(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】原子炉発電システムの電気出力を増強する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G21C 1/32 20060101AFI20230922BHJP
G21C 1/00 20180101ALI20230922BHJP
G21C 5/18 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G21C1/32
G21C1/00 100
G21C5/18
(21)【出願番号】P 2020568686
(86)(22)【出願日】2019-04-22
(86)【国際出願番号】 US2019028439
(87)【国際公開番号】W WO2020046428
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-04-11
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-003678(JP,B1)
【文献】特開昭57-119276(JP,A)
【文献】特開2002-357691(JP,A)
【文献】特開2011-232125(JP,A)
【文献】特開2014-085119(JP,A)
【文献】特表2014-525046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0322328(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 1/32
G21C 1/00
G21C 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子発生パネル(10)であって、
Z値の小さい金属
より成り、当該電子発生パネルを囲む外部ハウジングを形成する外被(26)と、
当該外被(26)内に位置するZ値の大きい金属より成り、当該外被(26)を
当該外被から電気的に絶縁された状態で貫通する正の出力ピン(24)を有するエミッタ
(22)を形成する電子発生
器と、
当該エミッタ(22)と
当該エミッタの側方の当該外被(26)との間に位置
する電子電荷コレクタ(28)であって、
当該コレクタから延び、当該正の出力ピン(24)から離隔して電気的に絶縁された状態で当該外被(26)を
当該外被から電気的に絶縁された状態で貫通する負の出力ピン(30)を有する、Z値の小さい金属より成る電子電荷コレクタ(28)と、
当該エミッタ(22)と当該コレクタ(28)との間の空間を占める第1の絶縁材層(32)と、
当該外被(26)
と当該コレクタ(28)
との間の空間を占める
第2の絶縁材層(32)と
を備える電子発生パネル(10)。
【請求項2】
前記Z値の大きい金属が鉛またはタングステンである、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項3】
前記Z値の小さい金属がインコネルまたは合金鋼である、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項4】
前記絶縁材層(32)が酸化アルミニウムまたはB-10より成る、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項5】
前記エミッタ(22)を取り囲む絶縁材層(32)が厚さ約1mmの円筒体である、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項6】
複数の燃料集合体を具備する原子炉炉心の外周部とその周囲の構造部材(20)との間に配置されている、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項7】
前記周囲の構造部材がバッフルフォーマ板構造(14、18)であり、前記電子発生パネル(10)が前記炉心を取り囲む当該バッフルフォーマ板構造(14、18)のバッフル板(14)に固着されている、請求項6の電子発生パネル(10)。
【請求項8】
前記電子発生パネルの厚さが約3mmである、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項9】
前記エミッタ(22)と前記エミッタの前記コレクタ(28)とは反対側にある前記外被(26)との間に位置するCo-59層(34)を
さらに含み、
前記第1の絶縁材層(32)は前記エミッタ(22)の周囲にあって当該Co-59層と前記エミッタ(22)との間
へ延び、前記第2の絶縁材層(32)は前記コレクタ(28)と当該Co-59層(34)の周囲にあって前記外被(26)と当該Co-59層(34)との間
へ延びる、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項10】
前記コレクタ(28)が前記エミッタ(22)の対向する両側にまたがり、前記エミッタの対向する両側に位置する前記コレクタが互いに導通する、請求項1の電子発生パネル(10)。
【請求項11】
前記コレクタ(28)が前記エミッタ(22)を取り囲む円筒体である、請求項10の電子発生パネル(10)。
【請求項12】
モジュール式燃料ラック(38)の燃料集合セルの壁(40)に支持されている、請求項10の電子発生パネル(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して原子力発電システムに関し、具体的には、原子炉で発生させた熱を利用してタービン発電機を駆動するかかるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の原子力発電システムは、原子炉で発生させた熱を蒸気に変換し、この蒸気によりタービン発電機を駆動して交流電力を発生させる。交流電流は配電網に送られ、消費者や産業界への電力の供給に使用される。このプロセスによると、現在最も広く使われている原子力技術としての軽水炉では、核分裂によって放出される全エネルギーのうち利用可能な電力に変換できるのは高々約30%に過ぎない。効率がこのように低いのは、現用原子炉の設計に固有のエネルギー変換経路(すなわち熱エネルギーから機械エネルギーへの変換経路)にとって逃れられない熱力学的効率の限界、およびそのような経路を特徴づける熱力学的エネルギーと機械的エネルギーの変換時のエネルギー損失が存在するからである。こうした低効率は、既存の原子力発電所で発電される電力のコストにマイナスの影響を及ぼす。
【0003】
本発明の目的は、そうした非効率性を部分的に克服するために、核分裂過程の副生成物を利用し、直接的な補助的変換プロセスにより、かかるシステムが発電可能な電力量を増加させることにある。
【発明の概要】
【0004】
上記および他の目的は、本発明に基づき、Z値の小さい金属の外被と、当該外被内に位置するZ値の大きい金属より成り、当該外被を貫通する正の出力ピンを有するエミッタを形成する電子発生器と、当該エミッタと当該外被との間に位置し、当該正の出力ピンから離隔して電気的に絶縁された状態で当該外被を貫通する負の出力ピンを有する、Z値の小さい金属より成る電子電荷コレクタと、当該外被、当該エミッタおよび当該コレクタの間の空間を占める絶縁材層とを備える電子発生パネルによって達成される。一実施態様において、当該Z値の大きい金属は鉛またはタングステンより成り、当該Z値の小さい金属はインコネルまたは鋼合金より成る。当該絶縁材層は、酸化アルミニウムまたはB-10より成り、望ましくは約1mmの厚さを有する。
【0005】
原子炉へ適用する場合、電子発生パネルを、原子炉炉心の外周と、当該炉心を取り囲むバッフルフォーマ板構造のような構造部材との間に配置し、バッフル板をフォーマ板に取り付けるネジによってフォーマ板に固着することができる。好ましくは、電子発生パネルの厚さを約3mmにし、電子発生パネルをバッフル板に取り付けるネジを、電子発生パネルから電気的に絶縁された状態にする。
【0006】
原子炉停止時の電気出力を増強するために、電子発生パネルの、エミッタと当該エミッタのコレクタとは反対側にある外被との間にCo-59層を設け、当該外被と当該Co-59との間および当該Co-59と当該エミッタとの間に絶縁材を配置した別の実施態様がある。
【0007】
電子発生パネルの両側がガンマ線の照射を受けるようにしたさらに別の実施態様では、コレクタはエミッタの対向する両側にまたがり、当該エミッタの対向する両側に位置する当該コレクタは互いに導通する。そのような実施態様では、コレクタをエミッタを取り囲む円筒体にしてもよい。電子発生パネルを、炉心内、使用済燃料プール内、または使用済燃料貯蔵キャスク内のモジュール式燃料ラックの燃料集合体セルの壁に支持させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0009】
【
図1】本発明の一実施態様の部分断面概略図である。
【0010】
【
図2】炉心槽とバッフルフォーマの配置構成を分かりやすくするために一部を破断して示す原子炉容器と炉心槽の概略図である。
【0011】
【0012】
【
図4】本発明の一実施態様である両面型ガンマ線捕集パネルをセル壁インサートとして使用した、モジュール式燃料集合体貯蔵セルラック部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施態様において、原子炉システムは、核分裂による熱だけをエネルギー源とせずに、核分裂過程で放出されるエネルギーをよりいっそう取り込む別のエネルギー変換経路を組み込む設計によって増強される。本発明のアプローチによると、原子力発電所の発電量を大幅に増加させるとともに、それに応じて純発電費用を低減させることが可能となる。
【0014】
原子炉発電システムに適用されるそのような一実施態様において、燃料棒内の燃料ペレットからの核分裂ガンマ線のエネルギーを発電に利用できる電位に変換する装置を、
図1に示す。
図1は、本発明によって企図される、本願では電子発生パネル(10)とも称される放射線エネルギー捕集装置の好ましい実施態様の
部分断面を示す。
図1に示す実施態様において、ガンマ線捕集パネル(10)は、鉛やタングステンなどの原子番号(Z)の大きい材料によって形成される中央部のエミッタ(22)を含み、当該エミッタ(22)は、酸化アルミニウムやB-10などの
第1の耐高温電気絶縁材
層(32
a)に取り囲まれている。エミッタ(22)の正の出力ピン(24)は、ガンマ線捕集パネル(10)全体を取り囲んで外部ハウジングを形成する外被(26)を、それから電気的に絶縁された状態で貫通する。外被(26)は、Z値の小さい金属によって形成するのが好ましい。インコネルや合金鋼のようなやはりZ値の小さい材料により形成される電荷コレクタ(28)は、外被(26)内の、エミッタ(22)の炉心とは反対側に配置され、当該コレクタ(28)から延びる負の出力ピン(30)は、外被(26)を、それから電気的に絶縁された状態で貫通する。コレクタ(28)もまた、
第2の耐高温電気絶縁材
層(32
b)に取り囲まれている。
【0015】
核分裂過程で放出されるガンマ線と、不安定な核分裂副生成物からのガンマ線とにより、原子炉バッフル板(
図2の14で示す)の外側または燃料集合体(図示せず)の表面の周囲に位置するエミッタの薄層(約0.1mm)の中にコンプトン電子および光電子が生成される。エミッタ層(22)を取り囲む円筒状の酸化アルミニウム絶縁材の薄層(32
a)(約0.1mm)を貫通するに十分なエネルギーを有する電子は、絶縁材の薄層(32
a)に向き合い隣接するコレクタ(28)内で停止させられる。これにより、エミッタ層とコレクタ層との間に実質的な電圧差が生じる。本発明は、この電圧差を利用して、原子炉の運転時および停止時の両方で有意な電力を発生させる方法を企図している。また、この発明思想は、プレート型核燃料集合体に適用する場合も、燃料の表面積と体積の比が大きいことから有効である。また、プレート型燃料集合体では燃料濃縮度が高めであることから、この方法を用いて発電される相対的な電力量が大幅に増強される。
【0016】
図2は、ガンマ線捕集パネル(10)が、バッフル(14)をバッフルフォーマ金具(18)に接続するためのボルト貫通部(16)を利用して当該バッフル(14)にボルト止めされた原子炉容器(12)の切欠き図である。バッフルフォーマ金具は、炉心槽(20)内側の円形表面と炉心内の周縁部燃料集合体(図示せず)の段付き周縁部との間の移行部として使用される。この方法によると、バッフル(14)の点検時や原子炉を廃炉にする際、ガンマ線捕集パネル(10)を簡単に取り外すことができる。ガンマ線捕集パネル(10)はボルト貫通部内のそれから絶縁された2つの金属円筒体(36)を用いてバッフル板(14)に取り付けられるが、当該2つの円筒体(36)はバッフル板(14)と同じステンレス鋼などの材料で構成され、ガンマ線捕集パネルに沿って離隔した位置にある。当該円筒体(36)は取付けスリーブとして機能するが、酸化アルミニウムのような絶縁材の
第1の層(32c)と第2の層(32d)が当該スリーブとガンマ線捕集パネルとの間に介在する。
【0017】
核分裂事象によるガンマ線や不安定な核分裂生成物からのガンマ線は、基本的にすべて燃料ペレットから放出される。ガンマ線の大部分は、コンプトンまたは光電相互作用によって、原子炉を取り囲むガンマ線捕集パネル内の原子を電離させる。コンプトンおよび光電相互作用により、ガンマ線捕集パネルのエミッタ(22)とコレクタ(28)との間に位置する絶縁材を通り抜けるほど十分大きい運動エネルギーを有する電子が多数発生する。このプロセスの最終結果として、コレクタ材料が大きな正味の負電荷を、また、エミッタ材料が大きな正味の正電荷を持つことになる。その結果生じる大きな電圧差により電流を発生させ、その電流を利用して有用な電力量を発電することができる。自己給電型タングステン検出器素子によって測定した性能データは、数百キロワットから数メガワットの発電が可能であることを示している。
【0018】
Co-59の薄層(34)をエミッタ層(22)の原子炉側に配置して、原子炉停止時に利用可能な電力を増加させる別の実施態様が可能である。Co-59は、原子炉が高出力で運転中のときにCo-60に変換される。Co-60の崩壊により放出されるガンマ線が、原子炉停止時に放出される核分裂生成物からのガンマ線を補足する。したがって、Co-60からのガンマ線は、原子炉停止時にも利用可能な電力を発生させるガンマ線源となる。
【0019】
図3は、ガンマ線捕集パネル(10)の両側からガンマ線エネルギーを捕集するよう最適化された両面ガンマ線捕集パネル装置の概略図である。
図1の設計と
図3の設計の主な違いは、ガンマ線捕集パネルの両側の面にコレクタ構造(28)を追加したことである。両方のコレクタ(28)は、互いに、また負の出力ピン(30)と導通し、エミッタ(22)
からは第1の絶縁材層(32a)によって、および外被(26
)から
は第2の絶縁材層(32
b)によって
、それぞれ分離されている。この二重陰極構成は、全方向からガンマ線を照射される装置に適している。
【0020】
図4は、炉心内の燃料、使用済燃料プール内の燃料集合体、または乾式燃料貯蔵庫に置かれた燃料集合体のいずれかを取り囲んで封入するためのモジュール式燃料集合体貯蔵装置部(38)の格子構成を示す。装置(38)内の格子セル(40)の壁は、
図3に示す様式の両面ガンマ線捕集パネルで構成されており、各セル(40)の壁には、冷却材の流れを促進するための流出口(42)が設けられている。各セルは、一個の燃料集合体を受け入れるサイズになっている。これらの用途ではいずれも、有意な量の有用な電力を得ることができる。使用済燃料プールや乾式貯蔵キャスクの用途では、中性子反応度制御のために、外側の酸化アルミニウム層の代わりに高密度のホウ素を使用することができる。また、この構成は、沸騰水型原子炉燃料集合体において、燃料ピンを取り囲む「缶」と一体化させることも可能である。
【0021】
4ループ加圧水型原子炉のバッフル板の上に、電子発生パネルが、有効長144インチ(3657.6mm)の燃料を有し、表面が隣接する44体の17×17型燃料集合体に対向する状態で支持されると想定して、本発明を使用するための計算を行った。その結果、原子炉出力のさらなる増加は約50MWeであることがわかった。
【0022】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。