(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】オブジェクトを層ごとにビルドアップする方法及びこのような方法を実行するための3D印刷装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/112 20170101AFI20230922BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20230922BHJP
B29C 64/223 20170101ALI20230922BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20230922BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230922BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230922BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230922BHJP
【FI】
B29C64/112
B29C64/124
B29C64/223
B29C64/321
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2021502988
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 IB2019056131
(87)【国際公開番号】W WO2020016815
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-15
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ベーム,アンドレアス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】コルテン,マルテ
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-505773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0195994(US,A1)
【文献】特表2012-505774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
A61M 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オブジェク
トを、少なくとも第1の光硬化性樹脂及び第2の光硬化性樹脂から、3D印刷装置上で層ごとにビルドアップする方法であって、前記3D印刷装置は、前記オブジェクトをビルドアップすることができるビルドプラットフォームと、複数の凹部を備える光透過性キャリアと、光パターンを前記ビルドプラットフォームに向けて前記キャリアを通過させて投影するように構成された光プロジェクタとを備え、前記方法は、
(a)前記オブジェクトを部分的にビルドアップし、それにより、インプロセスのオブジェクトを提供するステップと、
(b)
前記第1の光硬化性樹脂の第1のブランク層が前記凹部を取り囲む前記キャリアの表面と同一平面上にあるように、前記キャリアの
前記複数の凹部の1つを前記第1の光硬化性樹脂の第1のブランク層によって
充填するステップと、
(c)前記第1のブランク層を前記ビルドプラットフォームと前記光プロジェクタとの間に位置決めするステップと、
(d)前記ビルドプラットフォームを前記キャリアに向けて前進させ、それにより、前記インプロセスのオブジェクトを前記第1のブランク層と接触させるステップと、
(e)前記第1のブランク層を光パターンで照射して、前記パターンによって照射された部分を硬化させ、それにより、前記インプロセスのオブジェクトを硬化された層で補完するステップと、
(f)前記ビルドプラットフォームを前記キャリアから後退させ、それにより、前記補完された前記インプロセスのオブジェクトを前記キャリアから分離するステップと、
(g)
前記第2の光硬化性樹脂の第2のブランク層が前記凹部を取り囲む前記キャリアの表面と同一平面上にあるように、前記キャリアの
前記複数の凹部の1つを前記第2の光硬化性樹脂の第2のブランク層によって
充填するステップと、
(h)前記第2のブランク層を前記ビルドプラットフォームと前記光プロジェクタとの間に位置決めするステップと、
(i)前記ビルドプラットフォームを前記キャリアに向けて前進させ、それにより、前記インプロセスのオブジェクトを前記第2のブランク層と接触させるステップと、
(j)前記第2のブランク層を光パターンで照射して、前記パターンにより照射された部分を硬化させ、それにより、前記インプロセスのオブジェクトを更なる硬化された層で補完するステップと、
(k)前記ビルドプラットフォームを前記キャリアから後退させ、それにより、補完された前記インプロセスのオブジェクトを前記キャリアから分離するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ステップ(b)及び前記ステップ(g)は、時間的に重複して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)~(f)が、前記ステップ(h)~(k)の前に実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(d)及び前記ステップ(i)において、前記インプロセスのオブジェクトは、前記インプロセスのオブジェクトと前記キャリアとの間に、ある距離が提供されるように前記キャリアに対して位置決めされ、前記第1のブランク層及び前記第2のブランク層はそれぞれ、前記距離に対応する厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
オブジェク
トを少なくとも第1の光硬化性樹脂及び第2の光硬化性樹脂から層ごとにビルドアップするための3D印刷装置であって、前記3D印刷装置は、前記オブジェクトをビルドアップすることができるビルドプラットフォームと、複数の凹部を備える光透過性キャリアと、光パターンを前記ビルドプラットフォームに向けてビルド軸線に沿った方向に前記キャリアを通過させて投影するように構成された光プロジェクタと、
前記第1の光硬化性樹脂の第1のブランク層が前記凹部を取り囲む前記キャリアの表面と同一平面上にあるように、前記キャリアの
前記複数の凹部の1つを前記第1の光硬化性樹脂の第1のブランク層によって
充填する第1のディスペンサと、
前記第2の光硬化性樹脂の第2のブランク層が前記凹部を取り囲む前記キャリアの表面と同一平面上にあるように、前記キャリアの
前記複数の凹部の1つを前記第2の光硬化性樹脂の第2のブランク層によって
充填する第2のディスペンサと、を備え、前記ビルドプラットフォームは、前記ビルド軸線に沿って移動可能であり、前記キャリアは、前記ビルド軸線に対して横断方向に移動可能である、3D印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オブジェクトを、第1の光硬化性樹脂及び任意選択で第2の光硬化性樹脂から、3D印刷装置上で層ごとにビルドアップする方法に関する。本発明は更に、このような方法を実行するように構成された3D印刷装置に関する。具体的には、本発明は、1つ以上の未硬化の光硬化性樹脂の層をブランク層の形態でキャリア上にコーティングし、それらのブランク層を、その後、ビルドプラットフォームと光硬化性樹脂の一部分を硬化するための光プロジェクタとの間に位置決めする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の技術分野で、物理的なオブジェクト又は機械的ワークピースがますます積層造形プロセス(additive manufacturing process)によって製造されるようになっている。
【0003】
このような積層造形プロセスは、典型的には、その形状を作り出すよう材料を連続的に付加することによって、オブジェクトをその所望の個々の形状にビルドアップすることを可能にする。積層造形プロセスは迅速なプロトタイピングのために業界で広く用いられているが、最終製品の製造は、多くの領域においてなお困難である。特に、歯科用修復物を作製するためには、概して、人体での使用に適合性のある材料を使用することが必要である。更に、積層造形によって製造される歯科用修復物は、必要な機械的安定性を示さなければならず、また例えば色の陰影及び透光性に関する審美性についての期待を満足しなくてはならない。
【0004】
一部の積層造形プロセスは、光硬化性樹脂を層状に硬化させることに基づく。光硬化性樹脂は、典型的には光重合性であり、露光の結果として局所的に硬化する。所望の三次元オブジェクトは、そのオブジェクトの所望の外形に従って制御される形状の層を連続的に追加することによってビルドアップすることができる。ビルドアップされることになるオブジェクトは、典型的にはコンピュータ支援設計(CAD)によって調製され、三次元コンピュータモデルの形態で提供される。オブジェクトのコンピュータモデルは、個々の層に仮想的にスライスされ、個々の層のそれぞれは、オブジェクトの外形から生じる特定の形状を有する。層の形状は、そのような層をそれぞれのスライスの形状に対応した光パターンに曝すことによって決定される。
【0005】
多くの場合、製造は、オブジェクトを所望の形状で提供することに重点を置いている。オブジェクトを所望の色で提供する適用例も存在するが、複数の色又は色グラデーションを有するオブジェクトの作製を可能にする方法及び装置が依然として必要とされている。具体的には、天然の歯の色グラデーションに似た色グラデーションでの積層造形によって歯科修復物を提供することが依然として必要とされている。
【0006】
国際公開第2012/053895(A1)号(DSM)は、積層造形装置について記載しており、この積層造形装置は、接触面を有し、接触面の両側に一対の上部箔ガイド要素及び下部箔ガイド要素を含む、移動可能な箔ガイドステージを備え、下部箔ガイド要素は、接触面から離れた箔高さ位置を画定しており、液体層を含む箔を、有形オブジェクトに対して静止状態に維持しながら、有形オブジェクトに沿った箔ガイドステージの移動によって、箔を、接触面へ又は接触面からガイドして有形オブジェクトに接触させる。箔上に配置され有形オブジェクトと接触している液体層内の交差パターンの少なくとも一部を、少なくとも部分的に固化するように、エネルギー源が構成されている。
【0007】
米国特許出願公開第2008/0206383(A1)号(Hullら)は、立体造形ビルドプロセスの完了後に完成したビルドオブジェクト上に残留する未硬化の立体造形ビルド材料の量を低減するために使用される立体造形装置及び方法に関する。ビルドプロセスの過程でビルドされたオブジェクトから過剰なビルド材料を除去する脱コーティングウェブ、又はビルド部品の製造に必要な量のビルド材料だけを使用するビルド材料のインクジェット源のいずれかを使用することによって、未硬化のビルド材料の量は低減される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、オブジェクトを、少なくとも第1の光硬化性樹脂から、3D印刷装置上で層ごとにビルドアップする方法に関する。具体的には、本発明は、オブジェクトを、第1の光硬化性樹脂及び第2の光硬化性樹脂から、及び任意選択で更なる光硬化性樹脂から、3D印刷装置上で層ごとにビルドアップする方法に関し得る。第1、第2、及び/又は更なる光硬化性樹脂は、本明細書では、通常「光硬化性樹脂」と呼ばれ得る。
【0009】
3D印刷装置は、オブジェクトをビルドアップすることができるビルドプラットフォームと、光透過性キャリアと、光パターンをビルドプラットフォームに向けてキャリアを通過させて投影するように構成された光プロジェクタと、を備える。キャリアは、光硬化性樹脂を受け入れる複数の凹部を備える。
【0010】
本方法は、
(a)オブジェクトを部分的にビルドアップし、それにより、インプロセスのオブジェクトを提供するステップと、
(b)キャリアの第1の表面領域を第1の光硬化性樹脂の(で構成される)(好ましくは隣接した)第1のブランク層によってコーティングするステップと、
(c)第1のブランク層をビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めするステップと、
(d)ビルドプラットフォームをキャリアに向けて前進させ、それにより、インプロセスのオブジェクトを第1のブランク層と接触させるステップと、
(e)第1のブランク層を光パターンで照射して、パターンによって照射された部分を硬化させ、それにより、インプロセスのオブジェクトを硬化された層で補完するステップと、
(f)ビルドプラットフォームをキャリアから後退させ、それにより、補完されたインプロセスのオブジェクトをキャリアから分離するステップとを含む。
【0011】
ステップ(e)における用語「部分」は、1つの部分も含む。したがって、用語「部分」は、「1つ以上の部分」を意味する。
【0012】
本発明は、別々の樹脂の層からオブジェクトを作製することを可能にする点で都合が良い。具体的には、本発明は、色及び/又は透光性のグラデーションを有するオブジェクトの作製を可能にする。本発明は、層の調製とオブジェクトをビルドアップするために使用される層の硬化とを分離することによって、3D印刷装置のスループットを最大化するのに役立つという点で、更に都合が良い。
【0013】
光硬化性樹脂を受け入れる凹部の存在により、コーティングプロセスが単純になる。2つの光硬化性樹脂が使用される場合には、起こりうる相互汚染のリスクもまた低減し得る。凹部の使用は、その凹部を有するキャリアの部分のみを光硬化性樹脂で充填するので、使用されない光硬化性樹脂の無駄を低減するのに更に役立ち得る。
【0014】
ステップ(c)は、キャリアを移動させ、それにより第1のブランク層をビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めすることによって定義されてもよい。
【0015】
3D印刷装置は、好ましくは、コーティングステーション及び積層造形ステーションを有する。コーティングステーション及び積層造形ステーションは、好ましくは、プロセスフロー方向に沿って互いに間隔が空けられる。プロセスフロー方向とは、キャリアが移動する方向である。ステップ(b)は、好ましくは、コーティングステーションにおいて実行され、ステップ(d)及びステップ(e)は、好ましくは、積層造形ステーションにおいて実行される。したがって、コーティングは、積層造形とは独立して実行することができる。例えば、ステップ(b)及びステップ(e)は、同時に実行されてもよいし、又は互いに重複して実行されてもよい。したがって、オブジェクトは、最小限の時間でビルドアップすることができる。
【0016】
一実施形態では、本方法は、
(g)キャリアの第2の表面領域を第2の光硬化性樹脂の(で構成される)(好ましくは隣接した)第2のブランク層によってコーティングするステップと、
(h)第2のブランク層をビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めするステップと、
(i)ビルドプラットフォームをキャリアに向けて前進させ、それにより、インプロセスのオブジェクトを第2のブランク層と接触させるステップと、
(j)第2のブランク層を光パターンで照射して、パターンにより照射された部分を硬化させ、それにより、インプロセスのオブジェクトを更なる硬化された層で補完するステップと、
(k)ビルドプラットフォームをキャリアから後退させ、それにより、補完されたインプロセスのオブジェクトをキャリアから分離するステップとを更に含む。
【0017】
ステップ(j)における用語「部分」もまた、1つの部分を含む。したがって、用語「部分」は、「1つ以上の部分」を意味する。
【0018】
好ましくは、ビルド軸線は、ビルド軸線に沿って前進及び後退させることができる。ビルド軸線は更に、それに沿ってオブジェクトが連続的にビルドアップされる軸線である。
【0019】
ステップ(h)は、キャリアを移動させ、それにより第2のブランク層をビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めすることによって定義されてもよい。
【0020】
ステップ(g)は、好ましくは、コーティングステーションにおいて実行され、ステップ(i)及びステップ(j)は、好ましくは、積層造形ステーションにおいて実行される。
【0021】
一般に、本発明の方法は、第1の光硬化性樹脂及び第2の光硬化性樹脂より多くを使用して実施され得る。第1、第2、及び任意の更なる光硬化性樹脂は、好ましくは光開始剤を含む光重合性樹脂である。硬化は、好ましくは、光硬化性樹脂を光で照射することにより実行される。光硬化性樹脂は、具体的には光開始剤としてアシルホスフィンオキシドを含み得る。更に、光硬化性樹脂は、反応性基として(メタ)アクリレート部分を有するモノマーに基づき得る。光樹脂は、充填剤、染料、及び着色剤を含有してもよい。
【0022】
光硬化性樹脂を硬化させるのに適した光の波長は、450nm~495nm(青色光)又は330nm~450nmの範囲内とすることができ、好ましくは383nm(UV光)とすることができる。本発明の方法に使用される光は、使用される光硬化性樹脂に従って選択することができる。
【0023】
更に、第1の表面領域及び第2の表面領域は、互いに間隔が空いていてもよい。具体的には、第1の表面領域及び第2の表面領域は、プロセスフロー方向の次元において互いに間隔が空いていてもよい。
【0024】
したがって、本方法は、
(l)キャリアの第3の又は更なる表面領域を、第3の又は更なる光硬化性樹脂の(で構成される)(好ましくは隣接した)第3の又は更なるブランク層によってコーティングするステップと、
(m)第3の又は更なるブランク層をビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めするステップと、
(n)ビルドプラットフォームをキャリアに向けて前進させ、それにより、インプロセスのオブジェクトを第3の又は更なるブランク層と接触させるステップと、
(o)第3の又は更なるブランク層を光パターンで照射して、パターンにより照射された部分を硬化させ、それにより、インプロセスのオブジェクトを更なる硬化された層で補完するステップと、
(p)ビルドプラットフォームをキャリアから後退させ、それにより、補完されたインプロセスのオブジェクトをキャリアから分離するステップとを更に含む。
【0025】
ステップ(o)における用語「部分」もまた、1つの部分を含む。したがって、用語「部分」は、「1つ以上の部分」を意味する。
【0026】
ステップ(m)は、キャリアを移動させ、それにより第3の又は更なるブランク層をビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めすることによって定義されてもよい。
【0027】
ステップ(d)、ステップ(i)、及びステップ(n)では、ビルドプラットフォームを、好ましくは、インプロセスのオブジェクトが第1、第2、第3、又は更なるブランク層とそれぞれ接触していない位置から、インプロセスのオブジェクトが第1、第2、第3、又は更なるブランク層とそれぞれ接触する位置まで前進させる。インプロセスのオブジェクトが第1、第2、第3、又は更なるブランク層と接触する位置は、好ましくは、近位位置に対応し、一方、インプロセスのオブジェクトが第1、第2、第3、又は更なるブランク層と接触していない位置は、好ましくは、後退位置に対応する。
【0028】
近位位置では、インプロセスのオブジェクトは、キャリアと直接接触しないこともある。ステップ(f)、ステップ(k)、及びステップ(p)は、好ましくは、結果としてインプロセスのオブジェクトを後退位置に位置決めすることになる。したがって、ステップ(f)、ステップ(k)、及びステップ(p)において、インプロセスのオブジェクトは、好ましくは、近位位置から後退位置へと位置決めされる。
【0029】
好ましくは、第1の表面領域及び第2の表面領域(及び最終的には、第3の表面領域又は更なる表面領域)は互いにオフセットされている。具体的には、第1の表面領域及び第2の表面領域(及び最終的には第3又は更なる表面領域)は、プロセスフロー方向の次元において互いにオフセットされてもよい。
【0030】
一実施形態では、ステップ(b)及びステップ(g)は、時間的に重複して実行される、又は同時に実行される。
【0031】
更に、ステップ(b)及びステップ(g)は、ステップ(e)又はステップ(o)のいずれかの前に実行されてもよい。
【0032】
一実施形態では、ステップ(c)~(f)は、ステップ(h)~(k)の前に実行される。
【0033】
好ましくは、ステップ(d)、ステップ(i)、及びステップ(n)において、インプロセスのオブジェクトは、インプロセスのオブジェクトとキャリアとの間に、ある距離が提供されるようにキャリアに対して位置決めされる。一実施形態では、第1のブランク層及び第2のブランク層はそれぞれ、その距離に対応する(又は本質的に対応する)厚さを有する。第1のブランク層及び第2のブランク層は更に、それぞれ、その距離の[最大105%]である厚さを有し得る。第1及び第2のブランク層のそのような過大寸法は、第1及び第2のブランク層のそれぞれとインプロセスのオブジェクトとの間の空気又は気泡を含まない接触を達成するために提供されることができる。
【0034】
任意選択の実施形態では、インプロセスのオブジェクトは、ビルド軸線に垂直な平面上に並べて配置された2つ以上の硬化された層で補完される。2つ以上の硬化された層は、以下のような別々の光硬化性樹脂から得ることができる。光硬化性樹脂は、例えば、それらが少なくとも硬化された段階で、色及び/又は透光性が互いに異なり得る。第1の過程で、第1の硬化された層を、方法ステップ(b)~(f)に従って、インプロセスのオブジェクトに追加することができる。第2の過程で、第2の硬化された層を、方法ステップ(g)~(k)に従って、インプロセスのオブジェクトに追加することができる。ただし、第2の過程では、第1の硬化された層がキャリアと接触するように、ステップ(i)において、インプロセスのオブジェクトをキャリアに向けて前進させる。ステップ(j)では、第2のブランク層が、第1の硬化された層の外側にある部分において硬化される。
【0035】
更なる任意選択の実施形態では、3D印刷装置は、例えば、インクジェットに基づく、少なくとも第1の複数樹脂ディスペンサを備える。この任意選択の実施形態では、異なる光硬化性樹脂で構成される第1のブランク層で第1の表面領域をコーティングするために、2つ以上の異なる光硬化性樹脂を分注することができる。したがって、3D印刷装置は、ビルド軸線に沿ってだけでなく、ビルド軸線に垂直な2つの次元においても、色及び/又は透光性のグラデーションを有するオブジェクトをビルドアップするように構成される。このような任意選択の実施形態は、異なる光硬化性樹脂で構成される第2のブランク層で第2の表面領域(又は更なる表面領域)をコーティングする第2の複数樹脂ディスペンサ及び任意選択の更なる複数樹脂ディスペンサを更に備えてもよい。ここでも、光硬化性樹脂は、例えば、少なくともそれらが硬化された段階で、色及び/又は透光性が互いに異なり得る。
【0036】
一実施形態では、キャリアは平坦であり、第1及び第2のブランク層はキャリアから突出している。具体的には、第1及び第2のブランク層は、プロセスフロー方向を横切る次元においてキャリアから突出している。光硬化性樹脂は、好ましくは、流動性であるが、自己支持性である。これは、光硬化性樹脂が、60秒の時間内に形状が著しく変化しないことを意味する。具体的には、光硬化性樹脂は、第1、第2、及び/又は更なるブランク層が、60秒の時間内に[5%]を超えて厚さが変化しないように構成される。
【0037】
更なる実施形態では、キャリアは、第1、第2、及び/又は任意の更なる光硬化性樹脂を受け入れる複数の凹部を備える。凹部は、第1、第2、及び/又は更なるブランク層全体を収容するようにサイズ決めされてもよい。したがって、第1、第2、及び/又は更なるブランク層は、それぞれの凹部から突き出ていなくてもよく、好ましくは、凹部を取り囲むキャリアの表面と面一である。
【0038】
更なる実施形態では、本方法は、キャリアをエンボス加工し、それにより複数の凹部を製作するステップを含んでもよい。
【0039】
更なる実施形態では、ステップ(b)は、複数の凹部のうちの1つを、第1の光硬化性樹脂の一部で充填して、第1のブランク層を形成することを含んでもよい。ステップ(g)は、複数の凹部のうちの別の1つを、第2の光硬化性樹脂の一部で充填して、第2のブランク層を形成することを含んでもよい。
【0040】
一実施形態では、本方法は、キャリアを送り込みリールから供給するステップを更に含む。更に、本方法は、キャリアを排出リール上に排出するステップを含んでもよい。排出されたキャリアは、第1の光硬化性樹脂(又は、第2の又は更なる光硬化性樹脂のいずれか)の少なくとも一部分を担持することがある。したがって、本発明の方法は、第1、第2、及び任意選択の更なる光硬化性樹脂が、キャリア上にコーティングされ、その後オブジェクトをビルドアップするために使用される、リール・ツー・リールプロセスを含むことができる。
【0041】
第1のブランク層の残留部分が、補完されたインプロセスのオブジェクトをキャリアから分離するステップの結果として形成され得る。具体的には、残留部分は、第1のブランク層の使用によってインプロセスのオブジェクトが補完された後にキャリア上に残る第1のブランク層の一部分である。したがって、第2の又は更なるブランク層の残留部分が、補完されたインプロセスのオブジェクトをキャリアから分離するステップの結果として形成され得る。このような残留部分は、第1、第2、又は更なるブランク層の使用によって、インプロセスのオブジェクトが補完された後にキャリア上に残る第1、第2、又は更なるブランク層の一部分である。したがって、残留した光硬化性樹脂の処理が硬化後に容易になる。
【0042】
更なる実施形態では、本方法は、第1のブランク層の残留部分を光で照射して、残留部分を硬化させるステップを含む。本方法は、第2の又は更なるブランク層の残留部分を光で照射して、これらの残留部分を硬化させるステップを更に含んでもよい。したがって、3D印刷装置は、第1、第2、又は更なる層に残留部分があればそれをキャリアから除去する、又はキャリアからの除去のために準備する、清掃ステーションを有してもよい。
【0043】
更なる実施形態では、本方法は、第1のブランク層の硬化された残留部分を処分するステップを含む。第1のブランク層の硬化された残留部分を処分するステップは、例えばキャリアを曲げることによって、硬化された残留部分をキャリアから分離することを含んでもよい。キャリアは、例えば、キャリアを反らせるロール上にキャリアをガイドすることによって曲げることができる。
【0044】
一実施形態では、本方法は、キャリアを移動させ、それにより、第1のブランク層の残留部分を積層造形ステーションの外側(又はビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間の領域の外側)に位置決めするステップを更に含む。本方法は、キャリアを移動させ、それにより、第2の又は更なるブランク層の残留部分を積層造形ステーションの外側(又はビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間の領域の外側)に位置決めするステップを更に含んでもよい。
【0045】
更なる態様では、本発明は、少なくとも第1の光硬化性樹脂及び任意選択で第2の光硬化性樹脂から作製されるオブジェクトを層ごとにビルドアップするための3D印刷装置に関する。3D印刷装置は、好ましくは、本発明の方法を実行するように、及び任意選択的に、本明細書に開示される任意選択の方法特徴のいずれかを実行するように構成される。
【0046】
一実施形態では、オブジェクトは歯科修復物又は歯科修復物部分である。第1、第2、及び任意の更なる光硬化性樹脂は、(少なくとも硬化後)天然の歯の色に似た色を呈し得る。
【0047】
3D印刷装置は、具体的には、オブジェクトをビルドアップすることができるビルドプラットフォームと、光透過性キャリアと、光パターンをビルドプラットフォームに向けてビルド軸線に沿った方向にキャリアを通過させて投影するように構成された光プロジェクタと、を備える。ビルド軸線は、好ましくは、プロセスフロー方向を横切るように構成される。ビルドプラットフォームはビルド軸線に沿って移動可能であり、キャリアはビルド軸線に対して横断方向に(又はプロセスフロー方向に沿って)移動可能である。3D印刷装置は、光透過性の(好ましくは透明な)露光プレートを更に有してもよい。光プロジェクタは、好ましくは、光パターンをビルドプラットフォームに向けてビルド軸線に沿った方向に露光プレートを通過させて投影するように構成される。キャリアは、好ましくは、露光プレート上に支持されるようにガイドされる。ビルドプラットフォーム、光プロジェクタ、及び露光プレートは、Digital Light ProcessingTM(DLP)などのステレオリソグラフィに基づく積層造形ステーションの構成要素を形成することができる。
【0048】
3D印刷装置は、キャリアの第1の表面領域を第1の光硬化性樹脂の第1のブランク層によってコーティングする第1のディスペンサを更に備える。更に、3D印刷装置は、キャリアの第2の表面領域を、第2の光硬化性樹脂の第2のブランク層によってコーティングする第2のディスペンサを備えてもよい。3D印刷装置は、キャリアの1つ以上の更なる表面領域を、1つ以上の更なる光硬化性樹脂の1つ以上の更なるブランク層によってコーティングする1つ以上の更なるディスペンサを備えてもよい。したがって、3D印刷装置は、異なる光硬化性樹脂から作製されるオブジェクトをビルドアップするように構成されており、よって、異なる色で作製されるオブジェクトをビルドアップするように構成されてもよい。第1、第2、及び更なるディスペンサは、3D印刷装置のコーティングステーション内に構成されてもよく、又はコーティングステーションを形成してもよい。
【0049】
第1、第2、又は更なるディスペンサのそれぞれは、インクジェット又はロールコータを備えてもよい。更に、第1、第2、又は更なるディスペンサは、周壁(例えば、中空円筒壁)によって形成されるタンクを備えてもよい。タンクは、第1、第2、又は任意の更なる光硬化性樹脂を含んでもよい。タンクは、好ましくは、密閉するようにキャリアに当接する周囲封止部を有する。したがって、タンクの底部側(重心に向けて方向付けられた側である)は、キャリアによって閉鎖されてもよい。封止部は、好ましくは、密封するようにキャリア上を摺動することができるように構成される。例えば、封止部は、弾性シールリップによって形成されてもよい。したがって、タンクをキャリア上に密封しながら、キャリアをタンクの下で移動させることが可能になる。第1の(第2の又は更なる)光硬化性樹脂は、キャリアが移動する際に、封止部によって凹部の外側の領域ではキャリアから拭き取られる。しかしながら、凹部内に存在する光硬化性樹脂は、キャリア内(具体的には凹部内)に留まる。支持構造体が、キャリアを封止部に接触させて支持又は付勢するために提供されてもよい。
【0050】
一実施形態では、3D印刷装置は、ビルドプラットフォーム及びキャリアをコンピュータ制御によって決定される位置に移動させるように構成される。具体的には、3D印刷装置は、好ましくは、コンピュータ制御によって、ビルドプラットフォームを、キャリアに対して及び/又は露光プレートに対して、ビルド軸線に沿った異なる位置に移動させるように構成される。
【0051】
更に、3D印刷装置は、コンピュータ制御によってキャリアを異なる位置に移動させるように構成されてもよい。具体的には、3D印刷装置は、好ましくは、コンピュータ制御によって、キャリアを、ビルドプラットフォーム及び露光プレートに対して、ビルド軸線の横断方向の異なる位置に移動させるように構成される。換言すれば、3D印刷装置は、好ましくは、コンピュータ制御によって、キャリアを積層造形ステーションに対してプロセスフロー方向に移動させるように構成される。
【0052】
ビルドプラットフォームをビルド軸線に沿って移動させることは好都合であり得るが、キャリア及び/又は露光プレートをビルド軸線に沿って代替的に又は追加的に移動させることと同等であると見なされることに留意されたい。同様に、キャリアをプロセスフロー方向に移動させる代わりに、積層造形ステーションをプロセスフロー方向に、又はプロセスフロー方向と逆に移動させることが可能であり得る。したがって、ビルドプラットフォームとキャリアとの間の距離が、ビルドプラットフォーム以外の任意の他の構成要素の移動によって調整される3D印刷装置は、同等とみなされる。また、更に、キャリアが静止しており、積層造形ステーションが移動する3D印刷装置もまた、同等とみなされる。
【0053】
一実施形態では、光パターンを形成する光は、第1の光硬化性樹脂を硬化させるのに適した波長を含む、又はその波長から形成される。波長は、具体的には、330nm~450nmの範囲内とすることができる。好ましい波長は、383nmである。
【0054】
一実施形態では、3D印刷装置は、キャリアを供給する送り込みリールを備える。3D印刷装置は、キャリアを排出する排出リールを更に有してもよい。
【0055】
一実施形態では、キャリアはエンドレスベルトによって形成されている。
【0056】
更なる実施形態では、3D印刷装置は、並列に配置された2つ以上のキャリアを備える。好ましくは、キャリア同士は、互いに平行に移動可能である。更に、3D印刷装置は、プロセスフロー方向を横切る次元において2つ以上のトラックを形成する1つのキャリアを有してもよい。これにより、プロセスフロー方向だけでなくプロセスフロー方向に対して横断方向にもブランク層の構成が可能になる。
【0057】
3D印刷装置は、プロセスフロー方向に対して横断方向に移動可能な積層造形ステーションを有してもよい。したがって、インプロセスのオブジェクトは、異なるトラック又はキャリアから硬化された層を追加することによって補完することができる。
【0058】
一実施形態では、3D印刷装置は、Digital Light ProcessingTM(DLP)などのステレオリソグラフィに基づく。
【0059】
一実施形態では、3D印刷装置は、キャリア及びコーティングステーションが内部に収容されたプリンタカートリッジを有する。好ましくは、プリンタカートリッジは、積層造形ステーションにおいて取り外し可能に固定される。したがって、プリンタカートリッジは、積層造形ステーションにおいて別のプリンタカートリッジと交換又は取り替えることができる。具体的には、プリンタカートリッジは、少なくとも第1のディスペンサを備えることができる。更に、プリンタカートリッジは、第2の及び任意選択の更なるディスペンサを備えてもよい。プリンタカートリッジは、好ましくは、第1、第2、及び/又は更なるディスペンサ並びにキャリアを互いに対して所定の位置関係で保持するシャーシを備える。更に、シャーシは、そこからキャリアを得ることができる送り込みリールと、オブジェクトをビルドアップするために使用した後でキャリアを排出する排出リールとを備えてもよい。プリンタカートリッジは、キャリアがすべて送り込みリールから取り除かれた場合、並びに/又は、第1、第2、及び/若しくは更なるディスペンサのいずれかが光硬化性樹脂を使い果たした場合に、取り替えることができる。取り外したプリンタカートリッジはいずれも、必要に応じて第1、第2、及び更なるディスペンサを補充し、使用済みのキャリアを新しいキャリアと交換することによって再利用することができる。任意選択的に、プリンタカートリッジは、輪になったベルト(closed belt)の形態のキャリアを備えてもよい。この任意選択の実施形態では、プリンタカートリッジ(又は積層造形ステーション)は、残留した光硬化性樹脂をキャリアから除去する清掃ステーションを備えてもよい。このようなプリンタカートリッジの再利用は、キャリアが摩耗している場合に、又はメンテナンスサイクルによる場合にのみ、キャリアの交換を含んでもよい。更に、再利用は、必要に応じて、第1、第2、及び更なるディスペンサを補充することを含んでもよい。
【0060】
印刷カートリッジは、積層造形ステーションの対応する第2のインターフェースと嵌合するように構成された第1のインターフェースを有してもよい。例えば、いくつかの印刷カートリッジは、積層造形ステーションの第2のインターフェースと嵌合する標準化された第1のインターフェースを有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本明細書に記載の3D印刷装置を示す側面図である。
【
図3】本明細書に記載の更なる3D印刷装置を示す側面図である。
【
図4】本明細書に記載の更なる3D印刷装置を示す上面図である。
【
図5】本明細書に記載の更に別の3D印刷装置の一部分を示す部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1は、積層造形によってオブジェクトをビルドアップするための3D印刷装置1を示す。インプロセスのオブジェクト100(部分的にはビルドアップされているがまだ完全にはビルドアップされていないオブジェクト)が示されている。3D印刷装置1は、本明細書に記載の方法を実行するように構成されている。図示した装置1は、いわゆるDigital Light Processing(DLP)技術に基づく積層造形ステーション10を備える。この技術では、背面照明可能な光透過性の(好ましくは透明な)露光プレート11と、ビルドプラットフォーム12とを使用し、これらの間にオブジェクトをビルドアップすることができる。本発明はDLPに限定されるものではなく、必要に応じて、光硬化性樹脂に基づく他の積層造形プロセス又は装置と共に同じように使用することができる。具体的には、他のステレオリソグラフィプロセス又は装置を本発明と共に使用することができる。
【0063】
ビルドプラットフォーム12は、ビルド軸線Aに沿って露光プレート11に対して移動可能である。ビルドプラットフォーム12は、ビルドアップ中にオブジェクト又はインプロセスのオブジェクト100を維持又は保持する。3D印刷装置1は、光透過性の(好ましくは透明な)キャリア20を備えている。キャリア20は、露光プレート11とビルドプラットフォーム12との間に残すことができる間隙を通って移動可能である。キャリア20は、ビルド軸線Aに対して横断方向に移動可能であり、好ましくは露光プレート11上に直接配置されている。3D印刷装置1は、キャリア20を露光プレート11上に押し下げておくために提供されたクランプバー21を有する。クランプバー21は可動式である。したがって、クランプバー21は、キャリア20が移動するのを可能にするために露光プレート11から後退させることができる。あるいは、クランプバー21を露光プレート11に向けて移動させ、キャリア20を露光プレート11上に押し下げておくことができる。
【0064】
図示した3D印刷装置1は、光硬化した樹脂から作製されるオブジェクトを層状にビルドアップするように構成されている。各層は、光硬化性樹脂が、キャリア20とビルドプラットフォーム12との間に提供された所定の間隙内で硬化されることで生成される。間隙は、ビルドプラットフォーム12を適宜位置決めすることによって提供される。光プロジェクタ40が、(二次元)光パターンをビルドプラットフォーム12に向けて露光プレート11及びキャリア20を通して投影し、その光パターンに曝された光硬化性樹脂の部分を硬化させる(光パターンの外側の部分は未硬化のままである)。硬化した樹脂は層を形成し、この層は、その後ビルドプラットフォーム12によってキャリアから引き離され、その結果、その層とキャリア20との間に新しい間隙が形成される。そのように形成された新しい間隙は、新しい層などを製作するために使用される。
【0065】
本実施例の光プロジェクタ40はデジタル光プロジェクタであり、光プロジェクタ40から放射された光パターンをコンピュータによって制御することができる。典型的には、光パターンは、ビルドされることになるオブジェクトの三次元表現又はモデルに基づいてコンピュータ制御によって決定される。三次元表現は、例えば、歯科修復物又は歯科修復物部品を設計することを可能にする、例えば歯科CADシステムなどのCADシステムで作成することができる。典型的には、三次元表現は、二次元の輪郭を有する均一な厚さの仮想スライスに切断され、この輪郭は、それらが切断された三次元表現の外形に対応する。
【0066】
光プロジェクタ40は、対応する二次元パターンで光を投影するように構成されている。光パターンは、例えばチェッカーボードのような規則的なパターンで配列された多数の画素のマトリクスに基づくことができる。光プロジェクタ40は、そのパターンの各画素を、照明する又は暗くしておくことができるように構成される。キャリア20に隣接した光パターンの解像度が、ビルド軸線Aに垂直な次元においてオブジェクトをビルドアップすることができる精度を決定する。光パターンの制御は、いわゆるデジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micro-mirror Device、DMD)によってもたらされ得る。DMDは、多数の個別に回転可能な小ミラーを備え、これらの小ミラーは、光ビームから露光プレートに向けて光を偏向させて明るい画素を生成する、又は光を露光プレートから離れるように偏向させて暗い画素を生成するように方向付けられ得る。当業者は、光投影の他の技術を認識するであろう。例えば、光プロジェクタは、LCD(液晶ディスプレイ)投影技術に基づいてもよい。光パターンは、更に、可動光ビーム、例えばレーザビームに基づいてもよい。この技術では、パターンは画素のマトリクスに基づいてもよいし、又は基づかなくてもよい。
【0067】
光投影に使用される光は、光硬化性樹脂を硬化させるために必要な又は適した波長範囲の光を含み、本実施例においては、約330nm~約450nmの波長範囲内のUV光、特に、383nmのUV光を含む。
【0068】
3D印刷装置1は、複数のディスペンサ30を有し、そのうち例として、第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cが図示される。3つのディスペンサ30のみが図示及び以下に記載されるが、図示した3つのディスペンサについて開示したものと同じ特徴を有する更なるディスペンサが提供されてもよい。
【0069】
具体的には、第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cは、好ましくは、それぞれ第1、第2、及び第3の光硬化性樹脂を分注するように構成される。第1、第2、及び第3の光硬化性樹脂は、例えば、少なくともそれらが硬化された後の段階で、色及び/又は透光性が互いに異なり得る。第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cのそれぞれは、印刷又はコーティング技術、例えば、インクジェット、ロールコーティング、スクリーン印刷、又はグラビア印刷に基づくものでもよい。
【0070】
図2によれば、例として、第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400は、それぞれ第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cによって分注される。第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400は、積層造形ステーション10の外側の領域においてキャリア20上に分注され、その後、積層造形ステーション10内に位置決めされる。図示しないが、第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400(又は1つ以上の更なる光硬化性樹脂)のいずれかを、所望に応じて、個別に、又は任意の順序で、選択的に分注することが可能である。例えば、第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400を連続した順序で分注する代わりに、第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400のうちの1つのみが分注されてもよい。更に、第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400のいずれかが、第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400のうちの別の1つが個別に又は複数回連続的に分注される前に、複数回連続的に分注されてもよい。このように分注された光硬化性樹脂(第1の光硬化性樹脂200、第2の光硬化性樹脂300、及び第3の光硬化性樹脂400から選択され、また、任意選択で、任意の順序の1つ以上の更なる光硬化性樹脂から選択される)は、硬化、及び追加の硬化された層によるインプロセスのオブジェクト100の補完のために、その後、ビルドプラットフォーム12(
図1に示す)と、露光プレート11(
図1に示す)との間に移動される。
【0071】
分注された光硬化性樹脂は、キャリア20によってビルドプラットフォーム12と露光プレート11との間(ここで光硬化性樹脂はオブジェクトをビルドアップするために使用される)で連続的に移動される。分注された光硬化性樹脂が配置されたキャリア20を移動するためには、ビルドプラットフォーム12をキャリア20から離れた後退位置に位置決めして、硬化性樹脂を、ビルドプラットフォーム12と衝突することなく、積層造形ステーション10内に移動させることを可能にする。例えば、第2の光硬化性樹脂300が配置されたキャリア20を積層造形ステーション10内に移動するために、ビルドプラットフォーム12を、露光プレート11から、第2の光硬化性樹脂300とキャリアとを組み合わせた厚さよりも大きい距離に位置決めする。第2の光硬化性樹脂300がビルドプラットフォーム12と露光プレート11との間に位置決めされると、ビルドプラットフォーム12は露光プレート11に更に向けて位置決めされる。具体的には、第2の光硬化性樹脂300がビルドプラットフォーム12と露光プレート11との間に位置決めされると、ビルドプラットフォーム12は、インプロセスのオブジェクト100が第2の光硬化性樹脂300と接触する、露光プレート11からの所定の距離に位置決めされる。その位置では、インプロセスのオブジェクト100がキャリア20と接触しないため、第2の光硬化性樹脂300がキャリア20とインプロセスのオブジェクト100との間の間隙を埋めている。
【0072】
次いで、光プロジェクタ40(
図1を参照)を使用して、第2の光硬化性樹脂300の少なくとも一部分を硬化させて、インプロセスのオブジェクト100を補完する硬化された層を形成する。ビルドプラットフォーム12は、その後、後退位置まで後退され、第1の光硬化性樹脂200に対して同じステップが繰り返される。
【0073】
光硬化性樹脂の一部分は、例として第3の光硬化性樹脂400’について図示されるように、光硬化性樹脂の任意の部分が硬化された後に、キャリア20上に残留することがある。オブジェクトをビルドアップするために使用した後、残留した光硬化性樹脂は、キャリア20と一緒に処分することができる。
【0074】
図示されるように、(異なる及び/又は同じ)光硬化性樹脂は、互いに対して所定の均一なピッチで分注される。キャリア20は、そのピッチに従って、各分注された光硬化性樹脂を積層造形ステーション10内に位置決めすることができる。
【0075】
3D印刷装置1及び上記の方法では、多数の層を順に提供する(又は「積み重ねる」)ことによって、オブジェクトをビルドアップすることが可能である。本発明の3D印刷装置及び方法は、任意の所望の順序の、同じ及び/又は異なる特性の硬化された層を生成するのに特に適している。例えば、光硬化性樹脂同士が(少なくとも硬化されたときに)別々の色を呈するように構成する場合には、ビルド軸線Aに沿った次元において特定の色グラデーションを有するオブジェクトをビルドアップすることができる。
【0076】
層同士は、典型的には、同じ又は予め定められた均一な厚さ(すなわち、ビルド軸線Aに沿った)を有するが、厚さに対する横断方向の次元において、別々の光パターンに基づいて個別に二次元的に成形することができる。しかしながら、異なる厚さを有する多数の層を提供することによって、オブジェクトをビルドアップすることも可能である。したがって、本発明の3D印刷装置及び方法によって、多種多様な異なる形状及び色グラデーションの三次元オブジェクトをビルドアップすることができる。
【0077】
3D印刷装置1は、そこからキャリアを供給することができる送り込みリール22を有する。更に、3D印刷装置1は、いくつかのオブジェクトをビルドアップするために使用した後にキャリア20(最終的に硬化性樹脂がその上に残留している)を集める排出リール23を有する。キャリア20は使い捨てであってもよい。例えば、排出リール23は、いくつかのオブジェクトをビルドアップするために使用した後に処分されてもよい。
【0078】
図3は、この実施例のキャリアがエンドレスベルトによって形成されることを除いて、
図1に示した3D印刷装置に対応する3D印刷装置1を示す。また、3D印刷装置1は、清掃ステーション50を有する。
【0079】
3D印刷装置1は、積層造形によってオブジェクトをビルドアップするように構成されており、具体的には、本発明の方法を実行するように構成されている。ここでも、インプロセスのオブジェクト100が図示される。図示した3D印刷装置1は、上述のDigital Light Processing(DLP)に基づく積層造形ステーション10を備える。
【0080】
ビルドプラットフォーム12は、ビルド軸線Aに沿って露光プレート11に対して移動可能である。ビルドプラットフォーム12は、ビルドアップ中にオブジェクト又はインプロセスのオブジェクト100を維持又は保持する。3D印刷装置1は、この例がエンドレスベルトとして形成されている光透過性の(好ましくは透明な)キャリア20を有する。偏向ロール24は、キャリア20を移動中にガイドするのに役立つ。
【0081】
キャリア20は、ビルド軸線Aに対して横断方向に移動することができ、好ましくは露光プレート11上に直接配置される。3D印刷装置1は、キャリア20を露光プレート11上に押し下げておくために提供された可動式クランプバー21を有する。
【0082】
光プロジェクタ40は、(二次元の)光パターンをビルドプラットフォーム12に向けて露光プレート11及びキャリア20を通過させて投影するように構成される。本実施例の光プロジェクタ40はデジタル光プロジェクタであり、光プロジェクタ40から放射された光パターンをコンピュータによって制御することができる。光投影に使用される光は、光硬化性樹脂を硬化させるために必要な又は適した波長範囲の光を含み、本実施例においては、約330nm~約450nmの波長範囲内のUV光、特に、383nmのUV光を含む。
【0083】
3D印刷装置1は、複数のディスペンサ30を更に有する。具体的には、第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cが、例として図示されている。第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cは、好ましくは、
図1に記載されるように、第1、第2、及び第3の光硬化性樹脂をそれぞれ分注するように構成される。
【0084】
本実施例の清掃ステーション50は、光硬化性樹脂を硬化させるのに適した光を放射することができる光源によって形成される。具体的には、光源は、約330nm~約450nmの波長範囲内のUV光、特に383nmのUV光を放射するように構成される。したがって、清掃ステーション50は、キャリア上の残留した光硬化性樹脂を硬化させる。キャリアが偏向ロールの上を移動する際に、硬化した(したがって剛性の)残留樹脂がキャリア20から分離する。硬化された残留樹脂は、容器51内に集められ、後で処分されてもよい。したがって、キャリア20を使用して、その上にブランク層を連続的にコーティングし、インプロセスのオブジェクトをブランク層から得られた硬化された層で補完し、残留した光硬化性樹脂があればそれをキャリアから除去することができる。
【0085】
図4は、
図1又は
図2の実施例に対応し得るが、キャリアを1つのみではなく複数のキャリア20a、20b、20cを有する3D印刷装置1を示す。本実施例では、第1のキャリア20a、第2のキャリア20b、及び第3のキャリア20cは、並べて配置される。第1のキャリア20a、第2のキャリア20b、及び第3のキャリア20cは、ビルド軸線の横断方向(「M」と表記される矢印によって示されるプロセスフロー方向)に互いに平行に移動することができる。本実施例では、第1のディスペンサ30a、第2のディスペンサ30b、及び第3のディスペンサ30cは、プロセスフロー方向Mを横切る次元に沿って構成されている。したがって、第1のキャリア20a、第2のキャリア20b、及び第3のキャリア20cのそれぞれは、第1、第2、及び第3の光硬化性樹脂でそれぞれコーティングされてもよい。具体的には、第1のキャリア20aの第1の表面領域が、第1の光硬化性樹脂の第1のブランク層でコーティングされてもよく、第2のキャリア20bの第2の表面領域が、第2の光硬化性樹脂の第2のブランク層によってコーティングされてもよく、第3のキャリア20cの第3の表面領域が、第3の光硬化性樹脂の第3のブランク層でコーティングされてもよい。積層造形ステーション10(
図1、
図2、及び
図3の文脈で説明される)は、プロセスフロー方向Mを横切る次元での移動のために移動可能に構成される。したがって、積層造形ステーション10は、インプロセスのオブジェクトを第1、第2、又は第3のブランク層のいずれかから得られた硬化された層で補完するために、第1、第2、又は第3のブランク層に対して選択的に位置決めすることができる。複数のキャリアの代わりに、複数のトラックを形成する1つの共通キャリアを同じように使用することができることに留意されたい。
【0086】
本実施例では、第1、第2、及び第3のキャリアは、
図5に記載されるように光硬化性樹脂を保持する複数の凹部25を有する。
【0087】
図5は、
図1~
図4のいずれかに示した実施形態と共に使用され得る、キャリア20を有する3D印刷装置1の一部分を示す。キャリア20は、複数の凹部25を有する(そのうちの1つがこの図に示されている)。凹部25は、光硬化性樹脂をその内部に受け入れるために提供される。凹部25は、具体的には、そうでなければ制御されずにキャリア上に分散するであろう低粘度光硬化性樹脂を受け入れるために使用され得る。3D印刷装置1は、キャリア20をエンボス加工し、それにより凹部25を提供するエンボス加工ステーション(図示せず)を有してもよい。
【0088】
3D印刷装置1は、本実施例では周壁61(例えば、中空円筒壁)によって形成されるタンク60を有する。第1の光硬化性樹脂63(又は別の光硬化性樹脂)が、タンク60内に供給される。タンク60は、密封するようにキャリア20に当接する周囲封止部62を更に有する。封止部62は、密封するようにキャリア20上を摺動することができるように構成される。したがって、タンク60をキャリア20上に密封しながら、キャリア20をタンク60の下で移動させることができる。第1の光硬化性樹脂63は、キャリア20が移動する際に、封止部62によって凹部25の外側の領域ではキャリア20から拭き取られる。しかしながら、凹部25内に存在する光硬化性樹脂は、封止部62と当接するキャリア20の表面と面一に平らである。したがって、キャリア20の凹部25は、第1の光硬化性樹脂によって完全に充填され得る。その後、キャリア20を移動させて、光硬化性樹脂で充填された凹部25を、積層造形ステーションのビルドプラットフォームと光プロジェクタとの間に位置決めすることができる。支持構造体64が、キャリア20を封止部62に接触させて支持するために提供されてもよい。