(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】シアン系電解銀合金めっき液
(51)【国際特許分類】
C25D 3/64 20060101AFI20230922BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C25D3/64
C25D7/00 H
(21)【出願番号】P 2020139007
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2022-12-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228165
【氏名又は名称】EEJA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】井関 柾登
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-249514(JP,A)
【文献】特開2011-231369(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0023166(US,A1)
【文献】特表2014-523653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/64
C25D 3/46
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化銀錯体を銀換算で10~100g/Lと、
電気伝導塩を5~300g/Lと、
ゲルマニウム化合物をゲルマニウム換算で0.1~10g/Lと、
ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、又はそれらを構造中に含むコポリマーから選ばれる少なくとも1種から成る配位性高分子添加剤を1~100g/Lと、
を含有することを特徴とするシアン系電解銀-ゲルマニウム合金めっき液。
【請求項2】
前記電気伝導塩が、シアン塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、硫酸塩、ホウ酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載のシアン系電解銀-ゲルマニウム合金めっき液。
【請求項3】
前記ゲルマニウム化合物が、二酸化ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム、テトラアルコキシゲルマニウム、硫化ゲルマニウム、ゲルマン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載のシアン系電解銀-ゲルマニウム合金めっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシアン系電解銀合金めっき液に関する。具体的には、高硬度のめっき皮膜を得られる銀源としてシアン化物を用いた電解銀ゲルマニウム合金めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
銀はその白い光沢から古来より宝飾品に多用されてきた。銀は貴金属の中では比較的産出量が多く安価であるため、現代においてもシルバーアクセサリや食器など装飾用途に銀めっきが施されている。また、銀は室温における電気伝導率が全金属中で最大であるため、銀めっきはICやトランジスタなど電子デバイス向けのリードフレームや基板などにも多く用いられている。さらに、銀は可視光線の反射率が全金属中で最大であるために、LEDに代表される発光装置用のリードフレームや各種基板上には多くの場合、銀めっきが施される。その他、軸受部品や銀の抗菌性を利用した用途にも銀めっきが用いられている。
【0003】
近年では電気・電子部品においてより低い電気抵抗が求められるようになり、銀めっきの工業的需要は増している。しかしながら、銀は比較的軟質な金属であり、より硬質な皮膜を析出させるために様々な取り組みがなされてきた。例えば、銀めっきにアンチモンを共析させた銀アンチモン合金めっきが広く行われている。しかし、アンチモンは人体に対する毒性が高いことから年々規制が厳しくなる傾向にあり、代替技術の開発が求められている。
【0004】
特許文献1には、硬化剤及び酸化グラフェンを含む銀めっき液が開示されている。銀めっきの硬化剤としては、アンチモン以外にもセレン、銅、錫、ニッケル、コバルト、テルル、ビスマスが挙げられている。しかし、アンチモン以外を用いた場合の硬度については記載されていない。
特許文献2には、セレン化合物およびイオウ化合物の少なくとも一方を必須成分とし、これと共に、Ti、Zr、V、Mo、W、Co、Pd、Au、Cu、Zn、Ga、Ge、In、Sn、Tl、Sb、Bi、As、Te、Br、Iの水溶性化合物を併用する光半導体装置用電解銀めっき液が開示されている。しかし、これらの元素がめっき皮膜の硬度に及ぼす影響についてはなんら検討されていない。
特許文献3には、パラジウムめっき液にゲルマニウムを添加することで、パラジウムめっき皮膜の耐熱性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-199839号公報
【文献】特許第6230778号
【文献】特許第4598782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銀めっき硬化剤のアンチモン代替元素としてゲルマニウムが研究されている。銀にゲルマニウムを共析させることで高い硬度が期待できる。銀ゲルマニウム合金めっき液の研究は古くから行われていたが、工業的に成功した例は無かった。なぜなら、従来の技術では、銀めっきにゲルマニウムを共析させることは容易ではなく、安定的に光沢外観が得られる電解めっきの技術が存在しないためである。そのため、ゲルマニウムを十分に共析させ、かつ、光沢外観が得られるような銀ゲルマニウム合金めっきの技術が求められている。
【0007】
そこで、本発明の目的は銀アンチモン合金めっきと同等以上の性能を有する皮膜を形成できる銀ゲルマニウム合金めっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究の結果、電解銀めっき液にゲルマニウム化合物と配位性高分子添加剤とを添加することにより、銀めっきにゲルマニウムを数%程度共析させ、光沢外観で高硬度の銀皮膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。上記課題を解決する本発明は、以下に記載するものである。
【0009】
[1] シアン化銀錯体を銀換算で10~100g/Lと、
電気伝導塩を5~300g/Lと、
ゲルマニウム化合物をゲルマニウム換算で0.1~10g/Lと、
配位性高分子添加剤を1~100g/Lと、
を含有することを特徴とするシアン系電解銀合金めっき液。
【0010】
[2] 前記電気伝導塩が、シアン塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、硫酸塩、ホウ酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する[1]に記載のシアン系電解銀合金めっき液。
【0011】
[3] 前記ゲルマニウム化合物が、二酸化ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム、テトラアルコキシゲルマニウム、硫化ゲルマニウム、ゲルマン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する[1]に記載のシアン系電解銀合金めっき液。
【0012】
[4] 前記配位性高分子添加剤が、ポリアクリル酸、又はポリエチレンイミンである[1]に記載のシアン系電解銀合金めっき液。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシアン系電解銀合金めっき液は、アンチモンを含有せず、光沢外観かつ高硬度の銀ゲルマニウム合金皮膜が得られる。これにより、年々高まる環境規制に対応しつつ、電気自動車の普及などで需要の高まる電気接点材料を提供できる。また、銀めっきの膜厚を薄くできるため経済的でもある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電解銀めっき液は、銀塩としてシアン化銀錯体と、電気伝導塩と、ゲルマニウム化合物と、配位性高分子添加剤を含有する。以下、本発明の電解銀めっき液を構成する各成分について説明する。
【0015】
[シアン化銀錯体]
本発明のシアン系電解銀合金めっき液には、銀源として公知のシアン化銀錯体を制限なく使用することができる。シアン化銀錯体としては、シアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化銀ナトリウムが例示される。
【0016】
シアン化銀錯体の配合量は、銀イオン濃度として、10~100g/Lであり、20~70g/Lが好ましい。銀イオン濃度が10g/L未満である場合、析出効率が低下するうえ、所望の銀膜厚を得られなくなることがある。一方、銀イオン濃度が100g/Lを超える場合、被めっき物によるめっき液の持ち出しによる銀塩のロスが多くなり経済的ではない。
【0017】
[電気伝導塩]
本発明のシアン系電解銀合金めっき液に配合する電気伝導塩は、水溶液で電気伝導性を有するものであれば特に種類は問わないが、工業的に安定して使用することや経済的にめっき液を製造するために、シアン塩、リン酸塩、硝酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、硫酸塩、ホウ酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。その他、可溶性有機酸塩なども好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。シアン塩としては、シアン化カリウムやシアン化ナトリウムが例示される。リン酸塩としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウムが例示される。ピロリン酸塩としては、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸アンモニウムが例示される。硝酸塩としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムが例示される。クエン酸塩としては、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸アンモニウムが例示される。酒石酸としては、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムが例示される。硫酸塩としては硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムが例示される。ホウ酸及びその塩としてはホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが例示される。
【0018】
本発明のシアン系電解銀合金めっき液の電気伝導塩の濃度は、5~300g/Lが好ましい。電気伝導塩の濃度が5g/L未満である場合、めっき液の電気抵抗が高くなりすぎ、適切な陰極電流密度によるめっきができない。
【0019】
[ゲルマニウム化合物]
本発明のシアン系電解銀合金めっき液のゲルマニウム化合物は、ゲルマニウムを含有する化合物であって、特に二酸化ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム、テトラアルコキシゲルマニウム、硫化ゲルマニウム、ゲルマン酸及びその塩が好ましい。ゲルマン酸塩としてはゲルマン酸ナトリウム、ゲルマン酸カリウムが例示される。
【0020】
本発明のシアン系電解銀合金めっき液のゲルマニウム化合物の濃度は、ゲルマニウム濃度として0.1~10g/Lである。ゲルマニウム化合物の配合量が上記濃度から外れると、光沢のある銀皮膜を得られない、あるいは適切な陰極電流密度によるめっきができない場合がある。
【0021】
[配位性高分子添加剤]
本発明のシアン系電解銀合金めっき液の配位性高分子添加剤は、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、又はそれらを構造中に含むコポリマーから選ばれる少なくとも1種を含有するものであって、その分子量は問わないものとする。
【0022】
本発明のシアン系電解銀合金めっき液の配位性高分子添加剤の濃度は、1~100g/Lであり、2~80g/Lが好ましい。配位性高分子添加剤の濃度が1g/L未満である場合、ゲルマニウムが十分に共析できない恐れがある。配位性高分子添加剤の濃度が100g/Lを超える場合、めっき液の粘度が上昇しすぎることにより、適切な陰極電流密度によるめっきができなかったり、めっき液の持ち出し量が増加したりする恐れがある。
【0023】
[その他の成分]
本発明のシアン系電解銀合金めっき液においては、上記成分の他に、粘度を低下させ、銀皮膜のムラ発生を抑制するために、本発明の目的を損なわない範囲で界面活性剤などの成分を含有させることができる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル縮合物などの非イオン性界面活性剤が例示される。
【0024】
本発明のシアン系電解銀合金めっき液においては、セレン化合物および硫黄化合物(硫化ゲルマニウム、及び上記の界面活性剤を除く)の何れも含まなくても良い。即ち、シアン化セレンカリウム、シアン化セレン、亜セレン酸、酸化セレン酸、酸化セレンなどのセレン化合物;二硫化炭素、チオ尿素、チオ乳酸、チオウラシル、チオバルビツル酸、システイン、シスチン、チオ酢酸、メルカプトベンゾチアゾールなどのイオウ化合物の反応物の何れも含まなくても良い。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
被めっき物としては0.1dm2の銅板を用いた。まず、これに、アルカリ系の脱脂液で脱脂処理を施したあと、希硫酸で中和し、その後シアン浴により無光沢の銅めっきを約1.7μm施した。その後、シアン系ストライク浴により銀めっきを約0.1μm施した。
【0027】
表1,2に記載する組成で、実施例1~12、比較例1~5のめっき液を調製した。調製されためっき液1L中に被めっき物を浸漬し、表1,2に記載する条件下で、銀膜厚が20μmになるまで電解銀めっき操作を行い、清浄な純水で洗浄した後、乾燥した。
【0028】
以上のようにして得られた実施例1~12、比較例1~5の銀皮膜について硬度を計測した。ここでいう外観とは、目視によりめっきムラのない光沢外観を○、それ以外の外観を×として評価したものである。ここでいう硬度とは、ミツトヨ製微小硬さ試験機MVK-H300を用いて試験力10gで10秒保持した際に得られるマイクロビッカース硬さであり、5回測定して最小値および最大値を除いた3回分の結果を平均したものである。
【0029】
【0030】
【0031】
実施例1~12で得られた銀皮膜はいずれも硬度が180.0以上であった。色調は銀白色で、ムラがなく良好な外観であった。浴安定性も良好であった。
【0032】
比較例1~7で得られた銀皮膜はいずれも硬度が130.0以下であった。色調は基本的に茶色無光沢、部分的に半光沢外観で、ムラが多く不良外観であった。硬度は測定の都合上、半光沢部分で測定した。浴安定性は良好であった。