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特許7353234ラストの製造方法、シューズアッパーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ラストの製造方法、シューズアッパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43D 3/02 20060101AFI20230922BHJP
   A43D 1/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A43D3/02
A43D1/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020084988
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021065684
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2020-05-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019191353
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】別所 亜友
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
(72)【発明者】
【氏名】谷口 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】小塚 祐也
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】長馬 望
【審判官】八木 敬太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/078168(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/210939(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0317610(US,A1)
【文献】特表2018-500987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43D 3/02
A43D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズアッパーを成形するためのラストの製造方法であって、
前記ラストは、前記シューズアッパーの成形が可能なように外周部分が、前記シューズアッパーの成形前後の各時点において一定形態を有する固形状態と、前記シューズアッパーの成形に使用されない時点において前記外周部分の形状をとどめない可塑状態と、の間で可逆的に変化するようにリサイクル可能な可塑性材料よりなるものであって、
前記可塑性材料よりなる部分は、前記ラストにおける前記外周部分であって、前記シューズアッパーがかぶせられる部分全体に位置し、
前記可塑性材料よりなる部分は、内部が中空であるように形成され、かつ、単層に形成され
前記ラストの芯材としてあらかじめ形成され、常時固形状態とされた中心部に対し、前記外周部分に前記可塑性材料よりなる部分である周辺部を形成する、ラストの製造方法。
【請求項2】
前記可塑性材料は、パルプ材が複数集合したパルプ集合体と、前記パルプ集合体を前記一定形態とするように固める成形材とを含み、
前記外周部分の形状をとどめない可塑状態とする際には、前記成形材を、固まった状態から溶解させる流動化工程を実施する、請求項1に記載のラストの製造方法。
【請求項3】
前記成形材は水溶性である、請求項2に記載のラストの製造方法。
【請求項4】
前記外周部分につき、前記可塑状態の前記可塑性材料供給して形成する、請求項2または3に記載のラストの製造方法。
【請求項5】
前記中心部を、前記周辺部に比べて伝熱性の高い材料で形成する、請求項1~4のいずれかに記載のラストの製造方法。
【請求項6】
前記可塑性材料を含む本体部に対し、外周を覆うように保護部を形成する、請求項1~のいずれかに記載のラストの製造方法。
【請求項7】
前記可塑性材料は、パルプ材が複数集合したパルプ集合体と、前記パルプ集合体を前記一定形態とするように固める成形材とを含み、
前記外周部分の形状をとどめない可塑状態とする際には、前記成形材を、固まった状態から溶解させる流動化工程を実施するものであり、
前記流動化工程の実施に先立ち、前記保護部を、前記本体部から剥離する、請求項に記載のラストの製造方法。
【請求項8】
前記可塑状態の前記可塑性材料をノズルから吐出することにより前記外周部分を形成する、請求項1~のいずれかに記載のラストの製造方法。
【請求項9】
3Dプリントの手法により前記外周部分の形成を行う、請求項に記載のラストの製造方法。
【請求項10】
ユーザの足型データを取得するデータ取得工程と、前記ユーザの足型データから3Dプリント用データを生成するデータ生成工程と、前記3Dプリント用データに基づき前記可塑状態の前記可塑性材料の前記吐出を行うラスト形成工程と、を備える、請求項に記載のラストの製造方法。
【請求項11】
前記3Dプリント用データは、複数のユーザの各々に対して個別に生成された前記ユーザの足型データに基づき作成される、請求項10に記載のラストの製造方法。
【請求項12】
前記ユーザの足型データは、ユーザの足を撮影した画像データから生成される、請求項11に記載のラストの製造方法。
【請求項13】
シューズアッパーの製造方法であって、
熱収縮糸を含む繊維シートからなる成形前アッパーを、請求項1~12のいずれかに記載のラストの製造方法により製造されたラストにかぶせる第1成形工程と、加熱により前記成形前アッパーを前記ラストの形状に沿わせて成形後アッパーとする第2成形工程と、を備える、シューズアッパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズアッパーを成形するためのラスト、また、当該ラストの製造方法とシューズアッパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの足に合わせたオーダーメイドのシューズを作製する際、ラストはユーザ専用のものであるので、ラストを用いてシューズアッパーを成形し、シューズを作製した後には、将来のために保管しておく場合を除いて、そのラストは不要となる。
【0003】
米国特許出願公開第2018/0014609号明細書には、可搬型のハウジング内で履物を製造することが開示されている。米国特許出願公開第2016/0206049号明細書には、形状記憶ポリマーにより再成形できるラストプリフォームが開示されている。中国特許第109732913号明細書には、3Dプリントによりラストを形成することが開示されている。米国特許第1550232号明細書には、内部に紙パルプを含むラストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0014609号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0206049号明細書
【文献】中国特許第109732913号明細書
【文献】米国特許第1550232号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記各文献には、不要となったラストをリサイクルすることについて具体的及び明示的な開示はない。
【0006】
そこで、本発明は、リサイクル可能なラスト、ラストの製造方法、シューズアッパーの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シューズアッパーを成形するためのラストであって、前記ラストは、少なくとも外周部分につき、前記シューズアッパーの成形時において一定形態を有する固形状態と、形態が変わりうる流動性を有する可塑状態と、で可逆的に変化する可塑性材料よりなる、ラストである。
【0008】
また本発明は、シューズアッパーを成形するためのラストの製造方法であって、前記ラストは、3Dプリントによりパルプ材が複数集合したパルプ集合体をシューズ着用者の足を基準とした内外方向に積層することにより形成される、ラストの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の一実施形態に係るラストに関し、足型データを得るためにユーザの足を撮影している様子を示す。
図1B】前記ラストを示す斜視図である。
図1C】前記ラストを溶解して溶解体とした状態を示す。
図2】前記ラストを3Dプリンタで形成している途中の状態を示す。
図3A】前記ラストの中心部と周辺部とを示す縦断面図である。
図3B】前記ラストの本体部の外周が保護部で覆われた状態を示す要部縦断面図である。
図4】成形前アッパーを前記ラストにかぶせ、加熱箱の内部でスチーム加熱されている状態を示す側面図である。
図5A】前記ラストを成形型で形成する場合において、成形型を切削により形成している途中の状態を示す斜視図である。
図5B】前記成形型を示す斜視図である。
図5C】前記成形型で前記ラストを形成している途中の状態を示す斜視図である。
図6】本発明の他の実施形態に係るラストを示す斜視図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るラストを示す斜視図である。
図8】本発明の他の実施形態に係るラストを示す斜視図である。
図9】本発明の他の実施形態に係るラストを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明につき、実施形態を図面とともに例示する。以下の説明における「内外方向」とは、シューズ着用者の足に向かう方向が「内方」であり、シューズの外部に向かう方向が「外方」である。また、以下で成形前後のシューズアッパー2について説明する際には、区別のために成形前アッパー2Aや成形後アッパー2Bとも表示することがある。
【0011】
本実施形態のラスト(靴型)1は、主に、大量生産品のシューズ用のラストではなく、ユーザの足Fに合わせたオーダーメイドのラスト1である。ただし本発明は、大量生産品のシューズ用のラストへの適用を完全に否定するものではなく、適用も可能である。このラスト1は、シューズを扱う店舗で製造することもできるし、後述のように3Dプリント用データや足型データを通信手段により送受信することにより、店舗から離れた工場で製造することもできる。本実施形態のラスト1は、少なくとも外周部分(シューズアッパー2の成形時に当該シューズアッパー2に触れる部分)につき、可塑性材料よりなる。ここでいう「可塑性材料」とは、ラスト1にシューズアッパー2の材料(成形前アッパー2A)をかぶせて加熱等を行うことにより成形を行う、シューズアッパー2の成形時において一定形態を有する固形状態(図1Bに示すラスト1の形態参照)と、流動性を有する可塑状態(図1C参照)と、で可逆的に変化する材料のことである(不可逆的に変化するものは含まない)。前記「流動性」とは、液体(または液体に類似したもの)が有する性質であって、形態(外形)が自由に変わりうる性質のことである。なお、シューズアッパー2は例えば布製であり、本実施形態では、熱収縮性を有する繊維シートよりなる布が用いられている。
【0012】
本実施形態における可塑性材料は、固形分が複数集合した固形分集合体と、固形分集合体に対して混合され、固形分集合体を前記一定形態とするように固める成形材とを含む。本実施形態では固形分としてパルプ材(個々がラスト1全体の大きさに比べて小さい(微細な)、粒状や繊維状とされたパルプ片)が用いられている。つまり、固形分集合体は本実施形態ではパルプ集合体である。このように構成することで、一般的な紙材料であるパルプ材を用いてラスト1を形成できるので、材料の入手が容易である。
【0013】
成形材は、固まった状態から溶解することで可塑性材料に流動性が生じるものである。溶解は例えば、成形材に対する別個の材料(本実施形態では水)の添加、加熱、光線(紫外線等)の照射によりなされる。成形材として用いられる材料は、例えばでんぷんのりや水溶性樹脂等の、水を加えることにより成形材に流動性が現れる水溶性の材料である。成形材は、例えば初期状態では液体であり、パルプ集合体に接した状態で時間をおくことにより固体に変化する。そして、その後成形材を溶解させることで、固体であるパルプ集合体が混じった液体とできる。水溶性の成形材を用いると、水で成形材を溶解して可塑状態にできるので、溶解のための特殊な薬剤や装置が不要である点で有利である。
【0014】
パルプ集合体と成形材との混合比は、ラスト1の外周部分の使用時(シューズアッパー2の成形前後)に必要とされる硬さ、ラスト1の表面の粗さ、使用時の大気中の湿度、溶解に要する時間等を考慮して決定することができる。
【0015】
以上のように構成されたラスト1では、シューズアッパー2の成形後、固形状態から可塑状態に変化させて、その後、再度固形状態に変化させることができる。そしてこの変化は可逆的である。このため、リサイクルが可能である。
【0016】
ラスト1は、パルプ集合体が内外方向に積層されて形成されている。積層は多層であってもよいし単層であってもよい。積層によりラスト1が成形可能なことから、成形型を用いずにラスト1を形成することができるため、例えば、図2に示すように3Dプリンタによる成形が可能である。
【0017】
また、ラスト1は中実であってもよいが、内部が中空であること(図2における部分断面を参照)が望ましい。中空とする場合、ラスト1における空洞状の内部空間1aを囲むように、可塑性材料を含む本体部11が形成される。中空であっても、本体部11の厚みを設定することで強度を確保できるため、機能上問題はない。ラスト1を中空とすると、中心に材料を配置させなくてもよいので、材料を節約できる。また、ラスト1の形成に要する時間を短縮できる。また、ラスト1の軽量化をはかることができるので、ラスト1を取り扱いやすい。このように種々のメリットがある。
【0018】
また、ラスト1は、図3Aに示すように中心部12と周辺部13とを備えることもできる。中心部12は、ラスト1の芯材としてあらかじめ形成され、常時固形状態とされた部分である。中心部12は中実であっても中空であってもよい。中空とした場合は、ラスト1の軽量化をはかることができる。周辺部13は、中心部12の外周部分に形成された部分である。周辺部13は可塑性材料よりなる。つまり、この構成は、前記構成における内部空間1aに中心部12が位置したものである。このようにラスト1を構成することで、前記構成と同じく、ラスト1の形成に要する時間を短縮できる。また、中実でラスト1全体が均一に形成された構成に比べ、可塑性材料の使用量を減らすことができる。また、工場でシューズを製造する場合、芯材である中心部12を用いることで、工場内で長期に保管しておく部分が、ラスト1よりも一回り小さな中心部12だけになる。このため、ラスト1全体を保管することに比べ、所定スペース当たりで保管数を増加させることができ、保管スペースを節約できる。また、大きさの異なるラスト1でも、中心部12の形状(大きさ)は統一できるので、大きさ別に保管する必要がなくなる。
【0019】
ラスト1が中心部12を備える場合、中心部12は、周辺部13に比べて伝熱性の高い材料で形成されることができる。例えば、中心部12を金属製(アルミ合金製等)とできる。このように構成することで、加熱によるシューズアッパー2の成形時(図4参照)に、ラスト1の中心部12も加熱されることにより、中心部12の側からもシューズアッパー2を加熱できる(つまり、成形前アッパー2Aは内外両方から加熱されることとなる)。よって、外部からのみ加熱する場合に比べて加熱時間を短縮でき、効率よく(短時間で)シューズアッパー2を成形することができる。
【0020】
また、ラスト1は、図3Bに示すように、前記本体部11と、本体部11の外周(外面)を覆う、層状や膜状の保護部14とを備えることができる。ここで本体部11は、前述のように、ラスト1が中空の場合は内部空間1aを囲む部分、ラスト1が中実の場合はラスト1の全体(保護部14を除く)、ラスト1が中心部12と周辺部13とを備える場合には周辺部13が該当する(図3A参照)。このように構成することで、保護部14により本体部11を傷つけないように保護することができる。また、保護部14によりラスト1に耐熱性や耐紫外線性を付与することもできる。更に、保護部14は、本体部11から剥離できるようにすることもできる。剥離できるようにするには、例えば、本体部11に対して保護部14を、接着後に剥離可能な接着剤を用いて接着したり、本体部11に対して密着性の弱い材料から形成された保護部14を形成したりする。このように構成することにより、保護部14をラスト1から剥離することで、ラスト1の状態では本体部11を保護しつつ、本体部11のリサイクルが容易となる。
【0021】
保護部14は、例えば、金属薄膜(アルミニウム薄膜等)、塗布されて硬化した紫外線硬化樹脂(エポキシ樹脂等)、シリコン樹脂、ゴムが挙げられる。また、本体部11の外周に吹き付けられた細かい粒子(砂等)よりなる層であってもよい。また、液状の樹脂に本体部11を浸して形成した被膜を保護部14とすることもできる。また、液状の樹脂を本体部11にスプレー状に吹き付けたり、刷毛やローラ等で塗布したりすることで形成した被膜を保護部14とすることもできる。
【0022】
次に、ラスト1の製造方法について説明する。ラスト1は、3Dプリントにより可塑性材料(パルプ集合体と成形材との混合物)を内外方向に積層することにより形成される。この形成は、例えば図2に部分断面を示したように、中空状になされる。また、ラスト1が中心部12と周辺部13とを備える場合には、中心部12の外周に周辺部13となる部分が積層される(図3A参照)。3Dプリントの手法を用いることで、成形型を用いずに容易にラスト1を形成することができる。3Dプリントは、図2に示すようなノズルNを備える3Dプリンタを用いて実施される。ノズルNからは可塑状態の前記混合物が吐出され、図示のように下方から上方に向け、順次積み上げるように成形していく。図2には成形中ラスト1bが示されている。
【0023】
3Dプリントによりラスト1を形成する場合、成形中ラスト1bの形成速度に関して、ラスト1の全体を均一な速度で形成することもできるし、例えば、成形時間を短縮するため、成形後アッパー2Bにおいてユーザの着用感に大きく影響する、ラスト1における足甲部を遅い速度で精密に成形し、それ以外の部分を速い速度で粗く成形することもできる。また、成形時にシューズアッパー2が触れる外層を遅い速度で精密に成形し、内層を速い速度で粗く成形することもできる。また、外層の密度を大きく、内層の密度を小さく成形することもできる。
【0024】
ラスト1を形成する前段階として、ユーザの足型データを取得するデータ取得工程と、取得したユーザの足型データから3Dプリント用データを生成するデータ生成工程とが実施される。そして、生成された3Dプリント用データに基づき前記パルプ集合体を積層するラスト形成工程が実施される。これらの工程を経ることにより、ユーザの足Fに合わせた、オーダーメイドのラスト1を形成できる。
【0025】
前記3Dプリント用データは、複数のユーザの各々に対して個別に生成された前記ユーザの足型データに基づき作成される。このように3Dプリント用データを作成することで、シューズアッパー2のユーザごとのきめ細かなカスタマイズが可能となる。
【0026】
前記ユーザの足型データは、例えば、図1Aに示すようにユーザの足Fを撮影して得られた画像データから生成された、ユーザの足Fの各部の採寸データである。このため、例えばデジタルカメラやスマートフォンP(図1A参照)を用いて、容易に足型データを生成できる。例えばスマートフォンPの場合、あらかじめインストールされているソフトウェアにより、画像データを基に足型データを生成できる。また、撮影された画像データと、シューズメーカーが有するサーバ内のデータの両方を用いて演算することにより足型データを作成することもできる。
【0027】
なお、前記画像データは、例えばユーザの自宅やユーザが訪問した店舗(販売店舗)で撮影できる。この場合、画像データをシューズメーカーのサーバに送信し、シューズメーカーの工場で足型データを生成し、引き続いてこの工場でラスト1及びシューズを製造することができる。また、前記画像データを店舗で撮影し、この店舗でそのままラスト1及びシューズを製造することもできる。もちろん、ラスト1とシューズを別個の場所で製造することもできる。また、店舗は固定的な店舗に限られず、自動車やトレーラを用いた移動店舗であってもよい。
【0028】
ラスト1がシューズアッパー2の成形に用いられて不要になった後、溶解工程が実施される。溶解工程では、使用後のラスト1を溶解して流動化させて溶解体1Fとする(図1C参照)。図1Cは溶解体1Fを容器に入れた状態を示している。溶解体1Fを保持する容器の形状は特に限定されない。溶解体1Fは、3DプリンタのノズルNを通って外部に吐出できる程度の流動性を有するように調整される。ラスト1が水溶性の成形材を含む場合には、使用後(シューズアッパー2の成形後)のラスト1に水を加えて流動化させる。この場合の溶解体1Fは、分散媒としての水に分散質としてのパルプ材が分散した状態のものである。また、溶解体1Fを構成する水には、成形材(でんぷんのり等)が溶けている。必要により、溶解体1Fには成形材が追加して溶かされる。また、ノズルNから吐出された後の硬化を速める効果促進剤を、溶解体1Fに添加することもできる。また、容器内でパルプ材が沈殿させないため、溶解体1Fに薬剤を添加したり、容器内で溶解体1Fを撹拌したりすることもできる。このように溶解工程を実施することで、固形分集合体(パルプ集合体)を可塑状態に戻すことができ、これを用いて3Dプリントを行うことができる。よって、使用後のラスト1を、他のユーザ用のラスト1としてリサイクルできる。
【0029】
溶解工程を短時間で行うため、使用後のラスト1に湯を加えることもできる。また、ラスト1の成形時に、ラスト1にあらかじめパーティクルライン(分割線)を形成しておくこともできる。また、水や湯を加える前または後に、切断装置(シュレッダー等)やラスト1の組織をほぐす装置等の機械的手段を用い、水や湯による溶解を促進させることもできる。
【0030】
次に、前記ラスト1を用いたシューズアッパー2の製造方法について簡単に説明する。例えば、熱収縮糸を含む繊維シートからなるシューズアッパー2の材料(成形前アッパー2A)を用意する。そして、この成形前アッパー2Aを、前記ラスト1にかぶせる第1成形工程と、図4に示すように、加熱により成形前アッパー2Aをラスト1の形状に沿わせて成形後アッパー2Bとする第2成形工程を実施する。第2成形工程において用いられる加熱手段はスチーム加熱である。図4に略示したように、例えば成形前アッパー2Aが加熱箱31の内部に収納され、加熱箱31の内面から放出される高温の蒸気32により加熱がなされる。このスチーム加熱により、成形前アッパー2Aの全体を均一に加熱することができる。このため、成形前アッパー2Aをラスト1に合わせて均一に変形させ、成形後アッパー2Bとすることができる。なお第2成形工程では、スチーム加熱のほか熱風加熱、温水加熱等を用いることもできる。また、成形前アッパー2Aに対する加熱を全体ではなく部分的に行うこともできる。
【0031】
第2成形工程の後、ソール取付工程が実施される。このソール取付工程では、成形後アッパー2Bが別に作製されたソールに、例えば接着により取り付けられる。なお、接着以外に、熱融着等によって第2成形工程と同時にソール取付工程を実施することもできる。この場合、ラスト1の中心部12を伝熱性の高い材料(例えば、アルミニウム、銅、ステンレス等の金属)で形成しておけば、熱溶着を効率的に行うことができる。なお、シュータンの形成、履き口の加工、シューレース(靴紐)を通すためのハトメの取り付け、装飾部材やタグの取り付け、ロゴのプリント、インソール(中敷)の取り付けを前記各工程中、または全工程終了後に適宜行うことができる。
【0032】
ここで、本発明の実施形態に係る構成と奏する作用につきまとめる。本実施形態は、シューズアッパー2を成形するためのラスト1であって、前記ラスト1は、少なくとも外周部分につき、前記シューズアッパー2の成形時において一定形態を有する固形状態と、形態が変わりうる流動性を有する可塑状態と、で可逆的に変化する可塑性材料よりなる、ラスト1である。
【0033】
この構成によれば、シューズアッパー2の成形後は、固形状態から可塑状態に変化させて、その後、再度固形状態に変化させることができることから、リサイクルが可能である。
【0034】
また、前記可塑性材料は、パルプ材が複数集合したパルプ集合体と、前記パルプ集合体を前記一定形態とするように固める成形材とを含み、前記成形材は、固まった状態から溶解することで前記可塑性材料に流動性が生じるものであってよい。
【0035】
この構成によれば、一般的な紙材料であるパルプ材を用いることができるので、材料の入手が容易である。
【0036】
また、前記成形材は水溶性であるものとできる。
【0037】
この構成によれば、水で成形材を溶解できるので、溶解のための特殊な薬剤や装置が不要である。
【0038】
また、前記ラスト1は、前記パルプ集合体がシューズ着用者の足を基準とした内外方向に積層されて形成されているものとできる。
【0039】
この構成によれば、積層により、成形型を用いずにラスト1を形成することができるため、例えば3Dプリンタによる成形が可能である。
【0040】
また、前記ラスト1は内部が中空であるものとできる。
【0041】
この構成によれば、中心に材料を配置させなくてもよいので、材料を節約できる。
【0042】
また、前記ラスト1は、芯材としてあらかじめ形成され、常時前記固形状態とされた中心部12と、中心部12の前記外周部分に形成された前記可塑性材料よりなる周辺部13と、を備えるものとできる。
【0043】
この構成によれば、ラスト1の形成に要する時間を短縮できる。また、全体が均一に形成された構成に比べ、可塑性材料の使用量を減らすことができる。
【0044】
また、前記中心部12は、前記周辺部13に比べて伝熱性の高い材料で形成されていてもよい。
【0045】
この構成によれば、加熱によるシューズアッパー2の成形時に、中心部12の側からもシューズアッパー2を加熱できるので、効率よくシューズアッパー2を成形することができる。
【0046】
また、前記ラスト1は、前記可塑性材料を含む本体部11と、前記本体部11の外周を覆う保護部14とを備えるものとできる。
【0047】
この構成によれば、保護部14により本体部11を保護することができる。
【0048】
また、前記保護部14は、前記本体部11から剥離できるものであってよい。
【0049】
この構成によれば、保護部14をラスト1から剥離することで、本体部11のリサイクルが容易となる。
【0050】
また、本実施形態は、シューズアッパー2を成形するためのラスト1の製造方法であって、
前記ラスト1は、3Dプリントによりパルプ材が複数集合したパルプ集合体をシューズ着用者の足を基準とした内外方向に積層することにより形成される、ラスト1の製造方法である。
【0051】
このように構成された製造方法によれば、成形型を用いずに容易にラスト1を形成することができる。
【0052】
また、前記ラスト1は、3Dプリントにより中空状に形成されるものとできる。
【0053】
このように構成された製造方法によれば、ラスト1の形成時間を短縮できる。また、材料を節約できる。
【0054】
また、前記ラスト1は、芯材としてあらかじめ形成された中心部12と、中心部12の外周部分に形成された周辺部13と、を備えており、前記3Dプリントにより形成される部分は前記周辺部13であるものとできる。
【0055】
このように構成された製造方法によれば、ラスト1の形成に要する時間を短縮できる。また、全体が均一に形成された構成に比べ、可塑性材料の使用量を減らすことができる。
【0056】
また、ユーザの足型データを取得するデータ取得工程と、前記ユーザの足型データから3Dプリント用データを生成するデータ生成工程と、前記3Dプリント用データに基づき前記パルプ集合体を積層するラスト形成工程と、を備えるものとできる。
【0057】
このように構成された製造方法によれば、ユーザの足に合わせたラスト1を形成できる。
【0058】
また、前記3Dプリント用データは、複数のユーザの各々に対して個別に生成された前記ユーザの足型データに基づき作成されるものとできる。
【0059】
このように構成された製造方法によれば、シューズアッパー2のユーザごとのカスタマイズが可能となる。
【0060】
また、前記ユーザの足型データは、ユーザの足を撮影した画像データから生成されるものとできる。
【0061】
このように構成された製造方法によれば、例えばデジタルカメラやスマートフォンを用いて、容易に足型データを生成できる。
【0062】
また、前記ラスト1は、前記パルプ集合体を一定形態とするように固める、水溶性の成形材を含み、使用後の前記ラスト1に水を加えて流動化させる溶解工程をさらに含むものとできる。
【0063】
このように構成された製造方法によれば、使用後のラスト1を、他のユーザ用のラスト1としてリサイクルできる。
【0064】
また、前記実施形態は、シューズアッパー2の製造方法であって、熱収縮糸を含む繊維シートからなる成形前アッパー2Aを、前記ラスト1にかぶせる第1成形工程と、加熱により前記成形前アッパー2Aを前記ラスト1の形状に沿わせて成形後アッパー2Bとする第2成形工程と、を備える、シューズアッパー2の製造方法である。
【0065】
このように構成された製造方法によれば、リサイクル可能なラスト1によりシューズアッパー2の製造が可能となる。
【0066】
以上、本発明につき実施形態を取り上げて説明してきたが、この説明はあくまでも例示に過ぎない。本発明に係るラスト1、ラスト1の製造方法、シューズアッパー2の製造方法は、前記実施形態に限定されない。このため、本発明に係るラスト1、ラスト1の製造方法、シューズアッパー2の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。前記変更には、例えば、前記実施形態を構成する複数の要素の一部入れ替えや一部省略、また、別々の例に属する要素を適宜組み合わせることが含まれる。また、ラスト1、ラスト1の製造方法、シューズアッパー2の製造方法に関して技術常識に属する事項を組み合わせることも含まれる。
【0067】
例えば、可塑性材料は樹脂であってもよい。樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、加熱により可塑状態とでき、冷却することで固形状態とできる。
【0068】
また、前記実施形態では固形分としてパルプ材が用いられていたが、これに限られない。例えば、木片(木屑等)、竹片、天然繊維片(糸屑や植物繊維の切断片等)、樹脂片(耐熱性を有する樹脂片が望ましい)、金属片、紙片(パルプ材よりも大きくて紙の状態を保ったもの)、布片、植物片(枯草の切断片等)、砂、土、泥を用いることもできる。
【0069】
また、成形材についても、熱や水以外の溶剤により溶解される材料であってもよい。
【0070】
また、前記実施形態では、3Dプリントでラスト1自体を積層する方法に関して説明したが、例えば図5Bに示す成形型4を足型データに基づいて作成し、可塑性材料を成形型4の中に流し込むことによりラスト1を形成してもよい。なお、成形型4を3Dプリントで形成することもできる。
【0071】
この場合、成形型4は図5Bに示すように、凹部41をラスト1の幅方向一方側(例えば右側)に対応して形成した第1成形型4aと、凹部41をラスト1の幅方向他方側(例えば左側)に対応して形成した第2成形型4bとを組み合わせることができる。
【0072】
まず、図5Aに示すように、形成するラスト1の形状に合わせるため、例えば切削工具Cを用いて、第1成形型4a、第2成形型4bの各々に凹部41を形成する。なお、切削前の成形型4には、あらかじめ小さな凹部を形成しておいてもよい。この場合、あらかじめ形成しておく凹部の大きさは、ラスト1の標準的な形状に相当するサイズであってもよい。そうすることで、切削工具C等を用いた追加加工を最低限にできる。出来上がった成形型4は図5Bに示す形態である。この成形型4の凹部41に可塑性材料を流し込むことで、図5Cに示すようにラスト1を形成する。
【0073】
成形型4への可塑性材料の流し込みに関しては、第1成形型4a、第2成形型4bの各々に可塑性材料を流し込んで成形されたラスト構成体(左右で一対)を後に接合するパターンとすることもできるし、第1成形型4a及び第2成形型4bを接合した後に可塑性材料を流し込んでラスト1を成形するパターンとすることもできる。
【0074】
この成形型4に関しても、ラスト1と同じく可塑性材料からなるものとすることで、使用後の成形型4を溶解して、別形状のラスト1を形成するための成形型4に再利用することができる。
【0075】
また、ラスト1を、図6図9に示すようなビーズ5,6のような、可塑性材料からなりラスト1と比較して小さい固まりを複数組み合わせた形態とすることもできる。図6に示すラスト1は、複数の、球状のビーズ5で構成されている。各ビーズ5は例えばポリビニルアルコール製である。型にはめること等によってラスト1の形に並べられた複数のビーズ5に水を掛けることにより、隣り合って当接したビーズ5同士を接着できる。この接着によりラスト1を形成できる。使用後のラスト1は、水を加えたり、加熱したりすることにより溶解することができる。
【0076】
また、図7及び図8に示すラスト1は、複数の、円柱状のビーズ6で構成されている。型にはめること等によりってラスト1の形に並べられた複数のビーズ6を加熱することにより、隣り合って当接したビーズ6同士を接着することができる。この接着によりラスト1を形成できる。使用後のラスト1は、加熱により溶解することができる。円柱状のビーズ6は、図7に示すように、軸方向が上下方向を向くように並べることもできるし、図8に示すように、軸方向が水平方向を向くように並べることもできる。更には、図9に示すように、ラスト1の後部につき、前記実施形態のように3Dプリントにより可塑性材料が積層されて構成された一体部分7とされ、前部につき、複数のビーズ6が集合した部分とされていてもよい。また、図示しないが、後部のみを複数のビーズ6が集合した部分としてもよい。
【0077】
また、ラスト1は、全体でユーザの足Fの形状と同一の形状に形成されてもよいが、デザインや機能上の理由により、特定の部位については、所望の寸法分、ユーザの足Fの形状に対して異なる形状としてもよい。
【0078】
また、シューズアッパー2の製造方法は、前記実施形態のように、熱収縮糸を含む繊維シートの加熱収縮による方法に限定されるものではなく、例えば、ラスト1の周囲にて生地を編み込むことや、3Dプリンタを用いて材料を積層するなど、種々の方法を採用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 ラスト
11 本体部
12 中心部
13 周辺部
14 保護部
1a 内部空間
1b 成形中ラスト
1F 溶解体
2 シューズアッパー
2A 成形前アッパー
2B 成形後アッパー
31 加熱箱
32 蒸気
F ユーザの足
P スマートフォン
N ノズル
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9