(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電気機械デバイスを備えるアクチュエーターを搭載する計時器
(51)【国際特許分類】
G04C 3/04 20060101AFI20230922BHJP
G04C 3/06 20060101ALI20230922BHJP
G04C 11/08 20060101ALI20230922BHJP
G04B 17/00 20060101ALI20230922BHJP
G04B 17/26 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G04C3/04 Z
G04C3/04 B
G04C3/06 A
G04C11/08
G04B17/00 B
G04B17/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022024679
(22)【出願日】2022-02-21
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・インボーデン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ピエール・ミニョー
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-512558(JP,A)
【文献】特開平9-22568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械デバイス(6、6A、6B、6C、6D)と電気制御回路(8)によって形成されるアクチュエーターを搭載する計時器(2)であって、
前記電気機械デバイスは、電磁システム(10、10A、10B、10C、10D)と、及び並進運動することができ前記電磁システムに関連づけられた機械的要素(22)とを備え、
前記電磁システムは、永久磁石(12、52)とコイル(14)によって形成され、
前記永久磁石と前記コイルのうちの一方は、前記電気機械デバイスのフレキシブルメンバー(16)によって担持され、
前記永久磁石と前記コイルのうちの他方は、前記フレキシブルメンバーの支持体(18)によって担持され、
前記機械的要素は、前記フレキシブルメンバーによって形成され、
前記アクチュエーターは、前記電気制御回路によって生成され前記コイルと前記永久磁石の間に電磁力を発生させるように前記コイルに与えられる電気的アクティブ化信号に応答して、前記電磁システムがアクティブでないときに前記機械的要素が留まる待機位置から前記機械的要素が前記計時器の特定の部分(24)と接触する接触位置までの前記機械的要素の運動を可能にするように構成しており、
前記フレキシブルメンバーは、少なくとも部分的に弾性要素(20)によって形成され、
前記弾性要素(20)は、前記電気制御回路が前記電気
的アクティブ化信号を発生させるときに、前記待機位置と前記接触位置の間にて、前記機械的要素が移動することができる距離の少なくとも過半にわたって前記待機位置の方向における前記機械的要素の機械的戻し力を発生させるように構成しており、
前記接触位置は、前記距離の前記少なくとも過半の終わりとなっており、
前記アクチュエーターは、さらに、磁気的要素(26、50、54、74)を備え、
前記磁気的要素は、前記永久磁石(12、52)と相互作用して、前記磁気的要素が待機位置にあるときに前記機械的要素に与えられる磁力を前記磁気的要素と前記永久磁石の間にて発生させることができるように構成しており、
この磁力は、前記待機位置からの前記距離の少なくとも初期の部分にわたって前記電磁力の方向に対して反対側の方向を有し、前記機械的要素が待機位置から離れるときに前記少なくとも初期の部分にわたって減少し前記少なくとも初期の部分における前記機械的要素のいずれの位置における前記電磁力の強さよりも小さい強さを有する
ことを特徴とする計時器。
【請求項2】
前記磁気的要素(26、74)は
、強磁性材料によって作られる強磁性要素(26、74)である
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器。
【請求項3】
前記永久磁石は、第1の永久磁石であり、
前記磁気的要素(50、54)は、前記機械的要素(22)が待機位置にあるときに前記第1の永久磁石と磁気的に引き合うように構成している第2の永久磁石によって形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器。
【請求項4】
前記永久磁石(12)は、ディスクの形を含む、固体で平坦な、丸まった形を有し、
前記
強磁性要素は、前記機械的要素が待機位置にあるときに前記永久磁石の中心軸上に整列するように構成している
ことを特徴とする請求項2に記載の計時器。
【請求項5】
前記第1の永久磁石(12)は、ディスクの形を含む、固体で平坦な、丸まった形を有し、
前記磁気的要素は、前記機械的要素が待機位置にあるときに前記第1の永久磁石の中心軸上に整列するように構成している
ことを特徴とする請求項3に記載の計時器。
【請求項6】
前記強磁性要素(26、74)は、ディスクの形を含む、固体で平坦な、丸まった形を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の計時器。
【請求項7】
前記第2の永久磁石(54)は、ディスクの形を含む、固体で平坦な、丸まった形を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の計時器。
【請求項8】
前記磁気的要素(50)は、中心円を形成する環状の形を有する第2の永久磁石、又は幾何学的円に沿って配置される複数の永久磁石によって構成しており、
前記中心円又は前記幾何学的円は、前記第1の永久磁石(12)の外径よりも大きい直径を有し、前記フレキシブルメンバーが待機位置にあるときに前記第1の永久磁石の中心軸を中心とし、
前記中心円又は前記幾何学的円の直径は、待機位置から接触位置までの前記機械的要素(22)の前記運動の間に、前記第1の永久磁石と、前記第2の永久磁石又は前記複数の永久磁石との間の前記磁力の方向が反対であるように選択される
ことを特徴とする請求項5に記載の計時器。
【請求項9】
前記永久磁石(52)は、環状の形を有する
環状永久磁石である
ことを特徴とする請求項2に記載の計時器。
【請求項10】
前記第1の永久磁石(52)は、環状の形を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の計時器。
【請求項11】
前記強磁性要素(74)は、ディスクの形を含む、固体で平坦な、丸まった形を有し、
この強磁性要素は、前記機械的要素が待機位置にあるときに、前記
環状永久磁石の中心軸上に整列するように構成している
ことを特徴とする請求項9に記載の計時器。
【請求項12】
前記強磁性要素は、前記機械的要素が待機位置にあるときに、前記環状永久磁石の内部空間内に少なくとも部分的に配置されるように構成している
ことを特徴とする請求項11に記載の計時器。
【請求項13】
前記
環状永久磁石(52)、前記強磁性要素(74)及び前記弾性要素(20)は、前記機械的戻し力と前記磁力の合計が、前記機械的要素が移動することができる前記距離の全体にわたって、待機位置から接触位置までのこの機械的要素の前記運動の方向とは反対の方向を有し、これによって、前記距離の全体にわたって、待機位置の方への前記機械的要素の全戻し力を形成するように構成している
ことを特徴とする請求項11又は12に記載の計時器。
【請求項14】
前記第2の永久磁石(54)は、ディスクの形を含む、固体で平坦な、丸まった形を有し、
前記第2の永久磁石は、前記機械的要素が待機位置にあるときに前記第1の永久磁石の中心軸上に整列するように構成している
ことを特徴とする請求項10に記載の計時器。
【請求項15】
前記第2の永久磁石は、待機位置から接触位置までの前記機械的要素(22)の前記運動の間に、前記第1の永久磁石(52)と前記第2の永久磁石(54)の間の前記磁力の方向が反対の方向であるように構成している
ことを特徴とする請求項14に記載の計時器。
【請求項16】
前記第1の永久磁石、前記第2の永久磁石、及び前記弾性要素(20)は、前記機械的戻し力と前記磁力の合計が、前記機械的要素(22)が移動することができる前記距離の全体にわたって、待機位置から接触位置までの前記機械的要素の前記運動の方向に対して反対の方向を有し、これによって、前記距離の全体にわたって、待機位置の方への前記機械的要素の全戻し力を形成するように構成している
ことを特徴とする請求項15に記載の計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石とコイルによって形成される電磁システムを備える電気機械デバイスによって形成されるアクチュエーターを搭載する計時器に関する。この電気機械デバイスは、前記電磁システムが電気制御回路によってアクティブであるときに、待機位置と、計時器の特定の部分と接触する接触位置との間の運動を行うことができる機械的要素を備える。
【0002】
本発明に係るアクチュエーターは、具体的には、機械式共振器、特に、このような機械式共振器を形成するバランスばねのバランス、に機械的制動パルスを与えて、その機械式共振器の平均周波数を調整したり、計時器の動作中に検出される時間的なずれを修正したりするために用いることができる。
【背景技術】
【0003】
上記のタイプのアクチュエーターは、例えば、国際特許出願WO2018/177779において
図4に関連して記載されている。このアクチュエーターは、コイル-磁石の電磁システムによってアクチュエートされるフレキシブルブレードを備える。このようなアクチュエーターの課題の1つとして、コイルへとパワー供給されていないときに、アクチュエーターを搭載する計時器の担持体の前側アームの運動が発生させる衝撃や比較的小さな加速度をフレキシブルブレードが受けた場合に、待機位置から動く望ましくない運動を簡単に行ってしまうことがあることに基づくものがある。このような運動は、バランスばねに与えられバランスばねの動作、特に、その平均周波数、の調整を妨げるような寄生制動パルスを発生させてしまうことがある。フレキシブルブレードは、計時器のユーザーによる衝撃や突然の運動の後にも振動して、一連の寄生制動パルスを発生させてしまうこともある。
【0004】
実際に、電磁システムがアクティブでないときに、コマンドを受けて制動パルスが発生しているときのように(電磁システムがアクティブにされるのは制動パルスが発生している間のみであり、このことによって、アクチュエーターの電力消費が抑えられる)、フレキシブルブレードが待機位置の方に機械的に戻されるが、この機械的戻し力は、待機位置の近くにおいては弱い。既知のように、弾性力は、待機位置からのフレキシブルブレードの距離が大きくなるに従って線形的に増加する。したがって、このフレキシブルブレードは、簡単に振動してしまい、望ましくない運動を簡単に行ってしまうことがあり、その振幅は、フレキシブルブレードがバランスに接触してしまうほどに大きくなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アクチュエーターを搭載する計時器を提供することによって、技術的背景において明らかにした技術的問題を克服することを目的とする。このアクチュエーターにおいては、電磁システムによってアクチュエートされるフレキシブルメンバーの待機位置が、計時器がユーザーの手首に取り付けられて加速度を受けたときに、振幅を伴うフレキシブルメンバーの望ましくない運動であって、計時器の特定の部分、特に機械式共振器のバランス、にアクチュエーターが寄生パルスを発生させてしまうことがあるような運動、のリスクを防いだり、少なくとも減少させたりするように、安定化されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目標を達成するために、本発明は、電気機械デバイスと電気制御回路によって形成されるアクチュエーターを搭載する計時器に関し、前記電気機械デバイスは、電磁システムと、及び並進運動することができ前記電磁システムに関連づけられた機械的要素とを備える。前記電磁システムは、永久磁石とコイルによって形成され、前記永久磁石と前記コイルのうちの一方は、前記電気機械デバイスのフレキシブルメンバーによって担持され、前記永久磁石と前記コイルのうちの他方は、前記フレキシブルメンバーの支持体によって担持される。前記機械的要素は、前記フレキシブルメンバーの一部であり、前記アクチュエーターは、前記電気制御回路によって生成され前記コイルと前記永久磁石の間に電磁力を発生させるように前記コイルに与えられる電気的アクティブ化信号に応答して、前記電磁システムがアクティブでないときに前記機械的要素が留まる待機位置から前記機械的要素が前記計時器の特定の部分と接触する接触位置までの前記機械的要素の運動を可能にするように構成している。そして、前記フレキシブルメンバーは、少なくとも部分的に弾性要素によって形成され、前記弾性要素は、前記電気制御回路が前記電気アクティブ化信号を発生させるときに、前記待機位置と前記接触位置の間にて、前記機械的要素が移動することができる距離の少なくとも過半にわたって前記待機位置の方向における前記機械的要素の機械的戻し力を発生させるように構成しており、前記接触位置は、前記距離の前記少なくとも過半の終わりとなっている。また、前記アクチュエーターは、さらに、磁気的要素を備え、前記磁気的要素は、前記永久磁石と相互作用して、前記磁気的要素が待機位置にあるときに前記機械的要素に与えられる磁力を前記磁気的要素と前記永久磁石の間にて発生させることができるように構成しており、この磁力は、前記待機位置からの前記距離の少なくとも初期の部分にわたって前記電磁力の方向に対して反対側の方向を有し、前記機械的要素が待機位置から離れるときに前記少なくとも初期の部分にわたって減少し前記少なくとも初期の部分における前記機械的要素のいずれの位置における前記電磁力の強さよりも小さい強さを有する。
【0007】
本発明に係るアクチュエーターにおける付加的な磁気的要素の構成によって、フレキシブルメンバーの待機位置が安定化され、コイルに電気的アクティブ化信号が与えられていないときに、並進運動を行う機械的要素が概して待機位置を維持するようになる。したがって、電気的アクティブ化信号がないときに磁気的要素と計時器の特定の部分が接触してしまうリスクが大幅に低減される。具体的には、前記特定の部分は、計時器に備えられる機械的機構の機械式発振器を形成するバランスである。
【0008】
以下、例として与えられる添付の図面を用いて本発明について詳細に説明する。なお、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の第1の実施形態の第1の実施例についての斜視図であり、底部が開いており振動錘が取り除かれている。
【
図3】
図1の携行型時計に組み込まれたアクチュエーターの電気機械デバイスの線形表現図であり、
図3Aにおいては、この電気機械デバイスのフレキシブルメンバーが待機位置にあり、
図3Bにおいては、携行型時計のバランスと接触する接触位置にある。
【
図4】
図4A及び4Bは、第1の実施形態に係る電気機械デバイスの第2の実施例についての
図3A及び3Bと同様な線形表現図である。
【
図5】
図5A及び5Bは、
図4A及び4Bに示している第2の実施例の電気機械デバイスにて作用する様々な力についての、軸Zに対する、機械的要素の運動に応じた力の曲線を示している。
【
図6】携行型時計のバランスに制動パルスが与えられているときの機械的要素のダイナミクスを表す曲線を示している。
【
図7】第1の実施形態の電磁システムを形成する固体ディスクの形を有する永久磁石の磁力線を示している。
【
図8】
図8A及び8Bは、本発明に係る携行型時計の電気機械デバイスの第2の実施形態についての
図3A及び3Bと同様な線形表現図である。
図8Cは、
図8Aの部分拡大図である。
【
図9】
図9A、9B及び9Cは、本発明に係る携行型時計の第3の実施形態に関し、
図8A~8Cと同様な図である。
【
図10】第3の実施形態の電気機械デバイスを部分的に表現する図であり、
図10A及び10Bにおいてはそれぞれ、この電気機械デバイスによって形成される機械的要素が2つの異なる位置にある。
【
図11】
図11A及び11Bは、第3の実施形態の電気機械デバイスに作用する様々な力についての、第3の実施形態の電気機械デバイスを形成する、フレキシブルメンバーの待機位置を安定化させるための磁気的要素についての軸Zに沿った運動に応じた力の曲線を示している。
【
図12】
図12A、12B及び12Cは、本発明に係る携行型時計の第4の実施形態に関連し、
図9A~9Cと同様な図である。
【
図13】
図13A及び13Bは、第3の実施形態の電気機械デバイスに作用する様々な力についての、第4の実施形態の電気機械デバイスを形成する、フレキシブルメンバーの待機位置を安定化させるための磁気的要素の軸Zに沿った運動に応じた力の曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~6を参照しながら、本発明に係る計時器の第1の実施形態について下に説明する。
【0011】
図1~3Bに、第1の実施例について示している。
図1及び2に示している携行型時計2には、ケースの底がなく、機械式ムーブメント4の振動錘がない。この携行型時計2は、電気機械デバイス6と電気制御回路8によって形成されるアクチュエーターを搭載している。電気機械デバイス6は、電磁システム10と、軸Zに沿った並進運動をすることができ電磁システム10に関連づけられた機械的要素22とを備える。電磁システム10は、永久磁石12とコイル14によって形成されており、このコイル14は、電気機械デバイス6を形成するフレキシブルメンバー16によって担持され、一方、永久磁石12は、このフレキシブルメンバー16の支持体18によって担持される。なお、
図2においては、フレキシブルメンバー16が2つのねじを介して固定される支持体18の部分を描かずに永久磁石12が見えるようにしている。
【0012】
フレキシブルメンバー16は、少なくとも部分的に弾性要素20によって形成される。このフレキシブルメンバー16には、この弾性要素20の一部であることができ又はこの弾性要素20に固定することができる機械的要素22がある。弾性要素20は、電気制御回路が電気アクティブ化信号を発生させるときに、
図3Aにおいて位置Z=0.0によって定められる待機位置と機械式ムーブメント4の機械式共振器のバランスの輪縁24と接触する接触位置との間にて機械的要素22がZ軸に沿って移動することができる距離の少なくとも過半にわたって、フレキシブルメンバーの待機位置の方向への機械的要素22の機械的戻し力を発生させるように構成している。この接触位置は、前記距離の少なくとも過半の終わりとなっている。この接触位置は、実質的に機械的要素22の位置Z=0.5mmに対応する。図示している実施例において、弾性要素は、好ましいことに、電気機械デバイス6の所与の体積に対する長さを大きくするように自身に対して折り曲がるような弾性ブレード20によって形成される。
【0013】
フレキシブルメンバー16は、支持体18に固定されるベースと、弾性ブレード20と、弾性ブレード20の自由端にある平坦なディスク21と、及び平坦なディスク21と一体的に形成され肘部を介して平坦なディスク21に接続される機械的要素22とによって形成される。なお、機械的要素22は一種のパッドを形成し、このパッドは、このパッドと輪縁24の底部の間の接触による機械的制動パルスを輪縁24に与えることを可能にする。これを行うために、機械的要素22は、輪縁24の内側の面に特定の力を与えることができなければならず、このことは、ここで説明するアクチュエーターが可能にする。したがって、機械的要素22は、それ自体が必ずしもフレキシブルであることは必要ではないが、フレキシブルメンバー16の一部である。機械的要素22は、
図3Bに示しているように、電磁システム10が発生させる変形力を弾性要素20が受けるときに運動を行うことができるように、直接又はフレキシブルメンバーの別の部分によって、弾性要素20の自由端に接続される。
【0014】
アクチュエーターは、電気制御回路8によって概して電気パルスの形態にて生成されコイル14と永久磁石12の間に電磁反発力を発生させるようにコイル14に与えられる電気アクティブ化信号に応答して、電磁システム10がアクティブではない状態に機械的要素22が留まる待機位置(Z=0.0)から、バランスの輪縁24、より一般的にはアクチュエーターの用途に応じた計時器の特定の部分、と接触する接触位置(Z=0.5mm)までの、機械的要素22の運動が可能になるように構成している。したがって、機械的要素及びバランスの輪縁の軸方向の位置が逆であり、電磁システムが非アクティブであるとき、したがって、待機状態であるときに、電磁システムにおいて永久磁石とコイルの間に空き空間があるような実施例においては、機械的要素を待機位置から接触位置へとアクチュエートするために電磁力を引力として発生させる。
【0015】
本発明によると、アクチュエーターは、さらに、機械式共振器のバランスの回転軸に対して固定位置に配置される磁気的要素を備え、この磁気的要素は、永久磁石12と相互作用して、この磁気的要素と永久磁石12の間に磁力を発生させることができるように構成しており、この磁力は、機械的要素22が待機位置にあるときに機械的要素22に作用し、待機位置から接触位置までの距離の少なくとも初期の部分にわたって待機位置の方への機械的要素22の戻し力を定める。アクチュエーターが2つの異なる部分によって構成しており、それらのうちの一方のコイルを搭載するものが取り外し可能であるような特定の場合において、磁気的要素は、アクチュエーターがその磁気的要素をアクチュエートできる機能的な構成となっているときに、コイルに対して安定した位置にある。図示している特定の実施例において、磁気的要素26は、コイル14に剛接続されている。
【0016】
この磁力は、コイル14がパワー供給されている間に待機位置から接触位置までの距離の少なくとも初期の部分にわたって電磁システム10において発生する電磁力とは反対の方向を向いている。このときに、この磁力の強さは、機械的要素22が待機位置から離れるときに、前記少なくとも初期の部分にわたって減少し、この強さは、前記少なくとも初期の部分における機械的要素のいずれの位置における電磁反発力の強さよりも小さい。
図3Aに示しているように、機械的要素22が待機位置にあるときに、磁気的要素26は、永久磁石12の中心軸上に整列する。ここで説明している第1の実施形態の第1の実施例において、磁気的要素は、強磁性材料によって作られている要素26によって形成されており、以下において、これを「強磁性要素」と呼ぶ。
【0017】
ここで説明している第1の実施形態において、永久磁石12は、ディスクの形であり、より一般的には、固体で平坦な丸まった形である。同様に、磁気的要素26は、ディスクの形であり、一般的には、固体で平坦な丸まった形である。
【0018】
電磁システムがアクティブではないときに、発生する磁力は、フレキシブルメンバー16、したがって、機械的要素22、を安定させて待機位置にするために非常に効果的である。磁気的要素26は、機械的要素が待機位置に近づくときに強さが大きくなる力を与えるように構成している。これは、フレキシブルメンバーの弾性力とは対照的である。したがって、パワー供給なしで、フレキシブルメンバーは、そのフレキシブルメンバーを待機位置に維持し、そして、待機位置から瞬間的に離させる可能性のある外乱があった場合に、機械的要素22の離隔を制限することによって、また、このような離隔の後にこのフレキシブルメンバーが行う可能性のあるリバウンドの振幅を制限することによって、待機位置の方へと強く戻す傾向がある、磁力を受ける。実際に、機械的要素22が待機位置やその近くにあるときに、磁力は比較的大きい。このことは、以下の第2の実施例の説明においてより正確にわかる。
【0019】
図4A及び4Bは、第1の実施形態の第2の実施例を示している。この実施例は、第1の実施例と比べて、電気機械デバイス6Aの電磁システム10Aが空間的に反転している点で異なる。したがって、永久磁石12は、弾性ブレード20によってその自由端側にて担持され、一方、コイル14は、コイルの内部空間に配置される磁気的要素26とともに支持体18に固定される。この第2の実施例の1つの利点は、電磁システム10Aがアクティブ化されているときにコイルがバランスの輪縁24に対して運動せず衝撃も受けないということに基づいている。これによって、電気制御回路へのコイルの電気接続に応力を与えないようにすることができ、したがって、これらの接続の切断を避けることができる。しかし、この第2の実施例は、永久磁石がフレキシブルメンバーの可動部分によって担持されるために、第1の実施例よりも外部磁場の影響を受けやすい。
【0020】
磁気的要素の寸法構成は、永久磁石12の寸法構成よりも小さい。例えば、コイルの外径は2.4mm、内径は0.9mm、高さは0.4mmである。永久磁石12は、直径2.0mm、高さ1.0mmである。強磁性要素26は、直径0.15mm、厚み0.05mmである。なお、これらの値は、選択した磁石のタイプ、永久磁石と強磁性要素の間の距離、電気制御回路が電磁システムに供給する電気パルス、磁気的要素22のための所望のダイナミクス、及び他のパラメーターに応じて最適化することができる。磁気的要素26の大きさ、及び永久磁石に対する磁気的要素26の位置を見つけて、電磁システムがアクティブではないときに、フレキシブルメンバー、特に、その機械的要素、を待機位置にて十分に安定化させるためにかなり強い引力を得て、一方で、バランスの輪縁に特定の強さの力を機械的要素が与えることができるように電磁力が磁力に勝り機械的要素の運動を可能にするために十分であることを確実にする。この機械的要素は、携行型時計の動作の調整に用いられる制動パルスを与えるために十分な圧力をバランスの輪縁に対して瞬間的に与えることができなければならない。
【0021】
電磁システムと強磁性要素の寸法構成が上記の例で示したものとほぼ同じである、ここで説明している第2の実施例に対して、
図5Aは、a)軸Zに沿った機械的要素の運動に対する永久磁石12と強磁性要素26の間に発生する磁力の曲線30を示しており、この磁力は、示している運動の全範囲にわたって、特に、機械的要素22が待機位置(Z=0.0mm)と接触位置(Z=0.5mm)の間を移動することができる距離にわたっての、磁気戻し力を定め、
図5Aは、さらに、b)コイル14が2.5Vの電圧の下でパワー供給されているときの、軸Zに沿った機械的要素の運動に対する電磁力の曲線32を示しており、
図5Aは、さらに、c)軸Zに沿った機械的要素の運動に対する、電磁力と磁気戻し力の加算によって得られる全磁力の曲線34を示している。
【0022】
図5Bは、弾性ブレード20が待機位置から離れるときに与える力によって定められる機械的戻し力を取り入れている。これは、弾性ブレードの弾性係数によって決まる曲線36によって与えられている。そして、曲線38は、軸Zに沿った機械的要素の運動に対する、磁力(曲線30)と機械的戻し力(曲線36)を加算することによって得られる全戻し力を示している。全戻し力は、強磁性要素によって、接触位置から待機位置まで移るに従って強さが大きくなり待機位置にて最大になることが観察される。最後に、曲線40は、軸Zに沿った機械的要素の運動に対する、機械的要素22においてフレキシブルメンバー16に与えられる全体的な力を示している。この全体的な力は、図示している運動の範囲全体においては、正負の符号、したがって、方向、を変えるが、待機位置と設定された接触位置の間の距離全体においては、正を維持する。
【0023】
図5Bに示しているグラフは、フレキシブルメンバーが待機位置(Z=0.0)にあるときに弾性要素20が全体的に弛緩していて、この位置における機械的な力がゼロとなっているような特定の場合に関連している。他の実施例において、待機位置にて弾性要素に予応力が与えられる。このような予応力は、機械的戻し力(弾性力)が待機位置から接触位置までの距離の初期の部分にわたって駆動するように正とすることができ、又は機械的戻し力が、前記距離の全体にわたって、図示している実施例において作用するものよりも大きいように負とすることができる。このように、待機状態におけるフレキシブルメンバーの予応力によって、特に待機位置及びその近くにおける、全戻し力を調整することができ、したがって、制動パルスの間に電磁システムを介してフレキシブルメンバーに与えられるエネルギーの量を調整することができる。この調整によって、電気制御回路によってコイル14に与えられる電気パルスを介してアクチュエートされるときの機械的要素のダイナミクスを決めることができることがわかる。
図6は、電磁システムをアクティブ化する約4msの電気パルスの間の機械的要素22の軸Zに沿った運動を示している。曲線42は、バランスの輪縁24に制動パルスを与えるためにバランスの輪縁24にて機械的要素22が止まるような実際の場合を示しており、一方、曲線44は、バランスがないときの対応する仮想的な場合を示している。各電気パルスの持続時間は、機械的要素22とバランスの輪縁24の間の衝撃の所望の強さに従って決めることができる。また、この持続時間は、機械的要素22と輪縁24の間の接触の持続時間を長くするように、待機位置と接触位置の間の機械的要素の運動の時間よりも長くすることができる。
【0024】
第1の実施形態の他の2つの実施例において、上記の2つの実施例における強磁性要素の代わりに、永久磁石12の磁気軸に平行でありこの永久磁石12と同じ極性を有する第2の永久磁石を備える。したがって、待機位置におけるフレキシブルメンバーの安定化のために、第1の磁石12と第2の磁石は、待機位置(境界を含む)と接触位置の間の機械的要素のいずれの位置においても磁気的に引き合う。好ましくは、第2の永久磁石は、固体で平坦な、丸まった形、特にディスクの形、を有する。
【0025】
図7は、下において説明する第2の実施形態を紹介するためのものである。この図は、上記の電磁システム10を示している。永久磁石12によって発生する磁力線を示しており、これらの磁力線は、磁石12の周部に配置され同じ方向の磁気軸を有する第2の磁石に対して、2つの領域、すなわち、領域1及び領域2、を形成している。これらの2つの磁石が上記の方向(軸Z)に沿って同じ極性を有するときに、領域1においては磁気的に引き合い、領域2においては磁気的に反発する。この観察は、
図8A~8Cに示している第2の実施形態の基礎となる。
【0026】
図8A~8Cを参照すると、第2の実施形態の1つの実施例を提案しており、これにおいては、フレキシブルメンバー16の待機位置を安定化させるための磁気的要素が、中心円を形成する環状の形を有する第2の永久磁石50である。この中心円の直径は、第2の永久磁石50の横断面が図示しているように長方形である場合、伝統的には、この横断面の2つの対角線の交点によって与えられる。第1の実施形態の対応する要素又は部分に類似している又はこれと同様な要素又は部分にも第1の実施形態における説明を適用することができる。
【0027】
この第2の実施形態は、第1の実施形態と比べて、電気機械デバイス6Bの磁気的要素が、中心円を形成する環状の形である第2の永久磁石である点、また、この磁気的要素が幾何学的な円に沿って配置される複数の永久磁石によって構成している点によって、大きく異なる。この中心円の直径は、第1の永久磁石の外径よりも大きく、フレキシブルメンバーが待機位置にあるときに(
図8A及び8C)、第1の永久磁石12の中心軸上に中心がある。中心円の直径は、待機位置からバランス24と接触する接触位置までの機械的要素22の運動の間に、第1の永久磁石12と第2の環状永久磁石50の間の磁力の方向が反対であるように選択される。
図8C及び8Bに示しているように、環状永久磁石50は、フレキシブルメンバーが待機状態であるときに領域2内に配置されて、2つの磁石の間の磁力が引き合うようにされ、一方で、接触位置にあるときには、環状永久磁石は領域1にあり、2つの磁石は磁気的に反発する。
【0028】
したがって、待機位置において、環状永久磁石50は実際に待機位置の方へと戻ろうとする役割を果たす。しかし、電磁システムがアクティブであるときには、この環状磁石は、領域2と領域1の境界を横断して、磁力は正になり、これによって、第1の実施形態と比べて機械的要素22の運動のダイナミクスを変える駆動力が発生する。なお、環状磁石50の軸Zに沿った位置は容易に調整することができる。特に、前記中心円は、第1の磁石12の上面にあることができ、あるいはそれよりも下にあることもできる。非磁性材料によって作られる部分48は、コイル14のコアと、磁石50によって囲まれるフランジを形成する。この部分48は、フレキシブルメンバー16と磁石12の間の衝撃を受ける。したがって、その材料は、第1の磁石を保持するように選択することができ、この材料は、好ましくは、制動パルスの間にて機械的要素がバランスの輪縁24に対して止まった後に機械的要素が待機位置の方へと戻るときに部分48と第1の磁石の間の衝撃を受けるときのエネルギーを吸収するための能力が良好であるものである。
【0029】
図示していない実施例において、環状磁石50の代わりに、幾何学的円に沿って配置される複数の別個の永久磁石を備える。この場合、この幾何学的円が、第1の永久磁石12の外径よりも大きい直径を有し、フレキシブルメンバーが待機位置にあるときに第1の永久磁石の中心軸を中心とする。前記幾何学的円の直径は、第1の永久磁石と複数の永久磁石の間の磁力が、待機位置と接触位置の間の機械的要素の運動の間に、反対の方向であるように選択される。この実施例には、横断面が小さい環状磁石を製造する必要がないという利点がある。第1の場合においては、複数の磁石は、直径的に反対に配置され、コイル及び部分48を支持するディスク21に接続される弾性ブレード20の末端部分の方向に対して好ましくは直交する方向を向いている2つの小さな磁石によって構成していることができる。第2の場合においては、幾何学的な円に沿って規則的に分布する4つの磁石が設けられる。これらの磁石は、第1の磁石と接触する部分のフランジに形成された空洞内に収容することができる。
【0030】
以下、
図9A~11Bを参照しながら、本発明の第3の実施形態について説明する。上において既に説明したことについては、ここで再度詳しく説明しない。この第3の実施形態は、第1の永久磁石又は第1の磁石と呼び環状の形である永久磁石52を備える電磁システム10Cによって特徴づけられ、また、第2の永久磁石又は第2の磁石と呼び固体で平坦な、丸まった形、特にディスクの形、を有する永久磁石54によって構成している磁気的要素によって特徴づけられる。第2の磁石は、機械的要素22が待機位置にあるときに第1の磁石の中心軸上に整列するように構成している(
図9A及び9C)。この第2の磁石は、第2の実施形態のように、コイル14のコア、また、このコイル14の下面を覆うフランジ、を形成する支持体48Aのハウジング内に配置される。軸Zに沿ったゼロ位置は、第1の磁石の上面によって定められ、フレキシブルメンバー16の待機位置は、第2の磁石の位置に対応し、この第2の磁石は、機械的要素22と同期して動くことができ、待機位置においては、機械的要素22の下面がほぼゼロの位置にある。
図9Bは、フレキシブルメンバー、特にその機械的要素、がバランスと接触する接触位置にある状況/状態において考慮されるアクチュエーターの電気機械デバイス6Cを示している。
【0031】
このときに、第2の磁石54は、制動パルスを発生させるように電気制御回路によってコイル14に与えられる電気パルスに応答する、待機位置からバランスの輪縁24と接触する接触位置までの機械的要素22の運動の間に、第1の環状磁石52とこの第2の磁石54の間の磁力の方向が反対であるように構成している。
図10A及び10Bは、
図9A~9Cに示している第1の実施例と同様な第1及び第2の磁石の構成を有する第2の実施例を部分的に示している。したがって、これら2つの磁石の間の相互作用は、2つの第1及び第2の実施例の間で同じである。唯一の違いは、第2の実施例における第2の磁石の支持体48Bがコイル14のための非磁性コアのみを形成し、一方、第1の実施例の支持体48Aには、さらに、コイルの下面を覆うフランジがあるということに基づいている。
図10A及び10Bにおいて、第1の環状磁石と第2の磁石の磁力線を部分的に示している。第1の磁石52の内部空間は、円筒状の形を有する中央空隙を形成している。第1の磁石の環状の形には、円筒状の中央空隙の内側の磁力線が、その磁石自体内における磁場の方向とは反対の方向を有するという特殊性がある。したがって、内部空間を含む領域3と、この内部空間の両側にそれぞれ延在している2つの補完的な領域において、第1の磁石によって発生する磁場の方向は、軸Zに沿って、前記内部空間の上にある領域3に続く領域におけるこの第1の磁石の磁場の方向に対して反対方向である。
【0032】
図10Aは、フレキシブルメンバー、特にその機械的要素、が接触位置にある
図9Bの状況に対応する状況となっている、電気機械デバイス6C、特に、フレキシブルメンバー16のディスク21、電磁システム10C及び付加的な磁気的要素54、を部分的に示している。この状態において、第1の環状磁石(すなわち、この第1の環状磁石の下面と上面の間)とは反対の極性を有する第2の磁石が磁気的に反発する。
図10Bは、フレキシブルメンバーが待機位置にある
図9A及び9Cの状況に対応する状況における電気機械デバイス6Cを部分的に示している。この状態において、第2の磁石54は領域3内に位置しており、したがって、第1の環状磁石の部分と磁気的に引き合う。
【0033】
図11Aは、ゼロ位置から機械的要素22がバランスと接触する接触位置までの磁気的要素54による運動に応じた磁力の曲線60を示している。このゼロ位置は、フレキシブルメンバー/機械的要素の待機位置に対応しており、その下面は、このゼロ位置を定める第1の磁石の上面と同じである。なお、
図11A、11B、13A及び13Bの凡例において、2つの磁石の間の磁気的相互作用を「B」で示しており、「EM」は、コイルと第1の磁石52の間の電磁的相互作用を示しており、これは、アクティブ(「ON」)又は非アクティブ(「OFF」)のいずれかである。磁力の方向の反転は、
図11Aのグラフにて見ることができ、曲線60は、軸Z=0を横切っている。なお、磁力の強さは、待機位置(Z=0)においては第2の磁石が待機位置におけるフレキシブルメンバーの安定化の役割を正しく果たすように比較的強く、その後に、急に減少して0.2mmのすぐ上でゼロになる。そして、値ゼロを通過した後に、磁力は正であるが、その強さは比較的低いままである。しかし、設定される運動距離(0.5mm)にわたって、磁力に打ち勝つために必要なエネルギー量は、第1及び第2の実施形態において必要とされるエネルギー量よりも著しく少ない。したがって、待機位置とバランスの輪縁24と接触する接触位置の間の機械的要素22の運動の間の磁力の反転は、曲線62によって与えられる電磁力を発生させるコイル14に電気パルスが与えられる間におけるこの機械的要素の運動のダイナミクスを変える。全磁力(電磁システム10Cがアクティブであるときの磁力と電磁力の加算結果)を曲線64によって示している。この所与の例において、この全磁力が、磁気的要素の運動距離にわたって比較的わずかしか変わらないことが観察される。
【0034】
図11Bは、磁気的要素54の運動に応じた様々な力を示しており、フレキシブルメンバーを形成する弾性要素20の機械的な力及び曲線36によって与えられる機械的戻し力を考慮に入れている。曲線66は、磁力と機械的な力の合計に等しい全戻し力を与える。曲線68は、電磁力と機械的戻し力の合計に対応する。最後に、曲線70は、電磁システムにパワーが与えられる状態で、磁気的要素及び機械的要素の運動に対する、存在するすべての力にわたる全体的な力の曲線を示す(軸Zに沿ったスケールがわずかに異なる)。まず全戻し力(曲線66)において作用する様々な要素、そして全体的な力(曲線70)において作用する様々な要素が選択され、全体的な力が運動距離全体にわたって正であり、全戻し力が運動距離全体にわたって、すなわち、待機位置と接触位置の間のいずれの位置においても、負であるように構成していることが観察される。この後者の条件に関連して、別の表現を用いると、第1の環状磁石、第2の永久磁石及び弾性要素は、機械的戻し力と磁力の合計が、機械的要素22が移動することができる全距離にわたって、機械的要素22の待機位置から接触位置までの運動の方向とは反対の方向を有し、この距離全体にわたって、待機位置の方への機械的要素の全戻し力を形成するように構成している。
【0035】
最後に、
図12A~12Cと
図13A及び13Bを参照しながら、本発明の第4の実施形態について説明する。上で既に詳細に説明されていることについては再度説明しない。この第4の実施形態は、第3の実施形態と比べて、電気機械デバイスの磁気的要素74が強磁性材料によって作られており、この強磁性要素74が軸Zに沿った異なる高さレベルに配置されているという点が、大きく異なる。また、複数の制動パルスを発生させるためにコイルに電気パルスが順次的に与えられるときに環状磁石52とコイル14の間の衝撃を避けるために、待機位置において電磁システム10Dのまわりに円筒状チューブ76が設けられる。この円筒状チューブ76は、フレキシブルメンバーが待機状態であるときに、フレキシブルメンバーのディスク21がこの円筒状チューブ76の上面に支えられるように構成しており、円筒状チューブ76の高さは、フレキシブルメンバーの待機位置においてコイル14が永久磁石52から離れて位置するように選択される。
【0036】
強磁性要素74は、固体で平坦な、丸まった形、特にディスクの形、を有し、機械的要素が待機位置にあるときに環状永久磁石の中心軸上に整列するように構成している。強磁性要素74は、コイル14のコアを形成する支持体78の突出部分に固定される。
図12Cに示しているように、強磁性要素74は、フレキシブルメンバーが待機位置にあるときに、環状永久磁石の内部空間内に配置され、したがって、第3の実施形態における第2の永久磁石に対して負のオフセットHRにてオフセットされている。すなわち、強磁性要素74の下面は、第3の実施形態におけるように永久磁石52の上面の高さによって定められる位置Z=0よりも下に位置している。一般的には、強磁性要素は、機械的要素が待機位置にあるときに、環状永久磁石52の内部空間内に少なくとも部分的に配置されるように構成している。
【0037】
図13A及び13Bは、強磁性要素の運動に応じた、
図11A及び11Bのグラフにおけるものと同じ力を表す曲線を含む2つのグラフを示している。曲線80は、環状永久磁石と強磁性要素の間の磁力に関連する。フレキシブルメンバーが待機状態であるときに環状永久磁石の内部空間内に強磁性要素が配置されることによって、強磁性要素と機械的要素がフレキシブルメンバーの待機位置から移動することができる距離の初期の部分にわたって、磁力の方向が負の方向であり、、したがって、磁気戻し力が発生し、また、フレキシブルメンバーが待機位置(Z=0)にあるときに前記磁力を比較的大きくすることが可能となる。電磁力の曲線82は、曲線62と同じである。曲線84は、全磁力(電磁システム10Dがアクティブであるときの磁力と電磁力の加算結果)を示している。この所与の例において、この全磁力が、磁気的要素の運動距離にわたって合理的に変わるが、待機位置と接触位置(Z=0.5mm)の間の距離全体にわたって、正であり、比較的大きいことを維持することが観察される。
【0038】
図13Bは、フレキシブルメンバーを形成する弾性要素20の機械的な力を考慮に入れつつ、強磁性要素74の運動に応じた様々な力を示している。曲線36は、弾性要素20の機械的戻し力を示している。曲線86は、磁力と機械的な力の合計に等しい全戻し力を示している。曲線88は、電磁力と機械的戻し力の合計に対応する。最後に、曲線90は、電磁システム10Dにパワーが与えられているときの、強磁性要素と機械的要素の運動に応じた、存在するすべての力の全体的な力を示している(軸Zに沿ったスケールがわずかに変わっている)。まず全戻し力(曲線86)、そして全体的な力(曲線90)において作用する様々な要素が選択され、機械的要素の待機位置と接触位置の間の強磁性要素のいずれの位置においても、運動距離全体にわたって、全体的な力が正であり、全戻し力が負であるように構成していることが観察される。すなわち、好ましい実施例に対応する後者の条件によると、環状永久磁石52、強磁性要素74及び弾性要素20は、機械的要素22が移動することができる全距離にわたって、機械的戻し力と磁力の合計が、待機位置から接触位置までのこの機械的要素の運動方向に対して反対の方向を有し、これによって、前記運動距離の全体にわたって、機械的要素の全戻し力が待機位置の方を向くように構成している。なお、接触位置まで全体的な力が正であることは好ましいが、必須ではない。実際に、機械的要素の運動のダイナミクスを考えると、機械的要素が特定の運動エネルギーを有する状態で接触位置に到達するために、前記運動距離の最後の部分において全体的な力がわずかに負になることは大きな問題にはならない。最後に、全戻し力が前記運動距離の全体にわたって負を維持すること、したがって、全戻し力が特定の中間区画においてその戻し力の性質を失うことは、好ましいが、必須ではない。実際に、接触位置における機械的要素とバランスの間の衝撃の後に、機械的要素22は、特定のエネルギーを有する状態で待機位置の方へと反対方向に戻る。また、前記運動距離の前記最後の部分にわたって全戻し力が大きい場合、機械的要素は、特定の中間区画を横断することを可能にする特定の運動エネルギーを蓄え、この特定の中間区画において全戻し力が瞬間的に方向を変える。
【符号の説明】
【0039】
2 計時器
4 機械式ムーブメント
6、6A、6B、6C、6D 電気機械デバイス
8 電気制御回路
10、10A、10B、10C、10D 電磁システム
12、52 第1の永久磁石
14 コイル
16 フレキシブルメンバー
18 支持体
20 弾性要素
21 平坦なディスク
22 機械的要素
26、50、54、74 磁気的要素