(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】架橋性ゴム組成物、アクリルゴム及びゴム硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/08 20060101AFI20230922BHJP
C08K 5/18 20060101ALI20230922BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230922BHJP
C08C 19/22 20060101ALI20230922BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230922BHJP
C08F 222/16 20060101ALI20230922BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20230922BHJP
F16L 11/06 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08L33/08
C08K5/18
C08K3/04
C08C19/22
C08F220/10
C08F222/16
C08F210/02
F16L11/06
(21)【出願番号】P 2020569400
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2019046019
(87)【国際公開番号】W WO2020158132
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019015901
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】中野 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】宮内 俊明
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084514(JP,A)
【文献】特開2009-209268(JP,A)
【文献】特開2008-214418(JP,A)
【文献】国際公開第2009/099113(WO,A1)
【文献】国際公開第2001/096416(WO,A2)
【文献】特開2001-192420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00-33/26
C08K 5/18
C08K 3/04
C08C 19/22
C08F 220/10
C08F 222/16
C08F 210/02
F16L 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルゴムと、下記式(A-1)で表されるアミン化合物と、カーボンブラックと、架橋剤と、を含有し、
前記アクリルゴムが、アクリル酸エステル単位とカルボキシ基含有モノマー単位とを有し、且つ、前記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5~10質量部のエチレン単位、
及び、前記アクリル酸エステル単位100質量部に対して5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位を有する、架橋性ゴム組成物。
【化1】
[式(A-1)中、R
1は水素原子又はアミノ基を示す。]
【請求項2】
前記カルボキシ基含有モノマー単位の含有量が、前記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.1~5質量部である、請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
前記アクリルゴムが有するカルボキシル基の総数C
1に対する、前記アミン化合物が有するアミノ基(-NH
2)の総数C
2の比(C
2/C
1)が、0.1~5である、請求項1又は2に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
アクリル酸エステル単位と、
カルボキシ基含有モノマー単位と、
下記式(B-1)で表される基を有するアミン含有モノマー単位と、
前記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5~10質量部のエチレン単位、
及び、前記アクリル酸エステル単位100質量部に対して5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位と、
を有する、アクリルゴム。
【化2】
[式(B-1)中、R
1は水素原子又はアミノ基を示す。]
【請求項5】
前記アミン含有モノマー単位の含有量が、前記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.1~5質量部である、請求項4に記載のアクリルゴム。
【請求項6】
前記カルボキシ基含有モノマー単位及び前記アミン含有モノマー単位の合計数に対する、前記アミン含有モノマー単位の数の比が、0.09~0.8である、請求項4又は5に記載のアクリルゴム。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載のアクリルゴムと、カーボンブラックと、架橋剤と、を含有する、架橋性ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~3及び7のいずれか一項に記載の架橋性ゴム組成物の硬化物である、ゴム硬化物。
【請求項9】
請求項8に記載のゴム硬化物を含有する、ホース部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性ゴム組成物、アクリルゴム及びゴム硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性・耐油性に優れるゴム材料として知られており、アクリルゴムを含有するゴム組成物を硬化した硬化物は、自動車部品等に好適に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、カルボキシル基含有アクリル系ゴムに、グアニジン化合物、ジアミン化合物、フェノール系老化防止剤から組み合わせて配合してなるアクリル系ゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-175840号公報
【文献】特許4851398号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、排ガス規制対策、エンジンの高出力化等により、自動車用ゴム部品には更なる耐熱性が求められている。特に、ホース部材においては、高温下における引張強度及び伸びの低下を抑制することが求められている。
【0006】
本発明は、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下が抑制されたゴム硬化物を形成することが可能な、架橋性ゴム組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下を抑制可能なアクリルゴム、及び当該アクリルゴムを含有する架橋性ゴム組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下が抑制されたゴム硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、アクリルゴムと、下記式(A-1)で表されるアミン化合物と、カーボンブラックと、架橋剤と、を含有する架橋性ゴム組成物に関する。この組成物において、アクリルゴムは、アクリル酸エステル単位とカルボキシ基含有モノマー単位とを有し、且つ、上記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5~10質量部のエチレン単位、及び/又は、上記アクリル酸エステル単位100質量部に対して5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位を有する。
【化1】
[式(A-1)中、R
1は水素原子又はアミノ基を示す。]
【0008】
一態様において、上記カルボキシ基含有モノマー単位の含有量は、上記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.1~5質量部であってよい。
【0009】
一態様において、上記アクリルゴムが有するカルボキシル基の総数C1に対する、上記アミン化合物が有するアミノ基(-NH2)の総数C2の比(C2/C1)は、0.1~5であってよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、アクリル酸エステル単位と、カルボキシ基含有モノマー単位と、下記式(B-1)で表される基を有するアミン含有モノマー単位と、上記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5~10質量部のエチレン単位、及び/又は、上記アクリル酸エステル単位100質量部に対して5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位と、を有する、アクリルゴムに関する。
【化2】
[式(B-1)中、R
1は水素原子又はアミノ基を示す。]
【0011】
一態様において、上記アミン含有モノマー単位の含有量は、上記アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.1~5質量部であってよい。
【0012】
一態様において、上記カルボキシ基含有モノマー単位及び上記アミン含有モノマー単位の合計数に対する、上記アミン含有モノマー単位の数の比が、0.09~0.8であってよい。
【0013】
本発明の更に他の一側面は、上記アクリルゴムと、カーボンブラックと、架橋剤と、を含有する、架橋性ゴム組成物に関する。
【0014】
本発明の更に他の一側面は、上記架橋性ゴム組成物の硬化物である、ゴム硬化物に関する。
【0015】
本発明の更に他の一側面は、上記ゴム硬化物を含有する、ホース部材に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下が抑制されたゴム硬化物を形成することが可能な、架橋性ゴム組成物が提供される。また、本発明によれば、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下を抑制可能なアクリルゴム、及び当該アクリルゴムを含有する架橋性ゴム組成物が提供される。更に、本発明によれば、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下が抑制されたゴム硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(架橋性ゴム組成物)
<第一の実施形態>
第一の実施形態に係る架橋性ゴム組成物は、アクリルゴムと、下記式(A-1)で表されるアミン化合物と、カーボンブラックと、架橋剤と、を含有する。
【0019】
【0020】
式(A-1)中、R1は水素原子又はアミノ基を示す。
【0021】
第一の実施形態において、アクリルゴムは、アクリル酸エステル単位とカルボキシ基含有モノマー単位とを有し、且つ、アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5~10質量部のエチレン単位、及び/又は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位を有する。
【0022】
第一の実施形態に係る架橋性ゴム組成物では、アクリルゴムがカルボキシ基含有モノマー単位を有している。また、式(A-1)で表されるアミン化合物が、熱劣化の抑制作用を有するジフェニルアミン骨格とアミノ基(-NH2)とを有している。このため、第一の実施形態に係る架橋性ゴム組成物を硬化すると、アクリルゴムのカルボキシ基とアミン化合物のアミノ基とが脱水縮合してアミド結合が形成される。当該アミド結合によって、アクリルゴムにジフェニルアミン骨格が連結されるため、ゴム硬化物の熱劣化(特に、引張強度及び伸びの低下)が抑制される。
【0023】
また、第一の実施形態に係る架橋性ゴム組成物では、アクリルゴムが、エチレン単位及び/又はメタクリル酸アルキルエステル単位を有している。通常、アクリルゴムは、高温下に晒されると熱分解によって低分子量化する傾向がある。そして、上述のようにジフェニルアミン骨格がアクリルゴムに結合している場合、アクリルゴムが低分子量化すると、ジフェニルアミン骨格を含む低分子量分が揮発して、熱劣化抑制効果が低下してしまう場合がある。これに対して、第一の実施形態では、アクリルゴムが上記特定の構成単位を有しているため、熱分解時に架橋反応が同時に進行し、アクリルゴムの低分子量化が抑制されると考えられる。このため、第一の実施形態では、低分子量分の揮発による効果低下が避けられ、熱劣化(特に、引張強度及び伸びの低下)が顕著に抑制される。
【0024】
以下、架橋性ゴム組成物の各成分について詳述する。
【0025】
アクリルゴムは、アクリル酸エステル単位と、カルボキシ基含有モノマー単位と、エチレン単位及び/又はメタクリル酸アルキルエステル単位と、を有している。
【0026】
アクリル酸エステル単位は、アクリル酸エステルに由来する構成単位である。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられ、これらのうち、アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0027】
アクリル酸アルキルエステルは、例えば、炭素数1~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルであってよく、好ましくは炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、より好ましくは炭素数2~4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルである。
【0028】
アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-メチルペンチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ドデシル等が挙げられる。
【0029】
アクリルゴム中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、アクリルゴムの総量基準で、例えば50質量%以上であってよく、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。また、アクリルゴム中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、アクリルゴムの総量基準で、例えば99.9質量%以下であってよく、好ましくは99.8質量%以下であり、より好ましくは99.7質量%以下である。
【0030】
カルボキシ基含有モノマー単位は、カルボキシ基含有モノマーに由来する構成単位である。カルボキシ基含有モノマーは、カルボキシ基を有し、且つ、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能なモノマーであればよい。
【0031】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられる。
【0032】
不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキシル、桂皮酸等が挙げられる。
【0033】
不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルが好ましい。不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステルが有するアルキル基は、例えば、炭素数1~12のアルキル基であってよく、好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2~4のアルキル基である。
【0034】
不飽和ジカルボン酸モノエステルの具体例としては、マレイン酸モノn-ブチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、フマル酸モノn-ブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノメチル等が挙げられる。
【0035】
カルボキシ基含有モノマー単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが更に好ましい。カルボキシ基含有モノマー単位の含有量を多くすることで、アミン化合物との反応点及び架橋剤による架橋点が多くなり、熱劣化抑制効果が向上しやすくなると共に、架橋性が向上してより剛直なゴム材料が得られやすくなる。
【0036】
また、カルボキシ基含有モノマー単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが更に好ましい。カルボキシ基含有モノマー単位の含有量が少なくすることで、ゴム硬化物の耐引裂き性が向上する傾向がある。
【0037】
エチレン単位は、エチレンに由来する構成単位である。
【0038】
アクリルゴムがエチレン単位を含有するとき、エチレン単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。エチレン単位の含有量を多くすることで、熱分解時に架橋反応が進行しやすくなり、アクリルゴムの低分子量化が抑制されて、熱劣化抑制効果が得られやすくなる。なお、アクリルゴムが、5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位を含有している場合、エチレン単位の含有量は必ずしも上記範囲である必要はない。
【0039】
また、エチレン単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。エチレン単位の含有量を少なくすることで、ゴム硬化物の伸びが、耐熱試験後に維持されやすくなる傾向がある。
【0040】
メタクリル酸アルキルエステル単位は、メタクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位である。
【0041】
メタクリル酸アルキルエステルは、例えば、炭素数1~12のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルであってよく、好ましくは炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルである。
【0042】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル等が挙げられる。
【0043】
アクリルゴムがメタクリル酸アルキルエステル単位を含有するとき、メタクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましい。メタクリル酸アルキルエステル単位の含有量を多くすることで、熱分解時に架橋反応が進行しやすくなり、アクリルゴムの低分子量化が抑制されて、熱劣化抑制効果が得られやすくなる。なお、アクリルゴムが、0.5~10質量部のエチレン単位を含有している場合、メタクリル酸アルキルエステル単位の含有量は必ずしも上記範囲である必要はない。
【0044】
また、メタクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。メタクリル酸アルキルエステル単位の含有量を少なくすることで、ゴム硬化物の耐寒性が向上する傾向がある。
【0045】
アクリルゴムは、エチレン単位及びメタクリル酸アルキルエステル単位からなる群より選択される少なくとも一方を有していればよく、両方を有していてもよい。
【0046】
アクリルゴムは、上記以外の他のモノマー単位を更に有していてもよい。他のモノマー単位としては、例えば、酢酸ビニル、メチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン、ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテル等のビニル又はアリルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル、アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、エチレン、プロピオン酸ビニル、マレイン酸ジメチルのようなマレイン酸ジエステル、フマル酸ジメチルのようなフマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジメチルのようなイタコン酸ジアルキルエステル、シトラコン酸ジメチルのようなシトラコン酸ジアルキルエステル、メサコン酸ジメチルのようなメサコン酸ジアルキルエステル、2-ペンテン二酸ジメチルのような2-ペンテン二酸ジアルキルエステル、アセチレンジカルボン酸ジメチルのようなアセチレンジカルボン酸ジアルキルエステル等のエチレン性不飽和化合物等が挙げられる。
【0047】
他のモノマー単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して20質量部以下であってよく、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下であり、0質量部(すなわち、他のモノマーを含まない)であってもよい。
【0048】
アミン化合物は、式(A-1)で表される化合物である。式(A-1)中、R1は水素原子又はアミノ基(-NH2)であり、好ましくは水素原子である。
【0049】
アクリルゴムが有するカルボキシル基の総数C1に対する、アミン化合物が有するアミノ基(-NH2)の総数C2の比(C2/C1)は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが更に好ましい。比(C2/C1)が上記範囲であると、長期耐熱性が一層向上する。
【0050】
また、比(C2/C1)は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。比(C2/C1)が上記範囲であると、架橋性ゴム組成物の架橋速度が向上する傾向がある。
【0051】
架橋性ゴム組成物におけるアミン化合物の含有量は特に限定されず、例えば、比(C2/C1)が上述の好ましい範囲となる含有量であればよい。
【0052】
架橋性ゴム組成物におけるアミン化合物の含有量は、例えば、アクリルゴム100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であってよく、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。また、アミン化合物の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0053】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、黒鉛化カーボンブラック等が挙げられる。
【0054】
架橋性ゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば20質量部以上であってよく、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。カーボンブラックの含有量を多くすることで、ゴム硬化物の機械特性がより向上する傾向がある。
【0055】
また、カーボンブラックの含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば90質量部以下であってよく、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。カーボンブラックの含有量を少なくすることで、ゴム硬化物のゴム弾性がより向上する傾向がある。
【0056】
架橋剤は、アクリルゴムを架橋できる架橋剤であればよい。架橋剤としては、カルボキシ基を有するアクリルゴムを架橋可能な架橋剤として公知の架橋剤を、特に制限なく用いることができる。
【0057】
架橋剤としては、架橋性ゴム組成物の加熱時にアクリルゴム中のカルボキシ基と反応して架橋構造を形成できる架橋剤が挙げられる。架橋剤は、例えば、カルボキシ基と反応可能な架橋基、又は、加熱により当該架橋基を生じさせる基を有するものであってよい。
【0058】
架橋剤としては、例えば、多価アミン化合物、多価アミン化合物の炭酸塩等が挙げられる。
【0059】
架橋性ゴム組成物における架橋剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であってよく、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。架橋剤の含有量を多くすることで、ゴム硬化物の機械特性がより向上する傾向がある。
【0060】
また、架橋剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。架橋剤の含有量を少なくすることで、ゴム硬化物の引張り伸びがより向上する傾向がある。
【0061】
架橋性ゴム組成物は、上記以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、滑剤、架橋促進剤、可塑剤、充填剤、補強剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0062】
滑剤としては、例えば、流動パラフィン、ステアリン酸、ステアリルアミン、脂肪酸亜鉛、脂肪酸エステル、オルガノシリコーン等が挙げられる。
【0063】
架橋性ゴム組成物における滑剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であってよく、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。滑剤の含有量を多くすることで、架橋性ゴム組成物の流動性が向上する傾向がある。
【0064】
また、滑剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。滑剤の含有量を少なくすることで、ゴム硬化物の耐熱性がより向上する傾向がある。
【0065】
架橋促進剤としては、架橋剤の種類に応じて、公知の架橋促進剤を適宜選択して使用することができる。
【0066】
架橋促進剤としては、例えば、脂肪族1価2級アミン化合物、脂肪族1価3級アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、第四級オニウム塩、第三級ホスフィン化合物、弱酸のアルカリ金属塩、及びジアザビシクロアルケン化合物等が挙げられる。
【0067】
架橋性ゴム組成物における架橋促進剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば0.1質量部以上であってよく、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。架橋促進剤の含有量を多くすることで、架橋性ゴム組成物の架橋時間を低減することができる。
【0068】
また、架橋促進剤の含有量は、アクリルゴム100質量部に対して、例えば10質量部以下であってよく、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。架橋促進剤の含有量を少なくすることで、ゴム硬化物の耐熱性がより向上する傾向がある。
【0069】
<第二の実施形態>
第二の実施形態に係る架橋性ゴム組成物は、アクリルゴムと、カーボンブラックと、架橋剤と、を含有する。
【0070】
第二の実施形態において、アクリルゴムは、アクリル酸エステル単位と、カルボキシ基含有モノマー単位と、下記式(B-1)で表される基を有するアミン含有モノマー単位と、アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.5~10質量部のエチレン単位、及び/又は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して5~20質量部のメタクリル酸アルキルエステル単位と、を有する。
【0071】
【0072】
式(B-1)中、R1は水素原子又はアミノ基を示す。
【0073】
第二の実施形態に係る架橋性ゴム組成物では、アクリルゴムが式(B-1)で表される基を有している。当該基は、ジフェニルアミン骨格を有しており、ゴム硬化物の熱劣化(特に、引張強度及び伸びの低下)を抑制する機能を有している。また、第二の実施形態に係る架橋性ゴム組成物では、アクリルゴムが、エチレン単位及び/又はメタクリル酸アルキルエステル単位を有しているため、高温下での熱分解による低分子量化が抑制され、低分子量分の揮発による効果の低下が避けられ、熱劣化(特に、引張強度及び伸びの低下)が顕著に抑制される。
【0074】
第二の実施形態におけるアクリルゴムは、第一の実施形態におけるアクリルゴム中のカルボキシ基の一部が式(A-1)で表されるアミン化合物と反応したものであってよい。すなわち、第二の実施形態におけるアクリルゴムが有するアクリル酸エステル単位、カルボキシ基含有モノマー単位、エチレン単位及びメタクリル酸アルキルエステル単位としては、第一の実施形態におけるアクリルゴムが有する各構成単位と同じものが例示できる。また、第二の実施形態において、アクリルゴム中のアクリル酸エステル単位、エチレン単位及びメタクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、第一の実施形態におけるアクリルゴム中の各構成単位の含有量と同様であってよい。
【0075】
第二の実施形態におけるアクリルゴム中、カルボキシ基含有モノマー単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることが更に好ましい。また、第二の実施形態において、カルボキシ基含有モノマー単位の含有量は、アクリル酸エステル単位100質量部に対して4.5質量部以下であることが好ましく、3.5質量部以下であることがより好ましく、2.5質量部以下であることが更に好ましい。
【0076】
第二の実施形態におけるアクリルゴム中、カルボキシ基含有モノマー単位及びアミン含有モノマー単位の合計数に対する、アミン含有モノマー単位の数の比は、0.09以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、当該比は、0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。
【0077】
第二の実施形態に係る架橋性ゴム組成物は、上記以外の他の成分を更に含有していてもよい。
【0078】
第二の実施形態におけるカーボンブラック、架橋剤及び他の成分としては、第一の実施形態におけるカーボンブラック、架橋剤及び他の成分と同じものが例示できる。また、第二の実施形態における各成分の含有量は、第一の実施形態における各成分の含有量と同様であってよい。
【0079】
(ゴム硬化物)
本実施形態に係るゴム硬化物は、上記架橋性ゴム組成物を熱硬化することで得ることができる。なお、本実施形態に係るゴム硬化物は、第一の実施形態に係る架橋性ゴム組成物の硬化物であってもよく、第二の実施形態に係る架橋性ゴム組成物の硬化物であってもよく、第一の実施形態に係る架橋性ゴム組成物及び第二の実施形態に係るゴム組成物の混合物の硬化物であってもよい。
【0080】
架橋性ゴム組成物の硬化条件は特に限定されない。硬化温度は、例えば150~220℃であってよく、好ましくは160~180℃である。硬化時間は、例えば5分~2時間であってよく、好ましくは5~60分である。
【0081】
本実施形態に係るゴム硬化物は、高温(例えば190℃)下での引張強度及び伸びの低下が抑制されているため、高温下に晒されるゴム部材として好適に用いることができる。
【0082】
本実施形態に係るゴム硬化物は、例えば、自動車、建設機械、油圧機器等のトランスミッションオイルクーラーホース、エンジンオイルクーラーホース、エアダクトホース、ターボインタークーラーホース、ホットエアーホース、ラジエターホース、パワーステアリングホース、燃料系統用ホース、ドレイン系統用ホース等のホース部材の用途に好適に用いることができる。
【0083】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0084】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
(アクリルゴムの作製)
<アクリルゴムAの作製>
以下の方法でアクリルゴムAを作製した。
内容積40リットルの耐圧反応容器に部分ケン化ポリビニルアルコール4質量%の水溶液17Kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、攪拌機でよく混合しながら槽内上部の空気を窒素で置換後、エチレンを槽上部に圧入し、圧力を3.5MPaに調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、アクリル酸エチル7.8Kg、アクリル酸n-ブチル3.4Kg、マレイン酸モノブチル300g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gのモノマー混合液を6時間かけて圧入した。同時に、別途注入口よりt-ブチルヒドロペルオキシド水溶液(0.25質量%、2リットル)を6時間かけて圧入し、最終重合率95%まで重合を行った。生成した重合液に硼酸ナトリウム水溶液(3.5質量%、7リットル)を凝固剤として添加して重合体を固化し、脱水及び乾燥を行ってアクリルゴムAとした。
【0086】
<アクリルゴムBの作製>
エチレン圧を10MPaに変更した以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムBを作製した。
【0087】
<アクリルゴムCの作製>
エチレン圧を0.5MPaに変更した以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムCを作製した。
【0088】
<アクリルゴムDの作製>
モノマー混合液をアクリル酸エチル7.8Kg、アクリル酸n-ブチル3.4Kg、マレイン酸モノブチル500g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gに変更した以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムDを作製した。
【0089】
<アクリルゴムEの作製>
モノマー混合液をアクリル酸エチル7.8Kg、アクリル酸n-ブチル3.4Kg、マレイン酸モノブチル150g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gに変更した以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムEを作製した。
【0090】
<アクリルゴムFの作製>
エチレンを用いないこと以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムFを作製した。
【0091】
<アクリルゴムGの作製>
モノマー混合液をアクリル酸エチル6.2Kg、アクリル酸n-ブチル3.9Kg、メタクリル酸メチル1.1kg、マレイン酸モノブチル300g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gに変更した以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムGを作製した。
【0092】
<アクリルゴムHの作製>
モノマー混合液をアクリル酸エチル5.6Kg、アクリル酸n-ブチル3.4Kg、メタクリル酸メチル2.2kg、マレイン酸モノブチル300g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gに変更した以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムHを作製した。
【0093】
<アクリルゴムIの作製>
モノマー混合液をアクリル酸エチル5.6Kg、アクリル酸n-ブチル3.4Kg、メタクリル酸メチル2.2kg、マレイン酸モノブチル300g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gに変更したこと、エチレンを用いないこと以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムIを作製した。
【0094】
<アクリルゴムJの作製>
モノマー混合液をアクリル酸エチル5.6Kg、アクリル酸n-ブチル3.4Kg、メタクリル酸メチル2.2kg、マレイン酸モノブチル300g、tert-ドデシルメルカプタン1.8gに変更したこと、エチレンを用いないこと以外はアクリルゴムAと同様にしてアクリルゴムIを作製した。
【0095】
(実施例1~15及び比較例1~5)
<架橋性ゴム組成物の作製>
以下の方法で架橋性ゴム組成物を作製した。
上記の方法で得たアクリルゴムを用いて、表1~表3の配合組成で、0.5L加圧型ニーダー、6インチオープンロールを用いて混練した。
【0096】
<ゴム硬化物の作製>
以下の方法でゴム硬化物を作製した。
得られた架橋性ゴム組成物を厚さ2.4mmのシートに分出しした後、プレス加硫機で170℃、40分間一次加硫をした後、170℃、4時間のギヤーオーブンで二次加硫をして、ゴム硬化物を作製した。
【0097】
<評価方法>
(1)スコーチタイム
JIS K6300-1-2013に従って測定した。
(2)加硫曲線
JIS K6300-2-2001に従って測定した。
(3)初期引張強度・伸び
JIS K6251-2010に従って測定した。
(4)初期硬度
JIS K6253-2006に従ってタイプAデュロメータを用いて測定した。
(5)圧縮永久歪み
JIS K6262-2013に従って測定した。
(6)耐熱性試験
JIS K6257-2010に従って、190℃、504時間の条件で行った。また、耐熱性試験後の引張強度、伸び及び硬度は、上記(3)及び(4)に記載のとおり測定した。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
なお、表中、「カーボンブラック:シーストSO」は、東海カーボン社製の商品名「シーストSO」(算術平均粒子径43nm)を示す。また、「老化防止剤:Naugard#445」は、Addivant社製の商品名「Naugard#445」を示す。また、「架橋剤:Diak#1」は、DuPont社製の商品名「Diak#1」を示す。また、「架橋促進剤:XLA-60」は、Rhein Chemie社製の商品名「XLA-60」を示す。