(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】画像表示素子及びそれを用いた画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2020151505
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】冨田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】峯邑 浩行
(72)【発明者】
【氏名】安齋 由美子
(72)【発明者】
【氏名】末永 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】多田 行伸
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066193(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012108(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0400941(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
G02B 6/00,6/02
G02B 6/245-6/25
G02B 6/46-6/54
H04N 5/64-5/655
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導光板を有する画像表示素子であって、
入射した光を回折する入射回折格子と、
前記入射回折格子で回折された光が前記導光板内を伝搬し、該伝搬した光が出射する出射回折格子を備え、
前記入射回折格子と前記出射回折格子は、前記導光板の面に形成された凹凸パターンにより形成され、
前記導光板と前記凹凸パターンを保護するカバーガラス、もしくは2つ以上の前記導光板を空気層を介して保持部材により接合したものであって、
前記導光板と前記カバーガラスはプラスチック材で形成され、
前記保持部材は、前記空気層内の空気が外気と連通する空気口を有
し、
前記導光板と前記保持部材はプラスチックの一体成型で形成されたことを特徴とする画像表示素子。
【請求項2】
導光板を有する画像表示素子であって、
入
射した光を回折する入射回折格子と、
前記入射回折格子で回折された光が前記導光板内を伝搬し、該伝搬した光が出射する出射回折格子を備え、
前記入射回折格子と前記出射回折格子は、前記導光板の面に形成された凹凸パターンにより形成され、
前記導光板と前記凹凸パターンを保護するカバーガラス、もしくは2つ以上の前記導光板を空気層を介して保持部材により接合したものであって、
前記導光板と前記カバーガラスはプラスチック材で形成され、
前記保持部材は、前記空気層内の空気が外気と連通する空気口を有し、
前記保持部材の空気口にフィルタを備えたことを特徴とする画像表示素子。
【請求項3】
請求項
2に記載の画像表示素子であって、
前記保持部材が接着剤で形成されたことを特徴とする画像表示素子。
【請求項4】
請求項
1に記載の画像表示素子であって、
前記保持部材の空気口にフィルタを備えたこと
を特徴とする画像表示素子。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の画像表示素子であって、
前記保持部材の空気口は、1つの接合部に対し1つの空気口を備えたことを特徴とする画像表示素子。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の画像表示素子であって、
該画像表示素子はフレームに保持されて画像表示装置に使用され、
前記保持部材の空気口は、前記フレームの内部に備えていること
を特徴する画像表示素子。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の画像表示素子と、前記画像表示素子に画像情報を含む光を照射する投射光学系を備える画像表示装置であって、
前記画像情報を含む光が前記入射回折格子に入射されることを特徴とする画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導光板を有する画像表示素子及びそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張現実を実現する画像表示装置では、ユーザは、投影されるイメージだけでなく周囲を見ることも同時に可能であり、投影されたイメージは、ユーザによって知覚される現実世界に重なって表示される。これらの画像表示装置の用途として、ビデオゲームや、眼鏡のようなウェアラブルデバイスなどが挙げられる。例えば、ヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)の場合は、ユーザは半透明な導光板と投射光学系が一体となった眼鏡もしくはゴーグル状のHMDを装着することで、現実世界に重ねて投射光学系から供給される画像を視認することが可能である。
【0003】
本技術分野における先行技術文献として特許文献1がある。特許文献1では、導光板はガラス製の基板に形成された複数の凹凸形状の回折格子から構成されている。投射光学系から出射した光線は、入射用の回折格子によって導光板へと結合され全反射しながら導光板内部を伝搬する。光線はさらに別の回折格子によって複製された複数の光線に変換されながら導光板内を全反射伝搬し、最終的に導光板から出射する。出射した光線の一部はユーザの瞳を介して網膜に結像され、現実世界の画像に重なった拡張現実画像として認識される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、導光板の基板材料に関し、ガラス材料を用いる技術を開示している。また、回折格子に関しては、導波路(=ガラスプレート)表面をエッチングによって加工して形成する技術を開示している。ここで、特許文献1が開示するように導光板にガラスを用いる場合、加工のコストとユーザの装着時の重量に課題がある。
【0006】
そこで、導光板にプラスチックを用いることで、この課題を解決することが考えられる。しかしながら、従来のガラス製の導光板に比較してプラスチック製の導光板は機械強度(ヤング率)が小さいため、環境温度や気圧による変形が大きくなるという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、導光板にプラスチックを用いつつ、環境変化に対する耐性を考慮した構成の画像表示素子及びそれを用いた画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一例を挙げるならば、導光板を有する画像表示素子であって、入射した光を回折する入射回折格子と、入射回折格子で回折された光が導光板内を伝搬し、伝搬した光が出射する出射回折格子を備え、入射回折格子と出射回折格子は、導光板の面に形成された凹凸パターンにより形成され、導光板と凹凸パターンを保護するカバーガラス、もしくは2つ以上の導光板を空気層を介して保持部材により接合したものであって、導光板とカバーガラスはプラスチック材で形成され、保持部材は、空気層内の空気が外気と連通する空気口を有する構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導光板にプラスチックを用いつつ、環境変化に対する耐性を考慮した構成の画像表示素子及びそれを用いた画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例における回折格子を用いた導光板を含んだ画像表示素子の構成模式図である。
【
図2】実施例における出射回折格子において、x方向に回折作用が必要とする説明図である。
【
図3】実施例における導光板2枚とカバーガラス1枚で構成された画像表示素子の構成模式図である。
【
図4】
図3で説明した画像表示素子の表示像の範囲のシミュレーション結果である。
【
図5】実施例における導光板2枚で構成された画像表示素子の構成模式図である。
【
図6】実施例における環境温度が変化したときの導光板の歪みによる光路の状態を示した説明図である。
【
図7】本実施例における空気口を備えた画像表示素子の構成模式図である。
【
図8】本実施例における接着剤を利用し空気口を形成した画像表示素子の構成模式図である。
【
図9】本実施例における導光板の周囲に段差を設け、一部に切り欠きを設けた構成として空気口を形成した画像表示素子の構成模式図である。
【
図10】本実施例における空気口をフィルタで保護した構成の画像表示素子の構成模式図である。
【
図11】本実施例におけるフレーム内に空気口が存在するように構成した画像表示素子を含んだ画像表示装置の部分構成模式図である。
【
図12】本実施例における画像表示素子を含んだ画像表示装置の構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
本実施例は、導光板の材料がプラスチック材料である画像表示素子及びそれを用いた画像表示装置において、環境の変化に対し影響を受けにくい導光板について説明する。なお、本実施例では「樹脂」と「プラスチック」の語は同義で用いる。プラスチックは高分子化合物からなる材料を意味し、ガラスを含まず、レジン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、光硬化樹脂を含む概念である。
【0013】
導光板を含む画像表示素子の一例を
図1にて説明する。
図1において、画像表示素子10は、導光板100と入射回折格子101と出射回折格子102とカバーガラス200と保持部材500で構成される。
【0014】
入射回折格子101は、直線状の表面凹凸型の回折素子である。入射回折格子101としては回折光効率が高いブレーズ型回折光(blazed grating)を例示しているが、種類を特に限定するものではない。また、
図1では入射回折格子101を投射光学系300側の導光板100の面を第1面、反対側を第2面とするならば第2面に形成された反射型の回折格子である。反射型回折格子とすることにより、屈折に対し偏向作用の大きな反射を利用することにより、高さ/ピッチであるアスペクト比の低減化を図ることが可能であるが、これに限定するものではなく第1面に回折格子を備え透過型としてもかまわない。また、図示してはいないが、入射回折格子101には、誘電体多層膜などのダイクロイック特性を持った多層膜などの光学薄膜を追加した構成が回折効率を向上させるうえで望ましい。なお入射回折格子101に形成する膜については、各導光板の仕様により最適化されるため、必ずしも誘電体多層膜で形成されているものとは限るものではなく、設計仕様によってはアルミ膜などの金属膜でも構わない。
【0015】
投射光学系300から出射された画像情報を持った光は、導光板100に入射し、反射型の入射回折格子101に入射される。入射回折格子は、Y方向に波数ベクトル成分を持った回折格子であり、入射回折格子101で回折された光は、導光板内部を全反射しながら伝搬する。この時、導光板内部を全反射させる為には、スネルの法則に従った全反射条件を満たす必要があり、より大きな範囲の角度成分を全反射させる為には、導光板100の屈折率と外界の屈折率の差が大きいほどよく、導光板の周囲は空気であることが望ましい。
【0016】
全反射にて導光板内を伝搬した光は、出射回折格子102へと導かれる。出射回折格子102の構成についての詳細は後述するが、X及びY方向に回折成分をもち、それぞれのパターン周期が入射回折格子101と同じとなる回折素子である。なお、出射回折格子102は、本実施例において入射回折格子101と同一平面上に記載しているが、それに限定するものではなく、入射回折格子101と別の面に配置してもよい。
【0017】
出射回折格子102で回折した光の一部は、導光板100より出射しカバーガラス200を透過し、ユーザの瞳400の方向に出射される。カバーガラス200は、本実施例ではカバーガラスと称しているが材料はプラスチック材である。
【0018】
出射された光は、ユーザの瞳400の位置により、必ずしもユーザの瞳400に入射するとは限らず、
図1の場合にはユーザの瞳400の位置が出射位置と異なる為、ユーザには視認されない。このユーザには視認されない光路を301とする。ここでユーザの瞳400を円形に近似すると、ピクセル位置に応じてユーザに視認される導光板内の出射位置も円形となる。以下、これを出射円303と呼ぶことにする。出射回折格子にて光路301の光路以外の回折光および回折しない成分は導光板内を再び全反射し、再度出射回折格子102に入射することで光路302の光としてカバーガラス200を透過し、ユーザの瞳400の方向に出射される。このように全反射と回折を繰り返すことにより、導光板100より出射される位置は徐々に平行移動し、出射円303内に位置した出射回折格子102の回折光が光路302となりユーザの瞳400に入射し、ユーザに視認されることとなる。
【0019】
光路301と光路302は光の角度は同一のものとなることから、ユーザの瞳400内に入射した時には、同じ画像情報として視認される。このように入射回折格子101にて導光板内に導かれた光は、全反射と出射回折格子102による回折を繰り返しながらY方向と、図示しないがX方向に伝搬し導光板100から出射することで同一の画像情報をもつ光路301を広範囲に生成することができることから、ユーザの瞳400の位置が変わった場合においてもユーザの瞳400の位置に対応した出射円303の位置が変わり光路302となり画像情報を視認できる。
【0020】
また、一般的に、入射回折格子101および出射回折格子102は、微細な凹凸構造であり、人の手の油や、水が入った場合や、何らかの応力などが加わった場合などには、回折機能を阻害する可能性が高く、これらの回折格子の保護の為にカバーガラス200を必要とする。
【0021】
画像表示素子10は、導光板100とカバーガラス200の間の空気層600にゴミの侵入を防ぐ観点から、導光板100とカバーガラス200の入射回折格子101および出射回折格子102と重ならない位置である周囲を、接着剤などの保持部材500で封止する構造を有する。
【0022】
なお、本実施例では、説明簡略化の為、導光板100とカバーガラス200各1枚の構成にて説明したが、これに限ることではなく、導光板の要求仕様により導光板の構成が変更された結果、複数枚の導光板を用いた構成が考えられる。また、カバーガラスにおいても同様に両面につけても問題はない。
【0023】
図2は、出射回折格子102がx方向に回折作用が必要であることを説明する図である。ここでは画像を形成するための光源である投射光学系300とユーザの瞳400が、導光板100に対して反対側に配置される場合を示している。入射回折格子101の波数ベクトルがy方向を向くとして、
図2中の矢印はx-z面内の光線を表す。ここでは入射回折格子101がx方向の波数ベクトル成分を持たないとする。
【0024】
ユーザに視認される映像光線のうち、視野の中央に対応する、表示像の中央の光線304は図に示すように、x-z面内を直進してユーザの瞳400に届けられる。導光板100の作用であるy方向への回折は明示的には表現されていないが、入射回折格子101と出射回折格子102で少なくとも各1回は回折されている。
【0025】
一方、ユーザに視認される映像光線のうち、視野周辺に対応する、表示像の周辺の光線305はx方向の回折がない場合には図中、右側の方向に進行する。一方で、ユーザがこの光線を投影像として認識するためには、図中、視認される光線306として示した経路を通って、同じ角度の光線がユーザの瞳400に届く必要がある。出射円303は、出射回折格子102上にあって、視認される光線の方向にユーザの瞳400を平行移動した仮想的な円である。出射回折格子102上の出射円303から出射した光線306のみがユーザに投影像として認識され、それ以外の光線は認識されない。このように、出射回折格子102にはx方向の回折作用が必要である。
【0026】
図3は、導光板を2枚構成とした画像表示素子の構成模式図である。ここでは画像表示素子10は2枚の導光板100a、100b、およびカバーガラス200から構成されており、それぞれの導光板100a、100bには入射回折格子101a、101b、出射回折格子102a、102bが形成される。
【0027】
入射回折格子101a、101bは、
図1での入射回折格子101と同様で直線状の表面凹凸型の回折格子であるが、
図1での入射回折格子101と同様にその種類は特に限定するものではない。
【0028】
出射回折格子102a、102bは、それぞれパターン周期が入射回折格子101a、101bと同じである。出射回折格子102a、102bの表面には、図示しないがそれぞれコーティング層が形成されてもよい。
【0029】
導光板100a、100bはそれぞれ異なるパターン周期P1、P2をもち、対応する波長範囲が異なっている。P1<P2とした場合、導光板100aはカラー画像の波長範囲のうち短波長側の表示に主に機能し、導光板100bは長波長側の表示に主に機能する。P1は例えば360nmであり、P2は例えば460nmである。導光板の数は任意であり、取り扱う光の波長に応じて一つあるいは3以上の複数でもよい。各導光板のパターン周期は、取り扱う波長に応じて変えることが望ましい。
【0030】
前述の理由により、入射回折格子101a、101bは導光板100a、100bの映像光の入射面と反対側の面に配置されている。本実施例において、出射回折格子102a、102bは入射回折格子101a、101bと同じ面に形成されているが、入射回折格子101a、101と出射回折格子102a、102bをそれぞれ反対側の面に形成することも可能である。
【0031】
出射回折格子102a、102b形状は、入射回折格子101a、101bと同様の直線ストライプ形状でもよいし、メッシュ形状でもよい。本実施例では、出射回折格子102a、102bは基本的に導光板100a、100bの一つの面にのみ形成されている。すなわち、
図3の例では、導光板100a、100bの出射回折格子102a、102と反対側の面は、パターンがなく基本的に平坦である。出射回折格子102a、102と反対側の面は、実質的に回折が起こらず光線は理想的には全反射する。導光板100a、100bの両面に一つの出射回折格子を分散して配置すると、導光板の熱膨張等で両方の回折格子の位置ずれが生じる可能性がある。
【0032】
このような構成によって、投射光学系300から出射した画像情報を含む光線はユーザの瞳400により視認が可能である。投射光学系300からの光は、画像表示素子10に対してユーザの瞳400と反対側から入射する。ただし、投射光学系300が物理的にユーザの瞳400と反対側に配置される必要はなく、任意の位置に配置した投射光学系300からの光線を、ミラー等で導光板100a、100bの任意の面から入射させるようにすればよい。
【0033】
図4は
図3で説明した導光板の導光板ごとの表示像の範囲のシミュレーション結果であり、画面イメージを示している。ここでは、
図3に示したように2枚の導光板100a(短波長用)、100b(長波長用)で構成された導光板の場合について示す。入出射回折格子のピッチは導光板100a(短波長用)が360nm、導光板100b(長波長用)が460nm、表示像の対角視野角は35度、アスペクト比は16:9である。
図4に示すように、各導光板の画像の表示範囲(図中の白い部分で示される)が異なることが判る。
【0034】
こうした構成では、表示像の色を一般的にR(赤)G(緑)B(青)とすると、導光板100aはB像(青色表示像)とG像(緑色表示像)の一部の表示に寄与し、導光板100bはG像(緑色表示像)の一部とR像(赤色表示像)の表示に寄与している。
図3における導光板100aに設けられた入射回折格子101aは、B波長(青色波長)を大きな回折効率で反射回折し、G波長(緑色波長)をそれよりも小さな回折効率で反射回折し、R波長(赤色波長)をほぼ透過することが望ましいことが判る。これは回折効率に強い波長依存性が求められることを意味する。
【0035】
一般に、このような短波長の光線を反射し、長波長の光線を透過する光学素子として、ダイクロイック・フィルムが知られており、透明基板上に形成された誘電体多層薄膜で実現できる。
【0036】
図5は、
図3で説明した導光板に対し、導光板100bの入射回折格子101bおよび出射回折格子102bの配置を、投射光学系300側に配置したときの画像表示素子の構成模式図である。導光板100bの入射回折格子101bおよび出射回折格子102bの配置を投射光学系300側に配置することで、入射回折格子101bおよび出射回折格子102bの凹凸パターンを画像表示素子10内に配置することで、外部からの直接的な干渉をさけ、凹凸パターンの保護用のカバーガラスを削除した構成である。
図1でも説明したとおり、入射回折格子101は、反射型回折格子とする方が望ましいが、本構成であっても
図3と同様に導光板として機能を果たすことは可能である。
【0037】
ここで人の目の解像度について説明する。人の目の解像度は一般的に視力として定義されており、視力1.0では1/60度の視角を視認することができる。このことから、導光板100より出射される光は、画像情報を保持する目安として、1/60度以下の誤差で出射する必要がある。導光板内では、全反射を繰り返し伝搬する為、導光板に求められる面の傾き量は、1/60度で出射するのであれば面の相対角度は1/120度以下にする必要があり、従来のガラス製に比較して機械強度(ヤング率)の小さいプラスチック製の導光板では環境の変化などで生じる温度変化による面の歪みが課題となる。
【0038】
続いて、導光板100にプラスチック材を用いた時の課題について詳細に説明する。従来のガラス製に比較して機械強度(ヤング率)の小さいプラスチック製の導光板は環境温度が変化することで歪みが生じやすい。また、導光板100とカバーガラス200との間の空気層600内の空気は、環境温度の変化により膨張収縮する為、従来のような封止構成をとった場合、空気層と外気との気圧差が生じ、導光板100をゆがめてしまうという課題がある。
【0039】
図6は、
図1に示した構成の画像表示素子において、導光板100とカバーガラス200との間の空気層600の空気膨張により、導光板100とカバーガラス200が歪んだときのユーザの瞳400に視認される光路を図示した説明図である。
図6に示すように、導光板の100の歪みにより、光路の角度が異なる光が混在するようになり視認される画像情報を劣化させる。よってどのような環境下においても使用可能とする導光板をプラスチック材にて構成するのは環境変化による膨張収縮に耐えうる必要がある。
【0040】
図7は、本実施例における、導光板にプラスチック材を用い環境温度の変化に耐えうる構成とした画像表示素子の構成模式図である。
図7において、
図1で説明した画像表示素子10の構成に対し、導光板100とカバーガラス200との保持部材500の一部に空気層600内の空気が外気と連通し空気の行き来が可能な空気口501を設ける。空気口501は、空気層600と外気とをつなぐことにより、環境温度の変化による空気層600と外気との気圧差を低減し温度変化による導光板100の歪みを抑制することが可能となる。また、空気口501については、ゴミや水分の侵入を最低限にする必要があることから空気口501は1つとすることが望ましい。このようにすることにより、空気の行き来は気圧差によるものだけに限定することができる。また、空気口501の形成位置については、人が触れやすい画像表示装置外に突出するよりも、装置のカバー内部に位置することが外界からの水やゴミの侵入から防ぐ上で効果的であり、入射回折格子101周辺の端部に形成することが望ましい。このように空気口501を構成することで環境温度に対し歪みを軽減することが可能なプラスチック製導光板を構成可能となる。
【0041】
次に
図8は
図7で説明した空気口を追加した画像表示素子の構成模式図である。なお、
図8において、(a)は分解図、(b)は(a)の接合後の図である。(a)、(b)に示すように、導光板100とカバーガラス200との間に保持部材500を有し、導光板100とカバーガラス200は保持部材500によって周囲を固定される。このとき保持部材500は接着剤をフィルム上にしたものであり、この接着剤の一部を空間的に空けることにより空気口501を形成する。これにより、外気と空気層との気圧差を低減できる。
【0042】
また、
図8の(c)および(d)は、
図3にて説明した導光板が2枚構成の画像表示素子の構成図であり、(c)は分解図、(d)は(c)の接合後の図である。(c)、(d)に示すように、(a)、(b)と同様に保持部材500の一部を空間的に空けることにより空気口501を形成し、1つの接合部に対し1つの空気口を備えることで、外気と空気層との気圧差を低減できる。
【0043】
さらに
図9は、導光板の形状を変更し空気口を形成する画像表示素子の構成模式図である。
図9において、(a)は分解図、(b)は(a)の接合後の図である。(a)に示すように、導光板100の周囲に段差を設け、(b)のように貼り合せた時に、導光板100に追加した周囲の段差高さ分だけ空気口が設けられる構成となっている。このように、導光板と保持部材をプラスチックの一体成型で形成し、段差部の一部に切り欠き状に段差を設けない部位を形成することにより、貼付け時に空気口501を形成することができ、この構成であっても外気と空気層との気圧差を低減できる。
【0044】
また、
図9の(c)および(d)は
図3にて説明した導光板が2枚構成の画像表示素子の構成図であり、(c)は分解図、(d)は(c)の接合後の図である。(c)、(d)に示すように、(a)、(b)と同様に導光板100の周囲に段差を設け、段差部の一部に切り欠き状に段差を設けない部位を形成し、1つの接合部に対し1つの空気口を備えることで、外気と空気層との気圧差を低減できる。
【0045】
図10は
図8や
図9で示した空気口501に極微小なゴミや水分が侵入しないようにフィルタ700を追加した画像表示素子の構成模式図である。フィルタ700を追加したことにより、外気との気圧差で生じたときに発生する空気の行き来による、ゴミの侵入を防ぐことができる。
【0046】
図11は、空気口の設置位置について説明するための画像表示素子を含んだ画像表示装置の部分構成模式図である。
図11において、(a)は画像表示装置の斜視図、(b)は画像表示装置の側面図である。
図11に示すように、画像表示素子10は、投射光学系300とともにフレーム800にて保持されて画像表示装置に使用される。空気口501は微細なゴミや水分が入りこまない状況が必要である為、フレーム800の内部にあること望ましい。
【0047】
図12は、本実施例における画像表示装置の構成摸式図である。
図12において、画像表示装置は、画像表示素子10、投射光学系300、および投射光学系300を制御する表示画像制御部350からなる。画像表示素子10は、導光板と回折素子を組み合わせて小型とし、軽量化のために、プラスチックを導光板100の材料として使用する。反射型の入射回折格子101は、導光板100内部に光を反射するので、導光板100への映像光線の入射面(第1面)とは反対側の面(第2面)に配置される。
【0048】
導光板100を複数用いる場合、入射回折格子101の構成例としては、多層誘電体膜が波長選択性に優れ有効である。また、出射回折格子102の構成例としては、格子状の回折格子とすることで低アスペクト比で高い回折効率を得られる。
【0049】
なお、画像表示素子10の構成は上記に限られず、入射回折格子と出射回折格子の構成も種々の形態が考えられる。その場合でも、入射回折格子と出射回折格子のそれぞれで必要とされる反射回折効率と透過回折効率に応じて、形成する膜の特性をコントロールすることで、回折効率を向上させ輝度を向上することができる。
【0050】
図12において、投射光学系300から出射した画像情報をもつ光は、導光板100の作用によりユーザの瞳400に届けられ、拡張現実を実現する。導光板100では、形成される回折格子のピッチと深さは、各色に応じて最適化されたものである。
【0051】
また、図示しないスマホやパソコン等の情報処理装置から画像情報が提供される。画像表示装置は、例えば、HMDでもよい。
【0052】
投射光学系300の画像形成の方法としては、例えば、反射型または透過型の空間光変調器と光源とレンズから構成された画像形成装置、有機および無機EL(Electro Luminescence)素子アレイとレンズによる画像形成装置、発光ダイオードアレイとレンズによる画像形成装置、光源と半導体MEMSミラーアレイとレンズを組み合わせた画像形成装置等、広く公知のプロジェクタを用いることができる。また、LEDやレーザ光源と光ファイバの先端をMEMS技術やPZT等により共振運動させたものを用いることもできる。
【0053】
これらの中で、最も一般的なものは、反射型または透過型の空間光変調器と光源とレンズから構成された画像形成装置である。ここで、空間光変調装置として、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)等の透過型あるいは反射型の液晶表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を挙げることができ、光源としては白色光源をRGB分離して用いることも、各色対応のLEDやレーザを用いることもできる。
【0054】
更には、反射型の空間光変調装置は、液晶表示装置、及び、光源からの光の一部を反射して液晶表示装置へと導き、且つ、液晶表示装置によって反射された光の一部を通過させてレンズを用いたコリメート光学系へと導く偏光ビームスプリッターから成る構成とすることができる。光源を構成する発光素子として、赤色発光素子、緑色発光素子、青色発光素子、白色発光素子を挙げることができる。画素の数は、画像表示装置に要求される仕様に基づき決定すればよく、画素の数の具体的な値として、上で示した1280x720のほかに、320×240、432×240、640×480、1024×768、1920×1080を例示することができる。
【0055】
本実施例の画像表示装置では、投射光学系300から出射した画像情報を含む光線が、導光板100の各入射回折格子に照射されるように、位置決めして、画像表示素子10と一体化されて形成される。
【0056】
以上説明した実施例では、表面凹凸型の回折格子を有する画像表示素子において、例えば出射回折格子としてメッシュ型の回折格子を用い、射出成型法等により導波路と同じ屈折率の材料で一体成型することにより、導光板のプラスチック化を実現し、加工の低コスト化と軽量化を図った導光板を実現することができる。
【0057】
なお、本実施例では、画像表示装置としてユーザに画像情報を提供する場合について示したが、画像表示装置は、このほかにユーザや外界の情報を取得するためのタッチセンサ、温度センサ、加速度センサ等の各種センサや、ユーザの目の動きを計測するためのアイ・トラッキング機構を備えてもよい。
【0058】
以上のように本実施例によれば、導光板と回折素子を組み合わせた画像表示素子において、導光板にプラスチックを用いつつ、環境の変化による導光板の間にある空気層内の気圧の変化を低減でき良好な画像情報をユーザの瞳に導光可能であり、加工の低コスト化と軽量化を実現できる。
【0059】
以上実施例について説明したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した各実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明が、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
10:画像表示素子、100、100a、100b:導光板、101、101a、101b:入射回折格子、102、102a、102b:出射回折格子、200:カバーガラス、300:投射光学系、301:視認されない光路、302:視認される光路、303:出射円、304、305、306:光線、350:表示画像制御部、400:ユーザの瞳、500:保持部材、501:空気口、600:空気層、700:フィルタ、800:フレーム