過率の測定は、JIS K7375に準拠した。試料の厚みは50~60μmであった。入射面は第1の面であった。可視光透過率は透明性に対応する。
【0038】
屈曲耐久性の評価では、小型卓上型 クラムシェル型 屈曲試験機(型番:DMLHP-CS,ユアサシステム機器製)を使用した。試料のサイズは、縦140mm、横50mm、厚さ50μmであった。試料を、曲率半径が2mmになるまで屈曲させ、次に、平らな形状に戻すというサイクル(以下では屈曲サイクルとする)を繰り返しながら、試料の割れや変形を目視で確認した。試料を屈曲させるとき、柔軟性が高い第2の面を外側にすることで、曲げ応力に耐え易くした。
【0039】
(4-3)各実施例及び各比較例のフィルムの評価結果
評価結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
表3の可視光透過率の列における「85%以上」とは、85%以上90%未満を意味する。表3の屈曲耐久性の列における「30万回耐久」とは、屈曲サイクルを30万回繰り返した後でも、試料が割れなかったことを意味する。「10万回耐久」とは、屈曲サイクルを10万回繰り返したときには試料は割れなかったが、屈曲サイクルを30万回繰り返す前に試料が割れたことを意味する。「NG」とは、屈曲サイクルを10万回繰り返す前に試料が割れたことを意味する。
【0042】
表3の変形の有無の列における「無」とは、屈曲サイクルを30万回繰り返したときでも試料に変形が無かったことを意味する。「無(20万回)、有(30万回)」とは、屈曲サイクルを20万回繰り返したときには試料に変形は無かったが、屈曲サイクルを30万回繰り返したときには試料に変形があったことを意味する。「有(30万回)」とは、屈曲サイクルを30万回繰り返したときに試料に変形があったことを意味する。「有(10万回)」とは、屈曲サイクルを10万回繰り返したときに試料に変形があったことを意味する。「割れる」とは、屈曲サイクルを30万回繰り返す前に試料が割れたことを意味する。
【0043】
実施例1~7のフィルムでは、鉛筆硬度が高く、可視光透過率が高く、屈曲耐久性が高かった。比較例1~3、5.6のフィルムでは、鉛筆硬度が低かった。比較例7~9のフィルムでは、可視光透過率が低かった。比較例3~5、7~9のフィルムでは、屈曲耐久性が低かった。
【0044】
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0045】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0046】
(2)上述したフィルムの他、当該フィルムを構成要素とするシステム、フィルムの製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1…フィルム、3…ガラス繊維、5…樹脂組成物、7…無機フィラー、9…第1の面、11…第2の面