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特許7353297芳香族化合物を水素化するために用いるニッケル-銅系バイメタリック触媒の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】芳香族化合物を水素化するために用いるニッケル-銅系バイメタリック触媒の調製方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/043 20060101AFI20230922BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230922BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20230922BHJP
   B01J 37/20 20060101ALI20230922BHJP
   C07C 5/10 20060101ALI20230922BHJP
   C07C 13/18 20060101ALI20230922BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
B01J27/043 Z
B01J37/02 101E
B01J37/18
B01J37/20
C07C5/10
C07C13/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020557326
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019058581
(87)【国際公開番号】W WO2019201618
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】1853388
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】ブアレグ マリカ
(72)【発明者】
【氏名】コワノー アンヌ-アガタ
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-516765(JP,A)
【文献】特開2011-036857(JP,A)
【文献】特表2017-533085(JP,A)
【文献】特表2015-522403(JP,A)
【文献】特開昭51-137688(JP,A)
【文献】特開昭59-016542(JP,A)
【文献】米国特許第05948942(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0264882(US,A1)
【文献】特開2015-192958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 31/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
C08F 301/00
C08G 81/00 - 85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化反応用触媒の調製方法であって、
前記触媒は、触媒の全重量に対して10~50重量%の比率の第1ニッケル金属元素並びに触媒の全重量に対して0.5~15重量%の比率の第2銅金属元素をベースにする、銅ニッケルのモル比が1未満のバイメタリック活性相と、シリカ、アルミナ及びシリカ-アルミナより選ばれる少なくとも一の耐火性酸化物よりなる担体とを含有しており、
前記方法は、少なくとも以下の工程;
a)担体を、少なくとも一のニッケル前駆体を含む少なくとも一の溶液と接触させる、少なくとも一の工程の実施;
b)担体を、少なくとも一の銅前駆体を含む少なくとも一の溶液と接触させる、少なくとも一の工程の実施;
工程a)とb)の個別かつ順次の実施;
c)工程a)及び工程b)の終了時点、又は、工程b)及びa)の終了時点において、250℃未満の温度で触媒前駆体を乾燥させる少なくとも一の工程の実施;
d)工程c)の終了時点で得られた触媒前駆体を、芳香族化合物の水素化用反応器に供給し、前記前駆体を還元ガスに200℃未満の温度で5分以上2時間未満にわたり接触させる還元工程の実施;
e)工程d)で得た触媒を硫黄化合物で不活性化させる工程の実施
を含む、
方法。
【請求項2】
工程b)を工程a)の前に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程d)を130~190℃の温度で行う、請求項1及び2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
工程d)を10分~110分の間で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程e)を20~250℃の温度でかつ10分~240分の間で行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程e)において、硫黄含有化合物がチオフェン、チオファン、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、プロピルメチルスルフィド及びジチオジエタノールから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)と工程b)の間で触媒前駆体の乾燥工程を250℃未満で行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
銅の含有量が、触媒の全重量に対する銅元素の重量を基準として0.5~12%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
銅前駆体が、酢酸銅、アセチルアセトナート銅、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅及びフッ化銅から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
銅前駆体が硝酸銅である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程d)の還元ガスが二水素である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
触媒前駆体のリットル/時間/グラムで表される水素流量が、触媒前駆体の0.01~100リットル/時間/グラムの間である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程c)で得られた乾燥済触媒前駆体を熱処理する工程が、工程d)よりも前に、250~1000℃の温度で実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
担体がアルミナである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
最終沸点が650℃以下の炭化水素原料中に存在する少なくとも1つの芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化方法であって、
前記方法が気相又は液相中で、30~350℃の温度及び0.1~20MPaの圧力において、水素/(水素化される芳香族化合物)よりなるモル比が0.1~10でありかつ単位時間あたりの空間速度HSVが0.05~50h-1であるようにして、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法により調製される触媒の存在下で行われる、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル及び銅を含む担持金属触媒の調製方法に関する。この触媒は、特に不飽和炭化水素の水素化反応を意図したものである。
【0002】
本発明はまた、不飽和炭化水素の水素化反応における前記触媒の使用、特に芳香族化合物の水素化反応における前記触媒の使用、に関する。
【背景技術】
【0003】
芳香族化合物の水素化用触媒は一般に、ニッケルの如し元素周期表の第VIII族金属をベースとする。この金属はナノメートルサイズの金属粒子の形状で担体に担持させられており、担体は耐火性酸化物であってよい。第VIII族金属の含有量、任意の第2金属元素の存在の有無、金属粒子のサイズ、担体中の活性相の分布、並びに担体の性質及び細孔分布は、触媒能に影響するパラメータであり得る。
【0004】
水素化反応速度を律する基準は幾つかある。例えば、触媒表面に向かう反応物の拡散(外部拡散制限)や、担体細孔に含まれる活性部位に向かう反応物の拡散(内部拡散制限)である。また、活性部位特有の属性である金属粒子の大きさや担体内部における活性相の分布が挙げられる。
【0005】
ニッケル系触媒の作用を増進させ、不飽和炭化水素の水素化反応におけるパフォーマンスを高めるための提案が、頻繁になされている。例えば、水素化反応の選択性における性能レベルを上げる目的で、ニッケル系触媒の作用を促進させる提案がしばしばなされており、実例として米国特許第5208405号明細書には、C4-C10ジオレフィンの選択的水素化のためのニッケル-銀系触媒が開示されている。また、主成分たるニッケルの触媒能をIB族の金属、特に金(仏国特許発明第2949077号明細書)又はスズ(仏国特許発明第2949078号明細書)で増進させる取り組みも知られている。また、仏国特許発明第3011844号明細書には、選択的水素化法を実施するための触媒が開示されている。この触媒には担体と、担体表面に堆積させられた活性金属相とが含まれており、かつこの活性金属相には銅と、ニッケル及びコバルトより選ばれる少なくとも一の金属とが含まれている。モル比Cu:(Ni及び/又はCo)は、1より大きいとされる。
【0006】
さらに、そうした触媒の利用や、水素化方法における触媒の使用に先立ち、還元ガスの存在下で還元処理工程を行うことにより、少なくとも活性相が部分的に金属形態とさせられた触媒が得られる。この処理により触媒を活性化し、金属粒子を形成できる。この処理は、in situ又はex situで、即ち水素化反応器に触媒を充填する前後で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第5208405号明細書
【文献】仏国特許発明第2949077号明細書
【文献】仏国特許発明第2949078号明細書
【文献】仏国特許発明第3011844号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(発明の主題)
出願人は、水素化触媒の領域で調査研究を継続したのち、次のことを見出した。即ち、ニッケル前駆体及び銅前駆体より選ばれる二種の特定金属前駆体を特定のCu:Ni比率で多孔性担体に連続的かつ非同時的に接触させる工程の後、in situ還元工程を200℃未満の温度で還元ガスの存在下に触媒反応器において実施することにより、芳香族化合物の水素化反応において特に活性と選択性が良好な触媒を調製できることを見出した。
【0009】
また、注目すべきは、触媒調製間に銅が存在すると、金属(銅及びニッケル)前駆体の添加順序によらず担体上のニッケルの還元性が大きく向上し、金属元素の還元工程を、還元ガスの存在下、従来一般に使用されてきた触媒よりも低い温度で、かつ短い時間で実施できるようになる。ただしどのような理論にも拘束されないことが望まれる。
【0010】
また、従来の方法よりも緩やかな条件で操作を行うことにより、芳香族化合物の水素化用の反応器内で還元工程を直接的に実施できるようになる。さらに、触媒内部に銅を存在させることにより、硫黄を含む炭化水素系供給原料と接触させた時の耐性が向上する。実際、ニッケルとの比較において、触媒に存在する銅は、供給原料に含まれる硫黄含有化合物をより容易に捕捉し、この働きにより、触媒におけるニッケルの最も被毒されやすい活性部位の、不可逆的な被毒が回避される。
【0011】
そして、本発明の調製方法によると、特に相互に異なる独立した二つの工程を実施し、担体に金属前駆体を含浸させることによって、本発明では望まれないニッケル-銅系合金の形成を避けることができる。事実この合金は、活性及び/又は選択性が、ニッケル単体との対比において劣ると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一の主題は、芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化用触媒の調製方法であり、この触媒はバイメタリック活性相と担体を含む。バイメタリック活性相は、触媒の全重量に対してニッケル元素が10~50重量%の比率である第1ニッケル金属元素と、触媒の全重量に対して銅元素が0.5~15重量%の比率である第2銅元素とに基づいており、銅とニッケルのモル比は1未満である。担体は少なくとも一の耐火性酸化物を含んでおり、シリカ、アルミナ及びシリカ-アルミナから選択される。かかる調製方法は、以下の工程を含む。
【0013】
a)担体を、少なくとも一のニッケル前駆体を含む少なくとも一の溶液と接触させる、少なくとも一の工程の実施;
b)担体を、少なくとも一の銅前駆体を含む少なくとも一の溶液と接触させる、少なくとも一の工程の実施;
工程a)及び工程b)の個別かつ順次の実施;
c)工程a)及び工程b)の終了時点、又は、工程b)及び工程a)の終了時点において、250℃未満の温度で触媒前駆体を乾燥させる少なくとも一の工程の実施;
d)工程c)の終了時点で得られた触媒前駆体を、芳香族化合物の水素化用反応器に供給し、前記前駆体を還元ガスに200℃未満の温度で5分以上2時間未満にわたり接触させる還元工程の実施;
e)工程d)で得た触媒を硫黄化合物で不活性化させる工程の実施
【0014】
工程b)は、工程a)の前に実施するのが好ましい。
【0015】
工程d)は、130~190℃の温度で実施するのが有利である。
【0016】
工程d)は、10分~110分間実施するのが有利である。
【0017】
工程e)は、20~350℃の温度で10~240分間実施するのが有利である。
【0018】
工程e)で用いる硫黄化合物は、チオフェン、チオファン、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、プロピルメチルスルフィド及びジチオジエタノールより選択するのが好ましい。
【0019】
触媒前駆体を250℃未満の温度で乾燥させる工程は、工程a)と工程b)の間で実施するのが有利である。
【0020】
銅含有量は、触媒の総重量に対し、銅元素基準で0.5~12重量%にするのが有利である。
【0021】
銅前駆体は、酢酸銅、アセチルアセトネート銅、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅及びフッ化銅から選択するのが好ましい。
【0022】
銅前駆体は硝酸銅が好ましい。
【0023】
工程d)の還元ガスは二水素が好ましい。
【0024】
水素流量は、l/hr/g (gは触媒前駆体のグラム数)で表され、0.01~100 l/hr/gであるのが好ましい
【0025】
工程c)で得た乾燥済触媒前駆体の熱処理工程は、工程d)の前に、かつ250~1000℃の温度で行うのが有利である。
【0026】
担体はアルミナが好ましい。
【0027】
本発明の別の主題は、最終沸点が650℃以下の炭化水素原料中に存在する少なくとも一の芳香族化合物又は多環芳香族化合物を水素化する方法に関する。この方法は、気相又は液相において、本発明に係る製造法で得られる触媒の存在下、30~350℃の温度及び0.1~20MPaの圧力で、(水素)/(水素化される芳香族化合物)のモル比が0.1~10となるように、かつ時間空間速度(HSV)が0.05~50h-1となるようにして行う。
【0028】
1.定義
以下、化学元素群は、CAS分類(CRC Handbook of Chemistry and Physics, Press, Editor in Chief D.R. Lide, 81版, 2000-2001)に従う。例えばCAS分類によるグループVIIIは、新IUPAC分類による8、9、10周期の金属に相当する。
【0029】
触媒に含まれる金属Mの還元度(DR:Degree of Reduction)は、還元工程後の触媒における金属Mの百分率として定義される。この還元度(DR)は、被還元性金属(M1)の量と、触媒上に存在しかつ理論的に還元させられる金属(M2)のX線蛍光法により測定される量との比率に対応しており、DR(%)=(M1/M2)×100と換言できる。本発明において、ニッケル(Ni)の還元度はX線回折(XRD)分析によって測定する。酸化物たる触媒における被還元性金属の量を測定する方法は本明細書で後述する(例えばセクションcを参照)。
【0030】
本発明に係る触媒又は触媒調製用担体の比表面積は、BET比表面積を意味すると解される。BET比表面積は、標準ASTM D 3663-78に準拠した窒素吸着法で決定される。この規格は刊行物「Journal of the American Chemical Society」(60,309(1938))に記載のBrunauer-Emmett-Teller法に基づき起草されている。
【0031】
「マクロ孔」は、開口径が50nmより大きい細孔を意味すると解される。
【0032】
「メソ孔」は、開口径が2nm~50nmの細孔を意味すると解され、限定的である。
【0033】
「ミクロ孔」は、開口径が2nm未満の細孔を意味すると解される。
【0034】
「全細孔容積」なる用語は、本発明に係る触媒又は当該触媒の調製に用いる担体に適用し、ASTM D4284-83に従う水銀圧注入法により最大圧力4000bar(400MPa)、表面張力484dyne/cm及び接触角140°で測定された容積を意味する。濡れ角度は140°とされ、この値はJean Charpin及びBernard Rasneurの共著「l'ingeneuer、traite ansalyse et caracterisation(Techniques of the Engineer, Analysis and Characterization Treatise)( 1050~1055頁)」における推奨値である。
【0035】
より正確を期すならば、全細孔容積値は、水銀侵入ポロシメーターを用いて測定した試料の全細孔容積値と、水銀侵入ポロシメーターを用い30psi(約0.2MPa)の圧力で測定した試料の全細孔容積値との差分に相当する。
【0036】
マクロ孔とメソ孔の容積は、水銀圧入法に依り、ASTM D4284-83に従い、最大圧力4000bar (400MPa)で測定する。そのさい、表面張力は484dyne/cmとし、接触角は140°とする。全粒界の空隙に水銀が行き渡る圧力は0.2 MPaに設定する。この圧力以上で試料の細孔内部に水銀が侵入すると考えられる。
【0037】
本発明に係る触媒又は触媒調製用担体のマクロ孔容積は、0.2MPa~30MPaの圧力で侵入させた水銀の容積の累積値で定義され、見かけ上の直径が50nm以上の細孔内に在る容積に対応する。
【0038】
本発明に係る触媒又は触媒調製用担体のメソ孔容積は、30MPa~400MPaの圧力で侵入させた水銀の容積の累積値で定義され、見かけ上の直径が2~50nmの細孔内に存在する容積に対応する。
【0039】
ミクロ孔の容積は窒素ポロシメトリーで測定する。微孔隙率の定量分析には所謂"t"法(Lippens-De Boer法(1965))を利用する。この方法は出発吸着等温線の変換(a transform of the starting adsorption isotherm)にあたり、論文「粉末及び多孔質固体による吸着」(Rouquerol, J. Rouquerol and K. Sing, Academic Press, 1999)で詳しく説明されている。
【0040】
また、メソ孔のメディアン径は次のように定義する。即ち、メソ孔の容積は複合した細孔によって構成されているところ、それらに在って大きさが前記メディアン径未満の全ての細孔のうち、水銀圧入式ポロシメーターの測定値たる全メソ容積の50%を構成する細孔の径として扱う。
【0041】
また、マクロ孔のメディアン径は次のように定義する。即ち、マクロ孔の容積は複合した細孔によって構成されているところ、それらに在って大きさが前記メディアン径未満の全ての細孔のうち、水銀圧入式ポロシメーターの測定値たる全メソ容積の50%を構成する細孔の径として扱う。
【0042】
2.詳細な説明
触媒調製法
本発明のバイメタル触媒は、ニッケル及び銅ベースの活性相と、担体とを含む。この担体には少なくとも一の耐火性酸化物が含まれており、シリカ、アルミナ及びシリカ-アルミナから選択される。このバイメタル触媒を調製する方法には少なくとも以下の工程が含まれる。
a)担体を、少なくとも一のニッケル前駆体を含む少なくとも一の溶液と接触させる、少なくとも一の工程の実施;
b)担体を、少なくとも一の銅前駆体を含む少なくとも一の溶液と接触させる、少なくとも一の工程の実施;
前記工程a)とb)の個別かつ順次の実施;
c)触媒前駆体の乾燥を、工程a)及び工程b)の終了時点、又は、工程b)及び工程a)の終了時点において、250℃未満の温度で実施する、少なくとも一の工程の実施;
d)得られた触媒前駆体を、工程c)の終了時点において、芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化用反応器に供給し、前記前駆体を還元ガスに200℃未満の温度で5分以上2時間未満接触させる、一の還元工程の実施;
e)工程d)で得た触媒を硫黄化合物で不活性化させる工程の実施
【0043】
工程a) ニッケル前駆体の接触
工程a)の含浸に依りニッケルを担体に堆積させるには、乾式含浸若しくは過剰含浸、又は堆積-沈殿といった、当業者に良く知られた方法を利用できる。
【0044】
工程a)は、担体の含浸により行うのが好ましく、例えば、担体を少なくとも一の溶液中で接触状態に置く。この溶液は、水溶液若しくは有機溶液(例えばメタノール、エタノール、フェノール、アセトン、トルエン、若しくはジメチルスルホキシド(DMSO))、又は水と少なくとも一の有機溶媒より事実上構成される混合物であり、少なくとも一のニッケル前駆体が部分的に溶解した状態で含まれている。或いは、前記担体をコロイド状の溶液中で接触状態に置く。この溶液には少なくとも一のニッケル前駆体が含まれており、この前駆体は酸化形態(酸化物若しくはオキシ(水酸化物)又はニッケル水酸化物のナノ粒子)か、還元形態(還元状態のニッケルの金属ナノ粒子)にある。溶液としては水溶液が好ましい。水溶液のpHは、酸又は塩基を別途加えることによって、調節できる。他の好ましい代替的な態様では、水溶液にアンモニア又はアンモニウムイオン(NH4 +)を含めてよい。
【0045】
工程a)は、乾式含浸で行うのが好ましい。具体的には、少なくとも一のニッケル前駆体を含む溶液内で触媒担体を接触状態に置く。溶液の体積は、含浸させる担体の細孔容積の0.25~1.5倍である。
【0046】
ニッケル前駆体を水溶液に導入する場合、ニッケル前駆体は、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、水酸化物、ヒドロキシカーボネート、蓚酸塩、硫酸塩若しくはギ酸塩、又は錯体の形態で用いると有利である。錯体としては、ポリ酸の錯体、若しくは酸-アルコール及びそれらの塩の錯体、アセチルアセトネートの錯体、テトラミン若しくはヘキサミンによる錯体、又は、水溶液に可溶な他の任意の無機誘導体の錯体がある。かかる形態のニッケル前駆体は、前記担体との接触状態に置かれる。
【0047】
好ましくは、ニッケル前駆体としては硝酸ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル又はヒドロキシ炭酸ニッケルが有利である。より好ましい前駆体は硝酸ニッケル、炭酸ニッケル又は水酸化ニッケルである。
【0048】
ニッケル前駆体の溶液への導入量は、触媒の全重量に対するニッケルの総含有量がニッケル元素の重量基準で10~50%、好ましくは14~45%、好ましくは20~40%となるよう選択される。この態様において、工程a)は乾式含浸又は過剰含浸により行い、乾式含浸が好ましい。担体へのニッケルの含浸は少なくとも二回繰り返すのが有利であり、各含浸のさい、同種又は異種のニッケル前駆体を用いる。この場合、各含浸の後に乾燥と任意の熱処理を行うと有益である。
【0049】
工程b) 銅前駆体の接触
工程b)の含浸により銅を担体に堆積させるには、乾式含浸若しくは過剰含浸、又は堆積-沈殿といった、当業者に良く知られた方法を利用できる。
【0050】
工程b)は、担体の含浸により行うのが好ましく、例えば、担体を少なくとも一の溶液中で接触状態に置く。この溶液は、水溶液若しくは有機溶液(例えばメタノール、エタノール、フェノール、アセトン、トルエン若しくはジメチルスルホキシド(DMSO))、又は、水と少なくとも一の有機溶媒とより事実上構成される混合物であり、少なくとも一の銅前駆体が部分的に溶解した状態で含まれている。或いは、前記担体をコロイド状の溶液中で接触状態に置く。この溶液には少なくとも一の銅前駆体が含まれており、この前駆体は、酸化形態(酸化物若しくはオキシ(水酸化物)又は銅水酸化物のナノ粒子)か、還元形態(還元状態の銅の金属ナノ粒子)にある。溶液としては水溶液が好ましい。水溶液のpHは、酸又は塩基を別途加えることによって、調節できる。他の好ましい代替的な態様では、水溶液にアンモニア又はアンモニウムイオン(NH4 +)を含めてよい。
【0051】
工程b)は、乾式含浸で行うのが好ましい。具体的には、少なくとも一の銅前駆体を含む溶液内で触媒担体を接触状態に置く。溶液の体積は、含浸させる担体の細孔容積の0.25~1.5倍である。
【0052】
銅前駆体を水溶液に導入する場合、銅前駆体は鉱物又は有機物の形態で用いるのが有利である。鉱物形態は、酢酸銅、アセチルアセトネート銅、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅及びフッ化銅から選択できる。より好ましい形態は硝酸銅である。
【0053】
銅前駆体の溶液への導入量は、触媒の全重量に対して銅の総含有量が銅元素の重量基準で0.5~15%、好ましくは0.5~12%、より好ましくは0.75~10%、更に好ましくは1~9%となるよう選択される。
【0054】
工程a)と工程b)は、個別に、順次実施する。ニッケル前駆体の含浸と銅前駆体の含浸は同時に行わず、ニッケル-銅ベース合金を形成させないようにする。この合金は本発明において望ましくない。というのも、活性及び/又は選択性がニッケル単体よりも低いからである。このニッケル単体も、本発明では望まれない。
【0055】
工程b)は、工程a)の前に実施するのが好ましい。即ち、第一に銅前駆体を担体に含浸させる工程を実施し、第二にニッケル前駆体を同担体に含浸させる工程を実施する(予備含浸)。出願人の発見によると、銅前駆体を担体に予備含浸(ニッケル前駆体の含浸に関わる。)させることにより、ニッケルの還元性についてより良い結果が、銅前駆体の事後含浸(ニッケル前駆体の含浸に関わる。)との対比において、得ることができた。以上において、触媒の還元における操作条件(温度、時間、還元ガス)は同一である。
【0056】
必要であれば、前記二つの連続した含浸工程の間で、触媒前駆体を乾燥させる工程を実施してもよい。この工程は、250℃未満、好ましくは15~240℃、より好ましくは30~220℃、更に好ましくは50~200℃、一層好ましくは70~180℃の温度で、通常10分~24時間にわたり行う。
【0057】
工程c) 含浸済担体の乾燥
工程c)では、含浸済の担体を乾燥させる。乾燥は、250℃未満、好ましくは15~180℃、より好ましくは30~160℃、更に好ましくは50~150℃、一層好ましくは70~140℃の温度で、通常10分~24時間、実施する。乾燥時間は、より長くしてもよいが、改善は必ずしも見込めない。
【0058】
乾燥工程は、当業者に知られた任意の方法で実施できる。この工程は、不活性雰囲気中若しくは酸素含有雰囲気中、又は、不活性ガスと酸素の混合物の存在下で実施するのが有利であり、大気圧又は減圧下で行うとより有利である。この工程は、大気圧下で、かつ空気又は窒素の存在下で実施するのが好ましい。
【0059】
乾燥済触媒の熱処理(任意の工程)
乾燥させた触媒前駆体には更に熱処理工程を、還元工程d)に先立ち、経由させてもよい。熱処理工程は、250~1000℃、好ましくは250~750℃の温度で、通常15分~10時間、不活性雰囲気中又は酸素含有雰囲気中において、任意に水の存在下で行う。処理時間は延長してもよいが、改善は必ずしも見込めない。
【0060】
「熱処理」なる用語は温度処理を意味し、水分の存在下における処理と不存在下における処理のいずれも想定される。後者処理の場合、蒸気との接触は、大気圧下又は自生圧力下で生じ得る。水分存在下の熱処理と不存在下の熱処理は、組み合わせて複数回行ってもよい。熱処理を一回又は複数回行った後に得られる触媒前駆体には、ニッケルが酸化物形態で、即ちNiO形態で含まれる。
【0061】
水分が存在する場合、その含有量は乾燥空気1kg当たり150~900グラムであり、250~650グラムが好ましい。
【0062】
工程d) 還元ガスによる還元
触媒反応器内における触媒の使用と水素化方法の実施に先立ち、還元処理工程d)を還元ガスの存在下で実施することによって、ニッケルを含むとともに少なくとも部分的に金属形態とさせられた触媒が得られる。この工程はin situで、即ち反応器に触媒を充填した後で実施し、同反応器において芳香族又は多環芳香族化合物の水素化反応が行われる。かかる処理により、前記触媒を活性化し、金属粒子、特にゼロ価状態のニッケルを形成させることが可能となる。かかる触媒還元処理をin situで行うことにより、触媒を酸素含有物質或いは二酸化炭素で不動態化させる工程を省略できる。この不動態化工程は、触媒還元工程をex situで、即ち選択水素化反応器の外部で行う場合に必要とされる。事実、ex situで還元処理を行う場合には、触媒の金属相を維持する目的で、活性化工程を空気存在下に行う必要がある(操作の間、触媒が水素化反応器に移送され、充填が行われる)。その後、新たに触媒還元工程が行われる。
【0063】
還元ガスは水素が好ましい。水素としては、純水素又は水素混合物(例えば水素/窒素、水素/アルゴン又は水素/メタン混合物)を使用できる。水素混合物はあらゆる比率を想定できる。
【0064】
本発明の調製方法の基本態様では、前記還元処理を200℃未満、好ましくは130~190℃、より好ましくは145~175℃の温度で行う。またこの処理は、5分~2時間未満、好ましくは10分~110分に亘る。従来技術よりも操作条件を緩やかにすることにより、多価不飽和画分の選択的水素化反応を、この反応のために設計された容器内で、直接実施することが可能となる。また、触媒中に銅を存在させることにより、触媒の活性を好適に維持できるようになるのみならず、触媒の耐用期間も良好となる。かかる効果は、銅が存在する触媒を、硫黄を含む炭化水素系原料中で接触状態に置いた場合、特にC3炭化水素フラクションの蒸気接触分解及び/又触媒接触分解に付した場合に奏される。実際、ニッケルとの対比において、触媒中に存在する銅により、炭化水素原料に含まれる硫黄含有化合物の捕捉が容易となり、新しい触媒上に存在するニッケルの最も高い活性部位の非可逆的な被毒を回避できるようになる。
【0065】
還元温度は通常緩やかに上昇させる。上昇幅は、例えば0.1~10℃/分、好ましくは0.3~7℃/分の間で設定する。
【0066】
水素流量は、リットル/時間/触媒前駆体グラムで示され、0.01~100リットル/時間/触媒前駆体グラム、好ましくは0.05~10リットル/時間/触媒前駆体グラム、より好ましくは0.1~5リットル/時間/触媒前駆体グラムである。
【0067】
活性化工程e)
本発明の方法で調製した触媒は、硫黄含有化合物を用いた不動態化工程を経由させることによって選択性が改善され、スタートアップ使用間の熱暴走が回避可能となる。この不動態化の本質は、調製した触媒上に存在させられたニッケルの活性部位のうち最も被毒性が高い部位を硫黄含有化合物で不可逆的に被毒させる点と、そのことにより当該触媒の選択性に関わる活性を弱める点にある。不動態化の工程は、当業者に公知の方法により実施する。
【0068】
硫黄化合物を用いる不動態化工程は、通常20~350℃、好ましくは40~200℃の温度で、10~240分間実施する。硫黄含有化合物は、例えば次に示す化合物、即ちチオフェン及びチオファン、並びにアルキルモノスルフィドとして例えばジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド及びプロピルメチルスルフィド、並びに式HO-C2H4-S-S-C2H4-OHで示される有機ジスルフィドとして例えば式HO-C2H4-S-S-C2H4-OHで示されるジチオジエタノール(DEODSとも称される)より選択される。硫黄含有量は一般に、触媒の全重量に対し当該元素が0.1~2重量%となる範囲である。
【0069】
触媒
本発明の調製方法で得られる触媒は、ニッケル及び銅ベースの活性相と担体とを含有する。担体は耐火性酸化物を含み、シリカ、アルミナ及びシリカ-アルミナから選択される。
【0070】
溶液中に導入する銅前駆体の量は、触媒の総重量に対して銅の総含有量が銅元素基準で0.5~15重量%、好ましくは0.5~12重量%、より好ましくは0.75~10重量%、一層好ましくは1~9重量%となるように選択される。銅の存在により、担体上のニッケルの還元性が大幅に改善し、これは金属前駆体(ニッケル及び銅)の添加の順序に関わらない。そのため金属元素の還元工程は、還元ガスの存在下、従来技術で一般的とされる温度よりも低い温度で実施できるようになり、還元時間も短縮できる。
【0071】
ニッケル含有量は、触媒の総重量に対して10~50重量%、好ましくは14~45重量%、好ましくは20~40重量%である。
【0072】
銅-ニッケル間のモル比は1未満、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.7未満、更に好ましくは0.6未満、一層好ましくは0.5未満、より一層好ましくは0.4未満でなければならない。
【0073】
多孔質担体は、シリカ、アルミナ及びシリカ-アルミナよりなる群から選択するが、アルミナが大変好ましい。アルミナはあらゆる結晶学的な存在形態をとり得る。例えばアルファ、デルタ、シータ、カイ、ロー、エタ、カッパ、ガンマなどの形態を単体でとり得るし、それらが組み合わさった形態もとり得る。当該担体は、アルファ、デルタ、シータ及びガンマより選択されるアルミナが好ましい。
【0074】
担体の比表面積は、一般に30m2/g以上、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは60m2/g~500m2/g、更に好ましくは70m2/g~400m2/gである。BET比表面積は窒素物理吸着で測定する。
【0075】
担体の全細孔容積は、一般に0.1~1.5cm3/g、好ましくは0.35~1.2cm3/g、より好ましくは0.4~1.0cm3/g、更に好ましくは0.45~0.9cm3/gである。
【0076】
前記触媒は一般に、当業者に公知のあらゆる形態で提供され、例えば押出物、ブロック又は中空円筒のビーズ(一般に1~8mmの直径を有する)が挙げられる。なかでも押出物よりなる触媒であって、直径が通常0.5~10mm、好ましくは0.8~3.2mm、より好ましくは1.0~2.5mmであり、かつ平均長さが0.5~20mmのものが好適である。押出物の「平均直径」なる用語は、押出物の断面で囲繞される円の直径を平均した値を意味する。この触媒よりなる押出物は、円筒状、多葉状、三葉状又は四葉状の形態で提供するのが有利であり、三葉状又は四葉状が好ましい。葉形の調節は従来公知のあらゆる方法に従い行える。
【0077】
担体の比表面積は、一般に30m2/g以上、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは60m2/g~500m2/g、更に好ましくは70m2/g~400m2/gである。
【0078】
触媒の全細孔容積は、一般に0.1~1.5cm3/g、好ましくは0.35~1.2cm3/g、より好ましくは0.4~1.0cm3/g、更に好ましくは0.45~0.9cm3/gである。
【0079】
触媒は、有利には、0.6ml/g以下、好ましくは0.5ml/g以下、より好ましくは0.4ml/g以下、更に好ましくは0.3ml/g以下のマクロ孔容積を有する。
【0080】
触媒のメソ多孔質容積は、一般に、少なくとも0.10ml/g、好ましくは少なくとも0.20ml/g、好ましくは0.25ml/g~0.80ml/g、より好ましくは0.30~0.65ml/gである。
【0081】
メソ孔のメディアン径は、有利には3~25nm、好ましくは6~20nm、より好ましくは8~18nmである。
【0082】
触媒のマクロ孔のメディアン径は、有利には50~1500nm、好ましくは80~1000nm、より好ましくは250~800nmである。
【0083】
好ましくは、触媒は低い微細孔性を示す。より好ましくは微細孔性を示さない。
【0084】
芳香族化合物の水素化法
本発明の別の主題は、少なくとも一の芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化方法であり、それら化合物は最終沸点が650℃以下、一般に20~650℃、好ましくは20~450℃の炭化水素原料中に存在する。この炭化水素原料は、少なくとも一の芳香族化合物又は多環芳香族化合物を含んでおり、次に示す石油留分又は石油化学留分より選ばれる。即ち、触媒改質、灯油、軽質軽油、重質軽油、FCCリサイクル油、コークス化ユニット軽油及び水素化分解留分である。
【0085】
本発明の水素化方法で処理された炭化水素原料に含まれる芳香族化合物又は多環芳香族化合物の含有量は、炭化水素原料の総重量に対し、一般に0.1~80重量%、好ましくは1~50重量%、特に好ましくは2~35重量%である。前記炭化水素原料中に存在する芳香族化合物は、ベンゼン又は、アルキル芳香族化合物としてのトルエン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン若しくはp-キシレンである。他にもナフタレンのような芳香環を複数有する化合物(ポリ芳香族化合物)が挙げられる。
【0086】
原料に含まれる硫黄又は塩素の量は、一般に、硫黄又は塩素の重量基準で5000ppm未満、好ましくは100ppm未満、特に好ましくは10ppm未満である。
【0087】
芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化方法の実施技術としては、例えば、炭化水素原料と水素をアップフロー又はダウンフローによって少なくとも一の固定床反応器に注入させる方法が挙げられる。この反応器は等温型又は断熱型であればよく、断熱反応器が好ましい。かかる反応器は注入口と流出口の間に配置させられており、内部では芳香族化合物の水素化反応が生じている。そしてこの反応器からの流出物を同反応器に再度、一回又は複数回にわたり注入させて炭化水素原料を希釈すると、同反応器内の温度を一定勾配に制限することができるため、有益である。再注入は、同反応器の任意の位置で行える。芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化を、本発明に従い技術的に実施する方法としては、少なくとも前述の被担持触媒を反応性蒸留カラム、反応器-交換器又はスラリー型反応器に注入する方法が有用である。水素流は、水素化される供給原料と同時に、及び/又は、反応器上の一以上の異なる位置で、導入できる。
【0088】
芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化は、気相中又は液相中で行うことができ、液相中が好ましい。一般に、芳香族化合物又は多環芳香族化合物の水素化は、30~350℃、好ましくは50~325℃の温度で、かつ0.1~20MPa、好ましくは0.5~10MPaの圧力で行う。また、(芳香族化合物又は多環芳香族化合物を有する炭化水素原料の水素)/(水素化される芳香族化合物)のモル比は0.1~10であり、かつ単位時間当たりの空間速度は0.05~50h-1、好ましくは0.1~10h-1である。該炭化水素原料の最終沸点は650℃以下、一般には20~650℃、好ましくは20~450℃である。
【0089】
水素流量は、すべての芳香族化合物を理論的に水素化するとともに、反応器の出口で水素量を過剰に保つのに十分な量の水素となるよう、調節される。
【0090】
芳香族化合物又は多環芳香族化合物の転化率は、一般に、炭化水素ベースの原料に含まれるそれら化合物の20モル%、好ましくは40モル%、より好ましくは80モル%を超え、一層好ましくは90モル%を超える。転化率の計算は、炭化水素原料中の芳香族化合物又は多環芳香族化合物の総モル数と、生成物におけるそれらの総モル数との差分値を、炭化水素原料中の芳香族化合物又は多環芳香族化合物の総モル数で割ることにより行う。
【0091】
本発明の方法を代替する具体的な態様はベンゼンの水素化方法である。ベンゼンは炭化水素原料に、例えば触媒改質ユニットより生ずる改質物に含まれている。炭化水素原料に含まれるベンゼンの量は一般に0.1~40重量%、好ましくは0.5~35重量%、より好ましくは2~30重量%であり、炭化水素原料の総重量を基準とする。
【0092】
炭化水素供給原料に含まれる硫黄又は塩素の量は、一般に、硫黄又は塩素の重量としてそれぞれ10ppm未満、好ましくは2ppm未満である。
【0093】
炭化水素供給原料に含まれるベンゼンの水素化は、気相中又は液相中で行うことができ、液相が好ましい。液相で実施する場合には、溶媒として例えばシクロヘキサン、ヘプタン又はオクタンを存在させ得る。一般に、ベンゼンの水素化は、30~250℃、好ましくは50~200℃、より好ましくは80~180℃の温度で、かつ0.1~10MPa、好ましくは0.5~4MPaの圧力で行い、水素/(ベンゼン)のモル比は0.1~10、かつ単位時間あたりの空間速度は0.05~50h-1、好ましくは0.5~10h-1である。
【0094】
ベンゼンの転化率は通常50mol%超、好ましくは80mol%超、より好ましくは90mol%超、一層好ましくは98mol%超である。
【0095】
以下、実施例によって本発明を説明するが、それらにより本発明が限定されることは決してない。
【0096】
実施例
以下で述べる実施例の触媒は全て、担体がアルミナAである。アルミナAの比表面積は80 m2/g、細孔容積は0.7ml/g、メディアン孔径は12nmである。
【0097】
実施例1: Ni前駆体水溶液の調製
硝酸ニッケルNi(NO3)2.6H2O(供給元:ストリームケミカルズ(登録商標)) 9gを、13mlの蒸留水に溶解させることによって、Ni前駆体(溶液S)の水溶液を調製し、触媒A~Gの調製のために用いた。溶液SのNiは水溶液1リットル当たり230gであり、これをNi濃度とした。
【0098】
実施例2: 触媒A-Ni20重量%(比較)
実施例1で溶液Sを2つ調製し、それらを順に、10gのアルミナAに乾式含浸させた(2回の含浸サイクル)。このようにして得られた固体を120℃のオーブン内で一晩乾燥させた後、触媒1 l/h/gの空気流下、450℃で2時間、か焼させた。このようにして調製したか焼済触媒は、アルミナ担持触媒の全重量に対して20重量%のニッケル元素を含んでいた。
【0099】
実施例3: 触媒B-20重量%のNiと0.1重量%のCuを予備含浸させた態様(比較)
-含浸番号 1
最終触媒上のCuが最終的に0.1重量%となるように調製した硝酸銅水溶液をアルミナA上に乾式含浸させたのち、得られた固体を120℃のオーブン内で一晩乾燥させた。
【0100】
-含浸番号2、3
実施例1で溶液Sを2つ調製し、それらを順に、含浸番号1で事前に調製した10gの触媒前駆体上に乾式含浸させた(含浸サイクル2回)。このようにして得られた固体を120℃のオーブン内で一晩乾燥させた後、単位触媒重量かつ単位時間あたり1リットルの空気流の存在下、450℃で2時間、か焼させた。
【0101】
実施例4: 触媒C-Ni 20重量%とCu 1重量%の予備含浸(本発明の態様)
本実施例の手順は、硝酸銅溶液を調製しかつ1重量%のCuをアルミナ上に担持させた点を除き、実施例3の手順と同じであった。
【0102】
実施例5: 触媒D-Ni 20重量%とCu 1重量% 共含浸(比較)
硝酸銅水溶液を、最終触媒上の銅元素が最終的に1重量%となるようにして調製し、この銅溶液と前記S溶液を同時にアルミナに加えた(共含浸)。次に、この溶液Sについて、二回目の含浸工程を、一回目の共含浸工程の後に得られた触媒前駆体上で実施した。次に、得られた固体を120℃のオーブン中で12時間乾燥させ、更に1l/h/gの触媒空気流下、450℃で2時間、か焼させた。
【0103】
実施例6: 触媒F-Ni 20重量%とCu 2重量%を事後含浸(本発明の態様)
-含浸番号 1,2
実施例1で調製した2つの溶液Sを、10gのアルミナAに、連続的に乾式含浸させた(2回の含浸サイクル)。次に、得られた固体を120℃のオーブン中で12時間、乾燥させた。
-含浸番号 3
硝酸銅水溶液を、最終触媒における銅元素が2重量%となるように調製した。次に該水溶液を、前記溶液Sの二回目の含浸工程後に得られた触媒前駆体に、乾式含浸させた。次いで、得られた固体を120℃のオーブン中で12時間乾燥させ、1l/h/gの触媒空気流下、450℃で2時間、か焼させた。
【0104】
実施例7: 触媒E- Ni 20重量%とCu 2重量%との予備含浸(本発明の態様)
この実施例で用いた手順は、硝酸銅溶液を調製しかつ2重量%のCuをアルミナ上に担持させた点を除き、実施例3の手順と同じであった。
【0105】
実施例8: 触媒G-Ni 20重量%とCu 5重量%の予備含浸(本発明の態様)
この実施例で用いた手順は、硝酸銅溶液を調製しかつ5重量%のCuをアルミナ上に担持させた点を除き、実施例3の手順と同じであった。
【0106】
実施例9:同定
すべての触媒は、含浸間の目標物質、即ち、触媒全重量に対して20%のニッケル元素(蛍光X線で同定)と、前記添加量の銅(蛍光X線で同定)とを含有していた。
【0107】
還元工程後に生成した金属形態のニッケルの量は、X線回折(XRD)分析によって、粉末状の触媒サンプルについて、同定した。還元工程に始まりXRD同定が終了するまで触媒は一度も外気に曝されなかった。回折パターンは、放射線結晶写真分析により得た。分析は、銅のKα1放射(λ=1.5406Å)を有する従来の粉末法に依り、回折計を用いて行った。
【0108】
還元度の計算は、52°(2θ)付近に位置するNi0に基づくライン面積を、分析にかけた各触媒サンプルの回折図全てについて計算した後、アルミニウム由来のシグナルを差し引くことによって計算した。このシグナルは、周囲温度に到達直後、52°の前記ラインの下に出現する。焼成後の全ての銅-ニッケル含有触媒上に、デルタ形態及びシータ形態のアルミナと、CuO(テノライト)と、NiOとが、室温において検出された。
【0109】
下記表1で、触媒A~Gの全てについて、還元度(Niの総重量に対する重量%で表記)を照合した。還元度は、還元工程を水素流下に170°で90分間実施した後、XRDで同定した値である。これらの値は、触媒A(Niのみ)について、従来の還元工程(即ち水素流下、400℃、15時間)後に得られた還元度と対比させた。
【0110】
水素(H2)流下に170℃で90分間還元させた触媒G(5% Cu、20% Ni、アルミナ)については、ニッケルの還元度が100%であり、銅の還元度も同様であった。触媒A(20% Ni単独、アルミナ)についてはニッケル還元度が0%であり、水素流下の還元処理は同一であった。還元ニッケル(Ni0)担体上に存在するすべての酸化ニッケルを銅により還元できることが明らかとなった。
【0111】
続けて、銅とニッケルを両方含む触媒を、300℃に昇温させた硫化水素流の下で処理した後、XRDスペクトルを記録し、時間と温度の関数として分析した。結果、NiO相が硫化されてNi3S4とNiSになり、CuO相が酸化されてCu1.75Sになり、更に酸化銅が最初に硫化させられる種であることが分かった。これにより、本発明の方法で調製した触媒が、銅の存在なしに、既知の方法で調製された触媒と比較して、硫黄含有原料に対してより耐性があることが示された。実際、銅が硫黄を優先的に捕捉し、残存したNi0は、被処理物である供給原料に含まれる種々の化合物を水素化させるために用いられる。
【0112】
表1で全触媒の還元度を要約した。還元度は、水素流下に170℃で90分間還元を行った後のXRDで特徴付けられる。従来の還元法と対比させるべく、従来法に従い水素流下に400℃で15時間還元を行った後のNi0含有量を、Ni単独/アルミナに対して付記した。予備含浸時に銅を1%加えた直後のニッケル還元度は50%であったが、水素流下に同一の処理をニッケル単体触媒について適用した場合、ニッケルの還元度はゼロであった。さらに、銅の添加量を同一にするとともに水素下で同一の処理を行う条件において、予備含浸(触媒C、50% Ni0)として銅を添加した場合、事後含浸(触媒E、40% Ni0)としての銅の添加よりも効率的であった。なお、事後含浸それ自体は、共含浸(触媒D、30% Ni0)としての銅の添加よりも効果的であった。さらに、2%銅(触媒F、80% Ni0)の添加は、触媒Aと同程度のニッケル還元度をもたらした。この触媒Aは、より高い温度(400℃)で、より長い時間(15 h)、処理したものである。 最後に、5%銅(触媒G)を添加した場合には、水素下で170℃及び90分間の処理により、100% Ni0に達した。
【0113】
表1:全触媒について、還元処理を170℃で90分間実施した場合と、Ni単体/アルミナ触媒について還元処理を170℃で90分間実施した場合とについてのNi0含有量
【0114】
【表1】
【0115】
実施例10:触媒テスト:トルエンの水素化性能レベル
上記実施例の触媒A~Gについては、トルエンの水素化反応テストも実施した。
【0116】
水素化反応は、500mlのステンレス鋼オートクレーブ中で実施した。このオートクレーブは磁気駆動式の機械的撹拌機を備えており、最高圧力100barr(10 MPa)及び5℃~200℃の間の温度で作動可能である。
【0117】
オートクレーブに、216mlのn-ヘプタン(供給元 VWR(登録商標)、純度>99%、chromanorm HPLC)と2mlの触媒(A~Gの触媒)を仕込んだ。次いで、このオートクレーブを35 barr(3.5 MPa)の水素下で加圧した。触媒A~Gは、最初にin situで、170℃で90分間(温度上昇勾配1℃/分)、還元させられた。
【0118】
次いで、オートクレーブをテスト温度(80℃)に戻し、t = 0の時点で、約26gのトルエン(供給元 SDS(登録商標)、純度>99.8%)をこのオートクレーブに導入し(反応混合物の初期組成は故にトルエン6wt%/n-ヘプタン94wt%である)、1600rpmで撹拌を開始した。オートクレーブ内の圧力は、このオートクレーブの上流に位置する貯蔵シリンダを使用して、35バール(3.5 MPa)で一定に保った。
【0119】
触媒Aについて同じテストを実施した。触媒還元温度は400℃であり、還元時間は15時間であった。
【0120】
反応の進行は、反応媒体よりサンプルを一定の時間間隔で採取することによって、モニターした。トルエンは完全に水素化され、メチルシクロヘキサンが得られた。水素消費量は、オートクレーブ上流に位置する貯蔵シリンダの圧力低下により、経時的にモニターした。
【0121】
触媒A~Gの触媒活性を、通常の還元条件下(400℃、水素流下15時間)で調製した触媒Aについて測定された触媒活性(AHYD)との関連において、示した。
【0122】
表2:トルエン水素化性能レベルの比較
【0123】
【表2】
【0124】
表2より、本発明に係る触媒C、E、F及びGの性能レベルが改善したことが判明した。これに対し、アルミナ上にニッケルのみを担持させた触媒は、170℃で90分間の還元において、完全に不活性であった。以上は、同じ触媒を調製する間、ニッケル前駆体の添加前後に銅前駆体を触媒前駆体に加えたことの影響を特に示している。