(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】歯科用治療装置
(51)【国際特許分類】
A61C 5/40 20170101AFI20230922BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20230922BHJP
A61B 18/12 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61C5/40
A61C19/04 A
A61B18/12
(21)【出願番号】P 2020195975
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 智朗
(72)【発明者】
【氏名】安達 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】的場 一成
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-193907(JP,A)
【文献】特表2012-507385(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143861(US,A1)
【文献】特開平7-51293(JP,A)
【文献】実開平2-98913(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/40
A61C 19/04
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
根管内に高周波電流を通電する歯科用治療装置であって、
前記根管内に配置される電極を保持する保持部と、
前記電極に高周波電流を通電する電源部と、
前記根管内の前記電極の先端の位置を電気的に測定する根管長測定部と、
前記根管長測定部で測定した前記電極の先端の位置の情報に応じて、前記電極に通電させる高周波電流の電流値の制御を
自動的に前記電源部に対して行う制御部と、を備える、歯科用治療装置。
【請求項2】
前記制御部は、
測定信号を前記電極に通電させて前記根管内の前記電極の先端の位置を電気的に測定する制御を前記根管長測定部に対して行う第1制御モードと、
前記電極に高周波電流を通電するように前記電源部に対して制御を行う第2制御モードと、を有する、請求項1に記載の歯科用治療装置。
【請求項3】
使用者の操作を受け付ける操作部をさらに備え、
前記制御部は、前記操作部で使用者の操作を受け付けた場合、前記電源部に対する制御を前記第1制御モードから前記第2制御モードに切り替える、請求項2に記載の歯科用治療装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電極に高周波電流を通電する複数の通電期間に含まれる隣接する二つの通電期間の間を分ける、前記高周波電流を前記電極に通電させることを休止する休止期間に、前記第2制御モードから前記第1制御モードに切り替える、請求項2または請求項3に記載の歯科用治療装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1制御モードで、前記根管内の前記電極の先端の位置を測定し、
前記第2制御モードで、測定した前記電極の先端の位置に基づき設定された所定の範囲内の電流値を、前記電極に通電させる制御を前記電源部に対して行う、請求項2~請求項4のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項6】
前記電源部から前記電極に通電される電流値を検出する検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記検出部で検出した電流値に基づいて、先端の位置に基づき設定された所定の範囲内の電流値を出力できる電圧を決定することで前記電極に通電させる高周波電流の電流値の制御を前記電源部に対して行う、請求項2~請求項
4のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項7】
前記制御部は、測定した前記根管内の前記電極の先端の位置の情報に応じて、前記電極への高周波電流の通電を開始させない制御、停止させる制御、通電する電流値を変更する制御のいずれかの制御を前記電源部に対して行う、請求項2~請求項6のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項8】
使用者に情報を報知する報知部をさらに備え、
前記制御部は、前記第1制御モードで制御しているのか、前記第2制御モードで制御しているのかを、前記報知部に報知させる、請求項2~請求項7のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項9】
前記制御部は、測定した前記根管内の前記電極の先端の位置の情報に応じて、前記電極への高周波電流の通電を停止させた場合、高周波電流の通電を停止した情報を前記報知部に報知させる、請求項8に記載の歯科用治療装置。
【請求項10】
前記制御部は、測定した前記根管内の前記電極の先端の位置が所定条件を満たした場合、当該所定条件を満たした旨の情報を前記報知部に報知させる、請求項8または請求項9に記載の歯科用治療装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記所定条件として測定した前記根管内の前記電極の先端の位置の情報が通電により所定の割合以上に変化する条件を満たした場合、前記電極の先端の位置が急激に変化した旨の情報を、前記報知部に報知させる、請求項10に記載の歯科用治療装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記検出部で前記所定の範囲の最大電流値より大きい電流値が検出された場合、前記電極への高周波電流の通電を開始させない制御、停止させる制御、通電する電流値を変更する制御のいずれかの制御を前記電源部に対して行う、請求項6に記載の歯科用治療装置。
【請求項13】
使用者に情報を報知する報知部をさらに備え、
前記制御部は、前記検出部で検出される電流値が前記所定の範囲外となった場合、通電している高周波電流の電流値が前記所定の範囲外である旨の情報を、前記報知部に報知させる、請求項12に記載の歯科用治療装置。
【請求項14】
前記制御部は、
前記検出部で前記所定の範囲の最大電流値より大きい電流値が検出され、前記電源部から前記電極への高周波電流の通電を停止させた場合には、高周波電流の通電を停止した情報を前記報知部に報知させ、
前記検出部で前記所定の範囲の最小電流値より小さい電流値が検出された場合には、高周波電流の通電を再度行うことを促す情報を前記報知部に報知させ
る、請求項13に記載の歯科用治療装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記検出部で前記所定の範囲の最小電流値より小さい電流値が検出された時間を計時し、計時した当該時間を前記報知部に報知させる、請求項13または請求項14に記載の歯科用治療装置。
【請求項16】
前記制御部は、測定した前記根管内の前記電極の先端の位置の情報に応じて、高周波電流を前記電極に通電させる時間の制御を前記電源部に対して行う、請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項17】
前記制御部は、測定した前記根管内の前記電極の先端の位置の情報に応じて決まる、電流値と高周波電流を通電させた時間との積の値となるように、前記電極に通電させる高周波電流の電流値、および高周波電流を前記電極に通電させる時間のうち少なくとも一方の制御を前記電源部に対して行う、請求項1~請求項15のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項18】
測定した前記根管内の前記電極の先端の位置の情報を表示する表示部をさらに備える、請求項1~請求項17のいずれか1項に記載の歯科用治療装置。
【請求項19】
歯科治療部位に高周波電流を通電する歯科用治療装置であって、
前記歯科治療部位に配置される電極を保持する保持部と、
定電流駆動で前記電極に高周波電流を通電する電源部と、
根管内の前記電極の先端の位置を電気的に測定する根管長測定部と、
前記根管長測定部で測定した前記電極の先端の位置の情報に応じて、前記電極に通電させる高周波電流の電流値の制御を
自動的に前記電源部に対して行う制御部と、を備える、歯科用治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療部位に高周波電流を通電する歯科用治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、歯髄を除去するため、あるいは根尖の炎症を抑えるために歯の根管治療が行われる場合がある。従来の根管治療では、リ-マ、ファイルを用いて根管を切削拡大し、根管内の汚染組織や汚染物質を取り除いたうえで、根管内に薬を充填する治療が行われていた。
【0003】
しかし、根管の形状は複雑で、歯の種類によっても人よっても形状が異なる。そのため、根管治療においては、リ-マ、ファイルを用いての根管拡大が困難な部分があり、根管拡大ができない部分には起炎因子が残ったままとなり、術後に炎症が生じる場合があった。
【0004】
そこで、特許文献1では、根管の内部に高周波電子パルスを印加する歯科用の医療機器が開示されている。当該医療機器では、針形の電極(たとえば、ファイル)を根管に挿し込み、針の先端が根尖に達したときに高周波電子パルスを印加して歯髄などを焼灼する。
【0005】
また、特許文献2では、歯の根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療を行う歯科用治療装置が開示されている。当該歯科用治療装置では、根尖の位置を測定する測定器と通信する歯科器具に、根管に挿入される電極が含まれている。さらに、当該歯科器具は、電気パルスを印加するユニットと通信することができる。そのため、当該歯科用治療装置は、根管に挿入された電極を介して根管に電気パルスを印加することができ、印加した電気パルスによって根管内の起炎因子、細菌などを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4041165号公報
【文献】国際公開第2008/114244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
根管治療の治療対象には、歯などの硬組織の部分と肉芽などの軟組織の部分とがあり、同じ電流値の高周波電流を通電しても、神経が存在する軟組織の部分では痛みを感じることがある。特に、根尖近傍は、軟組織の部分が多く、他の部分に比べて高周波電流を通電する場合に注意が必要であった。また、一般的に、電極が根尖に近づくほど慎重な操作が要求され、高周波電流を通電する場合においても、各々の電極位置に応じて最適電流値での通電あるいは通電する電流の変更が必要となる。
【0008】
しかし、特許文献2に係る歯科用治療装置では、電極が予め定められた位置に到達した場合、当該電極を介して根管に電気パルスを自動的に送信する構成が開示されているだけであるため、根管内での電極の位置によっては通電による痛みを感じる場合があった。また、通電による痛みを軽減するために麻酔を打つことも考えられるが、歯科治療において麻酔を行う場合、当該麻酔の効果が発揮されるまで10分~15分程度必要となり、治療効率が低下する。さらに、根管内の電極位置に応じて最適電流値での通電あるいは通電する電流の変更がないため、重要な根尖部の組織を破壊する可能性あった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、治療効率を低下させることなく、根管に挿入される電極に最適な電流値の高周波電流を通電することができる歯科用治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る歯科用治療装置は、根管内に高周波電流を通電する歯科用治療装置であって、根管内に配置される電極を保持する保持部と、電極に高周波電流を通電する電源部と、根管内の電極の先端の位置を電気的に測定する根管長測定部と、根管長測定部で測定した電極の先端の位置の情報に応じて、電極に通電させる高周波電流の電流値の制御を自動的に電源部に対して行う制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る歯科用治療装置では、根管長測定部で測定した電極の先端の位置の情報に応じて、電極に通電させる高周波電流の電流値を制御するので、根管に挿入される電極の位置に応じた最適な電流値の高周波電流を通電することができ、治療効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る歯科用治療装置の外観図を示す。
【
図2】実施の形態1に係る歯科用治療装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態2に係る歯科用治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。
【
図5】実施の形態2に係る歯科用治療装置の殺菌モードの制御を説明するためのフローチャートである。
【
図6】実施の形態2に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
【
図7】実施の形態2の変形例に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
【
図8】実施の形態3に係る歯科用治療装置の殺菌モードの制御を説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施の形態3に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
【
図10】実施の形態4に係る歯科用治療装置の殺菌モードの制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る歯科用治療装置の外観図を示す。
図2は、実施の形態1に係る歯科用治療装置の構成を示すブロック図である。
図3は、歯の根管を説明するための概略図である。歯の根管を切削拡大する根管治療は、人により根管が湾曲している程度や根管が石灰化して閉塞している状況などが異なっており、非常に難しい治療である。
図3に示す歯900は、大臼歯であり、1つの歯に複数の根管901が含まれている。このような複雑な形状の根管をすべて治療するのは困難である。特に、リ-マ、ファイルなどの切削工具を用いて根管を切削拡大することが困難な部分が存在し、当該部分で根管を切削拡大できずに根管内に歯髄、起炎因子が残ったままになると、術後に炎症が生じる場合があった。
【0014】
そこで、歯科用治療装置では、根管の内部に電極を差し込み、当該電極に高周波電流を通電する治療が行われている。この治療は、人体、特に歯、その中でも根管、歯周組織、骨に高周波電流を通電することで、通電されている部位、特に電極近傍、および電流密度が高い部分が高周波電流によるジュール熱で焼灼し、起炎因子、細菌などを低減させる。なお、この治療で完全に殺菌できなくてもよく、歯髄や肉芽を熱変性させて、壊死、失活させることができればよい。また、この治療は、EMAT(Electro-Magnetic Apical Treatment)とも呼ばれ、文献(例えば、坂東直樹、富永敏彦、湯本浩通、住友孝史、平尾早希、平尾功治、松尾敬志、「電磁波照射の歯内療法への応用-EMAT (Electro-Magnetic Apical Treatment)」、2011年、歯内療法誌、第32巻、p.184-200)などに開示がある。当該開示では、治療前、治療後に患部に高周波電流を通電することで、歯科治療部位の起炎因子、細菌などを低減ができて予後の経過が極めて良好であると報告されている。
【0015】
しかし、根管治療の治療対象には、歯などの硬組織の部分と肉芽などの軟組織の部分とがあり、同じ電流値の高周波電流を通電しても、神経が存在する軟組織の部分では痛みを感じることがある。特に、根尖近傍は、臨床上大きい熱損傷を与えたくない部分や、軟組織の部分が多く、他の部分に比べて高周波電流を通電する場合に注意が必要であった。
【0016】
また、通電による痛みを軽減するために麻酔を打つことも考えられるが、歯科治療において麻酔を行う場合、施術時間も含め当該麻酔の効果が発揮されるまで10分~15分程度必要となり、治療効率が低下する。
【0017】
さらに、電極が根尖に近づくほど慎重な操作が要求されるので、実施の形態1に係る歯科用治療装置10では、各々の電極位置に応じて最適電流値での通電、あるいは通電する電流を変更または停止することで重要な根尖の組織を破壊する可能性を低減している。具体的に、歯科用治療装置10は、
図1に示すように、切削工具であるファイル11(
図2参照)に高周波電流を通電するユニット12と、ファイル11を保持するためのファイルホルダ13と、を備えており、ファイルホルダ13の先端に取り付けられたファイル11に対して高周波電流を通電することができる。なお、本開示では、ファイルホルダ13の先端にファイル11を取り付け、当該ファイル11が根管内に配置される電極であると説明するが、ファイルホルダ13とファイル11とが一体となった構成でもよい。
【0018】
ファイルホルダ13は、略棒状の筐体によって形成され、ファイル11の金属部分を保持することができる。ファイルホルダ13は、ファイル11の金属部分を保持することでファイルとユニット12とを電気的に接続することができる。ユニット12には、表示部14、設定操作部15が設けられているとともに、フートスイッチ16および受動電極22が接続されている。
【0019】
ユニット12は、
図2に示すように、表示部14、設定操作部15の他に、高周波信号発生回路19、検出部20、制御回路21、根管長測定回路23、およびスイッチSW1~スイッチSW2が設けられている。そして、ユニット12は、ファイル11の先端の位置を根管長測定回路23で測定し、測定した位置の情報に応じた電流値の高周波電流をファイル11に通電する。具体的に、ユニット12は、
図3に示すように、ファイル11の先端の位置が根尖から2mm以上突き出せば(≦+2mm)、ファイル11に通電する電流値を0mA(つまり、電流を停止する)に予め設定してある。また、ユニット12は、
図3に示すように、ファイル11の先端の位置が根尖から2mmより小さい範囲の突き出しであれば(+2mm~0mm)、ファイル11に通電する電流値を40mA~60mAに予め設定してある。さらに、ユニット12は、
図3に示すように、ファイル11の先端の位置が根尖から歯冠側に2mmまでの範囲にあれば(0mm~-2mm)、ファイル11に通電する電流値を60mA~80mAに予め設定してある。また、ユニット12は、
図3に示すように、ファイル11の先端の位置が根尖から歯冠側の2mm~-4mmまでの範囲にあれば、ファイル11に通電する電流値を80mA~90mAに予め設定してある。ユニット12は、
図3に示すように、ファイル11の先端の位置が根尖から歯冠側に-4mm以上であれば、ファイル11に通電する電流値を90mA以上に予め設定してある。
【0020】
図3では、根尖からファイル11の先端の位置までの距離に応じて、ユニット12がファイル11に通電する電流値を予め設定する例を示した。これらの位置は実際には根管長測定器の出力で指示されるので、これに限られず、ユニット12は、根管長測定回路23で測定されるファイル11の先端の信号や、根管長測定回路23のメータ値に応じて、ファイル11に通電する電流値を予め設定することになる。さらに、ユニット12は、ファイル11に通電している電流値がファイル先端位置に応じて予め設定してある電流値となるように逐次調整するという機能を有してもよい。もちろん、ユニット12は、ファイル11に通電している電流値が予め設定してある電流値を外れた場合、ファイル11への通電を停止するという機能を有してもよい。
【0021】
以下に、ファイル11の先端の位置の情報に応じて最適電流値での通電あるいは通電する電流を変更するユニット12の構成および制御について詳しく説明する。
【0022】
設定操作部15は、歯科用治療装置10の動作を設定するために設けられた設定ボタンである。設定操作部15では、ファイル11の先端の位置に応じたファイル11に通電する高周波電流の電流値、周波数、通電期間、表示部14の表示設定などを設定可能である。もちろん、これらのパラメータはあらかじめ設定してあり、変更することも可能である。ここで、通電期間とは、1回の操作で高周波電流の通電を1ショットで行う場合、1回の通電する時間であり、1回の操作で高周波電流の通電を複数回に分割して行う場合、複数に分割して通電する時間の和である。
【0023】
フートスイッチ16は、高周波電流の通電を操作するために設けられた操作部であり、使用者が踏み込むことで制御回路21から高周波信号発生回路19に制御信号が送信される。高周波信号発生回路19は、受信した制御信号に基づき、設定操作部15で設定した高周波電流をファイル11に通電する。
【0024】
高周波信号発生回路19は、ファイル11と受動電極22との間に、例えば周波数が300kHz~1000kHzで、電流値が20mA~200mA(根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲)の高周波電流を通電する。もちろん、高周波信号発生回路19が発生することができる高周波電流は、上記の周波数および電流値に限定されない。この高周波信号発生回路19から出力される高周波電流の電流値、周波数、通電期間などは、設定操作部15を操作することによって設定、変更できる。設定操作部15で設定した高周波電流の電流値を高周波信号発生回路19が出力できるように、制御回路21が検出部20で検出した電流値に基づいて、高周波信号発生回路19を制御している。ただし、制御回路21が検出部20で検出した電流値に基づいて、高周波信号発生回路19を制御しないのであれば、歯科用治療装置10に検出部20を設けなくてもよい。なお、高周波電流を通電する際は、ファイル11が根管901内に挿入され、その先端が、例えば根尖903付近の組織に当てられ、受動電極22が歯肉902や口唇904等、患者の体の一部に当てられる。つまり、ファイルホルダ13は、根管901内に配置される電極であるファイル11を保持する保持部であり、高周波信号発生回路19は、当該電極に高周波電流を通電する電源部である。
【0025】
検出部20は、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電した場合に、実際にファイル11に流れた電流値を検出する電流検出器である。制御回路21は、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値の制御を高周波信号発生回路19に対して行う。例えば、制御回路21は、設定操作部15でファイル11の先端の位置の情報に応じて予め定めた最適な電流値をデータテーブルとして決めておき、当該データテーブルに従って高周波電流の電流値の制御信号を高周波信号発生回路19に送信する。なお、データテーブルに予め定めたファイル11の先端の位置の情報と最適な電流値との設定を、術者が変更することも可能である。制御回路21は、ハードウェア構成として、例えば、CPU(Central Processing Unit)、当該処理をCPUで実行させるためのプログラムやデータ等を記憶する記憶部、CPUのワークエリアとして機能するRAM(Random Access Memory)、主に画像処理を行うGPU(Graphics Processing Unit)、周辺機器との信号の整合性を保つための入出力インターフェイス等が設けられている。記憶部には、制御回路21の内部に設けられた不揮発性メモリ等の記憶装置、ネットワークを介して接続される記憶装置などが含まれる。
【0026】
根管長測定回路23は、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流してファイル11の先端の位置を測定する。根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置の情報は、根管長測定回路23から制御回路21へ送信される。具体的に、根管長測定回路23は、ファイル11と受動電極22との間に2つの異なる周波数の電圧を印加することで、それぞれのインピーダンスの値を求め、その2つの値(実際にはインピーダンスの値に対応する電圧や電流の値)の差分や比等から、根尖903からのファイル11の先端の位置を特定する。なお、根管長測定の測定方法は、このようなものに限られるものではなく、従来、提案されている測定方法を含む種々の技術を利用することが可能である。根管長測定の際においても、受動電極22は、歯肉902や口唇904等、患者の体の一部に当てられる。
【0027】
スイッチSW1は、ファイル11と、高周波信号発生回路19または根管長測定回路23との間の電気的接続を切り替えるために設けられている。また、スイッチSW2は、受動電極22と、高周波信号発生回路19または根管長測定回路23との間の電気的接続を切り替えるために設けられている。
【0028】
スイッチSW1およびスイッチSW2の切り替えは、設定操作部15からの入力情報に基づいて制御回路21により実現される。具体的に、制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する場合、ファイル11および受動電極22を高周波信号発生回路19に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御する。また、制御回路21は、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流す場合、ファイル11および受動電極22が根管長測定回路23に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御する。実施の形態1では、設定操作部15で設定した動作モードに応じて、スイッチSW1およびスイッチSW2を制御してファイル11および受動電極22の接続先を切り替える。なお、スイッチSW1およびスイッチSW2の切り替えは、フートスイッチ16のオン・オフ操作に連動してもよい。
【0029】
実施の形態1では、スイッチSW1およびスイッチSW2によって高周波信号発生回路19と根管長測定回路23とを電気的に分離している。したがって、高周波電流がファイル11へ出力されている間、根管長測定回路23は、スイッチSW1およびスイッチSW2によりファイル11および受動電極22から電気的に切断されている。そのため、高周波電流が根管長測定回路23に通電することがなく、高周波電流によって根管長測定回路23が故障することを抑制することができる。
【0030】
また、実施の形態1では、根管長測定回路23によりファイル11の先端の位置が根尖からどの位置にあるかを知ることができるとともに、ファイル11の先端の位置の情報が制御回路21に送られる。そのため、使用者がファイル11の先端の位置を確認したうえでフートスイッチ16を操作することで、歯科用治療装置10は、動作モードを根管長測定モードから殺菌モード(高周波通電モードともいう)に切り替え、その位置での最適な電流値の高周波電流をファイル11に通電する。なお、歯科用治療装置10は、筐体内に根管長測定回路23を設けずに別の筐体に設けた根管長測定器で測定したファイル11の先端の位置の情報を受信し、当該情報に基づいて高周波電流をファイル11に通電してもよい。また、歯科用治療装置10は、表示の一例として、動作モードが根管長測定モードの場合、根管長測定器として機能して表示部14にファイル11の先端の位置を表示するが、動作モードが殺菌モードの場合、高周波治療器として機能して表示部14に通電している高周波電流の電流値を表示する。つまり、表示部14は、動作モードが殺菌モードのとき、高周波電流のメータ装置として機能し、使用者に対して通電している高周波電流の電流値をリアルタイムに知らせ、治療中の使用者の勘を養わせることができる。なお、制御回路21は、測定した根管内のファイル11の先端の位置の情報が通電により所定の割合以上に変化した場合、通電により根管環境が変化したとみなし、ファイル11の先端の位置が急激に変化した旨の情報を表示部14に表示してもよい。
【0031】
表示部14は、例えば液晶ディスプレイで構成されており、高周波信号発生回路19でファイル11に通電している電流値、根管長測定回路23でファイル11の先端の位置などを表示し、歯科用治療装置10の使用者に必要な情報を報知する報知部として機能している。表示部14は、例えば、検出部20で検出される電流値が根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲外となった場合、通電している高周波電流の電流値が当該根管治療に必要な電流値の範囲外である旨の情報を報知してもよい。なお、表示部14は、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、発光ダイオード等で構成されていてもよい。また、報知部は、表示部14以外に、図示していないランプ、スピーカなどであってもよく、ランプの点灯で使用者に報知したり、スピーカからブザー音を出力して使用者に報知したりしてもよい。
【0032】
このように、実施の形態1に係る歯科用治療装置10は、根管内に高周波電流を通電する歯科用治療装置である。歯科用治療装置10は、根管内に配置されるファイル11を保持するファイルホルダ13と、ファイル11に高周波電流を通電する高周波信号発生回路19と、根管内のファイル11の先端の位置を電気的に測定する根管長測定回路23と、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置の情報に応じて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値の制御を高周波信号発生回路19に対して行う制御回路21と、を備える。
【0033】
このように構成することで、実施の形態1に係る歯科用治療装置10では、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置の情報に応じて、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値の制御を高周波信号発生回路19に対して行うので、根管に挿入されるファイル11の先端の位置の情報に応じた最適な電流値の高周波電流を通電することができ、治療効率を向上させることができる。
【0034】
さらに、制御回路21は、測定した根管内のファイル11の先端の位置の情報に応じて、ファイル11への高周波電流の通電を開始させない制御、停止させる制御、通電する電流値を変更する制御のいずれかの制御を高周波信号発生回路19に対して行ってもよい。これにより、歯科用治療装置10は、例えば、ファイル11の先端が根管外となるような状況において、高周波電流の通電を停止するなど最適な制御を行うことができる。逆にファイル先端が歯冠側に移動された場合は、電流値が自動的に大きくなる。なお、ファイル11への高周波電流の通電を開始させない制御とは、ファイル11への高周波電流の通電操作を行う前の制御で、術者が通電操作したにも関わらずファイル11への高周波電流の通電を開始させない。一方、ファイル11への高周波電流の通電を停止させる制御とは、ファイル11への高周波電流の通電中の制御である。当該停止中には、根管長測定する場合があり、当該停止中にはファイル11への高周波電流の通電が行われない。
【0035】
制御回路21は、測定信号をファイル11に通電させて根管内のファイル11の先端の位置を電気的に測定する制御を根管長測定回路23に対して行う根管長測定モード(第1制御モード)と、ファイル11に高周波電流を通電するように高周波信号発生回路19に対して制御を行う殺菌モード(第2制御モード)と、を有する。これにより、歯科用治療装置10は、根管長測定モードと殺菌モードとを切り替えることで、高周波電流によって根管長測定回路23が故障することを抑制することができる。例えば、使用者の操作を受け付けるフートスイッチ16(操作部)をさらに備え、制御回路21は、フートスイッチ16で使用者の操作を受け付けた場合、高周波信号発生回路19に対する制御を殺菌モードに切り替える。
【0036】
制御回路21は、根管長測定モードにおいて、根管内のファイル11の先端の位置を測定し、殺菌モードにおいて、測定したファイル11の先端の位置に基づき設定された所定の範囲内の電流値を、ファイル11に通電させる制御を高周波信号発生回路19に対して行ってもよい。これにより、歯科用治療装置10は、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値を所定の範囲内に制御することができる。
【0037】
制御回路21は、測定した根管内のファイル11の先端の位置を、表示部14に表示させてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、使用者にファイル11の先端の位置を認識させることができる。
【0038】
さらに、歯科用治療装置10は、使用者に情報を報知する表示部14をさらに備えている。制御回路21は、根管長測定モードで制御しているのか、殺菌モードで制御しているのかを、表示部14に表示させてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、使用者に動作中の動作モードを認識させることができる。
【0039】
制御回路21は、測定した根管内のファイル11の先端の位置が所定条件を満たした場合、当該所定条件を満たした旨の情報を表示部14に報知させる。制御回路21は、所定条件として測定した根管内のファイル11の先端の位置が所定の割合以上に変化する条件を満たした場合、ファイル11の先端の位置が急激に変化した旨の情報を、表示部14に報知させる。また、制御回路21は、検出部20で検出される電流値が所定の範囲外となった場合、通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を、表示部14に報知させてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、使用者に通電している高周波電流の状況を適切に報知することができる。
(実施の形態2)
実施の形態1では、根管長測定モードで測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、予め設定してある電流値の高周波電流を殺菌モードでファイル11に通電する歯科用治療装置10について説明した。実施の形態2は、殺菌モードにおいてファイル11に通電する高周波電流の電流値の制御について詳しく説明する。なお、実施の形態2において、実施の形態1で説明した歯科用治療装置10の構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1で説明した内容を実施の形態2と矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0040】
歯科用治療装置10においてファイル11に通電する高周波電流の電流値の制御についてフローチャートを用いて説明する。
図4は、実施の形態2に係る歯科用治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。
図5は、実施の形態2に係る歯科用治療装置の殺菌モードの制御を説明するためのフローチャートである。まず、使用者が、根管長測定モードで歯科用治療装置10を動作させる。制御回路21は、動作モードとして根管長測定モードを実行する(ステップS10)。制御回路21は、実行する動作モードを使用者に報知するために表示部14に根管長測定モードを実行する旨の情報を報知する(ステップS11)。
【0041】
制御回路21は、根管長測定回路23に対してファイル11の先端の位置を測定するように指示する(ステップS12)。根管長測定回路23は、制御回路21からの制御信号に基づき根管長測定を開始し、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流してファイル11の先端の位置を測定する。制御回路21は、動作モードを殺菌モードに変更するか否かを判断する(ステップS13)。例えば、制御回路21は、使用者がフートスイッチ16を操作したか否かに基づき、動作モードを殺菌モードに変更するか否かを判断する。具体的に、制御回路21は、使用者がフートスイッチ16を操作すると動作モードを殺菌モードに変更すると判断し、使用者がフートスイッチ16を操作しないと動作モードを根管長測定モードのまま維持すると判断する。
【0042】
動作モードを殺菌モードに変更しないと判断した場合(ステップS13でNO)、制御回路21は、根管長測定モードを終了する操作を受け付けたか否かを判断する(ステップS14)。根管長測定モードを終了する操作を受け付けていない場合(ステップS14でNO)、制御回路21は、処理をステップS12に戻し根管長測定モードの実行を継続する。一方、根管長測定モードを終了する操作を受け付けた場合(ステップS14でYES)、制御回路21は、根管長測定モードの実行を終了する。
【0043】
ステップS13に戻って、動作モードを殺菌モードに変更すると判断した場合(ステップS13でYES)、制御回路21は、実行する動作モードを使用者に報知するために表示部14に殺菌モードを実行する旨の情報を報知する(ステップS15)。制御回路21は、ステップS15で実行する動作モードを表示して殺菌モードの処理を開始する。
【0044】
次に、殺菌モードの処理を
図5のフローチャートに基づいて説明する。制御回路21は、根管長測定回路23から受信したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、所定の範囲内となる高周波電流の電流値をファイル11に通電するための高周波信号発生回路19の電圧値を決定する(ステップS101)。
【0045】
制御回路21は、通電期間、高周波電流を通電した回数をカウントするために通電回数カウンタのカウントを1加算する(ステップS102)。制御回路21は、高周波信号発生回路19からファイル11に通電期間、ステップS101で決定した電圧値を高周波信号発生回路19に印加することで、所定の範囲内の電流値を高周波信号発生回路19からファイル11に通電するように高周波信号発生回路19を制御する(ステップS103)。制御回路21は、通電期間経過後、高周波信号発生回路19からファイル11への通電を休止期間、休止する(ステップS104)。制御回路21は、ステップS101で決定した電圧値を高周波信号発生回路19に印加したときに検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の電流値か否かを判断する(ステップS105)。
【0046】
検出した電流値が所定の範囲内の電流値である場合(ステップS105でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタがN回(例えば、10回)以上か否かを判断する(ステップS106)。通電回数カウンタがN回以上でない場合(ステップS106でNO)、制御回路21は、処理をステップS102に戻し、通電期間と休止期間との制御を繰り返す。一方、通電回数カウンタがN回以上である場合(ステップS106でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタをリセットしてカウンタを0(ゼロ)にして(ステップS107)、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する。
【0047】
ステップS105に戻って、検出した電流値が所定の範囲内の電流値でない場合(ステップS105でNO)、制御回路21は、通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を表示部14に表示する(ステップS110)。具体的に、制御回路21は、根尖付近で高周波電流をファイル11に通電中に根管内の異物が外れ、検出部20で検出した電流値が根尖付近の所定の範囲(40mA~60mA)から60mA、90mA、80mAと変化した場合、表示部14に「所定の範囲外」の文字を表示したり、画面の背景色を黄色にしたりするなどが考えられる。報知部としてスピーカが設けられていれば、警告音で通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を使用者に報知してもよい。
【0048】
次に、制御回路21は、ステップS101で決定した電圧値を高周波信号発生回路19に印加した場合であっても、検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さいか否かを判断する(ステップS111)。検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さい場合(ステップS111でYES)、制御回路21は、再度、高周波電流をファイル11に通電する処理が必要な旨の情報を表示部14に表示する(ステップS112)。具体的に、制御回路21は、表示部14に「再通電」の文字を表示したり、画面の背景色を黄色にして明滅させたりするなどが考えられる。報知部としてスピーカが設けられていれば、警告音で再通電を行う必要がある旨の情報を使用者に報知してもよい。
【0049】
さらに、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい通電期間を計時する(ステップS113)。
図5に示すフローチャートでは、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さくなった時点で高周波電流をファイル11に通電する処理を停止するのではなく、通電期間と休止期間との制御をN回(例えば、10回)繰り返した後に停止する。そのため、制御回路21は、繰り返し回数N回のうち、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい通電期間が何回生じたのかで最小電流値より小さい通電期間を計時することができる。最小電流値より小さい通電期間を計時することで、制御回路21は、再度通電を行う場合にステップS113で計時した期間だけ再度通電すればよい。もちろん、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さくなった時点で高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する場合、制御回路21は、ステップS113後に処理をステップS107の処理に移行してもよい。ここで、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さいと判断できる場合とは、通電中に根管内の環境が変化して、根管のインピーダンスが高くなり所定の範囲内の最小電流値より小さい電流値が流れてしまった場合である。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を大きくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最小電流値以上となるように制御してもよい。
【0050】
ステップS111に戻って、検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さくない場合(ステップS111でNO)、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きいと判断できるので、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する(ステップS115)。制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止した旨の情報を表示部14に表示する(ステップS116)。具体的に、制御回路21は、表示部14に「停止」の文字を表示したり、画面の背景色を赤色にして明滅させたりするなどが考えられる。報知部としてスピーカが設けられていれば、警告音で通電を停止した旨の情報を使用者に報知してもよい。ここで、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きいと判断できる場合とは、通電中に根管内の環境が変化して、根管のインピーダンスが低くなり所定の範囲内の最大電流値より大きい電流値が流れてしまった場合や、1回目の通電時で最初から根管のインピーダンスが低い場合などである。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を小さくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最大電流値以下となるように制御してもよい。
【0051】
次に、高周波信号発生回路19からファイル11に通電される高周波電流の波形について説明する。
図6は、実施の形態2に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。使用者が根管長測定回路23の表示に基づいて高周波電流の通電位置でフートスイッチ16を操作すると、歯科用治療装置10は、高周波信号発生回路19からファイル11に当該通電位置に応じた電流値の高周波電流を
図6に示す波形で通電する。
【0052】
高周波信号発生回路19からは、
図6に示す通電期間(TP)の通電で、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲の電流値(例えば、30mA~80mA)内で、ファイル先端位置に応じた高周波電流を通電させる。なお、
図6に示す図は概念図であり、図示している波数は実際の高周波の波数とは異なる。以下、高周波の波形でも同様である。つまり、制御回路21は、ファイル11の先端の位置の情報に応じて予め定めた最適な電流値で、通電期間、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電する。
【0053】
高周波信号発生回路19は、通電期間として例えば0.07秒(70ms)の通電を行い、その後休止期間(TC)として例えば0.03秒(30ms)、通電を休止する。さらに、高周波信号発生回路19は、1回の通電(例えば、フートスイッチ16の1回の操作)に対して、第2期間と休止期間との期間(合計0.1秒(100ms))をN回(例えば、10回)繰り返す。歯科用治療装置10では、使用者がフートスイッチ16を1回踏み込むことで約1秒間(休止期間を含む)、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流が通電する。なお、実施の形態2では、第2期間と休止期間とをN回(例えば、10回)繰り返した合計期間を通電期間ともいう。また、第2期間と休止期間との繰り返し回数は、設定操作部15で使用者があらかじめ設定可能であり、実施の形態2では例えば10回と設定してある。もちろん、第2期間と休止期間との繰り返し回数は、10回以外の値を設定してもよい。さらに、設定操作部15では、第2期間と休止期間との繰り返し回数として設定するのではなく、通電期間(例えば、1秒)として設定してもよい。
【0054】
高周波信号発生回路19は、ステップS101で決定した高周波電流の電流値が通電期間の間維持されるようにフィードバック制御を行ってもよい。具体的に、高周波信号発生回路19が、定電圧回路を含み、定電圧制御でファイル11に高周波電流を通電する場合、検出部20で検出した電流値に基づいて第2期間で印加する高周波電圧を制御して、ファイル11に決定した高周波電流の電流値が通電されるように制御する。もちろん、高周波信号発生回路19は、定電流回路を含み、定電流制御でファイル11に決定した高周波電流の電流値が通電されるように制御してもよい。
【0055】
また、制御回路21は、ステップS101で決定した高周波電流の電流値をファイル11に通電する前に予備電流を通電し、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内となるように制御してもよい。
図7は、実施の形態2の変形例に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
図7に示す第1期間(TP1)の通電が予備的な通電であり、この予備通電で得られる電流値から、ファイル11の先端の位置の情報から予め設定してある所定の範囲内の電流値が得られる電圧を決定し、その電圧を出力することにより、その後の第2期間(TP2)がステップS101で決定した高周波電流を通電できる。高周波信号発生回路19が、定電圧制御でファイル11に高周波電流を通電する場合、第2期間で印加する高周波電圧に比べて低い高周波電圧を第1期間で印加するので最適な出力電圧を決定する第1期間で過剰な電流が流れることはない。結果的に、第2期間で通電する電流値に比べて小さい電流値を第1期間に通電することができる。もちろん、第1期間で通電する電流値と第2期間で通電する電流値との間で差を持たせなくてもよい。
【0056】
制御回路21は、ファイル11から受動電極22に至る経路が通常時のインピーダンスであると仮定した場合に、予備電流の電流値がファイル11に通電されるように高周波信号発生回路19の電圧を制御する。そして、高周波信号発生回路19からファイル11に予備電流を通電するために予備電圧を印加し、ファイル11から受動電極22に至る経路のインピーダンスが通常時から変化した場合、検出部20で検出される電流値は、想定した予備電流の電流値に対して差が生じる。なお、ファイル11から受動電極22に至る経路のインピーダンスは、ファイル11の表面に形成される絶縁膜の有無、ファイル11の表面への血液やタンパク質などの付着の有無、根管のインピーダンスなどによって変化する。
【0057】
制御回路21は、想定した予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値との差や比を算出することで、ファイル11の先端の位置の情報から予め設定してある所定の範囲内の電流値が得られる電圧を決定し、その電圧を出力することにより、第2期間の通電において高周波信号発生回路19からファイル11に流れる高周波電流の電流値がステップS101で決定した電流値となるように制御できる。つまり、想定した予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値との差が大きいと、制御回路21は、高周波信号発生回路19に印加する電圧を高くして、ファイル11に流れる高周波電流の電流値がステップS101で決定した電流値となるように制御する。逆に、想定した予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値との差が小さいと、制御回路21は、高周波信号発生回路19に印加する電圧を低くして、ステップS101で決定した電流値となるように制御する。なお、制御回路21は、高周波信号発生回路19からファイル11に予備電圧を印加し、検出部20で検出した電流から根管のインピーダンスに対応する値を算出して、その値に基づいてその後の期間で印加する電圧を決定してもよい。
【0058】
制御回路21は、通電期間、高周波電流の電流値をフィードバック制御している場合に、検出部20で検出した電流値が変化して所定の範囲を外れた場合、表示部14に電流値が所定の範囲を外れた旨の表示を行ってもよい。例えば、根尖付近で高周波電流をファイル11に通電中に根管内の異物が外れ、検出部20で検出した電流値が根尖付近の所定の範囲(40mA~60mA)から60mA、90mA、80mAと変化した場合、表示部14は、電流値が所定の範囲を外れた警告表示を表示する。なお、検出部20で検出される電流値が所定の範囲内であっても所定の割合(例えば±30%程度)以上に変化した場合、通電している高周波電流の電流値が急激に変化した旨の情報を、表示部14に表示してもよい。もちろん、制御回路21は、電流値が所定の範囲を外れた場合、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲となるように高周波信号発生回路19に印加する電圧を制御してもよい。
【0059】
以上のように、実施の形態2に係る歯科用治療装置10は、制御回路21が、検出部20で検出した電流値に基づいて、先端の位置に基づき設定された所定の範囲内の電流値を出力できる電圧を決定することでファイル11に通電させる高周波電流の電流値の制御を高周波信号発生回路19に対して行ってもよい。これにより、歯科用治療装置10は、患者に負担や不快な感じを与えることなく治療を行うことができる。
【0060】
制御回路21は、検出部20で所定の範囲の最大電流値より大きい電流値が検出された場合、ファイル11への高周波電流の通電を開始させない制御、停止させる制御、通電する電流値を変更する制御のいずれかの制御を高周波信号発生回路19に対して行ってもよい。これにより、歯科用治療装置10は、患者に負担や不快な感じを与えることなく治療を行うことができる。
【0061】
さらに、制御回路21は、検出部20で所定の範囲の最大電流値より大きい電流値が検出され、高周波信号発生回路19からファイル11への高周波電流の通電を停止させた場合、高周波電流の通電を停止した情報を表示部14に報知させてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、高周波電流の通電が停止した原因を使用者に認識しやすくなる。
【0062】
また、制御回路21は、検出部20で所定の範囲の最小電流値より小さい電流値が検出された場合、高周波電流の通電を再度行うことを促す情報を表示部14に報知させてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、歯科治療部位が十分に殺菌されていない等の情報を使用者に報知することができる。
【0063】
また、制御回路21は、検出部20で所定の範囲の最小電流値より小さい電流値が検出された期間を計時し、計時した当該期間を表示部14に報知させてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、残りどの程度、高周波電流をファイル11に通電すれば、歯科治療部位が十分に殺菌できるのか使用者に報知することができる。
(実施の形態3)
実施の形態1では、根管長測定モードで測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、予め設定してある電流値の高周波電流をファイル11に通電する歯科用治療装置10について説明した。実施の形態3に係る歯科用治療装置では、根管長測定モードで測定したファイル11の先端の位置の情報だけでなく、休止期間中に測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイルに通電する高周波電流の通電期間を制御する構成について説明する。なお、実施の形態3において、実施の形態1で説明した歯科用治療装置10の構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1で説明した内容を実施の形態3と矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0064】
歯科用治療装置10においてファイル11に通電する高周波電流の通電期間の制御についてフローチャートを用いて説明する。
図8は、実施の形態3に係る歯科用治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。まず、
図4に示したように、使用者が、根管長測定モードで歯科用治療装置10を動作させる。ステップS10~ステップS15までの処理は、
図4に示した処理と同じであるため詳細な説明を繰り返さない。
【0065】
次に、制御回路21は、根管長測定回路23から受信したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイル11に通電する高周波電流の通電期間を決定する(ステップS101A)。具体的に、制御回路21は、例えば、ファイル11の先端の位置が根尖から遠い場合、高周波電流の通電期間を長く、逆に、ファイル11の先端の位置が根尖から近い場合、高周波電流の通電期間を短く決定する。
【0066】
制御回路21は、通電期間、高周波電流を通電した回数をカウントするために通電回数カウンタのカウントを1加算する(ステップS102)。制御回路21は、高周波信号発生回路19からファイル11にステップS101Aで決定した通電期間、高周波電流を通電するように高周波信号発生回路19を制御する(ステップS103)。制御回路21は、通電期間経過後、高周波信号発生回路19からファイル11への通電を休止期間、休止する(ステップS104)。制御回路21は、休止期間に動作モードを殺菌モードから根管長測定モードに切り替え、根管長測定回路23に根管内のファイル11の先端の位置を測定させ、その測定したファイル11の先端の位置の情報に基づき、通電期間を決定する(ステップS104A)。なお、制御回路21は、休止期間に測定したファイル11の先端の位置の情報に応じて、ファイル11への高周波電流の通電を停止させてもよい。例えば、休止期間に測定したファイル11の先端の位置が根管外であれば、制御回路21は、ファイル11への高周波電流の通電を停止する。ファイル11の先端の位置の情報に応じて、ファイル11への高周波電流の通電を停止させた場合、歯科用治療装置10は、表示部14にその旨を表示することで使用者に高周波電流の通電が停止していることを認識させる。
【0067】
次に、制御回路21は、高周波電流をファイル11に流し検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の電流値か否かを判断する(ステップS105)。検出した電流値が所定の範囲内の電流値である場合(ステップS105でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタがN回(例えば、10回)以上か否かを判断する(ステップS106)。通電回数カウンタがN回以上でない場合(ステップS106でNO)、制御回路21は、処理をステップS102に戻し、動作モードを根管長測定モードから殺菌モードに切り替えて通電期間と休止期間との制御を繰り返す。制御回路21は、処理をステップS101に戻す際に、図示していないが休止期間を設けている。一方、通電回数カウンタがN回以上である場合(ステップS106でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタをリセットしてカウンタを0(ゼロ)にして(ステップS107)、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する。
【0068】
ステップS105に戻って、検出した電流値が所定の範囲内の電流値でない場合(ステップS105でNO)、制御回路21は、通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を表示部14に表示する(ステップS110)。
【0069】
次に、制御回路21は、ファイル11に高周波電流を流して検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さいか否かを判断する(ステップS111)。検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さい場合(ステップS111でYES)、制御回路21は、再度、高周波電流をファイル11に通電する処理が必要な旨の情報を表示部14に表示する(ステップS112)。
【0070】
さらに、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい通電期間を計時する(ステップS113)。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を大きくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最小電流値以上となるように制御してもよい。
【0071】
ステップS111に戻って、検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さくない場合(ステップS111でNO)、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きいと判断できるので、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する(ステップS115)。制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止した旨の情報を表示部14に表示する(ステップS116)。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を小さくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最大電流値以下となるように制御してもよい。
【0072】
図9は、実施の形態3に係る歯科用治療装置の電極に通電する電流の波形を示す図である。
図9では、通電期間と休止期間とが繰り返し設けられている。そして、歯科用治療装置10は、通電期間で通電する前の休止期間で測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて通電期間の長さを決定している。
【0073】
歯科用治療装置10は、
図9に示すように休止期間で測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイル11に通電する高周波電流の通電期間を毎回決定するので、1回目の通電期間、2回目の通電期間、3回目の通電期間のそれぞれで高周波電流の通電期間が異なっている。つまり、歯科用治療装置10では、
図9に示すような波形で高周波電流をファイル11に通電するので、ファイル11の先端の位置の情報により最適な通電期間の制御が行える。もちろん、歯科用治療装置10は、通電期間TPと休止期間TCとの和を一定値としておき、通電期間TPと休止期間TCとの割合を変化させるというDUTY変更を行ってもよい。
【0074】
このように、実施の形態3に係る歯科用治療装置10では、制御回路21は、測定した根管内のファイル11の先端の位置の情報に応じて、所定の範囲内の電流値の高周波電流をファイル11に通電させる期間の制御を高周波信号発生回路19に対して行う。このように構成することで、実施の形態3に係る歯科用治療装置10は、測定した根管内のファイル11の先端の位置の情報に最適な通電期間で高周波電流をファイル11に通電できる。
【0075】
また、制御回路21が、ファイル11に高周波電流を通電する通電期間と次にファイル11に高周波電流を通電する通電期間との間の休止期間に、高周波信号発生回路19に対する制御を根管長測定モードに切り替えてもよい。これにより、歯科用治療装置10は、高周波電流を通電していない休止期間に根管長測定モードに切り替え、根管内のファイル11の先端の位置を電気的に測定する制御を根管長測定回路23に対して行うので、高周波電流によって根管長測定回路23が故障することを抑制することができる。
【0076】
なお、実施の形態3では、休止期間中に測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイルに通電する高周波電流の通電期間を制御する構成について説明したが、当該実施の形態で説明した構成は、ファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイル11に通電する高周波電流の電流値を制御する構成に適宜組み合わせてもよい。
(実施の形態4)
実施の形態1では、根管長測定モードで測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、予め設定してある電流値の高周波電流をファイル11に通電する歯科用治療装置10について説明した。実施の形態4に係る歯科用治療装置では、根管長測定モードで測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイルに通電する高周波電流の電流値および通電期間のうち少なくとも一方を制御する構成について説明する。なお、実施の形態4において、実施の形態1で説明した歯科用治療装置10の構成と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。また、実施の形態1で説明した内容を実施の形態4と矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0077】
歯科用治療装置10においてファイル11に通電する高周波電流の電流値と通電期間との積に基づく制御についてフローチャートを用いて説明する。
図10は、実施の形態4に係る歯科用治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。まず、
図4に示したように、使用者が、根管長測定モードで歯科用治療装置10を動作させる。ステップS10~ステップS15までの処理は、
図4に示した処理と同じであるため詳細な説明を繰り返さない。
【0078】
次に、制御回路21は、根管長測定回路23から受信したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、所定の範囲内となる高周波電流の電流値をファイル11に通電するための高周波信号発生回路19の電圧値および通電期間を決定する(ステップS101B)。制御回路21は、高周波電流の電流値と通電期間との積の値を決定することで、通電期間の長さ、および当該通電期間に通電する高周波電流の電流値のうち少なくとも一方を決めることができる。なお、通電する高周波電流の電流値は、所定の範囲内の電流値に制御される。具体的に、根管を殺菌するためには、所定の範囲の電流値の高周波電流を所定の期間、通電する必要がある。例えば、30mAの高周波電流を1秒間、ファイル11に通電することで根管を殺菌することができる。そこで、制御回路21は、ファイル11の先端の位置の情報に応じて決まる高周波電流の電流値とその通電期間との積から、根管の殺菌に必要な高周波電流の電流値および通電期間を決定する。もちろん、制御回路21は、ファイル11の先端の位置の情報に応じて決まる高周波電流の電流値とその通電期間との積に基づいて、ファイル11に通電する高周波電流の電流値または通電期間のいずれか一方を決定してもよい。例えば、通電期間はあらかじめ規定期間が定められており、制御回路21は、検出した電流値とその通電期間との積に基づいて、ファイル11に通電する高周波電流の電流値のみを決定する。
【0079】
制御回路21は、通電期間、高周波電流を通電した回数をカウントするために通電回数カウンタのカウントを1加算する(ステップS102)。制御回路21は、高周波信号発生回路19からファイル11にステップS101Bで決定した電流値および通電期間、高周波電流を通電するように高周波信号発生回路19を制御する(ステップS103)。制御回路21は、通電期間経過後、高周波信号発生回路19からファイル11への通電を休止期間、休止する(ステップS104)。制御回路21は、高周波電流をファイル11に流し検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の電流値か否かを判断する(ステップS105)。
【0080】
検出した電流値が所定の範囲内の電流値である場合(ステップS105でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタがN回(例えば、10回)以上か否かを判断する(ステップS106)。通電回数カウンタがN回以上でない場合(ステップS106でNO)、制御回路21は、処理をステップS102に戻し、通電期間と休止期間との制御を繰り返す。一方、通電回数カウンタがN回以上である場合(ステップS106でYES)、制御回路21は、通電回数カウンタをリセットしてカウンタを0(ゼロ)にして(ステップS107)、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する。
【0081】
ステップS105に戻って、検出した電流値が所定の範囲内の電流値でない場合(ステップS105でNO)、制御回路21は、通電している高周波電流の電流値が所定の範囲外である旨の情報を表示部14に表示する(ステップS110)。
【0082】
次に、制御回路21は、ファイル11に高周波電流を流して検出部20で検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さいか否かを判断する(ステップS111)。検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さい場合(ステップS111でYES)、制御回路21は、再度、高周波電流をファイル11に通電する処理が必要な旨の情報を表示部14に表示する(ステップS112)。
【0083】
さらに、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい通電期間を計時する(ステップS113)。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最小電流値より小さい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を大きくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最小電流値以上となるように制御してもよい。
【0084】
ステップS111に戻って、検出した電流値が所定の範囲外(ステップS105でNO)で、かつ所定の範囲内の最小電流値より小さくない場合(ステップS111でNO)、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きいと判断できるので、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止する(ステップS115)。制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する処理を停止した旨の情報を表示部14に表示する(ステップS116)。また、制御回路21は、検出した電流値が所定の範囲内の最大電流値より大きい場合、高周波信号発生回路19に印加する電圧を小さくして、ファイル11に通電する高周波電流の電流値が所定の範囲内の最大電流値以下となるように制御してもよい。
【0085】
このように、実施の形態4に係る歯科用治療装置10では、制御回路21が、測定した根管内のファイル11の先端の位置の情報に応じて決まる、電流値と高周波電流を通電させた期間との積の値となるように、ファイル11に通電させる高周波電流の電流値、および高周波電流をファイル11に通電させる期間のうち少なくとも一方の制御を高周波信号発生回路19に対して行う。このように構成することで、実施の形態4に係る歯科用治療装置10は、測定した根管内のファイル11の先端の位置の情報に最適な電流値と高周波電流を通電させた期間との積の値となるように高周波電流をファイル11に通電できる。
【0086】
なお、実施の形態4においても、実施の形態3で説明した構成を適宜組み合わせて、休止期間中に測定したファイル11の先端の位置の情報に基づいて、ファイルに通電する高周波電流の電流値および通電期間のうち少なくとも一方を制御する構成としてもよい。
(変形例)
歯科用治療装置は、前述の実施の形態で説明したような、ファイル11を取り付けるファイルホルダ13を有し、根管長測定と、高周波電流を通電することができる構成に限定されず、治療工具をモータ駆動する構成、治療工具を超音波で駆動する構成などと組み合わせてもよい。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
10 歯科用治療装置、11 ファイル、12 ユニット、13 ファイルホルダ、14 表示部、15 設定操作部、16 フートスイッチ、17 モータ、18 モータ駆動回路、19 高周波信号発生回路、20 検出部、21 制御回路、22 受動電極、23 根管長測定回路。