(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】円テーブル装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 16/10 20060101AFI20230922BHJP
B23Q 1/28 20060101ALI20230922BHJP
B23Q 1/52 20060101ALI20230922BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20230922BHJP
F16D 71/00 20060101ALI20230922BHJP
F16D 125/36 20120101ALN20230922BHJP
【FI】
B23Q16/10 C
B23Q1/28 C
B23Q1/52
F16D65/18
F16D71/00
F16D125:36
(21)【出願番号】P 2021178633
(22)【出願日】2021-11-01
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591028072
【氏名又は名称】株式会社日研工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三▲角▼ 進
(72)【発明者】
【氏名】中薗 隆美
(72)【発明者】
【氏名】吉本 浩治
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-173214(JP,A)
【文献】特開2017-159394(JP,A)
【文献】特開2017-089806(JP,A)
【文献】特開2016-087710(JP,A)
【文献】特開2016-022752(JP,A)
【文献】特開2016-070446(JP,A)
【文献】特開2010-247257(JP,A)
【文献】特開2010-214492(JP,A)
【文献】特開2010-099789(JP,A)
【文献】特開2009-184021(JP,A)
【文献】特開2009-090422(JP,A)
【文献】特開2006-183748(JP,A)
【文献】特開2002-018679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0259014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0235783(US,A1)
【文献】国際公開第2013/147245(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第04009165(DE,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02629745(FR,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0019599(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00-1/76
B23Q 5/00-5/58
B23Q 16/00-16/12
B60T 8/17
F16D 49/00-71/04
F16D 125:36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により前記回転軸を回転させ、クランプ機構により所定角度で前記回転軸を固定する円テーブル装置において、
前記クランプ機構は、
前記回転軸に固定され、前記回転軸と共に回転するブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクを軸方向両側から挟持固定する固定側クランプ部材および可動側クランプ部材と、
外径面および内径面を有し、軸方向に沿って移動可能な流体圧ピストンと、
前記流体圧ピストンの外径面側に位置し、前記流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダ形成部材と、
前記流体圧ピストンの内径面側に位置し、前記流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダカバーと、
前記流体圧ピストンと前記可動側クランプ部材と前記シリンダ形成部材との間に介在するとともに、軸方向および径方向に移動可能なボールとこのボールに接するカム面よりなる増力機構とを備え、
当該円テーブル装置は、
前記可動側クランプ部材を前記ブレーキディスクから離れるアンクランプ側に付勢する付勢部材と、
前記流体圧ピストンの内径面に当接する前記シリンダカバーに設けられ、前記流体圧ピストンの傾きを抑制して軸方向の移動を促進するピストン傾き抑制手段とを備える、円テーブル装置。
【請求項2】
前記ピストン傾き抑制手段は、前記ボールに接する、前記シリンダ形成部材のカム面の延長面と、前記シリンダカバーの外径面とが交わる箇所よりも前記ブレーキディスク側の領域に設けられる、請求項1に記載の円テーブル装置。
【請求項3】
前記ピストン傾き抑制手段は、前記シリンダ形成部材の外径面に嵌められた
、滑り性のよい金属またはフッ素樹脂からなるリングであり、
その外径寸法は、前記シリンダカバーの外径寸法よりもわずかに大きい、請求項1または2に記載の円テーブル装置。
【請求項4】
前記ピストン傾き抑制手段は、前記シリンダカバーの外径面上に円周方向等角度で設けられた複数の点接触凸部である、請求項1または2に記載の円テーブル装置。
【請求項5】
前記点接触凸部は、前記シリンダカバーの厚み部分を貫通するボールスクリューの先端部である、請求項4に記載の円テーブル装置。
【請求項6】
前記点接触凸部は、周方向に等間隔をあけて3つ設けられる、請求項5に記載の円テーブル装置。
【請求項7】
当該円テーブル装置は、前記回転軸が水平方向に保持されており、
前記3つの点接触凸部のうち2つは、下方の位置で水平な位置関係にある、請求項6に記載の円テーブル装置。
【請求項8】
回転軸の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により前記回転軸を回転させ、クランプ機構により所定角度で前記回転軸を固定する円テーブル装置において、
前記クランプ機構は、
前記回転軸に固定され、前記回転軸と共に回転するブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクを軸方向両側から挟持固定する固定側クランプ部材および可動側クランプ部材と、
外径面および内径面を有し、軸方向に沿って移動可能な流体圧ピストンと、
前記流体圧ピストンの外径面側に位置し、前記流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダ形成部材と、
前記流体圧ピストンの内径面側に位置し、前記流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダカバーと、
前記流体圧ピストンと記可動側クランプ部材と前記シリンダ形成部材との間に介在するとともに、軸方向および径方向に移動可能なボールとこのボールに接するカム面よりなる増力機構とを備え、
当該円テーブル装置は、
前記可動側クランプ部材を前記ブレーキディスクから離れるアンクランプ側に付勢する付勢部材と、
前記可動側クランプ部材を軸方向に貫通し、前記可動側クランプ部材の傾きを抑制して軸方向の移動を促進するクランプ部材傾き抑制手段とを備える、円テーブル装置。
【請求項9】
前記クランプ部材傾き抑制手段は、前記可動側クランプ部材に設けられた軸方向穴と、
前記可動側クランプ部材の軸方向一方側または他方側の固定部分に固定され、前記軸方向穴内に相対移動可能に挿入される固定ピンとを含む、請求項8に記載の円テーブル装置。
【請求項10】
前記クランプ部材傾き抑制手段は、前記軸方向穴と前記固定ピンとの間に設けられた滑り軸受を含む、請求項9に記載の円テーブル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円テーブル装置に関し、特に回転軸の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により回転軸を回転させ、クランプ機構により所定角度で回転軸を固定する円テーブル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを取り付けたテーブルを回転割出する円テーブル装置として、たとえば特開2002-18679号公報(特許文献1)に記載の装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、回転軸に一体的に設けられたブレーキディスクと、このブレーキディスクを加圧により挟持するクランプ部材と、このクランプ部材を直接加圧する複数のボールと、このボールを移動させるための流体圧ピストンとを備えた円テーブル装置が開示されている。この円テーブル装置では、流体圧ピストンによって動かされたボールで可動側クランプ部材を加圧することにより、クランプ部材間でブレーキディスクを挟持固定し、回転軸を所定の回転角度で停止保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の円テーブル装置では、可動側クランプ部材を押圧するためのボールが回転軸を取り囲んで全周に設けられている。可動側クランプ部材に対する加圧力を高めるには、できるだけ多くのボールを使用した方がよい。しかしながら、全周にわたって隣接するボール間に隙間が無い場合、ボールが加圧方向または非加圧方向にスムーズに動くことができない。そのため、全周にわたって配置されるボール間には、必ず隙間を設けなければならない。隣接するボール間に隙間が設けられている場合、各ボールはスムーズに動くことができるものの、状況によっては隣接するボールが密になる部分と疎になる部分が生じる場合がある。たとえば、
図7に示すように、円テーブル装置100を、その回転軸105が水平方向に保持されるタテ置き形式で用いる場合、重力の影響で下方の領域では隣接するボール間が密となり、上方の領域では隣接するボール間が疎となる。
【0006】
この場合、ボールからの反力を受ける流体圧ピストンに注目すると、ボールが密になっている部分では、ボールからの反力が大きくなり、ボールが疎になっている部分では、ボールからの反力が小さくなる。そのため、流体圧ピストンが軸方向に対して傾くおそれがある。また、可動側クランプ部材に注目すると、ボールが密になっている部分からは大きな加圧力を受け、ボールが疎になっている部分からの加圧力は相対的に小さなものとなり、可動側クランプ部材が軸方向に対して傾くおそれがある。
【0007】
流体圧ピストンまたは可動側クランプ部材が傾いた状態でクランプ動作を行えば、可動側クランプ部材を介してブレーキディスクに作用する加圧力は円周方向に不均一となり、安定したクランプ動作を行えなくなる。したがって、位置決めした位置が微少量動くことがある。また、流体圧ピストンや可動側クランプ部材が傾いて固まり、軸方向の動きができなくなれば、可動側クランプ部材をばねの付勢力によって元の位置に戻すことができず、アンクランプ状態を実現できなくなる。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、確実で安定したクランプ動作を実現することが可能な円テーブル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため本発明の一態様に係る円テーブル装置は、回転軸の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により回転軸を回転させ、クランプ機構により所定角度で回転軸を固定する円テーブル装置において、クランプ機構は、回転軸に固定され、回転軸と共に回転するブレーキディスクと、ブレーキディスクを軸方向両側から挟持固定する固定側クランプ部材および可動側クランプ部材と、外径面および内径面を有し、軸方向に沿って移動可能な流体圧ピストンと、流体圧ピストンの外径面側に位置し、流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダ形成部材と、流体圧ピストンの内径面側に位置し、流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダカバーと、流体圧ピストンと可動側クランプ部材とシリンダ形成部材との間に介在するとともに、軸方向および径方向に移動可能なボールとこのボールに接するカム面よりなる増力機構とを備え、円テーブル装置は、可動側クランプ部材をブレーキディスクから離れるアンクランプ側に付勢する付勢部材と、流体圧ピストンの内径面に当接するシリンダカバーに設けられ、流体圧ピストンの傾きを抑制して軸方向の移動を促進するピストン傾き抑制手段とを備える。
【0010】
好ましくは、ピストン傾き抑制手段は、ボールに接する、シリンダ形成部材のカム面の延長面と、シリンダカバーの外径面とが交わる箇所よりもブレーキディスク側の領域に設けられる。
【0011】
好ましくは、ピストン傾き抑制手段は、シリンダ形成部材の外径面に嵌められた摩擦係数の低いリングである。
【0012】
好ましくは、ピストン傾き抑制手段は、シリンダカバーの外径面上に円周方向等角度で設けられた複数の点接触凸部である。
【0013】
好ましくは、点接触凸部は、シリンダカバーの厚み部分を貫通穴に螺合するボールスクリューの先端部である。
【0014】
好ましくは、点接触凸部は、周方向に等間隔をあけて3つ設けられる。
【0015】
円テーブル装置は、その回転軸が水平方向に保持されているタテ置きの場合において、好ましくは3つの点接触凸部のうち2つは、下方の位置で水平な位置関係にある。
【0016】
本発明の他の態様に係る円テーブル装置は、回転軸の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により回転軸を回転させ、クランプ機構により所定角度で回転軸を固定する円テーブル装置において、クランプ機構は、回転軸に固定され、回転軸と共に回転するブレーキディスクと、ブレーキディスクを軸方向両側から挟持固定する固定側クランプ部材および可動側クランプ部材と、外径面および内径面を有し、軸方向に沿って移動可能な流体圧ピストンと、流体圧ピストンの外径面側に位置し、流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダ形成部材と、流体圧ピストンの内径面側に位置し、流体圧ピストンの軸方向の移動を案内するシリンダカバーと、流体圧ピストンと可動側クランプ部材とシリンダ形成部材との間に介在するとともに、軸方向および径方向に移動可能なボールとこのボールに接するカム面よりなる増力機構とを備え、円テーブル装置は、可動側クランプ部材をブレーキディスクから離れるアンクランプ側に付勢する付勢部材と、可動側クランプ部材の傾きを抑制して軸方向の移動を促進するクランプ部材傾き抑制手段とを備える。
【0017】
好ましくは、クランプ部材傾き抑制手段は、可動側クランプ部材に設けられた軸方向穴と、可動側クランプ部材の軸方向一方側または他方側の固定部分に固定され、軸方向穴内に相対移動可能に挿入される固定ピンとを含む。
【0018】
好ましくは、クランプ部材傾き抑制手段は、軸方向穴と固定ピンとの間に設けられた滑り軸受けを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、流体圧ピストンまたは可動側クランプ部材の傾きを抑制するので、スムーズなクランプ動作を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る円テーブル装置を示す縦断面図である。
【
図4】可動側クランプ部材を取り出して示す模式的な横断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態2に係る円テーブル装置を示す、
図2に対応する縦断面図である。
【
図6】(A)は、シリンダカバーを取り出して示す模式的な横断面図であり、(B)は、ピストン傾き抑制手段の一例としてのボールスクリューの拡大図である。
【
図7】従来の円テーブル装置を縦置きした状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
<実施の形態1>
図1は、本願発明の実施の形態に係る円テーブル装置1の縦断面図であり、
図2は、その一部分の拡大図である。
図1,2を参照して、円テーブル装置1の構成について説明する。
【0023】
装置本体2内には、クロスローラ軸受3およびニードル軸受4を介して回転軸5が回転自在に支持されており、回転軸5の軸方向の一端は、装置から外方へ突出し、その突出端には、ワーク取付部としてテーブル面6が形成されている。回転軸5は、軸線O回りに回転可能である。
【0024】
回転軸5の軸受3,4間部分には、ボルト7によりウォームホイール8が固着されており、ウォームホイール8は、駆動用ウォーム軸9に噛み合い、駆動用ウォーム軸9は、図示しないが電動式回転アクチュエータあるいは手動ハンドルなどに連結している。ウォームホイール8およびウォーム軸9を収納する空間は、オイルバスとなっており、ウォームホイール8およびウォーム軸9は、オイルバス内で駆動するようになっている。ウォームホイール8は、焼き入れされた硬い材質で形成され、ウォーム軸9は、超硬等硬い材質で形成されている。
【0025】
回転軸5を所定回転位置で停止保持するクランプ機構は、回転軸5と一体に回転するブレーキディスク10と、ブレーキディスク10を軸方向両側から挟持固定する一対のクランプ部材20,21と、一方のクランプ部材(可動側クランプ部材)21を軸方向に加圧(押圧)する流体圧ピストン(空圧ピストン)30と、ボール40およびカム面22,32,52を利用した増力機構などから構成されている。
【0026】
ブレーキディスク10は、1対の取付リング16間に挟持され、ボルト17によりウォームホイール8に固着されている。一対のクランプ部材20,21のうち、一方のクランプ部材20は、装置本体2と一体に形成され、軸方向に移動不能な固定側クランプ部材となっており、他方のクランプ部材21は、装置本体2の内周面に沿って軸方向に移動可能な可動側クランプ部材となっている。
【0027】
可動側クランプ部材21には、ボルト23の軸部が相対移動可能に貫通している。ボルト23の軸部先端は、後述するシリンダ形成部材50に固定されている。ボルト23の頭部と可動側クランプ部材21の上面との間には、付勢部材24が設けられている。付勢部材24は、可動側クランプ部材21をブレーキディスク10から離れるアンクランプ側(矢印A2側)に付勢する。付勢部材24は、たとえばコイルばね、板ばねなどであることが好ましい。可動側クランプ部材21には、その傾きを抑制して軸方向の移動を促進するクランプ部材傾き抑制手段70が設けられる。このクランプ部材傾き抑制手段70については、後述する。
【0028】
可動側クランプ部材21よりも矢印A2側には、シリンダ形成部材50およびシリンダカバー60により断面形状L字形の環状ピストン室(シリンダ)が形成される。
図2に示すように、ピストン室内に外径面および内径面を有する流体圧ピストン30が、軸方向に沿って移動可能に収容されている。ピストン室は、シリンダカバー60の立壁部62の外径面に取り付けられたシールリング38aと、流体圧ピストン30の外径面に取り付けられたシールリング38bと、シリンダ形成部材50の内径面に取り付けられたシールリング38cとによって密封されている。シリンダ形成部材50およびシリンダカバー60は、ボルト18により装置本体2に固定されている。
【0029】
シリンダ形成部材50は、流体圧ピストン30の外径面側に位置し、流体圧ピストン30の軸方向の移動を案内する。シリンダカバー60は、流体圧ピストン30の内径面側に位置し、流体圧ピストン30の軸方向の移動を案内する。具体的には、シリンダカバー60は、
図2に示す部分断面図では、断面形状L字形であり、底壁部61と、底壁部61からブレーキディスク10側に突出する立壁部62とを含む。シリンダカバー60の立壁部62の外径側には、流体圧ピストン30の傾きを抑制して軸方向の移動を促進するピストン傾き抑制手段80が設けられる。このピストン傾き抑制手段80については、後述する。
【0030】
ピストン室内には、流体圧ピストン30をクランプ側(矢印A1側)に移動させるためのクランプ用空気室33と、流体圧ピストン30をアンクランプ側(矢印A2側)に移動させるためのアンクランプ用空気室34が形成されており、両空気室33,34は、それぞれエア通路35,36、および図示しないエア切換弁などを介してエア供給源とエア排出部に切換自在に連通している。
【0031】
増力機構は、基本的には、特開2002-18679号公報に記載の増力機構とほぼ同じ構成である。すなわち、流体圧ピストン30がクランプ側(矢印A1側)に移動すると、流体圧ピストン30のカム面(傾斜面)32がボール40を押圧する。それに押されたボール40は、シリンダ形成部材50のカム面52に沿って、径方向外方および軸方向に移動する。ボール40が当接するカム面22,52により形成される空間は、径方向外方に向かうにつれてしだいにその間隔が小さくなる先細りのテーパー空間である。これにより、ボール40が径方向外方に移動すると、可動側クランプ部材21はボール40に押圧されてクランプ側(矢印A1側)に移動して、ブレーキディスク10を挟持固定する。
【0032】
(クランプ部材傾き抑制手段について)
図3は、可動側クランプ部材21を拡大して示す縦断面図であり、
図4は、可動側クランプ部材21を取り出して示す模式的な横断面図である。これらの図を参照して、可動側クランプ部材21に設けられるクランプ部材傾き抑制手段70について説明する。
【0033】
上述のように、クランプ部材傾き抑制手段70は、可動側クランプ部材21の傾きを抑制して軸方向の移動を促進するものである。具体的には、クランプ部材傾き抑制手段70は、可動側クランプ部材21に設けられた軸方向穴71と、軸方向穴71内に相対移動可能に挿入される固定ピン72と、軸方向穴71に取り付けられた滑り軸受73とを含む。
【0034】
本実施の形態の軸方向穴71は、軸方向に貫通する貫通穴であるが、シリンダ形成部材50側に向かって開口する貫通していない止まり穴であってもよい。固定ピン72は、軸方向に延びる棒状部材である。本実施の形態の固定ピン72は、その下方側がシリンダ形成部材50に固定されており、その上方側が軸方向穴71内を相対的に移動可能に設けられている。滑り軸受73は、たとえば錫メッキが施された鋼製ブッシュやフッ素樹脂製軸受などである。
【0035】
なお、本実施の形態の軸方向穴71には、滑り軸受73が取り付けられたが、他の形態として、軸方向穴71の穴壁面に直接固定ピン72自体が摺動接触するものであってもよい。また、固定ピン72は、その上方側がたとえば装置本体2などに固定されるものであってもよい。
【0036】
軸方向穴71および固定ピン72を設けることで、可動側クランプ部材21の軸方向の移動に際し、可動側クランプ部材21が傾くことを防止することができる。さらに、軸方向穴71に滑り軸受73を設けたり、固定ピン72の表面に良好な滑り性を発揮する処理を行えば、可動側クランプ部材21の傾きを抑制しつつ、可動側クランプ部材21をスムーズに軸方向に案内することができるので、確実なクランプ動作およびアンクランプ動作を達成することができる。
【0037】
図4に示すように、軸方向穴71および固定ピン72を備えるクランプ部材傾き抑制手段70は、たとえば周方向に等間隔で3つ設けられる。円テーブル装置1のテーブル面6が水平ではなく立てた状態で使用されるような場合には、3つのクランプ部材傾き抑制手段70a~cのうち2つ(クランプ部材傾き抑制手段70b,70c)を水平な位置関係になるように配置することで、可動側クランプ部材21の軸方向移動をより滑らかに案内することができる。なお、クランプ部材傾き抑制手段70の数に制約はないが、少なくとも2ヵ所以上設けるのが好ましい。
【0038】
(ピストン傾き抑制手段について)
図1,2に示すように、ピストン傾き抑制手段80は、流体圧ピストン30の内径面に当接するシリンダカバー60に設けられる。上述のように、ピストン傾き抑制手段80は、流体圧ピストン30の傾きを抑制して軸方向の移動を促進するものである。具体的には、ピストン傾き抑制手段80は、シリンダカバー60の外径面に嵌められた摩擦係数の低いリングである。このリング80の材質は、たとえば滑り性の良い金属やフッ素樹脂などである。リング80は、シリンダカバー60への装着を容易にするために、円周の一箇所に、割り(切れ目)を有していてもよい。
【0039】
図2に示すように、ピストン傾き抑制手段80としてのリングの取り付け箇所については、ボール40に接する、シリンダ形成部材50のカム面(案内面)52の延長面と、シリンダカバー60の外径面とが交わる箇所よりもブレーキディスク10側の領域Rに設けることが好ましい。換言すると、リング80は、ボール40からの反力をまともに受ける領域に設けることが好ましい。また、リング80は、シリンダカバー60の外径面に装着されたシールリング(O-リング)38aよりもブレーキディスク10側の領域にある。
【0040】
リング80の外形寸法は、シリンダカバー60の外径寸法よりもわずかに大きい。したがって、流体圧ピストン30の内径面は、リング80の外径面によって確実に軸方向に案内され、流体圧ピストン30が軸方向に傾くことを抑制できる。こうして、流体圧ピストン30の軸方向移動によるクランプ動作をスムーズに行うことができる。
【0041】
(円テーブル装置の動作について)
次に、本実施の形態に係る円テーブル装置1の動作について説明する。
【0042】
図1には、アンクランプ状態が示されており、ブレーキディスク10に対するクランプ部材20,21の挟持は解除されている。この状態で駆動用ウォーム軸9を回転することにより、ウォームホイール8を介して回転軸5は回転し、これによりテーブル面6上のワークの回転角度が変更される。
【0043】
所定角度回転後、回転軸5をクランプする場合には、クランプ用空気室33に空気を圧入すると同時にアンクランプ用空気室34から空気を排出することにより、流体圧ピストン30をクランプ側(矢印A1方向)に移動させる。これに伴い、シリンダカバー60の外径面に位置するピストン傾き抑制手段(リング)80により、流体圧ピストン30の傾きが抑制され、軸方向の移動が促進される。
【0044】
図2において、流体圧ピストン30の矢印A1方向への移動により、ボール40は、流体圧ピストン30のテーパーカム面32に押され、シリンダ形成部材50のカム面52に沿って、径方向外方および矢印A1の軸方向に移動する。これに伴い、可動側クランプ部材21は、矢印A1方向に移動する。シリンダ形成部材50のカム面52と可動側クランプ部材21の下面(カム面)22との間の間隔は外径側に向かうほど小さくなっているので、ボール40の径方向外方への移動により、可動側クランプ部材21への押圧力が増大し、ブレーキディスク10を確実に挟持固定する。このクランプ動作の際、ピストン傾き抑制手段80が流体圧ピストン30の傾きを抑制し、クランプ部材傾き抑制手段70が可動側クランプ部材21の傾きを抑制するので、確実かつ安定したクランプ動作を実現できる。
【0045】
回転軸5をアンクランプする場合は、
図2のアンクランプ用空気室34に空気を圧入すると共に、クランプ用空気室33から空気を排出することにより、流体圧ピストン30を矢印A2方向に移動させる。この流体圧ピストン30の後退に伴い、ボール40は、回転軸芯側へ移動し、可動側クランプ部材21に対する押圧力を解除する。
【0046】
図1に示すように、可動側クランプ部材21は、付勢部材24により常に矢印A2方向(アンクランプ方向)に押圧されている。したがって、ボール40を介しての加圧力が弱まると、付勢部材24は、可動側クランプ部材21をアンクランプ側に移動させ、ブレーキディスク10に対する挟持固定状態を解除する。
【0047】
(効果について)
本実施の形態の円テーブル装置1は、シリンダカバー60にピストン傾き抑制手段80を設けているため、流体圧ピストン30が軸方向に対して傾くことを抑制して、軸方向の移動を促進することができる。これにより、全周にわたって隣接するボール40間に、密になる部分および疎になる部分が生じる場合でも、流体圧ピストン30から各ボール40に対して作用する加圧力を均等にすることができる。
【0048】
また、本実施の形態の円テーブル装置1は、クランプ部材傾き抑制手段70を設けているため、可動側クランプ部材21が軸方向に傾くことを抑制して、軸方向の移動を促進することができる。これにより、全周にわたって隣接するボール40間に、密になる部分および疎になる部分が生じる場合でも、各ボール40から可動側クランプ部材21に作用する加圧力を均等にすることができる。
【0049】
このように、本実施の形態の円テーブル装置1は、クランプ部材傾き抑制手段70またはピストン傾き抑制手段80を設けることで、ブレーキディスク10に作用する加圧力は円周方向に均一となり、確実で安定したクランプ動作を行うことが可能となる。
【0050】
また、可動側クランプ部材21の傾きを抑制して、確実に軸方向に平行に移動させるので、可動側クランプ部材21が傾いて固まることを抑制することができる。これにより、可動側クランプ部材21を付勢部材24の付勢力によって確実にアンクランプ側に移動させることができるので、安定したアンクランプ動作を実現することができる。
【0051】
<実施の形態2>
図5は、実施の形態2に係る円テーブル装置を示す縦断面図であり、
図6(A)は、ピストン傾き抑制手段80の位置を示す模式的な横断面図であり、
図6(B)は、ピストン傾き抑制手段の一例としてのボールスクリューの拡大図である。
図5,6を参照して、実施の形態2に係る円テーブル装置について説明する。実施の形態1と実施の形態2とは、ピストン傾き抑制手段80の具体的な構造が異なる。実施の形態1で示したピストン傾き抑制手段80との相違点のみ詳細に説明する。
【0052】
本実施の形態のピストン傾き抑制手段80Aは、シリンダカバー60の厚み部分を貫通するボールスクリューである。特に
図6(B)に示すように、ボールスクリュー80Aは、軸部81Aと、軸部81Aの長手方向の一方に設けられる球状部82Aとを有する。
【0053】
軸部81Aは、シリンダカバー60内に螺合して固定される部分であり、その外周に雄ねじを有している。球状部82Aは、シリンダカバー60の外径面から外径側に突出し、流体圧ピストン30の内径面に点接触する点接触凸部である。本実施の形態では、球状部82Aは、軸部81Aに固定されている。他の実施形態として、球状部82Aを、軸部81Aに対して回転可能に設けられ、流体圧ピストン30の内径面上を転がり接触するようなものであってもよい。ボールスクリュー80Aの球状部82Aは、シリンダカバー60の外径面よりもわずかに外径側に突出している。好ましくは、ボールスクリュー80Aは、シリンダカバー60の立壁部62を軸方向に直交する方向に貫通している。これにより、ボールスクリュー80Aの後端に設けられた角形穴に差し込んだ工具を用いて、球状部82Aの突出量を調節できる。
【0054】
図6(A)に示すように、ボールスクリュー80Aは、周方向に等間隔をあけて3つ設けられることが好ましい。これにより、流体圧ピストン30の芯出しを容易に行うことができ、それにより流体圧ピストン30の軸方向に対する傾きを抑制することができる。円テーブル装置1の回転軸5が水平方向に保持されるタテ置きの場合において、3つのボールスクリュー80Aのうち2つは、下方の位置で水平な位置関係にある。これにより、流体圧ピストン30の軸方向移動をより滑らかに案内することができる。
【0055】
なお、実施の形態1において、クランプ部材傾き抑制手段70とピストン傾き抑制手段80を共に設ける構成を示したが、それぞれの手段70,80が単独で設けられていてもよい。また、実施の形態1のクランプ部材傾き抑制手段70と実施の形態2のピストン傾き抑制手段80Aとを組み合わせてもよい。
【0056】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、工作機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0058】
1 円テーブル装置、2 装置本体、5 回転軸、6 テーブル面(ワーク取付部)、10 ブレーキディスク、20 固定側クランプ部材、21 可動側クランプ部材、22 カム面、24 付勢部材、30 流体圧ピストン、32 カム面、40 ボール、50 シリンダ形成部材、52 カム面、60 シリンダカバー、70 クランプ部材傾き抑制手段、71 軸方向穴、72 固定ピン、73 滑り軸受、80 ピストン傾き抑制手段(リング)、80A ピストン傾き抑制手段(ボールスクリュー)、82A 球状部(点接触凸部)、100 円テーブル装置、105 回転軸。