(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】粘着テープおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/20 20180101AFI20230922BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230922BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C09J7/20
H01L21/304 621Z
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
H01L21/78 M
H01L21/78 Q
(21)【出願番号】P 2020507473
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007550
(87)【国際公開番号】W WO2019181403
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018053330
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】垣内 康彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】西田 卓生
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-183764(JP,A)
【文献】特開2008-270282(JP,A)
【文献】特開2006-080329(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026431(WO,A1)
【文献】特開2005-347382(JP,A)
【文献】特開2017-005072(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/20
H01L 21/304
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程において、半導体ウエハの表面に貼付されて使用される、粘着テープであって、
基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含み、
前記基材は、その両面に緩衝層を有し、
60℃における前記基材の引張貯蔵弾性率が250MPa以上である粘着テープ。
【請求項2】
前記緩衝層は、LDPEフィルムから構成される請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程と、
基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含み、
前記基材は、その両面に緩衝層を有し、60℃における前記基材の引張貯蔵弾性率が250MPa以上である粘着テープを、前記半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
前記粘着テープが表面に貼付され、かつ前記溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、前記溝の底部を除去して複数のチップに個片化させる工程と、
前記半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程と、
前記粘着テープから、チップを剥離する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記緩衝層は、LDPEフィルムから構成される請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着テープに関し、さらに詳しくは、いわゆる先ダイシング法により半導体ウエハをチップ化し、さらにドライポリッシュを行って半導体装置を製造する際に、半導体ウエハやチップを一時的に固定するために使用される粘着テープ、及びその粘着テープを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の小型化、多機能化が進む中、それらに搭載される半導体チップも同様に、小型化、薄型化が求められている。チップを薄型化するために、半導体ウエハの裏面を研削して厚さ調整を行うことが一般的である。また、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削により溝の底部を除去してウエハを個片化し、チップを得る先ダイシング法と呼ばれる工法を利用することもある。先ダイシング法では、ウエハの裏面研削と、ウエハの個片化を同時に行うことができるので、薄型チップを効率よく製造できる。
【0003】
従来、半導体ウエハの裏面研削時や、先ダイシング法によるチップの製造時には、ウエハ表面の回路を保護し、また、半導体ウエハ及び半導体チップを固定しておくために、ウエハ表面にバックグラインドシートと呼ばれる粘着テープを貼付するのが一般的である。
【0004】
先ダイシング法において使用するバックグラインドシートとしては、基材と、基材の一方の面に設けた粘着剤層とを備える粘着テープが例示される。このような粘着テープの一例として、特開2015-185691号公報(特許文献1)には、基材フィルム上に放射線硬化性粘着剤層を設けた半導体ウエハ加工用粘着テープが提案されている。特許文献1には、基材フィルムとして、少なくともポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体から選択された2種類の異なる材料を積層した基材フィルムが開示され、好ましい具体例としては、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの3層からなる基材フィルムが開示されている。
【0005】
上記のような先ダイシング法によるウエハの個片化時には、裏面研削を行う際に、研削時に発生する熱や研削屑を除去するため、研削面に水を供給しながら裏面研削を行う。しかしながら、このような従来の裏面研削では、チップ裏面に研削痕が残り、チップの抗折強度を損なう要因となることが判明した。特にチップの薄型化および小型化の結果、チップは破損しやすくなるので、、チップの抗折強度の低下は問題視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような研削痕(以下、「ダメージ部」と呼ぶことがある)を除去するため、水を用いた裏面研削後に、さらに最終的に水を用いないドライポリッシュによりダメージ部を除去し、チップの抗折強度を向上させることが検討されている。ドライポリッシュとは、水や砥粒を含むスラリーを用いずに研磨パフにより研磨する工程をいう。
【0008】
しかしながら、裏面研削工程とは異なり、ドライポリッシュ時には水は使用されないため、研磨時に発生する熱が水により除去されず、チップは熱を帯びる。チップの熱は、チップが貼付されている粘着テープに伝搬する。この結果、ドライポリッシュ時には、粘着テープの温度が60℃以上になる場合がある。
【0009】
粘着テープの基材は、樹脂成分から形成されているため、熱により変形しやすい。ドライポリッシュ時において、粘着テープの基材が熱により変形すると、端部において粘着テープの固定が不十分になり、粘着テープ上のチップを十分に保持することができなくなり、チップが剥離して飛散してしまう。このようなチップの飛散は歩留りの低下を招くだけではなく、飛散したチップが他のチップに接触して他のチップを破損する、または、研削装置に損傷を与えるため、次工程への搬送不良原因となる。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、いわゆる先ダイシング法に続いて、ドライポリッシュを行った場合であってもチップ等を安定して保持できる粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、
[1]半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程において、半導体ウエハの表面に貼付されて使用される、粘着テープであって、
基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含み、
60℃における基材の引張貯蔵弾性率が250MPa以上である粘着テープである。
【0012】
[2]半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程と、
基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含み、60℃における基材の引張貯蔵弾性率が250MPa以上である粘着テープを、半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
粘着テープが表面に貼付され、かつ溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、溝の底部を除去して複数のチップに個片化させる工程と、
半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程と、
粘着テープから、チップを剥離する工程と、
を備える半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る粘着テープは、ドライポリッシュ時の熱により粘着テープの温度が上昇した場合であっても、半導体チップを安定して保持することができる。このため、ドライポリッシュ工程を含む先ダイシング法を行っても高い歩留りで半導体チップを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る粘着テープについて、具体的に説明する。まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
【0015】
本明細書において、例えば「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0016】
粘着テープとは、基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含む積層体を意味し、これら以外の他の構成層を含むことを妨げない。たとえば、粘着剤層側の基材表面には基材表面と粘着剤層との界面での密着性向上や低分子量成分の移行防止等を目的としプライマー層が形成されていてもよい。また、粘着剤層の表面には、使用時まで粘着剤層を保護するための剥離シートが積層されていてもよい。また、基材は単層であってもよく、緩衝層などの機能層を備えた多層であってもよい。粘着剤層も同様である。
【0017】
半導体ウエハの「表面」とは回路が形成された面を指し、「裏面」は回路が形成されていない面を指す。半導体ウエハの個片化とは、半導体ウエハを回路毎に分割し、半導体チップを得ることを言う。
【0018】
ドライポリッシュとは、水や砥粒を含むスラリーを用いずに研磨パフにより研磨する工程を意味する。なお、本明細書においては「ドライポリッシュ工程」と記載することもある。
【0019】
ドライポリッシュに用いる研磨パフとしては各種汎用の研磨パフが用いられ、市販品としては、ディスコ社の研磨ホイール「Gettering DP」や、「DP08 SERIES」が用いられるが、これらに限定されない。ドライポリッシュを行うことによりチップのダメージ部、すなわち研削痕を除去する。
【0020】
先ダイシング法とは、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削によりウエハを個片化する方法を言う。
【0021】
バックグラインドテープとは、半導体ウエハの裏面研削時にウエハ回路面を保護するために使用される粘着テープであり、特に本明細書では先ダイシング法に好ましく使用される粘着テープを指す。
【0022】
(1.粘着テープ)
本発明に係る粘着テープは、上記バックグラインドテープとしてドライポリッシュ工程において用いられる。本発明に係る粘着テープは、基材と、その片面に設けられた粘着剤層とを含む。以下、粘着テープの構成要素について詳細に説明する。
【0023】
(1.1.基材)
本実施形態に係る粘着テープの基材としては、バックグラインドテープの基材として使用されている各種の樹脂フィルムが用いられる。
【0024】
以下に本発明で用いられる基材の一例を詳述するが、これらは単に基材の入手を容易するための記載であって、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0025】
(1.2.基材の物性)
本実施形態では、60℃における基材の引張貯蔵弾性率(E’60)が、250MPa以上である。引張貯蔵弾性率(E’)は、基材の変形のしやすさ(硬さ)の指標の1つである。60℃における基材の引張貯蔵弾性率(E’60)が上記の範囲内であることにより、基材の熱変形に起因した、粘着テープからのチップ剥離を防止し、加工工程、特にドライポリッシュ時の応力による基材の変形を防止できる。また、裏面研削時やドライポリッシュ時の応力に対する緩衝性能が適度に保たれる。
【0026】
さらに、粘着テープを貼付した半導体ウエハは、裏面研削時やドライポリッシュ時に粘着テープを介して吸着テーブル上に配置されるが、基材の引張貯蔵弾性率(E’60)を上記範囲にすることで、粘着テープと吸着テーブルとの密着性が向上し、裏面研削時やドライポリッシュ時の振動を抑制できる。さらに、裏面研削後やドライポリッシュ後に吸着テーブルから粘着テープを剥離しやすくなる。
【0027】
E’60は、270MPa以上であることが好ましく、300MPa以上であることがより好ましい。一方、E’60は、4000MPa以下であることが好ましく、1100MPa以下であることがより好ましい。
【0028】
したがって、本実施形態では、60℃における基材の引張貯蔵弾性率を上記の範囲内に制御することにより、ドライポリッシュ時に、粘着剤層が加熱される場合であっても、チップの飛散を効果的に抑制することができる。
【0029】
基材の引張貯蔵弾性率は、粘着剤層の損失正接およびせん断貯蔵弾性率と同様に、公知の方法により測定すればよい。たとえば、基材を構成するシートまたはフィルムと同一の材質からなる材料を所定の大きさの試料とし、動的粘弾性測定装置により、所定の温度範囲において、所定の周波数で試料にひずみを与えて、弾性率を測定し、測定された弾性率から、引張貯蔵弾性率を算出することができる。
【0030】
基材の引張貯蔵弾性率E’は、材質、物性、厚み等の観点から、基材を構成するフィルムを適宜に選択することで制御できる。たとえば、構成フィルムとして、比較的高いTgを有するフィルムを選択することや、基材の製膜時にアニール処理することで、引張貯蔵弾性率を所定の範囲に制御できる。
【0031】
(1.3.基材の具体例)
以下に、基材の具体例について説明するが、これらは単に基材の入手を容易するための記載であって、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0032】
本発明の基材は、たとえば比較的硬質の樹脂フィルムであってもよい。また、本発明の基材は、比較的硬質の樹脂フィルムの片面もしくは両面に比較的軟質の樹脂フィルムからなる緩衝層が積層された積層体であってもよい。
【0033】
基材の厚さは特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、15~350μmであることがより好ましく、20~160μmであることがさらに好ましい。基材の厚さを500μm以下とすることで、粘着テープの剥離力を制御しやすくなる。また、15μm以上とすることで、基材が粘着テープの支持体としての機能を果たしやすくなる。
【0034】
基材の材質としては、種々の樹脂フィルムを用いることができる。ここで、引張貯蔵弾性率が250MPa以上の基材として、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、二軸延伸ポリプロピレン等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0035】
これら樹脂フィルムの中でも、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる1種以上を含むフィルムが好ましく、ポリエステルフィルムを含むことがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムを含むことがさらに好ましい。
【0036】
また、基材は、本発明の効果を損なわない範囲において、可塑剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、触媒等を含有してもよい。また、基材は、粘着剤層を硬化する際に照射されるエネルギー線に対して透過性を有する。
【0037】
また、基材の少なくとも一方の表面には、緩衝層及び粘着剤層の少なくとも一方との密着性を向上させるために、コロナ処理等の接着処理を施してもよい。また、基材は、上記した樹脂フィルムと、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に被膜された易接着層(プライマー層)とを有していてもよい。
【0038】
易接着層を形成する易接着層形成用組成物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等を含む組成物が挙げられる。易接着層形成用組成物には、必要に応じて、架橋剤、光重合開始剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等を含有してもよい。
【0039】
易接着層の厚さは、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.03~5μmである。なお、易接着層の厚さは、基材の厚さに対して小さく、易接着層は柔らかい材質であるため、引張貯蔵弾性率に与える影響は小さく、基材の引張貯蔵弾性率は、易接着層を有する場合でも、樹脂フィルムの引張貯蔵弾性率と実質的に同一である。
【0040】
(1.4.緩衝層)
上記基材の片面もしくは両面には、緩衝層が設けられていても良い。緩衝層は、比較的軟質の樹脂フィルムからなり、半導体ウエハの研削による振動を緩和して、半導体ウエハに割れ及び欠けが生じることを防止する。また、粘着テープを貼付した半導体ウエハは、裏面研削時に、吸着テーブル上に配置されるが、緩衝層を設けることで、粘着テープが吸着テーブルに適切に保持されやすくなる。
【0041】
緩衝層の厚さは、8~80μmであることが好ましく、10~60μmであることがさらに好ましい。
【0042】
緩衝層は、ポリプロピレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、LDPEフィルム、LLDPEフィルムが好ましい。また、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物から形成される層であってもよい。緩衝層を有する基材は、基材と緩衝層とをラミネートして得られる。
【0043】
(1.5.粘着剤層)
以下に本発明で用いられる粘着剤層の一例を物性および組成の順に詳述するが、これらは単に粘着剤層の製造または入手を容易にするための記載であって、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0044】
(1.6.粘着剤層の物性)
粘着剤層は、粘着テープの性能を発揮できるように構成されていれば特に制限されない。本実施形態では、上述したように、ドライポリッシュ時には、粘着テープの温度が60℃以上になることがある。
【0045】
そこで、本実施形態では、60℃における粘着剤層の損失正接(tanδ60)が0.40以下であることが好ましく、60℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率(G’60)が3.0×104Pa以上であることが好ましい。
【0046】
損失正接(tanδ)は、「損失弾性率/貯蔵弾性率」で定義され、動的粘弾性測定装置により対象物に与えた引張り応力やねじり応力等の応力に対する応答によって測定される値である。60℃における粘着剤層の損失正接(tanδ60)が上記の範囲内であることにより、加工工程、特にドライポリッシュ工程において、粘着剤層に応力が印加される場合であっても、粘着剤層の変形が抑制され、チップの整列性が維持できるので、チップの飛散が抑制される傾向にある。
【0047】
また、tanδ60は、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。一方、tanδ60は、0.37以下であることがより好ましい。
【0048】
また、せん断貯蔵弾性率(G’)は、粘着剤層の変形のしやすさ(硬さ)の指標の1つである。60℃における粘着剤層のせん断貯蔵弾性率(G’60)が上記の範囲内であることにより、加工工程、特にドライポリッシュ工程において、粘着剤層に応力が印加される場合であっても、チップと粘着剤層との密着性が良好であり、チップに対する粘着剤層の保持力が維持されるので、チップの飛散が抑制される傾向にある。
【0049】
また、G’60は、3.5×104Pa以上であることがより好ましく、3.7×104Pa以上であることがさらに好ましい。一方、G’60は、5.0×105Pa以下であることがより好ましく、1.0×105Pa以下であることがさらに好ましい。
【0050】
したがって、本実施形態では、60℃における粘着剤層の損失正接とせん断貯蔵弾性率との両方を上記の範囲内に制御することにより、ドライポリッシュ時に、粘着剤層が加熱される場合に、チップの飛散を効果的に抑制する効果をより高めることができる。
【0051】
粘着剤層の損失正接およびせん断貯蔵弾性率は、公知の方法により測定すればよい。たとえば、粘着剤層を所定の大きさの試料とし、動的粘弾性測定装置により、所定の温度範囲において、所定の周波数で試料にひずみを与えて、弾性率を測定し、測定された弾性率から、損失正接およびせん断貯蔵弾性率を算出することができる。
【0052】
なお、上記の損失正接およびせん断貯蔵弾性率は、半導体ウエハや半導体チップに貼付前の未硬化状態の粘着剤層の60℃における物性を意味する。粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成される場合には、エネルギー線硬化前の粘着剤層の60℃における物性である。
【0053】
また、上記の損失正接およびせん断貯蔵弾性率は、たとえば、粘着剤層を構成する粘着剤組成物の組成を調整することにより、変化させることができる。
【0054】
粘着剤層の厚さは、200μm未満であることが好ましく、5~80μmがより好ましく、10~70μmがさらに好ましい。粘着剤層をこのように薄くすると、粘着テープにおいて、剛性の低い部分の割合を少なくすることができるため、裏面研削時に生じる半導体チップの欠けを一層防止しやすくなる。
【0055】
(1.7.粘着剤層の組成)
粘着剤層の組成は特に限定されないが、上記の物性を実現するために、本実施形態では、粘着剤層は、たとえば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等から構成され、アクリル系粘着剤から構成されることが好ましい。
【0056】
また、粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成されることが好ましい。粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成されることで、エネルギー線照射による硬化前には、損失正接およびせん断貯蔵弾性率を上記範囲に設定しつつ、硬化後においては剥離力を1000mN/50mm以下に容易に設定することが可能になる。
【0057】
以下、粘着剤の具体例について詳述するが、これらは非限定的例示であり、本発明における粘着剤層はこれらに限定的に解釈されるべきではない。
【0058】
エネルギー線硬化性粘着剤としては、例えば、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(「粘着性樹脂I」ともいう)と、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物とを含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物(以下、「X型の粘着剤組成物」ともいう)が使用可能である。また、エネルギー線硬化性粘着剤として、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂の側鎖に不飽和基を導入したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂II」ともいう)を主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含まない粘着剤組成物(以下、「Y型の粘着剤組成物」ともいう)も使用してもよい。
【0059】
さらに、エネルギー線硬化性粘着剤としては、X型とY型の併用型、すなわち、エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIに加え、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物も含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物(以下、「XY型の粘着剤組成物」ともいう)を使用してもよい。
【0060】
これらの中では、XY型の粘着剤組成物を使用することが好ましい。XY型の粘着剤組成物を使用することで、硬化前においては十分な粘着特性を有する一方で、硬化後においては、半導体ウエハに対する剥離力を十分に低くすることが可能である。
【0061】
ただし、粘着剤としては、エネルギー線を照射しても硬化しない非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から形成してもよい。非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物は、少なくとも非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂Iを含有する一方、上記したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂II及びエネルギー線硬化性化合物を含有しない粘着剤組成物である。
【0062】
なお、以下の説明において「粘着性樹脂」は、上記した粘着性樹脂I及び粘着性樹脂IIの一方又は両方を指す用語として使用する。具体的な粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられるが、アクリル系樹脂が好ましい。
【0063】
(1.7.1.アクリル系樹脂)
以下、粘着性樹脂として、アクリル系樹脂が使用されるアクリル系粘着剤についてより詳細に説明する。
【0064】
アクリル系樹脂には、アクリル系重合体(a)が使用される。アクリル系重合体(a)は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合して得られ、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む。アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1~20のものが挙げられ、アルキル基は直鎖であってもよいし、分岐であってもよい。アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0065】
また、アクリル系重合体(a)は、粘着剤層の粘着力を向上させる観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。該アルキル(メタ)アクリレートの炭素数としては、好ましくは4~12、更に好ましくは4~6である。また、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アルキルアクリレートであることが好ましい。
【0066】
アクリル系重合体(a)において、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートの含有割合は、アクリル系重合体(a)を構成するモノマー全量(以下単に「モノマー全量」ともいう)中、好ましくは40~98質量%、より好ましくは45~95質量%、更に好ましくは50~90質量%である。
【0067】
アクリル系重合体(a)は、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクレート由来の構成単位に加えて、粘着剤層の弾性率や粘着特性を調整するために、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。なお、該アルキル(メタ)アクリレートは、炭素数1又は2のアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートが最も好ましい。アクリル系重合体(a)において、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートの含有割合は、モノマー全量中、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~26質量%、更に好ましくは6~22質量%である。
【0068】
アクリル系重合体(a)は、上記したアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。官能基含有モノマーの官能基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。官能基含有モノマーは、後述の架橋剤と反応し、架橋起点となったり、不飽和基含有化合物と反応して、アクリル系重合体(a)の側鎖に不飽和基を導入することが可能である。
【0069】
官能基含有モノマーとしては、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。これらのモノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーが好ましく、水酸基含有モノマーがより好ましい。
【0070】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0071】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物、2-カルボキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0072】
官能基モノマーの含有割合は、アクリル系重合体(a)を構成するモノマー全量中、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~32質量%、更に好ましくは6~30質量%である。
【0073】
また、アクリル系重合体(a)は、上記以外にも、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等の上記のアクリル系モノマーと共重合可能なモノマー由来の構成単位を含んでもよい。
【0074】
上記アクリル系重合体(a)は、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂I(アクリル系樹脂)として使用することができる。また、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂としては、上記アクリル系重合体(a)の官能基に、光重合性不飽和基を有する化合物(不飽和基含有化合物ともいう)を反応させたものが挙げられる。
【0075】
不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(a)の官能基と結合可能な置換基、及び光重合性不飽和基の双方を有する化合物である。光重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニルベンジル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0076】
また、不飽和基含有化合物が有する、官能基と結合可能な置換基としては、イソシアネート基やグリシジル基等が挙げられる。したがって、不飽和基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
また、不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(a)の官能基の一部に反応することが好ましく、具体的には、アクリル系重合体(a)が有する官能基の50~98モル%に、不飽和基含有化合物を反応させることが好ましく、55~93モル%反応させることがより好ましい。このように、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂において、官能基の一部が不飽和基含有化合物と反応せずに残存することで、架橋剤によって架橋されやすくなる。
【0078】
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万~160万、より好ましくは40万~140万、更に好ましくは50万~120万である。
【0079】
(1.7.2.エネルギー線硬化性化合物)
X型又はXY型の粘着剤組成物に含有されるエネルギー線硬化性化合物としては、分子内に不飽和基を有し、エネルギー線照射により重合硬化可能なモノマー又はオリゴマーが好ましい。
【0080】
このようなエネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオール(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。
【0081】
これらの中でも、比較的分子量が高く、粘着剤層のせん断貯蔵弾性率を低下させにくい観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。エネルギー線硬化性化合物の分子量(オリゴマーの場合は重量平均分子量)は、好ましくは100~12000、より好ましくは200~10000、更に好ましくは400~8000、特に好ましくは600~6000である。
【0082】
X型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは40~200質量部、より好ましくは50~150質量部、更に好ましくは60~90質量部である。
【0083】
一方で、XY型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~20質量部、更に好ましくは3~15質量部である。XY型の粘着剤組成物では、粘着性樹脂が、エネルギー線硬化性であるため、エネルギー線硬化性化合物の含有量が少なくても、エネルギー線照射後、十分に剥離力を低下させることが可能である。
【0084】
(1.7.3.架橋剤)
粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、例えば粘着性樹脂が有する官能基モノマー由来の官能基に反応して、粘着性樹脂同士を架橋する物質である。架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、及びそれらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
これらの中でも、凝集力を高めて粘着力を向上させる観点、及び入手し易さ等の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0086】
架橋剤の配合量は、架橋反応を促進させる観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、更に好ましくは0.05~4質量部である。
【0087】
(1.7.4.光重合開始剤)
また、粘着剤組成物がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤を含有することで、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線でも、粘着剤組成物の硬化反応を十分に進行させることができる。
【0088】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミンやキノン等の光増感剤等が挙げられる。より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロルニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロールアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0089】
これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。光重合開始剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部、更に好ましくは0.05~5質量部である。
【0090】
(1.7.5.その他の添加剤)
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの添加剤を配合する場合、添加剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~6質量部である。
【0091】
また、基材、緩衝層や剥離シートへの塗布性を向上させる観点から、粘着剤組成物を更に有機溶媒で希釈して、粘着剤組成物の溶液を得てもよい。
【0092】
有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
【0093】
なお、これらの有機溶媒は、粘着性樹脂の合成時に使用された有機溶媒をそのまま用いてもよいし、該粘着剤組成物の溶液を均一に塗布できるように、合成時に使用された有機溶媒以外の1種以上の有機溶媒を加えてもよい。
【0094】
(1.8.剥離シート)
粘着テープの表面には、剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、具体的には、粘着テープの粘着剤層の表面に貼付される。剥離シートは、粘着剤層表面に貼付されることで輸送時、保管時に粘着剤層を保護する。剥離シートは、剥離可能に粘着テープに貼付されており、粘着テープが使用される前(すなわち、ウエハ裏面研削前)には、粘着テープから剥離されて取り除かれる。
【0095】
剥離シートは、少なくとも一方の面が剥離処理をされた剥離シートである。具体的には、剥離シート用基材の表面上に剥離剤を塗布して得られる剥離シート等が挙げられる。
【0096】
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましく、当該樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0097】
剥離シートの厚さは、特に制限ないが、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmである。
【0098】
(2.粘着テープの製造方法)
本発明の粘着テープの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
【0099】
例えば、剥離シート上に設けた粘着剤層を、基材の片面に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着テープを製造することができる。また、剥離シート上に設けた緩衝層と、基材とを貼り合わせ、剥離シートを除去することで、緩衝層と基材との積層体が得られる。そして、剥離シート上に設けた粘着剤層を、積層体の基材側に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着テープを製造することができる。なお、緩衝層を基材の両面に設けた場合には、粘着剤層は緩衝層上に形成される。粘着剤層の表面に貼付される剥離シートは、粘着テープの使用前に適宜剥離して除去すればよい。
【0100】
剥離シート上に粘着剤層を形成する方法としては、剥離シート上に粘着剤組成物を、公知の塗布方法により直接塗布し、塗布膜を加熱乾燥して、溶媒を揮発させることで、粘着剤層を形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。同様に、基材の片面または緩衝層上に、粘着剤組成物を直接塗布して、粘着剤層を形成してもよい。
【0101】
(3.半導体装置の製造方法)
本発明の粘着テープは、先ダイシング法において、半導体ウエハの表面に貼付してウエハの裏面研削が行われ、その後ドライポリッシュが行われる際に特に好ましく使用される。粘着テープの非限定的な使用例として、以下に半導体装置の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0102】
半導体装置の製造方法は、具体的には、以下の工程1~工程4を少なくとも備える。
工程1:半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程
工程2:上記の粘着テープを、半導体ウエハの表面に貼付する工程
工程3:粘着テープが表面に貼付され、かつ上記溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、溝の底部を除去して、複数のチップに個片化させて、個片化されたチップに対してドライポリッシュを行う工程
工程4:個片化された半導体ウエハ(すなわち、複数の半導体チップ)から、粘着テープを剥離する工程
【0103】
以下、上記半導体装置の製造方法の各工程を詳細に説明する。
【0104】
(3.1.工程1)
工程1では、半導体ウエハの表面側から溝を形成する。本工程で形成される溝は、半導体ウエハの厚さより浅い深さの溝である。溝の形成は、従来公知のウエハダイシング装置等を用いてダイシングにより行うことが可能である。また、半導体ウエハは、後述する工程3において、溝の底部を除去することで、溝に沿って複数の半導体チップに分割される。
【0105】
本製造方法で用いられる半導体ウエハはシリコンウエハであってもよいし、またガリウム・砒素などのウエハや、ガラスウエハ、サファイアウエハであってもよい。半導体ウエハの研削前の厚さは特に限定されないが、通常は500~1000μm程度である。また、半導体ウエハは、通常、その表面に回路が形成されている。ウエハ表面への回路の形成は、エッチング法、リフトオフ法、ブレード法などの従来汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。
【0106】
(3.2.工程2)
工程2では、溝が形成された半導体ウエハ表面に、本発明の粘着テープを粘着剤層を介して貼付する。
【0107】
粘着テープが貼付され、かつ溝を形成した半導体ウエハは、吸着テーブル上に載せられ、吸着テーブルに吸着されて保持される。この際、半導体ウエハは、表面側がテーブル側に配置されて吸着される。
【0108】
(3.3.工程3)
工程1及び工程2の後、吸着テーブル上の半導体ウエハの裏面を研削して、半導体ウエハを複数の半導体チップに個片化する。
【0109】
ここで、半導体ウエハには半導体ウエハの厚さより浅い深さの溝が形成されているので、裏面研削は、少なくとも溝の底部に至る位置まで半導体ウエハを薄くするように行う。この裏面研削により、溝は、ウエハを貫通する切り込みとなり、半導体ウエハは切り込みにより分割されて、個々の半導体チップに個片化される。
【0110】
個片化された半導体チップの形状は、方形でもよいし、矩形等の細長形状でもよい。また、個片化された半導体チップの厚さは特に限定されないが、好ましくは5~100μm程度であり、より好ましくは10~45μmである。また、個片化された半導体チップの大きさは、特に限定されないが、チップサイズが好ましくは50mm2未満、より好ましくは30mm2未満、さらに好ましくは10mm2未満である。
【0111】
裏面研削の終了後、ドライポリッシュを行う。
【0112】
裏面研削では、チップ裏面に研削痕が残るため、チップの抗折強度を損なう要因となっている。チップの薄型化・小型化の結果、チップは破損しやすくなり、抗折強度の低下が問題視されている。上述した研削痕(ダメージ部)を除去するため、裏面研削後に、さらに最終的に水を用いないドライポリッシュによりダメージ部を除去し、チップの抗折強度を向上させることが好ましい。
【0113】
しかしながら、裏面研削とは異なり、ドライポリッシュ時には水は使用されないため、研磨時に発生する熱が水により除去されず、チップは熱を帯びる。チップの熱は、チップが貼付されている粘着テープに伝搬する。この結果、ドライポリッシュ時には、粘着テープの温度が60℃以上になり、チップに対する粘着テープの保持力が不十分となり、チップが剥離して飛散することがある。しかし、本発明の粘着テープを使用することで、粘着テープの変形が抑制され、チップの飛散を低減できる。したがって、本発明の粘着テープは、ドライポリッシュ工程を含む先ダイシング法において、半導体ウエハやチップを保持するために特に好適に用いられる。
【0114】
すなわち、本発明の粘着テープを使用することにより、このように薄型及び/又は小型の半導体チップであっても、裏面研削時およびドライポリッシュ時(工程3)、及び粘着テープ剥離時(工程4)に半導体チップに欠けが生じることが防止される。
【0115】
(3.4.工程4)
次に、個片化された半導体ウエハ(すなわち、複数の半導体チップ)から、粘着テープを剥離する。本工程は、例えば、以下の方法により行う。
【0116】
まず、粘着テープの粘着剤層が、エネルギー線硬化性粘着剤から形成される場合には、エネルギー線を照射して粘着剤層を硬化する。次いで、個片化された半導体ウエハの裏面側に、ピックアップテープを貼付し、ピックアップが可能なように位置及び方向合わせを行う。この際、ウエハの外周側に配置したリングフレームもピックアップテープに貼り合わせ、ピックアップテープの外周縁部をリングフレームに固定する。ピックアップテープには、ウエハとリングフレームを同時に貼り合わせてもよいし、別々のタイミングで貼り合わせてもよい。次いで、ピックアップテープ上に固定された複数の半導体チップから粘着テープを剥離する。
【0117】
その後、ピックアップテープ上にある複数の半導体チップをピックアップし基板等の上に固定化して、半導体装置を製造する。
【0118】
なお、ピックアップテープは、特に限定されないが、例えば、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層を備える粘着シートによって構成される。
【0119】
また、ピックアップテープの代わりに、接着テープを用いることもできる。接着テープとは、フィルム状接着剤と剥離シートとの積層体、ダイシングテープとフィルム状接着剤との積層体や、ダイシングテープとダイボンディングテープの両方の機能を有する接着剤層と剥離シートとからなるダイシング・ダイボンディングテープ等が挙げられる。また、ピックアップテープを貼付する前に、個片化された半導体ウエハの裏面側にフィルム状接着剤を貼り合わせてもよい。フィルム状接着剤を用いる場合、フィルム状接着剤はウエハと同形状としてもよい。
【0120】
接着テープを用いる場合やピックアップテープを貼付する前に個片化された半導体ウエハの裏面側にフィルム状接着剤を貼り合わせる場合には、接着テープやピックアップテープ上にある複数の半導体チップは、半導体チップと同形状に分割された接着剤層と共にピックアップされる。そして、半導体チップは接着剤層を介して基板等の上に固定化され、半導体装置が製造される。接着剤層の分割は、レーザーやエキスパンドによって行われる。
【0121】
以上、本発明の粘着テープについて、主に先ダイシング法により半導体ウエハを個片化し、ドライポリッシュを行う方法に使用する例について説明した。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0124】
本実施例における測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0125】
(引張貯蔵弾性率)
基材を構成するフィルムまたはシートと同一の材質からなる15mm幅×10mm(長さ)の測定用フィルムを準備した。動的粘弾性装置(オリエンテック社製、商品名「Rheovibron DDV-II-EP1」)により、周波数11Hzで、温度範囲-20~150℃における引張弾性率を、測定用フィルムの10個のサンプルについて測定した。60℃における10個のサンプルの引張弾性率の平均値をE’60とした。
【0126】
(チップの飛散評価)
実施例、比較例で得られた剥離シート付粘着テープを、剥離シートを剥がしつつテープラミネーター(リンテック株式会社製、商品名「RAD-3510」)にセットし、先ダイシング法によりウエハ表面に溝を形成した12インチのシリコンウエハ(厚み760μm)に次の条件で貼付した。
ロール高さ:0mm
ロール温度:23℃(室温)
テーブル温度:23℃(室温)
【0127】
得られた粘着テープ付シリコンウエハは、裏面研削(先ダイシング法)により厚さ30μm、チップサイズ1mm角に個片化した。
【0128】
裏面研削終了後、研削面をディスコ社製DPG8760によりドライポリッシュを行った。研磨ホイールには、ディスコ社製「Gettering DP」を用いた。このドライポリッシュにより、チップのダメージ部(研削痕)を除去した。
【0129】
ドライポリッシュ終了後、粘着テープの端部に保持されているチップの状態を目視にて観察し、チップ飛散の有無を確認した。チップの飛散が無かった場合を「良好」とし、チップの飛散が有った場合を「不良」とした。なお、シリコンウエハの最外周領域に存在するチップは、所望の形状(通常は四角形状)のチップとは異なる形状(通常は三角形状)を有しているので、これらのチップの飛散は、上記の評価では考慮しなかった。すなわち、上記の評価では、四角形状のチップの飛散の有無のみを評価した。
【0130】
なお、以下の実施例、及び比較例の質量部は全て固形分値である。
【0131】
(複層基材)
基材として厚さ25.0μmおよび75.0μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(引張貯蔵弾性率:2500MPa)を用いた。これらの基材の両面に厚さ27.5μmの緩衝層(LDPE、低密度ポリエチレン)を設けた複層基材を準備した。したがって、複層基材の構成は以下の通りである。
複層基材1:LDPE(27.5μm)/PET(25.0μm)/LDPE(27.5μm)
複層基材2:LDPE(27.5μm)/PET(75.0μm)/LDPE(27.5μm)
【0132】
(粘着剤組成物Aの調製)
ブチルアクリレート(BA)65質量部、メチルメタクリレート(MMA)20質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)15質量部を共重合して得たアクリル系重合体(a)に、アクリル系重合体(a)の全水酸基のうち80モル%の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂(Mw:50万)を得た。
【0133】
得られたエネルギー線硬化性アクリル系樹脂100質量部に対し、エネルギー線硬化性化合物としてのウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学工業社製、UT-4220)6質量部と、トリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)0.375質量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)1.00質量部(固形比)と、を混合し、エネルギー線硬化性粘着剤組成物Aを得た。
【0134】
(粘着剤組成物Bの調製)
ブチルアクリレート(BA)52質量部、メチルメタクリレート(MMA)20質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)28質量部を共重合して得たアクリル系重合体(a)に、アクリル系重合体(a)の全水酸基のうち90モル%の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂(Mw:60万)を得た。
【0135】
得られたエネルギー線硬化性アクリル系樹脂100質量部に対し、トリレンジイソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)0.50質量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)3.70質量部(固形比)と、を混合し、エネルギー線硬化性粘着剤組成物Bを得た。
【0136】
(実施例1)
剥離シート(リンテック社製、SP-PET381031)の剥離処理面に、上記で得たエネルギー線硬化性粘着剤組成物Aの塗工液を塗工し、100℃で1分間加熱乾燥させて、剥離シート上に厚さが20μmの粘着剤層を形成した。
【0137】
複層基材1の片面に、形成した粘着剤層を貼り合わせ、粘着テープを作製した。得られた粘着テープについて、60℃における基材の引張貯蔵弾性率E’60を測定し、またチップの飛散評価を行った。結果を表1に示す。
【0138】
(実施例2)
基材として、複層基材2を用いた以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。得られた粘着テープについて、60℃における基材の引張貯蔵弾性率E’60を測定し、またチップの飛散評価を行った。結果を表1に示す。
【0139】
(比較例1)
基材として、厚みが80μmであるポリ塩化ビニルを用い、粘着剤層として粘着剤組成物Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。得られた粘着テープについて、60℃における基材の引張貯蔵弾性率E’60を測定し、またチップの飛散評価を行った。結果を表1に示す。
【0140】
(比較例2)
基材として、厚みが80μmであるポリオレフィンを用い、粘着剤層として粘着剤組成物Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。得られた粘着テープについて、60℃における基材の引張貯蔵弾性率E’60を測定し、またチップの飛散評価を行った。結果を表1に示す。
【0141】
【0142】
表1より、60℃における基材の引張貯蔵弾性率E’60が上述した範囲内である場合には、チップの飛散が抑制されることが確認できた。